説明

接着剤組成物、仮固定用接着剤、および部品の製造方法

【課題】良好な塗工性を有し、かつ剥離時における良好な剥離性を有する接着剤組成物、仮固定用接着剤、および部品の製造方法の提供。
【解決手段】(A)成分:エラストマーと、(B)成分:(メタ)アクリル酸アルキルエステル、芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステル、および環状エーテル骨格を有する(メタ)アクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の(メタ)アクリル酸系モノマーと、(C)成分:アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステルと、(D)成分:有機過酸化物と、(E)成分:硬化促進剤とを含有し、(A)〜(C)成分の合計100質量%中の(C)成分の含有量が7〜30質量%であり、23℃における粘度が3000〜200000mPa・sである接着剤組成物、およびこれを用いた部品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばシリコンウエハの製造の際に好適に用いられる接着剤組成物、仮固定用接着剤、および部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウエハ、光学部品、半導体実装部品等の製造方法としては、これらの原材料(加工対象部品)を接着剤等により固定具に仮固定し、所定の形状に切削、あるいは研磨等の機械加工した後、接着剤を除去して固定具から剥離して、加工された部品を得る方法が用いられる。
例えば、シリコンウエハの製造においては、加工対象部品であるシリコンインゴットを接着剤により固定具に仮固定し、切断機により薄膜状に切断した後、弱アルカリ性水溶液や弱酸性水溶液等の剥離液に浸漬して固定具から剥離し、薄膜状に切断したシリコンウエハを得る。
【0003】
仮固定に用いられる接着剤として、例えば特許文献1には、多官能(メタ)アクリレート、単官能(メタ)アクリレート、有機過酸化物、分解促進複合体を含有する硬化性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−161871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の硬化性組成物は、塗工の際に液垂れするので塗工性に劣っており、また、その硬化物は剥離液に対する溶解性に乏しく、仮固定された部材を加工後に固定具から剥離する際の剥離性に劣っていた。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、良好な塗工性を有し、かつ剥離時における良好な剥離性を有する接着剤組成物、仮固定用接着剤、および部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、エラストマーと、特定の(メタ)アクリル酸系モノマーと、特定量のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステルとを含有させ、かつ接着剤組成物の粘度を規定することで、塗工性と剥離液(特に弱酸性水溶液)に対する溶解性を兼ね備えた接着剤組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の接着剤組成物は、(A)成分:エラストマーと、(B)成分:(メタ)アクリル酸アルキルエステル、芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステル、および環状エーテル骨格を有する(メタ)アクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の(メタ)アクリル酸系モノマーと、(C)成分:アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステルと、(D)成分:有機過酸化物と、(E)成分:硬化促進剤とを含有する接着剤組成物であって、前記(A)成分、(B)成分、(C)成分の合計100質量%中の(C)成分の含有量が7〜30質量%であり、かつ、23℃における粘度が3000〜200000mPa・sであることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の仮固定用接着剤は、前記接着剤組成物からなることを特徴とする。
また、本発明の部品の製造方法は、前記接着剤組成物を用いて加工対象部品を固定具に仮固定し、仮固定された加工対象部品を加工した後、加工対象部品および固定具を酸性水溶液からなる剥離液に浸漬して互いを剥離することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、良好な塗工性を有し、かつ剥離時における良好な剥離性を有する接着剤組成物、仮固定用接着剤、および部品の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸とメタクリル酸の両方を示し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートの両方を示すものとする。
【0012】
[接着剤組成物]
本発明の接着剤組成物は、(A)成分:エラストマーと、(B)成分:(メタ)アクリル酸アルキルエステル、芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステル、および環状エーテル骨格を有する(メタ)アクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の(メタ)アクリル酸系モノマーと、(C)成分:アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステルと、(D)成分:有機過酸化物と、(E)成分:硬化促進剤とを含有する。
【0013】
<(A)成分:エラストマー>
(A)成分は、エラストマーである。
(A)成分は、常温でゴム弾性を有する高分子化合物である。(A)成分は、接着剤組成物の硬化物に強靭性を付与し、剥離接着強さ、衝撃接着強さを向上させる成分である。
(A)成分としては、後述する(B)成分に溶解または分散するものが好ましく、具体的には、アクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−メチルメタクリレート共重合体、ブタジエン−スチレン−メチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体、並びにアクリロニトリル−ブタジエンゴム、線状ポリウレタン、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリル複合ゴム、及びブタジエンゴム等の各種合成ゴム、天然ゴム、スチレン−ポリブタジエン−スチレン系合成ゴム等のスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエチレン−EPDM合成ゴム等のオレフィン系熱可塑性エラストマー、カプロラクトン型、アジペート型及びPTMG型等のウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリブチレンテレフタレート−ポリテトラメチレングリコールマルチブロックポリマー等のポリエステル系熱可塑性エラストマー、ナイロン−ポリオールブロック共重合体、ナイロン−ポリエステルブロック共重合体等のポリアミド系熱可塑性エラストマー、1,2−ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、塩ビ系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0014】
これら(A)成分は、1種単独で用いてもよく、相溶性が良ければ2種以上を併用してもよい。
(A)成分としては、上述した中でも、剥離接着強さ、衝撃接着強さを向上させる効果に優れる点で、ブタジエン−スチレン−メチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体が好ましい。
【0015】
(A)成分の含有量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分の合計100質量%中、5〜40質量%が好ましく、10〜20質量%がより好ましい。(A)成分の含有量が5質量%以上であれば、接着剤組成物の未硬化時における粘度が低下してダレが生じたり、接着性が低下したりするのを抑制できる。一方、(A)成分の含有量が40質量%以下であれば、接着剤組成物の粘度が過度に上昇するのを抑制でき、塗工性を良好に維持できる。
【0016】
<(B)成分:(メタ)アクリル酸系モノマー>
(B)成分は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステル、および環状エーテル骨格を有する(メタ)アクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の(メタ)アクリル酸系モノマーである。
【0017】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アルコール残基が直鎖状または分岐状のアルキル基であるもの、あるいは一部の水素がヒドロキシル基またはアルコキシ基で置換された直鎖状または分岐状のアルキル基であるもの、あるいは単環式または多環式のシクロアルキル基またはシクロアルケニル基、一部の水素がアルキル基またはシクロアルキル基で置換された単環式または多環式のシクロアルキル基であるものが挙げられる。このような(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルオキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルオキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0018】
芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えばフェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェネチル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0019】
環状エーテル骨格を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、フリル基、フルフリル基、ピラニル基等を含む環状エーテル骨格を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられ、例えばフリル(メタ)アクリレート、フルフリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ピラニル(メタ)アクリレート、ジヒドロピラニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロピラニル(メタ)アクリレート、ジメチルジヒドロピラニル(メタ)アクリレート、ジメチルテトラヒドロピラニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0020】
これら(B)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
(B)成分としては、上述した中でも、(A)成分を溶解、分散しやすく、接着剤組成物の硬化物の柔軟性、接着性、引張強度を向上させる観点から、メチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ベンジルメタクリレートが好ましい。
【0021】
(B)成分の含有量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分の合計100質量%中、50〜80質量%が好ましい。(B)成分の含有量が50質量%以上であれば、接着剤組成物の硬化物の柔軟性が十分となり、接着性が向上する。一方、(B)成分の含有量が80質量%以下であれば、硬化物の引張強度が低下するのを抑制できる。
【0022】
<(C)成分:アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル>
(C)成分は、アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステルである。
(C)成分は、接着剤組成物の硬化物に耐温水性を付与すると共に、後述する酸性水溶液、特に弱酸性水溶液に対する溶解性を付与する成分である。
(C)成分としては、例えばN,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0023】
(C)成分の含有量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分の合計100質量%中、7〜30質量%である。(C)成分の含有量が7質量%以上であれば、接着剤組成物の硬化物の酸性水溶液、特に弱酸性水溶液に対する溶解性が向上する。一方、(C)成分の含有量が30質量%以下であれば、硬化物の耐温水性を良好に維持できる。
【0024】
<(D)成分:有機過酸化物>
(D)成分は、有機過酸化物である。
(D)成分は、後述する(E)成分と反応してラジカルを発生させる成分である。
(D)成分としては、公知の有機過酸化物を使用でき、例えばジアシルパーオキサイド系、パーオキシエステル系、ハイドロパーオキサイド系、ジアルキルパーオキサイド系、ケトンパーオキサイド系、パーオキシケタール系、アルキルパーエステル系、パーカーボネート系等が挙げられる。
これら(D)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
(D)成分の含有量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分の合計100質量部に対して、0.05〜10質量部が好ましく、0.25〜7.5質量部がより好ましい。(D)成分の含有量が0.05質量部以上であれば、接着剤組成物が硬化する際に未硬化が発生することなく十分に硬化できる。一方、(D)成分の含有量が10質量部以下であれば、接着剤組成物の貯蔵安定性低下するのを抑制できる。
【0026】
<(E)成分:硬化促進剤>
(E)成分は、硬化促進剤である。
(E)成分としては、金属塩、アミン類が好ましい。
金属塩としては、例えばナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルト、オクチル酸亜鉛、オクチル酸バナジウム、ナフテン酸銅、ナフテン酸バリウム等の金属石鹸類、バナジウムアセチルアセテート、コバルトアセチルアセテート、鉄アセチルアセトネート等の金属キレート類などが挙げられる。
アミン類としては、例えばアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、p−トルイジン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ビス(2-ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、4-(N,N−ジメチルアミノ)ベンズアルデヒド、4−[N,N−ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]ベンズアルデヒド、4−(N−メチル−N−ヒドロキシエチルアミノ)ベンズアルデヒド、N,N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジン、N−エチル−m−トルイジン、トリエタノールアミン、m−トルイジン、ジエチレントリアミン、ピリジン、フェニルモルホリン、ピペリジン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アニリン、ジエタノールアニリン等のN,N−置換アニリン、N,N−置換−p−トルイジン、4−(N,N−置換アミノ)ベンズアルデヒドなどが挙げられる。
これら(E)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
(E)成分の含有量は、本発明の目的を達成することのできる範囲であれば特に限定されるものではないが、(A)成分、(B)成分、(C)成分の合計100質量部に対して、0.1〜5質量部が好ましい。
なお、(E)成分は、予め(A)成分、(B)成分、(C)成分の混合物に添加しておいてもよいし、接着剤組成物の使用時に混合物に添加してもよい。
【0028】
上述した(D)成分と(E)成分との組み合わせとしては、反応性の点で、ハイドロパーオキサイド系と金属塩が好ましく、特にクメンハイドロパーオキサイドとナフテン酸コバルトの組み合わせが好ましい。
【0029】
<その他の成分>
本発明の接着剤組成物は、(A)〜(E)成分の他に、硬化速度を調整する目的で、重合禁止剤を含有してもよい。
重合禁止剤としては、例えばトリハイドロベンゼン、メチルハイドロキノン、14−ナフトキノン、パラベンゾキノン、ハイドロキノン、ベンゾキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、p−tert−ブチルカテコール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール等を挙げることができる。
重合禁止剤の含有量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分の合計100質量部に対して、0.001〜0.1質量部が好ましく、0.005〜0.02質量部であることがさらに好ましい。重合禁止剤の含有量が上記範囲内であれば、貯蔵安定性、塗工性、強度発現性に優れた樹脂組成物が得られやすくなる。
【0030】
また、接着剤組成物は、性能を損なわない範囲でその他の単量体を含有してもよい。
その他の単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロイルモルフォリン、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
その他の単量体の含有量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分の合計100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部であることがさらに好ましい。その他の単量体の含有量が上記範囲内であれば、性能を損なわない樹脂組成物が得られやすくなる。
【0031】
さらに、接着剤組成物は、強度を付与したり、伸度を向上させたりする目的で、必要に応じて1分子中に2個以上の二重結合を有する(メタ)アクリル系ラジカル重合性単量体を含有してもよい。
このような(メタ)アクリル系ラジカル重合性単量体としては、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロプレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0032】
1分子中に2個以上の二重結合を有する(メタ)アクリル系ラジカル重合性単量体の含有量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分の合計100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましく、0.5〜10質量部であることがさらに好ましい。1分子中に2個以上の二重結合を有する(メタ)アクリル系ラジカル重合性単量体の含有量が上記範囲であれば、強度を付与し、伸度を向上させた樹脂組成物が得られやすくなる。
【0033】
また、接着剤組成物は、粘度や流動性を調整する等の目的で、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリウレタン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン−メタクリル酸メチル共重合体等の熱可塑性高分子、微粉末シリカ等を含有してもよい。
さらに、接着剤組成物は、空気に接している部分の硬化を迅速にするために、各種パラフィン類を含有してもよいし、貯蔵安定性を維持する目的で、重合禁止剤を含む市販の酸化防止剤等を含有してもよい。
また、接着剤組成物は、種々の特性を改善するために、必要に応じて可塑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、潤滑剤、離型剤、着色剤(染料、顔料等)、消泡剤、重合抑制剤、充填剤、ワックス、防錆剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0034】
<物性>
本発明の接着剤組成物の23℃における粘度は、3000〜200000mPa・sであり、8000〜30000mPa・sが好ましい。粘度が3000mPa・s以上であれば、接着剤組成物を固定具に塗工する際、液垂れが生じにくくなる。一方、粘度が200000mPa・s以下であれば、固定具に接着剤組成物を塗工できる。
【0035】
接着剤組成物の粘度は、単一円筒回転粘度計を用い、測定温度23℃の条件下にて測定した値である。なお、回転数は粘度に応じて設定する。
接着剤組成物の粘度は、接着剤組成物を構成する各成分の含有量や種類を調整することで調節できる。具体的には、(A)成分の含有量を多くすると、粘度の値は大きくなる傾向にある。
【0036】
<調製方法>
本発明の接着剤組成物は、上述した(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、(E)成分、および必要に応じてその他の成分を混合することで得られるが、以下のようにして二液型の接着剤組成物として調製するのが好ましい。
まず(A)成分、(B)成分、(C)成分を混合して混合物を調製する。
ついで、得られた混合物に(D)成分を添加し、第一剤とする。別途、調製した混合物に(E)成分を添加し、第二剤とする。そして、使用前に第一剤と第二剤を混合し、接着剤組成物として用いる。
なお、二液型の接着剤組成物において、その他の成分を含有させる場合、その他の成分は第一剤及び第二剤の両方に配合してもよいし、どちらか一方に配合してもよい。
【0037】
以上説明した本発明の接着剤組成物は、(A)成分と(B)成分の配合で粘度調整されるため塗工性、接着性に優れる。また、(C)成分を含有するので耐温水性に優れる。
従って、本発明の接着剤組成物は、加工対象部品を固定具に強固に仮固定できる。
また、固定具に仮固定された加工対象部品を加工する際は、切削治具と加工対象部品との間で摩擦熱が発生しやすい。そのため、通常、大量の冷却水等で冷却しながら加工するが、本発明の接着剤組成物は耐温水性に優れるので、摩擦熱によって温められた水によって溶解したり膨潤したりしにくい。従って、加工中に加工対象部品が固定具から剥がれにくい。また、加工中に加工対象部品が固定具から剥がれにくいため、寸法安定性にも優れる。
【0038】
加えて、本発明の接着剤組成物は、(C)成分を含有するので、酸性水溶液、特に弱酸性水溶液に対する溶解性に優れる。従って、加工後の加工対象部品を固定具から剥離する際に用いる剥離液として酸性水溶液を用いれば、接着剤組成物が十分に溶解するため、加工対象部品を固定具から容易に剥離できる。
【0039】
さらに、本発明の接着剤組成物は、(D)成分である有機過酸化物、(E)成分である硬化促進剤を含有しているため、常温で短時間に硬化でき、硬化性に優れる。また、紫外線で硬化する接着剤とは異なるため、シリコンインゴット等の紫外線を透過しにくい加工対象部品にも好適である。
【0040】
[固定用接着剤]
本発明の接着剤組成物は、シリコンウエハ、光学部品、半導体実装部品等の原材料(加工対象部品)を固定具に仮固定して加工する際に用いられる仮固定用接着剤として好適である。
本発明の仮固定用接着剤は、本発明の接着剤組成物からなるため、常温で短時間に硬化でき、加工対象部品の加工時における接着性と、剥離時における剥離性を有する。加えて、紫外線を透過しにくい加工対象部品にも適している。
【0041】
[部品の製造方法]
本発明の部品の製造方法は、上述した接着剤組成物を用いて加工対象部品を固定具に仮固定し、仮固定された加工対象部品を加工した後、加工対象部品および固定具を酸性水溶液からなる剥離液に浸漬して互いを剥離することを特徴とする。
具体的には、まず、固定具に接着剤組成物を塗工し、接着剤組成物を介して加工対象部品を固定具に貼り合わせる。ついで、接着剤組成物を硬化させて、加工対象部品を固定具に仮固定(接着)する。そして、仮固定された加工対象部品を所定の形状になるように、切削、切断、研磨等の機械加工を施す。その後、加工対象部品および固定具を酸性水溶液からなる剥離液に浸漬し、接着剤組成物の硬化物を溶解させ、固定具から加工対象部品を剥離し、加工された部品を得る。
【0042】
加工対象部品としては、特に制限されず、シリコンウエハ、光学部品、半導体実装部品等の原材料が挙げられる。例えばシリコンウエハを製造する場合は、加工対象部品としてシリコンインゴットを用いる。
固定具としては、加工対象部品を仮固定できるものであれば特に制限されず、例えば台座などが挙げられる。
【0043】
接着剤組成物を固定具に塗工する方法としては、例えば刷毛塗り法、噴霧コート法、ローラーコート法、バーコート法、エアナイフコート法、ディッピング法等の各種塗工法を適宜選択することができる。
塗工する接着剤組成物の膜厚は、硬化性や接着力の観点から50〜500μmが好ましい。
また、加工対象部品を固定具に貼り合わせた後は、加熱して接着剤組成物を硬化させてもよいが、本発明の接着剤組成物であれば、常温で短時間に硬化できる。
なお、本発明において「常温」とは、23℃のことである。
【0044】
剥離液として用いる酸性水溶液としては、ヨウ化水素酸、過塩素酸、臭化水素酸、塩酸、硫酸、シュウ酸、亜硫酸、燐酸、フッ化水素酸、蟻酸、乳酸、酢酸、酪酸、プロピオン酸などの水溶液が挙げられる。
これらの中でもシュウ酸、蟻酸、乳酸、酢酸、酪酸、プロピオン酸などの有機酸の水溶液が好ましい。これら有機酸の水溶液は弱酸性水溶液であり、固定具、加工対象部品、および装置等の腐食や劣化を抑制できる。特に、乳酸は塗工性、取扱性、入手性の点で好ましい。
なお、本発明において「酸性」とはpH7未満であり、「弱酸性」とはpHが3以上7未満である。
【0045】
加工後の加工対象部品および固定具を剥離液に浸漬する際は、剥離液が高温になるほど剥離が促進されるため、23℃以上に加熱することが好ましい。加工対象部品、固定具、装置の耐性や、剥離液の寿命にもよるが、50℃以上に加熱することもできる。
加熱方法としては、特に制限されないが、オーブン、ドライヤー、加熱蒸気、オイルバス、ウォーターバス、赤外線加熱炉、高周波加熱炉などを用いることができる。
また、剥離液に浸漬する際の時間は、1分〜24時間が好ましく、加工対象部品や固定具の材質、形状、塗工性などから適宜決定すればよい。
【0046】
以上説明した本発明の部品の製造方法によれば、加工対象部品の加工時には加工対象部分が固定具に強固に接着し、加工後の剥離時には加工対象部品が固定具から容易に剥離できる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明について実施例および比較例により説明する。なお、以下の例における「部」は「質量部」を意味する。
以下の例における測定・評価方法は、次の通りである。
【0048】
<測定・評価方法>
(粘度の測定)
接着剤組成物の粘度は、(A)成分、(B)成分、(C)成分からなる混合物を単一円筒回転粘度計(東京計器株式会社製、BM型、BH型)を用い、測定温度23℃の条件下にて測定した。
単一円筒回転粘度計は粘度が50000mPa・s以下の場合、BM型を使用し、50000mPa・s以上の場合、BH型を使用した。
回転数は、粘度が20〜5000mPa・sの場合は60rpm、5000〜10000mPa・sの場合は30rpm、10000〜25000mPa・sの場合は12rpm、25000〜50000mPa・sの場合は6rpm、50000〜100000mPa・sの場合は4rpm、100000〜2000000mPa・sの場合は2rpmに設定した。
【0049】
(塗工性の評価)
以下の評価基準にて、塗工性を評価した。
○:所定の厚みの接着剤組成物を固定具に塗工できる。
△:所定の厚みの接着剤組成物を固定具に塗工できない。
×:接着剤組成物を固定具に塗工できない。
【0050】
(剥離性の評価)
耐熱ガラスに接着剤組成物を塗布し、支持体としてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(10mm×20mm×厚さ0.02mm)を貼り合わせた。ついで、温度23℃の条件下で1日間放置し、接着剤組成物を硬化させた。硬化後、PETフィルムを剥がして、剥離試験体を作製した。
得られた剥離試験体を、60℃の5質量%乳酸水溶液または5質量%酢酸水溶液に浸漬し、接着剤組成物の硬化物が耐熱ガラスから剥離するまでの時間を測定した。さらに、剥離状態について目視にて観察し、以下の評価基準にて評価した。
○:剥離形状がフィルム状である。
×:剥離形状がゼリー状である。
【0051】
[実施例1]
(A)成分としてブタジエン−スチレン−メチルメタクリレート共重合体15部と、(B)成分としてテトラヒドロフルフリルメタクリレート57部、2−エチルヘキシルアクリレート5部、および2−ヒドロキシエチルメタクリレート15部と、(C)成分としてN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート8部と、重合禁止剤として2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール0.05部とを混合し、混合物を調製した。
得られた混合物に、(D)成分としてクメンハイドロパーオキサイド2部を加え、第一剤を作製した。
別途、混合物を調製し、該混合物に(E)成分としてナフテン酸コバルト(金属含有量:6%)1部を加え、第二剤を作製した。
ついで、第一剤と第二剤を混合して、接着剤組成物を調製した。
得られた接着剤組成物について、各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0052】
[実施例2〜17、比較例1〜4]
表1、2に示す配合組成に従って混合物を調製した以外は、実施例1と同様にして第一剤および第二剤を作製し、接着剤組成物を調製した。
得られた接着剤組成物について、各種測定および評価を行った。結果を表1、2に示す。
なお、表1、2に示す(D)成分および(E)成分の配合量は、第一剤と第二剤を混合したときの、(A)成分、(B)成分、(C)成分の合計100部に対する量である。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
表1、2中の記号は以下の通りである。
・C−201:ブタジエン−スチレン−メチルメタクリレート共重合体(三菱レイヨン株式会社製)
・MUX−IR:アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体(UMG ABS株式会社製)
・MMA:メチルメタクリレート(三菱レイヨン株式会社製)
・THFMA:テトラヒドロフルフリルメタクリレート(三菱レイヨン株式会社製)
・2−EHA:2−エチルヘキシルアクリレート(三菱化学株式会社製)
・2−HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート(三菱レイヨン株式会社製)
・4−HBA:4−ヒドロキシブチルアクリレート(三菱レイヨン株式会社製)
・BzMA:ベンジルメタクリレート(三菱レイヨン株式会社製)
・DMAEMA:N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(三菱レイヨン株式会社製)
・DEAEMA:N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート(三菱レイヨン株式会社製)
・TBAEM:t−ブチルアミノエチルメタクリレート(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社製)
・CHP:クメンハイドロパーオキサイド(化薬アクゾ株式会社製)
・ナフテックスCo6%T: ナフテン酸コバルト(金属含有量:6%)(日本化学産業株式会社製)
・BHT:2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(住友化学工業株式会社製)
【0056】
表1、2から明らかなように、各実施例で得られた接着剤組成物は、塗工性、および弱酸性水溶液に対する溶解性にも優れていた。
一方、比較例1で得られた接着剤組成物は、塗工性に劣っていた。この接着剤組成物は、粘度が高すぎるため、固定具に塗布できなかったため、剥離性の評価ができなかった。
(C)成分の含有量が5質量%と少ない比較例2で得られた接着剤組成物は、弱酸性水溶液に対する溶解性に劣り、硬化物が耐熱ガラスから剥離できなかった。
(C)成分の含有量が33質量%と多い比較例3で得られた接着剤組成物は、硬化物が耐熱ガラスから剥離できたものの、剥離状態が各実施例の場合に比べて劣っていた。
比較例4で得られた接着剤組成物は、塗工性に劣っていた。この接着剤組成物は、粘度が低すぎるため、液垂れして固定具に塗工できなかったため、剥離性の評価ができなかった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:エラストマーと、(B)成分:(メタ)アクリル酸アルキルエステル、芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステル、および環状エーテル骨格を有する(メタ)アクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の(メタ)アクリル酸系モノマーと、(C)成分:アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステルと、(D)成分:有機過酸化物と、(E)成分:硬化促進剤とを含有する接着剤組成物であって、
前記(A)成分、(B)成分、(C)成分の合計100質量%中の(C)成分の含有量が7〜30質量%であり、かつ、23℃における粘度が3000〜200000mPa・sである、接着剤組成物。
【請求項2】
請求項1記載の接着剤組成物からなる、仮固定用接着剤。
【請求項3】
請求項1記載の接着剤組成物を用いて加工対象部品を固定具に仮固定し、仮固定された加工対象部品を加工した後、加工対象部品および固定具を酸性水溶液からなる剥離液に浸漬して互いを剥離する、部品の製造方法。

【公開番号】特開2012−229379(P2012−229379A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99965(P2011−99965)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】