説明

排ガス浄化用触媒

【課題】高温で及び酸素濃度が高い雰囲気中で使用した場合であっても活性低下が生じ難い排ガス浄化用触媒を提供すること。
【解決手段】本発明の排ガス浄化用触媒1は、希土類元素とアルカリ土類元素と貴金属とを含み、前記希土類元素の一部と前記アルカリ土類元素の一部とは複合酸化物を形成し、この複合酸化物と前記貴金属の一部とは固溶体を形成していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の排ガスを処理する排ガス浄化用触媒としては、セリアやアルミナ等の無機酸化物に白金等の貴金属を担持させてなる三元触媒が広く使用されている。この三元触媒では、貴金属は、窒素酸化物の還元反応並びに一酸化炭素及び炭化水素の酸化反応を促進する役割を担っている。また、無機酸化物は、貴金属の比表面積を増大させると共に、反応による発熱を消散させて貴金属のシンタリングを抑制する役割を担っている。特に、セリアは、酸素ストレージ能を有しており、先の還元反応及び酸化反応を最適化し得る。
【0003】
ところで、近年、自動車等の自動推進車両は、そのエンジン性能向上に伴い、高速で走行する機会が増えている。これに加え、大気汚染を防止すべく、排ガス規制の強化が進められている。このような背景のもと、自動推進車両の排ガス温度は益々高くなる傾向にある。
【0004】
また、自動推進車両には、地球温暖化を抑制するために、二酸化炭素排出量の低減が要求されている。そのため、排ガス浄化用触媒が高温に加熱された状態でエンジンへの燃料供給を停止する機会が増えている。
【0005】
すなわち、排ガス浄化用触媒は、従来と比較してより高い温度で使用されると共に、高温で酸素過剰雰囲気に晒される機会が増加している。したがって、このような使用環境下でも十分な性能を発揮する排ガス浄化用触媒を実現すべく、研究開発が盛んに行われている。
【0006】
例えば、特許文献1乃至3には、セリアの熱安定性を高め、その酸素ストレージ能などの低下を抑制することが記載されている。具体的には、特許文献1には、白金族元素、活性アルミナ、酸化セリウム、バリウム化合物及びジルコニウム化合物を含んだ排ガス浄化用触媒が記載されている。特許文献2には、触媒担持層がセリウム酸化物とジルコニウム酸化物と触媒金属とを含み、それらセリウム酸化物及びジルコニウム酸化物の少なくとも一部が複合酸化物又は固溶体として存在している排ガス浄化用触媒が記載されている。特許文献3には、一般式:Ce1-(a+b)Zrab2-b/2で表されるセリウム系複合酸化物が記載されている。
【0007】
また、特許文献4及び5には、白金を白金複合酸化物として存在させることにより、白金のシンタリングを抑制することが記載されている。具体的には、特許文献4には、白金と、アルカリ土類金属元素又はIIIA族元素から選ばれる1種以上の元素とを含んだ高耐熱性複合酸化物を用いた排ガス浄化用触媒が記載されている。特許文献5には、無機酸化物担体上に白金元素とアルカリ土類金属元素とを含んだ白金複合酸化物層を備え、それらの間に金属X(XはMg,Ca,Sr,Ba,La,Ceから選ばれる1種以上の元素)の酸化物層が介在した排ガス浄化用触媒が記載されている。
【0008】
しかしながら、単にセリアの熱安定性を高めただけでは、排ガス浄化用触媒を1000℃以上で酸素過剰雰囲気に晒した場合に、白金がシンタリングして、十分な活性が得られない。また、熱安定性に優れた白金複合酸化物を生成するためには、高温焼成が必要である。そのため、白金複合酸化物を用いた排ガス浄化用触媒の多くは、比表面積が小さく、活性が不十分である。
【特許文献1】特開平5−168926号公報
【特許文献2】特公平6−75675公報
【特許文献3】特開2000−169148号公報
【特許文献4】特開平10−358号公報
【特許文献5】特開2001−129399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、高温で及び酸素濃度が高い雰囲気中で使用した場合であっても活性低下が生じ難い排ガス浄化用触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1側面によると、希土類元素とアルカリ土類元素と貴金属とを含み、前記希土類元素の一部と前記アルカリ土類元素の一部とは複合酸化物を形成し、この複合酸化物と前記貴金属の一部とは固溶体を形成していることを特徴とする排ガス浄化用触媒が提供される。
【0011】
本発明の第2側面によると、希土類酸化物からなる担体と、前記担体の表面を部分的に被覆した希土類元素とアルカリ土類元素との複合酸化物と、前記担体に担持された貴金属とを具備し、前記複合酸化物を形成している前記希土類元素は前記希土類酸化物を形成している希土類元素と同一であり、前記貴金属の一部は前記担体上に位置し、前記貴金属の他の一部と前記複合酸化物とは固溶体を形成していることを特徴とする排ガス浄化用触媒が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、高温で及び酸素濃度が高い雰囲気中で使用した場合であっても活性低下が生じ難い排ガス浄化用触媒が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の態様について説明する。
図1は、本発明の一態様に係る排ガス浄化用触媒を概略的に示す図である。この排ガス浄化用触媒1は粒子を凝集させてなるペレット触媒であり、図1には、その一粒子を描いている。
【0014】
この排ガス浄化用触媒1は、担体11と、その表面を部分的に被覆した複合酸化物12と、担体11に担持された貴金属13aとを含んでいる。
【0015】
担体11は、希土類酸化物を主成分として含有しており、複合酸化物12は、希土類元素とアルカリ土類元素との複合酸化物を主成分として含有している。この複合酸化物12を形成している希土類元素は、担体11を形成している希土類元素と同一である。また、複合酸化物12は、貴金属13aと同一の貴金属を含有しており、固溶体を形成している。
【0016】
ここでは、一例として、担体11はセリア(CeO2)からなり、複合酸化物12は化学式:BaCeO3で表される複合酸化物からなり、この複合酸化物が含む貴金属及び貴金属13aは白金(Pt)であることとする。すなわち、希土類元素としてセリウムを使用し、アルカリ土類元素としてバリウムを使用し、貴金属として白金を使用することとする。なお、先の複合酸化物と白金との固溶体は、化学式:Ba(Ce,Pt)O3及び/又は(Ba,Pt)CeO3で表すことができる。
【0017】
この排ガス浄化用触媒1は、高温条件下で雰囲気の組成を変化させた場合に、可逆的な状態変化を示す。これについて、図2を参照しながら説明する。
【0018】
図2は、図1の排ガス浄化用触媒が高温条件下で示す状態変化を概略的に示す概念図である。図2において、「Lean」と表記した状態は、高温条件下で高酸素濃度雰囲気に晒した場合,例えばエンジンへの燃料供給を停止した場合,に排ガス浄化用触媒1が呈する状態を示している。他方、「Rich」と表記した状態は、高温条件下で低酸素濃度雰囲気に晒した場合,例えばエンジンに多量の燃料を供給し続けている場合,に排ガス浄化用触媒1が呈する状態を示している。
【0019】
図2に「Lean」と表記した状態は、図1を参照しながら説明した状態に相当している。但し、このとき、貴金属13aの少なくとも一部は、酸化されている(酸化数が増加している)可能性がある。
【0020】
この状態では、主として、貴金属13aが排ガス浄化用触媒1の活性に寄与し、複合酸化物12中の白金は活性には殆ど寄与しない。しかしながら、排ガス浄化用触媒1が「Lean」と表記した状態を呈している期間において、排ガス中の有害成分(例えば、窒素酸化物、一酸化炭素、炭化水素など)の濃度,すなわち雰囲気中の有害成分濃度,は比較的低い。したがって、排ガス浄化用触媒1は、十分な性能を発揮する。
【0021】
高温条件下で雰囲気中の酸素濃度が低くなると、排ガス浄化用触媒1は、「Lean」と表記した状態から「Rich」と表記した状態へと変化する。具体的には、複合酸化物から白金が析出し、この析出した白金は、複合酸化物12の表面に貴金属13bを形成する。
【0022】
排ガス浄化用触媒1が「Rich」と表記した状態を呈している期間において、排ガス中の有害成分濃度は比較的高い。すなわち、「Rich」と表記した状態に対応した期間では、「Lean」と表記した状態に対応した期間と比較して、排ガス浄化用触媒1にはより高い活性が要求される。
【0023】
貴金属13bは、貴金属13aと比較して遥かに小さい。例えば、貴金属13aの寸法が数nm程度であるのに対し、貴金属13bの寸法は約1nm以下である。それゆえ、「Rich」と表記した状態を呈している排ガス浄化用触媒1は、「Lean」と表記した状態を呈している排ガス浄化用触媒1と比較して高い活性を有している。したがって、この排ガス浄化用触媒1は、排ガス中の有害成分濃度が高い場合であっても、十分な性能を発揮する。
【0024】
「Rich」と表記した状態を呈している排ガス浄化用触媒1は、高温条件下で雰囲気中の酸素濃度が高くなると、「Lean」と表記した状態へと変化する。すなわち、貴金属13bを形成している白金と複合酸化物とは固溶体を形成する。なお、白金とセリアとが固溶体を形成することは殆どない。
【0025】
このように、排ガス浄化用触媒1は、可逆的な状態変化を生じる。また、この排ガス浄化用触媒1は、「Lean」と表記した状態から「Rich」と表記した状態へと変化する毎に、複合酸化物12の表面に極めて微細な貴金属13bを形成する。したがって、この状態は、「Rich」と表記した状態から「Lean」と表記した状態への変化及びその逆変化を生じることにより回復する。自動推進車両では、排ガス中の酸素濃度は比較的頻繁に変化するので、この排ガス浄化用触媒1は、高温で低酸素濃度雰囲気に晒される場合、常時、高い活性を示し、十分な性能を発揮する。
【0026】
また、この排ガス浄化用触媒1では、貴金属13aは、雰囲気の組成や温度に拘らず、排ガス浄化用触媒1の活性に寄与する。したがって、この排ガス浄化用触媒1は、高温で高い酸素濃度雰囲気に晒される場合に十分な性能を発揮するのに加え、初期使用時や低温条件下でも十分な性能を発揮する。
【0027】
さらに、この排ガス浄化用触媒1では、上記の通り、高温条件下で雰囲気中の酸素濃度が高くなると、貴金属13bと複合酸化物とは固溶体を形成する。そのため、この排ガス浄化用触媒1は、高酸素濃度雰囲気中での白金の蒸発減が少ない。
【0028】
以上、希土類元素としてセリウムを使用した場合を例に説明したが、希土類元素として他の元素を使用してもよい。例えば、プラセオジムなどを使用してもよい。
【0029】
また、アルカリ土類元素として、バリウム以外の元素を使用してもよい。例えば、ストロンチウム、カルシウム及びマグネシウムなどを使用してもよい。
【0030】
さらに、貴金属として、白金以外の元素を使用してもよい。例えば、パラジウム及びロジウムなどの白金族元素を使用してもよい。
【0031】
この排ガス浄化用触媒1では、希土類元素に対するアルカリ土類元素の原子比は、例えば1原子%乃至80原子%の範囲内とし、典型的には10原子%乃至50原子%の範囲内とする。希土類元素に対するアルカリ土類元素の原子比が小さい場合、担体11に対する複合酸化物12の体積比が小さい。そのため、雰囲気の組成変動による排ガス浄化用触媒1の性能回復が不十分となることがある。また、希土類元素に対するアルカリ土類元素の原子比を過剰に大きくすると、高温で雰囲気中の酸素濃度を高めたときに貴金属の酸化(酸化数の増加)が生じ難くなることがある。そのため、この場合、高温で雰囲気中の酸素濃度を高めた際に、貴金属と複合酸化物との固溶体が生成し難くなり、その結果、貴金属のシンタリングが生じ易くなることがある。
【0032】
排ガス浄化用触媒1の貴金属含量は、例えば0.01重量%乃至10重量%の範囲内とし、典型的には0.1重量%乃至5重量%の範囲内とする。貴金属含量が小さい場合、十分な触媒活性が得られないことがある。貴金属含量が大きい場合、貴金属のシンタリングが生じ易くなることがある。
【0033】
排ガス浄化用触媒1が担持している全貴金属に占める固溶体を形成している貴金属の割合(以下、固溶体形成率という)は、例えば、10%乃至80%の範囲内とする。固溶体形成率が小さい場合、貴金属のシンタリングに起因した活性低下を抑制する効果が不十分となることがある。固溶体形成率が大きい場合、初期活性が不十分となることがある。
【0034】
この排ガス浄化用触媒1は、例えば、以下の方法により製造することができる。
まず、希土類酸化物を主成分として含有した粉末状の担体11を準備し、そのスラリーを調製する。このとき、分散媒としては、例えば水を使用する。次に、このスラリーに貴金属塩溶液を添加し、これを濾過する。続いて、濾過ケークの乾燥及び焼成を順次行う。このようにして、担体11に貴金属を担持させる。
【0035】
次いで、貴金属を担持した担体11を、アルカリ土類塩溶液に添加する。さらに、このスラリーを加熱して液体を十分に除去する。このようにして、担体11にアルカリ土類元素を担持させる。
【0036】
担体11にアルカリ土類元素を担持させる方法に特に制限はない。例えば、貴金属を担持した担体11にアルカリ土類塩溶液を含浸させる方法、共沈を利用する方法、アルカリ土類金属のアルコキシドを使用する方法などを利用してもよい。
【0037】
その後、貴金属及びアルカリ土類元素を担持した担体11を酸化雰囲気中で焼成する。これにより、希土類元素とアルカリ土類元素との複合酸化物を生成すると共に、この複合酸化物と貴金属との固溶体を生成して、図1に示す粒子を得る。
【0038】
さらに、焼成後の粉末を圧縮成形し、必要に応じ、成形物を粉砕する。以上のようにして、ペレット状の排ガス浄化用触媒1を得る。
【0039】
この方法では、焼成温度は、例えば約700℃乃至約1100℃の範囲内とする。焼成温度が低い場合、複合酸化物を生成することが難しい。焼成温度が高い場合、担体11の比表面積が低下し、これに伴い、担体11上に貴金属13aを良好に分散させることが難しくなる。そのため、高い活性が得られないことがある。
【0040】
以上、排ガス浄化用触媒1がペレット触媒である場合を例に説明したが、排ガス浄化用触媒1は様々な形態をとり得る。例えば、排ガス浄化用触媒1は、モノリス触媒であってもよい。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0042】
(実施例1)
比表面積が160m2/gの市販のセリア粉末を50g秤量し、これを500mLのイオン交換水中に添加した。超音波攪拌を10分間行うことによりセリア粉末をイオン交換水中に十分に分散させ、続いて、このスラリーにジニトロジアミン白金硝酸溶液を添加した。ジニトロジアミン白金硝酸溶液の濃度及び添加量は、最終製品としての排ガス浄化用触媒において、白金担持量が1重量%となるように調節した。
【0043】
その後、このスラリーを吸引濾過した。濾液を誘導結合高周波プラズマ(ICP)分光分析に供した結果、スラリー中の白金のほぼ全てが濾過ケーク中に存在していることが分かった。
【0044】
次に、濾過ケークを110℃で12時間乾燥させた。続いて、これを、大気中、500℃で焼成した。これにより、セリアに白金を担持させた。
【0045】
その後、酢酸バリウムを200mLのイオン交換水中に溶解させた。次いで、白金を担持したセリアを50g秤量し、これを酢酸バリウム水溶液中に添加した。なお、酢酸バリウム水溶液の濃度は、最終製品としての排ガス浄化用触媒において、セリウムに対するバリウムの原子比が30原子%となるように調節した。
【0046】
次に、このスラリーを加熱して、余分な水分を除去した。続いて、これを、大気中、900℃で3時間焼成した。これにより、セリア表面の一部にセリウムとバリウムとの複合酸化物を生じさせると共に、この複合酸化物と白金との固溶体を生成した。
【0047】
以上のようにして得られた粉末の一部を抜き取り、これを、室温に維持した10%のフッ化水素水溶液中に12時間浸漬させた。なお、この条件は、先の粉末のうち複合酸化物のみが溶解する条件である。続いて、この液を濾過し、濾液をICP分光分析に供した。その結果、濾液の白金含量から、白金の70%が固溶体を形成していること,すなわち固溶体形成率が70%であること,が分かった。
【0048】
次に、先の粉体を圧縮成形した。さらに、この成形物を粉砕し、粒径が約0.5mm乃至約1.0mmのペレット状の排ガス浄化用触媒を得た。
【0049】
(実施例2)
最終製品においてセリウムに対するバリウムの原子比が10原子%となるように酢酸バリウム水溶液の濃度及び添加量を調節したこと以外は、実施例1で説明したのと同様の方法により排ガス浄化用触媒を製造した。
【0050】
本例でも、実施例1で説明したのと同様の方法により、白金担持量と固溶体形成率とを調べた。その結果、本例では、白金担持量は1重量%であり、固溶体形成率は40%であった。
【0051】
(実施例3)
最終製品においてセリウムに対するバリウムの原子比が50原子%となるように酢酸バリウム水溶液の濃度及び添加量を調節したこと以外は、実施例1で説明したのと同様の方法により排ガス浄化用触媒を製造した。
【0052】
本例でも、実施例1で説明したのと同様の方法により、白金担持量と固溶体形成率とを調べた。その結果、本例では、白金担持量は1重量%であり、固溶体形成率は35%であった。
【0053】
(比較例)
酢酸バリウム水溶液中へのセリアの添加からその後の焼成までを行わなかったこと以外は、実施例1で説明したのと同様の方法により排ガス浄化用触媒を製造した。
本例でも、実施例1で説明したのと同様の方法により、白金担持量を調べた。その結果、本例では、白金担持量は1重量%であった。
【0054】
次に、これら排ガス浄化用触媒の耐久性を以下の方法により調べた。
まず、各排ガス浄化用触媒を流通式の耐久試験装置内に配置し、触媒床に窒素を主成分としたガスを100mL/分の流量で20時間流通させた。この間、触媒床温度は1000℃に維持した。また、触媒床に流通させるガスとしては、窒素に酸素を5%加えてなるリーンガスと、窒素に一酸化炭素を10%加えてなるリッチガスとを使用し、これらガスは5分毎に切り替えた。
【0055】
その後、これら排ガス浄化用触媒を、常圧固定床流通反応装置内に配置した。次いで、触媒床にモデルガスを流通させながら、触媒床温度を100℃から500℃まで12℃/分の速度で昇温させ、その間の排ガス浄化率を連続的に測定した。なお、モデルガスとしては、酸化性成分(酸素及び窒素酸化物)と還元性成分(一酸化炭素、炭化水素、水素)とを化学量論的に当量としたガスを使用した。その結果を、以下の表に示す。
【表1】

【0056】
上記表において、「Ce(原子%)」は、排ガス浄化用触媒が含む白金以外の金属元素に占めるセリウムの原子比を示し、「Ba(原子%)」は、排ガス浄化用触媒が含む白金以外の金属元素に占めるバリウムの原子比を示している。「Pt(%)」は、排ガス浄化用触媒に占める白金の重量比を示している。「50%浄化温度(℃)」は、モデルガスに含まれる各成分の50%以上を浄化できた触媒床の最低温度を示している。「HC」、「CO」及び「NOx」は、それぞれ、炭化水素、一酸化炭素及び窒素酸化物を示している。
【0057】
この表に示すように、実施例1乃至3に係る排ガス浄化用触媒は、比較例に係る排ガス浄化用触媒と比較して、モデルガスをより低い温度で浄化することができた。この結果から、実施例1乃至3に係る排ガス浄化用触媒は、比較例に係る排ガス浄化用触媒と比較して、耐久性に優れていることが分かる。
【0058】
次に、実施例1に係る排ガス浄化用触媒を流通式の耐久試験装置内に再度配置し、これに上記のリーンガスを流通させた。続いて、触媒床に流通させるガスをリーンガスから上記のリッチガスへと切り替えた。なお、この間、触媒床の温度は1000℃に維持した。その後、触媒床にリッチガスを流通させたまま触媒床を降温した。触媒床の温度が十分に低くなった後、この排ガス浄化用触媒を透過電子顕微鏡(TEM)で観察した。このTEM像を図3に示す。
【0059】
図3は、実施例1に係る排ガス浄化用触媒のTEM写真である。図3に示すように、複合酸化物(BaCeO3)上には、多数の白金(Pt)が析出している。また、これら白金の寸法は約1nm以下である。このように、実施例1に係る排ガス浄化用触媒では、高温条件下で流通ガスをリーンガスからリッチガスへと切り替えることにより、複合酸化物上に極めて微細な白金を多数析出させることができた。
【0060】
次に、実施例1に係る排ガス浄化用触媒を流通式の耐久試験装置内に配置し、触媒床の温度を1000℃に設定して、これに上記のリーンガスを流通させた。続いて、触媒床にリーンガスを流通させたまま触媒床を降温した。触媒床の温度が十分に低くなった後、この排ガス浄化用触媒について、X線回折計で回折スペクトルを測定した。
【0061】
次いで、この排ガス浄化用触媒を流通式の耐久試験装置内に配置し、触媒床の温度を1000℃に設定して、これに上記のリッチガスを流通させた。続いて、触媒床にリッチガスを流通させたまま触媒床を降温した。触媒床の温度が十分に低くなった後、この排ガス浄化用触媒について、X線回折計で回折スペクトルを測定した。
【0062】
さらに、この排ガス浄化用触媒を流通式の耐久試験装置内に配置し、触媒床の温度を1000℃に設定して、これに上記のリーンガスを流通させた。続いて、触媒床にリーンガスを流通させたまま触媒床を降温した。触媒床の温度が十分に低くなった後、この排ガス浄化用触媒について、X線回折計で回折スペクトルを測定した。
【0063】
図4は、実施例1に係る排ガス浄化用触媒について得られた、雰囲気の組成変化に伴うX線回折スペクトルの変化を示すグラフである。図中、横軸は回折角を示し、縦軸は検出強度を示している。また、図中、曲線Aはリーンガスを最初に流通させた直後における回折スペクトルを示し、曲線Bはリッチガスを流通させた直後における回折スペクトルを示し、曲線Cはリーンガスを再度流通させた直後における回折スペクトルを示している。
【0064】
図4に示すように、セリア(CeO2)に対応したピークの位置は、触媒床にガスを流通させる回数が増加するのに応じて低角側にシフトしているが、そのシフト量は僅かである。
【0065】
これに対し、複合酸化物(BaCeO3)に対応したピークの位置は、流通ガスをリーンガスからリッチガスへと切り替えることにより低角側に大きくシフトし、流通ガスをリッチガスからリーンガスへと切り替えることにより広角側に大きくシフトしている。また、複合酸化物(BaCeO3)に対応したピークの本来の位置からのシフト量は、リッチガスを流通させた直後では小さく、リーンガスを流通させた直後では大きい。
【0066】
このことからも、高温で流通ガスをリッチガスからリーンガスへと切り替えることにより複合酸化物と白金との固溶体が生成すること、高温で流通ガスをリーンガスからリッチガスへと切り替えることにより複合酸化物から白金が析出すること、セリアと白金との固溶体は生じ難いことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一態様に係る排ガス浄化用触媒を概略的に示す図。
【図2】図1の排ガス浄化用触媒が高温条件下で示す状態変化を概略的に示す概念図。
【図3】実施例1に係る排ガス浄化用触媒のTEM写真。
【図4】実施例1に係る排ガス浄化用触媒について得られた、雰囲気の組成変化に伴うX線回折スペクトルの変化を示すグラフ。
【符号の説明】
【0068】
1…排ガス浄化用触媒、11…担体、12…複合酸化物、13a…貴金属、13b…貴金属。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素とアルカリ土類元素と貴金属とを含み、前記希土類元素の一部と前記アルカリ土類元素の一部とは複合酸化物を形成し、この複合酸化物と前記貴金属の一部とは固溶体を形成していることを特徴とする排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
希土類酸化物からなる担体と、
前記担体の表面を部分的に被覆した希土類元素とアルカリ土類元素との複合酸化物と、
前記担体に担持された貴金属とを具備し、
前記複合酸化物を形成している前記希土類元素は前記希土類酸化物を形成している希土類元素と同一であり、前記貴金属の一部は前記担体上に位置し、前記貴金属の他の一部と前記複合酸化物とは固溶体を形成していることを特徴とする排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記希土類元素として、セリウム及びプラセオジムの少なくとも一方を含んだことを特徴とする請求項1又は2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記アルカリ土類元素として、バリウム、ストロンチウム、カルシウム及びマグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含んだことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記希土類元素に対する前記アルカリ土類元素の原子比が1原子%乃至80原子%の範囲内にあることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項6】
前記貴金属の含量は0.01重量%乃至10重量%の範囲内にあることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項7】
前記貴金属のうちの10%乃至80%が前記固溶体を形成していることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の排ガス浄化用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−130444(P2006−130444A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−323886(P2004−323886)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000104607)株式会社キャタラー (161)
【Fターム(参考)】