説明

排水及び廃油の処理方法

【課題】光触媒をエンジンオイル、切削油、グリーストラップにおけるオイル類の処理に用いた場合に顕著な作用効果を奏することを見出したもので、エンジンオイル、切削油、グリーストラップにおけるオイルを効率的に分解することができる排水及び廃油の処理方法を提供しようとするものである。
【解決手段】この発明の排水及び廃油の処理方法はエンジンオイル、切削油、グリーストラップにおけるオイル類の処理において、エンジンオイル、切削油、グリーストラップで捕捉されるオイル類に予め光触媒を添加することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、悪臭物質や有害物質の吸着、分解作用を有する光触媒性複合組成物を使用する排水及び廃油の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンなどの光触媒は、光が照射されると、接触してくる悪臭物質や有害物質を酸化還元作用により分解、除去することができる。したがって、光触媒を用いて悪臭物質や有害物質の吸着、分解を行なう試みが多数提案されてきている。
しかしながら、酸化チタン自身は、吸着能力がほとんど無いため、空間内などで使用しても、酸化チタンと悪臭成分との接触機会が少なく、悪臭成分などの分解効率が低い。そこで、酸化チタンを擬似体液に浸漬することにより、その表面をアパタイトで覆い、悪臭物質をアパタイトで吸着した後、酸化チタンで分解する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、擬似体液に代えて、リン酸イオンを含まないカルシウム溶液と、カルシウムイオンを含まないリン酸溶液と二酸化チタンを交互に接触させて、酸化チタンの表面をアパタイトで覆う技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
このようなアパタイト被覆光触媒(光触媒性複合組成物)は、酸化チタンの表面がアパタイトで完全に覆われていると、酸化チタンの光触媒作用を利用することができないため、酸化チタンの表面の一部のみをアパタイトで被覆しておくことが好ましい。
【0005】
しかしながら、従来の方法でアパタイト被覆光触媒を製造すると、酸化チタン表面の略全体がアパタイトで覆われてしまい、アパタイトが有する細孔の底部でしか酸化チタンが露出していないため、悪臭物質などの分解能力が低いという問題点がある。また、従来の方法でアパタイト被覆光触媒を製造すると、酸化チタンの表面に形成されるのは、結晶化度の高いアパタイトであるため、その一部を除去して酸化チタンの表面を露出させるのが困難であり、悪臭物質などの分解能力が高いアパタイト被覆光触媒を製造するのが困難であるという問題点がある。
【0006】
以上の問題点に鑑みて、出願人(系列企業:株式会社宇宙環境保全センター)は先二酸化チタンなどの光触媒機能を有する基材の表面の一部のみを吸着物質層で被覆した光触媒性複合組成物を製造するのに適した方法、およびこの方法で製造した光触媒性複合組成物を提供することを提案した(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
すなわち、前記特許文献3の発明では、光触媒機能を有する基材を処理液と接触させて当該基材の表面を多孔性リン酸カルシウム(アパタイトあるいはその類縁化合物)で被覆した光触媒性複合組成物を製造する方法において、前記処理液中に繊維状蛋白質を含ませておくことを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−244166号公報
【特許文献2】特開2004−168601号公報
【特許文献2】特開2006−136778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記の光触媒性複合組成物は防汚性について顕著な作用を有することが判明しており、コーティング剤やスプレー剤などとしてテーブルやカーテンなどに塗布、噴霧したり、有用な微生物の活性を高める一方、不要な微生物の活性を低下させる土壌改質剤として利用したり、ペットフードに添加して排泄物の臭いを除去すること等に利用されている。
【0010】
この発明は、光触媒をエンジンオイル、切削油、グリーストラップで捕捉されるオイル類や各種の工業用排水及び廃油の処理に用いた場合に顕著な作用効果を奏することを見出したもので、エンジンオイル、切削油、グリーストラップにおけるオイル類や各種の工業用排水及び廃油を効率的に分解することができる排水及び廃油の処理方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわちこの発明の排水及び廃油の処理方法は、エンジンオイル、切削油、グリーストラップで捕捉されるオイル類や各種の工業用排水及び廃油の処理において、エンジンオイル、切削油、グリーストラップで捕捉されるオイル類や洗剤に予め光触媒を添加することを特徴とするものである。
【0012】
またこの発明の排水及び廃油の処理方法は、前記光触媒が、光触媒機能を有する基材の表面を多孔性リン酸カルシウムおよび繊維状蛋白質を含む処理液で処理することによって、多孔性リン酸カルシウムおよび繊維状蛋白質で被覆した光触媒からなることをも特徴とするものである。
【0013】
この発明の排水及び廃油の処理方法は、前記基材は二酸化チタンであることをも特徴とするものである。
【0014】
この発明の排水及び廃油の処理方法は、前記繊維状蛋白質は、絹からセリシンを除去して得たフィブロインであることをも特徴とするものである。
【0015】
この発明の排水及び廃油の処理方法は、前記多孔性リン酸カルシウムおよび繊維状蛋白質で被覆した光触媒が、処理液によって前記基材の表面を前記多孔性リン酸カルシウムで被覆し、さらに焼成を行ったものであることをも特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明に利用される光触媒性複合組成物は、処理液中に繊維状蛋白質を添加したため、基材表面での多孔性リン酸カルシウムの生成が不完全であり、基材表面の一部のみが多孔性リン酸カルシウムで被覆された状態にある。また、処理液中に繊維状蛋白質を添加すると、基材表面での多孔性リン酸カルシウムの生成が不完全であり、リン酸カルシウムの結晶化度が低いため、基材表面の全体が多孔性リン酸カルシウムで覆われている場合でも、ボールミルで軽く攪拌した場合、あるいはボールミルよりも破砕力の小さな装置で攪拌した場合でも、多孔性リン酸カルシウムの一部が基材表面から脱落し、基材表面の一部のみが多孔性リン酸カルシウムで被覆された状態になる。
従って、この発明に係る方法で製造した光触媒性複合組成物では、まず、多孔性リン酸カルシウムがエンジンオイル、切削油、グリーストラップで捕捉されるオイル類や各種の工業用排水及び廃油中の悪臭物質や有害物質を吸着し、これらの悪臭物質や有害物質を二酸化チタンなどの基材によって効率よく分解、除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態1におけるエンジンオイルに光触媒性複合組成物を添加し、走行実験をした場合の動粘度を示すグラフ。
【図2】水分量の変化を示すグラフ。
【図3】全酸価の変化を示すグラフ。
【図4】全塩基価の変化を示すグラフ。
【図5】油中に含まれる不純物の変化を示す。
【図6】オイルの写真。
【図7】実施の形態2におけるパン屋のグリストラップの清掃に適用した場合の、(a)実験前〜(d)21日経過後の状態を示す写真。
【図8】実施の形態2におけるパン屋のグリストラップの清掃に適用した場合の、(a)実験前〜(f)21日経過後のより詳細な状態を示す写真。
【図9】実施の形態3におけるパン屋のグリストラップの清掃に適用した場合の、(a)〜(e)の約7ヶ月間の状態を示す写真。
【図10】その間の臭気計による測定結果を示すグラフである。
【図11】実施の形態4における焼肉チェーン店のグリストラップの(a)〜(e)の変化の状態を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施の形態1]
本形態では、エンジンオイルに光触媒性複合組成物を約2%添加し、7000〜12000km走行実験をした場合について説明する。
表1に後述の試験油と新油の基礎データを示す。
【表1】

【0019】
図1は動粘度の変化を示す。実線は新油の数値を、破線は使用限界値である。
動粘度:オイル単体で劣化が進むと粘度が上昇する。通常は燃料希釈(燃料室に噴霧され、燃焼しきらない燃料に希釈)され粘度が低下する。
結果として粘度低下は確認されるが、使用限界値は超えていない。
図2は水分量の変化を示す。破線は使用限界値である。
水分:油中に含まれる水分量を重量%で示す。劣化が進むにつれて増加し、エンジン内結露等の原因となる。
結果として水分の増加は確認されるが、使用限界値は超えていない。
図3は全酸価の変化を示す。実線は新油の数値を、破線は使用限界値である。
全酸価:油中1g中に含まれる酸性成分を中和するのに必要な水酸化カリウム(KOH,mg)量を示す。
結果として全酸価量の増加は確認されるが、使用限界値は超えていない。
図4は全塩基価の変化を示す。実線は新油の数値を、破線は使用限界値である。
全塩基価:油中1g中に含まれる塩基成分を中和するのに必要な酸と当量の水酸化カリウム(KOH,mg)量を示す。
結果として全塩基量の低下は確認されるが、使用限界値は超えていない。
図5は油中に含まれる不純物の変化を示す。破線は使用限界値である。
ペンタン不溶解分:油に薬品を混合し、その後に含まれる不純物を測定したものである。劣化が進むと不溶解分が増加する。
結果として不溶解分の増加は確認されるが、使用限界値は超えていない。
図6に順次、新油、光触媒性複合組成物不添加で5000km走行時、光触媒性複合組成物添加で7000km走行時、光触媒性複合組成物添加で12000km走行時のオイルの写真を示す。
【0020】
[実施の形態2]
本形態では、光触媒性複合組成物を配合した溶液(環境改善水:トリニティー 株式会社環境保全研究所製)を既存の洗剤に等量(50重量%)し、これを食器等の洗浄に利用した。
また、光触媒性複合組成物を配合した溶液を適時流し台や側溝等の水周りにスプレーした。なお、前記溶液の使用量は週2リットルを目安とする。
実験は最初の1週間は2日おきにグリストラップの清掃を行い、その後は1週間おきに清掃した。
データ収集は写真と聞き取り調査にて行った。
【0021】
図7(a)に実験前の全体写真を示す。
(b)は実験開始して5日経過後(2日おきに清掃)、(c)は14日経過後、(d)は21日経過後(1週間放置後)の状態を示す写真である。
図8はより詳細を示す写真であり、(a)は実験前の全体写真を示す。表面が固まっていない。
(b)は14日経過後であり、表面がよく固まっている。(c)は14日経過後で、側面に油がほとんど付着していない。(d)は21日経過後で、表面の油が厚く固まっている。また油っぽくなく、さらさらしている。(e)は21日経過後で、掃除用の網にしつこい汚れがほとんどつかない。(f)は21日経過後で、底に溜まる油の塊がほとんどない。
本実施形態の効果(協力してくれたパン屋の店員談)を下記に列挙する。
ア)グリストラップの匂いがほとんどなくなった。
イ)しつこい油汚れがグリストラップの周りにほとんど付かず(これはありえない話だ)
ウ)以前は表面が固まらず、掃除すると表面に浮いている油がばらけて大変であった。
エ)上澄みの油が固まるので掃除しやすい。
オ)油がさらさらしている。
カ)今まで2日おきに掃除しなければならなかったものが、下記の暑い時期に1週間放置してもきれいでほとんど臭いがないのは信じられない。・・・通常は4日間放置すると臭くなる。
キ)掃除が2日おきでなくてもよさそう。
ク)底に溜まった汚泥の臭いもなくなった。
ケ)以前は汚泥の臭いをかぐ気にもならないほど臭かった。
コ)掃除用の網の汚れがほとんどなくなった。
【0022】
[実施の形態3]
本実施形態では、期間を長くして実験した結果を説明する。
図9には(a)3/20、(b)5/22、(c)8/1、(d)9/4、(e)10/10におけるそれぞれの状態を示す写真である。
【0023】
本実施形態における臭気の測定結果を図10に示す。これによれば大幅な臭気の低下が見られる。
【0024】
[実施の形態4]
図11には(a)5/24、(b)6/14、(c)6/27、(d)7/16、(e)7/23に焼肉チェーン店において確認したグリストラップの時系列の変化を示す。
この実施形態においても、前記パン屋における実験例と同様の作用効果が得られ、臭気についても大幅な改善が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0025】
この発明の排水及び廃油の処理方法は、前記エンジンオイル、切削油、グリーストラップにおけるオイル類や各種の工業用排水及び廃油のみならず、油が使用される現場におけるオイル類の処理について幅広く適用できることはいうまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンオイル、切削油、グリーストラップで捕捉されるその他のオイル類や各種の工業用排水及び廃油の処理において、エンジンオイル、切削油、グリーストラップで捕捉されるオイル類や洗剤に予め光触媒を添加することを特徴とする排水及び廃油の処理方法。
【請求項2】
前記光触媒が、光触媒機能を有する基材の表面を多孔性リン酸カルシウムおよび繊維状蛋白質を含む処理液で処理することによって、多孔性リン酸カルシウムおよび繊維状蛋白質で被覆した光触媒からなることを特徴とする排水及び廃油の処理方法。
【請求項3】
請求項2において、前記基材は二酸化チタンであることを特徴とする排水及び廃油の処理方法。
【請求項4】
請求項2または3において、前記繊維状蛋白質は、絹からセリシンを除去して得たフィブロインであることを特徴とする排水及び廃油の処理方法。
【請求項5】
請求項4において、前記多孔性リン酸カルシウムおよび繊維状蛋白質で被覆した光触媒が、処理液によって前記基材の表面を前記多孔性リン酸カルシウムで被覆し、さらに焼成を行ったものであることを特徴とする排水及び廃油の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−201301(P2010−201301A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47447(P2009−47447)
【出願日】平成21年2月28日(2009.2.28)
【出願人】(391044476)株式会社 環境保全研究所 (3)
【Fターム(参考)】