説明

排気系の消音装置

【課題】 広い周波数領域にわたって効率的に排気騒音を低減する。
【解決手段】 マフラのシェル10の側壁12に開口13を設け、振動吸収板34と制御駆動部36とをフレーム32に支持した振動制御ユニット30を上記開口にその振動吸収板を排気の流入空間である第1室2に向けて取り付ける。振動制御ユニットは制御室38により囲まれている。制御駆動部36は制御装置40からの信号により振動吸収板の振動に対する抵抗特性を制御する。これにより振動吸収板が排気脈動と共振して消音する。抵抗特性の制御により共振点を変化させ、広い周波数領域で消音できる。振動吸収板の共振により発生する音は制御室に囲まれているため、外部へ出力されない。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車両の排気系に用いられる消音装置に関する。
【0002】
【従来の技術】車両の排気系には排気管途中にマフラが設けられて排気騒音を低減するようになっているが、さらにその騒音低減効果を向上させるため種々の消音装置に関する提案が行われている。このような従来の消音装置として、本出願人は先に実開平4−105917号公報に開示されたようなものを提案している。
【0003】この装置では、マフラの側壁に可動部を設け、車体とその可動部の間に弾性体を配置してマフラを通過する脈動音波と逆位相の音圧を発生させて、消音を行うようにしている。すなわち、エンジン振動によって排気系全体が振動する際の変位に対して、共振による逆変位を与えて脈動音波による騒音を抑えるものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記装置では所定の脈動騒音は抑制することができるが、その効果はあらかじめ設定された共振点近傍の周波数領域に限定される。したがって、車種、エンジン機種、あるいは排気系の搭載態様が異なると騒音の周波数領域も変化するから、それぞれに応じて共振点を変える必要がある。
【0005】この対策として、特性の異なる弾性体を選択すればその共振点を変えることができるが、そのためには多種類の弾性体を準備しておかなければならない。しかもその場合主な騒音に対して最適な弾性体を選択したとしても、結局それは特定範囲での消音に止まるので、例えば常時変化するエンジン回転に伴う広い範囲での排気の騒音を低減することは困難であった。
【0006】したがって、本発明は、多数の部品を準備する必要なしに広い範囲にわたって効率的に排気騒音を低減することのできる排気系の消音装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】このため、請求項1記載の本発明は、エンジンの排気系に設けられたマフラの外壁または内部空間を区画する隔壁に開口が設けられ、振動吸収板と該振動吸収板の振動に対する抵抗特性を制御する制御駆動部とを備える振動制御ユニットが上記開口にその振動吸収板を排気の流入空間に向けて取り付けられ、振動制御ユニットが制御室により囲まれていることを特徴とするものとした。
【0008】振動吸収板が排気脈動と共振して消音する。この際、制御駆動部が振動吸収板の振動に対する抵抗特性を制御することにより共振点を変化させることができ、広い周波数領域で消音される。振動吸収板の共振により発生する音は振動制御ユニットが制御室により囲まれているため、外部へ出力されない。
【0009】上記の制御室は、マフラの外壁の外側に設けられた室とすることができ、あるいは隔壁で区画されたマフラの内部の室とすることができる。また、2組の振動制御ユニットを用いて、これらを排気の流入空間を挟んで振動吸収板を互いに対向させて配置することができる。
【0010】そして、制御駆動部はコイルと磁性体を備え、外部の制御部からの制御信号によってその電磁吸引力を制御して振動吸収板の振動に対する抵抗特性を変化させるのが好ましい。
【0011】請求項5記載の発明は、振動制御ユニットをマフラに設ける代わりに、エンジンの排気系に設けられた排気管に分岐管を介してケーシングを接続し、ケーシング内部を振動制御ユニットにより分岐管に連通する室と分岐管から遮断された室とに2分して、振動制御ユニットはその振動吸収板を分岐管に連通する室に向けて配置するものとした。これによっても、請求項1の発明と同様に、広い周波数領域で排気の騒音が消音されるとともに、排気管途中に介挿するので、設置スペースを確保するのが容易である
【0012】
【発明の実施の形態】つぎに、本発明の実施の形態を実施例により説明する。図1は第1の実施例を示すマフラの断面図である。マフラ1はシェル10の内部に隔壁18、20が設けられて中央の第1室2、およびその両側の第2室3、第3室4に区画されている。排気流入管22がシェル10の一端側の端壁14から隔壁18を貫通して第1室2に開口し、また、第2室3に開口した排気流出管25が隔壁20を貫通してシェル10の他端の端壁16から外部へ延びている。さらに、第2室3と第3室4を連通する連通管23が隔壁18、20にわたって設けられ、また、第1室2と第3室4を連通する連通管24が隔壁20に設けられている。
【0013】排気流入管22、排気流出管25および連通管23には各管が延びる各室に臨んで多数の小孔27、28、29が設けられ、通過抵抗によって排気のエネルギーを低減するようになっている。またこの例では第3室4がヘルムホルツ型共鳴室を形成している。なお、この共鳴室を含みマフラ1の全体構造は特定の周波数領域を対象として消音効果が得られるようチューニングを行いながら設計される。
【0014】シェル10の側壁12には、開口13が設けられ、この開口部に振動制御ユニット30が設置されている。振動制御ユニット30は、開口13の縁部に結合されるフレーム32を備え、このフレーム32に耐熱性金属板、例えばJIS−SUS430やSUS304(ステンレス)等の箔材から形成された振動吸収板34がその周縁で支持されている。
【0015】振動吸収板34は波形コーン形状で、その中心部がコイルと磁性体からなる制御駆動部36に接続されている。この制御駆動部36もフレーム32に固定支持されている。これら、振動吸収板34、制御駆動部36およびフレーム32からなる振動制御ユニット30は全体として音響機器におけるスピーカの形態をなしている。
【0016】なお、振動吸収板の形状は、波形コーン形状のほか、図2の(a)に符号34Aで示す平滑コーン形状、(b)に34Bで示すコンベックス形状、(c)に34Cで示すホーン形状、(d)に34Dで示す逆ホーン形状、(e)に34Eで示す波形ストレート形状、(f)に34Fで示す平板状など、適宜の断面形状を選択可能である。
【0017】シェル10の側壁12外方には、開口13まわりに制御室38が設けられ、振動制御ユニット30を囲んでいる。なお、図1においては、振動制御ユニット30のフレーム32が密閉型でシェル10内部と制御室38の空間とを遮断しているが、シェル内部と制御室空間とが遮断される限りにおいてフレーム32の振動吸収板34より制御室空間側は一部開放されていてもよい。
【0018】振動制御ユニット30はその制御駆動部36が配線42によってマフラ外部に設置された制御装置40に接続され、制御信号を受けるようになっている。制御駆動部36は制御信号によってその電磁吸引力を変化させ、接続された振動吸収板34の振動に対する抵抗特性を変化させる。
【0019】本実施例は以上のように構成され、制御信号によって振動吸収板34の振動特性を変化させることができるようになっているので、広い周波数範囲にわたって振動吸収板34の共振点を変化させることができる。これにより、例えば排気脈動による騒音に対しては共振点が当該脈動の振動数付近となるように振動制御ユニット30の制御駆動部36を駆動して振動吸収板34の振動に対する抵抗を制御することにより、車種、エンジン機種、あるいは排気系の搭載態様が異なっても容易にその騒音を低減することができる。
【0020】実験解析によれば、制御室38の空間が共鳴室、振動吸収板34が共鳴室の首(コンダクティビティ)として作用している。通常のヘルムホルツ型共鳴室は相当の容積、とくに低周波の減衰のためには大きな容積を要し、またチューニングによる効果があってもそれは特定周波数領域に限定されるが、本実施例によれば小型に形成されて、しかも制御装置による電気的な制御で広い周波数領域について排気騒音を消音できるという効果が得られる。
【0021】振動制御ユニット30の作動に際しては振動吸収板34が共振により振動するが、振動制御ユニット30は制御室38により囲まれているので、振動吸収板34が可聴周波数の音を発生する場合があっても外部へは放出されない。
【0022】図3、図4は、振動制御ユニット装着の変形例を示す。図3のマフラ50は、シェル60内部が隔壁68により第1室52と第2室54に区画され、排気流入管22がシェルの端壁64から第2室54を貫通して第1室52に開口し、他方の端壁66から排気流出管25が延びている。そして、隔壁68に排気流入管22の開口と並んで開口69が設けられ、この開口69に振動制御ユニット30が取り付けられている。ここでは、第2室54が振動制御ユニット30を囲む制御室となっている。これによっても、排気流入管22から第1室52へ流入する排気の脈動と振動吸収板34が共振して消音がなされる。
【0023】図4は2つの振動制御ユニット30A、30Bを設けたものである。(a)は縦断面図、(b)は(a)におけるA−A部横断面を示す。 シェル80の一方の端壁84の中央に排気流入管22が取り付けられ、他方の端壁86に排気流出管25が取り付けられたマフラ70において、排気流入管22の軸線Sを挟んで対称に隔壁88、90が設けられ、排気の流れ方向に並列に中央の第1室72とその両側の第2室73、第3室74が区画されている。
【0024】隔壁88、90にはそれぞれ対向する開口89、91が形成され、第2、第3室73、74に位置させてこれらの開口部に振動制御ユニット30A、30Bが対向して設置される。第2室73および第3室74がそれぞれ振動制御ユニットを囲む制御室となっている。振動制御ユニット30Aおよび30Bはそれぞれ前述の振動制御ユニット30と同構成である。この変形例では、広い周波数領域での消音機能を有する2つの共鳴室を備えたと同様の効果を有する。
【0025】なお、図1の実施例では制御室38をシェル10に対する付加的な室としたが、変形例におけるようにシェル内に区画された空間として制御室を構成することができる。同様に、図3、図4に示した変形例における制御室は逆にシェルの外側に付加した室として構成してもよい。
【0026】つぎに、第2の実施例について説明する。これは、排気系の排気管途中に、振動制御ユニットを備える振動吸収装置を設けたものである。図5に示すように、プリマフラ101から延びる排気管102とメインマフラ103の排気流入管104との間に、振動吸収装置110が介挿されている。なお、プリマフラ101はさらに図示しない排気管を介してエンジンの排気マニホルドに接続され、その途中には必要に応じて触媒コンバータやフレキシブルチューブなどが介挿される。
【0027】振動吸収装置110は、排気管102と排気流入管104を結ぶ通流管112と通流管から分岐した分岐管114を備え、分岐管114の先端はケーシング116に開口接続している。ケーシング116内には振動制御ユニット30がその振動吸収板34を分岐管114の開口118に向けて設置されている。振動制御ユニット30は前実施例で説明したものと同一である。振動吸収装置110は、ケーシング116内を分岐管114に連通する第1室119と分岐管114から遮断された制御室120の2室に区画している。
【0028】振動吸収装置110は通流管112の両端に設けられた取付フランジ121、122によって排気管102およびメインマフラ103の排気流入管104に結合される。そして、振動制御ユニット30は振動吸収装置の外部に設置された制御装置40に接続され、制御信号を受けるようになっている。制御駆動部36は制御信号によってその電磁吸引力を変化させ、接続された振動吸収板34の振動に対する抵抗特性を変化させる。
【0029】本実施例は以上のように構成され、前実施例と同様に、制御信号によって振動吸収板34の振動特性を変化させることができるようになっているので、広い周波数範囲にわたって振動吸収板の共振点を変化させ、消音することができる。そして、振動制御ユニット30を含む振動吸収装置110を排気管途中に介挿するので、すでに相当の容積をもつプリマフラやメインマフラに振動制御ユニットを設けてさらに大きくする場合に比較して、設置スペースを確保するのが容易であるというメリットがある。さらに、振動制御ユニットが分岐管により排気の流れから離れた部位に設置されているので、その振動吸収板や制御駆動部の電気回路等への熱の影響が低減される。
【0030】
【発明の効果】以上のとおり、本発明はマフラの外壁または隔壁に開口を設け、振動吸収板とその振動に対する抵抗特性を制御する制御駆動部とを備える振動制御ユニットをその振動吸収板を排気の流入空間に向けて上記開口に取り付け、振動制御ユニットを制御室により囲んだものとしたので、抵抗特性を制御して振動吸収板の共振点を変化させることにより広い周波数領域で排気騒音を消音できるという効果を有する。しかも、通常のヘルムホルツ型共鳴室に対して小型に形成できる。
【0031】また、振動制御ユニットをマフラに設ける代わりに、エンジンの排気系に設けられた排気管に分岐管を介してケーシングを接続し、ケーシング内部を振動制御ユニットにより分岐管に連通する室と分岐管から遮断された室とに2分して、振動制御ユニットの振動吸収板を分岐管に連通する室に向けて配置するものとすることにより、同じ効果が得られるとともに、設置スペースの確保がより容易となる。また、振動制御ユニットが分岐管により排気の流れから離れた部位に設置されるから、その振動吸収板や制御駆動部の電気回路等への熱の影響が低減される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例を示すマフラの断面図である。
【図2】振動吸収板の形状例を示す図である。
【図3】振動制御ユニット装着の変形例を示す図である。
【図4】振動制御ユニット装着の変形例を示す図である。
【図5】第2の実施例を示す図である。
【符号の説明】
1、50、70 マフラ
2、52、72 第1室(排気の流入空間)
119 第1室
3、54、73 第2室
4、74 第3室
10、60、80 シェル
12 側壁(外壁)
13、69、89、91、118 開口
14、16、64、66、84、86 端壁
18、20、68、88、90 隔壁
22 排気流入管
23、24 連通管
25 排気流出管
27、28、29 小孔
30、30A、30B 振動制御ユニット
32 フレーム
34 振動吸収板
36 制御駆動部
38、120 制御室
40 制御装置
42 配線
101 プリマフラ
102 排気管
103 メインマフラ
104 排気流入管
110 振動吸収装置
112 通流管
114 分岐管
116 ケーシング
119、120
121、122 取付フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 エンジンの排気系に設けられたマフラ(1、50、70)の外壁(12)または内部空間を区画する隔壁(68、88、90)に開口(13、69、89、91)が設けられ、振動吸収板(34)と該振動吸収板の振動に対する抵抗特性を制御する制御駆動部(36)とを備える振動制御ユニット(30、30A、30B)が前記開口にその振動吸収板を排気の流入空間(2、52、72)に向けて取り付けられ、前記振動制御ユニットが制御室(38、54、73、74)により囲まれていることを特徴とする排気系の消音装置。
【請求項2】 前記制御室がマフラの外壁(12)の外側に設けられた室(38)であることを特徴とする請求項1記載の排気系の消音装置。
【請求項3】 前記制御室が前記隔壁(68、88、90)で区画されたマフラの内部の室(54、73、74)であることを特徴とする請求項1記載の排気系の消音装置。
【請求項4】 前記振動制御ユニットが排気の流入空間を挟んで前記振動吸収板(34)を互いに対向させて配置された2組(30A、30B)で構成されていることを特徴とする請求項1、2または3記載の排気系の消音装置。
【請求項5】 エンジンの排気系に設けられた排気管(102)に分岐管(114)を介してケーシング(116)が接続され、ケーシング内部は、振動吸収板(34)と該振動吸収板の振動に対する抵抗特性を制御する制御駆動部(36)とを備える振動制御ユニット(30)により前記分岐管に連通する室(119)と分岐管から遮断された制御室(120)とに2分され、該振動制御ユニットはその振動吸収板を前記分岐管に連通する室に向けて配置されていることを特徴とする排気系の消音装置。
【請求項6】 前記制御駆動部(36)はコイルと磁性体を備え、外部の制御装置(40)からの制御信号によってその電磁吸引力を制御して前記振動吸収板(34)の振動に対する抵抗特性を変化させるものであることを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の排気系の消音装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2000−110542(P2000−110542A)
【公開日】平成12年4月18日(2000.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−283846
【出願日】平成10年10月6日(1998.10.6)
【出願人】(000004765)カルソニック株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】