説明

振動吸収継手及びそれを備えた携帯型刈払機

【課題】伝動軸のねじり振動を効果的に抑制することができるとともに、耐久性を向上させ得、かつ、コイルばね等の部品交換を可能としてメンテナンス等を容易に行うことができるとともに、合理的にシンプルに纏められて小型軽量化等も図ることのできる振動吸収継手及びそれを備えた携帯型刈払機を提供する。
【解決手段】クラッチドラム34において、伝動軸7のねじり振動を吸収すべく駆動側回転部材30Aと従動側回転部材30Bの間に複数本の圧縮コイルばね40が、それぞれ駆動側回転軸35と同心円乃至その接線に沿う方向に伸縮するように配在され、駆動側回転部材30A従動側回転部材30B及び複数本の圧縮コイルばね40が相互に着脱可能に組み付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原動機の出力軸の回転を伝動軸に伝達するとともに、該伝動軸のねじり振動を吸収するようにされた振動吸収継手、及び、それを備えた携帯型刈払機に関する。
【背景技術】
【0002】
図11に携帯型刈払機の従来例を示す。図示例の携帯型刈払機1’は、操作桿2の前端に、丸鋸刃状の刈刃4、ギアケース(ベベルギアユニット)19、安全カバー5等からなる刈刃機構部3が設けられ、その後端に、前記刈刃4を駆動するための前記操作桿2に内装された棒状または管状の金属製伝動軸7を連結した原動機としてリコイルスタータ8や燃料タンク9が付設された遠心式クラッチ付き内燃エンジン(小型空冷2サイクルガソリンエンジン)6が取着されている。
【0003】
また、前記操作桿2おける中央部付近には、刈払作業を行うべく前記刈刃機構部3を操作するためのU形ハンドル10が取り付けられ、このU形ハンドル10の左右両端部にそれぞれ左グリップ11、右グリップ12が装着されている。
【0004】
このような構成を有する携帯型刈払機1’においては、加減速時等におけるトルク変動、回転数変動や前記刈刃4に加えられる負荷の変動により、前記伝動軸7にねじり振動が生じる。より詳細には、前記伝動軸7は細くて長い(例えば、直径6mm、長さ1500mm程度)ため、エンジン回転数や前記刈刃4に対する負荷が大きくなると、前記伝動軸7にねじれ(回転遅れ)が生じる。また、急に負荷低減状態になると、前記伝動軸7がスプリングバック現象を起こし、回転方向にオーバーランしてねじれる。このようにエンジンの加減速時等におけるトルク変動、回転数変動や負荷変動、スプリングバック現象等により、前記伝動軸7が回転方向及びその逆方向にねじれたり戻ったりして、ねじり振動となる。
【0005】
そして、前記伝動軸7のねじり振動が、前記操作桿2や前記ハンドル10を介して作業者の手に伝播する。かかる振動は、部品の早期磨耗に結びついて製品寿命を短縮させるだけでなく、操作性の低下や疲労の増大を招くので、この振動を抑制する防振策が携帯型刈払機における重要な課題となっている。
【0006】
前記防振策の一つとして、例えば下記特許文献1には、前記遠心式クラッチと前記伝動軸との間に、防振ゴムにより成形された継手部材を介装することが提案されている。
【0007】
また、他の防振策として、下記特許文献2には、前記遠心式クラッチと前記伝動軸との間に、ワンウェイクラッチを介装することが提案されている。
【0008】
さらに、別の防振策としては、前記遠心式クラッチと前記伝動軸との間に、ねじりコイルばねを介装することが考えられている。
【0009】
しかしながら、前記した従来の、防振ゴムにより成形された継手部材、ワンウェイクラッチ、あるいは、ねじりコイルばねを用いた防振策では、一応の防振効果が得られるものの、まだ充分ではなかった。
【0010】
特に、防振ゴムにより成形された継手部材を用いた場合には、防振ゴムの継手部材の耐久性に問題が生じやすく、また、ねじりコイルばねを用いた場合でも、伝動軸のねじれ方向、ねじれ量(ねじれ角度)に応じてねじりコイルばねが際限なく弾性変形する(ねじれる)ため、ねじりコイルばねが破損しやすく、耐久性等に問題があった。
【0011】
そこで、本発明の発明者等は、上記問題を解消すべく、先に、下記特許文献3に所載のように、伝動軸のねじり振動を効果的に抑制することができるとともに、耐久性等を向上させることのできる振動吸収継手を提案している。
【0012】
この提案に係る振動吸収継手は、基本的には、原動機の出力軸の回転をねじりコイルばねを介して伝動軸に伝達するとともに、該伝動軸のねじり振動を前記ねじりコイルばねにより吸収するようにされ、前記ねじりコイルばねが所定角度以上ねじれないように規制する回動規制手段を設けたもので、より好ましい具体的な態様では、前記伝動軸に設けられたスプライン雄歯に摺動自在に嵌合するスプライン雌歯が設けられた第2筒状連結体と、前記出力軸と一体的に回転せしめられるとともに、前記第2筒状連結体が摺動自在に嵌挿された第1筒状連結体と、前記第2筒状連結体と前記第1筒状連結体に設けられたばね受け部との間に配在されて、一端部が前記ばね受け部に設けられた係止部に係止され、他端部が前記第2筒状連結体に設けられた係止部に係止されたねじりコイルばねを備え、前記第2筒状連結体と前記第1筒状連結体に、前記回動規制手段が設けられてなる。
【0013】
かかる提案の振動吸収継手においては、加減速時におけるトルク変動や回転数変動、さらに、伝動軸に対する負荷変動やスプリングバック現象等によって生じる前記伝動軸のねじり振動が、内蔵されたねじりコイルばねにより吸収され、また、回動規制手段により、前記ねじりコイルばねが所定角度以上ねじられないように規制されるので、作業者の手に伝播する不快な振動である前記伝動軸のねじり振動を効果的に抑えることができるとともに、前記ねじりコイルばねがねじられる角度(弾性変形量)を前記回動規制手段が設けられていない場合に比して小さくすることができ、その結果、前記ねじりコイルばねが破損し難くなり、耐久性等を向上できる。
【0014】
しかしながら、かかる提案のねじりコイルばねを用いた振動吸収継手でも、ねじりコイルばね端部への応力集中が避けられないので、過度の寿命は期待し難く、加えて、ねじりコイルばねは軸線方向の組み込みスペースを必要とするので、小型化にも難がある。
【0015】
また、従来、下記特許文献4等に見られるように、複数本の圧縮コイルばねを用いた振動吸収継手も考えられている。
【特許文献1】実公昭56−53618号公報
【特許文献2】特開2003−88220号公報
【特許文献3】特開2007−61029号公報
【特許文献4】実公昭52−034256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、従来の複数本の圧縮コイルばねを用いた振動吸収継手では、ねじりコイルばねを用いたものより耐久性は向上するものの、部品点数が多く、構成が複雑で、重厚長大なものとなる嫌いがあった。
【0017】
また、従来の圧縮コイルばねあるいはねじりコイルばねを用いた振動吸収継手では、各構成部品のそれぞれを個別に交換することは実質的に不可能であり、圧縮コイルばねあるいはねじりコイルばねが破損した際には、振動吸収継手全体を交換する必要があるので、不経済であるとともに、メンテナンス等に難があった。
【0018】
本発明は、上述した如くの従来の問題を解消すべくなされたもので、その目的とするところは、伝動軸のねじり振動を効果的に抑制することができるとともに、耐久性を向上させ得、かつ、コイルばね等の部品交換を可能としてメンテナンス等を容易に行うことができるとともに、合理的にシンプルに纏められて小型軽量化等も図ることのできる振動吸収継手及びそれを備えた携帯型刈払機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記の目的を達成すべく、本発明に係る振動吸収継手は、基本的には、原動機の出力軸の回転をクラッチドラムを介して伝動軸に伝達するとともに、該伝動軸のねじり振動を吸収するようにされ、前記クラッチドラムの出力軸となる駆動側回転軸を有する駆動側回転部材と、前記駆動側回転軸と同軸上に相対回転可能に配在されるとともに、前記伝動軸に前記駆動側回転軸の回転を伝達するための嵌合部が設けられた従動側回転軸を有する従動側回転部材と、を備え、前記伝動軸のねじり振動を吸収すべく、前記駆動側回転部材と前記従動側回転部材との間に、複数本の圧縮コイルばねが、それぞれ前記駆動側回転軸と同心円乃至その接線に沿う方向に伸縮するように配在され、前記駆動側回転部材、前記従動側回転部材、及び、前記複数本の圧縮コイルばねが相互に着脱可能に組み付けられていることを特徴としている。
【0020】
好ましい態様では、前記駆動側回転部材に、前記各圧縮コイルばねの長さ方向一端側に当接して押圧する駆動側当接部が設けられ、前記従動側回転部材に、前記各圧縮コイルばねの長さ方向他端側が当接するばね受け部が設けられる。
【0021】
好ましい態様では、前記駆動側当接部及びばね受け部が前記クラッチドラム内に配在され、前記クラッチドラムの底面部と前記ばね受け部を持つばね受け保持体とに、前記各圧縮コイルばねを弧状乃至直線状の案内形状に維持しながら長さ方向に伸縮可能に保持するばね保持部が設けられる。
【0022】
好ましい態様では、前記駆動側回転軸は、前記従動側回転軸が前記クラッチドラム内側から挿脱可能に挿入される筒状体とされ、前記従動側回転軸の前記駆動側回転軸に対する抜け止め手段として、Cリング等の着脱可能な係止部材が少なくとも一つ使用される。
【0023】
一方、本発明に係る携帯型刈払機は、操作桿の前端に刈刃やギアボックス等からなる刈刃機構部が設けられ、前記操作桿の後端に、前記刈刃を前記操作桿に内装された伝動軸を介して駆動するための原動機が取り付けられ、前記原動機の出力軸と前記伝動軸との間に、前記構成の振動吸収継手が介装されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0024】
前記の如くの構成とされた本発明に係る振動吸収継手の好ましい態様においては、駆動側回転部材と従動側回転部材との間に、複数本の圧縮コイルばねが、それぞれ駆動側回転軸と同心円乃至その接線に沿う方向に伸縮するように保持されているので、クラックドラムの回転が駆動側回転軸と一体に回転する押圧版の駆動側当接部から前記複数本の圧縮コイルばねを介してばね受け保持体のばね受け部に伝えられ、さらに該ばね受け保持体と一体に回転する従動側回転軸から例えばスプライン雌歯→スプライン雄歯で構成される嵌合部を介して伝動軸に伝えられる。また、伝動軸からクラッチドラムへの回転伝達は、上記とは逆順となる。
【0025】
このように、駆動側回転部材と従動側回転部材との間に、複数本の圧縮コイルばねをそれぞれ駆動側回転軸の接線に沿う方向に伸縮するように保持しておくことにより、この複数本の圧縮コイルばねがねじり緩衝手段として働く。このため、加減速時におけるトルク変動や回転数変動、さらに、伝動軸に対する負荷変動やスプリングバック現象等によって生じる前記伝動軸のねじり振動が、前記複数本の圧縮コイルばねにより吸収されるので、作業者の手に伝播する不快な振動である前記伝動軸のねじり振動を効果的に抑えることができる。
【0026】
また、複数本の圧縮コイルばねが使用されて各圧縮コイルばねが緩衝機能(仕事)を分担するようになっているとともに、各圧縮コイルばねが弧状乃至直線状の案内形状に維持しながら長さ方向に伸縮するようになっているので、ねじりコイルばね(通常は1本のみ)を使用した場合に比して、コイルばねの破損が生じ難くなり、耐久性が高められる。
【0027】
さらに、駆動側回転軸は筒状体とされて、従動側回転軸がクラッチドラム内側から挿脱可能に挿入できるようになっているとともに、前記従動側回転軸の前記駆動側回転軸に対する抜け止め手段として、Cリング等の着脱可能な係止部材が少なくとも一つ使用される等して、前記駆動側回転部材、前記従動側回転部材、及び、前記複数本の圧縮コイルばねが相互に着脱可能に組み付けられているので、コイルばね等の部品交換が可能となるとともに、メンテナンス等を容易に行うことができる。
【0028】
また、クラッチドラム内に圧縮コイルばねが配在される等して、合理的にシンプルに纏められるので、小型軽量化等も図ることができる。
【0029】
加えて、圧縮コイルばねを使用しているので、ねじりコイルばねが用いられる場合には必要であった回動規制手段が不要となり、この点でも部品点数の削減、構成の簡素化等が図られる。
【0030】
また、当該振動吸収継手を備えた携帯型刈払機においては、操作桿やハンドルを介して作業者の手に伝播する不快な振動を効果的に低減抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の振動吸収継手の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る振動吸収継手の一実施形態が適用された携帯型刈払機の主要部を示す断面図、図2は、図1に示される振動吸収継手の主要部の半断面前方斜視図、図3は、図1に示される振動吸収継手の主要部における一部分を分解して示す後方斜視図である。
【0032】
図示の携帯型刈払機1は、前述した図11に示される携帯型刈払機1’と全体構成は略同じであり、操作桿2の前端に刈刃4やギヤボックス19等からなる刈刃機構部3が設けられ、前記操作桿2の後端に、前記刈刃4を前記操作桿2に内装された伝動軸7を介して駆動するための遠心式クラッチ33付き内燃エンジン6(小型空冷2サイクルガソリンエンジン)が取付具23を介して取り付けられ、前記遠心クラッチ33と前記伝動軸7との間に、本実施形態の振動吸収継手30が介装されている。
【0033】
より詳細には、前記内燃エンジン6の出力軸(クランク軸)31には、冷却ファン32を介して遠心式クラッチ33が連結されている。該遠心式クラッチ33は、詳細には示されていないが、前記出力軸31により回転せしめられるクラッチアーム33bと、このクラッチアーム33bの先端に設けられたシュー33cと、このシュー33cが摩擦係合することによって一体的に回転するクラッチドラム34を有する。
【0034】
本実施形態の振動吸収継手30は、基本的には、前記クラッチドラム34の出力軸となる駆動側回転軸35を有する駆動側回転部材30Aと、駆動側回転軸35と同軸上に相対回転可能に配在された従動側回転部材30Bと、を備え、伝動軸7のねじり振動を吸収すべく、前記駆動側回転部材30Aと前記従動側回転部材30Bとの間に、2本の圧縮コイルばね40、40が、それぞれ駆動側回転軸35の接線に沿う方向に伸縮するように180°の角度間隔をあけて同一円周上に配在され、前記駆動側回転部材30A、前記従動側回転部材30B、及び、前記2本の圧縮コイルばね40、40が相互に着脱可能に組み付けられている。
【0035】
前記駆動側回転軸35は、前記従動側回転軸45がクラッチドラム34の内側から挿脱可能に挿入される筒状体とされ、その一端側がクラッチドラム34に溶接等で一体化されている。より詳細には、駆動側回転軸35は、クラッチドラム34(の中央穴)及び後述する押圧板52(の中央穴)が外嵌されて溶接等により接合される後側小径部35c、ベアリング26が装着保持される前側小径部35a、及び、後側小径部35cと前側小径部35aとの間の中間大径部35bを有している。この駆動側回転軸35(本振動吸収継手30全体)は、ベアリング26を介してケース部材22(ファンカバー兼クラッチケース)に回転自在に支持されている。
【0036】
一方、前記従動側回転軸45は、前記駆動側回転軸35にクラッチドラム34の内側から挿脱可能に挿入される筒状体とされ、ドラム34側の後端部には、前記駆動側回転軸35の後端部に当接係止される鍔状部45b及び後述するばね受け板62とばね保持板65とからなるばね受け保持体60が外嵌されて溶接等で接合される後側小径部45cが設けられ、鍔状部45bより前側は、前記駆動側回転軸35内に相対回転可能に内嵌される内嵌部45aとなっている。
【0037】
ここで、前記鍔状部45bは、前記従動側回転軸45の駆動側回転軸35に対する後側の抜け止め手段として働き、前側(伝動軸7側)の抜け止め手段として、着脱可能なCリング37が用いられている。
【0038】
また、従動側回転軸45の内周部には、伝動軸7に設けられたスプライン雄歯7aに摺動自在に嵌合するスプライン雌歯7b(嵌合部)が設けられている。
【0039】
そして、前記駆動側回転軸35におけるドラム34側の後側小径部35cには、図1に加えて図4を参照すればよくわかるように、前記各圧縮コイルばね40、40の長さ方向一端側(回転方向Pで見て後端側)の前半分(ばね径方向で見て伝動軸7側)に部分的に当接して押圧する駆動側当接部52a、52aを有する所定厚みの押圧板52が溶接等によりクラッチドラム34と共に一体に取り付けられている。
【0040】
また、クラッチドラム34の底面部34aには、後述する従動側回転部材30Bのばね受け保持体60と協同して圧縮コイルばね40、40を保持するための矩形窓55A、55Aが180度の角度間隔をあけて形成されるとともに、この矩形窓55A、55Aから前方に断面ハ字状に折り曲がって突出する一対のばね保持面部55aが設けられている。このばね保持面部55aは、圧縮コイルばね40、40の前側面中央部分に当接する。
【0041】
一方、従動側回転軸45におけるドラム34側の鍔状部45b及び後側小径部45cには、図1〜図3に加えて、図5、図6を参照すればよくわかるように、圧縮コイルばね40、40の長さ方向他端側(回転方向Pで見て前端側)が当接するばね受け部62a、62a(180°の角度間隔をあけて形成された2つの矩形窓62Aの回転方向Pで見た前端面)を持つ所定厚みを有する矩形状のばね受け板62と、断面円弧状のばね保持面部65aを持つばね保持板65とからなるばね受け保持体60が溶接等により一体に取り付けられている。前記ばね受け部62aには、圧縮コイルばね40の後半分(ばね径方向で見て出力軸31側)が部分的に当接する。
【0042】
したがって、従動側回転部材30Bは、図6に示される如くに、従動側回転軸45とばね受け保持体60とで構成され、前記圧縮コイルばね40、40は、駆動側回転部材30Aのクラッチドラム34の底面部34aに設けられた矩形窓55A及び保持面部55aと従動側回転部材30Bのばね受け保持体60の矩形窓62A及び保持面部65aとで、湾曲することを阻止された状態で長さ方向に伸縮可能に保持されていることになる。
【0043】
このような構成とされた本実施形態の振動吸収継手30においては、駆動側回転部材30Aと従動側回転部材30Bとの間に、2本の圧縮コイルばね40、40が、それぞれ駆動側回転軸の接線に沿う方向に伸縮するように保持されているので、クラックドラム34の回転が駆動側回転軸35と一体に回転する押圧版52の駆動側当接部52a、52aから2本の圧縮コイルばね40、40を介してばね受け保持体60のばね受け部62a、62aに伝えられ、さらに該ばね受け保持体60と一体に回転する従動側回転軸45からスプライン雌歯7b→スプライン雄歯7aを介して伝動軸7に伝えられる。また、伝動軸7からクラッチドラム34への回転伝達は、上記とは逆順となる。
【0044】
このように、駆動側回転部材30Aと従動側回転部材30Bとの間に、2の圧縮コイルばね4、40をそれぞれ駆動側回転軸35の接線に沿う方向に伸縮するように保持しておくことにより、この2本の圧縮コイルばね40、40がねじり緩衝手段として働く。このため、加減速時におけるトルク変動や回転数変動、さらに、伝動軸に対する負荷変動やスプリングバック現象等によって生じる前記伝動軸のねじり振動が、圧縮コイルばね40、40により吸収されるので、作業者の手に伝播する不快な振動である前記伝動軸のねじり振動を効果的に抑えることができる。
【0045】
また、2本の圧縮コイルばね40、40が使用されて各圧縮コイルばね40、40が緩衝機能(仕事)を分担するようになっているとともに、各圧縮コイルばね40、40が湾曲することなく長さ方向に伸縮するようになっているので、ねじりコイルばね(通常は1本のみ)を使用した場合に比して、コイルばねの破損が生じ難くなり、耐久性が高められる。
【0046】
さらに、駆動側回転軸35は筒状体とされて、従動側回転軸45がクラッチドラム内側から挿脱可能に挿入できるようになっているとともに、従動側回転軸45の駆動側回転軸35に対する抜け止め手段として、クラッチドラム34の前方側ではCリング37が用いられて、前記駆動側回転部材30A、前記従動側回転部材30B、及び、圧縮コイルばね40、40が相互に着脱可能に組み付けられているので、コイルばね等の部品交換が可能となるとともに、メンテナンス等を容易に行うことができる。
【0047】
また、クラッチドラム34内に圧縮コイルばね40、40が配在される等して、合理的にシンプルに纏められるので、小型軽量化等も図ることができる。
【0048】
加えて、圧縮コイルばねを使用しているので、ねじりコイルばねが用いられる場合には必要であった回動規制手段が不要となり、この点でも部品点数の削減、構成の簡素化等が図られる。
【0049】
また、当該振動吸収継手を備えた携帯型刈払機1においては、操作桿やハンドルを介して作業者の手に伝播する不快な振動を効果的に低減抑制することができる。
【0050】
以上の実施形態では、圧縮コイルばねを2本用いているが、圧縮コイルばねを3本以上用いてもよいことは勿論である。
【0051】
図8、図9、図10に圧縮コイルばねを3本用いた振動吸収継手70を示す。この実施形態の振動吸収継手70は、基本構成は前記実施形態の振動吸収継手30と同じであるが、圧縮コイルばねの使用本数の違いによる変更が施されている。すなわち、駆動側回転部材70Aの駆動側回転軸35におけるドラム34側の後側小径部35cには、図8に加えて図9を参照すればよくわかるように、3本の圧縮コイルばね80、80、80の長さ方向一端側(回転方向Pで見て後端側)の前半分(ばね径方向で見て伝動軸7側)に部分的に当接して押圧する駆動側当接部82a、82a、82aを有する所定厚みの風車ないし三つ又状の押圧板82が溶接等によりクラッチドラム34と共に一体に取り付けられている。
【0052】
また、クラッチドラム34の底面部34aには、従動側回転部材70Bのばね受け保持体90と協同して圧縮コイルばね80、80、80を保持するための矩形窓85A、85A、85Aが120度の角度間隔をあけて形成されるとともに、この矩形窓85A、85A、85Aから前方に断面ハ字状に折り曲がって突出する一対のばね保持面部85aが設けられている。このばね保持面部85aは、圧縮コイルばね80、80、80の前側面中央部分に当接する。
【0053】
一方、従動側回転軸45におけるドラム34側の鍔状部45b及び後側小径部45cには、図8に加えて、図10を参照すればよくわかるように、圧縮コイルばね80、80、80の長さ方向他端側(回転方向Pで見て前端側)が当接するばね受け部92a、92a、92a(120°の角度間隔をあけて形成された3つの矩形窓92Aの回転方向Pで見た前端から押圧板82側に向けて折り曲げられた部分)を持ち、かつ、前記各矩形窓92Aの中央部に設けられた断面円弧状のばね保持面部95aを持つばね受け保持体90が溶接等により一体に取り付けられている。前記ばね受け部92aには、圧縮コイルばね80の後半分(ばね径方向で見て出力軸31側)が部分的に当接する。
【0054】
したがって、前記各圧縮コイルばね80は、駆動側回転部材70Aのクラッチドラム34の底面部34aに設けられた矩形窓85A及び保持面部85aと従動側回転部材70Bのばね受け保持体90の矩形窓95A及び保持面部95aとで、長さ方向に伸縮可能に保持されることになる。
【0055】
このように、圧縮コイルばねを3本用いた場合でも、前記実施形態と略同様な作用効果が得られる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、限られたスペースに装着される圧縮コイルばねの全長を最大限に延長したい場合には、前記実施形態で、ばねの各収納部材が駆動側回転軸の接線に沿って矩形に配置されたばね収納部の案内形状を、前記駆動側回転軸と同心円のクラッチドラム内周面に沿う扇面に配置された案内形状に変更し、ばね定数が小さく容易に湾曲可能な圧縮コイルばねや自由形状自体が弧状の圧縮コイルばねを適用することにより、前記圧縮コイルばねの長さを前記クラッチドラム内周面の半円周に近い長さにまで延長できる。また、回転運動に伴う前記圧縮コイルばねの湾曲等を調節したい場合には、ばねの当接面と保持面に予め適宜の傾斜を加えておくこともでき、その他、特許請求の範囲に記載された発明の精神を逸脱しない範囲で、設計において、種々の変更ができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る振動吸収継手の実施形態が適用された携帯型刈払機の主要部を示す断面図。
【図2】図1に示される振動吸収継手の主要部を示す半断面斜視図。
【図3】図1に示される振動吸収継手の主要部における一部分を分解して示す後方斜視図。
【図4】図1に示される駆動側回転部材の説明に供される後面図。
【図5】図1に示される従動側回転部材の説明に供される後面図。
【図6】図1に示される従動側回転部材を示す斜視図。
【図7】図1に示される振動吸収継手の組立状態を示す斜視図。
【図8】本発明に係る振動吸収継手の他の実施形態が適用された携帯型刈払機の主要部における一部分を分解して示す後方斜視図。
【図9】図8に示される駆動側回転部材の説明に供される後面図。
【図10】図8に示される従動側回転部材の説明に供される後面図。
【図11】従来の携帯型刈払機の一例を示す斜視図。
【符号の説明】
【0058】
1 携帯型刈払機
2 操作桿
3 刈刃機構部
4 刈刃
6 内燃エンジン(原動機)
7 伝動軸
7a スプライン雄歯
7b スプライン雌歯
30 振動吸収継手
30A 駆動側回転部材
30B 従動側回転部材
31 出力軸
33 遠心クラッチ
34 クラッチドラム
35 駆動側回転軸
40 圧縮コイルばね
45 従動側回転軸
50 押圧板
52a 駆動側当接部
55a ばね保持面部
60 ばね受け保持体
62 ばね受け板
62a ばね受け部
65 ばね保持板
65a ばね保持面部
70 振動吸収継手
70A 駆動側回転部材
70B 従動側回転部材
80 圧縮コイルばね
82a 駆動側当接部
85a ばね保持面部
90 ばね受け保持体
92a ばね受け部
95a ばね保持面部
O 中心(回転)軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機(6)の出力軸(31)の回転をクラッチドラム(34)を介して伝動軸(7)に伝達するとともに、該伝動軸(7)のねじり振動を吸収するようにされた振動吸収継手(30)であって、
前記クラッチドラム(34)の出力軸となる駆動側回転軸(35)を有する駆動側回転部材(30A)と、前記駆動側回転軸(35)と同軸上に相対回転可能に配在されるとともに、前記伝動軸(7)に前記駆動側回転軸(35)の回転を伝達するための嵌合部(7b)が設けられた従動側回転軸(45)を有する従動側回転部材(30B)を備え、
前記伝動軸(7)のねじり振動を吸収すべく、前記駆動側回転部材(30A)と前記従動側回転部材(30B)との間に、複数本の圧縮コイルばね(40)が、それぞれ前記駆動側回転軸(35)と同心円乃至その接線に沿う方向に伸縮するように配在され、
前記駆動側回転部材(30A)、前記従動側回転部材(30B)、及び、前記複数本の圧縮コイルばね(40)が相互に着脱可能に組み付けられていることを特徴とする振動吸収継手。
【請求項2】
前記駆動側回転部材(30A)に、前記各圧縮コイルばね(40)の長さ方向一端側に当接して押圧する駆動側当接部(52a)が設けられ、前記従動側回転部材(30B)に、前記各圧縮コイルばね(40)の長さ方向他端側が当接するばね受け部(62a)が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の振動吸収継手。
【請求項3】
前記駆動側当接部(52a)及びばね受け部(62a)が前記クラッチドラム(34)内に配在され、前記クラッチドラム(34)の底面部(34a)と前記ばね受け部(62a)を持つばね受け保持体(60)との間に、前記各圧縮コイルばね(40)を弧状乃至直線状の案内形状に維持しながら長さ方向に伸縮可能に保持するばね保持部(55a、65a、…)が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の振動吸収継手。
【請求項4】
前記駆動側回転軸(35)は、前記従動側回転軸(45)が前記クラッチドラム(34)内側から挿脱可能に挿入される筒状体とされ、前記従動側回転軸(45)の前記駆動側回転軸(35)に対する抜け止め手段として、Cリング(37)等の着脱可能な係止部材が少なくとも一つ使用されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の振動吸収継手。
【請求項5】
操作桿(2)の前端に刈刃(4)やギアボックス(19)等からなる刈刃機構部(3)が設けられ、前記操作桿(2)の後端に、前記刈刃(4)を前記操作桿(2)に内装された伝動軸(7)を介して駆動するための原動機(6)が取り付けられた携帯型刈払機(1)であって、
前記原動機(6)の出力軸(31)と前記伝動軸(7)との間に、請求項1から4のいずれか一項に記載の振動吸収継手(30)が介装されていることを特徴とする携帯型刈払機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−11775(P2010−11775A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173818(P2008−173818)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(000141990)株式会社共立 (110)
【Fターム(参考)】