説明

排ガス浄化用触媒

【課題】十分に高度な高温耐久性と十分に高度な硫黄被毒耐久性とを有するとともに、幅広い温度域に亘って十分に高い触媒活性を示すことが可能な排ガス浄化用触媒を提供すること。
【解決手段】組成が異なる酸化物複合体をそれぞれ含有する2種類以上のNOx吸蔵部を備え、
前記酸化物複合体が、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の第一金属元素と、希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の第二金属元素とを含有するものであり、
前記酸化物複合体の表面上の10nm角の20点以上の測定点におけるTEM−EDX分析から求められる第一金属元素のピーク面積と第二金属元素のピーク面積との和に対する第一金属元素のピーク面積の比([第一金属元素のピーク面積]/[第一金属元素のピーク面積と第二金属元素のピーク面積の和])の分布の標準偏差が10%以下であり、且つ、
前記2種類以上のNOx吸蔵部が、前記第二金属元素に対する前記第一金属元素の含有モル比([第一金属]/[第二金属])の値が小さい前記酸化物複合体を含有するNOx吸蔵部から順に排ガスに接触するように配置されていること、
を特徴とする排ガス浄化用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の排ガスに含まれる有害な窒素酸化物(NOx)を浄化するために、NOxの吸蔵が可能な酸化物複合体を含むNOx吸蔵部を備える排ガス浄化触媒が利用されてきた。このようなNOx吸蔵部を備える排ガス浄化触媒としては、例えば、特開2003−326164号公報(特許文献1)に、多孔質担体上に、セリウム化合物及びセシウム化合物を含む触媒成分部を被覆してなり、上記セリウム化合物が触媒成分部の上面側により多く含まれ、上記セシウム化合物が触媒成分部の下面側により多く含まれた触媒が開示されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載のような従来の排ガス浄化用触媒は、高温耐久性や硫黄被毒に対する耐久性が十分なものではなかった。また、特許文献1に記載のような従来の排ガス浄化用触媒は、幅広い温度域に亘って十分に高い触媒活性を示すという点においても十分なものではなかった。
【特許文献1】特開2003−326164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、十分に高度な高温耐久性と十分に高度な硫黄被毒耐久性とを有するとともに、幅広い温度域に亘って十分に高い触媒活性を示すことが可能な排ガス浄化用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、組成が異なる酸化物複合体をそれぞれ含有する2種類以上のNOx吸蔵部を備え、前記酸化物複合体を、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の第一金属元素と、希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の第二金属元素とを含有するものとし、前記酸化物複合体の表面上の10nm角の20点以上の測定点におけるTEM−EDX分析から求められる第一金属元素のピーク面積と第二金属元素のピーク面積との和に対する第一金属元素のピーク面積の比([第一金属元素のピーク面積]/[第一金属元素のピーク面積と第二金属元素のピーク面積の和])の分布の標準偏差を10%以下とし、且つ、前記2種類以上のNOx吸蔵部を、前記第二金属元素に対する前記第一金属元素の含有モル比([第一金属]/[第二金属])の値が小さい前記酸化物複合体を含有するNOx吸蔵部から順に排ガスに接触するように配置することにより、得られる排ガス浄化用触媒が十分に高度な高温耐久性と十分に高度な硫黄被毒耐久性とを有するとともに、幅広い温度域に亘って十分に高い触媒活性を示すことが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の排ガス浄化用触媒は、組成が異なる酸化物複合体をそれぞれ含有する2種類以上のNOx吸蔵部を備え、
前記酸化物複合体が、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の第一金属元素と、希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の第二金属元素とを含有するものであり、
前記酸化物複合体の表面上の10nm角の20点以上の測定点におけるTEM−EDX分析から求められる第一金属元素のピーク面積と第二金属元素のピーク面積との和に対する第一金属元素のピーク面積の比([第一金属元素のピーク面積]/[第一金属元素のピーク面積と第二金属元素のピーク面積の和])の分布の標準偏差が10%以下であり、且つ、
前記2種類以上のNOx吸蔵部が、前記第二金属元素に対する前記第一金属元素の含有モル比([第一金属]/[第二金属])の値が小さい前記酸化物複合体を含有するNOx吸蔵部から順に排ガスに接触するように配置されていること、
を特徴とするものである。
【0007】
上記本発明の排ガス浄化用触媒としては、前記2種類以上のNOx吸蔵部が、前記第二金属元素に対する前記第一金属元素の含有モル比の値が小さい前記酸化物複合体を含有するNOx吸蔵部から順にガス流路の上流側から下流側に向かって配置されている排ガス浄化用触媒、又は、
前記2種類以上のNOx吸蔵部が触媒基材の表面上に積層されてなる多層構造を有し、且つ
前記2種類以上のNOx吸蔵部が、前記第二金属元素に対する前記第一金属元素の含有モル比の値が小さい前記酸化物複合体を含有するNOx吸蔵部から順に外表面側から前記触媒基材の表面側に向かって配置されている排ガス浄化用触媒が好ましい。
【0008】
さらに、上記本発明の排ガス浄化用触媒においては、前記第一金属元素の含有モル比の最大値が、前記第一金属元素の含有モル比の最小値の2倍以上であることが好ましい。
【0009】
なお、本発明の排ガス浄化用触媒によって、十分に高度な高温耐久性と十分に高度な硫黄被毒耐久性とを有するとともに、幅広い温度域に亘って十分に高い触媒活性を示すことが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、本発明にかかる酸化物複合体は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の第一金属元素と、希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の第二金属元素とを含有するものであり、第一金属元素と第二金属元素の組成比を変化させることで塩基強度を十分に変化させることができるものである。これに対して、従来の排ガス浄化用触媒においては、第一金属元素と第二金属元素とが混合した酸化物を形成させても、その酸化物中において、各々の金属元素の酸化物が互いに独立した粗大粒子を形成してしまうため、金属の組成比を変化させても塩基強度を十分に変化させることができなかった。ここで、塩基強度とNOx浄化活性との関係を検討すると、塩基強度が弱いものほど低温域におけるNOx浄化活性に優れ、塩基強度が強いものほど高温域のNOx浄化活性に優れたものとなるという関係にある。本発明にかかる酸化物複合体は、TEM−EDX分析から求められる第一金属元素のピーク面積と第二金属元素のピーク面積との和に対する第一金属元素のピーク面積の比([第一金属元素のピーク面積]/[第一金属元素のピーク面積と第二金属元素のピーク面積の和])の分布の標準偏差が10%以下のものであり、第一金属元素と第二金属元素とが十分に均一に混合されて微細に複合化されたものである。このような酸化物複合体においては、金属の組成比を変更することで容易に塩基強度を変化させることができる。そのため、組成比が異なる酸化物複合体をそれぞれ含有する2種類以上のNOx吸蔵部が配置された本発明の排ガス浄化用触媒においては、低温から高温まで幅広い温度域に亘って高いNOx浄化活性を発揮させることが可能である。また、このような酸化物複合体は、上述のように微細で且つ十分に均一に混合された状態のものであるため、硫黄成分と接触した際に形成され得る硫酸塩が不安定な状態のものとなるため、硫黄被毒による触媒活性の低下も十分に抑制でき、十分に高い触媒活性を示すことが可能となる。
【0010】
また、本発明においては、2種類以上のNOx吸蔵部が、前記第二金属元素に対する前記第一金属元素の含有モル比([第一金属]/[第二金属])の値が小さい前記酸化物複合体を含有するNOx吸蔵部から順に排ガスに接触するように配置されている。触媒の硫黄被毒は、一般に、排ガスと初めて接触する部位や排ガスとの接触頻度が多い部位に生じ易い。また、硫黄被毒再生処理時における硫黄成分の脱離性は、NOx吸蔵部の塩基強度が弱いものほど起こりやすい。本発明の排ガス浄化用触媒においては、NOx吸蔵部を上述のようにして配置していることから、排ガスを浄化する際に上記第一金属元素の含有モル比が小さいNOx吸蔵部が排ガスと接触した後に、上記第一金属元素の含有モル比が大きいNOx吸蔵部が排ガスと接触する。そのため、本発明においては、前記第一金属元素の含有モル比の小さいNOx吸蔵部が硫黄に曝されやすい。そして、このような第一金属元素の含有モル比の小さいNOx吸蔵部は塩基強度がより小さいものであるため、硫黄被毒再生処理を施した場合に、硫黄の脱離性が高い。そのため、本発明の排ガス浄化用触媒は、硫黄被毒後においても高いNOx浄化活性を維持でき、十分に高度な硫黄被毒耐久性を有するものと本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、十分に高度な高温耐久性と十分に高度な硫黄被毒耐久性とを有するとともに、幅広い温度域に亘って十分に高い触媒活性を示すことが可能な排ガス浄化用触媒を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0013】
本発明の排ガス浄化用触媒は、組成が異なる酸化物複合体をそれぞれ含有する2種類以上のNOx吸蔵部を備え、
前記酸化物複合体が、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の第一金属元素と、希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の第二金属元素とを含有するものであり、
前記酸化物複合体の表面上の10nm角の20点以上の測定点におけるTEM−EDX分析から求められる第一金属元素のピーク面積と第二金属元素のピーク面積との和に対する第一金属元素のピーク面積の比([第一金属元素のピーク面積]/[第一金属元素のピーク面積と第二金属元素のピーク面積の和])の分布の標準偏差が10%以下であり、且つ、
前記2種類以上のNOx吸蔵部が、前記第二金属元素に対する前記第一金属元素の含有モル比([第一金属]/[第二金属])の値が小さい前記酸化物複合体を含有するNOx吸蔵部から順に排ガスに接触するように配置されていること、
を特徴とするものである。
【0014】
このような酸化物複合体は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の第一金属元素と、希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の第二金属元素とを含有するものである。前記第一金属元素として選択され得るアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられる。また、前記第一金属元素として選択され得るアルカリ土類金属としてはバリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム等が挙げられる。このような第一金属元素としては、高い塩基性を有し、酸化物を形成させた際に十分に高いNOx吸蔵能を発揮できるという観点から、カリウム、ルビジウム、セシウム、バリウムが好ましく、バリウムがより好ましい。このような第一金属元素としては、1種を単独であるいは2種以上を混合して含有させてもよい。
【0015】
また、前記第二金属元素として選択され得る希土類金属としては、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジウム、ネオジム等が挙げられる。このような第二金属元素としては、酸化物を形成させた際に比較的高比表面積を有するという観点から、イットリウム、ランタン、セリウムが好ましく、セリウムがより好ましい。このような第二金属元素としては、1種を単独であるいは2種以上を混合して含有させてもよい。
【0016】
このような酸化物複合体中に含有される第一金属元素と第二金属元素の組み合わせは特に制限されないが、NOx吸蔵能の観点からは、Ba(第一金属元素)と、Ce(第二金属元素)とを組み合わせて用いることが好ましく、併せてSOx吸蔵能を発揮させるという観点からは、Ba又はMg(第一金属元素)と、Ce又はY(第二金属元素)とを組み合わせて用いることが好ましい。
【0017】
また、本発明においては、前記酸化物複合体の表面上の10nm角の20点以上の測定点におけるTEM−EDX分析から求められる第一金属元素のピーク面積と第二金属元素のピーク面積との和に対する第一金属元素のピーク面積の比([第一金属元素のピーク面積]/[第一金属元素のピーク面積と第二金属元素のピーク面積の和])の分布の標準偏差が10%以下である。このようなTEM−EDX分析においては、測定装置として、従来公知の透過型電子顕微鏡(TEM)に、従来公知のエネルギー分散型X線分光器(EDX分析装置)を装備したTEM−EDX装置を用いる装置(例えば、日本電子社製の商品名「JEM−2010FES」等)を適宜用いることができる。
【0018】
また、このようなTEM−EDX分析においては、先ず、TEM−EDX装置を用いて、前記酸化物複合体の表面上の任意の領域内において、10nm角の測定点内のエネルギー分散型の蛍光X線スペクトルを求める。次に、得られたエネルギー分散型の蛍光X線スペクトルから、第一の金属元素に由来するピークの面積と、第二の金属元素に由来するピークの面積を求め、第一金属元素のピーク面積と第二金属元素のピーク面積との和に対する第一金属元素のピーク面積の比(面積比)を求める。なお、このようなピーク面積比は、式:
[ピーク面積比(%)]=[第一金属元素のピーク面積]/[第一金属元素のピーク面積と第二金属元素のピーク面積の和]×100
を計算することにより算出できる。ここにいう「ピーク」とは、前記スペクトルのベースラインからピークトップまでの高さの強度差が1cts以上のものをいう。また、「ピーク面積」とは、ベースラインとピークとの間の面積をいい、市販のソフト(例えば、OriginLab社製の商品名「Origin」等)を利用して求めることができる。なお、このようなピークは、例えば、金属元素がバリウムである場合にはエネルギーが4.5KeVの位置(BaLα線)に現れ、金属元素がセリウムの場合には、4.8KeVの位置(CeLα線)に現れる。
【0019】
また、このようなピーク面積比の分布の標準偏差は、任意の20点以上の測定点においてTEM−EDX分析を行って、各測定点における上記ピーク面積比を求め、得られたピーク面積比の値に基づいて、ピーク面積比の分布の標準偏差(%)を算出することにより求めることができる。本発明にかかる酸化物複合体においては、このようなピーク面積比の標準偏差は10%以下(より好ましくは9%以下)である。このような標準偏差が10%を超えた酸化物複合体は、第一金属元素と、第二金属元素とが十分に均一に混合したものとはならず、硫黄被毒を十分に抑制することができないとともに、硫黄被毒後に再生処理を施した場合に硫黄成分の脱離速度が十分なものとはならない。
【0020】
このような酸化物複合体としては、第二金属元素に対する前記第一金属元素の含有モル比の値([第一金属]/[第二金属]:以下、場合により単に「第一金属元素の含有モル比の値」という。)が0.01〜10の範囲にあることが好ましく、0.1〜5の範囲にあることがより好ましい。このような第一金属元素の含有モル比の値が前記下限未満及び前記上限を超えた酸化物複合体では、前記第一金属元素と第二金属元素とが十分に均一に複合化されないため、十分なNOx吸蔵能を発揮できない傾向にある。
【0021】
また、本発明にかかるNOx吸蔵部は、前記酸化物複合体を含有するものであればよく特に制限されず、前記酸化物複合体のみからなるものであっても、前記酸化物複合体を担体に担持させたものであってもよい。そして、このような酸化物複合体の形状は、特に制限されず、粉末状、ペレット状等の形状としてもよい。
【0022】
このような酸化物複合体が粉末状のものである場合には、粉末状の酸化物複合体の粒子の平均粒子径が0.1〜20μmであることが好ましく、1〜10μmであることがより好ましい。このような平均粒子径が前記下限未満では、取り扱いが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると反応ガスとの接触性が低下し、NOxの吸蔵性能が低下する傾向にある。なお、このような平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を行い、任意の100個の粒子の粒径分布をとることにより求めることができる。
【0023】
さらに、このような酸化物複合体が粉末状である場合には、酸化物複合体の比表面積は5〜200m/gであることが好ましい。このような比表面積が前記下限未満では、反応に有効な表面サイト数が不足する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、熱安定性が低下し、比表面積低下が大きくなる傾向にある。
【0024】
また、前記NOx吸蔵部が担体に酸化物複合体が担持されたものである場合には、前記担体に前記酸化物複合体が細粒化された粒子の状態で担持されていることが好ましい。このような酸化物複合体の担持粒子の平均粒子径としては0.5〜10nmであることが好ましく、0.5〜5nm以下であることがより好ましい。前記酸化物複合体の粒子径が前記下限未満では、前記酸化物複合体中の第一及び第二金属元素の分散の均一性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えるとNOxの吸蔵に有効な表面サイト数が減少する傾向にある。なお、このような担持粒子の平均粒子径は、XRD測定やTEM観察をすることにより求めることができる。
【0025】
さらに、このような担体に対する前記酸化物複合体の担持量としては、NOx吸蔵部の全質量に対して0.1〜60質量%(より好ましくは5〜40質量%)とすることが好ましい。前記酸化物複合体の担持量が前記下限未満では、得られるNOx吸蔵部に目的とする性能を発揮させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、触媒の比表面積が低下するため、NOx吸蔵性能が低下する傾向にある。
【0026】
また、このような酸化物複合体を担持させることが可能な担体としては特に制限されないが、前記酸化物複合体をより高度に分散した状態で担持することができることから、塩基性の担体であることが好ましく、アルミニウム、ジルコニウム、アルカリ土類金属及び希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の第三金属元素の酸化物を含有する担体がより好ましい。このような塩基性の担体を用いることにより、酸化物複合体中の第一金属元素と担体との反応を抑制することが可能となり、酸化物複合体の分解を十分に抑制して十分に高い触媒活性を維持できる傾向にある。
【0027】
このような第三金属元素として選択され得るアルカリ土類金属元素としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)が挙げられ、中でも、担体の塩基性がより高いものとなり、酸化物複合体の分散性がより向上するという観点並びに貴金属を担持させた際に貴金属及びその酸化物との相互作用が強く親和性が大きい傾向にあるという観点から、Mg、Ca、Baを用いることが好ましく、Mgを用いることが特に好ましい。また、希土類元素としては、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Ga)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)等が挙げられ、中でも、貴金属及びその酸化物との相互作用が強く親和性が大きい傾向にあるという観点から、La、Ce、Nd、Pr、Y、Scが好ましく、La、Ce、Y、Ndがより好ましい。このような電気陰性度の低い希土類元素及びアルカリ土類金属元素は、前記酸化物複合体や貴金属との相互作用が強い。そのため、貴金属を担持させた場合に貴金属の蒸散やシンタリングを抑制できるとともに、活性点となる貴金属の劣化を十分に抑制することができる。
【0028】
また、このような第三金属元素の酸化物を含有する担体としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、セリアとジルコニアの複合酸化物、アルミナとマグネシアの複合酸化物等が挙げられる。このような第三金属元素の酸化物を含有する担体の中でも、より塩基性の強い担体であるという観点から、ジルコニア及び/又はアルミナと、アルカリ土類金属元素及び希土類元素からなる群から選択される少なくとも一つの元素との複合酸化物を含有する担体が好ましく、アルミナとマグネシアの複合酸化物であることが更に好ましい。このようなアルミナとマグネシアの複合酸化物は、式:MgO−nAlで表され、nの値は様々な数値となり得る。このようなnが1未満のときは、遊離のMgOが存在し、耐熱性が低下する傾向にある。他方、nが1を超えると、アルミナとマグネシアの複合酸化物は、MgO−xAlとyAl(1≦x,x+y=n)の2相系になり、Alと複合酸化物中の第一金属元素との反応が生じやすくなる傾向にある。そのため、このような第三金属元素の酸化物を含有する担体としては、組成式:MgAlで表される金属酸化物を含有する担体が特に好ましい。
【0029】
また、このような担体においては、前記第三金属元素の酸化物以外にも、他の金属元素の酸化物を更に含有させることができる。このような他の金属元素としては、特に制限されず、排ガス浄化用触媒の担体に含有させることが可能な公知の金属の酸化物を適宜用いることができるが、中でも、チタン、ケイ素、鉄、マンガン及びタングステンからなる群から選択される第四金属元素の酸化物が好ましい。そのため、このような担体においては、例えば、チタニア(TiO)及びジルコニア(ZrO)の複合酸化物、チタニア(TiO)及びセリア(CeO)の複合酸化物等を含有していてもよい。
【0030】
また、このような担体においては、TiO及びZrOの複合酸化物(TiO−ZrO)を更に含有させることが好ましい。このようなTiO−ZrOは、TiOのアナターゼ相にZrOが固溶するとともにZrOのテトラゴナル相にTiOが固溶し、TiOとZrOとが互いに固溶し合うことから熱安定性が高い。そのため、このようなTiO−ZrOを含有させた場合においては、高温に曝された場合においても比表面積の低下が抑制される傾向にある。また、このようなTiO−ZrOにおいては、上述のような固溶体が形成されるため、前記酸化物複合体との固相反応が抑制されるとともに、TiOの機能である硫黄被毒抑制作用が促進される傾向にある。従って、チタニア(TiO)及びジルコニア(ZrO)の複合酸化物を含有させることによって、耐熱性と硫黄被毒耐久性をより向上させることが可能となる。なお、このようなTiO及びZrOの複合酸化物中のTiOとZrOの含有比率は特に制限されないが、質量比でTiO/ZrO=95/5〜5/95の範囲とするのが好ましい。TiOがこの範囲より少ないと硫黄被毒抑制作用が低下し、ZrOがこの範囲より少ないと耐熱性が低下する。
【0031】
また、このような担体中の前記第三金属元素の酸化物の含有量としては、特に制限されないが、1〜95質量%であることが好ましく、3〜80質量%であることがより好ましい。前記第三金属元素の酸化物の含有量が前記下限未満では、耐熱性が低下し、十分なNOx吸蔵性能が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、活性温度域の拡大や硫黄被毒耐久性向上の面で他の担体との併用のメリットを受け難くなる傾向にある。
【0032】
さらに、このような担体中のTiO及びZrOの複合酸化物の含有量としては、特に制限されないが、5〜80質量%であることが好ましく、30〜70質量%であることがより好ましい。このようなTiO及びZrOの複合酸化物の含有量が前記下限未満では、TiO及びZrOの複合酸化物の担体の比表面積の低下を抑制する効果が十分に得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、耐熱性と触媒活性が低下する傾向にある。
【0033】
また、上述のような組成式:MgAlで表される金属酸化物を含有する担体においては、MgAlで表される金属酸化物の含有量が、担体の全質量に対して10〜90質量%であることが好ましく、30〜70質量%であることがより好ましい。このような担体におけるMgAlで表される金属酸化物の含有量が、前記下限未満では酸化物複合体を担持させた際にMgAlで表される金属酸化物により得られる効果が小さくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、活性温度域の拡大や硫黄被毒耐久性向上の面で他の担体との併用のメリットを受け難くなる傾向にある。
【0034】
また、前記担体として、MgAlで表される金属酸化物とTiO及びZrOの複合酸化物とを組み合わせた担体を用いる場合には、MgAlで表される金属酸化物とTiO及びZrOの複合酸化物との混合比は特に制限されないが、質量比でMgAl:TiO−ZrOで表される比率が4:1〜1:4の範囲とすることが好ましい。MgAlで表される金属酸化物の含有比率が上記下限未満では、耐熱性と触媒活性が低下する傾向にあり、他方、上記上限を超えると、硫黄被毒抑制効果が低下する傾向にある。
【0035】
さらに、このような担体の形状としては特に制限されないが、比表面積が向上し、より高い触媒活性が得られることから、粉体状であることが好ましい。このような担体が粉体状のものである場合においては、前記担体の粒度(二次粒子径)は特に制限されず、1〜100μmであることが好ましい。前記粒子径が前記下限未満では、担体の微細化にコストがかかるとともに、その扱いが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、後述するような基材に本発明の排ガス浄化用触媒のコート層を安定に形成させることが困難となる傾向にある。
【0036】
また、このような担体の比表面積は、20m/g以上であることが好ましく、50〜300m/gであることがさらに好ましい。このような比表面積が前記下限未満では、十分な触媒活性を発揮させるために妥当な量の酸化還元能を有する金属(好ましくは貴金属)を担持することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、熱劣化による比表面積低下が大きくなる傾向にある。なお、このような比表面積は吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出することができる。
【0037】
このような担体の製造方法は、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。例えば、2種以上の金属元素を含有する担体を製造する場合には、少なくとも前記第三金属元素の塩(例えば、硝酸塩)を含有する2種類以上の金属元素を含有する水溶液を用い、アンモニアの存在下で上記金属元素の共沈殿物を生成せしめ、得られた共沈殿物を濾過、洗浄した後に乾燥し、更に焼成することによって前記第三金属元素の酸化物を含有する担体を得る方法を採用することができる。
【0038】
また、前記NOx吸蔵部を前記酸化物複合体が担体に担持された形態とする場合においては、前記担体に酸化還元能を有する金属が更に担持されていることが好ましい。このような酸化還元能を有する金属としては、白金、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、金等の貴金属や銀、銅、コバルト、鉄等が挙げられる。このような酸化還元能を有する金属の中でも、得られる排ガス浄化用触媒がより高い触媒活性を示すという観点からは、白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属が好ましい。
【0039】
また、前記担体に酸化還元能を有する金属を担持する場合において、酸化還元能を有する金属の担持量は、前記酸化物複合体及び前記担体の全質量に対して0.05〜10質量%(より好ましくは0.1〜5質量%)とすることが好ましい。前記酸化還元能を有する金属の担持量が前記下限未満では、酸化還元能を有する金属により得られる触媒活性が不十分となる傾向にあり、他方、上記上限を超えると、コストが高騰するとともに前記酸化還元能を有する金属の粒成長が起こり易くなる傾向にある。
【0040】
また、前記担体に酸化還元能を有する金属が担持されている場合において、前記酸化還元能を有する金属はより細粒化された粒子の状態で担体に担持されていることが好ましい。このような酸化還元能を有する金属の粒子径としては1〜20nmであることがより好ましく、1〜10nmであることがより好ましい。前記酸化還元能を有する金属の粒子径が前記下限未満では、担体と反応し、酸化物化して失活する傾向にあり、他方、前記上限を超えると高度な触媒活性が得ることが困難になる傾向にある。
【0041】
なお、前記担体に前記酸化還元能を有する金属を担持させる方法としては特に制限されず、例えば、前記酸化還元能を有する金属が貴金属の場合には、貴金属の塩(例えば、ジニトロジアミン塩)や錯体(例えば、テトラアンミン錯体)を含有する水溶液を前記担体に接触させた後に乾燥し、更に焼成する方法を採用することができる。
【0042】
また、本発明にかかるNOx吸蔵部の製造方法は特に制限されないが、以下に示すような方法を採用することが好ましい。すなわち、このようなNOx吸蔵部の好適な製造方法としては、前記第一金属元素を含有する第1の化合物と、前記第二金属元素を含有する第2の化合物と、多座配位子を有する第3の化合物と、アンモニアとを含む酸化物複合体前駆体水溶液を焼成して酸化物複合体を形成することにより、酸化物複合体からなるNOx吸蔵部を製造する方法を挙げることができる。また、前記NOx吸蔵部を前記担体に前記酸化物複合体が担持されたものとする場合には、前記酸化物複合体前駆体水溶液を担体に担持させた後、焼成して酸化物複合体を担体に担持させる方法を採用すればよい。なお、担体に前記酸化物複合体を担持する方法としては、担体に上記本発明の酸化物複合体を担持することが可能な方法であればよく、特に制限されないが、上記本発明の酸化物複合体前駆体水溶液を担体に含浸させて焼成する方法を採用することが好ましい。
【0043】
なお、このような酸化物複合体前駆体水溶液を焼成する方法を採用することにより、前記酸化物複合体の表面上の10nm角の20点以上の測定点におけるTEM−EDX分析から求められる第一金属元素のピーク面積と第二金属元素のピーク面積との和に対する第一金属元素のピーク面積の比([第一金属元素のピーク面積]/[第一金属元素のピーク面積と第二金属元素のピーク面積の和])の分布の標準偏差を10%以下とすることが可能となる。また、このような方法を採用することにより、第一金属元素と第二金属元素とが十分に均一に混合されて微細に複合化された本発明にかかる酸化物複合体を形成できる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、このような酸化物複合体前駆体水溶液においては、前記第1及び第2の化合物とともに、多座配位子を有する第3の化合物と、アンモニアとが含有されているため、前記水溶液中において、前記第1の化合物と前記第2の化合物とが前記多座配位子を介して互いに相互作用し、近接した状態で保持される。また、このような酸化物複合体前駆体水溶液においては、アンモニアが含有されているため、前記水溶液中に沈殿が生じることなく、前記第1の化合物と前記第2の化合物とが高濃度で且つ安定した状態で保持できる。そして、このような酸化物複合体前駆体水溶液を焼成すると、配位子として存在する嵩高い多座配位子が酸化分解され、前記第1の化合物と前記第2の化合物とが十分に微細化された状態で複合化されるものと本発明者らは推察する。
【0044】
このような第1の化合物としては、前記第一金属元素の水酸化物、酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩等が挙げられる。なお、このような第1の化合物は、1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。また、前記第2の化合物としては、前記第二金属元素の水酸化物、酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩等が挙げられる。このような第2の化合物としては、酸化物を形成させた際に比較的高比表面積を有するという観点から、前記第二金属元素の酢酸塩を用いることがより好ましい。なお、このような第2の化合物は、1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0045】
更に、前記第3の化合物が有する多座配位子とは、2個以上の配位基で配位し得るものをいう。このような第3の化合物としては、クエン酸、シュウ酸等の多価カルボン酸類、グリコール、ピナコール等のジオール類、エチレンジアミン等のジアミン類、アセト酢酸エチル等の2つのカルボニル基を有するエステル類等が挙げられる。このような第3の化合物としては、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、リンゴ酸、アジピン酸、酒石酸、マロン酸、フマル酸、アコニット酸、グルタル酸、エチレンジアミン四酢酸、乳酸、グリコール酸、グリセリン酸、サリチル酸、メバロン酸、エチレンジアミン、アセト酢酸エチル、マロン酸エステル、グリコール及びピナコールが好ましく、中でも、ヒドロキシ基を併せ持つカルボン酸であるという観点から、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、グリコール酸、サリチル酸がより好ましく、嵩高く、より微細化された酸化物複合体を製造できるという観点から、クエン酸が特に好ましい。なお、このような第3の化合物は、1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
また、第1の化合物と、第2の化合物と、第3の化合物と、前記アンモニアとを含有させる溶媒は、水(好ましくはイオン交換水及び蒸留水等の純水)である。
【0047】
また、第1及び第2の化合物の含有量は特に制限されず、NOx吸蔵部の設計に併せて適宜変更することができる。また、第3の化合物の含有量としては、第1の化合物及び第2の化合物中の金属元素の総モル量に対して2〜15倍(より好ましくは2.5〜10倍)のモル量とすることが好ましい。このような第3の化合物の含有量が前記下限未満では、第1の化合物及び第2の化合物に対する多座配位子の含有量が少なくなるため、水溶液中において、錯体の形成ができず、第1の化合物及び第2の化合物を近接した状態で保持することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、第1の化合物及び第2の化合物の濃度が低下することで担持効率が低下する傾向にある。
【0048】
また、前記アンモニアの含有量としては特に制限されず、得られる水溶液に沈殿が生じないように、その含有量を適宜調整することが好ましく、0.4mol/L以上(特に好ましくは2.0mol/L〜10mol/L)とすることがより好ましい。このようなアンモニアの含有量が前記下限未満では、得られる水溶液に沈殿が生じる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、第1の化合物及び第2の化合物の濃度が低下することで担持効率が低下する傾向にある。さらに、前記アンモニアの含有量としては、前記第3の化合物の含有量に対してモル換算で2倍以上(より好ましくは2.8〜5倍)であることが好ましい。アンモニアの含有量が前記第3の化合物の含有量に対してモル換算で2倍未満では、第1の化合物及び第2の化合物を安定した状態で含有させることが困難となり、沈殿が生じ易くなる傾向にある。
【0049】
また、このような酸化物複合体前駆体水溶液を製造するための方法としては、第1の化合物と、第2の化合物と、第3の化合物と、アンモニアとを水に溶解させることが可能な方法であればよく、特に制限されない。このような酸化物複合体前駆体水溶液を製造するための好適な方法としては、例えば、第3の化合物を水に溶解させた後に第2の化合物を添加して沈殿物を生じせしめ、その後、アンモニアを添加して、前記沈殿物を再度溶解させた後、この溶液に、第一の化合物を更に加えて撹拌し、沈殿物を生じせしめた後に再度溶解させて酸化物複合体前駆体水溶液を製造する方法が挙げられる。また、第3の化合物とアンモニアとを予め化合したアンモニウム塩(例えばクエン酸アンモニウム等)を用いて、酸化物複合体前駆体水溶液を製造してもよい。
【0050】
また、前記酸化物複合体前駆体水溶液の焼成の条件は、特に制限されないが、例えば、大気中において、300℃〜600℃の温度範囲で加熱することが好ましく、300℃〜500℃の温度条件で加熱することがより好ましい。また、加熱時間としては、加熱温度によって異なるものであるため一概には言えないが、1〜3時間程度とすることができる。そして、このようにして前記酸化物複合体前駆体水溶液を焼成することで、前記酸化物複合体を製造することができ、得られた酸化物複合体は、その酸化物複合体の表面上の10nm角の20点以上の測定点におけるTEM−EDX分析から求められる第一金属元素のピーク面積と第二金属元素のピーク面積との和に対する第一金属元素のピーク面積の比([第一金属元素のピーク面積]/[第一金属元素のピーク面積と第二金属元素のピーク面積の和])の分布の標準偏差が10%以下となる。
【0051】
また、本発明にかかるNOx吸蔵部は、触媒基材に担持してもよい。このような触媒基材としては特に制限されず、DPF基材、モノリス状基材、ペレット状基材、プレート状基材等を好適に用いることができる。また、このような触媒基材の材質も特に制限されないが、コーディエライト、炭化ケイ素、ムライト等のセラミックスからなる基材や、クロム及びアルミニウムを含むステンレススチール等の金属からなる基材が好適に採用される。さらに、このような触媒基材にNOx吸蔵部を担持させる方法も特に制限されず、例えば、モノリス状基材に前記担体を担持せしめて、その担体の粉末からなるコート層を形成した後、前記コート層に酸化還元能を有する金属(好ましくは貴金属)を担持し、その後、前記コート層に酸化物複合体を担持して、触媒基材上にNOx吸蔵部を担持する方法や、予め酸化還元能を有する金属を担持した担体を用い、これをモノリス状基材に担持せしめてコート層を形成した後、前記コート層に酸化物複合体を担持して、前記NOx吸蔵部を担持する方法、予めNOx吸蔵部を製造しておき、これを前記触媒基材上にコートして担持する方法等を適宜採用することができる。
【0052】
また、本発明の排ガス浄化用触媒は、組成が異なる前記酸化物複合体をそれぞれ含有する2種類以上の前記NOx吸蔵部を備えたものである。すなわち、本発明の排ガス浄化用触媒においては、前記2種類以上のNOx吸蔵部中に含有される各酸化物複合体の第二金属元素に対する前記第一金属元素の含有モル比の値がそれぞれ異なる。そのため、本発明の排ガス浄化用触媒においては、各酸化物複合体の塩基強度が異なるものとなる。ここで、塩基強度とNOx浄化活性との関係を検討すると、塩基強度が弱いものほど低温域におけるNOx浄化活性に優れ、塩基強度が強いものほど高温域のNOx浄化活性に優れたものとなるという関係にある。そして、本発明の排ガス浄化用触媒においては、塩基強度の異なる2種以上の酸化物複合体を含有する2種類以上のNOx吸蔵部を備えているため、より広い温度領域において十分に高い活性を示すことが可能である。
【0053】
また、このような2種類以上のNOx吸蔵部に含有される複数の酸化物複合体において、酸化物複合体の前記第一金属元素の含有モル比の最大値が、酸化物複合体の前記第一金属元素の含有モル比の最小値の2倍以上(より好ましくは3〜6倍)となっていることが好ましい。このような第一金属元素の含有モル比の値([第一金属]/[第二金属])の最大値を最小値の2倍以上とすることにより、得られる排ガス浄化用触媒がより広い温度領域において十分に高い活性を有するものとなる傾向にある。
【0054】
さらに、このような第一金属元素の含有モル比の最小値は0.01〜1(より好ましくは0.1〜1)の範囲にあることが好ましく、第一金属元素の含有モル比の最大値は0.1〜10(より好ましくは1〜5)の範囲にあることが好ましい。前記第一金属元素の最小値が前記下限未満では、その酸化物複合体を均一なものとすることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、低温域で十分なNOx吸蔵性能が得られない傾向にある。また、第一金属元素の含有モル比の最大値が前記下限未満では、高温域で十分なNOx吸蔵性能が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、その酸化物複合体を均一なものとすることが困難となる傾向にある。
【0055】
また、本発明の排ガス浄化用触媒において、前記第一金属元素の含有モル比の値が2倍以上異なる2種類の酸化物複合体をそれぞれ含有する2種類のNOx吸蔵部の含有割合は、特に制限されないが、質量比([第一金属元素の含有モル比の値が大きい方の酸化物複合体を含むNOx吸蔵部の質量]/[前記第一金属元素の含有モル比の値が小さい方の酸化物複合体を含むNOx吸蔵部の質量])で0.2〜5(より好ましくは0.5〜2)となるようにすることが好ましい。
【0056】
さらに、本発明の排ガス浄化用触媒においては、触媒中に含有される第一金属元素の全量が、触媒基材1Lあたり0.01〜1.0mol/L(より好ましくは0.1〜0.6mol/L)であることが好ましい。このような第一金属元素の全量が前記下限未満では、NOx吸蔵サイトの数が十分でなく、活性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると第二金属元素との微細複合化が困難となる傾向にある。
【0057】
また、本発明の排ガス浄化用触媒においては、触媒中に含有される第二金属元素の全量が、0.01〜1.0mol/L(より好ましくは0.1〜0.6mol/L)であることが好ましい。このような第二金属元素の全量が前記下限未満では、NOx吸蔵サイトの数が十分でなく、活性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると第一金属元素との微細複合化が困難となるとなる傾向にある。
【0058】
また、本発明の排ガス浄化用触媒においては、組成の異なる前記酸化物複合体をそれぞれ含有する2種類以上のNOx吸蔵部が、前記第二金属元素に対する前記第一金属元素の含有モル比([第一金属]/[第二金属])の値が小さい前記酸化物複合体を含有するNOx吸蔵部から順に排ガスに接触するように配置されている。そのため、排ガスを浄化する際には、上記第一金属元素の含有モル比がより小さい酸化物複合体を含有するNOx吸蔵部に排ガスが接触した後、上記第一金属元素の含有モル比がより大きい酸化物複合体を含有するNOx吸蔵部に排ガスが順次接触することとなる。従って、排ガス浄化用触媒においては、前記第一金属元素の含有モル比のより小さいNOx吸蔵部が排ガス中の硫黄成分に曝されやすく、硫黄成分が付着し易い。一方で、前記第一金属元素の含有モル比のより大きなNOx吸蔵部は、硫黄成分との接触確率が小さく、硫黄被毒され難い。そのため、本発明の排ガス浄化用触媒においては、硫黄成分を含有する排ガスに対しても十分にNOx吸蔵能を発揮させることができる。更に、上述のような前記第一金属元素の含有モル比のより小さいNOx吸蔵部は塩基強度が小さく、硫黄被毒再生処理を施した場合に硫黄の脱離性が高い。従って、本発明の排ガス浄化用触媒は、硫黄被毒後においても硫黄被毒再生処理を施すことにより高いNOx浄化活性を維持できる。このように、本発明の排ガス浄化用触媒は、そのNOx吸蔵部の配置関係により、十分に高度な硫黄被毒耐久性を有する。
【0059】
また、このような排ガス浄化用触媒においては、(i)前記2種類以上のNOx吸蔵部が、前記第二金属元素に対する前記第一金属元素の含有モル比の値が小さい前記酸化物複合体を含有するNOx吸蔵部から順にガス流路の上流側から下流側に向かって配置されているか、あるいは
(ii)前記2種類以上のNOx吸蔵部が触媒基材の表面上に積層されてなる多層構造を形成し、且つ、前記2種類以上のNOx吸蔵部が、前記第二金属元素に対する前記第一金属元素の含有モル比の値が小さい前記酸化物複合体を含有するNOx吸蔵部から順に外表面側から前記触媒基材の表面側に向かって配置されていること、
が好ましい。
【0060】
以下、上記本発明の排ガス浄化用触媒中のNOx吸蔵部の配置関係についてより詳細に説明するために、図面を参照しながら、上記本発明の排ガス浄化用触媒の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0061】
図1は、本発明の排ガス浄化用触媒の好適な一実施形態のガスの流れる方向と平行な方向の断面の状態を模式的に示す断面図である。図1に示す実施形態の排ガス浄化用触媒においては、第一のNOx吸蔵部を備える触媒基材11と、第二のNOx吸蔵部を備える触媒基材12とを備えている。そして、このような排ガス浄化用触媒1は、排ガス管13と接続されており、ガス流路の上流側に第一のNOx吸蔵部を備える触媒基材11が配置され、ガス流路の下流側に第二のNOx吸蔵部を備える触媒基材12が配置されている。すなわち、本実施形態の排ガス浄化用触媒においては、第一のNOx吸蔵部に排ガスが接触した後、第二のNOx吸蔵部に排ガスが接触するように、各NOx吸蔵部が配置されている。また、第一のNOx吸蔵部は、第二のNOx吸蔵部よりも第二金属元素に対する前記第一金属元素の含有モル比の値([第一金属]/[第二金属])が小さい酸化物複合体を含有するものである。従って、本実施形態においては、前記第二金属元素に対する前記第一金属元素の含有モル比の値が小さい前記酸化物複合体を含有するNOx吸蔵部から順にガス流路の上流側から下流側に向かって配置されている。そのため、本実施形態においては、排ガス管13に排ガスを供給した場合に、前記第二金属元素に対する前記第一金属元素の含有モル比([第一金属]/[第二金属])の値が小さい前記酸化物複合体を含有するNOx吸蔵部から順に排ガスに接触する。従って、このような実施形態の排ガス浄化用触媒は、十分に高度な高温耐久性と十分に高度な硫黄被毒耐久性とを有するとともに、幅広い温度域に亘って十分に高い触媒活性を示すことが可能である。なお、図1中の矢印Aは、排ガスの流れる方向を示している。
【0062】
また、このような第一及び第二のNOx吸蔵部を備える触媒基材11及び12は、それぞれ、モノリス基材に第一及び第二のNOx吸蔵部がそれぞれ担持されたものである。このような図1に示す実施形態のように、モノリス基材等の触媒基材上にNOx吸蔵部を担持させて、その触媒基材を上流側から下流側に向かって順次配置させる場合において、前記触媒基材に対するNOx吸蔵部の担持量は特に制限されないが、前記第一金属元素と第二金属元素との和が、触媒基材1Lあたりそれぞれ0.02〜2.0mol/L(より好ましくは0.2〜1.2mol/L)であることが好ましい。このような触媒基材に対するNOx吸蔵部の担持量が前記下限未満では、十分なNOx浄化性能を発揮させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、触媒の比表面積が低下し、十分な活性が得られない傾向にある。
【0063】
以上、図1を参照しながら本発明の排ガス浄化用触媒の好適な一実施系態について説明したが、次に、図2を用いて上記本発明の排ガス浄化用触媒の好適な他の実施形態について説明する。
【0064】
図2は、本発明の排ガス浄化用触媒の好適な他の実施形態のガスの流れる方向と垂直な方向の断面の状態を模式的に示す断面図である。図2に示す排ガス浄化用触媒は、触媒基材20と、触媒基材の表面上に配置された層状のNOx吸蔵部21と、層状のNOx吸蔵部21上に配置された層状のNOx吸蔵部22とを備えている。すなわち、図2に示す実施形態においては、触媒基材20上にNOx吸蔵部21とNOx吸蔵部22とにより多層構造が形成されている。また、このような外表面側に配置されたNOx吸蔵部22は、触媒基材の表面側に配置されたNOx吸蔵部21中の酸化物複合体よりも第二金属元素に対する前記第一金属元素の含有モル比の値([第一金属]/[第二金属])が小さい酸化物複合体を含有するものである。そして、このような排ガス浄化用触媒を排ガスと接触させた場合には、外表面側のNOx吸蔵部22が排ガスに接触した後に、内側のNOx吸蔵部21が排ガスに接触する。そのため、本実施形態においても、前記第二金属元素に対する前記第一金属元素の含有モル比([第一金属]/[第二金属])の値が小さい前記酸化物複合体を含有するNOx吸蔵部から順に排ガスが接触することとなる。従って、このような多層構造を有する排ガス浄化用触媒においても、十分に高度な高温耐久性と十分に高度な硫黄被毒耐久性とを有するとともに、幅広い温度域に亘って十分に高い触媒活性を示すことが可能である。
【0065】
また、本実施形態においては、触媒基材20としてモノリス基材を用いている。なお、このような触媒基材上に層状のNOx吸蔵部を積層させて多層構造を形成させる場合においては、触媒基材20に担持された第一金属元素と第二金属元素との和が、触媒基材1Lあたり0.02〜2.0mol/L(より好ましくは0.2〜1.2mol/L)であることが好ましい。このような触媒基材に対するNOx吸蔵部の担持量が前記下限未満では、十分なNOx浄化性能を発揮させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、触媒の比表面積が低下し、十分な活性が得られない傾向にある。
【0066】
以上、図1及び図2を用いて上記本発明の排ガス浄化用触媒の好適な実施形態について説明したが、本発明の排ガス浄化用触媒は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、図1に示す実施形態においては、前記触媒基材11及び12がそれぞれ離れて配置されているが、本発明においては、このような触媒基材11及び12を密接した状態で配置してもよい。また、図1に示す実施形態においては、第一及び第二のNOx吸蔵部がモノリス基材に担持されているが、本発明においては、他の形態の基材に担持させてもよく、更には、触媒基材に担持させずに各NOx吸蔵部をそれぞれペレット状に成型してそれを配置してもよい。また、図1及び図2に示す実施形態においては、2種類のNOx吸蔵部が配置された形態のものであるが、本発明においては、NOx吸蔵部の数は2種類以上であればよく特に制限されない。
【実施例】
【0067】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
(合成例1:酸化物複合体前駆体水溶液(I)の調製)
クエン酸(和光純薬工業製)0.9molをイオン交換水165mlに溶解させ、28質量%のNH水170mlを加えてクエン酸アンモニウム水溶液を調製した。次に、得られたクエン酸アンモニウム水溶液に、酢酸バリウム(和光純薬工業製)0.15mol及び酢酸セリウム(和光純薬工業製)0.3molを加えて撹拌してBaとCeを含有する酸化物複合体前駆体水溶液(I)を調製した。前記水溶液(I)中のBa/Ceモル比は0.5である。
【0069】
(合成例2:酸化物複合体前駆体水溶液(II)の調製)
クエン酸(和光純薬工業製)0.9molをイオン交換水165mlに溶解させ、28質量%のNH水170mlを加えてクエン酸アンモニウム水溶液を調製した。次に、得られたクエン酸アンモニウム水溶液に、酢酸バリウム(和光純薬工業製)0.3mol、及び酢酸セリウム(和光純薬工業製)0.15molを加えて撹拌してBaとCeを含有する酸化物複合体前駆体水溶液(II)を調製した。前記水溶液(II)中のBa/Ceモル比は2である。
【0070】
(合成例3:白金担持担体の調製)
アルミナ、チタニア−ジルコニア複合酸化物、1.0質量%のRhが担持されたRh担持ジルコニア及びセリア−ジルコニア複合酸化物を含有する担体を用い、前記担体をイオン交換水500ml中に分散させた後、ジニトロジアンミン白金硝酸溶液を加えて、白金(Pt)の担持量が担体200gに対して2gとなるようにして、担体にジニトロジアンミン白金硝酸溶液を吸着担持せしめた。その後、ジニトロジアンミン白金硝酸溶液を担持させた担体を大気中300℃の温度条件で3時間焼成して白金担持担体を調製した。なお、前記担体としては、アルミナ100gに対して、それぞれ、チタニア−ジルコニア複合酸化物が100g、Rh担持ジルコニアが50g、セリア−ジルコニア複合酸化物が20gの割合で含有されたものを用いた。
【0071】
(合成例4:酸化物複合体担持担体(I)の調製)
合成例3で得られた白金担持担体に、合成例1で得られた酸化物複合体前駆体水溶液(I)を、白金担持担体200gに対して酸化物複合体中のBa及びCeのモル数の和が0.4molとなるようにして含浸担持させた後、100℃に加熱して水分を除去し、大気中、300℃の温度条件で3時間焼成して、前記白金担持担体上に第一の酸化物複合体を担持せしめ、酸化物複合体担持担体(I)を調製した。なお、第一の酸化物複合体中のCe(第二金属元素)に対するBa(第一金属元素)の含有モル比([第一金属]/[第二金属])の値は0.5である。
【0072】
(合成例5:酸化物複合体担持担体(II)の調製)
合成例1で得られた酸化物複合体前駆体水溶液(I)の代わりに、合成例2で得られた酸化物複合体前駆体水溶液(II)を用いた以外は、合成例4と同様にして、前記白金担持担体上に第二の酸化物複合体を担持せしめ、酸化物複合体担持担体(II)を調製した。なお、第二の酸化物複合体中のCe(第二金属元素)に対するBa(第一金属元素)の含有モル比([第一金属]/[第二金属])の値は2である。
【0073】
(実施例1)
先ず、直径30mm×25mmL(17.5cc)の六角セルコージェライトモノリス基材に、合成例4で得られた酸化物複合体担持担体(I)を270g/Lとなるようにしてコートし、第一のNOx吸蔵部(酸化物複合体担持担体(I))が担持された触媒基材(I)を得た。なお、第一のNOx吸蔵部が担持された触媒基材(I)中において、Ba及びCeの担持量はそれぞれ0.13mol/L及び0.27mol/Lであった。
【0074】
次に、直径30mm×25mmL(17.5cc)の別の六角セルコージェライトモノリス基材に、合成例5で得られた酸化物複合体担持担体(II)を270g/Lとなるようコートし、第二のNOx吸蔵部(酸化物複合体担持担体(II))が担持された触媒基材(II)を得た。なお、第二のNOx吸蔵部が担持された触媒基材(II)中において、Ba及びCeの担持量はBa及びCeの担持量はそれぞれ0.27mol/L及び0.13mol/Lであった。
【0075】
次いで、第一のNOx吸蔵部が担持された触媒基材(I)と、第二のNOx吸蔵部が担持された触媒基材(II)とを組み合わせ、図1に示すような排ガス浄化用触媒を製造した。すなわち、図1に示す排ガス流路の上流側の触媒基材11の位置(以下、場合により「前段」という」)に、第一のNOx吸蔵部が担持された触媒基材(I)を配置し、図1に示す排ガス流路の下流側の触媒基材12の位置(以下、場合により「後段」という)に、第二のNOx吸蔵部が担持された触媒基材(II)を配置することによって、本発明の排ガス浄化用触媒を製造した。なお、このような排ガス浄化用触媒は、触媒容量が35ccであり、触媒中のBa及びCeの全担持量はいずれも0.2mol/Lである。
【0076】
(実施例2)
図2に示すような排ガス浄化用触媒を製造した。すなわち、先ず、触媒基材20として直径30mm×50mmL(35cc)の六角セルコージェライトモノリス基材を用い、合成例5で得られた酸化物複合体担持担体(II)を135g/Lとなるようにコートし、大気中、500℃の温度条件で焼成して、酸化物複合体担持担体(II)からなる層状のNOx吸蔵部21を触媒基材20上に形成せしめた。次に、NOx吸蔵部21が担持された触媒基材20に対して、合成例4で得られた酸化物複合体担持担体(I)を135g/Lとなるようにコートし、大気中、500℃の温度条件で焼成して、NOx吸蔵部21の上層にNOx吸蔵部22を積層せしめ、外表面に酸化物複合体担持担体(I)からなるNOx吸蔵部22が配置され、内側に酸化物複合体担持担体(II)からなるNOx吸蔵部21が配置された多層構造の排ガス浄化用触媒を得た。なお、このような排ガス浄化用触媒は、触媒容量が35ccであり、触媒中のBa及びCeの全担持量はいずれも0.2mol/Lである。
【0077】
(比較例1)
図1に示す排ガス流路の上流側の触媒基材11の位置(前段)に、第二のNOx吸蔵部が担持された触媒基材(II)を配置し、図1に示す排ガス流路の下流側の触媒基材12の位置(後段)に、第一のNOx吸蔵部が担持された触媒基材(I)を配置した以外は実施例1と同様にして比較のための排ガス浄化用触媒を製造した。なお、このような排ガス浄化用触媒は、触媒容量が35ccであり、触媒中のBa及びCeの全担持量はいずれも0.2mol/Lである。
【0078】
(比較例2)
酸化物複合体担持担体(I)と酸化物複合体担持担体(II)の担持させる順番を逆にした以外は実施例2と同様にして、外表面側に酸化物複合体担持担体(II)からなるNOx吸蔵部22が配置され、内側に酸化物複合体担持担体(I)からなるNOx吸蔵部21が配置された比較のための多層構造の排ガス浄化用触媒を得た。なお、このような排ガス浄化用触媒は、触媒容量が35ccであり、触媒中のBa及びCeの全担持量はいずれも0.2mol/Lである。
【0079】
(合成例6:酸化物複合体前駆体水溶液(III)の調製)
クエン酸(和光純薬工業製)0.9molをイオン交換水165mlに溶解させ、28質量%のNH水170mlを加えてクエン酸アンモニウム水溶液を調製した。次に、得られたクエン酸アンモニウム水溶液に、酢酸バリウム(和光純薬工業製)0.3mol及び酢酸セリウム(和光純薬工業製)0.3molを加えて撹拌してBaとCeを含有する酸化物複合体前駆体水溶液(III)を調製した。
【0080】
(合成例7:酸化物複合体担持担体(III)の調製)
合成例1で得られた酸化物複合体前駆体水溶液(I)の代わりに、合成例6で得られた酸化物複合体前駆体水溶液(III)を用いた以外は、合成例4と同様にして、合成例3で得られた白金担持担体上に酸化物複合体を担持せしめ、酸化物複合体担持担体(III)を調製した。
【0081】
(比較例3)
直径30mm×50mmL(35cc)の六角セルコージェライトモノリス基材に、合成例7で得られた酸化物複合体担持担体(III)を270g/Lとなるようにしてコートし、モノリス基材上に酸化物複合体担持担体(III)が担持された比較のための排ガス浄化用触媒を得た。なお、このような排ガス浄化用触媒は、触媒容量が35ccであり、触媒中のBa及びCeの全担持量はいずれも0.2mol/Lである。
【0082】
(合成例8:酸化物複合体前駆体水溶液(IV)の調製)
イオン交換水300mlに酢酸バリウム(和光純薬工業製)0.1mol及び酢酸セリウム(和光純薬工業製)0.1molを加えて撹拌し、BaとCeを含有する酸化物複合体前駆体水溶液(IV)を調製した。
【0083】
(合成例9:酸化物複合体担持担体(IV)の調製)
合成例6で得られた酸化物複合体前駆体水溶液(I)の代わりに、合成例8で得られた酸化物複合体前駆体水溶液(IV)を用いた以外は合成例4と同様にして、前記白金担持担体上にBaとCeの複合体を担持せしめ、酸化物複合体担持担体(IV)を調製した。
【0084】
(比較例4)
合成例7で得られた酸化物複合体担持担体(III)の代わりに、合成例9で得られた酸化物複合体担持担体(IV)を用いた以外は比較例3と同様にして、モノリス基材上に酸化物複合体担持担体(IV)が担持された比較のための排ガス浄化用触媒を得た。なお、このような排ガス浄化用触媒は、触媒容量が35ccであり、触媒中のBa及びCeの全担持量はいずれも0.2mol/Lである。
【0085】
[実施例1〜2及び比較例1〜4で得られた排ガス浄化用触媒の特性評価]
[TEM−EDX分析]
実施例1〜2及び比較例1〜4で得られた排ガス浄化用触媒中の各コート層から掻き採った各酸化物複合体担持担体の粉末を用いて、透過型電子顕微鏡(TEM)により各粉末を観察し、前記粉末中の酸化物複合体の表面上の10nm角の32点の測定点に対して、EDX分析を行った。なお、このようなEDX分析には、日本電子社製の商品名「JEM−2010FES」を測定装置として用いた。このようなEDX分析結果から、各測定点におけるBaのピーク面積(BaLα線のピーク面積)とCeのピーク面積(CeLα線のピーク面積)とを割り出し、式:
[ピーク面積比]=([Baのピーク面積]/[Baのピーク面積とCeのピーク面積の和])×100
を計算して、各粉末中の酸化物複合体の各測定点におけるBaのピーク面積とCeのピーク面積の和に対するBaのピーク面積の面積比を算出した。そして、このようにして算出された面積比の値から、各粉末中の酸化物複合体の面積比の分布の標準偏差を求めた。得られた結果を表1に示す。なお、表1には、実施例1〜2及び比較例1〜4で得られた触媒中のBa及びCeの全担持量と、各酸化物複合体中のCe(第二金属元素)に対するBa(第一金属元素)の含有モル比(Ba/Ce比)の値とも併せて示す。
【0086】
【表1】

【0087】
表1に示す結果からも明らかなように、実施例1〜2及び比較例1〜3で得られた排ガス浄化用触媒においては、各コート層中の酸化物複合体の表面上の測定点におけるTEM−EDX分析から求められる第一金属元素(Ba)のピーク面積と第二金属元素(Ce)のピーク面積との和に対する第一金属元素のピーク面積の比([第一金属元素のピーク面積]/[第一金属元素のピーク面積と第二金属元素のピーク面積の和])の分布の標準偏差は10%以下であることが確認された。このような結果から、実施例1〜2及び比較例1〜3で得られた排ガス浄化用触媒においては、BaとCeとが十分に均一に混合された酸化物複合体が各NOx吸蔵部に含有されていることが分かった。
【0088】
[高温耐久試験]
実施例1〜2及び比較例1〜4で得られた排ガス浄化用触媒を用い、各触媒に対して、それぞれ750℃の温度条件下において、表2に示す組成のリーンガス及びリッチガスをリーン/リッチ=110秒/10秒の間隔で変動させながら5時間流通させる高温耐久試験を行った。
【0089】
【表2】

【0090】
[硫黄被毒耐久試験]
高温耐久試験後の実施例1〜2及び比較例1〜4で得られた排ガス浄化用触媒を用い、各触媒に対して、650℃の温度条件下において表3に示す組成の前処理用のリッチガスを30L/minの流量で10分間流通させて前処理を行った。次に、このような前処理後の各触媒に対して、それぞれ400℃の温度条件下において表3に示す硫黄被毒処理(S被毒処理)用のリッチガス及びリーンガスをリーン/リッチ=120秒/3秒の間隔で変動させながら30L/minの流量で41分間流通させ、触媒2Lあたり硫黄を3g供給してS被毒処理を行った。次いで、S被毒処理後の各触媒に対して、600℃の温度条件下において、表4に示す組成のS再生処理用のリーンガスを30L/minの流量で5分間流通させた後に、表3に示す組成のS再生処理用のリッチガスを30L/minの流量で10分間流通させて、被毒した硫黄を脱離させ、触媒の再生処理を行った。
【0091】
【表3】

【0092】
[NOx浄化試験1]
硫黄被毒耐久試験後の実施例1〜2及び比較例1〜4で得られた排ガス浄化用触媒を用い、各触媒に対して、300℃の温度条件下において、表4に示す組成のリッチガス及びリーンガスをリーン/リッチ=120秒/3秒の間隔で変動させながら30L/minの流量で流通させ、定常状態におけるNOx浄化率を測定した。なお、空間速度(SV)はすべて51400h−1とした。また、NOx浄化率は、各触媒について、それぞれ触媒に接触する前後のガス中に含有されるNOの濃度を測定し、そのNO濃度の値に基づいて求めた。得られた結果を表5及び図3に示す。
【0093】
【表4】

【0094】
[NOx浄化試験2]
表4に示す組成のリッチガス及びリーンガスを流通させる際の温度条件を300℃から400℃に変更した以外はNOx浄化試験1と同様の方法を採用して、各触媒のNOx浄化率を測定した。得られた結果を表5に示す。
【0095】
[NOx浄化試験3]
表4に示す組成のリッチガス及びリーンガスを流通させる際の温度条件を300℃から500℃に変更した以外はNOx浄化試験1と同様の方法を採用して、各触媒のNOx浄化率を測定した。得られた結果を表5及び図4に示す。
【0096】
【表5】

【0097】
表5及び図3〜4に示す結果からも明らかように、Ceに対するBaの含有モル比の値が小さい前記酸化物複合体を含有するNOx吸蔵部から順に排ガスに接触するように配置されている実施例1〜2で得られた排ガス浄化用触媒においては、比較例1〜4で得られた排ガス浄化用触媒と比較して、十分に高度な高温耐久性と十分に高度な硫黄被毒耐久性とを有し、しかも幅広い温度域に亘って十分に高い触媒活性を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0098】
以上説明したように、本発明によれば、十分に高度な高温耐久性と十分に高度な硫黄被毒耐久性とを有するとともに、幅広い温度域に亘って十分に高い触媒活性を示すことが可能な排ガス浄化用触媒を提供することが可能となる。
【0099】
したがって、本発明の排ガス浄化用触媒は、例えば、自動車の内燃機関等から排出される排ガスを浄化するための触媒等として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の排ガス浄化用触媒の好適な実施形態のガスの流れる方向と平行な方向の断面の状態を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の排ガス浄化用触媒の好適な他の実施形態のガスの流れる方向と垂直な方向の断面の状態を模式的に示す断面図である。
【図3】300℃の温度条件下における実施例1〜2及び比較例1〜4で得られた排ガス浄化用触媒のNOx浄化率を示すグラフである。
【図4】500℃の温度条件下における実施例1〜2及び比較例1〜4で得られた排ガス浄化用触媒のNOx浄化率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0101】
1…排ガス浄化用触媒、11…第一のNOx吸蔵部を備える触媒基材、12…第二のNOx吸蔵部を備える触媒基材、13…排ガス管、20…触媒基材、21…触媒基材の表面上に配置された層状のNOx吸蔵部、22…外表面の層状のNOx吸蔵部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成が異なる酸化物複合体をそれぞれ含有する2種類以上のNOx吸蔵部を備え、
前記酸化物複合体が、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の第一金属元素と、希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の第二金属元素とを含有するものであり、
前記酸化物複合体の表面上の10nm角の20点以上の測定点におけるTEM−EDX分析から求められる第一金属元素のピーク面積と第二金属元素のピーク面積との和に対する第一金属元素のピーク面積の比([第一金属元素のピーク面積]/[第一金属元素のピーク面積と第二金属元素のピーク面積の和])の分布の標準偏差が10%以下であり、且つ、
前記2種類以上のNOx吸蔵部が、前記第二金属元素に対する前記第一金属元素の含有モル比([第一金属]/[第二金属])の値が小さい前記酸化物複合体を含有するNOx吸蔵部から順に排ガスに接触するように配置されていること、
を特徴とする排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記2種類以上のNOx吸蔵部が、前記第二金属元素に対する前記第一金属元素の含有モル比の値が小さい前記酸化物複合体を含有するNOx吸蔵部から順にガス流路の上流側から下流側に向かって配置されていることを特徴とする請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記2種類以上のNOx吸蔵部が触媒基材の表面上に積層されてなる多層構造を有し、且つ
前記2種類以上のNOx吸蔵部が、前記第二金属元素に対する前記第一金属元素の含有モル比の値が小さい前記酸化物複合体を含有するNOx吸蔵部から順に外表面側から前記触媒基材の表面側に向かって配置されていることを特徴とする請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記第一金属元素の含有モル比の最大値が、前記第一金属元素の含有モル比の最小値の2倍以上であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−178675(P2009−178675A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20952(P2008−20952)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】