説明

振動型角速度センサ

【課題】感度が高く製造コストが低い振動型角速度センサによって直交する3軸周りの角速度を検出する。
【解決手段】振動中心を含む基準平面において振動中心を基準として等方的に配置された3つ以上の錘部と、前記錘部に連結される結合部と、基準平面に対して垂直に往復運動可能に且つ基準平面と平行で、放射方向に往復振動可能に、前記3つ以上の錘部のそれぞれを結合部に連結する第一ばね部と、3つ以上の錘部を連結する第二ばね部と、基準平面に垂直な軸周りに回転振動可能に前結合部を支持部に連結する第三ばねと、放射方向に3つ以上の錘部を同期して往復振動させるための励振素子と、基準平面の垂線方向について3つ以上の錘部の変位を検出する第一検出素子と、基準平面に垂直な軸周りの結合部のトルクを検出するための第二検出素子と、から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は振動型角速度センサに関し、特にMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)として構成される振動型角速度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、MEMSとして構成される振動型角速度センサが知られている。
特許文献1に記載の振動型角速度センサは錘と錘を支えるばねとしての膜とからなる1つの振動体を周回運動させることによって直交する3軸周りの角速度を検出する。振動体を周回運動させるためには位相と振幅がそれぞれ互いに異なる2系統以上の信号を出力する複雑な駆動回路が必要となるため、特許文献1に記載の振動型角速度センサは製造コストが高くなる。
特許文献2に記載の振動型角速度センサでは、直交する2方向に延びる2つの梁を一軸方向にそれぞれ撓み振動させ、それぞれの梁の捻れを検出することによって、直交する2軸周りの角速度を検出する。しかし、特許文献2に記載の振動型角速度センサでは3軸周りの角速度を検出できない。
【0003】
さらに特許文献1、2に記載の振動型角速度センサの構造では、励振素子と検出素子とが同一の振動体に設けられているため、検出素子の出力には角速度の成分よりも遙かに大きな参照振動の成分が含まれることになる。したがって特許文献1、2に記載の振動型角速度センサでは、高い感度を実現することが困難である。
これに対し、特許文献3、4、5に記載の角速度センサでは、検出素子の出力に参照振動の成分は含まれない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−294450号公報
【特許文献2】特開2008−14633号公報
【特許文献3】特表2007−509346号公報
【特許文献4】特開2007−271611号公報
【特許文献5】特開2006−17538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献3に記載の振動型角速度センサでは、参照振動が1軸方向にしか変位しないため、直交する3軸周りの角速度を検出することができない。直交する3軸周りの角速度を検出するためには直交する2軸方向の参照振動が必要である。
一方、特許文献4に記載の角速度センサでは回転体に対して錘が小さくなるため、高い感度を実現することが困難である。また特許文献4に記載の角速度センサでは、出力を周波数で分離する必要があるため、検出回路の規模が大きくなり、製造コストが高くなる。
また、特許文献5に記載の振動型角速度センサでは、3つの梁部同士が三角形に連結され、さらに梁部同士の結合部にY字形の脚部が結合しているため、梁部の剛性が高く、梁部を大きな振幅で撓み振動させることができない。したがって特許文献5に記載の振動型角速度センサでも、高い感度を実現することは困難である。また、特許文献5に記載の振動型角速度センサでは積層構造体を構成する複数の層の積層方向と平行な端面に励振素子を設けるために製造コストが高くなる。
【0006】
本発明は、感度が高く製造コストが低い振動型角速度センサによって直交する3軸周りの角速度を検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記目的を達成するための振動型角速度センサは、振動中心を含む基準平面において前記振動中心を基準として等方的に配置された3つ以上の錘部と、前記錘部に連結される結合部と、前記結合部に連結される支持部と、前記基準平面に対して垂直に往復振動可能に且つ前記基準平面と平行で前記振動中心を中心とする放射線方向に往復振動可能に、前記3つ以上の錘部のそれぞれを前記結合部に連結する第一ばね部と、前記基準平面に対して垂直に往復振動可能に且つ前記放射線方向に往復振動可能に前記3つ以上の錘部を連結する第二ばね部と、前記基準平面に垂直な軸周りに回転振動可能に前記結合部を前記支持部に連結する第三ばねと、前記放射線方向に前記3つ以上の錘部を同期して往復振動させるための励振素子と、前記基準平面の垂線方向について前記3つ以上の錘部の変位を検出するための第一検出素子と、前記基準平面に垂直な軸周りの前記結合部のトルクを検出するための第二検出素子と、が形成され積層方向が前記基準平面に対して垂直な積層構造体を備え、前記第一ばね部は、前記3つ以上の錘部のうち、それぞれが結合される1つの前記基準平面と平行な往復振動方向である特定参照振動方向の総延長が前記特定参照振動方向に垂直かつ前記基準平面と平行な方向の総延長よりも短い線形態を有する複数の第一ばねからなる。
【0008】
本発明によると、基準平面と平行な放射線方向に往復振動する3つ以上の錘部が第一ばね部によって結合部に連結されるとともに、第二ばね部によって相互に連結されるため、撓み振動する3つの梁部を互いに連結する場合に比べて参照振動の振幅を大きくすることができる。また、3つ以上の錘部の同期した往復振動は、位相も振幅も同じ1系統の駆動信号を励振素子に印加することによって実現できるため、駆動回路が簡素になる。そして直交する3軸のうちの2軸まわりの角速度は第一検出素子の出力から得られ、残りの1軸の角速度は第二検出素子の出力から得られるため、検出回路も簡素にできる。したがって本発明によると、感度が高く製造コストが低い振動型角速度センサによって直交する3軸周りの角速度を検出することができる。
また本発明によると、第一ばね部によって結合部に連結される錘部に対する拘束力は、基準平面と平行な錘部の往復振動方向において弱く、基準平面と平行な錘部の往復振動方向に垂直かつ基準平面と平行な方向において強くなる。したがって本発明によると、3つ以上の錘部を基準平面と平行な放射線方向に大きな振幅で安定して駆動することができる。
【0009】
上記目的を達成するための振動型角速度センサにおいて、前記複数の第一ばねのそれぞれは、前記特定参照振動方向に配列され前記特定参照振動方向に垂直な方向に延びる直線形の複数の第一線形ばねと、前記特定参照振動方向に垂直な垂直な方向に相対移動不能に前記複数の第一線形ばねを連結する第一ばね連結部とからなってもよい。
本発明によると、3つ以上の錘部を基準平面と平行な放射線方向にさらに安定して駆動することができる。
【0010】
(2)上記目的を達成するための振動型角速度センサにおいて、前記第二ばね部は、前記基準平面と平行で前記振動中心から離れる方向である特定径方向に垂直な方向の総延長が前記特定径方向の総延長よりも短い線形態を有する複数の第二ばねからなってもよい。
本発明によると、第二ばね部によって相互に連結される錘部に対する拘束力は、振動中心から離れる方向である特定径方向に隣り合う錘部が互いにずれる方向において強く、隣り合う錘部の間隔がその特定径方向に垂直な方向において変わる方向において弱くなる。したがって本発明によると、3つ以上の錘部を基準平面と平行な放射線方向にさらに安定して駆動することができる。
【0011】
上記目的を達成するための振動型角速度センサにおいて、前記複数の第二ばねのそれぞれは、前記特定径方向に延びる直線形の複数の第二線形ばねと、前記特定径方向に相対移動不能に前記複数の第二線形ばねを連結する第二ばね連結部とからなってもよい。
本発明によると、3つ以上の錘部を基準平面と平行な放射線方向にさらに安定して駆動することができる。
【0012】
上記目的を達成するための振動型角速度センサにおいて、前記複数の第二ばねは、前記3つ以上の錘部のうちの2つの間において前記特定径方向に対して垂直な方向に延びる対称軸を基準として線対称に複数ずつ設けられてもよい。
本発明によると、3つ以上の錘部を基準平面に平行な放射線方向にさらに安定して駆動することができる。
【0013】
上記目的を達成するための振動型角速度センサにおいて、前記第一検出素子は、前記第一ばね部の前記基準平面と平行な端面に設けられた歪み検出素子でもよい。
本発明によると、振動型角速度センサの製造コストを低減することができる。
【0014】
上記目的を達成するための振動型角速度センサにおいて、前記第一検出素子は、前記第二ばね部の前記基準平面と平行な端面に設けられた歪み検出素子でもよい。
本発明によると、振動型角速度センサの製造コストを低減することができる。
【0015】
上記目的を達成するための振動型角速度センサにおいて、前記第一検出素子は、前記3つ以上の錘部のそれぞれの前記基準平面と平行な端面に可動電極が形成されるとともに前記支持部に固定電極が形成されたキャパシターでもよい。
本発明によると、振動型角速度センサの製造コストを低減することができる。
【0016】
(3)上記目的を達成するための振動型角速度センサにおいて、前記励振素子は、前記第一ばね部の前記基準平面と平行な端面に設けられた圧電素子でもよい。
本発明によると、振動型角速度センサの製造コストを低減することができる。
【0017】
(4)上記目的を達成するための振動型角速度センサにおいて、前記励振素子は、前記第二ばね部の前記基準平面と平行な端面に設けられた圧電素子でもよい。
本発明によると、振動型角速度センサの製造コストを低減することができる。
【0018】
上記目的を達成するための振動型角速度センサにおいて、前記第二検出素子は、前記第三ばねの前記基準平面と平行な端面に設けられた圧電素子でもよい。
本発明によると、振動型角速度センサの製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1Aは本発明の一実施形態にかかる平面図である。図1Bは図1Aに示すBB線の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる平面図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる平面図である。
【図4】図4Aは図1Aに示す4A部分拡大図である。図4Bは図1Aに示す4B部分拡大図である。図4Cは図1Aに示す4C部分拡大図である。
【図5】本発明の一実施形態にかかる平面図である。
【図6】本発明の一実施形態にかかる平面図である。
【図7】本発明の一実施形態にかかる平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら説明する。尚、各図において対応する構成要素には同一の符号が付され、重複する説明は省略される。
1.振動型角速度センサの構成
図1は本発明による振動型角速度センサの構成を示している。まず説明の便宜のために直交するxyz軸を図1Aに示すように定める。振動型角速度センサ1は、MEMSとして構成され、単結晶珪素、酸化珪素、白金、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などの複数の層がz軸方向に積層された積層構造体であって、パッケージ11に収容される。振動型角速度センサ1には、支持部20、結合部30、錘部41,42,43,44、第一ばね51a、51b、52a、52b、53a、53b、54a、54bからなる第一ばね部、第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64bからなる第二ばね部、第三ばね71,72,73,74、圧電素子55,65,75などが形成されている。
【0021】
支持部20は振動型角速度センサ1の外枠を構成している枠形の部分である。支持部20はパッケージ11の底面に接着層99を介して固定されているため、実質的に剛体として振る舞う。支持部20の内側には結合部30、錘部41,42,43,44、第一ばね51a、51b、52a、52b、53a、53b、54a、54bからなる第一ばね部、第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64bからなる第二ばね部および第三ばね71,72,73,74が収まる空間が形成されている。支持部20は第三ばね71,72,73,74を実質的に剛体として支持できる形態であればどのような形態であっても良い。
【0022】
結合部30は支持部20の内側の空間に位置する枠形の部分である。結合部30は支持部20と同一の層構造を有し、実質的に剛体として振る舞う。結合部30は実質的に剛体として振る舞う形態であればどのような形態であっても良い。以後、xy平面と平行に結合部30の重心と一致する振動中心Gを中心として延びる放射線の方向を放射線方向といい、振動中心Gを通りxy平面と垂直な軸の周りを回る方向を周方向というものとする。正方形を構成する結合部30の内側の4辺のそれぞれの中点から結合部30の振動中心Gに向かって凸部31,32,33,34が突出している。
【0023】
錘部41,42,43,44は振動中心Gを基準としてxy平面に平行な基準平面において等方的に結合部30の内側に配置されている部分である。具体的には、錘部41,42,43,44は互いに同一形態の構造要素であって、振動中心Gから錘部41,42,43,44のそれぞれの重心までの距離は等しく、振動中心Gを基準として錘部41,42,43,44のそれぞれの重心は等角度間隔に配置されており、錘部41,42,43,44のそれぞれの重心はxy平面と平行に整列している。錘部41,42,43,44のそれぞれは、支持部20および結合部30と同一の層構造を有し、振動中心Gの近傍において直角に交わる2辺と結合部30の近傍において結合部30の辺と平行な1辺とを有する直角二等辺三角形を基本形(基本三角形)とする平板形を有する。錘部41,42,43,44は、基本三角形の直角に交わる2辺同士が互いに平行になるように配置されている。すなわち、錘部41,42,43,44は、正方形を対角線によって4分割したそれぞれの領域に配置されている。
【0024】
第一ばね51a、51b、52a、52b、53a、53b、54a、54bは、結合部30の凸部31、32、33、34と錘部41,42,43,44とに結合している部分である。錘部41,42,43,44は、z軸方向に往復振動可能に且つxy平面に平行で振動中心Gを中心とする放射線方向に往復振動可能に、第一ばね51a、51b、52a、52b、53a、53b、54a、54bによって結合部30に連結されている。第一ばね51a、51b、52a、52b、53a、53b、54a、54bは、錘部41,42,43,44のそれぞれをこのように結合部30に連結する形態であればどのような形態であっても良いが、本実施形態では次に述べる形態とする。
【0025】
第一ばね51a、51b、52a、52b、53a、53b、54a、54bは、錘部41,42,43,44のうちそれぞれが結合される1つの、xy平面と平行な往復振動方向である特定参照振動方向の総延長が、特定参照振動方向に垂直かつxy平面と平行な方向の総延長よりも短い線形態を有する。また、第一ばね51a、51b、52a、52b、53a、53b、54a、54bの厚さ(z軸方向長さ)は、錘部41,42,43,44に作用するz軸方向のコリオリ力によって錘部41,42,43,44が十分な振幅でz軸方向に往復振動するように設定されている。そして、第一ばね51a、51b、52a、52b、53a、53b、54a、54bのそれぞれは、特定参照振動方向に配列され特定参照振動方向に垂直な方向に延びる直線形の複数の第一線形ばね50aと、特定参照振動方向に垂直な方向に相対移動不能に複数の第一線形ばね50aを連結する複数の第一ばね連結部50bとからなる。さらに、第一ばね51a、51bの組と、第一ばね52a、52bの組と、第一ばね53a、53bの組と、第一ばね54a、54bの組とは、それぞれ結合部30の凸部31、32、33、34を基準として線対称の形態を有する。このようにして錘部41,42,43,44を結合部30に連結することによって、基準平面と平行な放射線方向に大きな振幅で安定して錘部41,42,43,44を駆動することができる。
【0026】
第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64bは、錘部41,42,43,44を周方向に連結している部分である。錘部41,42,43,44は、z軸方向に往復振動可能に且つxy平面と平行で振動中心Gを中心とする放射線方向に往復振動可能に、第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64bによって周方向に連結されている。すなわち、第一ばね51a、51b、52a、52b、53a、53b、54a、54bによって結合部30に連結されるとともに第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64bによって周方向に連結されている錘部41,42,43,44は、等角度間隔の4つの放射線方向に等しい大きさの速度で往復振動可能であって、z軸方向にも往復振動可能である。第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64bは、このように錘部41,42,43,44を連結する形態であればどのような形態でも良いが、本実施形態では次に述べる形態とする。
【0027】
第二ばね61a、61bの組、第二ばね62a、62bの組、第二ばね63a、63bの組、第二ばね64a、64bの組とは、錘部41,42,43,44のうちそれぞれが結合される2つの間においてそれぞれ放射線方向に整列している。また第二ばね61a、61bの組、第二ばね62a、62bの組、第二ばね63a、63bの組、第二ばね64a、64bの組とは、それぞれが整列している特定の放射線方向(特定径方向)に対して垂直かつxy平面と平行な方向(特定周方向)に延びる対象軸について線対称に形成されている。第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64bのそれぞれは、特定周方向の総延長が特定径方向の総延長よりも短い線形態を有する。また、第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64bの厚さ(z軸方向長さ)は、錘部41,42,43,44に作用するz軸方向のコリオリ力によって錘部41,42,43,44が十分な振幅でz軸方向に個別に往復振動するように設定されている。そして、第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64bのそれぞれは、特定径方向に配列され特定径方向に延びる直線形の複数の第二線形ばね60aと、特定径方向に相対移動不能に複数の第二線形ばね60aを連結する複数の第二ばね連結部60bとからなる。このようにして錘部41,42,43,44を周方向に連結することによって、基準平面と平行な放射線方向に大きな振幅で安定して錘部41,42,43,44を駆動することができる。
【0028】
第三ばね71,72,73,74は、一端が支持部20に結合し他端が結合部30に結合している部分である。第三ばね71,72,73,74は、支持部20および結合部30と同一の層構造を有し、周方向に薄い平らな板ばねの形態または線形態を有する。したがって、結合部30は、支持部20を静止体とする系においてz軸周りに回転振動可能に且つ支持部20を静止体とする系においてz軸方向に往復振動不能に支持部20に連結されている。互いに同一構成の第三ばね71,72,73,74は結合部30から等角度間隔で放射線方向に伸びている。したがって、z軸周りの結合部30のトルクは第三ばね71,72,73,74に均等に作用する。なお、第三ばね71,72,73,74の幅(z方向長さ)は、支持部20または結合部30の厚さ(z方向長さ)よりも小さくても良い。また第三ばね71,72,73,74が支持部20または結合部30を構成する複数の層の一部から構成されていても良い。
【0029】
2.振動型角速度センサの作動
振動型角速度センサ1の参照振動は、図2および図3の矢印で示すように、放射線方向に錘部41,42,43,44が同期して往復する振動である。したがって振動型角速度センサ1に設ける励振素子には、振動中心Gを基準としてxy平面と平行な放射線方向に錘部41,42,43,44を往復振動させる機能が求められる。この機能を満たす限り、励振素子をどのように配置しても良いし、どのように構成しても良いが、本実施形態では励振素子をxy平面と平行な端面に設ける圧電素子とし、第一ばね51a、51b、52a、52b、53a、53b、54a、54bまたは第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64bのxy平面と平行な端面に設ける。
【0030】
具体的には例えば、第一ばね53a、53bを構成している複数の第一線形ばね50a(図4A参照)を、互いの平行をたもちながらz軸周りに揺動させるために、第一ばね53a、53bの第一線形ばね50aに複数の圧電素子55を設ける。そして、凸部33を基準として第一ばね53bと対象に形成されている第一ばね53aと、第一ばね53aとが常に凸部33を基準として対象な形態を維持するように、第一ばね53a,53bの第一線形ばね50aに複数の圧電素子55を設ける。このように第一ばね53a、53bの第一線形ばね50aに複数の圧電素子55を設けると、第一ばね53a、53bと結合している錘部41を放射線方向に往復振動させる力を発生させることができる。第一ばね51a、51b、52a、52b、54a、54bについても同様に、複数の第一線形ばね50aを、互いの平行をたもちながらz軸周りに揺動させるために、第一線形ばね50aに複数の圧電素子55を設ければよい。このように第一ばね51a、51b、52a、52b、53a、53b、54a、54bのそれぞれに圧電素子55を設けると錘部41,42,43,44を90度間隔の4つの特定径方向にそれぞれ往復振動させることができるため、位相も振幅も同じ1系統の駆動信号をそれぞれの圧電素子55に印加すると、xy平面と平行で振動中心Gを中心とする放射線方向に錘部41,42,43,44を同期して往復させることができる。
【0031】
また例えば、第二ばね61bを構成している2つの第二線形ばね60a(図4B参照)を、第二ばね連結部60bを固定端として逆方向に揺動させるために、第二ばね61bの2つの第二線形ばね60aに複数の圧電素子65を設ける。そして、特定周方向に延びる対称軸について第二ばね61bと線対称な第二ばね61aについても同様に第二ばね連結部60bを固定端として逆方向に揺動させるために、第二ばね61aの2つの第二線形ばね60aに複数の圧電素子65を設ける。このように第二ばね61a、61bの第二線形ばね60aに複数の圧電素子65を設けると、第二ばね61a、61bと結合している錘部41、42を特定周方向に互いに離間させる力を発生させることができる。そして、第二ばね62a、62b、63a、63b、64a、64bについても同様に、2つの第二線形ばね60aを、第二ばね連結部60bを固定端として逆方向に揺動させるように、2つの第二線形ばね60aに複数の圧電素子65を設ければよい。このように第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64bのそれぞれに圧電素子65を設けると錘部41,42,43,44を4つの特定周方向に互いに離間させる力を発生させることができるため、位相も振幅も同じ1系統の駆動信号をそれぞれの圧電素子65に印加するとxy平面と平行で振動中心Gを中心とする放射線方向に錘部41,42,43,44を同期して往復振動させることができる。
【0032】
以上述べた振動型角速度センサ1の参照振動に対するコリオリ力は次のように錘部41,42,43,44および結合部30を振動させる。振動型角速度センサ1が図5に示すようにx軸周りに角速度ωで回転すると、x軸に対して垂直なy軸方向に往復振動している錘部42、44に対して、z軸に平行で互いに反対向きのコリオリ力Cx2、Cx4が作用する。コリオリ力Cx2、Cx4は、振動する錘部42、44の速度に比例するため、参照振動と同じ振動数において振動する力となる。振動型角速度センサ1が図6に示すようにy軸周りに角速度ωで回転すると、y軸に対して垂直なx軸方向に往復振動している錘部41、43にz軸に平行で互いに反対向きのコリオリ力Cy1、Cy3が作用する。コリオリ力Cy1、Cy3は、振動する錘部41、43の速度に比例するため、参照振動と同じ振動数において振動する力となる。振動型角速度センサ1が図7に示すようにz軸周りに角速度ωで回転すると、z軸に対して垂直なx軸方向およびy軸方向に往復振動している錘部41,42,43,44のそれぞれに周方向のコリオリ力Cz1、Cz2、Cz3、Cz4が作用する。錘部41,42,43,44の速度は、錘部41,42,43,44の順に一周する90度間隔の4つの特定径方向の向きを持ち大きさが等しいため、コリオリ力Cz1、Cz2、Cz3、Cz4は、常に周方向において一致する方向を持ち大きさが等しくなる。したがって、コリオリ力Cz1、Cz2、Cz3、Cz4は結合部30をz軸周りに回転させるトルクとして作用する。
【0033】
コリオリ力Cx2、Cx4、Cy1、Cy3、Cz1、Cz2、Cz3、Cz4に応じた物理量を検出することによりxyz軸周りの角速度をそれぞれ検出することができる。本実施形態においては、次の通り、錘部41,42,43,44のz方向の変位に伴う歪みと結合部30のトルクに伴う歪みとをそれぞれ検出することによりxyz軸周りの角速度を検出する。x軸周りの角速度ωは、錘部42、44のz軸方向における変位に対応する。錘部42、44がz軸方向に変位すると、第一ばね52a、52b、54a、54bと第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64bとがz軸方向に歪む。したがって、第一ばね52a、52b、54a、54bまたは第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64bに設けられる歪み検出素子の出力からx軸周りの角速度ωを検出できる。y軸周りの角速度ωは、錘部41、43のz軸方向における変位に対応する。錘部41、43がz軸方向に変位すると、第一ばね51a、51b、53a、53bと第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64bとがz軸方向に歪む。したがって、第一ばね51a、51b、53a、53bまたは第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64bに設けられる第一検出素子としての歪み検出素子の出力からy軸周りの角速度ωを検出できる。なお、x軸周りの角速度ωに応じた第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64bの歪みと、y軸周りの角速度ωに応じた第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64bの歪みとは異なるため、第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64bのそれぞれに複数づつ設けた歪み検出素子の出力からも、x軸周りの角速度ωとy軸周りの角速度ωとを導出可能である。z軸周りの角速度ωは、結合部30をz軸と平行な軸周りに回転させるトルクに対応する。結合部30のz軸周りのトルクは第三ばね71,72,73,74を周方向に歪ませる。したがって、第三ばね71,72,73,74に設けられる第二検出素子としての歪み検出素子の出力からz軸周りの角速度ωを検出できる。
【0034】
第一ばね51a、51b、53a、53b、52a、52b、54a、54b、第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64b、第三ばね71,72,73,74に設ける歪み検出素子として、励振素子としての圧電素子と共通の層構造を有する圧電素子を用いることにより製造コストの低減が可能である。
例えば、第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64bのそれぞれに設ける圧電素子65を励振素子とし、第一ばね51a、51b、53a,53bのそれぞれに設ける圧電素子55をωの検出素子とし、52a,52b,54a,54のそれぞれに設ける圧電素子55をωの検出素子とし、第三ばね71,72,73,74のそれぞれに設ける圧電素子75をωの検出素子とする。そして、励振素子としての圧電素子65と検出素子としての圧電素子55,75とを図4に示す配置領域において第一ばね51a、51b、53a、53b、52a、52b、54a、54b、第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64b、第三ばね71,72,73,74のxy平面と平行な端面に設ければよい。
【0035】
また例えば、図4Aに示すように第一ばね51a、51b、53a、53b、52a、52b、54a、54bのそれぞれに互いに平行な2つを1組として複数組設ける検出素子としての圧電素子55に加えて、互いに平行な2つの圧電素子55の間に励振素子としての圧電素子を配置してもよい。すなわち、励振素子としての圧電素子を第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64bのみならず第一ばね51a、51b、53a、53b、52a、52b、54a、54bにも設けても良い。
【0036】
また例えば、第一ばね51a、51b、53a、53b、52a、52b、54a、54bのそれぞれに設ける圧電素子55を励振素子とし、第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64bのそれぞれに設ける圧電素子65をωx、ωyの検出素子とし、第三ばね71,72,73,74のそれぞれに設ける圧電素子75をωの検出素子としてもよい。
【0037】
振動型角速度センサ1を駆動するとともに角速度を検出するための回路は振動型角速度センサ1を構成している積層構造体に形成しても良いし、その積層構造体とは別の積層構造体に形成しても良い。またその回路が形成される積層構造体を、振動型角速度センサ1を構成している積層構造体のパッケージ11とは別のパッケージに収容しても良い。
【0038】
振動型角速度センサ1によると、xy平面と平行な放射線方向に往復振動する錘部41、42,43,44が第一ばね部によって結合部に連結されるとともに、第二ばね部によって相互に連結されるため、撓み振動する3つの梁部を互いに連結する場合に比べて参照振動の振幅を大きくすることができる。また、錘部41,42,43,44の同期した往復振動は、位相も振幅も同じ1系統の駆動信号を励振素子に印加することによって実現できるため、駆動回路が簡素になる。そして直交するxy軸まわりの角速度は第一検出素子の出力から独立に得られ、残りのz軸まわりの角速度は第二検出素子の出力から独立に得られるため、検出回路も簡素にできる。したがって本発明によると、振動型角速度センサ1は、製造コストが低く、3軸周りの角速度を高い感度で検出することができる。
【0039】
3.振動型角速度センサの製造方法
基板層100、絶縁層102、電極層106、圧電層108、電極層110、絶縁層112などからなる積層構造体である振動型角速度センサ1は、例えば次のように製造することができる。まず単結晶珪素(Si)からなる基板層100の一方の主面に熱酸化等によって酸化珪素(SiO)からなる絶縁層102を形成する。次に白金(Pt)からなる電極層106、チタン酸ジルコニア酸鉛(PZT)からなる圧電層108、白金からなる電極層110を絶縁層102の表面に順次積層し、電極層106,圧電層108および電極層110をパターニングすることによって励振素子および検出素子としての圧電素子55,65,75を形成する。電極層106、110の形成にはスパッタ法を用い、圧電層108の形成にはマグネトロンスパッタ法を用いることができる。次に絶縁層102および圧電素子55,65,75の表面にプラズマCVD法などによって絶縁層112を形成し、絶縁層112にコンタクトホールを形成する。次にアルミニウム(Al)からなる図示しない導線層をスパッタ法によって形成し、導線層をパターニングする。次に絶縁層112および導線層の表面にフォトレジストマスクを形成し、フォトレジストマスクを用いて絶縁層112、102および基板層100を反応性イオンエッチングによって図1に示す形状にパターニングする。その後、ダイシング、パッケージング等の後工程を実施すると振動型角速度センサ1が完成する。
【0040】
なお、振動型角速度センサ1の寸法は仕様に応じて適宜設定すればよいが、例えばx方向およびy方向の外寸を3mmとし、基板層100の厚さを50μmとし、第一ばね51a、51b、52a、52b、53a、53b、54a、54b、第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64b、第三ばね71,72,73,74の最小幅(xy平面と平行な方向の最小長さ)を20μmとする。
【0041】
振動型角速度センサ1は薄く構成できるため、ウエハの縁近傍の領域でも基板層100のパターニング精度が落ちにく、また基板層100のエッチング時間を短くできる。また振動型角速度センサ1の励振素子と検出素子はいずれも基板層100および絶縁層102からなる第一ばね51a、51b、52a、52b、53a、53b、54a、54b、第二ばね61a、61b、62a、62b、63a、63b、64a、64b、第三ばね71,72,73,74のxy平面と平行な端面に設けられた圧電素子55,65,75であるため、全て同時に形成することができる。したがって、振動型角速度センサ1は低いコストで製造することができる。
【符号の説明】
【0042】
1:振動型角速度センサ、11:パッケージ、20:支持部、30:結合部、31,32,33,34:凸部、41,42,43,44:錘部、50b:連結部、55,65,75:圧電素子、60b:連結部、99:接着層、100:基板層、102:絶縁層、106:電極層、108:圧電層、110:電極層、112:絶縁層、Cx2:コリオリ力、Cy1:コリオリ力、Cz1:コリオリ力、G:振動中心、ω:角速度、ω:角速度、ω:角速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動中心を含む基準平面において前記振動中心を基準として等方的に配置された3つ以上の錘部と、
前記錘部に連結される結合部と、
前記結合部に連結される支持部と、
前記基準平面に対して垂直に往復振動可能に且つ前記基準平面と平行で前記振動中心を中心とする放射線方向に往復振動可能に、前記3つ以上の錘部のそれぞれを前記結合部に連結する第一ばね部と、
前記基準平面に対して垂直に往復振動可能に且つ前記放射線方向に往復振動可能に前記3つ以上の錘部を連結する第二ばね部と、
前記基準平面に垂直な軸周りに回転振動可能に前記結合部を前記支持部に連結する第三ばねと、
前記放射線方向に前記3つ以上の錘部を同期して往復振動させるための励振素子と、
前記基準平面の垂線方向について前記3つ以上の錘部の変位を検出するための第一検出素子と、
前記基準平面に垂直な軸周りの前記結合部のトルクを検出するための第二検出素子と、
が形成され積層方向が前記基準平面に対して垂直な積層構造体を備え、
前記第一ばね部は、前記3つ以上の錘部のうち、それぞれが結合される1つの前記基準平面と平行な往復振動方向である特定参照振動方向の総延長が前記特定参照振動方向に垂直かつ前記基準平面と平行な方向の総延長よりも短い線形態を有する複数の第一ばねからなる、
振動型角速度センサ。
【請求項2】
前記第二ばね部は、前記基準平面と平行で前記振動中心から離れる方向である特定径方向に垂直な方向の総延長が前記特定径方向の総延長よりも短い線形態を有する複数の第二ばねからなる、
請求項1に記載の振動型角速度センサ。
【請求項3】
前記励振素子は、前記第一ばね部の前記基準平面と平行な端面に設けられた圧電素子である、
請求項1または2に記載の振動型角速度センサ。
【請求項4】
前記励振素子は、前記第二ばね部の前記基準平面と平行な端面に設けられた圧電素子である、
請求項1または2に記載の振動型角速度センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−37283(P2012−37283A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175598(P2010−175598)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】