説明

振動解析システム

【課題】少ない保持データ量及び計算量で、構造物の振動エネルギの状態を精度良く解析することの可能な技術を提供する。
【解決手段】コンピュータが、複数の要素からなるモデルを加振した場合の各要素の変位、及び、前記各要素の剛性行列から、エネルギ算出式における係数を算出する処理と、各要素について算出された係数を予め記憶する処理と、を含む前処理を実行する。その後、コンピュータが、エネルギを算出すべき位相を決定する処理と、決定された位相と予め記憶されている係数からエネルギ算出式に従って各要素の歪エネルギを算出する処理と、エネルギの算出結果を出力する処理と、を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の振動現象の解析を支援する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両開発においては、車体の振動や騒音の低減が重要な課題の一つである(例えば、特許文献1〜3参照)。しかし振動現象は目に見えないため、その発生要因を的確に捉えることは難しい。そこでかねてより、三次元構造物における振動エネルギ(運動エネルギ、歪エネルギ)の分布、位相毎の変化、伝達経路などを、コンピュータによって高精度に解析し、可視化するシステムの登場が望まれていた。特に、車体のように複雑な三次元構造物をコンピュータ解析する場合には、百万要素オーダーの大規模モデルを用いることになるため、上記のようなシステムの実現にあたっては、実用上の要求として、保持データ量の削減及び処理の高速化も重要となる。
【特許文献1】特開2003−186917号公報
【特許文献2】特開2005−225348号公報
【特許文献3】特開2005−234040号公報
【特許文献4】特開平11−271155号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、少ない保持データ量及び計算量で、構造物の振動エネルギの状態を精度良く解析することの可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために本発明では、以下の構成を採用する。
【0005】
本発明の第1態様は、歪エネルギの状態を解析する振動解析システムであって、複数の要素からなるモデルを角振動数ωで加振した場合の各要素の変位、及び、前記各要素の剛性行列から、式1における係数C1、C2及びC3を算出する係数算出手段と、前記各要素について算出された係数C1、C2及びC3を記憶する係数記憶手段と、エネルギを算出すべき位相を決定する位相決定手段と、決定された位相ωtと予め記憶されている係数C1、C2及びC3から式1に従って各要素の歪エネルギEsを算出するエネルギ算出手段と、エネルギの算出結果を出力する出力手段と、を備える。
【数1】



【0006】
上記構成では、各要素について係数C1、C2及びC3の3つの値を保持するだけでよいので、保持すべきデータ量が極めて小さくて済む。また、その3つの係数C1、C2及びC3を用いて、任意の位相における歪エネルギEsを、式1のような単純かつ少ない計算で求めることができるので、処理の高速化を図ることもできる。しかも、各要素の変位及び剛性行列といった構造物の内部状態量から歪エネルギを算出しているので、車体のような複雑な三次元構造物のエネルギ状態でも高精度に求めることができる。さらに、加振条件である角振動数ωを自由に選べるので、モデルの固有モードだけでなく、そのモデルに実際に加わると想定される振動(例えば車体の場合であればエンジンの振動など)に応じたエネルギ状態を解析することが可能である。
【0007】
本発明の第2態様は、運動エネルギの状態を解析する振動解析システムであって、複数の要素からなるモデルを角振動数ωで加振した場合の各要素の変位、及び、前記各要素の質量行列から、式2における係数C4、C5及びC6を算出する係数算出手段と、前記各要素について算出された係数C4、C5及びC6を記憶する係数記憶手段と、エネルギを算出すべき位相を決定する位相決定手段と、決定された位相ωtと予め記憶されている係数C4、C5及びC6から式2に従って各要素の運動エネルギEkを算出するエネルギ算出手段と、エネルギの算出結果を出力する出力手段と、を備える。
【数2】



【0008】
上記構成では、各要素について係数C4、C5及びC6の3つの値を保持するだけでよいので、保持すべきデータ量が極めて小さくて済む。また、その3つの係数C4、C5及びC6を用いて、任意の位相における運動エネルギEkを、式2のような単純かつ少ない計算で求めることができるので、処理の高速化を図ることもできる。しかも、各要素の変位及び質量行列といった構造物の内部状態量から運動エネルギを算出しているので、車体のような複雑な三次元構造物のエネルギ状態でも高精度に求めることができる。さらに、加振条件である角振動数ωを自由に選べるので、モデルの固有モードだけでなく、そのモデルに実際に加わると想定される振動(例えば車体の場合であればエンジンの振動など)に応じたエネルギ状態を解析することが可能である。
【0009】
前記各要素の変位は有限要素法によって算出されたものであることが好ましい。もちろん、有限要素法以外の解析手法を利用しても構わない。
【0010】
前記モデルは車体のモデルであることも好ましい。
【0011】
前記位相決定手段は、位相の分割数をユーザに指定させ、指定された分割数からエネルギを算出すべき複数の位相を決定することが好ましい。振動解析の目的等に応じて、ユーザは任意の分割数を指定できる。この分割数に従って複数の位相におけるエネルギ分布が計算されたら、それらを順にアニメーション表示する事も好ましい。これによりエネルギ分布の周期的な変化を容易に観察できる。なお、分割数をユーザに指定させるのではなく、位相若しくは時間をユーザに指定させてもよい。
【0012】
前記出力手段は、前記各要素のエネルギの大きさを前記モデルに重ねて疑似色表示することが好ましい。これにより本来不可視の振動エネルギを可視化でき、エネルギ分布やその周期的な変化などを直感的に把握できる。
【0013】
なお、本発明は、上記手段の少なくとも一部を有する振動解析システムとして捉えることができる。また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む振動解析方法、又は、かかる方法を実現するための振動解析プログラム、又は、その振動解析プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体として捉えることもできる。上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【0014】
たとえば、本発明の第3態様としての振動解析方法は、コンピュータが、複数の要素からなるモデルを角振動数ωで加振した場合の各要素の変位、及び、前記各要素の剛性行列から、式1における係数C1、C2及びC3を算出する処理と、前記各要素について算出された係数C1、C2及びC3を予め記憶する処理と、を含む前処理を実行した後に、コンピュータが、エネルギを算出すべき位相を決定する処理と、決定された位相ωtと予め記憶されている係数C1、C2及びC3から式1に従って各要素の歪エネルギEsを算出する処理と、エネルギの算出結果を出力する処理と、を実行するものである。
【0015】
また、本発明の第4態様としての振動解析方法は、コンピュータが、複数の要素からなるモデルを角振動数ωで加振した場合の各要素の変位、及び、前記各要素の質量行列から、式2における係数C4、C5及びC6を算出する処理と、前記各要素について算出された係数C4、C5及びC6を予め記憶する処理と、を含む前処理を実行した後に、コンピュータが、エネルギを算出すべき位相を決定する処理と、決定された位相ωtと予め記憶されている係数C4、C5及びC6から式2に従って各要素の運動エネルギEkを算出する処理と、エネルギの算出結果を出力する処理と、を実行するものである。
【0016】
また、本発明の第5態様としての振動解析プログラムは、コンピュータを、複数の要素からなるモデルを角振動数ωで加振した場合の各要素の変位、及び、前記各要素の剛性行列から、式1における係数C1、C2及びC3を算出する係数算出手段と、前記各要素について算出された係数C1、C2及びC3を記憶する係数記憶手段と、エネルギを算出すべき位相を決定する位相決定手段と、決定された位相ωtと予め記憶されている係数C1、C2及びC3から式1に従って各要素の歪エネルギEsを算出するエネルギ算出手段と、エネルギの算出結果を出力する出力手段と、して機能させるものである。
【0017】
また、本発明の第6態様としての振動解析プログラムは、コンピュータを、複数の要素からなるモデルを角振動数ωで加振した場合の各要素の変位、及び、前記各要素の質量行列から、式2における係数C4、C5及びC6を算出する係数算出手段と、前記各要素について算出された係数C4、C5及びC6を記憶する係数記憶手段と、エネルギを算出すべき位相を決定する位相決定手段と、決定された位相ωtと予め記憶されている係数C4、C5及びC6から式2に従って各要素の運動エネルギEkを算出するエネルギ算出手段と、エネルギの算出結果を出力する出力手段と、して機能させるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、少ない保持データ量及び計算量で、構造物の振動エネルギの状態を精度良く解析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
【0020】
本発明の実施形態に係る振動解析システムは、車体などの三次元構造物における振動エネルギ(運動エネルギ及び歪エネルギ)の状態を解析し、その分布や位相毎の変化を可視化することによって、振動の発生要因の究明や対策立案を支援するためのものである。
【0021】
<振動エネルギの算出手法>
振動解析システムの具体的構成の説明に入る前に、本実施形態における振動エネルギの算出手法の基本的な考え方について説明を行う。
【0022】
三次元構造物における振動エネルギを高精度に解析するには、構造内部の状態量(変位、剛性、質量)や内力(軸力、せん断力、モーメント)を用いることが望ましい。ところが、そのような内部状態量や内力は実験で計測することが極めて困難である。そこで本実施形態では、コンピュータによる構造解析によって内部状態量の算出を行う。
【0023】
構造解析手法としては、有限要素法(FEM:Finite Element Method)を用いる。有
限要素法では、三次元構造物が多数の要素(板要素、梁要素等)から構成されるFEモデルで表される。例えば車体であれば百万個程度の要素からなるFEモデルが用いられる。そのFEモデルに対して加振位置や角振動数などの加振条件を与えると、各要素に作用する力、各要素の節点の変位などが算出される。また、FEモデルの各要素は体積や材質の情報も有しており、これらの情報から要素毎の剛性行列及び質量行列も算出される。
【0024】
振動解析システムは、有限要素解析の結果として得られた、各要素の変位、剛性行列、質量行列を用いて、歪エネルギ及び運動エネルギを算出する。
【0025】
(1)歪エネルギ
歪エネルギの算出には、各要素の変位と剛性行列とを用いる。なお、歪エネルギの算出は要素座標系での変位量を用いる必要があるため、有限要素解析の結果が全体座標系で出力されている場合には、全体座標系から要素座標系への座標変換を適宜施すものとする。
【0026】
板要素を例に挙げると、板要素は4つの節点をもち、各節点はx、y、z軸方向の移動とx、y、z軸回りの回転の6自由度を有している。よって、板要素の変位uは下記式のように24個の成分からなるベクトルで表される。
【数3】



【0027】
なお、変位uのa番目の成分をuと表記すると、uという1自由度は下記式で表される。
【数4】

【0028】
また、剛性行列Kは、下記の通りn行×n列の行列で表される。板要素の場合は節点4つ、各節点の自由度が6なので、n=24である。
【数5】



【0029】
要素の歪エネルギEsは、要素の変位u及び剛性行列Kから下記式のように求めることができる。
【数6】



【0030】
式4に式3を代入して整理すると、下記式5が得られる。この式5を用いれば、任意の位相ωtにおける各要素の歪エネルギEsを算出でき、モデル全体の歪エネルギ分布を解析することができる。
【数7】



【0031】
(2)運動エネルギ
運動エネルギの算出には、各要素の変位(速度)と質量行列とを用いる。なお、運動エネルギの算出は要素座標系での速度を用いる必要があるため、有限要素解析の結果が全体座標系で出力されている場合には、全体座標系から要素座標系への座標変換を適宜施すものとする。
【0032】
板要素を例に挙げると、板要素は4つの節点をもつ。運動エネルギに関しては、各節点についてx、y、z軸方向の移動の3自由度を考える。よって、板要素の変位uは下記式のように12個の成分からなるベクトルで表される。
【数8】



【0033】
周波数域に限定することで、下記の変換により変位を速度に変換できる。
【数9】



【0034】
また、質量行列Mは、下記の通りn行×n列の行列で表される。板要素の場合は節点4
つ、各節点の自由度が3なので、n=12である。
【数10】



【0035】
要素の運動エネルギEkは、要素の変位u及び質量行列Mから下記式のように求めることができる。
【数11】



【0036】
式6に式3を代入して整理すると、下記式7が得られる。この式7を用いれば、任意の位相ωtにおける各要素の運動エネルギEkを算出でき、モデル全体の運動エネルギ分布を解析することができる。
【数12】



【0037】
(3)保持データ量及び計算量の削減
上記式5及び式7を用いれば、理論上、任意の位相における振動エネルギを求めることができる。しかしながら、これらの式に相当する計算をそのままシステムに実装するのは現実的ではない。保持すべきデータ量及びエネルギ計算に要する計算量が膨大となるからである。
【0038】
例えば、板要素の場合、式5の右辺には576個(=24×24)の項が存在する。そして、エネルギ計算にあたっては、各項について少なくとも「kij」、「β」、「β」の3つの値が既知でなければならないので、一つの板要素につき1728個(=576×3)ものデータを保持しておく必要がある。車体のような大規模モデルでは要素数が約百万個にのぼるため、1つのデータを仮に倍精度(64ビット)で保持したとすると、数十ギガバイトものデータ容量が必要となってしまう。
【0039】
そこで、本実施形態では、式5及び式7を次のように変形、整理する。
【0040】
式5の右辺における1つの項に対して、三角関数の積和の公式と加法定理を適用し、整理すると、下記のようになる。
【数13】



【0041】
よって、式5は、式8のようになる。
【数14】



【0042】
同様に、式7の右辺に対して、三角関数の積和の公式と加法定理を適用し、整理すると、式9が得られる。
【数15】



【0043】
式8における係数C1、C2及びC3、並びに、式9における係数C4、C5及びC6は時間tを含まない(つまり、位相に依存しない)ので、振動エネルギの計算に先立って算出しておくことができる。そして、前処理として係数C1〜C6を事前に計算し、データベースに記憶しておけば、任意の位相における振動エネルギを式8及び式9から簡単かつ高速に算出することができる。板要素を例に挙げれば、式5では1728個ものデータが必要であったのに対し、式8では3個のデータでよく、保持データ量を576分の1と大幅に削減できることがわかる。
【0044】
以下、振動解析システムの一構成例を具体的に説明する。
【0045】
<システム構成>
図1は、振動解析システムの機能構成を示すブロック図である。
【0046】
振動解析システムは、概略、係数の計算などの前処理を担う前処理部1と、振動エネル
ギの計算・出力などの後処理を担う後処理部2とを備える。前処理部1は、係数計算部10と特性データベース(DB)11から構成され、後処理部2は、条件入力部20とエネルギ算出部21と出力部22から構成される。
【0047】
この振動解析システムは、典型的には、演算処理装置(CPU)、主記憶装置(メモリ)、補助記憶装置(ハードディスクなど)、表示装置、入力装置(マウス、キーボードなど)を備えた汎用のコンピュータと、このコンピュータで動作するプログラムから構成可能である。図1に示す機能要素は、演算処理装置がプログラムを実行し、必要に応じて主記憶装置、補助記憶装置、表示装置、入力装置などのハードウエア資源を制御することで実現されるものである。ただし、これらの機能要素の一部を専用のチップで代替しても構わない。また、これらの機能要素の全てが単一のコンピュータで実行される必要はなく、複数のコンピュータが協働して振動解析システムを構成してもよい。
【0048】
<前処理>
図2は、前処理の流れを示すフローチャートである。
【0049】
係数計算部10は、有限要素解析の結果を、記憶装置若しくはネットワークを介して取得する(ステップS10)。ここで取得する情報には、少なくとも、FEモデルを角振動数ωで加振した場合の各要素の変位と各要素の剛性行列及び質量行列とが含まれている。
【0050】
次に、係数計算部10は、各要素の変位を、全体座標系から要素座標系に変換する(ステップS11)。ただし、ステップS10で取得した変位が元々要素座標系であったなら、ステップS11の座標変換処理は不要である。
【0051】
次に、係数計算部10は、各要素について、その変位と剛性行列とから歪エネルギ算出のための係数C1、C2及びC3を求めるとともに(式8参照)、その変位と質量行列とから運動エネルギ算出のための係数C4、C5及びC6を求める(式9参照)(ステップS12)。そして、係数計算部10は、各要素について算出した係数C1〜C6を特性DB11に格納する(ステップS13)。
【0052】
本実施形態では、係数計算部10が本発明の係数算出手段として機能し、特性DB11が本発明の係数記憶手段として機能している。
【0053】
以上の前処理が終わった後は、振動エネルギの計算・出力などの後処理を実行可能となる。
【0054】
<後処理>
図3は、後処理の流れを示すフローチャートである。
【0055】
ステップS20において、ユーザは、条件入力部20を利用して、振動エネルギの解析条件を指定することができる。具体的には、ユーザは、解析条件として位相若しくは位相の分割数を指定可能である。なお、位相については、角度(ωt)で指定できるようにしてもよいし、時間(t)で指定できるようにしてもよい。位相の分割数が指定された場合、条件入力部20は、指定された分割数からエネルギを算出すべき複数の位相を決定する。例えば、分割数として「4」が指定されたら、位相として「0、π/2、π、3π/2」の4つが選ばれる。
【0056】
次に、エネルギ算出部21が、解析対象となるモデルに対応する係数C1〜C6を特性DB11から読み込む(ステップS21)。
【0057】
次に、エネルギ算出部21が、ステップS20で決定された位相ωtとステップS21で得た係数C1〜C3から、式8に従って各要素の歪エネルギEsを算出するとともに、位相ωtと係数C4〜C6から、式9に従って各要素の運動エネルギEkを算出する(ステップS22)。
【0058】
そして、出力部22が、ステップS22での歪エネルギEs及び運動エネルギEkそれぞれの算出結果を表示装置に出力する(ステップS23)。
【0059】
図4及び図5に算出結果の表示例を示す。図4は片持ち梁の例を示し、図5は車体の例を示している。この表示例では、各要素のエネルギの大きさがFEモデルに重ねて疑似色表示されている。また、各位相のエネルギ状態が所定のインターバルで切り替え表示(アニメーション表示)される。ユーザは、このような表示を見ることで、振動エネルギの分布、位相毎の変化などを直感的に把握することができる。
【0060】
なお、本実施形態では、条件入力部20が本発明の位相決定手段として機能し、エネルギ算出手段21が本発明のエネルギ算出手段として機能し、出力部22が本発明の出力手段として機能している。
【0061】
以上述べた本実施形態の構成によれば、各要素について係数C1〜C6を保持するだけでよいので、保持すべきデータ量が極めて小さくて済む。また、それらの係数を用いて、任意の位相における歪エネルギ及び運動エネルギを、式8、式9のような単純かつ少ない計算で求めることができるので、処理の高速化を図ることもできる。しかも、各要素の変位、剛性、質量といった構造物の内部状態量からエネルギを算出しているので、車体のような複雑な三次元構造物のエネルギ状態でも高精度に求めることができる。さらに、加振条件である角振動数ωを自由に選べるので、モデルの固有モードだけでなく、そのモデルに実際に加わると想定される振動(例えば車体の場合であればエンジンの振動など)に応じたエネルギ状態を解析することが可能である。
【0062】
なお、上記実施形態は本発明の一具体例を例示したものにすぎない。本発明の範囲は上記実施形態に限られるものではなく、その技術思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【0063】
例えば、上記実施形態では、歪エネルギと運動エネルギの両方を算出したが、いずれか一方だけを算出するようなシステム構成でも構わない。また、上記実施形態では、各要素の変位、剛性、質量といった情報を有限要素解析結果から取得したが、他の構造解析結果から取得してもよいし、可能であれば実験による計測値を利用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は、振動解析システムの機能構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、前処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】図3は、後処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】図4は、片持ち梁モデルにおけるエネルギ算出結果の表示例を示す図である。
【図5】図5は、車体モデルにおけるエネルギ算出結果の表示例を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
1 前処理部
10 係数計算部
11 特性データベース
2 後処理部
20 条件入力部
21 エネルギ算出部
22 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の要素からなるモデルを角振動数ωで加振した場合の各要素の変位、及び、前記各要素の剛性行列から、式1における係数C1、C2及びC3を算出する係数算出手段と、
前記各要素について算出された係数C1、C2及びC3を記憶する係数記憶手段と、
エネルギを算出すべき位相を決定する位相決定手段と、
決定された位相ωtと予め記憶されている係数C1、C2及びC3から式1に従って各要素の歪エネルギEsを算出するエネルギ算出手段と、
エネルギの算出結果を出力する出力手段と、
を備えることを特徴とする振動解析システム。
【数1】



【請求項2】
複数の要素からなるモデルを角振動数ωで加振した場合の各要素の変位、及び、前記各要素の質量行列から、式2における係数C4、C5及びC6を算出する係数算出手段と、
前記各要素について算出された係数C4、C5及びC6を記憶する係数記憶手段と、
エネルギを算出すべき位相を決定する位相決定手段と、
決定された位相ωtと予め記憶されている係数C4、C5及びC6から式2に従って各要素の運動エネルギEkを算出するエネルギ算出手段と、
エネルギの算出結果を出力する出力手段と、
を備えることを特徴とする振動解析システム。
【数2】



【請求項3】
前記各要素の変位は有限要素法によって算出されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の振動解析システム。
【請求項4】
前記モデルは車体のモデルであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の振動解析システム。
【請求項5】
前記位相決定手段は、位相の分割数をユーザに指定させ、指定された分割数からエネルギを算出すべき複数の位相を決定することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の振動解析システム。
【請求項6】
前記出力手段は、前記各要素のエネルギの大きさを前記モデルに重ねて疑似色表示することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の振動解析システム。
【請求項7】
コンピュータが、
複数の要素からなるモデルを角振動数ωで加振した場合の各要素の変位、及び、前記各要素の剛性行列から、式1における係数C1、C2及びC3を算出する処理と、
前記各要素について算出された係数C1、C2及びC3を予め記憶する処理と、
を含む前処理を実行した後に、
コンピュータが、
エネルギを算出すべき位相を決定する処理と、
決定された位相ωtと予め記憶されている係数C1、C2及びC3から式1に従って各要素の歪エネルギEsを算出する処理と、
エネルギの算出結果を出力する処理と、
を実行することを特徴とする振動解析方法。
【数3】



【請求項8】
コンピュータが、
複数の要素からなるモデルを角振動数ωで加振した場合の各要素の変位、及び、前記各要素の質量行列から、式2における係数C4、C5及びC6を算出する処理と、
前記各要素について算出された係数C4、C5及びC6を予め記憶する処理と、
を含む前処理を実行した後に、
コンピュータが、
エネルギを算出すべき位相を決定する処理と、
決定された位相ωtと予め記憶されている係数C4、C5及びC6から式2に従って各要素の運動エネルギEkを算出する処理と、
エネルギの算出結果を出力する処理と、
を実行することを特徴とする振動解析方法。
【数4】



【請求項9】
コンピュータを、
複数の要素からなるモデルを角振動数ωで加振した場合の各要素の変位、及び、前記各要素の剛性行列から、式1における係数C1、C2及びC3を算出する係数算出手段と、
前記各要素について算出された係数C1、C2及びC3を記憶する係数記憶手段と、
エネルギを算出すべき位相を決定する位相決定手段と、
決定された位相ωtと予め記憶されている係数C1、C2及びC3から式1に従って各要素の歪エネルギEsを算出するエネルギ算出手段と、
エネルギの算出結果を出力する出力手段と、
して機能させることを特徴とする振動解析プログラム。
【数5】



【請求項10】
コンピュータを、
複数の要素からなるモデルを角振動数ωで加振した場合の各要素の変位、及び、前記各要素の質量行列から、式2における係数C4、C5及びC6を算出する係数算出手段と、
前記各要素について算出された係数C4、C5及びC6を記憶する係数記憶手段と、
エネルギを算出すべき位相を決定する位相決定手段と、
決定された位相ωtと予め記憶されている係数C4、C5及びC6から式2に従って各要素の運動エネルギEkを算出するエネルギ算出手段と、
エネルギの算出結果を出力する出力手段と、
して機能させることを特徴とする振動解析プログラム。
【数6】



【請求項11】
請求項9又は10に記載の振動解析プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−292647(P2007−292647A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−122001(P2006−122001)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】