振動解析システム
【課題】振動エネルギの伝達の様子を正確に且つ分かり易く可視化できる技術を提供する。
【解決手段】振動解析システムが、モデルを構成する複数の要素のそれぞれについて、前記要素を伝わる振動エネルギの大きさ及びその伝達方向を表す伝達ベクトルを算出する伝達ベクトル算出手段と、算出された伝達ベクトルを前記モデルとともに表示する出力手段と、を備える。ここで、出力手段は、各要素の伝達ベクトルを同じサイズの矢尻図形で表す。矢尻図形の先端の向きが振動エネルギの伝達方向を表し、矢尻図形の色が振動エネルギの大きさ(伝達量)を表している。
【解決手段】振動解析システムが、モデルを構成する複数の要素のそれぞれについて、前記要素を伝わる振動エネルギの大きさ及びその伝達方向を表す伝達ベクトルを算出する伝達ベクトル算出手段と、算出された伝達ベクトルを前記モデルとともに表示する出力手段と、を備える。ここで、出力手段は、各要素の伝達ベクトルを同じサイズの矢尻図形で表す。矢尻図形の先端の向きが振動エネルギの伝達方向を表し、矢尻図形の色が振動エネルギの大きさ(伝達量)を表している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の振動現象の解析を支援する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両開発においては、車体の振動や騒音の低減が重要な課題の一つである。しかし振動現象は目に見えないため、その発生要因を的確に捉えることは難しい。そこでかねてより、三次元構造物における振動エネルギ(運動エネルギ、歪エネルギ)の分布、位相毎の変化、伝達経路などを、コンピュータによって高精度に解析し、可視化するシステムの登場が望まれていた。
【0003】
非特許文献1には、インテンシティ法を用いて乗用車の外板における過渡振動エネルギ流れを計測し、計測した結果を矢印により表示するシステムが開示されている。非特許文献1のシステムのように、従来は、振動エネルギの大きさ(伝達量)を矢印の線長で表し、振動エネルギの伝達方向を矢印の向きで表すという表示方法が一般的であった。
【0004】
しかし従来の表示方法には次のような問題がある。エネルギの伝達量が小さいところでは矢印が非常に細かくなるので、矢印の向きを判別しづらい。その一方で、伝達量が大きいところでは、長い矢印が密集し、それらが互いに重なったり錯綜したりするので、全体としてエネルギの伝達方向を把握しづらい。したがって、振動エネルギの伝達の様子を直感的に理解するのが難しく、主伝達経路の特定が困難であった。
【特許文献1】特開平11−148858号公報
【特許文献2】特開2001−255200号公報
【非特許文献1】小嶋、外3名,「インテンシティ法を用いた乗用車外板における過渡振動エネルギ流れ計測」,自動車技術会論文集,Vol.31,No.2,April 2000,p.23−28
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、振動エネルギの伝達の様子を正確に且つ分かり易く可視化できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明では、以下の構成を採用する。
【0007】
本発明の第1態様は、モデルを構成する複数の要素のそれぞれについて、前記要素を伝わる振動エネルギの大きさ及びその伝達方向を表す伝達ベクトルを算出する伝達ベクトル算出手段と、算出された伝達ベクトルを前記モデルとともに表示する出力手段と、を備える振動解析システムである。ここで、前記出力手段は、前記各要素の伝達ベクトルを同じサイズの矢尻図形で表す。
【0008】
この構成によれば、振動エネルギの大小によらず同サイズの矢尻図形で伝達ベクトルが表示される。よって、エネルギ伝達量が小さい箇所でも伝達方向を正確且つ容易に判別できるし、エネルギ伝達量が大きい箇所でも伝達ベクトル同士の重なりが無くなる(若しくは可及的に少なくなる)ので、伝達方向の把握が容易になる。したがって、振動エネルギの伝達の様子を直感的に理解でき、主伝達経路の特定が容易になる。
【0009】
前記出力手段は、前記矢尻図形の先端の向きで、振動エネルギの伝達方向を表すことが
好ましい。
【0010】
前記出力手段は、前記矢尻図形の色で、振動エネルギの大きさを表すことが好ましい。例えば、出力手段は、振動エネルギの大きさに応じて連続的若しくは段階的に矢尻図形の色を変化させるとよい。このとき、出力手段は、矢尻図形の色を、振動エネルギの大きさに対して線形に変化させてもよいし、振動エネルギの大きさに対して非線形に変化させてもよい。非線形なスケールとしては、例えば対数スケールを用いることができる。
【0011】
前記出力手段は、振動エネルギの大きさが表示条件を満たさない伝達ベクトルを非表示にすることが好ましい。注目すべき伝達ベクトルのみを表示状態にすることで、主伝達経路の特定が容易になる。表示条件としては、振動エネルギの値の下限値や上限値などを好ましく採用できる。出力手段が、表示条件をユーザに入力させることも好ましい。
【0012】
なお、本発明は、上記手段の少なくとも一部を有する振動解析システムとして捉えることができる。また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む振動解析方法、又は、かかる方法を実現するためのプログラム、又は、そのプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体として捉えることもできる。上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【0013】
例えば、本発明の第2態様としての振動解析方法は、コンピュータが、モデルを構成する複数の要素のそれぞれについて、前記要素を伝わる振動エネルギの大きさ及びその伝達方向を表す伝達ベクトルを算出する算出処理と、算出された伝達ベクトルを前記モデルとともに表示する出力処理と、を実行し、前記出力処理において、前記各要素の伝達ベクトルを同じサイズの矢尻図形で表すものである。
【0014】
また、本発明の第3態様としてのプログラムは、コンピュータを、モデルを構成する複数の要素のそれぞれについて、前記要素を伝わる振動エネルギの大きさ及びその伝達方向を表す伝達ベクトルを算出する伝達ベクトル算出手段と、算出された伝達ベクトルを前記モデルとともに表示する出力手段と、して機能させるプログラムであって、前記出力手段は、前記各要素の伝達ベクトルを同じサイズの矢尻図形で表すものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、振動エネルギの伝達の様子を正確に且つ分かり易く可視化することができる。これにより、振動エネルギの主伝達経路の特定が容易になり、振動の発生要因の究明や対策の立案に役立てることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
【0017】
本発明の実施形態に係る振動解析システムは、車体などの三次元構造物における振動エネルギの状態を解析し、その振動エネルギの伝達経路を可視化することによって、振動の発生要因の究明や対策立案を支援するためのものである。
【0018】
<伝達ベクトルの算出手法>
振動解析システムの具体的構成の説明に入る前に、本実施形態における伝達ベクトルの算出手法の基本的な考え方について説明を行う。
【0019】
三次元構造物における振動エネルギを高精度に解析するには、構造内部の状態量(変位)や内力(軸力、せん断力、モーメント)を用いることが望ましい。ところが、そのような内部状態量や内力は実験で計測することが極めて困難である。そこで本実施形態では、
コンピュータによる構造解析によって内部状態量及び内力の算出を行う。
【0020】
構造解析手法としては、有限要素法(FEM:Finite Element Method)を用いる。有
限要素法では、三次元構造物が多数の要素(板要素、梁要素等)から構成されるFEモデルで表される。例えば車体であれば百万個程度の要素からなるFEモデルが用いられる。そのFEモデルに対して加振点や角振動数などの加振条件を与えると、各要素に作用する内力、各要素の節点の変位などが算出される。また、FEモデルの各要素は体積や材質の情報も有しており、これらの情報から要素毎の剛性行列及び質量行列も算出される。
【0021】
振動解析システムは、有限要素解析の結果として得られた、各要素の節点の変位及び各要素に作用する内力を用いて、要素内を伝わる振動エネルギを表す伝達ベクトルを算出する。内力としては、軸力、せん断力、横せん断力、曲げモーメント、ねじりモーメントを考慮する。
【0022】
本実施形態では、「エネルギ平衡状態を保つために、振動エネルギは仕事が大きい方から小さい方へ伝達する」との仮定の下、伝達ベクトルを2点間の仕事率の差として定義した。これにより、比較的簡単な計算で高精度に伝達ベクトルを算出することができる。なお、仕事率は、単位時間当たりの仕事であり、具体的には内力に速度(変位の時間微分)を乗じることで算出できる。「仕事率の差」としたのは、「仕事の差」とした場合、減衰が無い系(若しくは減衰が極めて小さい系)においては、1周期で考えたときに、2点間の仕事の差が0(若しくはほぼ0)となり、2点間のエネルギ伝達を正確に捉えることができなくなってしまうからである。
【0023】
以下、図1に示すように、xy平面が矩形をなし、且つ、z軸方向に厚みを有する板要素を例にとり、伝達ベクトルの算出手法を説明する。板要素は4つの節点P1〜P4をもち、各節点はx、y、z軸方向の移動とx、y、z軸回りの回転(角変位)の6自由度を有している。よって、板要素の変位uは下記式のように24個の成分からなるベクトルで表される。なお、ここでいうところのx,y,zは要素座標系である。もし有限要素解析の結果が全体座標系で得られている場合には、全体座標から要素座標への座標変換を行う必要がある。
【数1】
【0024】
節点の速度は変位を時間微分することによって下記の通り求まる。
【数2】
【0025】
ここで、x軸方向に向かい合う2つの側面をそれぞれ面A、面Bとし、x軸での軸力Fx、横せん断力Fxy、x軸のせん断力Vx、x軸周りの曲げモーメントMy、及び、ねじりモーメントMxyが面A,Bのそれぞれの重心である点(質点)PA,PBに作用するものとする。同様に、y軸方向に向かい合う2つの側面をそれぞれ面C、面Dとし、y軸での軸力Fy、横せん断力Fxy、y軸のせん断力Vy、y軸周りの曲げモーメントMx、及び、ねじりモーメントMxyが面C,Dのそれぞれの重心である点(質点)PC,PDに作用するものとする。
【0026】
点PAの速度は、節点P1とP3の速度を線形補間することにより次のように求まる。
【数3】
【0027】
同様に、点PBの速度は節点P2とP4の速度から、点PCの速度は節点P1とP2の速度から、点PDの速度は節点P3とP4の速度から求まる。
【0028】
(1)軸力
図2は、x軸での軸力Fxが作用した場合の振動エネルギの伝達方向を模式的に示したものである。点PA,PBに図示のように軸力Fxが作用した場合、その振動エネルギはx軸方向(点PAとPBを結ぶ方向)に伝達すると考えられる。そして、単位時間当たりに伝達される振動エネルギの大きさは、点PAと点PB間での軸力Fxによる仕事率の差として定義することができ、具体的には下記式で表すことができる。
【数4】
【0029】
(2)横せん断力
図3は、横せん断力Fxyが作用した場合の振動エネルギの伝達方向を模式的に示したものである。点PA,PBに図示のように横せん断力Fxyが作用した場合、その振動エネルギはx軸方向に伝達すると考えられる。そして、単位時間当たりに伝達される振動エネルギの大きさは、点PAと点PB間での横せん断力Fxyによる仕事率の差として定義することができ、具体的には下記式で表すことができる。
【数5】
【0030】
(3)せん断力
図4は、x軸のせん断力Vxが作用した場合の振動エネルギの伝達方向を模式的に示したものである。点PA,PBに図示のようにせん断力Vxが作用した場合、その振動エネルギはx軸方向に伝達すると考えられる。そして、単位時間当たりに伝達される振動エネルギの大きさは、点PAと点PB間でのせん断力Vxによる仕事率の差として定義することができ、具体的には下記式で表すことができる。
【数6】
【0031】
(4)曲げモーメント
図5は、x軸周りの曲げモーメントMyが作用した場合の振動エネルギの伝達方向を模式的に示したものである。点PA,PBに図示のように曲げモーメントMyが作用した場合、その振動エネルギはx軸方向に伝達すると考えられる。そして、単位時間当たりに伝
達される振動エネルギの大きさは、点PAと点PB間での曲げモーメントMyによる仕事率の差として定義することができ、具体的には下記式で表すことができる。
【数7】
【0032】
(5)ねじりモーメント
図6は、ねじりモーメントMxyが作用した場合の振動エネルギの伝達方向を模式的に示したものである。点PA,PBに図示のようにねじりモーメントMxyが作用した場合、その振動エネルギはx軸方向に伝達すると考えられる。そして、単位時間当たりに伝達される振動エネルギの大きさは、点PAと点PB間でのねじりモーメントMxyによる仕事率の差として定義することができ、具体的には下記式で表すことができる。
【数8】
【0033】
以上より、伝達ベクトルのx軸方向成分VIxは、式4で表すことができる。
【数9】
【0034】
同様にして、伝達ベクトルのy軸方向成分VIyは、式5で表すことができる。
【数10】
【0035】
なお、ここでは、図1に示す板要素を例にとり説明を行ったが、他の形状の要素についても、質点PA〜PDを適宜設定すれば上記式4、式5を用いて伝達ベクトルを算出することができる。
【0036】
では次に、上記式4及び式5を利用する振動解析システムの一構成例を具体的に説明する。
【0037】
<システム構成>
図7は、振動解析システムの機能構成を示すブロック図である。
【0038】
振動解析システムは、伝達ベクトルを算出する伝達ベクトル算出部1と、算出結果を記憶する特性値データベース2と、算出結果を出力する出力部3とから構成される。
【0039】
この振動解析システムは、典型的には、演算処理装置(CPU)、主記憶装置(メモリ)、補助記憶装置(ハードディスクなど)、表示装置、入力装置(マウス、キーボードなど)を備えた汎用のコンピュータと、このコンピュータで動作するプログラムから構成可能である。図7に示す機能要素は、演算処理装置がプログラムを実行し、必要に応じて主
記憶装置、補助記憶装置、表示装置、入力装置などのハードウエア資源を制御することで実現されるものである。ただし、これらの機能要素の一部を専用のチップで代替しても構わない。また、これらの機能要素の全てが単一のコンピュータで実行される必要はなく、複数のコンピュータが協働して振動解析システムを構成してもよい。
【0040】
<伝達ベクトルの算出処理>
図8は、伝達ベクトルの算出処理の流れを示すフローチャートである。
【0041】
伝達ベクトル算出部1は、有限要素解析の結果を、記憶媒体若しくはネットワークを介して取得する(ステップS10)。ここで取得する情報には、少なくとも、FEモデルを所定の角振動数ωで加振した場合の各要素の変位と各要素に作用する内力(軸力、せん断力、横せん断力、曲げモーメント、ねじりモーメント)とが含まれている。
【0042】
次に、伝達ベクトル算出部1は、各要素の節点の変位から節点の速度を算出する(ステップS11)。変位から速度への変換は、時間微分を行えばよい(式2参照)。
【0043】
次に、伝達ベクトル算出部1は、節点の速度から、内力の作用点PA〜PDにおける速度を算出する(ステップS12)。作用点における速度は、節点の速度を線形補間することにより算出することができる(式3参照)。
【0044】
次に、伝達ベクトル算出部1は、ステップS12で算出した作用点の速度を全体座標系から要素座標系に変換する(ステップS13)。ただし、ステップS10で取得した変位が元々要素座標系であったなら、ここでの座標変換処理は不要である。なお、ステップS11〜S13の処理はどのような順番で行っても同様の結果を得ることができる。
【0045】
次に、伝達ベクトル算出部1は、ステップS10で取得した各要素の内力と、ステップS13で算出した各要素の各作用点の速度とから、式4及び式5に従って各要素の伝達ベクトルを算出する(ステップS14)。この算出結果は、特性値データベース2に順次格納される。
【0046】
<伝達ベクトルの出力処理>
伝達ベクトルの算出処理が終了した後は、ポストプロセッサである出力部3にて、FEモデル全体の振動エネルギの伝達状態を表示、確認することができる。
【0047】
図9に、平板における伝達ベクトルの表示例を示す。また比較例として、図10に、従来の矢印を用いた表示例を示す。
【0048】
図10の従来の表示例では、矢印の向きが振動エネルギの伝達方向を、矢印線の長さが振動エネルギの大きさ(伝達量)を表している。しかし、この表示方法では、エネルギ伝達量が小さいところでは矢印が非常に細かくなる(不鮮明になる)ため、またエネルギ伝達量が大きいところでは矢印同士が重なったり錯綜したりするため、全体的にエネルギの伝達方向を把握しづらい。
【0049】
これに対して、本実施形態の出力部3は、図9に示すように、各要素の伝達ベクトルを同サイズの矢尻図形で表し、それらをFEモデルに重ねて表示する、という表示方法を採る。ここで、矢尻図形の先端の向きが振動エネルギの伝達方向を表している。また、矢尻図形はいわゆる疑似色表示されており、振動エネルギの大きさに応じて連続的若しくは段階的に色が変化している。つまり、矢尻図形の色は振動エネルギの伝達量を表している。
【0050】
このような表示方法によれば、エネルギ伝達量が小さい箇所でも伝達方向を正確且つ容
易に判別できるし、エネルギ伝達量が大きい箇所でも伝達ベクトル同士の重なりが無くなるので、伝達方向の把握が容易になる。また矢尻形状の色を見ることでエネルギ伝達量の大小を把握できる。したがって、振動エネルギの伝達の様子を直感的に理解でき、主伝達経路の特定が容易になる。
【0051】
さらに、本実施形態の出力部3は、伝達ベクトルの表示態様を変更するための表示設定機能を有している。図11は、表示設定機能の設定画面の一例である。
【0052】
この設定画面において、「角度」は矢尻図形の先端の角度を指定するための入力欄であり、「サイズ」は矢尻図形の大きさを指定するための入力欄である(図12参照)。これらの入力欄に希望の値を入力することで、ユーザは矢尻図形の形状及び大きさを自由に変更することができる。これにより、伝達ベクトルの出力画面(図9参照)の見やすさの向上を図ることができる。
【0053】
また、図11の設定画面における「対数」は、矢尻図形の色と振動エネルギの大きさの相関を変更するためのチェックボックスである。チェック無しの場合、矢尻図形の色は、振動エネルギの大きさに対して線形に変化する。一方、チェック有りの場合、振動エネルギの大きさが対数スケールをとり、振動エネルギの大きさに対して矢尻図形の色が非線形に変化する。振動エネルギのダイナミックレンジが広い場合に前者(リニアスケール)で疑似色表示すると、矢尻図形の色が同じような色相に偏ってしまい、エネルギ伝達量の分布を把握しづらいことがある。このような場合には、対数スケールでの表示が有利である。
【0054】
また、図11の設定画面における「表示条件」は、表示状態とする矢尻図形の条件を指定するための入力欄である。具体的には、振動エネルギの下限値や上限値を入力することができる。例えば、表示条件として下限値「3」が入力されると、出力部3は振動エネルギの値が3以下の矢尻図形(伝達ベクトル)を非表示にする。図13は振動エネルギの小さな矢尻図形を非表示にした表示例である。図9と図13の比較から分かるように、振動エネルギがある程度大きい伝達ベクトルのみを表示状態にすることで、主伝達経路の特定が極めて容易になる。
【0055】
図14は、車体モデルにおける伝達ベクトルの表示例である。このような表示を見ることで、加振点で発生した振動がどのような経路をたどって構造物の各部位に伝達されていくのかを直感的且つ容易に把握できる。例えば、ルーフパネルの振動音が問題となっていたときに図14の解析結果が得られたとする。図14の表示を見ると、エンジンコンパートメント内の振動エネルギがフロントピラーを経由して、ルーフパネルまで伝達し、ルーフパネルの一部分を振動させていることが分かる。これによりルーフパネルの振動音が発生するメカニズムを容易に推測可能である。かかる考察が得られれば、対策として、エンジンコンパートメントからルーフパネルに至る伝達経路のどこかを補強したり、制振材を取り付けたりすればよいことが分かり、適切な対策をとることが容易になる。しかも、伝達経路及び伝達メカニズムが明らかになっていることから、例えば、エンジンコンパートメント内の接合部位の補強、フロントピラーの形状変更、ルーフパネルの肉厚化といったように、対策箇所やその対策内容の自由度が増すため、最も対応(設計変更)が容易な対策をとればよくなる、という利点もある。
【0056】
以上述べた本実施形態の構成によれば、振動エネルギの伝達の様子を正確に且つ分かり易く可視化することができる。これにより、振動エネルギの主伝達経路の特定が容易になり、振動の発生要因の究明や対策の立案に役立てることができる。
【0057】
しかも、本実施形態では、解析対象とする構造物のモデルを複数の要素から構成し、個
々の要素について変位と内力から伝達ベクトルを求めているので、計算(コンピュータ・シミュレーション)により、複雑な構造物(特に三次元構造物)の内部における振動エネルギの伝達経路を精度良く推定することができる。
【0058】
なお、上記実施形態は本発明の一具体例を例示したものにすぎない。本発明の範囲は上記実施形態に限られるものではなく、その技術思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【0059】
例えば、他の方法を用いて算出された伝達ベクトル(振動エネルギの伝達量及び伝達方向)についても、矢尻図形を用いた本発明に係る表示方法で表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、板要素とそこに作用する内力を説明するための図である。
【図2】図2は、軸力Fxが作用した場合の振動エネルギの伝達方向を模式的に示す図である。
【図3】図3は、横せん断力Fxyが作用した場合の振動エネルギの伝達方向を模式的に示す図である。
【図4】図4は、せん断力Vxが作用した場合の振動エネルギの伝達方向を模式的に示す図である。
【図5】図5は、曲げモーメントMyが作用した場合の振動エネルギの伝達方向を模式的に示す図である。
【図6】図6は、ねじりモーメントMxyが作用した場合の振動エネルギの伝達方向を模式的に示す図である。
【図7】図7は、振動解析システムの機能構成を示すブロック図である。
【図8】図8は、伝達ベクトルの算出処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】図9は、本発明の実施形態における伝達ベクトルの表示例である。
【図10】図10は、従来の伝達ベクトルの表示例である。
【図11】図11は、表示設定機能の設定画面の一例を示す図である。
【図12】図12は、矢尻図形の一例を示す図である。
【図13】図13は、振動エネルギの小さな矢尻図形を非表示にした表示例である。
【図14】図14は、車体モデルにおける伝達ベクトルの表示例である。
【符号の説明】
【0061】
1 伝達ベクトル算出部
2 特性値データベース
3 出力部
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の振動現象の解析を支援する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両開発においては、車体の振動や騒音の低減が重要な課題の一つである。しかし振動現象は目に見えないため、その発生要因を的確に捉えることは難しい。そこでかねてより、三次元構造物における振動エネルギ(運動エネルギ、歪エネルギ)の分布、位相毎の変化、伝達経路などを、コンピュータによって高精度に解析し、可視化するシステムの登場が望まれていた。
【0003】
非特許文献1には、インテンシティ法を用いて乗用車の外板における過渡振動エネルギ流れを計測し、計測した結果を矢印により表示するシステムが開示されている。非特許文献1のシステムのように、従来は、振動エネルギの大きさ(伝達量)を矢印の線長で表し、振動エネルギの伝達方向を矢印の向きで表すという表示方法が一般的であった。
【0004】
しかし従来の表示方法には次のような問題がある。エネルギの伝達量が小さいところでは矢印が非常に細かくなるので、矢印の向きを判別しづらい。その一方で、伝達量が大きいところでは、長い矢印が密集し、それらが互いに重なったり錯綜したりするので、全体としてエネルギの伝達方向を把握しづらい。したがって、振動エネルギの伝達の様子を直感的に理解するのが難しく、主伝達経路の特定が困難であった。
【特許文献1】特開平11−148858号公報
【特許文献2】特開2001−255200号公報
【非特許文献1】小嶋、外3名,「インテンシティ法を用いた乗用車外板における過渡振動エネルギ流れ計測」,自動車技術会論文集,Vol.31,No.2,April 2000,p.23−28
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、振動エネルギの伝達の様子を正確に且つ分かり易く可視化できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明では、以下の構成を採用する。
【0007】
本発明の第1態様は、モデルを構成する複数の要素のそれぞれについて、前記要素を伝わる振動エネルギの大きさ及びその伝達方向を表す伝達ベクトルを算出する伝達ベクトル算出手段と、算出された伝達ベクトルを前記モデルとともに表示する出力手段と、を備える振動解析システムである。ここで、前記出力手段は、前記各要素の伝達ベクトルを同じサイズの矢尻図形で表す。
【0008】
この構成によれば、振動エネルギの大小によらず同サイズの矢尻図形で伝達ベクトルが表示される。よって、エネルギ伝達量が小さい箇所でも伝達方向を正確且つ容易に判別できるし、エネルギ伝達量が大きい箇所でも伝達ベクトル同士の重なりが無くなる(若しくは可及的に少なくなる)ので、伝達方向の把握が容易になる。したがって、振動エネルギの伝達の様子を直感的に理解でき、主伝達経路の特定が容易になる。
【0009】
前記出力手段は、前記矢尻図形の先端の向きで、振動エネルギの伝達方向を表すことが
好ましい。
【0010】
前記出力手段は、前記矢尻図形の色で、振動エネルギの大きさを表すことが好ましい。例えば、出力手段は、振動エネルギの大きさに応じて連続的若しくは段階的に矢尻図形の色を変化させるとよい。このとき、出力手段は、矢尻図形の色を、振動エネルギの大きさに対して線形に変化させてもよいし、振動エネルギの大きさに対して非線形に変化させてもよい。非線形なスケールとしては、例えば対数スケールを用いることができる。
【0011】
前記出力手段は、振動エネルギの大きさが表示条件を満たさない伝達ベクトルを非表示にすることが好ましい。注目すべき伝達ベクトルのみを表示状態にすることで、主伝達経路の特定が容易になる。表示条件としては、振動エネルギの値の下限値や上限値などを好ましく採用できる。出力手段が、表示条件をユーザに入力させることも好ましい。
【0012】
なお、本発明は、上記手段の少なくとも一部を有する振動解析システムとして捉えることができる。また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む振動解析方法、又は、かかる方法を実現するためのプログラム、又は、そのプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体として捉えることもできる。上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【0013】
例えば、本発明の第2態様としての振動解析方法は、コンピュータが、モデルを構成する複数の要素のそれぞれについて、前記要素を伝わる振動エネルギの大きさ及びその伝達方向を表す伝達ベクトルを算出する算出処理と、算出された伝達ベクトルを前記モデルとともに表示する出力処理と、を実行し、前記出力処理において、前記各要素の伝達ベクトルを同じサイズの矢尻図形で表すものである。
【0014】
また、本発明の第3態様としてのプログラムは、コンピュータを、モデルを構成する複数の要素のそれぞれについて、前記要素を伝わる振動エネルギの大きさ及びその伝達方向を表す伝達ベクトルを算出する伝達ベクトル算出手段と、算出された伝達ベクトルを前記モデルとともに表示する出力手段と、して機能させるプログラムであって、前記出力手段は、前記各要素の伝達ベクトルを同じサイズの矢尻図形で表すものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、振動エネルギの伝達の様子を正確に且つ分かり易く可視化することができる。これにより、振動エネルギの主伝達経路の特定が容易になり、振動の発生要因の究明や対策の立案に役立てることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
【0017】
本発明の実施形態に係る振動解析システムは、車体などの三次元構造物における振動エネルギの状態を解析し、その振動エネルギの伝達経路を可視化することによって、振動の発生要因の究明や対策立案を支援するためのものである。
【0018】
<伝達ベクトルの算出手法>
振動解析システムの具体的構成の説明に入る前に、本実施形態における伝達ベクトルの算出手法の基本的な考え方について説明を行う。
【0019】
三次元構造物における振動エネルギを高精度に解析するには、構造内部の状態量(変位)や内力(軸力、せん断力、モーメント)を用いることが望ましい。ところが、そのような内部状態量や内力は実験で計測することが極めて困難である。そこで本実施形態では、
コンピュータによる構造解析によって内部状態量及び内力の算出を行う。
【0020】
構造解析手法としては、有限要素法(FEM:Finite Element Method)を用いる。有
限要素法では、三次元構造物が多数の要素(板要素、梁要素等)から構成されるFEモデルで表される。例えば車体であれば百万個程度の要素からなるFEモデルが用いられる。そのFEモデルに対して加振点や角振動数などの加振条件を与えると、各要素に作用する内力、各要素の節点の変位などが算出される。また、FEモデルの各要素は体積や材質の情報も有しており、これらの情報から要素毎の剛性行列及び質量行列も算出される。
【0021】
振動解析システムは、有限要素解析の結果として得られた、各要素の節点の変位及び各要素に作用する内力を用いて、要素内を伝わる振動エネルギを表す伝達ベクトルを算出する。内力としては、軸力、せん断力、横せん断力、曲げモーメント、ねじりモーメントを考慮する。
【0022】
本実施形態では、「エネルギ平衡状態を保つために、振動エネルギは仕事が大きい方から小さい方へ伝達する」との仮定の下、伝達ベクトルを2点間の仕事率の差として定義した。これにより、比較的簡単な計算で高精度に伝達ベクトルを算出することができる。なお、仕事率は、単位時間当たりの仕事であり、具体的には内力に速度(変位の時間微分)を乗じることで算出できる。「仕事率の差」としたのは、「仕事の差」とした場合、減衰が無い系(若しくは減衰が極めて小さい系)においては、1周期で考えたときに、2点間の仕事の差が0(若しくはほぼ0)となり、2点間のエネルギ伝達を正確に捉えることができなくなってしまうからである。
【0023】
以下、図1に示すように、xy平面が矩形をなし、且つ、z軸方向に厚みを有する板要素を例にとり、伝達ベクトルの算出手法を説明する。板要素は4つの節点P1〜P4をもち、各節点はx、y、z軸方向の移動とx、y、z軸回りの回転(角変位)の6自由度を有している。よって、板要素の変位uは下記式のように24個の成分からなるベクトルで表される。なお、ここでいうところのx,y,zは要素座標系である。もし有限要素解析の結果が全体座標系で得られている場合には、全体座標から要素座標への座標変換を行う必要がある。
【数1】
【0024】
節点の速度は変位を時間微分することによって下記の通り求まる。
【数2】
【0025】
ここで、x軸方向に向かい合う2つの側面をそれぞれ面A、面Bとし、x軸での軸力Fx、横せん断力Fxy、x軸のせん断力Vx、x軸周りの曲げモーメントMy、及び、ねじりモーメントMxyが面A,Bのそれぞれの重心である点(質点)PA,PBに作用するものとする。同様に、y軸方向に向かい合う2つの側面をそれぞれ面C、面Dとし、y軸での軸力Fy、横せん断力Fxy、y軸のせん断力Vy、y軸周りの曲げモーメントMx、及び、ねじりモーメントMxyが面C,Dのそれぞれの重心である点(質点)PC,PDに作用するものとする。
【0026】
点PAの速度は、節点P1とP3の速度を線形補間することにより次のように求まる。
【数3】
【0027】
同様に、点PBの速度は節点P2とP4の速度から、点PCの速度は節点P1とP2の速度から、点PDの速度は節点P3とP4の速度から求まる。
【0028】
(1)軸力
図2は、x軸での軸力Fxが作用した場合の振動エネルギの伝達方向を模式的に示したものである。点PA,PBに図示のように軸力Fxが作用した場合、その振動エネルギはx軸方向(点PAとPBを結ぶ方向)に伝達すると考えられる。そして、単位時間当たりに伝達される振動エネルギの大きさは、点PAと点PB間での軸力Fxによる仕事率の差として定義することができ、具体的には下記式で表すことができる。
【数4】
【0029】
(2)横せん断力
図3は、横せん断力Fxyが作用した場合の振動エネルギの伝達方向を模式的に示したものである。点PA,PBに図示のように横せん断力Fxyが作用した場合、その振動エネルギはx軸方向に伝達すると考えられる。そして、単位時間当たりに伝達される振動エネルギの大きさは、点PAと点PB間での横せん断力Fxyによる仕事率の差として定義することができ、具体的には下記式で表すことができる。
【数5】
【0030】
(3)せん断力
図4は、x軸のせん断力Vxが作用した場合の振動エネルギの伝達方向を模式的に示したものである。点PA,PBに図示のようにせん断力Vxが作用した場合、その振動エネルギはx軸方向に伝達すると考えられる。そして、単位時間当たりに伝達される振動エネルギの大きさは、点PAと点PB間でのせん断力Vxによる仕事率の差として定義することができ、具体的には下記式で表すことができる。
【数6】
【0031】
(4)曲げモーメント
図5は、x軸周りの曲げモーメントMyが作用した場合の振動エネルギの伝達方向を模式的に示したものである。点PA,PBに図示のように曲げモーメントMyが作用した場合、その振動エネルギはx軸方向に伝達すると考えられる。そして、単位時間当たりに伝
達される振動エネルギの大きさは、点PAと点PB間での曲げモーメントMyによる仕事率の差として定義することができ、具体的には下記式で表すことができる。
【数7】
【0032】
(5)ねじりモーメント
図6は、ねじりモーメントMxyが作用した場合の振動エネルギの伝達方向を模式的に示したものである。点PA,PBに図示のようにねじりモーメントMxyが作用した場合、その振動エネルギはx軸方向に伝達すると考えられる。そして、単位時間当たりに伝達される振動エネルギの大きさは、点PAと点PB間でのねじりモーメントMxyによる仕事率の差として定義することができ、具体的には下記式で表すことができる。
【数8】
【0033】
以上より、伝達ベクトルのx軸方向成分VIxは、式4で表すことができる。
【数9】
【0034】
同様にして、伝達ベクトルのy軸方向成分VIyは、式5で表すことができる。
【数10】
【0035】
なお、ここでは、図1に示す板要素を例にとり説明を行ったが、他の形状の要素についても、質点PA〜PDを適宜設定すれば上記式4、式5を用いて伝達ベクトルを算出することができる。
【0036】
では次に、上記式4及び式5を利用する振動解析システムの一構成例を具体的に説明する。
【0037】
<システム構成>
図7は、振動解析システムの機能構成を示すブロック図である。
【0038】
振動解析システムは、伝達ベクトルを算出する伝達ベクトル算出部1と、算出結果を記憶する特性値データベース2と、算出結果を出力する出力部3とから構成される。
【0039】
この振動解析システムは、典型的には、演算処理装置(CPU)、主記憶装置(メモリ)、補助記憶装置(ハードディスクなど)、表示装置、入力装置(マウス、キーボードなど)を備えた汎用のコンピュータと、このコンピュータで動作するプログラムから構成可能である。図7に示す機能要素は、演算処理装置がプログラムを実行し、必要に応じて主
記憶装置、補助記憶装置、表示装置、入力装置などのハードウエア資源を制御することで実現されるものである。ただし、これらの機能要素の一部を専用のチップで代替しても構わない。また、これらの機能要素の全てが単一のコンピュータで実行される必要はなく、複数のコンピュータが協働して振動解析システムを構成してもよい。
【0040】
<伝達ベクトルの算出処理>
図8は、伝達ベクトルの算出処理の流れを示すフローチャートである。
【0041】
伝達ベクトル算出部1は、有限要素解析の結果を、記憶媒体若しくはネットワークを介して取得する(ステップS10)。ここで取得する情報には、少なくとも、FEモデルを所定の角振動数ωで加振した場合の各要素の変位と各要素に作用する内力(軸力、せん断力、横せん断力、曲げモーメント、ねじりモーメント)とが含まれている。
【0042】
次に、伝達ベクトル算出部1は、各要素の節点の変位から節点の速度を算出する(ステップS11)。変位から速度への変換は、時間微分を行えばよい(式2参照)。
【0043】
次に、伝達ベクトル算出部1は、節点の速度から、内力の作用点PA〜PDにおける速度を算出する(ステップS12)。作用点における速度は、節点の速度を線形補間することにより算出することができる(式3参照)。
【0044】
次に、伝達ベクトル算出部1は、ステップS12で算出した作用点の速度を全体座標系から要素座標系に変換する(ステップS13)。ただし、ステップS10で取得した変位が元々要素座標系であったなら、ここでの座標変換処理は不要である。なお、ステップS11〜S13の処理はどのような順番で行っても同様の結果を得ることができる。
【0045】
次に、伝達ベクトル算出部1は、ステップS10で取得した各要素の内力と、ステップS13で算出した各要素の各作用点の速度とから、式4及び式5に従って各要素の伝達ベクトルを算出する(ステップS14)。この算出結果は、特性値データベース2に順次格納される。
【0046】
<伝達ベクトルの出力処理>
伝達ベクトルの算出処理が終了した後は、ポストプロセッサである出力部3にて、FEモデル全体の振動エネルギの伝達状態を表示、確認することができる。
【0047】
図9に、平板における伝達ベクトルの表示例を示す。また比較例として、図10に、従来の矢印を用いた表示例を示す。
【0048】
図10の従来の表示例では、矢印の向きが振動エネルギの伝達方向を、矢印線の長さが振動エネルギの大きさ(伝達量)を表している。しかし、この表示方法では、エネルギ伝達量が小さいところでは矢印が非常に細かくなる(不鮮明になる)ため、またエネルギ伝達量が大きいところでは矢印同士が重なったり錯綜したりするため、全体的にエネルギの伝達方向を把握しづらい。
【0049】
これに対して、本実施形態の出力部3は、図9に示すように、各要素の伝達ベクトルを同サイズの矢尻図形で表し、それらをFEモデルに重ねて表示する、という表示方法を採る。ここで、矢尻図形の先端の向きが振動エネルギの伝達方向を表している。また、矢尻図形はいわゆる疑似色表示されており、振動エネルギの大きさに応じて連続的若しくは段階的に色が変化している。つまり、矢尻図形の色は振動エネルギの伝達量を表している。
【0050】
このような表示方法によれば、エネルギ伝達量が小さい箇所でも伝達方向を正確且つ容
易に判別できるし、エネルギ伝達量が大きい箇所でも伝達ベクトル同士の重なりが無くなるので、伝達方向の把握が容易になる。また矢尻形状の色を見ることでエネルギ伝達量の大小を把握できる。したがって、振動エネルギの伝達の様子を直感的に理解でき、主伝達経路の特定が容易になる。
【0051】
さらに、本実施形態の出力部3は、伝達ベクトルの表示態様を変更するための表示設定機能を有している。図11は、表示設定機能の設定画面の一例である。
【0052】
この設定画面において、「角度」は矢尻図形の先端の角度を指定するための入力欄であり、「サイズ」は矢尻図形の大きさを指定するための入力欄である(図12参照)。これらの入力欄に希望の値を入力することで、ユーザは矢尻図形の形状及び大きさを自由に変更することができる。これにより、伝達ベクトルの出力画面(図9参照)の見やすさの向上を図ることができる。
【0053】
また、図11の設定画面における「対数」は、矢尻図形の色と振動エネルギの大きさの相関を変更するためのチェックボックスである。チェック無しの場合、矢尻図形の色は、振動エネルギの大きさに対して線形に変化する。一方、チェック有りの場合、振動エネルギの大きさが対数スケールをとり、振動エネルギの大きさに対して矢尻図形の色が非線形に変化する。振動エネルギのダイナミックレンジが広い場合に前者(リニアスケール)で疑似色表示すると、矢尻図形の色が同じような色相に偏ってしまい、エネルギ伝達量の分布を把握しづらいことがある。このような場合には、対数スケールでの表示が有利である。
【0054】
また、図11の設定画面における「表示条件」は、表示状態とする矢尻図形の条件を指定するための入力欄である。具体的には、振動エネルギの下限値や上限値を入力することができる。例えば、表示条件として下限値「3」が入力されると、出力部3は振動エネルギの値が3以下の矢尻図形(伝達ベクトル)を非表示にする。図13は振動エネルギの小さな矢尻図形を非表示にした表示例である。図9と図13の比較から分かるように、振動エネルギがある程度大きい伝達ベクトルのみを表示状態にすることで、主伝達経路の特定が極めて容易になる。
【0055】
図14は、車体モデルにおける伝達ベクトルの表示例である。このような表示を見ることで、加振点で発生した振動がどのような経路をたどって構造物の各部位に伝達されていくのかを直感的且つ容易に把握できる。例えば、ルーフパネルの振動音が問題となっていたときに図14の解析結果が得られたとする。図14の表示を見ると、エンジンコンパートメント内の振動エネルギがフロントピラーを経由して、ルーフパネルまで伝達し、ルーフパネルの一部分を振動させていることが分かる。これによりルーフパネルの振動音が発生するメカニズムを容易に推測可能である。かかる考察が得られれば、対策として、エンジンコンパートメントからルーフパネルに至る伝達経路のどこかを補強したり、制振材を取り付けたりすればよいことが分かり、適切な対策をとることが容易になる。しかも、伝達経路及び伝達メカニズムが明らかになっていることから、例えば、エンジンコンパートメント内の接合部位の補強、フロントピラーの形状変更、ルーフパネルの肉厚化といったように、対策箇所やその対策内容の自由度が増すため、最も対応(設計変更)が容易な対策をとればよくなる、という利点もある。
【0056】
以上述べた本実施形態の構成によれば、振動エネルギの伝達の様子を正確に且つ分かり易く可視化することができる。これにより、振動エネルギの主伝達経路の特定が容易になり、振動の発生要因の究明や対策の立案に役立てることができる。
【0057】
しかも、本実施形態では、解析対象とする構造物のモデルを複数の要素から構成し、個
々の要素について変位と内力から伝達ベクトルを求めているので、計算(コンピュータ・シミュレーション)により、複雑な構造物(特に三次元構造物)の内部における振動エネルギの伝達経路を精度良く推定することができる。
【0058】
なお、上記実施形態は本発明の一具体例を例示したものにすぎない。本発明の範囲は上記実施形態に限られるものではなく、その技術思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【0059】
例えば、他の方法を用いて算出された伝達ベクトル(振動エネルギの伝達量及び伝達方向)についても、矢尻図形を用いた本発明に係る表示方法で表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、板要素とそこに作用する内力を説明するための図である。
【図2】図2は、軸力Fxが作用した場合の振動エネルギの伝達方向を模式的に示す図である。
【図3】図3は、横せん断力Fxyが作用した場合の振動エネルギの伝達方向を模式的に示す図である。
【図4】図4は、せん断力Vxが作用した場合の振動エネルギの伝達方向を模式的に示す図である。
【図5】図5は、曲げモーメントMyが作用した場合の振動エネルギの伝達方向を模式的に示す図である。
【図6】図6は、ねじりモーメントMxyが作用した場合の振動エネルギの伝達方向を模式的に示す図である。
【図7】図7は、振動解析システムの機能構成を示すブロック図である。
【図8】図8は、伝達ベクトルの算出処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】図9は、本発明の実施形態における伝達ベクトルの表示例である。
【図10】図10は、従来の伝達ベクトルの表示例である。
【図11】図11は、表示設定機能の設定画面の一例を示す図である。
【図12】図12は、矢尻図形の一例を示す図である。
【図13】図13は、振動エネルギの小さな矢尻図形を非表示にした表示例である。
【図14】図14は、車体モデルにおける伝達ベクトルの表示例である。
【符号の説明】
【0061】
1 伝達ベクトル算出部
2 特性値データベース
3 出力部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モデルを構成する複数の要素のそれぞれについて、前記要素を伝わる振動エネルギの大きさ及びその伝達方向を表す伝達ベクトルを算出する伝達ベクトル算出手段と、
算出された伝達ベクトルを前記モデルとともに表示する出力手段と、を備え、
前記出力手段は、前記各要素の伝達ベクトルを同じサイズの矢尻図形で表すことを特徴とする振動解析システム。
【請求項2】
前記出力手段は、前記矢尻図形の先端の向きで、振動エネルギの伝達方向を表すことを特徴とする請求項1に記載の振動解析システム。
【請求項3】
前記出力手段は、前記矢尻図形の色で、振動エネルギの大きさを表すことを特徴とする請求項1または2に記載の振動解析システム。
【請求項4】
前記出力手段は、前記矢尻図形の色を、振動エネルギの大きさに対して非線形に変化させることを特徴とする請求項3に記載の振動解析システム。
【請求項5】
前記出力手段は、振動エネルギの大きさが表示条件を満たさない伝達ベクトルを非表示にすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の振動解析システム。
【請求項6】
コンピュータが、
モデルを構成する複数の要素のそれぞれについて、前記要素を伝わる振動エネルギの大きさ及びその伝達方向を表す伝達ベクトルを算出する算出処理と、
算出された伝達ベクトルを前記モデルとともに表示する出力処理と、を実行し、
前記出力処理において、前記各要素の伝達ベクトルを同じサイズの矢尻図形で表すことを特徴とする振動解析方法。
【請求項7】
コンピュータを、
モデルを構成する複数の要素のそれぞれについて、前記要素を伝わる振動エネルギの大きさ及びその伝達方向を表す伝達ベクトルを算出する伝達ベクトル算出手段と、
算出された伝達ベクトルを前記モデルとともに表示する出力手段と、して機能させるプログラムであって、
前記出力手段は、前記各要素の伝達ベクトルを同じサイズの矢尻図形で表すことを特徴とするプログラム。
【請求項8】
請求項7に記載のプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
【請求項1】
モデルを構成する複数の要素のそれぞれについて、前記要素を伝わる振動エネルギの大きさ及びその伝達方向を表す伝達ベクトルを算出する伝達ベクトル算出手段と、
算出された伝達ベクトルを前記モデルとともに表示する出力手段と、を備え、
前記出力手段は、前記各要素の伝達ベクトルを同じサイズの矢尻図形で表すことを特徴とする振動解析システム。
【請求項2】
前記出力手段は、前記矢尻図形の先端の向きで、振動エネルギの伝達方向を表すことを特徴とする請求項1に記載の振動解析システム。
【請求項3】
前記出力手段は、前記矢尻図形の色で、振動エネルギの大きさを表すことを特徴とする請求項1または2に記載の振動解析システム。
【請求項4】
前記出力手段は、前記矢尻図形の色を、振動エネルギの大きさに対して非線形に変化させることを特徴とする請求項3に記載の振動解析システム。
【請求項5】
前記出力手段は、振動エネルギの大きさが表示条件を満たさない伝達ベクトルを非表示にすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の振動解析システム。
【請求項6】
コンピュータが、
モデルを構成する複数の要素のそれぞれについて、前記要素を伝わる振動エネルギの大きさ及びその伝達方向を表す伝達ベクトルを算出する算出処理と、
算出された伝達ベクトルを前記モデルとともに表示する出力処理と、を実行し、
前記出力処理において、前記各要素の伝達ベクトルを同じサイズの矢尻図形で表すことを特徴とする振動解析方法。
【請求項7】
コンピュータを、
モデルを構成する複数の要素のそれぞれについて、前記要素を伝わる振動エネルギの大きさ及びその伝達方向を表す伝達ベクトルを算出する伝達ベクトル算出手段と、
算出された伝達ベクトルを前記モデルとともに表示する出力手段と、して機能させるプログラムであって、
前記出力手段は、前記各要素の伝達ベクトルを同じサイズの矢尻図形で表すことを特徴とするプログラム。
【請求項8】
請求項7に記載のプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−59274(P2008−59274A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235355(P2006−235355)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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