接合方法
【課題】一対の金属部材を接合する摩擦攪拌接合において、金属部材の平坦性を高めることができる接合方法を提供する。
【解決手段】金属部材同士の突合部J1に沿って金属部材の表面A側から本接合用回転ツールを移動させて摩擦攪拌接合を行う第一の本接合工程と、第一の本接合工程の後に、突合部J1に沿って金属部材の裏面B側から本接合用回転ツールHを移動させて摩擦攪拌接合を行う第二の本接合工程と、を含み、第二の本接合工程における金属部材への入熱量を、第一の本接合工程における金属部材への入熱量よりも少なく設定する。
【解決手段】金属部材同士の突合部J1に沿って金属部材の表面A側から本接合用回転ツールを移動させて摩擦攪拌接合を行う第一の本接合工程と、第一の本接合工程の後に、突合部J1に沿って金属部材の裏面B側から本接合用回転ツールHを移動させて摩擦攪拌接合を行う第二の本接合工程と、を含み、第二の本接合工程における金属部材への入熱量を、第一の本接合工程における金属部材への入熱量よりも少なく設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材同士を接合する接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材同士を接合する方法として、摩擦攪拌接合(FSW=Friction Stir Welding)が知られている。摩擦攪拌接合は、回転ツールを回転させつつ金属部材同士の突合部に沿って移動させ、回転ツールと金属部材との摩擦熱により突合部の金属を塑性流動させることで、金属部材同士を固相接合させるものである。回転ツールは、円柱状を呈するショルダ部の下端面に攪拌ピン(プローブ)を突設してなるものが一般的である。
【0003】
例えば、特許文献1には、金属部材同士を突き合わせて形成された被接合金属部材に対して、被接合金属部材の表面側から摩擦攪拌接合を行う第一の本接合工程と、裏面側から摩擦攪拌接合を行う第二の本接合工程を行う技術が開示されている。この接合方法に係る第一の本接合工程及び第二の本接合工程では、同等の回転ツールを用いて、同等の条件(回転ツールの押込み量、送り速度等)で摩擦攪拌接合を行う。かかる接合方法によれば、突合部の深さ方向全体に亘って摩擦攪拌できるため接合部分の水密性及び気密性を高めることができる。
【0004】
従来の接合方法の第一の本接合工程においては、被接合金属部材の表面側から、回転ツールを押し込んで摩擦攪拌接合を行うと、被接合金属部材の表面に塑性化領域が形成される。第一の本接合工程では、高速回転する回転ツールによって被接合金属部材に熱が加わった後、冷却されるため被接合金属部材の表面側は、熱収縮によって凹状に変形する可能性がある。
【0005】
しかし、従来の接合方法では、被接合金属部材の裏面側からも摩擦攪拌接合を行うため、表面側と同じ条件で摩擦攪拌接合を行えば、裏面側にも表面側と同様の熱収縮が起こると考えられ、被接合金属部材は平坦になるとも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−131666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、第一の本接合工程では、被接合金属部材と被接合金属部材が載置されたテーブルとが面接触しているため、回転ツールによって加えられた熱の一部は、被接合金属部材の裏面全体からテーブルに放出される(抜熱)。しかし、第二の本接合工程では、第一の本接合工程によって被接合金属部材が熱収縮により反っているため、被接合金属部材とテーブルとの間に隙間が形成された状態で摩擦攪拌接合を行うことになる。これにより、第二の本接合工程では、熱が放出される経路が少なくなるため第一の本接合工程に比べて抜熱量が少なくなる。
【0008】
よって、第二の本接合工程では、第一の本接合工程に比べて、被接合金属部材内に残存する熱量が多くなるため、反りが戻り過ぎてしまい、被接合金属部材の裏面は結局凹状に変形する。つまり、被接合金属部材の表裏に対して同等の条件で摩擦攪拌接合を行っても、被接合金属部材内に残存する熱量が不均衡となるため、被接合金属部材が歪んでしまうという問題があった。
【0009】
このような観点から、本発明は、一対の金属部材を接合する摩擦攪拌接合において、金属部材の平坦性を高めることができる接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決する本発明に係る接合方法は、金属部材同士の突合部に沿って前記金属部材の表面側から本接合用回転ツールを移動させて摩擦攪拌接合を行う第一の本接合工程と、前記第一の本接合工程の後に、前記突合部に沿って前記金属部材の裏面側から本接合用回転ツールを移動させて摩擦攪拌接合を行う第二の本接合工程と、を含み、前記第二の本接合工程における前記金属部材への入熱量を、前記第一の本接合工程における前記金属部材への入熱量よりも少なく設定することを特徴とする。
【0011】
要するに、摩擦攪拌接合された金属部材に残存する熱量は、残存熱量(J)=入熱量−抜熱量で現され、第一の本接合工程と第二の本接合工程の残存熱量が等しくなれば被接合金属部材が平坦になると考えられる。
かかる接合方法によれば、第二の本接合工程における入熱量が、第一の本接合工程における入熱量よりも少なくなるため、接合された金属部材内に残存する熱量の不均衡を是正することができる。これにより、第二の本接合工程において金属部材が反ってしまうのを防ぐことができ、金属部材の平坦性を高めることができる。
【0012】
また、前記第二の本接合工程で使用する本接合用回転ツールは、前記第一の本接合工程で使用する本接合用回転ツールよりも小さいことが好ましい。また、前記第二の本接合工程では、前記第一の本接合工程における前記本接合用回転ツールの送り速度よりも速い送り速度で摩擦攪拌接合を行うことが好ましい。かかる接合方法によれば、第二の本接合工程での入熱量を容易に少なく設定することができる。
【0013】
また、前記第二の本接合工程の後に、前記金属部材の表面側又は裏面側から摩擦攪拌を行う矯正工程を行うことが好ましい。かかる接合方法によれば、第二の本接合工程で反りが是正されない場合であっても、矯正工程で矯正することで金属部材の平坦性を高めることができる。
【0014】
また、前記第二の本接合工程では、前記第一の本接合工程で形成された塑性化領域に前記本接合用回転ツールの攪拌ピンを入り込ませつつ摩擦攪拌接合を行うことが好ましい。かかる接合方法によれば、塑性化領域が重複するとともに、塑性化領域の先端側が再度摩擦攪拌されるため、接合部分の気密性及び水密性を高めることができる。
【0015】
また、前記金属部材を固定治具によってテーブルに固定した状態で前記第一の本接合工程及び前記第二の本接合工程を行うことが好ましい。かかる接合方法によれば、摩擦攪拌接合の作業性を高めることができる。
【0016】
また、前記本接合用回転ツールは、前記金属部材よりも硬質の金属からなるショルダ部と、前記ショルダ部の下端面の中央に突設され先細りの円錐台状に形成された攪拌ピンと、前記攪拌ピンの外周面に螺旋状に刻設された攪拌翼と、を有し、前記攪拌ピンの最大外径に対する前記攪拌ピンの長さの比を1.33〜2.03に設定することが好ましい。
【0017】
かかる接合方法によれば、攪拌ピンが折れにくく、かつ、金属部材の深い位置まで摩擦攪拌を行うことができる。この比が1.33よりも小さいと、摩擦攪拌装置への負荷が大きくなって不適切である。また、攪拌ピンが短くなり金属部材の深くまで摩擦攪拌を行うことが困難になる。一方、この比が2.03よりも大きくなると攪拌ピンが折れやすい。
【0018】
また、前記本接合用回転ツールは、前記金属部材よりも硬質の金属からなるショルダ部と、前記ショルダ部の下端面の中央に突設され先細りの円錐台状に形成された攪拌ピンと、前記攪拌ピンの外周面に螺旋状に刻設された攪拌翼と、を有し、前記攪拌ピンの最小外径に対する前記攪拌ピンの最大外径の比を2.00〜2.67に設定することが好ましい。
【0019】
かかる接合方法によれば、攪拌ピンを金属部材へ圧入する際の圧入抵抗をより小さくすることができるとともに、金属部材の深い位置まで摩擦攪拌を行うことができる。この比が2.00よりも小さくなると、攪拌ピンの最大径が小さ過ぎて、攪拌ピン先端の入熱量が不足して接合欠陥が発生する。また、金属部材に圧入する際の抵抗が大きくなり攪拌ピンを金属部材に圧入するのが困難になる。一方、この比が2.67を超えると、攪拌ピンの最大径が大き過ぎてメタルが溢れ出して表面欠陥が発生する。また、攪拌ピンを深い位置まで圧入するのが困難になる。
【0020】
また、前記本接合用回転ツールは、前記金属部材よりも硬質の金属からなるショルダ部と、前記ショルダ部の下端面の中央に突設され先細りの円錐台状に形成された攪拌ピンと、前記攪拌ピンの外周面に螺旋状に刻設された攪拌翼と、を有し、前記攪拌ピンの最大外径に対する前記ショルダ部の外径の比を1.56〜2.14に設定することが好ましい。
【0021】
かかる接合方法によれば、攪拌ピンがより折れにくく、かつ、摩擦攪拌によって発生するバリを少なくすることができる。この比が1.56よりも小さいと、ショルダ部からメタルが溢れ出して表面欠陥が発生する。一方、この比が2.14よりも大きいと摩擦攪拌装置への負荷が大きくなって不適切である。
【0022】
また、前記ショルダ部の下端面には、前記攪拌ピンの周囲を囲むように、平面視渦巻き状に突設された攪拌用突条体が形成されていることが好ましい。かかる接合方法によれば、摩擦攪拌接合の攪拌効率を高めることができる。
【0023】
また、前記第一の本接合工程を行う前に、前記第一の本接合工程で用いる前記接合用回転ツールよりも小型の仮接合用回転ツールを用いて、前記突合部に対して前記金属部材の表面側から摩擦攪拌接合を行う仮接合工程を実行することが好ましい。
また、前記第二の本接合工程を行う前に、前記第二の本接合工程で用いる前記接合用回転ツールよりも小型の仮接合用回転ツールを用いて、前記突合部に対して前記金属部材の裏面側から摩擦攪拌接合を行う仮接合工程を実行することが好ましい。
【0024】
かかる接合方法によれば、一対の金属部材を仮付けした状態で本接合工程を行うことができるため、作業性を高めることができる。
【0025】
また、前記第一の本接合工程では、前記金属部材同士の突合部の側方に配置されたタブ材に摩擦攪拌の開始位置又は終了位置を設け、前記第一の本接合工程の後に、前記第一の本接合工程で形成された塑性化領域のうち少なくとも前記タブ材に隣接する部分に対して前記本接合用回転ツールよりも小型の補修用回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う補修工程を実行することが好ましい。
また、前記第二の本接合工程では、前記金属部材同士の突合部の側方に配置されたタブ材に摩擦攪拌の開始位置又は終了位置を設け、前記第二の本接合工程の後に、前記第二の本接合工程で形成された塑性化領域のうち少なくとも前記タブ材に隣接する部分に対して前記本接合用回転ツールよりも小型の補修用回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う補修工程を実行することが好ましい。
【0026】
かかる接合方法によれば、本接合工程で形成された塑性化領域に接合欠陥が含まれている場合であっても当該接合欠陥を補修して接合部分の気密性及び水密性を高めることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る接合方法によれば、平坦性の高い金属部材を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第一の実施形態に係る金属部材、第一タブ材及び第二タブ材の配置を説明するための図であって、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は(b)のI−I線断面図、(d)は(b)のII−II線断面図である。
【図2】(a)は仮接合用回転ツールを説明するための側面図、(b)は本接合用回転ツールを説明するための側面図である。
【図3】第一の実施形態に係る金属部材の固定状態を示した斜視図である。
【図4】第一の実施形態に係る第一の仮接合工程を示した平面図である。
【図5】第一の実施形態に係る第一の仮接合工程を示した断面図である。
【図6】第一の実施形態に係る第一の本接合工程を示した図であって(a)は、開始位置、(b)は、中間位置、(c)は、終了位置を示す。
【図7】第一の実施形態に係る第一の本接合工程後を示した斜視図である。
【図8】第一の実施形態に係る第二の仮接合工程を示した断面図である。
【図9】第一の実施形態に係る第二の本接合工程を示した図であって(a)は、開始位置、(b)は、中間位置、(c)は、終了位置を示す。
【図10】第一の実施形態を終えた状態を示した断面図である。
【図11】第二の実施形態に係る第一の補修工程を説明するための図であって、(a)は、平面図、(b)は、断面図である。
【図12】第二の実施形態に係る第一の補修工程を示した平面図である。
【図13】第二の実施形態に係る第一の補修工程後を示した断面図である。
【図14】第二の実施形態に係る第二の補修工程を説明するための平面図である。
【図15】第二の実施形態に係る第二の補修工程を示した断面図である。
【図16】回転ツールの変形例を示した図であって(a)は、側断面図、(b)は、底面図である。
【図17】実施例を説明するための図であって(a)は、斜視図、(b)は、平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[第一の実施形態]
次に、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、図1に示すように、金属部材1a,1bを直線状に繋ぎ合せる場合を例示する。まず、接合すべき金属部材1a,1bを詳細に説明するとともに、この金属部材1a,1bを接合する際に用いられる第一タブ材2、第二タブ材3を詳細に説明する。
【0030】
金属部材1a,1bは、断面視矩形を呈する板状部材であって、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、マグネシウム、マグネシウム合金など摩擦攪拌可能な金属材料からなる。本実施形態では、一方の金属部材1a及び他方の金属部材1bを、同一組成の金属材料で形成している。金属部材1a,1bの形状・寸法に特に制限はないが、少なくとも突合部J1における厚さ寸法を同一にすることが望ましい。なお、金属部材1a及び金属部材1bを突き合わせた金属部材を被接合金属部材1といい、被接合金属部材1の表面を表面A、裏面を裏面B、一方の側面を第一側面C及び他方の側面を第二側面Dともいう。
【0031】
第一タブ材2及び第二タブ材3は、被接合金属部材1の突合部J1を挟むように配置されるものであって、それぞれ、被接合金属部材1に添設され、被接合金属部材1の側面に現れる継ぎ目(境界線)を覆い隠す。第一タブ材2及び第二タブ材3の材質に特に制限はないが、本実施形態では、被接合金属部材1と同一組成の金属材料で形成している。また、第一タブ材2及び第二タブ材3の形状・寸法にも特に制限はないが、本実施形態では、その厚さ寸法を突合部J1における被接合金属部材1の厚さ寸法と同一にしている。
【0032】
次に、図2を参照して、仮接合工程で用いる回転ツール(以下、「仮接合用回転ツールF」という。)及び本接合工程で用いる回転ツール(以下、「本接合用回転ツールG」という。)を詳細に説明する。
【0033】
図2の(a)に示す仮接合用回転ツールFは、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部F1と、このショルダ部F1の下端面F11に突設された攪拌ピン(プローブ)F2とを備えて構成されている。仮接合用回転ツールFの寸法・形状は、被接合金属部材1の材質や厚さ等に応じて設定すればよいが、少なくとも、後記する第一の本接合工程で用いる本接合用回転ツールG(図2の(b)参照)よりも小型にする。このようにすると、本接合よりも小さな負荷で仮接合を行うことが可能となるので、仮接合時に摩擦攪拌装置に掛かる負荷を低減することが可能となり、さらには、仮接合用回転ツールFの移動速度(送り速度)を本接合用回転ツールGの移動速度よりも高速にすることも可能になるので、仮接合に要する作業時間やコストを低減することが可能となる。
【0034】
ショルダ部F1の下端面F11は、塑性流動化した金属を押えて周囲への飛散を防止する役割を担う部位であり、本実施形態では、凹面状に成形されている。ショルダ部F1の外径X1の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、本接合用回転ツールGのショルダ部G1の外径Y1よりも小さくなっている。
【0035】
攪拌ピンF2は、ショルダ部F1の下端面F11の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンF2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。攪拌ピンF2の外径の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、最大外径(上端径)X2が本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の最大外径(上端径)Y2よりも小さく、かつ、最小外径(下端径)X3が攪拌ピンG2の最小外径(下端径)Y3よりも小さい。攪拌ピンF2の長さLAは、突合部J1(図1の(a)参照)における被接合金属部材1の厚さt(図1の(c)参照)の3〜15%とすることが望ましいが、少なくとも、本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の長さLBよりも小さくすることが望ましい。
【0036】
図2の(b)に示す本接合用回転ツールGは、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部G1と、このショルダ部G1の下端面G11に突設された攪拌ピン(プローブ)G2とを備えて構成されている。
【0037】
ショルダ部G1の下端面G11は、仮接合用回転ツールFと同様に、凹面状に成形されている。攪拌ピンG2は、ショルダ部G1の下端面G11の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンG2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。攪拌ピンG2の長さLBは、突合部J1(図1の(a)参照)における被接合金属部材1の肉厚tの1/2以上3/4以下となるように設定することが望ましい。
【0038】
以下、本実施形態に係る接合方法を詳細に説明する。本実施形態に係る接合方法は、(1)第一の準備工程、(2)第一の予備工程、(3)第一の本接合工程、(4)第二の準備工程、(5)第二の予備工程、(6)第二の本接合工程、を含むものである。なお、第一の予備工程、第一の本接合工程は、被接合金属部材1の表面A側から実行される工程であり、第二の予備工程、第二の本接合工程は、被接合金属部材1の裏面B側から実行される工程である。
【0039】
(1)第一の準備工程
図1を参照して第一の準備工程を説明する。第一の準備工程は、接合すべき被接合金属部材1の摩擦攪拌の開始位置や終了位置が設けられる当て部材(第一タブ材2及び第二タブ材3)を準備する工程であり、本実施形態では、金属部材1a,1b、第一タブ材2及び第二タブ材3の油脂分等の汚れを取り除く脱脂工程と、金属部材1a,1bを突き合せる突合工程と、被接合金属部材1の突合部J1の両側に第一タブ材2、第二タブ材3を配置するタブ材配置工程と、第一タブ材2、第二タブ材3を溶接により被接合金属部材1に仮接合する溶接工程と、被接合金属部材1をテーブルに固定する固定工程を具備している。
【0040】
脱脂工程では、面削加工された金属部材1a,1b、第一タブ材2及び第二タブ材3を脱脂処理液内に浸けて、各部材が突き合わされる面に付着した加工油等の油脂分や汚れを取り除く。具体的には、金属部材1aと金属部材1bとが突き合わされる端面11,11や、被接合金属部材1と第一タブ材2及び第二タブ材3とが突き合わされる金属部材1a,1bの側面14、第一タブ材2の当接面21、第二タブ材3の当接面31に対してそれぞれ脱脂処理を行う。脱脂工程は、少なくとも各部材が突き合わされる面に対して処理を行えばよいが、突合せ面に隣接する面に対して脱脂処理を行ってもよい。
【0041】
突合工程では、図1の(c)に示すように、一方の金属部材1aの端面11に他方の金属部材1bの端面11を密着させるとともに、一方の金属部材1aの表面12と他方の金属部材1bの表面12を面一にし、さらに、一方の金属部材1aの裏面13と他方の金属部材1bの裏面13を面一にする。また、一方の金属部材1aの側面14,14と他方の金属部材1bの側面14,14をそれぞれ面一にする。
【0042】
タブ材配置工程では、図1の(b)に示すように、被接合金属部材1の突合部J1の一端側に第一タブ材2を配置してその当接面21を被接合金属部材1の第二側面Dに当接させるとともに、突合部J1の他端側に第二タブ材3を配置してその当接面31を被接合金属部材1の第一側面Cに当接させる。このとき、図1の(d)に示すように、第一タブ材2の表面22と第二タブ材3の表面32を被接合金属部材1の表面Aと面一にするとともに、第一タブ材2の裏面23と第二タブ材3の裏面33を被接合金属部材1の裏面Bと面一にする。
【0043】
溶接工程では、図1の(a)及び(b)に示すように、被接合金属部材1と第一タブ材2とにより形成された入隅部2a,2a(即ち、金属部材1a,1bの側面14と第一タブ材2の側面24とにより形成された角部)を溶接して被接合金属部材1と第一タブ材2とを接合し、被接合金属部材1と第二タブ材3とにより形成された入隅部3a,3a(即ち、金属部材1a,1bの側面14と第二タブ材3の側面34とにより形成された角部)を溶接して被接合金属部材1と第二タブ材3とを接合する。なお、各入隅部の全長に亘って連続して溶接を施してもよいし、断続して溶接を施してもよい。
【0044】
固定工程では、図3に示すように、被接合金属部材1を摩擦攪拌装置のテーブル(架台)10に載置し、クランプ等の固定治具15を用いて移動不能に拘束する。固定治具15の形態は、特に制限されないが、被接合金属部材1の表面Aに当接する当て金具15aと、当て金具15aに挿通されるボルト15bと、ボルト15bが螺入されるネジ孔15cとからなる。本実施形態では4つの固定治具15を用いたが、数量を限定するものではない。
【0045】
(2)第一の予備工程
第一の予備工程は、第一の本接合工程に先立って行われる工程であり、本実施形態では、被接合金属部材1と第一タブ材2との突合部J2を接合する第一タブ材接合工程と、被接合金属部材1の突合部J1を仮接合する第一の仮接合工程と、被接合金属部材1と第二タブ材3との突合部J3を接合する第二タブ材接合工程と、第一の本接合工程における摩擦攪拌の開始位置に下穴を形成する下穴形成工程とを具備している。
【0046】
第一の予備工程では、図4に示すように、一の仮接合用回転ツールFを一筆書きの移動軌跡(ビード)を形成するように移動させて、突合部J2,J1,J3に対して連続して摩擦攪拌を行う。即ち、摩擦攪拌の開始位置SPに挿入した仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2(図2の(a)参照)を途中で離脱させることなく終了位置EPまで移動させ、第一タブ材接合工程、第一の仮接合工程及び第二タブ材接合工程を連続して実行する。なお、本実施形態では、第一タブ材2に摩擦攪拌の開始位置SPを設け、第二タブ材3に終了位置EPを設けているが、開始位置SPと終了位置EPの位置を限定する趣旨ではない。
【0047】
第一の予備工程における摩擦攪拌の手順を図4を参照してより詳細に説明する。まず、図4に示すように、第一タブ材2の適所に設けた開始位置SPの直上に仮接合用回転ツールFを位置させ、続いて、仮接合用回転ツールFを右回転させつつ下降させて攪拌ピンF2を開始位置SPに押し付ける。仮接合用回転ツールFの回転速度は、攪拌ピンF2の寸法・形状、摩擦攪拌される被接合金属部材1等の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、500〜2000(rpm)の範囲内において設定される。
【0048】
攪拌ピンF2が第一タブ材2の表面22に接触すると、摩擦熱によって攪拌ピンF2の周囲にある金属が塑性流動化し、攪拌ピンF2が第一タブ材2に挿入される。仮接合用回転ツールFの挿入速度(下降速度)は、攪拌ピンF2の寸法・形状、開始位置SPが設けられる部材の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、30〜60(mm/分)の範囲内において設定される。
【0049】
攪拌ピンF2の全体が第一タブ材2に入り込み、かつ、ショルダ部F1の下端面F11の全面が第一タブ材2の表面22に接触したら、仮接合用回転ツールFを回転させつつ第一タブ材接合工程の始点s2に向けて相対移動させる。
【0050】
仮接合用回転ツールFの移動速度(送り速度)は、攪拌ピンF2の寸法・形状、摩擦攪拌される被接合金属部材1等の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、100〜1000(mm/分)の範囲内において設定される。仮接合用回転ツールFの移動時の回転速度は、挿入時の回転速度と同じか、それよりも低速にする。なお、仮接合用回転ツールFを移動させる際には、ショルダ部F1の軸線を鉛直線に対して進行方向の後ろ側へ僅かに傾斜させてもよいが、傾斜させずに鉛直にすると、仮接合用回転ツールFの方向転換が容易となり、複雑な動きが可能となる。仮接合用回転ツールFを移動させると、その攪拌ピンF2の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンF2から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化する。
【0051】
仮接合用回転ツールFを相対移動させて第一タブ材接合工程の始点s2まで連続して摩擦攪拌を行ったら、始点s2で仮接合用回転ツールFを離脱させずにそのまま第一タブ材接合工程に移行する。
【0052】
第一タブ材接合工程では、第一タブ材2と被接合金属部材1との突合部J2に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、被接合金属部材1と第一タブ材2の継ぎ目(境界線)上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って仮接合用回転ツールFを相対移動させることで、突合部J2に対して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、仮接合用回転ツールFを途中で離脱させることなく第一タブ材接合工程の始点s2から終点e2まで連続して摩擦攪拌を行う。
【0053】
なお、仮接合用回転ツールFを右回転させた場合には、仮接合用回転ツールFの進行方向の左側に微細な接合欠陥が発生する虞があるので、仮接合用回転ツールFの進行方向の右側に被接合金属部材1が位置するように第一タブ材接合工程の始点s2と終点e2の位置を設定することが望ましい。このようにすると、被接合金属部材1側に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0054】
ちなみに、仮接合用回転ツールFを左回転させた場合には、仮接合用回転ツールFの進行方向の右側に微細な接合欠陥が発生する虞があるので、仮接合用回転ツールFの進行方向の左側に被接合金属部材1が位置するように第一タブ材接合工程の始点と終点の位置を設定することが望ましい。具体的には、図示は省略するが、仮接合用回転ツールFを右回転させた場合の終点e2の位置に始点を設け、仮接合用回転ツールFを右回転させた場合の始点s2の位置に終点を設ければよい。
【0055】
なお、仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2が突合部J2に入り込むと、被接合金属部材1と第一タブ材2を引き離そうとする力が作用するが、被接合金属部材1と第一タブ材2により形成された入隅部2aを溶接により仮接合しているので、被接合金属部材1と第一タブ材2との間に目開きが発生することがない。
【0056】
仮接合用回転ツールFが第一タブ材接合工程の終点e2に達したら、終点e2で摩擦攪拌を終了させずに第一の仮接合工程の始点s1まで連続して摩擦攪拌を行い、そのまま第一の仮接合工程に移行する。即ち、第一タブ材接合工程の終点e2から第一の仮接合工程の始点s1まで仮接合用回転ツールFを離脱させずに摩擦攪拌を継続し、さらに、始点s1で仮接合用回転ツールFを離脱させることなく第一の仮接合工程に移行する。このようにすると、第一タブ材接合工程の終点e2での仮接合用回転ツールFの離脱作業が不要となり、さらに、第一の仮接合工程の始点s1での仮接合用回転ツールFの挿入作業が不要となることから、予備的な接合作業の効率化・迅速化を図ることが可能となる。
【0057】
本実施形態では、第一タブ材接合工程の終点e2から第一の仮接合工程の始点s1に至る摩擦攪拌のルートを第一タブ材2に設定し、仮接合用回転ツールFを第一タブ材接合工程の終点e2から第一の仮接合工程の始点s1に移動させる際の移動軌跡を第一タブ材2に形成する。このようにすると、第一タブ材接合工程の終点e2から第一の仮接合工程の始点s1に至る工程中において、被接合金属部材1に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0058】
第一の仮接合工程では、被接合金属部材1の突合部J1に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、被接合金属部材1の継ぎ目(境界線)上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って仮接合用回転ツールFを相対移動させることで、突合部J1の全長に亘って連続して摩擦攪拌を行う。第一の仮接合工程によって、突合部J1に表面側塑性化領域W0が形成される。なお、本実施形態では、仮接合用回転ツールFを途中で離脱させることなく第一の仮接合工程の始点s1から終点e1まで連続して摩擦攪拌を行う。このようにすると、第一の仮接合工程中における仮接合用回転ツールFの離脱作業が一切不要となることから、予備的な接合作業のより一層の効率化・迅速化を図ることが可能となる。
【0059】
仮接合用回転ツールFが第一の仮接合工程の終点e1に達したら、終点e1で摩擦攪拌を終了させずに第二タブ材接合工程の始点s3まで連続して摩擦攪拌を行い、そのまま第二タブ材接合工程に移行する。即ち、第一の仮接合工程の終点e1から第二タブ材接合工程の始点s3まで仮接合用回転ツールFを離脱させずに摩擦攪拌を継続し、さらに、始点s3で仮接合用回転ツールFを離脱させることなく第二タブ材接合工程に移行する。このようにすると、第一の仮接合工程の終点e1での仮接合用回転ツールFの離脱作業が不要となり、さらに、第二タブ材接合工程の始点s3での仮接合用回転ツールFの挿入作業が不要となることから、予備的な接合作業のより一層の効率化・迅速化を図ることが可能となる。
【0060】
本実施形態では、第一の仮接合工程の終点e1から第二タブ材接合工程の始点s3に至る摩擦攪拌のルートを第二タブ材3に設定し、仮接合用回転ツールFを第一の仮接合工程の終点e1から第二タブ材接合工程の始点s3に移動させる際の移動軌跡を第二タブ材3に形成する。このようにすると、第一の仮接合工程の終点e1から第二タブ材接合工程の始点s3に至る工程中において、被接合金属部材1に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0061】
第二タブ材接合工程では、被接合金属部材1と第二タブ材3との突合部J3に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、被接合金属部材1と第二タブ材3の継ぎ目(境界線)上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って仮接合用回転ツールFを相対移動させることで、突合部J3に対して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、仮接合用回転ツールFを途中で離脱させることなく第二タブ材接合工程の始点s3から終点e3まで連続して摩擦攪拌を行う。
【0062】
なお、仮接合用回転ツールFを右回転させているので、仮接合用回転ツールFの進行方向の右側に被接合金属部材1が位置するように第二タブ材接合工程の始点s3と終点e3の位置を設定する。このようにすると、被接合金属部材1側に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。ちなみに、仮接合用回転ツールFを左回転させた場合には、仮接合用回転ツールFの進行方向の左側に被接合金属部材1が位置するように第二タブ材接合工程の始点と終点の位置を設定することが望ましい。具体的には、図示は省略するが、仮接合用回転ツールFを右回転させた場合の終点e3の位置に始点を設け、仮接合用回転ツールFを右回転させた場合の始点s3の位置に終点を設ければよい。
【0063】
なお、仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2(図2の(a)参照)が突合部J3に入り込むと、被接合金属部材1と第二タブ材3を引き離そうとする力が作用するが、被接合金属部材1と第二タブ材3の入隅部3aを溶接により仮接合しているので、被接合金属部材1と第二タブ材3との間に目開きが発生することがない。
【0064】
仮接合用回転ツールFが第二タブ材接合工程の終点e3に達したら、終点e3で摩擦攪拌を終了させずに、第二タブ材3に設けた終了位置EPまで連続して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、被接合金属部材1の表面A側に現れる継ぎ目(境界線)の延長線上に終了位置EPを設けている。ちなみに、終了位置EPは、後記する第一の本接合工程における摩擦攪拌の開始位置SM1でもある。
【0065】
仮接合用回転ツールFが終了位置EPに達したら、仮接合用回転ツールFを回転させつつ上昇させて攪拌ピンF2を終了位置EPから離脱させる。図5に示すように、高速回転した仮接合用回転ツールFが被接合金属部材1に挿入されると、被接合金属部材1内に摩擦熱が伝達される(入熱)。被接合金属部材1がテーブル10に面接触しているため、摩擦熱の一部は、矢印Nに示すように被接合金属部材1の裏面Bの全体からテーブル10側に放出(抜熱)される。
【0066】
なお、仮接合用回転ツールFの離脱速度(上昇速度)は、攪拌ピンF2の寸法・形状、終了位置EPが設けられる部材の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、30〜60(mm/分)の範囲内において設定される。また、仮接合用回転ツールFの離脱時の回転速度は、移動時の回転速度と同じか、それよりも高速にする。
【0067】
続いて、下穴形成工程を実行する。下穴形成工程は、図2の(b)に示すように、第一の本接合工程における摩擦攪拌の開始位置SM1に下穴P1を形成する工程である。即ち、下穴形成工程は、本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の挿入予定位置に下穴P1を形成する工程である。
【0068】
下穴P1は、本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の挿入抵抗(圧入抵抗)を低減する目的で設けられるものであり、本実施形態では、仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2(図2の(a)参照)を離脱させたときに形成される抜き穴h1を図示せぬドリルなどで拡径することで形成される。抜き穴h1を利用すれば、下穴P1の形成工程を簡略化することが可能となるので、作業時間を短縮することが可能となる。下穴P1の形態に特に制限はないが、本実施形態では、円筒状としている。また、下穴P1の幅Z1及び深さZ2は、攪拌ピンG2の大きさ、形状に応じて適宜設定すればよい。
【0069】
なお、本実施形態では、第二タブ材3に下穴P1を形成しているが、下穴P1の位置に特に制限はなく、第一タブ材2に形成してもよいし、突合部J2,J3に形成してもよいが、好適には、本実施形態の如く被接合金属部材1の表面A側に現れる被接合金属部材1の継ぎ目(境界線)の延長線上に形成することが望ましい。
【0070】
(3)第一の本接合工程
第一の本接合工程は、被接合金属部材1の突合部J1を表面A側から本格的に接合する工程である。本実施形態に係る第一の本接合工程では、図2の(b)に示す本接合用回転ツールGを使用し、仮接合された状態の突合部J1に対して被接合金属部材1の表面A側から摩擦攪拌を行う。
【0071】
第一の本接合工程では、図6の(a)〜(c)に示すように、開始位置SM1に形成した下穴P1に本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2を挿入(圧入)し、挿入した攪拌ピンG2を途中で離脱させることなく終了位置EM1まで移動させる。即ち、第一の本接合工程では、下穴P1から摩擦攪拌を開始し、終了位置EM1まで連続して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、第二タブ材3に摩擦攪拌の開始位置SM1を設け、第一タブ材2に終了位置EM1を設けているが、開始位置SM1と終了位置EM1の位置を限定する趣旨ではない。
【0072】
図6の(a)〜(c)を参照して第一の本接合工程をより詳細に説明する。
まず、図6の(a)に示すように、下穴P1(開始位置SM1)の直上に本接合用回転ツールGを位置させ、続いて、本接合用回転ツールGを右回転させつつ下降させて攪拌ピンG2の先端を下穴P1に挿入する。攪拌ピンG2を下穴P1に入り込ませると、攪拌ピンG2の周面(側面)が下穴P1の穴壁に当接し、穴壁から金属が塑性流動化する。このような状態になると、塑性流動化した金属を攪拌ピンG2の周面で押し退けながら、攪拌ピンG2が圧入されることになるので、圧入初期段階における圧入抵抗を低減することが可能となり、また、本接合用回転ツールGのショルダ部G1が第二タブ材3の表面に当接する前に攪拌ピンG2が下穴P1の穴壁に当接して摩擦熱が発生するので、塑性流動化するまでの時間を短縮することが可能となる。つまり、摩擦攪拌装置の負荷を低減することが可能となり、加えて、本接合に要する作業時間を短縮することが可能となる。
【0073】
摩擦攪拌の開始位置SM1に本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2を挿入する際の本接合用回転ツールGの回転速度(挿入時の回転速度)は、攪拌ピンG2の寸法・形状、摩擦攪拌される被接合金属部材1等の材質や肉厚等に応じて設定されるものであり、多くの場合、70〜700(rpm)の範囲内において設定されるが、開始位置SM1から摩擦攪拌の終了位置EM1に向かって本接合用回転ツールGを移動させる際の本接合用回転ツールGの回転速度(移動時の回転速度)よりも高速にすることが望ましい。このようにすると、挿入時の回転速度を移動時の回転速度と同じにした場合に比べて、金属を塑性流動化させるまでに要する時間が短くなるので、開始位置SM1における攪拌ピンG2の挿入作業を迅速に行うことが可能となる。
【0074】
攪拌ピンG2の全体が第二タブ材3に入り込み、かつ、ショルダ部G1の下端面G11の全面が第二タブ材3の表面に接触したら、図6の(b)に示すように、摩擦攪拌を行いながら被接合金属部材1の突合部J1の一端に向けて本接合用回転ツールGを相対移動させ、さらに、突合部J3を横切らせて突合部J1に突入させる。本接合用回転ツールGを移動させると、その攪拌ピンG2の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンG2から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化して塑性化領域W1(以下、「表面側塑性化領域W1」という。)が形成される。
【0075】
本接合用回転ツールGの移動速度(送り速度)は、攪拌ピンG2の寸法・形状、摩擦攪拌される被接合金属部材1等の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、30〜300(mm/分)の範囲内において設定される。なお、本接合用回転ツールGを移動させる際には、ショルダ部G1の軸線を鉛直線に対して進行方向の後ろ側へ僅かに傾斜させてもよいが、傾斜させずに鉛直にすると、本接合用回転ツールGの方向転換が容易となり、複雑な動きが可能となる。
【0076】
被接合金属部材1への入熱量が過大になる虞がある場合には、本接合用回転ツールGの周囲に表面A側から水を供給するなどして冷却することが望ましい。なお、被接合金属部材1の突合部J1間に冷却水が入り込むと、接合面に酸化皮膜を発生させる虞があるが、本実施形態においては、第一の仮接合工程を実行して被接合金属部材1間の目地を閉塞しているので、被接合金属部材1の突合部J1に冷却水が入り込み難く、したがって、接合部の品質を劣化させる虞がない。
【0077】
被接合金属部材1の突合部J1では、被接合金属部材1の継ぎ目上(第一の仮接合工程における移動軌跡上)に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って本接合用回転ツールGを相対移動させることで、突合部J1の一端から他端まで連続して摩擦攪拌を行う。突合部J1の他端まで本接合用回転ツールGを相対移動させたら、摩擦攪拌を行いながら突合部J2を横切らせ、そのまま終了位置EM1に向けて相対移動させる。
【0078】
なお、本実施形態では、被接合金属部材1の表面A側に現れる継ぎ目(境界線)の延長線上に摩擦攪拌の終了位置EM1を設定しているので、第一の本接合工程における摩擦攪拌のルートを一直線にすることができる。摩擦攪拌のルートを一直線にすると、本接合用回転ツールGの移動距離を最小限に抑えることができるので、第一の本接合工程を効率よく行うことが可能となり、さらには、本接合用回転ツールGの磨耗量を低減することが可能となる。
【0079】
本接合用回転ツールGが終了位置EM1に達したら、図6の(c)に示すように、本接合用回転ツールGを回転させつつ上昇させて攪拌ピンG2を終了位置EM1(図6の(b)参照)から離脱させる。なお、終了位置EM1において攪拌ピンG2を上方に離脱させると、攪拌ピンG2と略同形の抜き穴Q1が不可避的に形成されることになるが、本実施形態では、そのまま残置する。
【0080】
図6の(b)及び(c)に示すように、高速回転した本接合用回転ツールGが被接合金属部材1に挿入されると、被接合金属部材1内に摩擦熱が伝達される(入熱)。被接合金属部材1がテーブル10に面接触しているため、摩擦熱の一部は、矢印Nに示すように被接合金属部材1の裏面Bからテーブル10側に放出(抜熱)される。
【0081】
なお、本実施形態では、図6の(b)及び(c)に示すように、本接合用回転ツールGを右回転させて第一の本接合工程を行ったため、進行方向左側、即ち、金属部材1bにトンネル状の空洞欠陥(以下、トンネル状空洞欠陥とする)が形成される可能性がある。摩擦攪拌を行う際に、進行方向左側はシアー側(被接合部に対する回転ツールの外周の相対速さが、回転ツールの外周における接線速度の大きさに移動速度の大きさを加算した値となる側)であるため、メタルが強く攪拌されて高温軟化し、バリとなって排出され易いと考えられる。このため、進行方向左側はメタルが不足するので、トンネル状空洞欠陥が形成される可能性がある。また、進行方向右側、即ち、金属部材1a側は、フロー側(被接合部に対する回転ツールの外周の相対速さが、回転ツールの外周における接線速度の大きさから移動速度の大きさを減算した値となる側)であるため、メタルの攪拌が比較的弱く、バリとなって排出され難いと考えられ、比較的緻密な塑性化領域が形成される。
【0082】
ちなみに、本接合用回転ツールGを左回転させると、進行方向右側は、シアー側となるため進行方向右側にトンネル状空洞欠陥が形成される可能性がある。一方、進行方向左側は、フロー側となるため、比較的緻密な塑性化領域が形成される。かかるトンネル状空洞欠陥などの接合欠陥が被接合金属部材1に形成されると、被接合金属部材1の気密性及び水密性を低下させる原因となる。
【0083】
第一の本接合工程が終了したら、第一予備工程、第一の本接合工程における摩擦攪拌で発生したバリを除去する。さらに、固定治具15から被接合金属部材1を解除する。
【0084】
図7は、第一の実施形態に係る第一の本接合工程後を示した斜視図である。図7に示すように、前記した第一の予備工程及び第一の本接合工程を行うと、被接合金属部材1に伝達された熱が、冷却されて熱収縮を起こすため、被接合金属部材1の表面A側に凹状に変形する。
【0085】
(4)第二の準備工程
第二の準備工程は、第二の予備工程に先立って行われる工程であり、本実施形態では、被接合金属部材1の表裏を逆にして、被接合金属部材1を固定治具15(図3参照)でテーブル10に固定する。図8に示すように、被接合金属部材1をテーブル10に固定すると、被接合金属部材1が反って(歪んで)いるため、被接合金属部材1の縁部U,Uとテーブル10とが当接し、テーブル10と被接合金属部材1の表面Aとの間に間隙Pが形成される。
【0086】
(5)第二の予備工程
第二の予備工程は、第二の本接合工程に先だって行われる工程であり、本実施形態では、被接合金属部材1と第一タブ材2との突合部J2を接合する第一タブ材接合工程と、被接合金属部材1の突合部J1を仮接合する第二の仮接合工程と、被接合金属部材1と第二タブ材3との突合部J3を接合する第二タブ材接合工程と、第二の本接合工程における摩擦攪拌の開始位置に下穴を形成する下穴形成工程とを具備している。第二の予備工程は、被接合金属部材1の表裏を除いては、前記した第一の予備工程と略同等であるため、詳細な説明は省略する。
【0087】
図8に示すように、第二の仮接合工程によって、高速回転した仮接合用回転ツールFが被接合金属部材1に挿入されると、被接合金属部材1内に摩擦熱が伝達される(入熱)。また、摩擦熱の一部は、矢印Nに示すように被接合金属部材1の縁部U,Uからテーブル10に放出(抜熱)される。第二の仮接合工程では、第一の仮接合工程と同じ仮接合用回転ツールFを用いるため、入熱量は同等であるが、第一の仮接合工程に比べて熱が放出される経路が少ないため抜熱量は少ない。第二の仮接合工程によって、被接合金属部材1の裏面Bには、裏面側塑性化領域W2が形成される。
【0088】
(6)第二の本接合工程
第二の本接合工程は、被接合金属部材1の突合部J1を裏面B側から本格的に接合する工程である。本実施形態に係る第二の本接合工程では、図9の(a)〜(c)に示すように、本接合用回転ツールHを使用して、突合部J1に対して被接合金属部材1の裏面B側から摩擦攪拌を行う。
【0089】
本接合用回転ツールHは、図9の(a)に示すように、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部H1と、このショルダ部H1の下端面H11に突設された攪拌ピン(プローブ)H2とを備えて構成されている。本接合用回転ツールHは、第一の本接合工程で用いた本接合用回転ツールGと略同等の形状を呈し、本接合用回転ツールGの80%程度の大きさで形成されている。第二の本接合工程で用いる本接合用回転ツールHは、本接合用回転ツールGと同等の大きさでもよいが、好ましくは、本接合用回転ツールGよりも小さく設定する。本接合用回転ツールHは、第一の本接合工程で用いる本接合用回転ツールGの大きさ、被接合金属部材1の反りの大きさ等を考慮して適宜設定する。
【0090】
第二の本接合工程では、第二タブ材3に設けた下穴P2(開始位置SM2)に本接合用回転ツールHの攪拌ピンH2を挿入(圧入)し、挿入した攪拌ピンH2を途中で離脱させることなく第一タブ材2に設けた終了位置EM2まで移動させる。即ち、第二の本接合工程では、下穴P2から摩擦攪拌を開始し、終了位置EM2まで連続して摩擦攪拌を行う。
【0091】
図9の(a)〜(c)を参照して第二の本接合工程をより詳細に説明する。
まず、図9の(a)に示すように、下穴P2の直上に本接合用回転ツールHを位置させ、続いて、本接合用回転ツールHを右回転させつつ下降させて攪拌ピンH2の先端を下穴P2に挿入する。
【0092】
攪拌ピンH2の全体が第二タブ材3に入り込み、かつ、ショルダ部H1の下端面H11の全面が第二タブ材3の表面に接触したら、図9の(b)に示すように、本接合用回転ツールHを被接合金属部材1の突合部J1の一端に向けて相対移動させる。攪拌ピンH2の挿入深さは特に制限されないが、本実施形態のように、攪拌ピンH2が表面側塑性化領域W1に接触する程度に設定することが好ましい。これにより、表面側塑性化領域W1の先端側を再度摩擦攪拌することができるため、表面側塑性化領域W1の先端側に接合欠陥が形成されている場合、当該欠陥を補修することができる。また、突合部J1の深さ方向全体に亘って摩擦攪拌を行うことができ、接合部分の水密性及び気密性を高めることができる。本接合用回転ツールHを移動させると、その攪拌ピンH2の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンH2から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化して塑性化領域W3(以下、「裏面側塑性化領域W3」という。)が形成される。
【0093】
また、図9に示すように、第二の本接合工程においては、本接合用回転ツールHを右回転させて、被接合金属部材1の第一側面C側から第二側面D側に向けて摩擦攪拌を行うため、進行方向右側、即ち、金属部材1b側では、比較的緻密な塑性化領域が形成される。したがって、第一の本接合工程によって形成された表面側塑性化領域W1のトンネル状空洞欠陥を確実に密閉することができる。
【0094】
図9の(c)に示すように、本接合用回転ツールHが終了位置EM2に達したら、本接合用回転ツールHを回転させつつ上昇させて攪拌ピンH2を終了位置EM2から離脱させる(図9の(c)参照)。本接合用回転ツールHの離脱時の回転速度は、前記した第一の本接合工程の場合と同様に、移動時の回転速度よりも高速にすることが望ましい。
【0095】
なお、第一の本接合工程で残置された抜き穴Q1と第二の本接合工程における本接合用回転ツールHの移動ルートとが重なると、塑性流動化した金属が抜き穴Q1に流れ込み、接合欠陥が発生する虞があるので、抜き穴Q1から離れた位置に第二の本接合工程における摩擦攪拌の終了位置EM2(抜き穴Q2)を設けるとともに、抜き穴Q1を避けるように第二の本接合工程における摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って本接合用回転ツールHの攪拌ピンH2を移動させることが望ましい。
【0096】
図9の(b)及び(c)に示すように、高速回転した本接合用回転ツールHが被接合金属部材1に挿入されると、被接合金属部材1内に摩擦熱が伝達される(入熱)。また、摩擦熱の一部は、矢印Nに示すように被接合金属部材1の縁部U,Uからテーブル10に放出(抜熱)される。
【0097】
第二の本接合工程では、隙間Pが形成されているため第一の本接合工程に比べて熱が放出される経路が少ない。そのため、第二の本接合工程では、第一の本接合工程に比べて抜熱量が少ないが、本接合用回転ツールGよりも小型の本接合用回転ツールHを用いているため、第一の本接合工程に比べて入熱量も少ない。
【0098】
第二の本接合工程を終了したら、タブ材を切除する。なお、各工程を終えた後は、被接合金属部材1に形成されたバリを除去することが好ましい。
【0099】
以上説明した第一実施形態によれば、図10に示すように、第二の本接合後に、固定治具15(図3参照)から被接合金属部材1を解除して放置すると、被接合金属部材1の裏面B側にも熱収縮が発生するため、第一の本接合工程で形成された反りが是正され被接合金属部材1が平坦になる。
【0100】
前記したように、隙間Pが発生することにより第二の本接合工程では抜熱量が少なくなるが、第二の本接合工程で用いる本接合用回転ツールHを第一の本接合工程で用いる本接合用回転ツールGよりも小さく設定して入熱量を少なくすることで、第一の本接合工程と第二の本接合工程とで被接合金属部材1に残存する熱量の均衡を図ることができる。
【0101】
被接合金属部材1の表面A側の残存熱量は、(第一の予備工程での入熱量+第一の本接合工程での入熱量)−(第一の予備工程での抜熱量+第一の本接合工程での抜熱量)で表される。一方、裏面B側の残存熱量は、(第二の予備工程での入熱量+第二の本接合工程での入熱量)−(第二の予備工程での抜熱量+第二の本接合工程での抜熱量)表される。本実施形態では、第一の本接合工程及び第二の本接合工程で回転ツールの大きさを変えることで、第一の本接合工程及び第二の本接合工程の残存熱量の均衡を図り、被接合金属部材1を平坦にすることができる。
【0102】
また、被接合金属部材1への入熱量を本接合用回転ツールG,Hの大きさを変えることで変更するため、入熱量の調節を容易に行うことができる。また、第二の本接合工程では、第一の本接合工程で形成された表面側塑性化領域W1に本接合用回転ツールHの先端を入り込ませることにより、表面側塑性化領域W1を再度摩擦攪拌することができる。これにより、塑性化領域に発生する可能性がある接合欠陥を補修することができる。
【0103】
また、本実施形態では、本接合工程に先だって仮接合工程をするため、金属部材1a,1b同士が離間することなく摩擦攪拌接合を行うことができる。
【0104】
なお、第一の実施形態では、回転ツールの大きさを変更することにより被接合金属部材1の表面側及び裏面側の入熱量を調節したが、これに限定されるものではない。例えば、被接合金属部材1の表裏で同等の回転ツールを用いる場合には、裏面B側の回転ツールの移動速度を表面A側の回転ツールの移動速度より速めることで、裏面B側の回転ツールの入熱量を少なくすることができる。また、回転ツールを移動させる軌跡の長さ(摩擦攪拌の軌跡の長さの和)を、被接合金属部材1の表面A側よりも裏面B側を短くすることで、裏面B側の入熱量を少なくすることができる。第二の本接合工程で行う摩擦攪拌については、第一の本接合工程の入熱量、抜熱量及び隙間Pの大きさ、さらには被接合金属部材1の厚み等を考慮して設定すればよい。
【0105】
また、第一の本接合工程及び第二の本接合工程を行った後に、被接合金属部材1に反りが残る場合には、被接合金属部材1の表面A又は裏面Bから矯正工程を行ってもよい。矯正工程では、矯正用回転ツール(図示省略)を用いて、被接合金属部材1の表面A又は裏面Bのうち、凸状になっている面側から摩擦攪拌を行う。矯正用回転ツールは、本接合用回転ツールGと同等の形状からなり、本接合用回転ツールGよりも小さい矯正用回転ツール(図示省略)を用いる。摩擦攪拌の移動軌跡は特に限定されるものではなく、突合部に対して行ってもよいし、反りが大きい部分に重点的に行ってもよい。
【0106】
[第二の実施形態]
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。第二の実施形態は、(1)第一の準備工程、(2)第一の予備工程、(3)第一の本接合工程、(4)第二の準備工程、(5)第二の予備工程、(6)第二の本接合工程、(7)第二の補修工程、(8)第一の補修工程を含む。(1)第一の準備工程から(6)第二の本接合工程までは、第一の実施形態と同等であるため、詳細な説明は省略する。
【0107】
(7)第二の補修工程
前記した(6)第二の本接合工程が終了したら、そのまま、第二の補修工程を行う。第二の補修工程は、被接合金属部材1の裏面Bの裏面側塑性化領域W3に含まれる可能性のある接合欠陥を補修する工程である。
【0108】
本実施形態に係る第二の補修工程では、図11の(a)及び(b)に示すように、裏面側塑性化領域W3のうち、少なくとも、第一の補修領域R1、第二の補修領域R2及び第三の補修領域R3に対して摩擦攪拌を行う。
【0109】
第一の補修領域R1に対する摩擦攪拌は、本接合用回転ツールHの進行方向に沿って形成される虞のあるトンネル欠陥を分断することを目的として行われるものである。本接合用回転ツールHを右回転させた場合にはその進行方向の左側にトンネル欠陥が発生する虞があり、左回転させた場合には進行方向の右側にトンネル欠陥が発生する虞があるので、本接合用回転ツールHを右回転させた本実施形態においては、平面視して進行方向の左側に位置する表面側塑性化領域W1の上部を少なくとも含むように第一の補修領域R1を設定するとよい。
【0110】
第二の補修領域R2に対する摩擦攪拌は、本接合用回転ツールHが突合部J2を横切る際に裏面側塑性化領域W3に巻き込まれた酸化皮膜を分断することを目的として行われるものである。本実施形態の如く本接合工程における摩擦攪拌の終了位置EM2を第一タブ材2に設けた場合、本接合用回転ツールHを右回転させた場合にはその進行方向の右側にある裏面側塑性化領域W3の上部に酸化皮膜が巻き込まれている可能性が高く、左回転させた場合には進行方向の左側にある裏面側塑性化領域W3の上部に酸化皮膜が巻き込まれている可能性が高いので、本接合用回転ツールHを右回転させた本実施形態においては、第一タブ材2に隣接する裏面側塑性化領域W3のうち、平面視して進行方向の右側に位置する裏面側塑性化領域W3の上部を少なくとも含むように第二の補修領域R2を設定するとよい。なお、被接合金属部材1と第一タブ材2の継ぎ目から第二の補修領域R2の被接合金属部材1側の縁辺までの距離d5は、本接合用回転ツールHの攪拌ピンH2の最大外径よりも大きくすることが望ましい。
【0111】
第三の補修領域R3に対する摩擦攪拌は、本接合用回転ツールHが突合部J3を横切る際に裏面側塑性化領域W3に巻き込まれた酸化皮膜を分断することを目的として行われるものである。本実施形態の如く本接合工程における摩擦攪拌の開始位置SM2を第二タブ材3に設けた場合、本接合用回転ツールHを右回転させた場合にはその進行方向の左側にある裏面側塑性化領域W3の上部に酸化皮膜が巻き込まれている可能性が高く、左回転させた場合には進行方向の右側にある裏面側塑性化領域W3の上部に酸化皮膜が巻き込まれている可能性が高いので、本接合用回転ツールHを右回転させた本実施形態においては、第二タブ材3に隣接する裏面側塑性化領域W3のうち、平面視して進行方向の左側に位置する裏面側塑性化領域W3の上部を少なくとも含むように第三の補修領域R3を設定するとよい。なお、被接合金属部材1と第二タブ材3の継ぎ目から第三の補修領域R3の被接合金属部材1側の縁辺までの距離d4は、本接合用回転ツールHの攪拌ピンH2の最大外径よりも大きくすることが望ましい。
【0112】
本実施形態に係る第二の補修工程では、図11の(b)に示すように、本接合用回転ツールHよりも小型の補修用回転ツールEを用いて摩擦攪拌を行う。このようにすると、塑性化領域が必要以上に広がることを防止することが可能となる。
【0113】
補修用回転ツールEは、本接合用回転ツールHと同様に、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部E1と、このショルダ部E1の下端面E11に突設された攪拌ピン(プローブ)E2とを備えて構成されている。
【0114】
攪拌ピンE2は、ショルダ部E1の下端面から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンE2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。なお、補修用回転ツールEは、本接合用回転ツールHよりも小さく、仮接合用回転ツールFよりも大きい大きさで形成されている。
【0115】
第二の補修工程では、一の補修領域に対する摩擦攪拌が終了する度に補修用回転ツールEを離脱させてもよいし、補修領域ごとに形態の異なる補修用回転ツールEを使用してもよいが、本実施形態では、図12に示すように、一の補修用回転ツールEを一筆書きの移動軌跡(ビード)を形成するように移動させて、第一の補修領域R1、第二の補修領域R2及び第三の補修領域R3に対して連続して摩擦攪拌を行う。すなわち、本実施形態に係る第二の補修工程では、摩擦攪拌の開始位置SRに挿入した補修用回転ツールEの攪拌ピンE2(図11の(b)参照)を途中で離脱させることなく終了位置ERまで移動させる。なお、本実施形態では、第一タブ材2に摩擦攪拌の開始位置SRを設けるとともに、第二タブ材3に終了位置ERを設け、第二の補修領域R2、第一の補修領域R1、第三の補修領域R3の順序で摩擦攪拌を行う場合を例示するが、開始位置SRと終了位置ERの位置や摩擦攪拌の順序を限定する趣旨ではない。
【0116】
第二の補修工程における摩擦攪拌の手順を、図12を参照してより詳細に説明する。
まず、第一タブ材2の適所に設けた開始位置SRに補修用回転ツールEの攪拌ピンE2を挿入(圧入)して摩擦攪拌を開始し、第二の補修領域R2に対して摩擦攪拌を行う。
【0117】
また、補修用回転ツールEの移動速度(送り速度)は、攪拌ピンE2の寸法・形状、摩擦攪拌される被接合金属部材1等の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、100〜1000(mm/分)の範囲内において設定される。補修用回転ツールEの移動時の回転速度は、挿入時の回転速度と同じか、それよりも低速にする。
【0118】
第二の補修領域R2に対して摩擦攪拌を行うと、被接合金属部材1と第一タブ材2との間にある酸化皮膜が裏面側塑性化領域W3に巻き込まれた場合であっても、当該酸化皮膜を分断することが可能となるので、第一タブ材2に隣接する裏面側塑性化領域W3においても接合欠陥が発生し難くなる。なお、補修用回転ツールEで摩擦攪拌できる領域に比して第二の補修領域R2が大きい場合には、摩擦攪拌のルートをずらしつつ補修用回転ツールEを何度かUターンさせればよい。
【0119】
第二の補修領域R2に対する摩擦攪拌が終了したら、補修用回転ツールEを離脱させずにそのまま第一の補修領域R1に移動させ、前記した第二の本接合工程における摩擦攪拌のルートに沿って連続して摩擦攪拌を行う。このようにすると、本接合工程における摩擦攪拌のルートに沿ってトンネル欠陥が連続して形成された場合であっても、これを確実に分断することが可能となるので、接合欠陥が発生し難くなる。
【0120】
第一の補修領域R1に対する摩擦攪拌が終了したら、補修用回転ツールEを離脱させずにそのまま第三の補修領域R3に移動させ、第三の補修領域R3に対して摩擦攪拌を行う。このようにすると、被接合金属部材1と第二タブ材3との間にある酸化皮膜が裏面側塑性化領域W3に巻き込まれた場合であっても、当該酸化皮膜を分断することが可能となるので、第二タブ材3に隣接する裏面側塑性化領域W3においても接合欠陥が発生し難くなる。なお、補修用回転ツールEで摩擦攪拌できる領域に比して第三の補修領域R3が大きい場合には、摩擦攪拌のルートをずらしつつ補修用回転ツールEを何度かUターンさせればよい。
【0121】
第三の補修領域R3に対する摩擦攪拌が終了したら、補修用回転ツールEを終了位置ERに移動させ、補修用回転ツールEを回転させつつ上昇させて攪拌ピンE2を終了位置ERから離脱させる。第二の補修工程によって、被接合金属部材1の裏面Bには、裏面側塑性化領域W4が形成される。
【0122】
第二の補修工程では、図11の(b)に示すように、テーブル10と被接合金属部材1の表面Aとが接触しているため、補修用回転ツールEによって入熱された熱の一部は、表面Aからテーブル10に放出される(抜熱)。
【0123】
図13に示すように、第二の補修工程を終えた後に、固定治具15(図12参照)から被接合金属部材1を解除すると、熱収縮によって被接合金属部材1の裏面B側に凹状に変形する。
【0124】
(8)第一の補修工程
第二の補修工程が終了したら、被接合金属部材1の表裏を逆にして、表面Aに対して第一の補修工程を行う。第一の補修工程は、図14に示すように、被接合金属部材1の表面Aの表面側塑性化領域W1に含まれる可能性のある接合欠陥を補修する工程である。
【0125】
第一の補修工程では、図14に示すように、表面側塑性化領域W1のうち、少なくとも第一の補修領域R1、第二の補修領域R2及び第三の補修領域R3に対して摩擦攪拌を行う。第一の補修領域R1、第二の補修領域R2及び第三の補修領域R3の設定の原理は、第二の補修工程と同様であるため詳細な説明を省略する。
【0126】
第一の補修工程では、図14及び図15に示すように、第二の補修工程で用いた補修用回転ツールEよりも小さく、仮接合用回転ツールFよりも大きく形成された補修用回転ツールE’を用いる。補修用回転ツールE’は、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部E1’と、このショルダ部E1’の下端面E11’に突設された攪拌ピン(プローブ)E2’とを備えて構成されている。
【0127】
第一の補修工程では、図14及び図15に示すように、第一タブ材2の適所に設けた開始位置SRに補修用回転ツールE’の攪拌ピンE2’を挿入(圧入)して摩擦攪拌を開始し、第二の補修領域R2に対して摩擦攪拌を行う。第一の補修工程では、第二の補修工程と同様に、第一の補修領域R1及び第三の補修領域R3に対して連続して摩擦攪拌を行う。
【0128】
第一の補修工程では、図15に示すように、高速回転した補修用回転ツールE’が被接合金属部材1に挿入されると、被接合金属部材1内に摩擦熱が伝達される(入熱)。また、摩擦熱の一部は、矢印Nに示すように被接合金属部材1の縁部U,Uからテーブル10に放出(抜熱)される。
【0129】
第一の補修工程では、隙間Pが形成されているため、第二の補修工程に比べて熱が放出される経路が少ない。そのため、第一の補修工程では、第二の補修工程に比べて抜熱量が少ないが、補修用回転ツールEよりも小型の補修用回転ツールE’を用いているため、第二の補修工程に比べて入熱量が少ない。
【0130】
第一の補修工程を終了したら、タブ材を切除する。なお、各工程を追えた後には、被接合金属部材1に形成されたバリを除去することが好ましい。
【0131】
以上説明した第二の実施形態によれば、第一の補修工程後に固定治具15(図14参照)から被接合金属部材1を解除して放置すると、熱収縮によって第二の補修工程で形成された反りが是正して被接合金属部材1が平坦になる。
【0132】
前記したように、隙間Pが発生することにより抜熱量が少なくなるが、第一の補修工程で用いる補修用回転ツールE’を、第二の補修工程で用いる補修用回転ツールEよりも小さく設定して入熱量を少なくすることで、第二の補修工程と第一の補修工程とで被接合金属部材1に残存する熱量の均衡を図ることができる。これにより、表面側塑性化領域W1及び裏面側塑性化領域W3の接合欠陥を補修しつつ、補修工程で発生する可能性がある反りを是正することができる。
【0133】
なお、補修工程の回転ツールの軌跡は前記した形態に限定されるものではない。例えば、具体的な図示はしないが、突合部J1を横断するように、ジグザグに回転ツールを移動させて補修を行ってもよい。
【0134】
[変形例]
変形例では、第一の本接合工程および第二の本接合工程を行う際に、回転ツールとして図16に示す本接合用回転ツールKを用いてもよい。なお、変形例は、本接合用回転ツールKを用いる点を除いては第一の実施形態と同等であるため、重複する部分については説明を省略する。
【0135】
変形例で用いる本接合用回転ツールKの構成について説明する。図16は、回転ツールの変形例を示した図であって、(a)は、側断面図、(b)は、底面図である。
【0136】
本接合用回転ツールKは、図16の(a)に示すように、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部K1と、このショルダ部K1の下端面K11に突設された攪拌ピン(プローブ)K2と、下端面K11に突設された攪拌用突条体K3と、攪拌ピンK2の周面に刻設された攪拌翼K4を備えて構成されている。
【0137】
攪拌ピンK2は、ショルダ部K1の下端面K11の中央から垂下しており、本実施形態では先細りの円錐台状に成形されている。攪拌ピンK2の周面には、攪拌効果を高めるために螺旋状に刻設された攪拌翼K4が形成されている。攪拌ピンK2の長さL1は、攪拌ピンK2の最大外径Y2、最小外径Y3およびショルダ部K1の外径Y1に応じて適宜設定すればよい。
【0138】
平坦に形成されたショルダ部K1の下端面K11には、攪拌用突条体K3が突設されている。攪拌用突条体K3は、図16の(b)に示すように、攪拌ピンK2の周囲を取り囲むように下端面K11に渦巻き状に形成されている。攪拌用突条体K3を備えることで、塑性流動化された金属が攪拌ピンK2側に流動するため、摩擦攪拌の効率を高めることができる。なお、攪拌用突条体K3の長さや巻回数等は適宜設定すればよい。
【0139】
変形例に係る本接合用回転ツールKは、下端面K11に攪拌用突条体K3が突設されているため、塑性流動化した金属を攪拌ピンK2の中央部分に寄せ集めつつ摩擦攪拌を行うことができる。これにより、摩擦攪拌の効率を高めるとともに、接合欠陥の発生を抑制することができる。また、本接合用回転ツールKは、攪拌ピンK2の基端部分が太く、先端側が先細りに形成されているため、攪拌ピンK2の折れを防ぐとともに、攪拌ピンK2を金属部材へ圧入する際の圧入抵抗を小さくすることができる。また、攪拌ピンK2の外周面に攪拌翼K4が刻設されているため、より効率よく摩擦攪拌を行うことができる。
【実施例】
【0140】
[実施例1]
次に、本発明の実施例について説明する。本発明に係る実施例は、図17の(a)及び(b)に示すように平面視正方形の金属部材200の表面Za及び裏面Zbにそれぞれ3つの円を描くように摩擦攪拌を行い、表面Za側で発生した反りの変形量と、裏面Zb側で発生した反りの変形量を測定した。表面Za側で発生した反りの変形量の値と、裏面Zb側で発生した反りの変形量の値が近いほど、金属部材200の平坦性が高いことを示す。
【0141】
金属部材200は、平面視500mm×500mmの直方体であって、厚みが30mm、60mmの二種類の部材を用いてそれぞれ測定を行った。金属部材200の素材は、JIS規格の5052アルミニウム合金である。
【0142】
摩擦攪拌の軌跡である3つの円は、金属部材200の中心に設定した地点j又は地点j’を中心とし、表面Za及び裏面Zbともに半径r1=100mm(以下、小円ともいう)、r2=150mm(以下、中円ともいう)、r3=200mm(以下、大円ともいう)に設定した。摩擦攪拌の順序は、小円、中円、大円の順番で行った。
【0143】
回転ツールは、表面Za側及び裏面Zb側ともに同じ大きさの回転ツールを用いた。回転ツールのサイズは、ショルダ部の外径が20mm、攪拌ピンの長さが10mm、攪拌ピンの根元の大きさ(最大径)が9mm、攪拌ピンの先端の大きさ(最小径)が6mmのものを用いた。回転ツールの回転数は、600rpm、送り速度は、300mm/minに設定した。また、表面Za側及び裏面Zb側ともに回転ツールの押込み量は一定に設定した。図17に示すように、表面Za側において形成された塑性化領域を小円から大円に向けてそれぞれ塑性化領域W21乃至塑性化領域W23とする。また、裏面Zb側において形成された塑性化領域を小円から大円に向けて塑性化領域W31乃至W33とする。当該実施例における各測定結果を以下の表1〜表4に示す。
【0144】
表1は、金属部材200の板厚が30mmであって、表面Za側から摩擦攪拌を行った場合の測定値を示した表である。「FSW前」は、摩擦攪拌を行う前において、中心地点j(基準j)と各地点(地点a〜地点h)との高低差を示している。「FSW後」は、基準jをゼロとして、3つの円の摩擦攪拌を行った後において、基準jと各地点との高低差を示している。「表面側変形量」は、各地点における(FSW後−FSW前)の値を示している。「表面側変形量」の最下欄は、地点a〜地点hの平均値を示す。「FSW前」及び「FSW後」のマイナス値は、基準jよりも下方に位置していることを意味する。
【0145】
【表1】
【0146】
表2は、金属部材200の板厚が30mmであって、表面側から小円、中円、大円の摩擦攪拌をいった後、反って(歪んで)しまった金属部材200に対して、裏面側からも小円、中円、大円のそれぞれの摩擦攪拌を行った場合の金属部材200の各地点の測定値を示した表である。「FSW前」は、摩擦攪拌を行う前において、中心地点j’(基準j’)と各地点(a’〜h’)との高低差を示している。
「FSW1」は、図17を参照するように、基準j’をゼロとして、小円(半径r1)の摩擦攪拌を行った後の、基準j’と各地点との高低差を示している。「裏面側変形量1」は、各地点における(FSW1−FSW前)の値を示している。「裏面側変形量1」の最下欄は、地点a〜地点hの平均値を示す。
「FSW2」は、基準j’をゼロとして、小円(半径r1)に加えてさらに、中円(半径r2)の摩擦攪拌を行った後の、基準j’と各地点との高低差を示している。「裏面側変形量2」は、各地点における(FSW2−FSW前)の値を示している。「裏面側変形量2」の最下欄は、地点a〜地点hの平均値を示す。
「FSW3」は、基準j’をゼロとして、小円(半径r1)、中円(半径r2)に加えてさらに、大円(半径r3)の摩擦攪拌を行った後の、基準j’と各地点との高低差を示している。「裏面側変形量3」は、各地点における(FSW3−FSW前)の値を示している。「裏面側変形量3」の最下欄は、地点a〜地点hの平均値を示す。
【0147】
【表2】
【0148】
表3は、金属部材200の板厚が60mmであって、表面側から摩擦攪拌を行った場合の測定値を示した表である。表3の各項目は、表1の各項目と略同等の意味を示す。
【0149】
【表3】
【0150】
表4は、金属部材200の板厚が60mmであって、表面側から小円、中円、大円の摩擦攪拌を行った後、裏面側から摩擦攪拌を行った場合の測定値を示した表である。表4の各項目は、表2の各項目と略同等の意味を示す。
【0151】
【表4】
【0152】
表1の「表面側変形量」の平均値(1.61)と、表2の「裏面側変形量1」の平均値(2.04)とを比較すると、「裏面側変形量1」の値の方が大きい。同様に、「裏面側変形量2」の平均値(2.95)及び「裏面側変形量3」の平均値(3.53)も、「表面側変形量」の平均値(1.61)よりも大きな値となっている。つまり、金属部材200の板厚が30mmの場合は、裏面側から小円の摩擦攪拌のみを行っただけでも、金属部材200の反りが戻りすぎてしまう。したがって、金属部材200が30mmの場合は、小さい回転ツールを用いるなどして表面側よりも裏面側の入熱量を少なくすれば、金属部材200の平坦性を高めることができる。
【0153】
表3の「表面側変形量」の平均値(0.98)と、表4の「裏面側変形量2」の平均値(0.91)とを比較すると、両者の変形量が近似している。したがって、金属部材200の板厚が60mmの場合は、裏面側から小円及び中円の摩擦攪拌を行ったときに、金属部材200の平坦性が高いことが確認できた。つまり、板厚が60mmの場合は、小さい回転ツールを用いるなどして表面側よりも裏面側の入熱量を少なくすれば、金属部材200の平坦性を高めることができる。
【0154】
[実施例2]
前記した変形例に係る本接合用回転ツールKの各要素の条件(寸法)を表5に示す。表5は、本接合用回転ツールKと同等の構成からなるツールI〜ツールIVにおいて、ピン(攪拌ピン)長さ、ピンの最大径、ピンの最小径及びショルダ径の各寸法、各寸法の割合及び回転数・接合速度を示す。表5に記載した各ツールI〜ツールIVを用いて、一対のアルミニウム合金(5052アルミニウム合金)に対して摩擦攪拌接合を行い各ツールI〜ツールIVにおける各ツールの状況について観察した。
【0155】
【表5】
【0156】
ピンの長さ/ピン最大径の値が2.03を超えると、ピンが破損した。一方、ピンの長さ/ピン最大径の値が1.33未満であると、摩擦攪拌装置への負荷が大きくなるため不適切であるとともに、深い位置まで摩擦攪拌を行うことができない。
【0157】
ピン最大径/ピン最小径の値が2.67を超えると、ピン最大径が大き過ぎてメタルが溢れだし、表面欠陥が発生した。一方、ピン最大径/ピン最小径の値が2.00未満であると、ピン最大径が小さ過ぎて、ピン先端の入熱が不足して接合欠陥が発生した。
【0158】
ショルダ径/ピン最大径の値が2.14を超えると、表面欠陥の発生は防げるが、摩擦攪拌装置への負荷が大きくなり不適切であった。一方、ショルダ径/ピン最大径の値が1.56未満であると、ショルダ部からメタルが溢れ出して表面欠陥が発生した。
【符号の説明】
【0159】
1 接合金属部材
1a 金属部材
1b 金属部材
2 第一タブ材
3 第二タブ材
J1〜J3 突合部
A 表面
B 裏面
C 第一側面
D 第二側面
F 仮接合用回転ツール
F1 ショルダ部
F2 攪拌ピン
G 本接合用回転ツール
G1 ショルダ部
G2 攪拌ピン
H 本接合用回転ツール
H1 ショルダ部
H2 攪拌ピン
E 補修用回転ツール
E1 ショルダ部
E2 攪拌ピン
W1,W2 塑性化領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材同士を接合する接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材同士を接合する方法として、摩擦攪拌接合(FSW=Friction Stir Welding)が知られている。摩擦攪拌接合は、回転ツールを回転させつつ金属部材同士の突合部に沿って移動させ、回転ツールと金属部材との摩擦熱により突合部の金属を塑性流動させることで、金属部材同士を固相接合させるものである。回転ツールは、円柱状を呈するショルダ部の下端面に攪拌ピン(プローブ)を突設してなるものが一般的である。
【0003】
例えば、特許文献1には、金属部材同士を突き合わせて形成された被接合金属部材に対して、被接合金属部材の表面側から摩擦攪拌接合を行う第一の本接合工程と、裏面側から摩擦攪拌接合を行う第二の本接合工程を行う技術が開示されている。この接合方法に係る第一の本接合工程及び第二の本接合工程では、同等の回転ツールを用いて、同等の条件(回転ツールの押込み量、送り速度等)で摩擦攪拌接合を行う。かかる接合方法によれば、突合部の深さ方向全体に亘って摩擦攪拌できるため接合部分の水密性及び気密性を高めることができる。
【0004】
従来の接合方法の第一の本接合工程においては、被接合金属部材の表面側から、回転ツールを押し込んで摩擦攪拌接合を行うと、被接合金属部材の表面に塑性化領域が形成される。第一の本接合工程では、高速回転する回転ツールによって被接合金属部材に熱が加わった後、冷却されるため被接合金属部材の表面側は、熱収縮によって凹状に変形する可能性がある。
【0005】
しかし、従来の接合方法では、被接合金属部材の裏面側からも摩擦攪拌接合を行うため、表面側と同じ条件で摩擦攪拌接合を行えば、裏面側にも表面側と同様の熱収縮が起こると考えられ、被接合金属部材は平坦になるとも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−131666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、第一の本接合工程では、被接合金属部材と被接合金属部材が載置されたテーブルとが面接触しているため、回転ツールによって加えられた熱の一部は、被接合金属部材の裏面全体からテーブルに放出される(抜熱)。しかし、第二の本接合工程では、第一の本接合工程によって被接合金属部材が熱収縮により反っているため、被接合金属部材とテーブルとの間に隙間が形成された状態で摩擦攪拌接合を行うことになる。これにより、第二の本接合工程では、熱が放出される経路が少なくなるため第一の本接合工程に比べて抜熱量が少なくなる。
【0008】
よって、第二の本接合工程では、第一の本接合工程に比べて、被接合金属部材内に残存する熱量が多くなるため、反りが戻り過ぎてしまい、被接合金属部材の裏面は結局凹状に変形する。つまり、被接合金属部材の表裏に対して同等の条件で摩擦攪拌接合を行っても、被接合金属部材内に残存する熱量が不均衡となるため、被接合金属部材が歪んでしまうという問題があった。
【0009】
このような観点から、本発明は、一対の金属部材を接合する摩擦攪拌接合において、金属部材の平坦性を高めることができる接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決する本発明に係る接合方法は、金属部材同士の突合部に沿って前記金属部材の表面側から本接合用回転ツールを移動させて摩擦攪拌接合を行う第一の本接合工程と、前記第一の本接合工程の後に、前記突合部に沿って前記金属部材の裏面側から本接合用回転ツールを移動させて摩擦攪拌接合を行う第二の本接合工程と、を含み、前記第二の本接合工程における前記金属部材への入熱量を、前記第一の本接合工程における前記金属部材への入熱量よりも少なく設定することを特徴とする。
【0011】
要するに、摩擦攪拌接合された金属部材に残存する熱量は、残存熱量(J)=入熱量−抜熱量で現され、第一の本接合工程と第二の本接合工程の残存熱量が等しくなれば被接合金属部材が平坦になると考えられる。
かかる接合方法によれば、第二の本接合工程における入熱量が、第一の本接合工程における入熱量よりも少なくなるため、接合された金属部材内に残存する熱量の不均衡を是正することができる。これにより、第二の本接合工程において金属部材が反ってしまうのを防ぐことができ、金属部材の平坦性を高めることができる。
【0012】
また、前記第二の本接合工程で使用する本接合用回転ツールは、前記第一の本接合工程で使用する本接合用回転ツールよりも小さいことが好ましい。また、前記第二の本接合工程では、前記第一の本接合工程における前記本接合用回転ツールの送り速度よりも速い送り速度で摩擦攪拌接合を行うことが好ましい。かかる接合方法によれば、第二の本接合工程での入熱量を容易に少なく設定することができる。
【0013】
また、前記第二の本接合工程の後に、前記金属部材の表面側又は裏面側から摩擦攪拌を行う矯正工程を行うことが好ましい。かかる接合方法によれば、第二の本接合工程で反りが是正されない場合であっても、矯正工程で矯正することで金属部材の平坦性を高めることができる。
【0014】
また、前記第二の本接合工程では、前記第一の本接合工程で形成された塑性化領域に前記本接合用回転ツールの攪拌ピンを入り込ませつつ摩擦攪拌接合を行うことが好ましい。かかる接合方法によれば、塑性化領域が重複するとともに、塑性化領域の先端側が再度摩擦攪拌されるため、接合部分の気密性及び水密性を高めることができる。
【0015】
また、前記金属部材を固定治具によってテーブルに固定した状態で前記第一の本接合工程及び前記第二の本接合工程を行うことが好ましい。かかる接合方法によれば、摩擦攪拌接合の作業性を高めることができる。
【0016】
また、前記本接合用回転ツールは、前記金属部材よりも硬質の金属からなるショルダ部と、前記ショルダ部の下端面の中央に突設され先細りの円錐台状に形成された攪拌ピンと、前記攪拌ピンの外周面に螺旋状に刻設された攪拌翼と、を有し、前記攪拌ピンの最大外径に対する前記攪拌ピンの長さの比を1.33〜2.03に設定することが好ましい。
【0017】
かかる接合方法によれば、攪拌ピンが折れにくく、かつ、金属部材の深い位置まで摩擦攪拌を行うことができる。この比が1.33よりも小さいと、摩擦攪拌装置への負荷が大きくなって不適切である。また、攪拌ピンが短くなり金属部材の深くまで摩擦攪拌を行うことが困難になる。一方、この比が2.03よりも大きくなると攪拌ピンが折れやすい。
【0018】
また、前記本接合用回転ツールは、前記金属部材よりも硬質の金属からなるショルダ部と、前記ショルダ部の下端面の中央に突設され先細りの円錐台状に形成された攪拌ピンと、前記攪拌ピンの外周面に螺旋状に刻設された攪拌翼と、を有し、前記攪拌ピンの最小外径に対する前記攪拌ピンの最大外径の比を2.00〜2.67に設定することが好ましい。
【0019】
かかる接合方法によれば、攪拌ピンを金属部材へ圧入する際の圧入抵抗をより小さくすることができるとともに、金属部材の深い位置まで摩擦攪拌を行うことができる。この比が2.00よりも小さくなると、攪拌ピンの最大径が小さ過ぎて、攪拌ピン先端の入熱量が不足して接合欠陥が発生する。また、金属部材に圧入する際の抵抗が大きくなり攪拌ピンを金属部材に圧入するのが困難になる。一方、この比が2.67を超えると、攪拌ピンの最大径が大き過ぎてメタルが溢れ出して表面欠陥が発生する。また、攪拌ピンを深い位置まで圧入するのが困難になる。
【0020】
また、前記本接合用回転ツールは、前記金属部材よりも硬質の金属からなるショルダ部と、前記ショルダ部の下端面の中央に突設され先細りの円錐台状に形成された攪拌ピンと、前記攪拌ピンの外周面に螺旋状に刻設された攪拌翼と、を有し、前記攪拌ピンの最大外径に対する前記ショルダ部の外径の比を1.56〜2.14に設定することが好ましい。
【0021】
かかる接合方法によれば、攪拌ピンがより折れにくく、かつ、摩擦攪拌によって発生するバリを少なくすることができる。この比が1.56よりも小さいと、ショルダ部からメタルが溢れ出して表面欠陥が発生する。一方、この比が2.14よりも大きいと摩擦攪拌装置への負荷が大きくなって不適切である。
【0022】
また、前記ショルダ部の下端面には、前記攪拌ピンの周囲を囲むように、平面視渦巻き状に突設された攪拌用突条体が形成されていることが好ましい。かかる接合方法によれば、摩擦攪拌接合の攪拌効率を高めることができる。
【0023】
また、前記第一の本接合工程を行う前に、前記第一の本接合工程で用いる前記接合用回転ツールよりも小型の仮接合用回転ツールを用いて、前記突合部に対して前記金属部材の表面側から摩擦攪拌接合を行う仮接合工程を実行することが好ましい。
また、前記第二の本接合工程を行う前に、前記第二の本接合工程で用いる前記接合用回転ツールよりも小型の仮接合用回転ツールを用いて、前記突合部に対して前記金属部材の裏面側から摩擦攪拌接合を行う仮接合工程を実行することが好ましい。
【0024】
かかる接合方法によれば、一対の金属部材を仮付けした状態で本接合工程を行うことができるため、作業性を高めることができる。
【0025】
また、前記第一の本接合工程では、前記金属部材同士の突合部の側方に配置されたタブ材に摩擦攪拌の開始位置又は終了位置を設け、前記第一の本接合工程の後に、前記第一の本接合工程で形成された塑性化領域のうち少なくとも前記タブ材に隣接する部分に対して前記本接合用回転ツールよりも小型の補修用回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う補修工程を実行することが好ましい。
また、前記第二の本接合工程では、前記金属部材同士の突合部の側方に配置されたタブ材に摩擦攪拌の開始位置又は終了位置を設け、前記第二の本接合工程の後に、前記第二の本接合工程で形成された塑性化領域のうち少なくとも前記タブ材に隣接する部分に対して前記本接合用回転ツールよりも小型の補修用回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う補修工程を実行することが好ましい。
【0026】
かかる接合方法によれば、本接合工程で形成された塑性化領域に接合欠陥が含まれている場合であっても当該接合欠陥を補修して接合部分の気密性及び水密性を高めることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る接合方法によれば、平坦性の高い金属部材を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第一の実施形態に係る金属部材、第一タブ材及び第二タブ材の配置を説明するための図であって、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は(b)のI−I線断面図、(d)は(b)のII−II線断面図である。
【図2】(a)は仮接合用回転ツールを説明するための側面図、(b)は本接合用回転ツールを説明するための側面図である。
【図3】第一の実施形態に係る金属部材の固定状態を示した斜視図である。
【図4】第一の実施形態に係る第一の仮接合工程を示した平面図である。
【図5】第一の実施形態に係る第一の仮接合工程を示した断面図である。
【図6】第一の実施形態に係る第一の本接合工程を示した図であって(a)は、開始位置、(b)は、中間位置、(c)は、終了位置を示す。
【図7】第一の実施形態に係る第一の本接合工程後を示した斜視図である。
【図8】第一の実施形態に係る第二の仮接合工程を示した断面図である。
【図9】第一の実施形態に係る第二の本接合工程を示した図であって(a)は、開始位置、(b)は、中間位置、(c)は、終了位置を示す。
【図10】第一の実施形態を終えた状態を示した断面図である。
【図11】第二の実施形態に係る第一の補修工程を説明するための図であって、(a)は、平面図、(b)は、断面図である。
【図12】第二の実施形態に係る第一の補修工程を示した平面図である。
【図13】第二の実施形態に係る第一の補修工程後を示した断面図である。
【図14】第二の実施形態に係る第二の補修工程を説明するための平面図である。
【図15】第二の実施形態に係る第二の補修工程を示した断面図である。
【図16】回転ツールの変形例を示した図であって(a)は、側断面図、(b)は、底面図である。
【図17】実施例を説明するための図であって(a)は、斜視図、(b)は、平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[第一の実施形態]
次に、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、図1に示すように、金属部材1a,1bを直線状に繋ぎ合せる場合を例示する。まず、接合すべき金属部材1a,1bを詳細に説明するとともに、この金属部材1a,1bを接合する際に用いられる第一タブ材2、第二タブ材3を詳細に説明する。
【0030】
金属部材1a,1bは、断面視矩形を呈する板状部材であって、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、マグネシウム、マグネシウム合金など摩擦攪拌可能な金属材料からなる。本実施形態では、一方の金属部材1a及び他方の金属部材1bを、同一組成の金属材料で形成している。金属部材1a,1bの形状・寸法に特に制限はないが、少なくとも突合部J1における厚さ寸法を同一にすることが望ましい。なお、金属部材1a及び金属部材1bを突き合わせた金属部材を被接合金属部材1といい、被接合金属部材1の表面を表面A、裏面を裏面B、一方の側面を第一側面C及び他方の側面を第二側面Dともいう。
【0031】
第一タブ材2及び第二タブ材3は、被接合金属部材1の突合部J1を挟むように配置されるものであって、それぞれ、被接合金属部材1に添設され、被接合金属部材1の側面に現れる継ぎ目(境界線)を覆い隠す。第一タブ材2及び第二タブ材3の材質に特に制限はないが、本実施形態では、被接合金属部材1と同一組成の金属材料で形成している。また、第一タブ材2及び第二タブ材3の形状・寸法にも特に制限はないが、本実施形態では、その厚さ寸法を突合部J1における被接合金属部材1の厚さ寸法と同一にしている。
【0032】
次に、図2を参照して、仮接合工程で用いる回転ツール(以下、「仮接合用回転ツールF」という。)及び本接合工程で用いる回転ツール(以下、「本接合用回転ツールG」という。)を詳細に説明する。
【0033】
図2の(a)に示す仮接合用回転ツールFは、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部F1と、このショルダ部F1の下端面F11に突設された攪拌ピン(プローブ)F2とを備えて構成されている。仮接合用回転ツールFの寸法・形状は、被接合金属部材1の材質や厚さ等に応じて設定すればよいが、少なくとも、後記する第一の本接合工程で用いる本接合用回転ツールG(図2の(b)参照)よりも小型にする。このようにすると、本接合よりも小さな負荷で仮接合を行うことが可能となるので、仮接合時に摩擦攪拌装置に掛かる負荷を低減することが可能となり、さらには、仮接合用回転ツールFの移動速度(送り速度)を本接合用回転ツールGの移動速度よりも高速にすることも可能になるので、仮接合に要する作業時間やコストを低減することが可能となる。
【0034】
ショルダ部F1の下端面F11は、塑性流動化した金属を押えて周囲への飛散を防止する役割を担う部位であり、本実施形態では、凹面状に成形されている。ショルダ部F1の外径X1の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、本接合用回転ツールGのショルダ部G1の外径Y1よりも小さくなっている。
【0035】
攪拌ピンF2は、ショルダ部F1の下端面F11の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンF2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。攪拌ピンF2の外径の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、最大外径(上端径)X2が本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の最大外径(上端径)Y2よりも小さく、かつ、最小外径(下端径)X3が攪拌ピンG2の最小外径(下端径)Y3よりも小さい。攪拌ピンF2の長さLAは、突合部J1(図1の(a)参照)における被接合金属部材1の厚さt(図1の(c)参照)の3〜15%とすることが望ましいが、少なくとも、本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の長さLBよりも小さくすることが望ましい。
【0036】
図2の(b)に示す本接合用回転ツールGは、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部G1と、このショルダ部G1の下端面G11に突設された攪拌ピン(プローブ)G2とを備えて構成されている。
【0037】
ショルダ部G1の下端面G11は、仮接合用回転ツールFと同様に、凹面状に成形されている。攪拌ピンG2は、ショルダ部G1の下端面G11の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンG2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。攪拌ピンG2の長さLBは、突合部J1(図1の(a)参照)における被接合金属部材1の肉厚tの1/2以上3/4以下となるように設定することが望ましい。
【0038】
以下、本実施形態に係る接合方法を詳細に説明する。本実施形態に係る接合方法は、(1)第一の準備工程、(2)第一の予備工程、(3)第一の本接合工程、(4)第二の準備工程、(5)第二の予備工程、(6)第二の本接合工程、を含むものである。なお、第一の予備工程、第一の本接合工程は、被接合金属部材1の表面A側から実行される工程であり、第二の予備工程、第二の本接合工程は、被接合金属部材1の裏面B側から実行される工程である。
【0039】
(1)第一の準備工程
図1を参照して第一の準備工程を説明する。第一の準備工程は、接合すべき被接合金属部材1の摩擦攪拌の開始位置や終了位置が設けられる当て部材(第一タブ材2及び第二タブ材3)を準備する工程であり、本実施形態では、金属部材1a,1b、第一タブ材2及び第二タブ材3の油脂分等の汚れを取り除く脱脂工程と、金属部材1a,1bを突き合せる突合工程と、被接合金属部材1の突合部J1の両側に第一タブ材2、第二タブ材3を配置するタブ材配置工程と、第一タブ材2、第二タブ材3を溶接により被接合金属部材1に仮接合する溶接工程と、被接合金属部材1をテーブルに固定する固定工程を具備している。
【0040】
脱脂工程では、面削加工された金属部材1a,1b、第一タブ材2及び第二タブ材3を脱脂処理液内に浸けて、各部材が突き合わされる面に付着した加工油等の油脂分や汚れを取り除く。具体的には、金属部材1aと金属部材1bとが突き合わされる端面11,11や、被接合金属部材1と第一タブ材2及び第二タブ材3とが突き合わされる金属部材1a,1bの側面14、第一タブ材2の当接面21、第二タブ材3の当接面31に対してそれぞれ脱脂処理を行う。脱脂工程は、少なくとも各部材が突き合わされる面に対して処理を行えばよいが、突合せ面に隣接する面に対して脱脂処理を行ってもよい。
【0041】
突合工程では、図1の(c)に示すように、一方の金属部材1aの端面11に他方の金属部材1bの端面11を密着させるとともに、一方の金属部材1aの表面12と他方の金属部材1bの表面12を面一にし、さらに、一方の金属部材1aの裏面13と他方の金属部材1bの裏面13を面一にする。また、一方の金属部材1aの側面14,14と他方の金属部材1bの側面14,14をそれぞれ面一にする。
【0042】
タブ材配置工程では、図1の(b)に示すように、被接合金属部材1の突合部J1の一端側に第一タブ材2を配置してその当接面21を被接合金属部材1の第二側面Dに当接させるとともに、突合部J1の他端側に第二タブ材3を配置してその当接面31を被接合金属部材1の第一側面Cに当接させる。このとき、図1の(d)に示すように、第一タブ材2の表面22と第二タブ材3の表面32を被接合金属部材1の表面Aと面一にするとともに、第一タブ材2の裏面23と第二タブ材3の裏面33を被接合金属部材1の裏面Bと面一にする。
【0043】
溶接工程では、図1の(a)及び(b)に示すように、被接合金属部材1と第一タブ材2とにより形成された入隅部2a,2a(即ち、金属部材1a,1bの側面14と第一タブ材2の側面24とにより形成された角部)を溶接して被接合金属部材1と第一タブ材2とを接合し、被接合金属部材1と第二タブ材3とにより形成された入隅部3a,3a(即ち、金属部材1a,1bの側面14と第二タブ材3の側面34とにより形成された角部)を溶接して被接合金属部材1と第二タブ材3とを接合する。なお、各入隅部の全長に亘って連続して溶接を施してもよいし、断続して溶接を施してもよい。
【0044】
固定工程では、図3に示すように、被接合金属部材1を摩擦攪拌装置のテーブル(架台)10に載置し、クランプ等の固定治具15を用いて移動不能に拘束する。固定治具15の形態は、特に制限されないが、被接合金属部材1の表面Aに当接する当て金具15aと、当て金具15aに挿通されるボルト15bと、ボルト15bが螺入されるネジ孔15cとからなる。本実施形態では4つの固定治具15を用いたが、数量を限定するものではない。
【0045】
(2)第一の予備工程
第一の予備工程は、第一の本接合工程に先立って行われる工程であり、本実施形態では、被接合金属部材1と第一タブ材2との突合部J2を接合する第一タブ材接合工程と、被接合金属部材1の突合部J1を仮接合する第一の仮接合工程と、被接合金属部材1と第二タブ材3との突合部J3を接合する第二タブ材接合工程と、第一の本接合工程における摩擦攪拌の開始位置に下穴を形成する下穴形成工程とを具備している。
【0046】
第一の予備工程では、図4に示すように、一の仮接合用回転ツールFを一筆書きの移動軌跡(ビード)を形成するように移動させて、突合部J2,J1,J3に対して連続して摩擦攪拌を行う。即ち、摩擦攪拌の開始位置SPに挿入した仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2(図2の(a)参照)を途中で離脱させることなく終了位置EPまで移動させ、第一タブ材接合工程、第一の仮接合工程及び第二タブ材接合工程を連続して実行する。なお、本実施形態では、第一タブ材2に摩擦攪拌の開始位置SPを設け、第二タブ材3に終了位置EPを設けているが、開始位置SPと終了位置EPの位置を限定する趣旨ではない。
【0047】
第一の予備工程における摩擦攪拌の手順を図4を参照してより詳細に説明する。まず、図4に示すように、第一タブ材2の適所に設けた開始位置SPの直上に仮接合用回転ツールFを位置させ、続いて、仮接合用回転ツールFを右回転させつつ下降させて攪拌ピンF2を開始位置SPに押し付ける。仮接合用回転ツールFの回転速度は、攪拌ピンF2の寸法・形状、摩擦攪拌される被接合金属部材1等の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、500〜2000(rpm)の範囲内において設定される。
【0048】
攪拌ピンF2が第一タブ材2の表面22に接触すると、摩擦熱によって攪拌ピンF2の周囲にある金属が塑性流動化し、攪拌ピンF2が第一タブ材2に挿入される。仮接合用回転ツールFの挿入速度(下降速度)は、攪拌ピンF2の寸法・形状、開始位置SPが設けられる部材の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、30〜60(mm/分)の範囲内において設定される。
【0049】
攪拌ピンF2の全体が第一タブ材2に入り込み、かつ、ショルダ部F1の下端面F11の全面が第一タブ材2の表面22に接触したら、仮接合用回転ツールFを回転させつつ第一タブ材接合工程の始点s2に向けて相対移動させる。
【0050】
仮接合用回転ツールFの移動速度(送り速度)は、攪拌ピンF2の寸法・形状、摩擦攪拌される被接合金属部材1等の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、100〜1000(mm/分)の範囲内において設定される。仮接合用回転ツールFの移動時の回転速度は、挿入時の回転速度と同じか、それよりも低速にする。なお、仮接合用回転ツールFを移動させる際には、ショルダ部F1の軸線を鉛直線に対して進行方向の後ろ側へ僅かに傾斜させてもよいが、傾斜させずに鉛直にすると、仮接合用回転ツールFの方向転換が容易となり、複雑な動きが可能となる。仮接合用回転ツールFを移動させると、その攪拌ピンF2の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンF2から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化する。
【0051】
仮接合用回転ツールFを相対移動させて第一タブ材接合工程の始点s2まで連続して摩擦攪拌を行ったら、始点s2で仮接合用回転ツールFを離脱させずにそのまま第一タブ材接合工程に移行する。
【0052】
第一タブ材接合工程では、第一タブ材2と被接合金属部材1との突合部J2に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、被接合金属部材1と第一タブ材2の継ぎ目(境界線)上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って仮接合用回転ツールFを相対移動させることで、突合部J2に対して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、仮接合用回転ツールFを途中で離脱させることなく第一タブ材接合工程の始点s2から終点e2まで連続して摩擦攪拌を行う。
【0053】
なお、仮接合用回転ツールFを右回転させた場合には、仮接合用回転ツールFの進行方向の左側に微細な接合欠陥が発生する虞があるので、仮接合用回転ツールFの進行方向の右側に被接合金属部材1が位置するように第一タブ材接合工程の始点s2と終点e2の位置を設定することが望ましい。このようにすると、被接合金属部材1側に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0054】
ちなみに、仮接合用回転ツールFを左回転させた場合には、仮接合用回転ツールFの進行方向の右側に微細な接合欠陥が発生する虞があるので、仮接合用回転ツールFの進行方向の左側に被接合金属部材1が位置するように第一タブ材接合工程の始点と終点の位置を設定することが望ましい。具体的には、図示は省略するが、仮接合用回転ツールFを右回転させた場合の終点e2の位置に始点を設け、仮接合用回転ツールFを右回転させた場合の始点s2の位置に終点を設ければよい。
【0055】
なお、仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2が突合部J2に入り込むと、被接合金属部材1と第一タブ材2を引き離そうとする力が作用するが、被接合金属部材1と第一タブ材2により形成された入隅部2aを溶接により仮接合しているので、被接合金属部材1と第一タブ材2との間に目開きが発生することがない。
【0056】
仮接合用回転ツールFが第一タブ材接合工程の終点e2に達したら、終点e2で摩擦攪拌を終了させずに第一の仮接合工程の始点s1まで連続して摩擦攪拌を行い、そのまま第一の仮接合工程に移行する。即ち、第一タブ材接合工程の終点e2から第一の仮接合工程の始点s1まで仮接合用回転ツールFを離脱させずに摩擦攪拌を継続し、さらに、始点s1で仮接合用回転ツールFを離脱させることなく第一の仮接合工程に移行する。このようにすると、第一タブ材接合工程の終点e2での仮接合用回転ツールFの離脱作業が不要となり、さらに、第一の仮接合工程の始点s1での仮接合用回転ツールFの挿入作業が不要となることから、予備的な接合作業の効率化・迅速化を図ることが可能となる。
【0057】
本実施形態では、第一タブ材接合工程の終点e2から第一の仮接合工程の始点s1に至る摩擦攪拌のルートを第一タブ材2に設定し、仮接合用回転ツールFを第一タブ材接合工程の終点e2から第一の仮接合工程の始点s1に移動させる際の移動軌跡を第一タブ材2に形成する。このようにすると、第一タブ材接合工程の終点e2から第一の仮接合工程の始点s1に至る工程中において、被接合金属部材1に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0058】
第一の仮接合工程では、被接合金属部材1の突合部J1に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、被接合金属部材1の継ぎ目(境界線)上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って仮接合用回転ツールFを相対移動させることで、突合部J1の全長に亘って連続して摩擦攪拌を行う。第一の仮接合工程によって、突合部J1に表面側塑性化領域W0が形成される。なお、本実施形態では、仮接合用回転ツールFを途中で離脱させることなく第一の仮接合工程の始点s1から終点e1まで連続して摩擦攪拌を行う。このようにすると、第一の仮接合工程中における仮接合用回転ツールFの離脱作業が一切不要となることから、予備的な接合作業のより一層の効率化・迅速化を図ることが可能となる。
【0059】
仮接合用回転ツールFが第一の仮接合工程の終点e1に達したら、終点e1で摩擦攪拌を終了させずに第二タブ材接合工程の始点s3まで連続して摩擦攪拌を行い、そのまま第二タブ材接合工程に移行する。即ち、第一の仮接合工程の終点e1から第二タブ材接合工程の始点s3まで仮接合用回転ツールFを離脱させずに摩擦攪拌を継続し、さらに、始点s3で仮接合用回転ツールFを離脱させることなく第二タブ材接合工程に移行する。このようにすると、第一の仮接合工程の終点e1での仮接合用回転ツールFの離脱作業が不要となり、さらに、第二タブ材接合工程の始点s3での仮接合用回転ツールFの挿入作業が不要となることから、予備的な接合作業のより一層の効率化・迅速化を図ることが可能となる。
【0060】
本実施形態では、第一の仮接合工程の終点e1から第二タブ材接合工程の始点s3に至る摩擦攪拌のルートを第二タブ材3に設定し、仮接合用回転ツールFを第一の仮接合工程の終点e1から第二タブ材接合工程の始点s3に移動させる際の移動軌跡を第二タブ材3に形成する。このようにすると、第一の仮接合工程の終点e1から第二タブ材接合工程の始点s3に至る工程中において、被接合金属部材1に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0061】
第二タブ材接合工程では、被接合金属部材1と第二タブ材3との突合部J3に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、被接合金属部材1と第二タブ材3の継ぎ目(境界線)上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って仮接合用回転ツールFを相対移動させることで、突合部J3に対して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、仮接合用回転ツールFを途中で離脱させることなく第二タブ材接合工程の始点s3から終点e3まで連続して摩擦攪拌を行う。
【0062】
なお、仮接合用回転ツールFを右回転させているので、仮接合用回転ツールFの進行方向の右側に被接合金属部材1が位置するように第二タブ材接合工程の始点s3と終点e3の位置を設定する。このようにすると、被接合金属部材1側に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。ちなみに、仮接合用回転ツールFを左回転させた場合には、仮接合用回転ツールFの進行方向の左側に被接合金属部材1が位置するように第二タブ材接合工程の始点と終点の位置を設定することが望ましい。具体的には、図示は省略するが、仮接合用回転ツールFを右回転させた場合の終点e3の位置に始点を設け、仮接合用回転ツールFを右回転させた場合の始点s3の位置に終点を設ければよい。
【0063】
なお、仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2(図2の(a)参照)が突合部J3に入り込むと、被接合金属部材1と第二タブ材3を引き離そうとする力が作用するが、被接合金属部材1と第二タブ材3の入隅部3aを溶接により仮接合しているので、被接合金属部材1と第二タブ材3との間に目開きが発生することがない。
【0064】
仮接合用回転ツールFが第二タブ材接合工程の終点e3に達したら、終点e3で摩擦攪拌を終了させずに、第二タブ材3に設けた終了位置EPまで連続して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、被接合金属部材1の表面A側に現れる継ぎ目(境界線)の延長線上に終了位置EPを設けている。ちなみに、終了位置EPは、後記する第一の本接合工程における摩擦攪拌の開始位置SM1でもある。
【0065】
仮接合用回転ツールFが終了位置EPに達したら、仮接合用回転ツールFを回転させつつ上昇させて攪拌ピンF2を終了位置EPから離脱させる。図5に示すように、高速回転した仮接合用回転ツールFが被接合金属部材1に挿入されると、被接合金属部材1内に摩擦熱が伝達される(入熱)。被接合金属部材1がテーブル10に面接触しているため、摩擦熱の一部は、矢印Nに示すように被接合金属部材1の裏面Bの全体からテーブル10側に放出(抜熱)される。
【0066】
なお、仮接合用回転ツールFの離脱速度(上昇速度)は、攪拌ピンF2の寸法・形状、終了位置EPが設けられる部材の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、30〜60(mm/分)の範囲内において設定される。また、仮接合用回転ツールFの離脱時の回転速度は、移動時の回転速度と同じか、それよりも高速にする。
【0067】
続いて、下穴形成工程を実行する。下穴形成工程は、図2の(b)に示すように、第一の本接合工程における摩擦攪拌の開始位置SM1に下穴P1を形成する工程である。即ち、下穴形成工程は、本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の挿入予定位置に下穴P1を形成する工程である。
【0068】
下穴P1は、本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の挿入抵抗(圧入抵抗)を低減する目的で設けられるものであり、本実施形態では、仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2(図2の(a)参照)を離脱させたときに形成される抜き穴h1を図示せぬドリルなどで拡径することで形成される。抜き穴h1を利用すれば、下穴P1の形成工程を簡略化することが可能となるので、作業時間を短縮することが可能となる。下穴P1の形態に特に制限はないが、本実施形態では、円筒状としている。また、下穴P1の幅Z1及び深さZ2は、攪拌ピンG2の大きさ、形状に応じて適宜設定すればよい。
【0069】
なお、本実施形態では、第二タブ材3に下穴P1を形成しているが、下穴P1の位置に特に制限はなく、第一タブ材2に形成してもよいし、突合部J2,J3に形成してもよいが、好適には、本実施形態の如く被接合金属部材1の表面A側に現れる被接合金属部材1の継ぎ目(境界線)の延長線上に形成することが望ましい。
【0070】
(3)第一の本接合工程
第一の本接合工程は、被接合金属部材1の突合部J1を表面A側から本格的に接合する工程である。本実施形態に係る第一の本接合工程では、図2の(b)に示す本接合用回転ツールGを使用し、仮接合された状態の突合部J1に対して被接合金属部材1の表面A側から摩擦攪拌を行う。
【0071】
第一の本接合工程では、図6の(a)〜(c)に示すように、開始位置SM1に形成した下穴P1に本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2を挿入(圧入)し、挿入した攪拌ピンG2を途中で離脱させることなく終了位置EM1まで移動させる。即ち、第一の本接合工程では、下穴P1から摩擦攪拌を開始し、終了位置EM1まで連続して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、第二タブ材3に摩擦攪拌の開始位置SM1を設け、第一タブ材2に終了位置EM1を設けているが、開始位置SM1と終了位置EM1の位置を限定する趣旨ではない。
【0072】
図6の(a)〜(c)を参照して第一の本接合工程をより詳細に説明する。
まず、図6の(a)に示すように、下穴P1(開始位置SM1)の直上に本接合用回転ツールGを位置させ、続いて、本接合用回転ツールGを右回転させつつ下降させて攪拌ピンG2の先端を下穴P1に挿入する。攪拌ピンG2を下穴P1に入り込ませると、攪拌ピンG2の周面(側面)が下穴P1の穴壁に当接し、穴壁から金属が塑性流動化する。このような状態になると、塑性流動化した金属を攪拌ピンG2の周面で押し退けながら、攪拌ピンG2が圧入されることになるので、圧入初期段階における圧入抵抗を低減することが可能となり、また、本接合用回転ツールGのショルダ部G1が第二タブ材3の表面に当接する前に攪拌ピンG2が下穴P1の穴壁に当接して摩擦熱が発生するので、塑性流動化するまでの時間を短縮することが可能となる。つまり、摩擦攪拌装置の負荷を低減することが可能となり、加えて、本接合に要する作業時間を短縮することが可能となる。
【0073】
摩擦攪拌の開始位置SM1に本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2を挿入する際の本接合用回転ツールGの回転速度(挿入時の回転速度)は、攪拌ピンG2の寸法・形状、摩擦攪拌される被接合金属部材1等の材質や肉厚等に応じて設定されるものであり、多くの場合、70〜700(rpm)の範囲内において設定されるが、開始位置SM1から摩擦攪拌の終了位置EM1に向かって本接合用回転ツールGを移動させる際の本接合用回転ツールGの回転速度(移動時の回転速度)よりも高速にすることが望ましい。このようにすると、挿入時の回転速度を移動時の回転速度と同じにした場合に比べて、金属を塑性流動化させるまでに要する時間が短くなるので、開始位置SM1における攪拌ピンG2の挿入作業を迅速に行うことが可能となる。
【0074】
攪拌ピンG2の全体が第二タブ材3に入り込み、かつ、ショルダ部G1の下端面G11の全面が第二タブ材3の表面に接触したら、図6の(b)に示すように、摩擦攪拌を行いながら被接合金属部材1の突合部J1の一端に向けて本接合用回転ツールGを相対移動させ、さらに、突合部J3を横切らせて突合部J1に突入させる。本接合用回転ツールGを移動させると、その攪拌ピンG2の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンG2から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化して塑性化領域W1(以下、「表面側塑性化領域W1」という。)が形成される。
【0075】
本接合用回転ツールGの移動速度(送り速度)は、攪拌ピンG2の寸法・形状、摩擦攪拌される被接合金属部材1等の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、30〜300(mm/分)の範囲内において設定される。なお、本接合用回転ツールGを移動させる際には、ショルダ部G1の軸線を鉛直線に対して進行方向の後ろ側へ僅かに傾斜させてもよいが、傾斜させずに鉛直にすると、本接合用回転ツールGの方向転換が容易となり、複雑な動きが可能となる。
【0076】
被接合金属部材1への入熱量が過大になる虞がある場合には、本接合用回転ツールGの周囲に表面A側から水を供給するなどして冷却することが望ましい。なお、被接合金属部材1の突合部J1間に冷却水が入り込むと、接合面に酸化皮膜を発生させる虞があるが、本実施形態においては、第一の仮接合工程を実行して被接合金属部材1間の目地を閉塞しているので、被接合金属部材1の突合部J1に冷却水が入り込み難く、したがって、接合部の品質を劣化させる虞がない。
【0077】
被接合金属部材1の突合部J1では、被接合金属部材1の継ぎ目上(第一の仮接合工程における移動軌跡上)に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って本接合用回転ツールGを相対移動させることで、突合部J1の一端から他端まで連続して摩擦攪拌を行う。突合部J1の他端まで本接合用回転ツールGを相対移動させたら、摩擦攪拌を行いながら突合部J2を横切らせ、そのまま終了位置EM1に向けて相対移動させる。
【0078】
なお、本実施形態では、被接合金属部材1の表面A側に現れる継ぎ目(境界線)の延長線上に摩擦攪拌の終了位置EM1を設定しているので、第一の本接合工程における摩擦攪拌のルートを一直線にすることができる。摩擦攪拌のルートを一直線にすると、本接合用回転ツールGの移動距離を最小限に抑えることができるので、第一の本接合工程を効率よく行うことが可能となり、さらには、本接合用回転ツールGの磨耗量を低減することが可能となる。
【0079】
本接合用回転ツールGが終了位置EM1に達したら、図6の(c)に示すように、本接合用回転ツールGを回転させつつ上昇させて攪拌ピンG2を終了位置EM1(図6の(b)参照)から離脱させる。なお、終了位置EM1において攪拌ピンG2を上方に離脱させると、攪拌ピンG2と略同形の抜き穴Q1が不可避的に形成されることになるが、本実施形態では、そのまま残置する。
【0080】
図6の(b)及び(c)に示すように、高速回転した本接合用回転ツールGが被接合金属部材1に挿入されると、被接合金属部材1内に摩擦熱が伝達される(入熱)。被接合金属部材1がテーブル10に面接触しているため、摩擦熱の一部は、矢印Nに示すように被接合金属部材1の裏面Bからテーブル10側に放出(抜熱)される。
【0081】
なお、本実施形態では、図6の(b)及び(c)に示すように、本接合用回転ツールGを右回転させて第一の本接合工程を行ったため、進行方向左側、即ち、金属部材1bにトンネル状の空洞欠陥(以下、トンネル状空洞欠陥とする)が形成される可能性がある。摩擦攪拌を行う際に、進行方向左側はシアー側(被接合部に対する回転ツールの外周の相対速さが、回転ツールの外周における接線速度の大きさに移動速度の大きさを加算した値となる側)であるため、メタルが強く攪拌されて高温軟化し、バリとなって排出され易いと考えられる。このため、進行方向左側はメタルが不足するので、トンネル状空洞欠陥が形成される可能性がある。また、進行方向右側、即ち、金属部材1a側は、フロー側(被接合部に対する回転ツールの外周の相対速さが、回転ツールの外周における接線速度の大きさから移動速度の大きさを減算した値となる側)であるため、メタルの攪拌が比較的弱く、バリとなって排出され難いと考えられ、比較的緻密な塑性化領域が形成される。
【0082】
ちなみに、本接合用回転ツールGを左回転させると、進行方向右側は、シアー側となるため進行方向右側にトンネル状空洞欠陥が形成される可能性がある。一方、進行方向左側は、フロー側となるため、比較的緻密な塑性化領域が形成される。かかるトンネル状空洞欠陥などの接合欠陥が被接合金属部材1に形成されると、被接合金属部材1の気密性及び水密性を低下させる原因となる。
【0083】
第一の本接合工程が終了したら、第一予備工程、第一の本接合工程における摩擦攪拌で発生したバリを除去する。さらに、固定治具15から被接合金属部材1を解除する。
【0084】
図7は、第一の実施形態に係る第一の本接合工程後を示した斜視図である。図7に示すように、前記した第一の予備工程及び第一の本接合工程を行うと、被接合金属部材1に伝達された熱が、冷却されて熱収縮を起こすため、被接合金属部材1の表面A側に凹状に変形する。
【0085】
(4)第二の準備工程
第二の準備工程は、第二の予備工程に先立って行われる工程であり、本実施形態では、被接合金属部材1の表裏を逆にして、被接合金属部材1を固定治具15(図3参照)でテーブル10に固定する。図8に示すように、被接合金属部材1をテーブル10に固定すると、被接合金属部材1が反って(歪んで)いるため、被接合金属部材1の縁部U,Uとテーブル10とが当接し、テーブル10と被接合金属部材1の表面Aとの間に間隙Pが形成される。
【0086】
(5)第二の予備工程
第二の予備工程は、第二の本接合工程に先だって行われる工程であり、本実施形態では、被接合金属部材1と第一タブ材2との突合部J2を接合する第一タブ材接合工程と、被接合金属部材1の突合部J1を仮接合する第二の仮接合工程と、被接合金属部材1と第二タブ材3との突合部J3を接合する第二タブ材接合工程と、第二の本接合工程における摩擦攪拌の開始位置に下穴を形成する下穴形成工程とを具備している。第二の予備工程は、被接合金属部材1の表裏を除いては、前記した第一の予備工程と略同等であるため、詳細な説明は省略する。
【0087】
図8に示すように、第二の仮接合工程によって、高速回転した仮接合用回転ツールFが被接合金属部材1に挿入されると、被接合金属部材1内に摩擦熱が伝達される(入熱)。また、摩擦熱の一部は、矢印Nに示すように被接合金属部材1の縁部U,Uからテーブル10に放出(抜熱)される。第二の仮接合工程では、第一の仮接合工程と同じ仮接合用回転ツールFを用いるため、入熱量は同等であるが、第一の仮接合工程に比べて熱が放出される経路が少ないため抜熱量は少ない。第二の仮接合工程によって、被接合金属部材1の裏面Bには、裏面側塑性化領域W2が形成される。
【0088】
(6)第二の本接合工程
第二の本接合工程は、被接合金属部材1の突合部J1を裏面B側から本格的に接合する工程である。本実施形態に係る第二の本接合工程では、図9の(a)〜(c)に示すように、本接合用回転ツールHを使用して、突合部J1に対して被接合金属部材1の裏面B側から摩擦攪拌を行う。
【0089】
本接合用回転ツールHは、図9の(a)に示すように、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部H1と、このショルダ部H1の下端面H11に突設された攪拌ピン(プローブ)H2とを備えて構成されている。本接合用回転ツールHは、第一の本接合工程で用いた本接合用回転ツールGと略同等の形状を呈し、本接合用回転ツールGの80%程度の大きさで形成されている。第二の本接合工程で用いる本接合用回転ツールHは、本接合用回転ツールGと同等の大きさでもよいが、好ましくは、本接合用回転ツールGよりも小さく設定する。本接合用回転ツールHは、第一の本接合工程で用いる本接合用回転ツールGの大きさ、被接合金属部材1の反りの大きさ等を考慮して適宜設定する。
【0090】
第二の本接合工程では、第二タブ材3に設けた下穴P2(開始位置SM2)に本接合用回転ツールHの攪拌ピンH2を挿入(圧入)し、挿入した攪拌ピンH2を途中で離脱させることなく第一タブ材2に設けた終了位置EM2まで移動させる。即ち、第二の本接合工程では、下穴P2から摩擦攪拌を開始し、終了位置EM2まで連続して摩擦攪拌を行う。
【0091】
図9の(a)〜(c)を参照して第二の本接合工程をより詳細に説明する。
まず、図9の(a)に示すように、下穴P2の直上に本接合用回転ツールHを位置させ、続いて、本接合用回転ツールHを右回転させつつ下降させて攪拌ピンH2の先端を下穴P2に挿入する。
【0092】
攪拌ピンH2の全体が第二タブ材3に入り込み、かつ、ショルダ部H1の下端面H11の全面が第二タブ材3の表面に接触したら、図9の(b)に示すように、本接合用回転ツールHを被接合金属部材1の突合部J1の一端に向けて相対移動させる。攪拌ピンH2の挿入深さは特に制限されないが、本実施形態のように、攪拌ピンH2が表面側塑性化領域W1に接触する程度に設定することが好ましい。これにより、表面側塑性化領域W1の先端側を再度摩擦攪拌することができるため、表面側塑性化領域W1の先端側に接合欠陥が形成されている場合、当該欠陥を補修することができる。また、突合部J1の深さ方向全体に亘って摩擦攪拌を行うことができ、接合部分の水密性及び気密性を高めることができる。本接合用回転ツールHを移動させると、その攪拌ピンH2の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンH2から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化して塑性化領域W3(以下、「裏面側塑性化領域W3」という。)が形成される。
【0093】
また、図9に示すように、第二の本接合工程においては、本接合用回転ツールHを右回転させて、被接合金属部材1の第一側面C側から第二側面D側に向けて摩擦攪拌を行うため、進行方向右側、即ち、金属部材1b側では、比較的緻密な塑性化領域が形成される。したがって、第一の本接合工程によって形成された表面側塑性化領域W1のトンネル状空洞欠陥を確実に密閉することができる。
【0094】
図9の(c)に示すように、本接合用回転ツールHが終了位置EM2に達したら、本接合用回転ツールHを回転させつつ上昇させて攪拌ピンH2を終了位置EM2から離脱させる(図9の(c)参照)。本接合用回転ツールHの離脱時の回転速度は、前記した第一の本接合工程の場合と同様に、移動時の回転速度よりも高速にすることが望ましい。
【0095】
なお、第一の本接合工程で残置された抜き穴Q1と第二の本接合工程における本接合用回転ツールHの移動ルートとが重なると、塑性流動化した金属が抜き穴Q1に流れ込み、接合欠陥が発生する虞があるので、抜き穴Q1から離れた位置に第二の本接合工程における摩擦攪拌の終了位置EM2(抜き穴Q2)を設けるとともに、抜き穴Q1を避けるように第二の本接合工程における摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って本接合用回転ツールHの攪拌ピンH2を移動させることが望ましい。
【0096】
図9の(b)及び(c)に示すように、高速回転した本接合用回転ツールHが被接合金属部材1に挿入されると、被接合金属部材1内に摩擦熱が伝達される(入熱)。また、摩擦熱の一部は、矢印Nに示すように被接合金属部材1の縁部U,Uからテーブル10に放出(抜熱)される。
【0097】
第二の本接合工程では、隙間Pが形成されているため第一の本接合工程に比べて熱が放出される経路が少ない。そのため、第二の本接合工程では、第一の本接合工程に比べて抜熱量が少ないが、本接合用回転ツールGよりも小型の本接合用回転ツールHを用いているため、第一の本接合工程に比べて入熱量も少ない。
【0098】
第二の本接合工程を終了したら、タブ材を切除する。なお、各工程を終えた後は、被接合金属部材1に形成されたバリを除去することが好ましい。
【0099】
以上説明した第一実施形態によれば、図10に示すように、第二の本接合後に、固定治具15(図3参照)から被接合金属部材1を解除して放置すると、被接合金属部材1の裏面B側にも熱収縮が発生するため、第一の本接合工程で形成された反りが是正され被接合金属部材1が平坦になる。
【0100】
前記したように、隙間Pが発生することにより第二の本接合工程では抜熱量が少なくなるが、第二の本接合工程で用いる本接合用回転ツールHを第一の本接合工程で用いる本接合用回転ツールGよりも小さく設定して入熱量を少なくすることで、第一の本接合工程と第二の本接合工程とで被接合金属部材1に残存する熱量の均衡を図ることができる。
【0101】
被接合金属部材1の表面A側の残存熱量は、(第一の予備工程での入熱量+第一の本接合工程での入熱量)−(第一の予備工程での抜熱量+第一の本接合工程での抜熱量)で表される。一方、裏面B側の残存熱量は、(第二の予備工程での入熱量+第二の本接合工程での入熱量)−(第二の予備工程での抜熱量+第二の本接合工程での抜熱量)表される。本実施形態では、第一の本接合工程及び第二の本接合工程で回転ツールの大きさを変えることで、第一の本接合工程及び第二の本接合工程の残存熱量の均衡を図り、被接合金属部材1を平坦にすることができる。
【0102】
また、被接合金属部材1への入熱量を本接合用回転ツールG,Hの大きさを変えることで変更するため、入熱量の調節を容易に行うことができる。また、第二の本接合工程では、第一の本接合工程で形成された表面側塑性化領域W1に本接合用回転ツールHの先端を入り込ませることにより、表面側塑性化領域W1を再度摩擦攪拌することができる。これにより、塑性化領域に発生する可能性がある接合欠陥を補修することができる。
【0103】
また、本実施形態では、本接合工程に先だって仮接合工程をするため、金属部材1a,1b同士が離間することなく摩擦攪拌接合を行うことができる。
【0104】
なお、第一の実施形態では、回転ツールの大きさを変更することにより被接合金属部材1の表面側及び裏面側の入熱量を調節したが、これに限定されるものではない。例えば、被接合金属部材1の表裏で同等の回転ツールを用いる場合には、裏面B側の回転ツールの移動速度を表面A側の回転ツールの移動速度より速めることで、裏面B側の回転ツールの入熱量を少なくすることができる。また、回転ツールを移動させる軌跡の長さ(摩擦攪拌の軌跡の長さの和)を、被接合金属部材1の表面A側よりも裏面B側を短くすることで、裏面B側の入熱量を少なくすることができる。第二の本接合工程で行う摩擦攪拌については、第一の本接合工程の入熱量、抜熱量及び隙間Pの大きさ、さらには被接合金属部材1の厚み等を考慮して設定すればよい。
【0105】
また、第一の本接合工程及び第二の本接合工程を行った後に、被接合金属部材1に反りが残る場合には、被接合金属部材1の表面A又は裏面Bから矯正工程を行ってもよい。矯正工程では、矯正用回転ツール(図示省略)を用いて、被接合金属部材1の表面A又は裏面Bのうち、凸状になっている面側から摩擦攪拌を行う。矯正用回転ツールは、本接合用回転ツールGと同等の形状からなり、本接合用回転ツールGよりも小さい矯正用回転ツール(図示省略)を用いる。摩擦攪拌の移動軌跡は特に限定されるものではなく、突合部に対して行ってもよいし、反りが大きい部分に重点的に行ってもよい。
【0106】
[第二の実施形態]
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。第二の実施形態は、(1)第一の準備工程、(2)第一の予備工程、(3)第一の本接合工程、(4)第二の準備工程、(5)第二の予備工程、(6)第二の本接合工程、(7)第二の補修工程、(8)第一の補修工程を含む。(1)第一の準備工程から(6)第二の本接合工程までは、第一の実施形態と同等であるため、詳細な説明は省略する。
【0107】
(7)第二の補修工程
前記した(6)第二の本接合工程が終了したら、そのまま、第二の補修工程を行う。第二の補修工程は、被接合金属部材1の裏面Bの裏面側塑性化領域W3に含まれる可能性のある接合欠陥を補修する工程である。
【0108】
本実施形態に係る第二の補修工程では、図11の(a)及び(b)に示すように、裏面側塑性化領域W3のうち、少なくとも、第一の補修領域R1、第二の補修領域R2及び第三の補修領域R3に対して摩擦攪拌を行う。
【0109】
第一の補修領域R1に対する摩擦攪拌は、本接合用回転ツールHの進行方向に沿って形成される虞のあるトンネル欠陥を分断することを目的として行われるものである。本接合用回転ツールHを右回転させた場合にはその進行方向の左側にトンネル欠陥が発生する虞があり、左回転させた場合には進行方向の右側にトンネル欠陥が発生する虞があるので、本接合用回転ツールHを右回転させた本実施形態においては、平面視して進行方向の左側に位置する表面側塑性化領域W1の上部を少なくとも含むように第一の補修領域R1を設定するとよい。
【0110】
第二の補修領域R2に対する摩擦攪拌は、本接合用回転ツールHが突合部J2を横切る際に裏面側塑性化領域W3に巻き込まれた酸化皮膜を分断することを目的として行われるものである。本実施形態の如く本接合工程における摩擦攪拌の終了位置EM2を第一タブ材2に設けた場合、本接合用回転ツールHを右回転させた場合にはその進行方向の右側にある裏面側塑性化領域W3の上部に酸化皮膜が巻き込まれている可能性が高く、左回転させた場合には進行方向の左側にある裏面側塑性化領域W3の上部に酸化皮膜が巻き込まれている可能性が高いので、本接合用回転ツールHを右回転させた本実施形態においては、第一タブ材2に隣接する裏面側塑性化領域W3のうち、平面視して進行方向の右側に位置する裏面側塑性化領域W3の上部を少なくとも含むように第二の補修領域R2を設定するとよい。なお、被接合金属部材1と第一タブ材2の継ぎ目から第二の補修領域R2の被接合金属部材1側の縁辺までの距離d5は、本接合用回転ツールHの攪拌ピンH2の最大外径よりも大きくすることが望ましい。
【0111】
第三の補修領域R3に対する摩擦攪拌は、本接合用回転ツールHが突合部J3を横切る際に裏面側塑性化領域W3に巻き込まれた酸化皮膜を分断することを目的として行われるものである。本実施形態の如く本接合工程における摩擦攪拌の開始位置SM2を第二タブ材3に設けた場合、本接合用回転ツールHを右回転させた場合にはその進行方向の左側にある裏面側塑性化領域W3の上部に酸化皮膜が巻き込まれている可能性が高く、左回転させた場合には進行方向の右側にある裏面側塑性化領域W3の上部に酸化皮膜が巻き込まれている可能性が高いので、本接合用回転ツールHを右回転させた本実施形態においては、第二タブ材3に隣接する裏面側塑性化領域W3のうち、平面視して進行方向の左側に位置する裏面側塑性化領域W3の上部を少なくとも含むように第三の補修領域R3を設定するとよい。なお、被接合金属部材1と第二タブ材3の継ぎ目から第三の補修領域R3の被接合金属部材1側の縁辺までの距離d4は、本接合用回転ツールHの攪拌ピンH2の最大外径よりも大きくすることが望ましい。
【0112】
本実施形態に係る第二の補修工程では、図11の(b)に示すように、本接合用回転ツールHよりも小型の補修用回転ツールEを用いて摩擦攪拌を行う。このようにすると、塑性化領域が必要以上に広がることを防止することが可能となる。
【0113】
補修用回転ツールEは、本接合用回転ツールHと同様に、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部E1と、このショルダ部E1の下端面E11に突設された攪拌ピン(プローブ)E2とを備えて構成されている。
【0114】
攪拌ピンE2は、ショルダ部E1の下端面から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンE2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。なお、補修用回転ツールEは、本接合用回転ツールHよりも小さく、仮接合用回転ツールFよりも大きい大きさで形成されている。
【0115】
第二の補修工程では、一の補修領域に対する摩擦攪拌が終了する度に補修用回転ツールEを離脱させてもよいし、補修領域ごとに形態の異なる補修用回転ツールEを使用してもよいが、本実施形態では、図12に示すように、一の補修用回転ツールEを一筆書きの移動軌跡(ビード)を形成するように移動させて、第一の補修領域R1、第二の補修領域R2及び第三の補修領域R3に対して連続して摩擦攪拌を行う。すなわち、本実施形態に係る第二の補修工程では、摩擦攪拌の開始位置SRに挿入した補修用回転ツールEの攪拌ピンE2(図11の(b)参照)を途中で離脱させることなく終了位置ERまで移動させる。なお、本実施形態では、第一タブ材2に摩擦攪拌の開始位置SRを設けるとともに、第二タブ材3に終了位置ERを設け、第二の補修領域R2、第一の補修領域R1、第三の補修領域R3の順序で摩擦攪拌を行う場合を例示するが、開始位置SRと終了位置ERの位置や摩擦攪拌の順序を限定する趣旨ではない。
【0116】
第二の補修工程における摩擦攪拌の手順を、図12を参照してより詳細に説明する。
まず、第一タブ材2の適所に設けた開始位置SRに補修用回転ツールEの攪拌ピンE2を挿入(圧入)して摩擦攪拌を開始し、第二の補修領域R2に対して摩擦攪拌を行う。
【0117】
また、補修用回転ツールEの移動速度(送り速度)は、攪拌ピンE2の寸法・形状、摩擦攪拌される被接合金属部材1等の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、100〜1000(mm/分)の範囲内において設定される。補修用回転ツールEの移動時の回転速度は、挿入時の回転速度と同じか、それよりも低速にする。
【0118】
第二の補修領域R2に対して摩擦攪拌を行うと、被接合金属部材1と第一タブ材2との間にある酸化皮膜が裏面側塑性化領域W3に巻き込まれた場合であっても、当該酸化皮膜を分断することが可能となるので、第一タブ材2に隣接する裏面側塑性化領域W3においても接合欠陥が発生し難くなる。なお、補修用回転ツールEで摩擦攪拌できる領域に比して第二の補修領域R2が大きい場合には、摩擦攪拌のルートをずらしつつ補修用回転ツールEを何度かUターンさせればよい。
【0119】
第二の補修領域R2に対する摩擦攪拌が終了したら、補修用回転ツールEを離脱させずにそのまま第一の補修領域R1に移動させ、前記した第二の本接合工程における摩擦攪拌のルートに沿って連続して摩擦攪拌を行う。このようにすると、本接合工程における摩擦攪拌のルートに沿ってトンネル欠陥が連続して形成された場合であっても、これを確実に分断することが可能となるので、接合欠陥が発生し難くなる。
【0120】
第一の補修領域R1に対する摩擦攪拌が終了したら、補修用回転ツールEを離脱させずにそのまま第三の補修領域R3に移動させ、第三の補修領域R3に対して摩擦攪拌を行う。このようにすると、被接合金属部材1と第二タブ材3との間にある酸化皮膜が裏面側塑性化領域W3に巻き込まれた場合であっても、当該酸化皮膜を分断することが可能となるので、第二タブ材3に隣接する裏面側塑性化領域W3においても接合欠陥が発生し難くなる。なお、補修用回転ツールEで摩擦攪拌できる領域に比して第三の補修領域R3が大きい場合には、摩擦攪拌のルートをずらしつつ補修用回転ツールEを何度かUターンさせればよい。
【0121】
第三の補修領域R3に対する摩擦攪拌が終了したら、補修用回転ツールEを終了位置ERに移動させ、補修用回転ツールEを回転させつつ上昇させて攪拌ピンE2を終了位置ERから離脱させる。第二の補修工程によって、被接合金属部材1の裏面Bには、裏面側塑性化領域W4が形成される。
【0122】
第二の補修工程では、図11の(b)に示すように、テーブル10と被接合金属部材1の表面Aとが接触しているため、補修用回転ツールEによって入熱された熱の一部は、表面Aからテーブル10に放出される(抜熱)。
【0123】
図13に示すように、第二の補修工程を終えた後に、固定治具15(図12参照)から被接合金属部材1を解除すると、熱収縮によって被接合金属部材1の裏面B側に凹状に変形する。
【0124】
(8)第一の補修工程
第二の補修工程が終了したら、被接合金属部材1の表裏を逆にして、表面Aに対して第一の補修工程を行う。第一の補修工程は、図14に示すように、被接合金属部材1の表面Aの表面側塑性化領域W1に含まれる可能性のある接合欠陥を補修する工程である。
【0125】
第一の補修工程では、図14に示すように、表面側塑性化領域W1のうち、少なくとも第一の補修領域R1、第二の補修領域R2及び第三の補修領域R3に対して摩擦攪拌を行う。第一の補修領域R1、第二の補修領域R2及び第三の補修領域R3の設定の原理は、第二の補修工程と同様であるため詳細な説明を省略する。
【0126】
第一の補修工程では、図14及び図15に示すように、第二の補修工程で用いた補修用回転ツールEよりも小さく、仮接合用回転ツールFよりも大きく形成された補修用回転ツールE’を用いる。補修用回転ツールE’は、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部E1’と、このショルダ部E1’の下端面E11’に突設された攪拌ピン(プローブ)E2’とを備えて構成されている。
【0127】
第一の補修工程では、図14及び図15に示すように、第一タブ材2の適所に設けた開始位置SRに補修用回転ツールE’の攪拌ピンE2’を挿入(圧入)して摩擦攪拌を開始し、第二の補修領域R2に対して摩擦攪拌を行う。第一の補修工程では、第二の補修工程と同様に、第一の補修領域R1及び第三の補修領域R3に対して連続して摩擦攪拌を行う。
【0128】
第一の補修工程では、図15に示すように、高速回転した補修用回転ツールE’が被接合金属部材1に挿入されると、被接合金属部材1内に摩擦熱が伝達される(入熱)。また、摩擦熱の一部は、矢印Nに示すように被接合金属部材1の縁部U,Uからテーブル10に放出(抜熱)される。
【0129】
第一の補修工程では、隙間Pが形成されているため、第二の補修工程に比べて熱が放出される経路が少ない。そのため、第一の補修工程では、第二の補修工程に比べて抜熱量が少ないが、補修用回転ツールEよりも小型の補修用回転ツールE’を用いているため、第二の補修工程に比べて入熱量が少ない。
【0130】
第一の補修工程を終了したら、タブ材を切除する。なお、各工程を追えた後には、被接合金属部材1に形成されたバリを除去することが好ましい。
【0131】
以上説明した第二の実施形態によれば、第一の補修工程後に固定治具15(図14参照)から被接合金属部材1を解除して放置すると、熱収縮によって第二の補修工程で形成された反りが是正して被接合金属部材1が平坦になる。
【0132】
前記したように、隙間Pが発生することにより抜熱量が少なくなるが、第一の補修工程で用いる補修用回転ツールE’を、第二の補修工程で用いる補修用回転ツールEよりも小さく設定して入熱量を少なくすることで、第二の補修工程と第一の補修工程とで被接合金属部材1に残存する熱量の均衡を図ることができる。これにより、表面側塑性化領域W1及び裏面側塑性化領域W3の接合欠陥を補修しつつ、補修工程で発生する可能性がある反りを是正することができる。
【0133】
なお、補修工程の回転ツールの軌跡は前記した形態に限定されるものではない。例えば、具体的な図示はしないが、突合部J1を横断するように、ジグザグに回転ツールを移動させて補修を行ってもよい。
【0134】
[変形例]
変形例では、第一の本接合工程および第二の本接合工程を行う際に、回転ツールとして図16に示す本接合用回転ツールKを用いてもよい。なお、変形例は、本接合用回転ツールKを用いる点を除いては第一の実施形態と同等であるため、重複する部分については説明を省略する。
【0135】
変形例で用いる本接合用回転ツールKの構成について説明する。図16は、回転ツールの変形例を示した図であって、(a)は、側断面図、(b)は、底面図である。
【0136】
本接合用回転ツールKは、図16の(a)に示すように、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部K1と、このショルダ部K1の下端面K11に突設された攪拌ピン(プローブ)K2と、下端面K11に突設された攪拌用突条体K3と、攪拌ピンK2の周面に刻設された攪拌翼K4を備えて構成されている。
【0137】
攪拌ピンK2は、ショルダ部K1の下端面K11の中央から垂下しており、本実施形態では先細りの円錐台状に成形されている。攪拌ピンK2の周面には、攪拌効果を高めるために螺旋状に刻設された攪拌翼K4が形成されている。攪拌ピンK2の長さL1は、攪拌ピンK2の最大外径Y2、最小外径Y3およびショルダ部K1の外径Y1に応じて適宜設定すればよい。
【0138】
平坦に形成されたショルダ部K1の下端面K11には、攪拌用突条体K3が突設されている。攪拌用突条体K3は、図16の(b)に示すように、攪拌ピンK2の周囲を取り囲むように下端面K11に渦巻き状に形成されている。攪拌用突条体K3を備えることで、塑性流動化された金属が攪拌ピンK2側に流動するため、摩擦攪拌の効率を高めることができる。なお、攪拌用突条体K3の長さや巻回数等は適宜設定すればよい。
【0139】
変形例に係る本接合用回転ツールKは、下端面K11に攪拌用突条体K3が突設されているため、塑性流動化した金属を攪拌ピンK2の中央部分に寄せ集めつつ摩擦攪拌を行うことができる。これにより、摩擦攪拌の効率を高めるとともに、接合欠陥の発生を抑制することができる。また、本接合用回転ツールKは、攪拌ピンK2の基端部分が太く、先端側が先細りに形成されているため、攪拌ピンK2の折れを防ぐとともに、攪拌ピンK2を金属部材へ圧入する際の圧入抵抗を小さくすることができる。また、攪拌ピンK2の外周面に攪拌翼K4が刻設されているため、より効率よく摩擦攪拌を行うことができる。
【実施例】
【0140】
[実施例1]
次に、本発明の実施例について説明する。本発明に係る実施例は、図17の(a)及び(b)に示すように平面視正方形の金属部材200の表面Za及び裏面Zbにそれぞれ3つの円を描くように摩擦攪拌を行い、表面Za側で発生した反りの変形量と、裏面Zb側で発生した反りの変形量を測定した。表面Za側で発生した反りの変形量の値と、裏面Zb側で発生した反りの変形量の値が近いほど、金属部材200の平坦性が高いことを示す。
【0141】
金属部材200は、平面視500mm×500mmの直方体であって、厚みが30mm、60mmの二種類の部材を用いてそれぞれ測定を行った。金属部材200の素材は、JIS規格の5052アルミニウム合金である。
【0142】
摩擦攪拌の軌跡である3つの円は、金属部材200の中心に設定した地点j又は地点j’を中心とし、表面Za及び裏面Zbともに半径r1=100mm(以下、小円ともいう)、r2=150mm(以下、中円ともいう)、r3=200mm(以下、大円ともいう)に設定した。摩擦攪拌の順序は、小円、中円、大円の順番で行った。
【0143】
回転ツールは、表面Za側及び裏面Zb側ともに同じ大きさの回転ツールを用いた。回転ツールのサイズは、ショルダ部の外径が20mm、攪拌ピンの長さが10mm、攪拌ピンの根元の大きさ(最大径)が9mm、攪拌ピンの先端の大きさ(最小径)が6mmのものを用いた。回転ツールの回転数は、600rpm、送り速度は、300mm/minに設定した。また、表面Za側及び裏面Zb側ともに回転ツールの押込み量は一定に設定した。図17に示すように、表面Za側において形成された塑性化領域を小円から大円に向けてそれぞれ塑性化領域W21乃至塑性化領域W23とする。また、裏面Zb側において形成された塑性化領域を小円から大円に向けて塑性化領域W31乃至W33とする。当該実施例における各測定結果を以下の表1〜表4に示す。
【0144】
表1は、金属部材200の板厚が30mmであって、表面Za側から摩擦攪拌を行った場合の測定値を示した表である。「FSW前」は、摩擦攪拌を行う前において、中心地点j(基準j)と各地点(地点a〜地点h)との高低差を示している。「FSW後」は、基準jをゼロとして、3つの円の摩擦攪拌を行った後において、基準jと各地点との高低差を示している。「表面側変形量」は、各地点における(FSW後−FSW前)の値を示している。「表面側変形量」の最下欄は、地点a〜地点hの平均値を示す。「FSW前」及び「FSW後」のマイナス値は、基準jよりも下方に位置していることを意味する。
【0145】
【表1】
【0146】
表2は、金属部材200の板厚が30mmであって、表面側から小円、中円、大円の摩擦攪拌をいった後、反って(歪んで)しまった金属部材200に対して、裏面側からも小円、中円、大円のそれぞれの摩擦攪拌を行った場合の金属部材200の各地点の測定値を示した表である。「FSW前」は、摩擦攪拌を行う前において、中心地点j’(基準j’)と各地点(a’〜h’)との高低差を示している。
「FSW1」は、図17を参照するように、基準j’をゼロとして、小円(半径r1)の摩擦攪拌を行った後の、基準j’と各地点との高低差を示している。「裏面側変形量1」は、各地点における(FSW1−FSW前)の値を示している。「裏面側変形量1」の最下欄は、地点a〜地点hの平均値を示す。
「FSW2」は、基準j’をゼロとして、小円(半径r1)に加えてさらに、中円(半径r2)の摩擦攪拌を行った後の、基準j’と各地点との高低差を示している。「裏面側変形量2」は、各地点における(FSW2−FSW前)の値を示している。「裏面側変形量2」の最下欄は、地点a〜地点hの平均値を示す。
「FSW3」は、基準j’をゼロとして、小円(半径r1)、中円(半径r2)に加えてさらに、大円(半径r3)の摩擦攪拌を行った後の、基準j’と各地点との高低差を示している。「裏面側変形量3」は、各地点における(FSW3−FSW前)の値を示している。「裏面側変形量3」の最下欄は、地点a〜地点hの平均値を示す。
【0147】
【表2】
【0148】
表3は、金属部材200の板厚が60mmであって、表面側から摩擦攪拌を行った場合の測定値を示した表である。表3の各項目は、表1の各項目と略同等の意味を示す。
【0149】
【表3】
【0150】
表4は、金属部材200の板厚が60mmであって、表面側から小円、中円、大円の摩擦攪拌を行った後、裏面側から摩擦攪拌を行った場合の測定値を示した表である。表4の各項目は、表2の各項目と略同等の意味を示す。
【0151】
【表4】
【0152】
表1の「表面側変形量」の平均値(1.61)と、表2の「裏面側変形量1」の平均値(2.04)とを比較すると、「裏面側変形量1」の値の方が大きい。同様に、「裏面側変形量2」の平均値(2.95)及び「裏面側変形量3」の平均値(3.53)も、「表面側変形量」の平均値(1.61)よりも大きな値となっている。つまり、金属部材200の板厚が30mmの場合は、裏面側から小円の摩擦攪拌のみを行っただけでも、金属部材200の反りが戻りすぎてしまう。したがって、金属部材200が30mmの場合は、小さい回転ツールを用いるなどして表面側よりも裏面側の入熱量を少なくすれば、金属部材200の平坦性を高めることができる。
【0153】
表3の「表面側変形量」の平均値(0.98)と、表4の「裏面側変形量2」の平均値(0.91)とを比較すると、両者の変形量が近似している。したがって、金属部材200の板厚が60mmの場合は、裏面側から小円及び中円の摩擦攪拌を行ったときに、金属部材200の平坦性が高いことが確認できた。つまり、板厚が60mmの場合は、小さい回転ツールを用いるなどして表面側よりも裏面側の入熱量を少なくすれば、金属部材200の平坦性を高めることができる。
【0154】
[実施例2]
前記した変形例に係る本接合用回転ツールKの各要素の条件(寸法)を表5に示す。表5は、本接合用回転ツールKと同等の構成からなるツールI〜ツールIVにおいて、ピン(攪拌ピン)長さ、ピンの最大径、ピンの最小径及びショルダ径の各寸法、各寸法の割合及び回転数・接合速度を示す。表5に記載した各ツールI〜ツールIVを用いて、一対のアルミニウム合金(5052アルミニウム合金)に対して摩擦攪拌接合を行い各ツールI〜ツールIVにおける各ツールの状況について観察した。
【0155】
【表5】
【0156】
ピンの長さ/ピン最大径の値が2.03を超えると、ピンが破損した。一方、ピンの長さ/ピン最大径の値が1.33未満であると、摩擦攪拌装置への負荷が大きくなるため不適切であるとともに、深い位置まで摩擦攪拌を行うことができない。
【0157】
ピン最大径/ピン最小径の値が2.67を超えると、ピン最大径が大き過ぎてメタルが溢れだし、表面欠陥が発生した。一方、ピン最大径/ピン最小径の値が2.00未満であると、ピン最大径が小さ過ぎて、ピン先端の入熱が不足して接合欠陥が発生した。
【0158】
ショルダ径/ピン最大径の値が2.14を超えると、表面欠陥の発生は防げるが、摩擦攪拌装置への負荷が大きくなり不適切であった。一方、ショルダ径/ピン最大径の値が1.56未満であると、ショルダ部からメタルが溢れ出して表面欠陥が発生した。
【符号の説明】
【0159】
1 接合金属部材
1a 金属部材
1b 金属部材
2 第一タブ材
3 第二タブ材
J1〜J3 突合部
A 表面
B 裏面
C 第一側面
D 第二側面
F 仮接合用回転ツール
F1 ショルダ部
F2 攪拌ピン
G 本接合用回転ツール
G1 ショルダ部
G2 攪拌ピン
H 本接合用回転ツール
H1 ショルダ部
H2 攪拌ピン
E 補修用回転ツール
E1 ショルダ部
E2 攪拌ピン
W1,W2 塑性化領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材同士の突合部に沿って前記金属部材の表面側から本接合用回転ツールを移動させて摩擦攪拌接合を行う第一の本接合工程と、
前記第一の本接合工程の後に、前記突合部に沿って前記金属部材の裏面側から本接合用回転ツールを移動させて摩擦攪拌接合を行う第二の本接合工程と、を含み、
前記第二の本接合工程における前記金属部材への入熱量を、前記第一の本接合工程における前記金属部材への入熱量よりも少なく設定することを特徴とする接合方法。
【請求項2】
前記第二の本接合工程で使用する本接合用回転ツールは、前記第一の本接合工程で使用する本接合用回転ツールよりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
前記第二の本接合工程では、前記第一の本接合工程における前記本接合用回転ツールの送り速度よりも速い送り速度で摩擦攪拌接合を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の接合方法。
【請求項4】
前記第二の本接合工程の後に、前記金属部材の表面側又は裏面側から摩擦攪拌を行う矯正工程を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項5】
前記第二の本接合工程では、前記第一の本接合工程で形成された塑性化領域に前記本接合用回転ツールの攪拌ピンを入り込ませつつ摩擦攪拌接合を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項6】
前記金属部材を固定治具によってテーブルに固定した状態で前記第一本接合工程及び前記第二本接合工程を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項7】
前記本接合用回転ツールは、
前記金属部材よりも硬質の金属からなるショルダ部と、
前記ショルダ部の下端面の中央に突設され先細りの円錐台状に形成された攪拌ピンと、
前記攪拌ピンの外周面に螺旋状に刻設された攪拌翼と、を有し、
前記攪拌ピンの最大外径に対する前記攪拌ピンの長さの比を1.33〜2.03に設定することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項8】
前記本接合用回転ツールは、
前記金属部材よりも硬質の金属からなるショルダ部と、
前記ショルダ部の下端面の中央に突設され先細りの円錐台状に形成された攪拌ピンと、
前記攪拌ピンの外周面に螺旋状に刻設された攪拌翼と、を有し、
前記攪拌ピンの最小外径に対する前記攪拌ピンの最大外径の比を2.00〜2.67に設定することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項9】
前記本接合用回転ツールは、
前記金属部材よりも硬質の金属からなるショルダ部と、
前記ショルダ部の下端面の中央に突設され先細りの円錐台状に形成された攪拌ピンと、
前記攪拌ピンの外周面に螺旋状に刻設された攪拌翼と、を有し、
前記攪拌ピンの最大外径に対する前記ショルダ部の外径の比を1.56〜2.14に設定することを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項10】
前記ショルダ部の下端面には、前記攪拌ピンの周囲を囲むように、平面視渦巻き状に突設された攪拌用突条体が形成されていることを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項11】
前記第一の本接合工程を行う前に、前記第一の本接合工程で用いる前記接合用回転ツールよりも小型の仮接合用回転ツールを用いて、前記突合部に対して前記金属部材の表面側から摩擦攪拌接合を行う仮接合工程を実行することを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項12】
前記第二の本接合工程を行う前に、前記第二の本接合工程で用いる前記接合用回転ツールよりも小型の仮接合用回転ツールを用いて、前記突合部に対して前記金属部材の裏面側から摩擦攪拌接合を行う仮接合工程を実行することを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項13】
前記第一の本接合工程では、前記金属部材同士の突合部の側方に配置されたタブ材に摩擦攪拌の開始位置又は終了位置を設け、
前記第一の本接合工程の後に、前記第一の本接合工程で形成された塑性化領域のうち少なくとも前記タブ材に隣接する部分に対して前記本接合用回転ツールよりも小型の補修用回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う補修工程を実行することを特徴とする請求項1乃至請求項12のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項14】
前記第二の本接合工程では、前記金属部材同士の突合部の側方に配置されたタブ材に摩擦攪拌の開始位置又は終了位置を設け、
前記第二の本接合工程の後に、前記第二の本接合工程で形成された塑性化領域のうち少なくとも前記タブ材に隣接する部分に対して前記本接合用回転ツールよりも小型の補修用回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う補修工程を実行することを特徴とする請求項1乃至請求項12のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項1】
金属部材同士の突合部に沿って前記金属部材の表面側から本接合用回転ツールを移動させて摩擦攪拌接合を行う第一の本接合工程と、
前記第一の本接合工程の後に、前記突合部に沿って前記金属部材の裏面側から本接合用回転ツールを移動させて摩擦攪拌接合を行う第二の本接合工程と、を含み、
前記第二の本接合工程における前記金属部材への入熱量を、前記第一の本接合工程における前記金属部材への入熱量よりも少なく設定することを特徴とする接合方法。
【請求項2】
前記第二の本接合工程で使用する本接合用回転ツールは、前記第一の本接合工程で使用する本接合用回転ツールよりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
前記第二の本接合工程では、前記第一の本接合工程における前記本接合用回転ツールの送り速度よりも速い送り速度で摩擦攪拌接合を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の接合方法。
【請求項4】
前記第二の本接合工程の後に、前記金属部材の表面側又は裏面側から摩擦攪拌を行う矯正工程を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項5】
前記第二の本接合工程では、前記第一の本接合工程で形成された塑性化領域に前記本接合用回転ツールの攪拌ピンを入り込ませつつ摩擦攪拌接合を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項6】
前記金属部材を固定治具によってテーブルに固定した状態で前記第一本接合工程及び前記第二本接合工程を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項7】
前記本接合用回転ツールは、
前記金属部材よりも硬質の金属からなるショルダ部と、
前記ショルダ部の下端面の中央に突設され先細りの円錐台状に形成された攪拌ピンと、
前記攪拌ピンの外周面に螺旋状に刻設された攪拌翼と、を有し、
前記攪拌ピンの最大外径に対する前記攪拌ピンの長さの比を1.33〜2.03に設定することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項8】
前記本接合用回転ツールは、
前記金属部材よりも硬質の金属からなるショルダ部と、
前記ショルダ部の下端面の中央に突設され先細りの円錐台状に形成された攪拌ピンと、
前記攪拌ピンの外周面に螺旋状に刻設された攪拌翼と、を有し、
前記攪拌ピンの最小外径に対する前記攪拌ピンの最大外径の比を2.00〜2.67に設定することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項9】
前記本接合用回転ツールは、
前記金属部材よりも硬質の金属からなるショルダ部と、
前記ショルダ部の下端面の中央に突設され先細りの円錐台状に形成された攪拌ピンと、
前記攪拌ピンの外周面に螺旋状に刻設された攪拌翼と、を有し、
前記攪拌ピンの最大外径に対する前記ショルダ部の外径の比を1.56〜2.14に設定することを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項10】
前記ショルダ部の下端面には、前記攪拌ピンの周囲を囲むように、平面視渦巻き状に突設された攪拌用突条体が形成されていることを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項11】
前記第一の本接合工程を行う前に、前記第一の本接合工程で用いる前記接合用回転ツールよりも小型の仮接合用回転ツールを用いて、前記突合部に対して前記金属部材の表面側から摩擦攪拌接合を行う仮接合工程を実行することを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項12】
前記第二の本接合工程を行う前に、前記第二の本接合工程で用いる前記接合用回転ツールよりも小型の仮接合用回転ツールを用いて、前記突合部に対して前記金属部材の裏面側から摩擦攪拌接合を行う仮接合工程を実行することを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項13】
前記第一の本接合工程では、前記金属部材同士の突合部の側方に配置されたタブ材に摩擦攪拌の開始位置又は終了位置を設け、
前記第一の本接合工程の後に、前記第一の本接合工程で形成された塑性化領域のうち少なくとも前記タブ材に隣接する部分に対して前記本接合用回転ツールよりも小型の補修用回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う補修工程を実行することを特徴とする請求項1乃至請求項12のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項14】
前記第二の本接合工程では、前記金属部材同士の突合部の側方に配置されたタブ材に摩擦攪拌の開始位置又は終了位置を設け、
前記第二の本接合工程の後に、前記第二の本接合工程で形成された塑性化領域のうち少なくとも前記タブ材に隣接する部分に対して前記本接合用回転ツールよりも小型の補修用回転ツールを用いて摩擦攪拌を行う補修工程を実行することを特徴とする請求項1乃至請求項12のいずれか一項に記載の接合方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−274320(P2010−274320A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131700(P2009−131700)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】
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