説明

接着剤

【課題】毒性が低く利便性に優れた接着剤を提供することである。
【解決手段】本発明の接着剤は、主剤と架橋剤とを含むものであって、前記主剤は、常温で水に可溶であり、熱変性温度が25℃以下のコラーゲンが変性したゼラチンを主成分とした。この接着剤は、特定のゼラチンを主成分とした主剤を用いているため、事前に加温することなく、主剤と架橋剤とを常温で迅速に混合、反応させることができるとともに、経済的で安定的に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主剤と架橋剤とを含んで構成され、接着・硬化性を有する接着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、GRF接着剤(ゼラチン、レゾルシン、ホルムアルデヒド)などのゼラチン−アルデヒド系の外科用組織接着剤やアルブミンを用いた接着剤が知られている(例えば、特許文献1〜2参照)。
【0003】
特許文献1には、主剤として作用する接着成分(A)と、架橋剤として作用する硬化成分(B)とよりなる生体組織接着用組成物が開示されている。接着成分(A)としては、ゼラチン、レゾルシンおよび蒸留水が混合されたものが開示され、硬化成分(B)としては、ホルムアルデヒドとグルタルアルデヒド及びグリセリンアルデヒドが混合されたものが開示されている。
特許文献2には、主剤と架橋剤からなる2液型接着剤であって、主剤がアルブミン水溶液および多価フェノールを主成分とし、架橋剤がアルデヒドを主成分としてなるものが開示されている。また、アルブミンとしては、ヒト血清アルブミンなどが用いられる点が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−70972号公報
【特許文献2】特開2008-104612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、接着成分(A)を構成する多価フェノール化合物の一種としてピロガロール(カテキン)が用いられるとの記載があるが、カテキンがゼラチン水溶液に添加されると凝集し、接着剤として機能しなくなってしまう問題がある。また、特許文献1では、架橋度の特性をホルムアルデヒドで調整しているが、毒性が高く、医師への健康被害が懸念され代替が望まれている。さらに、特許文献1では、牛由来コラーゲンや豚由来コラーゲン等の常温でゲル化しているゼラチンを用いると、手術時に加温する必要があり、手術時の迅速性を損なう問題を抱えている。
特許文献2では、主剤としてゼラチンを使用しない接着剤が開示されているが、血清を原料としたアルブミンを使用しているため、高価で安定的に供給されないという問題がある。そのため、安価で安定的な原料が望まれている。
【0006】
本発明の目的は、毒性が低く利便性に優れた接着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の接着剤は、主剤と架橋剤とを含む接着剤であって、前記主剤は、常温で水に可溶であり、熱変性温度が25℃以下のコラーゲンが変性したゼラチンを主成分としたことを特徴とする。
従来のゼラチンでは、接着剤を作製する際、事前に加熱してゼラチンを溶解する必要があったが、この発明では、ゼラチンが常温で水に可溶で、ゲル化していないため、事前に加温することなく、主剤と架橋剤とを常温で迅速に混合、反応させることができる。
また、本発明は、ゼラチンを主成分としているので、アルブミンを用いる場合と比較して、経済的で安定的に製造することができる。
【0008】
ここで、本発明において、前記ゼラチンは、水棲生物由来であることが好ましい。
本発明に用いられるゼラチンは、常温で溶解している水棲生物由来であるため、さらに経済的で安定的に供給でき、資源の有効利用にもつながる。
【0009】
さらに、主剤との架橋反応を促進させるためにグルタルアルデヒド、グリセリンアルデヒド、シランカップリング剤の少なくともいずれか一つが使用されることが好ましい。
この発明では、ホルムアルデヒドを含まなくても接着剤として機能するものが作製できる。よって、毒性が低く、医師への健康被害への懸念が低減され利便性に優れる。
【0010】
そして、本発明では、多価フェノールを主成分とする架橋促進剤をさらに含むことが好ましい。さらに、前記多価フェノールは、カテキン又はリグニンであることが好ましい。
この発明では、架橋促進剤としてのカテキンやリグニンなどの多価フェノールを含むことにより、ホルムアルデヒドを含まずに主剤を架橋し、接着剤として必要な接着性能を得ることができる。
【0011】
また、本発明の接着剤は、毒性が低く利便性に優れるため、医療用接着剤として好適に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の接着剤は、主剤と、ホルムアルデヒドを含まない架橋剤と、架橋促進剤とを混合してなる接着剤であり、外科用接着剤などの医療用接着剤として好適に利用できる。
主剤に用いられるゼラチンは、常温で水に可溶であり、熱変性温度が25℃以下、好ましくは20℃以下のものである。熱変性温度が25℃を超えると、手術時に、接着剤を加温しなければならず、利便性が低下する場合がある。
このようなゼラチンとしては、例えば、コラーゲンタンパク部分加水分解物であるものが好ましい。コラーゲンタンパクとしては、ゼラチン化する熱変性温度が低いもののほうが、使用時に加温する必要がないのでより好ましい。
また、ゼラチンは、牛由来のコラーゲン、豚由来のコラーゲン、鳥由来のコラーゲン、水棲生物由来のコラーゲン等が挙げられるが、BSE、鳥インフルエンザといった問題があるため動物由来より水棲生物由来のコラーゲンを用いることが好ましい。特に、水棲生物由来のコラーゲンのうち、例えば15〜20℃で粘度が低く操作性の良いサケ、マス、ニシン、タラ等の寒流系海洋生物由来のコラーゲンを用いることが好ましい。
【0013】
また、主剤には、多価フェノール化合物が含有されていても良く、例えば、レゾルシンが代表的に用いられる。この他、β―レゾルシアルデヒド、γ−レゾルシアルデヒド、2,4−ジヒドロキシベンジルアルコール、2,6−ジヒドロキシベンジルアルコールなどが挙げられる。
【0014】
架橋剤に含まれるアルデヒド類は、例えば、グルタルアルデヒド、グリセリンアルデヒドなどが挙げられる。その他、架橋剤には、シランカップリング剤も用いることができる。
シランカップリング剤は下記化学式1(化1)の化学構造で表される。
【0015】
【化1】


化1において、Xはアミノ基、エポキシ基、メタクリル基、ビニル基、メルカプト基、スルフィド基等の有機官能基をしめす。ORはメトキシ基、メトキシ基、アセトキシ基等のアルコキシ基を示す。nは、1または2である。
【0016】
架橋促進剤としては、例えば、カテキン、リグニンなどの多価フェノール化合物が用いられる。
カテキンは、例えば、茶葉、柿渋、樹皮またはカカオの実などから抽出されたものであり、エピカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレートまたはこれらの属性体のうち少なくとも1種類以上を含む。
リグニンは木材中にセルロースに伴って存在し、木材中から分離し取り出す必要がある。炭水化物を溶かしリグニンを不溶解残物として分離する方法が良く知られている。
例えば、酸リグニン(硫酸リグニン、塩酸リグニン、等)、酸化銅アンモニアリグニン、過ヨウ酸リグニン、リグニンを無機試薬により溶解して分離する方法により得られる、アルカリリグニン、リグノスルホン酸、チオリグニン、クロルリグニン、リグニンを有機試薬により溶解して分離する方法により得られる、ブラウンス天然リグニン、ブジョルクマンリグニン、ジオキサンリグニン、ハイドロトロピックリグニン、アルコールリグニン、フェノールリグニン、酢酸リグニン等が挙げられる。
【0017】
なお、上記主剤には、少量のフイブリン糊、ラテックス乳液、ポリアクリレート、エポキシ樹脂、などそれ自体公知の接着成分を添加してもよい。これらの配合物の添加割合は、本発明の接着剤の特性が失われない限度において任意である
【0018】
[実施の形態の効果]
本実施形態の接着剤は、主剤を構成するゼラチンとして、常温で水に可溶であり、熱変性温度が25℃以下の寒流系海洋生物由来コラーゲンが変性したものを用いた。
主剤は常温で架橋剤と反応して、迅速に凝集が起こる。よって、ゲル化しているものを事前に加温することなく、接着剤として使用することができる。
そして架橋剤としてホルムアルデヒドが含まれていないので、毒性が低く、医師への健康被害への懸念が低減され利便性に優れる。
【0019】
また、ゼラチンは、水棲生物由来であるため、さらに経済的で安定的に供給できる。
本接着剤は、牛由来コラーゲン、豚由来コラーゲン、鳥由来コラーゲンを用いる場合と比較してBSE、鳥インフルエンザなど安全性が懸念されるという問題がなく、利便性が高い。
【0020】
そして、本接着剤において、前記架橋剤として、主剤との架橋反応を促進させるためにグルタルアルデヒド、グリセリンアルデヒド、シランカップリング剤の少なくともいずれか一つが使用される。
そのため、ホルムアルデヒドを含まなくても接着剤として機能するものが作製できる。
【0021】
さらに、本接着剤には、カテキンやリグニンなどの多価フェノールを主成分とする架橋促進剤が含まれている。
本接着剤では、さらにカテキンまたはリグニンなどの多価フェノールを主成分とする架橋促進剤が含まれているので、ホルムアルデヒドを含まずに主剤を架橋し、接着剤として必要な接着性能を得ることができる。
【0022】
本接着剤は、毒性が低く利便性に優れるため、医療用接着剤、例えば、外科用接着剤として好適に利用できる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例等の内容に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
ゼラチン(アテロコラーゲン:魚(サケ)由来コラーゲン、熱変性温度約17℃、エア・ウォーター株式会社製)/レゾルシン(関東化学株式会社製)/水=15wt%/5wt%/80wt%の割合で主剤を作製した。50%グルタルアルデヒド水溶液(グルタルアルデヒド50%溶液、和光純薬株式会社製)/カテキン(ポリフェノン70−A、三井農林株式会社製)の20%水溶液/水=20wt%/40wt%/40wt%の割合で混合し架橋剤を調整した。図1の(A)に示すように、主剤11は常温でゲル化せず溶液であった。また、図1の(B)に示すように、架橋剤12も溶液であった。そして、主剤と架橋剤を1:1の割合で混合した。図1の(C)に示すように、凝集体13が出来、粘着性のあるガム状のものが数分で硬化した。
【0024】
[実施例2]
ゼラチン(アテロコラーゲン:魚(サケ)由来コラーゲン、熱変性温度約17℃、エア・ウォーター株式会社製)/レゾルシン(関東化学株式会社製)/水=15wt%/5wt%/80wt%で主剤を作製した。50%グルタルアルデヒド水溶液(グルタルアルデヒド50%溶液、和光純薬株式会社製)/リグニン(和光純薬株式会社製)の20%水溶液/水=20wt%/40wt%/40wt%の架橋剤を作製した。図2の(A)に示すように、主剤21は常温でゲル化せず溶液であった。また、図2の(B)に示すように、架橋剤22も溶液であった。そして、主剤21と架橋剤22を1:1の割合で混合した。その結果、図2の(C)に示すように、凝集体23が出来、粘着性のあるガム状のものが数分で硬化した。
[実施例3]
ゼラチン(アテロコラーゲン:魚(サケ)由来コラーゲン、熱変性温度約17℃、エア・ウォーター株式会社製)の15wt%水溶液にカテキン(ポリフェノン70−A、三井農林株式会社製)の20wt%水溶液、シランカップリング剤(KBE−603、信越化学工業株式会社製)を77wt%/19wt%/4wt%の割合で順に混合し、シランカップリング剤の添加により硬化させて、図4に示す凝集体51を得た。
【0025】
[実施例4]
実施例1で用いた主剤に、架橋剤として10%グルタルアルデヒド水溶液を1:1の割合で混合したところ、図1(C)と同様に、粘着性のあるガム状の凝集体が出来た。この凝集体は、架橋促進剤としてカテキンを含んでいないため、実施例1,2の凝集体と比べて、硬化まで時間がかかった。
【0026】
[比較例1]
ゼラチン(関東化学社製、熱変性温度約37℃)の15%水溶液に、カテキン(ポリフェノン70−A、三井農林株式会社製)の20%水溶液を1:1の割合で混合して主剤を作製した。図3の(A)に示すように、得られた主剤31は、ガム状に凝集し、ペースト状は維持できず、架橋剤と混ぜることは困難であった。なお、本比較例1は、特許文献1の技術に相当するものである。
【0027】
[比較例2]
ゼラチン(関東化学社製、熱変性温度約37℃)の15%水溶液に、リグニン(和光純薬株式会社製)の20%水溶液を1:1で混合して主剤を作製した。図3の(B)に示すように、得られた主剤41は、沈殿が生じ、ペースト状は維持できず、架橋剤と混ぜることは困難であった。
実施例1〜4で用いたゼラチンは、常温で水に可溶であり、熱変性温度が25℃以下であるので、事前に加温することなく、凝集させることができた。また、架橋剤としてホルムアルデヒドを主成分として架橋させた外科用接着剤と同様の接着性能、硬化性能が得られた。また、実施例4の結果から、凝集促進剤を添加しないと硬化性が不足することがわかった。
一方、比較例1,2に示すとおり、主剤としてゼラチンにカテキンやリグニンを含ませると凝集してしまい、主剤を架橋剤と混ぜることができず、外科用接着剤としては使用できないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の接着剤は、毒性が低く利便性に優れるため、人や家畜等の外科手術等、医療用途で好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1の主剤(A)、架橋剤(B)および接着剤(C)を示す図。
【図2】実施例2の主剤(A)、架橋剤(B)および接着剤(C)を示す図。
【図3】比較例1の主剤(A)および比較例2の主剤(B)を示す図。
【図4】実施例3の接着剤を示す図。
【符号の説明】
【0030】
11、21、31、41……主剤
12、22……架橋剤
13、23、51……接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤と架橋剤とを含む接着剤であって、
前記主剤は、常温で水に可溶であり、熱変性温度が25℃以下のコラーゲンが変性したゼラチンを主成分としたことを特徴とする接着剤。
【請求項2】
請求項1に記載の接着剤であって、
前記ゼラチンは、水棲生物由来であることを特徴とする接着剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の接着剤であって、
前記架橋剤は、グルタルアルデヒド、グリセリンアルデヒド、シランカップリング剤のうち少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする接着剤。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の接着剤であって、
多価フェノールを主成分とする架橋促進剤をさらに含むことを特徴とする接着剤。
【請求項5】
請求項4に記載の接着剤であって、
前記多価フェノールは、カテキン又はリグニンであることを特徴とする接着剤。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の接着剤であって、
医療用として用いることを特徴とする接着剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−132770(P2010−132770A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309865(P2008−309865)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(500242384)出光テクノファイン株式会社 (55)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)
【Fターム(参考)】