説明

接合部絶縁構造を有する電気機器

【課題】複数本の導体の端部が接合された矩形の断面を有する接合部が有機絶縁被膜で覆われた絶縁構造における絶縁性を向上し、信頼性の高い電気機器を提供する。
【解決手段】複数本の導体134の端部が接合された矩形の断面を有する導体接合部131が有機絶縁被膜133で覆われた絶縁構造を形成する。有機絶縁被膜133は、ボイドレスとし、導体接合部131における膜厚を50〜1000μmとする。有機絶縁被膜133のエッジカバー率は20%以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合部絶縁構造を有する電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、断面角型の多数の導体セグメントをスロットに挿通してから、各導体セグメントの端部を一対ずつ接合して固定子巻線を形成する車両用交流発電機が開示されている。
【0003】
しかし、上述の車両用交流発電機においては、固定子巻線のコイルエンドの軸方向先端部分に導体セグメント対の先端部を接合して結線部を形成する必要があるため、コイルエンドの軸方向先端部分の樹脂被膜が剥離された状態となっている。このため、固定子巻線の絶縁性に関して改善の余地があった。
【0004】
上記の結線部(接合部)の絶縁性を向上することを目的として、特許文献2には、接合部にキャップを設けて絶縁性樹脂により接合部を埋設する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、同様の目的で、粉体樹脂または液状の絶縁ワニスを用いて絶縁処理する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開98/54823号公報
【特許文献2】特開2000−209802号公報
【特許文献3】特開2001−54247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、複数本の導体の端部が接合された矩形の断面を有する接合部が絶縁被膜で覆われた絶縁構造における絶縁性を向上し、信頼性の高い電気機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては、複数本の導体の端部が接合された矩形の断面を有する接合部が絶縁被膜で覆われた絶縁構造を形成し、前記絶縁被膜は、ボイドレスとし、前記接合部における膜厚を50〜1000μmとし、前記絶縁被膜のエッジカバー率を20%以上とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数本の導体の端部が接合された矩形の断面を有する接合部が絶縁被膜で覆われた絶縁構造における絶縁性を向上することができ、信頼性の高い電気機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例の回転電機を示す模式断面図である。
【図2】実施例の固定子を示す模式断面図である。
【図3】実施例の接合部絶縁構造を示す模式縦断面図である。
【図4】エッジカバー率の定義を示す模式横断面図である。
【図5】図3のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、角型断面(矩形の断面)を有する2本の電気導体(単に導体とも呼ぶ。)の端部が接合され有機絶縁被膜(単に絶縁被膜とも呼ぶ。)で覆われた接合部の絶縁構造(接合部絶縁構造)に関し、この接合部絶縁構造を有する電気機器及びその製造方法に関する。
【0012】
本明細書において、電気機器は、回転電機用固定子および回転電機を含むが、これらに限定されるものではなく、上記の接合部を有する部品及び装置(製品)を含む。更に、矩形断面を有する電気導体の絶縁被膜剥離部の絶縁被覆形成も含む。
【0013】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、角型断面の電気導体の接合部は、ボイドレスであって50〜1000μmの膜厚を有しエッジカバー率が20%以上である有機絶縁被膜で覆われていることが好ましいことを見出した。上記の膜厚は、50〜500μmの範囲が更に好ましい。
【0014】
ここで、有機絶縁被膜の膜厚は、接合部における膜厚である。
【0015】
また、本明細書においてボイドレスとは、有機絶縁被膜に直径15μm以上の気泡が含まれていないことをいう。直径15μm以上の気泡が含まれていると、部分放電が発生し、絶縁特性に悪影響を与えるおそれがある。
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る接合部絶縁構造及びこれを有する電気機器並びにその製造方法について説明する。
【0017】
前記接合部絶縁構造は、複数本の導体の端部が接合された矩形の断面を有する接合部が絶縁被膜で覆われたものである。そして、この絶縁被膜は、ボイドレスであって接合部における膜厚が50〜1000μmであり、絶縁被膜のエッジカバー率は20%以上である。
【0018】
前記電気機器は、複数本の導体の端部が接合された矩形の断面を有する接合部が絶縁被膜で覆われた絶縁構造、すなわち、前記接合部絶縁構造を有する。
【0019】
前記電気機器においては、JIS C4003に準拠して測定した絶縁被膜の絶縁の耐熱温度が155℃以上であることが望ましい。
【0020】
絶縁被膜は、平均粒径3〜7μmの無機フィラを40〜55wt%含むエポキシ樹脂であることが望ましい。
【0021】
無機フィラは、炭酸カルシウムであることが望ましい。
【0022】
絶縁被膜の絶縁破壊電圧は、5kV以上であることが望ましい。
【0023】
前記電気機器の製造方法は、複数本の導体の端部を接合した矩形の断面を有する接合部に液状のワニスを塗布し、ワニスを硬化させて絶縁被膜を形成する工程を有し、ワニスの塗布前の粘度は、25℃にて12〜30Pa・s、70℃にて1.5〜3Pa・s、130℃にて100〜500Pa・sであることを特徴とする。
【0024】
ワニスは、エポキシ樹脂を含むことが望ましい。
【0025】
ワニスは、JIS C2105に準拠して測定したゲルタイムが150℃にて1.5〜3分であることが望ましい。
【0026】
前記電気機器の製造方法においては、ワニスに接合部を浸漬することにより塗布することが望ましい。浸漬法は、接合部を鉛直方向下向きとし、液状ワニスに対して相対的に下降し、接合部をワニス中に浸す。浸漬時間は、接合部形状によるが、1〜10分が好ましい。その後、電気機器をワニスに対して相対的に上昇する。
【0027】
前記電気機器の製造方法においては、ワニスを塗布した接合部を鉛直方向に上向きにして硬化することが望ましい。
【0028】
以下、更に詳細に説明する。
【0029】
上記の絶縁被膜を形成するために用いる樹脂は、耐熱性の観点から、エポキシ樹脂を用いることが好ましい。エポキシ樹脂は、樹脂を溶剤に希釈した溶剤型、及び溶剤による希釈を行っていない無溶剤型のいずれも使用可能であるが、硬化時に、溶剤の揮発による膨れが生じない無溶剤型エポキシ樹脂がより好ましい。
【0030】
無溶剤型エポキシ樹脂は、酸無水物硬化エポキシ樹脂、ジシアンジアミド硬化エポキシ樹脂、イミダゾール等の触媒による単独硬化エポキシ樹脂など、特に限定されるものではないが、硬化温度がより低温である点および入手が容易な点から、酸無水物硬化型エポキシ樹脂がより好ましい。
【0031】
無溶剤型酸無水物硬化エポキシ樹脂の例としては、日立化成工業株式会社製KE−573D、京セラケミカル株式会社製TVB2643、ソマール株式会社製K−8841、E−530等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0032】
添加する無機フィラは、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、タルク、炭酸カルシウムなど、特に限定されないが、安価である点から、炭酸カルシウムが好ましい。また、無機フィラは、樹脂に対する濡れ性向上の観点から、カルボン酸、シランカップリング剤などで表面処理されていることが望ましい。
【0033】
無機フィラの粒径は、入手が容易である点、絶縁被膜形成に好ましい粘度を容易に得られる点、安価である点などから、平均粒径3〜7μmが好ましい。
【0034】
無機フィラとしての炭酸カルシウムの例としては、白石カルシウム株式会社製ホワイトンB、竹原化学工業株式会社製サンライトSL−100、ホワイトシールWS−Kなどが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0035】
無機フィラの添加量は、40〜55wt%が好ましいが、更に好ましくは45〜50wt%である。
【0036】
角型断面の電気導体の接合部は、有機絶縁被膜を有し、この有機絶縁被膜は、ボイドレスであり、50〜1000μmの膜厚を有し、エッジカバー率が20%以上である。
【0037】
固定子は、コイル間、コイル−シート状の絶縁部材間、および/または、コイル−固定子鉄心間を、固着ワニスを用いて、従来の手法にて固着処理してもよい。
【0038】
図1は、実施例の回転電機を示す模式断面図である。回転電機は、電気機器の一種である。
【0039】
本図において、回転電機100は、固定子1、回転子2、ハウジング3等を含む構成である。
【0040】
図2は、実施例の固定子を示す模式断面図である。固定子は、電気部品又は電気機器の一種である。
【0041】
本図において、固定子1は、円環状の固定子鉄心11と、複数のシート状の絶縁部材12と、多数の導体13とを含む構成である。
【0042】
以下、本発明について実施例を用いて説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0043】
以下では、固定子の実施例を説明する。
【0044】
図3は、実施例の固定子における接合部絶縁構造を拡大して示した縦断面図である。
【0045】
接合部絶縁構造は、導体接合部131(単に接合部とも呼ぶ。)と、エナメル被覆132と、有機絶縁被膜133とを含む構成である。
【0046】
導体接合部131は、2本の導体134(導線)が密着して(溶接されて)電気的に接続された部位の導体全体を表す。すなわち、導体接合部131は、図中の破線で囲まれた部分の導体を表す。
【0047】
エナメル被覆132は、導体134を被覆するものであり、これらはエナメル線を構成する。
【0048】
エナメル線は、導体134に天然樹脂又は合成樹脂で構成された絶縁塗料を焼き付けた電線である。導体134の例としては、銅、アルミニウム、ニッケルメッキ銅、ニッケル、銀などが挙げられる。絶縁塗料を構成する天然樹脂又は合成樹脂には、ホルマール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂などがあり、絶縁塗料は、導体134に1回又は複数回塗布してもよい。また、これらの樹脂の潤滑性や絶縁特性を向上させるために、これらの樹脂に添加剤を加えてもよい。
【0049】
図5は、図3のA−A断面図である。
【0050】
本図においては、エナメル被覆132及び有機絶縁被膜133の裾の部分を省略して表している。
【0051】
本実施例において、有機絶縁被膜用エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂(ソマール株式会社製E−530)に対し、炭酸カルシウム(竹原化学工業株式会社製ホワイトシールWS−K)を50wt%添加し、スーパーミキサー(アズワン株式会社製)を用いて5分間撹拌し、2分間の脱泡を行ってワニスとした。
【0052】
このワニスの(塗布前の)粘度は、E型粘度計を用いて測定した。その結果、25℃において27.6Pa・s、70℃において2.0Pa・s、130℃において420Pa・sであった。また、JIS C2103に準拠して測定した150℃におけるゲルタイム(ゲル化時間)は、2分であった。
【0053】
上記のワニスをステンレス製容器に移し、固定子コイルの導体接合部131を鉛直方向に下向きにし、有機絶縁被膜用エポキシ樹脂に3分間浸漬した後、引き上げた。そして、塗布部を反転させて鉛直方向に上向きとした後、炉温160℃の温風循環型恒温槽に投入した。固定子の表面温度は、投入後100分で150℃に達した。硬化は、固定子の表面温度が150℃に達した後30分間、表面温度が150℃を下回らないように保持した後、恒温槽の電源を停止し、自然冷却した。
【0054】
塗布部を鉛直方向に上向きとして硬化したため、得られた固定子の導体の有機絶縁被膜は、塗布深さ(導体接合部131及び導体134を浸漬した深さ)より約5mm長く導体を被覆することができる。この方法によれば、絶縁被膜が長くなることから、導体接合部131の周辺の絶縁性を向上させるうえで好ましい。
【0055】
本実施例の固定子の有機絶縁被膜における絶縁破壊電圧は、交流50Hzを毎分0.5kVの昇圧速度で印加する条件で測定した。その結果、絶縁破壊電圧は、11kVと良好であった。
【0056】
また、本実施例の固定子の有機絶縁被膜は、JIS C4003に準拠して測定した絶縁の耐熱温度が155℃以上であった。
【0057】
本実施例の固定子の有機絶縁被膜の膜厚は、有機絶縁被膜が施された導体接合部131を切断し、顕微鏡観察にて測定した。その結果、膜厚の最小値は231μmであり、膜厚の最大値は730μmであった。
【0058】
ここで、エッジカバー率を定義する。
【0059】
図4は、接合部の断面を模式的に示したものである。
【0060】
本図において、L1は、エッジ部の平均膜厚であり、L2は、胴部の平均膜厚である。エッジカバー率は、L1/L2×100(%)と定義する。
【0061】
ここで、膜厚は、導体の長手方向に垂直な断面における有機絶縁被膜133の輪郭形状の図形的な重心を基点として放射線状に伸びる直線がその輪郭形状の周と交わる点と、その直線が上記断面における導体接合部131の輪郭形状の周と交わる点との差として定義する。上記の直線を有機絶縁被膜133が導体接合部131を覆う範囲で導体の長手方向に平行移動した場合に、同様に上記の膜厚を測定し、上記の範囲で平均した値を平均膜厚と定義する。
【0062】
エッジ部の平均膜厚L1は、上で定義した平均膜厚の最小値とみなすことができる。また、胴部の平均膜厚L2は、上で定義した平均膜厚の最大値とみなすことができる。
【0063】
本実施例において、エッジカバー率は39%であった。
【実施例2】
【0064】
実施例1にて製作した固定子は、液状エポキシワニスを用い、滴下含浸法にて固着処理をし、ハウジングに焼きばめした後、回転子を組み込み、従来の手法にて回転電機とした。
【0065】
(比較例1)
実施例1と同型の固定子を用い、下記の有機絶縁被膜用エポキシ樹脂により絶縁被膜を形成した。
【0066】
有機絶縁被膜用エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂(ソマール株式会社製、E−530)に対し、炭酸カルシウム(竹原化学工業株式会社製、ホワイトシールWS−K)を30wt%添加し、スーパーミキサー(アズワン株式会社製)を用いて5分間撹拌し、2分間の脱泡を行ってワニスとした。
【0067】
このワニスの粘度は、E型粘度計を用いて測定した。その結果、25℃において10Pa・s、70℃において0.3Pa・s、130℃において420Pa・sであった。また、JIS C2103に準拠して測定した150℃におけるゲルタイムは、2分であった。
【0068】
上記のワニスをステンレス製容器に移し、固定子コイルの導体接合部131を鉛直方向に下向きにし、有機絶縁被膜用エポキシ樹脂に3分間浸漬した後、引き上げた。そして、塗布部を鉛直方向に上向きとした後、炉温160℃の温風循環型恒温槽に投入した。固定子の表面温度は、投入後100分で150℃に達した。硬化は、固定子の表面温度が150℃に達した後30分間、表面温度が150℃を下回らないように保持した後、恒温槽の電源を停止し、自然冷却した。
【0069】
得られた固定子導体の有機絶縁被膜は、接合部のエッジ部を被覆しておらず、塗布部は絶縁性を示さなかった。
【実施例3】
【0070】
片末端のエナメル被覆を剥離した平角エナメル線に対して、有機絶縁被膜用エポキシ樹脂により絶縁被膜を形成した。
【0071】
有機絶縁被膜用エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂(ソマール株式会社製E−530)に対し、炭酸カルシウム(竹原化学工業株式会社製ホワイトシールWS−K)を50wt%添加し、スーパーミキサー(アズワン株式会社製)を用いて5分間撹拌し、2分間の脱泡を行ってワニスとした。
【0072】
このワニスの粘度は、E型粘度計を用い測定した。その結果、25℃において27.6Pa・s、70℃において2.0Pa・s、130℃において420Pa・sであった。また、JIS C2103に準拠して測定した150℃におけるゲルタイムは、2分であった。
【0073】
上記のワニスをディップ法にて固定子の導体接合部131に塗布した後、150℃の温風式恒温槽にて30分間加熱硬化し、有機絶縁被膜を得た。
【0074】
本実施例の有機絶縁被膜における絶縁破壊電圧は、交流50Hzを毎分0.5kVの昇圧速度で印加する条件で測定した。その結果、絶縁破壊電圧は、11kVと良好であった。
【0075】
また、本実施例の固定子の有機絶縁被膜は、JIS C4003に準拠して測定した絶縁の耐熱温度が155℃以上であった。
【0076】
本実施例の固定子の有機絶縁被膜の膜厚は、有機絶縁被膜が施された導体接合部131を切断し、顕微鏡観察にて測定した。その結果、膜厚の最小値は220μmであり、膜厚の最大値は730μmであった。また、エッジカバー率は、32%であった。
【実施例4】
【0077】
片末端のエナメル被覆を剥離した平角エナメル線に対して、有機絶縁被膜用エポキシ樹脂により絶縁被膜を形成した。
【0078】
有機絶縁被膜用エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂(ソマール株式会社製、E−530)に対し、炭酸カルシウム(竹原化学工業株式会社製、ホワイトシールWS−K)を45wt%添加し、スーパーミキサー(アズワン株式会社製)を用いて5分間撹拌し、2分間の脱泡を行ってワニスとした。
【0079】
このワニスの粘度は、E型粘度計を用いて測定した。その結果、25℃において14Pa・s、70℃において1.0Pa・s、130℃において420Pa・sであった。また、JIS C2103に準拠して測定した150℃におけるゲルタイムは、2分であった。
【0080】
上記のワニスをディップ法にて固定子の導体接合部131に塗布した後、150℃の温風式恒温槽にて30分間加熱硬化し、有機絶縁被膜を得た。
【0081】
本実施例の有機絶縁被膜の絶縁破壊電圧は、交流50Hzを毎分0.5kVの昇圧速度で印加する条件で測定した。その結果、絶縁破壊電圧は、5kVと良好であった。
【0082】
また、本実施例の固定子の有機絶縁被膜は、JIS C4003に準拠して測定した絶縁の耐熱温度が155℃以上であった。
【0083】
本実施例の固定子の有機絶縁被膜の膜厚は、有機絶縁被膜が施された導体接合部131を切断し、顕微鏡観察にて測定した。その結果、膜厚の最小値は75μmであり、膜厚の最大値は550μmであった。また、エッジカバー率は、21%であった。
【0084】
(比較例2)
片末端のエナメル被覆を剥離した平角エナメル線に対して、有機絶縁被膜用エポキシ樹脂により絶縁被膜を形成した。
【0085】
有機絶縁被膜用エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂(ソマール株式会社製、E−530)に対し、炭酸カルシウム(竹原化学工業株式会社製、ホワイトシールWS−K)を30wt%添加し、スーパーミキサー(アズワン株式会社製)を用いて5分間撹拌し、2分間の脱泡を行ってワニスとした。
【0086】
このワニスの粘度は、E型粘度計を用いて測定した。その結果、25℃において10Pa・s、70℃において0.3Pa・s、130℃において420Pa・sであった。また、JIS C2103に準拠して測定した150℃におけるゲルタイムは、2分であった。
【0087】
上記のワニスをディップ法にて固定子の導体接合部131に塗布した後、150℃の温風式恒温槽にて30分間加熱硬化し、有機絶縁被膜を得た。
【0088】
本比較例の有機絶縁被膜の絶縁破壊電圧は、交流50Hzを毎分0.5kVの昇圧速度で印加する条件で測定した。その結果、本比較例の有機絶縁被膜は、平角エナメル線エナメル剥離部のエッジ部を被覆しておらず、絶縁性を示さなかった。
【0089】
以上の実施例においては、2本の導体の端部が接合された矩形の断面を有する接合部が有機絶縁被膜で覆われた絶縁構造を有する固定子(電気機器)、及び末端の絶縁被覆を剥離した矩形導線について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、複数本の導体の端部が接合された矩形の断面を有する接合部に適用可能であり、この接合部の絶縁構造を有する電気機器をも含む。
【0090】
本発明によれば、接合部の絶縁被膜に粉体樹脂を用いないため、粉塵の発生を少なくすることができ、作業環境を向上することができる。
【符号の説明】
【0091】
1:固定子、2:回転子、3:ハウジング、11:固定子鉄心、12:シート状絶縁部材、13:導体、131:導体接合部、132:エナメル被覆、133:有機絶縁被膜、134:導体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の導体の端部が接合された矩形の断面を有する接合部が絶縁被膜で覆われた絶縁構造を有し、前記絶縁被膜は、ボイドレスであって前記接合部における膜厚が50〜1000μmであり、前記絶縁被膜のエッジカバー率が20%以上であることを特徴とする電気機器。
【請求項2】
JIS C4003に準拠して測定した前記絶縁被膜の絶縁の耐熱温度が155℃以上であることを特徴とする請求項1記載の電気機器。
【請求項3】
前記絶縁被膜は、平均粒径3〜7μmの無機フィラを40〜55wt%含むエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気機器。
【請求項4】
前記無機フィラが炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項3記載の電気機器。
【請求項5】
前記絶縁被膜の絶縁破壊電圧が5kV以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の電気機器。
【請求項6】
複数本の導体の端部を接合した矩形の断面を有する接合部に液状のワニスを塗布し、前記ワニスを硬化させて絶縁被膜を形成する工程を有し、前記ワニスの塗布前の粘度は、25℃にて12〜30Pa・s、70℃にて1.5〜3Pa・s、130℃にて100〜500Pa・sであることを特徴とする電気機器の製造方法。
【請求項7】
前記ワニスは、エポキシ樹脂を含むことを特徴とする請求項6記載の電気機器の製造方法。
【請求項8】
前記ワニスは、JIS C2105に準拠して測定したゲルタイムが150℃にて1.5〜3分であることを特徴とする請求項6又は7に記載の電気機器の製造方法。
【請求項9】
前記ワニスは、前記接合部を浸漬することにより塗布することを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の電気機器の製造方法。
【請求項10】
前記ワニスを塗布した前記接合部を鉛直方向に上向きにして硬化することを特徴とする請求項6〜9のいずれか一項に記載の電気機器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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