説明

排水処理装置および排水処理方法

【課題】 嫌気性処理環境において、メタン生成菌によるメタン生成処理の活性を低下させることなく排水処理を行うことが可能な排水処理装置および排水処理方法を提供する。
【解決手段】 硫酸還元菌が投入され、処理対象の排水を取り込んで硫酸還元菌により排水中の硫酸イオンを還元することで有機物を分解するとともに硫化水素を生成する嫌気処理を行う硫酸還元反応槽2と、メタン生成菌が投入され、硫酸還元反応槽2で処理された排水を取り込んで、硫酸還元反応槽2で分解されなかった排水中の有機物をメタン生成菌により分解する嫌気処理を行うメタン発酵槽3と、硫黄酸化菌が投入され、硫酸還元反応槽で生成された硫化水素を取り込んで硫黄酸化菌により脱硫処理を行うことで硫酸を生成し、生成した硫酸を硫酸イオンの還元に利用させるために硫酸還元反応槽に送水する生物脱硫処理槽4とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業排水、下水等の排水から、有機物を除去する排水処理装置および排水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、産業排水や下水等の排水を生物処理することにより、有機物を除去する技術がある。生物処理により排水を処理する技術を利用したものとして、例えば特許文献1に記載の排水処理装置がある。
【0003】
この特許文献1に記載の排水処理装置100は、図13に示すように、嫌気性処理槽110において有機物の分解処理が行われた後、この嫌気性処理槽110における処理により発生した硫化水素を、好気性処理槽120および生物脱臭装置130において脱硫して嫌気性処理槽110に戻すことにより、効率的に排水処理を行っている。
【0004】
具体的には、化1に示すように、嫌気性処理槽110において式(1)に示すようにまず加水分解菌により排水中の高分子有機物(炭水化物、たんぱく質、脂質)が低分子有機物へ分解された後、式(2)に示すように酸生成菌により低分子有機物が低級脂肪酸(酢酸、プロピオン酸など)へ分解され、最終的には、式(3)に示すようにメタン生成菌により酢酸等の低級脂肪酸からメタン(CH)と二酸化炭素(CO)とに分解される。
【0005】
また嫌気性処理槽110では、式(4)に示すように、硫酸還元菌が好気性処理槽120や生物脱臭装置130から戻される硫酸イオン(SO2−)を還元させることにより、酢酸等の有機物が分解され、硫化水素(HS)、二酸化炭素、および水(HO)が生成される。
【0006】
そして好気性処理槽では、硫黄酸化細菌を含む好気性微生物により、嫌気性処理槽で分解しきれなかった有機物が分解される。
【0007】
また好気性処理槽では、式(5)に示すように、硫黄酸化細菌が硫化水素を酸化させることで、硫酸イオンおよび水素イオン(H)が生成される。生成された硫酸イオンは嫌気性処理槽へと戻される。
【0008】
また生物脱臭装置130では、好気性処理槽120と同様に、硫黄酸化細菌が硫化水素を酸化させることで、硫酸イオンおよび水素イオンが生成される。生成された硫酸イオンは嫌気性処理槽へと戻される。
【0009】
[化1]
高分子有機物(炭水化物、たんぱく質、脂質) + H
→ 低分子有機物 (1)
低分子有機物 → 低級脂肪酸(酢酸、プロピオン酸など) (2)
CHCOOH → CH + CO (3)
SO2− + CHCOOH + 2H → HS + 2CO +2H
(4)
S + 2O → SO2− + 2H (5)
このように嫌気性処理槽110において式(4)に示す反応により生成された硫化水素(HS)が、好気性処理槽120および生物脱臭装置130において式(5)に示すように脱硫されて硫酸イオン(SO2−)が生成され、嫌気性処理槽110に戻されることで、図14に示すように硫黄循環が形成される。
【0010】
上述した処理により、高分子、低分子、酢酸等の有機物は、メタンや二酸化炭素に分解され、排水中の有機物が低減されて公共用水域などに放流される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−148242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、上述した嫌気性処理槽110では、メタン生成菌と硫酸還元菌とが共存しており、上記式(3)のメタン生成菌によるメタン生成処理および式(4)の硫酸還元菌による硫化水素生成処理が行われるが、これらのうち硫酸還元菌による硫化水素生成処理のほうがメタン生成菌によるメタン生成処理よりも処理速度が速いため、メタン生成菌よりも硫酸還元菌のほうが活性が優位となる。
【0013】
また、好気性処理槽120と生物脱臭装置130で生成された硫酸イオンが嫌気性処理槽110に戻され、硫酸還元菌の基質である硫酸イオン濃度が高くなるため、さらに硫酸還元菌の活性が高くなる。
【0014】
しかし、硫化水素(HS)は人体に有毒であるとともに排水処理装置100内のダクト等を腐食させる原因になるため硫酸還元菌の活性を加速させることは好ましくなく、硫化水素生成処理と基質が競合するメタン生成菌によるメタン生成処理の活性を上げることが望まれている。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、嫌気性処理環境において、メタン生成菌によるメタン生成処理の活性を低下させることなく排水処理を行うことが可能な排水処理装置および排水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するための本発明の排水処理装置は、硫酸還元菌が投入され、処理対象の排水を取り込んで前記硫酸還元菌により排水中の硫酸イオンを還元することで有機物を分解するとともに硫化水素を生成する嫌気処理を行う硫酸還元反応槽と、メタン生成菌が投入され、前記硫酸還元反応槽で処理された排水を取り込んで、前記硫酸還元反応槽で分解されなかった排水中の有機物を前記メタン生成菌により分解する嫌気処理を行うメタン発酵槽と、硫黄酸化菌が投入され、前記硫酸還元反応槽で生成された硫化水素を取り込んで前記硫黄酸化菌により脱硫処理を行うことで硫酸を生成し、生成した硫酸を前記硫酸イオンの還元に利用させるために硫酸還元反応槽に送水する生物脱硫処理槽とを有することを特徴とする。
【0017】
またこの排水処理装置は、前記硫酸還元反応槽で生成された硫化水素を、当該硫酸還元反応槽の排水中に散気することで排水中の硫黄ストリッピングを行う第1硫黄ストリッピング手段と、前記硫酸還元反応槽で処理された排水を、当該硫酸還元反応槽の気相中に散水することで排水中の硫黄ストリッピングを行う第2硫黄ストリッピング手段とをさらに設けてもよい。
【0018】
またこの排水処理装置は、好気性菌が投入され、前記メタン発酵槽で処理された排水を取り込んで、前記硫酸還元反応槽および前記メタン発酵槽で分解されなかった排水中の有機物を前記好気性菌により分解する好気処理を行う好気性処理槽をさらに設けてもよい。
【0019】
またこの排水処理装置は、前記メタン発酵槽で処理された排水を、前記生物脱硫処理槽へ供給する排水供給手段をさらに設けてもよい。
【0020】
またこの排水処理装置は、前記硫酸還元反応槽の上流に、浮遊物質を除去するろ過手段またはたんぱく質を分解する熱処理手段をさらに設けてもよい。
【0021】
またこの排水処理装置は、前記硫酸還元反応槽に、硫黄を供給する硫黄供給手段をさらに設けてもよい。
【0022】
またこの排水処理装置の前記硫酸還元反応槽には硫酸還元菌が付着された担体が投入され、前記メタン発酵槽にはメタン生成菌の塊が投入され、前記生物脱硫処理槽には担体に付着された硫黄酸化菌が投入されるようにしてもよい。
【0023】
また本発明の排水処理方法は、排水処理装置が、硫酸還元反応槽に処理対象の排水を取り込んで、当該硫酸還元反応槽に投入された硫酸還元菌により排水中の硫酸イオンを還元することで有機物を分解するとともに硫化水素を生成する嫌気処理を行い、メタン発酵槽に前記硫酸還元反応槽で処理された排水を取り込んで、前記硫酸還元反応槽で分解されなかった排水中の有機物を、当該メタン発酵槽に投入されたメタン生成菌により分解する嫌気処理を行い、生物脱硫処理槽に前記硫酸還元反応槽で生成された硫化水素を取り込んで、当該生物脱硫処理槽に投入された硫黄酸化菌により脱硫処理を行うことで硫酸を生成し、生成した硫酸を前記硫酸イオンの還元に利用させるために硫酸還元反応槽に送水することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の排水処理装置および排水処理方法によれば、嫌気性処理環境において、メタン生成菌によるメタン生成処理の活性を低下させることなく安定した排水処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態による排水処理装置の構成を示す説明図である。
【図2】本発明の第1実施形態による排水処理装置の硫酸還元反応槽の構成を示す説明図である。
【図3】本発明の第1実施形態による排水処理装置のメタン発酵槽の構成を示す説明図である。
【図4】本発明の第1実施形態による排水処理装置の生物脱硫処理槽の構成を示す説明図である。
【図5】本発明の第1実施形態による排水処理装置の生物脱硫処理槽の硫黄酸化細菌付着担体の構成を示す斜視図である。
【図6】本発明の第2実施形態による排水処理装置の構成を示す説明図である。
【図7】本発明の第2実施形態による排水処理装置の第1の硫黄ストリッピング手段を設けた硫酸還元反応槽の構成を示す説明図である。
【図8】本発明の第2実施形態による排水処理装置の第2の硫黄ストリッピング手段を設けた硫酸還元反応槽の構成を示す説明図である。
【図9】本発明の第3実施形態による排水処理装置の構成を示す説明図である。
【図10】本発明の第4実施形態による排水処理装置の構成を示す説明図である。
【図11】本発明の第5実施形態による排水処理装置の構成を示す説明図である。
【図12】本発明の第6実施形態による排水処理装置の構成を示す説明図である。
【図13】従来の排水処理装置の構成を示す説明図である。
【図14】従来の排水処理装置により行われる生物分解の内容を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
《第1実施形態》
本発明の第1実施形態による排水処理装置1Aの構成について、図1を参照して説明する。
【0027】
本実施形態による排水処理装置1Aは、硫酸還元反応槽2と、メタン発酵槽3と、生物脱硫処理槽4とを有する。
【0028】
この硫酸還元反応槽2には、処理対象の排水を流入するための管11が連結されている。また硫酸還元反応槽2とメタン発酵槽3とは、排水を送水するための管12で連結されている。また硫酸還元反応槽2の上部と生物脱硫処理槽4の下部とは、ガスの通路となるガス管13により連結されている。またメタン発酵槽3には、排水を下水道に流出させるための管14が連結されている。またメタン発酵槽3の上部と生物脱硫処理槽4の下部とは、ガスの通路となるガス管15により連結されている。また生物脱硫処理槽4には、反応に用いる水を流入するための管16、および空気を流入するためのガス管17が連結されている。また生物脱硫処理槽4の上部には、発生したメタンガスを放出するためのガス管18が連結されている。また生物脱硫処理槽4と硫酸還元反応槽2とは、処理水を送水するための管19で連結されている。
【0029】
また、硫酸還元反応槽2内には、図2に示すように硫酸還元菌201を付着させた比重1.5の球形のプラスチック担体202が投入されている。硫酸還元反応槽2内では硫酸還元菌が優位に働いているが、硫酸還元菌の他、加水分解菌、酸生成菌等が含まれている。
【0030】
また、メタン発酵槽3内には、図3に示すようにメタン生成菌を塊とした粒状汚泥であり、粒子径1〜10mm、沈降速度1〜30m/hのグラニュール301が投入されている。メタン発酵槽3内ではメタン生成菌が優位に働いているが、メタン生成菌の他、硫酸還元菌、加水分解菌、酸生成菌等が含まれている。
【0031】
これらの硫酸還元反応槽2およびメタン発酵槽3内では、上向流嫌気性スラッジブランケット法(Upflow Anaerobic Sludge Blanket:UASB)法を用いた嫌気処理を行うように構成されている。この上向流嫌気性スラッジブランケット法とは、上向流により嫌気性微生物が自己造粒して粒状汚泥を形成することを利用し、その粒状汚泥を用いて嫌気性消化槽内に高濃度に分解微生物を維持する事により、高効率に排水中の有機物を分解処理する方法である。
【0032】
また、生物脱硫処理槽4内には、図4に示すように中段に硫黄酸化細菌付着担体401が投入されている。この硫黄酸化細菌付着担体401は、図5に示すように円筒形に形成された担体401Aの外側や内側に、硫黄酸化細菌401Bが付着されて構成されている。
【0033】
本実施形態による排水処理装置1Aにより、処理対象の排水が生物処理により有機物分解処理が行われるときの処理工程について説明する。
【0034】
まず、硫酸還元反応槽2において連結された管11から処理対象の排水が流入され、下記式(1)に示すようにまず加水分解菌により排水中の高分子有機物(炭水化物、たんぱく質、脂質)が低分子有機物へ分解された後、式(2)に示すように酸生成菌により低分子有機物が低級脂肪酸(酢酸、プロピオン酸など)へ分解される。
【0035】
さらに硫酸還元反応槽2では、後述するように生物脱硫処理槽4から管19を通って送水された硫酸溶液(HSO(l))に含まれる硫酸イオン(SO2−)が、プラスチック担体202に付着された硫酸還元菌により還元されることで酢酸等の有機物が分解され、式(4)に示すように、硫化水素(HS)、二酸化炭素、および水(HO)が生成される。
【0036】
[化2]
高分子有機物(炭水化物、たんぱく質、脂質) + H
→ 低分子有機物 (1)
低分子有機物 → 低級脂肪酸(酢酸、プロピオン酸など) (2)
CHCOOH → CH + CO (3)
SO2− + CHCOOH + 2H → HS + 2CO +2H
(4)
S + 2O → SO2− + 2H (5)
式(4)の反応により生成された硫化水素は、主に気相中へ硫化水素ガス(HS(g))として放出されるかまたは、排水のpHにより解離されて硫化物イオン(S2−)として排水中に放出される。
【0037】
そして、硫酸還元反応槽2において気相中へ放出された硫化水素ガス(HS(g))はガス管13を通って生物脱硫処理槽4に送出され、硫化物イオン(S2−)および硫酸還元反応槽2で分解しきれなかった有機物を含有する排水は、管12を通ってメタン発酵槽3に送水される。
【0038】
メタン発酵槽3では、硫酸還元反応槽2で硫酸還元菌による生物処理が行われ送水された排水が取り込まれ、硫酸還元反応槽2で分解しきれなかった有機物が上記式(1)に示すように加水分解菌により排水中の高分子有機物(炭水化物、たんぱく質、脂質)が低分子有機物へ分解された後、式(2)に示すように酸生成菌により低分子有機物が低級脂肪酸(酢酸、プロピオン酸など)へ分解される。
【0039】
さらにメタン発酵槽3では、上記式(4)に示すように、メタン発酵槽3内の硫酸還元菌により酢酸等の有機物が分解され、硫化水素(HS)、二酸化炭素、および水(HO)が生成されるとともに、メタン発酵槽3内のグラニュール301により、上記式(3)に示すように酢酸等の低級脂肪酸がメタンガス(CH(g))と二酸化炭素(CO)とに分解される。
【0040】
そして、メタン発酵槽3において式(4)の反応により生成された硫化水素ガス(HS(g))および式(3)の反応により生成されたメタンガス(CH(g))は気相中に放出され、ガス管15を通って生物脱硫処理槽4に送出される。
【0041】
また、メタン発酵槽3で有機物が分解された処理済みの排水は、管14を通って下水道に流出される。
【0042】
次に生物脱硫処理槽4では、硫酸還元反応槽2から送出された硫化水素ガス(HS(g))と、メタン発酵槽3から送出された硫化水素ガス(HS(g))およびメタンガス(CH(g))が取り込まれるとともに、管16から水が取り込まれ、さらに管17から脱硫に必要な酸素を供給するための空気が取り込まれ、生物脱硫処理槽4内の硫黄酸化細菌付着担体401の硫黄酸化細菌401Bにより、上記式(5)に示すように硫化水素(HS)の脱硫が行われ、硫酸イオン(SO2−)を含む硫酸溶液(HSO(l))が生成される。
【0043】
生成された硫酸溶液(HSO(l))は管19を通って、硫酸還元反応槽2に送水され、硫酸還元菌による酢酸等の還元反応に利用される。
【0044】
また、生物脱硫処理槽4において脱硫が行われた後、取り込まれたメタンガス(CH(g))は、ガス管18から排出される。
【0045】
以上の第1実施形態によれば、嫌気性処理環境において有機物分解処理を行う硫酸還元菌とメタン生成菌とを、それぞれが優位に働く硫酸還元反応槽とメタン発酵槽とに分けて排水処理を行うように構成したことにより、メタン生成菌によるメタン生成処理の活性を低下させることなく安定した排水処理を行うことが可能になる。
【0046】
またこのとき、硫酸還元菌が優位に働く硫酸還元反応槽では、硫酸還元菌を付着させ且つ比重が大きいプラスチック担体を用いたため、排水の上向流速度よりもこのプラスチック担体の沈降速度が大きくなり、硫酸還元菌の槽外への流出を防止することができる。これにより、硫酸還元反応槽における硫酸還元処理の処理効率が安定化する。
【0047】
また、メタン生成菌が優位に働くメタン発酵槽では、メタン生成菌の塊であり粒子径および沈降速度が大きいグラニュールを用いたため、硫酸還元反応槽で処理された排水の上向流速度よりもこのグラニュールの沈降速度が大きくなり、メタン生成菌の槽外への流出を防止することができる。これにより、メタン発酵槽におけるメタン発酵処理の処理効率が安定化する。
【0048】
また、生物脱硫処理槽では、硫黄酸化細菌を付着させた硫黄酸化細菌付着担体を用いたため、硫酸還元反応槽およびメタン発酵槽から取り込まれた硫化水素ガス(HS(g))と硫黄酸化細菌との接触効率が高まり、脱硫速度を向上させることができる。
【0049】
また、本実施形態においては、硫酸還元反応槽で使用したプラスチック担体が球形の場合について説明したが、これには限定されず、他の形状、例えばひも状担体としてもよい。また、メタン発酵槽で使用したメタン生成菌はグラニュールとする他、日本国内の下水処理場に多く存在し安価な消化汚泥を使用することも可能である。また、生物脱硫処理槽で使用した担体が筒状の場合について説明したが、これには限定されず、他の形状で構成してもよい。
【0050】
《第2実施形態》
本発明の第2実施形態による排水処理装置1Bの構成について、図6〜8を参照して説明する。
【0051】
第1実施形態において説明したように、硫酸還元反応槽2およびメタン発酵槽3内において処理された排水中には硫化物イオン(S2−)が溶存しているが、この硫化物イオン(S2−)は硫酸還元菌やメタン生成菌の働きを阻害しこれらの菌による反応速度を遅延させることになる。
【0052】
そのため第2実施形態においては、第1実施形態の排水処理装置1Aに硫黄ストリッピングを行う手段をさらに設け、これにより排水中に溶存する硫化物イオン(S2−)を硫化水素ガス(HS(g))として気相中に放出させ反応効率を高めるようにする。
【0053】
この硫黄ストリッピングを行う第1の手段として、硫酸還元反応槽2と生物脱硫処理槽4とを連結するガス管13から分岐して硫酸還元反応槽2に連結するガス管20と、ガス管13からガス管20に硫化水素ガス(HS(g))を取り込むポンプ21と、ポンプ21で取り込んだ硫化水素ガス(HS(g))を硫酸還元反応槽2内の排水中に投入されているプラスチック担体よりも上部の水面に近い位置にバブリングする散気管22とを有する。
【0054】
このように形成された第1の硫黄ストリッピング手段により、硫酸還元反応槽2で生成された硫化水素ガス(HS(g))が、ガス管13および20を通って硫酸還元反応槽2に戻されバブリングされることで、排水中の硫化物イオン(S2−)が硫化水素ガスとして気相中へ追い出される。
【0055】
また硫黄ストリッピングを行う第2の手段として、硫酸還元反応槽2とメタン発酵槽3とを連結する管12から分岐して硫酸還元反応槽2に連結する管23と、管12から管23に排水を取り込むポンプ24と、ポンプ24で取り込んだ排水を硫酸還元反応槽内の気相中に散水する散水装置25とを有する。
【0056】
このように形成された第2の硫黄ストリッピング手段により、硫酸還元反応槽2で処理され硫化物イオン(S2−)を含む排水が、管12および23を通って硫酸還元反応槽2に戻され散水されることで、排水中の硫化物イオン(S2−)が硫化水素ガスとして気相中へ追い出される。
【0057】
また、メタン発酵槽3にも硫酸還元反応槽2と同様に、硫化水素ガス(HS(g))をメタン発酵槽3内に戻すためのガス管26、処理した排水をメタン発酵槽3内に戻すための管27等により第1および第2の硫黄ストリッピング手段を設けることで、排水中の硫化物イオン(S2−)が硫化水素ガスとして気相中へ追い出される。
【0058】
この硫黄ストリッピング以外の排水処理装置1Bにおける処理は、第1実施形態における排水処理装置1Aにおける処理と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0059】
以上の第2実施形態によれば、第1実施形態で得られる効果に加え、硫酸還元反応槽において硫黄ストリッピングを行うことにより、排水処理装置内の硫黄循環効率が高まるとともに、硫酸還元反応槽内における硫化物イオン(S2−)による硫酸還元菌の働きの阻害(生物阻害)を防止することができ、排水処理の効率を高めることができる。
【0060】
また、メタン発酵槽においても硫黄ストリッピングを行うことにより、排水処理装置内の硫黄循環効率がさらに高まるとともに、メタン発酵槽内における硫化物イオン(S2−)によるメタン生成菌の働きの阻害(生物阻害)を防止することができ、排水の処理効率をさらに高めることができる。
【0061】
また、第1の硫黄ストリッピング手段では、槽内に投入された担体よりも上部の水面に近い位置にバブリングを行うようにしたため、菌の流動に外乱を与えることがなく、安定した排水処理を行うことができる。
【0062】
また、第2の硫黄ストリッピング手段では、槽内の気相の高い位置から排水を散水することにより、硫黄ストリッピング効果を向上させることができる。
【0063】
また、本実施形態においては、硫酸還元反応槽2およびメタン発酵槽3の第1の硫黄ストリッピング手段においては、それぞれの槽で生成された硫化水素ガス(HS(g))を戻し入れることでバブリングを行う場合について説明したが、窒素などの水処理に影響を与えないガスを硫酸還元反応槽2およびメタン発酵槽3に注入してバブリングを行うようにしてもよい。
【0064】
また、第1および第2の硫黄ストリッピング手段においてポンプの代わりにそれぞれの管に開閉弁を設け、これを制御することにより硫酸還元反応槽2およびメタン発酵槽3にガスや排水を送出するようにしてもよい。
【0065】
《第3実施形態》
本発明の第3実施形態による排水処理装置1Cの構成について、図9を参照して説明する。
【0066】
本実施形態による排水処理装置1Cは、第1実施形態の排水処理装置1Aまたは第2実施形態の排水処理装置1Bのメタン発酵槽3の下流に、好気性処理槽5を加えた構成となっている。
【0067】
排水処理装置1Cの硫酸還元反応槽2、メタン発酵槽3、および生物脱硫処理槽4において行われる処理については、第1実施形態または第2実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0068】
好気性処理槽5では、好気性菌が投入されており、メタン発酵槽3で処理された排水を取り込み、この処理済みの排水の中の分解しきれなかった有機物を、好気性菌によりさらに分解する。
【0069】
この好気性処理槽5で実行される分解処理には、「(社)日本下水道協会、高度処理施設設計マニュアル、平成6年」および「(社)日本下水道協会、下水道維持管理指針、2003年版」に記載の“活性汚泥法”、“嫌気−好気活性汚泥法”と“嫌気−無酸素−好気法”などを適用することが考えられる。
【0070】
この“活性汚泥法”を適用する場合は、好気性微生物による有機物の除去が可能となる。
【0071】
また“膜分離式活性汚泥法”を適用する場合は、有機物除去に加えて、好気性処理槽5内に設置した精密ろ過膜(MF膜)により浮遊物質(SS)を除去することで、後段の沈殿池での固液分離を十分に行うことが可能となる。“嫌気−好気法”とした場合は、有機物除去に加えてリンを除去することが可能となる。
【0072】
また“嫌気−無酸素−好気法”を適用する場合は、有機物除去に加えて窒素とリンを除去することが可能となる。
【0073】
以上の第3実施形態によれば、第1実施形態および第2実施形態で得られる効果に加え、好気性処理槽における処理で排水の水質をさらに向上させることができるため、硫酸還元反応槽およびメタン発酵槽により処理された排水が放流水質基準に適合していない場合にも、好気性処理槽の処理により適合させることが可能になる。
【0074】
《第4実施形態》
本発明の第4実施形態による排水処理装置1Dの構成について、図10を参照して説明する。
【0075】
本実施形態による排水処理装置1Dの硫酸還元反応槽2、メタン発酵槽3、および生物脱硫処理槽4において行われる処理については、第1実施形態〜第3実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0076】
本実施形態による排水処理装置1Dは、第1実施形態の排水処理装置1A〜第3実施形態の排水処理装置1Cの生物脱硫処理槽4に水を流入する管16の代わりに、メタン発酵槽3で処理された排水を流出させる管14から分岐した管28を連結することにより、アルカリ度の高い排水を生物脱硫処理槽4に流入する排水供給手段を加えた構成となっている。
【0077】
このように排水供給手段を設けることにより、メタン発酵槽3で処理されたアルカリ度の高い排水が生物脱硫処理槽4に供給され、生物脱硫処理槽4内における硫酸生成処理に用いられる。
【0078】
以上の第4実施形態によれば、第1実施形態〜第3実施形態で得られる効果に加え、生物脱硫処理槽4における脱硫処理をアルカリ度の高い排水を利用して行うことで、硫化水素ガスの吸収を高めて脱硫処理の速度を加速させ、排水の処理効率をさらに高めることができる。
【0079】
《第5実施形態》
本発明の第5実施形態による排水処理装置1Eの構成について、図11を参照して説明する。
【0080】
本実施形態による排水処理装置1Eは、第1実施形態の排水処理装置1A〜第4実施形態の排水処理装置1Dの硫酸還元反応槽2の上流に、前処理槽6を加えた構成となっている。
【0081】
排水処理装置1Eの硫酸還元反応槽2、メタン発酵槽3、および生物脱硫処理槽4において行われる処理については、第1実施形態〜第4実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0082】
前処理槽6では、硫酸還元反応槽2に排水を流入する前に前処理を行い、硫酸還元反応槽2における硫酸還元処理やメタン発酵槽3におけるメタン発酵処理に悪影響を与える物質を予め除去する。
【0083】
この前処理には、原水水質に応じて様々な方法がある。例えば、下水や浮遊物質(SS)が多く含まれる場合は、精密ろ過膜(MF膜)、限外ろ過膜(UF膜)によるろ過や、砂ろ過などの適用が考えられる。また、たんぱく質が多く含まれる場合は熱処理などが考えられる。
【0084】
精密ろ過膜(MF膜)とした場合は、懸濁物質や細菌、超微粒子など、おおむね0.1 〜 10(μm)の物質を除去することができる。また、限外ろ過膜(UF膜)とした場合は、たんぱく質や酸素、細菌類やウイルスなど1 〜 100(nm)の物質を除去することができる。また、砂ろ過とした場合は、mmオーダ以上の比較的大きな浮遊物質を除去することができる。
【0085】
熱処理とした場合は、食品排水などに含まれるたんぱく質を70(℃)程度に加熱し凝固させ、これを取除くことで排水中のたんぱく質を分解することができる。
【0086】
以上の第5実施形態によれば、第1実施形態〜第4実施形態で得られる効果に加え、前処理槽において硫酸還元反応槽およびメタン発酵槽に悪影響を与える物質を予め除去することで、排水の処理効率、特に硫酸還元反応槽における硫酸還元処理の処理効率をさらに高めることができる。
【0087】
《第6実施形態》
本発明の第6実施形態による排水処理装置1Fの構成について、図12を参照して説明する。
【0088】
本実施形態による排水処理装置1Fは、第1実施形態の排水処理装置1A〜第5実施形態の排水処理装置1Eの硫酸還元反応槽2に、管29から硫黄を供給する硫黄供給手段を加えた構成となっている。
【0089】
排水処理装置1Fの硫酸還元反応槽2、メタン発酵槽3、および生物脱硫処理槽4において行われる処理については、第1実施形態〜第5実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0090】
本実施形態においては、硫黄供給手段により硫酸還元反応槽2に管29から硫黄が供給され、硫酸還元反応槽2における硫酸還元反応に利用される。
【0091】
以上の第6実施形態によれば、硫酸還元反応槽に硫黄を供給する硫黄供給手段を設けることにより、排水中に硫黄が含まれていない場合であっても、この硫黄供給手段により一度硫黄を供給することで排水処理装置内に硫黄循環が形成されるようになり、効率のよい排水処理の実行が可能になる。
【符号の説明】
【0092】
1A〜1F…排水処理装置
2…硫酸還元反応槽
3…メタン発酵槽
4…生物脱硫処理槽
5…好気性処理槽
6…前処理槽
11〜20,23,26,27〜29…管
21…ポンプ
22…散気管
24…ポンプ
25…散水装置
201…硫酸還元菌
202…プラスチック担体
301…グラニュール
401…硫黄酸化細菌付着担体
401A…担体
401B…硫黄酸化細菌

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸還元菌が投入され、処理対象の排水を取り込んで前記硫酸還元菌により排水中の硫酸イオンを還元することで有機物を分解するとともに硫化水素を生成する嫌気処理を行う硫酸還元反応槽と、
メタン生成菌が投入され、前記硫酸還元反応槽で処理された排水を取り込んで、前記硫酸還元反応槽で分解されなかった排水中の有機物を前記メタン生成菌により分解する嫌気処理を行うメタン発酵槽と、
硫黄酸化菌が投入され、前記硫酸還元反応槽で生成された硫化水素を取り込んで前記硫黄酸化菌により脱硫処理を行うことで硫酸を生成し、生成した硫酸を前記硫酸イオンの還元に利用させるために硫酸還元反応槽に送水する生物脱硫処理槽と、
を有することを特徴とする排水処理装置。
【請求項2】
前記硫酸還元反応槽で生成された硫化水素を、当該硫酸還元反応槽の排水中に散気することで排水中の硫黄ストリッピングを行う第1硫黄ストリッピング手段と、
前記硫酸還元反応槽で処理された排水を、当該硫酸還元反応槽の気相中に散水することで排水中の硫黄ストリッピングを行う第2硫黄ストリッピング手段と、
をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の排水処理装置。
【請求項3】
好気性菌が投入され、前記メタン発酵槽で処理された排水を取り込んで、前記硫酸還元反応槽および前記メタン発酵槽で分解されなかった排水中の有機物を前記好気性菌により分解する好気処理を行う好気性処理槽をさらに有する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の排水処理装置。
【請求項4】
前記メタン発酵槽で処理された排水を、前記生物脱硫処理槽へ供給する排水供給手段をさらに有する
ことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の排水処理装置。
【請求項5】
前記硫酸還元反応槽の上流に、浮遊物質を除去するろ過手段またはたんぱく質を分解する熱処理手段をさらに有する
ことを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の排水処理装置。
【請求項6】
前記硫酸還元反応槽に、硫黄を供給する硫黄供給手段をさらに有する
ことを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載の排水処理装置。
【請求項7】
前記硫酸還元反応槽には硫酸還元菌が付着された担体が投入され、前記メタン発酵槽にはメタン生成菌の塊が投入され、前記生物脱硫処理槽には担体に付着された硫黄酸化菌が投入される
ことを特徴とする請求項1〜6いずれか1項に記載の排水処理装置。
【請求項8】
排水処理装置が、
硫酸還元反応槽に処理対象の排水を取り込んで、当該硫酸還元反応槽に投入された硫酸還元菌により排水中の硫酸イオンを還元することで有機物を分解するとともに硫化水素を生成する嫌気処理を行い、
メタン発酵槽に前記硫酸還元反応槽で処理された排水を取り込んで、前記硫酸還元反応槽で分解されなかった排水中の有機物を、当該メタン発酵槽に投入されたメタン生成菌により分解する嫌気処理を行い、
生物脱硫処理槽に前記硫酸還元反応槽で生成された硫化水素を取り込んで、当該生物脱硫処理槽に投入された硫黄酸化菌により脱硫処理を行うことで硫酸を生成し、生成した硫酸を前記硫酸イオンの還元に利用させるために硫酸還元反応槽に送水する
ことを特徴とする排水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−212622(P2011−212622A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84920(P2010−84920)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】