説明

排ガス浄化方法及び設備

【課題】使用した酸化剤を再生、再利用することにより酸化剤の消費量を抑制し、従来よりもコストの削減を図り得るようにする。
【解決手段】燃焼排ガス1に処理液2を噴霧して前記燃焼排ガス1中に含まれる有害成分と共に水溶性の2価水銀を前記処理液2に回収するようにした排ガス浄化方法に関し、難溶性の金属水銀から2価水銀への酸化反応の促進や2価水銀の還元反応の抑制を図り得るよう酸化剤10を前記処理液2に添加し且つ該処理液2の少なくとも一部を循環して再利用し、その循環の途中で前記処理液2を電気分解して酸化剤10を再生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排ガス浄化方法及び設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石炭の燃焼排ガスには、石炭に起因する微量の水銀が含まれており、米国環境保護局(EPA)では、石炭焚き火力発電所からの水銀排出量の規制を決定している(2010年までに現行の30%削減、2018年までに現行の70%削減)。また、カナダでも同様に、石炭焚き火力発電所からの水銀排出量の規制を実施することが決定している。そこで、近年においては、石炭を熱エネルギー源とするプラントの排ガスから水銀を取り除き、排ガスの更なる浄化を図ることが検討されている。
【0003】
排出される水銀は、燃焼灰に付着した粒子状水銀(HgP)、難溶性の金属水銀(Hg0)、水溶性の2価水銀(Hg2+)の三つの形態で存在し、排ガス処理系内において、粒子状水銀の大部分は電気集塵機やバグフィルタ等の集塵装置にて除去され、2価水銀は湿式脱硫装置にて高効率に除去されるが、金属水銀は電気集塵機や湿式脱硫装置で除去することが困難であるため、その大部分が大気に排出されているのが実情である。
【0004】
ただし、燃焼排ガス中の金属水銀は、同じく石炭中に含まれる塩素に起因する塩化水素(HCl)により脱硝触媒や石炭灰や未燃分である炭素の表面上で酸化されるため(式1)、湿式脱硫装置で2価水銀として除去することが可能である。
[式1]
Hg0+2HCl+1/2O2→HgCl2+H2O(ここでHg2+はHgCl2である)
【0005】
また、湿式脱硫装置で酸化剤(NaClO,I2等)を添加して金属水銀を2価水銀へ酸化して除去することも可能である(式2)。
[式2]
Hg0+Ox→Hg2++Redx(Ox;酸化剤、Redx;還元物)
【0006】
尚、本発明に関連する先行技術文献情報としては、例えば、下記の特許文献1等が既に提案されている。
【特許文献1】特開2007−50334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、添加した酸化剤は、金属水銀を2価水銀へ酸化する以外に、湿式脱硫装置内の硫黄酸化物(SO3)をSO42-へ酸化させるため、酸化剤の消費量が多くなるという問題があり、例えば、上記の特許文献1等のように、先に脱硫用処理液を噴霧して排ガス中の硫黄酸化物を浄化した後に酸化剤を噴霧するようにスプレーを多段化することによって、金属水銀の酸化効率を上げ、湿式脱硫装置の水銀捕集効率を高くする方法も提案されているが、使用する酸化剤は再生、再利用しないため、常に酸化剤を添加することになってコストが高騰してしまうという問題があった。
【0008】
本発明は上述した実情に鑑みてなしたもので、使用した酸化剤を再生、再利用することにより酸化剤の消費量を抑制し、従来よりもコストの削減を図り得るようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、燃焼排ガスに処理液を噴霧して前記燃焼排ガス中に含まれる有害成分と共に水溶性の2価水銀を前記処理液に回収するようにした排ガス浄化方法において、酸化剤を前記処理液に添加し且つ該処理液の少なくとも一部を循環して再利用し、その循環の途中で前記処理液を電気分解して酸化剤を再生することを特徴とするものである。
【0010】
更に、斯かる排ガス浄化方法をより具体的に実施するにあたっては、処理液が燃焼排ガス中の硫黄酸化物を除去する脱硫用処理液であって、酸化剤が難溶性の金属水銀から2価水銀への酸化反応を促進するために添加されており、前記硫黄酸化物の反応生成物を系外に除去するべく循環される脱硫用処理液を、前記硫黄酸化物の反応生成物を除去した後に電気分解して前記酸化剤を再生するようにしても良い。
【0011】
また、本発明は、燃焼排ガスに処理液を噴霧して前記燃焼排ガス中に含まれる有害成分と共に水溶性の2価水銀を前記処理液に回収するようにした排ガス浄化設備において、燃焼排ガスを下方から導入し且つ上方から排出する吸収塔と、該吸収塔内の上側に設けられて処理液を噴霧するスプレー手段と、前記吸収塔内底部に滴下して溜まる処理液を吸収塔外に導き出して前記スプレー手段へ循環する処理液循環ラインと、該処理液循環ラインで循環される処理液の少なくとも一部を電気分解して再生する酸化剤再生手段とを備えたことを特徴とするものでもある。
【0012】
更に、斯かる排ガス浄化設備をより具体的に実施するにあたっては、処理液が燃焼排ガス中の硫黄酸化物を除去する脱硫用処理液であって、酸化剤が難溶性の金属水銀から2価水銀への酸化反応を促進するために添加されており、酸化剤再生手段の上流側に前記硫黄酸化物の反応生成物を系外に除去する反応生成物除去手段が設けられていても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明の排ガス浄化方法及び設備によれば、処理液の少なくとも一部を循環して再利用するにあたり、その循環の途中で前記処理液を電気分解して酸化剤を再生することができるので、難溶性の金属水銀から2価水銀への酸化反応の促進や2価水銀の還元反応の抑制を図るために使用した酸化剤を繰り返し再利用することができ、これにより酸化剤の消費量を大幅に抑制して従来よりもコストを著しく削減することができるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0015】
図1は本発明の排ガス浄化設備の一例を示すもので、ここに図示している例では、石炭の燃焼排ガス1に処理液2を噴霧して前記燃焼排ガス1中に含まれる硫黄酸化物(有害成分)と共に水溶性の2価水銀を前記処理液2に回収するようにした湿式脱硫装置に適用した場合を例示している。
【0016】
即ち、図1の排ガス浄化設備では、燃焼排ガス1を下方から導入し且つ上方から排出する吸収塔3と、該吸収塔3内の上側に設けられて処理液2を噴霧するスプレー手段4と、前記吸収塔3内底部に滴下して溜まる処理液2を吸収塔3外に導き出してポンプ5により前記スプレー手段4へ循環する処理液循環ライン6と、該処理液循環ライン6で循環される処理液2の少なくとも一部を電気分解して再生する酸化剤再生手段7とが備えられている。
【0017】
本形態例において、処理液2は燃焼排ガス1中の硫黄酸化物を除去する脱硫用処理液であり、より具体的には、石灰石を原料とする炭酸カルシウムスラリーである。この処理液2は、予め所定量が吸収塔3内に投入されていて、スプレー手段4により燃焼排ガス1に噴霧されることで該燃焼排ガス1中の硫黄酸化物(亜硫酸ガス等)と反応し、安定な物質である硫酸カルシウム8(石膏)を反応生成物として生成するようになっている。
【0018】
また、この際に、燃焼排ガス1に含まれている水溶性の2価水銀も処理液2に回収されることになるが、燃焼排ガス1中の難溶性の金属水銀を水溶性の2価水銀に酸化させる反応を促進するために、前記処理液循環ライン6のポンプ5の下流側に供給槽9からNaClO,I2等の酸化剤10を導いて添加するようにしてある。尚、処理液2に溶解した2価水銀は、前記硫酸カルシウム8(石膏)に取り込まれて一緒に系外へ除去されることになる。
【0019】
そして、前記ポンプ5により吸収塔3の底部から処理液循環ライン6を通してスプレー手段4へと循環される処理液2の一部が、該処理液2を固液分離する石膏分離器11へと送られて濾過されるようになっており、該石膏分離器11で分離された固形成分である硫酸カルシウム8(石膏)が系外に除去される一方、前記石膏分離器11で濾過された処理液2が前記酸化剤再生手段7を経てからポンプ12により前記スプレー手段4の入側に戻されるようになっている。
【0020】
ここで、前記酸化剤再生手段7は、前記石膏分離器11で濾過された処理液2を溜める貯留槽13と、該貯留槽13に浸漬するように配置され且つ直流電源14と接続された一対の電極15,16とにより構成され、処理液2を電気分解することにより酸化剤10の再生が図られるようにしてある。
【0021】
例えば、酸化剤10にNaClOを採用して処理液2に添加した場合、その添加されたNaClOは式3のように電離し、燃焼排ガス1中の難溶性の金属水銀(Hg0)を式4のように水溶性の2価水銀(Hg2+)に酸化させる。
[式3]
NaClO→Na++ClO-
[式4]
ClO-+2H++Hg0→Cl-+Hg2++H2
【0022】
次いで、このように使用済みとなった処理液2を貯留槽13内で電極15,16に通電して電気分解すると、陽極側の電極15で式5のように反応が起こる一方、陰極側の電極16で式6のように反応が起こり、処理液2中において式7のように酸化剤10であるNaClOが再生される。
[式5]
2Cl-→Cl2+2e-
[式6]
2Na++2H2O→2NaOH+H2
[式7]
Cl2+2NaOH→NaClO+H2
【0023】
また、酸化剤10にI2を採用して処理液2に添加した場合、その添加されたI2は式8のように水と反応して式9のように電離し、燃焼排ガス1中の難溶性の金属水銀(Hg0)を式10のように水溶性の2価水銀(Hg2+)に酸化させる。
[式8]
2+H2O→HI+HIO
[式9]
HIO→H++IO-
[式10]
IO-+2H++Hg0→I-+Hg2++H2
【0024】
次いで、このように使用済みとなった処理液2を貯留槽13内で電極15,16に通電して電気分解すると、陽極側の電極15で式11のように酸化剤10であるI2が再生され、陰極側の電極16では式12のような反応が起こる。
[式11]
2I-→I2+2e-
[式12]
2H2O+2e-→H2+2OH-
【0025】
従って、上記形態例によれば、処理液2を循環して再利用するにあたり、その循環の途中で前記処理液2を電気分解して酸化剤10を再生することができるので、難溶性の金属水銀から2価水銀への酸化反応の促進を図るために使用した酸化剤10を繰り返し再利用することができ、これにより酸化剤10の消費量を大幅に抑制して従来よりもコストを著しく削減することができる。
【0026】
図2は本発明の別の形態例を示すもので、図1の形態例において、酸化剤再生手段7で酸化剤10を再生した処理液2をポンプ12によりスプレー手段4の入側に戻すようにしていたのに対し、本形態例においては、酸化剤再生手段7で酸化剤10を再生した処理液2をポンプ12により吸収塔3の底部に戻すようにしている点で相違しているが、このように処理液2の戻し位置を変更しても、図1の形態例と同様の作用効果を奏し得ることは勿論である。
【0027】
図3は本発明の更に別の形態例を示すもので、ここに図示している例では、廃棄物の燃焼排ガス1に苛性ソーダ(NaOH)等のアルカリ洗浄液を処理液2として噴霧して前記燃焼排ガス1中に含まれるHClやSO2を除去すると共に、これらと一緒に水溶性の2価水銀を前記処理液2に回収する場合を例示している。
【0028】
このような廃棄物の燃焼排ガス1を対象とした排ガス浄化設備では、前述の図1や図2の形態例の場合と同様に、燃焼排ガス1を下方から導入し且つ上方から排出する吸収塔3と、該吸収塔3内の上側に設けられて処理液2を噴霧するスプレー手段4と、前記吸収塔3内底部に滴下して溜まる処理液2を吸収塔3外に導き出してポンプ5により前記スプレー手段4へ循環する処理液循環ライン6と、該処理液循環ライン6で循環される処理液2を電気分解して再生する酸化剤再生手段7とが備えられている。
【0029】
ただし、苛性ソーダ(NaOH)等によるアルカリ洗浄では、特に図1や図2の硫酸カルシウム8(石膏)の如き反応生成物は生じないので、この種の反応生成物の除去手段は特に備えられていないが、アルカリ雰囲気となることで燃焼排ガス1中の水溶性の2価水銀が還元され易くなって水銀捕集効率が下がる虞れがあるため、やはりNaClO等の酸化剤10を供給槽9からポンプ17で処理液循環ライン6の途中に添加して2価水銀の還元反応の抑制を図り得るようにしてある。
【0030】
また、アルカリ洗浄のための処理液2は、常に供給槽18からポンプ19で処理液循環ライン6の途中に足されていくようになっているので、吸収塔3の底部から使用済み処理液2の一部がポンプ20により抜き出されて排水処理されるようになっている。
【0031】
尚、図中21は燃焼排ガス1と処理液2との接触面積を増やすためにスプレー手段4の直下に配設された充填材(例えば、ピンポン玉のような球状体を層状に充填したもの)を示している。
【0032】
而して、このような廃棄物の燃焼排ガス1を対象とした排ガス浄化設備の場合でも、処理液2の大半を循環して再利用するにあたり、その循環の途中で前記処理液2を電気分解して酸化剤10を再生することができるので、2価水銀の還元反応の抑制を図るために使用した酸化剤10を繰り返し再利用することができ、これにより酸化剤10の消費量を大幅に抑制して従来よりもコストを著しく削減することができる。
【0033】
尚、本発明の排ガス浄化方法及び設備は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の別の形態例を示す概略図である。
【図3】本発明の更に別の形態例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0035】
1 燃焼排ガス
2 処理液
3 吸収塔
4 スプレー手段
6 処理液循環ライン
7 酸化剤再生手段
8 硫酸カルシウム(反応生成物)
10 酸化剤
11 石膏分離器(反応生成物除去手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼排ガスに処理液を噴霧して前記燃焼排ガス中に含まれる有害成分と共に水溶性の2価水銀を前記処理液に回収するようにした排ガス浄化方法において、酸化剤を前記処理液に添加し且つ該処理液の少なくとも一部を循環して再利用し、その循環の途中で前記処理液を電気分解して酸化剤を再生することを特徴とする排ガス浄化方法。
【請求項2】
処理液が燃焼排ガス中の硫黄酸化物を除去する脱硫用処理液であって、酸化剤が難溶性の金属水銀から2価水銀への酸化反応を促進するために添加されており、前記硫黄酸化物の反応生成物を系外に除去するべく循環される脱硫用処理液を、前記硫黄酸化物の反応生成物を除去した後に電気分解して前記酸化剤を再生することを特徴とする請求項1に記載の排ガス浄化方法。
【請求項3】
燃焼排ガスに処理液を噴霧して前記燃焼排ガス中に含まれる有害成分と共に水溶性の2価水銀を前記処理液に回収するようにした排ガス浄化設備において、燃焼排ガスを下方から導入し且つ上方から排出する吸収塔と、該吸収塔内の上側に設けられて処理液を噴霧するスプレー手段と、前記吸収塔内底部に滴下して溜まる処理液を吸収塔外に導き出して前記スプレー手段へ循環する処理液循環ラインと、該処理液循環ラインで循環される処理液の少なくとも一部を電気分解して再生する酸化剤再生手段とを備えたことを特徴とする排ガス浄化設備。
【請求項4】
処理液が燃焼排ガス中の硫黄酸化物を除去する脱硫用処理液であって、酸化剤が難溶性の金属水銀から2価水銀への酸化反応を促進するために添加されており、酸化剤再生手段の上流側に前記硫黄酸化物の反応生成物を系外に除去する反応生成物除去手段が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の排ガス浄化設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−453(P2010−453A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161748(P2008−161748)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】