説明

振動式搬送装置

【課題】振動式搬送装置による搬送物の搬送状態を吸引力により制御する場合において、吸引力の変化速度を高める。
【解決手段】本発明の搬送物の搬送方法は、実質的に直方体状の搬送物を振動式搬送装置によって搬送する搬送物の搬送方法において、前記振動式搬送装置は、前記搬送物を支持、案内する搬送面に沿って搬送物PTが搬送される搬送路2aを備えた搬送体2と、該搬送体を前記搬送物が前記搬送路上を搬送の向きFDに搬送される態様で該搬送の向きFDの前後に振動させる加振機構3〜7と、前記搬送路の前記搬送面に開口する矩形の開口形状を備える吸引口2eと、該吸引口における吸引力の有無を切り替え可能、或いは、前記吸引力を増減可能に構成された吸引作動手段220、230と、を具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は振動式搬送装置に係り、特に、微細な電子部品等の搬送物を振動によって搬送する際に好適な、当該搬送物を搬送方向に分離する手段を備えた装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、振動によって搬送物を所定の搬送路上で搬送するようにしたパーツフィーダやリニアフィーダと呼ばれる振動式搬送装置が知られている。この装置において、搬送路に沿って搬送物を搬送する際に、搬送物の選別、整列、姿勢変更、個別検査などを行うために、搬送の向きに連続して移動してくる搬送物を前後に分離するための手段を設けることが知られている。この手段としては、搬送路の搬送方向の傾斜角を所定位置で変更し、これにより搬送物の姿勢変化により、或いは、搬送物を所定位置から下流側で上流側よりも高速に移動させることによって前後の搬送物に間隔を設けることが行われていた。
【0003】
しかしながら、近年、搬送対象の搬送物が微細化し、しかも高い搬送速度や搬送量が要求されるようになってきたため、搬送路の傾斜角変更で生ずる姿勢変化や搬送抵抗の差を利用する上記の方法では搬送物を確実に前後に分離することができず、その結果、搬送物の検出ミスが生じて不具合が発生するという問題点があった。そこで、以下の特許文献1〜3に示すように、後続の搬送物を一時的に吸引により停止させることにより、前方の搬送物との間に間隔を生じさせる方法が提案されている。
【0004】
なお、上記各文献に記載された方法では、いずれも吸引口の開口形状は円形である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−246236号公報
【特許文献2】特開2002−137820号公報
【特許文献3】特開2003−300613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、吸引口の開口形状が円形である場合、部品に及ぼされる吸引力を迅速に変化させることができないという問題点がある。
【0007】
そこで、本発明の課題は、振動式搬送装置による搬送物の搬送状態を吸引力により制御する場合において、吸引力の変化速度を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
斯かる実情に鑑み、本発明の搬送物の搬送方法は、実質的に直方体状の搬送物を振動式搬送装置によって搬送する搬送物の搬送方法において、前記振動式搬送装置は、前記搬送物を支持、案内する搬送面に沿って前記搬送物が搬送される搬送路を備えた搬送体と、該搬送体を前記搬送物が前記搬送路上を搬送の向きに搬送される態様で該搬送の向きに振動させる加振機構と、前記搬送路の前記搬送面に開口する矩形の開口形状を備える吸引口と、該吸引口における吸引力の有無を切り替え可能、或いは、前記吸引力を増減可能に構成された吸引作動手段と、を具備することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、吸引口の開口形状を矩形とすることにより、通気抵抗若しくは圧力損失を低減し、円形である場合よりも吸引力を迅速に変化させることができる。この吸引口の開口形状は、搬送方向と平行な対向する二辺および前記搬送方向と直交する対向する二辺を有することが好ましい。また、開口形状は、搬送物の搬送方向に沿った長さよりも小さい開口長を備えるとともに、搬送物の搬送方向と直交する方向の幅よりも小さい開口幅を備えることが好ましい。さらに、上記開口形状を多角形とすることも可能である。ここで多角形とは、上記矩形(四角形)の他に、三角形、五角形、六角形などを含む。
【0010】
本発明は、搬送物が搬送される搬送路を備えた搬送体を具備する。搬送物は実質的に直方体状であり、例えば、表面実装型の抵抗、コンデンサ、ICなどの電子部品等の部品が挙げられる。搬送路は搬送体の表面に形成された凹溝状や片溝状の通路として構成される場合が多く、搬送方向に延在する螺旋状や直線状に形成される。また、搬送路は搬送物を支持、案内する搬送面を備える。搬送体としては、典型的には内面に螺旋状の搬送路を備えたボウル状の搬送体、或いは、上部表面に直線状の搬送路を備えた直線状の搬送体が挙げられる。
【0011】
上記搬送体は、加振機構によって搬送の向き(搬送方向の前後)に振動させられる。加振機構は、典型的には電磁駆動体や圧電駆動体などの振動発生源と、この振動発生源で発生した振動を搬送体に伝達し、また、搬送体を振動可能な状態に支持するための板ばね等の弾性部材とが用いられる。この加振機構は、上記搬送路上の搬送物を当該搬送路に沿った搬送の向きに移動させるに必要な前進力を生じさせる態様で上記搬送体を振動させる。通常は、搬送物が接触可能な搬送路の搬送面(内底面)を搬送の向きに斜め上方に振動させる。この搬送の向きに斜め上方の振動方向を有する振動は、搬送物を斜め上方に前進させ、その直後に、搬送面が搬送の向きとは逆向きに斜め下方に戻ることで、搬送物は搬送面から離れたままで前進を続けるといったサイクルを繰り返す。このように、搬送体の振動周期は搬送体が搬送の向きに前進する前進期間と逆向きに後退する後退期間とを含む。
【0012】
吸引口は搬送路に開口し、本質的に搬送体に対して固定されている。特に、この吸引口は搬送路のうち搬送物が接触可能な搬送面、例えば搬送路の内底面や内側面に開口するように形成されることが好ましい。搬送路に天井面が存在する場合には当該天井面に開口していてもよい。吸引口は真空ポンプやエジェクタなどの排気装置等により構成される吸引装置に対して吸引経路を介して接続される。吸引口の構造は特に限定されないが、吸引力を効率的に搬送物に対して与えるためには、搬送物の搬送姿勢における前記搬送面に対する投影面よりも開口面積が小さく、搬送路上における搬送物の搬送を妨げない形状、すなわち、搬送方向に沿った開口面を備えた構造とされることが好ましい。
【0013】
吸引経路中には電磁弁や空圧作動弁などといった、吸引口における吸引力の有無を切り替え可能又は当該吸引力を増減可能に構成された吸引作動手段が設けられる。この吸引作動手段は、上記吸引口自体を開閉作動させる開閉機構であってもよい。吸引作動手段には、上記電磁弁、空圧作動弁、開閉機構などを駆動する駆動回路が含まれていてもよい。
【0014】
吸引制御手段は上記吸引作動手段を制御する。この吸引制御手段は、上記搬送体の振動周期と同期して、上記吸引力の有無を切り替え、或いは、上記吸引力を増減させることが好ましい。吸引制御手段の制御は搬送体の振動周期と結果的に同期したタイミングでなされるものであれば如何なるものであってもよいが、典型的には、上記搬送体の振動周期、上記加振機構の加振周期、上記加振機構の制御周期などを検出する検出部を含む。この場合、上記検出部としては、搬送体の振動周期を検出する専用の検出器を用いてもよいが、加振機構の制御駆動に用いられる検出信号、制御振動、駆動信号などをそのまま取り入れる構成であることが装置構成上好ましい。
【0015】
吸引制御手段が上記振動周期ごとに上記吸引口における吸引力の有無を切り替え若しくは吸引力を増減させることで、より確実に搬送物の加減速を生じさせることができる。特に、搬送体の振動周期ごとに、振動周期と同期して、吸引力が生じている期間若しくは吸引力が増大している期間である吸引期間(Tc)と、吸引力が停止している期間若しくは吸引力が減少している期間である非吸引期間(Td)とが設けられることが好ましい。振動周期ごとに振動周期と同期した吸引期間と非吸引期間が設けられることで、振動周期ごとに吸引力の変動態様が定常化されるため、搬送物の分離作用をさらに安定させることができる。ただし、制御タイミングが振動周期に同期したものであれば、複数の上記振動周期ごとに吸引力の有無の切り替えや増減を行うようにしてもよく、また、複数の周期にわたる吸引期間を設けてもよい。
【0016】
搬送体の振動周期ごとに上記吸引期間(Tc)が設けられる場合においては、この吸引期間の位相及び期間の長さ(割合)により、振動周期の前進期間と後退期間との関係を設定することができる。このとき、上記吸引期間は、搬送体が振動の前端位置又は後端位置にある時点を含むことが好ましい。このようにすると、吸引期間の位相を変化させることにより、吸引力による搬送物の減速作用又は加速作用を詳細かつ容易に調整することが可能になる。また、特に減速モードにおいては、吸引期間を短く設定しなくても、搬送物の完全停止を回避することが容易になる。
【0017】
この場合に、上記吸引期間(Tc)のうち、後退期間(Tb)に対応する時間(後述する後退時吸引時間Tcb)の大きさ又は割合(Tcb/Tb又はTcb/T)に応じて搬送物が減速される。また、吸引口よりも上流側における搬送物の搬送速度が搬送体の前進期間における前進速度よりも或る程度低い場合(搬送速度が相対的に低い場合)には、吸引期間(Tc)のうち、後退期間(Tb)に対応する時間(後述する後退時吸引時間Tcb)の大きさや割合(Tcb/Tb又はTcb/T)と、前進期間に対応する時間(後述する前進時吸引時間Tca)の大きさや割合(Tca/Ta又はTca/T)との兼ね合いに応じて搬送物が加速又は減速される。上記搬送速度の高低は、搬送体の振動方向の上下傾斜角、搬送物と搬送面の間の摩擦係数などによって変化する。
【0018】
吸引口は、搬送方向の開口長(La)が搬送物の搬送方向に沿った長さ(Lo)の1/2以下であることが望ましい。これにより、長さ(Lo)に対する開口長(La)の比を小さくできるため、吸引口による吸引力を特定の搬送物に確実に与えることができる。一般的には、上記比を小さくすることで搬送物が吸引口を横切る際に搬送物が吸引口の全体を覆う期間を長くし、当該期間内の振動周期の数を増やすことができるため、一つの搬送物に対して複数回にわたり吸引力を及ぼすことができるから、より確実な減速若しくは加速作用を得ることができる。一方、吸引口自体の形状に関しては、上記開口長(La)が搬送方向と直交する方向の開口幅(Wa)よりも小さい開口形状を有することが好ましい。このようにすると、吸引作用の生ずる開口面積の低下を抑制しつつ、搬送物が吸引口を閉鎖可能な搬送方向に沿った範囲を大きく確保することができるため、搬送物に吸引力をより確実に作用させることができる。
【0019】
上述の搬送状態の制御は、例えば、或る搬送物を前後の他の搬送物と分離するために行われ得る。この搬送物の分離は搬送物を他の搬送物の影響を回避して検査する場合に行われる。この場合に、検査位置は吸引口の形成位置よりも下流側に設定される。このように、前記吸引口の下流側には搬送物の検査を行う検査位置を備えた検査手段が設けられる場合がある。この場合にはさらに、この検査手段による搬送物の検査結果に応じて、搬送物に対する各種の処理、例えば搬送物の整列、選別、姿勢変更などを行う処理手段が設けられる場合もある。なお、検査手段の有無に拘わらず、吸引口の形成位置よりも下流側に処理位置を備えた処理手段が設けられる場合もある。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、吸引力を迅速に変化させることができるため、吸引力による搬送物の搬送状態の制御を高速に行うことができ、高速搬送にも対応することができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る実施形態の振動式搬送物搬送装置の制御系を示す概略構成図。
【図2】同実施形態の装置構造を示す側面図。
【図3】同実施形態の搬送体を取り外した様子を示す正面図(A)及び平面図(B)。
【図4】同実施形態の搬送体の振動周期(検出信号)E、制御信号F、駆動信号G、弁開閉状態H及び吸引口における吸引力Iの例を示すタイミングチャート。
【図5】同実施形態における搬送路上の搬送物の分離態様(加速モード)を示す側面図。
【図6】同実施形態における搬送路上の搬送物の分離態様(減速モード)を示す側面図。
【図7】搬送路の構造と搬送物の位置関係の例を示す断面図(a)〜(c)。
【図8】実施例の搬送路の構成を示す拡大図。
【図9】加速モードの実施例の実測データを示すグラフ。
【図10】減速モードの実施例の実測データを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。最初に、本実施形態の振動式搬送物搬送装置の概略構成について図1及び図2を参照して説明する。
【0023】
図1は本発明に係る振動式搬送装置に用いる制御系を構成する励振用駆動回路100の概略構成を示す概略構成図である。励振用駆動回路100は、商用電源1から供給された交流電圧を整流、平滑し、必要に応じて降圧して所要の直流電圧(以下、単に「供給電圧」という。)Voを供給する直流電源120と、この直流電源120から供給される供給電圧Voを所定周波数の交流の出力電圧Vpに変換するインバータ130と、を備えている。インバータ130から供給される出力電圧Vpはインダクタ140、150を介して振動発生源の励振用素子である圧電素子3に印加される。これらのインダクタ140、150はリップル除去用のチョークコイルである。インダクタ140、150はいずれか一方のみを設けてもよいが、圧電素子3の両側に共に設けることによってバランスがとれ、ノイズ対策上より好ましい。
【0024】
また、励振用駆動回路100は、圧電素子3の両端電圧Vsを検出するための電圧検出手段である検出トランス170を有し、この検出トランス170の出力は制御部180に接続されている。制御部180は例えばマイクロプロセッサユニット(MPU)等によって構成され、検出トランス170を介して検出された圧電素子3の両端電圧Vsを示す電圧検出値Vdに応じて制御信号Sを出力するようになっている。制御信号Sはインバータ130の周波数を決定する周波数指令値及び電圧値を決定する電圧指令値を実質的に含むものであり、インバータ駆動回路であるPWM回路190に入力され、PWM回路190は駆動信号Dを出力して、インバータ130のFET等からなるスイッチング素子131、132、133、134を駆動し、インバータ130においてPWM駆動により上記所定の交流の出力電圧Vpを生成させる。
【0025】
インバータ130の出力電圧Vpは、PWM回路190の駆動信号Dに応じた矩形パルスPの幅(デューティー比)及び周期Tで設定される。例えば、矩形パルスPのデューティー比が駆動信号Dに応じて変わることで電圧実効値が変化するようになっている。また、矩形パルスPの周期t、或いは正負の矩形パルスPの交代周期Tが駆動信号Dに応じて変わることで駆動周波数(f=1/T)が変化するようになっている。上記のデューティー比及び周波数は制御部180の出力する制御信号Sによって制御される。なお、図1の二点鎖線の枠内に示す出力電圧Vpの波形は原理のみを示す模式的なものであり、インバータのスイッチング周期tと出力電圧Vpの周期Tの関係を正確に示すものではない。
【0026】
本実施形態の制御部180は、電圧基準値Vrを設定可能な設定器181と、周波数基準値frを設定可能な設定器182とを有する。そして、インバータ制御手段である制御部180及びPWM回路190では、上記電圧基準値Vr及び周波数基準値frに応じた電圧値及び周波数となるようにインバータ130を制御するようになっている。また、検出トランス170を介して圧電素子3の両端電圧Vsが検出され、電圧検出値Vdに応じて制御部180が圧電素子3の両端電圧Vsを一定に保つように制御することも可能になっている。例えば、圧電素子3の両端電圧Vsを直接検出し、この両端電圧Vsに対応する電圧検出値Vdを一定(例えば上記電圧基準値Vr)に保持するようにインバータ130を制御することで、従来のようにインバータへの電圧指令値の設定のみで動作させていた場合にくらべると、振動発生源のサイズや数の変動(駆動電流の変動)、或いは、振動負荷の変動に影響を受けず、常に安定した駆動電圧を与えることができる。また、振動発生源に正確な駆動電圧を印加することができるので、駆動電圧を最適化することで振動発生効率を高めることができる。
【0027】
本実施形態では、圧電素子3の共振周波数の検出を上記構成のみによって容易に実施できる。例えば、制御部180においてインバータ130で供給される出力電圧Vpを一定としつつ、駆動周波数を徐々に変化(スイープ)させていくように制御信号Sを生成しながら電圧検出値Vdを監視することで、電圧検出値Vdの極小点(振動発生源のインピーダンス極小点)を共振周波数として検出することができる。また、上記のように検出トランス170を介して検出された電圧検出値Vdを一定に保持するフィードバック制御を行いつつ駆動周波数を徐々に変化させていく場合には、制御信号Sの電圧指令値(例えば、電圧基準値Vrと電圧検出値Vdの差Vr−Vd)の極大点を共振周波数として検出することができる。
【0028】
上記の共振周波数の検出は手動で行うことも可能であるが、例えば、制御部180で実行可能な共振点検出プログラムによって自動的に行うこともできる。すなわち、制御信号Sによって一定周期で駆動周波数を一定のステップ量で変化(スイープ)させていくとともに、電圧検出値Vd(電圧制御なしの場合)若しくは電圧指令値(電圧制御ありの場合)を監視し、電圧検出値Vdの極小点若しくは電圧指令値の極大点に達するまで周波数のスイープを継続していけばよい。この場合、共振点をより正確に検出するために、周波数スイープ時において電圧検出値Vdの極小点若しくは電圧指令値の極大点を越えたときに周波数の変化方向を逆転させるとともにステップ量を低減させてさらに検出を続けるという方法を採ることもできる。なお、上記の共振点検出手段は、上記のように動作するように設定された制御部180(例えば、制御部180に用意された共振点検出プログラムの実行動作)によって実現される。
【0029】
図2は上記圧電素子3に相当する振動発生源3を備えた振動式搬送装置10の概略側面図、図2(A)は本実施形態の概略正面図、図2(B)は本実施形態の搬送体を省略して示す概略平面図である。
【0030】
本実施形態の振動式搬送装置10は、基台1と、この基台1の上方に配置された搬送体2と、搬送体2を振動させるための振動発生源3と、振動発生源3の一側部分(下端)に接続された連結部材4と、搬送体2と連結部材4との間に連結された第1の弾性支持体5と、振動発生源3の他側部分(上端)に接続され、自由端として構成された慣性体6と、連結部材4と基台1との間に連結された第2の弾性支持体7とを有している。基台1は、設置面上に配置される支持板1Aと、この支持板1A上に固定され、上記第2の弾性支持体7がボルト等を介して固定された取付板1Bとを備えている。
【0031】
搬送体2は、上記第1の弾性支持体5にボルト等を介して固定された取付材2Aと、この取付材2A上に固定された搬送材2Bとを有し、搬送材2Bには図示しない溝状のトラックが形成されている。このトラックは図2の左右方向に伸び、図示しない搬送物を保持しつつ、後述する振動発生源3から伝達される振動S3により、搬送物を矢印FDの示す向き(以下、単に「搬送の向きFD」という。)へ搬送可能となるように構成されている。
【0032】
振動発生源3が上記の圧電素子で構成される場合、この圧電素子を含む圧電型の振動源(圧電駆動体)は、具体的には、弾性板の表裏両面にそれぞれ圧電体層を形成し、これらの圧電体層に所定の電圧を印加することによって屈曲するように構成したバイモルフ型構造を有している。もちろん、弾性板の片面にのみ圧電体層を形成したユニモルフ型構造であっても構わない。これらの圧電型振動源は、外部から所定周波数の交流電力を供給することによって当該周波数に対応する周波数で撓み振動する。
【0033】
本実施形態では、搬送の向きFDに沿って離間した前後2箇所において、上記振動発生源3、連結部材4、第1の弾性支持体5、及び、第2の弾性支持体7の組がそれぞれ設けられている。すなわち、搬送体2が前後2箇所で第1の弾性支持体5及び第2の弾性支持体7により弾性支持されている。また、前方に配置された振動発生源3は前方の第1の弾性支持体5の後方に配置され、さらに後方に配置された慣性体6に接続され、後方に配置された振動発生源3は後方の第1の弾性支持体5の前方に配置され、さらに前方に配置された慣性体6に接続されている。すなわち、慣性体6は2組の振動発生源3の前後方向の中間に配置され、2組の振動発生源3は共通の慣性体6に共に接続されている。
【0034】
慣性体6は、振動発生源3に接続された慣性板6Aと、この慣性板6Aに固定された慣性ブロック6Bとを有し、上部に配置された慣性板6Aの下方に慣性ブロック6Bが吊り下げ固定された構造となっている。慣性板6Aは搬送体2の直下に隣接して配置され、慣性ブロック6Bは振動発生源3と同じ高さ範囲に重なるように、慣性板6Aから下方に突出するように設けられている。
【0035】
第1の弾性支持体5及び第2の弾性支持体7は共に板状の弾性体、例えば板ばねである。第1の弾性支持体5と第2の弾性支持体7は側方から見て共通の直線に沿って配置されている。これによって、両弾性支持体は基台1と搬送体2の間にて単一の板状の弾性体で構成される場合と近似した支持特性を有するものとされる。すなわち、第1の弾性支持体5と第2の弾性支持体7とが前後方向にずれた位置に設けられていると、振動発生源3の姿勢と直交する本来の振動方向S1とは異なる方向の不要な振動モード(例えば、上下方向に揺動する振動モード)が生成され、搬送体2の搬送特性に悪影響を与える虞があるのに対して、上記のように両弾性支持体5,7が共通の直線に沿って配置されることで、不要な振動モードの生成を抑制することができる。
【0036】
また、上記の共通の直線は、振動発生源3の延長方向と平行になるように構成されている。これによって、振動発生源3の延長方向(板面に沿った方向)と直交する方向の撓み振動を効率的に第1弾性支持体5に伝達することができ、効率的に搬送体2を振動させることができる。本実施形態では、搬送体2に対して図示矢印で示すように水平方向に対してやや上下方向に傾斜した方向の振動S3を与えることによって、搬送体2上の図示しない搬送物を搬送の向きFDに沿って搬送できるように構成されている。したがって、このような振動を効率的に伝達するために、振動発生源3を垂直方向に対して前後方向にやや傾斜した方向に延在する姿勢とし、しかも、第1の弾性支持体5及び第2の弾性支持体7を振動発生源3と平行な方向に延在する姿勢としている。
【0037】
さらに、振動発生源3の下端が連結部材4に連結され、振動発生源3の上端が慣性体6に連結されていることにより、慣性体6を容易に搬送体2に近づけることができるため、相互に逆相で振動する搬送体2と慣性体6とによって生ずるモーメントを低減することができ、不要な振動モードを抑制できる。また、慣性体6(特に慣性ブロック6B)は振動発生源3の高さ範囲に重なるように配置されているので、慣性体6の質量及び体積を大きくしても、装置10を高さ方向にコンパクトに構成することができる。
【0038】
以上のように構成された装置10は、振動発生源3に交流電力が与えられて撓み振動が発生すると、振動発生源3の両側で、連結部材4と慣性体6が振動発生源3の撓み方向に振動する。連結部材4の振動S1は基台1を支点として第1の弾性支持体5及び第2の弾性支持体7によって増幅され、搬送体2に振動S3を生成させる。また、自由端である慣性体6には、連結部材4と逆相の振動位相を有する振動S2が生成される。
【0039】
本実施形態では、上記振動発生源3、連結部材4、第1の弾性支持体5、慣性体6及び第2の弾性支持体7(図示例では振動発生源3、連結部材4、第1の弾性支持体5及び第2の弾性支持体6が搬送の向きFDの前後に一対設けられる。)が搬送体2を振動させるための加振機構に相当する。また、上記の両端電圧Vs(インバータ130の出力)が当該加振機構の駆動信号(図1参照)に相当する。
【0040】
本実施形態では、図1に示すように、両端電圧Vs(加振機構の駆動信号)を電圧検出手段である検出トランス170で検出し、この検出トランス170の出力(検出信号)Eを吸引制御手段である吸引制御回路210に導入している。吸引制御回路210は吸引制御信号Fを出力し、この吸引制御信号Fは吸引駆動回路220に供給され、吸引駆動回路220から駆動信号Gが例えば圧電アクチュエータにより動作する吸引作動弁230を駆動する。ここで、吸引駆動回路220及び吸引作動弁230は上記の吸引作動手段に相当する。吸引作動弁230は気流や圧力を断続したり切り替えたりできるものであれば特に限定されないが、図示例では、高速応答性を確保するために圧電素子231を弁体として動作する圧電バルブにより構成される。
【0041】
吸引作動弁230の一端は、真空ポンプやエジェクタなどからなる吸引装置(排気装置)240に対して吸引配管241を介して接続されている。また、吸引作動弁230の他端は吸引通気路2dに接続されている。吸引配管241と吸引通気路2dは上記の吸引経路を構成する。吸引通気路2dは、上記搬送体2に設けられた搬送路2aに開口し、吸引口2eを構成する。吸引作動弁230の作動により、吸引装置240による吸引作用(の有無若しくは増減)が上記吸引口2eにおいて制御される。
【0042】
上記吸引制御回路210は、検出信号Eに基づいて、位相値Phと作動幅Wgを設定して上記吸引制御信号Fを生成する。図4は、検出信号Eと吸引制御信号Fとの関係を示すグラフである。図示例では検出信号Eは振動数f=1/T(Tは周期)の正弦波であるが、波形は特に限定されない。検出信号Eは搬送体2の振幅を示し、電位の降下期間が搬送の向きFDに搬送体2が前進している前進期間Taであり、電位の上昇期間が搬送体2の搬送の向きFDとは逆向きに後退している後退期間Tbである。搬送体2の振動は一般に前進期間Ta及び後退期間Tbの中間点(後述する原点ないしはゼロクロス点)で前進速度及び後退速度が最大値をとり、搬送体2が振動の前端位置及び後端位置にあるときに0となる。
【0043】
また、吸引制御信号Fは、検出信号Eの負から正へ移行する原点(ゼロクロス点)tに対してマイナス側に基準時差tph(位相差θph=tph/T)だけずれた立ち上がり点を有し、パルス幅が期間幅twg(位相幅θwg=twg/T)の矩形パルスであるが、波形は特に限定されない。吸引制御信号Fでは、当該矩形パルスによって、上記原点tより前の立ち上がり点から上記原点tより後の立ち下がり点に亘る吸引制御期間が設定される。なお、図示例では位相点の基準時点を原点tとしているが、基準時点は特に限定されず、搬送体2が前端位置にある時点(検出信号Eが極小となる時点)、或いは、搬送体2が後端位置にある時点(検出信号Eが極大となる時点)としてもよい。
【0044】
上記吸引制御信号Fが吸引駆動回路220に入力されると、吸引駆動回路220は吸引制御信号Fに対応する駆動信号Gを出力し、この駆動信号Gに応じて、吸引作動弁230は、弁開閉状態Hに示すように、上記吸引制御期間に対応する吸引作動期間において吸引作動弁230を開き、吸引を行う。この吸引作動弁230の作動は、吸引力Iに示すように、吸引口2eにおいて作動期間に対応して吸引力を生じる(或いは、吸引力が増大する)吸引期間Tcを形成する。なお、図示の吸引力Iは、説明の都合上、吸引口2eが閉鎖された状態における吸引力の変化態様を示すものであり、実際の吸引口2eの開口位置における計測圧力そのものを示すものではない。
【0045】
本実施形態の場合、上記吸引期間Tcは振動周期Tごとに形成される。また、振動周期Tごとに吸引力が停止する(或いは、吸引力が減少する)非吸引期間Tdが設けられる。吸引期間Tcと非吸引期間Tdは搬送物PTの搬送速度に対して実質的に作用し得る吸引力の有無によって判別されるが、振動周期T内で吸引力が漸次変化していく場合など厳密に分けられない態様でも構わない。上記吸引期間Tcのうち、搬送体2の前進期間Taに対応する時間である前進時吸引時間Tcaと、後退期間Tbに対応する時間である後退時吸引時間Tcbの関係により、吸引口2eを横切る搬送物PTの加減速状態が決定される。
【0046】
搬送物PTの加減速状態の設定は、上記吸引制御回路210に設けられた位相調整部211と時間調整部212により定められる。位相調整部211は上記吸引制御信号Fの位相(具体的には上記基準時差tph又は位相差θph)を外部入力(手動操作を受ける場合を含む。)により、若しくは自動で調整する。また、時間調整部212は上記吸引制御信号Fの期間幅twg又は位相幅θwg)を外部入力(手動操作を受ける場合を含む。)により、若しくは自動で調整する。
【0047】
吸引作動手段を構成する吸引作動弁230の作動タイミングは、所望の期間の長さと位相とを有する吸引期間Tcと非吸引期間Tdを実現するために、吸引作動手段における作動のタイムラグ及び吸引力の応答性を考慮して適宜のタイミングで制御すればよい。図示例では、吸引期間Tcは、搬送体2が振動の後端位置にある時点を含むように、当該時点の前後にわたり設定されている。一方、図4に点線で示すように、吸引期間Tcを搬送体2が振動の前端位置にある時点を含むように、当該時点の前後にわたり設定することも可能である。このように吸引期間Tcが上記時点のいずれかを含むように設定すると、吸引期間Tcにおいて前進期間Taに相当する時間部分と、後退期間Tbに相当する時間部分とが共に含まれることになるため、後述する加速モードと減速モードの選択、或いは、加速モード又は減速モードの加減速の程度を吸引期間Tcの位相変化により詳細かつ容易に調整可能となる。また、吸引期間Tcの期間の長さを或る程度確保した場合でも(当該期間を短くしなくても)、吸引期間Tcの少なくとも一部が前進期間Taに対応するため、或いは、吸引期間Tcが後退期間Tbの多くを占めることが防止されるため、減速作用が過大となって搬送物PTが停止してしまうことを容易に防止できる。もっとも、本発明では、吸引力の制御により搬送物PTを停止させる場合を排除するものではない。
【0048】
なお、吸引期間Tcが、搬送体2が振動の前端位置にある時点を含む態様と、後端位置にある時点を含む態様のいずれを選択するかは、加速モードと減速モードのいずれを用いるか、或いは、搬送物PTの搬送速度が高いか低いかなど、種々の条件に応じて決定される。ただし、吸引期間Tcは、搬送体2が前端位置にある時点と後端位置にある時点の双方を含むように設定されていてもよく、逆に、両時点を含まないように設定されていても構わない。後者においては、吸引期間Tcが前進期間Taと後退期間Tbのいずれか一方のみに設けられ、他方には設けられないようにすれば、加速作用と減速作用のいずれか一方のみを搬送物PTに及ぼすことができる。前述のように搬送体2の振動速度は中間点で最大となるが、搬送体2の前進時又は後退時において搬送物PTが受ける応力は後端位置又は前端位置からの加速時(中間点に向かう期間)に主として生ずるので、搬送物PTの搬送状態(搬送速度)への影響を高めるという観点から見ても、吸引期間Tcが搬送体2の前端位置又は後端位置に相当する時点を含むことが効果的である。
【0049】
図5及び図6は、本実施形態の制御方法を搬送物の分離処理に用いる場合に、搬送体2に形成された搬送路2a上の搬送物PTの加速モードと減速モードの移動態様を模式的に示す説明図である。図5に示すように、前進期間において吸引口2eから吸引力を受けることにより、吸引口2e周辺の加速領域において搬送物PTが加速される場合には、後続の搬送物から前方へ引き離されることにより、前後の搬送物間に間隔CLが生ずる。その後、搬送物PTの搬送速度は次第に減速し、間隔CLが減少していく。或る搬送物がその前後の搬送物との間にいずれも間隔を有し、分離されている分離領域内において、検査位置を設けることにより、上記或る搬送物PTを前後の搬送物に妨害されずに検査することができる。このような吸引力に基づく加速モードによる搬送物PTの分離作用は、後述するように、従来の停止若しくは減速による分離作用とは異なり、後続の搬送物に影響を与えにくいという利点を有する。したがって、本発明に係る振動周期と同期したタイミングによる吸引力の制御方法に限らず、吸引口2eからもたらされる吸引力によって加速して分離する手法は有効である。
【0050】
一方、図6に示すように、後退期間において吸引口2eから吸引力を受けることにより、吸引口2e周辺の減速領域において搬送物PTが減速される場合には、前方の搬送物との間に間隔CLが生じる。この場合にも一定の分離領域内に検査位置が設定される。このような吸引力に基づく減速モードによる搬送物PTの分離作用は従来の手法と共通するところがあるが、本発明の場合には搬送体2の振動周期と同期したタイミングで吸引力を制御するため、搬送物PTに対する吸引力の作用が、振動周期とのタイミング上の関係が変動することによって不安定になるといったことを低減できるという利点がある。
【0051】
図7(a)〜(c)は搬送路2aの搬送の向きFDと直交する断面を示す断面図である。図7(a)及び(b)の例では、搬送路2aが二つの相互に交差して共に傾斜した搬送面2b、2cで構成され、一方の傾斜した搬送面に吸引通気路2dが開口して吸引口2eが設けられている。図7(a)の例では搬送面2bより急傾斜の搬送面2cに吸引口2eが設けられ、図7(b)の例では、搬送面2cより緩傾斜の搬送面2bに吸引口2eが設けられている。また、図7(c)の例では、搬送路2aが水平な搬送面2bと、その両側にある垂直な搬送面(傾斜していてもよい。)2cとによって構成され、吸引通気路2dが搬送面2bに開口して吸引口2eが設けられている。なお、図7(c)の構造においても、搬送面2cに吸引経路2dを開口させて吸引口2eを形成してもよい。上述のように吸引口2eは搬送路2aの搬送面上に設けられているので、図5及び図6に示すように、搬送物PTが搬送路5aに沿って搬送の向きFDに移動する過程で、搬送物PTは吸引口2aの傍らを必ず通過する。
【0052】
図8は、実際にボウル型のパーツフィーダの螺旋状の搬送路の一部に、吸引口2eと、その下流側に配置された検査位置とを設けた場合の拡大図である。ここで、搬送物PTは直方体状の部品であり、吸引口2eは、搬送物PTの搬送方向に沿った長さLoよりも小さい開口長Laを備えるとともに、搬送物PTの搬送方向とは直交する方向の幅よりも小さい開口幅Waを備えた矩形の開口形状を備えている。吸引口2eの開口形状を矩形とすることにより、開口形状が短辺と同じ直径を備えた円形の場合に比べて、通気抵抗若しくは圧力損失を低減することができるため、搬送物PTに与える吸引力の強さ、或いは、吸引力の変化速度を高めることができる。図示のように、吸引口2eの矩形の開口形状は、搬送方向FDに平行な対向する二辺と、搬送方向FDと直交する対向する二辺とを備えている。ここで、上記開口長Laは上記長さLoの1/2以下であることが好ましい。これによれば、La/Loの比を小さくできるため、搬送物PTが吸引口2eを横切る際の吸引口2eの全体を搬送物PTが覆う期間を長く確保することができ、その結果、当該期間内に振動周期T(好ましくは複数の振動周期)が含まれるように構成しやすくなるため、搬送物PTに確実に吸引力を作用させることができる。ただし、開口長Laを小さくし過ぎると吸引面積が低下するため、搬送物PTの搬送速度と振動周期との関係に応じて必要な吸引力を確保するように開口長Laを設定することが望ましい。また、図示のように開口長Laは開口幅Waよりも小さく、La<Waが成立すると、吸引面積(吸引口2eの開口面積)の低下を抑制しつつ、吸引口2eの全体を覆うことが可能な搬送物PTの搬送方向の位置範囲を広げることができるため、搬送物PTに対する加減速領域(加減速期間)を長くとることができ、或いは、振動周期と搬送物PTの搬送位置との関係が変化しても確実に搬送物PTに吸引力を及ぼすことができるため、安定した制御態様(分離作用)を得ることができる。また、当該搬送物PTの搬送方向前後の他の搬送物に対する上記吸引力の影響を低減することもできる
【0053】
上記吸引口2eの下流側には、図示しない検出器(例えば光センサなど)のスリット状の検出領域3aが設けられ、搬送物PTの前端が検出領域3aにかかると検出信号が出力されるようになっている。また、この検出信号を受けたときに搬送物PTを検査範囲(検査位置)4aにおいて検査する図示しない検査装置が設けられる。この検査装置は、検査範囲4a内にある搬送物PTに対して、例えば光学的手段(画像の撮影、反射率の測定など)により検査し、搬送物PTそのものの良否、姿勢(向き)の良否等を判別する。検査結果が良であれば搬送物PTはそのまま搬送路2a上を下流側へ搬送され、検査結果が否である場合には、搬送路2aの上部に開口する気流噴出口5aから圧縮空気などの気流を搬送物PTに吹き付けることにより、当該搬送物PTは上記検査範囲4aとほぼ同じ位置において搬送路2a上から排除される。例えばボウル型の搬送体であれば、このように排除された搬送物は内底部(上流端)に戻される。
【0054】
図9は、実際に上記搬送路2a上において吸引口2eの吸引力を搬送体2の振動周期に同期させて変化させた場合において、加速モードの制御態様としたときの測定結果を示すグラフである。ここで、最上部の制御グラフは制御信号(図示例ではデューティー比1であるが、図4に示すように特に限定されない。)のタイミングを示し、二番目の振幅グラフは搬送体2の検出振幅の実測データ、三番目の圧力グラフは吸引口2eの近傍(吸引通気路2dのうち吸引作動弁230よりも吸引口2eに近い位置)の圧力の実測データを示す。ここで、制御信号が0のときに吸引力が発生(増大)し、制御信号が1のときに吸引力が停止(減少)するように吸引作動弁230が制御される。また、振幅グラフが極大値をとる時点が搬送体2が後端位置にある時点であり、振幅グラフが極小値をとる時点が搬送体2が前端位置にある時点である。したがって、振幅グラフが降下している期間が前進期間Ta、上昇している期間が後退期間Tbとなる。さらに、圧力グラフにおいて実際に搬送物PTが吸引口2eに近接して実際に吸引力が発生した範囲をハッチングで示してある。なお、当該範囲内においても圧力(負圧、すなわち吸引力)は圧力グラフに示されるように増減するため、吸引力による加減速作用も、ハッチングした領域の上下方向の長さ(或いは、単位時間幅における面積)の大小に応じて増減する。
【0055】
この加速モードの制御態様では、制御信号の吸引開始タイミングに相当する時点の位相θaを前進期間Taの開始時点よりも90度前にずらし、これによって、実際に吸引口2eで吸引力が発生する吸引期間Tcは、搬送体2が振動の前端位置にある時点を含むように、当該時点の前後にわたり設定される。また、この吸引期間Tcは、前進期間Taにおいて長く、後退期間Tbにおいて短くなるように設定される。すなわち、前述の前進時吸引時間Tcaが後退時吸引時間Tcbより大きく、Tca>Tcbが成立するタイミングで制御される。このようにすると、搬送体2が前進している間に搬送物PTに吸引力が主体的に与えられるため、搬送物PTは吸引口2eに引き付けられて搬送体2の前進速度に近い速度まで加速される。ただし、この加速モードでは、分離に必要な間隔CLを十分に得るには、搬送物PTの吸引口2eよりも上流側における搬送速度が搬送体2の前進速度より或る程度低くなっている必要がある。
【0056】
この加速モードでは、図5に示すように、搬送物PTを加速させて後続の搬送物との間に間隔CLを設けるので、後続の搬送物の搬送速度を低下させる虞がなく、また、後続の搬送物からの押し出し力の影響を受けることもない。ここで、上記圧力グラフでは、吸引口2eを搬送物PTが横切るときのみ吸引口2eが閉鎖されることにより圧力が低下して吸引力が搬送物PTに及ぼされていることがわかるが、吸引口2eの近傍に搬送物PTが存在しない場合には吸引口2eが閉鎖されないために計測圧力は低下しない。図示例では、一つの搬送物PTが、ほぼ4.5周期(4.5T)の間において吸引口2eの近傍に接近して吸引力を受けながら加速されていることが理解できる。
【0057】
図10は、実際に上記搬送路2a上において吸引口2eの吸引力を搬送体2の振動周期に同期させて変化させた場合において、減速モードの制御態様としたときの測定結果を示すグラフである。ここで、制御グラフ、振幅グラフ及び圧力グラフは図9の場合と同様である。この減速モードにおいては、制御信号の吸引開始タイミングに相当する時点の位相θaを図9の場合よりもΔθ=50度ほど遅らせることで、吸引期間Tcが前進期間Taよりも後退期間Tbにおいて長くなるように設定される。すなわち、上述の後退時吸引時間Tcbが前進時吸引時間Tcaとほぼ等しいか、或いは、それよりも大きく、Tcb〜Tca又はTcb>Tcaが成立する。この場合には、搬送物PTの搬送速度に対する影響は基本的には後退時の方が前進時よりも大きいため、前進時吸引時間における加速作用はほとんど得られないのに対し後退時吸引時間における減速作用は確実に生ずるから、搬送物PTは後退中の吸引口2eに引き付けられて減速される。
【0058】
この減速モードでは、図6に示すように、搬送体2の減速により前方の搬送物から分離されて間隔が生ずるため、搬送物PTの吸引口2eよりも上流側における搬送速度が比較的高い場合でも支障なく分離作用を得ることができる。また、吸引力による減速作用は搬送体2の振動周期ごとに後退期間Tbにのみ発生し、減速作用を与える後退時吸引時間Tcbは後退期間Tb内で任意に設定できるとともに加速作用を与える前進時吸引時間Tcaも存在するため、搬送物PTを完全に停止させてしまう虞も少なく、しかも、安定した減速作用を得ることができる。
【0059】
ここで、図9の場合と同様に、上記圧力グラフでは、吸引口2eを搬送物PTが横切るときのみ吸引口2eが閉鎖されることにより圧力が低下して吸引力が搬送物PTに及ぼされていることがわかるが、吸引口2eの近傍に搬送物PTが存在しない場合には吸引口2eが閉鎖されないために計測圧力は低下しない。図示例では、一つの搬送物PTが、ほぼ6周期(6T)の間において吸引口2eの近傍に接近して吸引力を受けながら減速されていることが理解できる。
【0060】
本実施形態では、搬送体2の振動周期ごとに振動周期と同期したタイミングで設定される吸引期間Tcを設けているため、振動周期ごとにタイミング制御された吸引力を確実に搬送物PTに及ぼすことができる。特に、図示例のように一つの振動周期T内に一つの吸引期間Tcのみを設けることが、吸引力の応答性が悪い場合や振動周波数が高い場合でも、吸引力の制御の容易性を確保できる点で好ましい。また、振動周期に同期した制御信号により位相を調整して一つの吸引期間Tcにおける前進期間Taと後退期間Tbに対応する時間の振り分け、或いは、いずれかへの偏在の態様を設定することにより、搬送物PTに対する加速作用と減速作用の切り替え、或いは、加減速作用の増減の程度をより詳細に調整することができる。
【0061】
本実施形態では、吸引口2eが矩形の開口形状を備えることにより、角部のない円形の開口形状に比べて、通気抵抗若しくは圧力損失を低減することができるため、搬送物PTに与える吸引力の強さ、或いは、吸引力の変化速度を高めることができる。理由としては、開口形状に角部があると、大気圧への復帰過程において、開口縁の全長が大きくなるため大気の流入効率が向上する、開口中心周りの圧力差が大きくなって気流が乱れるため吸引力が急速に失われるなどの原因が考えられる。また、開口形状の各辺の中央付近から開口形状の中心に向かう圧力勾配が増大し、開口形状の中心周りに圧力勾配の差が生じるため、この差によって開口形状の辺の中央から中心に向かう早い気流が発生するから、この早い気流によって周囲の空気も巻き込まれるので、開口近傍が早い段階で大気圧に戻り、場合によっては大気圧に対して正圧になり、これにより迅速な吸引力の低下が起こることも考えられる。このような観点から見ると、開口形状は矩形に限らず、三角形その他の多角形であってもよい。
【0062】
吸引力を効率的に搬送物に対して与えるためには、上述のように搬送路2aの搬送面に開口する吸引口2eは、搬送物PTの搬送姿勢における搬送面に対する投影面よりも開口面積を小さくすることが好ましい。このとき、搬送路上における搬送物PTは振動によって或る程度移動するので、吸引口2eが搬送物PTの投影面よりはみ出しにくくなるように上記投影面に対する吸引口2eのマージンを確保しつつ、吸引力の低下をもたらす開口面積の低下を抑制するには、開口形状の姿勢を上記投影面に整合させ、搬送方向FDに平行な対向する二辺と搬送方向FDと直交する対向する二辺を有する矩形の開口形状にすることが好ましい。例えば、吸引口2eの開口形状と上記投影面との間に所定の上記マージンを確保した場合、開口形状が矩形のときには、円形のときに比べて、搬送物PTと搬送面との間の隙間の搬送物PTの外面から吸引口2eの開口縁までの平均距離を短くすることができるため、吸引停止時における開口部近傍の上記隙間を介した外気導入による圧力上昇の速度を高め、迅速に吸引力を低下させることが可能になる。
【0063】
尚、本発明の振動式搬送装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記実施形態では、搬送体2の振動周期Tごとに一つの吸引期間Tcとそれ以外の非吸引期間Tdとを設け、この吸引期間Tcの位相と前進期間Ta及び後退期間Tbとの対応関係を設定することにより搬送物PTを加減速しているが、吸引力の有無や増減のタイミングが振動周期と同期してさえいれば、搬送物PTの長さ、吸引口2eの開口長、上流側での搬送物PTの搬送速度、搬送体2の振動周波数などに応じて、振動の複数の周期ごとに一つの吸引期間Tcを設けてもよく、或いは逆に、振動周期T内に複数の吸引期間Tcを設けてもよい。また、上記実測データでは搬送物PTを搬送方向に分離する場合について示したが、搬送物PTの搬送速度を制御、調整する種々の場合に用いることができる。この場合、複数の吸引口を搬送方向に配列させ、複数箇所で個々に、或いは、連続して、搬送速度の増大、減少、増減などを実現するようにしてもよい。
【0064】
また、本実施形態では、上記減速作用若しくは加速作用を及ぼす態様として、無条件に振動周期Tごとに吸引口2eにおいて吸引力を生じさせているが、搬送路2aの所定箇所に搬送物PTを検出する検出器を設け、当該検出器の検出信号に応じて、振動周期Tに同期した吸引力を生じさせるか否か、或いは、振動周期Tに対する吸引力の発生タイミングを変更(切り替え)するか否かを決めるようにしてもよい。
【0065】
さらに、本実施形態では、搬送物PTに対して減速作用と加速作用のいずれかを及ぼす場合について主として説明をしたが、同じ搬送物PTに対して、減速作用を及ぼした後に加速作用を及ぼしたり、加速作用を及ぼした後に減速作用を及ぼしたりしてもよい。この場合に、搬送物PTが吸引口2eを横切る期間が複数の振動周期に亘るときには、減速作用を与える後退期間と加速作用を与える前進期間とを同一の振動周期内の期間だけでなく別の振動周期内の期間にも設定することができるため、一つの吸引口2eにより同じ搬送物PTに対して減速作用と加速作用を実現することができる。一方、複数の吸引口2eを搬送方向に配列し、減速作用を与える吸引口2eと加速作用を与える吸引口2eとを別々に設けてもよい。
【符号の説明】
【0066】
10…振動式搬送装置、2…搬送体、3…振動発生源、2a…搬送路、2b,2c…搬送面、2d…吸引通気路、2e…吸引口、210…吸引制御回路、220…吸引駆動回路、230…吸引作動弁、240…吸引装置、T…振動周期、Ta…前進期間、Tb…後退期間、Tc…吸引期間、Td…非吸引期間、Tca…前進時吸引時間、Tcb…後退時吸引時間、Lo…長さ、La…開口長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に直方体状の搬送物を振動式搬送装置によって搬送する搬送物の搬送方法において、
前記振動式搬送装置は、
前記搬送物を支持、案内する搬送面に沿って前記搬送物が搬送される搬送路を備えた搬送体と、
該搬送体を前記搬送物が前記搬送路上を搬送の向きに搬送される態様で該搬送の向きに振動させる加振機構と、
前記搬送路の前記搬送面に開口する矩形の開口形状を備える吸引口と、
該吸引口における吸引力の有無を切り替え可能、或いは、前記吸引力を増減可能に構成された吸引作動手段と、
を具備することを特徴とする搬送物の搬送方法。
【請求項2】
前記開口形状は、搬送方向と平行な対向する二辺および前記搬送方向と直交する対向する二辺を有することを特徴とする請求項1に記載の搬送物の搬送方法。
【請求項3】
前記開口形状は、前記搬送物の前記搬送方向に沿った長さよりも小さい開口長を備えるとともに、前記搬送物の前記搬送方向と直交する方向の幅よりも小さい開口幅を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の搬送物の搬送方法。
【請求項4】
前記吸引口の開口面積は、前記搬送物の搬送姿勢における前記搬送面に対する投影面よりも小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の搬送物の搬送方法。
【請求項5】
前記吸引口は、前記開口長が前記搬送物の前記搬送方向に沿った長さの1/2以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の搬送物の搬送方法。
【請求項6】
実質的に直方体状の搬送物を振動式搬送装置によって搬送する搬送物の搬送方法において、
前記振動式搬送装置は、
前記搬送物を支持、案内する搬送面に沿って前記搬送物が搬送される搬送路を備えた搬送体と、
該搬送体を前記搬送物が前記搬送路上を搬送の向きに搬送される態様で該搬送の向きに振動させる加振機構と、
前記搬送路の前記搬送面に開口する矩形以外の多角形の開口形状を備える吸引口と、
該吸引口における吸引力の有無を切り替え可能、或いは、前記吸引力を増減可能に構成された吸引作動手段と、
を具備することを特徴とする搬送物の搬送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−47142(P2013−47142A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204777(P2011−204777)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(599069507)株式会社ダイシン (27)
【Fターム(参考)】