説明

採取カテーテル及びキット

【課題】血管から流体を採取する方法及び装置を提供する。
【解決手段】患者の冠状静脈洞などの血管から採血するカテーテルは、細長く柔軟なチューブと、チューブの遠位端部から距離をおいた環状シール部材を有する。チューブの近位端部は吸引力源と接続され、その吸引力がチューブの採取内腔にかけられる。遠位端部は、シール部材とともに血管内に挿入され、採取内腔に吸引力がかけられていないときは、シール部材は、血管の対向面から離れている。流体流入口を通って血管から採取内腔に血液を引き込むのに充分であって、かつ、血管の対向面がシール部材に向かって移動し、シール状態になるのに充分な大きさの吸引力が採取内腔にかけられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、米国を除くすべての指定国については、米国法人オスプレイ メディカル インクを出願人として、米国のみについては、米国市民ジェームス エドワード シャープランド、米国市民チュアン ドアン、及び米国市民マーク フランシス ブラウンを出願人として、更に、2006年11月7日に出願された米国特許出願第11/557,312号を基礎とする優先権を主張して、2007年11月1日付PCT国際特許出願として、出願されたものである。
【0002】
本発明は、患者の血管から流体を採取するカテーテルに関する。
【背景技術】
【0003】
採取カテーテルは、患者の血管から血液又は他の流体を取得するものとして周知である。例えば、国際公開WO2005/082440A1には、潅流システムにおいて、冠状静脈洞又は他の冠状静脈から血液を採取する採取カテーテルが記載されている。
【0004】
潅流プロセスにおける採血に加えて、血液は、血管造影処置において、冠状静脈から採取されることもある。このような処置は、冠状動脈の開通性評価のために使用される。これらの処置は、他の目的、例えば、ステント留置又は他の処置にも使用され得る。このような処置においては、冠状閉塞の疑いのある部位に近接する冠状動脈に、造影剤が注入される。
【0005】
造影剤は、もしそれが患者の全臓器に意図的に流入されるならば、無視できない健康上のリスクを有し得る。造影剤がこのように全身に循環すると、例えば、腎機能障害又は腎不全が発生し得る。このような不全は、造影誘発腎症(contrast-induced nephropathy)すなわち、CINと呼ばれる。シュレーダー“Contrast Media-Induced Renal Failure: And Overview”,Journal of Interventional Cardioligy, Vol.18,No.6,pages 417-423(2005)。
【0006】
カテーテル設計における多くの別技術が、造影剤採取のために提案されている。2003年4月29日に発行されたReichの米国特許6,554,819、2002年7月25日に公開されたMovahedの米国特許出願US2002/0099254A1、2005年11月17日に公開されたLotan他の米国特許出願US2005/0256441A1、2005年6月9日に公開されたFitzgerald他の米国特許出願US2005/0124969A1、及び2006年1月19日に公開されたLeWinter他の米国特許出願US2006/0013772A1において、このような例が示されている。造影剤除去システムの一例が、Michishita他“A Novel Contrast Removal System From The Coronary Sinus Using An Absorbing Column During Coronary Angiography In A Porcine Model”,Journal of the American College of Cardiology,vol.47,no.9(2006)に記載されている。
【0007】
造影剤除去又は他の血液採取システムにおいて採取された血液は、再びその患者に戻すために処置されることもある。しかし、採取された血液は廃棄されることがより一般的である。安全を考えれば1人の患者から採取され廃棄される血液の量は制限される(例えば100ミリリットルから200ミリリットル)ということが一般的な認識である。
【0008】
採血技術は、血管中の血流を隔離する方法及び装置を含む。この技術は、採取対象である造影剤又は潅流液の実質的に全量を採取するための期間に、実質的に全量の順行(すなわち、血管中を血液が流れる通常の方向)血液が採取されることを確実ならしめる。
【0009】
重要なことは、このような隔離は、逆流血液の採取を回避するために行われるということである。血液の逆流(血管内の通常の血液の流れとは反対の方向)は、例えば、吸引力を働かせて冠状静脈洞から血液を採取する場合に発生し得る。吸引力は、右心房中の血液が逆流してカテーテルを通じて取り出される大きさであり得る。結果的に、造影剤又は潅流液を含まない血液が採取され、場合によっては廃棄されてしまう。廃棄されてもよい血液の量には限度があるので、造影剤又は潅流液を含まない血液を採取し廃棄することを回避するのが望ましい。
【0010】
隔離は、通常バルーンカテーテルを使用して行われる。バルーンは、採血期間中に膨らまされて血管壁に当接し、血管を塞ぐ。採血していないときには、バルーンは、収縮されて血管壁から離れる
【0011】
1回の血管造影中に、造影剤は何度も注入され得る。このような造影剤を採取するために、バルーンは、造影剤の注入とタイミングを合わせて膨張及び収縮を繰り返す。しかしながら、膨張と収縮のタイミングと、カテーテルから血液を取り出すタイミングとを正確に合わせることは困難である。閉塞状態を持続させることは望ましくはない。なぜならば、これは、静脈性鬱(うっ)血の原因や、造影剤を多く含む血液が、側副静脈を通って冠状静脈洞から右心房へバイパスする原因となるからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
血管から流体を採取する方法及び装置を提供することが、本発明の1つの目的である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の要約)
本発明の好ましい一実施形態によれば、患者の(冠状静脈洞のような)血管から流体を採取する方法及び装置が開示される。当該方法は、遠位端部まで伸びる細く柔軟なチューブ部を有する採取部材をカテーテルとして使用することを含む。環状シール部材(好ましい一実施形態においては、例えば、膨張可能バルーン)が、遠位端部から間隔をあけてチューブ部材に固定されている。チューブ部の内腔は、シール部材より遠位にある1つの流体吸入口を有する。チューブ部材の近位端部は、吸引力を採取内腔に及ぼすための吸引源に接続されるようになっている。当該方法は、血液が遠位端部からシール部材へ向かう方法に順行する血管中に遠位端部を挿入することを含む。採取内腔に吸引力が及ばない状態では、シール部材は、対向する血管の内面からは離れている。流体吸引口を通って血管から採取内腔に血液を取り込むのに充分であって、さらに、対向する血管の内面をシール部材の方向に移動させ、血管を塞ぐのに充分な吸引力が採取内腔に及ぶ。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】患者の血管から血液を採取するための本発明に係る採取カテーテルを含み、オプションの血管支持装置を示すシステムを例示している。
【図1A】図1のシステムの概略図である。
【図2】患者の冠状静脈洞内に挿入された図1の採取カテーテルの縦方向側面図であって、カテーテルの内腔に吸引力が及んでいないために、シール部材と血管壁との間に隙間が生じていることを示す図である。
【図3】図2の採取カテーテルの内腔に吸引力が及んだ場合の図であって、血管壁がカテーテルのシール部材の方向へ移動して血管を塞いでいることを示す図である。
【図3A】図3の採取カテーテルの図であって、採取カテーテルの遠位端部での支持がない場合、血管がつぶれることもあり得ることを示す図である。
【図4】図1の採取カテーテルと血管支持材の縦方向側面部分図である。
【図5】冠状静脈洞内にあり、冠状静脈洞の壁からは離れているシール部材の断面図である。
【図6】吸引力がカテーテルに及んだことにより、血管壁が、図5のシール部材に密接している状態を示す図である。
【図7】図5のシール部材が代替的な形状を有する場合の図であり、吸引力が及ぶ前の状態を示す図である。
【図8】図7において吸引力が及んでいる場合の図である。
【図9】血管内の採取カテーテルの代替的な実施形態を示す図であって、吸引力が及ぶ前の状態の図である。
【図10】図9において吸引力が及んでいる場合の図である。
【図11】患者の血管系の中を前進するためにコイル形状を解かれ伸張した図9のカテーテルを示す図である。
【図12】本発明に係るキットの分解見取り図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(好ましい実施形態の説明)
同一要素には同一番号を振ったいくつかの図を参照しつつ、本発明の好ましい実施形態を以降に説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る採取カテーテル10を含むシステム100を示している。好ましい一実施形態においては、採取カテーテル10は、血管造影処置又はその類似処置のために冠状動脈内に注入された、潅流液又は造影剤を含んでいる血液を採取するために使用される。採取カテーテルは、このような血液が患者の身体の他の部分に広まっていく前に冠状静脈洞から血液を採取するためのものである。好ましい実施形態はこのようなものであるが、本発明の装置は、あらゆる採血技術において使用され得る。それらの技術は、あらゆる透析システム及び類似の採血システムと同様に前記の国際公開WO2005/082440A1(ここで引用されることとする)に記載されている技術を含む。したがって、冠状静脈洞に言及したとしてもそれは例示に過ぎず、他の血管も含み得る。
【0017】
採取カテーテル10以外にも、システム100は、採取容器102及び真空調節器104を含む。採取容器102は大気圧から隔離されている。図1のシステムを概略化して示したのが図1Aであり、図1Aは、容器102中の血液水準120を示している。図1Aは、トラップ109及びピンチバルブ105も示している。
【0018】
チューブ106は、採取カテーテルのポート119と接続されており、採取カテーテル10の中央内腔26(図4参照)に通じている。チューブ106は、採取内腔26と容器102の内側とを通じさせている。チューブ108は、容器102の内側と圧力調整器104とを接続する。圧力調節器104は、真空源111(図1A)に接続される供給チューブ110を有する。このような真空源は、一般的には、病院のような施設に通常備えてある。図1Aは、不注意により調節器104の方向に逆流する血液を採取するトラップ109を示している。
【0019】
システム100は、さらにチューブ114によりチューブ106に接続された圧力モニタ112も含む。圧力モニタ112は、チューブ106内の圧力を監視し表示する。チューブ106内の圧力は、採取カテーテル10の内腔26内の圧力に等しい。
【0020】
採取カテーテル10の近位端部17(図1)は、(空気又は生理食塩水のような)加圧された流体と接続し、カテーテル10の遠位端部16に付設されているシールバルーン18を加圧するためのポート118も含む。近位端部17は、カテーテル内腔26の中まで支持部材30又はガイドワイヤを通すためのポート121も含む。
【0021】
図1及び図2を参照すると最もよくわかるように、カテーテル10は、近位端部17(図1、12のみに記載)及び遠位端部16(図2)を有する細長く柔軟なチューブ部材であるカテーテル本体12を含む。図1は、実物をそのまま縮小したものではない。実際には、カテーテル本体12の長さは、図1に示されるより明らかに長いので、近位端部17が患者の身体の外部に残っているときでも、遠位端部16は、患者の血管系を通って冠状静脈洞CSの中にまで入っている、ということがあり得る。
【0022】
図2に示されるように、環状シール部材18と、遠位端部16との間には殆ど距離がない。好ましい一実施形態においては、環状シール部材18は、膨張するにつれて伸縮し、形状が周りの形に一致し得る材料で作られた柔軟なバルーンである。柔軟バルーンは、当該分野においては周知であり、本発明それ自体を構成するものではない。また、シール部材はバルーンである必要もない。例えば、シール部材は、血管の内面に密着する方向に機械的に移動されるシール面であってもよい。
【0023】
図2の実施形態においては、バルーンは、円状の遠位端部20を有し、円状の遠位端部20の直径は円状の近位端部22の直径よりも小さい。結果的に、両端20、22の間の環状面24は、チューブ部材12のX−X縦軸に対して傾斜することになる。この構造は例示である。望まれるならば、両端20、22は同一の直径を有していてもよい。このとき、環状面24はX−X軸に平行となる。環状面24はX−X軸に対してカーブ(凸面又は凹面)していてもよい。
【0024】
端部16は開放されており、採取内腔26に通じている。採取内腔26は、カテーテル本体12の全長に亘っている。採取内腔26は、ポート119に通じている。バルーン18に膨張用流体を注入するために、カテーテル本体12の肉厚内に膨張用内腔28が、設けられている。膨張用内腔28は、ポート118に通じている。
【0025】
図中、カテーテル10は、オプションの血管支持部材30と組み合わせて使用されている。オプションの血管支持部材30自体は、本発明の一部を構成するものではなく、国際公開WO2005/082440A1により詳細に記載されている。
【0026】
血管支持部材30は、曲がった先端34を有する長く柔軟な遠位端部32を含む。遠位端部32、34は、組織を傷つけないように血管内を前進する周知のガイドワイヤを形成する従来技術で形成される。
【0027】
支持籠36が、遠位ワイヤ部材32と近位ワイヤ部38(図4)とを接続している。籠36は、(ニッケル−チタン合金又は血管内での使用に適した他の弾性ある金属のような)柔軟で弾力のある支柱37を同心円状(X−X軸のまわり)に配置して作られる。後記するように、籠36は、冠状静脈洞CSがつぶれることを予防する。さらに、冠状静脈洞中の籠36の位置決めを適当に行うと、冠状静脈洞に対して籠36が軸方向に移動しないように安定する。結果として、籠36は、冠状静脈洞CS内でのカテーテル10の位置を固定するための便利な道具である。
【0028】
ガイドワイヤ(図示せず)の使用時においては、冠状静脈洞CS内の採血を望む場所にガイドワイヤの遠位端部が配置される。このようなガイドワイヤを前進させる方法は周知である。
【0029】
このようなガイドワイヤの位置決めに続いて、カテーテル10がガイドワイヤの先に前進し、遠位端部16が採血を望む場所にまで達する。遠位端部16は、X線透視法を用いて適切な位置決めをするために、X線不透過性であってもよい。前進中は、シールバルーン18は完全に萎んでいる。このような前進に続いて、外科医師はバルーン18を膨張させる。図2では、正常な(順方行の)血流が矢印Aで示されている。矢印Aは、血液が冠状静脈洞CSを通って右心房に向かう方向である。
【0030】
このとき、ガイドワイヤが引き出され、血管支持部30がカテーテル10内を冠状静脈洞CSまで前進する。籠36が遠位端部16を通過するとすぐに、籠36は、図2に示す形に拡大する。このように拡大することによって、籠36は、冠状静脈洞CSの内面に当接する。
【0031】
既存の技術と異なり、冠状静脈洞CSの内壁に当接するような大きさになるまでバルーン18が膨らむわけではない。そうではなく、図2のように、バルーン18は、不完全に膨らんで、シール面24と冠状静脈洞CSとの間に環状の血流が生じるようにする。この血流は、図2の矢印Bによって示される。限定しない例を挙げるならば、シール面24と血管壁との間の距離は、約1〜2ミリメートルである。
【0032】
カテーテル内腔26に吸引力が及んでいなとき、冠状静脈洞CS内の血流はバルーン18の周りを通り、右心房まで流れる。冠状静脈洞CSから採取内腔26へ吸引されてしまう血液の損失を避けるために、カテーテル内腔26に生理食塩水のようなものを満たしておいてもよい。
【0033】
採取内腔26に吸引力が及んでいないときに、冠状静脈洞CSを塞ぐまでバルーン18が過剰膨張しているか否かを、医師は圧力モニタ112を監視する。もし、このような過剰膨張が監視された場合は、バルーン18が冠状静脈洞CS内で閉塞状態にならないことを医師が確認できるまで、バルーン18は収縮され得る。代替的には、カテーテル本体12上のバルーン18を挟む位置に圧力センサ40、41(図2にのみ表示)をオプションで取り付けてもよい。センサ40、41間に圧力差が生じるということは、冠状静脈洞CSが閉塞されていることを示す。さらに、センサ40、41のいずれかを、センサ位置での血流を検知する流量トランスデューサとしてもよい。このような血流が感知されないということは、バルーン18が過剰膨張していることに起因して閉塞が生じていることを示す。
【0034】
このような位置決めに続いて、医師は、真空調節器104を操作して、採取容器102及びチューブ106の内部に吸引力を発生させる。医師は、選択的に、チューブ106のピンチバルブ105(図1A)を操作することによって、カテーテル内腔26に吸引力を及ぼしてもよい。ピンチバルブ105は、それを開いた際に、カテーテル内腔26を真空状態にするクリップのようなものであってもよい。ピンチバルブ105が閉まると、チューブ106が狭窄されて、カテーテル内腔26は真空状態ではなくなる。したがって、カテーテル内腔26を真空状態にするか否かは、素早くオンオフ可能である。
【0035】
カテーテル内腔26に対して吸引力を及ぼすと、冠状静脈洞CSは、少なくとも部分的につぶれ、環状面24に対向する冠状静脈洞CSの面は移動して環状面24と当接し、シール状態となる。このことにより、冠状静脈洞CS内の血流は、全量が内腔26に流れ込むことになる。さらに、このようなシール状態は、右心房からバルーン18を過ぎて遠位端部16に至る血液の逆流を防止する。このようなシール状態は、図3に示されている。
【0036】
内腔26に吸引力を及ぼすタイミングは、好ましくは、冠状動脈に注入された造影剤の採取を行うタイミングに合わせる。例えば、冠状動脈に造影剤を注入後、ある設定時間(約3秒)が経過した後、吸引力が内腔26に及ぼされ得る。代替的に、患者の心電図を監視しつつ、このような造影剤注入後所定の心拍数(例えば3)の間、吸引力がかけられてもよい。望まれるならば、端部16に造影剤検出器を設置し、造影剤を検出したことを内腔26に対する吸引力を及ぼし始める契機とし得る。例えば、図2の圧力センサ40を、代替的に造影剤センサとすることもできる。
【0037】
カテーテル内腔26に入ってきた血液は、採取容器102に集められる。採取後、血液は廃棄されてもよい。代替的に、血液は、好ましくない成分を除却するために任意の適当な処理装置(図示せず)に通されてもよい。この場合、処理済の血液は患者に戻ることになる。
【0038】
内腔26に供給される吸引力の大きさは、冠状静脈洞から血液を確実に除去するのに充分な大きさ(例えば、−100ミリメートルHg)である。冠状静脈洞CSは、非常に傷つき易く柔軟な血管である。このような吸引力に反応して、血管はつぶれようとする。血管がつぶれることは血管支持籠36によって防止される。図3は、端部16よりも遠位側にある籠36が、冠状静脈洞が完全につぶれることを防止することを示している。籠36の直径は小さい(軸方向に延長される)が、冠状静脈洞CSが完全につぶれることは防ぐ。図3Aは、このような支持がない場合に冠状静脈洞CSが完全につぶれる可能性を示している。
【0039】
冠状静脈洞CSがつぶれやすいという性質は、冠状静脈洞CSがシール部材18に当接してシール状態になる利点として応用される。結果として、シール状態は、吸引力が及ぶときに自然に発生する。わざわざバルーン18を追加的に膨張する、又は収縮する必要はない。
【0040】
バルーン18を膨張させる又は収縮させる必要性を回避することに加えて、本発明は、より低いバルーン圧力においてよりよい閉塞を実現し得る。このことは、図5及び図6に示されている。図5では、冠状静脈洞は、静止状態(カテーテルに吸引力が及ばない)にある。シール部材18は、冠状静脈洞CSとは当接しない位置にある。
【0041】
冠状静脈洞CSのサイズは、患者によって有意に変わり得る。しかしながら、患者が鬱血性心不全にあるとき、右心房から1〜2センチメートル以内の位置で計測すると、冠状静脈洞CSの直径は1〜2センチメートルになり得る。
【0042】
冠状静脈洞CSの直径と言うとき、それは、冠状静脈洞CSの断面が円形であることが前提となっている。実際、冠状静脈洞CSの断面は、楕円形により近い。冠状静脈洞CSの一部は、心筋(心臓の筋組織)MYOによって支持されている。冠状静脈洞CSの残りの部分は、それ程支持されていない。
【0043】
冠状静脈洞CS内でバルーンが膨張するとき、バルーン(断面はしばしば円形である)は、冠状静脈洞CSの支持態様に部分差があるために楕円形になっている血管内腔で、それに当接して膨張し、シールしようとする。周辺組織の変動性に起因して、楕円形の血管内腔も変動的な柔軟性を有する。吸引力を使用して冠状静脈洞CSの壁をシール部材18に当接するように引き寄せることによって、同形(円形)のシール状態が、より低圧で完成される。このことは図6に示されている。図6では、冠状静脈洞CSの無負荷の状態が破線で示されている。実線は、十分につぶれてシールバルーン18に当接した冠状静脈洞CSを示している。
【0044】
図5及び図6においては、シールバルーン18は、円形断面を有するものとして示されている。しかしながら、他の形状でもかまわない。このことは図7に示されており、図7では、シールバルーン18aは、概ね正方形の断面を有するものとして示されている。図示を容易にするために、図7においては、冠状静脈洞CSは、断面が円形であるとして示されている。シールバルーン18aの断面が正方形であることによって、冠状静脈洞CSと対向するシール部材18aの環状面と冠状静脈洞CSとの間の断面積は、より大きくなる。それゆえに、カテーテル内腔に吸引力が及ばないときに、血流がバルーン18近辺を通過する抵抗はより小さくなる。しかしながら、図8に示されるように、吸引力をかけた後は、完全なシール状態となる。
【0045】
好ましい実施形態においては、カテーテル10は、図12のようなキット200としてパッケージ化されている。カテーテル10及びその構成部品は、人間の血管系内に入れられてもよいように、プラスチック又は他の適当な素材で作られている。カテーテル10は、端部16を冠状静脈洞CSのような静脈の中に入れて前進させることができるようなサイズである。当業者に知られるような前進を可能にする程度に、カテーテル本体12は柔軟であり、端部16は組織を傷つけないようにできている。カテーテルの材質は、当業者に知られているように、厳密な殺菌基準に適合し、すべての生体適合性要求を満たさなければならない。
【0046】
図12においては、カテーテル10は、透明なプラスチックの袋212中にコイル状に渦巻いて格納されている。この袋は、人体に対する臨床用途のために殺菌された構成部品を格納して封をされている。袋212は、蓋204付のボール紙製箱202のような適当な容器に格納される。
【0047】
箱202の中には、取扱説明書を含む印刷物206も格納されている。これらの取扱説明書206には、前記発明の取扱方法が、少なくとも要約のフォーマットで、記載されている。すなわち、使用者は、血管(例えば冠状静脈洞CS)中にカテーテルの端部16を挿入して、バルーン18と血管壁との間に隙間があり、バルーン18の周りを血液が流れる程度にバルーン18を膨張した状態にする。カテーテル10で採血するときは、カテーテル10の内腔26に吸引力が加えられ、血管壁をバルーン18に引き付けてシール状態にする。
【0048】
図12においては、殺菌袋212は、採取カテーテル10のみを含んでいる。キット200は、血管支持部材30及びチューブ106、108、114、110のような他のシステム部品を含んでもよい。
【0049】
図9〜11は、カテーテル10´の代替的な実施形態を示している。カテーテル10´では、遠位端部16は、コイル形状部分(図9及び図10)に向かって伸縮する弾性物質である。遠位端部16´は、コイルの内側面に穿孔された複数の流体流入口17´を有している。流体流入口17´は、カテーテルの採取内腔に通じている。
【0050】
図9においては、バルーン18´と、冠状静脈洞の壁との間には隙間がある。このことは、カテーテル10´の内腔には吸引力が及んでいないことを示している。図10は、吸引力がかかった後の当該装置を示している。図10においては、冠状静脈洞CSは、バルーン18´とシール状態になる位置に移動し終わっている。さらに、冠状静脈洞CSは、コイル部分16´の外径に当接している。結果として、コイル部分16´は、バルーン18より遠位側の冠状静脈洞CSを支持し、つぶれて閉塞するのを回避している。この構造があれば、図2〜4の実施形態において示されている分離血管支持部材30は不要である。
【0051】
図11は、カテーテル10がガイドワイヤ30´によって伸張された状態に維持され得ることを示している。まず、ガイドワイヤ30´が冠状血管系の中に挿入され、その後、カテーテル10がガイドワイヤの先に前進する。ガイドワイヤを引き戻した後、遠位端部16´はコイル形状に戻る。図11においては、バルーン18´は、充分に収縮した状態である。
【0052】
本発明の好ましい実施形態を説明したが、当業者であれば、修正や均等物を明らかに知り得る。このような修正及び均等物も、添付した特許請求の範囲に含まれることとなる。
【符号の説明】
【0053】
10 採取カテーテル
16 遠位端部
17 近位端部
18 環状シール部材
24 シール面
26 採取内腔
30 血管支持部材
36 籠
102 採取容器
104 真空調節器
106 チューブ
111 真空源
112 圧力モニタ
200 キット
206 取扱説明書
CS 冠状静脈洞


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管から血液を採取する方法であって、
前記方法は、
(i)遠位端部を有し、この遠位端部で終端する細長い柔軟なチューブ部分と
(ii)前記遠位端部から離れた位置において前記チューブ部材に対して固定された環状シール部材と
(iii)前記シール部材より遠位側に位置する流体流入口を有する採取内腔と
(iv)前記採取内腔に吸引力を及ぼすための吸引力源と接続されるように作られた近位端部と
を有する採取部材を選択し、
前記遠位端部から前記シール部材へ向かう順行方向に血液が流れる血管中に、
前記採取内腔に吸引力が及ばないときは、前記シール部材がそのシール部材に対向する前記血管の内面から離れた状態で、前記遠位端部を挿入し、
血液を前記血管から前記流体流入口を通って前記採取内腔へ引き込むのに充分であって、
かつ、前記血管の対向する内面を移動させて前記シール部材に当接させシール状態にするのに充分である大きさの吸引力を、前記採取内腔に対して及ぼす、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記チューブ部材は長手方向軸を有し、
前記流体流入口は、前記長手方向軸に実質的に直交する面上の前記遠位端部の位置に配置され、
前記シール部材は、前記長手方向軸を囲繞する環状シール面を有すること
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シール部材のサイズは、
前記シール部材と前記血管の前記対向面との間の空間を選択的に調節できること、
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、
前記血管が、前記真空に反応してつぶれることを防止するために、
前記遠位端部より遠位側に位置する血管支持部材を有すること、
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
採取部材、密封された採取容器及び調節器を有し、血管から血液を採取するシステムであって、
前記採取部材は、
(i)遠位端部を有し、この遠位端部で終端する細長い柔軟なチューブ部分と
(ii)前記遠位端部から離れた位置において前記チューブ部材に対して固定された環状シール部材と
(iii)前記シール部材より遠位側に位置する流体流入口を有する採取内腔と
(iv)前記採取内腔に吸引力を及ぼすための吸引力源と接続されるように作られた近位端部と
を有し、
前記シール部材は、
前記遠位端部が前記血管に挿入されるときに、前記採取内腔に吸引力が及ぼされない状態において、前記血管の対向面から離れているサイズを有し、
前記採取容器は、
前記内腔から採血するために、前記近位端部と接続され、
前記調節器は、
真空源に接続され、
前記内腔に接続された出力端部を有し、
真空圧力を調整可能であり、
前記調整された真空圧力を前記内腔に対してかけ、
血液を前記血管から前記流体流入口を通って前記採取内腔へ引き込むのに充分であって、
かつ、前記血管の対向する内面を移動させて前記シール部材に当接させシール状態にするのに充分である大きさの吸引力を、前記採取内腔に対して及ぼす、
ことを特徴とするシステム。
【請求項6】
採取部材と取扱説明書を有し、血管から血液を採取するキットであって、
前記採取部材は、
(i)遠位端部を有し、この遠位端部で終端する細長い柔軟なチューブ部分と
(ii)前記遠位端部から離れた位置において前記チューブ部材に対して固定された環状シール部材と
(iii)前記シール部材より遠位側に位置する流体流入口を有する採取内腔と
(iv)前記採取内腔に吸引力を及ぼすための吸引力源と接続されるように作られた近位端部と
を有し、
前記取扱説明書は、
前記遠位端部から前記シール部材へ向かう順行方向に血液が流れている血管中に、
前記採取内腔に吸引力が及ばないときは、前記シール部材がそのシール部材に対向する前記血管の内面から離れた状態で、前記遠位端部を挿入し、
血液を前記血管から前記流体流入口を通って前記採取内腔へ引き込むのに充分であって、
かつ、前記血管の対向する内面を移動させて前記シール部材に当接させてシール状態にするのに充分である大きさの吸引力を、前記採取内腔に対して及ぼすことを
ユーザに指示すること、
を特徴とするキット。

【図1】
image rotate

【図1A】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公表番号】特表2010−508984(P2010−508984A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536395(P2009−536395)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際出願番号】PCT/US2007/083299
【国際公開番号】WO2008/057917
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(308025635)オスプレイ メディカル インク. (1)
【Fターム(参考)】