説明

振動センサおよび振動検知装置

【課題】 高精度なパターンの形成を必要とせず、かつ、簡単な構造で、小型化が可能であり、AE波の検知に対しても十分な感度が得られる振動センサ、およびそれを使用した振動検知装置を提供すること。
【解決手段】 振動センサ部14とアンテナ13とから構成され、振動センサ部14は、基板2と、支持部8と、支持部8に一端を固定された片持ち梁1と、基板2上に設置された下部電極3と、下部電極3に対向して片持ち梁1の先端部に設けられた上部電極4とを有し、下部電極3と上部電極4はアンテナ13に接続され、外部より印加された振動により片持ち梁1が振動することにより、上部電極4と下部電極3間の静電容量が変化し、これによりアンテナ13へ入力される外部からの送信波の反射波が前記振動により変調されるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バックスキャッタ方式により振動を検知する振動センサおよびそれを用いた振動検知装置に関し、特に建造物などの破壊現象に伴って発生するAE(Acoustic Emission)波が検知可能な振動センサおよび振動検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質問機から送信された電磁波に対して、ICタグなどの情報記録媒体の部分で返信したい情報に応じてインピーダンスなどの変化を与え、反射波、散乱波にその信号を重畳して送出し、質問機でその情報を読み取るバックスキャッタ方式の通信がRFID(Radio Frequency IDentification)において使用されている。このバックスキャッタ方式の技術はセンサ装置にも応用されており、例えば特許文献1および特許文献2にバックスキャッタ方式を利用したセンサ装置が記載されている。
【0003】
特許文献1に記載の振動検知装置は、質問機と振動センサからなり、振動センサに加えられた外部からの振動による振動センサからの反射波の変化を質問機が検知するシステムである。このようなバックスキャッタ方式の採用により、振動センサに電源を必要としないという特長がある。この振動センサは、片持ち梁上に形成された表面弾性波(SAW)共振子からなる振動センサ部とアンテナにより構成されている。質問機は、振動センサに対してSAW共振子の共振周波数付近の高周波の搬送波からなる電波信号を送出する一方で、振動センサのSAW共振子に接続されたアンテナを介して放射される反射波を監視し、振動センサに加えられた機械振動に応じてSAW共振子の共振特性の変化により生ずる反射波の変化に基づいて振動現象を検知するものである。このように無線技術によりセンサを無電源化することにより、センサの小型化が可能となり、また、遠隔ネットワークを介したセンサシステムの構築が容易となる。
【0004】
また、特許文献1においては、上記の片持ち梁の長さを選択してその共振周波数を検出対象が発生する振動周波数帯に合わせ、検知対象物の振動が片持ち梁で拡大され継続されるようにしている。例えばガラスの破壊などに伴うAE波の検出に適用するような場合、ガラスの破壊に伴う振動自体は2ms程度の間しか持続しないのに対して、ガラス破壊に伴う振動に特徴的な周波数帯域に属するように片持ち梁の共振周波数を合わせることで、ガラス破壊に伴う振動自体が止まったあとであっても、片持ち梁の振動を2msよりもかなり長めに持続させることができ、振動検知の確度が向上する。
【0005】
特許文献2に記載の振動センサもバックスキャッタ方式の振動センサであり、変調された電磁波信号を受信して受信信号として出力する受信部と、前記受信部に接続されかつ電気的な容量要素を有し、前記受信部が出力した前記受信信号の周波数に応じた電圧を前記容量要素の両端子間に生成させる容量部と、前記容量部に接続され、前記容量部で生成された前記電圧によって励振され、かつ外力によって共振周波数が変化するとともに、前記共振周波数の変調信号を出力する共振部と、前記受信信号を復調して搬送波信号を出力する復調部と、前記復調部が出力した前記搬送波信号と前記共振部が出力した前記変調信号と混合して変調された送信信号を生成する変調部と、前記変調部に接続され、前記変調部で生成された前記送信信号を電磁波信号として送信する送信部とを備えている振動センサである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−232708公報
【特許文献2】特開2008−164592公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のSAW共振子を用いた振動センサでは、SAW共振子の作製工程において、高精度な櫛歯電極パターンを形成するための微細加工装置が必要となる。たとえば送信波の周波数が2.45GHzであれば、水晶基板上に形成される櫛歯電極の電極指幅と電極指間隔は0.35μmとなり、超微細なパターンを実現しなければならない。
【0008】
また、特許文献2に記載の振動センサでは、振動センサのセンサ部はMEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を用いた可変容量を用いることができるが、振動センサの全体構成としては、他にダイオードやコンデンサなどの素子を組み込む必要があるため、小型化や、構成を簡易化して低コスト化を図るためには十分ではない。さらに、AE波を検知するための考慮はまったくなされておらず、AE波の検知には十分な感度は得られない。
【0009】
そこで本発明の課題は、高精度なパターンの形成を必要とせず、かつ、簡単な構造で、小型化が可能であり、AE波の検知に対しても十分な感度が得られる振動センサ、およびそれを使用した振動検知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明による第1の振動センサは、振動センサ部とアンテナとから構成され、前記振動センサ部は、基板と、前記基板に固定された支持部と、前記支持部に一端を固定された片持ち梁と、前記基板上に設置された下部電極と、前記下部電極に空隙を介して対向して前記片持ち梁の先端部に設けられた上部電極とを有し、前記下部電極と前記上部電極は前記アンテナに接続され、外部より前記振動センサ部に印加された振動により前記片持ち梁が振動することにより、前記上部電極と前記下部電極間の静電容量が変化し、これにより前記アンテナの入出力インピーダンスが前記振動により変調され、前記アンテナへ入力される外部からの送信波の反射波が前記振動により変調されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明による第2の振動センサは、振動センサ部とアンテナから構成され、前記振動センサ部は、基板と、前記基板に固定された支持部と、前記支持部に両端を固定された両持ち梁と、前記基板上に設置された下部電極と、前記下部電極に空隙を介して対向して前記両持ち梁の中央部に設けられた上部電極とを有し、前記下部電極と前記上部電極は前記アンテナに接続され、外部より前記振動センサ部に印加された振動により前記両持ち梁が振動することにより、前記上部電極と前記下部電極間の静電容量が変化し、これにより前記アンテナの入出力インピーダンスが前記振動により変調され、前記アンテナへ入力される外部からの送信波の反射波が前記振動により変調されることを特徴とする。
【0012】
ここで、前記第1の振動センサにおいて、前記片持ち梁の共振周波数が10kHz〜500kHzであり、かつ、前記上部電極と前記下部電極間の間隔が0.1μm〜50μmであることが望ましい。
【0013】
また、前記第2の振動センサにおいて、前記両持ち梁の共振周波数が10kHz〜500kHzであり、かつ、前記上部電極と前記下部電極間の間隔が0.1μm〜50μmであることが望ましい。
【0014】
本発明による振動検知装置は、上記の第1の振動センサまたは第2の振動センサと質問機とを有し、前記質問機は、前記振動センサに送信する電磁波を送出する手段と、前記振動センサからの反射波を受信する手段と、前記反射波より前記の振動を検知する手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上記のような構成により、本発明の振動センサは、特許文献1に記載の振動センサのような高精度なパターンを形成するための微細加工装置を必要とせず、簡便な加工技術によって実現できる。また、特許文献2に記載されているようなダイオードやコンデンサなどを必要とせず、小型、単純化が可能であり、十分な感度でAE波の検知を行うことができる。
【0016】
以上のように、本発明により、高精度なパターンの形成を必要とせず、かつ、簡単な構造で、小型化が可能であり、AE波の検知に対しても十分な感度が得られる振動センサ、およびそれを使用した振動検知装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による振動センサの第1の実施の形態を模式的に示す側面図。
【図2】本発明による振動センサの第1の実施の形態における振動センサの概略を示す平面図。
【図3】本発明による振動検知装置の一実施の形態を模式的に示す全体構成図。
【図4】本発明による振動検知装置の質問機と振動センサ間の距離に対する受信信号レベルを示す図。
【図5】本発明による振動センサの第2の実施の形態を模式的に示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明による振動センサの第1の実施の形態を模式的に示す側面図である。図1において、第1の実施の形態の振動センサ21は、振動センサ部14とアンテナ13とから構成され、振動センサ部14は、基板2と、基板2に固定された支持部8と、支持部8に一端を固定された片持ち梁1と、基板2上に設置された下部電極3と、下部電極3に空隙を介して対向して片持ち梁1の先端部に設けられた上部電極4とを有し、下部電極3と上部電極4はアンテナ13に接続され、外部より振動センサ部14に印加された振動により片持ち梁1が振動することにより、上部電極4と下部電極3間の静電容量が変化し、これによりアンテナ13の入出力インピーダンスが前記振動により変調され、アンテナ13へ入力される外部からの送信波の反射波が前記振動により変調されるように構成されている。
【0020】
ここで、アンテナ13は、板状のダイポールアンテナであり、2つのアンテナパッド5および6より構成され、アンテナパッド5の引き出し線は、支持部8上の片持ち梁1に形成されたスルーホール7を介して上部電極4に接続されている。また、下部電極3はアンテナパッド6の引き出し線に接続されている。
【0021】
図2は、本発明による振動センサの第1の実施の形態における第1の実施の形態の振動センサの概略を示す平面図である。図2において、アンテナ基板40上に、アンテナ13を構成するため、金属板、または金属箔、または金属膜からなるアンテナパッド5およびアンテナパッド6が配置され、中央部に振動センサ部14が配置されている。
【0022】
図3は、本発明による振動検知装置の一実施の形態を模式的に示す全体構成図である。図3において、本実施の形態の振動検知装置は、上記の振動センサ21と質問機22とを有し、質問機22は、従来の振動検知装置における質問機と同様に、振動センサ21に送信する電磁波を送出する手段の一部としてのアンテナ12と、電磁波を送出する手段の一部としての送信回路、振動センサ21からの反射波を受信する手段としての受信回路、その反射波より前記の振動を検知する手段としての検出回路などを内蔵した質問機本体11とを有している。
【0023】
本実施の形態において、振動センサ21が設置されたガラスなどの被測定物が破壊されると、AE波が発生する。ここで、図1に示す片持ち梁1の構造を、その共振周波数が、通常10kHz〜500kHzの範囲内に存在する上記AE波の周波数帯に合致するように設計すると、このAE波を振動センサ21が受けた場合、片持ち梁1はその共振周波数で共鳴振動をする。片持ち梁1が共鳴振動をすると、上部電極4と下部電極3間の静電容量が変化し、下部電極3および上部電極4に接続されたアンテナ13からみるインピーダンスは、その共鳴振動に同期して変化する。従って、図3において、質問機22より振動センサ21のアンテナ13に送信された送信波16が振動センサ21内で反射され、振動センサ21のアンテナ13から出力する返信波15も、インピーダンスの変化に応じて変化する。
【0024】
具体的には、質問機22から送信される連続的な送信波16に対して振動センサ21のアンテナ13から出力される返信波15の波形は、質問機22より送信された送信波16と同一の周波数成分を有する波形を基本波として、それが振動周波数の波形により変調される。すなわち、反射された返信波15の周波数スペクトルは、送信波16の周波数ピークを中心として、振動による共振周波数のピークが両側波帯に存在する形となる。質問機22では、このような両側波帯に存在する振動の共振周波数と同一の周波数を検知した場合に、被測定物が破壊されたものと認知する。
【0025】
(第2の実施の形態)
図5は、本発明による振動センサの第2の実施の形態を模式的に示す側面図である。図5において、第2の実施の形態の振動センサ61は、振動センサ部34とアンテナ13とから構成され、振動センサ部34は、基板52と、基板52に固定された支持部58と、支持部58に両端を固定された両持ち梁51と、基板52上に設置された下部電極53と、下部電極53に空隙を介して対向して両持ち梁51の中央部に設けられた上部電極54とを有し、下部電極53と上部電極54はアンテナ13に接続され、外部より振動センサ部34に印加された振動により両持ち梁51が振動することにより、上部電極54と下部電極53間の静電容量が変化し、これによりアンテナ13の入出力インピーダンスが前記振動により変調され、アンテナ13へ入力される外部からの送信波の反射波が前記振動により変調されるように構成されている。
【0026】
第1の実施の形態と同様に、アンテナ13はアンテナパッド5および6より構成され、アンテナパッド5の引き出し線は、支持部58上の両持ち梁51に形成されたスルーホール57を介して上部電極54に接続され、下部電極53はアンテナパッド6の引き出し線に接続されている。
【0027】
第2の実施の形態の振動センサ61も第1の実施の形態と同様に、両持ち梁51の構造を、10kHz〜500kHzの範囲内の目的とするAE波の周波数にその共振周波数が合致するように設計して、このAE波を振動センサ61が受けた場合、両持ち梁51がその共振周波数で共鳴振動をするように構成する。これにより、AE波に対する検知感度を高くすることができる。また、従来のSAW共振子を用いた振動センサに比べて、簡単な構造であり、MEMS技術により容易に製造可能である。
【0028】
本発明の振動センサおよび振動検知装置は、建造物の耐震診断センサや衝撃センサ、及び防犯用ガラス破壊センサに利用することができる。
【実施例】
【0029】
以下に、図1の振動センサ21の具体的な一実施例を作製し評価を行った結果について説明する。本実施例の振動センサ部14の構成は、片持ち梁1の梁部の長さを300μm、梁部の板厚を11μm、梁部の幅を400μmとし、上部電極4と下部電極3間の距離を1μm、上部電極4と下部電極3の対向部分の形状は、長さを100μm、幅は梁部の幅と同じ400μmとした。これにより、振動センサ部14の全体としては1mm角以内のサイズに収まっている。なお、本実施例において、片持ち梁1の共振周波数は、150kHzとなる。基板2および支持部8、片持ち梁1の材料はPoly−Si、上部電極4および下部電極3はAl膜であり、振動センサ部14はMEMS技術を用いて作製した。なお、上部電極4と下部電極3間の間隔は、現在の技術での加工精度上は0.1μm程度が下限である。また、電極面積を大きくすれば上記間隔を大きくしても振動の検知感度を向上できるが、小型の振動センサを得るためには上記の間隔は50μm以下であることが望ましい。
【0030】
また、図2におけるアンテナ基板40の材質はアクリル樹脂、アンテナパッド5および6としては銅箔を用いた。
【0031】
図3において、質問機22から周波数2.45GHz、電力10dBmの送信波16を送り、振動センサ21からの返信波15に含まれる振動による変調波の受信レベルを質問機22によって測定した。図4は、本発明による振動検知装置の質問機と振動センサ間の距離に対する受信された変調波の信号レベル、すなわち受信信号レベルを示す図である。本実施例の振動検知装置において、たとえば、検知可能な受信信号レベルのしきい値を−80dBmとするならば、質問機とセンサの無線通信可能距離は3mである。
【0032】
なお、本発明は上記の実施の形態や実施例に限定されるものではないことはいうまでもなく、目的や用途に応じて設計変更可能である。例えば、AE波以外の振動を検知する場合、10kHz〜500kHzの範囲外の周波数であっても、その目的とする振動周波数に片持ち梁、または両持ち梁の共振周波数を合致させることにより、振動の検出感度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0033】
1 片持ち梁
2、52 基板
3、53 下部電極
4、54 上部電極
5、6 アンテナパッド
7、57 スルーホール
8、58 支持部
11 質問機本体
12、13 アンテナ
14、34 振動センサ部
15 返信波
16 送信波
21、61 振動センサ
22 質問機
40 アンテナ基板
51 両持ち梁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動センサ部とアンテナとから構成され、前記振動センサ部は、基板と、前記基板に固定された支持部と、前記支持部に一端を固定された片持ち梁と、前記基板上に設置された下部電極と、前記下部電極に空隙を介して対向して前記片持ち梁の先端部に設けられた上部電極とを有し、前記下部電極と前記上部電極は前記アンテナに接続され、外部より前記振動センサ部に印加された振動により前記片持ち梁が振動することにより、前記上部電極と前記下部電極間の静電容量が変化し、これにより前記アンテナの入出力インピーダンスが前記振動により変調され、前記アンテナへ入力される外部からの送信波の反射波が前記振動により変調されることを特徴とする振動センサ。
【請求項2】
振動センサ部とアンテナから構成され、前記振動センサ部は、基板と、前記基板に固定された支持部と、前記支持部に両端を固定された両持ち梁と、前記基板上に設置された下部電極と、前記下部電極に空隙を介して対向して前記両持ち梁の中央部に設けられた上部電極とを有し、前記下部電極と前記上部電極は前記アンテナに接続され、外部より前記振動センサ部に印加された振動により前記両持ち梁が振動することにより、前記上部電極と前記下部電極間の静電容量が変化し、これにより前記アンテナの入出力インピーダンスが前記振動により変調され、前記アンテナへ入力される外部からの送信波の反射波が前記振動により変調されることを特徴とする振動センサ。
【請求項3】
前記片持ち梁の共振周波数が10kHz〜500kHzであり、かつ、前記上部電極と前記下部電極間の間隔が0.1μm〜50μmであることを特徴とする請求項1に記載の振動センサ。
【請求項4】
前記両持ち梁の共振周波数が10kHz〜500kHzであり、かつ、前記上部電極と前記下部電極間の間隔が0.1μm〜50μmであることを特徴とする請求項2に記載の振動センサ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の振動センサと質問機とを有し、前記質問機は、前記振動センサに送信する電磁波を送出する手段と、前記振動センサからの反射波を受信する手段と、前記反射波より前記の振動を検知する手段とを有することを特徴とする振動検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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