説明

接着シート

【課題】接着させる部材の表面の凹凸に対する追従性に優れた接着シートを提供することにある。
【解決手段】積層構造を有するシート状に形成されており、表面及び裏面をそれぞれ被着体に接着させるべく用いられ、前記接着を熱融着によって実施し得るように熱融着可能な樹脂組成物によって形成された熱融着層が備えられており、しかも、該熱融着層が外向きに加圧された状態で前記熱融着が実施され得るように、加熱されて発泡を生じる樹脂組成物によって形成された発泡層が備えられ、該発泡層を挟んで両側に前記熱融着層が備えられていることを特徴とする接着シートを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着シートに関し、特に詳しくは、積層構造を有している接着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータやジェネレータなどの回転電機に用いられるステータコアには、電磁鋼板を積層させた積層体が用いられたりしており、該ステータコアに形成されているスロットの内壁面においては、この電磁鋼板の端面が露出して電磁鋼板どうしの間のくぼみによって微細な凹凸が形成されたりしている。
また、導体コイルは、通常、巻線が束ねられて形成されており線間のくぼみによって表面に凹凸が形成されている。
そのため、このような凹凸を有するものどうしの接着に適した液状の接着剤がステータコアと導体コイルとの接着に用いられておりステータコアのスロットに導体コイルを収容させた後に、該スロット内にワニスを充填して、該ワニスを硬化させることによってステータコアと導体コイルとの接着が実施されたりしている(例えば、下記特許文献1)。
【0003】
しかし、この特許文献1にも記載されているように、ワニスを用いる方法は、必要箇所以外への付着を生じやすいことなどから煩雑な作業を伴うおそれがある。
また、近年、電気・電子機器には小型化が求められ、スロットへの導体コイルの占積率向上が求められていることからスロット内壁と導体コイルとの間の間隙が狭くなる傾向にあり、ワニスの充填作業がより困難な状況になっている。
例えば、下記特許文献2には、平角導体によってU字状に形成されたセグメントをスロット内に収容させて該セグメントを集合させて導体コイルとすることが記載されており、このような平角導体が用いられることによって高い占積率で導体コイルをスロット内に収容させることが記載されている。
このような場合においては、断面円形の巻線を束ねた導体コイルと違って線間に僅かな隙間しか形成されないことからスロット内に収容された導体コイルにワニスを含浸させることは困難である。
【0004】
このような回転電機におけるステータコアと導体コイルとの接着に限らず、狭い箇所における接着には、シート状の接着剤(接着シート)を用いることが有利であり、接着に要する手間もワニスを使用する場合に比べて一般に手軽である。
しかし、ステータコアや導体コイルなど表面の凹凸を有する被着体に対して、その表面に十分追従させた形で接着シートを接着させることが難しく、接着信頼性を十分確保することが困難となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−61396号公報
【特許文献2】特開2007−89272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、接着させる部材の表面の凹凸に対する追従性に優れた接着シートを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る接着シートは、積層構造を有するシート状に形成されており、表面及び裏面をそれぞれ被着体に接着させるべく用いられ、前記接着を熱融着によって実施し得るように熱融着可能な樹脂組成物によって形成された熱融着層が備えられており、しかも、該熱融着層が外向きに加圧された状態で前記熱融着が実施され得るように、加熱されて発泡を生じる樹脂組成物によって形成された発泡層が備えられ、該発泡層を挟んで両側に前記熱融着層が備えられていることを特徴としている。
【0008】
なお、前記熱融着層は、必ずしも接着シートの最外層に備えられている必要はなく、該熱融着層を構成する樹脂組成物を被着体に熱融着させ得るように形成されていれば、例えば、熱融着層の外側に熱融着層を構成する樹脂組成物よりも低い温度で軟化する樹脂組成物によるごく薄い表面層を形成させているような場合も本発明の意図する範囲である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る接着シートは、加熱されることで発泡される樹脂組成物によって形成された発泡層が設けられていることからこの接着シートによって接着させる一方の被着体と他方の被着体との間に介装させた状態で前記発泡層を発泡させ得る温度に加熱することで、前記発泡層の発泡に伴う厚みの増大を発生させうる。
しかも、本発明に係る接着シートは、熱融着可能な樹脂組成物によって形成された発泡層を挟んで両側に備えられていることから発泡の際の温度を前記熱融着層を構成する樹脂組成物が熱融着可能となる温度とすることで、熱融着可能な状態となった熱融着層を前記発泡層の発泡によって一方の被着体と他方の被着体とにそれぞれ圧接させ得る。
したがって、部材表面の凹凸などへの追従性が向上され得る。
【0010】
すなわち、本発明によれば、接着させる部材の表面の凹凸に対する追従性に優れた接着シートが提供され、ステータコアと導体コイルなどの接着に適した接着シートが提供されうる。そして、この接着シートを用いることでステータコアと導体コイルとを簡便な方法で接着させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】自動車用駆動モータの構造(ステータ、ロータ)を示す断面図。
【図2】ステータコアのスロットに収容された導体コイルの様子を示す断面図。
【図3】本実施形態に係る接着シートの一例を示す断面図。
【図4】本実施形態に係る接着シートの他例を示す断面図。
【図5】本実施形態に係る接着シートの一使用例を示す断面図。
【図6】本実施形態に係る接着シートの他例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について(添付図面に基づき)説明する。
まず、本実施形態の接着シートが用いられる実施の態様として、回転電機である自動車用の駆動モータにおけるステータコアのスロット内壁と導体コイルとの接着に用いる場合を例に説明する。
【0013】
まず、この自動車用駆動モータについて説明する。
図1は、本実施形態における接着シートによって接着がなされる前のスロットと導体コイルとを有する駆動モータを表しており、回転軸を垂直方向に向けて配した駆動モータのステータとロータとを上面側から見た様子を示すもので、回転軸に対して垂直となる平面でステータコアの上端面よりもわずかに上側を切断した様子を示すものである。
また、図2は、図1において記号「A」で示されている破線で囲まれた領域を拡大した拡大図であり、記号「B」で示されている破線で囲まれた領域を拡大した拡大図を併せて図中に示している。
そして、図3は、ステータ内壁と導体コイルとの間に介装されてこれらの接着に用いられるべく、熱融着可能な樹脂組成物によって形成された2層の熱融着層51b1,51b2と、加熱されることで発泡されてその厚みが増大される発泡層51aとによって熱融着層51b1/発泡層51a/熱融着層51b2の3層構造が形成された接着シート51を示す断面図である。
【0014】
この図1、2に示されているようにこの駆動モータの中心部には、細長い円柱形状を有する回転軸10が配され、該回転軸10の外周側にはロータコアが周設されている。
該ロータコア20は、前記回転軸10が挿通される貫通孔を上端側から下端側に貫通させた全体略円筒形状に形成されており、前記回転軸10とロータコア20とは、固定一体化されて前記回転軸10周りに回転可能な状態で駆動モータに備えられている。
【0015】
本実施形態の駆動モータには、この回転軸10周りに、前記ロータコアを包囲するステータコア30が備えられており、該ステータコア30には、本実施形態においては、4層型セグメント順次接合ステータコイル(図示せず)が導体コイルとして装着されている。
前記ステータコア30は、前記ロータコア20の外径よりも僅かに大きな内径を有する全体略円筒形状に形成されており、その円筒形状の中空領域に前記ロータコア20が収容されており、前記ステータコア30の内周面と前記ロータコア20の外周面との間には僅かな空隙部が形成されている。
【0016】
前記ステータコア30の内周面側には、複数条のスロット31が形成されており、この複数条のスロット31は、前記回転軸10の延在方向(上下方向)に沿って延在されており、しかも、隣接するスロット31どうしが互いに略平行となるように配設されている。
そして、ステータコア30の内周面側には、このスロット31によって、ステータコア30の上端側から下端側にいたる長さ(ステータコア30の全長)を有する直線状の開口部31aが互いに略平行して複数形成されている。
また、スロット31は、ステータコア30を長さ方向(上下方向)に貫通する状態で形成されており、ステータコア30の上端面側には、スロット31の断面形状と同形状の開口部31bが形成されており、下端面側にも同形の開口部が形成されている。
さらに、ステータコア30の内周面から外周側に向けてのスロット31の深さは、全てのスロット31において略同一深さとされている。
【0017】
前記ステータコア30は、隣接するスロットとスロットとの間が板状となるように形成されている。
言い換えれば、スロットどうしの間に板状のティース32が形成されており、該ティース32は、ステータコア30の内周面側(回転軸10方向)に向けて突出した状態で複数形成されている。
該ティース32は、突出方向先端部に他部よりも広幅に形成された広幅部32aを有しており、スロット31の延在方向(回転軸10の延在方向)に垂直な平面による断面が略T字状となる形状を有している。
このロータコア20やステータコア30の形成には、特に限定されるものではないが、例えば、電磁鋼板を前記回転軸10の軸方向に積層させた積層体などを用いることができる。
【0018】
このステータコア30のスロット31には、U字状のセグメントの脚部40がそれぞれ4本ずつ収容されており、前記セグメントは、平角導体41と、その表面にエナメルワニスによって形成された絶縁被膜42とによって構成されている。
該U字状のセグメントは、そのU字状の頭部をステータコア30の上端側に位置させ、その脚部をステータコア30の上端側の開口部31bから挿入させており、その下端部をステータコア30の下端側の開口部から突出させている。
本実施形態においては、この突出させた脚部先端を別のスロットから突出している脚部先端と連結させることによって、複数のティース32の間をステータコア30の上端側から下端側、下端側から上端側へと縫うようにして連続する導体が形成されている。
【0019】
すなわち、このステータコア30と複数のセグメントによって形成されているステータは、セグメントの頭部によって形成されたコイルエンドが上端側に配され、脚部どうしの連結部によって形成されたコイルエンドが下端側に配された状態となっている。
また、各スロット31には、内側から外向きに一列に並んだ状態で計4本の脚部が収容されている。
【0020】
そして、この4本の脚部を全周取り巻いて束ねるようにして本実施形態の接着シート51が配されている。
この接着シート51は、その使用前における断面構造を図3に示すように、積層構造を有するシート状に形成されており、前記積層構造が、熱融着可能な樹脂組成物によって形成された2層の熱融着層51b1,51b2と、加熱されることで発泡されてその厚みが増大される発泡層51aとによって形成されている。
そして前記熱融着層51b1,51b2が表面側と裏面側とのそれぞれの最外層となる位置に設けられ、前記発泡層51aが前記2層の熱融着層51b1,51b2の間に設けられている。
すなわち、本実施形態の接着シート51は、熱融着層51b1/発泡層51a/熱融着層51b2の3層構造を有している。
【0021】
前記ステータコア30に複数のセグメントを組み込んでステータを形成させた時点においては、前記2層の熱融着層51b1,51b2の内、表面側の熱融着層51b1は、4本の平角導体41によって形成された導体コイルの外周に仮接着されており、裏面側熱融着層51b2は、スロット31の内壁面とは接着されていない。
そして、本実施形態における接着シート51は、このように導体コイルとスロット内壁31cとの間に介装されている状態で加熱されることで前記発泡層51aが発泡し、その厚みを増大させることによって、これら熱融着層51b1,51b2がそれぞれスロット内壁面と導体コイル表面とに加圧されて接着されるべく形成されている。
なお、このときには隣接する導体コイルの間に形成された凹部Vにも発泡層51aの発泡による背圧を受けた熱融着層51b1が進入して導体コイル表面に接着することで優れた接着力が発揮されることになる。
【0022】
このとき、熱融着層51b1,51b2の厚みが厚いと、スロット内壁31cや導体コイルといった被着体の表面への追従性が低下するおそれがある。
あるいは、追従性の低下を防止すべく加熱温度を、より高温にして熱融着層51b1,51b2の軟化と、発泡層の発泡とを促進させる必要が生じてしまう。
したがって、加熱温度を過度に高温とすることなく、良好なる接着状態を形成させ得る点において、この熱融着層51b1,51b2の各々の厚みは、5〜50μmの範囲内から選択することが好ましい。
【0023】
前記熱融着層51b1,51b2は、熱融着可能な樹脂組成物によって形成されていれば、接着シート51の表面側の熱融着層51b1と裏面側の熱融着層51b2とが同じ樹脂組成物で形成されていても良く、異なる樹脂組成物で形成されて形成されていても良い。
また、シート表面側の熱融着層51b1とシート裏面側の熱融着層51b2とがその厚みを共通させていても良く、異ならせていても良い。
【0024】
この熱融着層の厚みやその形成に用いられる樹脂組成物は、接着シート51の用途に応じて適宜選択されうる。
ただし、本実施形態のごとく自動車用駆動モータのスロット内壁と導体コイルとの接着に用いられるような場合においては、駆動モータの発熱時においても優れた接着性が維持され得るように、熱硬化性樹脂をベースポリマーとした樹脂組成物が用いられることが好ましい。
また、駆動モータのスロット内壁と導体コイルとの接着に用いられるような場合においては、スロット内に導体コイルを収容させた後にスロット内壁と導体コイルとの隙間が狭くなって接着シートを挿入することが困難となるおそれがあることから、スロット内壁側か導体コイル側かのいずれか一方に予め仮接着させてスロット内に導体コイルを収容させることでその間に介装された状態となるようにすることが好ましい。
【0025】
したがって、本実施形態のごとく導体コイルを構成する4本のU字状セグメントの周りに巻き掛けた状態で接着シート51の表面側の熱融着層51b1を仮接着させた後に、該U字状セグメントをステータコア30に挿入する場合には、このことによってスロット内壁31cと導体コイルとの間に接着シート51が自動的に介装された状態となり、スロット内壁31cと導体コイルとの隙間が狭い場合でも容易に介装させ得る。
【0026】
しかも、このような介装方法とすることで、例えば、ステータコア30にセグメントを挿入する際に、この接着シート51で個々のスロット31内に収容される4本の脚部をそれぞれの収容状態と同様に束ね、全てのU字状セグメントがステータコア30に装着される状態(脚部先端を連結させる前の導体コイルの形態)を予め作製しておいて、このセグメントの集合体を一度にステータコア30に装着させることができる。
【0027】
したがって、個々のセグメントを順次スロット31に挿入する場合に比べて作業を簡略化させることができ、このような接着シート51を用いることで自動車用駆動モータの製造に要する手間を削減し得る。
なお、このような作業を簡便に実施させるには、例えば、U字状セグメントに接着される側を常温(例えば、23℃)において粘着性を有する状態となるように表面側熱融着層51b1の形成に用いられる樹脂組成物を選択すればよい。
このときU字状セグメントに接着される側とは反対側が非粘着性とされていることでスロット31の内壁31cとの滑りも良好となって自動車用駆動モータの製造における作業性がより一層良好となる。
【0028】
また、一方の熱融着層と他方の熱融着層とに用いる樹脂組成物の熱硬化反応の反応温度を異ならせ、この反応温度の違いを利用して、導体コイルをスロットに収容させる前に反応温度の低い側を導体コイル(U字状セグメント)に接着させることができ、上記のような表面粘着性の違いを有する接着シートと同様に作業性の向上を期待することができる。
【0029】
このような熱融着層の形成に用いる熱硬化性樹脂組成物としては、エポキシ樹脂をベースポリマーとした熱硬化性樹脂組成物を挙げることができる。
例えば、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤などを含有するものが挙げられる。
【0030】
前記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ヒンダトイン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン/フェノールエポキシ樹脂、脂環式アミンエポキシ樹脂、脂肪族アミンエポキシ樹脂及びこれらにCTBN変性やハロゲン化などといった各種変性を行ったエポキシ樹脂が挙げられる。
これらは単独または複数混合して前記熱硬化性樹脂組成物に含有させることができる。
【0031】
前記硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド、脂肪族ポリアミド等のアミド系硬化剤;ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン、アンモニア、トリエチルアミン、ジエチルアミン、等のアミン系硬化剤;ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、p−キシレンノボラック樹脂等のフェノール系硬化剤;酸無水物系硬化剤などが挙げられこれらは単独または複数混合して前記熱硬化性樹脂組成物に含有させることができる。
【0032】
前記硬化促進剤としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−メチル−4−エチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類;1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン等の3級アミン類;トリブチルポスフィン、トリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類;などが挙げられこれらは単独または複数混合して前記熱硬化性樹脂組成物に含有させることができる。
【0033】
一方の熱融着層に粘着性を有する熱硬化性樹脂組成物を用いて上記のように接着シートの一方の表面に粘着性を付与する場合には、上記に加えてタッキファイヤーなどと呼ばれるポリエチレン系樹脂、キシレン樹脂、水添石油樹脂、エステルガム、クマロン樹脂などの粘着成分を含有させることができる。
また、CTBN変性のエポキシ樹脂をベース樹脂の一部又は全部に採用することで粘着性を付与することも可能である。
また、図4の断面図に示すように、アクリル樹脂系粘着剤やゴム系粘着剤などを用いた厚みの薄い粘着剤層51cを熱融着層51b1のさらに外側に形成させて接着シート51の一方の表面に粘着性を付与することも可能である。
すなわち、最終的にスロット内壁や導体コイルなどの被着体に熱融着層が熱融着されるように形成されていれば、熱融着層が最外層に配される必要はなくこのように粘着剤層51cを最外層とする場合も本発明の意図する範囲である。
【0034】
しかし、この熱融着層51b1の外側に、さらに粘着剤層51cを形成させると、熱硬化後に熱融着層とU字状セグメントの表面(絶縁被膜42)との間に粘着剤が多く介在され、熱融着層を形成しているエポキシ樹脂組成物の優れた耐熱性を駆動モータの信頼性向上に十分有効に作用させることが困難となるおそれを有する。
このような点において、前記粘着剤層51cを設ける場合には、その厚みが、例えば、10μm〜50μmの範囲内から選択されることが好ましい。
なお、このような場合においては、粘着剤層51cの内側の熱融着層51b1には粘着成分を含有させる必要はない。
【0035】
前記発泡層51aを形成させるための樹脂組成物は、発泡剤などの気泡形成のための成分が含有されている以外は、前記熱融着層の形成において例示したものと同様のものを用いることができる。
【0036】
前記発泡剤としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素アンモニウム、アジド類などの無機系発泡剤や、トリクロロモノフルオロメタンなどのフッ化アルカン、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系化合物、パラトルエンスルホニルヒドラジドなどのヒドラジン系化合物、p−トルエンスルホニルセミカルバジドなどのセミカルバジド系化合物、5−モルホリル−1,2,3,4−チアトリアゾールなどのトリアゾール系化合物、N,N’−ジニトロソテレフタルアミドなどのN−ニトロソ化合物などの有機系発泡剤などの他に炭化水素系溶剤をマイクロカプセル化させたマイクロカプセル化発泡剤などが挙げられる。
なお、本実施形態においては、前記発泡剤は、樹脂組成物のベース樹脂の軟化点近傍あるいはそれ以上の温度で気体を発生させるものが好ましい。
【0037】
なかでも、炭化水素系溶剤をマイクロカプセル化させたマイクロカプセル化発泡剤は、エポキシ樹脂やポリアミド樹脂をはじめとする多くの種類の樹脂に対して物性に与える影響が小さく、例えば、樹脂組成物の硬化を著しく阻害させたり、加熱老化特性を大きく低下させたりするような悪影響を与えることを抑制させることができる点において好適である。
【0038】
なお、このような樹脂組成物によって形成される発泡層51aの発泡前の厚みは、導体コイルとスロット内壁31cとの間の距離などによって適宜定められうる。
ただし、発泡層の発泡倍率を過度に高くすると、接着後の発泡層の強度が著しく低下し、この発泡層での破断が発生しやすくなる。
一方で、発泡層の発泡倍率を小さくすると被着体間の距離と接着シートの厚みとの差(クリアランス)が小さくなりすぎて、導体コイルをスロットに収容させる(接着シートを介装させる)作業における作業性を低下させるおそれを有する。
【0039】
したがって、発泡層の発泡倍率が2倍程度で被着体間の距離となるような厚みが接着シートに付与されることが好ましく、前記発泡剤は、発泡層を無荷重で加熱発泡させたときに発泡前の厚みに対して2〜3倍の厚みとなるように配合量が決定されることが好ましい。
【0040】
このような接着シートは、異なる樹脂組成物によって厚み方向に3層以上の積層構造を有する積層シートを形成させる一般的な方法と同様にして作製することができ、例えば、熱融着層51b1,51b2と発泡層51aとの形成に用いる樹脂組成物を、それぞれのバースポリマーなどを溶解可能な溶媒に分散させてワニスを作製し、表面離型処理されたフィルムなどの担体上に、前記ワニスの塗工及び乾燥を実施して、順に、裏面側熱融着層51b2、発泡層51a、表面側熱融着層51b1とを作製して接着シートを作製することができる。
また、さらに粘着剤層51cを有するものについても上記と同様にして、例えば、粘着剤層用のワニスを作製して、このワニスを表面側熱融着層51b1の上に塗工した後に乾燥させることで形成させることができる。
【0041】
次いで、このような接着シート51を用いたステータコア30と導体コイルとの接着方法について説明する。
まず、前記接着シート51の表面側の熱融着層51b1に粘着成分を含有させるなどして接着シート51の一面側に粘着性を付与させたものを、スロット31に収容される状態に束ねられた4本のU字状セグメントの脚部に巻きかけて仮接着を行う。
このことによって、予め4本のU字状セグメントを固定した状態としておいて、この接着シート51によって固定されている脚部をスロット31へ挿入する。
その状態で加熱を行い、両側の熱融着層51b1,51b2を軟化させるとともに前記発泡層51aを発泡させる。
【0042】
このとき、図5(断面図)に例示するように、加熱された発泡された発泡層51a’は、加熱発泡される前の発泡層51aに比べて厚みが増大され、熱融着層51b1,51b2に対してこれらの背面側から外向きに圧力を加えることとなる。
そして、軟化された熱融着層51b1,51b2がそれぞれ外向きに加圧されることによって導体コイルの表面とスロット内壁とに圧接されることとなる。
したがって、導体コイルの表面やスロット内壁に凹凸が形成されていたとしても、この発泡による背面側からの加圧によって熱融着層51b1,51b2がこれらの凹凸に追従して良好なる接着状態で接着されることとなる。
例えば、隣接する導体コイルの間に形成された凹部Vにも熱融着層51b1の樹脂組成物が進入されて良好なる接着状態で接着されうる。
【0043】
なお、熱融着層51b1,51b2を形成する樹脂組成物の軟化温度(T1)と、発泡層51aを形成する樹脂組成物の発泡開始温度(T2)との関係については、必ずしも、「T1≦T2」の条件を満足させる必要はなく、熱融着を実施する際の加熱温度(Th)を「T1≦Th、且つT2≦Th」の条件を満足させるように設定すればよい。
ただし、発泡層51aの発泡開始時においてすでに熱融着層51b1,51b2が軟化状態となっている方が良好なる接着状態を形成させやすい点に好適である。
したがって、「T1≦T2」の条件を満足させることが好ましい。
また、この熱融着層51b1,51b2を形成する樹脂組成物が熱硬化性樹脂組成物である場合にはこの熱硬化反応温度(Tr)と加熱温度(Th)とは、「Tr≦Th」の条件を満足させることが重要である。
【0044】
なお、樹脂組成物の軟化温度(T1、T2)については、通常、ベースポリマーの軟化温度と同じであり、例えば、ベースポリマーがエポキシ樹脂である場合には、JIS K 7234の環球法によって測定されうる。
ここで、熱融着層51b1,51b2を形成する樹脂組成物のベースポリマーがエポキシ樹脂である場合には熱融着層51b1,51b2が熱溶着可能となる温度は、通常、上記軟化点によって与えられるが、例えば、熱融着層51b1,51b2を形成する樹脂組成物のベースポリマーが熱可塑性樹脂である場合には、通常、その融点をもって熱溶着可能となる温度とみなす事ができる。
また、前記熱硬化反応温度(Tr)については、熱硬化性樹脂組成物を、示差走査熱量計(DSC)にかけて、10℃/分の昇温速度条件にて熱硬化反応による発熱量の変化を測定し、得られるチャートがベースラインから離れて発熱ピークを示し始める温度を求めることによって確認することができる。
【0045】
なお、接着シート51の表面側に粘着性を付与する方法に代えてこの表面側の熱融着層51b1の形成に裏面側の熱融着層51b2の形成に用いられている熱硬化性樹脂組成物よりも熱硬化反応温度の低い熱硬化性樹脂組成物を採用して、予めU字状セグメントへの仮接着を実施する場合には、この仮接着時に発泡層51aの発泡が生じてしまわないようにすることが好ましく、表面側の熱融着層51b1の形成に用いる樹脂組成物の軟化温度(T11)及び熱硬化反応温度(Tr1)が発泡層51aの発泡開始温度(T2)よりも低い温度(T11<T2、且つTr1<T2)であることが好ましい。
【0046】
このような構成を採用することで駆動モータにおけるステータコアのスロット内壁と導体コイルとの接着など、狭小な箇所で表面に凹凸を有する被着体の接着を行うような用途において好適な接着シートとすることができる。
なお、本実施形態においては、本発明の効果がより顕著に発揮されうる点において、駆動モータなどの回転電機のステータコアと導体コイルとの接着方法に用いる場合を例に接着シートを説明しているが、本発明においては接着シートの用途をこのような用途に限定するものではない。
【0047】
また、本実施形態においては、熱融着層/発泡層/熱融着層の3層構造の接着シート、あるいは、熱融着層/発泡層/熱融着層/粘着剤層の4層構造の接着シートを例示しているが、発泡体層の両側にこの接着シートが介装される被着体にそれぞれ接着可能な熱融着層が備えられているものであれば、例えば、図6に示すような5層の積層構造のものも本発明の意図する範囲である。
【0048】
この図6は、接着シートの積層構造を示す断面図であり、この図に示す接着シート51は、中央部に樹脂フィルムが用いられた樹脂フィルム層51dが備えられている点、ならびに、この樹脂フィルム層51dを介して、その表面側と裏面側とにそれぞれ発泡層51a1、51a2とが備えられている点においてこれまでの接着シートと異なっている。
この樹脂フィルム層51dを設けることで、接着シートに適度なコシを付与させ得るとともに接着シートの電気絶縁性の向上を図ることができる。
【0049】
ただし、接着に使用する際の温度、すなわち、発泡層51a1、51a2の発泡開始温度と熱融着層51b1,51b2の熱融着可能温度との内のいずれか高い方の温度において前記樹脂フィルムを構成する樹脂組成物が過度に軟化状態となっていると、前記発泡層51a1、51a2の発泡によって樹脂フィルム層51dを貫通する穴が形成されてしまうおそれを有する。
したがって、樹脂フィルムを構成する樹脂組成物の融点は、発泡層51a1、51a2の発泡開始温度以上且つ熱融着層51b1,51b2の熱融着可能温度以上であることが好ましく、このような樹脂フィルム層51dには、1×1013Ω・cm以上の体積抵抗率を有するポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルムなどが好適に用いられ得る。
【0050】
なお、接着シートに対する絶縁性付与の観点からは、樹脂フィルム層51dの両側に発泡層を設ける必要はないが、例えば、(裏面側)熱融着層51b2/樹脂フィルム層51d/発泡層51a1/(表面側)熱融着層51b1の4層構造とすると、発泡層の発泡による圧力を裏面側熱融着層51b2は樹脂フィルム層51dを介して受けることとなる。
そのため、裏面側熱融着層51b2の接着面には、発泡層の発泡による圧力が直接作用されない分、被着面の変化に応じた変形が生じにくくなり、凹凸への追従性を低下させるおそれを有する。
一方で、この図6に示す接着シート51においては、樹脂フィルム層51dを挟んで両側に発泡層51a1、51a2が形成されていることから被着体表面に対する追従性の低下が抑制されつつ電気絶縁性が付与されている。
【0051】
なお、この図6の事例以外にも種々の変更を加えることができ、従来公知の接着シートにかかる技術事項を、本発明の効果が著しく損なわれない範囲において、本発明に採用することができる。
【符号の説明】
【0052】
10 回転軸
20 ロータコア
30 ステータコア
31 スロット
31a 開口部
31b 開口部
31c スロット内壁
32 ティース
32a 広幅部
40 脚部
41 平角導体
42 絶縁被膜
51 接着シート
51a 発泡層
51a1 発泡層
51a2 発泡層
51b1 (表面側)熱融着層
51b2 (裏面側)熱融着層
51c 粘着剤層
51d 樹脂フィルム層
V 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層構造を有するシート状に形成されており、表面及び裏面をそれぞれ被着体に接着させるべく用いられ、前記接着を熱融着によって実施し得るように熱融着可能な樹脂組成物によって形成された熱融着層が備えられており、しかも、該熱融着層が外向きに加圧された状態で前記熱融着が実施され得るように、加熱されて発泡を生じる樹脂組成物によって形成された発泡層が備えられ、該発泡層を挟んで両側に前記熱融着層が備えられていることを特徴とする接着シート。
【請求項2】
発泡層の両側に備えられている前記熱融着層の内の少なくとも一方と、前記発泡層との間に樹脂フィルムが用いられた樹脂フィルム層がさらに備えられている請求項1記載の接着シート。
【請求項3】
前記樹脂フィルム層を挟んで両側に発泡層が形成されており、該発泡層のさらに外側に前記熱融着層が備えられている請求項2記載の接着シート。
【請求項4】
前記熱融着層の熱融着可能となる温度が、前記発泡層の発泡開始温度よりも低温である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の接着シート。
【請求項5】
表面側と裏面側の最外層にそれぞれ異なる樹脂組成物が用いられてなる前記熱融着層が備えられており、該熱融着層の内の一方が常温において粘着性を有し、他方が常温において非粘着性である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の接着シート。
【請求項6】
表面側と裏面側の最外層にそれぞれ異なる樹脂組成物が用いられてなる前記熱融着層が備えられており、前記樹脂組成物が熱硬化性樹脂組成物であり、しかも、前記熱融着層の内の一方の熱融着層に用いられている熱硬化性樹脂組成物と、他方の熱融着層に用いられている熱硬化性樹脂組成物との熱硬化温度が異なっている請求項1乃至4のいずれか1項に記載の接着シート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate