説明

振動測定装置及び振動測定方法

【課題】実際の使用状態に則して高精度にボール螺子装置の振動を測定することができるとともに、測定後においても容易に当該ボール螺子装置を修正することができる振動測定装置及び振動測定方法を提供すること。
【解決手段】振動測定装置30は、ラック軸3に螺合された状態のボール螺子ナット20を回転駆動する駆動装置31と、そのボール螺子ナット20が回転する作動状態においてボール螺子装置11に生ずる振動を検出する振動ピック32と、同振動ピック32の出力信号を解析する解析装置33とを備える。ボール螺子ナット20は、外周に装着された保持器40と一体に回転駆動されるとともに、同保持器40には、ボール軸受45の内輪45aが固定される。そして、振動センサとしての振動ピック32は、そのボール軸受45の外輪45bに設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボール螺子装置を構成するボール螺子ナットの振動測定装置及び振動測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ボール螺子装置を用いてモータの回転をラック軸の往復動に変換することにより、操舵系にアシスト力を付与する所謂ラックアシスト型の電動パワーステアリング装置(EPS)がある(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
このようなEPSにおいて、ボール螺子装置は、ラック軸の外周に螺刻された螺子溝とボール螺子ナットの内周に螺刻された螺子溝とを対向させてなる螺旋状の転動路内に、転動体となる複数のボールを介在させることにより形成される。そして、各ボールは、ラック軸に対するボール螺子ナットの相対回転に伴いその負荷を受けつつ転動路内を転動し、循環部材が形成する還流路を介して下流側から上流側へと還流される。
【0004】
即ち、ボール螺子装置は、このように各ボールが循環経路内を無限循環することにより、そのボール螺子ナットの回転を螺子軸の往復動に変換する。そして、上記のようなラックアシスト型のEPSは、モータを用いてボール螺子ナットを回転駆動し、そのモータトルクを軸方向の押圧力としてラック軸に伝達することにより、操舵系にアシスト力を付与する構成となっている。
【0005】
また、EPSにおいては、その静粛性の向上が最も重要な課題の一つに挙げられる。そのため、上記のようなラックアシスト型EPSの製造過程においては、通常、そのボール螺子装置の振動測定が行われる。そして、振動の大きなボール螺子装置が発見された場合には、その製造段階において修正することにより、その高い静粛性が確保されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−8424号公報
【特許文献2】特開2007−8425号公報
【特許文献3】特開平7−324972号公報
【特許文献4】特開2003−315147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ボール螺子装置の作動により生ずる振動は、そのボール螺子ナットを支承する軸受からハウジングを経て、更に車体へと伝播することにより搭乗者が認識するものとなる。このため、従来、こうしたボール螺子装置の振動測定は、当該ボール螺子装置がハウジングに組付けられ、EPSアクチュエータとして略完成した状態(FullAssy)で行われる。即ち、実際の作動時と同様、そのモータによりボール螺子ナットを回転駆動する。そして、これにより生ずる振動を、ハウジングに取着された振動センサ(振動ピック)により検出するのである。
【0008】
しかしながら、このように略完成した状態で測定を行うことで、振動の大きなボール螺子装置が発見された場合には、その修正に際して再度の組み直しが必要となる。そして、この組み直しが煩雑であるとともに、その工数が製造コストを押し上げる一因となっており、この点において、なお改善の余地を残すものとなっていた。
【0009】
尚、特許文献3や特許文献4等には、実際の使用状態に則して転がり軸受の振動を測定可能な振動測定装置が開示されている。しかしながら、これらは、振動が外部に伝播する際の振動伝達部位(外輪)を固定した状態で測定を行う「転がり軸受用の振動測定装置」である。従って、回転体であるボール螺子ナットが振動伝達部位となるボール螺子装置については、何れも、そのままのかたちで適用することはできない。
【0010】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、実際の使用状態に則して高精度にボール螺子装置の振動を測定することができるとともに、測定後においても容易に当該ボール螺子装置を修正することができる振動測定装置及び振動測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、螺子軸にボール螺子ナットを螺合してなるボール螺子装置の振動測定装置であって、前記ボール螺子ナットに装着される保持器と、前記保持器と一体に前記ボール螺子ナットを回転駆動する駆動装置と、前記保持器に内輪が固定された転がり軸受と、前記転がり軸受の外輪に設けられた振動センサと、前記振動センサの出力信号を解析することにより前記ボール螺子ナットから外部に伝播する振動成分を抽出する解析装置とを備えること、を要旨とする。
【0012】
上記構成によれば、振動が外部に伝播する際に振動伝達部位となるボール螺子ナットが回転するボール螺子装置についても、当該ボール螺子装置が単体として組み上げられた状態(SubAssy)において、実際の使用状態に則して振動を測定することができる。また、その測定後においても容易に当該ボール螺子装置を修正することができる。そして、周波数解析により、転がり軸受(及び保持器)の固有周波数成分等、振動測定装置に特有の振動成分を除去し、振動伝達部位であるボール螺子ナットを介して外部に伝播する振動成分を抽出することで、高い測定精度を確保することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、軸方向移動を許容しつつ回転不能且つ傾動不能に前記螺子軸を支持する支持部材を備えること、を要旨とする。
上記構成によれば、実際の使用状態に則して振動を測定することができるとともに、その振動測定の精度を向上させることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、前記螺子軸に軸方向の反力を付与する反力付与装置を備えること、を要旨とする。
上記構成によれば、より使用状態に則した状態で振動を測定することができる。その結果、振動測定の精度を更に向上させることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、前記螺子軸は、電動パワーステアリング装置のラック軸であること、を要旨とする。
即ち、電動パワーステアリング装置においては、極めて高い静粛性が要求される。従って、上記構成によれば、その高い測定精度により製品の品質を向上させることができる。そして、その測定後における修正容易性を確保することにより、生産性を向上させることができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、螺子軸にボール螺子ナットを螺合してなるボール螺子装置の振動測定方法であって、前記ボール螺子ナットと一体回転する保持器に転がり軸受の内輪を固定するとともに、該転がり軸受の外輪に振動センサを設け、該振動センサの出力信号を解析することにより前記ボール螺子ナットから外部に伝播する振動成分を抽出すること、を要旨とする。
【0017】
上記構成によれば、実際の使用状態に則して高精度にボール螺子装置の振動を測定することができるとともに、測定後においても容易に当該ボール螺子装置を修正することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、実際の使用状態に則して高精度にボール螺子装置の振動を測定することが可能であるとともに、測定後においても容易に当該ボール螺子装置を修正することが可能な振動測定装置及び振動測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成を示す断面図。
【図2】ボール螺子装置の概略構成を示す断面図。
【図3】振動測定装置の概略構成図。
【図4】振動測定の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態のEPS1において、略円筒状をなすハウジング2に挿通されたラック軸3は、ラックガイド4及び滑り軸受(図示略)に支承されることにより、その軸方向に沿って移動可能に収容支持されている。また、ラック軸3には、ラック歯5が形成されており、このラック歯5とピニオン軸6とが噛合されることにより、周知のラック&ピニオン機構7が形成されている。そして、ラック軸3は、これにより、ステアリング操作に伴うステアリングシャフトの回転に応じて軸方向に往復動する構成となっている。
【0021】
また、EPS1は、駆動源としてのモータ10と、同モータ10の回転をラック軸3の軸方向移動に変換するボール螺子装置11とを備えている。そして、本実施形態のEPS1は、これらラック軸3、モータ10及びボール螺子装置11が、ハウジング2内に一体に収容された所謂ラックアシスト型のEPSとして構成されている。
【0022】
詳述すると、本実施形態のモータ10は、中空軸状に形成されたモータシャフト12を有しており、同モータシャフト12は、ハウジング2の内周に設けられた軸受13a,13bに支承されることより、同ハウジング2の軸方向に沿って配置されている。また、本実施形態のモータ10では、このモータシャフト12の周面にマグネット14を固着することによりモータロータ15が形成されている。そして、本実施形態のモータ10は、そのモータロータ15の径方向外側を包囲するモータステータ16がハウジング2の内周に固定されるとともに、そのモータシャフト12内にラック軸3が挿通されることにより、ハウジング2内においてラック軸3と同軸に配置されている。
【0023】
また、本実施形態のラック軸3は、その外周に螺子溝17を螺刻することにより、螺子軸として構成されている。そして、本実施形態のボール螺子装置11は、このラック軸3に複数のボール18を介してボール螺子ナット20を螺合することにより形成されている。
【0024】
図2に示すように、ボール螺子装置11において、転動体としての各ボール18は、ラック軸3側の螺子溝17とボール螺子ナット20側の螺子溝21とが対向することにより形成される螺旋状の転動路23内において、これらボール螺子ナット20とラック軸3との間に介在されている。そして、各ボール18は、ラック軸3に対するボール螺子ナット20の相対回転により、その負荷を受けつつ転動路23内を転動する構成となっている。
【0025】
また、ボール螺子ナット20には、螺子溝21内の二点に開口することにより、その開口部間を短絡する還流路24が形成されている。即ち、転動路23内を転動した各ボール18は、ボール螺子ナット20に形成された上記還流路24を通過することにより、その転動路23に設定された二点間を下流側から上流側へと移動する。尚、本実施形態では、隣接する二列の螺子溝21に跨るように循環部材25をボール螺子ナット20に取着することにより還流路24が形成されている。そして、ボール螺子装置11は、これら転動路23及び還流路24が形成する循環経路26内を各ボール18が無限循環することにより、ボール螺子ナット20の回転をラック軸3の軸方向移動に変換することが可能となっている。
【0026】
図1に示すように、本実施形態では、ボール螺子ナット20は、モータシャフト12の開口部(同図中、右側の軸方向端部)12aに形成された収容部27内において、ロックナット28により軸方向に押圧されることにより、相対回転不能に同モータシャフト12内に固定されている。即ち、本実施形態のEPS1は、モータシャフト12と一体にボール螺子ナット20を回転駆動することにより、そのモータトルクをラック軸3の軸方向移動に変換する。そして、この軸方向移動するラック軸3の押圧力を、ステアリング操作を補助するためのアシスト力として、操舵系に付与する構成となっている。
【0027】
(ボール螺子装置の振動測定装置)
次に、本実施形態におけるボール螺子装置の振動測定装置及びこれを用いた振動測定方法について説明する。
【0028】
図3に示すように、本実施形態におけるボール螺子装置11の振動測定は、上記のように構成されたEPS1の製造過程において、その螺子軸としてのラック軸3に各ボール18を介してボール螺子ナット20を螺合することにより当該ボール螺子装置11が単体として組み上げられた状態(SubAssy)で行われる。
【0029】
詳述すると、本実施形態の振動測定装置30は、ラック軸3に螺合された状態のボール螺子ナット20を回転駆動する駆動装置31と、そのボール螺子ナット20が回転する作動時においてボール螺子装置11に生ずる振動を検出する振動センサとしての振動ピック32と、同振動ピック32の出力信号を解析する解析装置33とを備える。
【0030】
本実施形態の駆動装置31は、駆動源としてのモータ34と、略円筒状に形成された駆動部35とを備えてなり、駆動部35は、図示しない軸受により回転自在に支承されている。また、本実施形態では、モータ34の出力軸34a及び駆動部35の外周には、それぞれプーリー36,37が設けられている。そして、駆動部35は、これら両プーリー36,37間に掛け渡されたベルト38によりモータ34と駆動連結されている。
【0031】
また、本実施形態では、この振動測定装置30を用いた振動測定を行うに際して、ボール螺子ナット20の外周には、略円筒状の保持器40が装着される。尚、本実施形態では、保持器40の内径は、ボール螺子ナット20の外径と略等しく設定されており、同保持器40は、圧入によってボール螺子ナット20に外嵌されることにより、相対回転不能に当該ボール螺子ナット20の外周に固定される。そして、本実施形態の駆動装置31は、このボール螺子ナット20に装着された保持器40を上記駆動部35と同軸に連結することにより、同保持器40とともにボール螺子ナット20を回転駆動することが可能となっている。
【0032】
具体的には、本実施形態の駆動装置31は、その筒状をなす駆動部35内にラック軸3を挿通することにより、上記保持器40が装着されたボール螺子ナット20を駆動部35と同軸に配置することが可能となっている。また、本実施形態では、駆動部35及び保持器40の軸方向端部には、それぞれ、径方向外側に拡開するフランジ41,42が形成されている。そして、保持器40は、これら両フランジ41,42間が締結されることにより、上記のようにボール螺子ナット20に装着された状態で、駆動部35に対して相対回転不能に連結される。
【0033】
ここで、本実施形態では、駆動部35の筒内に挿通されたラック軸3は、その両端が、それぞれ後述する反力付与装置43に支持されている。そして、これにより、当該ラック軸3の軸方向移動が許容される一方、その回転及び傾動が規制されている。また、本実施形態では、上記解析装置33は、モータコントローラとしての機能を有しており、駆動装置31のモータ34は、解析装置33により作動が制御される。そして、本実施形態の駆動装置31は、このモータ34の回転を駆動部35に伝達することにより、当該駆動部35に連結された保持器40と一体にボール螺子ナット20を回転駆動する構成となっている。
【0034】
一方、本実施形態では、振動センサとしての振動ピック32は、加速度センサを用いることにより三次元の振動を検出可能に構成されている。また、本実施形態では、上記保持器40には、その外周に転がり軸受としてのボール軸受45の内輪45aが固定されている。そして、本実施形態の振動測定装置30において、上記振動ピック32は、このボール軸受45の外輪45bに設けられる。
【0035】
即ち、EPS1において、ボール螺子装置11の作動により生ずる振動は、ボール螺子ナット20と一体にモータシャフト12を支承する軸受13a,13bからハウジング2を経て、図示しない車体へと伝播することにより搭乗者が認識するものとなる(図1参照)。従って、上記のように、ボール螺子ナット20に装着された保持器40の外周にボール軸受45の内輪45aを固定し、その外輪45bに振動ピック32を設けることで、実際の使用状態に則して高精度にボール螺子装置11の振動を測定することができる。
【0036】
詳述すると、上記駆動装置31によりボール螺子ナット20が回転駆動されることで、ボール螺子装置11においては、その螺子軸を構成するラック軸3が、実際の作動時と同様、軸方向に移動する。また、本実施形態では、上記のようにラック軸3の両端を支持する反力付与装置43は、この軸方向移動するラック軸3に対し、当該ラック軸3を押し戻すような軸方向の反力を付与するように構成されている。そして、解析装置33は、このように実際の車両におけるEPSとしての使用状態に則した状態において上記振動ピック32が出力するセンサ信号を解析する。
【0037】
具体的には、本実施形態の解析装置33は、振動ピック32の出力信号について、周知の高速フーリエ変換(FFT)を用いた周波数解析を実行する。そして、この解析処理により、その振動ピック32とボール螺子ナット20との間に介在されたボール軸受45(及び保持器40)の固有周波数成分等、本実施形態の振動測定装置30に特有の振動成分を除去することによって、ボール螺子装置11の作動により生ずる振動のうち、そのボール螺子ナット20を介して外部に伝播する振動成分を抽出する構成となっている。
【0038】
次に、上記のように構成された本実施形態の振動測定装置を用いた振動測定の処理手順について説明する。
図4のフローチャートに示すように、上記のように構成された本実施形態の振動測定装置30を用いて振動測定を行う際には、先ず、測定対象となるボール螺子装置11について、そのボール螺子ナット20の外周に保持器40を装着する(ステップ101)。また、本実施形態では、この段階において、既に保持器40の外周には、当該保持器40に外嵌されたボール軸受45の内輪45aが固定されており、上記ステップ101における保持器40の装着に続いて、そのボール軸受45の外輪45bに対して振動ピック32を取着する(ステップ102)。そして、そのボール螺子ナット20に装着されるとともに振動ピック32が取着された保持器40を、駆動装置31の駆動部35に連結する(ステップ103)。
【0039】
次に、モータコントローラとしての解析装置33を操作することにより、駆動装置31を作動させてボール螺子ナット20を回転駆動する(ステップ104)。そして、この状態において取得される振動ピック32の出力信号について(ステップ105)、解析装置33が上記高速フーリエ変換を用いた周波数解析を実行することにより(ステップ106)、そのボール螺子装置11の振動のうち、ボール螺子ナット20を介して外部に伝播する振動成分が抽出される(ステップ107)。
【0040】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)振動測定装置30は、ラック軸3に螺合された状態のボール螺子ナット20を回転駆動する駆動装置31と、そのボール螺子ナット20が回転する作動状態においてボール螺子装置11に生ずる振動を検出する振動ピック32と、同振動ピック32の出力信号を解析する解析装置33とを備える。ボール螺子ナット20は、外周に装着された保持器40と一体に回転駆動されるとともに、同保持器40には、ボール軸受45の内輪45aが固定される。そして、振動センサとしての振動ピック32は、そのボール軸受45の外輪45bに設けられる。
【0041】
上記構成によれば、振動が外部に伝播する際に振動伝達部位となるボール螺子ナット20が回転するボール螺子装置11についても、当該ボール螺子装置11が単体として組み上げられた状態(SubAssy)において、実際の使用状態に則して振動を測定することができる。また、その測定後においても容易に当該ボール螺子装置11を修正することができる。そして、周波数解析により、ボール軸受45(及び保持器40)の固有周波数成分等、振動測定装置30に特有の振動成分を除去し、振動伝達部位であるボール螺子ナット20を介して外部に伝播する振動成分を抽出することで、高い測定精度を確保することができる。
【0042】
(2)振動測定時、ラック軸3は、その軸方向移動が許容されるとともに回転不能且つ傾動不能に支持される。
上記構成によれば、実際の使用状態に則して振動を測定することができるとともに、その振動測定の精度を向上させることができる。
【0043】
(3)振動測定装置30は、振動測定時、ラック軸3に対して、当該ラック軸3を押し戻すような軸方向の反力を付与する反力付与装置43を備える。
上記構成によれば、実際の車両におけるEPSとしての使用状態に則した状態で振動を測定することができる。その結果、振動測定の精度を更に向上させることができる。
【0044】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、本発明をEPS用のボール螺子装置11に具体化したが、EPS以外の用途に用いられるものに適用してもよい。
【0045】
・また、EPSに用いる場合であっても、その型式については、上記実施形態におけるEPS1のようなモータ10とラック軸3とが同軸配置された所謂ラック同軸型に限らず、モータとラック軸とが並列に配置される所謂ラックパラレル型、或いはモータの軸線がラック軸と斜交する所謂ラッククロス型であってもよい。
【0046】
・上記実施形態では、振動測定装置30は、反力付与装置43を備え、振動測定時には、ボール螺子ナット20の回転に伴い軸方向移動するラック軸3に対して、当該ラック軸3を押し戻すような軸方向の反力を付与することとした。しかし、これに限らず、このような反力付与装置43は必ずしも設けなくともよい。
【0047】
・また、上記実施形態では、ラック軸3は、反力付与装置43によって、その軸方向移動が許容されるとともに回転不能且つ傾動不能に支持されることとしたが、この支持部材としての機能は、反力付与装置43以外の構成により実現してもよい。
【0048】
・更に、駆動装置31の構成についても上記実施形態に示された構成に限るものではない。具体的には、例えば、駆動部35は、ベルト駆動により回転駆動されることとしたが、その駆動型式についてはギヤ駆動であってもよい。また、モータ34は、解析装置33により作動が制御されることとしたが、別途モータコントローラを設けてもよい。そして、駆動部35及び当該駆動部35に連結される保持器40の形状は、円筒状に限るものではない。
【0049】
・上記実施形態では、転がり軸受としてボール軸受45を用いたが、その他、ころ軸受等を用いてもよい。
・上記実施形態では、振動ピック32は、加速度センサを用いて構成されることとした。しかし、これに限らず、歪ゲージや圧電素子等、その他の検出素子を用いる構成であってもよい。
【0050】
・上記実施形態では、解析装置33は、振動ピック32の出力信号について、周知の高速フーリエ変換(FFT)を用いた周波数解析を実行することとしたが、周波数解析の手法については、これに限るものではない。例えば、各種フィルタ(バンドパスフィルタ等)やRMS(Root Means square:平均自乗平方根)演算を用いてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1…電動パワーステアリング装置(EPS)、2…ハウジング、3…ラック軸、10…モータ、11…ボール螺子装置、12…モータシャフト、18…ボール、20…ボール螺子ナット、30…振動測定装置、31…駆動装置、32…振動ピック、33…解析装置、40…保持器、43…反力付与装置、45…ボール軸受、45a…内輪、45b…外輪。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺子軸にボール螺子ナットを螺合してなるボール螺子装置の振動測定装置であって、
前記ボール螺子ナットに装着される保持器と、
前記保持器と一体に前記ボール螺子ナットを回転駆動する駆動装置と、
前記保持器に内輪が固定された転がり軸受と、
前記転がり軸受の外輪に設けられた振動センサと、
前記振動センサの出力信号を解析することにより前記ボール螺子ナットから外部に伝播する振動成分を抽出する解析装置とを備えること、を特徴とする振動測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の振動測定装置において、
軸方向移動を許容しつつ回転不能且つ傾動不能に前記螺子軸を支持する支持部材を備えること、を特徴とする振動測定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の振動測定装置において、
前記螺子軸に軸方向の反力を付与する反力付与装置を備えること、
を特徴とする振動測定装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の振動測定装置において、
前記螺子軸は、電動パワーステアリング装置のラック軸であること、
を特徴とする振動測定装置。
【請求項5】
螺子軸にボール螺子ナットを螺合してなるボール螺子装置の振動測定方法であって、
前記ボール螺子ナットと一体回転する保持器に転がり軸受の内輪を固定するとともに、該転がり軸受の外輪に振動センサを設け、該振動センサの出力信号を解析することにより前記ボール螺子ナットから外部に伝播する振動成分を抽出すること、
を特徴とする振動測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−127912(P2011−127912A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284065(P2009−284065)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】