説明

採光断熱材

【課題】断熱性が高く、透光性が高く、かつ圧縮強度が高い採光断熱材を提供する。
【解決手段】複数の樹脂スペーサ3を介して積層された複数の樹脂シート2を備える採光断熱材1であって、前記樹脂シート2が透光性を有しており、前記樹脂スペーサ3が後硬化性樹脂組成物の硬化物により構成されている採光断熱材1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物等に用いられる採光断熱材に関し、より詳細には、複数の樹脂シートが空気層を介して積層した構造を備える採光断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の住環境等を考える場合には、建築物の採光性は極めて重要である。現在の建築物においては、採光部にはガラス窓を設置するのが一般的である。しかしながら、ガラス窓は断熱性が低い。そのため、ガラス窓を通して熱が放出され、または熱が侵入されることによって、冷暖房の効率が低下するという問題があった。「省エネルギー技術戦略報告書」(平成14年6月12日、経済産業省)によれば、全消費エネルギーの45%が窓等の開口部から損失しているといわれている。
【0003】
近年の建築物では、省エネルギーの観点から、外界に対する断熱性を高めることにより、冷暖房の効率を極限にまで高める試みがなされている。このような目的のために、断熱性の高い壁材等が種々提案されている。しかしながら、壁材等に比べて、ガラス窓の断熱性を高めることは困難であった。そのため、ガラス窓の断熱性を高める方法が求められている。
【0004】
ガラス窓の断熱性を高める方法としては、例えば、採光断熱材をガラス窓に取り付ける方法が挙げられる。例えば、下記の特許文献1には、相互に平行に配置されている複数の樹脂製スペーサを介して積層された複数の透光性シートを備える採光断熱材が開示されている。採光断熱材に用いられるスペーサ用樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、シリコーンゴム、エチレン酢ビ共重合体、スチレン系エラストマー、ポリエステル等が挙げられている。また、下記の特許文献2には、上記のような採光断熱材の製造方法が記載されている。すなわち、樹脂フィルム上に溶融樹脂を吐出することにより樹脂製スペーサを形成し、さらに樹脂フィルムを積層する工程を繰り返す方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−114583号
【特許文献2】特許第4608595号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2に記載の採光断熱材のスペーサは、室温状態ではエラストマー(粘弾性体)として挙動する。そのため、特許文献1及び2の採光断熱材は、積層方向外側からの力に弱く、圧縮強度が低かった。従って、特許文献1及び2の採光断熱材は、経時により変形し易く、多段に積んで保管できないという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、断熱性が高く、透光性が高く、かつ圧縮強度が高い採光断熱材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の採光断熱材は、複数の樹脂スペーサを介して積層された複数の樹脂シートを備える採光断熱材であって、前記樹脂シートが透光性を有しており、前記樹脂スペーサが後硬化性樹脂組成物の硬化物により構成されている。
【0009】
本発明の採光断熱材のある特定の局面では、前記樹脂シートの厚さが10μm〜300μmの範囲である。その場合には、必要以上に採光断熱材を厚くすることなく、採光断熱材の強度を充分に高めることができる。
【0010】
本発明の採光断熱材の他の特定の局面では、採光断熱材は前記樹脂シートを3枚以上備えている。その場合には、採光断熱材の断熱性をより高めることができる。
【0011】
本発明の採光断熱材の別の特定の局面では、前記複数の樹脂スペーサが、前記樹脂シートを介して前記樹脂シートの積層方向に重ねて配置されている。その場合には、採光断熱材の意匠性及び透光性をより高めることができる。
【0012】
本発明の採光断熱材のさらに他の特定の局面では、前記複数の樹脂スペーサが、格子状に配置されている。その場合には、前記複数の樹脂シートの間の気密性が高くなる。従って、採光断熱材の断熱性をより高めることができる。
【0013】
本発明の採光断熱材のさらに別の特定の局面では、前記樹脂スペーサが透光性を有している。その場合には、採光断熱材の透光性をさらに高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の採光断熱材では、複数の透光性を有する樹脂シートが複数の樹脂スペーサを介して積層されているため、採光断熱材は高い断熱性及び透光性を有する。さらに、樹脂スペーサが後硬化性樹脂組成物の硬化物により構成されているため、採光断熱材は高い圧縮強度を有する。従って、本発明によれば、断熱性が高く、透光性が高く、かつ圧縮強度が高い採光断熱材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る採光断熱材の一部分を拡大した略図的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0017】
図1に示すように、採光断熱材1は、複数の樹脂シート2を備えている。好ましくは、採光断熱材1は、3枚以上の樹脂シート2を備えている。その場合には、採光断熱材1は後述する空気層5を複数備えるため、断熱性をより高めることができる。本実施形態では、採光断熱材1は、6枚の樹脂シート2を備えている。
【0018】
複数の樹脂シート2の材料となる樹脂は、透光性を有する限り特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレン、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、トリ酢酸セルロース、及びそれらの組み合わせ等が挙げられる。複数の樹脂シート2の材料となる樹脂は全て同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0019】
なお、本発明において「透光性を有する」とは、可視光線透過率が20%以上であることをいう。
【0020】
複数の樹脂シート2の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は10μm、好ましい上限は300μmである。複数の樹脂シート2の厚さが10μm未満であると、得られる採光断熱材の強度が劣ることがある。複数の樹脂シート2の厚さが300μmを超えると、同じ断熱効果を得るのに必要以上に採光断熱材が厚くなることがある。より好ましくは、複数の樹脂シート2の厚さの下限は20μm、上限は200μmである。複数の樹脂シート2の厚さは全て同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0021】
複数の樹脂シート2は、複数の樹脂スペーサ3を介して積層されている。複数の樹脂スペーサ3により、隣り合う樹脂シート2の間には、空気層5が形成されている。空気層5により、採光断熱材1の耐熱性が高められる。また、本実施形態のように、採光断熱材1に複数の空気層5が形成される場合には、採光断熱材1の断熱性をより高めることができる。
【0022】
複数の樹脂スペーサ3は、後硬化性樹脂組成物を後硬化反応により硬化してなる硬化物により構成されている。上記硬化物は後硬化により硬くなっているため、採光断熱材1の圧縮強度を高めることができる。上記後硬化性樹脂組成物を後硬化させる方法は特に限定されず、上記後硬化性樹脂組成物によって適宜選択される。後硬化方法としては、例えば、熱硬化、光硬化、湿気硬化等が挙げられる。
【0023】
上記後硬化性樹脂組成物は、後硬化反応により硬化することのできる樹脂組成物である限り特に限定されない。上記後硬化性樹脂組成物用の樹脂成分は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、及びそれらの組み合わせ等が好適に用いられる。複数の樹脂スペーサ3に用いられる上記後硬化性樹脂組成物は全て同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0024】
上記後硬化性樹脂組成物は、上記樹脂以外に種々の他の成分を含んでいてもよい。例えば、上記後硬化性樹脂組成物が光硬化により後硬化する場合には、光ラジカル重合剤や、光カチオン重合開始剤を含むことが好ましい。
【0025】
上記後硬化性樹脂組成物として、好ましくは、シリコ−ン樹脂組成物、エポキシ樹脂組成物が用いられる。上記シリコ−ン樹脂組成物は、例えば、脱オキシム型シリコーン樹脂等の湿気硬化性樹脂組成物であってもよい。上記エポキシ樹脂組成物は、例えば、ビスフェノールF型等のエポキシ樹脂と、トリメチロールプロパン等のアルコールと、光重合開始剤とを含む光硬化性樹脂組成物であってもよい。
【0026】
上記硬化物は、可撓性を備えていることが好ましい。上記硬化物の可撓性が低いと、樹脂スペーサ3が脆くなり、割れやすくなることがある。
【0027】
上記硬化物は、透光性を有することが好ましい。その場合には、採光断熱材1の透光性をさらに高めることができる。
【0028】
上記硬化物は、採光断熱材1の断熱性能を阻害しないために、高い断熱性を備えていることが好ましい。
【0029】
複数の樹脂スペーサ3の形状は、空気層5を形成できる限り特に限定されず、例えば、粒子状、線状、格子状等とすることができる。複数の樹脂スペーサ3の形状は全て同じであってもよく、異なっていてもよい。また、複数の樹脂スペーサ3の形状により、採光断熱材1に意匠性を付与してもよい。
【0030】
なかでも、複数の樹脂スペーサ3の形状は、格子状とすることが好ましい。その場合には、空気層5を効率的に分割すること、及び空気層5の周辺部を効率的に封止することができる。それによって、分割された空気層5の独立性及び気密性を高めることができる。従って、採光断熱材1の断熱性をより高めることができる。
【0031】
採光断熱材1が3枚以上の樹脂シート2を備えている場合には、複数の樹脂スペーサ3は、図1に示されるように、樹脂シート2を介して樹脂シート2の積層方向に重ねて配置されていることが好ましい。その場合には、樹脂スペーサ3による採光断熱材1の透光性の減少を最小限に抑えることができる。
【0032】
空気層5は、複数の樹脂スペーサ3により複数のセルに分割されていることが好ましい。それによって、空気層5の個別のセルの独立性及び気密性を高めることができる。従って、採光断熱材1の断熱性をより高めることができる。また、空気層5の分割に用いる樹脂スペーサ3によって、採光断熱材1の圧縮強度をより高めることができる。
【0033】
空気層5を複数のセルに分割する場合には、空気層5の各セルの大きさの好ましい下限は4cm、好ましい上限は1800cmである。空気層5の各セルの大きさが4cm未満であると、得られる採光断熱材1の可視光線透過率が劣ることがある。空気層5の各セルの大きさが1800cmを超えると、得られる採光断熱材1の圧縮強度が劣ることがある。より好ましくは、空気層5の各セルの大きさの下限は25cmであり、上限は600cmである。
【0034】
本発明の採光断熱材1は、後硬化性樹脂組成物を用いて、樹脂シート2の積層体を公知の方法で製造した後、スペーサを後硬化させることにより製造することができる。上記樹脂シート2の積層体は、例えば、特許文献2に記載の製造装置及び製造方法により製造することができる。上記スペーサを後硬化させる方法は、上記後硬化性樹脂組成物によって適宜選択される。例えば、上記後硬化性樹脂組成物が光反応性ホットメルト接着剤の場合には、上記樹脂シート2の積層体を製造した後に紫外線を照射することにより、本発明の採光断熱材1を得ることができる。
【0035】
以上のように、本発明の採光断熱材では、複数の樹脂シートが複数の樹脂スペーサを介して積層されているため、隣り合う樹脂シート間に形成される空気層によって、採光断熱材は高い断熱性を有する。また、樹脂シートが透光性を有しているため、採光断熱材は高い透光性を有する。さらに、樹脂スペーサが後硬化性樹脂組成物の硬化物により構成されているため、採光断熱材は高い圧縮強度を有する。従って、本発明によれば、断熱性が高く、透光性が高く、かつ圧縮強度が高い採光断熱材を提供することができる。
【0036】
本発明の採光断熱材は、例えば、単独でまたは通常のガラスと併用して建築物の採光部に設置することにより、高い断熱性能を発揮することができる。
【0037】
本発明の採光断熱材の設置態様としては特に限定されないが、例えば、通常のガラスによる出窓状の採光部において、該ガラスの内側に該ガラスから離して設置することが考えられる。本発明の採光断熱材を着脱可能なように設置することにより、季節や目的に合わせて本発明の採光断熱材を用いることができる。また、本発明の採光断熱材を、開閉可能な形としてもよい。
【0038】
以下、本発明の具体的な実施例を挙げることにより、本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
(樹脂シート積層体の製造)
23℃、相対湿度50%雰囲気下で、下記の製造方法により、実施例1,2及び比較例の樹脂シート積層体を製造した。
【0040】
1枚のPETフィルム(東洋紡績社製、商品名「コスモシャインA4300」、厚さ200μm)の上に、樹脂スペーサ用組成物を吐出することにより、径0.56mmの線状の樹脂スペーサ用組成物を50mmピッチで20本塗工した。続いて、樹脂スペーサ用組成物が固化する前に、上記PETフィルムの上にもう1枚のPETフィルムを積層した。続いて、樹脂スペーサ用組成物がPETフィルムを介してPETフィルムの積層方向に重なるように、同じ径、同じピッチで樹脂スペーサ用組成物を塗工した。これらを繰り返して、6枚のPETフィルムが積層された5層の樹脂シート積層体を得た。
【0041】
(実施例1)
樹脂スペーサ用組成物としてシリコーン熱硬化樹脂組成物(セメダイン社製、商品名「シリコーンシーラント#8060」)を用いて、上述の製造方法により5層の樹脂シート積層体を得た。
【0042】
その後、上記樹脂シート積層体を製造現場室内に常温で1日放置し、室内の湿気により上記樹脂シート積層体に用いたシリコーン熱硬化樹脂組成物を後硬化させて、採光断熱材を得た。上記採光断熱材の総厚みは4mm、面重量は1.7kg/mであった。
【0043】
(実施例2)
エポキシ樹脂として、常温常圧で固体のビスフェノールF型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、商品名「E4004P」、1分子中のエポキシ基の数平均官能基数2)77重量部、常温常圧で液体のビスフェノールF型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、商品名「EP807」、1分子中のエポキシ基の数平均官能基数2)10重量部、アルコールとして、トリメチロールプロパン(三菱瓦斯化学社製、1分子中の1級水酸基の数平均官能基数3)2.6重量部、テトラメチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体であるアルコール(商品名「DCB−1000」、1分子中の1級水酸基の数平均官能基数2、日本油脂社製)10.4重量部、及び、光重合開始剤(ユニオンカーバイド社製、商品名「UVI6990」)1重量部を配合し、溶融混練し、樹脂スペーサ用組成物を作製した。なお、上記エポキシ樹脂のエポキシ基のEPO当量は673g/eq、上記アルコールの1級水酸基のOH当量は1301g/eqであった。また、上記エポキシ樹脂のエポキシ基と、上記アルコールの1級水酸基とのモル比は1.9であった。
【0044】
上記樹脂スペーサ用組成物を用いて、上述の製造方法により5層の樹脂シート積層体を得た。
【0045】
その後、超高圧水銀灯を使用して、波長365nmの光を50mW/cmの照射強度で1分照射することにより、上記樹脂シート積層体に用いた上記樹脂スペーサ用組成物を後硬化させて、採光断熱材を得た。上記採光断熱材の総厚みは4mm、面重量は1.7kg/mであった。
【0046】
(比較例)
樹脂スペーサ用組成物としてアクリルエラストマーを用いて、上述の製造方法により5層の樹脂シート積層体を得た。上記樹脂シート積層体を、比較例の採光断熱材とした。上記採光断熱材の総厚みは4mm、面重量は1.7kg/mであった。
【0047】
(圧縮強度の評価)
1m×1mの面積となるように切断した実施例1の採光断熱材を、10枚積み重ねた。同様に、1m×1mの面積となるように切断した実施例2の採光断熱材を、10枚積み重ねた。また、1m×1mの面積となるように切断した比較例の採光断熱材を、10枚積み重ねた。その後、上記の積み重ねた実施例1,2及び比較例の採光断熱材を、積み重ねた状態のまま1週間放置した。
【0048】
その結果、実施例1,2の採光断熱材には変形が見られず、総厚み4mmを維持していた。比較例の採光断熱材は樹脂スペーサが斜めにずれており、総厚み4mmを維持できなかった。
【符号の説明】
【0049】
1…採光断熱材
2…樹脂シート
3…樹脂スペーサ
5…空気層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の樹脂スペーサを介して積層された複数の樹脂シートを備える採光断熱材であって、
前記樹脂シートが透光性を有しており、
前記樹脂スペーサが後硬化性樹脂組成物の硬化物により構成されている、採光断熱材。
【請求項2】
前記樹脂シートの厚さが10μm〜300μmの範囲である、請求項1に記載の採光断熱材。
【請求項3】
前記樹脂シートを3枚以上備える、請求項1または2に記載の採光断熱材。
【請求項4】
前記複数の樹脂スペーサが、前記樹脂シートを介して前記樹脂シートの積層方向に重ねて配置されている、請求項3に記載の採光断熱材。
【請求項5】
前記複数の樹脂スペーサが、格子状に配置されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の採光断熱材。
【請求項6】
前記樹脂スペーサが透光性を有している、請求項1〜5のいずれか1項に記載の採光断熱材。

【図1】
image rotate