説明

排ガス浄化用触媒

【課題】より活性の高い排ガス浄化用触媒を提供する。
【解決手段】貴金属微粒子を金属酸化物担体に担持させた後、大気より高い酸素成分の割合の雰囲気において、600℃よりも高くかつ900℃よりも低い温度において処理してなる、排ガス浄化用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等において用いられる排ガス浄化用触媒は、アルミナ、シリカ等の多孔質体を担体とし、この担体に白金、ロジウム等の貴金属を担持させてなり、この貴金属が活性点となって排ガスを浄化している。そしてこの活性点数、すなわち貴金属の比表面積が大きいほど、貴金属の浄化性能が高いことが知られている。
【0003】
担体上に貴金属粒子を担持してなる排ガス浄化用触媒の従来の製造方法としては、多孔質の金属酸化物からなる担体に、ジニトロジアンミン白金等の金属塩溶液を含浸させ、還元雰囲気中で焼成する方法が知られている。このような従来の製造方法では、表面エネルギーの安定化のため、貴金属粒子は球状粒子として生成されやすい。
【0004】
ところが、粒径がナノオーダーである金属微粒子の物性と機能は、主に形状に左右されることも知られている。例えば、白金表面での一酸化窒素分子の解離反応は、白金表面の形態によって活性が異なり、特に(100)面の有効性が知られている。
【0005】
そこで、触媒反応性として高活性を示すといわれている(100)面や(111)面などの特定の面が成長した、特異な形状である金属微粒子の製造方法が提案されている。
【0006】
特許文献1には、Pdイオン存在下、平均粒子径2〜200nmの第4周期遷移金属元素、第5周期遷移金属元素、白金及び金からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属からなる金属粒子を無機系担体物質に担持させることを特徴とする金属粒子担持触媒の製造方法、及びこの方法により製造された、金属粒子の少なくとも一部が多面体状構造を有する多面体状金属粒子が無機系担持物質に担持されてなる金属粒子担持触媒が開示されている。
【0007】
特許文献2には、パラジウム錯体を溶液中で分解することによる、四面体パラジウム微粒子の製造方法が開示されている。特許文献3には、パラジウム塩及び硝酸鉄九水和物の溶液をポリビニルピロリドンを含むアルコールに溶解し、還元することによる金属微粒子の製造方法が開示されている。特許文献4には、白金と、カルボン酸又はカルボン酸塩を含む水溶液から水素還元を行うことによる四面体形状の白金微粒子の製造法が開示されている。特許文献5には、白金化合物と、感温性ポリマーを含む水溶液を所定のpHに調整し、還元性ガスを吹き込むことによる、四面体形状の白金微粒子の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−172574号公報
【特許文献2】特開2007−239054号公報
【特許文献3】国際公開第02/062509号
【特許文献4】特開2002−042825号公報
【特許文献5】特開2005−248203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような従来の方法では、得られる金属微粒子の多面体の面数が粒子によって大きくばらつき、必ずしも十分な特性が得られないという問題がある。
【0010】
本発明は上記問題を解決し、貴金属を一方向に成長させて、特に(100)面を有する直方体の形状を形成し、排ガス浄化性能を大歯に向上させた触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題点を解決するために本発明によれば、貴金属微粒子を金属酸化物担体に担持させた後、大気より高い酸素成分の割合の雰囲気において、600℃よりも高くかつ900℃よりも低い温度において処理してなる、排ガス浄化用触媒が提供される。
【0012】
上記問題点を解決するために2番目の発明によれば、貴金属微粒子を金属酸化物担体に担持させた後、大気より高い酸素成分の割合の雰囲気において、600℃よりも高くかつ900℃よりも低い温度において処理することを含む、排ガス浄化用触媒の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来の方法により得られる触媒の略断面図である。
【図2】本願発明の触媒の略断面図である。
【図3】実施例において調製した触媒のTEM像であり、3aは処理前、3bは処理後を示す。
【図4】触媒へのCO吸着量の測定法の構成を示す略図である。
【図5】実施例1におけるCO吸着量を示すグラフである。
【図6】実施例1における浄化性能評価結果を示すグラフである。
【図7】実施例2におけるCO吸着量を示すグラフである。
【図8】実施例2における浄化性能評価結果を示すグラフである。
【図9】実施例3における浄化性能評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の排ガス浄化用触媒は、貴金属微粒子を金属酸化物担体に担持させた後、大気より高い酸素成分の割合の雰囲気において、600℃よりも高くかつ900℃よりも低い温度において処理することにより得られるものである。
【0015】
上記のように、従来の方法により得られる触媒では、図1に示すように、貴金属粒子1は担体2上に球状粒子として生成されやすかった。これに対し、本願発明においては、貴金属を担持させた後、雰囲気制御して処理することにより、図2に示すように、担体2上において貴金属1を直方体の形状に成長させ、活性面を大きくすることにより排ガス浄化性能が大幅に向上する。
【0016】
このような本願発明の排ガス浄化用触媒において、触媒担体としては、金属粒子を担持可能な物質であれば制限はなく、一般的に用いられている、Si、Al、C、Ti、Zr、Ce等から選ばれる1種以上の酸化物を用いることができる。またこの担体の形状も特に制限はなく、粉末、ビーズ、ペレット、ハニカム等の一般に用いられている形状のものを使用することができる。
【0017】
貴金属としては、排ガス浄化用触媒において一般に用いられている白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)、及びイリジウム(Ir)からなる群から選ばれる1以上の貴金属を用いることができる。
【0018】
この貴金属は粒径が1.0nmより大きいことが好ましく、また3.0nm未満であることが好ましい。なお、この粒径はCO吸着量評価により測定した粒径を意味する。すなわち、触媒0.2gを400℃で20分酸化し、還元処理後、0℃でCOを吸着させ、このCO吸着量から計算して算出した粒径である。この貴金属粒子の調製法は特に制限はなく、一般に用いられている方法、例えばコロイド法等により調製することができる。
【0019】
担体への貴金属の担持法も特に制限はなく、一般に用いられている浸漬法等を用いることができる。また、担体への貴金属の担持量にも特に制限はないが、一般には貴金属担持量は触媒全重量に対して0.01〜50wt%、好ましくは0.05〜40wt%である。
【0020】
こうして貴金属微粒子を担体に担持させた後、本発明においては、酸素成分の割合が大気よりも高い雰囲気、好ましくは酸素のみの雰囲気において、600℃よりも高くかつ900℃よりも低い温度において処理する。このような処理を行うことにより、担体上の貴金属微粒子は一方向に成長し、直方体状の形状を形成することにより比表面積が増大し、高活性を示すことになる。すなわち、本発明の排ガス浄化用触媒は、担体上に担持された貴金属粒子が直方体状の形状を呈するものである。
【実施例】
【0021】
実施例1
まず、コロイド法を用いて、以下のようにしてPd微粒子を調製した。Pd総量が4.50×10-3molの塩化Pd溶液にイオン交換水を加えて撹拌した、総量300gのPd希釈液を調製した。またモノマーユニット換算で2.25×10-2mol、Pd総量の5倍となるポリビニルピロリドン(PVP)2.52gにイオン交換水300gを加え、撹拌し、完全に溶解させた均一なPVP溶液を調製した。次いで、このPVP溶液にPd希釈液をゆっくり滴下して混合し、室温において1時間撹拌した。次いで、イオン交換水とメタノールの混合比率が80:20(wt%)となるようにメタノールを加えて30分程度撹拌した。さらに、この溶液を加熱還流し、Pdイオンを還元することによって粒径3.0nm程度のPd微粒子溶液を得た。
【0022】
こうして調製したPd微粒子溶液を、重量にして6倍の蒸留水に分散させた30gのCeO2系複合酸化物の粉末に、Pdが粉末に対して0.5wt%となるように添加し、1時間撹拌した。さらに、120℃で水分を蒸発させ、450℃で2時間焼成し、乳鉢中で粉砕し、得られた粉末をペレット化することによってPd/CeO2系複合酸化物からなる排ガス浄化用触媒を調製した。
【0023】
さらに得られたPd/CeO2系複合酸化物を1Paの酸素中で700℃において1時間処理を行った。この処理前のPd/CeO2系複合酸化物と処理を行ったPd/CeO2系複合酸化物について、透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行った。結果を図3に示す。
【0024】
処理前のPd/CeO2系複合酸化物(図3a)においては、Pdが球状となっているが、処理後のPd/CeO2系複合酸化物(図3b)においては、一方向に成長し、(100)面を有する直方体の形状を形成していた。
【0025】
上記の処理前のPd/CeO2系複合酸化物と処理を行ったPd/CeO2系複合酸化物について、図4に示す態様で、以下の条件においてCOパルス法によりCO吸着量とTHCの浄化性能を評価した。
・CO吸着量評価条件
容器に0.2gの触媒を入れ、400℃で20分酸化させ、還元処理後、0℃でCOを吸着させた。
・浄化性能評価ガス条件
触媒量:3.0g
ガス総流量:15L/min
ガス組成:C36 1000ppm、CO 6500ppm、NO 1500ppm、O2 7000ppm、CO2 10%、H2O 無し、N2 残余
温度条件:降温600→100℃、20℃/min
【0026】
以上の結果を図5及び図6に示す。図5に示す結果より、雰囲気制御した処理を行うことにより、触媒1gあたりのCO吸着量が向上する、すなわち、Pdの比表面積が向上していることが確認された。これは、図3に示すTEM像のように、Pd粒子が担体上で一方向に成長し、直方体の形状を形成したためであると考えられる。また、図6に示す結果より、雰囲気制御した処理を行うことにより、Pdの比表面積の向上によって予想される効果以上に浄化性能が大幅に向上した。これは、直方体を形成することにより、高活性を示す(100)面を有するようになったためであると考えられる。
【0027】
実施例2
コロイド法を用いて、以下のようにして実施例1とは粒径の異なるPd微粒子を合成した。
(1)Pd総量が4.50×10-3molの塩化Pd溶液にイオン交換水を加えて撹拌した、総量300gのPd希釈液を調製した。またモノマーユニット換算で2.25×10-2mol、Pd総量の5倍となるポリビニルピロリドン(PVP)2.52gにイオン交換水300gを加え、撹拌し、完全に溶解させた均一なPVP溶液を調製した。次いで、このPVP溶液にPd希釈液をゆっくり滴下して混合し、室温において1時間撹拌した。次いで、イオン交換水とエタノールの混合比率が80:20(wt%)となるようにエタノールを加えて30分程度撹拌した。さらに、この溶液を加熱還流し、Pdイオンを還元することによって粒径2.0nm程度のPd微粒子溶液を得た。
【0028】
(2)Pd総量が4.50×10-3molの塩化Pd溶液にイオン交換水を加えて撹拌した、総量300gのPd希釈液を調製した。またモノマーユニット換算で2.25×10-2mol、Pd総量の5倍となるポリビニルピロリドン(PVP)2.52gにイオン交換水300gを加え、撹拌し、完全に溶解させた均一なPVP溶液を調製した。次いで、このPVP溶液にPd希釈液をゆっくり滴下して混合し、室温において1時間撹拌した。次いで、イオン交換水と1−プロパノールの混合比率が80:20(wt%)となるように1−プロパノールを加えて30分程度撹拌した。さらに、この溶液を加熱還流し、Pdイオンを還元することによって粒径1.5nm程度のPd微粒子溶液を得た。
【0029】
(3)Pd総量が4.50×10-3molの塩化Pd溶液にイオン交換水を加えて撹拌した、総量300gのPd希釈液を調製した。またモノマーユニット換算で2.25×10-2mol、Pd総量の5倍となるポリビニルピロリドン(PVP)2.52gにイオン交換水300gを加え、撹拌し、完全に溶解させた均一なPVP溶液を調製した。次いで、このPVP溶液にPd希釈液をゆっくり滴下して混合し、室温において1時間撹拌した。次いで、イオン交換水と1−プロパノールの混合比率が80:20(wt%)となるように1−プロパノールを加えて30分程度撹拌した。さらに、この溶液を加熱還流し、Pdイオンを還元することによって粒径5.0nm程度のPd微粒子溶液を得た。
【0030】
(4)Pd総量が4.50×10-3molの塩化Pd溶液にイオン交換水を加えて撹拌した、総量300gのPd希釈液を調製した。またモノマーユニット換算で2.25×10-2mol、Pd総量の5倍となるポリビニルピロリドン(PVP)2.52gにイオン交換水300gを加え、撹拌し、完全に溶解させた均一なPVP溶液を調製した。次いで、このPVP溶液にPd希釈液をゆっくり滴下して混合し、室温において1時間撹拌した。次いで、イオン交換水とメタノールの混合比率が80:20(wt%)となるようにメタノールを加えて30分程度撹拌した。さらに、この溶液を加熱還流し、Pdイオンを還元することによって粒径8.0nm程度のPd微粒子溶液を得た。
【0031】
こうして合成した各種Pd微粒子溶液と硝酸Pd(粒径0.8nm程度の微粒子)を、重量にして6倍の蒸留水に分散させた30gのCeO2系複合酸化物の粉末に、Pdが粉末に対して0.5wt%となるように添加し、1時間撹拌した。さらに、120℃で水分を蒸発させ、450℃で2時間焼成し、乳鉢中で粉砕し、得られた粉末をペレット化することによってPd/CeO2系複合酸化物からなる排ガス浄化用触媒を調製した。さらに、得られた各種粒径のPd/CeO2系複合酸化物の一部を、1Paの酸素中で700℃で1時間処理を行った。
【0032】
これらの触媒について、実施例1と同様にしてCOパルス法によるCO吸着量とTHCの浄化性能を評価し、結果を図7及び図8に示す。
【0033】
図に示すように、担体に担持させる前のPdの粒径が2.0nm以上において、雰囲気制御して処理を行うと比表面積が増加し、浄化性能も大幅に向上した。これは、粒径が2.0nm以上の貴金属が担持されていると、貴金属が一方向に成長し、直方体を形成して、高活性を示す(100)面を有するようになったためであると考えられる。なお、浄化性能が単純にPdの比表面積によらず、2nm付近で高活性を示すことについては、単体がCeO2系複合酸化物であるため、0.8nmよりも小さい領域では担体との相互作用によりPdが酸化物に近い状態で存在し、低活性を示すため、3nmより大きい領域では活性点が減少し、低活性を示すためであると考えられる。
【0034】
実施例3
実施例1で合成した、粒径が3.0nm程度のPd微粒子を用いたPd/CeO2系複合酸化物からなる排ガス浄化用触媒の一部を、以下の条件で雰囲気制御した処理を行った。
【0035】
【表1】

【0036】
上記の排ガス浄化用触媒の浄化性能について、実施例1と同様にして評価を行った。結果を図9に示す。
【0037】
図9に示す浄化性能の結果より、サンプルNo.1に対してNo.3、4、及び5が高活性を示しており、完全に酸素雰囲気である方が好ましく、またサンプルNo.7に対してサンプルNo.9、10及び11が高活性を示しており、処理温度が600℃よりも高く、900℃より低いことが好ましいと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属微粒子を金属酸化物担体に担持させた後、大気より高い酸素成分の割合の雰囲気において、600℃よりも高くかつ900℃よりも低い温度において処理してなる、排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
酸素のみからなる雰囲気において処理する、請求項1記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記基金属微粒子の粒径が1.0nmより大きい、請求項1記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
貴金属微粒子を金属酸化物担体に担持させた後、大気より高い酸素成分の割合の雰囲気において、600℃よりも高くかつ900℃よりも低い温度において処理することを含む、排ガス浄化用触媒の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−55857(P2012−55857A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203318(P2010−203318)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】