説明

掃引型測定装置

【課題】更新レートを維持したまま滑らかなグラフ表示を行うことができる掃引型測定装置を実現すること。
【解決手段】信号レベルが時間の経過に応じて変化する掃引信号を出力する掃引部を含む掃引型測定装置であって、
前記信号レベルは、時間の経過に対して非線形に変化することを特徴とするもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掃引型測定装置に関し、詳しくは、掃引パターン設定の改善に関するものである。
【0002】
従来から、たとえば半導体素子の静特性を可視化表示するのにあたり、図7または図8に示すようなカーブトレーサが用いられている。
【0003】
図7の構成において、被測定対象(以下DUTという)1と直列に可変電圧源2と電流測定器3が接続されている。可変電圧源2の出力電圧は、掃引部4により、時間の経過に応じて所定の変化率で変化するように制御される。電流測定器3は、可変電圧源2の出力電圧の変化に応じてDUT1に流れる電流の変化を測定する。
【0004】
X−Y表示器5は、掃引部4から入力される時間の経過に応じた電圧の変化をX軸にとり、電流測定器3から入力される電流の測定値をY軸にとって、DUT1の電圧−電流特性を2次元的なグラフとして可視化表示する。
【0005】
一方、図8の構成では、DUT1と直列に可変電流源6が接続され、DUT1と並列にと電圧測定器7が接続されている。可変電流源6の出力電流は、掃引部4により、時間の経過に応じた所定の変化率で変化するように制御される。電圧測定器7は、可変電流源6の出力電流の変化に応じたDUT1の端子間電圧の変化を測定する。
【0006】
X−Y表示器5は、掃引部4から入力される時間の経過に応じた電流の変化をX軸にとり、電圧測定器7から入力される電圧の測定値をY軸にとって、DUT1の電流−電圧特性を2次元的なグラフとして可視化表示する。
【0007】
また、他の掃引型測定装置として、図9に示すようなスペクトラムアナライザがある。図9において、周波数混合部8の一方の入力端子には被測定信号Sxが入力され、他方の入力端子には可変周波数信号源9の出力信号が入力されている。周波数混合部8の出力端子には中間周波数フィルタ10を介してレベル検出器11が接続されている。
【0008】
中間周波数フィルタ10は、周波数混合部8から出力される混合周波数成分の中から所望の周波数成分を抽出する。レベル検出器11は、中間周波数フィルタ10で抽出された周波数成分の信号レベルを測定する。
【0009】
X−Y表示器5は、掃引部4から入力される時間の経過に応じた周波数の変化をX軸にとり、レベル検出器11から入力される測定信号レベルをY軸にとって、被測定信号Sxのスペクトラム分布を2次元的なグラフとして可視化表示する。
【0010】
特許文献1には、掃引方式を用いた計測器の例として、ネットワークアナライザが記載されている。
【特許文献1】実開平6−16880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、従来のカーブトレーサやスペクトラムアナライザで用いられる内部の掃引部4の掃引波形に着目すると、図10に示すように、開始レベルと終了レベルで直線的に変化するように定義されるランプ波形が用いられることが多い。ただし、実際の測定にあたっては、測定に伴う各種オーバーヘッドの総和時間を含む準備時間がかかることから、掃引波形は図10に示すようなステップ状に変化する離散的なものとなり、掃引点数は周期を測定時間で割ったものになる。
【0012】
掃引の周期はX−Y表示器5に表示されるグラフの更新レートになるが、更新レートを早くすると掃引点数(=測定点数)が少なくなってしまう。測定点数が少なくなると測定値の変化が大きい部分のグラフ表示が粗くなって滑らかな曲線が得られない。図10のグラフ描画では、測定値の変化が大きい部分のグラフ表示が粗くなっているので、急峻なピーク表現が十分にはできていないことを示している。
【0013】
本発明は、このような課題を解決するものであり、その目的は、更新レートを維持したまま滑らかなグラフ表示を行うことができる掃引型測定装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
信号レベルが時間の経過に応じて変化する掃引信号を出力する掃引部を含む掃引型測定装置であって、
前記信号レベルは、時間の経過に対して非線形に変化することを特徴とする。
【0015】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の掃引型測定装置において、
前記非線形な信号レベルの変化は、ベジェ曲線に基づくことを特徴とする。
【0016】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の掃引型測定装置において、
前記掃引部は、
掃引パターンを定義するパラメータ値が格納される定義体と、
この掃引定義体を参照して最終時刻を検出する最終時刻検出部と、
外部から入力される時刻情報を前記最終時刻検出部の出力で割った余りを出力する剰余計算部と、
この剰余計算部の演算出力を入力として掃引定義体のその時刻が含まれる区間を検出する区間検出部と、
区間の開始点と終了点を出力する2点抽出部と、
この2点抽出部から出力される区間開始点情報と区間終了点情報および前記剰余計算部から入力される時刻情報に基づき、着目度が高いほど変化率を小さくするベジェ曲線を利用した掃引波形を演算するベジェ演算部、
とで構成されたことを特徴とする。
【0017】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれかに記載の掃引型測定装置において、
前記掃引型測定装置は、半導体素子の静特性を可視化表示するカーブトレーサであることを特徴とする。
【0018】
請求項5記載の発明は、請求項1から3のいずれかに記載の掃引型測定装置において、
前記掃引型測定装置は、被測定信号のスペクトラム分布を2次元的なグラフとして可視化表示するスペクトラムアナライザであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、更新レートを維持したまま、ユーザーの期待する滑らかなグラフ表示を行うことができる掃引型測定装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明で用いる掃引部の一実施例を示すブロック図である。図1において、掃引定義体41には掃引パターンを定義するパラメータ値が格納される。定義体41は、たとえば図2および図3に示すように「時刻t」、「レベルs」、「着目度g」のパラメータ値で定義される着目ポイントの1次元配列である。時刻tは0を基点とする昇順の時刻を指定し、レベルsはその時刻におけるレベルの値を指定し、着目度gはその時刻における着目の大きさを0〜1の値で指定する。
【0021】
図2の定義体は、「300ms周期で−10から20を一定の変化量で増加するランプ波形」の定義となる。
【0022】
最終時刻検出部42は、掃引定義体41を参照して最終時刻を検出出力する。図2の定義体の場合は、0.3を出力することになる。
【0023】
剰余計算部43は、時刻Tを最終時刻検出部42の出力で割った余りを出力し、0〜最終時刻を繰返し出力する。
【0024】
区間検出部44は、剰余計算部43の演算出力を入力として掃引定義体41のその時刻が含まれる区間を検出する。
【0025】
2点抽出部45は、区間の開始点と終了点を出力する。図3の定義体の場合、たとえば時刻=0.18では、区間開始点は(t=0.1,s=0.0,g=0.2)の点になり、区間終了点は(t=0.2,s=10.0,g=0.8)の点となる。
【0026】
ベジェ演算部46は、2点抽出部45から出力される区間開始点情報と区間終了点情報および剰余計算部43から入力される時刻情報に基づき、着目度が高いほど変化率を小さくするようなベジェ曲線を利用した掃引波形を演算する。
【0027】
ここで、ベジェ曲線とは、種々のグラフィックに用いられる曲線の定義方法であって、4点を与えることにより、起点と終点を通る曲線を定義できる。内側2点で形状を制御でき、また直感的に形状制御がしやすい特徴を持つ。
【0028】
図4に示すように、本発明ではベジェ曲線の定義点を、以下のA、A’、B’、Bとする。
A : 区間開始点
A’: Aの制御点
時刻: A時刻+(B時刻−A時刻)×A着目度
レベル: Aレベル
B’:Bの制御点
時刻: B時刻+(A時刻−B時刻)×B着目度
レベル: Bレベル
B :区間終了点
【0029】
図4において、着目度を大きくするほどその点近傍の変化率が小さくなるが、2点の着目度を共に1としても単調増加(または減少)であることは守られる。
【0030】
図5は、ベジェ演算部46の具体例を示すブロック図である。ベジェ演算部46は、媒介変数Jを演算する媒介変数演算部46aと、レベルSを演算するレベル演算部46bで構成されている。
【0031】
媒介変数演算部46aには、区間開始点情報(t0,s0,g0)と、区間終了点情報(t1,s1,g1)と、0〜最終時刻の範囲の時間Tが入力されている。媒介変数演算部46aは、時間軸方向のベジェ曲線式f1(t0,g0,t1,g1,j)を参照して、たとえばニュートン法によりf1(t0,g0,t1,g1,j)が時間Tになるような媒介変数jを算出し、レベル演算部46bに出力する。
【0032】
レベル演算部46bは、レベル軸方向のベジェ曲線式がf2(s0,g0,s1,g1,j)で与えられるものとすると、媒介変数jをこのレベル軸方向のベジェ曲線式に代入してレベルSを求める。
【0033】
図6は本発明に基づく掃引波形の具体例であり、図10と同一形状のグラフの例を示している。図6の掃引波形では、測定値変化の大きい部分2ヵ所を着目点X、Yとして、それぞれに適切な着目度を与えている。すなわち、着目点X付近の着目度はやや大きく設定し、着目点X付近の着目度はかなり大きく設定している。
【0034】
これにより、図6のグラフにおける掃引点数は、グラフ全体としては図10と同じ掃引点数(=測定点数)でありながら、着目点X付近ではやや多くなって着目点Y付近ではかなり多くなる。連動して、レベルの分解能は、着目点X付近ではやや細かくなって着目点Y付近ではかなり細かくなり、測定値の変化の大きい部分に関するグラフの表示は滑らかになって表現力が大幅に改善されていることが分かる。なお、掃引点数(=測定点数)は従来と同じであることから、更新レートの低下はない。
【0035】
なお、着目点をX−Y表示器5の画面上で指定するように構成することで、測定される特性に対してより直感的な測定装置が得られる。
【0036】
たとえば、カーブトレーサやスペクトラムアナライザにおいて、はじめに等間隔で掃引測定した場合の図10のような特性曲線をX−Y表示器5の画面上に表示させ、特性の変化状態を確認する。
【0037】
そして、X−Y表示器5に表示されている特性曲線の変化の大きい部分を着目点として指定するとともにその着目点に関する所望の定義体データを入力し、これら設定入力された条件に基づいて掃引測定して図6のような特性曲線をX−Y表示器5の画面上に表示させる。図6によれば、図10では表示されなかったピーク特性が滑らかに表示されることから、同一DUTに対する掃引波形の違いによる特性曲線の表示の差を確認できる。
【0038】
以上説明したように、本発明によれば、更新レートを維持したままで滑らかなグラフ表示を行うことができる掃引型測定装置が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明で用いる掃引部の一実施例を示すブロック図である。
【図2】掃引定義体の具体例図である。
【図3】掃引定義体の他の具体例図である。
【図4】ベジェ曲線の説明図である。
【図5】本発明で用いるベジェ演算部46の具体例を示すブロック図である。
【図6】本発明に基づく掃引波形の具体例図である。
【図7】カーブトレーサの構成例を示すブロック図である。
【図8】カーブトレーサの他の構成例を示すブロック図である。
【図9】スペクトラムアナライザの構成例を示すブロック図である。
【図10】従来の掃引型測定装置における掃引波形例図である。
【符号の説明】
【0040】
1 被測定対象
2 可変電圧源
3 電流測定器
4 掃引部
41 掃引定義体
42 最終時刻検出部
43 剰余計算部
44 区間検出部
45 2点抽出部
46 ベジェ演算部
5 X−Y表示器
6 可変電流源
7 電圧測定器
8 周波数混合部
9 可変周波数信号源
10 中間周波数フィルタ
11 レベル検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号レベルが時間の経過に応じて変化する掃引信号を出力する掃引部を含む掃引型測定装置であって、
前記信号レベルは、時間の経過に対して非線形に変化することを特徴とする掃引型測定装置。
【請求項2】
前記非線形な信号レベルの変化は、ベジェ曲線に基づくことを特徴とする請求項1記載の掃引型測定装置。
【請求項3】
前記掃引部は、
掃引パターンを定義するパラメータ値が格納される定義体と、
この掃引定義体を参照して最終時刻を検出する最終時刻検出部と、
外部から入力される時刻情報を前記最終時刻検出部の出力で割った余りを出力する剰余計算部と、
この剰余計算部の演算出力を入力として掃引定義体のその時刻が含まれる区間を検出する区間検出部と、
区間の開始点と終了点を出力する2点抽出部と、
この2点抽出部から出力される区間開始点情報と区間終了点情報および前記剰余計算部から入力される時刻情報に基づき、着目度が高いほど変化率を小さくするベジェ曲線を利用した掃引波形を演算するベジェ演算部、
とで構成されたことを特徴とする請求項1または2記載の掃引型測定装置。
【請求項4】
前記掃引型測定装置は、半導体素子の静特性を可視化表示するカーブトレーサであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の掃引型測定装置。
【請求項5】
前記掃引型測定装置は、被測定信号のスペクトラム分布を2次元的なグラフとして可視化表示するスペクトラムアナライザであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の掃引型測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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