説明

挿入治具、および挿入治具を用いた緩衝器の製造方法

【課題】段部を有する棒状体に良好に環状シール部材を挿入することを可能とする挿入治具、および挿入治具を用いた緩衝器の製造方法の提供。
【解決手段】段部37を有する棒状体15に、段部37を通過させて環状シール部材を挿入する際に用いられる挿入治具10であって、棒状体15の一端に当接する芯部47と、芯部47の外周側を覆い段部37を越えて延びるカバー部48とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棒状体に環状シール部材を挿入する際に用いられる挿入治具、および挿入治具を用いた緩衝器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ピストンにピストンリングを装着する際に、テーパ状のスライド治具を用いるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−231725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、棒状体に環状シール部材を挿入する場合に、棒状体に段部があると、このような段部で環状シール部材に傷が付く可能性がある。
【0005】
したがって、本発明は、段部を有する棒状体に良好に環状シール部材を挿入することを可能とする挿入治具、および挿入治具を用いた緩衝器の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、段部を有する棒状体に、前記段部を通過させて環状シール部材を挿入する際に用いられる挿入治具であって、最大外径が前記棒状体の外径以下の剛体からなり前記棒状体の一端に当接する芯部と、該芯部の外周側を覆い前記段部を越える長さを有し、熱収縮チューブを用いて熱収縮により形状が形成されたカバー部とからなる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、段部を有する棒状体に良好に環状シール部材を挿入することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る挿入治具の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る挿入治具を用いて組み立てが行われる緩衝器の断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る挿入治具の使用状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態に係る挿入治具、および挿入治具を用いた緩衝器の製造方法を図面を参照して以下に説明する。
【0010】
図1に示す本実施形態に係る挿入治具10は、図2に示す緩衝器11を組み立てる際に用いられるものである。この緩衝器11は、例えば自動車のサスペンション装置用のものである。緩衝器11は、有底円筒状のシリンダ12を有しており、このシリンダ12内には、ピストン13が摺動可能に嵌装され、このピストン13によってシリンダ12内がシリンダ上室12Aおよびシリンダ下室12Bの2室に区画されている。ピストン13には、棒状体であるピストンロッド15の一端部がナット16によって連結されており、ピストンロッド15の他端側は、シリンダ12の開口側に装着された円環状のロッドガイド(環状部材)17および円環状のシール部材であるオイルシール(環状シール部材)18に挿通されて外部へ延出されている。
【0011】
ピストンロッド15のピストン13とロッドガイド17との間には、ピストン13側から順に、円環状のリテーナ20、円環状のバネ受21、全体として円筒状をなすコイルスプリング22、円環状のバネ受23、および円環状のゴム製の緩衝体(環状部材)24が、内側にピストンロッド15を挿通させて設けられている。ここで、リテーナ20は、ピストンロッド15に固定されており、バネ受21を介してコイルスプリング22の一端側をピストンロッド15に係止している。他方、バネ受23および緩衝体24はコイルスプリング22の伸縮によってピストンロッド15に対し摺動可能となっている。また、シリンダ12のピストン13よりも底部側には、ピストン13との間にシリンダ下室12Bを画成するためのフリーピストン25が摺動可能に設けられている。シリンダ12内のシリンダ上室12Aおよびシリンダ下室12B内には、油液(流体)が封入されている。
【0012】
ピストン13には、ピストンロッド15がシリンダ12外に伸び出る伸び側にピストン13が移動するときに油液が通過する伸び側の通路26(a)および通路26(a)の油液の流動を制御して減衰力を発生させる伸び側の減衰力発生機構27(a)と、ピストンロッド15がシリンダ12内に入る縮み側にピストン13が移動するときに油液が通過する縮み側の通路26(b)および通路26(b)の油液の流動を制御して減衰力を発生させる縮み側の減衰力発生機構27(b)とが設けられている。
【0013】
ピストンロッド15には、シリンダ12に挿入される側の内端から順に、ナット16が螺合される内部オネジ30、ピストン13および減衰力発生機構27(a),27(b)が配置される配置軸部31、配置軸部31より大径で一定径の中間軸部32、中間軸部32より小径でバネ受21が固定される固定軸部33、中間軸部32と同径で一定径の大径軸部34、大径軸部34よりも小径で一定径の小径軸部35、および車体側への取付用の外部オネジ36が形成されている。
【0014】
大径軸部34と小径軸部35との間は段部37となっており、この段部37には、係止リング38が係止されている。外部オネジ(段部)36は、小径軸部35の外径以下の最大外径を有し、小径部分と大径部分とが軸方向に交互に生じるように螺旋形の段差状をなしている。
【0015】
ここで、オイルシール18は、ピストンロッド15とシリンダ12との間を密封するものであり、金属製の円環部材40の内周側に軸方向両側に突出するようにゴム製の筒状の内周側シール部41が一体に設けられ、円環部材40の外周側にもゴム製の外周側シール部42が一体に設けられたものとなっている。内周側シール部41の軸方向の外側には、内周側シール部41を径方向内方に付勢するリング状のスプリング43が係止されている。内周側シール部41の自然状態にあるときの内径は、ピストンロッド15の大径軸部34に対し同径以下、具体的には大径軸部34よりも小径となっており締代をもってシールする。また、ロッドガイド17には、内周側にピストンロッド15の大径軸部34が挿入される内周面が合成樹脂製のカラー44が設けられている。
【0016】
図1に示すように、本実施形態に係る挿入治具10は、金属製、具体的にはステンレス鋼材製の芯部47と、芯部47の外周側を覆うように設けられる合成樹脂製のカバー部48とからなっている。
【0017】
芯部47は、最大外径が前記棒状体の外径以下の剛体から構成されており、軸方向一端から順に、円板状のフランジ部49、フランジ部49よりも小径の小径軸部50、小径軸部50より全体として大径で、小径軸部50から離れるほど大径となるテーパ状のテーパ軸部51、テーパ軸部51の大径側と外周面を連続させる一定径の大径軸部52、大径軸部52より小径の係止軸部53、および大径軸部52と同径の当接大径軸部54が形成されている。芯部47には、テーパ軸部51の当接大径軸部54とは反対側の端面と当接大径軸部54のテーパ軸部51とは反対側の端面とに開口する空気抜き穴56が軸方向に貫通して形成されている。ここで、フランジ部49の外径は、テーパ軸部51の最小径以下に設定されている。
【0018】
カバー部48は、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)熱収縮チューブで一体成形されており、軸方向一端から順に、芯部47のテーパ軸部51の外周側に密着してこれを覆うテーパ状のテーパ筒状部58、芯部47の大径軸部52の外周側に密着してこれを覆う一定径の小径円筒部59、小径円筒部59よりも小径の係止筒状部60、小径円筒部59と同径の小径円筒部61、および小径円筒部61よりも若干大径の大径円筒部62が形成されている。係止筒状部60は、芯部47に対し、全周にわたって係止軸部53に当接するように、大径軸部52と当接大径軸部54との間に入り込んでいる。これにより、カバー部48と芯部47との軸方向のずれを規制し、これらを一体化している。また、カバー部48の厚さは、0.3mm程度である。
なお、カバー部としては、FEP熱収縮チューブが実験の結果、望まし結果を得られた。しかし、自己潤滑性のある他のPFAやPTFEの熱収縮チューブ等のフッ素系樹脂製の熱収縮チューブを用いることも可能である。
【0019】
ここで、テーパ筒状部58の最小径は、オイルシール18の自然状態での最小内径よりも小さくされており、ロッドガイド17の内径および緩衝体24の内径よりも小径となっている。また、カバー部48の小径円筒部61の内径は、図1に示すピストンロッド15の外部オネジ36および小径軸部35の外径よりも若干大きく、大径軸部34の外径よりも小さくされている。加えて、カバー部48の小径円筒部61の芯部47よりも突出する部分の軸方向長さは、外部オネジ36と小径軸部35とを合わせた軸方向長さよりも若干短くなっている。さらに、カバー部48の大径円筒部62の内径は、ピストンロッド15の大径軸部34の外径よりも若干大きく、小径円筒部61の芯部47よりも突出する部分と大径円筒部62とを合わせた軸方向長さは、外部オネジ36と小径軸部35とを合わせた軸方向長さよりも所定長さ長くなっている。
【0020】
上記した挿入治具10は、例えば、次のようにして製作される。上記した小径円筒部61および大径円筒部62の内周面と同形状の外周面を有する図示略の芯金を準備し、この芯金と芯部47とを同軸配置して、一定径の所定長さの熱収縮チューブ内に挿入する。そして、この熱収縮チューブを、温風等で加熱することで、芯部47および芯金の外周面に倣って収縮させた後、芯金を引き抜く。このようにして、テーパ筒状部58、小径円筒部59、係止筒状部60、小径円筒部61および大径円筒部62を有するカバー部48が熱収縮チューブで形成されてなる挿入治具10が製作される。なお、カバー部48においても、小径円筒部61および大径円筒部62の間には小径から大径となる段部64が生じるが、合成樹脂製の熱収縮チュープからなるため、その材質特性により、断面湾曲形状をなすことになる。小径円筒部59と係止筒状部60との間の大径から小径への段部65、および係止筒状部60と小径円筒部61との間の小径から大径への段部66についても同様である。
【0021】
上記した緩衝器11の組み立て工程には、ピストンロッド15に対し、固定軸部33にリテーナ20を固定する工程と、予め仮組されたピストン13および減衰力発生機構27(a),27(b)を内部オネジ30側からナット16で組み付ける工程と、リテーナ20に載置させるようにして、外部オネジ36側から、予め仮組されたバネ受21、コイルスプリング22およびバネ受23を挿入する工程と、緩衝体24、ロッドガイド17およびオイルシール18を挿入する工程とがある。
【0022】
そして、緩衝体24、ロッドガイド17およびオイルシール18をこの順にピストンロッド15に外部オネジ36側から挿入する工程の前に、外部オネジ36を上側にした状態で、上記した挿入治具10をピストンロッド15の外部オネジ36側に大径円筒部62側から被せる。すると、挿入治具10は、空気抜き穴56で内側の空気を抜きながらピストンロッド15に被さり、図3に示すように、ピストンロッド15の外部オネジ36側の一端に芯部47の当接大径軸部54を当接させることになる。この状態で、挿入治具10は、カバー部48が、小径円筒部61において、外部オネジ36および小径軸部35を覆うことになり、大径円筒部62において、大径軸部34側の小径軸部35の一部、段部37および大径軸部34の一部を覆うことになる。言い換えれば、このとき、カバー部48が、段差状をなす外部オネジ36および段部37を越えて延びる状態になる。
【0023】
そして、この状態で、図1に示す緩衝体24、ロッドガイド17およびオイルシール18を挿入する工程を行うことになり、まず、緩衝体24を、挿入治具10が内側を通過するように挿入し、挿入治具10を越えて、大径軸部34のカバー部48から露出する部分まで移動させる。これにより、緩衝体24は、内側にカバー部48を介在させながら、ピストンロッド15の外部オネジ36および段部37を軸方向に通過させることになる。よって、ゴム製の緩衝体24の内周部は、その内側に金属製の段差状の外部オネジ36および段部37を通過させても、合成樹脂製のカバー部48で保護されることになり、傷が付くことが防止される。
【0024】
次に、ロッドガイド17を、挿入治具10が内側を通過するように挿入し、挿入治具10を越えて、大径軸部34のカバー部48から露出する部分まで移動させる。よって、ロッドガイド17の内側のカラー44は、金属製の段差状の外部オネジ36および段部37を軸方向に通過させても、合成樹脂製のカバー部48で保護されることになり、傷が付くことが防止される。なお、本実施の形態のカラー44は金属製のものを使用しており、カラー44の内周と大径軸部36との間にカバー部48の厚み分だけ隙間がある例を示したが、カバー部48の厚み分カラー44の内周と大径軸部36の間に隙間がない場合には、治具10を一旦外してロッドガイド17を挿入する。または、カラー44を伸縮可能な樹脂材で形成するものにおいては、本発明の適用がさらに有効である。
【0025】
次に、内周側シール部41の内側にグリスが塗布されたオイルシール18を、挿入治具10が内周側シール部41の内側を通過するように挿入し、挿入治具10を越えて、大径軸部34のカバー部48から露出する部分まで移動させる。このとき、オイルシール18は、内周側シール部41がカバー部48で押されて径が広げられるとともに、内周側シール部41の内側にカバー部48を介在させながら、ピストンロッド17の段差状の外部オネジ36および段部37を軸方向に通過させることになる。したがって、ゴム製の内周側シール部41の内周部は、金属製の外部オネジ36および段部37を軸方向に通過させても、合成樹脂製のカバー部48で保護されることになり、傷が付くことが防止される。
【0026】
その後、挿入治具10は、ピストンロッド15から取り外される。なお、挿入治具10は、図示は略すが、小径軸部50において自動機のチャックに保持され、この自動機でピストンロッド15に被せられるようになっている。
【0027】
以上に述べた本実施形態に係る挿入治具10によれば、段差状の外部オネジ36および段部37を有するピストンロッド15に、外部オネジ36および段部37を通過させて、緩衝体24、ロッドガイド17およびオイルシール18を挿入する際に、ピストンロッド15の一端の外部オネジ36側に芯部47を当接させると、カバー部48が芯部47の外周側を覆い外部オネジ36および段部37を越えて延びる状態となるため、傷等を付けることなく、良好に緩衝体24、ロッドガイド17およびオイルシール18を挿入することが可能となる。したがって、緩衝体24の耐久性を向上でき、ロッドガイド17およびオイルシール18のピストンロッド15に対する摺動性および密封性と、耐久性とを向上できる。
【0028】
また、カバー部48が柔軟性を有する合成樹脂製の熱収縮チューブで形成されているため、製造が容易であり、材料コストも低く、傷付きにくく耐久性もあって、ランニングコストを低減することができる。加えて、カバー部48を薄く形成することができ、カバー部48が不要に緩衝体24、ロッドガイド17およびオイルシール18を拡径させてしまうことがないため、組み付け性を向上させることができる。また、カバー部48に自己潤滑性を有する材料を用いて形成しているので、金属製の治具と比してスムーズにオイルシール18などを挿入可能となり、生産性が向上する。
なお、上記実施の形態では、段部として、径の異なる段部を示したが、これに限らず、棒状体の途中に周方向に延びる溝が設けられ、その軸方向の前後は同径であるものも、本願発明の段部に含まれる。
【符号の説明】
【0029】
10 挿入治具
11 緩衝器
15 ピストンロッド(棒状体)
17 ロッドガイド
18 オイルシール(環状シール部材)
24 緩衝体
37 段部
50 芯部
51 カバー部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
段部を有する棒状体に、前記段部を通過させて環状シール部材を挿入する際に用いられる挿入治具であって、
最大外径が前記棒状体の外径以下の剛体からなり前記棒状体の一端に当接する芯部と、該芯部の外周側を覆い前記段部を越える長さを有し、熱収縮チューブを用いて熱収縮により形状が形成されたカバー部とからなる挿入治具。
【請求項2】
前記熱収縮チューブは、フッ素系の樹脂からなることを特徴とする請求項1記載の挿入治具。
【請求項3】
前記棒状体は緩衝器のピストンロッドであり、前記環状シール部材は前記緩衝器のオイルシールであることを特徴とする請求項1または2記載の挿入治具。
【請求項4】
段部を有するピストンロッドと、前記ピストンロッドと摺動する環状のオイルシールを有する緩衝器の製造方法であって、
最大外径が前記棒状体の外径以下の剛体からなり前記棒状体の一端に当接する芯部と、該芯部の外周側を覆い前記段部を越える長さを有し、熱収縮チューブを用いて熱収縮により形状が形成されたカバー部とからなる挿入治具を前記ピストンロッドの一端に被せる工程と、
前記環状シール部材を前記芯部側から挿入する工程とを有する緩衝器の製造方法。
【請求項5】
前記ピストンロッドの一端に前記挿入治具を被せる工程の後に、前記挿入治具と前記ピストンロッドの間のエアを抜く工程を設けることを特徴とする請求項4に記載の緩衝器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−117601(P2012−117601A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267340(P2010−267340)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】