説明

捲縮糸およびそれらを用いてなる繊維構造体ならびに貼付剤。

【課題】低モジュラス、弾性回復性に優れると同時に、製品品位に優れ、かつ薬剤担持性、耐薬品性、耐加水分解性といった諸特性を満足し、実用上の耐久性をも兼ね備えた、捲縮糸、およびそれからなる繊維構造体、ならびに貼付剤を提供する。
【解決手段】鞘成分がポリトリメチレンテレフタレートからなり、芯成分がポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステルからなる芯鞘複合繊維で構成され、芯成分の重量分率が20〜40重量%であり、単繊維の横断面における異形度が1.5以下である捲縮糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞘成分がポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTと略記することがある)を含む芯鞘複合繊維で構成される捲縮糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスター剤、ハップ剤、ならびにシップ剤などに代表される貼付剤は、例えば肘や膝等の屈伸部位に貼り付けた場合の、曲げ伸ばしに対する抵抗が小さく、剥がれにくいことが求められる。また繰り返しの屈伸運動においても皮膚の動きへ追従し、皺が寄らないことが要求される。すなわち貼付剤用の基材としては、低モジュラス性(低い応力で伸びる特性)、弾性回復性(応力を取り除いたときに伸びが回復する特性)が求められる。
【0003】
貼付剤にこのような特性を持たせるために、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記することがある)繊維等の合成繊維、あるいは綿などの布帛(織地、編地、不織布)を貼付剤用の基布とし(以下、単に貼付剤基布と称することがある)、該基布に薬剤を担持させた貼付剤が用いられている。
【0004】
貼付剤基布は低モジュラス性、弾性回復性が求められるほか、皮膚へ直接貼り付け、かつ人目にも触れるものであることから、製品品位(ざらつきがなく、ソフトタッチで低刺激であるなど、基布表面の触感に優れ、製品外観も良好であること)も要求される。そして薬剤担持性(薬剤を担持し薬剤塗布面の反対面へ薬剤のシミだしがないこと)、耐薬品性(薬剤によって基布の物理特性が劣化しないこと)、耐加水分解性(長期の製品保管や、加熱滅菌処理などによっても基布の強度が低下しないこと)などの諸特性が要求される。さらにもちろん運動持に加わる伸長力や摩擦力によっても、上記の特性が維持できる実用上の耐久性も要求される。
【0005】
以上のような要求特性について一応の満足が得られる点で、従来から貼付剤基布としてPETの捲縮糸からなる編地が用いられている。
【0006】
しかしながら、PETの捲縮糸からなる編地は、皮膚の動きへの追従性は必ずしも十分なものではなく、特に、屈伸部位に貼り付ける場合、屈伸部位(肘、膝)を伸ばした状態で貼り付けると、深く曲げた時に皮膚が引っ張られ抵抗感を味わうことがあり、繰返し曲げると貼付剤が剥がれるなどの不具合もあった。これはPETが高モジュラスであり、弾性回復性を殆ど持たないためであり、捲縮糸の捲縮率を高め、編密度を低く調整することによって、単繊維間、マルチフィラメント間に空隙を形成し、繊維間の拘束性を下げることで、これらの特性を発現させているためである。
【0007】
近年装用時の快適性にかかる要望が強く、基布の低モジュラス化、弾性回復性はもちろん、基布の触感についての改善がもとめられているものの、ハイカウント化して単繊維の繊度を小さくすると、製造工程や製品使用時で受ける外力によって捲縮がヘタリ易くなる傾向にあり、PETからなる捲縮糸では自ずと限界があった。
【0008】
そこで、ポリトリメチレンテレフタレートの捲縮糸を含む編地からなる貼付剤用基布が提案されている(特許文献1参照)。確かに特許文献1の技術によれば、弾性回復性に優れるポリマーであるポリトリメチレンテレフタレートからなる捲縮糸を用いることで、低モジュラスで、弾性回復性に優れる貼付剤用基布を得ることができる。しかしながら、ポリトリメチレンテレフタレートポリマーが弾性回復性を有するが故の阻害要素として、紡糸、延伸、仮撚加工工程において、繊維を巻取った後に遅延回復することが挙げられ、これによる悪影響を回避することが新たな課題である。この悪影響について以下に説明する。ポリトリメチレンテレフタレートは、メチレン鎖部分が屈曲した結晶構造を有し、結晶弾性率が極めて低いと言われており、紡糸、延伸、仮撚加工時の加工張力によって結晶構造自身が伸長化され易い。すなわち遅延回復性は、加工張力によってPTTの結晶構造が伸長化され、これが時間的遅れを持って、弾性回復することで起こるものと考えられている。特に紡糸、延伸工程においては高い張力が加わるため、チーズパッケージとした後に巻取糸が弾性的に回復して巻締まり、酷い場合には巻取機からチーズパッケージを引き抜くことが出来ず、繊維を切断せざるを得ない場合もある。紡糸速度や、延伸倍率を下げたり、巻取持のリラックス率を高めたりするなどの手段により、一定の改善を図ることができるものの、遅延回復による巻締まり現象を完全に抑えることは難しかった。なおかつポリトリメチレンテレフタレート繊維の弾性回復性を高めるには、繊維軸方向に分子鎖(非晶鎖および結晶鎖)を配向させることが好ましいことから、上記の手段では、ポリトリメチレンテレフタレート繊維の弾性回復性を最大現に発揮できない場合もあった。
【0009】
そして巻締まり現象の結果として、内層の繊維が外層の繊維に押しつけられることで、単繊維の太さや内部構造、あるいは長手方向に斑を持つ繊維となってしまうことも課題である。これらは基布の染色斑を招き、基布表面の粗硬感をも生じるため好ましくない。特に貼付剤基布は、上記したように編密度を低く調整した基布が用いられる場合が多いため、筋状の染斑が生じたり、杢調となったりすると目立ち易く、外観不良、触感不良が製品欠点として浮彫になってしまう。さらに最大の問題は、巻締まりによって繊維に生じる斑が、巻取パッケージの外層から内層に渡って、段階的に悪化することである。これにより貼付剤基布に段階的な染差が生じるため、工業生産を考慮した場合、致命的である。ポリトリメチレンテレフタレートは、従来のPETにはない低モジュラス性、弾性回復性を有するため、貼付剤基布用として有望であるものの、製品の品位、ならびに製造工程の通過性の点で課題があった。
【0010】
一方、ポリ乳酸繊維の繊維表面を芳香族ポリエステルで被覆させ、耐摩耗性、耐熱性を向上させ、実用上の耐加水分解性を付与すると同時に、コンポスト処理において生分解性をも発現するポリ乳酸捲縮糸が提案されている(特許文献2)。特許文献2の実施例4には、鞘成分がポリトリメチレンテレフタレートからなり、芯成分としてポリ乳酸を50重量%含有する、機械捲縮が施された短繊維が開示されている。しかし実施例4に開示された短繊維はポリ乳酸繊維対比で、耐摩耗性、耐熱性、耐加水分解性に一定の向上効果が認められるが、捲縮率は不十分であり、ポリトリメチレンテレフタレートポリマーの優れた弾性回復性を発揮できていなかった。また特許文献2には芯成分を偏心的に配置することによってスパイラル捲縮を発現せしめることができ、単繊維の横断面における偏心度によって、スパイラル捲縮の発現度合い、耐摩耗性、ならびにコンポスト処理における加水分解性を制御できることも記載されている。しかしながら、実施例4の短繊維は、同心芯鞘型複合溶融紡糸装置を用い、芯成分と鞘成分を同心円上に配置することを狙って作製したにも関わらず偏心的に配置されており、このような意図しない芯成分の偏在化現象が起こり易い系であることも示唆されていた。
【0011】
また特許文献3には、脂肪族ポリエステルの繊維表面に融点が200℃以上の芳香族ポリエステルを配置し、かつ該芳香族ポリエステルの厚みを特定範囲とした捲縮糸について開示されている。本技術により、耐摩耗性、耐熱性、ならびに耐加水分解性に優れ、実用レベルの脂肪族ポリエステル捲縮糸を得ることができる。鞘成分としてポリトリメチレンテレフタレートを用いることで、仮撚加工によって高いバルキー性を発現できるとともに、該ポリトリメチレンテレフタレートの特徴である弾性回復性、柔軟性によって、繰り返し屈曲に対しても複合界面で歪みエネルギーを蓄えにくく、芯鞘界面で剥離し難い、実用耐久性の高い捲縮糸を得られる。
【0012】
しかし貼付剤基布としては上記した様に、装用時の快適性(低モジュラス性、弾性回復性)に優れると同時に、製品品位、薬剤担持性、耐薬品性、耐加水分解性といった諸特性を満足し、実用上の耐久性にもバランス良く優れる必要があり、特許文献3に開示の捲縮糸では不十分であった。
【特許文献1】特開2002−20272号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2004−353161号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献3】特開2005−232627号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、低モジュラス、弾性回復性に優れると同時に、製品品位に優れ、かつ薬剤担持性、耐薬品性、耐加水分解性といった諸特性を満足し、実用上の耐久性をも兼ね備えた、捲縮糸およびそれからなる繊維構造体ならびに貼付剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らが特許文献2の実施例4の短繊維について追試した結果、捲縮率に加え、弾性回復性が不十分であり、ポリトリメチレンテレフタレートの優れた弾性回復性を発揮できていないことが分かった。そして繊維の形態が短繊維であるため切断面においてポリ乳酸が露出しており、紡績糸として編地にしたり、短繊維を不織布にしたりするなどして、貼付剤基布を作製しても、染色工程や加熱滅菌処理工程などの製造工程においてポリ乳酸の加水分解が著しく、染色前後の強力低下が大きく実用に耐えなかった。そして芯成分の加水分解が進行すると、芯成分と鞘成分との界面接着性が低下し、外力によって界面剥離を生じて、白ボケする現象も確認されることから、詰め綿やクッション材などの非染色用途に使用が限定されるものであった。
【0015】
さらに特許文献2には仮撚加工等を行った長繊維の加工糸についても例示されているが、特許文献2の繊維に仮撚加工を施した場合、仮撚工程で単繊維に加わる圧縮力によって単繊維の断面が変形し、異形度の高い捲縮糸となってしまうものであった。そしてこれにより得られる繊維構造体は染色後に筋状の斑を有し、また表面平滑性が低下してざらつきが有り、品位の悪い繊維構造体となってしまうことが判明した。
【0016】
そこで本発明者らが、貼付剤基布のごとく低密度の繊維構造体においても好適に用いられる捲縮糸について鋭意検討した結果、鞘成分がポリトリメチレンテレフタレートで構成され、芯成分に特定量のポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステルを含む芯鞘複合繊維からなる捲縮糸によって、ポリトリメチレンテレフタレートの低モジュラス性、弾性回復性を十分に発揮できると同時に、繊維の均一性、バルキー性に優れ、かつ実用上の耐久性にも優れることを見いだした。そしてさらに鞘成分を構成するポリトリメチレンテレフタレート、芯成分を構成するポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステル、芯成分の重量分率、ならびに紡糸、延伸、仮撚加工の条件を選択することにより、従来の芯鞘複合繊維からなる捲縮糸の課題であった、仮撚加工時の断面の変形を抑えることにも成功し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち本発明は、鞘成分がポリトリメチレンテレフタレートを含んでなり、芯成分がポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステルを含んでなる芯鞘複合繊維で構成され、芯成分の重量分率が20〜40重量%であり、単繊維の横断面における異形度が1.5以下である捲縮糸およびそれからなる繊維構造体ならびに貼付剤によって達成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来のポリトリメチレンテレフタレート繊維の課題であった、繊維の均一性を格段に向上することができるとともに、ポリトリメチレンテレフタレートの低モジュラス性、弾性回復性、ならびに耐湿熱老化性といったポリトリメチレンテレフタレートの特徴を全く劣化させることのない捲縮糸を得ることが出来る。さらに仮撚工程での断面の変形を抑えた異形度の小さい捲縮糸であるため、均染性に優れ、表面にざらつきの無い、高品位な繊維構造体を得ることができる。
【0019】
また本発明の捲縮糸は、単繊維繊度の小さいファインデニールの捲縮糸とした場合であっても、バルキー性が高く、単繊維の均一性に優れる捲縮糸となるため、極めて低モジュラスで、高い弾性回復性を有し、製品外観も良好であり、ピーチタッチで肌触りが良い編地を提供することができる。
【0020】
本発明の繊維構造体は、貼付剤用の基布として用いた場合に装用時の快適性、密着性、皮膚追従性に優れるだけでなく、製品品位(ざらつきがなく、ソフトタッチで低刺激であるなど基布表面の触感に優れ、製品外観も良好であること)に優れ、外力に対する耐久性、薬剤担持性、耐薬品性、耐湿熱老化性も優れている。このため、消炎鎮痛用のハップ剤、プラスター剤、シロップ剤、温湿布、冷湿布や、スポーツ用途や身体保護用途に使用されるテープ剤などの、人間あるいは動物へ一定期間貼付け、使用後に剥がして廃棄する貼付剤の基材として好適に用いられる。
【0021】
そして本発明の捲縮糸、ならびに繊維構造体は、低モジュラス性、弾性回復性に優れ、製品品位、外力に対する耐久性、耐薬品性、耐湿熱老化性にも優れているため、貼付剤以外の用途にも好適に用いることができる。たとえば衣料用途(アウトドアウェアやゴルフウェア、アスレチックウェア、スキーウェア、スノーボードウェアおよびそれらのパンツ等のスポーツウェア、ブルゾン等のカジュアルウェア、コート、防寒服およびレインウェア等の婦人・紳士用アウター、ユニフォームなど)、寝装資材用途(掛布団や敷布団、肌掛け布団、こたつ布団、座布団、ベビー布団、毛布等の布団類や枕、クッション等の表皮やカバー、マットレスやベッドパッド、病院用、医療用、ホテル用およびベビー用のシーツ等、さらには寝袋、揺りかごおよびベビーカー等のカバー等)があり、これらにも好ましく用いることができる。そして、外力に対する耐久性、並びに耐湿熱老化性にも優れているため、自動車、電車、飛行機の内装資材(シート、天井、ピラー、ドアトリムなどの表皮用、BCFカーマット)としても好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の捲縮糸は、単繊維の鞘成分がポリトリメチレンテレフタレート(PTT)からなることが必要である。
【0023】
PTTとは、1,3−トリメチレングリコール成分と、テレフタル酸成分から構成される繰り返し単位(以下、トリメチレンテレフタレート単位と記載する場合がある)を含むポリエステルであり、グリコール成分に炭素数3個のメチレン鎖を有することにより、上述のごとく伸長変形に対して結晶構造自身が伸縮するという特徴を有する。そのため、PETや、ポリブチレンテレフタレート(PBT)と比べて、極めてモジュラスが低く、弾性回復性が高い特徴を持つため好ましい。またPET対比、湿熱処理や、アルカリ処理などによる耐久性(強度保持率)は2〜4倍であることが本発明者らの検討により判明しており、本発明の捲縮糸の構成成分として最適である。
【0024】
PTTとしては、トリメチレンテレフタレート単位以外に、その他の繰り返し単位を含む共重合PTTを採用してもよいが、PTTの特徴を活かすためには、トリメチレンテレフタレート単位が90モル%以上であるPTTを採用することが好ましい。より好ましくは92モル%以上であり、さらに好ましくは95モル%以上である。
【0025】
共重合PTTポリマーである場合、共重合成分の例としては、例えばジカルボン酸成分として、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’ジフェニルジカルボン酸、4,4’ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’ジフェニルスルホンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸成分や、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分等を用いることができ、これらの酸成分は1種類でもよく、2種以上併用してもよい。
【0026】
またグリコール成分として、例えばエチレングリコール、1,2−トリメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2’ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等を用いることができる。これらのグリコール成分は1種類でもよく、2種類以上併用してもよい。
【0027】
なお鞘成分がPTTからなるとは、鞘成分の80重量%以上がPTTで構成されることと定義し、好ましくは85重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。また目的に応じて、他のポリマー、粒子、難燃剤、帯電防止剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤等の添加物を含有していてもよい。
【0028】
また、本発明者らの検討の結果、捲縮糸中に2つのトリメチレンテレフタレートが環状に連結された環状ダイマー(以下、環状ダイマーと記載)が高濃度で存在していると、耐加水分解性が著しく悪化することが判明した。これは、環状ダイマーが加水分解によりトリメチレンテレフタレートモノマーとなり、該モノマーによる触媒作用により、加水分解を促進するためであると推測している。そのため捲縮糸中の環状ダイマーの含有率は3重量%以下であることが好ましく、2.5重量%であることがより好ましく、2重量%以下であることがさらに好ましい。
【0029】
本発明の鞘成分を構成するPTTは、分子量の指標である、固有粘度が0.8〜2dl/gであることが好ましい。PTTの分子量が高いほど、製造工程においてPTTの分子配向を高めやすく、捲縮糸の弾性回復性、ならびに弾性回復の堅牢度が高まるため好ましい。但しあまりに分子量が高いと、溶融した時に急激な分子量低下がおこり、ポリマー中に粘度斑が生じて、紡糸パック、紡糸口金内での溶融流動が安定し難く、芯鞘複合糸の横断面において芯成分が偏在化するといった製造工程上の問題が生じる場合がある。このため固有粘度は1〜1.8dl/gであることがより好ましく、1.2〜1.6dl/gであることがさらに好ましい。
【0030】
本発明の捲縮糸は芯成分がポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステルからなることが必要である。本発明者らは、PTTポリマーの特徴を最大限に生かすとともに、PTTのデメリットである巻締まり、およびそれに伴う糸斑を抑えるべく鋭意検討した結果、驚くべきことに、芯成分にポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステルを単繊維総重量に対して20重量%以上含むことで初めて、従来のPTTを含む捲縮糸の課題で有った、遅延回復を抑えることができ、製造工程での巻締まりを回避することができることを見いだした。また、繊維構造体とした場合であっても、極めて均染性に優れ、製品品位にも優れる捲縮糸となることを見いだしたのである。一方で芯成分の比率を40重量%以下とすることで、低モジュラス性、高弾性回復性、耐加水分解性といったPTTの特徴を損なうことなく、繊維構造体とした時に最適である捲縮糸となることを見いだしたのである。
【0031】
芯成分に用いるポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステルとしては、グリコール成分とジカルボン酸成分から構成される繰り返し単位を含む重合体であれば従来公知のポリエステルを採用することができる。
【0032】
ポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステルとは、例えばジカルボン酸成分とグリコール成分からなるポリエステルであって、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’ジフェニルジカルボン酸、4,4’ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’ジフェニルスルホンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸成分や、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分等を用いることができ、これらの酸成分は1種類でもよく、2種以上併用してもよい。
【0033】
また、グリコール成分として、例えばエチレングリコール、1,3−トリメチレングリコール、1,2−トリメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2’ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等を用いることができる。これらのグリコール成分は1種類でもよく、2種類以上併用してもよい。
【0034】
ポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステルは、PTTの遅延回復性を抑えることを目的とするものであるため、PTTからなるポリマーではないことが必要である。そして結晶性が高く、寸法安定性の高いポリエステルほど遅延回復性を抑え易いことから、芯成分のポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステルの90モル%以上が、1種類のジカルボン酸成分と、1種類のグリコール成分とからなる繰り返し単位で構成されることが好ましく、92モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましい。
【0035】
そして本発明の芯成分であるポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、またポリ乳酸であることが好ましい。芯成分としてPETまたは、ポリ乳酸を配置することで、特に得られる捲縮糸の、均一性、バルキー性が高まるため好ましい。芯成分のポリマーとして、PETまたはポリ乳酸が特に好ましい理由については定かではないが、下記の理由によるものと推定している。
【0036】
鞘成分のPTTは溶融貯留時の耐熱性が低いポリマーである。このため適正な溶融温度領域は狭く、245〜280℃である。そのため、複合紡糸を行う場合は、少なくとも紡糸パックや、口金など、2成分のポリマーを同一の温度で流す流路が存在することから、芯成分としては上記温度範囲での良流動性を示し、溶融貯留時の耐熱性も高いことが好ましい。芯成分として、PETまたはポリ乳酸を配置した場合、紡糸パック、口金など、2成分のポリマーを同一の温度で流す流路温度を前記範囲とし易いため、PTTポリマーの熱分解を抑え易くなり、好ましい。
【0037】
加えて、PETおよびポリ乳酸は、溶融紡糸において紡糸線の固化点に影響する、ガラス転移温度(Tg)がPTTよりも高いため(ガラス転移温度、PTT:48℃、PET:70℃、PLA:58℃)、PET、またはポリ乳酸を芯成分として配置することによって、糸温度の高い紡糸線上流部で細化が進行し、細化を上流側で完了させ易くなるため好ましい。この効果によって糸条が速やかに冷却され、固化点の変動が小さくなり易いことから、紡出糸を引き取る前の段階において、単繊維間あるいは長手方向において、繊維の太さ斑が小さく、繊維の内部構造も均一化するため染色斑が発生し難くなる。
【0038】
そしてこの紡出糸を引き取った後、巻き取る際においても、PET、ならびにポリ乳酸は寸法安定性が良好であるため、PTTの遅延回復をより抑えることができ、均一性の高い未延伸糸、または延伸糸を得易いため好ましい。このようにして得られた均一性の高い未延伸糸、または延伸糸に仮撚加工を施すことで、均一性、バルキー性に優れた仮撚加工糸を得ることができ、好ましい。
【0039】
従来のPTT単独からなる仮撚加工糸の場合には、原糸(仮撚加工に供する未延伸糸、または延伸糸)の段階での繊維の長さ方向の外径が不均一であったため、単繊維間あるいは長手方向の斑によって、捲縮発現の斑を生じたり、加工倍率によっては毛羽が発生するなどの悪影響から、バルキー性を十分に発現させることができなった。本発明の捲縮糸はこの悪影響を排除できることから、均一性、バルキー性が共に優れた捲縮糸となり、好ましい。
【0040】
本発明の芯成分がPETである場合、エチレンテレフタレート単位以外に、その他の繰り返し単位を含む共重合PETを採用してもよい。エチレンテレフタレート単位のみからなるPETの融点は254℃程度であり、PTT(融点230℃)よりも高い。このためPTTの適正な溶融温度領域での流動性を高めることが好ましい。具体的には低分子量化したPETや、ジカルボン酸成分、グリコール成分に、例えばイソフタル酸やビスフェノールAなどの屈曲、嵩高成分を共重合して融点を下げた共重合PETが好適に用いられるが、ポリマーの耐熱性、結晶性、寸法安定性に優れ、結果としてPTTの遅延回復を抑えやすい点で、エチレンテレフタレート単位が90モル%以上であるPETを採用することが好ましい。より好ましくは92モル%以上であり、さらに好ましくは95モル%以上であり、特に好ましくは98モル%以上である。そしてPTTの溶融温度領域での流動性が高い点で低分子量であるPETであることが最も好ましい。
【0041】
また共重合によって融点を下げた共重合PETである場合、寸法安定性に優れ、PTTの遅延回復性を抑え易い点で、融点は200℃以上であることが好ましく、210℃℃以上であることがより好ましく、220℃以上であることがさらに好ましい。
【0042】
芯成分がPETである場合、分子量の指標である固有粘度は0.6dl/g以下であることが好ましく、0.56dl/g以下であることがより好ましく、0.53dl/g以下であることがさらに好ましい。本発明の芯成分は、またポリマーの耐熱性、ならびに得られる捲縮糸の強度、耐加水分解性が高まる点で、PETの固有粘度は0.4dl/g以上であることが好ましく、0.43dl/g以上であることがより好ましく、0.46dl/g以上であることがさらに好ましい。
【0043】
また本発明の芯成分はポリ乳酸からなることも好ましい。ここでポリ乳酸とは、-(O-CHCH3-CO)n-を繰り返し単位とするポリマーであり、乳酸やそのオリゴマーを重合したものをいう。乳酸にはD−乳酸とL−乳酸の2種類の光学異性体が存在するため、その重合体もD体のみからなるポリ(D−乳酸)とL体のみからなるポリ(L−乳酸)および両者からなるポリ乳酸がある。ポリ乳酸中のD−乳酸、あるいはL−乳酸の光学純度が低くなるとともに結晶性が低下し、融点が低くなる。ポリ乳酸の結晶性が高いほど、芯成分の効果によってPTTの遅延回復を抑え易いことから、光学純度は90%以上であることが好ましい。より好ましい光学純度は93%以上、さらに好ましい光学純度は97%以上、特に好ましい光学純度は99.5%以上である。なお、光学純度は前記した様に融点と強い相関が認められ、光学純度90%程度で融点が約150℃、光学純度93%で融点が約160℃、光学純度97%で融点が約170℃となる。
【0044】
また、上記のように2種類の光学異性体が単純に混合している系とは別に、前記2種類の光学異性体ポリマーをブレンドして芯成分として配置した後、140℃以上の高温熱処理を施してラセミ結晶を形成させたステレオコンプレックスにすると、融点を220〜230℃まで高めることができ、安定性の高い結晶構造を有するため、PTTの遅延回復性がさらに抑えられるため好ましい。この場合、芯成分は、ポリL乳酸とポリD乳酸の混合物を指し、そのブレンド比は40/60〜60/40であると、ステレオコンプレックス結晶の比率を高めることができ、好ましい。
【0045】
またポリ乳酸中にはラクチド等の残存モノマーが存在するが、これら低分子量残留物は捲縮糸の加水分解性を促進し、耐久性を低下させることがあるため、これら低分子量残留物は好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、さらに好ましくは0.2重量%以下である。
【0046】
またポリ乳酸は、例えばポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合したものであっても良い。共重合する成分としては、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレンエーテルグリコール、ポリブチレンサクシネートやポリグリコール酸などの脂肪族ポリエステル、ポリエチレンイソフタレートなどの芳香族ポリエステル、およびヒドロキシカルボン酸、ラクトン、ジカルボン酸、ジオールなどのエステル結合形成性の単量体が挙げられる。この中でもポリアルキレンエーテルグリコールが好ましい。ただしポリ乳酸の結晶性が高いほど、芯成分の効果によってPTTの遅延回復を抑え易いことから、このような共重合成分の共重合割合はポリ乳酸に対して0.1〜10モル%であることが好ましい。ポリ乳酸はさらに改質剤として粒子、結晶核剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、架橋剤等の添加物が含まれていても良い。
【0047】
ここで本発明の捲縮糸の芯成分がポリ乳酸である場合、特に注意すべき点はポリ乳酸の耐熱性はあまり高いとは言えず、溶融貯留時に熱分解が起こって分子量低下し易い点である。溶融紡糸、延伸工程、ならびに仮撚加工工程において、ポリ乳酸の配向結晶化を促進でき、ポリ乳酸の結晶性が高まって、よりPTTの遅延回復を抑えられる点からポリ乳酸の分子量は高いことが好ましい。また後述するように、仮撚加工工程での断面の変形を抑えやすい点、意図しない芯成分の偏在化を回避する点からも、芯成分としては高分子量であるポリ乳酸を用いることが好ましい。
【0048】
具体的には、重量平均分子量は10万以上であることが好ましく、12万以上であることがより好ましく、14万以上であることがさらに好ましく、16万以上であることが特に好ましい。ただし前記したようにPTTの適正な溶融温度範囲での成形加工を可能とする点で、重量平均分子量は、27万以下であることが好ましく、26万以下であることがより好ましく、25万以下であることがさらに好ましい。上記重量平均分子量は実施例に記載の手法を用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレン換算で求めた値である。
【0049】
本発明の捲縮糸は芯鞘複合繊維から構成されることが必要である。芯鞘複合繊維として繊維表面のすべてをポリトリメチレンテレフタレートで形成することにより、耐湿熱老化性に優れる捲縮糸とすることができる。また捲縮糸の断面形状については、丸断面、多角断面、多葉断面、中空断面、その他公知の断面形状のいずれでもよく、芯鞘構造も単芯の他、2芯、3芯といった多芯構造であってもよいが、より耐湿熱老化性に優れ、捲縮糸のバルキー性を高めやすく、外力に対する耐久性にも優れる点で、丸断面であり、単芯の芯鞘構造が好ましい。
【0050】
本発明の捲縮糸とは、一般的に知られている、仮撚加工糸、バイメタル捲縮糸、機械捲縮糸、BCFヤーンなどの捲縮糸を指し、単繊維の屈曲や、単繊維同士の絡み合いによって嵩高性を有する繊維である。本発明の捲縮糸は、よりバルキー性が高く、単繊維間での捲縮が均一な捲縮糸を形成し易いことから、仮撚加工糸であることが好ましい。仮撚加工糸は、製造工程においてマルチフィラメントに一端撚を加えて熱処理し、その後解撚することでバルキー性を発現させるため、捻る、解くといった機械的な力が単繊維間で均一に掛かり易く、バルキー性が高く、均一性も高い捲縮糸を得やすいため好ましい。
【0051】
本発明の捲縮糸は、フィラメントヤーン(長繊維)であってもよいし、捲縮糸を、適度な長さに切断したステープルヤーン(短繊維)であっても良いが、複数本のフィラメントが収束されたマルチフィラメントヤーンで構成される捲縮糸であることで、表面平滑性が高い繊維構造体が得られ、繊維構造体の表面の刺激が低減されるとともに、薬剤の担持性にも優れるため好ましい。またフィラメントヤーンであることにより、芯成分が露出されずに、ポリトリメチレンテレフタレートの耐湿熱老化性に優れる特徴を最大限に活かすことができ、耐湿熱老化性に優れるため好ましい。
【0052】
本発明の捲縮糸は、芯成分の重量分率が20〜40重量%であることが必要である。PTTの遅延回復性を抑えるために、芯成分の重量分率は単繊維の総重量に対して20重量%以上であることが必要である。芯成分を20重量%以上含むことで、捲縮糸の均一性が飛躍的に高まり、高バルキーな仮撚加工糸としても均染性に優れるため好ましい。より好ましくは22重量%以上であり、さらに好ましくは25重量%以上である。また低モジュラス性、弾性回復性、高バルキー性、ならびに耐加水分解性といったPTTの特徴を最大現に活かすために、芯成分の重量分率は40重量%以下であることが必要である。また芯成分の重量分率を40重量%以下とすることによって、芯成分の単位体積当たりの芯鞘界面(芯成分と鞘成分との界面)の面積が大きくなるため、捲縮糸に屈曲や伸長とった変形を加えた場合や、染色工程で湿熱処理を加えた場合などにおいても芯鞘界面の剥離が起こらず、外力に対する耐久性が極めて優れたものとなるため好ましい。より好ましくは38重量%以下であり、さらに好ましくは35重量%以下である。
【0053】
本発明では、上記のごとく芯鞘複合糸とし、芯成分としてポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステルを20〜40重量%含むことによって、紡糸、延伸工程においてPTTの遅延回復性が抑えられていることから均一性に優れた未延伸糸、および延伸糸を得ることが出来る。このため、仮撚加工工程においてバルキー性を最大限に発現させることができ、均一性、バルキー性を両立させた捲縮糸とすることができる。そして、均一性に優れた未延伸糸、および延伸糸を形成できること、ならびにPTTが弾性回復性に優れること、これらの相乗効果による新たなメリットとして、繊維の長さ方向の外径斑が健在化し易い、単繊維繊度の小さい捲縮糸であっても、実用に即した均染性とバルキー性を合わせもつ捲縮糸とすることもできる。
【0054】
すなわち、一般的にPETからなる単繊維繊度の小さい捲縮糸は、ソフトタッチな布帛を形成できるものの、製造工程でうける加工張力によって、捲縮がヘタってバルキー性の高い捲縮糸とすることが難しかったり、溶融紡糸工程において細化が不安定化し、繊維の均一性が問題となったりする。一方で、本発明の芯鞘複合繊維から構成される捲縮糸は、単繊維繊度の小さい捲縮糸であっても、PTTの弾性回復特性に由来して捲縮がヘタリ難いためバルキー性が良好であり、芯鞘複合繊維であるため繊維の均一性も良好な捲縮糸となるのである。
【0055】
また単繊維繊度が小さい捲縮糸ほど、編地を構成した場合に、マルチフィラメントの単繊維間、ならびにマルチフィラメント間で形成される繊維間空隙が広がり、低モジュラスで、製品品位も良好な編地が得られるため好ましい。よって、単繊維繊度は1.8dtex以下であることが好ましく、1.7dtex以下であることがより好ましく、1.6dtex以下であることがさらに好ましい。ただしあまりに単繊維繊度が小さいと、バルキー性が低下する傾向にあるため単繊維繊度は0.1dtex以上であることが好ましく、0.3dtex以上であることがより好ましく、0.5dtex以上であることがさらに好ましい。
【0056】
本発明の捲縮糸は、捲縮糸のバルキー性を表す指標である伸縮復元率(CR)が25〜60%の範囲にある、バルキー性の高い捲縮糸であることが好ましい。CRの高い捲縮糸で構成される編地ほど、低モジュラスで、弾性回復性に富んだものとなるため好ましい。一方で、CRが60%を越えると捲縮糸の強度が低下し、編地を形成するとき工程通過性が妨げられる場合がある。このためCRは35〜57%であることがより好ましく40〜55%であることがさらに好ましい。CRは実施例にて記載した方法に基づき測定することができる。本発明の捲縮糸は、芯成分を構成するポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステルの含有量が40重量%以下であるため、PTTの捲縮発現性を阻害することなく、高いバルキー性を発現させることができる。そして芯成分を20重量%以上含むことにより均一性の高い捲縮糸となるため、上記のごとく高バルキーな捲縮糸であっても均染性、表面品位が良好な繊維構造体となるのである。そしてCRを前記範囲とするには、PTTの分子量や、芯成分の含有量、芯成分のポリエステル種および分子量、ならびに製造工程における、紡糸速度、仮撚加工条件などを調整することが好ましい。
【0057】
また、繊維構造体の弾性回復性が高まる点で、捲縮糸の弾性回復性の指標である10%伸長弾性回復率が70%以上であることが好ましい。より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。捲縮糸の10%伸長弾性回復率は実施例にて記載した方法に基づき測定することができる。10%伸長弾性回復率の高い捲縮糸を得るには、芯成分の含有量が低いこと、CRが高いこと、PTTの分子量や分子配向度が高いことが好ましい。
【0058】
本発明の捲縮糸は、単繊維の横断面における異形度が1.5以下であることが必要である。異形度が1.5以下であることにより、繊維構造体としたときの表面の平滑性が向上し、ざらつきが無く、ソフトタッチで低刺激性の繊維構造体となるのである。これにより初めて貼付剤基布のごとく、低目付の用途に用いられる繊維構造体へも好適に使用できる表面品位が達成されるのである。また単繊維の異形度を1.5以下にすることで、捲縮糸に加わった外力が芯鞘界面に集中しにくくなり、芯鞘界面が剥離しにくい耐久性にも優れた捲縮糸となるというメリットもあるため好ましい。このため異形度は低いことが好ましく、1.4以下であることが好ましく、1.3以下がより好ましく、1.2以下がさらに好ましく、1.1以下が特に好ましい。
【0059】
ところで、バルキー性の高い捲縮糸とするために、仮撚加工糸であることが好ましいことは前述にて説明した。しかし仮撚加工においては、加熱されたマルチフィラメントに、高張力下で、撚りが加わることで捲縮が発現し、このときにマルチフィラメントを構成する単繊維は細密充填化されるため、圧縮力によって断面が変形してしまい、上述したように異形度が高くなり易かった。そしてこのように単繊維の横断面が変形し、異形度が大きくなってしまった仮撚加工糸は、衣料用などの比較的目付の高い用途へ適用する場合には問題とはならないが、貼付剤基布のごとく目付の低い用途へ用いると、異形度が大きくなったことによる悪影響が顕在化することが判った。具体的には繊維構造体の均染性が不十分であったり、表面にざらつきを生じて、皮膚に刺激を与えたりするという問題が生じるのである。
【0060】
仮撚加工工程では糸温度を高めたり、加工倍率を高めたりして、高CRの捲縮糸を得る訳であるが、特に芯鞘複合糸から構成される捲縮糸では、鞘成分と芯成分との粘弾性特性が異なるため、片側成分のみ軟化してしまうと断面が潰れ、変形してしまい易かった。このため異形度が小さい単繊維で構成される捲縮糸とするためには工夫が必要であった。そして本発明者らが仮撚加工工程における断面の変形を和らげるために鋭意検討した結果、芯成分の含有量を40重量%以下とすることに加え、紡糸条件、仮撚加工条件などの製造条件を、本発明にて好ましい範囲とすることで初めて異形度が1.5以下の捲縮糸となることを見いだし、本発明を完成するに至った。芯成分の重量分率が低いことで単繊維の異形度を小さくできる理由は定かではないが、恐らくPTTが弾性回復性に極めて優れるポリマーであるため、芯成分の重量分率が低い、すなわちPTTの重量分率が高い場合、仮撚加工時に細密充填化されて単繊維の断面が変形しても、圧縮力が解法されたのちに、鞘成分が弾性回復を示して断面の変形を和らげるものと推定している。さらに仮撚加工工程に供する原糸の段階で、芯成分が単繊維の中心部に配置させることが重要であり、これにより仮撚によって加わる圧縮力が鞘成分に均一に分散させることで、異形度の小さい捲縮糸が得られるため好ましい。そして原糸段階でPTTの微結晶を形成すること、仮撚加工での第1ヒーター温度を適度な温度に抑えることなど、紡糸、仮撚での諸条件を本発明にて好ましい範囲とすることで、初めて異形度の小さい捲縮糸が得られる。そしてPTTの分子量が高いほど、芯成分がポリ乳酸からなる捲縮糸の場合は、ポリ乳酸の分子量が高いことが好ましい。
【0061】
本発明の捲縮糸は、単繊維横断面内において、芯成分の重心と、単繊維の重心とのズレが小さく、鞘成分であるPTTが単繊維横断面の輪郭に渡って均一な厚みで配置されていることが好ましい。これにより該捲縮糸を用いてなる編地の外力に対する耐久性、耐加水分解性、ならび基布の表面品位がさらに優れるため好ましい。
【0062】
このような芯成分の重心と、単繊維の重心とのズレの小さい捲縮糸は、芯成分が単繊維の中心部に配置された単繊維で構成される原糸に、捲縮加工を施すことによって得られる。しかし、鞘成分がPTTからなる芯鞘複合繊維は、溶融紡糸条件や、PTTの分子量、あるいは芯成分のポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステルの設計が不十分であると、仮撚加工に供する原糸の段階で、芯成分が単繊維横断面内において意図せずとも偏在化してしまう場合がある。そしてPTTは弾性回復性に優れるポリマーであるため、芯成分の重心と、単繊維の重心とが僅かにずれるだけであっても、単繊維にスパイラル捲縮を生じ易いことが判明した。勿論、例えば全ての単繊維が均一なスパイラル捲縮を有する、2成分のポリマーを接合したバイメタル捲縮糸であれば、問題とはならないが、本発明のごとく芯鞘複合繊維で構成されるマルチフィラメント中に、偏在化の酷い単繊維が存在してしまうと、スパイラル捲縮を有さない単繊維と、スパイラル捲縮を有する単繊維とが混在する捲縮糸となってしまい、繊維構造体とした時に筋状の染色斑を招くとともに、表面に粗硬感を与えるため好ましくない。
【0063】
また紡糸工程で芯成分が偏在化してしまった単繊維で構成される原糸に仮撚加工を施す場合、仮撚加工工程でのマルチフィラメントが細密充填化される圧縮力によって断面が変形し易く、異形度が大きい捲縮糸となりやすいという欠点も有している。この影響でそれぞれの単繊維に加わる圧縮力に偏りが生じ、繊維の長手方向や単繊維間において、捲縮斑や、太さ斑が出来る原因ともなる。よって、芯成分が偏在化した単繊維を含む捲縮糸は、スパイラル捲縮を有する単繊維、および異形度の大きな単繊維が混在することとなり、この2つの悪影響によって、特に低目付の繊維構造体を形成しようとした場合に、染色後に筋となって現れたり、表面の粗硬感を生じたりして、製品の欠点となるのである。
【0064】
単繊維の直径に対して、芯成分の重心と単繊維の重心との距離が大きくなると、単繊維横断面内における弾性回復性の偏りが大きくなり、スパイラル捲縮が生じる。このため単繊維の横断面内における、芯成分の重心と単繊維の重心との距離を、単繊維の直径で除することで算出される重心解離度が、0.1以下であることが好ましい。0.08以下であることがより好ましく、0.06以下であることがさらに好ましく、0.04以下であることが特に好ましい。0%が理想であり、最良である。本発明の重心解離度は捲縮糸の単繊維における重心解離度を指し、実施例にて記載の方法で求めることができる。
【0065】
そして本発明らが鋭意検討した結果、特に溶融紡糸工程における製造条件(スピンブロックの温度、吐出線速度)を本発明にて好ましい範囲で選択することによって、初めて鞘成分がPTTである捲縮糸における芯成分の偏在化を抑制できることを見いだした。また本発明のごとく芯成分の含有量を少量成分とし、鞘成分の含有量を多量成分とすることにより、芯成分の偏在化を抑制できるメリットもあることが分かった。さらにPTTの分子量や芯成分を構成するポリエステルの種類や分子量を上述した範囲で選択することで、本発明の捲縮糸の重心解離度を小さくできる。
【0066】
なお鞘成分がPTTからなる芯鞘複合繊維で、意図せずに芯成分が偏在化し易い原因は、おそらく上述したようにPTTの耐熱性があまり高くなく、溶融貯留時に分子量が低下して分子量分布が広くなり易いことに加え、溶融剪断粘度が、剪断速度や温度よって変化し易いといったPTTの特徴により、溶融紡糸工程において、ポリマー配管内、紡糸パック内、紡糸口金の吐出孔内で受ける熱履歴、剪断履歴の僅かな違いによってもPTTの溶融粘度が変動し、紡出糸の鞘成分に溶融粘度の分布が生じ易いためと推定している。
【0067】
以上のことから本発明の捲縮糸はスパイラル捲縮を有する単繊維が含まれないほど、編地とした場合の製品の品位が良好となるため好ましい。このためマルチフィラメントを構成する全ての単繊維の中で、スパイラル捲縮を有する単繊維を含む割合が、5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましく、2%以下であることが特に好ましい。0%が理想的であり、最良である。スパイラル捲縮を有する単繊維を含む割合は、実施例の手法にて測定することができる。
【0068】
本発明の捲縮糸は、マルチフィラメントの長手方向の太さ斑の指標である、ウースター斑(U%)が2%以下であることが好ましい。これにより編地の均染性を高めることができる。ウースター斑U%はより好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下、最も好ましくは0.6%以下である。
【0069】
そして本発明の捲縮糸は、単繊維間の太さ斑が小さい捲縮糸であることにより、均染性に優れ、表面のざらつきがなくソフトタッチな編地となるため好ましい。このため単繊維間の太さ斑の指標である、繊度CV%が5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましく、2%以下であることが特に好ましい。繊度CV%は実施例の手法にて測定することができる。
【0070】
U%と、繊度CV%とは共に捲縮糸の太さ斑を表す指標であるが、前者がマルチフィラメントの長手方向の太さ斑を反映しているのに対し、後者がマルチフィラメントの断面方向の単繊維間の太さ斑を反映している点が異なる。例えば前述したようにPTT単独成分からなる捲縮糸の場合は、遅延回復による巻締まりによって、内層部ほど単繊維同士が圧縮されるため、段階的に繊度CV%が悪化し易い傾向にあった。そしてこれにより、内外層の捲縮糸が段階的に染差を有する傾向にあった。
【0071】
本発明の捲縮糸は、芯成分としてポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステルを20〜40重量%含むことにより、PTTの遅延回復性を抑えることで単繊維間の太さ斑を小さくすることができる。そしてさらに本発明の捲縮糸の繊度CVを小さくするためには、芯成分の重量分率、芯成分を構成するポリエステルの種類や分子量を上述した範囲で選択し、PTTの遅延回復性を抑えることが好ましい。また同時に溶融紡糸条件を本発明にて好ましい範囲を選択してスパイラル捲縮の単繊維を含まない捲縮糸としたり、延伸、仮撚加工条件を好ましい範囲として、毛羽等の発生を抑えたりする手段を講じることも好ましい。
【0072】
本発明の捲縮糸のモジュラスが低いほど、編地のモジュラスも低くなりやすく好ましい。このため捲縮糸のモジュラスは40cN/dtex以下であることが好ましく、37cN/dtex以下であることがより好ましく、35cN/dtex以下であることがさらに好ましい。一方、あまり捲縮糸のモジュラスが低いと編地を屈曲、伸縮させた際に、マルチフィラメント同士の拘束力によって基布の構造に乱れが生じて皺が寄る場合があるため、捲縮糸のモジュラスは20cN/dtex以上であることが好ましく、23cN/dtex以上であることがより好ましく、25cN/dtex以上であることがさらに好ましい。捲縮糸のモジュラスは芯成分の含有量や、芯成分のポリエステル種および分子量を好ましい範囲で選択することで制御できる。
【0073】
本発明の捲縮糸の強度は1.5cN/dtex以上であれば、実用レベルの強度を有する編地を構成することができ、製造工程における工程通過性も良好となるため好ましい。より好ましくは1.8cN/dtex以上であり、さらに好ましくは2.0cN/dtex以上である。捲縮糸の強度は高いほど好ましいため上限はないが、4.0cN/dtex程度が技術上の限界である。
【0074】
また本発明の捲縮糸の伸度は20〜60%であれば、強度と伸度のバランスに優れ、製造工程における通過性が高まるため好ましい。さらに好ましくは30〜50%である。
【0075】
本発明の捲縮糸の沸騰水収縮率は2〜20%であることが好ましい。沸騰水収縮率が高いほど、染色工程や、スチーム処理などにおいて、バルキー性が発現し易くなるため好ましい。また沸騰収縮率を適度な範囲に抑えることで、編地の寸法安定性が高まると同時に、表面が粗硬化することもなく、表面品位の良好なものとなるため好ましい。沸騰水収縮率は3〜16%が好ましく、4〜12%がより好ましい。
【0076】
また、本発明の捲縮糸は、残留トルクが200T/m以下であることが好ましい。残留トルクが200T/m以下であれば、チーズから解舒した糸のビリを抑制し、走行安定性に優れるため、編地の製編織性が向上する。更に、得られる編地に斜行や緯段、筋を抑制することができ、好ましい。残留トルクはより好ましくは150T/m以下、さらに好ましくは100T/m以下である。また、残留トルクは、20T/m以上であれば安定生産が可能であり、また最終製品の品位に与える影響も僅かであり好ましい。
【0077】
本発明の捲縮糸は、均染性に優れているため捲縮糸は染色処理して用いられることが好ましく、染色工程の湿熱処理において捲縮糸のバルキー性が十分に顕在化するため好ましい。もちろん非染色で用いることもできるが、この場合はバルキー性を顕在化させることを目的として、沸水処理や、スチーム処理を施すことも好ましい。染色処理はいずれの段階で行っても良く、チーズ染色機や、液流染色機、ドラム染色機などの染色機で、チーズ状、または反物状で染色することできる。また溶融紡糸を行う前のいずれかの段階で、芯鞘複合繊維に有機および/または無機の顔料を含ませることにより着色した原着捲縮糸とすることもできる。
【0078】
また本発明の捲縮糸は、トータルカルボキシル末端基濃度が低いほど耐加水分解性が高まるため好ましい。30eq/ton以下であることが好ましく、20eq/ton以下であることがより好ましく、10eq/ton以下であることがさらに好ましい。環状ダイマーや、ラクチド等の残存オリゴマーも加水分解によりカルボキシル基末端を生じることから、ポリマーのカルボキシル基末端だけでなく残存オリゴマーやモノマー由来のものも併せたトータルカルボキシル末端量が重要である。またトータルカルボキシル末端基濃度の低い捲縮糸を得るためには、捲縮糸の原料となるポリマーを製造する段階で、カルボキシル末端基濃度の低いポリマーを調整したり、鞘成分および/または芯成分に末端封鎖剤を含有せしめたりする方法を採用することができる。
【0079】
末端封鎖剤としては、カルボキシル末端基との反応性に富んだ反応性基を有する化合物や、重合体であれば特に限定されるものではない。本発明の捲縮糸はPTTと芯成分との界面接着性に優れるため、そのままでも外力に対して十分な耐久性を示すが、例えば製造工程において一分子中に二個以上の活性水素反応性基を有する末端封鎖剤を添加せしめることで、該末端封鎖剤が鞘成分と芯成分のカルボキシル末端基と反応し、芯鞘界面の接着性がさらに高まるメリットもあるため好ましい。
【0080】
ここで、活性水素反応性基とは、ポリ乳酸樹脂や熱可塑性ポリアミド樹脂の末端に存在するCOOH末端基との反応性を有するもので、例えばグリシジル基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、アジリジン基、イミド基、イソシアナート基、無水マレイン酸基などが好ましく用いられる。上記反応性基の中でもグリシジル基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、酸無水物基(無水マレイン酸から生成する基(無水マレイン酸基と記す場合もある)等)が好ましく用いられ、特にグリシジル基やカルボジイミド基が好ましく用いられる。
【0081】
上記反応性基は1個以上であれば末端封鎖剤としての役割を満たすことができる。そして2個以上であれば芯鞘界面の接着性を高める役割をも満たすことができる。一方、一分子中に20個を越えて反応性基を有すると、紡糸時に過度に増粘して曳糸性が低下する傾向にあるので、一分子中の活性水素反応性基の数は1個以上、20個以下が好ましい。より好ましくは10個以下、さらに好ましくは3個以下である。また、一分子中の反応性基の種類は複数のものを含んでいても構わない。
【0082】
例えば反応性基を有する末端封鎖剤として、重合体の主鎖に反応性基を有する側鎖をグラフト共重合した共重合体であると、1分子の中に多数の官能基を導入することが可能となる事に加え、一般に融点等の熱的性質も安定となるため好ましい。この反応性基がグラフトされる主鎖となる重合体は任意に選択することが可能であるが、合成のし易さからポリエステル系重合体、ポリアクリレート、ポリメチルメタアクリレート、ポリ(アルキル)メタアクリレートなどのアクリレート系重合体、ポリスチレン系重合体、ポリオレフィン系重合体などの群から適宜選択することができる。
【0083】
本発明に用いることのできる末端封鎖剤のうち、グリシジル基を有するものとしては、例えばグリシジル基を持つ化合物をモノマー単位とした重合体や、主鎖となる重合体に対してグリシジル基がグラフト共重合されている化合物、更にはポリエーテルユニットの末端にグリシジル基を有するものが挙げられる。上述したグリシジル基を持つモノマー単位としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレートなどが挙げられる。また、これらモノマー単位の他に、長鎖アルキルアクリレートなどを共重合して、グリシジル基の反応性を制御することもできる。また、グリシジル基を持つ化合物をモノマー単位とした重合体や、主鎖となる重合体の重量平均分子量は250〜30,000の範囲であると高濃度添加を行った際の溶融粘度の上昇を抑制することができ好ましい。重量平均分子量は250〜20,000の範囲であるとより好ましい。
【0084】
また、この他、トリアジン環にグリシジルユニットを二個以上有する化合物も耐熱性が高いため好ましい。例えば、トリグリシジルイソシアヌレート(TGIC)、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート(MADGIC)等が好ましく用いられる。
【0085】
また、本発明に用いることのできる末端封鎖剤のうち、オキサゾリン基、カルボジイミド基、アジリジン基、イミド基、イソシアナート基、無水マレイン酸基を有する化合物についても同様に使用可能である。上記の中でも、カルボジイミド基を有するものが極めて低温反応性に優れており、より好ましい。例えば、カルボジイミド化合物の例としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド、ジ−o−トルイルカルボジイミド、ジ−p−トルイルカルボジイミド、ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、ジ−o−クロルフェニルカルボジイミド、ジ−3,4−ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ−2,5−ジクロルフェニルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−o−トルイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、2,6,2′,6′−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレン−ビス−シクロヘキシルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N´−ジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert −ブチルフェニルカルボジイミド、N−トルイル−N´−フェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−トルイルカルボジイミド、N,N′−ベンジルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−フェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−トリルカルボジイミド、N−シクロヘキシル−N′−トリルカルボジイミド、N−フェニル−N′−トリルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−トリルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミドなどのモノまたはジカルボジイミド化合物、ポリ(1,6−ヘキサメチレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3′−ジメチル−4,4′−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)などのポリカルボジイミドなどが挙げられる。中でもN,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、2,6,2′,6′−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミドの重合体が挙げられ、このうち耐熱性が高く熱分解しにくく、かつ反応性にも優れる点で、(株)日清紡製“カルボジライトHMV−8CA”や、(株)日清紡製“カルボジライトHMV−8PI”や、(株)日清紡製“カルボジライトLA−1”などが特に好ましく用いられる。
【0086】
また本発明の捲縮糸は、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、光沢改善剤(酸化チタン、炭酸カルシウム等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)を含んでも良い。
【0087】
次に本発明の捲縮糸を含んでなる繊維構造体について説明する。
【0088】
そして本発明の捲縮糸は、従来公知の繊維構造体(織地、編地、不織布など)として用いることができる。ただし捲縮糸の低モジュラス性、弾性回復性を最大限に活かすために、編地であることが好ましい。
【0089】
本発明でいう編地とは、丸編地、横編地、経編地が挙げられ、例えば、シングルトリコット、ダブルトリコット、シングルラッセル、ダブルラッセル、シングル丸編み地、ダブル丸編み地等が挙げられ、編地の組織も特に限定されず、例えば、丸編み地では天竺、鹿子、インターロック、メッシュ、片面凹凸、経編み地ではハーフ、サテン、メッシュ、片面凹凸等が挙げられる。特に貼付剤基布として用いる場合には、丸編地が好ましい。また両面編であると丸編地を開布した時に耳部がカールせず、表面平滑性が高まるため好ましい。編組織の自由度が大きく、より低モジュラスとしやすい点で、インターロック編地が特に好ましい。
【0090】
本発明の編地は、本発明の捲縮糸の優れた低モジュラス性、弾性回復性を活かすために、編地の総重量に対して、本発明の捲縮糸を50重量%以上含んでなることが好ましく、70重量%以上含んでなることがさらに好ましい。90重量%以上が本発明の捲縮糸からなることが特に好ましい。
【0091】
本発明の編地は、本発明の捲縮糸を含んでなる編地の中に、あるいは編地とは別に、他の繊維(合成繊維や天然繊維)を含んでもよく、繊維以外の基材(フィルムやシートなど)を含んでも良い。例えば、他の繊維と混用する場合にはポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維などの繊維形成性重合体からなる合成繊維や、レーヨンなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、また、羊毛、絹、木綿、麻などの天然繊維が採用される。また例えば、他のフィルムやシートと混用する場合には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリウレタンなどのフィルムやシートが採用される。他の繊維との混用方法は交編、交織、混紡、混繊、合撚、など任意である。また他の基材と混用する場合は、加熱成型や、接着剤により接着するなどの手法も採用することもできる。
【0092】
本発明の編地は、均一性、バルキー性に優れる捲縮糸を含んでなることから、目付が400g/m以下の低目付の編地としても、十分な製品品位を有するため好ましい。このため貼付剤基布のごとく、低密度の編地としても好適に用いられるのである。
【0093】
貼付剤基布について説明する。本発明でいう貼付剤基布とは、従来公知の繊維構造体(織物、編物、不織布など)を含んでなる構造体を指し、たとえば消炎鎮痛用のハップ剤、プラスター剤、シロップ剤、温湿布、冷湿布や、スポーツ用途や身体保護用途に使用されるテープ剤などの、人間あるいは動物へ一定期間貼付け、使用後に剥がして廃棄する貼付剤の基材として用いられるものである。
【0094】
そして貼付剤基布を、本発明の捲縮糸を含んでなる編地で構成することにより、従来のPETからなる捲縮糸で構成された貼付剤基布にはない、低モジュラス性で、弾性回復性に優れた貼付剤基布を得ることが出来る。加えて、均染性に優れ、ソフトタッチで表面平滑性にも優れるため、装用時の快適性が格段に向上され好ましい。また薬剤担持性、耐薬品性、耐加水分解性、耐熱性、外力に対する耐久性にも優れるため、貼付剤基布として幅広い用途に好適に使用できる。
【0095】
本発明の編地からなる貼付剤基布は、目付が20〜200g/mであることが好ましい。目付が大きいほど貼付剤の強度、および弾性回復性、薬剤担持性に優れたものとなるため好ましい。一方で目付が低いほど低モジュラスで皮膚への追従性に優れたものとなるため好ましい。より好ましくは30〜170g/mであり、さらに好ましくは40〜150g/mである。
【0096】
また、編地の密度が低いほど低モジュラスな貼付剤基布となるため好ましいが、あまりに密度が低いと編地が透けて、貼付剤基布として用いる場合には薬剤担持性に劣る場合がある。よって編地を構成する繊維の、横方向の連なりであるコースは、10〜70コース/インチが好ましく、20〜60コース/インチがより好ましい。また編地を構成する繊維の縦方向の並びを示すウェルも同様の理由により、10〜70ウェル/インチであることが好ましく、20〜60ウェル/インチであることがより好ましい。
【0097】
本発明の繊維構造体からなる貼付剤基布は、低い応力で伸びる、すなわち低モジュラスであるほど、皮膚への抵抗が少なく好ましい。このためモジュラスの指標である、25mm幅(タテおよびヨコ)で測定した50%伸長時の張力が低いことが好ましく、10N以下が好ましく、8N以下がより好ましく、5N以下がさらに好ましい。一方でモジュラスを適度に高くすることで、貼付剤から剥離フィルムを剥がして皮膚に貼り付ける場合に、基布が曲がったり、弛んだりすることなく取り扱い性にも優れるため好ましい。よって50%伸長時の張力は、0.1N以上であることが好ましく、0.3N以上であることがより好ましく、0.5N以上であることがさらに好ましい。貼付剤基布の50%伸長時の張力を低くするには、本発明の低モジュラスの捲縮糸を多く含むほど、本発明の捲縮糸のモジュラスが低いほど、CRが高いほど、貼付剤基布の目付が低いほど、低くすることができる。
【0098】
本発明の繊維構造体からなる貼付剤基布は、25mm幅で測定した50%伸長弾性回復率が80%以上であることが好ましい。50%伸長弾性回復率が高いほど、貼付剤の弾性回復性が高まり、屈伸運動を繰り返し行っても、皺が発生せず、皮膚への抵抗感も小さいため好ましい。より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、特に好ましくは95%以上である。貼付剤基布の50%伸長弾性回復率は、弾性回復性に優れる本発明の捲縮糸を多く含むこと、本発明の捲縮糸の10%伸長弾性回復率が高いほど、貼付剤基布の目付が高いほど、高くすることができる。
【0099】
また貼付剤基布のタテヨコの物性が近いほど、様々な皮膚の動きに対して追従し易くなり、装用感が向上するため好ましい。このため貼付剤基布のタテヨコの物性を近づけるために、染色前の編地のウェル/コースを事前に調整した後、染色処理後の貼付剤基布のタテヨコの物性を近づけるなどの工夫も好ましい。
【0100】
本発明の貼付剤は、少なくとも本発明の貼付剤基布を含んでなることを特徴とするものである。そして少なくとも貼付剤基布と、粘着層と、剥離性フィルムから構成される。
【0101】
粘着層としては特に制限されるものではなく、例えば、抗炎症薬(例えば、カルボキシル基(又はその塩)を有する、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ジクロフェナク、ピロキシカム、フェルビナク、フルルビプロフェン、ロキソプロフェン、などの薬学的に許容された塩類など)や、メントール類(例えばi-メントールなど)、ポリエチレングリコールなどの添加剤や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物や、天然又は合成ゴムを主体とする粘着成分を含むものであり、従来公知の成分から構成されればよい。
【0102】
また本発明の貼付剤の剥離フィルムも特に制限されるものではなく、例えばポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、紙、或いはこれらの積層体からなるフィルム、シートなどから構成されればよく、従来公知のものを用いることができる。また貼付剤から剥離フィルムを剥がして使用する場合の剥がれを良くするために、離型処理(シリコンコーティングなど)を施した剥離フィルムも好適に用いられる。
【0103】
次に、本発明の捲縮糸の製造方法について具体的に好ましい方法を以下に例示する。
【0104】
図1は本発明で好ましく用いられる紡糸装置の概略図である。まずホッパー1に芯成分を構成するポリエステルを投入し、ポリエステルチップをエクストルーダー2で溶融・押し出してギヤポンプブロック5にて計量し溶融ポリマーをスピンブロック7に内蔵された紡糸パック8へ移送する。同様に、ホッパー3に投入されたPTTチップをエクストルーダー4で溶融・押し出して、ギヤポンプブロック6で計量し、溶融ポリマーをスピンブロック7に内蔵された紡糸パック8に移送する。パック内でポリマーを濾過した後、紡糸口金9で芯鞘構造に貼り合わせた後、吐出して紡出糸12を得る。紡出糸は冷却装置11によって一旦冷却・固化された後、給油装置13で油剤を付与され、交絡ノズル14で適度に交絡を与えられた後、第1ロール15及び第2ロール16で引き取られ、巻取機17で巻き取り、チーズパッケージ18を得る。なお、繊維から昇華した低融点物を取り除くため、口金直下に吸引装置を設けている。また、紡糸でのモノマー、オリゴマー析出を抑制し、紡糸性を向上させるために、必要に応じて口金下に2〜20cmの加熱筒やポリマーの酸化劣化あるいは口金孔汚れ防止用の空気、スチーム、Nなどの不活性ガス発生装置を設置してもよい。
【0105】
次いで延伸機により延伸した後仮撚加工するか、未延伸糸を直接仮撚加工機により延伸仮撚する。なお、紡糸と延伸を連続的に行うスピンドローを行った後、仮撚加工する方式も好ましく用いられる。ここで仮撚加工に供するマルチフィラメントを原糸と呼ぶこととする。より均一性が高く、単繊維の異形度の低い捲縮糸を得るには、高紡糸速度で巻き取った未延伸糸や、スピンドローで得た延伸糸を原糸とすることが好ましい。またさらに好ましくは、上記の未延伸糸、またはスピンドローで得た延伸糸であって、該原糸を巻取る前のいずれかの段階で熱処理が施された原糸であることが好ましい。また巻き取り時のリラックス率を高くして巻き取ることも、原糸の均一性が高まる点で好ましい。
【0106】
ここではまず、仮撚加工に供する前の原糸の好ましい製造方法について具体的に例示する。
【0107】
本発明に使用するPTTポリマーの製造方法は公知方法を用いることができる。例えば、溶融重合のみで所望の固有粘度に相当する重合度とする1工程法や、一定の固有粘度までは溶融重合で重合度を上げ、引き続いて固相重合によって所望の固有粘度に相当する重合度まで上げる2工程法が挙げられるが、溶融重合と固相重合を組み合わせる2工程法であることが、環状ダイマーの含有量が少ないPTTポリマーとなる点で好ましい。
【0108】
1工程法で得たPTTポリマーを用いる場合には、紡糸に供する前のいずれかの工程において、抽出処理などにより環状ダイマーを2重量%以下まで減少させておくことが好ましい。
【0109】
PTTとしては、捲縮糸中のPTTの固有粘度が高いほど、PTT弾性回復性を活かし易いため好ましい。またPTTの固有粘度が高いほど耐熱性が高まり、製造工程において単繊維横断面における芯成分の偏在化や、仮撚工程における断面の変形も抑え易いといったメリットがあるため、鞘成分としては溶融紡糸可能である範囲で、高分子量のPTTを採用することが好ましく、PTTの固有粘度が0.9〜2.1dl/gのPTTを用いることが好ましい。より好ましくは1.1〜1.9dl/gであり、さらに好ましくは1.2〜1.7dl/gである。
【0110】
またカルボキシル末端基濃度の低いPTTポリマーほど、溶融貯留時の耐熱性が高まるため好ましく、30eq/ton以下であるPTTを用いることが好ましく、20eq/ton以下であることがより好ましく、10eq/ton以下であることがさらに好ましい。
【0111】
そして酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)などを任意の段階で少量添加し、ポリマーの耐熱性を高めることも好ましい。
【0112】
また芯成分にPETを配置する場合、PTTの最適な溶融温度範囲である245〜280℃での流動性が良く、耐久性にも優れる点で、固有粘度0.41〜0.61dl/gの範囲の低分子量PETを採用することが好ましい。より好ましくは0.44〜0.59dl/g、さらに好ましくは、0.47〜0.57dl/gである。またカルボキシル末端基濃度の低いPETポリマーほど、溶融貯留時の加水分解による分子量低下を抑えられるため好ましく、40eq/ton以下であるPETを用いることが好ましく、30eq/ton以下であることがより好ましく、20eq/ton以下であることがさらに好ましい。
【0113】
また例えば、芯成分にポリ乳酸を配置する場合、ポリ乳酸はPTTと同様に耐熱性があまり高くなく、265℃を超えた温度で溶融貯留するとポリ乳酸は急激に熱分解を起こし、芯成分の溶融粘度が極端に低くなって吐出状態が不安定化し、酷い場合には口金孔付近で紡出糸に曲がりが生じて一部の単繊維の芯成分が偏在化してしまう場合がある。このためポリ乳酸の溶融粘度を高くするために、高分子量のポリ乳酸を用いることが好ましく、重量平均分子量が11万以上であることが好ましい。より好ましくは13万以上であり、さらに好ましくは15万以上である。また重量平均分子量を30万以下とすることで、低剪断領域での溶融粘度が過度に高くなることなく、ポリマー配管や、紡糸パック内での異常滞留を抑制できるため好ましい。より好ましくは28万以下であり、さらに好ましくは26万以下である。またポリ乳酸の耐熱性を高めるために、酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)などを任意の段階で少量添加することも好ましい。
【0114】
PTTはあまり耐熱性が高くなく、280℃を超える温度では熱分解が進行し易くなる。一方で245℃に満たない温度では流動性が悪く、吐出状態が安定しなかったり、伸長粘度が高くなって細化不良を招く場合がある。その結果として紡糸性が悪化したり、得られる捲縮糸の繊度CV%が悪化したり、芯成分が偏在化し易くなるといった不具合が生じる。
このためPTTの流路(エクストルーダー、ポリマー配管、紡糸パック、口金など)の温度を245〜280℃とすることが好ましい。そしてエクストルーダーやポリマー配管など、芯成分の流路とは別に加熱できる部材については、250〜275℃とすることが好ましく、255〜270℃とすることがより好ましい。一方で紡糸パック、口金面など、芯成分であるポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステルの流路も含む部材については、芯成分の流動性や耐熱性も考慮して決定することが好ましく、後述にて詳細に示す。PTTの滞留時間は30分以下とすることが好ましく、20分以下がより好ましく、15分以下がさらに好ましい。なお、滞留時間とは、ポリマーの溶融から紡出までの滞留時間を指し、これは混練機のバレルとスクリューとの間隙やスクリューのスペック、混練機と紡糸パックとの間の配管サイズ、紡糸パック内の寸法等から見積もることができる。
【0115】
芯成分がPETである場合、上述した低分子量のPETを採用することにより、鞘成分、芯成分の両成分の流路が存在する紡糸パックの温度を280℃以下とすることができ、PTTの熱分解を抑制できるため好ましい。なお本発明における紡糸パックの温度は、スピンブロック(電熱ヒーターや、熱媒によって紡糸パックおよび/またはポリマー配管を加熱するブロック)の温度と同一であると見なす。またPETの良流動性を高めることで、意図しない芯成分の偏在化も抑えられるため、紡糸パックの温度は260℃以上とすることが好ましい。よって芯成分がPETからなる場合、紡糸パックの温度は、260〜280℃の範囲でコントロールすることが好ましく、265〜275℃であることがより好ましい。そして紡糸パックの温度変動は±3℃以内に抑えることが好ましい。
【0116】
そして芯成分がポリ乳酸である場合、紡糸パックの温度を265℃以下とすることが好ましい。紡糸パックの温度を265℃以下とすることで、ポリ乳酸の分子量低下を抑えることができ好ましい。一方でPTTの溶融粘度を下げ、吐出状態が安定化させて紡糸性を良好とするには、紡糸パックの温度を245℃以上とすることが好ましい。このため紡糸パックの温度は245〜265℃とすることが好ましく、250〜260℃であることがより好ましい。さらに紡糸パックの温度変動は±3℃以内に抑えることが好ましい。またポリ乳酸の滞留時間は出来るだけ短くすることで、ポリ乳酸の熱分解を抑えることが好ましく、30分以下が好ましく、20分以下がより好ましく、15分以下がさらに好ましい。
また口金面の温度もスピンブロックの温度と同範囲にあることで、鞘成分と芯成分との複合流を安定化し、芯成分の偏在化を抑えられるため好ましい。口金面が雰囲気や冷却風などによって影響を受けやすい場合は、口金面の周囲に接触型、非接触型のヒーターを配置し、口金面を積極的に加熱する手法も好ましい。例えば図1、図4、図7の口金ヒーター10がこれに該当する。
【0117】
また本発明の捲縮糸は、芯成分としてポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステル)を20〜40重量%含むことで、PTTの遅延回復性が抑えられ、その前駆体である未延伸糸や、延伸糸の均一性を高まり、結果として均一でバルキー性を両立させた捲縮糸なるわけであるが、さらに均一性が高く、バルキー性の高い捲縮糸を得るために、口金孔内でのPTTの溶融粘度分布を小さくすることが好ましい。
【0118】
PTTは前述したように溶融粘度が剪断速度、温度によって変化し易いポリマーであり、特に剪断速度が高く、温度が低い領域では、剪断速度や温度の僅かな変動によって溶融粘度が変化し易い特徴を有している。溶融紡糸工程において、この影響によってPTTの溶融粘度分布が大きくなってしまうと、特に口金孔内における鞘成分と芯成分と複合流が安定した層流を形成し難くなってしまう傾向にある。このような状況となると、紡糸線の固化点が変動して未延伸糸の均一性が低下したり、前述したような芯成分の偏在化したりする場合がある。
【0119】
このような悪影響を回避するためには、紡糸口金の吐出孔の面積(以下単に吐出面積と記載する場合がある)を大きくして吐出線速度(吐出孔の最終絞り部のポリマー流速)を低下せしめることが特に有効である。また吐出孔長を長くする方法、紡糸線を急冷する方法等も有効である。なお本発明における吐出孔長とは、図2に示した口金孔の断面模式図における19の長さを指すものであり、孔形状が吐出孔の形状と同形状に保たれた部分の長さであり、ポリマーを吐出する際の流速を制御する部分である。
【0120】
本発明における、芯鞘複合繊維は複数の口金を図3のごとく組み合わせ、芯成分と鞘成分を吐出孔にて合流させることによって得ることができる。なお本発明における吐出線速度は、図3のポリマー吐出直前の3プレートについて、吐出孔面積、総吐出量、孔数から下記式を用いて計算する。
吐出線速度(m/分)=Q/H/ρ/A/100
Q:総吐出量(g/分)
H:ホール数
ρ:溶融密度(g/分)
A:吐出面積(cm
【0121】
また吐出孔の断面形状は従来公知のものを用いることができるが、捲縮糸の単繊維断面が円形に近いほど、好ましいことから、吐出孔の断面形状は円形であることが好ましい。この場合、吐出面積は円の面積として算出される。そして溶融密度は、PTTの溶融密度と芯成分の溶融密度との平均値として計算するべきものであり、温度依存性も示すものであるが、本発明においては全てPTTであり、温度依存性もないものと近似し、溶融密度は1.15g/cmを用いることとする。
【0122】
また吐出線速度が低いほどPTTに加わる剪断速度を下げることができ、PTTの溶融粘度が変動し難くなるため吐出孔内での複合流が安定化し、好ましい。一方で、吐出線速度がある程度高いことにより、紡糸ドラフトが低くなり、紡糸性が高まるため好ましい。よって吐出線速度(口金孔の最終絞り部のポリマー流速)は1〜15m/分とすることが好ましく、2〜14m/分であることがより好ましく、3〜13m/分であることがさらに好ましい。吐出線速度は、口金最終プレートの吐出面積や、ホール数、あるいは総吐出量を適宜選定することで、調整することができる。
【0123】
口金最終プレートの吐出孔長が長いほど、吐出孔内でのポリマーの流動が定常状態となり、鞘成分と芯成分との複合流が安定化するため好ましい。一方で吐出孔長が長すぎると、口金面にかかる圧力が高くなりすぎて長期間でのランニングが難しくなる場合がある。よって吐出孔長は0.05〜2mmであることが好ましく、0.1〜1.9mmであることがより好ましく、0.15〜1.8mmであることがさらに好ましく、0.2〜1.7mmであることが特に好ましい。
【0124】
紡糸線を急冷するために、口金面深度を浅くする方法が好ましい。口金面深度とは、紡糸線の冷却開始位置と口金面との距離を指し、口金面深度が浅い(冷却開始位置と口金面からの距離が短い)ほど、紡糸線の細化が上流側で完了する、すなわちより短時間で芯鞘複合糸が固化することとなるため、芯成分の偏在化を抑え易く、好ましい。しかしながらあまりに口金面深度が浅いと、口金面温度が低くなりすぎて吐出状態が不安定化して、結果として繊維の均一性や、強度が低下する場合があるため注意が必要である。このため口金面深度は0.01〜0.15mであることが好ましく、0.015〜0.12mがより好ましい。さらに好ましくは0.02〜0.10mである。
【0125】
紡糸油剤は、仮撚ヒーター汚れの防止や施撚体との滑り防止(糸掛け性、仮撚ヒーター上での撚数向上)、マルチフィラメント内での繊維マイグレーションを向上させることが重要である。そのためには耐熱性が良好であり、繊維−施撚体間摩擦係数が高く、繊維−繊維間摩擦係数が低い平滑剤を含有した油剤を用いることが好ましい。例えば、分子内に1個以上のヒドロキシル基を有するアルコールに炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを共重合した化合物およびそれらから誘導された化合物が好ましく用いられる。
【0126】
アルコールとしては、炭素数1〜30の天然および合成の任意の一価アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソアミルアルコール、2−エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、イソトリデシルアルコール、イソセチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコールなど)、二価アルコール(エチレングリコール、トリメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコールなど)および三価以上のアルコール(グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、ソルビトールなど)が挙げられる。
【0127】
炭素数2〜4のアルキレンオキサイドは、エチレンオキサイド(以下EOと略記)、1,2−トリメチレンオキサイド(以下POと略記)、1,2−ブチレンオキサイド(以下BOと略記)、テトラヒドロフラン(以下THFと略記)などが挙げられる。EOと他のアルキレンオキサイドとを共重合する場合、EOの比率は50〜80重量%であることが必要である。EO比率が50重量%未満では粘度が高くなりすぎ、80重量%を越えると耐熱性が乏しくなる。また、付加様式はランダム付加、ブロック付加のいずれでもよい。前記平滑剤の平均分子量は、平滑性および耐熱性の点で500〜20,000の範囲が好ましく、1,000〜10,000の範囲がより好ましい。
【0128】
これら平滑剤の含有量は、油剤全体に対し55重量%以上に調整し、その他の成分としてイオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、集束剤、防錆剤、防腐剤、酸化防止剤、糊特性向上剤、制電剤、pH低下防止剤、耐水剤を適宜添加すればよい。
【0129】
また、紡糸油剤は繊維全体に対して0.1〜3.0重量%付着されていることが好ましい。油剤の付着量を0.1重量%にすることで、上記特性が効果的に発揮される。一方、油剤の付着量が3重量%を越えると仮撚ヒーターやロール、施撚体の汚れがひどくなる。より好ましくは0.2〜2.0重量%であり、さらに好ましくは0.3〜1.0重量%である。
【0130】
本発明で好ましく用いられる油剤は、ストレートで糸条に付着させてもよいが、より均一に付着させるために水に5〜50重量%、好ましくは5〜30重量%分散させてエマルジョン油剤として繊維に付着させることが好ましい。
【0131】
交絡ノズル14は図1に示すように紡糸線上に設置してもよいし、ゴデットロール間または巻取機前に設置してもよい。交絡度を高くしたい場合は糸条張力の低いゴデットロール間や巻取機前に設置することが好ましく、交絡度を低くしたい場合は紡糸線上に設置することが好ましい。
【0132】
また、紡糸速度(図1では第1ロール15の周速度)も重要な条件である。紡糸速度を高めることで紡出糸の細化を上流側で起こさせることができ、急冷条件となるためより均一性の高い原糸が得られるため好ましい。また紡糸速度の高い原糸を用いるほど、バルキー性の高い捲縮糸が得られ好ましい。そして捲縮糸の単繊維断面の異形度も小さくなるため好ましい。
【0133】
これは高速紡糸で得た原糸ほど高バルキーな捲縮糸が得られる理由は定かではないが、恐らく原糸中のPTTの分子鎖が高度に配向されており、かつ多くの微結晶をも含むものであるため、仮撚加工時に配向結晶化が起こって捲縮形態が固定化され易いためと推定している。また捲縮糸の単繊維断面の異形度を小さくできる理由も、上記のごとく原糸中に多くの微結晶を含むことで、加熱下でも繊維の剛性が保たれ、断面形状が維持され易いものと推定する。そして仮撚加工を施した後の捲縮糸中にも配向結晶相を多く含むため、仮撚加工で被った断面の歪みは、弾性的に回復するためと推定する。
【0134】
なお高速紡糸で得た原糸を用いるほど、界面接着性を向上できるというメリットもある。この理由は定かではないが、上述のごとく細化がより口金面に近い高温領域で起こるため、芯鞘成分間の構造歪みの差が小さくなるためと考えている。
【0135】
したがって、好ましい紡糸速度は高いことが好ましく、2000m/以上、より好ましくは2300m/分以上、さらに好ましくは2600m/分以上である。一方、紡糸での工程安定性を考慮すると、紡糸速度は7000m/分以下であることが好ましい。上記範囲の紡糸速度で得た未延伸糸は、未延伸糸の伸度が40〜180%となり、未延伸糸にそのまま仮撚加工を施すことができる。なお高リラックス率で巻き取るほどさらにPTTの遅延回復の悪影響を回避し易く、好ましい。ここでリラックス率とは下記の式で定義されるものである。リラックス率は3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、7%以上であることがさらにより好ましい。
リラックス率(%)={(V−V)/V}×100
:最終ロールの周速度
:巻取速度
【0136】
また未延伸糸を巻き取る前のいずれかの段階で熱処理を施すことで、原糸のPTTがさらに多くの微結晶を含むものとなり、よりバルキー性が高く、単繊維断面が円形に近い捲縮糸が得られるため好ましい。一方であまりに熱処理温度を高くし過ぎると、えられる未延伸糸が脆くなる場合があるため、熱処理温度は50〜130℃であることが好ましく、60〜120℃であることがより好ましく、70〜110℃であることがさらに好ましい。ここで熱源としては加熱ロールや、熱板などの接触型の加熱媒体が好ましく、熱処理温度とは熱源の温度を指す。例えば、図7のごとく第2ロール16付近に綾振を与えるセパレートロール40を設置し、紡出糸を第2ロールに数ターンかけて通過させるなどの手法を採用することができる。
【0137】
もちろん上記の未延伸糸に、別工程で1.1〜3.0倍の延伸を施した延伸糸を原糸としてもよい。このとき延伸温度は70〜100℃とし、熱処理温度は120〜180℃とすればよい。
【0138】
またスピンドローで得た延伸糸を原糸とすることも好ましい。ここでスピンドローとは紡出糸を引き取った後、直接延伸した後、巻き取る方法である。すなわち紡出糸中の非晶構造を緩和させる事無く、延伸を施すことができるため、非晶相の分子鎖を均一に配向させ易く、内部構造が均一化した原糸が得られるため好ましい。例えば、図4に示すように、複数の加熱ロールを付帯し、加熱ロール間の速度比で延伸を施す方法を採用することができる。このとき延伸は1段でも多段でもよい。スピンドローで得た延伸糸の均一性を高めるためには、延伸温度(図4であれば、第1ロール(タンデム型)21の温度を指す)が高いことが好ましい。一方で、延伸温度が高すぎると加熱ロール上で糸揺れが発生し、長手方向に周期斑が発生する場合があるため、延伸温度は40〜80℃であることが好ましく、50〜70℃であることがより好ましい。また延伸後、延伸糸を巻き取る前のいずれかの段階で熱処理を施すことで、原糸のPTTがさらに多くの微結晶を含むものとなり、よりバルキー性が高く、単繊維断面が円形に近い捲縮糸が得られるため好ましい。一方であまりに熱処理温度を高くし過ぎると、仮撚加工での工程通過性が悪化する場合があるため、熱処理温度は100〜200℃であることが好ましく、120〜180℃であることがより好ましく、140〜160℃であることがさらに好ましい。ここで熱処理の熱源としては加熱ロールや、熱板などの接触型の加熱媒体が好ましく、熱処理温度とは熱源の温度を指す。例えば、図4であれば、第2ロール(タンデム型)22を加熱するなどの手法を採用することができる。
【0139】
また未延伸糸の場合と同様にリラックス率を高くして巻き取ることも、原糸の均一性が高まる点で好ましい。リラックス率は3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、7%以上であることがさらに好ましい。
【0140】
巻き取る時の巻取張力(最終ロールと巻取機との間の張力)は、逆巻きを防止するために0.04cN/dtex以上にすることが好ましく、繊維内部構造の歪みを解放するためには0.15cN/dtex以下にすることが好ましい。より好ましい巻取張力は0.05〜0.12cN/dtex、さらに好ましくは0.06〜0.1cN/dtexである。また、ローラーベイルもしくはドライブロールがパッケージに接触している線長に対する荷重(パッケージに対する圧力に相当。以下、面圧と称する)は、6〜30kg/mの範囲にすることが好ましい。面圧を6kg/m以上にすることで、パッケージに適度な硬度を与え、パッケージ崩れやサドルを抑制することができる。また、面圧を30kg/m以下にすることで、パッケージの潰れや、バルジを抑制することができる。より好ましい範囲は7〜22kg/m、さらに好ましくは8〜16kg/mである。また、綾角は5〜10°の範囲にすることで、パッケージ端面の糸落ちを抑制しつつ、高速解舒においても安定した解舒張力が得られるとともに、端面部への糸崩れを抑えることができる。より好ましくは5.5〜8°であり、さらに好ましくは5.8〜7°である。
【0141】
巻取時の駆動方式は、ドライブローラーによる従動駆動が一般的であるが、スピンドル駆動方式や、さらに巻取機のローラーベイルを強制駆動する方法が好ましく用いられる。ローラーベイルを強制駆動する場合のパッケージ表面速度に対するローラーベイル速度は、常に0.05〜1%オーバーフィードする様に制御してリラックス巻取することにより、パッケージフォームを良好にすることができる。
【0142】
次に、好ましい仮撚加工方法について、図5をもって説明する。まず、チーズパッケージ18から糸条26を引き出し、糸道ガイド25、27〜28を介して供給ローラー29に供給する。その後糸条26は施撚体である3軸ツイスター33により撚りを施されながら第1ヒーター30にて熱処理され、糸道ガイド31を通して冷却板32にて構造固定される。このとき、冷却板32〜3軸ツイスター33の間で測定した張力を加撚張力(T1)とし、3軸ツイスター33〜延伸ローラー34までの間で測定した張力を解撚張力(T2)とした。構造固定された糸条26は延伸ローラー34を介して第2ヒーター35へと供給され、その後デリベリローラー36を介して糸道ガイド37、38を経て仮撚加工糸39として巻き取られる。なお、第2ヒーター35は、用途に応じ、低収縮化が必須の場合に入れればよい。また、図5の装置には必要に応じ各種ガイド、張力制御装置、流体処理装置、給油装置などを配置すればよい。
【0143】
第1ヒーター30の温度は接触式の場合は100〜160℃の範囲であることが好ましい。第1ヒーターの温度が100℃以上であると、ヒーター上で熱セットすることができ、バルキー性に優れ(CRが高い)、寸法安定性にも優れた(沸騰水収縮率が低い)捲縮糸が得られる。一方、160℃以下にすることで、第1ヒーター上でPTTが軟化して単繊維の断面が変形してしまうのを抑え、捲縮糸の異形度が小さくなるため好ましい。また捲縮糸の強度も良好となるため好ましい。第1ヒーター30の温度は、110〜150℃がより好ましく、120〜140℃であればさらに好ましい。
【0144】
また、第1ヒーター30が非接触式であると、擦過抵抗による糸切れを抑制できるため、より好ましい。非接触ヒーターを第1ヒーター30に用いた場合は、ヒーター温度は150〜350℃であることが好ましい。第1ヒーター30の温度を150℃以上にすることで、バルキー性に優れ(CRが高い)、寸法安定性にも優れた(沸騰水収縮率が低い)捲縮糸が得られる。一方350℃以下にすることで、PTTが軟化して単繊維の断面が変形してしまうのを抑え、捲縮糸の異形度が小さくなるため好ましい。よって、非接触式の場合ヒーター温度は160〜330℃がより好ましく、170〜300℃であればさらに好ましい。
【0145】
そして仮撚加工での供給ローラー29と延伸ローラー34の速度比、すなわち加工倍率は、1.1〜1.8倍であることが好ましい。加工倍率が1.1倍以上であると、仮撚加工における加撚張力(T1)を高め、第1ヒーター30内での糸条に高い撚数を与えるため、バルキー性に優れた(CRが高い)捲縮糸となる。また、加工倍率を1.8倍以下であると、加撚張力(T1)を適度な高さに抑えることができ、圧縮力によって単繊維の断面が変形し難く、捲縮糸の異形度が小さくなるため好ましい。加工倍率はより好ましくは1.15〜1.7倍、更に好ましくは1.2〜1.6倍である。
【0146】
また、解撚張力(T2)と加撚張力(T1)の比であるT2/T1が1〜2であることにより、捲縮糸が施撚体で均一に解撚されるため好ましい。
【0147】
特に沸騰水収縮率の低い捲縮糸とするためには、前記した様に第2ヒーター35を設けることが好ましい。このとき、第2ヒーター35の温度は80〜150℃であることが好ましい。捲縮糸の熱収縮率(SW)は、第2ヒーターの温度設定と、後述するオーバーフィード率(以下、OF率1と記載)とにより制御することが可能であるが、第2ヒーター温度が80℃未満ではその効果は小さい。また、150℃以下にすることで、第1ヒーターで発現させた捲縮を維持でき、得られる捲縮糸のバルキー性が良好となるため好ましい。また、同時に第2ヒーターの温度とOF率1の最適化により残留トルクを低く抑えることが可能となる。第2ヒーターの温度は90〜140℃であることがより好ましく、95℃〜130℃であればさらに好ましい。
【0148】
また、下式より求まる前記OF率1は、10〜30%であることが好ましい。
OF率1(%)=(V−V)/V×100
:延伸ローラー34の周速度
:デリベリローラー36の周速度
【0149】
OF率が10%以上であれば得られる捲縮糸の沸騰水収縮率を低下させ、寸法安定性を向上させることができるとともに、残留トルクを低下させ、さらには巻き取られた捲縮糸の遅延回復性を低下させることが可能となる。一方、OF率が30%以下であれば、単繊維間融着を防止し、糸条の走行安定性を向上させることができる。OF率は12〜25%であればより好ましく、15〜20%であればさらに好ましい。
【0150】
また、3軸ツイスター33の周速度(D)と、延伸ローラー34の速度(Y)の比(以下、D/Yと記載)は1.1〜2.0の範囲とすることが好ましい。D/Yを1.1以上にすることで、加撚張力と解撚張力のバランスがよく、毛羽、糸切れの無い仮撚加工を行うことができる。またD/Yを2.0以下にすることで、3軸ツイスター33の表面摩耗が抑制され、数百時間に及ぶ連続運転においても糸長手方向の斑がなく、糸の削れや、毛羽、糸切れのない仮撚加工が可能となる。D/Yはより好ましくは1.15〜1.8であり、さらに好ましくは1.2〜1.7である。
【0151】
また、仮撚加工に3軸ツイスター33としてベルトニップ型摩擦仮撚具を好ましく用いることもできる。ベルトの回転方向に水平なベルト回転軸と、糸条が走行する方向に水平な糸条走行軸とのなす角度を2倍した角度(交差角度と呼ぶ)は特に限定されるものではないが、90〜120°の範囲であれば糸条に効率的に撚りを加えることができ、更にはベルトそのものの摩耗も低く抑えることが可能となるため好ましい。さらに、表面材質は特に限定されるものではないが、クロロピレンラバーやニトリルブチレンラバーを好ましく使用することができる。このときニトリルブチレンラバーであれば耐久性やコスト、柔軟性の点からより好ましい。また、ベルトニップ型摩擦仮撚具の表面硬度は60〜80度であればポリ乳酸の断面変形を低く抑え、糸条の削れを抑制することができ、ベルト本体の摩耗も改善されるためより好ましく、65〜75度の範囲であれば更に好ましい。
【0152】
本発明の捲縮糸の製造方法において、デリベリローラー36のオーバーフィード率(以下、OF率2と記載)は0〜35%が好ましい。より好ましくは0〜25%である。OF率2は、デリベリローラー36と仮撚加工糸39のチーズとの間で糸条が弛むことなく、安定して巻き取ることができればよく、糸条張力が0.02〜0.10cN/dtexになる様に巻き取ることで、巻き締まりによる繊維物性の内外層差を低減できるため好ましい。
OF率2(%)=(V−V)/V×100
:デリベリローラー36の周速度
:チーズの巻取周速度
【0153】
上記方法にて得られた捲縮糸は、高次工程(例えば編工程)での工程通過性を考慮し、繊維と糸道ガイド、編み針等との擦過をできるだけ抑制するため、必要に応じて追油を行うことも好ましい。適用する油剤としては、繊維−金属間摩擦係数の低減効果の高い平滑剤を含有した油剤を用いることが好ましい。例えば脂肪酸エステル、多価アルコールエステル、エーテルエステル、シリコーン、鉱物油等が好ましい。また、これらの平滑剤は単一成分で用いてもよいが、集束性や制電性、耐熱性を考慮して複数の成分を混合して用いるとよい。より好ましい平滑剤としては、脂肪酸エステルや鉱物油が選択できる。脂肪酸エステルは、特に限定されるものではないが、例えば、メチルオレート、イソプロピルミリステート、オクチルパルミテート、オレイルラウレート、オレイルオレート、イソトリデシルステアレート等の一価のアルコールと一価のカルボン酸のエステル、ジオクチルセバケート、ジオレイルアジペート等の一価のアルコールと多価のカルボン酸のエステル、エチレングリコールジオレート、トリメチロールプロパントリカプリレート、グリセリントリオレート等の多価のアルコールと一価のカルボン酸のエステル、ラウリル(EO)nオクタノエート等のアルキレンオキサイド付加エステル等が挙げられる。これら平滑剤の含有量は、油剤全体に対し55〜95重量%に調整し、その他の成分としてイオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、集束剤、防錆剤、防腐剤、酸化防止剤、浸透剤、表面張力低下剤、転相粘度低下剤、糊特性向上剤、制電剤、pH低下防止剤、耐水剤を適宜添加すればよい。
【実施例】
【0154】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0155】
A.固有粘度
試料0.8gに、o−クロロフェノール(以下OCPと略記する)10mlを添加する。そして160℃、30分間で溶解した後、徐冷し測定溶液を得た。該測定溶液について、25℃にてオストワルド粘度計を用いて、相対粘度ηrを下式により求め、固有粘度を算出した。
ηr=η/η=(t×d)/(t×d
固有粘度=0.0242ηr+0.2634
ここで、η:ポリマ溶液の粘度、η:OCPの粘度、t:溶液の落下時間(秒)、d:溶液の密度(g/cm)、t:OCPの落下時間(秒)、d:OCPの密度(g/cm)。
【0156】
B.ポリ乳酸の重量平均分子量
試料(ポリ乳酸)のクロロホルム溶液にテトラヒドロフランを混合し測定溶液とした。これをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。測定条件は下記の通りである。
GPC装置:Waters2690
カラム:Shodex GPC K-805L (8mmID*300mmL) 2本連結して使用
溶媒:クロロホルム(和光、HPLC用)
温度:40℃
流速:1ml/分
試料濃度:10mg/4ml
濾過:マイショリディスク0.5μ-TOSOH
注入量:200μl
検出器:示差屈折計RI(Waters 2410)
スタンダード:ポリスチレン(濃度:サンプル0.15mg/溶媒1ml)
測定時間:40分。
【0157】
C.融点
Perkin elmer社製DSC−7を用いて2nd runで融点を測定した。この時、試料重量を約10mg、昇温速度を16℃/分とした。
【0158】
D.トータルカルボキシル末端濃度
精秤した試料をo−クレゾール(水分5%)に溶解し、この溶液にジクロロメタンを適量添加した後、0.02規定のKOHメタノール溶液にて滴定することにより求めた。この時、乳酸の環状2量体であるラクチド等のオリゴマーが加水分解し、カルボキシル基末端を生じるため、ポリマーのカルボキシル基末端およびモノマー由来のカルボキシル基末端、オリゴマー由来のカルボキシル基末端の全てを合計したカルボキシル基末端濃度が求まる。
【0159】
E.環状ダイマーの含有量
試料300mgを秤量して100ml容量の三角フラスコに投入した。そしてヘキサフルオロイソプロパノール50ml、クロロホルム50ml同士を混合して均一溶液を調整し、三角フラスコに10ml添加した。そして室温にて三角フラスコを5時間振り混ぜて試料を溶解させた。その後クロロホルムを5ml加えて混合し、さらにアセトニトリル80mlを徐々に加えた。この混合溶液をガラスフィルターで吸引濾過し、濾液を200mlメスフラスコに入れて、アセトニトリルを加えて200ml溶液とした。そしてこの溶液を孔径0.45μmのディスクフィルターで濾過し、測定溶液を調整した。
【0160】
該溶液について、HPLC測定を実施し、得られたクロマトグラムにおける環状ダイマーに帰属するピークの面積(A)を算出し、下記の式より環状ダイマーの含有量を求めた。
環状ダイマーの液中濃度(mg/l)=3.63×10―5×A
環状ダイマーの含有量(重量%)=環状ダイマーの液中濃度(mg/l)×0.2(l)/300(mg)×100
【0161】
HPLCの測定条件を下記に示す。
装置:島津LC−10AD(systeml)
カラム:Inertsil ODS−3 3.0×250mm
移動相:アセトニトリル/水/(70/30)
流速:0.7ml/分
検出器:242nm
カラム温度:45℃
導入量:5μl
【0162】
ここでAを液中での環状ダイマーの濃度に換算する回帰式を下記の手順で求めた。すなわち、標準試料として純度95%の環状ダイマーを用い、該環状ダイマーを10.7mg秤量し、クロロホルム25mlに定容したものを標準原液とした(純度100%の環状ダイマーの液中濃度は409μg/ml)。そして該標準溶液にアセトニトリルを加えて、純度100%の環状ダイマーの液中濃度が、80μg/ml、40μg/ml、20μg/ml、10μg/mlの4種類の希釈標準溶液を作製した。そしてそれぞれの希釈標準溶液について、HPLC測定を行い、環状ダイマーの液中濃度と、ピーク面積との関係から、回帰式を得た。
【0163】
F.異形度
捲縮糸を包埋材で固定して切片を切り出し、脱包埋後、光学顕微鏡で拡大して写真撮影した。また同一倍率でスケールも撮影した。該画像をデジタル化した後、三谷商事(株)の画像解析ソフト「WinROOF、ver5.0」を用い、単繊維の横断面の外接円の直径Dと、単繊維の横断面の内接円の直径Dを計測した。そして次式により単繊維の異形度を求めた。そしてマルチフィラメントを構成する全ての単繊維の異形度を算出した後、大きいものから10個を選択して平均化し、少数第2位を四捨五入した値を異形度とした。
異形度=D/D
【0164】
なお外接円とは、単繊維の横断面の輪郭と少なくとも2点で接し、単繊維の横断面を包含する円の内で直径が最小のものと定義する。また内接円とは、単繊維の横断面の輪郭と少なくとも2点で接し、単繊維の横断面に包含される円の内で直径が最大のものと定義する。
【0165】
G.芯成分の重量分率(重量比)
溶融紡糸を行う際、鞘成分の吐出量(g/分)と、芯成分の吐出量(g/分)とを別々に計量し、芯成分の吐出量を、芯成分の吐出量と鞘成分の吐出量との和によって除した後、100倍することで芯成分の重量分率を算出した。
【0166】
製造工程における測定が困難な場合、捲縮糸の単繊維の断面写真の面積比から、芯成分の含有率を算出した。すなわち本発明の鞘成分と芯成分は、それぞれPTT、ポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステル以外のその他少量成分を含むことがあるが、かかる場合であっても、実質的に鞘成分がPTT、芯成分がポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステルのみからなるものとみなして、芯成分の含有率を算出することができる。
【0167】
Fの項において撮影した画像(横断面写真、スケール)を用い、三谷商事(株)の画像解析ソフト「WinROOF、ver5.0」にて、鞘成分の面積(A)、芯成分の面積(A)を求め、鞘成分の比重ρと、芯成分の比重ρを用いて、下記の式で算出した。
芯成分の含有率(%)={(A×ρ)/(A×ρ+A×ρ)}×100。
【0168】
このとき、ρは1.30とし、ρは、芯成分がPETからなる場合は1.38、ポリ乳酸からなる場合は1.26を、その他のポリエステルからなる場合は1.30を用いた。
【0169】
H.重心解離度
Fの項において撮影した画像(横断面写真、スケール)を用い、三谷商事(株)の画像解析ソフト「WinROOF、ver5.0」にて重心解離度を算出した。まず単繊維の面積(A)、芯成分の面積(A)、それぞれから単繊維の重心(G)、芯成分の重心(G)を求める。そしてG、G間の距離(G)を計測し、Gを単繊維の横断面の外接円の直径Dで除することにより重心解離度を求めた。
単繊維の重心解離度=G/D
【0170】
そしてマルチフィラメントを構成する全ての単繊維について重心解離度を算出した後、大きいものから10個を選択して平均化し、少数第3位を四捨五入したものを重心解離度とした。
【0171】
I.総繊度および単繊維繊度
検尺機にて100mの捲縮糸をかせ状に測長し、100mの捲縮糸の重量を測定し、該重量を100倍することにより総繊度(dtex)を算出する。測定は3回行い、平均値をもって総繊度(dtex)とした。そして 総繊度をフィラメント数で除することにより、単繊維繊度(dtex)を算出した。
【0172】
J.強度、伸度
JIS L1013(化学繊維フィラメント糸試験方法、1998年)に示される定速伸長条件に準じ、オリエンテック(株)社製テンシロン(TENSILON)UCT−100を用いて、捲縮糸の強度および伸度を測定した。このとき、試料長200mm、引張速度200m/分として、強度はS−S曲線(応力−歪み曲線)における最大強力を示した点の強力を総繊度で除することにより求め、伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0173】
K.捲縮糸のモジュラス
J項にて測定したS−S曲線において、初期長に対して3%伸長した際の応力(σ3%)を計測し、下記の式に基づき捲縮糸のモジュラスを算出した。
捲縮糸のモジュラス(cN/dtex)=σ3%/0.03
【0174】
L.捲縮糸の10%伸長弾性回復率
オリエンテック(株)社製テンシロン(TENSILON)UCT−100を用いて、捲縮糸の弾性回復率を測定した。マルチフィラメントの捲縮糸を試料とし、初期長200mm、初荷重0.1cN/dtex、引張速度200mm/分とし、初期長の10%まで伸長後、1分間放置した。その後、200mm/分の速度でチャックを戻して捲縮糸を収縮させ、S−S曲線を描く。捲縮糸の収縮中に応力がゼロになったときの伸度を残留伸度(X)とする。そして下記の式を用いて弾性回復率を求めた。
捲縮糸の弾性回復率(%)={(10−X)/10}×100
【0175】
M.CR
捲縮糸をカセ取りし、無荷重の状態で沸騰水中で15分間処理した後、25℃、相対湿度65%の雰囲気下にて24時間乾燥した。このサンプルに0.088cN/dtex(0.1gf/d)相当の荷重をかけ水中に浸漬し、2分後のかせ長Lを測定した。次に、水中で0.088cN/dtex相当のカセを除き、0.0018cN/dtex(2mgf/d)相当の微荷重に交換し、2分後のかせ長Lを測定した。そして下式によりCRを計算した。
CR(%)={(L−L)/L}×100
【0176】
N.U%
Zellweger uster社製UT4−CX/Mを用い、糸速度:200m/分、測定時間:1分間でU%(Normal)を測定した。
【0177】
O.繊度CV%
Hの項にて求めたマルチフィラメントを構成する全ての単繊維の面積(A)を用い、Afの平均値、Afの標準偏差を算出した。そして標準偏差を平均値で除して100倍して得た値の小数第2位を四捨五入することによって繊度CV%を求めた。
【0178】
P.沸騰水収縮率
捲縮糸をカセ取りし、0.088cN/dtex相当の荷重下で初期長(L)を測定した。その後、該荷重を取り外して無荷重の状態で沸騰水中で15分間処理し、25℃、相対湿度65%の雰囲気下にて24時間乾燥した。乾燥後のカセについて、0.088cN/dtex相当の荷重下で処理後長(L)を測定し、下記の式により沸騰水収縮率を測定した。
沸騰水収縮率(%)={(L−L)/L)}×100
【0179】
Q.残留トルク
捲縮糸に解舒撚り及び撚り戻りが発生しないように、セラミック製の棒ガイドを支点にV字に折り曲げ、その総試料長が1mとなるように、両上端を0.059cN/dtexの荷重下にて固定する。棒ガイドの試料部分に0.003cN/dtexの微荷重を掛け、棒ガイドから試料を取り外し、懸垂状態のまま自己旋回させる。旋回が停止したら検撚機にて検撚を行い、旋回数を測定した。試験回数を5回とし、その平均値を2倍することで試料1m当たりの残留トルクを求めた。
【0180】
R.スパイラル捲縮の含有率
捲縮糸をランダムな箇所で切断し、50mm長の捲縮糸を採取した。該捲縮糸を分繊して単繊維にばらし、マイクロスコープ(キーエンス社製、デジタルマイクロスコープ、型式VHX−100)にて、観察倍率400倍で捲縮形態を観察した。そして、図6に示すようなスパイラル捲縮を有する単繊維の本数(Z)をカウントし、Zをフィラメント数で除して100倍した値をスパイラル捲縮の含有率とする。そして5回測定を行って、平均値をスパイラル捲縮の含有率とした。
【0181】
このときピッチ10μm〜5mm、振幅30μm〜3mmのスパイラル捲縮が、10mm以上の長さで連続して形成されている場合、スパイラル捲縮を有する単繊維と判断してカウントした。
【0182】
S.湿熱処理後の捲縮糸の強度(耐加水分解性)
検尺機にてカセ取りした捲縮糸を、恒温恒湿槽(ナガノ科学機械製作所社製、型式LH−20−11M)にて槽内温度70℃、相対湿度95%で、7日間処理した後、25℃、相対湿度65%の雰囲気下にて24時間乾燥した捲縮糸を試料とした。そしてJの項に記載の手法に基づき、該試料の強度を5回測定し、平均値を湿熱処理後の捲縮糸の強度とした。
【0183】
T.編地のモジュラス
捲縮糸を、28ゲージの丸編機にて、インターロック組織で両面スムース編地を編み立てた。この編地にドラム染色機(テクサム技研社製、型式RD−300AT)にて、精練、染色、還元洗浄を施した後、水洗脱水後、開反して乾燥した。乾燥した編地を150℃×1分間の熱セットを行い、43ウェル、40コースの編地を得た。染色条件を下記に示す。
【0184】
(1)精錬
炭酸ナトリウム1g/L、サンモールRC−700(商標、日華化学社製)0.2g/Lの水溶液を調整し、昇温速度3℃/分で液温70℃、20分間、精錬処理した。このとき浴比(編地と水溶液との重量比)は1:20とした。
【0185】
(2)染色
分散染料としてDianix Blue AC−E(商標、Dystar社製)0.3%owf、分散剤としてニッカサンソルト7000(商標、日華化学社製)pH調整剤として酢酸/酢酸ナトリウムによりpHを5に調整した。昇温速度3℃/分で液温120℃まで昇温し、液温120℃に到達してから45分間染色し、60℃まで冷却して取り出した。このとき浴比(編地と染液との重量比)は1:20とした。
【0186】
(3)還元洗浄
水酸化ナトリウム0.5g/L、ハイドロサルファイト2g/L、サンモールRC−700が0.2g/L、の水溶液を調整し、液温80℃、20分間、浴比(編地と水溶液との重量比)1:20で還元洗浄を行った。
【0187】
得られた編地を、タテ方向、およびヨコ方向に、それぞれ25mm幅で切り出し、測定試料とした。
【0188】
オリエンテック(株)社製テンシロン(TENSILON)UCT−100を用いて、該試料のモジュラスを測定した。このとき、試料幅25mm、初期長50mm、初荷重5cN、引張速度50mm/分とし、初期長の50%まで伸長時の荷重を測定し、モジュラスとした。測定は5回行い、平均化した。
【0189】
U.編地の50%伸長弾性回復率
Tの項にて得た染色後の編地を、タテ方向、およびヨコ方向に、それぞれ25mm幅で切り出し、測定試料とした。オリエンテック(株)社製テンシロン(TENSILON)UCT−100を用いて、該試料の50%伸長弾性回復率を測定した。このとき、試料幅25mm、初期長50mm、初荷重5cN、引張速度50mm/分とし、初期長の50%まで伸長後、1分間放置した。その後、50mm/分の速度でチャックを戻して該試料を収縮させ、荷重−伸度曲線を描いた。そして該試料の収縮中に荷重がゼロになったときの伸度を残留伸度(Y)とする。そして下記の式を用いて50%伸長弾性回復率を求めた。
編地の50%弾性回復率(%)={(10−Y)/10}×100
【0190】
V.編地の均染性
Tの項にて得た染色後の編地を用い、5人のパネラーにより編地の均染性を評価した。そして各人の評価の合計点により、総合評価を決定した。
【0191】
<評価基準>
5点:染色斑なし
4点:ほとんど染色斑なし
3点:やや染色斑が見られる
2点:染色斑が見られる
1点:編地全面に染色斑が見られる
<総合評価>
二重丸(優れる):21〜25点
○(良好) :16〜20点
△(可) :11〜15点
×(劣る) :5〜10点。
【0192】
W.編地の触感
Tの項にて得た染色後の編地を用い、5人のパネラーにより編地の触感を評価した。そして各人の評価の合計点により、総合評価を決定した。
【0193】
<評価基準>
5点:ソフトタッチで、表面の平滑性も極めて高い。
4点:ソフトタッチで、表面の平滑性も比較的高い。
3点:標準的な柔らかさであり、やや表面にざらつきあり。
2点:やや粗硬感があり、表面にざらつきあり。
1点:粗硬感あり、表面のざらつき感が酷い。
【0194】
<総合評価>
二重丸(優れる):21〜25点
○(良好) :16〜20点
△(可) :11〜15点
×(劣る) :5〜10点。
【0195】
X.貼付剤の装用感
Tの項にて得た染色後の編地を、タテ100mm、ヨコ100mmの正方形に切り出し(編地のタテ、ヨコ方向と合うように切り出した)、片側の表面にゴム系粘着剤を塗布して貼付剤サンプルを作製した。そして被験者に編地のヨコ方向(サンプルのヨコ方向)が腕の長手方向となるように、肘を延ばした状態で被験者に貼り付けた。被験者5人に肘の屈伸運動を100回してもらい、貼付剤のつっぱり感、皮膚への刺激感、剥がれ状態を評価した。また、肘を曲げた状態で同様に5人の被験者に貼り付け、肘を延ばした状態の皺発生状態を評価した。上記の4項目について5人の被験者に評価を行ってもらい、総合評価を決定した。
【0196】
<評価基準>
5点:つっぱり感が無く、皮膚への刺激感も無く、剥がれ、皺も全く発生しない。
4点:つっぱり感、皮膚への刺激感、剥がれ、皺、のうち、やや不十分な項目が1つ存在する。
3点:つっぱり感、皮膚への刺激感、剥がれ、皺、のうち、やや不十分な項目が2つ以上存在する。
2点:つっぱり感、皮膚への刺激感、剥がれ、皺、のうち、明らかに不十分な項目が1つ存在する。
1点:つっぱり感、皮膚への刺激感、剥がれ、皺、のうち、明らかに不十分な項目が2つ以上存在する。
【0197】
<総合評価>
二重丸(優れる):21〜25点
○(良好) :16〜20点
△(可) :11〜15点
×(劣る) :5〜10点。
【0198】
Y.製糸性の評価
98kgの捲縮糸を得るに際し、糸切れが起こった回数の合計(紡糸工程、延伸工程、仮撚工程で起こった糸切れ回数の合計)により製糸性の評価を行った。評価は優れる(二重丸)、良好(○)、可(△)、不可(×)の4段階で評価した。
二重丸:糸切れ無し
○:糸切れ1〜10回
△:糸切れ11〜20回
×:糸切れ21以上。
【0199】
Z.目付
Tの項にて得た染色後の編地を、タテ100mm、ヨコ100mmの正方形に切り出して重量を測定し、100倍することで目付(g/m)を求めた。
【0200】
AA.ウェル、コース
Tの項にて得た染色後の編地を、タテ100mm、ヨコ100mmの正方形に切り出し、マイクロスコープ(キーエンス社製、デジタルマイクロスコープ、型式VHX−100)にて観察倍率400倍で観察し、編み地のウェルとコースを数えた。
【0201】
AB.融点、Tg
Perkin elmer社製DSC−7を用い、2nd runにてポリマーの融点を測定した。最も高温での吸熱ピークを融解ピークとし、融解ピークの極値を与える温度を融点(℃)とした。またTgは示唆熱量曲線の変曲点から求めた。測定条件は、試料重量を約10mg、昇温速度を16℃/分とした。
【0202】
AC.ラクチド量
試料1gをジクロロメタン20mlに溶解し、この溶液にアセトン5mlを添加する。さらにシクロヘキサンで定容して析出させ、島津社製GC17Aを用いて液体クロマトグラフにより分析し、絶対検量線にてラクチド量を求めた。
【0203】
[製造例1](ポリ乳酸(PLA1)の製造)
光学純度99.5%のL乳酸から製造したラクチドを、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)を存在させてチッソ雰囲気下180℃で160分間重合を行い、ポリ乳酸(PLA1)を得た。得られたPLA2の重量平均分子量は16万であった。また、残留しているラクチド量は0.10重量%であった。PLA2のTgは58℃、融点は170℃であった。
【0204】
[製造例2](ポリ乳酸(PLA2)の製造)
光学純度99.5%のL乳酸から製造したラクチドを、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)を存在させてチッソ雰囲気下180℃で220分間重合を行い、ポリ乳酸(PLA2)を得た。得られたPLA1の重量平均分子量は21万であった。また、残留しているラクチド量は0.13重量%であった。PLA1のTgは58℃、融点は170℃であった。
【0205】
(実施例1)
固有粘度1.5g/dl、Tg48℃、融点230℃、環状ダイマーの含有量2.6重量%、カルボキシル末端基濃度12eq/tonであり、平均2次粒子径が0.4μmの酸化チタンを0.3重量%含有したPTTを鞘成分とし、固有粘度0.5g/dl、Tg70℃、融点254℃、カルボキシル末端基濃度25eq/tonのPETを芯成分とした。それぞれ150℃で10時間真空乾燥し、水分率を50ppm以下とした。
【0206】
そして、図1に示す紡糸機を用い、ホッパー1に鞘成分を投入し、エクストルーダー2にて加熱溶融し、ギヤポンプ5により計量し、紡糸パック8に導いた。またホッパー3に芯成分を投入し、エクストルーダー4にて加熱溶融し、ギヤポンプ6により計量し、紡糸パック8に導いた。そして口金内部に配置した口金9にて鞘成分と芯成分とを合流させて紡出糸を得た。このとき口金9には図3の(a)のごとく3枚組み合わせた口金を用いた。紡出糸に冷却装置11によって、冷却風を吹きつけて冷却、固化し、口金下2mの位置で給油装置13によって紡出糸を集束させながら油剤を付与し、交絡ノズル14にて作動圧空0.2MPaにて交絡を施し、第1ロール15、第2ロール16にて引き取り、73dtex、40フィラメントの、芯鞘複合繊維からなる未延伸糸を巻き取った。このとき巻張力が一定となるように巻取速度を調整し、5kg巻ごとにドラムを交換し、5kg巻パッケージを20本(合計100kg)作製した。紡糸において糸切れは発生せず、製糸性は極めて優れていた。そして得られた未延伸糸の単繊維の横断面は円形であった。
【0207】
この未延伸糸を原糸とし、図5の仮撚加工機を用いて仮撚加工糸を得た。チーズパッケージ18を仕掛け、糸条26を引き出し、糸道ガイド25、27〜28を介して供給ローラー29に供給する。その後糸条26は3軸ツイスター33により撚りを施されながら第1ヒーター30にて熱処理され、糸道ガイド31を通して冷却板32にて構造固定される。このとき、冷却板32〜3軸ツイスター33の間で張力を測定して加撚張力(T1)とし、3軸ツイスター33〜延伸ローラー34までの間で張力を測定し、解撚張力(T2)とした。構造固定された糸条26は延伸ローラー34を介し、その後デリベリローラー36を介して糸道ガイド37、38を経て仮撚加工糸39として巻き取られる。なお、第2ヒーター35は使用しなかった。上記の仮撚加工を施すことにより56dtex、40フィラメントの捲縮糸を得た。4.9kg巻パッケージを20本(合計98kg)作製したが、仮撚加工において糸切れは発生せず、製糸性は極めて良好であった。
【0208】
以下に紡糸条件を記載する。
・鞘成分のエクストルーダー温度:260℃
・芯成分のエクストルーダー温度:285℃
・スピンブロック温度:270℃
・芯成分の重量分率:30重量%
・濾層:鞘成分、芯成分ともに、30#モランダムサンド、200gを充填
・フィルター:鞘成分、芯成分ともに、20μm不織布フィルターを使用
・口金のプレート3(図3の模式図のプレート3。鞘成分と芯成分とが合流する口金):吐出孔径0.26mm、吐出孔長0.5mm、孔数40
・吐出量:20.9g/分(1パック1糸条、40フィラメント)
・冷却風:冷却長1mのユニフロー使用。冷却風温度20℃、風速0.5m/秒
・口金面深度:0.08m
・口金ヒーター温度:280℃
・口金面温度:267℃
・油剤:紡糸油剤には平滑剤として重量平均分子量2000のポリエーテルを70重量%、重量平均分子量6000のポリエーテルを8重量%、エーテルエステルを12重量%、その他添加剤(制電剤、抗酸化剤、防錆剤)を10重量%として調整し、さらにこの油剤を濃度10重量%になるように水エマルジョンとして調整し、純油分として繊維に約0.8重量%付着させた。
・第1ロール速度:3000m/分
・第2ロール速度:3000m/分
・第1ロール温度:25℃
・第2ロール温度:25℃
・巻取速度:2970m/分
・リラックス率:1%
以下に仮撚加工条件を記載する。
・供給ローラー速度:370m/分
・延伸ローラー速度:500m/分
・第1ヒーター温度:130℃
・仮撚加工倍率:1.30
・DY比:1.35
・T2/T1:1.3
・デリベリローラー速度:480m/分
・巻取速度:466m/分
・OF率1:4%
・OF率2:3%
【0209】
得られた捲縮糸の単繊維の横断面を観察したところ、略円形が保たれており異形度は1.1であった。そして実施例1の捲縮糸のモジュラスは30cN/dtex、弾性回復率は92%であり、低い力で伸縮するとともに、応力を取り除いたのちの回復性に優れる捲縮糸であった。またCRが50%と極めてバルキー性に優れ、U%(ノーマル)が0.8とマルチフィラメントの長手方向の均一性に優れるものであった。そして繊度CV%も2%であり、単繊維間の太さも均一である捲縮糸であった。そして捲縮糸の強度2.8cN/dtex、伸度40%、沸騰水収縮率11%、残留トルクは118T/m、と優れた物性を示した。また環状ダイマーの含有量は1.8重量%であり、トータルカルボキシル末端基濃度は22.7eq/tonであった。湿熱処理後の捲縮糸の強度も2.6cN/dtexと高く、耐加水分解性にも優れる捲縮糸であった。そして単繊維の横断面における重心解離度は0であり、スパイラル捲縮を有する単繊維を含まない捲縮糸であった。
【0210】
実施例1の捲縮糸を用いて、Tの項に記載の手法に基づき、染色された編地を得た。該編地はタテ、ヨコ方向共に、モジュラスが低く、弾性回復率が高い編地であり、ソフトストレッチ性を有していた。また編地全面に渡って染色斑は無く、均染性に優れる編地であった。またソフトタッチで高級感に溢れ、表面のざらつきもなく、高品位な編地であった。
【0211】
得られた編地を用いて、Xの項に記載の手法に基づいて貼付剤を作製した。該貼付剤は屈伸運動を行っても、つっぱり感、皮膚への刺激感が全くない、優れた貼付剤であった。また剥がれ、皺も発生せず、貼付剤として申し分の無い特性を有していた。
【0212】
実施例1の捲縮糸、ならびに編地は、上記のごとく優れた特性を有することから、衣料用、産業用としても用いられるものであった。実施例1の結果を表1に示す。
【0213】
(実施例2〜3、および比較例1〜3)
実施例1において、鞘成分と芯成分の吐出量を変更することで、芯成分の重量分率を変更した以外は、実施例1と同様の方法で56dtex、40フィラメントの捲縮糸を得た。そして編地、貼付剤を作製して評価した。
【0214】
実施例2〜3では紡糸、仮撚工程において糸切れ、毛羽等は発生せず、製糸性は優れていた。
【0215】
一方で、比較例1、2においては、紡糸での紡出糸の細化が安定せず100kgの紡糸において、糸切れがそれぞれ15回、8回起こった。さらに100kgの原糸を仮撚加工するに際し、糸切れがそれぞれ14回、9回起こり、製糸性は極めて悪かった。そして未延伸糸のパッケージ、および捲縮糸のパッケージはPTTの遅延回復性によって巻締まり、パッケージは硬化し、巻フォームが悪かった。実施例2〜3、および比較例1〜3の芯成分の重量分率を下記に、実施例2〜3、比較例1〜3の結果を表1に示す。
実施例2:芯成分の重量分率 20重量%
実施例3:芯成分の重量分率 40重量%
比較例1:芯成分の重量分率 0重量%
比較例2:芯成分の重量分率 10重量%
比較例3:芯成分の重量分率 50重量%
【0216】
実施例2、比較例1〜2を比較すると分かるように、芯成分の重量分率を20重量%以上含む捲縮糸とすることで、モジュラスが低く、弾性回復率が高いと同時に、PTTの遅延回復性が抑えられた効果により、均一性にも優れる捲縮糸となることが分かる。これにより捲縮糸からなる編地の均染性、触感が優れたものとなり、貼付剤とした場合も、つっぱり感、皮膚への刺激感がない、優れた貼付剤となることが分かる。また剥がれ、皺も発生せず、貼付剤として申し分の無い特性が発現することが分かる。
【0217】
比較例1、2は低モジュラス、高弾性回復率の捲縮糸であるものの、特に繊度CV%が大きいため、染色後の編地には筋斑が酷く、編み立て方向に段階的な染め差を有するものであった。また編地の表面にはざらつきが大きく、貼付剤として用いた場合、屈伸運動において皮膚への刺激が強く、実用に耐えないものであった。
【0218】
また実施例3と、比較例3を比較すると分かるように、芯成分の重量分率を40重量%以下とすることで、低モジュラスで、高弾性率であるPTTの特徴を殺すことなく、均一性、バルキー性に優れた捲縮糸となることがわかる。そして芯成分が40重量%であることで、耐加水分解性に優れた捲縮糸なり、耐久性にも優れた捲縮糸となる。加えて芯成分の重量分率が低い、すなわち弾性回復性に優れるPTTを多く含むことにより、仮撚加工工程での断面の変形を抑えることができ、捲縮糸の異形度が小さくなることも分かる。また断面の変形を抑えることにより単繊維の太さ斑をも小さくできることが分かる。
【0219】
比較例3の捲縮糸はモジュラスが高く、弾性回復性が低いことが、編地の伸縮特性にも反映されており、貼付剤として用いた場合、屈伸運動に追従せずつっぱり感があり、剥がれや皺が生じて装用感が悪いものであった。また捲縮糸の異形度が大きいことで、編地の表面に明らかなざらつきが生じてしまっていた。そして捲縮糸の繊度CV%が大きく、均一性が低いため編地には明らかな筋斑が散見され、低品位なものであった。
【0220】
なお実施例1〜3を比較すると分かるように、芯成分の重量分率を本発明にてより好ましい範囲とすることで、捲縮糸の均一性、バルキー性、耐加水分解性にバランス良く優れた捲縮糸となり、より優れた編地ならびに、貼付剤となるこることが分かる。
【0221】
【表1】

【0222】
(実施例4〜5、比較例4〜5)
実施例3において、実施例4、比較例4では仮撚加工時の第1ヒーターの温度を、実施例5、比較例5では、紡糸工程において、口金のプレート3、吐出量、紡糸速度、巻取速度を変更し、仮撚加工工程において供給ローラーの速度を変更した以外は、実施例3と同様にして、56dtex、40フィラメントの捲縮糸を得た。実施例4では問題となるレベルではないが仮撚加工工程において、糸切れが3回/100kg起こった。実施例5では各工程で糸切れは発生せず、製糸性は優れていた。一方で比較例4〜5ではそれぞれは、仮撚加工工程において毛羽が多発し、13回/100kgの糸切れが発生し、工程通過性に劣るものであった。実施例4〜5、比較例4〜5において、実施例3から変更した条件を下記に示す。実施例4〜5、比較例4〜5の結果を表2に示す。
【0223】
・実施例4
第1ヒーター温度:150℃
・比較例4
第1ヒーター温度:170℃
・実施例5
口金のプレート3:吐出孔径0.28mm、吐出孔長0.5mm、孔数40
吐出量:24.8g/分
第1ロール速度:4000m/分
第2ロール速度:4000m/分
巻取速度:3960m/分
供糸ローラー速度:417m/分
仮撚加工倍率:1.20
・比較例5
口金のプレート3:吐出孔径0.24mm、吐出孔長0.5mm、孔数40
吐出量:17.7g/分
第1ロール速度:1800m/分
第2ロール速度:1800m/分
巻取速度:1782m/分
供糸ローラー速度:263m/分
仮撚加工倍率:1.90
【0224】
実施例3〜5、比較例4〜5を比較すると分かるように、仮撚加工工程における断面の変形を抑え、本発明の捲縮糸の異形度を1.5以下とすることで、より均染性にすぐれた編地となることが分かる。そして実施例3〜5から分かるように、本発明にて好ましい製造方法(第1ヒーター温度、紡糸速度)を採用することで、より異形度が小さい捲縮糸が得られ、表面が平滑で、ざらつきのない編地が得られることが分かる。同時に単繊維の太さ斑が小さくなり、均染性にも優れた編地となる。比較例4、5の編地は明らかな筋状の染色斑が観察され、外観品位に劣るものであり、実施例と比べて表面品位に劣る編地であった。そして該編地で得られた貼付剤は屈伸運動をした際に、刺激感が強く、装用感に劣っていた。
【0225】
【表2】

【0226】
(実施例6〜9)
実施例1において、紡糸工程で、口金のプレート3、吐出量を変更し、供糸ローラーの速度を変更して仮撚加工倍率を変更した以外は、実施例1と同様にして56dtex、40フィラメントの捲縮糸を得た。そして編地、貼付剤を作製して評価した。実施例8では問題となるレベルではないが仮撚加工工程において、糸切れが1回/100kg起こった。実施例6、7、9では各工程で糸切れは発生せず、製糸性は優れていた。実施例6〜9において、実施例1から変更した条件を下記に示す。実施例6〜9の結果を表3に示す。
【0227】
・実施例6
口金のプレート3:吐出孔径0.25mm、吐出孔長0.5mm、孔数40
吐出量:19.4g/分
供糸ローラー速度:400m/分
仮撚加工倍率:1.25
・実施例7
口金のプレート3:吐出孔径0.27mm、吐出孔長0.55mm、孔数40
吐出量:21.7g/分
供糸ローラー速度:357m/分
仮撚加工倍率:1.4
・実施例8
口金のプレート3:吐出孔径0.28mm、吐出孔長0.6mm、孔数40
吐出量:23.2g/分
供糸ローラー速度:333m/分
仮撚加工倍率:1.5
・実施例9
口金のプレート3:吐出孔径0.25mm、吐出孔長0.5mm、孔数40
吐出量:18.6g/分
供糸ローラー速度:417m/分
仮撚加工倍率:1.2
【0228】
実施例1、および実施例6〜9を比較すると分かるように、本発明の捲縮糸はバルキー性に富んだ捲縮糸としても単繊維間の太さ斑が無く、優れた編地および貼付剤となることが分かった。そして本発明にて好ましいとされる、CRが40%以上の捲縮糸とすることで、より低モジュラスで、弾性回復率の高い編地となり、貼付剤としたときに皮膚のつっぱりがなく、繰り返しの屈伸運動においても剥がれ、皺の発生しない優れたものとなることがわかる。
【0229】
また、CRが60%以下の捲縮糸とすることで、捲縮糸の力学的特性に優れたものとなり、湿熱処理後の強度も高くなるため、実用耐久性に優れた捲縮糸、編地、貼付剤が得られることが分かる。加えて仮撚工程での断面の変形が小さく、均一性も高い捲縮糸となるため、より均染性に優れたものとなることも分かる。
【0230】
よって、捲縮糸のCRが40〜60%であることにより、低モジュラス性、バルキー性、均一性、力学的特性、耐加水分解性の特性がさらに優れた捲縮糸となり、該捲縮糸からなる編地の均染性、触感、および貼付剤としたときの装用感がさらに優れたものとなった。
【0231】
【表3】

【0232】
(実施例10〜13)
実施例1において、吐出孔のスペックならびにフィラメント数の異なる口金を用い、得られる捲縮糸のフィラメント数を変更した以外は、実施例1と同様にして実施例10〜13の56dtexの捲縮糸を得た。そして編地、貼付剤を作製して評価した。実施例10、11では問題となるレベルではないが紡糸工程、仮撚加工工程において、それぞれ糸切れが1回/100kg起こった。実施例12、13では各工程で糸切れは発生せず、製糸性は優れていた。実施例10〜13において、実施例1から変更した条件を下記に示す。実施例10〜13の結果を表4に示す。
実施例10の口金のプレート3:吐出孔径0.19mm、吐出孔長0.4mm、孔数72
実施例11の口金のプレート3:吐出孔径0.14mm、吐出孔長0.3mm、孔数144
実施例12の口金のプレート3:吐出孔径0.29mm、吐出孔長0.6mm、孔数32
実施例13の口金のプレート3:吐出孔径0.37mm、吐出孔長0.8mm、孔数20
【0233】
なお実施例10〜13の口金のプレート1、2については、フィラメント数に応じて孔数を変更した。
【0234】
実施例1、および実施例10〜13を比較すると分かるように、本発明の捲縮糸は特定の芯成分を含む芯鞘複合繊維であるため、単繊維繊度の小さいファインデニールの捲縮糸としても、繊維の均一性に優れたものとなることが分かる。そしてPTTの弾性回復性に優れる特徴から、バルキー性にも富んだ捲縮糸が得られることがわかる。このためピーチタッチで高級感のある柔らかい触感の編地が得られ、皮膚への刺激が全くない、装用感に優れた貼付剤が得られる。
【0235】
他方、単繊維繊度がある程度太いことで、捲縮がヘタリ難く、バルキー性、弾性回復性に優れた編地が得られる。また捲縮糸の力学的特性、耐加水分解性も高まるため実用耐久性に優れた捲縮糸となることがわかる。すなわち本発明にて好ましいとされる範囲の単繊維繊度の捲縮糸することで、低モジュラス性、バルキー性、均一性、力学的特性、耐加水分解性にバランス良く優れた捲縮糸となり、該捲縮糸は編地の均染性、触感に優れ、貼付剤としたときの装用感に優れたものとなった。
【0236】
【表4】

【0237】
(実施例14、比較例6〜8)
実施例3において、吐出孔のスペックを変更した以外は実施例3と同様にして実施例14、比較例6の56dtex、40フィラメントの捲縮糸を得た。また実施例3において、スピンブロック温度を変更した以外は実施例3と同様にして、比較例7〜8の56dtex、40フィラメントの捲縮糸を得た。そしてそれぞれを用いて編地、貼付剤を作製して評価した。
【0238】
実施例14では、問題となるレベルではないが紡糸工程、仮撚加工工程、それぞれにおいて糸切れが1回/100kg起こった。比較例6では、紡糸工程で糸切れが7回/100kg起こり、仮撚工程でも7回糸切れが起こり、実施例3の方が製糸性に優れていた。比較例7では、紡糸工程で糸切れが8回/100kg起こり、仮撚工程でも3回糸切れが起こり、実施例3の方が製糸性に優れていた。また比較例8においても、紡糸工程で糸切れが6回、仮撚工程でも糸切れが6回起こったため、実施例3の方が製糸性に優れていた。それぞれにおいて実施例3から変更した条件を下記に示す。実施例14、比較例6〜8の結果を表5に示す。
実施例14の口金のプレート3:吐出孔径0.20mm、吐出孔長0.4mm、孔数40
比較例6の口金のプレート3:吐出孔径0.19mm、吐出孔長0.4mm、孔数40
比較例7のスピンブロック温度:290℃
比較例8のスピンブロック温度:255℃
【0239】
実施例3、14、比較例6〜8を比較すると分かるように、本発明にて好ましい製造方法(吐出線速度、スピンブロック温度)を採用することで、初めて紡糸工程での芯成分の偏在化が抑えられることが分かる。重心解離度の小さい捲縮糸ほどスパイラル捲縮を有する単繊維が混在しないため、編地の表面がより平滑でざらつきのない優れたものとなり、貼付剤とした時の、装用感に優れたものとなる。原糸段階で芯成分の偏在化が抑えられていることから、仮撚加工工程での単繊維の断面変形を抑えられ、異形度の小さく、均一性に優れた捲縮糸が得られる。
【0240】
【表5】

【0241】
(実施例15)
実施例1において、仮撚加工時に第2ヒーター35を使用し、仮撚加工条件、溶融紡糸における口金のプレート3、吐出量を変更した以外は、実施例1と同様にして56dtex、40フィラメントの捲縮糸を得た。そして編地、貼付剤を作製して評価した。実施例15では、各工程で糸切れは発生せず、製糸性は優れていた。実施例1から変更した条件を下記に示す。実施例15の結果を表6に示す。
【0242】
・実施例15
口金のプレート3:吐出孔径0.24mm、吐出孔長0.5mm、孔数40
吐出量:17.7g/分
第2ヒーター温度:100℃
デリベリローラー速度:400m/分
巻取速度:392m/分
OF率1:20%
OF率2:2%
【0243】
実施例15の捲縮糸は、実施例1と比べて沸騰水収縮率が6.2%と低く、残留トルクも53T/mと低い捲縮糸であった。そしてバルキー性が良好であり、低モジュラスかつ高弾性回復率であり、力学物性、耐加水分解性、均一性にも優れた、捲縮糸であった。このため得られる編地の均染性、触感に優れ、貼付剤の装用感に優れたものであった。
【0244】
(実施例16〜17)
実施例3において、実施例16では第2ロールにて未延伸糸に熱処理を施したのち巻き取ったこと以外は実施例3と同様にして捲縮糸を得た。このとき図7のごとく第2ロール付近に綾振を与えるセパレートロール40を設置し、紡出糸を第2ロールに6ターン(糸道ピッチ5mm)かけた後、巻取機17にて巻き取った。実施例17では図4のスピンドロー装置を用い、紡出糸に延伸、熱処理を施したのち巻き取ったこと以外は実施例3と同様にして、56dtex、40フィラメントの捲縮糸を得た。このとき第1ロール(タンデム型)21、第2ロール(タンデム型)22には、それぞれ6ターン紡出糸をかけた。そしてそれぞれ編地、貼付剤を作製して評価した。実施例16〜17では各工程で糸切れは発生せず、製糸性は優れていた。実施例16〜17において実施例3から変更した条件を示す。実施例16〜17の結果を表6に示す。
【0245】
・実施例16(未延伸糸の加熱処理)
第2ロール温度:90℃
・実施例17(スピンドロー)
口金のプレート3:吐出孔径0.27mm、吐出孔長0.55mm、孔数40
吐出量:22.9g/分
第1ロール(タンデム型)温度:60℃
第2ロール(タンデム型)温度:150℃
第3ロール温度:25℃
第4ロール温度:25℃
第1ロール(タンデム型)速度:3000m/分
第2ロール(タンデム型)速度:4500m/分
第3ロール速度:4350m/分
第4ロール速度:4220m/分
巻取速度:4185m/分
リラックス率:7%
供糸ローラー速度:476m/分
仮撚加工倍率:1.05
【0246】
実施例3、および実施例16〜17を比較すると分かるように、本発明にて好ましいとされる、熱処理を施した未延伸糸、あるいはスピンドローを施した延伸糸は、PTT中に微結晶を多く有する原糸であるため、仮撚加工工程において断面が変形を受けにくく、異形度の小さい捲縮糸を得ることが出来る。そして断面の変形を受けにくいことからより均一性に優れた捲縮糸が得られることが分かる。さらに、第1ヒーター上でPTTの結晶が発達してより捲縮構造がセットされるため、バルキー性に優れる捲縮糸を得ることが出来る。
【0247】
よって、実施例16〜17から得られる編地、および貼付剤は、実施例3よりも優れたものとなった。
【0248】
【表6】

【0249】
(実施例18)
実施例1と同一のPTTを鞘成分とし、製造例1で得たPLA1を芯成分とした。このとき、PTTは150℃で10時間真空乾燥し、PLA1は100℃で10時間真空乾燥し、それぞれ水分率を50ppm以下として用いた。
【0250】
そして、図1に示す紡糸機を用い、ホッパー1に鞘成分を投入し、エクストルーダー2にて加熱溶融し、ギヤポンプ5により計量し、紡糸パック8に導いた。またホッパー3に芯成分を投入し、エクストルーダー4にて加熱溶融し、ギヤポンプ6により計量し、紡糸パック8に導いた。そして口金内部に配置した口金9にて鞘成分と芯成分とを合流させて紡出糸を得た。このとき口金9には図3の(a)のごとく3枚組み合わせた口金を用いた。紡出糸に冷却装置11によって、冷却風を吹きつけて冷却、固化し、口金下2mの位置で給油装置13によって紡出糸を集束させながら油剤を付与し、交絡ノズル14にて作動圧空0.2MPaにて交絡を施し、第1ロール15、第2ロール16にて引き取り、73dtex、40フィラメントの、芯鞘複合繊維からなる未延伸糸を巻き取った。このとき巻張力が一定となるように巻取速度を調整し、5kg巻ごとにドラムを交換し、5kg巻パッケージを20本(合計100kg)作製した。紡糸において糸切れは発生せず、製糸性は極めて優れていた。そして得られた未延伸糸の単繊維の横断面は円形であった。
【0251】
この未延伸糸を原糸とし、図5の仮撚加工機を用いて仮撚加工糸を得た。チーズ18を仕掛け、糸条26を引き出し、糸道ガイド25、27〜28を介して供給ローラー29に供給する。その後糸条26は3軸ツイスター33により撚りを施されながら第1ヒーター30にて熱処理され、糸道ガイド31を通して冷却板32にて構造固定される。このとき、冷却板32〜3軸ツイスター33の間で張力を測定して加撚張力(T1)とし、3軸ツイスター33〜延伸ローラー34までの間で張力を測定し、解撚張力(T2)とした。構造固定された糸条26は延伸ローラー34を介し、その後デリベリローラー36を介して糸道ガイド37、38を経て仮撚加工糸39として巻き取られる。なお、第2ヒーター35は使用しなかった。上記の仮撚加工を施すことにより56dtex、40フィラメントの捲縮糸を得た。4.9kg巻パッケージを20本(合計98kg)作製したが、仮撚加工において糸切れは発生せず、製糸性は極めて良好であった。
【0252】
以下に紡糸条件を記載する。
・鞘成分のエクストルーダー温度:260℃
・芯成分のエクストルーダー温度:220℃
・スピンブロック温度:255℃
・芯成分の重量分率:30重量%
・濾層:鞘成分、芯成分ともに、30#モランダムサンド、200gを充填
・フィルター:鞘成分、芯成分ともに、20μm不織布フィルターを使用
・口金のプレート3(図3の模式図のプレート3。鞘成分と芯成分とが合流する口金):吐出孔径0.26mm、吐出孔長0.5mm、孔数40
・吐出量:20.9g/分(1パック1糸条、40フィラメント)
・冷却風:冷却長1mのユニフロー使用。冷却風温度20℃、風速0.5m/秒
・口金面深度:0.08m
・口金ヒーター温度:280℃
・口金面温度:253℃
・油剤:紡糸油剤には平滑剤として重量平均分子量2000のポリエーテルを70重量%、重量平均分子量6000のポリエーテルを8重量%、エーテルエステルを12重量%、その他添加剤(制電剤、抗酸化剤、防錆剤)を10重量%として調整し、さらにこの油剤を濃度10重量%になるように水エマルジョンとして調整し、純油分として繊維に約0.8重量%付着させた。
・第1ロール速度:3000m/分
・第2ロール速度:3000m/分
・第1ロール温度:25℃
・第2ロール温度:25℃
・巻取速度:2970m/分
・リラックス率:1%
以下に仮撚加工条件を記載する。
・供給ローラー速度:370m/分
・延伸ローラー速度:500m/分
・第1ヒーター温度:130℃
・仮撚加工倍率:1.30
・DY比:1.35
・T2/T1:1.3
・デリベリローラー速度:480m/分
・巻取速度:466m/分
・OF率1:4%
・OF率2:3%
【0253】
得られた捲縮糸の単繊維の横断面を観察したところ、略円形が保たれており異形度は1.1であった。そして実施例18の捲縮糸のモジュラスは30cN/dtex、弾性回復率は92%であり、低い力で伸縮するとともに、応力を取り除いたのちの回復性に優れる捲縮糸であった。またCRが50%と極めてバルキー性に優れ、U%(ノーマル)が0.8とマルチフィラメントの長手方向の均一性に優れるものであった。そして繊度CV%も2%であり、単繊維間の太さも均一である捲縮糸であった。そして捲縮糸の強度2.7cN/dtex、伸度40%、沸騰水収縮率11.3%、残留トルクは118T/m、と優れた物性を示した。また環状ダイマーの含有量は1.8重量%であり、トータルカルボキシル末端基濃度は21.6eq/tonであった。湿熱処理後の捲縮糸の強度も2.5cN/dtexと高く、耐加水分解性にも優れる捲縮糸であった。そして単繊維の横断面における重心解離度は0であり、スパイラル捲縮を有する単繊維を含まない捲縮糸であった。
【0254】
実施例18の捲縮糸を用いて、Tの項に記載の手法に基づき、染色された編地を得た。該編地はタテ、ヨコ方向共に、モジュラスが低く、弾性回復率が高い編地であり、ソフトストレッチ性を有していた。また編地全面に渡って染色斑は無く、均染性に優れる編地であった。またソフトタッチで高級感に溢れ、表面のざらつきもなく、高品位な編地であった。
【0255】
得られた編地を用いて、Xの項に記載の手法に基づいて貼付剤を作製した。該貼付剤は屈伸運動を行っても、つっぱり感、皮膚への刺激感が全くない、優れた貼付剤であった。また剥がれ、皺も発生せず、貼付剤として申し分の無い特性を有していた。
【0256】
実施例18の捲縮糸、ならびに編地は、上記のごとく優れた特性を有することから、衣料用、産業用としても用いられるものであった。実施例18の結果を表7に示す。
【0257】
(実施例19〜20、および比較例9〜11)
実施例18において、鞘成分と芯成分の吐出量を変更することで、芯成分の重量分率を変更した以外は、実施例18と同様の方法で56dtex、40フィラメントの捲縮糸を得た。そして編地、貼付剤を作製して評価した。
【0258】
実施例19〜20では紡糸、仮撚工程において糸切れ、毛羽等は発生せず、製糸性は優れていた。
【0259】
比較例9〜10においては、紡糸での紡出糸の細化が安定せず100kgの紡糸において、糸切れがそれぞれ12回、7回起こった。さらに100kgの原糸を仮撚加工するに際し、糸切れがそれぞれ12回、2回起こり、製糸性は極めて悪かった。そして未延伸糸のパッケージ、および捲縮糸のパッケージはPTTの遅延回復性によって巻締まり、パッケージは硬化し、巻フォームが悪かった。また比較例11では紡糸工程での糸切れが1回、仮撚加工工程での糸切れが2回であった。実施例19〜20、および比較例9〜11の芯成分の重量分率を下記に、実施例18〜20、比較例9〜11の結果を表7に示す。
実施例19:芯成分の重量分率 20重量%
実施例20:芯成分の重量分率 40重量%
比較例9:芯成分の重量分率 0重量%
比較例10:芯成分の重量分率 10重量%
比較例11:芯成分の重量分率 50重量%
【0260】
実施例19、比較例9〜10を比較すると分かるように、芯成分の重量分率を20重量%以上含む捲縮糸とすることで、モジュラスが低く、弾性回復率が高いと同時に、PTTの遅延回復性が抑えられた効果により、均一性にも優れる捲縮糸となることが分かる。これにより捲縮糸からなる編地の均染性、触感が優れたものとなり、貼付剤とした場合も、つっぱり感、皮膚への刺激感がない、優れた貼付剤となることが分かる。また剥がれ、皺も発生せず、貼付剤として申し分の無い特性が発現することが分かる。
【0261】
比較例5、6は低モジュラス、高弾性回復率の捲縮糸であるものの、特に繊度CV%が大きいため、染色後の編地には筋斑が酷く、編み立て方向に段階的な染め差を有するものであった。また編地の表面にはざらつきが大きく、貼付剤として用いた場合、屈伸運動において皮膚への刺激が強く、実用に耐えないものであった。
【0262】
また実施例20と、比較例11を比較すると分かるように、芯成分の重量分率を40重量%以下とすることで、低モジュラスで、高弾性率であるPTTの特徴を殺すことなく、均一性、バルキー性に優れた捲縮糸となることがわかる。そして芯成分が40重量%であることで、耐加水分解性に優れた捲縮糸なり、耐久性にも優れた捲縮糸となる。加えて芯成分の重量分率が低い、すなわち弾性回復性に優れるPTTを多く含むことにより、仮撚加工工程での断面の変形を抑えることができ、捲縮糸の異形度が小さくなることも分かる。また断面の変形を抑えることにより単繊維の太さ斑をも小さくできることが分かる。
【0263】
比較例11の捲縮糸はモジュラスが高く、弾性回復性が低いことが、編地の伸縮特性にも反映されており、貼付剤として用いた場合、屈伸運動に追従せずつっぱり感があり、剥がれや皺が生じて装用感が悪いものであった。また捲縮糸の異形度が大きいことで、編地の表面に明らかなざらつきが生じてしまっていた。そして捲縮糸の繊度CV%が大きく、均一性が低いため編地には明らかな筋斑が散見され、低品位なものであった。
【0264】
なお実施例18〜20を比較すると分かるように、芯成分の重量分率を本発明にてより好ましいとされる範囲とすることで、捲縮糸の均一性、バルキー性、耐加水分解性にバランス良く優れた捲縮糸となり、より優れた編地ならびに、貼付剤となるこることが分かる。
【0265】
【表7】

【0266】
(実施例21〜22、比較例12〜13)
実施例20において、実施例21、比較例12では仮撚加工時の第1ヒーターの温度を、実施例22、比較例13では、紡糸工程において、口金のプレート3、吐出量、紡糸速度、巻取速度を変更し、仮撚加工工程において供給ローラーの速度を変更した以外は、実施例22と同様にして、56dtex、40フィラメントの捲縮糸を得た。実施例21では問題となるレベルではないが仮撚加工工程において、それぞれ糸切れが2回/100kg起こった。実施例22では各工程で糸切れは発生せず、製糸性は優れていた。一方で比較例12、13は、仮撚加工工程において毛羽が多発し、14回/100kgの糸切れが発生し、工程通過性に劣るものであった。実施例21〜22、比較例12〜13において、実施例20から変更した条件を下記に示す。実施例21〜22、比較例12〜13の結果を表8に示す。
【0267】
・実施例21
第1ヒーター温度:150℃
・比較例12
第1ヒーター温度:170℃
・実施例22
口金のプレート3:吐出孔径0.28mm、吐出孔長0.5mm、孔数40
吐出量:24.8g/分
第1ロール速度:4000m/分
第2ロール速度:4000m/分
巻取速度:3960m/分
供糸ローラー速度:417m/分
仮撚加工倍率:1.20
・比較例13
口金のプレート3:吐出孔径0.24mm、吐出孔長0.5mm、孔数40
吐出量:17.7g/分
第1ロール速度:1800m/分
第2ロール速度:1800m/分
巻取速度:1782m/分
供糸ローラー速度:263m/分
仮撚加工倍率:1.90
【0268】
実施例20〜22、および比較例12〜13を比較すると分かるように、仮撚加工工程における断面の変形を抑え、本発明の捲縮糸の異形度を1.5以下とすることで、より均染性にすぐれた編地となることが分かる。そして実施例20〜22から分かるように、本発明にて好ましい製造方法(第1ヒーター温度、紡糸速度)を採用することで、より異形度が小さい捲縮糸が得られ、表面が平滑で、ざらつきのない編地が得られることが分かる。同時に単繊維の太さ斑が小さくなり、均染性にも優れた編地となる。比較例12〜13の編地は明らかな筋状の染色斑が観察され、外観品位に劣るものであり、実施例の編地と比べて表面品位に劣るものであった。そして該編地で得られた貼付剤は屈伸運動をした際に、刺激感が強く、装用感に劣っていた。
【0269】
【表8】

【0270】
(実施例23〜26)
実施例18において、紡糸工程で、口金のプレート3、吐出量を変更し、供糸ローラーの速度を変更して仮撚加工倍率を変更した以外は、実施例18と同様にして56dtex、40フィラメントの捲縮糸を得た。そして編地、貼付剤を作製して評価した。実施例25では問題となるレベルではないが仮撚加工工程において、糸切れが1回/100kg起こった。実施例23、24、26では各工程で糸切れは発生せず、製糸性は優れていた。実施例23〜26において、実施例18から変更した条件を下記に示す。実施例23〜26の結果を表9に示す。
【0271】
・実施例23
口金のプレート3:吐出孔径0.25mm、吐出孔長0.5mm、孔数40
吐出量:19.4g/分
供糸ローラー速度:400m/分
仮撚加工倍率:1.25
・実施例24
口金のプレート3:吐出孔径0.27mm、吐出孔長0.55mm、孔数40
吐出量:21.7g/分
供糸ローラー速度:357m/分
仮撚加工倍率:1.4
・実施例25
口金のプレート3:吐出孔径0.28mm、吐出孔長0.6mm、孔数40
吐出量:23.2g/分
供糸ローラー速度:333m/分
仮撚加工倍率:1.5
・実施例26
口金のプレート3:吐出孔径0.25mm、吐出孔長0.5mm、孔数40
吐出量:18.6g/分
供糸ローラー速度:417m/分
仮撚加工倍率:1.2
【0272】
実施例18、および実施例23〜26を比較すると分かるように、本発明の捲縮糸はバルキー性に富んだ捲縮糸としても単繊維間の太さ斑が無く、優れた編地および貼付剤となることが分かった。そして本発明にて好ましいとされる、CRが40%以上の捲縮糸とすることで、より低モジュラスで、弾性回復率の高い編地となり、貼付剤としたときに皮膚のつっぱりがなく、繰り返しの屈伸運動においても剥がれ、皺の発生しない優れたものとなることがわかる。
【0273】
また、CRが60%以下の捲縮糸とすることで、捲縮糸の力学的特性に優れたものとなり、湿熱処理後の強度も高くなるため、実用耐久性に優れた捲縮糸、編地、貼付剤が得られることが分かる。加えて仮撚工程での断面の変形が小さく、均一性も高い捲縮糸となるため、より均染性に優れたものとなることも分かる。
【0274】
よって、捲縮糸のCRが40〜60%であることにより、低モジュラス性、バルキー性、均一性、力学的特性、耐加水分解性の特性がさらに優れた捲縮糸となり、該捲縮糸からなる編地の均染性、触感、および貼付剤としたときの装用感がさらに優れたものとなった。
【0275】
【表9】

【0276】
(実施例27〜30)
実施例18において、吐出孔のスペックならびにフィラメント数の異なる口金を用い、得られる捲縮糸のフィラメント数を変更した以外は、実施例18と同様にして実施例27〜30の56dtexの捲縮糸を得た。そして編地、貼付剤を作製して評価した。実施例27、28では問題となるレベルではないが紡糸工程、仮撚加工工程において、それぞれ糸切れが1回/100kg起こった。実施例29、30では各工程で糸切れは発生せず、製糸性は優れていた。実施例27〜30において、実施例18から変更した条件を下記に示す。実施例27〜30の結果を表10に示す。
実施例27の口金のプレート3:吐出孔径0.19mm、吐出孔長0.4mm、孔数72
実施例28の口金のプレート3:吐出孔径0.14mm、吐出孔長0.3mm、孔数144
実施例29の口金のプレート3:吐出孔径0.29mm、吐出孔長0.6mm、孔数32
実施例30の口金のプレート3:吐出孔径0.37mm、吐出孔長0.8mm、孔数20
【0277】
なお実施例27〜30の口金のプレート1、2については、フィラメント数に応じて孔数を変更した。
【0278】
実施例18、および実施例27〜30を比較すると分かるように、本発明の捲縮糸は特定の芯成分を含む芯鞘複合繊維であるため、単繊維繊度の小さいファインデニールの捲縮糸としても、繊維の均一性に優れたものとなることが分かる。そしてPTTの弾性回復性に優れる特徴から、バルキー性にも富んだ捲縮糸が得られることがわかる。このためピーチタッチで高級感のある柔らかい触感の編地が得られ、皮膚への刺激が全くない、装用感に優れた貼付剤が得られる。
【0279】
他方、単繊維繊度がある程度太いことで、捲縮がヘタリ難くバルキー性、弾性回復性に優れた編地が得られる。また捲縮糸の力学的特性、耐加水分解性も高まるため実用耐久性に優れた捲縮糸となることがわかる。
【0280】
すなわち本発明にて好ましいとされる範囲の単繊維繊度の捲縮糸することで、低モジュラス性、バルキー性、均一性、力学的特性、耐加水分解性にバランス良く優れた捲縮糸となり、該捲縮糸は編地の均染性、触感に優れ、貼付剤としたときの装用感に優れたものとなった。
【0281】
【表10】

【0282】
(実施例31〜32、比較例14〜16)
実施例31、比較例14では、実施例20において吐出孔のスペックを変更した以外は、実施例20と同様にして56dtex、40フィラメントの捲縮糸を得た。また実施例32では、芯成分としてPLA2を用いた以外は実施例20と同様にして56dtex、40フィラメントの捲縮糸を得た。そして比較例15〜16では、スピンブロック温度を変更した以外は実施例20と同様にして、56dtex、40フィラメントの捲縮糸を得た。実施例31〜32、比較例14〜16の捲縮糸を用いてそれぞれ、編地、貼付剤を作製して評価した。
【0283】
実施例31〜32では、問題となるレベルではないが紡糸工程、仮撚加工工程において、それぞれ糸切れが1回/100kg起こった。一方で、比較例14では、紡糸工程で糸切れが7回/100kg起こり、仮撚工程でも5回糸切れが起こり、実施例20の方が製糸性に優れていた。また比較例15〜16においても、紡糸工程でそれぞれ糸切れが6回、8回、仮撚工程でそれぞれ糸切れが6回、5回起こったため、実施例20の方が製糸性に優れていた。それぞれにおいて実施例20から変更した条件を下記に示す。実施例31〜32、比較例14〜16の結果を表11に示す。
実施例31の口金のプレート3:吐出孔径0.20mm、吐出孔長0.4mm、孔数40
比較例14の口金のプレート3:吐出孔径0.19mm、吐出孔長0.4mm、孔数40
実施例32のPLA:PLA−2
比較例15のスピンブロック温度:290℃
比較例16のスピンブロック温度:255℃
【0284】
実施例20、31、32、および比較例14〜16を比較すると分かるように、本発明にて好ましいとされる製造方法(吐出線速度、スピンブロック温度)を採用することで初めて紡糸工程での芯成分の偏在化が抑えられることがわかる。そして芯成分として高分子量であるPLAを採用することで、さらに重心解離度の小さい捲縮糸が得られる。重心解離度の小さい捲縮糸ほどスパイラル捲縮を有する単繊維が混在しないため、編地の表面がより平滑でざらつきのない優れたものとなり、貼付剤とした時の装用感に優れたものとなる。原糸段階で芯成分の偏在化が抑えられていることから、仮撚加工工程での単繊維の断面変形を抑えられ、異形度が小さく、均一性に優れた捲縮糸が得られる。
【0285】
【表11】

【0286】
(実施例33)
実施例18において、仮撚加工時に第2ヒーター35を使用し、仮撚加工条件、溶融紡糸における口金のプレート3、吐出量を変更した以外は、実施例18と同様にして56dtex、40フィラメントの捲縮糸を得た。そして編地、貼付剤を作製して評価した。実施例33では、各工程で糸切れは発生せず、製糸性は優れていた。実施例18から変更した条件を下記に示す。実施例33の結果を表12に示す。
【0287】
・実施例33
口金のプレート3:吐出孔径0.24mm、吐出孔長0.5mm、孔数40
吐出量:17.7g/分
第2ヒーター温度:100℃
デリベリローラー速度:400m/分
巻取速度:392m/分
OF率1:20%
OF率2:2%
【0288】
実施例33の捲縮糸は、実施例18と比べて沸騰水収縮率が6%と低く、残留トルクも55T/mと低い捲縮糸であった。そしてバルキー性が良好であり、低モジュラスかつ高弾性回復率であり、力学物性、耐加水分解性、均一性にも優れた、捲縮糸であった。このため得られる編地の均染性、触感に優れ、貼付剤の装用感に優れたものであった。
【0289】
(実施例34〜35)
実施例20において、実施例34では第2ロールにて未延伸糸に熱処理を施したのち巻き取ったこと以外は実施例20と同様にして捲縮糸を得た。このとき図7のごとく第2ロール付近に綾振を与えるセパレートロール40を設置し、紡出糸を第2ロールに6ターン(糸道ピッチ5mm)かけた後、巻取機17にて巻き取った。また実施例35では図4のスピンドロー装置を用い、紡出糸に延伸、熱処理を施したのち巻き取ったこと以外は実施例20と同様にして、56dtex、40フィラメントの捲縮糸を得た。このとき第1ロール(タンデム型)21、第2ロール(タンデム型)22には、それぞれ6ターン紡出糸をかけた。そしてそれぞれ編地、貼付剤を作製して評価した。実施例34〜35では各工程で糸切れは発生せず、製糸性は優れていた。実施例34〜35において実施例20から変更した条件を示す。実施例34〜35の結果を表12に示す。
【0290】
・実施例34(未延伸糸の加熱処理)
第2ロール温度:90℃
・実施例35(スピンドロー)
口金のプレート3:吐出孔径0.27mm、吐出孔長0.55mm、孔数40
吐出量:22.9g/分
第1ロール(タンデム型)温度:60℃
第2ロール(タンデム型)温度:150℃
第3ロール温度:25℃
第4ロール温度:25℃
第1ロール(タンデム型)速度:3000m/分
第2ロール(タンデム型)速度:4500m/分
第3ロール速度:4350m/分
第4ロール速度:4220m/分
巻取速度:4185m/分
リラックス率:7%
供糸ローラー速度:476m/分
仮撚加工倍率:1.05
【0291】
実施例20、および実施例34〜35を比較すると分かるように、本発明にて好ましいとされる、熱処理を施した未延伸糸、あるいはスピンドローを施した延伸糸は、PTT中に微結晶を多く有する原糸であるため、仮撚加工工程において断面が変形を受けにくく、異形度の小さい捲縮糸を得ることが出来る。そして断面の変形を受けにくいことからより均一性に優れた捲縮糸が得られることが分かる。さらに、第1ヒーター上でPTTの結晶が発達してより捲縮構造がセットされるため、バルキー性に優れる捲縮糸を得ることが出来る。よって、実施例34〜35から得られる編地、および貼付剤は、実施例20よりも優れたものとなった。
【0292】
【表12】

【図面の簡単な説明】
【0293】
【図1】本発明の実施例1で使用した紡糸装置の一態様を示す概略図である。
【図2】吐出孔長、吐出孔径を説明する吐出孔の断面模式図(A)、および口金下面部側面平面断面模式図(B)である。
【図3】本発明方法で使用する口金の一態様を示す模式図であり、(a)は3枚で構成される口金の断面模式図、(b)は2プレートの上面部側面平面断面図、(c)は3プレートの上面部側面平面断面図、(d)は3プレートの下面部側面平面断面図である。
【図4】本発明のスピンドローを施す装置の一態様を示す概略図である。
【図5】本発明の原糸に仮撚加工を施す装置の一態様を示す概略図である。
【図6】スパイラル捲縮を有する単繊維の一態様を示す側面模式図である。
【図7】本発明の紡糸、熱処理装置の一態様を示す概略図である。
【符号の説明】
【0294】
1:鞘成分のホッパー
2:鞘成分のエクストルーダー
3:芯成分のホッパー
4:芯成分のエクストルーダー
5:鞘成分のギヤポンプ
6:芯成分のギヤポンプ
7:スピンブロック
8:紡糸パック
9:口金
10:口金ヒーター
11:ユニフロー冷却装置
12:紡出糸
13:給油装置
14:交絡ノズル
15:第1ロール
16:第2ロール
17:巻取機
18:チーズパッケージ
19:吐出孔長
20:吐出孔径
21:第1ロール(タンデム型)
22:第2ロール(タンデム型)
23:第3ロール
24:第4ロール
25、27、28、31、37、38:糸道ガイド
26:糸条
29:供給ローラー
30:第1ヒーター
32:冷却板
33:3軸ツイスター
34:延伸ローラー
35:第2ヒーター
36:デリベリローラー
39:仮撚加工糸
40:セパレートロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鞘成分がポリトリメチレンテレフタレートからなり芯成分がポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステルからなる芯鞘複合繊維で構成され、かつ芯成分の重量分率が20〜40重量%であり、単繊維の横断面における異形度が1.5以下である捲縮糸。
【請求項2】
芯成分がポリエチレンテレフタレートである請求項1に記載の捲縮糸。
【請求項3】
芯成分がポリ乳酸である請求項1に記載の捲縮糸。
【請求項4】
捲縮糸が仮撚加工糸である請求項1〜3のいずれかに記載の捲縮糸。
【請求項5】
単繊維の繊度が0.1〜1.8dtexである請求項1〜4のいずれかに記載の捲縮糸。
【請求項6】
単繊維の横断面内における芯成分の重心と単繊維の重心との距離を、単繊維の直径で除することで算出される重心解離度が0.1以下である請求項1〜5のいずれかに記載の捲縮糸。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の捲縮糸を含んでなる繊維構造体。
【請求項8】
請求項7に記載の繊維構造体を含んでなる貼付剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−133565(P2008−133565A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320962(P2006−320962)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】