説明

振動式測定装置

【課題】本発明はセンサチューブの振動に応じて検出される流入側の変位検出信号と流出側の変位検出信号とがDCオフセットすることを課題する。
【解決手段】流量計測制御回路20は、信号処理回路40と、演算回路50とを有する。信号処理回路40は、振幅検出・励振検出手段41と、励振手段42と、温度測定手段43と、デューティ比補正手段44とを有する。演算回路50は、時間差演算手段51と、補正演算手段52と、流量演算手段53等を有する。デューティ比補正手段44は、センサコイル15a,16aから得られる変位検出信号のデューティ比を計測し、各変位検出信号のデューティ比が一致するように各変位検出信号の直流電圧分をシフトさせる。演算回路50ではデューティ比が一致した各変位検出信号を用いて流量を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は振動式測定装置に係り、特に計測精度を高めるように構成された振動式測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被測流体が流れる流路を有するセンサチューブを振動させて被測流体の物理量(質量や密度など)を測定する測定装置として、コリオリ式質量流量計または振動式密度計と呼ばれる振動式測定装置がある。以下では、被測流体の質量流量を測定するコリオリ式質量流量計について説明する。
【0003】
この振動式測定装置では、例えば、被測流体の質量流量を測定する場合、被測流体が流れるセンサチューブを当該センサチューブの固有振動数(共振周波数)で加振器により管径方向に振動させ、小さな駆動力でセンサチューブの振幅を大きくすることで、質量流量に比例したコリオリ力によるセンサチューブの変位をピックアップにより検出するように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、振動式測定装置においては、センサチューブの流入側変位と流出側変位との差を求め、この変位差に基づいてセンサチューブを流れる被測流体の流量を演算している。そのため、計測精度を高めるには、流入側の検出信号と流出側の検出信号との振幅は一致させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−64544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の振動式測定装置では、流入側の検出信号と流出側の検出信号との振幅の不一致を解消する手段として、例えば、AGC制御(オートゲインコントロール)により流入側の検出信号の振幅と流出側の検出信号の振幅とを一致させる方法が用いられている。
【0007】
しかしながら、振動式測定装置では、例えば、センサチューブを所定の形状に加工する際、あるいはピックアップをセンサチューブの所定位置に取り付ける際に、センサチューブの形状のずれ、あるいはピックアップの取付位置の位置ずれが生じる場合がある。その場合、センサチューブの変位を検出する検出信号の直流電圧分がずれてDCオフセットが生じるため、2つの検出信号の振幅を一致させても振幅の中間点がゼロクロス位置からずれてしまい、計測精度が低下するという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は上記事情に鑑み、上記課題を解決した振動式測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は以下のような手段を有する。
(1)本発明は、被測流体が流れるセンサチューブと、
加振信号の入力により前記センサチューブを加振する加振器と、
前記加振器による加振力を制御する励振制御手段と、
前記センサチューブの流入側の変位を検出する流入側検出器と、
前記センサチューブの流出側の変位を検出する流出側検出器と、
前記流入側検出器によって検出された流入側変位と前記流出側検出器により検出された流出側変位との差を演算する演算手段と、
を備えた振動式測定装置において、
前記流入側検出器から得られる検出信号のデューティ比と前記流出側検出器から得られる検出信号のデューティ比とが一致するようにDCオフセットを補正する補正手段を有し、
前記演算手段は、前記補正手段によりデューティ比を補正された信号を用いて流入側変位と流出側変位との差を演算することを特徴とする。
(2)本発明の前記補正手段は、前記流入側検出器及び流出側検出器から得られる信号のデューティ比を、ゼロクロス時の前記加振器に入力される加振信号のデューティ比と一致させるように前記流入側検出器及び流出側検出器から得られる信号のレベルを変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、流入側検出器から得られる検出信号のデューティ比と流出側検出器から得られる検出信号のデューティ比とが一致するようにDCオフセットを補正し、当該補正された信号を用いて流入側変位と流出側変位との差を演算するため、例えセンサチューブの形状的なずれや検出器の位置ずれなどによる信号の振幅ずれが生じることを防止でき、DCオフセットが生じても流入側変位と流出側変位との差を正確に計測することができ、計測精度をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による振動式測定装置の一実施例の正面図である。
【図2】振動式測定装置の側面図である。
【図3】流量計測制御回路を示すブロック図である。
【図4A】流入側振動ピックアップ及び流出側振動ピックアップにより検出される通常の変位検出信号の波形図である。
【図4B】流入側振動ピックアップ及び流出側振動ピックアップにより検出されるDCオフセットされた変位検出信号の波形図である。
【図5】流量計測制御回路が実行する流量計測処理1の処理手順を説明するためのフローチャートである。
【図6】流量計測制御回路が実行する流量計測処理2の処理手順を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は本発明による振動式測定装置の一実施例の正面図である。図2は振動式測定装置の側面図である。なお、振動式測定装置は、被測流体の密度、及び密度を利用して質量流量を求めることができるため、振動式密度計及びコリオリ式質量流量計として用いられる。振動式密度計とコリオリ式質量流量計とは、同様な構成であるので、本実施例では質量流量計として用いた場合について詳細に説明する。
【0014】
図1及び図2に示されるように、振動式測定装置10は、マニホルド11と、マニホルド11の上面に接続され、平行に形成された逆U字状のセンサチューブ12,13と、センサチューブ12,13の円弧状の中間部分12c,13c間に取り付けられた加振器14と、センサチューブ12と13との流入側の相対変位を検出する流入側振動ピックアップ(流入側検出器)15と、センサチューブ12と13との流出側の相対変位を検出する流出側振動ピックアップ(流出側検出器)16を有する。
【0015】
マニホルド11は、例えば、直方体形状の金属ブロックからなり、一方の端部に流入口11aが設けられ、他方の端部に流出口11bが設けられている。そして、センサチューブ12,13の流入側端部12a,13aが流入口11aに連通され、センサチューブ12,13の流出側端部12b,13bが流出口11bに連通されている。したがって、流入口11aに流入された流体は、センサチューブ12,13を通過して流出口11bより外部に流出される。
【0016】
加振器14は、センサチューブ12の先端に取り付けられた励振コイル14aとセンサチューブ13の先端に取り付けられたマグネット14bからなる。また、図2に示す流出側振動ピックアップ16は、センサチューブ12に取り付けられたセンサコイル16aと、センサチューブ13に取り付けられたマグネット16bとからなる。なお、流入側振動ピックアップ15は、図2において、流出側振動ピックアップ16と重なって見えないが、流出側振動ピックアップ16と同様に、振動するセンサチューブ12に取り付けられたセンサコイル15aと、センサチューブ13に取り付けられたマグネット15bとからなる。
【0017】
また、本実施例では、図1に示すように、センサチューブ12,13の流入側又はマニホルド11の流入口11a付近の温度を測定する温度センサ17が設けられている。
【0018】
加振器14、流入側振動ピックアップ15、流出側振動ピックアップ16は、図1に示すように正面からみてセンサチューブ12,13の中間位置を横切る縦線に対して対称に、且つ加振器14を中心に流入側振動ピックアップ15と流出側振動ピックアップ16とが左右対称に設けられている。そして、加振器14は流量計測制御回路20により駆動制御され、流入側振動ピックアップ15、流出側振動ピックアップ16により検出された検出信号は、流量計測制御回路20に入力される。
【0019】
加振器14は、励振コイル14aに正負のある交番電圧(交流信号)が印加されて生じる磁界に対してマグネット14bが吸引又は反発することで、センサチューブ12の中間部分を水平方向(Y方向、図2参照)に振動させる。当然センサチューブ13へはその反力として同じ力が働き、反対方向に振動する。
【0020】
流入側振動ピックアップ15は、センサコイル15aとマグネット15bから構成されているので、センサコイル15aとマグネット15bが流入側のセンサチューブ12とセンサチューブ13と共に近接・離間するため、センサコイル15aからは、流入側におけるセンサコイル15aとマグネット15bの変位量(変位速度)に応じた検出信号が出力される。
【0021】
また、流出側振動ピックアップ16は、上記センサコイル16aとマグネット16bとから構成されているので、センサコイル16a、マグネット16bが流出側のセンサチューブ12,13と共に、近接・離間するため、センサコイル16aからは、流出側におけるセンサコイル16aとマグネット16bの変位量(変位速度)に応じた検出信号が出力される。
【0022】
次に、上述した流量計測制御回路20について図3を用いて説明する。
【0023】
図3は、流量計測制御回路を示すブロック図である。図3に示されるように、流量計測制御回路20は、本質安全防爆バリア回路30(以下、バリア回路30と略称する。)と、信号処理回路40と、演算回路50とを有するよう構成されている。
【0024】
また、信号処理回路40は、マイクロコンピュータからなり、振幅検出・励振検出手段41と、励振手段42と、温度測定手段43と、デューティ比補正手段44とを有するよう構成されている。
【0025】
また、演算回路50は、マイクロコンピュータからなり、時間差演算手段51と、補正演算手段52と、流量演算手段53と、アナログ出力手段54と、パルス出力手段55とを有するよう構成されている。
【0026】
また、流量計測制御回路20には、外部電源60から回路全体に電源を供給する電源回路70が存在する。
【0027】
バリア回路30は、本実施形態におけるセンサユニットの各センサコイル15a,16aや加振器14の励振コイル14、温度センサ17に対する各信号を本質安全防爆化する。なお、バリア回路30は、例えば電圧電流制限素子(例えば、ツェナーダイオード,抵抗)等からなる。
【0028】
信号処理回路40において、振幅検出・励振検出手段41は、センサコイル15a,16aから得られる各変位検出信号を後述のデューティ比補正手段44に出力し、また、各変位検出信号からセンサチューブ12,13の振幅を検出し、センサチューブ12、13が共振状態の振幅まで増幅されたか否かを検出したり、振幅検出結果等に応じて共振状態の振幅に制御するための励振信号を検出する。
【0029】
また、振幅検出・励振検出手段41は、検出した励振信号を励振手段42に出力する。更に、振幅検出・励振検出手段41は、検出した結果からバリア回路30における電圧電流制限や電源回路70からの電力供給を制御する制御信号を生成してそれぞれに対応する情報を出力する。具体的には、振幅検出・励振検出手段41は、センサチューブ12,13の振動を監視し、共振状態の振幅まで増幅されたか否かを判断し、その結果、充分な振幅が得られている場合には、ハイ(High)を、充分な振幅が得られていない場合には、ロー(Low)を電源回路70に出力する。
【0030】
励振手段42は、上述した加振器14の励振コイル14aに正負のある交番電圧を印加するための加振信号を生成し、バリア回路30を介して励振コイル14aに出力する。また、温度測定手段43は、温度センサ17により検出された温度信号から温度を測定し、測定された温度データを演算回路50の補正演算手段52に出力する。
【0031】
デューティ比補正手段44は、振幅検出・励振検出手段41を介して得られるセンサコイル15a,16aの変位を示す変位検出信号(センサ信号)のデューティ比を計測し、各変位検出信号のデューティ比が一致するように各変位検出信号のDCオフセット分をシフトすることによりデューティ比を補正する。
【0032】
なお、各変位検出信号のデューティ比を一致させる方法としては、一の変位検出信号のDCオフセット分のシフト量を調整することにより一の変位検出信号のデューティ比を他の変位検出信号のデューティ比に一致させるようにしても良い。また、各変位検出信号のデューティ比が所定のデューティ比(例えば50%(1:1))になるように各変位検出信号のDCオフセット分のシフト量をそれぞれ調整するようにしても良い。
【0033】
ここで、本実施例におけるデューティ比について説明する。センサチューブ12,13が振動すると、センサコイル15a(16a)とマグネット15b(16a)とは相対変位し、センサコイル15a(16a)には誘導起電力が生じる。この誘導起電力の変化(変位検出信号)を検出することによりセンサチューブ12,13の変位を計測することができる。
【0034】
そして、センサチューブ12,13は、振動している(即ち、往復運動を繰り返している)ことから、縦軸を誘導起電力とし横軸を時間軸としたグラフに変位検出信号を記載すると正弦波状の信号となることがわかる。この正弦波状の信号の一周期において、所定の誘導起電力(例えば0mV)の値をゼロ点とした場合のプラス側の誘導起電力が生じている時間と、マイナス側の誘導起電力が生じている時間との比を「デューティ比」と呼んでいる。
【0035】
従って、ゼロ点とする誘導起電力の値を、例えば、プラス側にシフトしたとすれば、その分プラス側の誘導起電力を生じている時間が短くなる分、マイナス側の誘導起電力を生じている時間が長くなることになり、その分、デューティ比もシフトすることになる。即ち、ゼロ点とする誘導起電力の値を変更することにより変位検出信号のデューティ比を変更することができる。また、本実施例では、ゼロ点をシフトしたときの誘導起電力の値を「DCオフセット」と称している。
【0036】
デューティ比補正手段44により補正されたデューティ比は、時間差演算手段51に出力される。これにより、演算回路50の時間差演算手段51には、デューティ比が一致した各変位検出信号が入力されることとなり、時間差演算手段51では各変位検出信号がゼロ点と交差(ゼロクロス)したときの時間差を求めることとなる。そのため、時間差演算手段51においては、DCオフセットの影響を受けずに流入側と流出側との時間差を正確に計測することができる。
【0037】
補正演算手段52は、温度測定手段43から得られるヤング率に基づいて、時間差に補正を行う。また、補正演算手段52は、得られた補正情報及び時間差情報を流量演算手段52に出力する。
【0038】
流量演算手段53は、補正演算手段52から入力される時間差情報及び補正情報から流量に換算する。また、流量演算手段53は、得られた流量情報をアナログ出力手段54に出力する。
【0039】
アナログ出力手段54は、流量演算手段53から入力される瞬時流量に相当するアナログ信号71を生成する。また、アナログ出力手段54は、瞬時流量をパルス出力手段55に出力すると共に、得られたアナログ信号を、バリア回路30を介してアナログ信号71として出力する。
【0040】
パルス出力手段55は、アナログ出力手段54から入力される瞬時流量から積算流量に相当する流量パルスを生成する。また、パルス出力手段55は、得られた流量パルスを、バリア回路30を介して流量パルス信号72として出力する。
【0041】
電源回路70は、外部電源60から得られる電圧を制御し、信号処理回路40や演算回路50に電源電圧(Vcc)を供給する。また、電源回路70は、演算回路50に対し所定のタイミングでリセット信号やリセット解除信号を出力することにより、適切なタイミングで演算回路50による流量演算処理等を行わせる。
【0042】
上記構成になる振動式測定装置10において、流量計測時は流量計測制御回路20によって加振器14が駆動され、センサチューブ12,13の振動特性(固有振動数)に応じた周期、振幅でセンサチューブ12,13の中間部分12c,13cを振動させる。そして、センサチューブ12,13は、マニホルド11に固定された両端を支点として円弧状の中間部分12c,13cが近接、離間方向(Y方向、図2参照)に振動する。
【0043】
このとき、振動するセンサチューブ12と13に流体が流れると、その流量に応じた大きさのコリオリ力が発生する。そのため、センサチューブ12の流入側と流出側で動作遅れが生じ、これにより流入側振動ピックアップ15の変位検出信号と流出側振動ピックアップ16の変位検出信号との間に時間差が生じる。ここで、この流入側変位検出信号と流出側変位検出信号との時間差は、流量に比例するため、流量計測制御回路20は、上述した構成により当該時間差に基づいて流量を演算する。
【0044】
したがって、センサチューブ12,13の変位が流入側振動ピックアップ15及び流出側振動ピックアップ16により検出されると、上記センサチューブ12,13の振動に伴う時間差が求まり、流量計測制御回路20において、当該時間差が質量流量に変換される。
【0045】
ここで、流入側振動ピックアップ15及び流出側振動ピックアップ16により検出される変位検出信号(センサ信号)について説明する。
【0046】
図4Aは流入側振動ピックアップ15及び流出側振動ピックアップ16により検出される通常の変位検出信号の波形図である。図4Aに示されるように、センサチューブ12,13は、固有振動数で振動するように加振されているため、流量計測時に流入側振動ピックアップ15及び流出側振動ピックアップ16の各センサコイル15a,16aにより検出される変位検出信号(センサ信号A,B)は、ほぼ正弦波形として検出される。
【0047】
また、流入側と流出側の各検出信号は、夫々振幅の中間点が電圧ゼロと交差(ゼロクロス)しているので、デューティ比50%(1:1)でDCオフセットが無い状態を示している。すなわち、流入側と流出側の各検出信号は、夫々周期がT1=T2、T3=T4、誘導起電力の電圧分の振幅がD1=D2、D3=D4である。そして、図4Aにおける流入側変位と流出側変位との時間差Δt1は、センサチューブ12,13を流れる流量に比例していることから、流量計測値は時間差Δt1に基づいて得られる。
【0048】
図4Bは流入側振動ピックアップ15及び流出側振動ピックアップ16により検出されるDCオフセットされた変位検出信号の波形図である。図4Bに示されるように、流入側変位を示す検出信号(センサ信号A)は、振幅の中間点が誘導起電力の電圧ゼロと交差(ゼロクロス)しているので、デューティ比が50%(1:1)である。すなわち、流入側変位を示す検出信号は、周期がT1=T2、直流電圧分の振幅がD1=D2である。
【0049】
しかしながら、流出側変位を示す検出信号(センサ信号B)の波形は、ゼロクロスにおいて、直流電圧分が非対称となるように推移しており、DCオフセット(D1−D3)が生じている。振幅の中心が電圧ゼロと交差しておらず、ゼロクロスではない。すなわち、流出側の検出信号は、周期がT3<T1<T4、直流電圧分の振幅がD3<D1<D4であ。この場合のデューティ比は、DCオフセットに応じて、例えば、30%(3:7)〜40%(4:6)となる。
【0050】
この場合、流出側変位の立ち下がり時の時間差はΔt2であるのに対し、流出側変位の立ち上がり時の時間差はΔt3である(Δt2<Δt1<Δt3)。このように、変位検出信号の波形がDCオフセットを有する場合、ゼロクロスにおける振幅が流入側と流出側とで一致しないため、流出側変位の立ち下がり時の時間差と立ち上がり時の時間差が不一致となる。そのため、流量計測時の時間差を安定的に検出することができず、本来ならば時間差Δt1が検出されるところを時間差Δt2またはΔt3が検出されてしまい、流量計測に誤差が生じるおそれがある。
【0051】
ここで、図4Bに示すような時間差の検出誤差を解消する制御方法について図5を参照して説明する。
【0052】
図5は流量計測制御回路20が実行する流量計測処理1の処理手順を説明するためのフローチャートである。図5に示されるように、流量計測制御回路20は、S11で流入側振動ピックアップ15及び流出側振動ピックアップ16の各センサコイル15a,16aにより検出される変位検出信号(センサ信号A、B)を読み込む。続いて、S12では、各センサコイル15a,16aにより検出される変位検出信号(センサ信号A,B)のうち電圧値の低い方に予め設定された任意のシフト量d1又はd2を加算する。これにより、DCオフセットが生じた変位検出信号に対する振幅が+側にシフトして振幅の中間点が電圧ゼロ側に補正される。
【0053】
次のS13では、流入側の変位検出信号(センサ信号A)が一波長を計測したか否かをチェックする。S13において、流入側の変位検出信号(センサ信号A)が一波長を計測されたときは(YESの場合)、S14に進み、当該流入側の変位検出信号(センサ信号A)のデューティ比xaを計測する。続いて、S15では、上記デューティ比xaに基づいてシフト量d1を演算し、当該シフト量d1をメモリに記憶する。
【0054】
また、上記S13において、流入側の変位検出信号(センサ信号A)が一波長を計測されていないときは(NOの場合)、S14、S15の処理を行なわずにS16に進む。
【0055】
S16では、流出側の変位検出信号(センサ信号B)が一波長を計測したか否かをチェックする。S16において、流出側の変位検出信号(センサ信号B)が一波長を計測されたときは(YESの場合の場合)、S17に進み、当該流出側の変位検出信号(センサ信号B)のデューティ比xbを計測する。続いて、S18では、上記デューティ比xbに基づいてシフト量d2を演算し、当該シフト量d2をメモリに記憶する。
【0056】
また、上記S16において、流出側の変位検出信号(センサ信号B)が一波長を計測されていないときは(NOの場合)、S17、S18の処理を行なわずにS19に進む。
【0057】
S19では、流入側のデューティ比xaと流出側のデューティ比xbとが一致するか否かをチェックする。S19において、流入側のデューティ比xaと流出側のデューティ比xbとが一致しないときは(NOの場合)、S20に進み、現在のシフト量d1(又はd2)に所定値を加算または減算してシフト量d1(又はd2)を更新する。そして、S12に戻り、更新されたシフト量d1(又はd2)を用いてS12〜S19の処理を繰り返す。
【0058】
また、S19において、流入側のデューティ比xaと流出側のデューティ比xbとが一致したときは(YESの場合)、S21に進む。S21では、シフトされた流入側の変位検出信号(センサ信号A)とシフトされた流出側の変位検出信号(センサ信号B)とのゼロクロス間の時間差を計測する。
【0059】
このように、流入側のデューティ比xaと流出側のデューティ比xbとが一致するように各センサコイル15a,16aにより検出される変位検出信号に任意のシフト量d1(又はd2)を加算または減算し、流入側のデューティ比xaと流出側のデューティ比xbとを一致させた状態で流入側の変位検出信号と流出側の変位検出信号とのゼロクロス間の時間差を計測するため、DCオフセットの影響を受けずに流入側と流出側との時間差を正確に計測することができ、センサチューブ12,13の形状的なばらつきや流入側振動ピックアップ15及び流出側振動ピックアップ16の取付位置のずれ等による計測誤差を解消することができる。
【0060】
尚、上記実施例においては、各変位検出信号のデューティ比を一致させる方法として、一方の変位検出信号のデューティ比が他方の変位検出信号のデューティ比に一致するまで一方の変位検出信号に任意のシフト量d1(又はd2)を加算または減算することを繰り返すことにより、一の変位検出信号のデューティ比が他の変位検出信号のデューティ比に一致するようにしている。しかし、各変位検出信号のデューティ比を一致させる方法はこれに限るものではなく、例えば、予め任意のデューティ比を決定しておき、各変位検出信号のそれぞれのデューティ比が予め定められたデューティ比となるまで各変位検出信号に任意のシフト量d1(又はd2)を加算または減算することを繰り返すことにより、各変位検出信号のデューティ比を予め決定した所定のデューティに一致させることにより、一の変位検出信号のデューティ比と他の変位検出信号のデューティ比とを一致させるようにしてもよい。更に、この目標とするデューティ比は、50%(1:1)など特定の比に設定しなくてはならないものではなく、例えば、20%(2:8)などの任意の比に設定してもよい。
【0061】
ここで、流量計測処理の変形例について説明する。
〔変形例1〕
図6は流量計測制御回路20が実行する流量計測処理2の処理手順を説明するためのフローチャートである。図6において、S21〜S25は前述したS11〜S15と同様な処理であるので、その説明を省略する。
【0062】
S26では、S25で演算されたシフト量aが予め設定された異常シフト量H1(下限閾値)以下か否かをチェックする。S26において、シフト量aが予め設定された異常シフト量H1以下でない場合(NOの場合)は、S27に進み、当該シフト量aが予め設定された異常シフト量H2(上限閾値)以下か否かをチェックする。
【0063】
S27において、当該シフト量aが予め設定された異常シフト量H2以下の場合(YESの場合)は、S28に進み、流入側振動ピックアップ15のセンサコイル15aにより検出される変位検出信号(センサ信号A)が軽度の異常であると判定し、当該判定結果をメモリに記憶する。
【0064】
また、S27において、当該シフト量aが予め設定された異常シフト量H2以上の場合(NOの場合)は、S29に進み、流入側振動ピックアップ15のセンサコイル15aにより検出される変位検出信号(センサ信号A)が重度の異常であると判定し、当該判定結果をメモリに記憶する。この後は、S31の処理に進む。
【0065】
また、S26において、シフト量aが予め設定された異常シフト量H1以下である場合(YESの場合)、あるいはS28の処理を行なった後は、S30に進み、上記シフト量d1をシフト量aに更新する。尚、シフト量a=d1+Δdであり、Δdは、任意の数値である。これにより、シフト量aが設定され、シフト量の最適化が図られる。
【0066】
また、S23において、流入側の変位検出信号(センサ信号A)が一波長を計測されていないときは(NOの場合)、S24〜S30の処理を行なわずにS31に進む。
【0067】
また、S31〜S33の処理は、前述したS16〜S18の処理と同じなので、その説明は省略する。
【0068】
S34では、S33で演算されたシフト量bが予め設定された異常シフト量H1(下限閾値)以下か否かをチェックする。S33において、シフト量bが予め設定された異常シフト量H1以下でない場合(NOの場合)は、S35に進み、当該シフト量aが予め設定された異常シフト量H2(上限閾値)以下か否かをチェックする。
【0069】
S35において、当該シフト量bが予め設定された異常シフト量H2以下の場合(YESの場合)は、S36に進み、流出側振動ピックアップ16のセンサコイル16aにより検出される変位検出信号(センサ信号B)が軽度の異常であると判定し、当該判定結果をメモリに記憶する。
【0070】
また、S35において、当該シフト量bが予め設定された異常シフト量H2以上の場合(NOの場合)は、S37に進み、流出側振動ピックアップ16のセンサコイル16aにより検出される変位検出信号(センサ信号B)が重度の異常であると判定し、当該判定結果をメモリに記憶する。この後は、S39の処理に進む。
【0071】
また、S34において、シフト量aが予め設定された異常シフト量H1以下である場合(YESの場合)、あるいはS36の処理を行なった後は、S38に進み、上記シフト量d2をシフト量bに更新する。尚、シフト量b=d2+Δdであり、Δdは、任意の数値である。これにより、シフト量bが設定され、シフト量の最適化が図られる。
【0072】
また、S31において、流入側の変位検出信号(センサ信号B)が一波長を計測されていないときは(NOの場合)、S32〜S38の処理を行なわずにS39に進む。
【0073】
S39では、流入側振動ピックアップ15及び流出側振動ピックアップ16が正常か否かをチェックする。S39において、例えば、流入側振動ピックアップ15及び流出側振動ピックアップ16のセンサコイル15a、16aにより検出された変位検出信号(センサ信号)が異常なしであれば、正常と判定し(YESの場合)、S40に進む。
【0074】
S40では、流入側のデューティ比xaと流出側のデューティ比xbとが一致するか否かをチェックする。S40において、流入側のデューティ比xaと流出側のデューティ比xbとが一致しないときは(NOの場合)、S41に進み、現在のシフト量d1(又はd2)に所定値を加算または減算してシフト量d1(又はd2)を更新する。そして、S22に戻り、更新されたシフト量d1(又はd2)を用いてS22〜S40の処理を繰り返す。
【0075】
また、S40において、流入側のデューティ比xaと流出側のデューティ比xbとが一致したときは(YESの場合)、S42に進む。S42では、シフトされた流入側の変位検出信号(センサ信号A)とシフトされた流出側の変位検出信号(センサ信号B)とのゼロクロス間の時間差を計測する。
【0076】
また、S39において、センサコイル15a、16aにより検出された変位検出信号(センサ信号)が軽度の異常または重度の異常であると判定された場合には、S43に進み、アラーム信号を出力して異常があることを報知する。
【0077】
続いて、S44では、センサコイル15a、16aにより検出された変位検出信号(センサ信号)が軽度の異常であるか否かをチェックする。S44において、変位検出信号(センサ信号)が軽度の異常である場合(YESの場合)は、S42に進み、シフトされた流入側の変位検出信号(センサ信号A)とシフトされた流出側の変位検出信号(センサ信号B)とのゼロクロス間の時間差を計測する。
【0078】
また、S44において、変位検出信号(センサ信号)が重度の異常である場合(YESの場合)は、S42の処理を行なわずに今回の処理を終了する。
【0079】
このように、流入側のデューティ比xaと流出側のデューティ比xbとが一致するように各センサコイル15a,16aにより検出される変位検出信号に任意のシフト量d1(又はd2)を加算或いは減算し、流入側のデューティ比xaと流出側のデューティ比xbとを一致させた状態で流入側の変位検出信号と流出側の変位検出信号とのゼロクロス間の時間差を計測するため、DCオフセットの影響を受けずに流入側と流出側との時間差を正確に計測することができ、センサチューブ12,13の形状的なばらつきや流入側振動ピックアップ15及び流出側振動ピックアップ16の取付位置のずれ等による計測誤差を解消することができる。
〔変形例2〕
変形例2では、流量計測制御回路20において、流入側振動ピックアップ15及び流出側振動ピックアップ16の各センサコイル15a,16aにより検出される変位検出信号のデューティ比と、加振器14に入力される加振信号のデューティ比とが一致するように、各変位検出信号のシフト量を調整するデューティ比補正手段を用いても良い。
【0080】
このデューティ比補正手段は、流入側振動ピックアップ15及び流出側振動ピックアップ16の各センサコイル15a,16aから得られる信号のデューティ比を、ゼロクロス時の加振器14に入力される加振信号のデューティ比と一致させるように流入側振動ピックアップ15及び流出側振動ピックアップ16の各センサコイル15a,16aから得られる信号のレベルを変化させる。
【0081】
従って、変形例2においては、流入側のデューティ比xaまたは流出側のデューティ比xbと、加振器14への加振信号デューティ比が一致するように各センサコイル15a,16aにより検出される変位検出信号に任意のシフト量d1、d2を加算し、流入側のデューティ比xaと流出側のデューティ比xbとを一致させた状態で流入側の変位検出信号と流出側の変位検出信号とのゼロクロス間の時間差を計測するため、DCオフセットの影響を受けずに流入側と流出側との時間差を正確に計測することができ、センサチューブ12,13の形状的なばらつきや流入側振動ピックアップ15及び流出側振動ピックアップ16の取付位置のずれ等による計測誤差を解消することができる。
【0082】
尚、上記変形例1,2においても、デューティ比xa、xbが予め設定された任意のデューティ比となるようにしても良いし、あるいは何れか一方のデューティ比を基準として他方のデューティ比を調整する補正方法を用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0083】
尚、上記実施例では、センサチューブが逆U字状に曲げられた構成のものを例に挙げて説明したが、これに限らず、他の形状とされたセンサチューブを振動させる構成のものにも本発明が適用することができるのは勿論である。
【0084】
また、上記実施例では、センサチューブの流入側変位と流出側変位とを、コイルとマグネットとを組み合わせたピックアップを用いた構成について説明したが、これに限らず、これ以外の構成からなる変位検出センサを用いても良いのは勿論である。
【0085】
また、上記実施例では、流入側変位検出信号と流出側変位検出信号との時間差を求める場合を例に挙げて説明したが、これに限らず、例えば、時間差演算手段51に代わりに流入側変位検出信号と流出側変位検出信号との位相差を演算する位相差演算手段を設けるようにしても良い。
【符号の説明】
【0086】
10 振動式測定装置
11 マニホルド
12,13 センサチューブ
14 加振器
14a 励振コイル
14b マグネット
15 流入側振動ピックアップ
16 流出側振動ピックアップ
15a、16a センサコイル
15b、16b マグネット
17 温度センサ
20 流量計測制御回路
30 本質安全防爆バリア回路
40 信号処理回路
41 振幅検出・励振検出手段
42 励振手段
43 温度測定手段
44 デューティ比補正手段
50 演算回路
51 時間差演算手段
52 補正演算手段
53 流量演算手段
54 アナログ出力手段
55 パルス出力手段
60 外部電源
70 電源回路
71 アナログ信号
72 流量パルス信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測流体が流れるセンサチューブと、
加振信号の入力により前記センサチューブを加振する加振器と、
前記加振器による加振力を制御する励振制御手段と、
前記センサチューブの流入側の変位を検出する流入側検出器と、
前記センサチューブの流出側の変位を検出する流出側検出器と、
前記流入側検出器によって検出された流入側変位と前記流出側検出器により検出された流出側変位との差を演算する演算手段と、
を備えた振動式測定装置において、
前記流入側検出器から得られる検出信号のデューティ比と前記流出側検出器から得られる検出信号のデューティ比とが一致するようにDCオフセットを補正する補正手段を有し、
前記演算手段は、前記補正手段によりデューティ比を補正された信号を用いて流入側変位と流出側変位との差を演算することを特徴とする振動式測定装置。
【請求項2】
前記補正手段は、前記流入側検出器及び流出側検出器から得られる信号のデューティ比を、ゼロクロス時の前記加振器に入力される加振信号のデューティ比と一致させるように前記流入側検出器及び流出側検出器から得られる信号のレベルを変化させることを特徴とする請求項1に記載の振動式測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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