排ガス浄化用酸化触媒装置の製造方法
【課題】内燃機関の排ガス中のパティキュレートをより低温で酸化し浄化することができる排ガス浄化用酸化触媒装置の製造方法を提供する。
【解決手段】排ガス浄化用酸化触媒装置1の製造方法は、複合金属酸化物を構成する複数の金属の化合物とクエン酸と水とを焼成して焼成物を得る工程と、該焼成物と水とジルコニアからなるゾルであるバインダーとを混合し粉砕してスラリーを作製する工程と、該スラリーを多孔質フィルタ基材2に塗布する工程と、該多孔質フィルタ基材2を焼成して多孔質フィルタ基材2に担持された多孔質触媒層3を形成する工程とを備える。多孔質触媒層3は直径が0.02〜5μmの範囲である細孔を備え、多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3全体の気孔率が50〜60体積%の範囲である。
【解決手段】排ガス浄化用酸化触媒装置1の製造方法は、複合金属酸化物を構成する複数の金属の化合物とクエン酸と水とを焼成して焼成物を得る工程と、該焼成物と水とジルコニアからなるゾルであるバインダーとを混合し粉砕してスラリーを作製する工程と、該スラリーを多孔質フィルタ基材2に塗布する工程と、該多孔質フィルタ基材2を焼成して多孔質フィルタ基材2に担持された多孔質触媒層3を形成する工程とを備える。多孔質触媒層3は直径が0.02〜5μmの範囲である細孔を備え、多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3全体の気孔率が50〜60体積%の範囲である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排ガス中のパティキュレートを複合金属酸化物からなる触媒を用いて酸化し浄化する排ガス浄化用酸化触媒装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の排ガスに含まれるパティキュレートや炭化水素を酸化して浄化するために、軸方向に貫通して形成された貫通孔からなる複数のセルを有し、各セルの境界部をセル隔壁とする多孔質フィルタ基材に、ペロブスカイト型複合金属酸化物からなる触媒が担持された排ガス浄化用酸化触媒装置が知られている。
【0003】
前記触媒として用いられるペロブスカイト型複合金属酸化物として、例えば、一般式AMO3で表され、AはLa、Y、Dy、Ndからなる群から選択される少なくとも1種の金属とSr、Ba、Mgからなる群から選択される少なくとも1種の金属とであり、MはMn、Fe、Coからなる群から選択される少なくとも1種の金属である複合金属酸化物が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
前記排ガス浄化用酸化触媒装置は、例えば次のようにして製造される。まず、前記ペロブスカイト型複合金属酸化物を合成するための前駆体を調製する。前記前駆体は、前記複合金属酸化物を構成する金属の塩(前記一般式AMO3の前記A成分の塩及び前記M成分の塩)を含む原料塩水溶液を調製し、該原料塩水溶液と中和剤とを混合して各金属の水酸化物を共沈させた後、得られた共沈物を乾燥することにより調製される。各金属の塩としては、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、塩化物等の無機塩や、酢酸塩、シュウ酸塩等の有機酸塩等を使用することができる。また、中和剤としては、アンモニア、苛性ソーダ、苛性カリ等の無機塩基や、トリエチルアミン、ピリジン等の有機塩基等を使用することができる。次に、前記前駆体のスラリーを調製し、該スラリーを前記多孔質フィルタ基材の前記貫通孔の開口部から該貫通孔内に導入することにより、前記前駆体を該多孔質フィルタ基材の気孔内に付着させる。次に、前記多孔質フィルタ基材を焼成することにより、該多孔質フィルタ基材に前記前駆体の酸化物としてのペロブスカイト型複合金属酸化物からなる多孔質触媒層を形成する。以上により、前記ペロブスカイト型複合金属酸化物からなる触媒が担持された前記排ガス浄化用酸化触媒装置を得ることができる。
【0005】
しかしながら、前記複合金属酸化物を構成する金属の水酸化物の共沈物を乾燥させて調製された前駆体を含むスラリーを用いた従来の製造方法では、前記パティキュレートを酸化する温度を低くすることができる多孔質触媒層を得ることが困難であるという不都合がある。
【特許文献1】特開2007−237012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる不都合を解消して、内燃機関の排ガス中のパティキュレートをより低温で酸化し浄化することができる排ガス浄化用酸化触媒装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、複数の金属の化合物とリンゴ酸と水とを一次焼成して一次焼成物を得て、該一次焼成物を二次焼成することにより得られた複合金属酸化物からなる多孔質触媒層は、従来の製造方法で得られた多孔質触媒層と比較して、排ガス中のパティキュレートの燃焼温度を低くすることができることを知見した。リンゴ酸を用いて製造された前記多孔質触媒層は、細孔の直径が0.05〜10μmの範囲であった。しかし、排ガス浄化用酸化触媒装置としては、さらに該燃焼温度を低くすることできる多孔質触媒層が望まれる。
【0008】
そこで、かかる目的を達成するために、本発明の排ガス浄化用酸化触媒装置の製造方法は、内燃機関の排ガス中のパティキュレートを、複合金属酸化物からなる触媒を用いて酸化し浄化する排ガス浄化用酸化触媒装置の製造方法であって、該複合金属酸化物を構成する複数の金属の化合物とクエン酸と水とを焼成して焼成物を得る工程と、得られた該焼成物と水とバインダーとを混合し粉砕してスラリーを調製する工程と、該スラリーを多孔質フィルタ基材に塗布する工程と、該スラリーが塗布された該多孔質フィルタ基材を焼成して、該多孔質フィルタ基材に担持された該複合金属酸化物からなる多孔質触媒層を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の製造方法により製造された排ガス浄化用酸化触媒装置において、前記多孔質フィルタ基材へ導入された前記内燃機関の排ガスは、前記多孔質触媒層の細孔を通過して該多孔質触媒層に接触する。ここで、本発明の製造方法により製造された排ガス浄化用酸化触媒装置は、前記複数の金属の化合物とクエン酸と水とを焼成して前記焼成物を得ることにより、リンゴ酸を用いて製造された排ガス浄化用酸化触媒装置と比較して、前記多孔質触媒層の細孔の直径の分布が小さい側へ移動していて、直径の小さい細孔が増加している。このため、前記多孔質触媒層は、前記排ガス中の前記パティキュレートを該多孔質触媒層に接触させるのに好適な直径を有する前記細孔を多数備えることとなるので、該パティキュレートの該多孔質触媒層への接触確率が高まることとなる。したがって、本発明の製造方法により製造された排ガス浄化用酸化触媒装置によれば、リンゴ酸を用いて製造された排ガス浄化用酸化触媒装置と比較して、内燃機関の排ガス中のパティキュレートをより低温で酸化し浄化することができる。
【0010】
また、本発明において、前記多孔質触媒層は、直径が0.02〜5μmの範囲である細孔を備え、該多孔質フィルタ基材及び前記多孔質触媒層全体の気孔率が、50〜60体積%の範囲であることが好ましい。前記構成によれば、前記細孔を介して前記排ガス中の前記パティキュレートを前記多孔質触媒層に接触させることにより、燃焼温度を確実に低下させることができるとともに、該排ガスが該細孔を通過する際に圧力損失が大きくなることを防ぐことができる。
【0011】
このとき、前記多孔質触媒層の前記細孔の直径が0.02μm未満である場合には、前記排ガスが前記細孔を通過する際に圧力損失が大きくなることがある。一方、前記多孔質触媒層の前記細孔の直径が5μmを超える場合には、前記排ガスが前記細孔を通過する際に、該排ガス中の前記パティキュレートが前記多孔質触媒層の表面に十分に接触することができなくなり、燃焼温度を低下させる効果が得られないことがある。
【0012】
また、前記多孔質フィルタ基材及び前記多孔質触媒層全体の気孔率が50体積%未満である場合には、前記排ガスが前記細孔を通過する際に圧力損失が大きくなることがある。一方、前記多孔質フィルタ基材及び前記多孔質触媒層全体の気孔率が60体積%を超える場合には、前記排ガスが前記細孔を通過する際に、該排ガス中の前記パティキュレートが前記多孔質触媒層の表面に十分に接触することができなくなり、燃焼温度を低下させる効果が得られないことがある。
【0013】
また、本発明において、前記多孔質触媒層は10〜120μmの範囲である厚さを有することが好ましい。前記構成によれば、前記細孔を介して前記排ガス中の前記パティキュレートを前記多孔質触媒層に十分に接触させることにより、燃焼温度を確実に低下させることができるとともに、該排ガスが該細孔を通過する際に圧力損失が大きくなることを防ぐことができる。このとき、前記多孔質触媒層の厚さが10μm未満の場合には、前記排ガスが前記細孔を通過する際に、該排ガス中の前記パティキュレートが前記多孔質触媒層の表面に十分に接触することができなくなり、燃焼温度を低下させる効果が得られないことがある。一方、前記多孔質触媒層の厚さが120μmを超える場合には、前記排ガスが前記細孔を通過する際に圧力損失が大きくなることがある。
【0014】
また、本発明において、前記複数の金属の化合物は、イットリウム化合物と、マンガン化合物と、銀化合物と、ルテニウム化合物とからなり、前記バインダーは、ジルコニアからなるゾルであることが好ましい。前記複数の金属の化合物から得られる前記複合金属酸化物は、一般式YMnO3で表される複合金属酸化物において、第1の金属であるYの一部を第3の金属であるAgで置換するとともに、第2の金属であるMnの一部を第4の金属であるRuで置換したものである。前記複合金属酸化物は、その結晶構造が六方晶とペロブスカイト構造との混晶となり、高い触媒活性を有することとなる。したがって、本発明によれば、前記排ガスが前記多孔質触媒層の前記細孔を通過する際に、該多孔質触媒層の触媒の作用により該排ガス中の前記パティキュレートを十分に燃焼除去することができる。
【0015】
本発明において、前記多孔質触媒層は、一般式Y1−xAgxMn1−yRuyO3で表され、0.01≦x≦0.15かつ0.005≦y≦0.2である複合金属酸化物からなることが好ましい。本発明によれば、前記排ガスが前記多孔質触媒層の前記細孔を通過する際に、該多孔質触媒層の触媒の作用により該排ガス中の前記パティキュレートを確実に燃焼除去することができる。
【0016】
このとき、xが0.01未満である場合には、触媒活性を高める効果が不十分になることがある。一方、xが0.15を超える場合には、混晶を維持することが困難になることがある。また、yが0.005未満である場合には、触媒活性を高める効果が不十分になることがある。一方、yが0.2を超える場合には、混晶を維持することが困難になることがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。図1は本実施形態の製造方法により形成される排ガス浄化用酸化触媒装置の説明的断面図である。図2は、実施例、参考例、及び比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置によるパティキュレートの燃焼温度を示すグラフである。図3は、実施例及び比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置による圧力損失を示すグラフである。図4,7,9,11,13は、実施例及び比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置の断面画像である。図4(a),7(a),9(a),11(a),13(a)は、実施例及び比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置の正面断面画像であり、図4(b),7(b),9(b),11(b),13(b)は、図4(a),7(a),9(a),11(a),13(a)におけるB部拡大断面画像である。図5,8,10,12は、実施例及び比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置に係る多孔質フィルタ基材の気孔の直径及び多孔質触媒層の細孔の直径を示すグラフである。図6は、実施例及び比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置に係る多孔質フィルタ基材及び多孔質触媒層全体の気孔率を示すグラフである。
【0018】
本実施形態の製造方法により形成される排ガス浄化用酸化触媒装置1について説明する。図1に示す排ガス浄化用酸化触媒装置1は、ウォールフロー構造を有する多孔質フィルタ基材2と、多孔質フィルタ基材2に担持された多孔質触媒層3とを備え、内燃機関の排ガスを流通させることにより、該排ガスに含まれるパティキュレートを酸化して浄化するものである。
【0019】
多孔質フィルタ基材2は、軸方向に貫通する複数の貫通孔が断面格子状に配設された略直方体のSiC多孔質体からなり、該貫通孔からなる複数の流入セル4と複数の流出セル5とを備えている。多孔質フィルタ基材2は、直径が1〜100μmの範囲である複数の気孔(図示せず)を備えていて、それ自体の気孔率が30〜60体積%の範囲となっている。流入セル4は、排ガス流入部4aが開放されるとともに排ガス流出部4bが閉塞されている。一方、流出セル5は、排ガス流入部5aが閉塞されるとともに排ガス流出部5bが開放されている。流入セル4及び流出セル5は、断面市松格子状となるように交互に配設されていて、各セル4,5の境界部をセル隔壁6とするウォールフロー構造を構成している。
【0020】
セル隔壁6の流入セル4側の表面には、一般式Y1−xAgxMn1−yRuyO3で表され、0.01≦x≦0.15かつ0.005≦y≦0.2である複合金属酸化物からなる多孔質触媒層3が担持されている。多孔質触媒層3は、直径が0.02〜5μmの範囲である細孔(図示せず)を備え、10〜120μmの範囲である厚さを備える。また、多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3は、両者を合わせた全体の気孔率が50〜60体積%の範囲となっている。また、図示しないが、最外層のセル隔壁6の外周部には、排ガスの流出を規制する金属からなる規制部材が設けられている。
【0021】
排ガス浄化用酸化触媒装置1においては、多孔質触媒層3は、セル隔壁6の流入セル4側の表面のみに担持されているが、流入セル4側の表面と流出セル5側の表面との両方に担持されていてもよい。また、多孔質フィルタ基材2として、SiC多孔質体からなるものを用いているが、Si−SiC多孔質体からなるものを用いてもよい。
【0022】
以上の構成を備えた排ガス浄化用酸化触媒装置1は、次のようにして製造することができる。まず、硝酸イットリウムと、硝酸銀と、硝酸マンガンと、硝酸ルテニウムと、クエン酸と、水とからなる混合物を、200〜400℃の範囲の温度で1〜10時間の範囲で一次焼成する。次に、得られた結果物と、水と、バインダーとしてのジルコニアからなるゾルとを混合し粉砕して、スラリーを調製する。
【0023】
次に、軸方向に貫通する複数の貫通孔が断面格子状に配設されたSiC多孔質体を用意する。SiC多孔質体として、例えば表1に示す日本碍子株式会社製の商品名MSC14を用いることができる。次に、前記SiC多孔質体の前記貫通孔の一端部を一つ置きに(すなわち、断面市松格子状となるように)、シリカを主成分とするセラミックス接着剤にて閉塞することにより、流出セル5を形成する。次に、前記SiC多孔質体に、前記端部が閉塞されている側から前記スラリーを流し込むことにより、端部が閉塞されていない前記複数の貫通孔(すなわち、流出セル5以外のセル)内に該スラリーを流通させる。続いて、前記SiC多孔質体から過剰な前記スラリーを除去する。
【0024】
【表1】
【0025】
次に、前記SiC多孔質体を、800〜1000℃の範囲の温度で1〜10時間の範囲の時間で二次焼成することにより、流出セル5以外のセルのセル隔壁6の表面に、複合金属酸化物Y1−xAgxMn1−yRuyO3(ただし、0.01≦x≦0.15かつ0.005≦y≦0.2)からなる多孔質触媒層3を形成する。このとき、多孔質触媒層3は、前記範囲の温度及び時間で二次焼成された結果、直径が0.02〜5μmの範囲である細孔(図示せず)を備えるとともに、厚さが10〜120μmの範囲に形成される。次に、流出セル5以外のセルの前記端部が閉塞された側とは反対側の端部を、シリカを主成分とするセラミックス接着剤にて閉塞することにより、流入セル4を形成する。以上により製造される排ガス浄化用酸化触媒装置1は、多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3を合わせた全体の50〜60体積%の範囲の気孔率を備えている。
【0026】
次に、図1を参照して本実施形態の製造方法により形成される排ガス浄化用酸化触媒装置1の作動について説明する。まず、排ガス浄化用酸化触媒装置1を、流入セル4及び流出セル5の排ガス流入部4a,5aが内燃機関の排ガスの流路に対して上流側となるように設置する。前記排ガスは、流入セル4の排ガス流入部4aから流入セル4内へ導入される。このとき、流出セル5は排ガス流入部5aが閉塞されているので、流出セル5内へ前記排ガスが導入されることはない。
【0027】
続いて、流入セル4は排ガス流出部4bが閉塞されているので、流入セル4内へ導入された前記排ガスは、セル隔壁6の表面に担持された多孔質触媒層3の前記細孔と多孔質フィルタ基材2のセル隔壁6の気孔とを通過して、流出セル5内へ移動する。前記排ガスが多孔質触媒層3の前記細孔を流通する際、該排ガス中のパティキュレートは、該細孔を形成している触媒の表面に接触し、多孔質触媒層3の触媒の作用により燃焼除去される。
【0028】
そして、流出セル5は排ガス流入部5aが閉塞されるとともに排ガス流出部5bが開放されているので、流出セル5内へ移動した前記排ガスは、排ガス流出部5bから排出されることとなる。以上により、排ガス浄化用酸化触媒装置1は、内燃機関の排ガス中のパティキュレートを酸化し浄化することができる。
【0029】
本実施形態の製造方法によれば、前記複数の金属の化合物とクエン酸と水とを一次焼成したことにより、リンゴ酸を用いて製造された排ガス浄化用酸化触媒装置と比較して、細孔の直径の分布が小さい側へ移動していて直径の小さい細孔が増加した前記多孔質触媒層を備える排ガス浄化用酸化触媒層1が製造される。排ガス浄化用酸化触媒装置1においては、多孔質触媒層3の前記細孔の直径が0.02〜5μmの範囲に形成され、前記排ガス中の前記パティキュレートを該多孔質触媒層に接触させるのに好適な直径となっているので、該排ガスが多孔質触媒層3の前記細孔を通過する際に、該パティキュレートの多孔質触媒層3への接触確率が高まることとなる。したがって、排ガス浄化用酸化触媒装置1によれば、リンゴ酸を用いて製造され、細孔の直径が0.05〜10μmの範囲である排ガス浄化用酸化触媒装置と比較して、内燃機関の排ガス中のパティキュレートをより低温で酸化し浄化することができる。
【0030】
また、本実施形態の製造方法により形成される排ガス浄化用酸化触媒装置1は、多孔質触媒層3が10〜120μmの範囲である厚さを有するとともに、多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3を合わせた全体の50〜60体積%の範囲の気孔率を備えている。これにより、前記細孔を介して排ガス中のパティキュレートを多孔質触媒層3に十分に接触させることにより、燃焼温度を確実に低下させることができるとともに、該排ガスが該細孔を通過する際に圧力損失が大きくなることを防ぐことができる。
【0031】
また、本実施形態の製造方法により形成される排ガス浄化用酸化触媒装置1においては、多孔質触媒層3は、一般式Y1−xAgxMn1−yRuyO3で表され、0.01≦x≦0.15かつ0.005≦y≦0.2である複合金属酸化物からなっている。前記複合金属酸化物は、一般式YMnO3で表される複合金属酸化物において、第1の金属であるYの一部を第3の金属であるAgで置換するとともに、第2の金属であるMnの一部を第4の金属であるRuで置換したものである。この置換により、Y1−xAgxMn1−yRuyO3は、その結晶構造が六方晶とペロブスカイト構造との混晶となり、高い触媒活性を有することとなる。したがって、排ガス浄化用酸化触媒装置1によれば、前記排ガスが多孔質触媒層3の前記細孔を通過する際に、多孔質触媒層3の触媒の作用により該排ガス中のパティキュレートを十分に燃焼除去することができる。
【0032】
次に本発明の実施例と比較例とを示す。
【実施例1】
【0033】
本実施例では、次のようにして排ガス浄化用酸化触媒装置1を製造した。まず、硝酸イットリウムと、硝酸銀と、硝酸マンガンと、硝酸ルテニウムと、クエン酸と、水とを、0.95:0.05:0.95:0.05:6:40のモル比となるように混合した。前記混合は、乳鉢を用いて15分間行った。得られた混合物を、350℃の温度に1時間維持して一次焼成を行った。次に、前記一次焼成で得られた結果物と、水と、バインダーとしての市販の水分散ジルコニアゾルとを10:100:10の重量比となるように秤量し、回転式ボールミルにて100回転/分で5時間混合して粉砕し、触媒前駆体スラリーを調製した。
【0034】
次に、軸方向に貫通する複数の貫通孔が断面格子状に配設された、SiC多孔質体(日本碍子株式会社製、商品名MSC14、寸法36mm×36mm×50mm)を用意し、該SiC多孔質体の該貫通孔の一端部を一つ置きに(すなわち、断面市松格子状となるように)、シリカを主成分とするセラミックス接着剤にて閉塞し、流出セル5を形成した。次に、前記SiC多孔質体に、前記端部が閉塞された側から前記触媒前駆体スラリーを流し込むことにより、端部が閉塞されていない前記複数の貫通孔(すなわち、流出セル5以外のセル)内に該スラリーを流通させた。続いて、前記SiC多孔質体から過剰な前記スラリーを除去した。
【0035】
次に、前記SiC多孔質体を800℃の温度に1時間維持して二次焼成を行い、前記端部が閉塞されていない前記貫通孔の表面に、見かけ体積1L当たりの担持量が100gとなるように、複合金属酸化物Y0.95Ag0.05Mn0.95Ru0.05O3からなる多孔質触媒層3を形成した。次に、流出セル5以外のセルの前記端部が閉塞された側とは反対側の端部を、シリカを主成分とするセラミックス接着剤にて閉塞することにより、流入セル4を形成し、排ガス浄化用酸化触媒装置1を完成させた。
【0036】
次に、本実施例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、次のようにして触媒評価性能試験を行った。まず、排ガス浄化用酸化触媒装置1を、排気量が2400ccであるディーゼルエンジンを搭載したエンジンベンチの排気系に搭載した。次に、パティキュレートを含む雰囲気ガス下において、該雰囲気ガスの排ガス浄化用酸化触媒装置1に対する流入温度が180℃であり、エンジン回転数が1500回転/分であり、トルクが70N/mであるようにして、前記ディーゼルエンジンを20分間運転した。以上により、排ガス浄化用酸化触媒装置1の見かけ体積1Lあたりパティキュレートを2g捕集させた。
【0037】
次に、パティキュレートが捕集された排ガス浄化用酸化触媒装置1を前記排気系から取り出し、流通型昇温度装置内の石英管内に固定した。次に、石英管の一端部(供給口)から、酸素と窒素との体積比が10:90である雰囲気ガスを空間速度20000/時間で供給し、石英管の他端部(排出口)から排出させながら、排ガス浄化用酸化触媒装置1を室温から700℃の温度まで3℃/分で加熱した。前記加熱には、流通型昇温度装置内の管状マッフル炉が用いられた。このとき、石英管からの排出ガスのCO2濃度を質量分析計を用いて計測し、CO2濃度のピークからパティキュレートの燃焼温度を求めた。結果を図2に示す。また、石英管の供給口と排出口とにおける圧力差を計測することにより、排ガス浄化用酸化触媒装置1の圧力損失を求めた。結果を図3に示す。
【0038】
次に、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1をダイヤモンドカッターにて切削することにより、5mm角の立方体を2個製作した。
【0039】
次に、1個目の立方体の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、透過式電子顕微鏡を用いて断面画像を撮影し、多孔質触媒層3の厚さを計測した。図4に排ガス浄化用酸化触媒装置1の断面画像を示す。図4(b)から多孔質触媒層3の厚さは70〜100μmであると計測された。
【0040】
次に、2個目の立方体の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、自動水銀ポロシメータを用いて、多孔質フィルタ基材3の気孔の直径及び多孔質触媒層2の細孔の直径と、多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3を合わせた全体の気孔率とを計測した。結果を図5及び図6に示す。図5から細孔の直径は0.02〜5μmの範囲であると計測された。図6に示すように多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3を合わせた全体の気孔率は50.1体積%であると計測された。
【0041】
次に、参考例として、前記SiC多孔質体に多孔質触媒層を形成しない排ガス浄化用酸化触媒装置を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、パティキュレートの燃焼温度を求めた。結果を図2に示す。
【実施例2】
【0042】
本実施例では、硝酸イットリウムと、硝酸銀と、硝酸マンガンと、硝酸ルテニウムと、クエン酸と、水とを、0.95:0.05:0.95:0.05:3:40のモル比となるように混合した点を除いて実施例1と全く同一にして、複合金属酸化物Y0.95Ag0.05Mn0.95Ru0.05O3からなる多孔質触媒層3を有する排ガス浄化用酸化触媒装置1を製造した。
【0043】
次に、本実施例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1について、実施例1と全く同一にして、パティキュレートの燃焼温度と排ガス浄化用酸化触媒装置1の圧力損失とを求めた。結果を図2及び図3に示す。
【0044】
次に、本実施例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1について、実施例1と全く同一にして、断面画像を撮影し、多孔質触媒層3の厚さを計測した。図7に排ガス浄化用酸化触媒装置1の断面画像を示す。図7(b)から多孔質触媒層3の厚さは80〜120μmであると計測された。
【0045】
次に、本実施例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1について、実施例1と全く同一にして、多孔質フィルタ基材3の気孔の直径及び多孔質触媒層2の細孔の直径と、多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3を合わせた全体の気孔率とを計測した。結果を図8及び図6に示す。図8から細孔の直径は0.02〜5μmの範囲であると計測された。図6に示すように多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3を合わせた全体の気孔率は54.3体積%であると計測された。
【実施例3】
【0046】
本実施例では、硝酸イットリウムと、硝酸銀と、硝酸マンガンと、硝酸ルテニウムと、クエン酸と、水とを、0.95:0.05:0.95:0.05:12:40のモル比となるように混合した点を除いて実施例1と全く同一にして、複合金属酸化物Y0.95Ag0.05Mn0.95Ru0.05O3からなる多孔質触媒層3を有する排ガス浄化用酸化触媒装置1を製造した。
【0047】
次に、本実施例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1について、実施例1と全く同一にして、パティキュレートの燃焼温度と排ガス浄化用酸化触媒装置1の圧力損失とを求めた。結果を図2及び図3に示す。
【0048】
次に、本実施例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1について、実施例1と全く同一にして、断面画像を撮影し、多孔質触媒層3の厚さを計測した。図9に排ガス浄化用酸化触媒装置1の断面画像を示す。図9(b)から多孔質触媒層3の厚さは10〜30μmであると計測された。
【0049】
次に、本実施例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1について、実施例1と全く同一にして、多孔質フィルタ基材3の気孔の直径及び多孔質触媒層2の細孔の直径と、多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3を合わせた全体の気孔率とを計測した。結果を図10及び図6に示す。図10から細孔の直径は0.02〜5μmの範囲であると計測された。図6に示すように多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3を合わせた全体の気孔率は55.6体積%であると計測された。
【実施例4】
【0050】
本実施例では、硝酸イットリウムと、硝酸銀と、硝酸マンガンと、硝酸ルテニウムと、クエン酸と、水とを、0.95:0.05:0.95:0.05:18:40のモル比となるように混合した点を除いて実施例1と全く同一にして、複合金属酸化物Y0.95Ag0.05Mn0.95Ru0.05O3からなる多孔質触媒層3を有する排ガス浄化用酸化触媒装置1を製造した。
【0051】
次に、本実施例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1について、実施例1と全く同一にして、パティキュレートの燃焼温度と排ガス浄化用酸化触媒装置1の圧力損失とを求めた。結果を図2及び図3に示す。
【0052】
次に、本実施例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1について、実施例1と全く同一にして、断面画像を撮影し、多孔質触媒層3の厚さを計測した。図11に排ガス浄化用酸化触媒装置1の断面画像を示す。図11(b)から多孔質触媒層3の厚さは10〜30μmであると計測された。
【0053】
次に、本実施例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1について、実施例1と全く同一にして、多孔質フィルタ基材3の気孔の直径及び多孔質触媒層2の細孔の直径と、多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3を合わせた全体の気孔率とを計測した。結果を図12及び図6に示す。図12から細孔の直径は0.02〜5μmの範囲であると計測された。図6に示すように多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3を合わせた全体の気孔率は50.8体積%であると計測された。
〔比較例1〕
本比較例では、クエン酸に代えてリンゴ酸を用いた点を除いて実施例1と全く同一にして、複合金属酸化物Y0.95Ag0.05Mn0.95Ru0.05O3からなる多孔質触媒層3を有する排ガス浄化用酸化触媒装置1を製造した。
【0054】
次に、本比較例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1について、実施例1と全く同一にして、パティキュレートの燃焼温度と排ガス浄化用酸化触媒装置1の圧力損失とを求めた。結果を図2及び図3に示す。
【0055】
次に、本比較例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1について、実施例1と全く同一にして、断面画像を撮影し、多孔質触媒層3の厚さを計測した。図13に排ガス浄化用酸化触媒装置1の断面画像を示す。図13(b)から多孔質触媒層3の厚さは1μm未満であると計測された。
【0056】
次に、本比較例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1について、実施例1と全く同一にして、多孔質フィルタ基材3の気孔の直径及び多孔質触媒層2の細孔の直径と、多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3を合わせた全体の気孔率とを計測した。結果を図5,8,10,12に示す。図5から細孔の直径は0.05〜10μmの範囲であると計測された。図6に示すように多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3を合わせた全体の気孔率は47.4体積%であると計測された。
【0057】
図2から、比較例の製造方法によりリンゴ酸を用いて形成された排ガス浄化用酸化触媒装置は、多孔質触媒層が形成されていない排ガス浄化用酸化触媒装置(参考例)と比較して、パティキュレートを低温で酸化(燃焼)できることが明らかである。また、実施例1〜4の製造方法によりクエン酸を用いて形成された排ガス浄化用酸化触媒装置1によれば、比較例の製造方法によりリンゴ酸を用いて形成された排ガス浄化用酸化触媒装置と比較して、パティキュレートをさらに低温で酸化(燃焼)できることが明らかである。
【0058】
これは、図5,8,10,12から明らかであるように、比較例の製造方法によりリンゴ酸を用いて形成された排ガス浄化用酸化触媒装置は多孔質触媒層の細孔の直径が0.05〜10μmの範囲であるが、実施例1〜4の製造方法によりクエン酸を用いて形成された排ガス浄化用酸化触媒装置1は多孔質触媒層3の細孔の直径が0.02〜5μmの範囲であって、比較例の製造方法によりリンゴ酸を用いて形成された排ガス浄化用酸化触媒装置の前記細孔の直径よりも全体的に小さいためであると考えられる。
【0059】
また、図3から、実施例1〜4の製造方法によりクエン酸を用いて形成された排ガス浄化用酸化触媒装置1によれば、比較例の製造方法によりリンゴ酸を用いて形成された排ガス浄化用酸化触媒装置と比較して、0〜500℃の範囲の温度において圧力損失がほぼ同等であり実用上問題ないことが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施形態の製造方法により形成される排ガス浄化用酸化触媒装置の説明的断面図。
【図2】実施例1〜4、参考例、及び比較例の排ガス浄化用酸化触媒装置によるパティキュレートの燃焼温度を示すグラフ。
【図3】実施例1〜4及び比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置による圧力損失を示すグラフ。
【図4】実施例1の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置の断面画像。
【図5】実施例1及び比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置に係る多孔質フィルタ基材の気孔の直径及び多孔質触媒層の細孔の直径を示すグラフ。
【図6】実施例1〜4及び比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置に係る多孔質フィルタ基材及び多孔質触媒層全体の気孔率を示すグラフ。
【図7】実施例2の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置の断面画像。
【図8】実施例2及び比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置に係る多孔質フィルタ基材の気孔の直径及び多孔質触媒層の細孔の直径を示すグラフ。
【図9】実施例3の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置の断面画像。
【図10】実施例3及び比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置に係る多孔質フィルタ基材の気孔の直径及び多孔質触媒層の細孔の直径を示すグラフ。
【図11】実施例4の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置の断面画像。
【図12】実施例4及び比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置に係る多孔質フィルタ基材の気孔の直径及び多孔質触媒層の細孔の直径を示すグラフ。
【図13】比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置の断面画像。
【符号の説明】
【0061】
1…排ガス浄化用酸化触媒装置、 2…多孔質フィルタ基材、 3…多孔質触媒層、 4…流入セル、 4a…排ガス流入部、 4b…排ガス流出部、 5…流出セル、 5a…排ガス流出部、 5b…排ガス流入部、 6…セル隔壁。
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排ガス中のパティキュレートを複合金属酸化物からなる触媒を用いて酸化し浄化する排ガス浄化用酸化触媒装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の排ガスに含まれるパティキュレートや炭化水素を酸化して浄化するために、軸方向に貫通して形成された貫通孔からなる複数のセルを有し、各セルの境界部をセル隔壁とする多孔質フィルタ基材に、ペロブスカイト型複合金属酸化物からなる触媒が担持された排ガス浄化用酸化触媒装置が知られている。
【0003】
前記触媒として用いられるペロブスカイト型複合金属酸化物として、例えば、一般式AMO3で表され、AはLa、Y、Dy、Ndからなる群から選択される少なくとも1種の金属とSr、Ba、Mgからなる群から選択される少なくとも1種の金属とであり、MはMn、Fe、Coからなる群から選択される少なくとも1種の金属である複合金属酸化物が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
前記排ガス浄化用酸化触媒装置は、例えば次のようにして製造される。まず、前記ペロブスカイト型複合金属酸化物を合成するための前駆体を調製する。前記前駆体は、前記複合金属酸化物を構成する金属の塩(前記一般式AMO3の前記A成分の塩及び前記M成分の塩)を含む原料塩水溶液を調製し、該原料塩水溶液と中和剤とを混合して各金属の水酸化物を共沈させた後、得られた共沈物を乾燥することにより調製される。各金属の塩としては、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、塩化物等の無機塩や、酢酸塩、シュウ酸塩等の有機酸塩等を使用することができる。また、中和剤としては、アンモニア、苛性ソーダ、苛性カリ等の無機塩基や、トリエチルアミン、ピリジン等の有機塩基等を使用することができる。次に、前記前駆体のスラリーを調製し、該スラリーを前記多孔質フィルタ基材の前記貫通孔の開口部から該貫通孔内に導入することにより、前記前駆体を該多孔質フィルタ基材の気孔内に付着させる。次に、前記多孔質フィルタ基材を焼成することにより、該多孔質フィルタ基材に前記前駆体の酸化物としてのペロブスカイト型複合金属酸化物からなる多孔質触媒層を形成する。以上により、前記ペロブスカイト型複合金属酸化物からなる触媒が担持された前記排ガス浄化用酸化触媒装置を得ることができる。
【0005】
しかしながら、前記複合金属酸化物を構成する金属の水酸化物の共沈物を乾燥させて調製された前駆体を含むスラリーを用いた従来の製造方法では、前記パティキュレートを酸化する温度を低くすることができる多孔質触媒層を得ることが困難であるという不都合がある。
【特許文献1】特開2007−237012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる不都合を解消して、内燃機関の排ガス中のパティキュレートをより低温で酸化し浄化することができる排ガス浄化用酸化触媒装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、複数の金属の化合物とリンゴ酸と水とを一次焼成して一次焼成物を得て、該一次焼成物を二次焼成することにより得られた複合金属酸化物からなる多孔質触媒層は、従来の製造方法で得られた多孔質触媒層と比較して、排ガス中のパティキュレートの燃焼温度を低くすることができることを知見した。リンゴ酸を用いて製造された前記多孔質触媒層は、細孔の直径が0.05〜10μmの範囲であった。しかし、排ガス浄化用酸化触媒装置としては、さらに該燃焼温度を低くすることできる多孔質触媒層が望まれる。
【0008】
そこで、かかる目的を達成するために、本発明の排ガス浄化用酸化触媒装置の製造方法は、内燃機関の排ガス中のパティキュレートを、複合金属酸化物からなる触媒を用いて酸化し浄化する排ガス浄化用酸化触媒装置の製造方法であって、該複合金属酸化物を構成する複数の金属の化合物とクエン酸と水とを焼成して焼成物を得る工程と、得られた該焼成物と水とバインダーとを混合し粉砕してスラリーを調製する工程と、該スラリーを多孔質フィルタ基材に塗布する工程と、該スラリーが塗布された該多孔質フィルタ基材を焼成して、該多孔質フィルタ基材に担持された該複合金属酸化物からなる多孔質触媒層を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の製造方法により製造された排ガス浄化用酸化触媒装置において、前記多孔質フィルタ基材へ導入された前記内燃機関の排ガスは、前記多孔質触媒層の細孔を通過して該多孔質触媒層に接触する。ここで、本発明の製造方法により製造された排ガス浄化用酸化触媒装置は、前記複数の金属の化合物とクエン酸と水とを焼成して前記焼成物を得ることにより、リンゴ酸を用いて製造された排ガス浄化用酸化触媒装置と比較して、前記多孔質触媒層の細孔の直径の分布が小さい側へ移動していて、直径の小さい細孔が増加している。このため、前記多孔質触媒層は、前記排ガス中の前記パティキュレートを該多孔質触媒層に接触させるのに好適な直径を有する前記細孔を多数備えることとなるので、該パティキュレートの該多孔質触媒層への接触確率が高まることとなる。したがって、本発明の製造方法により製造された排ガス浄化用酸化触媒装置によれば、リンゴ酸を用いて製造された排ガス浄化用酸化触媒装置と比較して、内燃機関の排ガス中のパティキュレートをより低温で酸化し浄化することができる。
【0010】
また、本発明において、前記多孔質触媒層は、直径が0.02〜5μmの範囲である細孔を備え、該多孔質フィルタ基材及び前記多孔質触媒層全体の気孔率が、50〜60体積%の範囲であることが好ましい。前記構成によれば、前記細孔を介して前記排ガス中の前記パティキュレートを前記多孔質触媒層に接触させることにより、燃焼温度を確実に低下させることができるとともに、該排ガスが該細孔を通過する際に圧力損失が大きくなることを防ぐことができる。
【0011】
このとき、前記多孔質触媒層の前記細孔の直径が0.02μm未満である場合には、前記排ガスが前記細孔を通過する際に圧力損失が大きくなることがある。一方、前記多孔質触媒層の前記細孔の直径が5μmを超える場合には、前記排ガスが前記細孔を通過する際に、該排ガス中の前記パティキュレートが前記多孔質触媒層の表面に十分に接触することができなくなり、燃焼温度を低下させる効果が得られないことがある。
【0012】
また、前記多孔質フィルタ基材及び前記多孔質触媒層全体の気孔率が50体積%未満である場合には、前記排ガスが前記細孔を通過する際に圧力損失が大きくなることがある。一方、前記多孔質フィルタ基材及び前記多孔質触媒層全体の気孔率が60体積%を超える場合には、前記排ガスが前記細孔を通過する際に、該排ガス中の前記パティキュレートが前記多孔質触媒層の表面に十分に接触することができなくなり、燃焼温度を低下させる効果が得られないことがある。
【0013】
また、本発明において、前記多孔質触媒層は10〜120μmの範囲である厚さを有することが好ましい。前記構成によれば、前記細孔を介して前記排ガス中の前記パティキュレートを前記多孔質触媒層に十分に接触させることにより、燃焼温度を確実に低下させることができるとともに、該排ガスが該細孔を通過する際に圧力損失が大きくなることを防ぐことができる。このとき、前記多孔質触媒層の厚さが10μm未満の場合には、前記排ガスが前記細孔を通過する際に、該排ガス中の前記パティキュレートが前記多孔質触媒層の表面に十分に接触することができなくなり、燃焼温度を低下させる効果が得られないことがある。一方、前記多孔質触媒層の厚さが120μmを超える場合には、前記排ガスが前記細孔を通過する際に圧力損失が大きくなることがある。
【0014】
また、本発明において、前記複数の金属の化合物は、イットリウム化合物と、マンガン化合物と、銀化合物と、ルテニウム化合物とからなり、前記バインダーは、ジルコニアからなるゾルであることが好ましい。前記複数の金属の化合物から得られる前記複合金属酸化物は、一般式YMnO3で表される複合金属酸化物において、第1の金属であるYの一部を第3の金属であるAgで置換するとともに、第2の金属であるMnの一部を第4の金属であるRuで置換したものである。前記複合金属酸化物は、その結晶構造が六方晶とペロブスカイト構造との混晶となり、高い触媒活性を有することとなる。したがって、本発明によれば、前記排ガスが前記多孔質触媒層の前記細孔を通過する際に、該多孔質触媒層の触媒の作用により該排ガス中の前記パティキュレートを十分に燃焼除去することができる。
【0015】
本発明において、前記多孔質触媒層は、一般式Y1−xAgxMn1−yRuyO3で表され、0.01≦x≦0.15かつ0.005≦y≦0.2である複合金属酸化物からなることが好ましい。本発明によれば、前記排ガスが前記多孔質触媒層の前記細孔を通過する際に、該多孔質触媒層の触媒の作用により該排ガス中の前記パティキュレートを確実に燃焼除去することができる。
【0016】
このとき、xが0.01未満である場合には、触媒活性を高める効果が不十分になることがある。一方、xが0.15を超える場合には、混晶を維持することが困難になることがある。また、yが0.005未満である場合には、触媒活性を高める効果が不十分になることがある。一方、yが0.2を超える場合には、混晶を維持することが困難になることがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。図1は本実施形態の製造方法により形成される排ガス浄化用酸化触媒装置の説明的断面図である。図2は、実施例、参考例、及び比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置によるパティキュレートの燃焼温度を示すグラフである。図3は、実施例及び比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置による圧力損失を示すグラフである。図4,7,9,11,13は、実施例及び比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置の断面画像である。図4(a),7(a),9(a),11(a),13(a)は、実施例及び比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置の正面断面画像であり、図4(b),7(b),9(b),11(b),13(b)は、図4(a),7(a),9(a),11(a),13(a)におけるB部拡大断面画像である。図5,8,10,12は、実施例及び比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置に係る多孔質フィルタ基材の気孔の直径及び多孔質触媒層の細孔の直径を示すグラフである。図6は、実施例及び比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置に係る多孔質フィルタ基材及び多孔質触媒層全体の気孔率を示すグラフである。
【0018】
本実施形態の製造方法により形成される排ガス浄化用酸化触媒装置1について説明する。図1に示す排ガス浄化用酸化触媒装置1は、ウォールフロー構造を有する多孔質フィルタ基材2と、多孔質フィルタ基材2に担持された多孔質触媒層3とを備え、内燃機関の排ガスを流通させることにより、該排ガスに含まれるパティキュレートを酸化して浄化するものである。
【0019】
多孔質フィルタ基材2は、軸方向に貫通する複数の貫通孔が断面格子状に配設された略直方体のSiC多孔質体からなり、該貫通孔からなる複数の流入セル4と複数の流出セル5とを備えている。多孔質フィルタ基材2は、直径が1〜100μmの範囲である複数の気孔(図示せず)を備えていて、それ自体の気孔率が30〜60体積%の範囲となっている。流入セル4は、排ガス流入部4aが開放されるとともに排ガス流出部4bが閉塞されている。一方、流出セル5は、排ガス流入部5aが閉塞されるとともに排ガス流出部5bが開放されている。流入セル4及び流出セル5は、断面市松格子状となるように交互に配設されていて、各セル4,5の境界部をセル隔壁6とするウォールフロー構造を構成している。
【0020】
セル隔壁6の流入セル4側の表面には、一般式Y1−xAgxMn1−yRuyO3で表され、0.01≦x≦0.15かつ0.005≦y≦0.2である複合金属酸化物からなる多孔質触媒層3が担持されている。多孔質触媒層3は、直径が0.02〜5μmの範囲である細孔(図示せず)を備え、10〜120μmの範囲である厚さを備える。また、多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3は、両者を合わせた全体の気孔率が50〜60体積%の範囲となっている。また、図示しないが、最外層のセル隔壁6の外周部には、排ガスの流出を規制する金属からなる規制部材が設けられている。
【0021】
排ガス浄化用酸化触媒装置1においては、多孔質触媒層3は、セル隔壁6の流入セル4側の表面のみに担持されているが、流入セル4側の表面と流出セル5側の表面との両方に担持されていてもよい。また、多孔質フィルタ基材2として、SiC多孔質体からなるものを用いているが、Si−SiC多孔質体からなるものを用いてもよい。
【0022】
以上の構成を備えた排ガス浄化用酸化触媒装置1は、次のようにして製造することができる。まず、硝酸イットリウムと、硝酸銀と、硝酸マンガンと、硝酸ルテニウムと、クエン酸と、水とからなる混合物を、200〜400℃の範囲の温度で1〜10時間の範囲で一次焼成する。次に、得られた結果物と、水と、バインダーとしてのジルコニアからなるゾルとを混合し粉砕して、スラリーを調製する。
【0023】
次に、軸方向に貫通する複数の貫通孔が断面格子状に配設されたSiC多孔質体を用意する。SiC多孔質体として、例えば表1に示す日本碍子株式会社製の商品名MSC14を用いることができる。次に、前記SiC多孔質体の前記貫通孔の一端部を一つ置きに(すなわち、断面市松格子状となるように)、シリカを主成分とするセラミックス接着剤にて閉塞することにより、流出セル5を形成する。次に、前記SiC多孔質体に、前記端部が閉塞されている側から前記スラリーを流し込むことにより、端部が閉塞されていない前記複数の貫通孔(すなわち、流出セル5以外のセル)内に該スラリーを流通させる。続いて、前記SiC多孔質体から過剰な前記スラリーを除去する。
【0024】
【表1】
【0025】
次に、前記SiC多孔質体を、800〜1000℃の範囲の温度で1〜10時間の範囲の時間で二次焼成することにより、流出セル5以外のセルのセル隔壁6の表面に、複合金属酸化物Y1−xAgxMn1−yRuyO3(ただし、0.01≦x≦0.15かつ0.005≦y≦0.2)からなる多孔質触媒層3を形成する。このとき、多孔質触媒層3は、前記範囲の温度及び時間で二次焼成された結果、直径が0.02〜5μmの範囲である細孔(図示せず)を備えるとともに、厚さが10〜120μmの範囲に形成される。次に、流出セル5以外のセルの前記端部が閉塞された側とは反対側の端部を、シリカを主成分とするセラミックス接着剤にて閉塞することにより、流入セル4を形成する。以上により製造される排ガス浄化用酸化触媒装置1は、多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3を合わせた全体の50〜60体積%の範囲の気孔率を備えている。
【0026】
次に、図1を参照して本実施形態の製造方法により形成される排ガス浄化用酸化触媒装置1の作動について説明する。まず、排ガス浄化用酸化触媒装置1を、流入セル4及び流出セル5の排ガス流入部4a,5aが内燃機関の排ガスの流路に対して上流側となるように設置する。前記排ガスは、流入セル4の排ガス流入部4aから流入セル4内へ導入される。このとき、流出セル5は排ガス流入部5aが閉塞されているので、流出セル5内へ前記排ガスが導入されることはない。
【0027】
続いて、流入セル4は排ガス流出部4bが閉塞されているので、流入セル4内へ導入された前記排ガスは、セル隔壁6の表面に担持された多孔質触媒層3の前記細孔と多孔質フィルタ基材2のセル隔壁6の気孔とを通過して、流出セル5内へ移動する。前記排ガスが多孔質触媒層3の前記細孔を流通する際、該排ガス中のパティキュレートは、該細孔を形成している触媒の表面に接触し、多孔質触媒層3の触媒の作用により燃焼除去される。
【0028】
そして、流出セル5は排ガス流入部5aが閉塞されるとともに排ガス流出部5bが開放されているので、流出セル5内へ移動した前記排ガスは、排ガス流出部5bから排出されることとなる。以上により、排ガス浄化用酸化触媒装置1は、内燃機関の排ガス中のパティキュレートを酸化し浄化することができる。
【0029】
本実施形態の製造方法によれば、前記複数の金属の化合物とクエン酸と水とを一次焼成したことにより、リンゴ酸を用いて製造された排ガス浄化用酸化触媒装置と比較して、細孔の直径の分布が小さい側へ移動していて直径の小さい細孔が増加した前記多孔質触媒層を備える排ガス浄化用酸化触媒層1が製造される。排ガス浄化用酸化触媒装置1においては、多孔質触媒層3の前記細孔の直径が0.02〜5μmの範囲に形成され、前記排ガス中の前記パティキュレートを該多孔質触媒層に接触させるのに好適な直径となっているので、該排ガスが多孔質触媒層3の前記細孔を通過する際に、該パティキュレートの多孔質触媒層3への接触確率が高まることとなる。したがって、排ガス浄化用酸化触媒装置1によれば、リンゴ酸を用いて製造され、細孔の直径が0.05〜10μmの範囲である排ガス浄化用酸化触媒装置と比較して、内燃機関の排ガス中のパティキュレートをより低温で酸化し浄化することができる。
【0030】
また、本実施形態の製造方法により形成される排ガス浄化用酸化触媒装置1は、多孔質触媒層3が10〜120μmの範囲である厚さを有するとともに、多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3を合わせた全体の50〜60体積%の範囲の気孔率を備えている。これにより、前記細孔を介して排ガス中のパティキュレートを多孔質触媒層3に十分に接触させることにより、燃焼温度を確実に低下させることができるとともに、該排ガスが該細孔を通過する際に圧力損失が大きくなることを防ぐことができる。
【0031】
また、本実施形態の製造方法により形成される排ガス浄化用酸化触媒装置1においては、多孔質触媒層3は、一般式Y1−xAgxMn1−yRuyO3で表され、0.01≦x≦0.15かつ0.005≦y≦0.2である複合金属酸化物からなっている。前記複合金属酸化物は、一般式YMnO3で表される複合金属酸化物において、第1の金属であるYの一部を第3の金属であるAgで置換するとともに、第2の金属であるMnの一部を第4の金属であるRuで置換したものである。この置換により、Y1−xAgxMn1−yRuyO3は、その結晶構造が六方晶とペロブスカイト構造との混晶となり、高い触媒活性を有することとなる。したがって、排ガス浄化用酸化触媒装置1によれば、前記排ガスが多孔質触媒層3の前記細孔を通過する際に、多孔質触媒層3の触媒の作用により該排ガス中のパティキュレートを十分に燃焼除去することができる。
【0032】
次に本発明の実施例と比較例とを示す。
【実施例1】
【0033】
本実施例では、次のようにして排ガス浄化用酸化触媒装置1を製造した。まず、硝酸イットリウムと、硝酸銀と、硝酸マンガンと、硝酸ルテニウムと、クエン酸と、水とを、0.95:0.05:0.95:0.05:6:40のモル比となるように混合した。前記混合は、乳鉢を用いて15分間行った。得られた混合物を、350℃の温度に1時間維持して一次焼成を行った。次に、前記一次焼成で得られた結果物と、水と、バインダーとしての市販の水分散ジルコニアゾルとを10:100:10の重量比となるように秤量し、回転式ボールミルにて100回転/分で5時間混合して粉砕し、触媒前駆体スラリーを調製した。
【0034】
次に、軸方向に貫通する複数の貫通孔が断面格子状に配設された、SiC多孔質体(日本碍子株式会社製、商品名MSC14、寸法36mm×36mm×50mm)を用意し、該SiC多孔質体の該貫通孔の一端部を一つ置きに(すなわち、断面市松格子状となるように)、シリカを主成分とするセラミックス接着剤にて閉塞し、流出セル5を形成した。次に、前記SiC多孔質体に、前記端部が閉塞された側から前記触媒前駆体スラリーを流し込むことにより、端部が閉塞されていない前記複数の貫通孔(すなわち、流出セル5以外のセル)内に該スラリーを流通させた。続いて、前記SiC多孔質体から過剰な前記スラリーを除去した。
【0035】
次に、前記SiC多孔質体を800℃の温度に1時間維持して二次焼成を行い、前記端部が閉塞されていない前記貫通孔の表面に、見かけ体積1L当たりの担持量が100gとなるように、複合金属酸化物Y0.95Ag0.05Mn0.95Ru0.05O3からなる多孔質触媒層3を形成した。次に、流出セル5以外のセルの前記端部が閉塞された側とは反対側の端部を、シリカを主成分とするセラミックス接着剤にて閉塞することにより、流入セル4を形成し、排ガス浄化用酸化触媒装置1を完成させた。
【0036】
次に、本実施例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、次のようにして触媒評価性能試験を行った。まず、排ガス浄化用酸化触媒装置1を、排気量が2400ccであるディーゼルエンジンを搭載したエンジンベンチの排気系に搭載した。次に、パティキュレートを含む雰囲気ガス下において、該雰囲気ガスの排ガス浄化用酸化触媒装置1に対する流入温度が180℃であり、エンジン回転数が1500回転/分であり、トルクが70N/mであるようにして、前記ディーゼルエンジンを20分間運転した。以上により、排ガス浄化用酸化触媒装置1の見かけ体積1Lあたりパティキュレートを2g捕集させた。
【0037】
次に、パティキュレートが捕集された排ガス浄化用酸化触媒装置1を前記排気系から取り出し、流通型昇温度装置内の石英管内に固定した。次に、石英管の一端部(供給口)から、酸素と窒素との体積比が10:90である雰囲気ガスを空間速度20000/時間で供給し、石英管の他端部(排出口)から排出させながら、排ガス浄化用酸化触媒装置1を室温から700℃の温度まで3℃/分で加熱した。前記加熱には、流通型昇温度装置内の管状マッフル炉が用いられた。このとき、石英管からの排出ガスのCO2濃度を質量分析計を用いて計測し、CO2濃度のピークからパティキュレートの燃焼温度を求めた。結果を図2に示す。また、石英管の供給口と排出口とにおける圧力差を計測することにより、排ガス浄化用酸化触媒装置1の圧力損失を求めた。結果を図3に示す。
【0038】
次に、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1をダイヤモンドカッターにて切削することにより、5mm角の立方体を2個製作した。
【0039】
次に、1個目の立方体の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、透過式電子顕微鏡を用いて断面画像を撮影し、多孔質触媒層3の厚さを計測した。図4に排ガス浄化用酸化触媒装置1の断面画像を示す。図4(b)から多孔質触媒層3の厚さは70〜100μmであると計測された。
【0040】
次に、2個目の立方体の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、自動水銀ポロシメータを用いて、多孔質フィルタ基材3の気孔の直径及び多孔質触媒層2の細孔の直径と、多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3を合わせた全体の気孔率とを計測した。結果を図5及び図6に示す。図5から細孔の直径は0.02〜5μmの範囲であると計測された。図6に示すように多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3を合わせた全体の気孔率は50.1体積%であると計測された。
【0041】
次に、参考例として、前記SiC多孔質体に多孔質触媒層を形成しない排ガス浄化用酸化触媒装置を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、パティキュレートの燃焼温度を求めた。結果を図2に示す。
【実施例2】
【0042】
本実施例では、硝酸イットリウムと、硝酸銀と、硝酸マンガンと、硝酸ルテニウムと、クエン酸と、水とを、0.95:0.05:0.95:0.05:3:40のモル比となるように混合した点を除いて実施例1と全く同一にして、複合金属酸化物Y0.95Ag0.05Mn0.95Ru0.05O3からなる多孔質触媒層3を有する排ガス浄化用酸化触媒装置1を製造した。
【0043】
次に、本実施例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1について、実施例1と全く同一にして、パティキュレートの燃焼温度と排ガス浄化用酸化触媒装置1の圧力損失とを求めた。結果を図2及び図3に示す。
【0044】
次に、本実施例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1について、実施例1と全く同一にして、断面画像を撮影し、多孔質触媒層3の厚さを計測した。図7に排ガス浄化用酸化触媒装置1の断面画像を示す。図7(b)から多孔質触媒層3の厚さは80〜120μmであると計測された。
【0045】
次に、本実施例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1について、実施例1と全く同一にして、多孔質フィルタ基材3の気孔の直径及び多孔質触媒層2の細孔の直径と、多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3を合わせた全体の気孔率とを計測した。結果を図8及び図6に示す。図8から細孔の直径は0.02〜5μmの範囲であると計測された。図6に示すように多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3を合わせた全体の気孔率は54.3体積%であると計測された。
【実施例3】
【0046】
本実施例では、硝酸イットリウムと、硝酸銀と、硝酸マンガンと、硝酸ルテニウムと、クエン酸と、水とを、0.95:0.05:0.95:0.05:12:40のモル比となるように混合した点を除いて実施例1と全く同一にして、複合金属酸化物Y0.95Ag0.05Mn0.95Ru0.05O3からなる多孔質触媒層3を有する排ガス浄化用酸化触媒装置1を製造した。
【0047】
次に、本実施例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1について、実施例1と全く同一にして、パティキュレートの燃焼温度と排ガス浄化用酸化触媒装置1の圧力損失とを求めた。結果を図2及び図3に示す。
【0048】
次に、本実施例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1について、実施例1と全く同一にして、断面画像を撮影し、多孔質触媒層3の厚さを計測した。図9に排ガス浄化用酸化触媒装置1の断面画像を示す。図9(b)から多孔質触媒層3の厚さは10〜30μmであると計測された。
【0049】
次に、本実施例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1について、実施例1と全く同一にして、多孔質フィルタ基材3の気孔の直径及び多孔質触媒層2の細孔の直径と、多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3を合わせた全体の気孔率とを計測した。結果を図10及び図6に示す。図10から細孔の直径は0.02〜5μmの範囲であると計測された。図6に示すように多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3を合わせた全体の気孔率は55.6体積%であると計測された。
【実施例4】
【0050】
本実施例では、硝酸イットリウムと、硝酸銀と、硝酸マンガンと、硝酸ルテニウムと、クエン酸と、水とを、0.95:0.05:0.95:0.05:18:40のモル比となるように混合した点を除いて実施例1と全く同一にして、複合金属酸化物Y0.95Ag0.05Mn0.95Ru0.05O3からなる多孔質触媒層3を有する排ガス浄化用酸化触媒装置1を製造した。
【0051】
次に、本実施例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1について、実施例1と全く同一にして、パティキュレートの燃焼温度と排ガス浄化用酸化触媒装置1の圧力損失とを求めた。結果を図2及び図3に示す。
【0052】
次に、本実施例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1について、実施例1と全く同一にして、断面画像を撮影し、多孔質触媒層3の厚さを計測した。図11に排ガス浄化用酸化触媒装置1の断面画像を示す。図11(b)から多孔質触媒層3の厚さは10〜30μmであると計測された。
【0053】
次に、本実施例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1について、実施例1と全く同一にして、多孔質フィルタ基材3の気孔の直径及び多孔質触媒層2の細孔の直径と、多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3を合わせた全体の気孔率とを計測した。結果を図12及び図6に示す。図12から細孔の直径は0.02〜5μmの範囲であると計測された。図6に示すように多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3を合わせた全体の気孔率は50.8体積%であると計測された。
〔比較例1〕
本比較例では、クエン酸に代えてリンゴ酸を用いた点を除いて実施例1と全く同一にして、複合金属酸化物Y0.95Ag0.05Mn0.95Ru0.05O3からなる多孔質触媒層3を有する排ガス浄化用酸化触媒装置1を製造した。
【0054】
次に、本比較例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1について、実施例1と全く同一にして、パティキュレートの燃焼温度と排ガス浄化用酸化触媒装置1の圧力損失とを求めた。結果を図2及び図3に示す。
【0055】
次に、本比較例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1について、実施例1と全く同一にして、断面画像を撮影し、多孔質触媒層3の厚さを計測した。図13に排ガス浄化用酸化触媒装置1の断面画像を示す。図13(b)から多孔質触媒層3の厚さは1μm未満であると計測された。
【0056】
次に、本比較例で得られた排ガス浄化用酸化触媒装置1について、実施例1と全く同一にして、多孔質フィルタ基材3の気孔の直径及び多孔質触媒層2の細孔の直径と、多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3を合わせた全体の気孔率とを計測した。結果を図5,8,10,12に示す。図5から細孔の直径は0.05〜10μmの範囲であると計測された。図6に示すように多孔質フィルタ基材2及び多孔質触媒層3を合わせた全体の気孔率は47.4体積%であると計測された。
【0057】
図2から、比較例の製造方法によりリンゴ酸を用いて形成された排ガス浄化用酸化触媒装置は、多孔質触媒層が形成されていない排ガス浄化用酸化触媒装置(参考例)と比較して、パティキュレートを低温で酸化(燃焼)できることが明らかである。また、実施例1〜4の製造方法によりクエン酸を用いて形成された排ガス浄化用酸化触媒装置1によれば、比較例の製造方法によりリンゴ酸を用いて形成された排ガス浄化用酸化触媒装置と比較して、パティキュレートをさらに低温で酸化(燃焼)できることが明らかである。
【0058】
これは、図5,8,10,12から明らかであるように、比較例の製造方法によりリンゴ酸を用いて形成された排ガス浄化用酸化触媒装置は多孔質触媒層の細孔の直径が0.05〜10μmの範囲であるが、実施例1〜4の製造方法によりクエン酸を用いて形成された排ガス浄化用酸化触媒装置1は多孔質触媒層3の細孔の直径が0.02〜5μmの範囲であって、比較例の製造方法によりリンゴ酸を用いて形成された排ガス浄化用酸化触媒装置の前記細孔の直径よりも全体的に小さいためであると考えられる。
【0059】
また、図3から、実施例1〜4の製造方法によりクエン酸を用いて形成された排ガス浄化用酸化触媒装置1によれば、比較例の製造方法によりリンゴ酸を用いて形成された排ガス浄化用酸化触媒装置と比較して、0〜500℃の範囲の温度において圧力損失がほぼ同等であり実用上問題ないことが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施形態の製造方法により形成される排ガス浄化用酸化触媒装置の説明的断面図。
【図2】実施例1〜4、参考例、及び比較例の排ガス浄化用酸化触媒装置によるパティキュレートの燃焼温度を示すグラフ。
【図3】実施例1〜4及び比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置による圧力損失を示すグラフ。
【図4】実施例1の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置の断面画像。
【図5】実施例1及び比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置に係る多孔質フィルタ基材の気孔の直径及び多孔質触媒層の細孔の直径を示すグラフ。
【図6】実施例1〜4及び比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置に係る多孔質フィルタ基材及び多孔質触媒層全体の気孔率を示すグラフ。
【図7】実施例2の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置の断面画像。
【図8】実施例2及び比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置に係る多孔質フィルタ基材の気孔の直径及び多孔質触媒層の細孔の直径を示すグラフ。
【図9】実施例3の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置の断面画像。
【図10】実施例3及び比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置に係る多孔質フィルタ基材の気孔の直径及び多孔質触媒層の細孔の直径を示すグラフ。
【図11】実施例4の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置の断面画像。
【図12】実施例4及び比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置に係る多孔質フィルタ基材の気孔の直径及び多孔質触媒層の細孔の直径を示すグラフ。
【図13】比較例の製造方法により形成された排ガス浄化用酸化触媒装置の断面画像。
【符号の説明】
【0061】
1…排ガス浄化用酸化触媒装置、 2…多孔質フィルタ基材、 3…多孔質触媒層、 4…流入セル、 4a…排ガス流入部、 4b…排ガス流出部、 5…流出セル、 5a…排ガス流出部、 5b…排ガス流入部、 6…セル隔壁。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排ガス中のパティキュレートを、複合金属酸化物からなる触媒を用いて酸化し浄化する排ガス浄化用酸化触媒装置の製造方法であって、
該複合金属酸化物を構成する複数の金属の化合物とクエン酸と水とを焼成して焼成物を得る工程と、
得られた該焼成物と水とバインダーとを混合し粉砕してスラリーを調製する工程と、
該スラリーを多孔質フィルタ基材に塗布する工程と、
該スラリーが塗布された該多孔質フィルタ基材を焼成して、該多孔質フィルタ基材に担持された該複合金属酸化物からなる多孔質触媒層を形成する工程とを備えることを特徴とする排ガス浄化用酸化触媒装置の製造方法。
【請求項2】
前記多孔質触媒層は、直径が0.02〜5μmの範囲である細孔を備え、該多孔質フィルタ基材及び前記多孔質触媒層全体の気孔率が、50〜60体積%の範囲であることを特徴とする請求項1記載の排ガス浄化用酸化触媒装置の製造方法。
【請求項3】
前記多孔質触媒層は10〜120μmの範囲である厚さを有することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の排ガス浄化用酸化触媒装置の製造方法。
【請求項4】
前記複数の金属の化合物は、イットリウム化合物と、マンガン化合物と、銀化合物と、ルテニウム化合物とからなり、
前記バインダーは、ジルコニアからなるゾルであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の排ガス浄化用酸化触媒装置の製造方法。
【請求項5】
前記多孔質触媒層は、一般式Y1−xAgxMn1−yRuyO3で表され、0.01≦x≦0.15かつ0.005≦y≦0.2である複合金属酸化物からなることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の排ガス浄化用酸化触媒装置の製造方法。
【請求項1】
内燃機関の排ガス中のパティキュレートを、複合金属酸化物からなる触媒を用いて酸化し浄化する排ガス浄化用酸化触媒装置の製造方法であって、
該複合金属酸化物を構成する複数の金属の化合物とクエン酸と水とを焼成して焼成物を得る工程と、
得られた該焼成物と水とバインダーとを混合し粉砕してスラリーを調製する工程と、
該スラリーを多孔質フィルタ基材に塗布する工程と、
該スラリーが塗布された該多孔質フィルタ基材を焼成して、該多孔質フィルタ基材に担持された該複合金属酸化物からなる多孔質触媒層を形成する工程とを備えることを特徴とする排ガス浄化用酸化触媒装置の製造方法。
【請求項2】
前記多孔質触媒層は、直径が0.02〜5μmの範囲である細孔を備え、該多孔質フィルタ基材及び前記多孔質触媒層全体の気孔率が、50〜60体積%の範囲であることを特徴とする請求項1記載の排ガス浄化用酸化触媒装置の製造方法。
【請求項3】
前記多孔質触媒層は10〜120μmの範囲である厚さを有することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の排ガス浄化用酸化触媒装置の製造方法。
【請求項4】
前記複数の金属の化合物は、イットリウム化合物と、マンガン化合物と、銀化合物と、ルテニウム化合物とからなり、
前記バインダーは、ジルコニアからなるゾルであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の排ガス浄化用酸化触媒装置の製造方法。
【請求項5】
前記多孔質触媒層は、一般式Y1−xAgxMn1−yRuyO3で表され、0.01≦x≦0.15かつ0.005≦y≦0.2である複合金属酸化物からなることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の排ガス浄化用酸化触媒装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図8】
【図10】
【図12】
【図4】
【図7】
【図9】
【図11】
【図13】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図8】
【図10】
【図12】
【図4】
【図7】
【図9】
【図11】
【図13】
【公開番号】特開2009−178686(P2009−178686A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21717(P2008−21717)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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