説明

接合良否判定方法及び接合装置

【課題】上板が下板よりも柔らかい材料である場合にも、ホーンの突起の圧痕に基づいて圧痕形状や沈み込み量を測定でき、接合強度を適切に管理することができる接合良否判定方法及び接合装置を提供する。
【解決手段】接合良否判定方法が、圧痕形状および沈み込み量Dを測定するための測定補助突起45が備えられたホーン3で被接合物11、12を接合する段階と、被接合物11、12における接合後の測定補助突起45の圧痕22から接合の良否を判定する段階と、を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2枚の板状被接合物の接合面を重ね合わせ、加圧しながら超音波振動を与えて超音波接合する接合装置及び接合良否判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波接合装置は、超音波振動を与えるホーンとアンビルとの間に2枚の金属板材を挟んで加圧し、2枚の金属板材の接触面に平行に超音波振動を加えることにより、固相接合を行う装置である。
【0003】
超音波接合装置においては、アンビルおよびホーンの加工面に複数の突起を設けることにより、高い接合強度が得られることが知られている。これに関連する技術として、特許文献1には、アルミニウム材の超音波接合におけるアンビルおよびホーンの突起形状を特定して、容器の製造にも適用しうるような高い気密性が得られる超音波接合方法が開示されている。
【0004】
このような超音波接合においては、接合強度の管理が重要であり、一般的には抜き取り検査として引張試験などの破壊試験を行うことにより、そのロットでの品質を保証している。
【0005】
他方、非破壊試験により接合強度を管理する方法として、板材へのホーンの突起の沈み込み量を測定し、接合強度に置き換える方法が知られている。その際、材料の変形や撓みなどの影響から、突起の沈み込み量の測定が困難であるため、板材に残った突起の圧痕形状を測ることにより代用する方法が採られている。
【特許文献1】特開平10−225779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上板に下板よりも硬度の小さい材料(柔らかい材料)を組み合わせて異種金属の接合を行う場合には、接合時にホーンの突起が上板に完全に埋まり込み、突起の圧痕形状から沈み込み量を推定することができず、接合強度を適切に管理できないという問題があった。
【0007】
本発明は、上板が下板よりも柔らかい材料である場合にも、ホーンの突起の圧痕に基づいて圧痕形状や沈み込み量を測定でき、接合強度を適切に管理することができる接合良否判定方法及び接合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る接合良否判定方法は、圧痕形状および沈み込み量(深さ)を測定するための測定補助突起が備えられたホーンで被接合物を接合する段階と、前記被接合物における接合後の前記測定補助突起の圧痕から接合の良否を判定する段階と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
以上のような本発明に係る接合良否判定方法によれば、ホーンに備えられた圧痕形状および沈み込み量を測定するための測定補助突起の圧痕から接合の良否を判定するので、上板が下板よりも柔らかい材料である場合にも、測定補助突起の圧痕に基づいて圧痕形状や沈み込み量を測定でき、接合強度を適切に管理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明に係る接合良否判定方法及び接合装置を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
まず、本発明に係る接合装置である超音波接合装置について説明する。図1は、超音波接合装置の一例を示す模式図である。図2は、超音波接合装置の接合動作を示す模式図である。
【0012】
図1に示すように、超音波接合装置1は2枚の板状部材を挟持するアンビル2とホーン3と呼ばれる接合工具を備えている。たとえば、リチウムイオン二次電池の電極タブが被接合物である場合、負極タブ(上板)11の材質はアルミニウム(Al)、正極タブ(下板)12の材質は銅(Cu)であり、上板11が下板12よりも硬度の小さい材料(柔らかい材料)であるので、本発明で問題としている異種金属の接合となる。
【0013】
図1に示すように、アンビル2は、接合する2枚の板状部材(たとえば、正極タブ12と負極タブ11)を載置する台座であって、その挟持面には複数の突起4が形成されている。ホーン3は、アンビル2に対する相対的な位置を適宜調整可能であり、その挟持面にも複数の突起5が形成されている。また、ホーン3には、これを挟持方向の後方から押圧する加圧手段6が備えられている。
【0014】
図2に示すように、超音波接合時には、ホーン3が下降して、アンビル2上に載置された2枚の板状部材11、12を挟持し、これらの板状部材11、12を一定の圧力で加圧しながら、超音波振動を発生する。すなわち、超音波接合装置1は、ホーン3に備えられた振動子(図示せず)よる超音波振動で2枚の板状部材11、12に往復直線運動を生じさせ、板状部材11、12の接触面が擦り合わされることにより、部材表面の酸化皮膜等の不純物を除去して綺麗な金属面を露出させて接触させるとともに、その際に発生する摩擦熱により2枚の板状部材11、12を固相接合する。なお、図2において、20は接合面である。
【0015】
また、図3は、アンビルおよびホーンの圧痕形状を示す正面図である。図4は、ホーンの圧痕形状を示す平面図である。
【0016】
図2(C)に示したように、接合時には、上記加圧手段6の押圧力によって、板状部材11、12にアンビル2およびホーン3が食い込んでいる。したがって、接合後の板状部材11、12には、図3に示すようなアンビル2の突起4の圧痕21、およびホーン3の突起5の圧痕22が残っている。そして、接合後のホーン側に位置する上板11には、図4に示すように、ホーン3の突起5の圧痕22が四角錐状の凹部痕として残り、各圧痕22は間隔を隔てて縦横に整列している。このホーン3の突起5の圧痕22の縦幅L、横幅Sおよび沈み込み量(深さ)Dを測定することにより、接合強度を適切に管理することができる。
【0017】
しかし、図5に示すように、異種金属接合において、上板11が下板12よりも硬度の小さい材料(柔らかい材料)である場合には、柔らかい上板11にホーン3の突起5が完全に埋まり込み、A部に示すように、上板11がホーン3の突起5の谷部30にまで入り込む現象が生じることがある。このような現象が生じた場合、図6(A)(B)に示すように、上板11に残存する圧痕22がホーン3の突起5の形状そのものの形状として連続して現れる。したがって、このような場合には、突起5の圧痕22を測定しても正確な沈み込み量Dを推定することができず、接合強度を適切に管理できない。
【0018】
そこで、本実施形態の超音波接合装置1では、図7に示すように、ホーン3の突起形状を改良している。すなわち、板状部材11、12を押圧するホーン3の挟持面に、接合用の突起4の他に、圧痕形状および沈み込み量Dを測定するための測定補助突起45が備えられている。この測定補助突起45は、ホーン3の挟持面に縦横に並んだ突起列の一部を構成しており、測定対象となる部位に列状または散点状に複数個設けられている。たとえば、図7に例示したホーン3の突起形状では、測定補助突起45はホーン3の外周部分に1列に設けられている。また、この測定補助突起45の谷部40の深さXは、他の突起5の谷部30の深さYよりも深く形成されている。このように測定補助突起45の谷部40の深さXが深いため、接合時に他の突起5が上板11に完全に埋まり込んでも、測定補助突起45は完全に埋まり込むことがない。したがって、測定補助突起45の圧痕形状や沈み込み量の測定を行うことができる。
【0019】
本実施形態では、測定補助突起45と他の突起5との突出高さを同一に設定して、測定補助突起45の谷部40の深さXを他の突起5の谷部30の深さYよりも深く形成しているが、これに限るものではなく、必要に応じて、測定補助突起45の突出高さを他の突起5の突出高さよりも高く形成しても構わない。
【0020】
しかしながら、図8に示すように、ホーン3の外周部においては、ホーン3の押圧力によって上板11が上方へ反り返るような材料変形(湾曲や板厚Tの増加など)が生じる場合がある。このような材料変形が生じると、ホーン3の外周部に1列に設けた測定補助突起45の圧痕形状も変形してしまうので、測定補助突起45の圧痕形状や沈み込み量を正確に測り難い。
【0021】
そこで、図9に示す変形例では、B部に示すように、測定補助突起45がホーン3の外周部よりも内側に1列に形成されており、測定補助突起45の谷部40の深さXは、他の突起5の谷部30の深さYよりも深く形成されている。このように他の突起5よりも谷部40の深さXの深い測定補助突起45をホーン3の外周部よりも内側に形成することにより、上板11が上方へ反り返るように材料変形しても、かかる材料変形の影響を受けることはなく、測定補助突起45の圧痕形状や沈み込み量を正確に測定することができる。
【0022】
図9に例示した突起形状では、測定補助突起45と他の突起5との突出高さを同一に設定して、測定補助突起45の谷部40の深さXを他の突起5の谷部30の深さYよりも深く形成しているが、これに限るものではなく、必要に応じて、測定補助突起45の突出高さを他の突起5の突出高さよりも高く形成しても構わない。
【0023】
図10は、さらに別の変形例を示しており、測定補助突起45の突出高さHが他の突起5の突出高さhよりも低く形成されている。この測定補助突起45の突出高さHの低い変形例では、測定補助突起45はホーン3の外周部に1列に形成されており、測定補助突起45の谷部40の深さXは、他の突起5の谷部30の深さYよりも深く形成されている。すなわち、測定補助突起45の谷部40の深さXを他の突起5の谷部30の深さYよりも深く形成すれば、接合時に他の突起5が上板11に完全に埋まり込んでも、測定補助突起45は完全に埋まり込むことがない。したがって、たとえ測定補助突起45の突出高さHを他の突起5の突出高さhよりも低く設定したとしても、測定補助突起45の圧痕形状や沈み込み量の測定を行うことができる。
【0024】
次に、上記のような構成の接合装置を用いて実施する本発明に係る接合良否判定方法について説明する。すなわち、本発明に係る接合良否判定方法は、ホーン挟持面に接合用の突起5の他に、圧痕形状および沈み込み量を測定するための測定補助突起45が形成されたホーン3を用いて、アンビル2とともに被接合物である板状部材11、12を挟持して一定の圧力で加圧しながら、超音波振動を発生させて板状部材11、12を固相接合する段階と、接合後の上板11に残存する測定補助突起45の圧痕22を測定して接合の良否を判定する段階と、を含んでいる。
【0025】
板状部材11、12を固相接合する段階に用いるホーン3の挟持面には、上述したように接合用の突起5の他に測定補助突起45が形成されており、図7に示したように、測定補助突起45の谷部40の深さXは他の突起5の谷部30の深さYよりも深く設定されている。図7に例示した突起形状では、測定補助突起45と他の突起5との突出高さを同一に設定して、測定補助突起45の谷部40の深さXを他の突起5の谷部30の深さYよりも深く形成しているが、これに限るものではなく、必要に応じて、測定補助突起45の突出高さと他の突起5の突出高さとを異ならせても構わない。
【0026】
また、この接合段階において、上述したリチウムイオン二次電池の電極タブの接合のように、被接合物としての板状部材11、12が異種金属である場合には、一方の金属の硬度が他方の金属の硬度よりも小さいものをホーン側である上板11として配置して接合を行う。たとえば、リチウムイオン二次電池の電極タブを接合する場合には、負極タブの材質がアルミニウム(Al)で、正極タブの材質が銅(Cu)であるので、アルミニウム製の負極タブを上板11とする。
【0027】
接合の良否を判定する段階において、接合の良否は、上板11に残存する測定補助突起45の圧痕22から測定した沈み込み量(深さ)Dに基づいて判定し、たとえば、測定沈み込み量Dが予め設定した所望の沈み込み量の範囲内に存する場合には良好な接合がなされていると判定する。また、測定補助突起45の圧痕形状は、上述したように上板11に四角錐状の凹部痕として残存するので、接合の良否は、測定補助突起45の圧痕22の縦幅Lおよび横幅Sを測定することにより、測定補助突起45の沈み込み面積に基づいて判定するもできる。測定補助突起45の沈み込み面積(L×S)に基づく判定では、たとえば、測定沈み込み面積(L×S)が予め設定した所望の沈み込み面積の範囲内に存する場合に良好な接合がなされていると判定する。
【0028】
以上説明したように本実施形態によれば、ホーン3に備えられた圧痕形状および沈み込み量Dを測定するための測定補助突起45の圧痕22を測定し、その圧痕形状や沈み込み量に基づいて接合の良否を判定している。特に、この測定補助突起45の谷部40の深さXは他の接合用の突起5の谷部30の深さYよりも深く設定されており、上板11が下板12よりも柔らかい材料である場合に、接合時に他の接合用の突起5が上板11に完全に埋まり込んでも、測定補助突起45は完全に埋まり込むことがないので、測定補助突起45の圧痕形状や沈み込み量の測定を行うことができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、異種金属間の接合において、上板が下板よりも柔らかい材料である場合にも、ホーンに備えた測定補助突起の圧痕形状や沈み込み量の測定を確実に行うことができるので、たとえば、自動車用のリチウムイオン二次電池の製造における電極タブの接合など、種々の異種金属間の超音波接合に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】超音波接合装置の一例を示す模式図である。
【図2】超音波接合装置の接合動作を示す模式図である。
【図3】アンビルおよびホーンの圧痕形状を示す正面図である。
【図4】ホーンの圧痕形状を示す平面図である。
【図5】上板が下板よりも柔らかい材料の場合の接合状況を示す模式図である。
【図6】(A)はホーンの圧痕形状を示す平面図、(B)はアンビルおよびホーンの圧痕形状を示す正面図である。
【図7】測定補助突起をホーンの外周部に設けた場合のホーンの突起形状を示す模式図である。
【図8】測定補助突起をホーンの外周部に設けた場合の不具合を示す模式図である。
【図9】測定補助突起をホーンの外周部よりも内側に設けた場合のホーンの突起形状を示す模式図である。
【図10】測定補助突起の突出高さを他の突起の突出高さよりも低くした場合のホーンの突起形状を示す模式図である。
【符号の説明】
【0031】
1 超音波接合装置、
2 アンビル、
3 ホーン、
4 アンビルの突起、
5 ホーンの突起、
11 被接合物(上板)、
12 被接合物(下板)、
21 アンビルの圧痕、
22 ホーンの圧痕、
40 測定補助突起の谷部、
45 測定補助突起。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧痕形状および沈み込み量を測定するための測定補助突起が備えられたホーンで被接合物を接合する段階と、
前記被接合物における接合後の前記測定補助突起の圧痕から接合の良否を判定する段階と、
を含むことを特徴とする接合良否判定方法。
【請求項2】
前記接合の良否は、前記被接合物における前記測定補助突起の沈み込み量に基づいて判定することを特徴とする請求項1に記載の接合良否判定方法。
【請求項3】
前記接合の良否は、前記被接合物における前記測定補助突起の沈み込み面積に基づいて判定することを特徴とする請求項1に記載の接合良否判定方法。
【請求項4】
前記測定補助突起の谷部の深さは他の突起の谷部の深さよりも深いことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の接合良否判定方法。
【請求項5】
前記測定補助突起の突出高さは他の突起の突出高さと異なることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の接合良否判定方法。
【請求項6】
前記被接合物が異種金属である場合、一方の金属の硬度が他方の金属の硬度よりも小さいものをホーン側に配置させて接合することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の接合良否判定方法。
【請求項7】
請求項1〜6の方法に実施に直接使用する接合装置であって、
被接合物を押圧するホーンに、圧痕形状および沈み込み量を測定するための測定補助突起が備えられていることを特徴とする接合装置。
【請求項8】
前記測定補助突起は前記ホーンの外周部分または外周部分よりも内側のいずれかに設けられていることを特徴とする請求項7に記載の接合装置。
【請求項9】
前記測定補助突起は前記ホーンの突起列の一部を構成することを特徴とする請求項7または請求項8に記載の接合装置。
【請求項10】
前記測定補助突起の谷部の深さは他の突起の谷部の深さよりも深いことを特徴とする請求項7〜請求項9のいずれか1項に記載の接合装置。
【請求項11】
前記測定補助突起の突出高さは他の突起の突出高さと異なることを特徴とする請求項7〜請求項10のいずれか1項に記載の接合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−237201(P2007−237201A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−60155(P2006−60155)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】