説明

振動締固め機の防振装置

【課題】振動締固め機のハンドル部分をクレーンにより吊り上げた際に、機体とハンドルとの間に介在する防振ゴムに無理な引っ張り力が作用して、機体の荷重により防振ゴムが破断したり剥離した場合でも、防振ゴムに設けたピンが防振ゴムの両側板を分離しないように一体に保持し、機体が地上に落下することを防止する。
【解決手段】防振ゴム17の両側面に接着される側板15,16の中央部に、両側から窪み部18を凹設して、防振ゴム17の中央部には肉厚が絞り込まれた括れ部17bを設け、両側板の窪み部18には括れ部17bを貫通する横孔19を設けて、この横孔19内には、ピン21を、両端が窪み部18の外側へ突出した状態で、横孔19の内周面に対して揺動可能なるように挿着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輾圧板の上下動により路面を叩打して路面等を締固めるランマー等の、振動締固め機に適用される防振装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来において、ランマーのような振動締固め機は、図8に示すように、激しく上下動する機体1を、作業員が機体1から突設した操作ハンドル2を保持して操作するので、機体1とハンドル2との間に防振ゴム4からなる防振装置3が設けられて、機体1に発生する激しい振動を吸収し、作業員に激しい振動が直接伝わらないように構成されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−327404
【特許文献2】特開2004−257514
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、従来の防振装置3は、図9に示すように、2枚の金属製側板5、5の間に、防振ゴム4の両面が接着剤を介して一体的に接着固定されているので、長期間にわたって使用した場合に、防振ゴム4自体に亀裂が生じて破断したり、あるいは、防振ゴム4と側板5,5との間の接着剤が剥離して分断するという問題を内包している。
【0005】
特に、ランマーのような振動締固め機は、一日の作業の開始時あるいは終了時に、ハンドル2の部分をクレーンにより吊り上げて、機体を運搬車輌から吊り降ろしたり、あるいは運搬車輌上に吊り上げて搭載するという操作を毎日行うことになる。
【0006】
しかし、図10に示すように、クレーンによってハンドル2の部分を吊り上げると、重量のある機体1が、防振ゴム4を引っ張るようにして吊り下げられることになるので、防振ゴム4に無理な引っ張り力が作用し、長期間の使用により防振ゴム4自体に亀裂の原因となる傷があった場合や、防振ゴム4と側板5,5との間の接着剤が一部剥離していたような場合には、その傷や剥離部が起点となって、いずれか一方の防振ゴム4が一挙に破断6したり剥離することとなる。
【0007】
このように、いずれか一方の防振ゴム4が一挙に破断6したり剥離すると、機体は、残る他方の防振ゴム4により吊下げられることになるため、残された方の防振ゴムには、さらに無理な荷重が加わることになり、やがて、残された方の防振ゴムも連続して破断6したり剥離することになり、吊っていた機体1が地上に落下して、機体1を破損してしまうという事故を引き起こすことになる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、従来の振動締固め機の防振装置における上記のような問題点に鑑み、ハンドルの部分をクレーンにより吊り上げることで、防振ゴムに無理な引っ張り力が作用して、防振ゴムが一挙に破断したり剥離した場合でも、防振装置に設けられたピンが防振ゴムの両側板を互いに分離することなく一体に保持して、吊っていた機体が地上に落下することを的確に防止できるようにした防振装置の提供を目的としたものである。
【0009】
本発明は、上記の防振装置を構成するための具体的手段として、防振ゴムの両側面に接着される本体側取付け用内側板と、ハンドル側取付け用外側板の中央部に、それぞれ防振ゴムの肉厚内中心方向へ両側から凹設された窪み部を設け、防振ゴムの中央部には、肉厚が外周の防振部よりも薄くなるように絞り込まれた括れ部を設けて、前記内外両側板の窪み部には括れ部を貫通する横孔を設け、この横孔内に、ピンを両端が前記窪み部の外側へ突出した状態で、横孔の内周面に対して揺動可能なるように挿着したことを特徴とする。
【0010】
窪み部の横孔内に挿着されるピンは、内側板と外側板に窪み部が設けられていない平坦な部分における内側板と外側板との間の幅の内側に収まるような長さであることが好ましい。
【0011】
また、窪み部の横孔内に挿着されるピンの外周面と、横孔の内周面との間には、横孔とピンとが、同一軸線上に配置されて、横孔の内周面に対してピンの外周面が浮いているように挿通され、かつ、ピンの外周面と括れ部のゴム貫通孔内周面とは密着されているような構造が好ましい。
【0012】
一方、窪み部の横孔内に挿着されるピンの外周面と、横孔の内周面との間には、横孔とピンとが、同一軸線上に配置されて、横孔の内周面に対してピンの外周面が浮いているように挿通されることによる環状の隙間内に、防振ゴムの一部が充填されていて、かつ、ピンの外周面と括れ部のゴム貫通孔内周面とは密着されているような構造としてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の防振装置は、内外の側板に横孔を有する窪み部を設けて、この窪み部の横孔内に、両端が窪み部の外方へ長く突出した状態で、横孔の内周面に対して自由に揺動できるピンを挿通したので、内外の側板とピンとは、窪み部の横孔によってそれぞれ独立した部品として機能し、機体の伸縮運動によって防振ゴムに作用するせん断方向、ねじれ方向の荷重に対し、ピンが自由に追従して揺動することができる。その結果、防振ゴムは、ピンが挿着されたことで振動吸収作用が阻害されるということがなく、防振ゴムとしての本来の機能をなんら問題なく発揮することができる。
【0014】
また、前に述べたように、建設用作業機では、一日の作業開始時あるいは終了時に、機体をクレーンにより吊り上げて、運搬車輌から降ろしたり搭載するという作業が行われる。そのため、図7に示すように、機体の荷重が防振ゴムに作用して、防振ゴムが一挙に破断したり側板から剥離することがある。
【0015】
本発明によると、このような防振ゴムが破断したり剥離する事態が発生すると、機体側の内側板が下向きのせん断力により引っ張られることで、横孔内に挿通されたピンの両端が、機体側では下方へ、ハンドル側では上方へ傾斜して、左右の横孔と噛み合う形状となる。その結果、機体側の側板に発生するさらに下方へ落下しようとする荷重を、ハンドル側の側板が、ピンを介して引き留めることになり、機体側の側板が防振ゴムから剥離して地上へ落下する事態を確実に阻止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
窪み部の横孔内に挿着されるピンが、防振ゴムに作用するせん断方向、ねじれ方向の荷重に自由に追従して揺動し、防振ゴムの振動吸収作用に支障を与えないようにするためには、横孔の内周面とピンの外周面とが、同一軸線上に配置されて、横孔の内周面に対してピンの外周面が浮いているように挿着されていることが必要である。
【0017】
しかし、この横孔の内周面に対してピンの外周面が浮いているように挿通されているということは、横孔の内周面とピンの外周面との間が隙間を隔て離れていなければならない、ということではなく、そのような場合は勿論のこと、例えば、横孔の内周面とピンの外周面との間の環状の隙間内に、防振ゴムの一部が充填されていて、隙間がゴムで塞がれているが、ピンは防振ゴムの動きに自由に追従して揺動できるような構造とすることが、雨水の浸入による弊害を防止できるという面から好ましい。
【実施例】
【0018】
次に、本発明に係る防振装置の構成を、図1に示す実施例により説明すると、図1は、図8に示したランマーの機体1における正面右側上部の丸で囲った部分を縦断した構造を示しており、機体11の上部側面の外側にハンドル12の接続板13が配置され、この機体11の上部側面とハンドル接続板13との間に防振装置14が取付けられている。
【0019】
本発明の防振装置14は、機体1の上部側面に設けられる円形の本体側取付け用内側板15と、ハンドル接続板13に設けられる円形のハンドル側取付け用外側板16と、これらの内外両側板15,16の間に接着される円形の防振ゴム17と、前記内側板15と外側板16の中央部に防振ゴム17を貫通するように挿着されたピン21とから基本的に構成されている。
【0020】
前記内外両側板15,16には、それぞれ防振ゴム17の肉厚内中心方向へ向けて両側から凹設された窪み部18を有し、また、防振ゴム17の中央部には、内外側板15,16に前記窪み部18が設けられることに伴って、肉厚が外周部分の防振部17aよりも薄くなるように絞り込まれた括れ部17bが設けられている。
【0021】
また、前記内外両側板15,16の窪み部18の中心部分には、それぞれ横孔19が同軸線上に開設されるとともに、防振ゴム17の括れ部17bにも窪み部18の横孔19と同軸線上に貫通孔20が開設され、この横孔19と貫通孔20とに、両端が窪み部18の外側へ突出するピン21が挿着されている。
【0022】
図3に示すように、内外両側板15,16に設けられる窪み部18の深さLは、防振ゴム17の外周に位置する防振部17aの厚さHの略3分の1程度であり、この窪み部18の内側に位置する防振ゴム17の括れ部17bの肉厚Mも、防振ゴム17の外周に位置する防振部17aの厚さHの略3分の1程度とすると、ピン21の両端を窪み部7の横孔8の外側へ充分に長く突出するように挿着することができる。
【0023】
窪み部18の横孔19内に挿着されるピン21は、内側板15と外側板16の窪み部18が設けられていない平坦な部分における内側板15と外側板16との間の幅Kの内側に収まるような長さであることが好ましい。
【0024】
一方、ピン21の太さについてみた場合、窪み部18の横孔19は内径がピン21の外径よりも僅かに大きくなっている。そのため、図5aのように、ピン21を横孔19と同一軸線上に配置すると、ピン21の両端部外周面が横孔19の内周面に対して浮いているように挿通され、これによって、ピン21が、両端を窪み部18の外側へ突出した状態で、横孔19の内周面に対して揺動可能なるように挿着されることになる。なお、ピン21の中央部分外周面と括れ部17bにおけるゴム貫通孔20の内周面とは、ピン21が防振ゴム17に対して遊動しないように密着固定されている。
【0025】
上記のように、ピン21を横孔19の内周面に対して同一軸線上に配置すると、横孔19の内径がピン21の外径よりも大きいので、ピン21の両端部外周面が横孔19の内周面に対して浮いているように挿通されるが、図5aのように、ピン21と横孔19の内周面とは、必ずしも空隙を隔てて離れていなければならないということではない。
【0026】
例えば、図5bのように、ピン21と横孔19の内周面との間の隙間内に、防振ゴム17の一部17cが充填されて隙間がゴムで塞がれていても、この充填ゴム17cによってピン21が拘束を受けずに自由に動くことができれば、ピン21が防振ゴム17の振動吸収作用を阻害するようなことがないので、特に支障は生じない。この場合は、雨水の浸入を防ぐことができ好ましいといえる。
【0027】
上記防振ゴム17を機体11とハンドル接続板13との間に取付ける際には、図1に示すように、防振ゴム17の防振部17aにボルトヘッド挿通孔22を設けて、内側板15にはボルト孔23、外側板16にボルトヘッド挿通孔22と同径の貫通孔24を設けて、ハンドル接続板13を取付ける前に、ボルトヘッド挿通孔22と貫通孔24内にボルト25を挿通して、内側板15を機体11に固定する。
【0028】
一方、外側板16には、ボルト挿通孔26を設けて、内側に防振ゴム17を流し込む前に、ボルト挿通孔26の裏側にボルト28の袋ナット27を配置して溶接により固定しておき、次いで外側板16と内側板15の間に防振ゴム17を流し込むようになっており、外側板16の外側にハンドル接続板13を配置し、この接続板13のボルト孔29を通してボルト28を袋ナット27に装着する。
【0029】
本発明の防振装置14は、内外の側板15,16に設けた窪み部18の横孔19内に、両端が窪み部18の外方へ突出した状態で、横孔19の内周面に対して自由に揺動できるピン21を挿通したので、内外の側板15,16とピン21とは、窪み部18の横孔19によってそれぞれ独立した部品として機能し、図6に示すように、機体11の伸縮運動によって防振ゴム17に作用するせん断方向、ねじれ方向の荷重に対し、ピン21が自由に追従して揺動し、その結果、ピン21を設けたことにより、防振ゴム17が本来の振動吸収作用を失うことがなく、防振ゴムとしての機能に支障を与えない。
【0030】
また、機体11をクレーンにより吊り上げて、運搬車輌から降ろしたり搭載することで、図7のように、機体の荷重によって防振ゴム17が一挙に破断30したり側板から剥離するような事態が発生すると、機体11側の内側板15が下向きのせん断力により引っ張られることで、横孔19内に挿通されたピン21の両端が、機体11側では下方へ、ハンドル12側では上方へ傾斜して、左右の横孔19と噛み合う形状となる。その結果、機体11側の側板15に発生するさらに下方へ落下しようとする荷重を、ハンドル12側の側板16が、ピン21を介して引き留めることになり、機体11側の側板15が防振ゴム17から剥離して地上へ落下する事態を確実に阻止する。
【産業上の利用可能性】
【0031】
従来より、振動締固め機の防振装置は、機体とハンドルとの間に設けられる振動吸収手段という機能のみしか考えられておらず、機体の運搬車輌からの吊上げ吊降ろしという、本来の機能とは別の使用形態に伴う問題点は全く配慮されていなかったが、従来の防振ゴムの中央部に窪み部を設けてピンを挿着するという簡単な手段により、運搬時に発生する機体の落下という重大な事故を確実に予防することができので、この種の作業機における安全装置として、全ての装置に取付けが義務づけられるような利用性の高い装置である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る防振装置の構成を、図2のA−B−C線方向に沿って切断した断面図。
【図2】本発明の防振装置を図1のD−D線方向から見た側面図。
【図3】内外両側板と防振ゴムとの組み立て前の構成を示す断面図。
【図4】本発明の防振装置を図1のE−E線方向から見た側面図。
【図5】窪み部の横孔内周面とピン外周面との関係を示す部分拡大断面図。
【図6】振動に伴って変形する防振ゴムの形状を示す断面図。
【図7】防振ゴムと側板とが剥離して機体がハンドルから落下するときの状態を示す断面図。
【図8】本発明の防振装置が設けられる位置を説明するランマーの斜視図。
【図9】従来の防振装置の構成を示す断面図。
【図10】従来の防振装置の防振ゴムが機体から剥離して、機体が落下するときの状況を説明する側面図。
【符号の説明】
【0033】
11:機体、
12:ハンドル、
13:ハンドル接続板、
14:防振装置、
15:内側板、
16:外側板、
17:防振ゴム、
17a:防振部、
17b:括れ部、
17c:充填ゴム、
18:窪み部、
19:横孔、
20:貫通部、
21:ピン、
22:ボルトヘッド挿通孔、
23:ボルト孔、
24:貫通孔、
25:ボルト、
26:ボルト挿通孔、
27:ボルトヘッド、
28:ボルト、
29:ナット、
30:破断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動締固め機の本体と、ハンドルとの間に設けられる防振ゴムからなる防振装置であって、防振ゴムの両側面に接着される本体側取付け用内側板と、ハンドル側取付け用外側板の中央部に、それぞれ防振ゴムの肉厚内中心方向へ両側から凹設された窪み部を設け、防振ゴムの中央部には、肉厚が外周の防振部よりも薄くなるように絞り込まれた括れ部を設けて、前記内外両側板の窪み部には括れ部を貫通する横孔を設け、この横孔内に、ピンを両端が前記窪み部の外側へ突出した状態で、横孔の内周面に対して揺動可能なるように挿着したことを特徴とする振動締固め機の防振装置。
【請求項2】
窪み部の横孔内に挿着されるピンは、内側板と外側板の窪み部が設けられていない平坦な部分における内側板と外側板との間の幅の内側に収まるような長さである請求項1の振動締固め機の防振装置。
【請求項3】
窪み部の横孔内に挿着されるピンの外周面と、横孔の内周面との間には、横孔とピンとが、同一軸線上に配置されて、横孔の内周面に対してピンの外周面が浮いているように挿通され、かつ、ピンの外周面と括れ部のゴム貫通孔内周面とは密着されている請求項1の振動締固め機の防振装置。
【請求項4】
窪み部の横孔内に挿着されるピンの外周面と、横孔の内周面との間には、横孔とピンとが、同一軸線上に配置されて、横孔の内周面に対してピンの外周面が浮いているように挿通される挿通部の隙間内に防振ゴムの一部が充填されていて、かつ、ピンの外周面と括れ部のゴム貫通孔内周面とは密着されている請求項1の振動締固め機の防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−224551(P2007−224551A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−45227(P2006−45227)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000175386)三笠産業株式会社 (19)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】