説明

採血器具及び流路開閉手段

【課題】血液の流体圧力により血液を通過させることができ、血液を層流の状態で移送することができる採血器具及び流路開閉手段を提供すること。
【解決手段】分岐管(13)と採血バッグ(4)間の採血チューブ(T1)の途中に、一方向弁(V)を配置し、当該一方向弁(V)は、流路開閉部材(C(11a))で初流血液チューブ(T2)の流路を閉塞した時、採血針(8)側からの血液の流体圧力により流路を開放して、血液を採血バッグ(4)へ移送できる採血器具(1)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、初流血液を採取するとともに、検査用血液の採取を容易に行うことのできる採血器具及び流路開閉手段に関する。流路開閉手段は、採血器具以外の医療分野、その他の一般産業分野にも利用できる。
【背景技術】
【0002】
採血針から採取した血液を血液バッグに導入する際、供血者の穿刺位置をアルコール等で消毒を行うが、消毒を行なっても、皮膚や皮下に存在する細菌が採取した血液の中に混入することがある。
混入した細菌は、細菌の種類によっては、血液バッグを保存している間にも増殖し、細菌の増殖に気づくことなく輸血などに用いられると輸血された患者に感染症などを引き起こし、重篤な事態となるおそれもある。
そこで、採取された血液の細菌汚染防止を図ることができるように、特に採血時の初流の血液を除去するシステムが発明されるようになった。
【0003】
特許文献1から特許文献4には、血液を採取する採血針と、採取された血液を収納する採血バッグと、一方端が採血バッグに他方端が採血針にそれぞれ連通し、採取された血液を採血バッグへ導入する第1の流路(採血チューブ)と、分岐部を介して第1の流路から分岐し、末端に血液の取り出し口を有する第2の流路(初流血液チューブ)を有し、分岐部と採血バッグの間の第1の流路(採血チューブ)に、流路用封止手段(外付けのクランプ、破断すると流路が開通する封止部材)を装着した採血用器具の発明が開示されている。
【0004】
中でも特許文献2と特許文献3は、第1の流路(採血チューブ)の流路用封止手段として、外付けのクランプを使用した場合、作業者のクランプの閉め忘れ、これに伴う採血バッグへの採血初流の混入を確実に防止するために、流路用封止手段として、破断すると流路が開通する封止部材を使用するのが良いと明記されている。
【0005】
また特許文献2と特許文献3のように、分岐部と採血バッグの間の第1の流路(採血チューブ)に、破断すると流路が開通する封止部材を装着する手段では、(1)破断が速やかにできない、封止部材の破断片が流路を塞ぐ、破断屑が発生したりする等の懸念がある。(2)第1の流路(採血チューブ)内に配置するため、第1の流路(採血チューブ)と異なる管状部材内に配置して、第1の流路(採血チューブ)に接続しないといけないので、構成が複雑になる。
【0006】
【特許文献1】特許3361440(特許請求の範囲、図1、9、10)
【特許文献2】特許3776227(特許請求の範囲、図1、2、11から13)
【特許文献3】特許3813974(特許請求の範囲、図1、2、5)
【特許文献4】特開2001−17539(特許請求の範囲、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする問題点は、
特許文献2、3のように、破断すると流路が開通する封止部材を装着する手段では、(1)破断が速やかにできない、封止部材の破断片が流路を塞ぐ、破断屑が発生したりする等の懸念がある。(2)第1の流路(採血チューブ)の構成が複雑になる等の点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]本発明は、供血者より血液を採取する採血針(8)と、
採取された血液を収納する採血バッグ(4)と、
一方端が前記採血バッグ(4)に他方端が前記採血針(8)にそれぞれ連通し、前記採取された血液を前記採血バッグ(4)へ導入する採血チューブ(T1)と、
当該採血チューブ(T1)に分岐管(13)を配置し、当該分岐管(13)に前記採取された血液の初流を除去する初流血液チューブ(T2)を接続し、初流血液チューブ(T2)に流路開閉部材[C(11a)]を装着した採血器具であって、
前記分岐管(13)と前記採血バッグ(4)間の前記採血チューブ(T1)の途中に、一方向弁(V)を配置し、
当該一方向弁(V)は、前記流路開閉部材[C(11a)]で前記初流血液チューブ(T2)の流路を閉塞した時、採血針(8)側からの血液の流体圧力により流路を開放して、血液を採血バッグ(4)へ移送できる採血器具(1)を提供する。
[2]本発明は、前記一方向弁(V)は、弁本体(31)を二枚の可とう性合成樹脂製のシート(S)を重ね合せて形成した一方向弁(30)である[1]に記載の採血器具(1)を提供する。
[3]本発明は、前記一方向弁(V)は、弁本体(41)が開閉部(42)と胴部(45)より形成され、弁本体(41)は、可とう性の合成樹脂またはエラストマーにより一体に成形した一方向弁(40)である[1]に記載の採血器具(1)を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の採血器具1は、特許文献2から特許文献3に記載の発明で採用されている
流路用封止手段(破断すると流路が開通する封止部材)の代わりに、一方向弁V[30、40]を採用しているので、
(1)流路開閉部材C(11a)の開閉を操作するのみで、血液の流体圧力により血液を通過させることができる。従来の流路用封止手段(破断すると流路が開通する封止部材)破断が速やかにできない、封止部材の破断片が流路を塞ぐ、破断屑が発生したりする等の懸念がなく、血液を層流の状態で移送することができる。
(2)従来の流路用封止手段(破断すると流路が開通する封止部材)のように両手で折り、開通させる作業が不要となるので、操作性も良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明の採血器具1の概略図、図2から図3は、一方向弁V(30、40)の一例を示す概略図である。(a)は弁本体31、41の平面図、(b)は(a)の断面図、(c)は全体の概略(断面)図である。
[採血器具1]
本発明の採血器具1は、図1に例示するように、供血者より血液を採取する採血針8と、採取された血液を収納する採血バッグ4と、一方端が前記採血バッグ4に他方端が前記採血針8にそれぞれ連通し、前記採取された血液を前記採血バッグ4へ導入する採血チューブT1を有し、当該採血チューブT1に分岐管13を配置し、当該分岐管13に採取された血液の初流を除去する初流血液チューブT2を接続し、初流血液チューブT2に流路開閉部材C(11a)を装着した採血器具であって、分岐管13と採血バッグ4間の採血チューブT1の途中に、一方向弁V(30、40)を配置している。
流路開閉部材Cは、公知のクランプを使用することができる。例えば、いわゆるストップクランプ(例えば図1のクランプ11a参照)、またいわゆるローラクランプ(例えば図1のクランプ11b参照)、板クランプ(例えば実公平2−7573の図2参照)、略C状のクランプ(例えば特開2005−169146の図7、図8参照)等が挙げられる。
【0011】
さらに詳述すれば、採血器具1は、例えば図1に示すように、採血バッグ4、採血初流除去セット2、血液フィルタ3、第1子バッグ5、第2子バッグ6及び赤血球保存液入バッグ7から構成される。
採血バッグ4の上流には、採血チューブT1が接続されている。採血チューブT1には、先端(上流)からその途中にわたって、採血針8、分岐管13が接続・配置されている。分岐管13には、初流血液導入チューブT2を介して採血初流除去セット2が接続される。
さらに採血バッグ4の下流には、連結チューブT3を介して血液フィルタ3及び第1子バッグ5を接続している。さらに第1子バッグ5は、連結チューブT4、接続管13b、連結チューブT5、T6を介して、第2子バッグ6、赤血球保存液入バッグ7を接続している。
採血バッグ4及び赤血球保存液入りバッグ7には、採血時または輸血保存時における血液の凝固の防止または保存のために、例えばACD液、CPD液、MAP液のような抗凝固剤または赤血球保存液を収納している。
採血初流除去バッグB及び採血バッグ4のバッグ類を構成する材料として、例えばポリ塩化ビニル、ポリオレフィン等の可撓性合成樹脂が用いられる。
【0012】
[一方向弁V]
本発明の「一方向弁V」とは、流路開閉部材C(11a)で初流血液チューブT2の流路を閉塞した時、採血針8側からの血液の流体圧力により流路を開放して、血液を採血バッグ4へ移送できるものを意味する。
本発明に使用する一方向弁Vの一例として、例えば図2、図3に例示する一方向弁30、40が挙げられる。
図2の一方向弁30は、(a)、(b)のように、弁本体31を二枚の可とう性合成樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル)製のシートを重ね合せて両端(側)部32をヒートシールして形成したものである。なお前方部と後方部は開放されている。そして(c)のように、筒状のハウジング33内に配置したものである。後方部は、採血針8側の採血チューブT1の内側に固定されている。前方部は、採血バッグ4側の採血チューブT1方向に解放されている。
また図3の一方向弁40は、弁本体41[いわゆる「あひるのくちばし弁」といわれる]を可とう性の合成樹脂、エラストマー(例えば、ポリ塩化ビニル、シリコーンゴム、オレフィン)により一体に成形したものである。42は薄肉に形成された開閉部(「くちばし部」ともいう)で、45は胴部である。
これらの一方向弁40は、弁本体41を筒状のハウジング43内に配置されている。開閉部(くちばし部)42は採血バッグ4側の採血チューブT1方向に配置され、胴部45は、採血針8側の採血チューブT1方向に配置されている。
これらの一方向弁30、40は、分岐管13と採血バッグ4間の採血チューブT1の途中に、配置することにより、
(A)血液を流さないときは、弁本体31、41は閉じた状態を維持し、
(B)血液を流したときは、血液の流体圧力により、弁本体31のシートS、弁本体41の開閉部(くちばし部)42が押し広げて、血液を通過させる。
(C)流路開閉部材C(クランプ11b)を閉じて、流路開閉部材C(クランプ11a)を開いた状態にすると、血液は初流血液チューブT2を経て、採血初流除去バッグBへ導入される。
さらに詳述すれば、流路開閉部材C(クランプ11b)で初流血液チューブT2の流路を閉塞した時、弁本体31、41の外側から圧力が加わり、弁本体31、41を押しつぶすので、血液は、採血バッグ4方向へ流れず、初流血液チューブT2を経て、採血初流除去バッグBへ導入される。
(D)流路開閉部材C(クランプ11a)を閉じて、流路開閉部材C(クランプ11b)を開くと、血液は採血チューブT1を経て、採血バッグ4へ導入される。
弁本体31、41を収納する筒状のハウジング33、43に好適な材料として、採血チューブT1(他の流体管T1´)と接続可能なポリ塩化ビニル等が挙げられる。
【0013】
[採血器具1の使用例]
(1)初流血液の採血
供血者に採血針8を穿刺して、初流血液を採血針8、採血チューブT1、分岐管13、初流血液チューブT2を経て、採血初流除去バッグBに採取する。
(2)採血バッグ4への血液の採取
初流血液の採取が規定量に達した時点で、流路開閉部材C(クランプ11a)で、初流血液チューブT2の流路を閉じる。採血針8側からの血液の流体圧力により一方向弁V(30、40)の流路が開放される。すなわち初流血液採取後の血液は、採血針8から採血チューブT1、分岐管13を経て、採血バッグ4へ採取される。
本発明では、一方向弁V(30、40)を配置することにより、流路を開放時に、破断が速やかにできない、封止部材の破断片が流路を塞ぐ、破断屑が発生したりする等の懸念がなく、血液を層流の状態で移送することができる。
(3)最後に、バッグ本体21の血液溜内に貯留した血液を、バッグ本体21の出口に接続される真空採血管ホルダ22から真空採血管へと採取する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の採血器具の概略図
【図2】一方向弁の一例を示す概略図
【図3】一方向弁の一例を示す概略図
【符号の説明】
【0015】
1 採血器具
2 採血初流除去セット
B 採血初流除去バッグ
3 血液フィルタ
4 採血バッグ
5 第1子バッグ
6 第2子バッグ
7 赤血球保存液入バッグ
8 採血針
10 針カバー
C 流路開閉部材
11a クランプ
11b クランプ
13a、13b 接続管
21 バッグ本体
22 真空採血管ホルダ
V 一方向弁
30、40 一方向弁
31、41 弁本体
32 両(側)端部
42 開閉部(くちばし部)
33、43 ハウジング
45 胴部
S シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供血者より血液を採取する採血針(8)と、
採取された血液を収納する採血バッグ(4)と、
一方端が前記採血バッグ(4)に他方端が前記採血針(8)にそれぞれ連通し、前記採取された血液を前記採血バッグ(4)へ導入する採血チューブ(T1)と、
当該採血チューブ(T1)に分岐管(13)を配置し、当該分岐管(13)に前記採取された血液の初流を除去する初流血液チューブ(T2)を接続し、初流血液チューブ(T2)に流路開閉部材[C(11a)]を装着した採血器具であって、
前記分岐管(13)と前記採血バッグ(4)間の前記採血チューブ(T1)の途中に、一方向弁(V)を配置し、
当該一方向弁(V)は、前記流路開閉部材[C(11a)]で前記初流血液チューブ(T2)の流路を閉塞した時、採血針(8)側からの血液の流体圧力により流路を開放して、血液を採血バッグ(4)へ移送できる、ことを特徴とする採血器具(1)。
【請求項2】
前記一方向弁(V)は、弁本体(31)を二枚の可とう性合成樹脂製のシート(S)を重ね合せて形成した一方向弁(30)である請求項1に記載の採血器具(1)。
【請求項3】
前記一方向弁(V)は、弁本体(41)が開閉部(42)と胴部(45)より形成され、弁本体(41)は、可とう性の合成樹脂またはエラストマーにより一体に成形した一方向弁(40)である請求項1に記載の採血器具(1)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−206734(P2008−206734A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46433(P2007−46433)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000200035)川澄化学工業株式会社 (103)
【Fターム(参考)】