説明

接着剤

【課題】接着対象を適切な位置関係で接着できなくなったり、接着対象周辺の美観を損ねてしまったりすることを防止する。
【解決手段】超常磁性粒子それぞれが分散されているため、接着に際して外部から磁場を印加することで、接着剤そのものを磁場の印加領域に保持させたり、磁場の印加領域を変位させることで接着剤そのものを移動させることができる。これにより、接着剤としての粘度を下げても、接着時に外部から磁場を印加しておくことで、重力により接着剤自体が流れる『液だれ』を防止できるため、接着対象を適切な位置関係で接着できなくなったり、接着対象周辺の美観を損ねてしまうことを防止できる。また、接着剤そのものを磁場が印加されている領域と共に移動させることができるため、微細な隙間において接着剤を浸透させるべき方向に磁場を印加することにより、その浸透をより適切かつ迅速に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細な隙間に速やかに浸透できるように構成された接着剤として、特定の成分構成からなる接着剤が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−263048号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記接着剤においては、微細な隙間への浸透を実現するために、反応性希釈剤を配合して粘度を下げることで浸透性を向上させているため(先行技術文献1の段落0016)、接着対象の位置関係によっては、重力により接着剤自体が流れる『液だれ』が発生してしまい、接着対象を適切な位置関係で接着できなくなったり、接着対象周辺の美観を損ねてしまったりする恐れがある。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、接着対象を適切な位置関係で接着できなくなったり、接着対象周辺の美観を損ねてしまったりすることを防止するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため第1の構成(請求項1)は、複数の超常磁性粒子それぞれを基材中に分散させてなる接着剤であって、前記超常磁性粒子それぞれは、少なくとも、該超常磁性粒子におけるニール緩和時間τnが、あらかじめ定められた交流磁界の周期Tよりも短くなる(τn<T)ように定められた粒径で形成されている。
【0007】
このように構成された接着剤では、超常磁性粒子それぞれが分散されているため、接着に際して外部から磁場を印加することで、接着剤そのものを磁場が印加されている領域に保持させておいたり、磁場が印加されている領域を変位させることで接着剤そのものを移動させたりすることができる。
【0008】
これにより、微細な隙間に浸透できるように接着剤としての粘度を下げたとしても、接着時に外部から磁場を印加しておくことで、重力により接着剤自体が流れる『液だれ』を防止できるため、接着対象を適切な位置関係で接着できなくなったり、接着対象周辺の美観を損ねてしまったりするといったことを防止できる。
【0009】
また、接着剤そのものを磁場が印加されている領域と共に移動させることができるため、微細な隙間において接着剤を浸透させるべき方向に磁場を印加することにより、その浸透をより適切かつ迅速に行うことができる。
【0010】
さらに、上記構成では、超常磁性粒子それぞれが分散されているため、接着剤として硬化した以降、超常磁性粒子自体の変位、つまりブラウン機構による磁化および消磁が制限される。そのため、超常磁性粒子の磁気応答は、粒子に内在する磁気モーメントの変位、つまりニール機構による磁化および消磁に依存する。
【0011】
このとき、ニール機構により磁化および消磁するのに要する時間(緩和時間)τは、超常磁性粒子の粒径に応じて遅くなるが、超常磁性粒子それぞれは、少なくとも超常磁性粒子におけるニール緩和時間τnが、あらかじめ定められた交流磁界の周期Tよりも短くなる(τn<T)ように粒径が定められている。つまり、この交流磁界の周期Tが上記緩和時間τよりも短くなることはなく、この周期Tに磁気応答が追いつかなくなることがないため、結果的に磁気ヒステリシスを生じることはない。
【0012】
よって、接着対象が所定の磁場環境下で使用されるものである場合には、その交流磁界の周期Tに応じて粒径を決定しておくことで、磁気ヒステリシスが生じなくなり、外部に影響を及ぼすような磁束を発生することがない。つまり、上記接着剤であれば、磁場環境下で使用される接着対象であっても使用することができるという点で汎用性が高い。
【0013】
また、上記構成において、前記超常磁性粒子それぞれは、第2の構成(請求項2)のように、該超常磁性粒子の表面に非磁性のコーティング層が形成されている、とよい。
この構成であれば、超常磁性粒子それぞれに非磁性のコーティング層が形成されているため、この超常磁性粒子それぞれを基材中に分散させた際の両者の親和性を高めることができ、これにより、超常磁性粒子それぞれの位置関係を適切に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】超常磁性粒子における粒径と緩和時間との関係を示すグラフ
【図2】異なる温度、異方性定数における超常磁性粒子の粒径と緩和時間との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
接着剤は、複数の超常磁性粒子それぞれを分散させてなるものであり、この超常磁性粒子それぞれの粒径は、磁気応答の速度に応じて定められている。
【0016】
磁気応答は、粒子そのものが反転するブラウン機構、および、粒子における磁気スピンが反転するニール機構それぞれによるものであり、図1に示すように、その速度は、ブラウン機構およびニール機構それぞれにおいて反転が起こる時間(緩和時間)τで決まる。
【0017】
この緩和時間τは、超常磁性粒子の粒径dに応じて長くなるが、ニール機構による緩和時間τnの方が、ブラウン機構による緩和時間τbに比べて粒径による変動幅が大きく、一定の粒径dthを超えるまで緩和時間τbより小さいが、粒径dthを超えた以降、緩和時間τbより大きくなる。つまり、粒径dthを超えなければ、ブラウン機構よりもニール機構における磁気応答の方が速く、ニール機構による磁気応答が優勢になる一方、粒径dthを超えると、ブラウン機構よりもニール機構による磁気応答の方が遅くなり、ブラウン機構による磁気応答が優勢になる。
【0018】
また、ニール機構による緩和時間τnは、以下に示す式1により求められるものであり、定数(定数とみなせるものも含む)を除くと、温度T,異方性定数кおよび粒径Rに応じて決まる値になる。
【0019】
【数1】

図2に、この式1に基づき、複数の温度T(本実施形態では、―40℃(≒233K)、25℃(≒298K)、130℃(≒403K))それぞれにおける粒径Rに応じた緩和時間τnの変化を表したグラフ(同図(a))と、複数の異方性定数к(本実施形態では、30,41,50,60,70)それぞれにおける粒径Rに応じた緩和時間τnを表したグラフ(同図(b))と、を示す。なお、この例では、超常磁性粒子として酸化鉄系の材料を使用した場合における基準緩和時間τ0として10^(−9)secを使用している。
【0020】
このグラフをみると、温度Tが高くなるほど、または、異方性定数кが小さくなるほど、同じ粒径Rに対する磁気応答(周波数応答)の性能が悪化することが分かる。また、粒径Rがある程度小さい領域になると、温度Tおよび異方性定数кの違いによる影響が少なくなっているため、この領域の粒径Rを採用すれば、外部環境の温度Tや異方性定数кこれらファクターの影響を受けないようにすることができる。
【0021】
このような特性に照らし、本実施形態では、少なくとも、超常磁性粒子におけるニール緩和時間τnが、接着対象が使用される環境下(つまり接着剤としての硬化後)で印加される交流磁界の周期Tよりも短くなる(τn<T)ように超常磁性粒子の粒径が定められている。
【0022】
また、超常磁性粒子それぞれは、接着剤としての硬化後、ブラウン機構による変位が制限(本実施形態では、抑止)されるように保持され、それぞれが直接または間接的に密着することになる。ここでいう「間接的に密着」とは、超常磁性粒子表面に被膜を形成したり、何らかの媒体を介在させた状態での密着のことである。
【0023】
また、接着剤としての基材には、非磁性の部材として、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、シアノアクリレート樹脂などが用いられる。
【0024】
なお、超常磁性粒子それぞれは、隣接する超常磁性粒子における超常磁性の特性を所定のしきい値以上損なってしまうことのない位置関係となっていればよく、その位置関係が維持される濃度を上限として基材中に分散さる。
【0025】
こうして、超常磁性粒子を基材中に分散させる場合には、各超常磁性粒子の表面に非磁性のコーティング層を形成するなどの表面処理を施しておくことが、超常磁性粒子と基材との親和性を高めて安定的な分散を実現するために望ましい。このコーティング層としては、界面活性剤、酸化被膜、有機材料または非磁性の無機材料などを採用することが考えられる。
【0026】
上記実施形態のような構成の接着剤では、超常磁性粒子それぞれが分散されているため、接着に際して外部から磁場を印加することで、接着剤そのものを磁場が印加されている領域に保持させておいたり、磁場が印加されている領域を変位させることで接着剤そのものを移動させたりすることができる。
【0027】
これにより、微細な隙間に浸透できるように接着剤としての粘度を下げたとしても、接着時に外部から磁場を印加しておくことで、重力により接着剤自体が流れる『液だれ』を防止できるため、接着対象を適切な位置関係で接着できなくなったり、接着対象周辺の美観を損ねてしまったりするといったことを防止できる。
【0028】
また、接着剤そのものを磁場が印加されている領域と共に移動させることができるため、微細な隙間において接着剤を浸透させるべき方向に磁場を印加することにより、その浸透をより適切かつ迅速に行うことができる。
【0029】
さらに、上記構成では、超常磁性粒子それぞれが分散されているため、接着剤として硬化した以降、超常磁性粒子自体の変位、つまりブラウン機構による磁化および消磁が制限される。そのため、超常磁性粒子の磁気応答は、粒子に内在する磁気モーメントの変位、つまりニール機構による磁化および消磁に依存する。
【0030】
このとき、ニール機構により磁化および消磁するのに要する時間(緩和時間)τは、超常磁性粒子の粒径に応じて遅くなるが、超常磁性粒子それぞれは、少なくとも超常磁性粒子におけるニール緩和時間τnが、あらかじめ定められた交流磁界の周期Tよりも短くなる(τn<T)ように粒径が定められている。つまり、この交流磁界の周期Tが上記緩和時間τよりも短くなることはなく、この周期Tに磁気応答が追いつかなくなることがないため、結果的に磁気ヒステリシスを生じることはない。
【0031】
よって、接着対象が所定の磁場環境下で使用されるものである場合には、その交流磁界の周期Tに応じて粒径を決定しておくことで、磁気ヒステリシスが生じなくなり、外部に影響を及ぼすような磁束を発生することがない。つまり、上記接着剤であれば、磁場環境下で使用される接着対象であっても使用することができるという点で汎用性が高い。
【0032】
また、上記実施形態では、超常磁性粒子それぞれに非磁性のコーティング層が形成されているため、この超常磁性粒子それぞれを基材中に分散させた際の両者の親和性を高めることができ、これにより、超常磁性粒子それぞれの位置関係を適切に維持することができる。
【符号の説明】
【0033】

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の超常磁性粒子それぞれを基材中に分散させてなる接着剤であって、
前記超常磁性粒子それぞれは、少なくとも、該超常磁性粒子におけるニール緩和時間τnが、あらかじめ定められた交流磁界の周期Tよりも短くなる(τn<T)ように定められた粒径で形成されている
ことを特徴とする接着剤。
【請求項2】
前記超常磁性粒子それぞれは、該超常磁性粒子の表面に非磁性のコーティング層が形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の接着剤。

【図1】
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【図2】
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