説明

振幅制限回路

【課題】音声信号の振幅が大幅に制限されても、歪み感の少ない再生音が得られる音声信号をつくり出すことによって音響機器のみかけ性能を高め、音声信号を扱うあらゆる機器の能力向上を計る。また、同様の手法で人の耳が聞き易い形の音声信号をつくり出し、補聴器や録音機等の音質向上を計る。
【解決手段】 音声信号の特定周波数以上の信号を除き、振幅が特定レベルを越えようとすると、そのレベルを越えないようにバイアスを変化させて振幅制限を行う。特定周波数以上を振幅制限の範囲に含めないのは耳障りな高調波の発生を少なくするためである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は音質低下が大変少ない再生音を得ることができる音声信号の振幅制限回路に関するものであり、特願2000−172705と特願2004−226172に関連が深い。
【背景技術】
【0002】
従来、音声信号の増幅器等において能力を大きく越える振幅信号を処理すると、その出力信号による再生音質は著しく低下した。そのため大振幅信号が入力されても再生音質の低下が少ないリミッターや振幅抑圧回路が当発明者によって考案された(特願2000−172705、特願2004−226172)。特に特願2004−226172は補聴器等への適用で顕著な効果が有った。しかし、重度難聴者用としても十分な特性の補聴器を製造するにはもっと正確な振幅制限が、あまり音質低下を伴わないで行われる必要が有った。また、音声信号用パワーアンプ等において、特願2000−172705の回路は振幅制限の度合いが大きいと再生音にかなり強い歪みが感じられた。また、特願2004−226172では振幅制限値を正確に設定出来ないのでアンプ能力を十分に引き出すことが出来ない欠点が有った。
そのために正確な振幅制限がされても音質低下が少ない再生音が得られる振幅制限回路が望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
大きな振幅の音信号が入力されても、決められた振幅制限値を殆ど越えることがなく、しかも再生音にあまり歪みが感じられない音信号を出力する振幅制限回路を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
任意の周波数範囲(通常は低域〜3KHz以内かもしれない)において振幅が制限値を越えないように信号のバイアスを変化させる。しかし前記任意周波数以外ではあまりバイアス変化が行わなれないようにする。具体的には、特願2004−226172の振幅抑圧回路の図1におけるハイカットフィルタの周波数特性を前記任意周波数以下の帯域において平坦にする。そしてハイカットフィルタでは大抵は位相回転が起こるので、減算器に入力される信号の位相をシフトして減算器に入力される複数の信号の位相を合わせる回路を設ける。
また特願2004−226172「図1」の回路では大きな振幅の信号を振幅制限するには回路の電源電圧も高い必要が有るが、負帰還によってバイアスをシフトする方法を加えれば、低い電源電圧で大きな比率の振幅制限を行うことが出来る。
【0005】
「図1」は低域から任意の周波数まで正確に振幅制限が行われるための回路構成ブロックダイヤグラム例である。
「図1」を説明すれば、
1)振幅制限回路1は特願2000−172705と同等であり、入力信号が振幅制限される。
2)入力信号と振幅制限回路1の出力信号は減算器2で互いに減算され差分が減算器2から出力される。
3)減算器2の出力信号はハイカットフィルタ3で高い周波数成分がカットされる。特願2004−226172のハイカットフィルタとの違いはカットオフ周波数が高く且つ、低域からカットオフ周波数近くまで周波数特性が平坦なことである。
4)入力信号の一つはハイカットフィルタ3の出力信号と同位相になるように位相シフト回路4で位相がシフトされる。そして、そのシフトされた信号は減算器5に入力される。
5)ハイカットフィルタ3の出力と位相シフト回路4の出力は減算器5に入力され互いに減算され、減算器5の出力回路にはその差分信号が現れる。尚、ハイカットフィルタ3では通常位相回転が起こる。そのため位相シフト回路4で減算器5に入力される入力信号の位相もシフトさせている(位相シフト回路4には時定数回路等を利用できる)。
6)ハイカットフィルタの特性がフラットな範囲の周波数域では振幅制限回路1の出力信号と同じレベルの信号が減算器5の出力回路に出力される。しかし、ハイカットフィルタの特性が平坦でない周波数域(つまり高域周波数)では位相シフト回路4の出力信号も減算器5の出力回路に現れる。
5)この回路では振幅制限が行われてもハイカットフィルタ3の働きにより、再生音にはあまり歪みが感じられない。しかしこのハイカットが原因で、ハイカットフィルタの特性が平坦でない周波数帯域では振幅制限が行われない。ところが、高い周波数の音声信号振幅は通常小さいので高い周波数の振幅制限は行われなくても通常はあまり問題が起こらない。もし問題が起こる場合は特願2000−172705や従来型リミッターで除いても周波数が高いので音質にはあまり影響しない。
【0006】
特願2000−172705や特願2004−226172の振幅制限回路ではその出力信号振幅に比べ大きなダイナミックレンジが回路に要求される。そのため比較的高い電圧の電源が必要である。小さいダイナミックレンジの回路で比較的大きな振幅の信号を処理するには負帰還を利用することを容易に思いつくが、負帰還では制限振幅を正確に設定することが難しい。けれども、負帰還による振幅制限と特願2000−172705や特願2004−226172に使われている振幅制限回路を組み合わせれば小さなダイナミックレンジ回路で比較的大きな振幅の信号を処理することが出来る。
【0007】
「図2 A.」は負帰還による振幅抑圧と特願2000−172705や特願2004−226172に使用されている振幅制限を組み合わせた回路例である。「図2 A.」のOP1、OP2、C1、C2、R1、R2、R3、R4、D1、D2で構成される回路が負帰還が利用された振幅抑圧回路である。
この回路のINPUTに「図2 B.」(a)の波形信号が入力されるとOP1の出力端子には「図2 B.」(c)の様な波形信号が現れる。
尚、「図2 B.」(b)の波形はD1、D2が無い場合の回路においてINPUTに「図2 B.」(a)の波形が入力された場合にOP1の出力端子に現れる信号波形である。
(特願2000−172705や特願2004−226172の振幅制限回路で「図2 B.」(d)と同等の結果を得るには「図2 B.」(b)の振幅を扱える回路が必要である。)
「図2 B.」(c)の波形が出力される動作を説明すれば、
1)「図2 B.」の横軸は時間軸である。また、1、1′、1′′、1′′′と、2、2′、2′′、2′′′は振幅制限回路が動作し始める動作電圧を示し、1と2はその初期値である。そしてこの1と2間の電圧は「図2 A.」回路D1、D2に電流が流れた場合の順方向電圧で決まる。
2)OP1の出力端子電位はt1〜t2まで「図2 B.」(b)と同様の変化をする。何故ならこの区間D1とD2には電流が流れないのでOP2の出力電位は動かないからである。
3)t2〜t3まで「図2 B.」(c)の波形は「図2 B.」(a)と同様に変化する。理由はD1に電流が流れOP2の出力電位がOP1の出力電位と共に動くからである。この時波形抑圧回路が動作し始める電位はOP1の出力電位によって1′、2′の電位にシフトする。
4)次のt3〜t4までOP2の出力電位は動かないのでOP1の出力電位は「図2 B.」(b)と同様に変化する。
5)t4〜t5までOP2の出力電位はOP1の出力電位と共に動くので、OP1の出力電位は「図2 B.」(a)と同様に変化する。この時波形制限回路が動作し始める電位は1′′、2′′へシフトする。
6)同様にしてt5〜t6までOP1の出力電圧は「図2 B.」(b)と共に変化する。
7)更にt6〜t7までOP1の出力電圧は「図2 B.」(a)と共に変化する。この時波形制限回路が動作し始める電位は1′′′、2′′′の電圧へシフトする。
8)t7以降も前記と同様に動作して「図2 B.」(c)の波形信号がOP1の出力に現れる。
9)OP1、C3、D3、D4及びR5によって構成される回路は、特願2000−172705や特願2004−226172に使用されている回路と同等であり「図2 B.」(c)の波形信号は「図2 B.」(d)の様な波形に整形される。
10)つまり特願2000−172705や特願2004−226172使用されている回路で「図2 B.」(d)の信号を得るには「図2 B.」(b)の信号以上のダイナミックレンジを扱うことが出来る回路が必要だが、「図2 A.」の回路なら「図2 B.」(c)波形以上のダイナミックレンジが扱えればよい。
【0008】
図3は電源電圧の変動に連動して振幅制限値が変化する回路の例である。
小型機器のオーディオパワーアンプ等で、出来るだけ大きな音量を出すためにはパワーアンプが飽和して歪みが多くなる直前の波高値で本発明の波形制限回路が動作するのが望ましい。そのためには電源電圧の変動に連動して振幅制限値が変化される必要がある。図3はその回路(一部ブロック図)例である。
図3の回路において電源電圧が高い方向に変化した場合、R8の両端電圧が高くなってOP3の出力電圧は低下する。その結果Q1にエミッタ電流が流れ始めるエミッタ電位は低下する。また、R12の両端電圧も高くなるのでQ2にエミッタ電流が流れ始めるエミッタ電位は高くなる。従ってこの回路の振幅制限値は大きくなる。電源電圧が低くなる場合は前記と反対の動作で制限振幅値も小さくなる。
尚、OP3とOP4の電圧ゲイン及び振幅制限値をどの位にすべきかは、後段に設けられるパワーアンプの電圧ゲインや最大振幅との関係で決定されるべきである。
【発明の効果】
【0009】
補聴器の性能が飛躍的に高まり、一部だが従来の補聴器では役立たなかった重難聴者が補聴器の恩恵を受けることが出来るようになった。そして、「人の耳は様々な雑音の中から聞きたい音だけを選別して聞いているが、補聴器を使うとそれができないので快適な聞こえが得られない」という説明が一般におこなわれ、半ば定説化しているが、それは間違いであることをこの発明が証明した。また、小型音響機器の能力を特願2000−172705や特願2004−226172の回路よりも更に向上させることが出来た。
【実施例】
【0010】
図4は防音保護具に本発明が使われた例である。防音保護具は装着すると小さな音が聞こえないので装着したまま会話が出来ない欠点があった。しかし図3の構成にすれば大きな音を十分小さくしても、小さな音はよく聞こえる。だから防音保護具を装着したまま会話もできる。
尚、人間の耳が多くの音の中から目的の音を聞き分ける機能(カクテルパーティー効果)はこのような仕組みによるのではないかと発明者は考えている、それが全てではないにしても。
「図5」の(A)はパワーアンプ、(B)は補聴器又は助聴器、(C)は電話機、(D)は拡声機、(E)はテープレコーダー、(F)は望遠マイク、(G)は音声認識装置にそれぞれ本発明が使用された例のブロックダイヤグラムである。これらの機器に本発明の振幅制限回路が使用された場合の利点は特願2004−226172と同様であるが特願2004−226172の場合よりも歪み感の少ない、或いは音量感の大きい音が得られる。尚これらのブロックダイヤグラムの中の「振幅制限回路19」が本発明の振幅制限回路に相当する。
【産業上の利用可能性】
【0011】
この程度の技術が手つかずで残されていたことに不思議さを感じるが、手つかずであるがゆえに、非常に広範囲に利用の可能性が有ると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の振幅制限回路ブロックダイヤグラム例図
【図2】大きな振幅信号を処理出来る本発明の回路例と、その動作説明波形図
【図3】電源電圧の変動に連動して制限値が変化する振幅制限回路例(一部ブロックダイヤグラム)図
【図4】本発明が防音保護具に使用された実施例図
【図5】本発明が実施された音響機器回路のブロックダイヤグラム例図
【符号の説明】
【0013】
1は振幅制限回路 2は減算器
3はハイカットフィルタ 4は位相シフト回路
5は減算器 6は位相シフト回路
7は減算器 8はハイカットフィルタ
9は減算器 10は防音保護具本体
11はスピーカ 12は回路ブロック
13はマイクロホン 14はマイクアンプ
15は本発明の振幅制限回路 16はパワーアンプ
17はプリアンプ 18はアッテネータ
19は本発明の振幅制限回路 20はパワーアンプ
21はマイクロホン 22はマイクアンプ
23はイヤホン 24はスピーチネットワーク回路
25はハンズフリー回路 26はダイヤル回路
27は送受話器 28はスピーカ
29は録音/再生ヘッド 30は録音アンプ
31は再生アンプ 32は鋭指向性マイク
33は分析回路
R1〜R14は抵抗 C1〜C4はコンデンサ
D1〜D4はダイオード OP1〜OP4はオペアンプ
Q1、Q2はトランジスタ IN PUTは入力回路
OUT PUTは出力回路 GNDは接地回路
+Vccはプラス電源回路 −Vccはマイナス電源回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低域から任意の周波数までの範囲が低域と同等の振幅制限が行われる、
特願2004−226172請求項2の回路。
【請求項2】
減算器とその減算器に入力される信号の位相をシフトする手段を備えた、
請求項1もしくは特願2004−226172の請求項1又は請求項2の回路。
【請求項3】
アンプ出力の振幅が一定レベルを越えると、その越えた信号によってアンプ入力側のバイアスがシフトされることで、出力信号の振幅が抑圧される回路と、
振幅が基準レベルを越えようとするとバイアスが変化して振幅が基準レベルを越えることがない振幅制限回路を備えた、
特願2004−226172請求項2の回路。
【請求項4】
請求項1の回路が使用された、防音保護具、パワーアンプ、補聴器、助聴器、電話機、通信機、拡声機、録音機、望遠マイク、音声認識装置、等々、音声信号を扱う全ての機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−197525(P2006−197525A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29700(P2005−29700)
【出願日】平成17年1月11日(2005.1.11)
【出願人】(598049067)
【Fターム(参考)】