説明

振動インテンシティの制御方法

【課題】特定のモードの影響を増減させることにより振動変位を制御できるようにし、もって振動インテンシティを制御することが可能な振動インテンシティの制御方法を提供する。
【解決手段】単位時間に構造物の単位断面積当たりを伝わる振動エネルギーとして定義される振動インテンシティを制御する方法であって、前記振動インテンシティを固有モードの重ね合わせの展開式で表現し、この展開式の少なくとも1つのモードの寄与度を調整することにより前記振動インテンシティの分布を変更可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動インテンシティを用いた機械構造設計手法に利用可能な振動インテンシティの制御方法に関し、より詳しくは、振動インテンシティの固有モード展開式を導入することで振動インテンシティを制御することが可能な制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体音対策は、その発生メカニズムより、振動源で行うことが最も効率的である。しかし、振動源がわかったとしても、振動源は機械性能に直結するため振動源そのものに対して対策を講じることは難しい。そこで、振動伝搬部に制振材や補強材を設けることで、機械の使用条件に適した有効な振動・騒音対策を施す場合が多い。
【0003】
振動伝搬経路を知る方法としては、振動インテンシティの可視化技術が知られている。「単位時間に構造物の単位幅(断面積)当たりを伝わる振動エネルギー」として定義される振動インテンシティ(Structural Intensity)は、1970年にNoiseuxにより提唱され、1976年にはPavicによってその計測法が提案されている。
【0004】
振動インテンシティを測定あるいはFEMなどで算出できれば、構造物部材内部および部材間の振動伝搬経路や伝達パワー量の把握、加振源の同定などが可能となる。また、振動インテンシティを、固体伝搬音解析、地中管路の欠陥探査や板厚計測などへ利用することも試みられている。
【0005】
このような背景の下に、本発明者らは、振動インテンシティを用いた機械構造設計手法の開発を目指しており、先に、共振時に注目することにより、振動インテンシティを各モード成分に分離する手法を提案している(非特許文献1)。
【非特許文献1】塩幡宏規、尾崎公哉、山崎徹:"平板を対象とする振動インテンシティのモード重ね合わせ法に関する基礎研究“ 日本機械学会論文集,72巻、723号、C編(平成18年11月)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の手法においては、任意の加振振動数での分離や分離した成分と固有モードとの関係についてまでは検討されていない。このため、特定のモードの影響を増減させることにより、振動変位を制御するまでには至っていない。
【0007】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、特定のモードの影響を増減させることにより振動変位を制御できるようにし、もって振動インテンシティを制御することが可能な振動インテンシティの制御方法を提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたものであり、振動変位が固有モードで展開できるように、振動インテンシティを固有モード展開するようにしたものである。
即ち、単位時間に構造物の単位断面積当たりを伝わる振動エネルギーとして定義される振動インテンシティを制御する方法であって、前記振動インテンシティを固有モードの重ね合わせの展開式で表現し、この展開式の少なくとも1つのモードの寄与度を調整することにより前記振動インテンシティの分布を変更可能にしたものである。
【0009】
具体的には、前記振動インテンシティIを表す展開式を、はりの曲げ振動に対するものであれば、次の(1)式によって表されるものとする。
【0010】
【数1】

ここで、βmnは、

で表される重み係数、Dは曲げ剛性(D=Ebh3/12)、ω は加振角振動数、αn、αは重み係数を表し、また、Φmnは、
【数2】

で表されるものであり、sfはせん断力依存成分、bmは曲げモーメント依存成分、φ、φは、それぞれm次とn次の正規固有モード(モード質量が1となる固有モード)を表し、xははり上の点である。
【0011】
また、振動インテンシティIを表す展開式が、はりの曲げ振動に対するr次共振時のものであれば、次の(2)式によって表されるものとする。
【0012】
【数3】

ここで、βrnは、

で表される共振次数rに関する重み係数、Dは曲げ剛性(D=Ebh3/12)、ω は加振角振動数、αr、αはr次とn次の重み係数を表し、また、Φrnは、
【数4】

で表されるものであり、sfはせん断力依存成分、bmは曲げモーメント依存成分、φ、φは、それぞれr次とn次の正規固有モード(モード質量が1となる固有モード)を表し、xははり上の点である。
【0013】
以上に対して、振動インテンシティIを表す展開式が平板の曲げ振動に対するものであれば、次の(3)式によって表されるx軸方向の振動インテンシティIとy軸方向の振動インテンシティIを成分とするベクトルI=(Ix,Iy)とする。
【0014】
【数5】

ここで、sfはせん断力依存成分、bmは曲げモーメント依存成分、tmはねじりモーメント依存成分を表し、βmnは、

で表される重み係数、Dは曲げ剛性(D=Ebh3/12)、ω は加振角振動数、αn、αは重み係数を表し、また、Φmnは、
【数6】

であり,これらのx成分はそれぞれ
【数7】

で表わされるものであり(y成分は式中のxとyを入れ替えたものである)、
φ、φは、それぞれm次とn次の正規固有モード(モード質量が1となる固有モード)を表し、νはポアソン比、x、yは平板上の点である。
【0015】
また、振動インテンシティIを表す展開式がxy平面を板面とする平板の曲げ振動に対するr次共振時のものであれば、次の(4)式によって表されるx軸方向の振動インテンシティIとy軸方向の振動インテンシティIを成分とするベクトルI=(Ix,Iy)とする。
【0016】
【数8】

ここで、sfはせん断力依存成分、bmは曲げモーメント依存成分、tmはねじりモーメント依存成分を表し、βrnは、

で表される共振次数rに関する重み係数、Dは曲げ剛性(D=Ebh3/12)、ω は加振角振動数、αr、αはr次とn次の重み係数を表し、また、Φrnは、前述の平板の曲げ振動に対するΦmnにおいてmをrに代えたものである。
【発明の効果】
【0017】
以上述べたように、本発明に係る振動インテンシティの制御方法によれば、振動インテンシティを固有モードの重ね合わせで近似した展開式によって表現し、この展開式の少なくとも1つのモードの寄与度を調整することにより振動インテンシティの分布を変更可能にしたので、特定のモードの影響を増減させることにより振動変位を制御できるようになし、もって振動インテンシティを制御すること(振動エネルギーの流れを操ること)が可能となる。
【0018】
特に、請求項2及び4の構成においては、どんな振動数,どんな減衰でも使用可能であり、請求項3及び5の構成においては、振動騒音が大きくなる共振時でそれほど減衰が大きくない場合に有用である。現実的には,共振において振動騒音が大きくなるため,請求項3及び5の構成を用いれば,どのような振動エネルギーの流れにしたいかを少数の成分で考えることが可能となるので、多数の成分を制御するよりも効率的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の最良の実施形態を図面に基づき説明する。
【実施例1】
【0020】
1.はりの振動インテンシティとそのモード表現
この例においては、オイラー・ベルヌーイはりを対象に、任意の振動数における振動インテンシティの固有モード展開について説明する。
尚、上述においては、はりに注目した実施例を示したが、平板の場合にも振動インテンシティの定義式が異なるだけで同様の手順で振動インテンシティのモード展開が可能である。
【0021】
1.1 変位モード式
いま,点xF に加振力Fが作用する一様はりを考える.はり上の点x における定常応答変位の振幅スペクトルζ は,固有モードを用いて次式で表わせる。
【0022】
【数9】

ここで,αn は重み係数,ω は加振角振動数,N は考慮するモードの最高次数、ωn,φn(x),ηn はn次の固有角振動数、正規固有モード(モード質量が1となる固有モード)および損失係数であり,j は虚数単位を表わす.
【0023】
1.2 振動インテンシティ
はりの曲げ振動の振動インテンシティは,はりの単位断面積あたりを単位時間に通過する振動エネルギーとして定義される.オイラー・ベルヌーイはりを想定すれば,振動インテンシティI は,せん断力Qと振動速度jωζ の積(せん断力成分Isf)と曲げモーメントMと回転角速度jωθ の積(曲げモーメント成分Ibm)の和として、
【0024】
【数10】

で表される.
【0025】
また、回転角θ,せん断力Q および曲げモーメントM はそれぞれ次式のように変位ζ の空間微分で表わされる。
【0026】
【数11】

ここで,Dは曲げ剛性(D=Ebh3/12)、Eは縦弾性係数,hは板厚,bは幅,Re[]は実部であり,上付き文字* は複素共役を表わす。
【0027】
1.3 固有モード展開式の導出
1.3・1 任意の加振振動数の場合
式(3)に式(1)と式(4)を代入すれば、
【0028】
【数12】

が得られる.ここで,
【数13】

である.ただし,φnはφn(x)を略記したものである.
【0029】
式(5)は式(1)と同形である.式(6)のβmn は重み係数で、式(2)のαn と同様に,固有振動特性と加振力およびその作用点に依存する。式(7)のΨmn は二つの固有モードφm とφn とこれらの空間微分の積で表わされ、式(3)と同様に,せん断力依存成分Ψmnsf と曲げモーメント依存成分Ψmnbm の和である。
重み係数βmn には,式(6)より次式の関係がある。
【0030】
【数14】

この関係を式(5)に当てはめると、次式が得られる。
【0031】
【数15】

ここで,Φmn は式(10)に示すように,Ψmn とΨnm をまとめたもので,Φmn を本報では“クロスモード関数”と称することとする.
【0032】
【数16】

【0033】
以上,任意の振動数で励振されるはりの振動インテンシティのモード展開式(9)が導け,N(N-1)/2個の,重み係数(式(6))とクロスモード関数(式(10))の積の重ね合わせで表わすことができる.
【0034】
1.3・2 共振時の場合
はりの損失係数ηnが小さく,共振時の場合,振動インテンシティのモード展開式は,式(9)より少数の重ね合わせで表わせる。
いま,式(9)中の重み係数βmn(m=1〜N,n=m+1〜N)に注目する.r 次共振時(すなわちω→ωr )では,共振次数rに関する重み係数βmr とβrn は,これら以外の重み係数βmn(m≠rかつn≠r)と次式の関係にある。
【0035】
【数17】

【0036】
図1に,Zとおよびbの関係を示す.図1(a)の損失係数が0.003と小さい場合にはZ≒0となる(ここでは,m≠rかつn≠rに注目しているため,m=r,n=rとなるa=1,b=1については図示していない.)このことは式(11a)より,共振次数rに関する重み係数βmrとβrnは,これら以外の重み係数βmn(m≠rかつn≠r)に比べ大きくなり,重み係数βmn(m≠rかつn≠r)を無視することができることを表わしている.一方, 損失係数が0.3と大きい図1(b)の場合,a→1,b→1,すなわち,ωmやωnがωrに近づくと,Z≒0とはならず,重み係数βmn(m≠rかつn≠r)を無視することはできない.
【0037】
また,式(6)の重み係数βmnの第一項と第二項の比は,
【数18】

と表わせ,共振時においてemr→∞,ern→0となる.よって,共振次数rに関するβmrとβrnは,それぞれ式(6)の第二項,第一項が支配的となる.
【0038】
以上,r次共振時の重み係数βmnは,以下に整理される.
【数19】

【0039】
したがって,r次共振時の振動インテンシティは,式(9)と(13)より次式のように近似できる.
【数20】

となる.
【0040】
さらに,式(10)からΦrr=0であることを加味すれば,式 (14)は次式に整理される.
【数21】

クロスモード関数は,式(10)と同様に以下で表わされる.
【数22】

【0041】
以上,共振時で損失係数が小さい場合,振動インテンシティのモード展開式は式(17)と近似でき,重ね合わせの数がN個と式(9)に比べ少なくなる.なお,前報で示した分離インテンシティは式(17)のβrn Φrnに相当するものである.
【0042】
1.4 数値シミュレーションによる検証
上述で導出した振動インテンシティのモード展開式を用いて数値シミュレーションを行い,その妥当性と重み係数βmnやクロスモード関数Φmnについて考察する。
1.4・1 対称はりと解析条件
シミュレーションに用いるはりは,両端単純支持された鋼製で矩形断面を有する一様はり(幅0.03m, 板厚0.01m,長さ1.0m,縦弾性係数E=2.0×1011Pa,密度ρ=7834.6kg/m3)である.図2に示すように,左端から0.4mの点に曲げ方向加振力F=1Nが作用している場合を考える.
【0043】
対象はりの曲げ変位ζは,以下の固有角振動数ωnと正規固有モードφnを用いて式(1)より算出する.
【数23】

ここで,nはモード次数,l,M,A,ρはそれぞれはりの質量,長さ,断面積および密度を表わす.
【0044】
モード重ね合わせにより振動インテンシティを精度よく算出するためには,多数のモードを考慮する必要がある(9) .そのため本報では考慮する最高モード次数Nを100とした.振動インテンシティの算出点は,はりの長手方向0.02m間隔の51点とした.
曲げ変位ζと式(4)の回転角とせん断力および曲げモーメントを用いて式(3)より算出した振動インテンシティを厳密解として,モード展開式(9)および式(17)により算出した結果と比較する.
式(9)は適用条件に制約はないが,式(17)は損失係数が小さく共振時であることが必要である.そこで,これらのモード展開式の比較を同時に行うため,共振3次の固有振動数206.2Hzを加振振動数とし,損失係数を二種(0.003,0.3)設定し,シミュレーションを実施した.
【0045】
1.4・2 損失係数が小さい場合
ここでは損失係数を0.003とした場合のシミュレーション結果を示す.
図3に振動インテンシティの算出結果の比較を示す.この図は,横軸にはりの長手方向の位置x,縦軸に振動インテンシティの大きさ(図2の紙面右向きが正)を表わしている.加振点x=0.4mからパワーがはりに入力され,そのパワーがはりの内部損失(損失係数)により減衰しながら両端に伝搬している様子が表わされている.全ての結果が良く一致していることが確認できる.
【0046】
図4には,モード展開式の近似式(17)と式(3)の厳密解との違いを表わす.損失係数が小さいこの場合では,加振点付近の近接場で最大でも0.03%と小さい誤差であることが分かる(9)
【0047】
次に,図5に式(6)および式(18)の重み係数βmnとβrn=β3nの,図6と図7に式(10)と式(17)のクロスモード関数(Φmn:太実線,Φmnsf:細実線,Φmnbm:細破線)のそれぞれの算出結果の一部(mとnがそれぞれ5次まで)を示す.
【0048】
図5(a)中に太枠で示した成分(m=r=3の行,n=r=3の列)は,他に比べ4桁以上も大きな値となっているものがある.これは,式(11)に示した近似が有効であることを示している.また,これらの成分と図5(b)の成分を比較すると,図5(b)のβ31とβ32は図5(a)のβ13とβ23と逆符号となっている.また,クロスモード関数においても,図6のΦ13と図7のΦ31,図6のΦ23,と図7のΦ32がそれぞれ逆符号となっている.これらの逆符号の関係は,式(16)の関係を用いて式(14)から式(17)に書き換えたことに相当するものである.さらに,図5(a)のβ33は0であるが,図5(b)では0となっていない.しかし,これに対するクロスモード関数Φ33は0(式(10)および図7のΦ33)であり,この重み係数β33は意味をなさない.
【0049】
本対象例では固有モードが対称であるため,図6と図7に示したクロスモード関数Φmn,その成分Φmnsf,Φmnbmはいずれも対称性を有している.図7のクロスモード関数は,重み係数と同様に,図6中の点線で囲んだクロスモード関数と対応しており,前述の通り,n<rのクロスモード関数は逆符号の対応となっている.
以上のように,共振時で損失係数が小さい場合には,共振次数に関する重み係数およびクロスモード関数だけで近似できることが確認できる.
【0050】
1.4・3 損失係数が大きい場合
次に,損失係数を0.3と大きくした場合のシミュレーション結果を示す.この場合,式(11)から式(13)で行った近似は成り立たず,式(17)による結果には誤差が含まれる.
【0051】
図8に振動インテンシティの算出結果を,図9に式(3)による厳密解と式(17)との差を示す.近似を用いた式(17)では,加振点近傍の近接場で38%,それ以外でも10%程度の誤差となっている.一方,式(9)による算出結果は厳密解と完全に一致している.
【0052】
図10には,式(6)の重み係数βmnの算出結果の一部を示す.図5の損失係数が0.003と小さい場合に比べ,図中の太字で示した成分は他に比べ無視できる程に大きくなっていない.そのため,式(11)の近似が成り立たず,図9のような誤差が生じる.
【0053】
1.5 まとめ
振動インテンシティを考慮した機械構造物の低騒音化設計手法の開発を目指した本研究において,本報では,はりの曲げ振動に注目し,振動インテンシティのモード展開式を導出した.成果は以下のとおり.
1)任意の振動数におけるはりの曲げ振動インテンシティのモード展開式を導出した.展開式は,重み係数βmnと二つの固有モードからなるクロスモード関数Φmnの積の重ね合わせとして表わせる.
2)また,損失係数が小さく共振時に注目すれば,共振次数を含むモード成分だけで近似することができ,そのモード展開式も導出した.
3)導出したモード展開式の妥当性を数値シミュレーションにより検証すると共に,重み係数およびクロスモード関数について考察した.
【実施例2】
【0054】
2.平板の振動インテンシティとそのモード表現
次に、xy平面を板面とする平板を対象に、任意の振動数における振動インテンシティの固有モード展開について説明する。
2.1 平板の振動インテンシティ
平板の曲げ振動の振動インテンシティは,単位幅あたりを単位時間に通過する振動エネルギとして定義される.振動インテンシティのx方向およびy方向の成分をそれぞれIxとIyとすると,振動インテンシティはベクトルI=(Ix,Iy)で記述される.Ixはせん断力Qxと振動速度jωζの積(せん断力成分Ixsf)と曲げモーメントMxと回転角速度jωθxの積(曲げモーメント成分Ixbm)およびねじりモーメントMxyと回転角速度jωθxyの積(ねじりモーメント成分Ixtm)の和として,次のように表される。
【数24】

【0055】
また,回転角,せん断力,曲げおよびねじりモーメントは、それぞれ変位の空間微分により,次のように表される。
【数25】

ただし,D=Eh3/12(1-ν2)は曲げ剛性,Eは縦弾性係数,hは板厚,νはポアソン比,Re[]は実部,*は複素共役、ζはz軸方向の曲げ変位,ωは加振角振動数,Dは平板の曲げ剛性,νはポアソン比,*は複素共役,Re[]は実部,

である.y方向の成分Iyおよびそれに関する式(5)は,式(4)と(5)中のxとyを入れ替えればよい.
【0056】
2.2 振動インテンシティの固有モード展開式の導出
xy平面を板面とする平板の点(xf,yf)に力Fが作用している場合を考える.このときの面外変位ζは正規固有モードφnを用いて次式で表せる.
【数26】

であり,Nは採用モード最高次数,ωnとηnはそれぞれn次の固有角振動数と損失係数である.
【0057】
2.2・1 任意の加振振動数の場合
式(22)に式(23)と式(24)とを代入すれば、振動インテンシティのベクトルI=(Ix,Iy)は、
【数27】

と表わせる.ただし,
【数28】

であり,変位の重み係数αn,加振力とその位置で決まる重み係数(定数)である。
【0058】
【数29】

をクロスモード関数と称す.クロスモード関数のx成分はそれぞれ以下で表わされる(y成分は以下の式中のxとyを入れ替えればよい).
【数30】

ここで,φnはφn(x)と略記している.
【0059】
また,式(7)の重み係数βmnは,
【数31】

となり,ΨmnとΨnmをまとめて表わすと,式(26)は,
【数32】

と書き換えられる.ただし,クロスモード関数Φmn=(Φxmn ymn),Φmnsf=(Φxmnsf ymnsf),Φmnbm=(Φxmnbm ymnbm),Φmntm=(Φxmntm ymntm)であり,これらのx成分はそれぞれ以下で表わされる(y成分は以下の式中のxとyを入れ替えればよい).
【数33】

固有モード数Nに対し,式(26)ではN2個のクロスモード関数Ψmn,式(30)ではN(N-1)/2個のクロスモード関数Φnmとなる.
【0060】
2.2・2 共振時の場合
さらに,損失係数ηnが小さく,r次共振時(加振振動数がr次固有振動数)の場合,式(30)はさらに少数のクロスモード関数で近似できる.即ち、式(3)の曲げ変位rζは全てのモードの実部とr次の共振モードのみの虚部を用いて表わせる。
【0061】
【数34】

ここで,左肩付文字rを冠した変数は,r次共振時であることを明示するために用いている.また、rβnはβmnと同様に変位の重み係数αnと加振力とその位置で決まる重み係数(定数)である.
【0062】
2.3 加振位置変更による振動インテンシティ分布変化
以上,平板の曲げ振動インテンシティの固有モード展開式を示した.次に、重み係数βmnを変更することにより,振動インテンシティ分布をSI分布を変えることができることを示す.
ここで示す例は、SIの

について示す。SIの

は、
【数35】

であり,変位の重み係数αn,加振力とその位置で決まる重み係数(定数)である.ただし,
【0063】
また,加振振動数がr次共振近傍の場合,曲げ変位rζは全てのモードの実部とr次の共振モードのみの虚部を用いて表わせる。これを用いれば式(34)は次式となる.
【数36】

rβnはβmnと同様に変位の重み係数αnと加振力とその位置で決まる重み係数(定数)である.

は固有モードだけで表され,“モード項“と称する.
【0064】
ここでは、r次共振時のSIに注目し,加振位置の変更すなわち重み係数rβnを変更することによって,SI分布を変えることができることを示す.なお対象は周辺単純支持矩形平板で,放射効率に影響の強い渦状のSI分布(3)を加振位置の選択だけで実現できることを示す.なお対象は周辺単純支持矩形平板で,放射効率に影響の強い渦状のSI分布(3)を加振位置の選択だけで実現できることを示す.
【0065】

r次共振時のモード項は式(38)より,r次とn次の固有モードから定まる.図11に例として,r=2次((1,2)モード)共振時のn=1〜6次のモード項を示す.図中の矢印はモード項,等高線は固有モード形状を表す.共振次数と一致するn=2次のモード項は図11(b)に示すように0となる.またモード項の主な分布にはここで示した渦状や直線状の他に,散布状もある.
【0066】
2.3・2 重み係数rβnについて
式(36)で示したようにr次共振時のSIは,モード項の寄与度,重み係数rβnによって変化する.また式(37)より,重み係数rβnは加振位置の各モードに依存するため,加振位置を変更することによりrβnの大きさを変えることができる.
以上のことから,モード項に所望の分布がある場合,加振位置を変更し,その成分の重み係数rβnを大きくすることにより,所望のSI分布にできると考えられる.
【0067】
2.3・3 加振位置変更による渦状SIの作成
そこで,ここでは渦状のSI分布を所望の流れとして,数値シミュレーションを行い,渦状のSIを実現する.
いま,図11(c)のように2次共振時にモード項の3次の(2,1)モード成分に渦状の分布がある.そこでこのモードが大きく励振されるような位置(モードの腹)を加振させる.このときのSI分布を図12(a)に示す.また図12(b)は,各モード成分の重み係数をパーセント表示したものである.さらに,図13は逆に図11(c)の3次モード成分の寄与を下げるように加振位置を3次モードの節近傍とした時のSI分布を示す。図12(b),図13(b)を比較すると,腹を加振した時の方が3次モード((2,1)モード)がより支配的になっているのが確認できる.また,節を加振した時に支配的になっている1次モード((1,1)モード)成分の分布は図11(a)である.図11(a)と図13(a)を比較すると分布の傾向がよく似ていることが確認できる.
以上より,モード項に所望の分布があるならば,その成分の寄与度を高めるような加振位置を選択することにより,所望の振動インテンシティ分布を得ることができることがわかる.
【0068】
2.4 まとめ
SIを用いた機械構造設計法の開発を目指した研究において,本報ではSIの加振位置を変更することによって所望のSI分布が実現できることを示した.その手順は以下の通り.
固有モードだけで表わされる

を求め,そのなかで強調したいモード項(本報では渦状のもの)に注目する.

が励起されるように,すなわち,n次固有モードが励起されるように,そのモードの腹を加振すればよい.
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】図1は、パラメータZとおよびbの関係を示す。図1(a)の損失係数が0.003の場合、図1(b)は損失係数が0.3の場合である。
【図2】図2は、シミュレーションに用いるはりを説明する図である。
【図3】図3は、振動インテンシティの算出結果の比較を示す線図である。
【図4】図4は、モード展開式の近似式(17)と式(3)の厳密解との違いを表わす線図である。
【図5】図5は、式(6)および式(18)の重み係数βmnとβrn=β3nのそれぞれの算出結果の一部(mとnがそれぞれ5次まで)を示す表である。
【図6】図6は、式(10)のクロスモード関数(Φmn:太実線,Φmnsf:細実線,Φmnbm:細破線)の算出結果の一部(mとnがそれぞれ5次まで)を示す.
【図7】図7は、式(17)のクロスモード関数(Φmn:太実線,Φmnsf:細実線,Φmnbm:細破線)の算出結果の一部(m=r=3、nが5次まで)を示す.
【図8】図8は、振動インテンシティの算出結果を示す線図である。
【図9】図9は、式(3)による厳密解と式(17)との差を示す線図である。
【図10】図10は、式(6)の重み係数βmnの算出結果の一部を示す表である。
【図11】図11は、r=2次((1,2)モード)共振時のn=1〜6次のモード項を示す図である。
【図12】図12は、2次共振時にモード項の3次の (2,1)モードが大きく励振されるような位置(モードの腹)を加振させた場合のSI分布(図12(a))と各モード成分の重み係数をパーセント表示(図12(b))した図をである。
【図13】図13は、3次モード成分の寄与を下げるように加振位置を3次モードの節近傍とした時のSI分布(図13(a))と各モード成分の重み係数をパーセント表示(図13(b))した図をである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単位時間に構造物の単位断面積当たりを伝わる振動エネルギーである振動インテンシティを制御する方法であって、
前記振動インテンシティを固有モードの重ね合わせの展開式で表現し、この展開式の少なくとも1つのモードの寄与度を調整することにより前記振動インテンシティの分布を変更可能にしたことを特徴とする振動インテンシティ制御方法。
【請求項2】
前記振動インテンシティを表す展開式は、はりの曲げ振動に対するものであり、次の(1)式によって表されるものであることを特徴とする請求項1記載の振動インテンシティ制御方法。

ここで、βmnは、

で表される重み係数、Dは曲げ剛性(D=Ebh3/12)、ω は加振角振動数、αn、αは重み係数を表し、また、Φmnは、

で表されるものであり、sfはせん断力依存成分、bmは曲げモーメント依存成分、φ、φは、それぞれm次とn次の正規固有モードを表し、xははり上の点である。
【請求項3】
前記振動インテンシティIを表す展開式は、はりの曲げ振動に対するr次共振時のものであり、次の(2)式によって表されるものであることを特徴とする請求項1記載の振動インテンシティ制御方法。

ここで、βrnは、

で表される共振次数rに関する重み係数、Dは曲げ剛性(D=Ebh3/12)、ω は加振角振動数、αr、αはr次とn次の重み係数を表し、また、Φrnは、

で表されるものであり、sfはせん断力依存成分、bmは曲げモーメント依存成分、φ、φは、それぞれr次とn次の正規固有モードを表し、xははり上の点である。
【請求項4】
前記振動インテンシティIを表す展開式は、xy平面を板面とする平板の曲げ振動に対するものであり、次の(3)式によって表されるx軸方向の振動インテンシティIとy軸方向の振動インテンシティIを成分とするベクトルI=(Ix,Iy)として表されるものであることを特徴とする請求項1記載の振動インテンシティ制御方法。

ここで、sfはせん断力依存成分、bmは曲げモーメント依存成分、tmはねじりモーメント依存成分を表し、βmnは、

で表される重み係数、Dは曲げ剛性(D=Ebh3/12)、ω は加振角振動数、αn、αは重み係数を表し、また、Φmnは、

であり,これらのx成分はそれぞれ

で表わされるものであり(y成分は式中のxとyを入れ替えたものである)、
φ、φは、それぞれm次とn次の正規固有モードを表し、νはポアソン比、x、yは平板上の点である。
【請求項5】
前記振動インテンシティIを表す展開式は、xy平面を板面とする平板の曲げ振動に対するr次共振時のものであり、次の(4)式によって表されるx軸方向の振動インテンシティIとy軸方向の振動インテンシティIを成分とするベクトルI=(Ix,Iy)として表されるものであることを特徴とする請求項1記載の振動インテンシティ制御方法。

ここで、sfはせん断力依存成分、bmは曲げモーメント依存成分、tmはねじりモーメント依存成分を表し、βrnは、

で表される共振次数rに関する重み係数、Dは曲げ剛性(D=Ebh3/12)、ω は加振角振動数、αr、αはr次とn次の重み係数を表し、また、Φrnは、前記請求項4のΦmnにおいてmをrに代えたものである。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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