説明

接着接合方法およびそれを用いる車体構造部品

【課題】接着精度および強度を向上する。
【解決手段】導電性を有する部材1,2同士を接着接合するにあたって、一方の部材1の接着面1aに対して、ディスペンサ6,7によって、導電性を有する第1の接着剤4を仮止め用としてスポット形成するとともに、所望の接着強度を得るために接着範囲の全面に亘って、本接着用に、熱硬化性を有する第2の接着剤5を塗布する(a)。続いて、両方の部材1,2を貼り合せ、部材2から部材1へ電流を流し、第1の接着剤4を硬化させて仮止めを行ない、その後、加熱によって前記第2の接着剤5を硬化させて本接着を行う(b)。したがって、極めて簡単な手法で、複数の仮止め箇所を同時に接着接合させることができ、該仮止め用の接着剤4の収縮に伴う歪みの発生を抑え、第2の接着剤5による最終的な接着を、高い精度および強度で実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着接合方法およびそれが好適に用いられる車体構造部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車体を構成する部材同士を接合する手法として、スポット溶接やレーザ溶接等の溶接が用いられているが、近年では、材料の多様化に対応するために、また広範囲な面による接合で剛性を向上し易いことから、接着剤による接着も用いられるようになっている。その接着剤による接着は、一般に、塗布した接着剤を熱によって硬化させることで実現される。たとえば、170℃で30分という具合である。
【0003】
その接着剤の中で、近年では、特許文献1に開示されているように、外部から一部に付与されたエネルギーによって硬化を開始し、その硬化に伴って発生した熱が隣接部位に伝播して硬化してゆく連鎖反応型の接着剤も注目されている。この接着剤によれば、従来の紫外線硬化型の接着剤などが使い難い紫外線照射が困難な位置に被着箇所が設定される場合でも、内方まで確実に硬化させることができる。
【特許文献1】特開平11−193322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記の連鎖反応型の接着剤による接着では、部位によって硬化時期が異なり、接着剤の硬化収縮に伴い、歪みが発生することがある。そして、この歪が大きいと、接合強度および接合精度が充分に得られなくなるという問題がある。
【0005】
一方、このような接着による歪みを抑える手法として、従来から、一旦仮止めを行った後、本接着を行うという方法がある。しかしながらこの仮止めを行うにも、仮止め箇所の全体のバランスを取って硬化させることが難しく、仮止めの段階で発生した歪みが、本接着でも残ってしまい、結果、本接着の精度および強度が低下するという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、接着剤の収縮に伴う歪みの発生を抑え、高い精度および強度で接着を行うことができる接着接合方法およびそれを用いる車体構造部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の接着接合方法は、導電性を有する部材同士を接着接合する方法において、前記部材の接着面間に、導電性を有する第1の接着剤をスポット形成するとともに、接着範囲の全面に亘って、熱硬化性を有する第2の接着剤を形成する工程と、前記部材の一方から他方へ電流を流し、前記第1の接着剤を硬化させて仮止めを行う工程と、前記仮止めの後、加熱によって前記第2の接着剤を硬化させて本接着を行う工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
上記の構成によれば、金属板などの導電性を有する部材同士を接着接合するにあたって、本発明では、少なくとも2種類の接着剤を用いる。注目すべきは、第1の接着剤は導電性を有するものとして仮止めに用い、第2の接着剤は熱硬化性(非導電性)を有するものとして本接着に用いることである。なお、部位や部材間隔に応じて、第2の接着剤として、複数種類の熱硬化性の接着剤が使い分けられてもよい。
【0009】
そして、これらの接着剤が任意の順で、一方の部材または両方の部材の接着面に対して、塗布などで所定の厚さに形成されて貼り合せられ、或いは対向する2つの部材間に接着剤が注入される。このときまた注目すべきは、第2の接着剤は所望の接着強度を得るために接着範囲の全面に亘って形成されるものの、第1の接着剤はスポット形成されることである。続いて、部材の一方から他方へ電流を流し、前記第1の接着剤を硬化させて仮止めが行われ、その後、加熱によって前記第2の接着剤を硬化させて本接着が行われる。
【0010】
したがって、両方の部材の導電性を利用して、導電性を有する第1の接着剤のスポットを仮止めに用いるので、複数の仮止め箇所を通電によって略同時に接着接合させることができる。こうして、極めて簡単な手法で、仮止め用の接着剤の収縮に伴う歪みの発生を抑え、本接着による最終的な接着を、高い精度および強度で実現することができる。
【0011】
また、本発明の接着接合方法では、前記本接着の工程は、塗膜の乾燥工程であることを特徴とする。
【0012】
上記の構成によれば、塗膜を乾燥させるための熱を利用して、第2の接着剤を硬化させることができる。
【0013】
したがって、本接着の工程を乾燥工程と併用して、工程を短縮することができるとともに、第2の接着剤を均一に硬化させることができる。
【0014】
さらにまた、本発明の接着接合方法では、前記第1の接着剤は、自身の硬化に伴って熱を発生し、その熱が隣接部位に伝播して硬化してゆく連鎖反応型の接着剤であることを特徴とする。
【0015】
上記の構成によれば、前記第1の接着剤の通電加熱による硬化を、より確実に行わせることができる。
【0016】
また、本発明の接着接合方法では、前記部材において、前記第1の接着剤のスポット形成箇所は、凹所に形成されることを特徴とする。
【0017】
上記の構成によれば、第1の接着剤を硬化させるにあたって、該第1の接着剤のスポット形成箇所を凹所に形成しておくことで、該第1の接着剤の量、したがって発熱量を増やし、確実に連鎖硬化反応を行わせることができる。
【0018】
さらにまた、本発明の接着接合方法では、前記部材の少なくとも一方は軸直角断面が略ハット状に形成されて、凹所の外周から延びるフランジを有し、そのフランジ部が他方の部材と接着接合される接着面となり、前記フランジ部の内周側に前記第2の接着剤が、外周側に前記第1の接着剤のスポットが、それぞれ形成されることを特徴とする。
【0019】
上記の構成によれば、前記部材の少なくとも一方は軸直角断面が略ハット状に形成されて、凹所の外周から延びるフランジを有し、そのフランジ部が他方の部材と接着接合されることで、両部材が袋状の構造となる場合において、その袋の内周側に前記第2の接着剤を、外周側に前記第1の接着剤のスポットを、それぞれ形成する。
【0020】
したがって、力が掛かり易く、剥がれ易い内周側を本接着することで、接着強度を高めることができる。
【0021】
また、本発明の車体構造部品は、前記の接着接合方法を用いて作成されることを特徴とする。
【0022】
上記の構成によれば、接着接合によって組立てられる車体構造部品に対して、簡単な手法で、強度を高めることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の接着接合方法およびそれを用いる車体構造部品は、以上のように、導電性を有する部材同士を接着接合するにあたって、前記部材の接着面間に、導電性を有する第1の接着剤をスポット形成するとともに、接着範囲の全面に亘って、熱硬化性を有する第2の接着剤を形成して、それらの部材の一方から他方へ電流を流し、前記第1の接着剤を硬化させて仮止めした後に、加熱によって前記第2の接着剤を硬化させて本接着を行う。
【0024】
それゆえ、両方の部材の導電性を利用して、導電性を有する第1の接着剤のスポットを仮止めに用いるので、複数の仮止め箇所を通電によって略同時に接着接合させることができる。こうして、極めて簡単な手法で、仮止め用の接着剤の収縮に伴う歪みの発生を抑え、本接着による最終的な接着を、高い精度および強度で実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の一形態に係る接着接合方法を説明するための斜視図である。本実施の形態は、図1(a)で示すような軸直角断面が略ハット状の2つの部材1,2を貼り合せ、図1(b)で示すような中空柱状の部材3に加工する例を説明する。図1では、図面および説明を簡略化するために、部材1,2は同形状としているが、互いに異なる形状や、一方が板状などであってもよい。作成された部材3は、たとえば自動車のフロントフレームなどの車体構造部品として使用することができる。
【0026】
注目すべきは、本発明の接着接合方法では、金属板などの導電性を有する前記部材1,2同士を接着接合するにあたって、少なくとも2種類の接着剤4,5を用い、第1の接着剤4は導電性を有するものとして仮止めに用い、第2の接着剤5は熱硬化性を有するものとして本接着に用いることである。なお、部位や部材1,2の間隔に応じて、第2の接着剤5として、複数種類の熱硬化性の接着剤が使い分けられてもよい。
【0027】
そして、これらの接着剤4,5が任意の順で、一方の部材または両方の部材(図1の例では部材1)の接着面1aに対して、ディスペンサ(液体定量吐出装置)6,7によってそれぞれ塗布され、所定の厚さに形成される。このときまた注目すべきは、図1(a)で示すように、第2の接着剤5は所望の接着強度を得るために接着範囲の全面に亘って形成されるものの、第1の接着剤4はスポット形成されることである。続いて、図1(b)で示すように、両方の部材1,2の接着面1a,2a同士が貼り合せられ、部材の一方(図1では部材2)から他方(同部材1)へ電流を流し、前記第1の接着剤4を硬化させて仮止めが行われ、その後、加熱によって前記第2の接着剤5を硬化させて本接着が行われる。
【0028】
具体的には、GND(アース)8に接続された導電性の治具9上に、図1(a)で示すように一方の部材1が載置され、前記ディスペンサ6,7の走査によって、接着剤4,5がそれぞれ塗布され、この図1(a)の状態となる。前記第1の接着剤4は、たとえば主剤として脂環式エポキシ樹脂を100重量部とするとき、硬化剤としてカチオン重合開始剤を0.6重量部を配合して成る前述の連鎖反応型の接着剤に対して、導電性微粉末としてカーボンブラックを50重量部添加して成り、前記のように導電性を有する。
【0029】
続いて、図1(b)で示すように、もう1つの部材2が重ねられて、クランパ10によって、前記治具9との間で、適宜所望の締付け力で挟持される。クランパ10は、図示しない基台上に立設される支柱10aに、その支柱10aの先端から揺動変位自在で、図1(a)の起立位置および図1(b)の転倒位置で保持固定可能なアーム10bを備えて構成される。アーム10bにおいて、部材2との接触部分は、絶縁体10cで覆われている。その後、もう1つの部材2にはクランパ11で電源線12が接続され、その電源線12はスイッチ13を介して電源14に接続されている。
【0030】
したがって、スイッチ13を導通することで、両方の部材1,2の導電性を利用して、第1の接着剤4に電流が流れて該第1の接着剤4が発熱・硬化し、複数の仮止め箇所を同時に接着接合させることができる。こうして、極めて簡単な手法で、仮止め用の接着剤4の収縮に伴う歪みの発生を抑え、第2の接着剤5による最終的な接着を、高い精度および強度で実現することができる。また、前記第1の接着剤4が、自身の硬化に伴って熱を発生し、その熱が隣接部位に伝播して硬化してゆく連鎖反応型の接着剤であることで、該第1の接着剤4の通電加熱による硬化を、より確実に行わせることができる。
【0031】
また、注目すべきは、本発明の接着接合方法では、前記部材1,2は、前記軸直角断面が略ハット状に形成されて、凹所1b,2bの外周から延びるフランジ1c,2cを有し、そのフランジ1c,2c部が他方の部材2,1と接着接合される前記接着面1a,2aとなり、両部材1,2が接着接合されることで両部材1,2が袋状の構造となる場合において、図1(a)で示すように、前記フランジ1c,2c部(袋)の内周側に前記第2の接着剤5が、外周側に前記第1の接着剤4のスポットが、それぞれ形成されることである。このように、力が掛かり易く、剥がれ易い内周側を本接着することで、接着強度を高めることができる。
【0032】
一方、前記本接着のための第2の接着剤5としては、従来からの熱硬化性(非導電性)の接着剤を用いることができる。たとえば、ダウケミカル社製の品名(登録商標)Betamate1496V、Betamate1480、Betamate1022Dなどである。これらは何れもエポキシ系で、その硬化条件は、たとえば前述のように170℃で30分である。このような通常の熱硬化性(非導電性)の接着剤を本接着に用いるにあたって、特に車体構造部品としては、塗膜の乾燥工程において、その乾燥熱を利用して、該第2の接着剤5を硬化させることが好ましい。このように作成することで、本接着の工程を乾燥工程と併用して、工程を短縮することができるとともに、該第2の接着剤5を均一に硬化させることができる。また、硬化に充分な時間に亘って加熱を継続することができる。本願発明者の実験結果によれば、接着強度は、前記の条件の第1の接着剤4の場合に2〜6MPa、上記の条件の第2の接着剤5の場合に20〜30MPaである。
【0033】
なお、上述の説明では、接着剤4,5が部材1の接着面1aに塗布された後に、部材1,2が貼り合せられたけれども、対向する2つの部材間に接着剤が注入されてもよい。
【0034】
[実施の形態2]
図2および図3は、本発明の実施の他の形態に係る接着接合方法を説明するための図であり、図2は部材21の斜視図であり、図3はこの部材21に前記部材2を重ねた状態を図2の切断面線III−IIIから見た断面図である。注目すべきは、本実施の形態では、第1の接着剤4を硬化させるにあたって、部材21において、前記第1の接着剤4のスポット形成箇所を、凹所21dに形成しておくことである。これによって、該第1の接着剤4の量、したがって発熱量を増やし、確実に連鎖硬化反応を行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の一形態に係る接着接合方法を説明するための斜視図である。
【図2】本発明の実施の他の形態に係る接着接合方法を説明するための斜視図である。
【図3】図2の切断面線III−IIIから見た断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1,2;21 部材
1a,2a 接着面
1b,2b 凹所
1c,2c フランジ
3 部材
4 第1の接着剤
5 第2の接着剤
6,7 ディスペンサ
8 GND
9 治具
10 クランパ
11 クランパ
12 電源線
13 スイッチ
14 電源
21d 凹所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する部材同士を接着接合する方法において、
前記部材の接着面間に、導電性を有する第1の接着剤をスポット形成するとともに、接着範囲の全面に亘って、熱硬化性を有する第2の接着剤を形成する工程と、
前記部材の一方から他方へ電流を流し、前記第1の接着剤を硬化させて仮止めを行う工程と、
前記仮止めの後、加熱によって前記第2の接着剤を硬化させて本接着を行う工程とを含むことを特徴とする接着接合方法。
【請求項2】
前記本接着の工程は、塗膜の乾燥工程であることを特徴とする請求項1記載の接着接合方法。
【請求項3】
前記第1の接着剤は、自身の硬化に伴って熱を発生し、その熱が隣接部位に伝播して硬化してゆく連鎖反応型の接着剤であることを特徴とする請求項1または2記載の接着接合方法。
【請求項4】
前記部材において、前記第1の接着剤のスポット形成箇所は、凹所に形成されることを特徴とする請求項3記載の接着接合方法。
【請求項5】
前記部材の少なくとも一方は軸直角断面が略ハット状に形成されて、凹所の外周から延びるフランジを有し、そのフランジ部が他方の部材と接着接合される接着面となり、前記フランジ部の内周側に前記第2の接着剤が、外周側に前記第1の接着剤のスポットが、それぞれ形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の接着接合方法。
【請求項6】
前記請求項1〜5のいずれか1項に記載の接着接合方法を用いて作成されることを特徴とする車体構造部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−82537(P2010−82537A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254085(P2008−254085)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】