説明

排水の生物処理プロセスシミュレーション方法及び装置

【課題】 排水の生物処理プロセスを、生物反応モデルを用いて高精度にシミュレーションする。
【解決手段】 シミュレーション用のモデル格納部と該モデル格納部に格納されたモデルに基づき演算処理を行う演算処理部とを備えたシミュレーション装置であって、前記モデル格納部に、少なくとも生物反応タンクモデルと最終沈殿池モデルを格納し、該最終沈殿池モデルを、最終沈殿池における(a)生物反応、(b)固液分離、(c)固液分離水が最終沈殿池越流水として流出するまでの時間遅れ、を考慮したモデルとし、生物反応が考慮された最終沈殿池モデルを導入した高精度のミュレーションを行えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水の生物処理プロセスの設計や運転を支援するために、同プロセスを生物反応モデルを用いてシミュレーションするための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排水処理施設では、活性汚泥と呼ばれる微生物群を利用した生物学的処理が広く行われている。
近年、下水処理の高度処理化(有機物に加えて、栄養塩類である窒素・りんも除去対象とする処理)が進んでおり、このような高度処理化に伴ってプロセスは複雑化し、運転管理因子は増加している。排水の高度処理施設は、有機物、窒素、りん除去に関連する各種微生物の生息環境を適切に維持することによって性能が発揮されるので、その性能が最大限に発揮されるように合理的な設計及び運転がなされる必要がある。
【0003】
地方への下水道の普及に伴い、小規模下水道処理施設が多くなっているが、その処理方法としては、オキシデーションディッチ(OD)法が採用されることが多い。このOD法は、曝気装置を備えた水深の浅い無終端水路からなる生物反応槽(OD槽)において低負荷条件で活性汚泥処理を行った後、最終沈殿池で固液分離を行うものである。
OD法は、元来、有機物除去を主たる目的としているが、高度処理化のために窒素、りん除去を行おうとする場合、OD法施設の設計及び運転は経験と勘に基づいて行われてきた。
一方、最近、OD法施設の設計や運転を支援するために、生物反応モデルを用いたシミュレーション装置が提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【特許文献1】特開2001−334253号公報
【特許文献2】特開2001−334286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これら特許文献1,2をはじめとする従来技術では、最終沈殿池での現象をもモデル化して活性汚泥処理プロセスのシミュレーションを行うものであるが、用いられる最終沈殿池モデルは、最終沈殿池における固液分離現象を表現するために、固液分離プロセスをモデル化したものに過ぎない。
また、非特許文献1には生物反応モデルを用いたシミュレーションにおける最終沈殿池モデルが示されているが、この最終沈殿池モデルも最終沈殿池内での固液分離現象の表現を主眼としたものである。
【非特許文献1】「活性汚泥モデルの実務利用に関する検討報告書」(活性汚泥モデル研究会,2001.5)
【0005】
しかし、本発明者らが検討したところによれば、最終沈殿池においても、曝気槽から持ち込まれる酸素によって活性汚泥処理プロセスの設計や運転に影響を与えるような生物反応が生じており、したがって、このような最終沈殿池における生物反応を考慮しない生物反応モデルを用いる従来技術は、最終沈殿池において生じる事象を十分に再現しておらず、結果として活性汚泥処理プロセスのシミュレーションを高精度に行うことができないことが判った。
したがって本発明の目的は、最終沈殿池において生じる事象を精度よく再現し、排水の生物処理プロセスのシミュレーションを高精度に行うことができるシミュレーション方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、最終沈殿池においても、曝気槽から持ち込まれる酸素によって排水の生物処理プロセスの設計や運転に影響を与えるような生物反応が生じており、このような最終沈殿池における生物反応を考慮した最終沈殿池モデルを用いることにより、排水の生物処理プロセスのシミュレーションを高精度に行うことができることを見出し、なされたものであり、以下のような特徴を有するものである。
【0007】
[1] シミュレーション用のモデル格納部と該モデル格納部に格納されたモデルに基づき演算処理を行う演算処理部とを備えた排水の生物処理プロセスシミュレーション装置において、
前記モデル格納部に、少なくとも生物反応タンクモデルと最終沈殿池モデルを格納し、該最終沈殿池モデルが、最終沈殿池における(a)生物反応、(b)固液分離、(c)固液分離水が最終沈殿池越流水として流出するまでの時間遅れ、を考慮したモデルであることを特徴とする排水の生物処理プロセスシミュレーション装置。
[2] 上記[1]のシミュレーション装置において、最終沈殿池モデルが、第1生物反応部、固液分離部、第2生物反応部、固液分離水滞留部(固液分離水が最終沈殿池越流水として流出するまでの時間遅れを表現した区画)、の4区画から構成されていることを特徴とする排水の生物処理プロセスシミュレーション装置。
【0008】
[3] 生物反応槽への流入水に関する情報を入力値として、生物反応タンクモデルに基づき生物反応槽に関する演算処理を実行する生物反応演算ステップと、前記生物反応槽からの流出水に関する情報を入力値として、最終沈殿池における(a)生物反応、(b)固液分離、(c)固液分離水が最終沈殿池越流水として流出するまでの時間遅れ、を考慮した最終沈殿池モデルに基づき最終沈殿池に関する演算処理を実行する最終沈殿池演算ステップとを備えたことを特徴とする排水の生物処理プロセスシミュレーション方法。
[4] 上記[3]のシミュレーション方法において、最終沈殿池モデルが、第1生物反応部、固液分離部、第2生物反応部、固液分離水滞留部(固液分離水が最終沈殿池越流水として流出するまでの時間遅れを表現した区画)、の4区画から構成されていることを特徴とする排水の生物処理プロセスシミュレーション方法。
【0009】
[5] コンピュータに、生物反応槽への流入水に関する情報を入力値として、生物反応タンクモデルに基づき生物反応槽に関する演算処理を実行する生物反応演算ステップと、前記生物反応槽からの流出水に関する情報を入力値として、第1生物反応部、固液分離部、第2生物反応部、固液分離水滞留部(固液分離水が最終沈殿池越流水として流出するまでの時間遅れを表現した区画)、の4区画から構成される最終沈殿池モデルに基づき最終沈殿池に関する演算処理を実行する最終沈殿池演算ステップとを実行させることを特徴とする排水の生物処理プロセスシミュレーションプログラム。
【0010】
[6] 上記[5]のシミュレーションプログラムにおいて、最終沈殿池演算ステップは、
(A)生物反応槽からの流出水に関する情報を入力値として、生物反応モデルに基づく第1生物反応部での生物反応に関する演算処理を実行する第1生物反応演算ステップと、
(B)前記第1生物反応演算ステップにおいて求められる第1生物反応部からの流出水に関する情報を入力値とし、予め設定されている固液分離条件に基づき、固液分離部において分離されて流出する固形成分と固液分離水に関する演算処理を実行する固液分離演算ステップと、
(C)前記固液分離部から流出する固形成分に関する情報を入力値として、生物反応モデルに基づく第2生物反応部での生物反応に関する演算処理を実行する第2生物反応演算ステップと、
(D)前記固液分離部から流出する固液分離水に関する情報を入力値とし、予め設定されている固液分離水滞留部に関する情報に基づき、最終沈殿池流出水に関する演算処理を実行する最終沈殿池流出水演算ステップと、
を備えていることを特徴とする排水の生物処理プロセスシミュレーションプログラム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生物反応が考慮された最終沈殿池モデルを導入したシミュレーションを行うことができるため、最終沈殿池において生じる事象を精度よく再現することができ、このため従来装置に較べて排水の生物処理プロセスのシミュレーションを高精度に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明のシミュレーションの対象となる生物処理プロセスの一例(OD槽及び最終沈殿池を用いる処理プロセス)を示している。OD槽1には、有機物、窒素、リンなどの基質を含む流入水3(汚水)と返送汚泥管5からの返送汚泥(活性汚泥)が流入し、混合撹拌が行われる。通常、OD槽1には複数台の曝気装置9が設けられ、この曝気装置9からOD槽1の生物処理に必要な酸素が供給される。また、OD槽1は、曝気装置9が活性汚泥と流入水を混合撹拌し、且つ混合液(処理水+活性汚泥)に流速を与えて無終端水路のOD槽内を循環させる機能を備える場合と、混合撹拌・循環のために別の装置10を設ける場合とがある。
OD槽1の混合液は最終沈殿池2に流入する。この最終沈殿池2では、活性汚泥が重力沈降し、上澄み液が最終沈殿池越流水として放流管8から放流される。一方、最終沈殿池2の沈降汚泥は汚泥引き抜き管11を介して引き抜かれ、その一部は返送ポンプ4によって返送汚泥管5を介してOD槽1へ送られ、残りの汚泥は余剰ポンプ6によって余剰汚泥管7を介して系外へ排出される。
【0013】
図2は本発明のシミュレーション装置のシステム構成図であり、図3はこのシミュレーション装置により実行されるシミュレーションの処理フローである。
モデル格納部18はデータベースの一部として設けられ、このモデル格納部18には、少なくとも、生物反応タンクモデルXと最終沈殿池モデルYが格納されるが、他のモデル(例えば、最初沈殿池モデル)が格納されてもよく、必要に応じてシミュレーションに利用される。
生物反応モデルとしては、例えば、下水処理場活性汚泥モデルの一種である“ASM2”(Activated Sludge Model No.2,文献名:IAWQ Task Group, Scientific and Technical Report No.3, 1995)やこれを発展させた“ASM2d”(Activated Sludge Model No.2d,文献名:Wat.Sci.Tech.vol.39,
No.1)などの水質モデルを用いることができる。
【0014】
本発明で使用する最終沈殿池モデルYは、最終沈殿池における(a)生物反応、(b)固液分離、(c)固液分離水が最終沈殿池越流水として流出するまでの時間遅れ、を考慮したモデルである点に特徴がある。実測データによると、最終沈殿池越流水及び返送汚泥とOD槽からの流入混合液との間の水質には差異が認められ、最終沈殿池においても生物反応を生じていることが明らかとなった。そして、この最終沈殿池モデルYは、そのような生物反応を前提とし、これを含めた最終沈殿池の機能又は最終沈殿池内の現象として、上記(a)〜(c)を考慮したモデルを構成したものである。
【0015】
また、この最終沈殿池モデルYは、通常、第1生物反応部、固液分離部、第2生物反応部、固液分離水滞留部(固液分離水が最終沈殿池越流水として流出するまでの時間遅れを表現した区画)という4つの区画から構成される。図4は、この最終沈殿池モデルYの概念図であり、最終沈殿池モデルYは下記(A)〜(D)の4つの区画から構成され、後述するように本発明では各区画毎にその機能又は現象を考慮した演算処理が行われる。
(A) OD槽からの混合液(流出水)の流入部である第1生物反応部
(B) 前記第1生物反応部からの混合液の全量が流入し、固形成分と固液分離水(溶解成分を含む)とが分離される固液分離部
(C) 前記固液分離部で分離された固形成分が流入する第2生物反応部
(D) 前記固液分離部で分離された固液分離水(溶解成分を含む)が流入する固液分離水滞留部(但し、この固液分離水滞留部は固液分離水が最終沈殿池越流水として流出するまでの時間遅れを考慮した区画である)
【0016】
この最終沈殿池モデルYの構成では、OD槽から流出した混合液(処理水+活性汚泥)の情報は、まず第1生物反応部(A)の入力情報として入力される。この第1生物反応部(A)は、実測データで見られるOD槽混合液と処理水(最終沈殿池越流水)との水質の違い、すなわち最終沈殿池内の混合液流入部での生物反応による処理水の水質変化を演算する区画である。この第1生物反応部(A)からの流出水の全情報は固液分離部(B)の入力情報として入力され、ここで難溶解性成分に関する情報と、溶解性成分を含む固液分離水の情報とが分離される。固液分離部(B)において、溶解性成分は分離されずに保存されるものとする。
【0017】
この固液分離部(B)で分離された固形分(難溶解性成分の大半)の情報と、固液分離部(B)にて保存された溶解性成分の情報は、返送汚泥の情報を表わすものとして第2生物反応部(C)の入力情報として入力される。一方、固液分離部(B)で分離されなかった難溶解性成分(処理水のSSに相当)の情報と、保存された溶解性成分を含む固液分離水の情報は、固液分離水滞留部(D)の入力情報として入力される。なお、固液分離部(B)で分離された固形分の情報と、固液分離部(B)で分離されなかった難溶解性成分の情報は、予め設定した割合に基づいて分配されるものとする。
【0018】
前記第2生物反応部(C)は、実測データで見られるOD槽混合液と返送汚泥の水質の違い、すなわち最終沈殿池内の主に汚泥沈降部での生物反応による処理水の水質変化を演算するための区画である。余剰汚泥を引抜く場合には、この第2生物反応部(C)からの流出水の情報のうちの一部が、余剰汚泥として系外に排出される分の情報として減じられ、残りが返送汚泥の情報を表わすものとして再度OD槽の入力情報として入力される。
前記固液分離水滞留部(D)は、処理水質の時間変動データを扱うことを念頭に、最終沈殿池での処理水の滞留を演算する区画であり、生物反応に基づく演算は一切行われないものとする。
上記の4つの各区画は、いずれも完全混合槽1槽または完全混合槽を複数直列に配した槽列モデルとする。各区画の容量および槽構成については、実施設の最終沈殿池を対象とした水理学的試験(例えば、トレーサー試験)、濃縮汚泥の界面高さに基づく汚泥濃縮部容積などにより決定することが望ましい。
【0019】
また、固液分離部(B)における固液分離モデルの表現は以下の通りである。
最終沈殿池モデルYで使われる9個の溶解性成分[Si](表1参照)、10個の難溶解性成分[Xi](表2参照)の計19個の変数について、第1生物反応部(A)からの出力情報すなわち固液分離部(B)の入力情報のうちの溶解性成分の濃度をSi1、難溶解性成分の濃度をXi1、水量をQ1とし、固液分離部(B)からの出力情報の中で、第2生物反応部(C)の入力情報となるもののうちの溶解性成分の濃度をSi2、難溶解性成分の濃度をXi2、水量をQ2とし、固液分離部(B)からの出力情報の中で、固液分離水滞留部(D)の入力情報となるもののうちの溶解性成分の濃度をSi3、難溶解性成分の濃度をXi3、水量をQ3とする。
【0020】
最終沈殿池モデルYへの入力情報のうち、難溶解性成分の情報は、便宜的に設けた微小容積の完全混合槽1槽である固液分離部(B)において瞬時に分離され、下記(1)に記載の式に基づいて算出された難溶解性成分が濃縮回収され、固液分離部(B)で分離されない溶解性成分とともに第2生物反応部(C)にて生物反応を受けた後に、OD槽へと返送されるものとして演算される。
余剰汚泥を引抜く場合には、第2生物反応部(C)からの出力情報のうちの一部が余剰汚泥として系外に排出される分の情報として減じられた上で演算される。下記(2)に記載の式に基づいて算出された難溶解性成分(処理水のSSに相当)の情報と、溶解性成分を含む固液分離水の情報は、固液分離水滞留部(D)において最終沈殿池での処理水の滞留を演算された後に、最終沈殿池越流水の情報として出力される。なお、固液分離部(B)において溶解性成分[Si]は保存され、第2生物反応部(C)および固液分離水滞留部(D)への流入水の情報として演算されるものとする。
【0021】
(1)固液分離部(B)からの出力情報の中で第2生物反応部(C)の入力情報となるもの
Si2=Si1
Xi2=Xi1×Q1×α÷Q2
但し α:最終沈殿池における固液分離性能を示す係数
(2)固液分離部(B)からの出力情報の中で固液分離水滞留部(D)の入力情報となるもの
Si3=Si1
Xi3=Xi1×Q1×(1−α)÷Q3
但し α:最終沈殿池における固液分離性能を示す係数
なお、固液分離部(B)からの出力情報は、固液分離水滞留部(D)において或る容積の完全混合槽に所定時間滞留して最終沈殿池での処理水の滞留を演算された後に、最終沈殿池越流水の情報として出力されるものとする。これにより、OD槽で間欠的な曝気処理が行われ、或いは流入水量や流入水質が変化する等によってOD槽流出水の水質が変動した場合でも、固液分離水滞留部(D)において最終沈殿池越流水の水質の変動が緩和される効果がある。
【0022】
本発明のシミュレーション装置では、まずキーボードなどの入力手段15で、OD槽への流入水や運転条件等に関する情報が入力される。この情報は、流入水量及び水質などに関するものであり、OD槽での生物反応をシミュレーションするのに必要な情報である。
演算処理部16では、以下のようなステップでシミュレーションが行われる(図3)。すなわち、コンピュータ上で生物処理プロセスのシミュレーションプログラムが実行される。
まず、生物処理演算ステップでは、OD槽への流入水に関する上記情報を入力値として、生物反応モデルに基づきOD槽に関する演算処理を実行する。この生物反応モデルとして用いられるASM2dのモデル式を次式(1)に、このモデル式で用いる9個の溶解物質[Si]と10個の難溶解性物質[Xi]の計19個の変数を表1及び表2に、モデル式のマトリクス表示を表3〜表6に、反応速度式を表7〜表9にそれぞれ示す。
[ASM2dのモデル式]
dCi/dt=Σ(Pij・vj) …(1)
但し Ci:水質成分(表1及び表2の変数が示す19種類)
Pij:パラメータ(表3〜表6のマトリクス内の数値および記号)
vj:反応速度式(表7〜表9)
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

【0026】
【表4】

【0027】
【表5】

【0028】
【表6】

【0029】
【表7】

【0030】
【表8】

【0031】
【表9】

【0032】
最終沈殿池演算ステップでは、上記生物処理演算ステップで得られたOD槽からの流出水に関する情報を入力値として、最終沈殿池における(a)生物反応、(b)固液分離、(c)固液分離水が最終沈殿池越流水として流出するまでの時間遅れ、を考慮した最終沈殿池モデルYに基づき最終沈殿池に関する演算処理を実行する。
この最終沈殿池演算ステップでは、最終沈殿池モデルYの4つの区画に従い、まず、第1生物反応演算ステップにおいて、上記生物処理演算ステップで得られたOD槽からの流出水に関する情報を入力値として、生物反応タンクモデルXに基づく第1生物反応部での生物反応に関する演算処理を実行する。生物反応モデルとしては、先に挙げたASM2、ASM2dなどを用いることができ、その場合には先に述べたようなモデル式で演算処理がなされる。
【0033】
固液分離演算ステップでは、前記第1生物反応演算ステップにおいて求められる第1生物反応部からの流出水に関する情報を入力値とし、先に述べたような予め設定されている固液分離条件に基づき、固液分離部において分離されて流出する固形成分と固液分離水に関する演算処理を実行する。具体的な一例を挙げると、最終沈殿池における固液分離性能を示すαを0.9995として、OD槽内MLSSを4000mg/L、汚泥返送比を100%とした時に、最終沈殿池越流水のSSは4mg/Lとなる。
【0034】
第2生物反応演算ステップでは、前記固液分離演算ステップにおいて求められた固液分離部から流出する固形成分に関する情報を入力値として、生物反応タンクモデルXに基づく第2生物反応部での生物反応に関する演算処理を実行する。生物反応モデルとしては、先に挙げたASM2、ASM2dなどを用いることができ、その場合には先に述べたようなモデル式で演算処理がなされる。
最終沈殿池流出水演算ステップでは、前記固液分離演算ステップにおいて求められた固液分離部から流出する固液分離水に関する情報を入力値とし、先に述べたような予め設定されている固液分離水滞留部に関する情報に基づき、最終沈殿池流出水に関する演算処理を実行する。
【0035】
図5は、本発明のシミュレーション装置20を下水処理プラントの一つであるOD法の設計に適用した場合の一例を示す機能構成図である。データ設定装置30はシミュレーションに必要なデータをキーボード71やマウス72を用いて入力し、モニタ73に表示される。
データベース40にはモデル格納部が設けられ、このモデル格納部内に先に述べたような生物反応タンクモデルXと最終沈殿池モデルYが格納されている。
流入条件設定手段31は流入汚水量及び流入水質の濃度の設定を行う。ここで水質とは、例えば、有機物(溶解性と難溶解性)、アンモニア性窒素、全窒素、リン、浮遊物濃度、アルカリ度、溶存酸素、硝酸性窒素、水温などである。
OD槽形状設定手段32はOD法に用いられている複数のOD槽の形状からシミュレーション対象となる形状を選択する。OD槽寸法設定手段33はOD槽形状設定32で選択されたOD槽に対し、池長、ハンチ幅、水路幅及び水深の寸法データを設定する。流入・流出位置設定手段34は、流入水3がOD槽1への流入位置、返送汚泥がOD槽1への流入位置、OD槽1から最終沈殿池2への流出位置をそれぞれOD槽に設定する。
【0036】
曝気装置位置設定手段35は、複数台の曝気装置9についてそれぞれの配置位置をOD槽に設定する。曝気装置仕様設定手段36は、曝気装置9の酸素供給性能や撹拌性能を設定する。酸素供給性能は、例えば、総括酸素移動係数、酸素溶解効率などであり、また、撹拌性能は、例えば、速度と回転方向によってOD槽内に与える流速や水流の流れ方向などである。
運転条件設定手段37は、曝気装置9の曝気や非曝気の運転方法、最終沈殿池2からの返送汚泥量、余剰汚泥量などの運転条件設定する。
【0037】
これらデータ設定装置30から設定されたシミュレーション条件はデータベース40に格納される。また、モニタ73に設定内容を表示する。
OD槽分割手段45は、データベース40のシミュレーションデータを参照し、所定の方式でOD槽を複数の完全混合槽に分割し、さらに、流入・流出位置設定手段34にて設定した流入下水および返送汚泥の流入位置、最終沈殿池への流出位置および曝気装置9などの配置位置を分割された個々の完全混合槽に対応させて、これらのデータをデータベース40に格納する。
演算装置50はデータベース40のシミュレーション条件に基づき、先に述べた生物反応演算ステップと最終沈殿池演算ステップを用いて、分割された個々の完全混合槽および、OD槽流出、最終沈殿池、返送汚泥、余剰汚泥の水質、汚泥濃度及び流量を計算し、その結果をデータベース40に格納する。
【0038】
前記生物反応演算ステップは、データベース40のモデル格納部内に格納された生物反応タンクモデルX、最終沈殿池モデルYを用いて、先に述べたような演算を行い、主として生物反応によって変化する水質及び汚泥濃度の変化を求める。
データ編集手段60は、データベース40のデータを参照してデータ編集を行い、モニタ73に出力する。また、データベース40のデータを参照してプロファイル、トレンドグラフ、計算結果一覧表、除去率、物質収支などの形式でデータ編集を行い、編集結果を入出力手段70に送信する。
【実施例】
【0039】
本発明装置を用いて、オキシデーションディッチ法による実施設の稼動状況を再現した。
1日当たりの実処理水量が約1200mの実際の処理場における最終沈殿池越流水の実測値と、本発明のシミュレーション装置を用いて計算した計算値と、他の装置による計算値を図6に示す。ここで、他の装置による計算値とは、本発明のうちの最終沈殿池における(a)生物反応、(C)固液分離水が最終沈殿池越流水として流出するまでの時間遅れ、を考慮せずに計算した計算値を示している。
図6は、有機物の指標としてD−CODcr、窒素としてNH−NおよびNOx−N、りんとしてPO−Pに着目し、朝9時を基点として翌日の9時までの24時間における最終沈殿池越流水の変動状況を示している。流入水量、流入水質、曝気装置運転状況、返送汚泥量、余剰汚泥引抜き量については、それぞれ実状の日間変動のとおりの変動を与えて計算した。本発明装置によるいずれの計算値も、最終沈殿池越流水の水質の時間変化を含めて、実測値が精度良く表現されていることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明を適用する活性汚泥プロセスの概略構成図
【図2】本発明のシミュレーション装置のシステム構成図
【図3】本発明のシミュレーション装置によるシミュレーションの処理フローを示す説明図
【図4】本発明で用いる最終沈殿池モデルの概念図
【図5】本発明の一実施例によるシミュレーション装置の機能構成図
【図6】実施例における最終沈殿池越流水の実測地、本発明装置による計算値及び他の装置による計算値を示すグラフ
【符号の説明】
【0041】
1…OD槽
2…最終沈殿池
3…流入水
4…返送ポンプ
5…返送汚泥管
6…余剰ポンプ
7…余剰汚泥管
8…放流管
9…曝気装置
10…混合撹拌・循環装置
11…汚泥引抜き管
15…入力手段
16…演算処理部
17…出力手段
18…モデル格納部
20…シミュレート装置
30…データ設定装置
31…流入条件設定手段
32…OD槽形状設定手段
33…OD槽寸法設定手段
34…流入・流出位置設定手段
35…曝気装置位置設定手段
36…曝気装置仕様設定手段
37…運転条件設定手段
40…データベース
45…OD槽分割設定手段
50…演算装置
60…データ編集手段
63…プラント入力手段
70…入出力装置
71…キーボード
72…マウス
73…モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シミュレーション用のモデル格納部と該モデル格納部に格納されたモデルに基づき演算処理を行う演算処理部とを備えた排水の生物処理プロセスシミュレーション装置において、
前記モデル格納部に、少なくとも生物反応タンクモデルと最終沈殿池モデルを格納し、該最終沈殿池モデルが、最終沈殿池における(a)生物反応、(b)固液分離、(c)固液分離水が最終沈殿池越流水として流出するまでの時間遅れ、を考慮したモデルであることを特徴とする排水の生物処理プロセスシミュレーション装置。
【請求項2】
最終沈殿池モデルが、第1生物反応部、固液分離部、第2生物反応部、固液分離水滞留部(固液分離水が最終沈殿池越流水として流出するまでの時間遅れを表現した区画)、の4区画から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の排水の生物処理プロセスシミュレーション装置。
【請求項3】
生物反応槽への流入水に関する情報を入力値として、生物反応タンクモデルに基づき生物反応槽に関する演算処理を実行する生物反応演算ステップと、前記生物反応槽からの流出水に関する情報を入力値として、最終沈殿池における(a)生物反応、(b)固液分離、(c)固液分離水が最終沈殿池越流水として流出するまでの時間遅れ、を考慮した最終沈殿池モデルに基づき最終沈殿池に関する演算処理を実行する最終沈殿池演算ステップとを備えたことを特徴とする排水の生物処理プロセスシミュレーション方法。
【請求項4】
最終沈殿池モデルが、第1生物反応部、固液分離部、第2生物反応部、固液分離水滞留部(固液分離水が最終沈殿池越流水として流出するまでの時間遅れを表現した区画)、の4区画から構成されていることを特徴とする請求項3に記載の排水の生物処理プロセスシミュレーション方法。
【請求項5】
コンピュータに、
生物反応槽への流入水に関する情報を入力値として、生物反応タンクモデルに基づき生物反応槽に関する演算処理を実行する生物反応演算ステップと、前記生物反応槽からの流出水に関する情報を入力値として、第1生物反応部、固液分離部、第2生物反応部、固液分離水滞留部(固液分離水が最終沈殿池越流水として流出するまでの時間遅れを表現した区画)、の4区画から構成される最終沈殿池モデルに基づき最終沈殿池に関する演算処理を実行する最終沈殿池演算ステップとを実行させることを特徴とする排水の生物処理プロセスシミュレーションプログラム。
【請求項6】
最終沈殿池演算ステップは、
(A)生物反応槽からの流出水に関する情報を入力値として、生物反応モデルに基づく第1生物反応部での生物反応に関する演算処理を実行する第1生物反応演算ステップと、
(B)前記第1生物反応演算ステップにおいて求められる第1生物反応部からの流出水に関する情報を入力値とし、予め設定されている固液分離条件に基づき、固液分離部において分離されて流出する固形成分と固液分離水に関する演算処理を実行する固液分離演算ステップと、
(C)前記固液分離部から流出する固形成分に関する情報を入力値として、生物反応モデルに基づく第2生物反応部での生物反応に関する演算処理を実行する第2生物反応演算ステップと、
(D)前記固液分離部から流出する固液分離水に関する情報を入力値とし、予め設定されている固液分離水滞留部に関する情報に基づき、最終沈殿池流出水に関する演算処理を実行する最終沈殿池流出水演算ステップと、
を備えていることを特徴とする請求項5に記載の排水の生物処理プロセスシミュレーションプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−224001(P2006−224001A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41426(P2005−41426)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【出願人】(000230571)日本下水道事業団 (46)
【Fターム(参考)】