説明

排便促進カプセル

【課題】直腸の機能低下などにより自然排便が困難になっている動物に対して、口から飲んで直腸に達したときに自然排便を促す機能を発揮する排便促進カプセルを提供する。
【解決手段】体内中心温度以下で固形またはゲル状となり、体内中心温度より高い温度で液状化する油脂を内部に充填した内服用のカプセル11であって、柔軟性素材からなるカプセル容器11に、外表面から内表面に貫通する複数の切れ込み13が入れられており、当該切れ込みはカプセル容器が体内中心温度以下またはその表面の水分量が所定値以上の場合に閉口する構成であり、カプセル容器が直腸に到達し、カプセル容器の表面の水分量が所定値を下回りかつ体内中心温度より高くなることにより当該切れ込みが開口し、液状化した油脂14が溶出する構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直腸の機能低下などにより自然排便が困難になっている動物に対して、口から飲んで直腸に達したときに自然排便を促す機能を発揮する排便促進カプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
排便のメカニズムについて、図4を参照して簡単に説明する。
図3は、直腸・肛門部の断面構造を示す。直腸51は全長約15〜20cmの腸管で、直腸51の筋肉が肛門へ連なって内肛門括約筋52となり、その外側の外肛門括約筋53と重なり、内・外の肛門括約筋が肛門管54を形成する。肛門管54は、男性で3〜4cm、女性で2〜3cmである。
【0003】
直腸51内に便がないときの肛門管54は、内肛門括約筋52の働きによって一定の圧力がかかり、意識しなくても閉じている。そして、腸の蠕動運動によって便が直腸51に移動し、直腸51内にある程度(150〜250 mL)の便が貯まると、その刺激に対する脊髄反射により内肛門括約筋52が弛緩して肛門管54を開こうとするが、このとき便意を感ずることにより外肛門括約筋53と肛門拳筋55を収縮させて肛門管54を閉じる。すなわち、無意識の状態で直腸51と内肛門括約筋52が便を保持し、便意を認識すると外肛門括約筋53等がもれを防ぐ仕組みである。そして、しゃがむことにより、直腸51と肛門管54の間の屈曲が拡大し、腹圧(イキミ)や直腸51の収縮によって直腸51内の内圧が高まると、反射的に外肛門括約筋53が弛緩して便が排泄される。排便が終了すると、内肛門括約筋52が収縮して肛門管54が閉じられる。
【0004】
このような排泄行為は、人間が生きていく上で非常に重要であるが、身体的障がいによって車椅子や歩行器等を利用しても自らトイレに行くことができない状況になると、いろいろな問題が生じてくる。まず、自らトイレに行けない要介護者は介護者に便意を伝え、介護者の手助けによってトイレに連れていってもらうことになる。しかし、介護者側の都合によって要介護者の便意に即時に対応できず、排便のタイミングを逸することがある。また、要介護者の障がい状況により、便意を自覚しても言葉や機械操作等によって介護者に伝達できない状況や、要介護者が便意自体を自覚できない状況では、仮に介護者が常時付き添っていても、要介護者の便意を察してトイレに連れてゆくことは極めて困難である。このような状況から排便の機会を逃すと、便は直腸から肛門管に達した段階で水分が吸収されて硬くなり、自力での排便が困難になる。
【0005】
このようになると、例えば特許文献1に記載のように、腸内にバルーンを挿入し、軟化剤を注入しながら便を吸引するような処置が必要になり、要介護者にとっては精神的にも身体的にも大きな負担となる。
【0006】
一方、内視鏡検査を容易にするために、口から飲み込んで肛門から排泄されるまでの間に所要の検査情報を収集する形態のカプセル型内視鏡が開発され、実用段階に入っている(特許文献2)。人体にとってこのような異物を飲み込んでも、排泄されることは実証されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平5−9554号公報
【特許文献2】特開2003−210395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
排便を容易にするために、下剤を投与して便を柔らかくする方法がとられるが、腹痛を起こしたり、過度の下痢をもたらして体調が悪化することがあった。また、初めの便塊は硬いまま排泄されるため、苦痛を伴うとともに裂痔や脱肛になりやすかった。また、バキューム吸引する場合でも、初めの硬い便塊を取り出すのは大変な苦痛を伴っていた。
【0009】
本発明は、直腸に達した便が水分を吸収されても柔らかい状態を保ち、自然排便を容易にする排便促進カプセルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、体内中心温度以下で固形またはゲル状となり、体内中心温度より高い温度で液状化する油脂を内部に充填した内服用のカプセルであって、柔軟性素材からなるカプセル容器に、外表面から内表面に貫通する複数の切れ込みが入れられており、当該切れ込みはカプセル容器が体内中心温度以下またはその表面の水分量が所定値以上の場合に閉口する構成であり、カプセル容器が直腸に到達し、カプセル容器の表面の水分量が所定値を下回りかつ体内中心温度より高くなることにより当該切れ込みが開口し、液状化した油脂が溶出する構成である。
【0011】
カプセル容器の両極の位置にそれぞれ、磁石が互いのN極とS極が対向する向きに埋め込まれ、その経線方向に切れ込みが入れられた構成である。
【0012】
磁石は、カプセル容器が直腸に到達してその内部に充填した油脂が液状したときに、両極を引きつけてカプセル容器を変形させる十分な磁力を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の排便促進カプセルは、直腸内でカプセル容器内の油脂を液状化させ、切れ込みから効果的に溶出させることにより、下剤のような腹痛や下痢を発生させることなく、また直腸内の便塊を小さくして自然排便に近い排便を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の排便促進カプセルの正面図である。
【図2】本発明の排便促進カプセルの断面投影図である。
【図3】直腸・肛門部の断面構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の排便促進カプセルの正面図である。図1(a) は、飲み込んでから直腸に到達する前の状態を示す。図1(b) は、直腸に到達して押しつぶされた状態を示す。
【0016】
図2は、本発明の排便促進カプセルの断面投影図である。図2(a) は、図1(a) に示すA−A断面を示し、図2(b) は、図1(a) に示すB−B断面を示す。
【0017】
図1および図2において、11は排便促進カプセルのカプセル容器であり、形状は例えば楕円球、材質はエラストマーのような変形可能な柔軟性素材である。その内部には、体内中心温度(内臓温度で例えば35度)以下ではゲル状または固形化し、体内中心温度より1〜2度高い直腸内温度になると液状に変化する油脂14が充填される。12−1,12−2はカプセル容器11の例えば両極部に配置される磁石であり、互いのN極とS極が対向する向きに埋め込まれている。
【0018】
13はカプセル容器11に形成され、カプセル容器11の外表面から内表面に貫通している複数の切れ込みである。切り込み13は、カプセル容器11の中心から放射状に形成されてもよいし、図2(b) に示すように斜め方向に形成されていてもよい。また、切れ込み13は、例えば磁石12−1,12−2が両極に位置するときに経線方向に形成される例を示すが、カプセル容器11の変形を促進するような形状および位置であれば、ランダムな方向であってもよい。また、切れ込み13は、カプセル容器11が体内中心温度以下であったり、直腸直前までの所定の水分量以上の状態では、エラストマーどうしが吸着して閉じている。一方、直腸に到達し、水分吸収によってカプセル表面の水分が減少して所定の水分量を下回り、かつ体内中心温度より高くなると、切れ込み13が開口する。このとき、カプセル容器11の開口した切れ込み13から液状化した油脂14が溶出する。
【0019】
このようなカプセル容器11および切れ込み13の性質は、カプセル容器11を形成するエラストマーのような柔軟性のある高分子素材にみられる特徴である。すなわち、カプセル容器11の切れ込みは、体内中心温度以下または所定の水分量以上であると吸着しているが、直腸内で体内中心温度より高くなりかつ所定の水分量を下回ると開口しやすくなる。植物の椿やヒメシャラの実も同様の性質を有する。
【0020】
本発明の排便促進カプセルは、口から飲み込んで直腸に到達するまでは、所定の水分量によってカプセル容器11の切れ込み13は閉口し、カプセル容器11内の油脂14が体温で液状化しても保持される。排便促進カプセルが直腸に到達し、水分が吸収されて所定の水分量を下回り、かつ体内中心温度より高くなると切れ込み13が開口し、液状化した油脂14が切れ込み13から直腸内に溶出する。なお、油脂14がオブラートや寒天などの植物繊維の薄膜や、ゼリー粉のような動物繊維で覆われていても、膜表面の水分が吸収されたりカプセル容器11の変形によって裂けやすくなり、切り込み13から溶出する。
【0021】
さらに、排便促進カプセルは、内部の油脂14が液状化して形状が不安定になり、直腸の圧力および蠕動運動や、磁石12−1,12−2の引力によって変形しやすくなり、内部の油脂14を押し出す方向に圧力がかかり、開口した切り込み13溶出しやすくなる。直腸内に溶出した油脂14は、直腸内の便を柔らかくしたり小さな便塊に分離させたり、さらに直腸内の蠕動筋を刺激する。これにより、カプセル容器11は押しつぶされる方向に力が働き、さらに2つの磁石12−1,12−2が引き合いながら接近し、最終的に接触することで、カプセル容器11内の油脂14はほとんどが直腸内に絞り出され、平板化した排便促進カプセルが便とともに排出される。
【符号の説明】
【0022】
11 カプセル容器
12−1,12−2 磁石
13 切れ込み
14 油脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内中心温度以下で固形またはゲル状となり、体内中心温度より高い温度で液状化する油脂を内部に充填した内服用のカプセルであって、
柔軟性素材からなるカプセル容器に、外表面から内表面に貫通する複数の切れ込みが入れられており、当該切れ込みはカプセル容器が前記体内中心温度以下またはその表面の水分量が所定値以上の場合に閉口する構成であり、
前記カプセル容器が直腸に到達し、前記カプセル容器の表面の水分量が前記所定値を下回りかつ前記体内中心温度より高くなることにより当該切れ込みが開口し、液状化した前記油脂が溶出する構成である
ことを特徴とする排便促進カプセル。
【請求項2】
請求項1に記載の排便促進カプセルにおいて、
前記カプセル容器の両極の位置にそれぞれ、磁石が互いのN極とS極が対向する向きに埋め込まれ、その経線方向に前記切れ込みが入れられた構成である
ことを特徴とする排便促進カプセル。
【請求項3】
請求項2に記載の排便促進カプセルにおいて、
前記磁石は、前記カプセル容器が直腸に到達してその内部に充填した油脂が液状したときに、両極を引きつけて前記カプセル容器を変形させる十分な磁力を有する
ことを特徴とする排便促進カプセル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−1450(P2012−1450A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135211(P2010−135211)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】