説明

捕捉時間の短いGPS受信機

複数のGPS信号を捕捉する方法であって、宇宙船から受信された信号が並列処理モジュール(20)の配列内で擬似ランダム符号の局部複製と相関させられる。外部定期トリガINT_ACCの検出と同時に局部擬似ランダム発生器が定期的にスルー(slew)され、総ての処理モジュールで同時に捕捉追尾ソフトウェア用の出力レジスタ内に相関データがダンプされる。積算期間は擬似ランダム符号系列の固有周期よりも短く、総ての局部発生器が同時にスルー(slew)され、それによって、宇宙船粗捕捉符号の更に迅速な捕捉を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、航法衛星電波受信機であり、もっと詳細には、システムの完全な停止後の最初の測位に必要な時間である捕捉時間が特に短いGPS受信機回路である。
【背景技術】
【0002】
GPS受信機システムは現今では多くの応用に使用されており、その応用が本質的には軍、研究、及び航海の様な僅かな専門分野に制限されていた開始段階の後は、多くのその他の職業的応用及び余暇的応用にGPSが重要な位置を急速に見つけつつある、と本当に言える。
【0003】
よく知られている様に、GPS受信機は、地球を周回している一群の宇宙船から送られてくる無線信号を相関させることによってそのGPS受信機の位置を決定する様に設計されている。冷態始動後の最初の測位前にGPS受信機が長い始動時間を必要とすることが、GPS受信機にとっての共通の問題である。
【0004】
この始動時間の間に、受信機は、利用可能な宇宙船の信号を捕捉して、50bpsのGPS NAVストリームからかまたはその他の情報源から航法データをダウンロードしなければならない。これらの動作は本来的に時間がかかるので、冷態始動後の始動時間は一般に数十秒台である。
【0005】
しばしば測位時間(TTFF)として表示されているこの長い始動時間は、GPSの多くの応用における制限的要素である。特に、例えば携帯電気通信網等における位置サービスの様な、GPSモジュールを短期間だけ提供することが望ましいある種の低速、低電力応用ではそうである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本出願の目的は、従来技術の上述の短所を克服しているGPS受信機と、最初の測位の時間がもっと短いGPS受信機とである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的は、添付の特許請求の範囲の特徴を具備するGPS受信機、詳細には、航法衛星電波受信機中で使用され、複数の航法測距信号を処理する複数の追尾モジュールを具備する信号処理装置であって、各々の追尾モジュールが、
複製符号系列を発生させる擬似ランダム符号発生器と、
航法測距信号と前記複製符号系列との間の時間積算相関値を得る相関装置とを具備しており、
前記信号処理装置には第一の機能モードがあり、この第一の機能モード時に前記複数の追尾モジュールから前記時間積算相関値を同時にダンプする様に前記信号処理装置が構成されている、信号処理装置によって達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
代表的なGPS受信機では、宇宙船(SV)から受信される1575.42MHzの信号は、適切なRFフロントエンドによって例えば4.092MHzである中間周波数(IF)に周波数逓降変換される。この機能に適合されるRF周波数逓降変換器の例は本出願人の名義による欧州特許出願EP1’198’068に記載されており、この欧州特許出願は参照によって本明細書に組み入れられている。
【特許文献1】欧州特許出願EP1’198’068
【0009】
この中間周波数信号はその後に、中でも、本発明に従う相関処理装置3へ送られ、この相関処理装置3の機能は各宇宙船から受信された信号を復元することとこれらの復元した信号を各宇宙船に特有の擬似ランダム測距符号の局部発生複写と時間的に整列させることとであり、例えば、GPS受信機の場合には、相関処理装置3には粗捕捉(C/A)GPS測距信号を復調及び追尾するという任務がある。その様な整列を実行するために、相関処理装置3は追尾モジュール20の配列を具備しており、これらの追尾モジュール20の各々は中間周波数信号を更に変換してベースバンド信号を発生させる二つの数値制御発振器210、220を具備している。
【0010】
各々の追尾モジュール20は、特定のGPS宇宙船に対応する粗捕捉符号の局部複製を発生させる局部Gold擬似ランダム符号発生器220をも具備している。Gold擬似ランダム符号は、例えば多段シフトレジスタによって内部的に発生されるか、または、同じことであるが、予め読み込まれている表から抽出されるか、またはその他の任意の技術によって発生されることができる。
【0011】
Gold符号発生器220は、約1.023MHzの独立の数値制御粗捕捉クロックによって監視されている。局部搬送周波数と局部粗捕捉符号周波数との正確な周波数は、宇宙船信号についてのドップラー偏移と局部発振器のドリフト及びバイアスとを補償するために、外部CPU(図示せず)によって調整される。入力中間周波数信号は、局部搬送波の同相分(I)及び直角分(Q)で、並びに複製粗捕捉符号の二つの時間シフト版で、乗算される。これらの動作の結果は積算相関値を発生させるためにプログラム可能期間の間積算され、この積算相関値は外部CPUにとってアクセス可能である様に各積算期間の最後に追尾モジュールレジスタファイル201中へロードされる。
【0012】
即時相関値に加えて、追尾モジュールは、GPS信号に局部複製符号の1/2チップ遅行版及び1/2チップ先行版を乗算することによって得られる遅行相関値及び先行相関値をも発生させる。これらの遅行相関値及び先行相関値は、後述される様に追尾アルゴリズムで使われる。
【0013】
外部CPUは、各追尾モジュール20のレジスタ201中に記憶されている相関値を読んで、宇宙船捕捉アルゴリズム及び宇宙船追尾アルゴリズムを実行する。第一の場合には、捕捉アルゴリズムは、十分な相関レベルに達するまで、前記追尾ユニットに対して一連の「slew」コマンドを発行することによって、追尾モジュール20中で発生される複製粗捕捉符号を繰り返しシフトし、それからCPUは追尾モードに切り替わる。捕捉を速くし且つ外部CPU及びバスに対する負荷を軽減させるために、追尾モジュールは定期的に、例えば1、2または4粗捕捉符号周期毎に、複製粗捕捉符号を自律的にスルー(slew)させる様に外部CPUによって命令されることができる。
【0014】
追尾モードでは、外部CPUは、定期的なスルー(slew)を停止し、積算相関値を連続的に監視し、上述の先行相関値及び遅行相関値をも監視する。現在相関値、先行相関値及び遅行相関値を比較することによって、CPUは、複製粗捕捉符号オフセットと粗捕捉クロックの周波数とをこの技術分野で知られている様に適切に適合させることによって、複製粗捕捉符号を宇宙船から来ている粗捕捉符号と時間整列させる。
【0015】
選択された追尾方法に従って、追尾モジュールは、先行相関と遅行相関との差(先行引く遅行つまりEML)を計算することができるか、または先行相関値、即時相関値及び遅行相関値を交互に繰り返すことができる。これらのモードの機能の総ては、例えばレジスタファイル201中の適切なレジスタに作用することによってCPUによって選択されることができ、粗捕捉符号発生器220を妨害する必要なしに追尾モジュール20によって自律的に担当される。
【0016】
追尾中は、局部粗捕捉符号及び受信された粗捕捉符号が整列している限り、50bpsのGPS航法メッセージを抽出することができる。同時に、複製粗捕捉符号が入力信号に整列されるまでシフトされなければならない量は、受信機と特定の一つの宇宙船との間の擬似距離に比例している。もし少なくとも四つの追尾モジュール20が四つの異なる宇宙船を追尾していれば、航法メッセージのうちの十分な部分がダウンロードされると直ちに、測位が可能である。
【0017】
衛星軌道パラメータに関する前知識なしでシステムがスイッチオンされたときに必要な全始動シーケンスは、以下の二段階から成っている。
1.入力粗捕捉符号で局部発生粗捕捉符号を遅延ロックすることによって、幾つかの追尾モジュールで十分な数のGPS粗捕捉信号を捕捉及び追尾すること。緯度、経度、高度及び時間という問題になっている四つの未知数を解決するために、原則として最少で四つの衛星が必要である。追尾された信号の各々について信号処理装置で一組の測定値が発生される。
2.衛星軌道パラメータと衛星暦データとを入手すること。GPS航法データの使用によってこの段階が実行されれば、その様な信号の狭帯域幅のためにこの実行がかなり長くなることがある。航法フレームの送信のために最少で30秒が必要である。航法データは測距情報を含んでいないので、この航法データは、宇宙船からダウンロードする必要はないが、他の広帯域情報源によって得ることもでき、または受信機内の永久的もしくは半永久的な表中に少なくとも一部を記憶することができる。
【0018】
本発明の信号処理装置の追尾モジュールは特別な高速捕捉モードをも具備しており、この高速捕捉モードの目的は上述の捕捉段階1を速くすることである。図2は、標準捕捉追尾モード(SAM)と比較した高速捕捉モード(FAM)の時間図を示している。
【0019】
標準捕捉モードでは、各粗捕捉符号周期の最後である各粗捕捉符号あふれにおいて、各々の追尾モジュール中の積算相関値が出力レジスタ中へダンプされる。この様にして相関値が最大にされる。従って、ダンプ時刻は、各追尾モジュール毎に独立していて相関しておらず、複製粗捕捉符号の位相によって決定されるだけである。図2の上部は二つの追尾モジュールの相対的なタイミングを示しており、そのうちの一方の追尾モジュール21は追尾モードにあり、他方の追尾モジュール22は捕捉モードにあって粗捕捉符号が各符号あふれにおいてスルー(slew)される。捕捉段階の完了を検出して選択された追尾方法を実行するために、CPUは,総ての追尾モジュール21、22のレジスタ201を定期的に読む。これが定期的な割込みACC_INTに対応して行われる。
【0020】
図2の下部は高速捕捉モードFAMを図解している。蓄積されたデータが、粗捕捉符号あふれの代わりに、総ての追尾モジュールに共通なACC_INT信号によって、レジスタ201中へダンプされるという点において、高速捕捉モードは標準捕捉モードと異なっている。従って、追尾モジュール中における積算期間の長さはACC_INTの周期によって決定される。積算時間を短縮させることによって、相関データの捕捉時間を比例して短縮させることができる。しかし、短縮された積算期間の直接の結果は、もっと低い相関レベルが予期されるということである。短縮された積算時間は信号処理装置の周波数帯域幅をも増加させる。その結果、宇宙船捕捉中に必要な周波数空間の走査をもっと大きな間隔(周波数ビン)で実行することができる。これは宇宙船捕捉時間を更に短縮する。高いSN比を有する強い宇宙船信号しか、標準捕捉モードで検出することのできる信頼できる相関値を生じさせない。冷態始動が、総ての利用可能な宇宙船に対する徹底的な捜索が行われる標準捕捉モードの主な応用である。
【0021】
高速捕捉モードでは、最後の積算期間内に粗捕捉符号あふれが生じたか否かを各追尾モジュール20が自動的に検出する。この場合、データは正常にダンプされるが、粗捕捉符号あふれが生じたことをCPUに知らせるためにレジスタファイル201中の特別なフラグビットが利用される。フラグビットの利用は、高速捕捉モードでの積算中におけるGPS信号のデータビット遷移(これは非常に低い相関値をもたらす)を粗捕捉符号の非整列と解釈することを回避する。CPU上で稼働しているソフトウェアは、フラグビットを調べることによってこのデータをスキップすることができる。
【0022】
標準捕捉モードと同様に、スルー(slew)繰り返しオプションは、一つの新しいACC_INT毎に1チップ(またはそれ以上)だけ、粗捕捉符号の自動スルー(slew)を可能にする。ソフトウェアは、粗捕捉符号発生によって介入することなく、スルー(slew)された粗捕捉符号系列によって、新しい相関値を調べることができる。GPSデータのビット遷移の効果を回避するために、粗捕捉符号あふれに続く積算中では、(スルー(slew)繰り返しオプションが可能にされている状態でさえも)粗捕捉符号のスルー(slew)が自動的に抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に従うGPS処理装置を示している。
【図2】本発明に従う信号処理装置のタイミング図を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航法衛星電波受信機中で使用され、複数の航法測距信号を処理する複数の追尾モジュールを具備する信号処理装置であって、各々の追尾モジュールが、
複製符号系列を発生させる擬似ランダム符号発生器と、
航法測距信号と前記複製符号系列との間の時間積算相関値を得る相関装置とを具備しており、
前記信号処理装置には第一の機能モードがあり、この第一の機能モード時に前記複数の追尾モジュールから前記時間積算相関値を同時にダンプする様に前記信号処理装置が構成されている、信号処理装置。
【請求項2】
前記信号処理装置には第二の機能モードがあり、この第二の機能モード時に前記複製符号系列の周期の完了と同時に前記複数の追尾モジュールから前記時間積算相関値を独立にダンプする様に前記信号処理装置が構成されている、請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記時間積算相関値の前記同時ダンプが割込み信号の検出と同時に行われる、請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記航法測距信号中に含まれている擬似ランダム系列に前記複製符号系列が整列されるまでこの複製符号系列を繰り返し時間的にシフトさせる様に、前記追尾モジュールが構成されている、請求項1〜3のうちの1項に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記複製符号系列の周期の完了後に前記時間的シフトを抑制する手段を前記追尾モジュールが具備する、請求項4に記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記時間積算相関値を監視し、前記複製符号系列を選択的に時間的にシフトさせることによって、前記複製符号系列と前記航法測距信号内に含まれている前記擬似ランダム系列との間の整列状態を維持する様に、前記信号処理装置が構成されている、請求項1〜5のうちの1項に記載の信号処理装置。
【請求項7】
装置始動時かまたは前記航法測距信号の強度が所定値を超える時に前記第一の機能モードを選択的に作動させる様に機能的に構成されている、請求項1〜6のうちの1項に記載の信号処理装置。
【請求項8】
複数の宇宙船からの複数の航法測距信号を捕捉する方法であって、
複数の時間積算相関値を得るために、複数の擬似ランダム符号発生器によって発生される複数の局部信号のうちの一つに前記航法測距信号を相関させる段階と、
前記航法測距信号内に含まれている擬似ランダム信号に前記局部信号が時間整列されるまで、前記擬似ランダム符号発生器をスルー(slew)させる段階とを具備し、
総ての前記擬似ランダム符号発生器について、前記局部信号の固有周期よりも短い繰り返し周期で、前記擬似ランダム符号発生器の前記スルー(slew)が同時に且つ定期的に行われる、方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−506925(P2008−506925A)
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516200(P2006−516200)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【国際出願番号】PCT/EP2004/051336
【国際公開番号】WO2005/003807
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(505474980)ネメリックス・エスエー (5)
【Fターム(参考)】