説明

排水処理装置

【課題】 大型で複雑な構造を要せずに、微生物を利用した排水処理装置であって、微生物による有機物の分解効率を向上し、特に油脂分の環境への流出量を抑制することが可能な排水処理装置を提供する。
【解決手段】 微生物を用いて排水処理を行う分解槽5を、仕切板7a、7bにより分割し、分割されたそれぞれの区画に、曝気用散気管6a〜6dを設置し、処理水の流出口9に近い方の散気管を、処理水の流入口に近い方の散気管よりも高い位置に設置して、散気管から放出されるエアによる攪拌の効果を向上させる。また、微生物の活性を向上するための光源として分解槽5の上部に蛍光灯10を設置し、浮遊する油脂類が分解されないうちに分解槽5の外部に流出しないように、処理水の流出口9を、分解槽5の底部近傍に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理装置、特に比較的小規模な事業所から排出される排水の処理装置と、大規模事業所の浄化槽や除外施設の前処理として利用される排水処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に家庭の厨房や浴室などから排出される排水や、事業所から排出される排水は、建屋に設けられた排出口近傍の土中に埋設された沈殿槽に導入された後、下水道を経て下水処理施設で処理され、河川に排出されている。また、地域によっては、下水処理施設を経由しないで、雨水と同様に河川に排出されている。
【0003】
我が国においても、家庭や企業などからの排水が直接河川に放出されることによる河川の汚染が著しい時期があり、下水処理施設の整備が促進されてきたという経緯がある。近年においても、特に企業からの排出される排水については、規制の対象となっているが、家庭からの排水は、地域によっては、未だ下水道の整備が不十分で、河川にそのまま放出されていることがある。
【0004】
一方で、下水処理施設の有無に関わらず、家庭や事業所からの排水は、前記のように、まず分離マスと称される沈殿槽に導入され、野菜屑のような固形分や油脂類をある程度分離した後に、下水道に放出される。このような方法で放出される排水には、分離マスで沈殿しなかった汚染物質が含まれる他、分離マスの底部に沈殿した固形分や油脂分が、腐敗臭を放つという問題がある。
【0005】
また、分離マス底部の沈殿物は、当然のことながら、放置すれば増加する一方なので、定期的に掃除を行う必要があり、掃除の結果発生する汚泥の処理が必要となる。さらに、油脂分は比重が水より小さいので、沈殿せずに排出され、下水道に繋がる配管の内壁に着し、配管を閉塞してしまうことがあり、この除去には多大の労力を要するという問題がある。
【0006】
しかも、このような問題の他、一般的に下水処理施設の整備が遅れている地域は、耕作地が多く、灌漑用水に家庭などからの排水が流入することがあり、農作物の安全性を低下させる可能性も完全には否定できない。
【0007】
このような問題に対処するために、家庭や事業所からの排水に含まれる油脂類は勿論のこと、固形分や汚染物質の殆どが、生分解可能な有機物であることから、微生物により、油脂類などを分解して、排水を浄化することが一般的に行われている。このような例の一つとして、特許文献1には、複合微生物を用いて家庭からの排水を浄化する装置が開示されている。
【0008】
しかしながら、ここに開示されている装置は、複合微生物を粉体で扱うために、大掛かりな自動供給装置が必要になるのを始めとして、装置全体が複雑化大型化するために、一般的な家庭や小規模の事業所では設置が困難であるという欠点を有する。また、排水中にオゾンを噴出させるため、装置が高価になるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】 特開平7−308692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の課題は、大型で複雑な構造を要せずに、微生物を利用した排水処理装置であって、微生物による有機物の分解効率を向上し、特に油脂分の環境への流出量を抑制することが可能な排水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記の課題解決の手段として、微生物の活性向上のため光を用いること、分解槽内の攪拌効率を向上すること、比重の小さい油脂類が分解槽から流出し難い排水口の構造を検討した結果なされたものである。
【0012】
即ち、本発明は、長手方向の一方の端に、処理水の流入口と複合微生物培養液の注入口を有し、他方の端に処理水の流出口を有する分解槽を具備してなる排水処理装置において、前記分解槽は、底部に接する部分に開口部を有する仕切板により、少なくとも3つ以上の区画に分割され、前記流入口を有する区画にはバスケットが設置され、それぞれの前記区画には、少なくとも1箇の曝気用散気管が設置され、前記曝気用散気管の設置位置は、前記流出口に近い方が、前記流入口に近い方よりも高いことを特徴とする排水処理装置である。
【0013】
また、本発明は、前記分解槽が、3つの区画に分割され、前記流入口側と前記流出口側の区画に、それぞれ1箇の曝気用散気管が設置され、中間の区画には、2個の曝気用散気管が設置され、前記流出口側の区画に設置された曝気用散気管及び前記中間の区画における前記流出口側に設置された曝気用散気管の設置位置は、前記流入口側の区画に設置された曝気用散気管、及び前記中間の区画における前記流入口側に設置された曝気用散気管の設置位置よりも高いことを特徴とする、前記の排水処理装置である。
【0014】
また、本発明は、前記処理水の流出口が、前記分解槽の底部近傍に設置されてなることを特徴とする、前記の排水処理装置である。
【0015】
また、本発明は、前記分解槽には、蛍光灯が設置されてなることを特徴とする、前記の排水処理装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の排水処理装置においては、分解槽が仕切板により3つ以上の区画に分割されていて、排水の上に浮いた状態の油脂類が、直ちに流出口に到達することなく、それぞれの区画における滞留時間を長くできるので、添加される微生物による分解が十分になされ、顕著な浄化効果が得られる。
【0017】
また、仕切板によって分割された区画のうち、処理水の流入口が設けられている区画には、金属や繊維質材料の網で構成されるバスケットが設置されているので、固形物の分別が可能で、処理水の浄化効率向上に寄与できる。
【0018】
また、分解槽のそれぞれの区画には、曝気用散気管が設置され、分解槽に併設されているブロアポンプから供給されるエアを噴き出すようになっているが、処理水の流出口に近い方の設置位置を高くすることにより、攪拌の効率を向上することができる。より具体的には、3分割された場合の中間の区画には、少なくとも2箇の曝気用散気管を設置し、処理水の流出口に近い方を高くする。
【0019】
また、本発明において用いる複合微生物培養液には、乳酸菌群、酵母菌群、グラム陽性放線菌群、光合成細菌群、発酵系の糸状菌群、納豆菌群などが含まれるが、特に光合成細菌群は、光合成を行うことで二酸化炭素や有機物を栄養源として繁殖し、硫化水素・有害アミンを急速に分解する能力がある。従って、光の照射が光合成細菌群を活性化させ、その機能や作用を増加することができる。このため、本発明の排水処理装置においては、分解槽の上に蛍光灯を設置することで排水処理の効率を向上し得る。
【0020】
また、前記のように、一般に油脂類は水より比重が小さいので、処理水の表面に浮遊した状態で移動する。従って処理水の流出口を分解槽の下部に設置することにより、微生物による分解が不十分な油脂類が分解槽から流出することを抑制できる。
【0021】
前記のような構成とすることで、従来の排水処理装置では、定期的なメインテナンスとして必要であった、沈殿物の汲み取りや配管への付着物の除去作業の頻度を、極めて少なくすることが可能となり、実質的にメインテナンスフリーとなる。また、副次的な効果として、ゴキブリやハエなどの発生がなくなり、これを用いた家庭や職場の衛生環境を大幅に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】 本発明の排水処理装置の一例を示す図。
【図2】 曝気用散気管の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の排水処理装置の実施の形態について説明する。
【0024】
図1は、本発明の排水処理装置の一例を示す図である。ここでは、分解槽が3つの区画に分割されている例について説明する。図1において、1は複合微生物培養液の自動注入機、2はブロアポンプ、3は処理水の流入口、4はバスケット、5は分解槽、5aは第一の区画、5bは第二の区画、5cは第三の区画、6a、6b、6c、6dは曝気用散気管、7a、7bは仕切板、8a、8bは仕切板の開口部、9は処理水の流出口、10は蛍光灯、11は分解槽の蓋である。また図2は、図1における曝気用散気管6a、6b、6c、6dの斜視図で、図中の矢印は、分解層5の長手方向を示す。
【0025】
本実施の形態の分解槽5は、コンクリート製で、内寸は、長さが約1200mm、深さが約540mm、奥行きが約540mmであり、滞留する排水の水深を約300mm、水量を約200lとして運用する。バスケット4は、厚さが2〜3mmのステンレスの多孔板を用いて製作したものである。
【0026】
分解槽5は、仕切板7a、7bにより、3つに分割され、第一の区画5aには曝気用散気管6aが設置され、第二の区画5bには曝気用散気管6bと6cが設置され、第三の区画5cには曝気用散気管6dが設置されている。そして、曝気用散気管6aと6bは、仕切板の開口部8aの上端よりも低い位置に設置され、曝気用散気管6cと6dは仕切板の開口部8bの上端よりも高い位置に設置されている。
【0027】
ここでは、ブロアポンプ2として、AC100V/40Wで、エア圧が11.8kPa、吐出風量が40l/minのものを用いた。エアを曝気用散気管6a、6b、6c、6dに供給するための配管には、内径が16mmの硬質塩化ビニル管を用いた。曝気用散気管6a、6b、6c、6dには、外径が30mm、内径が18mm、長さが250mmのものを、2本中央でエルボを用いて接続し、エアの均一化を図った。ここで用いたものはエアを噴き出す細孔の平均径が35μmである。仕切板7a、7bには、厚さが約10mmのパーティクルボードに、防腐処理を施したものを用いた。
【0028】
それぞれの曝気用散気管の位置を、前記のように調整し、曝気用散気管5c、6dに供給するエアの圧力をバルブの調整により高くすることで、エアによる処理水の攪拌効率が向上し、油脂類の分解が促進される。
【0029】
また、複合微生物培養液としては、乳酸菌群、酵母菌群、グラム陽性放線菌群、光合成細菌群、発酵系の糸状菌群、納豆菌群などを含むものを用いるが、前記のように主に光合成菌群を活性化するために、分解槽の蓋に蛍光灯を設置し、分解槽5に光を照射する。ここでは市販の30W程度の蛍光灯を用いることができる。
【0030】
ここで用いる複合微生物培養液は、職種や事業所によって異なるが、例えば、1000食/日程度の調理を行う学校給食センターの場合で、300〜400ccであり、終業後、自動注入機1を用いて分解槽に注入する。
【0031】
以上に説明したように、本発明によれば、簡単な構成で、高い処理能力を有する排水処理装置が得られる。これによって、下水道の整備が不十分な地域ばかりでなく、都市部における下水道周りの衛生環境を大幅に向上することができる。なお、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、例えば仕切板を7a、7bをプラスチック製の板にしたり、曝気用散気管6a、6b、6c、6dを円盤型噴気盤にしたりするような、各種変形、修正、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更などがあっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0032】
1 自動注入機
2 ブロアポンプ
3 処理水の流入口
4 バスケット
5 分解槽
5a 第一の区画
5b 第二の区画
5c 第三の区画
6a,6b,6c,6d 曝気用散気管
7a,7b 仕切板
8a,8b 仕切板の開口部
9 処理水の流出口
10 蛍光灯
11 分解槽の蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向の一方の端に、処理水の流入口と複合微生物培養液の注入口を有し、他方の端に処理水の流出口を有する分解槽を具備してなる排水処理装置において、前記分解槽は、底部に接する部分に開口部を有する仕切板により、少なくとも3つ以上の区画に分割され、前記流入口を有する区画にはバスケットが設置され、それぞれの前記区画には、少なくとも1箇の曝気用散気管が設置され、前記曝気用散気管の設置位置は、前記流出口に近い方が、前記流入口に近い方よりも高いことを特徴とする排水処理装置。
【請求項2】
前記分解槽は、3つの区画に分割され、前記流入口側と前記流出口側の区画に、それぞれ1箇の曝気用散気管が設置され、中間の区画には、2個の曝気用散気管が設置され、前記流出口側の区画に設置された曝気用散気管及び前記中間の区画における前記流出口側に設置された曝気用散気管の設置位置は、前記流入口側の区画に設置された曝気用散気管、及び前記中間の区画における前記流入口側に設置された曝気用散気管の設置位置よりも高いことを特徴とする、請求項1に記載の排水処理装置。
【請求項3】
前記処理水の流出口は、前記分解槽の底部近傍に設置されてなることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の排水処理装置。
【請求項4】
前記分解槽には、蛍光灯が設置されてなることを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の排水処理装置。

【図1】
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【図2】
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