説明

排水処理の方法及びシステム

【課題】被処理水の汚染物質濃度の変動に対応した排水処理を行う。
【解決手段】微生物を利用して被処理水15中の汚染物質を処理する微生物処理槽2と、微生物処理槽2に収容されて微生物に電子供与体8aを供給する電子供与体供給装置3と、被処理水15中の汚染物質濃度を測定する測定手段4とを少なくとも備え、電子供与体供給装置3は、非多孔性膜6を少なくとも一部に備える密封構造の容器7と、電子供与体8aを水に溶解した電子供与体溶液8を貯留する貯留槽9と、貯留槽9と容器7とを接続する液供給管10と、貯留槽9と容器7とを接続する液排出管11と、容器7と貯留槽9の間で電子供与体溶液8を循環させる循環手段14と、測定手段4により測定された汚染物質濃度に応じて容器7内を流通する電子供与体溶液8の電子供与体濃度を調整する制御手段13とを少なくとも備えるものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排水処理方法及び排水処理システムに関する。さらに詳述すると、本発明は、電子供与体を供給することによって微生物の機能を発揮させ、被処理水に含まれる汚染物質を処理する排水処理方法及び排水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
排水中に含まれる汚染物質は、自然環境に流入すると様々な悪影響を及ぼすことから、その濃度を十分に低減させた上で排出する必要がある。
【0003】
例えば、硝酸性窒素等の窒素化合物が湖沼や閉鎖系海域へ流入すると、富栄養化が引き起こされる。そのため、窒素化合物に関する排水基準が強化され、現在では、河川や海域への排出も厳しく規制されている。例えば、火力発電所などから発生する脱硫排水には硝酸性窒素が含まれているため、排水の硝酸性窒素濃度を十分に低減させてから海域等へ排出する必要がある。
【0004】
そこで、微生物を利用して排水中の汚染物質を処理する技術が各種知られている。例えば、特許文献1では、排水中の硝酸性窒素等の窒素化合物を除去する方法として、排水中にリン酸マグネシウムアンモニウムを粒子として生成させ、同時に、水素供与体(電子供与体)となる有機物を存在させて脱窒菌を増殖させ、リン酸マグネシウムアンモニウム粒子を核として脱窒菌を固定化することにより排水を脱窒処理する技術が提案されている。
【0005】
ここで、微生物を利用した生物学的処理を行う際には、アルコールなどの有機物を微生物のエネルギー源となる電子供与体として供給しなければならない場合がある。そこで、特許文献2では、微生物に電子供与体を供給するための装置に関する技術が提案されている。図7に示す電子供与体供給装置101は、電子供与体102と、非多孔性膜103を少なくとも一部に備える密封構造の容器104とを含み、容器104内には電子供与体102が充填され、電子供与体102を容器104の非多孔性膜103の部分から非多孔性膜103の分子透過性能に支配される速度で容器104の周辺に供給し、容器104の周辺の微生物の活性を制御するものである。この電子供与体供給装置101によれば、容器104内に充填された電子供与体102は、非多孔性膜103の分子透過性能に支配される速度で徐放される。したがって、電子供与体102の非多孔性膜透過速度を、非多孔性膜103の分子透過性能を決定する要素である膜材料や膜厚、膜密度などで調整することにより、電子供与体102を常時緩やかに供給して、微生物の活性の制御を行うようにしている。
【0006】
そして、この電子供与体供給装置101の容器104の非多孔性膜103の部分の周りに微生物が担持されている担体105を備えたバイオリアクター106(図8)を被処理水に浸漬することにより、バイオリアクター106が被処理水の汚染物質を処理して、被処理水の汚染物質濃度を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−318293
【特許文献2】国際公開2006/135028
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2において提案されている技術では、電子供与体供給装置101からの電子供与体102の透過速度が、非多孔性膜103の分子透過性能に支配される一定速度に制御される。したがって、バイオリアクター106の汚染物質処理能力を長期に亘り一定に維持することができ、被処理水の汚染物質濃度が変動することなくほぼ一定の場合には、被処理水の汚染物質濃度を長期に亘って常時目標濃度以下に低減することができる。しかしながら、被処理水の汚染物質濃度に変動が生じると、バイオリアクター106のみを用いて排水処理を行った場合には、被処理水の汚染物質濃度の変動に対応できず、被処理水の汚染物質濃度を目標濃度以下に低減できなくなる虞がある。
【0009】
そこで、本発明は、被処理水の汚染物質濃度の変動に対応することのできる排水処理方法及び排水処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため、本願発明者等が上記の電子供与体供給装置101を利用した排水処理システム及び排水処理方法について鋭意検討を行ったところ、非多孔性膜103を少なくとも一部に備える密封構造の容器104内に充填される電子供与体102を水に溶解させて電子供与体溶液とし、この電子供与体溶液の電子供与体濃度を調整することによって、容器104の非多孔性膜103からの電子供与体供給速度を制御できることを知見した。そして、この知見に基づき、被処理水の汚染物質濃度の変動に応じて、微生物への電子供与体供給速度を制御できることを見出し、本願発明に至った。
【0011】
かかる知見に基づく本発明の排水処理方法は、微生物を利用して被処理水中の汚染物質を処理する微生物処理槽に、非多孔性膜を少なくとも一部に備える密封構造の容器を収容し、容器内に電子供与体を水に溶解した電子供与体溶液を供給すると共に、容器内の電子供与体溶液を排出して容器内に電子供与体溶液を流通させ、被処理水の汚染物質濃度に応じて、容器内を流通する電子供与体溶液の電子供与体濃度を調整し、微生物への電子供与体供給速度を制御するようにしている。
【0012】
また、かかる知見に基づく本発明の排水処理システムは、微生物を利用して被処理水中の汚染物質を処理する微生物処理槽と、微生物処理槽に収容されて微生物に電子供与体を供給する電子供与体供給装置と、被処理水中の汚染物質濃度を測定する測定手段とを少なくとも備え、電子供与体供給装置は、非多孔性膜を少なくとも一部に備える密封構造の容器と、電子供与体を水に溶解した電子供与体溶液を貯留する貯留槽と、貯留槽と容器とを接続する液供給管と、貯留槽と容器とを接続する液排出管と、容器と貯留槽の間で電子供与体溶液を循環させる循環手段と、測定手段により測定された汚染物質濃度に応じて容器内を流通する電子供与体溶液の電子供与体濃度を調整する制御手段とを少なくとも備えるものである。
【0013】
したがって、この排水処理方法及び排水処理システムによると、被処理水の汚染物質濃度に応じて、容器内を流通する電子供与体溶液の電子供与体濃度が調整され、被処理水に供給される電子供与体の単位時間当たりの量が制御される。即ち、被処理水の汚染物質濃度に応じて、微生物に供給される電子供与体の単位時間当たりの量が制御されることにより、汚染物質処理能力が制御される。
【0014】
また、本発明の排水処理システムにおいて、微生物は担体に担持されて電子供与体供給装置の容器の周りに配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の排水処理方法によれば、被処理水の汚染物質濃度に応じて、微生物に供給される電子供与体の単位時間当たりの量を制御することができる。したがって、被処理水の硝酸性窒素濃度に応じて、汚染物質処理能力を制御することによって、排水処理を行うことができる。
【0016】
本発明の排水処理システムによれば、被処理水の汚染物質濃度に応じて、微生物に供給される電子供与体の単位時間当たりの量を制御することができる。したがって、被処理水の汚染物質濃度に応じて、汚染物質処理能力を制御することによって、排水処理を行うことができる。しかも、電子供与体供給装置の容器と貯留槽の間で電子供与体溶液を循環させるようにしているので、容器から排出された電子供与体溶液を再利用することができ、排水処理にかかるコストを低減することができる。
【0017】
また、本発明の排水処理システムによれば、担体に微生物が担持されて電子供与体供給装置の容器の周りに配置されるようにしているので、電子供与体供給装置の容器の非多孔性膜部分を透過して容器の周辺に徐放される電子供与体を微生物に直接的に供給しやすくなる。したがって、電子供与体供給装置の容器の非多孔性膜部分を透過する電子供与体を微生物に供給し易くなり、微生物への電子供与体の供給を非常に効率的なものとすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の排水処理システムの実施の一形態を示す図である。
【図2】本発明の排水処理システムに使用される電子供与体供給装置の容器の形態を示す図である。
【図3A】本発明の排水処理システムに使用される電子供与体供給装置の容器の他の形態を示す図である。
【図3B】図3Aを斜視図により表した図である。
【図4】本発明の排水処理システムに使用される電子供与体供給装置の容器を螺旋状チューブとした形態を示す図である。
【図5】EVA膜からのエタノール透過性について、エタノール溶液の濃度依存性を示す図である。
【図6】EVA膜からのメタノール透過性について、メタノール溶液の濃度依存性を示す図である。
【図7】従来の電子供与体供給装置の構成を示す図である。
【図8】従来のバイオリアクターの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0020】
本発明の排水処理方法は、微生物を利用して被処理水中の汚染物質を処理する微生物処理槽に、非多孔性膜を少なくとも一部に備える密封構造の容器を収容し、容器内に電子供与体を水に溶解した電子供与体溶液を供給すると共に、容器内の電子供与体溶液を排出して容器内に電子供与体溶液を流通させ、被処理水の汚染物質濃度に応じて、容器内を流通する電子供与体溶液の電子供与体濃度を調整し、微生物への電子供与体供給速度を制御するようにしている。
【0021】
つまり、本発明の排水処理方法は、電子供与体供給装置の容器内を流通する電子供与体溶液の電子供与体濃度を調整することによって、電子供与体供給装置の容器を構成している非多孔性膜の分子透過性能により決定される初期スペックの範囲内で、微生物への電子供与体供給速度を制御するものである。これにより、被処理水の汚染物質濃度に応じて、微生物の電子供与体供給速度を制御して、微生物の活性を制御することができ、被処理水の汚染物質濃度の変動に対応した排水処理が可能となる。
【0022】
本発明の排水処理方法を実現するための排水処理システムの実施の一形態を図1に示す。この排水処理システム1は、大まかには、微生物を利用して被処理水15中の汚染物質を処理する微生物処理槽2と、微生物処理槽2に収容されて微生物に電子供与体8aを供給する電子供与体供給装置3と、被処理水15中の汚染物質濃度を測定する測定手段4とを備えている。
【0023】
電子供与体供給装置3は、非多孔性膜6を少なくとも一部に備える密封構造の容器7と、電子供与体8aを水に溶解した電子供与体溶液8を貯留する貯留槽9と、貯留槽9と容器7とを接続する液供給管10と、貯留槽9と容器7とを接続する液排出管11と、容器7と貯留槽9の間で電子供与体溶液8を循環させる循環手段14と、測定手段4により測定された汚染物質濃度に応じて容器7内を流通する電子供与体溶液8の電子供与体濃度を調整する制御手段13とを備えている。したがって、容器7内を流通する電子供与体溶液8に含まれている電子供与体8aを非多孔性膜6から透過させることにより、微生物に電子供与体8aを供給することができる。そして、容器7内を流通する電子供与体溶液8の電子供与体濃度を調整することにより、微生物への単位時間当たりの電子供与体供給量を制御することができる。
【0024】
尚、本実施形態では、電子供与体供給装置3の容器7の表面に担体22を備え、この担体22に微生物を担持するようにして、電子供与体供給装置3と担体22とを一体化したバイオリアクターとしている。また、図1に示す排水処理システム1では、微生物処理槽2にバイオリアクターが1つしか収容されていないが、複数のバイオリアクターを備えるようにしても勿論よい。
【0025】
本実施形態において、容器7は、図2に示すように、金属製の剛体フレーム23に非多孔性膜6を貼り付けて構成されている。そして、フレーム23の上部に液供給管10と液排出管11とがそれぞれ接続されている。このように構成することで、容器7が被処理水15の水面に浮いたり動いたりするのを防いで、その機能が充分に発揮されるようにしている。ここで、液供給管10は、チューブ12と接続し、液供給管10から供給される電子供与体溶液8が容器7の下側に供給されるようにしている。このように構成することで、容器7内に供給された電子供与体溶液8が容器7内に十分に拡散した後に排出管11から排出されるようになり、容器7内の電子供与体溶液8の電子供与体濃度の制御性が高まる。つまり、貯留槽9から液供給管11を介して供給される電子供与体溶液8が容器7内を十分に循環してから排出される。したがって、容器7内に電子供与体溶液8を供給する部分と、容器から電子供与体溶液を排出する部分とは、出来るだけ離して配置することが好ましい。例えば、図3Aに示すように、フレーム23の上部に液排出部11を接続し、下部に液供給部10を接続するようにしてもよい。尚、図3Bは図3Aを斜視図で表した図を示している。
【0026】
尚、容器7は、この形態や構造に限定されるものではなく、全体が非多孔性膜6で構成される袋状を成し、液供給管10が接続される部分と液排出管11が接続される部分とを除いた周縁をヒートシールで溶着したり、接着剤により接着したりするようにしてもよい。
【0027】
また、容器7は、チューブ状として、その上端開口部に液排出管11を接続し、下端開口部に液供給管10を接続してもよい。例えば、図4に示すように、容器7をチューブ状とし、このチューブを螺旋状として使用してもよい。この場合、チューブ状としたときと比較して、単位体積当たりの表面積を高めることができるので、電子供与体8aの単位時間当たりの透過量を高めることができる。
【0028】
さらに、チューブ状の容器7はその径を小さなものとすることにより、毛細管現象を利用して容器7内に電子供与体溶液8を供給することが可能となる。この場合には、容器7内へ電子供与体溶液8を供給するための動力を小さくしたり、あるいは省略することができる。
【0029】
尚、容器7は、全体を非多孔性膜6で構成するものに特に限られず、片面だけを非多孔性膜6で構成したり、1つの面のさらに一部分を非多孔性膜6のみで構成するようにしてもよい。部分的に非多孔性膜6を用いる場合には、その他の部分は金属製やプラスチック製の剛体フレーム、電子供与体8aを透過させない膜等を用いても良い。
【0030】
また、本実施形態において、容器7は液供給管10及び液排出管11と接続されているので厳密な意味での密封構造ではないが、液供給管10と液排出管11に電子供与体溶液8が流通している状態では、この電子供与体溶液8自体がシールとなって、容器7内は事実上密封状態にある。したがって、容器7の非多孔性膜6の部分のみから電子供与体8aを透過させることができる。
【0031】
非多孔性膜6は、電子供与体溶液8に含まれる電子供与体8aの分子を、その分子透過性能に支配される速度で緩やかに透過する機能を有するものである。そして、この分子透過性能は、非多孔性膜6の膜材料、膜厚、膜密度、膜構成分子の分子配列、該膜の表面積、電子供与体8aの分子量や性質、電子供与体溶液8の温度により、その初期スペックが決定される。
【0032】
例えば、同じ膜材料の場合には膜厚によって分子透過性能が変化し、膜厚を厚くすれば分子透過性能を低下させることができ、膜厚を薄くすれば分子透過性能を高めることができる。また、非多孔性膜6の膜密度によっても分子透過性能を制御することが可能である。例えば、同じ膜材料の場合には膜密度によって分子透過性能が変化し、膜密度を高めれば分子透過性能を低下させることができ、膜密度を低下させれば分子透過性能を高めることができる。さらに、非多孔性膜6の分子配列を延伸処理により制御することができるので、延伸処理の強弱によって分子透過性能を制御することも可能である。
【0033】
ここで、非多孔性膜6を隔てて電子供与体溶液8と被処理水15とを接触させると、電子供与体溶液8と被処理水15との間の電子供与体濃度の勾配に支配される速度で電子供与体溶液8に溶解している電子供与体8aが非多孔性膜6を透過する。被処理水15に供給される電子供与体8aは処理槽内の微生物によって速やかに消費されることから、被処理水15の電子供与体濃度は極めて低いものとなっている。したがって、容器7内の電子供与体溶液8の電子供与体濃度を調整することによって、被処理水15との電子供与体濃度の勾配を適宜制御することができる。
【0034】
つまり、電子供与体溶液8の電子供与体濃度を調整することによって、膜材料、膜厚、膜密度、膜構成分子の分子配列、該膜の表面積、電子供与体8aの分子量や性質、電子供与体溶液8の温度により決定される非多孔性膜6の分子透過性能の初期スペックの範囲内で、微生物への電子供与体8aの単位時間当たりの供給量を所望の値に設定することができる。
【0035】
本発明において用いられる非多孔性膜6の材料としては、水をほとんど透過させることなく電子供与体8aの分子を透過させる機能を有する材料であれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンその他のオレフィン系の膜、エチレン・酢酸ビニル共重合体膜が挙げられるが、エチレン・酢酸ビニル共重合体の使用が特に好ましい。エチレン・酢酸ビニル共重合体膜は、同じ膜厚のポリエチレンやポリプロピレンの膜と比較して電子供与体8aの透過性能が高いことから、非多孔性膜6の厚みを、十分な強度を確保できる厚みとしながらも、非多孔性膜6の分子透過性能の初期スペックを高めることができる。したがって、電子供与体溶液8の電子供与体濃度の調整による電子供与体供給速度の制御範囲を広範囲なものとすることができる。また、熱可逆性を有しており、柔軟で成形が容易であると共に、様々な物質に対して安定である。
【0036】
尚、エチレン・酢酸ビニル共重合体を構成する分子であるエチレンと酢酸ビニルのモル比については、水をほとんど透過させることなく電子供与体8aの分子を透過させる機能が確保されるモル比であれば特に限定されない。例えば、エチレンと酢酸ビニルのモル比が88:12であれば水をほとんど透過させることなく電子供与体8aの分子を透過させる機能が十分に確保されることが本願発明者の実験により確認されたが、このモル比に限定されるものではない。
【0037】
電子供与体8aは、微生物のエネルギー源となり、微生物に対して毒性を呈さない物質であって、非多孔性膜6を腐食しない性質を持ち、且つ非多孔性膜6を透過できる分子量、性質を有するものが適宜選択される。また、本発明では、水を媒体として電子供与体8aを送液することから、電子供与体8aには、水に対する溶解性も要求される。例えば、メタノールやエタノール等のアルコール、ギ酸や酢酸等の有機酸が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
電子供与体8aの非多孔性膜6の透過は、電子供与体8aの分子が膜に溶け込み、その溶け込んだ分子が膜内部を拡散して反対側に達することにより起こる。したがって、膜への溶け込みが起こらない程大きなサイズの分子や極性の高い分子は非多孔性膜6を透過しにくい。したがって、電子供与体溶液8にこのような分子が不純物として含まれていても、非多孔性膜6を透過することがなく、茶精製工場から排出され、抗菌性のあるカテキンを含む廃アルコール等を電子供与体8aとして用いることもできる。また、水分子同士は水素結合により強く結合していることから、常温(室温)では水が非多孔性膜6を透過することはほとんど無い。したがって、容器7の非多孔性膜6からは、電子供与体8aを選択的に透過させることができる。
【0039】
尚、上述したように、非多孔性膜6は、電子供与体8aを膜に溶け込ませることによって透過させており、多孔質膜のように孔の大きさや数で電子供与体8aの透過速度を制御するものではない。したがって、長期間の使用による孔の閉塞の問題も生じることが無く、定期的な逆洗浄の必要もない。したがって長期間メンテナンスを行うことなく使用でき、ランニングコストを低減できる。
【0040】
貯留槽9は、電子供与体溶液8を貯留するものであり、液供給管10と液排出管11を介して容器7と接続され、容器7と貯留槽9との間で循環路が形成されるようにしている。尚、本実施形態において、循環路には循環手段14として循環ポンプが備えられ、貯留槽9から液供給管10を介して容器7内に電子供与体溶液8が供給されると共に、容器7内に供給された電子供与体溶液8の量とほぼ同量の電子供与体溶液8が容器7内から排出され、液排出管11を通って貯留槽9に戻るようにしている。したがって、容器7の厚みを一定に維持し、容器7の膨らみや破損を防止しながら、容器7内に電子供与体溶液8を流通させることができる。
【0041】
本実施形態において、貯留槽9には、貯留槽9に貯留されている電子供与体溶液8の電子供与体濃度を測定する電子供与体濃度センサ18(例えばAnton Paar社製 L−DENS313)と、電子供与体貯留タンク19に貯留されている電子供与体8aを貯留槽9に添加する電子供与体添加手段20と、電子供与体濃度センサ18から入力されるデータと、測定手段4で測定される被処理水15の汚染物質濃度データに応じて電子供与体添加手段20を動作させる、MPUまたはCPUからなる制御手段13とが備えられている。
【0042】
制御手段13では、測定手段4で測定される被処理水15の汚染物質濃度に応じて電子供与体濃度が設定され、電子供与体溶液8の電子供与体濃度がこの設定値に維持されるように電子供与体添加手段20を動作させる。
【0043】
電子供与体添加手段20は、制御手段13からの命令信号に応答して駆動するソレノイドまたはエアー作動弁が組み込まれており、その駆動に伴ってバルブが開閉動作するように構成されている。そして、バルブの開度、開時間を制御することによって、貯留槽9に貯留されている電子供与体溶液8の電子供与体濃度が制御される。これらの一連の動作により、貯留槽9内の電子供与体溶液8の電子供与体濃度を一定の濃度に調整することにより、容器7内を流通する電子供与体溶液8の電子供与体濃度を一定の濃度に調整することができる。
【0044】
次に、本発明に使用される微生物処理槽2としては、被処理水15中の汚染物質を微生物により処理するものとして公知ないしは新規の各種微生物処理槽を用いることが可能である。例えば、汚染物質は硝酸性窒素等の窒素化合物、重金属、有機塩素化合物であり、微生物として、これら汚染物質を処理(除去)可能な微生物が挙げられるが、電子供与体8aを供給することによって機能する微生物と、この微生物により処理可能な汚染物質であれば上記に限定されるものではない。本実施形態の微生物処理槽2には、被処理水流入部2aと、被処理水排出部2bが備えられている。
【0045】
ここで、本実施形態のように、微生物が担体22に担持されて電子供与体供給装置3の容器7の周りに配置されていることが好ましい。即ち、本実施形態では、電子供与体供給装置3の容器7の周りに微生物を固定し得る担体22を配置し、担体22には排水処理に利用する微生物を担持して、電子供与体供給装置3と担体22とを一体化したバイオリアクターとしている。
【0046】
この場合には、電子供与体供給装置3の容器7の非多孔性膜6の部分を透過して容器7の周辺に徐放される電子供与体8aを微生物に直接的に供給しやすくなる。したがって、電子供与体供給装置3の容器7の非多孔性膜6の部分を透過する電子供与体8aを微生物に供給しやすくなり、微生物への電子供与体8aの供給を非常に効率的なものとすることができる。
【0047】
担体22は、電子供与体供給装置3の容器7の少なくとも非多孔性膜6の部分に例えば、接着や溶着等により備えられる。
【0048】
担体22としては、微生物を固定し得るあらゆる材料を用いることができる。例えば、微生物や酵素の固定化に一般的に用いられている高分子ゲルを使用することができる。具体的には、コラーゲン、フィブリン、アルブミン、カゼイン、セルロースファイバー、セルローストリアセタート、寒天、アルギン酸カルシウム、カラギーナン、アガロース等の天然高分子、ポリアクリルアミド、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリル酸、ポリビニルクロリド、γ−メチルポリグルタミン酸、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ポリジメチルアクリルアミド、ポリウレタン、光硬化性樹脂(ポリビニルアルコール誘導体、ポリエチレングリコール誘導体、ポリプロピレングリコール誘導体、ポリブタジエン誘導体等)等の合成高分子、またはこれらの複合体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
また、担体22として、吸水性ポリマーを用いることもできる。吸水性ポリマーを用いることで、担体の保水力、吸水力が高まるので、脱窒菌を良好な状態で担持させて硝酸性窒素の処理を効率よく行うことが可能となる。吸水性ポリマーを具体的に例示すると、ポリアクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸やそれらの改変物、ポリエチレングリコール改変物が挙げられるがこれらに限定されない。尚、ここで言う改変物とは、イオン性基をもつ高分子を前記高分子の一部に架橋させたものである。
【0050】
尚、担体22は、高分子ゲルや吸水性ポリマーに限定されるものではない。例えば、不織布を起毛処理したものを担体22として用いるようにしてもよい。
【0051】
担体22に担持される微生物としては、例えば、脱窒菌が挙げられる。脱窒菌は、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素を還元して窒素ガスに変換する微生物であり、従来この種の分野で知られているものを適宜使用することができる。具体的には、例えば、Paracoccus denitrificans JCM-6892、Paracoccus denitrificans、Alcaligenes eutrophus、Pseudomonas denitrificansを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0052】
一般に、脱窒機能を有する細菌(脱窒菌)は通性嫌気性菌である。これらの細菌は、嫌気条件では、硝酸イオンや亜硝酸イオンに含まれる酸素を利用してエネルギーを得る為、硝酸イオンや亜硝酸イオンを窒素ガスに変換することができる。一方、好気条件では、水中に溶存している酸素を直接利用してエネルギーを得るため、硝酸や亜硝酸を窒素ガスに変換する機能を発揮しない。
【0053】
ここで、担体22には脱窒菌の他に、アンモニア性窒素を酸化して亜硝酸性窒素に変換するアンモニア酸化菌を担持するようにしてもよい。アンモニア酸化菌は、従来この種の分野で知られているものを適宜使用することができる。具体的には、Nitrosomonas europaea IFO-14298、Nitrosomonas europaea、 N.marina、Nitrosococcus oceanus、 N.mobilis、Nitrosospira briensis、Nitrosolobus multiformis、Nitrosovibrio tenuisを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0054】
尚、上記において*を付した菌株は海水の処理にのみ適用できる菌株であり、それ以外は淡水の処理にのみ適用できる菌株である。N.europaeaは淡水で用いることのできるものと海水で用いることができるものが存在する。
【0055】
担体22に脱窒菌を担持することにより、被処理水15に含まれる硝酸性窒素が嫌気環境下で窒素ガスに還元され、被処理水15の硝酸性窒素濃度が低減される。尚、上述したように、脱窒菌は、亜硝酸性窒素を窒素ガスに還元する能力も有しているので、被処理水15に含まれる亜硝酸性窒素濃度も低減される。
【0056】
また、担体22に脱窒菌と共にアンモニア酸化菌を担持することにより、被処理水15に含まれているアンモニア性窒素が好気環境下で亜硝酸性窒素に酸化される。そして、この亜硝酸性窒素と共に被処理水15に含まれている硝酸性窒素が嫌気環境下で窒素ガスに還元される。ここで、アンモニア酸化菌に対して酸素を供給した場合(微生物処理槽2内を空気曝気処理した場合)、脱窒菌は担体22の好適な領域、即ち、酸素が供給されている位置から離れた嫌気性領域(空気曝気されている被処理水15側とは反対の担体22の電子供与体供給装置3側)に偏在し易くなる。一方、アンモニア酸化菌は、被処理水15に接触している側の位置に偏在し易くなる。したがって、被処理水15のアンモニア性窒素、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素を効率よく分解することができる。
【0057】
ここで、微生物は、上記のものに限定されるものではない。例えば、Desulfovibrio vulgarisなどの硫酸還元菌に電子供与体8aを供給して活性化させて、硫酸イオンから硫化水素を生成し、この硫化水素と重金属を反応させて金属硫化物の沈殿を生成するようにしても良い。Fe、Cu、Ag、Zn、Pb、Co、Ni、Mo、As、Cd、Hgなどは硫化物を生成する金属であるから、当該処理によりこれらの金属を沈殿させて固液分離等により除去することが可能となる。したがって、人体に甚大な健康被害を及ぼす有害重金属である、Pb、As、Cd、Hgを排水中から除去することができる。つまり、代謝産物として硫化水素、硫酸、硫酸鉄(III)、炭酸ガス、酸素、アンモニア、有機酸を産生する微生物に電子供与体8aを供給して、有害重金属を除去することができる。
【0058】
また、嫌気呼吸の最終電子受容体として重金属を還元する機能を有する微生物、例えば、Alteromonas putrefaciens、Geobacter metallireductans、Enterobacter cloacae、Bacillus sp.、Pseudomonas sp.に電子供与体8aを供給して活性化させて、重金属を還元して沈殿を生成させるようにしてもよい。Alteromonas putrefaciens、Geobacter metallireductans、Enterobacter cloacaeは、ウランを6価から4価に還元することができる微生物であり、Bacillus sp.、Pseudomonas sp.はセレンを6価から0価に還元することができる微生物である。したがって、これらの微生物に電子供与体8aを供給することによって、ウランやセレンを沈殿させ、固液分離等により除去することが可能となる。
【0059】
さらに、クロム還元菌、例えば、Shwanella、Pseudomonas、Sulfate reducing bacteria、Arthrobacter、Bacillus、Aerococcus、Micrococcus、Aeromonas、Thermoanaerobacter、Cellulomonas、Geobacter、Streptomyces、Escherichia、Enterobacter等に電子供与体8aを供給し、六価クロムを三価クロムに還元することによって六価クロムの無害化を図るようにしてもよい。また、銀、銅、水銀、ヨウ素、亜ヒ酸、ニッケル、カドミウムなどを還元・無害化することができる微生物を利用してもよい。
【0060】
また、嫌気性微生物であるDehalococcoides sp.やMethanosarcina sp.等を利用しても良い。これらの微生物に電子供与体8aを供給すると、脱ハロゲン化呼吸による脱ハロゲン反応を起こし、排水中の有機塩素化合物、例えばポリ(テトラ)クロロエチレンをテトラクロロエチレン、ジクロロエチレンを脱ハロゲン化することができる。
【0061】
尚、担体22は、保護材としても機能する。即ち、担体22を備えることにより、容器7の非多孔性膜6の部分を外部衝撃などによる損傷から防ぐことが可能となる。また、担体5を光硬化性樹脂のようにそれ自体強度の高い高分子として筒状、鞘状に形成することで、容器の膨らみを防止できるので、容器7のコンパクト化を図ることができる。この場合には、容器7が膨らむことなく、その厚さを制限して容器7の厚さを薄くすることができ、微生物処理槽2に収容したときに充填密度を高められると共に、外部衝撃からも保護することが可能となる。勿論、担体22とは別個に保護材を設けて、これを筒状、鞘状として使用するようにしてもよい。
【0062】
次に、本発明で使用される測定手段4としては、汚染物質の濃度を測定し得る装置が適宜用いられる。例えば、汚染物質が硝酸性窒素の場合には、光センサ(スキャン社製、ノトリライザーG-Ne-005)を用いればよい。尚、被処理水15に硝酸性窒素と共に亜硝酸性窒素も含まれている場合には、光センサにより検出される硝酸性窒素濃度が硝酸性窒素と亜硝酸性窒素の合計濃度として検出される。したがって、硝酸性窒素濃度の変動のみならず、亜硝酸性窒素の変動も検出され、被処理水15の亜硝酸性窒素濃度の変動に応じて、脱窒菌への電子供与体供給速度を制御することができる。測定手段4により測定された被処理水15の汚染物質濃度データは、制御手段13に送られる。
【0063】
ここで、被処理水15の汚染物質濃度を測定する位置については、被処理水15の汚染物質濃度の変動を検出しうる位置であれば特に限定されないが、例えば、図1に示すように、微生物処理槽2から排出された被処理水15の汚染物質濃度を測定しうる位置に測定装置を配置して、排水処理に供された後の段階で被処理水15の汚染物質濃度を測定するようにすればよい。または、微生物処理槽2内に流入する前の被処理水15の汚染物質濃度を測定しうる位置に測定装置を配置して、排水処理に供される前の段階で被処理水15の汚染物質濃度を測定してもよい。勿論、微生物処理槽2内の前段、中段、後段のいずれかの被処理水15の汚染物質濃度を測定しうる位置に測定装置を配置して、微生物処理槽2内の前段、中段、後段のいずれかの被処理水15の汚染物質濃度を測定するようにしてもよい。
【0064】
ここで、被処理水15の汚染物質濃度の時間間隔は、被処理水15の汚染物質濃度が変動する時間間隔に応じて適宜選択されるが、出来るだけ短い時間間隔、例えば60分間隔である。
【0065】
また、電子供与体溶液8の電子供与体濃度の制御は、測定手段4により測定される汚染物質濃度の測定値が、前回の測定値よりも高まった段階で行うようにしてもよいし、汚染物質濃度の測定値があるしきい値を超えた段階で行うようにしてもよい。
【0066】
本発明の排水処理システム1を用いることによって、以下の様な優れた効果が奏される。即ち、容器7内を流通する電子供与体溶液8の電子供与体濃度は、即時的に高まるわけではなく、容器7内の電子供与体溶液8の量(体積)と、単位時間当たりに貯留槽9から供給される電子供与体溶液8の濃度及び量(体積)と、単位時間当たりに容器7から排出される電子供与体溶液8の量(体積)とに依存する緩やかな速度で徐々に高まる。したがって、微生物への電子供与体供給速度を緩やかに高めることができる。排水の負荷変動、即ち、排水の汚染物質濃度は、一般的には即時的に高まるものではなく、長期的なスパンで変動するものである。したがって、微生物への電子供与体供給速度を緩やかに高めることによって、微生物の増殖に十分に追随できる速度で電子供与体を供給することができ、被処理水15に電子供与体8aが残留しにくく、電子供与体8aによる被処理水15の汚染が起こりにくい。
【0067】
また、被処理水15の汚染物質濃度が減少し始めたときには、貯留槽9に電子供与体8aを供給することなく、電子供与体溶液8を循環させ続けることによって、容器7から電子供与体8aが透過し、容器7内を流通する電子供与体溶液8の電子供与体濃度を徐々に低下させることができるので、硝酸性窒素濃度の減少に対応した微生物処理を、特別な制御を行うことなく、実施することができる。勿論、本実施形態の貯留槽9に水添加手段(不図示)を備えて、この水添加手段を制御手段13で制御し、容器7内を流通する電子供与体溶液8の電子供与体濃度の低下速度を高めるようにすることも可能である。
【0068】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態では、貯留槽9に貯留されている電子供与体溶液8の電子供与体濃度を調整することによって、容器7内を流通する電子供与体溶液8の電子供与体濃度を調整するようにしているが、この方法には限定されない。例えば、貯留槽9と容器7とを接続している液供給管10に電子供与体8aを直接添加するようにして、容器7内を流通する電子供与体溶液8の電子供与体濃度を調整するようにしてもよい。または、容器7に別途液供給管を備えるようにして、容器7内に電子供与体8aを直接添加することにより、容器7内を流通する電子供与体溶液8の電子供与体濃度を調整するようにしてもよい。
【実施例】
【0069】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0070】
尚、実施例における「%」は、特に指定がない限り「体積%」を表すものとする。
【0071】
(実施例1)
非多孔性膜としてEVA膜(エチレン・酢酸ビニル共重合体膜)を用い、電子供与体としてエタノールを用いて、非多孔性膜で作製した容器(袋)内に充填される電子供与体溶液の電子供与体濃度によって、電子供与体の非多孔性膜透過速度を制御できるか検討した。
【0072】
EVA膜には、昭和パックス社製の農POフィルム(0.075mm厚、酢酸ビニル12モル%含有(エチレン88モル%含有))を用いた。
【0073】
EVA膜で作製した50mm×50mmの大きさの袋内に、99.5%エタノール、50%エタノール、25%エタノール、10%エタノールをそれぞれ充填して試験試料とした。99.5%エタノールは和光純薬工業から購入したものをそのまま使用し、50%エタノール、25%エタノール、10%エタノールは、和光純薬工業から購入した99.5%エタノールをそれぞれ水で希釈して調整した。
【0074】
また、0.05mm厚のPE膜(ミポロンフィルム、ミツワ(株)製)で作製した50mm×50mmの大きさの袋内に、99.5%エタノールを充填したものを比較試料として準備した。
【0075】
即ち、実施例1では、以下の5つの試料を準備した。
・試験試料A:0.075mm厚EVA袋(99.5%エタノール充填)
・試験試料B:0.075mm厚EVA袋(50%エタノール充填)
・試験試料C:0.075mm厚EVA袋(25%エタノール充填)
・試験試料D:0.075mm厚EVA袋(10%エタノール充填)
・比較試料X:0.05mm厚PE袋(99.5%エタノール充填)
【0076】
試験試料A〜D及び比較試料Xをそれぞれビーカー内に入れた300mLの蒸留水(0.02%NaN3)に浸漬し、経過時間に対する蒸留水のTOC濃度を測定して袋からのエタノールの透過量を評価した。TOC濃度は燃焼−赤外線式全有機炭素分析計(TOC−650、東レエンジニアリング製)により測定した。また、蒸留水の温度は30℃とし、実験中は水を撹拌し続けた。
【0077】
結果を図5に示す。図5において、●は試験試料Aの測定結果を示し、■は試験試料Bの測定結果を示し、▲は試験試料Cの測定結果を示し、◆は試験試料Dの測定結果を示し、▼は比較試料Xの測定結果を示している。
【0078】
試験試料A〜Dの測定結果から、エタノールの濃度の増加に伴って、エタノールの透過速度が高まることが明らかとなった。
【0079】
また、試験試料Dと比較試料Xのエタノール透過速度がほぼ同程度であることが確認された。
【0080】
以上の実験結果から、非多孔性膜としてEVA膜を使用することで、エタノールの透過速度を、エタノール溶液の濃度を調整することによって広範囲に制御可能なことが明らかとなった。また、非多孔性膜としてPE膜を使用した袋に99.5%エタノール溶液を充填したものと、非多孔性膜としてEVA膜を使用した袋に10%エタノール溶液を充填したものとのエタノール透過速度が同程度であったことから、非多孔性膜としてPE膜を使用した場合には、エタノール透過速度の制御可能範囲が小さくなる傾向が見られたが、PE膜の膜厚をさらに薄くすることによって、エタノール透過速度の制御可能範囲を高めることが可能である。
【0081】
(実施例2)
電子供与体をメタノールとした以外は実施例1と同様の条件として実験を行い、非多孔性膜で作製した袋内に充填される電子供与体物質の濃度によって、電子供与体物質の非多孔性膜透過速度を制御できるか検討した。
【0082】
実施例2では、以下の5つの試料を準備した。
・試験試料E:0.075mm厚EVA袋(99.7%メタノール充填)
・試験試料F:0.075mm厚EVA袋(50%メタノール充填)
・試験試料G:0.075mm厚EVA袋(25%メタノール充填)
・試験試料H:0.075mm厚EVA袋(10%メタノール充填)
・比較試料Y:0.05mm厚PE袋(99.7%メタノール充填)
【0083】
99.7%メタノールは和光純薬工業から購入したものをそのまま使用し、50%メタノール、25%メタノール、10%メタノールは、和光純薬工業から購入した99.7%メタノールをそれぞれ水で希釈して調整した。
【0084】
試験試料E〜H及び比較試料Yをそれぞれビーカー内に入れた300mLの蒸留水(0.02%NaN3)に浸漬し、実施例1と同様の方法でメタノールの透過量を評価した。
【0085】
結果を図6に示す。図6において、●は試験試料Eの測定結果を示し、■は試験試料Fの測定結果を示し、▲は試験試料Gの測定結果を示し、◆は試験試料Hの測定結果を示し、▼は比較試料Yの測定結果を示している。
【0086】
試験試料E〜Hの測定結果から、メタノールの濃度の増加に伴って、メタノールの透過速度が高まることが明らかとなった。
【0087】
また、比較試料Yのメタノール透過速度は、試験試料Fと試験試料Gの中間程度であることが確認された。
【0088】
以上の実験結果から、非多孔性膜としてEVA膜を使用することで、メタノールの透過速度を、メタノール溶液の濃度を調整することによって広範囲に制御可能なことが明らかとなった。また、実施例1と同様、非多孔性膜としてPE膜を使用した場合には、メタノール透過速度の制御可能範囲が小さくなる傾向が見られたが、PE膜の膜厚をさらに薄くすることによって、メタノール透過速度の制御可能範囲を高めることが可能である。
【符号の説明】
【0089】
1 排水処理システム
2 微生物処理槽
3 電子供与体供給装置
4 測定手段
6 非多孔性膜
7 容器
8 電子供与体溶液
8a 電子供与体
9 貯留槽
10 液供給管
11 液排出管
13 制御手段
14 循環手段
15 被処理水
22 担体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を利用して被処理水中の汚染物質を処理する微生物処理槽に、非多孔性膜を少なくとも一部に備える密封構造の容器を収容し、前記容器内に電子供与体を水に溶解した電子供与体溶液を供給すると共に、前記容器内の前記電子供与体溶液を排出して前記容器内に前記電子供与体溶液を流通させ、前記被処理水の汚染物質濃度に応じて、前記容器内を流通する前記電子供与体溶液の電子供与体濃度を調整し、前記微生物への電子供与体供給速度を制御することを特徴とする排水処理方法。
【請求項2】
微生物を利用して被処理水中の汚染物質を処理する微生物処理槽と、前記微生物処理槽に収容されて前記微生物に電子供与体を供給する電子供与体供給装置と、前記被処理水中の汚染物質濃度を測定する測定手段とを少なくとも備え、
前記電子供与体供給装置は、非多孔性膜を少なくとも一部に備える密封構造の容器と、前記電子供与体を水に溶解した電子供与体溶液を貯留する貯留槽と、前記貯留槽と前記容器とを接続する液供給管と、前記貯留槽と前記容器とを接続する液排出管と、前記容器と前記貯留槽の間で前記電子供与体溶液を循環させる循環手段と、前記測定手段により測定された汚染物質濃度に応じて前記容器内を流通する前記電子供与体溶液の電子供与体濃度を調整する制御手段とを少なくとも備えるものである排水処理システム。
【請求項3】
前記微生物は担体に担持されて前記電子供与体供給装置の前記容器の周りに配置されている請求項2記載の排水処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−25168(P2011−25168A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174137(P2009−174137)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(000120401)荏原実業株式会社 (31)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【Fターム(参考)】