接触インジケータ
【課題】形状異方性に基づく変色性を有するフィラーの少なくとも一部が垂直に配向して塗膜の表面から突出しており、圧力印加部分でフィラーの突出部分が倒れて、色の変化により接触が視認される接触インジケータを提供する。
【解決手段】基材11と基材11の表面に塗布され硬化された塗布膜12とを備え、塗布膜12が、バインダー12aと形状異方性に基づく変色性を有するフィラー12bとを含んでおり、フィラー12bが、バインダー12a中で塗布膜12の表面に対してほぼ垂直に配向しかつ少なくとも一部が塗布膜12の表面から突出していて、塗布膜12の表面に圧力が加えられたとき塗布膜12におけるフィラー12b突出部分が変形することで塗布膜12の表面が変色して観察されるように、接触インジケータ10を構成する。
【解決手段】基材11と基材11の表面に塗布され硬化された塗布膜12とを備え、塗布膜12が、バインダー12aと形状異方性に基づく変色性を有するフィラー12bとを含んでおり、フィラー12bが、バインダー12a中で塗布膜12の表面に対してほぼ垂直に配向しかつ少なくとも一部が塗布膜12の表面から突出していて、塗布膜12の表面に圧力が加えられたとき塗布膜12におけるフィラー12b突出部分が変形することで塗布膜12の表面が変色して観察されるように、接触インジケータ10を構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接触インジケータに関する。さらに詳しくは、本発明は、表面に圧力が加えられた部分が変色して視認され得るようにした接触インジケータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、圧力インジケータとしては、例えば特許文献1や特許文献2に示すものが知られている。
特許文献1には、マイクロカプセル化した発色剤を塗布したフィルムと、顕色剤を塗布したフィルムとを組み合わせて圧力分布測定位置に挟んで加圧し、顕色剤を塗布したフィルムの発色の濃度によって圧力分布の測定を行い、その際、圧力測定フィルムとして、顕色剤を塗布したフィルムが表面に微細な凹凸を均一に有し、または圧力分布を測定するために使用される定盤として、表面に微細な凹凸を有する物を使用して、圧力分布を測定するようにした圧力測定フィルムが開示されている。このような構成の圧力分布測定フィルムによれば、上述した微細な凹凸形状により、測定時の圧力による荷重が加わる実効面積が減少する。これにより、実際に荷重が加えられる部分における圧力感度が向上し、僅かな圧力でも発色が可能になる。
【0003】
ところで、形状異方性を有するフィラーを、所謂バインダーに対して添加した塗布材料を使用して塗布膜を形成した場合に、塗布膜中のフィラーは塗装の際に塗工方向に沿って整列して配向することになる。
【0004】
これに対して、従来、表面に突起が施され機能性を付与するようにした塗布膜の形成が種々試行されており、このような表面突起膜に使用される材料や形成方法、そして付与される機能性は多岐に亘っている。
【0005】
例えば、特許文献2には、フィラーの一方の端部を磁性材料または誘電体で形成することにより、基材に塗布されたフィラーを含有する塗布材料の硬化前に、この塗布材料に対して磁界または電界を印加することによりフィラーを基材の表面に所定角度、好ましくは垂直に配向させるようにした溌水塗膜が開示されている。このような溌水塗膜によれば、塗膜中のフィラーの配向を制御することによって、垂直に配向したフィラーの少なくとも一部が塗布材料の表面から突出する。これにより、塗膜表面に高い溌水性が得られる。
【0006】
さらに、非磁性または非強磁性の光輝性顔料を配向制御するようにした塗布膜が、特許文献3や特許文献4に開示されている。特許文献3においては、樹脂中に分散された光輝性顔料を含む塗装材料を基材に塗布して強磁場中に配置することにより、光輝性顔料が配向制御され、塗装材料が硬化される。これにより、光輝性顔料が所定方向に配向している意匠性媒体が形成される。
【0007】
特許文献4においては、樹脂中に分散された顔料を含む塗装材料を基材に塗布して強磁場中に配置すると共に、パターン形成部分とその周辺とで異なる磁気勾配を生じさせることにより、パターン形成部分とその周辺とで顔料の異なる配向制御が行われ、塗装材料が硬化される。これにより、顔料がパターン形成部分でのみ所定方向に配向している意匠性媒体が形成される。
【0008】
【特許文献1】特開平06−331467号公報
【特許文献2】特開2006−205001号公報
【特許文献3】特開2007−054820号公報
【特許文献4】特開2007−029894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1による圧力測定フィルムでは、測定可能な圧力は1kg/cm2以下であるが、実際には例えば0.5kg/cm2程度と、高い圧力に限定されてしまう。このため、例えば指が触れた程度の低い圧力を検出することは不可能であった。
【0010】
特許文献2による溌水塗膜では、磁界または電界の印加によりフィラーを塗布材料の表面領域で所定角度に配向させるために、フィラーの一方の端部が磁性材料や誘電体から構成されている。従って、通常のフィラーの一端に磁性材料や誘電体を接着等により結合させる工程が必要になる。このため、フィラーのコストが高くなってしまう。
【0011】
また、フィラーは、一方の端部に結合された磁性材料や誘電体を磁界または電界を印加して誘引することにより、基材表面に対して所定角度で配向する。しかしながら、フィラーの少なくとも一部を表面から突出させるための具体的手段は明記されていない。
従って、この配向工程においては、塗布材料の表面からフィラーの他方の端部を突出させることはできないので、塗布材料の塗布厚がフィラーの長さより長い場合には、フィラーが塗布材料の表面から全く突出しない可能性もある。このため、フィラーの少なくとも一部を塗布材料の表面から突出させるためには、例えばワイピングや研磨等の工程が必要になるが、ワイピングや研磨等の工程により塗布材料の表面が荒れてしまい、塗膜の機能性が失われてしまうことがある。
【0012】
これに対して、特許文献3及び4により形成された意匠性媒体では、基材表面に対してフィラーを少なくとも部分的に所定角度で配向させることは可能であるが、フィラーの少なくとも一部を塗布材料の表面から突出させて、機能性を付与することは困難である。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑み、形状異方性に基づく変色性を有するフィラーの少なくとも一部が塗布膜の表面から突出しており、圧力印加部分でフィラーの突出部分が倒れて、色の変化により接触が視認され得るようにした接触インジケータを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の接触インジケータは、基材と基材の表面に塗布され硬化された塗布膜とを備え、塗布膜が、バインダーと形状異方性に基づく変色性を有するフィラーとを含んでおり、フィラーが、バインダー中で塗布膜の表面に対してほぼ垂直に配向しかつ少なくとも一部が塗布膜の表面から突出していて、塗布膜に圧力が加えられたとき塗布膜におけるフィラーの突出部分が変形することにより塗布膜の表面が変色して観察されることを特徴とする。
【0015】
上記構成によれば、形状異方性に基づく変色性を有するフィラーの少なくとも一部が塗布膜の表面から上方に突出している。これにより、外部から観察したとき、フィラーがほぼ直立した状態にあって、垂直状態の色が視認される。
これに対して、塗布膜の表面の少なくとも一部に圧力が印加されると、この圧力印加部分において、塗布膜の表面から上方に突出しているフィラーの部分が圧力によって倒れて塗布膜の表面に沿ってほぼ平行に変形する。従って、外部から観察したとき、フィラーがほぼ水平に倒れた状態にあって、水平状態の色が視認される。これにより、圧力印加部分のみフィラーが倒れることにより異なる色に変化するので、圧力印加部分が容易に認識できることになる。
【0016】
この場合、検出できる圧力は、フィラーの塗布膜の表面から突出している部分が倒れる程度、例えば1g/cm2のオーダーであるので、僅かな圧力、例えば人の手指が触れる程度の小さな圧力であっても確実に検出することが可能である。
【0017】
本発明の接触インジケータは、好ましくは、塗布膜が、バインダーの硬化前に塗布材料に対して磁場をかけて、フィラーを基材表面に対して垂直に配向させ、塗布材料を硬化させた後、フィラーが塗布膜の表面から突出するようにバインダーを表面から所定深さだけエッチングにより除去してなる。
【0018】
フィラーの異方性磁化率が正の場合にはその長手方向に関してより大きな磁気力を受けることになり、フィラーの長手方向が磁力線の方向に沿って配向する。フィラーの異方性磁化率が負の場合には短手方向に大きな磁化率を有しているので、フィラーはその短手方向が磁力線の方向に沿って配向する。この場合、フィラーを強磁場に限らず所定の磁場により特定の方向に配向させることができる。一方、フィラーが非磁性体の場合であっても、強磁場を用いることにより配向させることができる。このため、フィラーの材料は、磁性等の性質により制限されない。さらに、塗布材料の硬化後に、塗布膜の表面領域において所定深さだけバインダーがエッチングにより除去される。これにより、塗布膜の表面からフィラーの少なくとも一部が上方に突出する。従って、塗布膜の表面がワイピングや研磨等の工程により荒れてしまうようなことがない。
【0019】
本発明の接触インジケータは、好ましくは、塗布膜が、バインダーの硬化前に塗布材料の表面に対して垂直な強磁場をかけて、フィラーを基材表面に対して垂直に配向させ、かつ磁気アルキメデス効果により浮遊させたフィラーを塗布材料の表面領域に偏位して、塗布材料を硬化させてなる。この場合、表面に塗布材料が塗布された基材に対して垂直な強磁場が加えられることにより、硬化前のバインダー中において、形状異方性を有するフィラーが磁力線の方向に沿って配向すると同時に、重力の反対方向の磁気力を受けることになる。
【0020】
従って、フィラーには、所謂磁気アルキメデス効果が生じる、即ちこのフィラーに直接に作用する磁気力に加えて、重力とバインダーとの比重差による浮力と、さらにフィラーとバインダーの磁化率の差に基づいてバインダーより作用する磁気浮力とが作用する。そして、これら四つの力が釣り合うように、各フィラーがバインダー中を上下方向に偏位することになる。
【0021】
本発明の接触インジケータは、好ましくは、フィラーが非磁性体から成る。フィラーが反磁性体または常磁性体のような非磁性体から成る場合であっても、上述した磁気配向や磁気アルキメデス効果によりバインダー中で表面領域に凝集して、少なくとも一部が塗布膜の表面から上方に突出する。
【0022】
本発明の接触インジケータは、好ましくは、フィラーが光輝性顔料である。これにより光輝性顔料の垂直配向時と水平配向時の色調の変化によって、接触が視覚的に容易に視認され得る。
【0023】
本発明の接触インジケータは、好ましくは、フィラーの突出部分が圧力印加により塑性変形する。これにより圧力印加による色の変化が不可逆となるので、例えばセキュリティ用途にも利用することができる。
【0024】
本発明の接触インジケータは、好ましくは、フィラーの突出部分が圧力印加により弾性変形する。これにより、弾性変形の復元力によりフィラーの突出部分が元の垂直配向に戻るので、繰返し圧力を検出することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、常磁性体、強磁性体または非磁性体のフィラーであっても、形状異方性に基づく変色性を有するフィラーの少なくとも一部が塗布膜の表面領域から突出して、圧力によりフィラーの突出部分が倒れて水平状態になって異なる色調を呈するようにした接触インジケータが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。各図において同一又は対応する部材には同一符号を用いる。
図1は本発明による接触インジケータの構成を示す概略断面図である。図1において、接触インジケータ10は、基材11とこの基材11の表面に塗布され硬化された塗布膜12とから構成されている。塗布膜12は、バインダー12a中にフィラー12bを添加して硬化させた膜であり、十分に混合された状態で基材11の表面に塗布されるようになっている。フィラー12bは少なくともその一部が塗布膜12から突出している。ここで、フィラー12bは、高アスペクト比を有する細長い形状、例えば針状、板状、鱗状等の形状異方性を備えた形状を有している。
【0027】
図2は、図1の接触インジケータ10の(A)圧力印加前及び(B)圧力印加後の状態をそれぞれ示す模式的な断面図である。
図2(A)に示すように、塗布膜12の表面における領域Aに対して、人が手指で触れると、塗布膜12の表面に圧力が加えられる。このため、塗布膜12の表面の領域Aから上方に突出しているフィラー12bに対して圧力が加えられる。従って、この領域Aにおいてフィラー12bの塗布膜12の表面から突出している部分は、図2(B)に示すように倒れて、塗布膜12の表面に沿ってほぼ平行になる。これにより、外部から観察したとき、フィラー12bの水平状態が観察され、フィラー12bの水平状態における色調が視認される。
【0028】
このようにして、塗布膜12の表面のうち、圧力が加えられた領域でのみフィラー12bの突出部分が倒れて水平状態となって色調が変化するので、圧力が加えられた領域が一目で視認される。
【0029】
本発明の接触インジケータ10における基材11は非磁性体からなり、板状またはフィルム状の塗布膜12を塗布できる材料であれば、天然繊維、木材、各種プラスチックからなる合成樹脂、金属、セラミックス、ガラス、セメント、ケイ素化合物、生体材料などからなる種々の基材11を用いることができる。本発明において、非磁性体は、常磁性体、反強磁性体、反磁性体の何れかの総称である。
【0030】
合成樹脂からなる基材11としては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)からなるフィルムを使用することができる。さらに、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリメチルメタアクリレート、ABS樹脂、AS樹脂、セロハン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルペンテン、ポリブテン、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、液晶ポリエステル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、オキシベンゾイルポリエステル、ポリ乳酸、ポリカプロラクタムなどのプラスチック材料を用いることができる。
【0031】
金属からなる基材11としては、常磁性および反磁性の金属であるアルミ二ウム、銅、金、銀、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、アンチモン、テルル、鉛、パラジウム、カドミウム、ビスマス、スズ、セレン、インジウム等を用いることができる。金属からなる基材11は金属化合物を用いてもよく、上記常磁性及び反磁性の金属からなる、酸化物、窒化物又は合金等であってもよい。
【0032】
ここで、バインダー12aは、容易にフィラー12bを混合でき、塗布後の硬化工程において容易に硬化される材料を使用する。また、後述する接触インジケータ10の形成方法で、バインダー12aをエッチングして、フィラー12bを塗布膜12の表面に突出させる場合には、バインダー12aはフィラー12bよりもエッチングレートの高い材料を使用する。つまり、バインダー12aは、フィラー12bよりもエッチングされ易い材料であり、好ましくは選択エッチングできる材料であることが望ましい。
【0033】
バインダー12aとしては、有機系の紫外線硬化型、溶剤型、熱可塑型、熱硬化型の樹脂や、無機系の金属アルコキシドによるゾルゲル膜、無機高分子やケイ酸アルカリ水溶液などが使用される。
【0034】
紫外線硬化型のバインダー12aとしては、不飽和ポリエステル樹脂、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、スチレンアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0035】
溶剤型のバインダー12aとしては、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニルなどのビニル系樹脂や、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体などのスチレン系樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体などのエチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂、エチルセルロース、酢酸セルロース、硝酸セルロースなどのセルロース系樹脂、ポリカーボネート、フェノキシ樹脂、ポリエステルなどを挙げることができる。
【0036】
熱可塑型のバインダー12aとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリビニルホルマール、ポリアセタール、ポリ塩化ビニリデン、ナイロンなどが挙げられる。
【0037】
熱硬化型のバインダー12aとしては、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、尿素樹脂、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、キシレン樹脂、アルキド樹脂、シリコン樹脂、ジアリルフタレート樹脂などが挙げられる。なお、バインダー12aとして、熱可塑型樹脂や熱硬化性樹脂が使用される場合には、基材11として耐熱性のある材料が使用される必要がある。
【0038】
金属アルコキシドによるゾルゲル膜としては、Siアルコキシド、Alアルコキシド、その他Mgアルコキシド、Tiアルコキシド、Zrアルコキシドなどが挙げられる。Siアルコキシドとしては、トリメチルメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、テトラエトキシシランなどが挙げられる。Alアルコキシドとしては、アルミニウムメトキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムイソブトキシドなどが挙げられる。
【0039】
無機高分子としては、ポリシラザン、パーヒドロポリシラザンなどが挙げられる。
【0040】
フィラー12bは、アルミニウム、金、銀等の金属微粒子や、カーボン、ITO、酸化亜鉛、マイカ(雲母)等の無機材料、ポリマー微粒子等の有機材料からなる。
【0041】
フィラー12bは、後述する接触インジケータ10の形成方法でエッチング工程を用いる場合には、バインダー12aよりもエッチングレートの低い材料を用いる。好ましくはエッチングで溶解せず、かつ磁場に対して配向する非磁性体材料であって、形状異方性に基づく変色性を有する材料、例えば光輝性顔料、特にパール顔料が使用され得る。この場合、フィラー12bは、磁力線の方向や磁力線と直交する方向に配向すればよい。
ここで、形状異方性に基づく変色性とは、フィラー12bがほぼ垂直の状態とほぼ水平の状態とで、異なる色調で視認され得ることをいう。
【0042】
フィラー12bは、常磁性、反磁性、反強磁性の何れかである非磁性体からなる材料を使用することができる。フィラー12bの磁場配向に磁気アルキメデス効果を使用する場合には、フィラー12bは、垂直磁場に対して垂直に配向する異方性磁化率が正の非磁性体材料が使用され得る。また、フィラー12bの質量磁化率は、常磁性体が正の値であり、反磁性体では負の値である。さらに、フィラー12bの磁場配向に磁気アルキメデス効果を使用しない場合には、フィラー12bとしては、異方性磁化率が負の非磁性体材料を使用することができる。
【0043】
質量磁化率の例を挙げる。SiO2の質量磁化率は、−0.493×10−6m3/kgの反磁性体であり、Al2O3の質量磁化率は、−0.363×10−6m3/kgの反磁性体であり、MnCl2の質量磁化率は、114×10−6m3/kgの常磁性体であり、Fe3O4の質量磁化は、91.2Gm3/kgの強磁性体である。
この質量磁化率の絶対値が10−3m3/kg以下の微粒子であっても、磁場Hが強磁場である場合には、非磁性体から成るフィラー12bが、磁気配向して塗布膜12の表面に対して垂直方向に配向される。
【0044】
バインダー12aがポリエチレン等の有機系材料から成り、このバインダー12aを酸素プラズマエッチングにより溶解させる場合には、フィラー12bは、シリカや金属などの無機材料や、ポリイミドなどのエッチングレートの低い材料が使用される。
また、バインダー12aがポリスチレン等の有機系材料から成る場合は、このバインダー12aを溶媒によりエッチングすることができる。この場合、フィラー12bは上記溶媒に溶解しない無機材料やフッ素樹脂などの材料が使用される。
さらに、バインダー12aが無機系材料から成り、このバインダー12aを酸やアルカリ等によりエッチングする場合には、フィラー12bは、これらの酸やアルカリ等に対して耐久性があり溶解しない材料を用いる。バインダー12aが例えばSiO2の場合、フィラー12bとしてはポリエチレンなどを用いることができる。
【0045】
上述した実施形態においては、フィラー12bは非磁性体から構成されているが、これに限らず強磁性体から構成されていてもよいことは明らかである。
【0046】
本発明の接触インジケータ10は以上のように構成されており、非磁性体のフィラー12bであっても、塗布膜12の表面から突出した状態に偏位されるようにした、接触インジケータ10が提供される。
【0047】
本発明の接触インジケータ10によれば、形状異方性に基づく変色性を有するフィラー12bの少なくとも一部が塗布膜12の表面から上方に突出している。これにより、外部から観察したとき、フィラー12bがほぼ直立した状態にあって、垂直状態の色が視認される。
これに対して、塗布膜12の表面の少なくとも一部に圧力が印加されると、この圧力印加部分において、塗布膜12の表面から上方に突出しているフィラー12bの部分が圧力によって倒れて、塗布膜12の表面に沿ってほぼ平行に変形する。従って、外部から観察したとき、フィラー12bがほぼ水平に倒れた状態にあって水平状態の色が視認される。このため、圧力印加部分のみフィラー12bが倒れることで、異なる色に変化するので、圧力印加部分が容易に認識できる。
【0048】
接触インジケータ10において、フィラー12bが圧力印加により塑性変形する場合には、一回の接触で変色した後は、元の色調に戻らないので、例えばセキュリティ用途に利用され得る。
【0049】
接触インジケータ10において、フィラー12bが圧力印加により弾性変形する場合には、圧力が加えられて変形して色調が変化した後に、フィラー12bが元の垂直状態に復元して元の色調に戻るので、繰返し使用することができる。
【0050】
本発明の接触インジケータ10が検出できる圧力は、フィラー12bの塗布膜12の表面から突出している部分が倒れる程度、例えば1g/cm2のオーダーであるので、僅かな圧力、例えば人の手指が触れる程度の小さな圧力であっても確実に検出することが可能である。
【0051】
次に、本発明の実施形態による接触インジケータ10の第1の形成方法について説明する。
図3は接触インジケータ10の第1の形成方法を示すフローチャートである。
ステップS1において、バインダー12a中にフィラー12bを添加して混合することにより塗布材料を作製する。
【0052】
続いて、ステップS2において、この塗布材料を基材11の表面に塗布する。
ここで、基材11への塗布材料の塗布方法としては、スプレー法、刷毛塗り、グラビア印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、ダイレクトグラビアコート、グラビアリバースコート、マイクログラビアコート、ロールコート、ダイコート、スピンコート、ワイヤーバーコート、ナイフコート、エアーナイフコート、カーテンコ一ト、ディップコート、コンマコートなどの方法により行うことができる。
【0053】
バインダー12aは、容易にフィラー12bを混合でき、塗布後の硬化工程において容易に硬化され得ると共に、後述するエッチング工程でフィラー12bよりも比較的エッチングレートの高い材料を使用する。つまり、バインダー12aは、フィラー12bよりもエッチングされ易い材料であり、好ましくは選択エッチングできる材料である。
【0054】
その後、ステップS3において、塗布材料が塗布された基材11を磁石内に配置し、磁石を動作させて所定時間だけ磁場Hを印加する。
【0055】
図4は、図1の接触インジケータ10において、(A)及び(B)が硬化前の磁場印加開始時と、(C)が磁場印加後の、各状態を示す概略断面図である。
図4(A)に示すように、硬化前の接触インジケータ14において、フィラー12bは塗布材料が基材11の表面に塗布された後に、基材11の垂直方向に磁場Hをかけることにより、図4(C)に示すように基材11の垂直方向に配向する。図4(B)に示すように、硬化前の接触インジケータ14において、フィラー12bは塗布材料が基材11の表面に塗布された後に、基材11の水平方向に磁場Hをかけることにより、図4(C)に示すように基材11の垂直に配向させてもよい。
【0056】
図5は、図1の接触インジケータ10の形成工程における磁石20による磁場印加工程を示す一部破断斜視図であり、図6は磁石20の内部を示す部分拡大断面図である。
図5及び図6に示すように、磁場Hの印加は、具体的には磁石20を使用することにより実施される。図示するように、硬化前の塗布膜14が、磁石20内に配置されている。磁石20としては、永久磁石、電磁石を使用することができる。特に強磁場H’の発生が必要な場合には超伝導磁石を使用することができる。
ここで、磁石20は中空円筒状に構成されており、その垂直方向に延びる中空部21内において上向きの磁場Hが生成されるようになっている。これにより、中空部21内に上述したように塗布材料を塗布した基材11が配置されることで、塗布材料に対して磁場Hが印加される。
【0057】
次に、ステップS4において、磁石20の中空部21内で磁場Hを印加したままの状態で、適宜の方法により塗布材料のバインダー12aを硬化させる。例えば、バインダー12aとして紫外線硬化樹脂を用いる場合には、塗布材料が塗布された基材11に対して紫外線を照射することによりバインダー12aを硬化させる。また、バインダー12aとして熱硬化性樹脂を用いる場合には、赤外線などの熱源から熱を照射して硬化してもよい。このようにして、塗布膜12中においてフィラー12bが垂直方向に配向した状態においてバインダー12a中に固定保持される。
【0058】
続いて、磁場印加が停止し、その中空部21内から塗布膜12が形成された基材11が取り出された後、ステップS5において、塗布膜12の表面から所定深さだけバインダー12aがエッチングにより除去される。つまり、図4(B)において鎖線Cから上側における塗布膜12の表面から所定深さまでの範囲で、塗布膜12中のバインダー12aのみがエッチングにより除去される。
【0059】
エッチングは、バインダー12aに対してエッチングレートが高く、かつフィラー12bに対してエッチングレートが低くなるように、バインダー12a及びフィラー12bの材料に応じて適宜な方法、例えばドライエッチングやウェットエッチングが選定される。
これにより、塗布膜12中において垂直方向に配向したフィラー12bの多くが、塗布膜12のエッチングにより形成された新たな表面において、多くのフィラー12bが表面から突出することになる。このようにして、エッチングが行われることにより、接触インジケータ10が完成する(ステップS6参照)。
【0060】
磁気力としては、磁気アルキメデス効果による磁気浮上を利用してもよい。この場合、非磁性体のフィラー12bを磁気浮上させるには約0.5テスラ(T)以上の強磁場H’が必要となる。この強磁場H’の発生には、超伝導磁石20を用いることができる。
【0061】
接触インジケータ10の第1の形成方法によれば、バインダー12aの硬化前に磁場Hを印加することによって、バインダー12a中の例えば非磁性体から成るフィラー12bが基材に対して垂直方向に配向する。バインダー12aの硬化後のエッチング工程によりフィラー12bがバインダー12aの表面から突出する。このため、単にフィラーを塗布し配向させる場合よりも多くのフィラー12bを、塗布膜12の表面から上方に突出させることができる。
【0062】
次に、本発明の実施形態による接触インジケータ10の第2の形成方法について説明する。
図7は接触インジケータ10の第2の形成方法を示すフローチャートである。
ステップS11において、バインダー12a中にフィラー12bを添加して混合することにより、塗布膜12となる塗布材料を作製する。
【0063】
ステップS12において、図2(A)に示すように、この塗布材料を基材11の表面に塗布する。
ステップS13において、塗布材料が塗布された基材11を、図5に示すように超伝導磁石20の中空部21内に配置し、超伝導磁石20を動作させて所定時間だけ強磁場H’を印加する。これにより、図6に示すように、フィラー12bは、磁力線の方向に沿って配向すると同時に、磁気アルキメデス効果によって塗布材料の表面領域に偏位する。従って、フィラー12bは、バインダー12aの表面領域において少なくともその一部が表面から突出することになる。
【0064】
次に、ステップS14において、超伝導磁石20の中空部21内で強磁場H’を印加したままの状態で、塗布材料が塗布された基材11に対して適宜の方法により、塗布材料のバインダー12aを硬化させる。例えば、バインダー12aとして紫外線硬化樹脂を用いる場合には、塗布材料が塗布された基材11に対して紫外線を照射することでバインダー12aを硬化させる。また、バインダー12aとして熱硬化性樹脂を用いる場合には、赤外線などの熱源から熱を照射して硬化してもよい。このようにして、塗布膜12中においてフィラー12bが垂直方向に配向しかつ表面領域に変位して、少なくともその一部が表面から突出した状態において固定保持される。
【0065】
最後に、ステップS15において、超伝導磁石20が停止し、その中空部21内から塗布膜12が形成された基材11が取り出されることにより、接触インジケータ10が完成する。
【0066】
接触インジケータ10の第2の形成方法が上記した第1の形成方法と異なるのは、バインダー12a中のフィラー12bを、ステップS14において強磁場H’を印加して磁気浮上させ、表面領域において、少なくともその一部が表面から突出するようにしたことにある。従って、第1の形成方法のステップS5で用いたエッチングを実施しない。
【0067】
ステップS14の強磁場H’を用いた磁気浮上について説明する。
図8は、図5及び図6の磁石20による磁場印加及び磁場勾配を示す概略図である。磁石20は、強磁場H’の印加のために超伝導磁石を用いるものとして説明する。
図8に示すように、超伝導磁石20においてはその中空部21内において、垂直方向に関して磁気勾配が生ずることが知られている。この磁場勾配は、図8右側のグラフから明らかであるように、磁気中心Oから垂直方向にずれた位置において最大値を与えるようになっている。従って、このフィラー12bが磁気勾配の最大値付近に位置するように、塗布材料を塗布した基材11は、磁気中心Oから例えば上方に距離dだけずれた位置に配置される。
これにより、フィラー12bには、磁気勾配の最大値付近に配置されることによって最大限の磁気アルキメデス効果が作用する。この場合、フィラー12bは、その方向によって磁化率が異なり、長手方向に大きな磁化率を有している場合には、その長手方向が磁力線の方向に沿って配向する。
【0068】
即ち、フィラー12bには、図8に示すように、重力F1、バインダー12aとの比重差による浮力F2が作用していると共に、上述した強磁場H’によりフィラー12bに対して直接に作用する磁気力F3、そしてバインダー12aより作用する磁気浮力F4とが作用する。
ここで、上記磁気力F3及び磁気浮力F4即ち強磁場H’による磁気力Fは、下記(1)式で与えられる。
磁気力F=密度×質量磁化率×磁場強度×磁気勾配 (1)
従って、(1)式から磁気力Fを大きくするためには、媒質であるバインダー12aと媒体であるフィラー12bの質量磁化率の差を大きくする、磁場強度を強くする、磁気勾配を大きくすることが重要である。
なお、バインダー12aと媒体であるフィラー12bとの質量磁化率の差を大きくするためには、例えば一方を常磁性体とし、他方を反磁性体とすることが望ましい。
【0069】
そして、上記浮力F2及び磁気力F3、磁気浮力F4と重力F1とのバランスにより強磁場H’を適宜に選定することによって、フィラー12bをバインダー12a中において垂直に配向させ、かつ上方に偏位させることができる。これにより、フィラー12bは強磁場H’の磁力線の方向、即ち垂直方向に配向し、かつバインダー12a中を上方にその表面領域まで偏位して、フィラー12bの一部がバインダー12aの表面から突出するようにされる。
【0070】
ここで、磁場の値としては、質量磁化率にもよるが、磁場中心において1テスラ(T)以上の磁束密度であることが好ましい。このような磁場は、超伝導磁石20により発生させることができる。フィラー12bの質量磁化率の絶対値が10−3m3/kg以下の材料から成る微粒子であれば、1テスラ以上の強磁場H’をかけることによって、磁気アルキメデス効果によりフィラー12bをバインダー12aの任意の領域、特に表面領域に偏位させることができる。
【0071】
フィラー12bが反磁性体からなる材料の場合、フィラー12bは磁場に反発する力を受ける。塗布材料を磁場中心よりも上側に置くと、フィラー12bの反発力が重力よりも強い場合には、フィラー12bは塗布材料からなる膜の上部に分離する。バインダー12aが常磁性体からなる材料の場合、バインダー12aは磁場中心に誘引されるため、フィラー12bの塗布膜12の上部への分離はより促進される。
【0072】
フィラー12bが常磁性体や反強磁性体からなる材料の場合、フィラー12bは磁場に誘引される力を受ける。塗布材料を磁場中心よりも下側に置くと、フィラー12bが塗布材料の上部に分離する。
【0073】
フィラー12bは、形状異方性に基づく変色性を有する材料、例えばマイカ、シリカ、アルミナ等の非磁性体材料を主成分とする光輝性顔料が使用され得る。このような光輝性顔料の質量磁化率は、常磁性体が正の値であり、反磁性体では負の値である。例えば、反磁性体材料から成る場合には、フィラー12bの質量磁化率は10−6m3/kg以下であって、磁気異方性を有する。
【0074】
これにより、質量磁化率の絶対値が10−3m3/kg以下の非磁性体から成る微粒子であっても、強磁場H’の印加により磁気アルキメデス効果が発生するので、非磁性体から成る光輝性顔料等が確実に偏位される。
なお、上述した実施形態ではフィラー12bは非磁性体から構成されているが、これに限らず強磁性体から構成されていてもよいことは明らかである。
【0075】
接触インジケータ10の第2の形成方法によれば、フィラー12bを、強磁場H’の印加により磁気アルキメデス効果を利用して塗布材料の表面付近に偏位させるようにしている。これに限らず、超伝導磁石20内において基材11の下側に塗布材料が位置するように基材11を反転して配置し、フィラー12bを下方に向かって偏位させて、塗布材料の表面領域に偏位させたり、あるいは超伝導磁石20の適宜の制御によって上記四つの力F1〜F4のバランスを調整したりすることでフィラー12bの塗布材料の表面からの突出量を調整することも可能である。
このように塗布材料中において、フィラー12bが表面領域に偏位されることによって各フィラー12bの少なくとも一部が、塗布膜12の表面から突出することになる。
【0076】
本発明の接触インジケータ10の形成方法によれば、非磁性体のフィラー12bであっても、塗布膜12の表面から突出した状態になるようにした接触インジケータ10を作製することができる。このようにして作製した接触インジケータ10によれば、塗布膜12の表面からフィラー12bの一部が直立して突出していることで、外部から観察したときフィラー12bの垂直状態が観察されることになり、フィラー12bの垂直状態における色調が視認される。
【実施例】
【0077】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
実施例の接触インジケータ10において、バインダー12aとして、紫外線硬化樹脂(T&K TOKA製、UVフレキソニス)を、フィラー12bとして雲母を主成分とする光輝性顔料(資生堂製、Infinite R08)を、そして基材11としてPETフィルムを使用した。
【0078】
磁石20としては、超伝導磁石(住友重機械工業製、スプリット型HF5−100VT−50HT)を使用した。
【0079】
図9は、図1の接触インジケータ10の具体的な実施例で使用される超伝導磁石20の磁束密度分布及び磁気勾配を示すグラフである。図9の横軸は超伝導磁石20の中心からの位置(cm)で、左縦軸は磁束密度(T)、右縦軸は磁気勾配(T2/m)である。ここで、磁気勾配はBz×(dBz/dZ)で表わされ、Bzは位置がzのときの磁束密度である。
図9に示すように、超伝導磁石20は磁場中心近傍では5〜6テスラの磁束密度を有しており、磁気勾配は、磁束密度が最大となる位置よりもずれた位置で最大となることが分かる。
【0080】
90部のバインダー12aと10部のフィラー12bとを混合することにより塗布材料を作製し、この塗布材料を基材11上にワイヤーバーにより塗工し、硬化前の塗布膜15とした。
【0081】
この硬化前の塗布膜を超伝導磁石20の中空部21内に配置して、3分間だけ3テスラの磁場H中に静置して磁場配向を行い、フィラー12bを垂直配向させた。その後、磁場中で紫外線照射によりバインダー12aを硬化させて、厚さが約50μmの塗布膜12を形成した。続いて、この硬化した塗布膜12に対して、酸素プラズマ処理を10分間行うことにより、20μm厚のバインダー12aをエッチング除去して、厚さが約30μmの塗布膜12を有する接触インジケータ10を作製した。
【0082】
次に、実施例に対する比較例について説明する。
(比較例)
実施例と同じ硬化前の塗布膜に磁場Hを印加せずに、紫外線照射によりバインダー12aを硬化させて、厚さ50μmの塗布膜を形成した。続いて、この塗布膜に対して、酸素プラズマ処理を10分間行うことにより、約20μm厚のバインダー12aを約20μmエッチング除去して、厚さが約30μmの比較例の塗布膜を作製した。
【0083】
実施例及び比較例において、それぞれ製作した接触インジケータ10及び塗布膜を観察した。
図10は実施例の接触インジケータ10の断面における走査型電子顕微鏡像を示す。走査型電子顕微鏡の加速電圧は15kVであり、倍率は1500倍である。
図10から明らかなように、実施例の接触インジケータ10では、基材11の上に厚さが約30μmの接触インジケータ10が形成され、フィラー12bが基材11の表面に対して垂直に配向すると共に、塗布膜12の表面から突出して、塗布膜12の表面に露出したフィラー12bによる微細な突起が形成されていることが分かる。
これにより、外部から観察したとき小豆色の色調が観察されると共に、塗膜表面に圧力を加えた箇所のみで青紫色の色調に変化した。
【0084】
図11は比較例で形成した塗布膜の断面の走査型電子顕微鏡像を示す。図11から明らかなように、比較例の塗布膜の場合には、フィラー12bがバインダー12a中に均一に散在しかつ塗装方向に沿って横たわっており、表面から突出していないことが分かる。これにより、外部から観察したとき青紫色の色調が観察されると共に、塗布膜の表面に圧力を加えた箇所でも色調の変化は観察されなかった。
【0085】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、例えば、用いるバインダー12aやフィラー12bは接触インジケータ10の使用目的に応じて設定することができ、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係る接触インジケータは、フィラーを基材の表面領域に偏位させて、少なくとも一部を塗布膜の表面から突出させることにより圧力を加えられた箇所でフィラーの突出部分が倒れることにより、形状異方性に基づく変色性を有するフィラーが変色するので、容易にかつ確実に圧力印加箇所が検出される。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明による接触インジケータの構成を示す概略断面図である。
【図2】図1の接触インジケータの模式的な断面図で、(A)は圧力印加前の、(B)は圧力印加後の状態を示す。
【図3】図3は接触インジケータの第1の形成方法を示すフローチャートである。
【図4】図1の接触インジケータにおいて、(A)及び(B)が硬化前の磁場印加開始時と、(C)が磁場印加後の、各状態を示す概略断面図である。
【図5】図1の接触インジケータの形成工程における磁石による磁場印加工程を示す一部破断斜視図である。
【図6】図5の磁石の内部を示す部分拡大断面図である。
【図7】接触インジケータの第2の形成方法を示すフローチャートである。
【図8】図5及び図6の磁石による磁場印加及び磁場勾配を示す概略図である。
【図9】図1の接触インジケータの具体的な実施例で使用される超伝導磁石の磁束密度分布及び磁気勾配を示すグラフである。
【図10】実施例の接触インジケータの断面における走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【図11】比較例で形成した塗膜の断面の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【符号の説明】
【0088】
10:接触インジケータ
11:基材
12:塗布膜
12a:バインダー
12b:フィラー
14:硬化前の接触インジケータ
20:磁石(超伝導磁石)
21:中空部
【技術分野】
【0001】
本発明は接触インジケータに関する。さらに詳しくは、本発明は、表面に圧力が加えられた部分が変色して視認され得るようにした接触インジケータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、圧力インジケータとしては、例えば特許文献1や特許文献2に示すものが知られている。
特許文献1には、マイクロカプセル化した発色剤を塗布したフィルムと、顕色剤を塗布したフィルムとを組み合わせて圧力分布測定位置に挟んで加圧し、顕色剤を塗布したフィルムの発色の濃度によって圧力分布の測定を行い、その際、圧力測定フィルムとして、顕色剤を塗布したフィルムが表面に微細な凹凸を均一に有し、または圧力分布を測定するために使用される定盤として、表面に微細な凹凸を有する物を使用して、圧力分布を測定するようにした圧力測定フィルムが開示されている。このような構成の圧力分布測定フィルムによれば、上述した微細な凹凸形状により、測定時の圧力による荷重が加わる実効面積が減少する。これにより、実際に荷重が加えられる部分における圧力感度が向上し、僅かな圧力でも発色が可能になる。
【0003】
ところで、形状異方性を有するフィラーを、所謂バインダーに対して添加した塗布材料を使用して塗布膜を形成した場合に、塗布膜中のフィラーは塗装の際に塗工方向に沿って整列して配向することになる。
【0004】
これに対して、従来、表面に突起が施され機能性を付与するようにした塗布膜の形成が種々試行されており、このような表面突起膜に使用される材料や形成方法、そして付与される機能性は多岐に亘っている。
【0005】
例えば、特許文献2には、フィラーの一方の端部を磁性材料または誘電体で形成することにより、基材に塗布されたフィラーを含有する塗布材料の硬化前に、この塗布材料に対して磁界または電界を印加することによりフィラーを基材の表面に所定角度、好ましくは垂直に配向させるようにした溌水塗膜が開示されている。このような溌水塗膜によれば、塗膜中のフィラーの配向を制御することによって、垂直に配向したフィラーの少なくとも一部が塗布材料の表面から突出する。これにより、塗膜表面に高い溌水性が得られる。
【0006】
さらに、非磁性または非強磁性の光輝性顔料を配向制御するようにした塗布膜が、特許文献3や特許文献4に開示されている。特許文献3においては、樹脂中に分散された光輝性顔料を含む塗装材料を基材に塗布して強磁場中に配置することにより、光輝性顔料が配向制御され、塗装材料が硬化される。これにより、光輝性顔料が所定方向に配向している意匠性媒体が形成される。
【0007】
特許文献4においては、樹脂中に分散された顔料を含む塗装材料を基材に塗布して強磁場中に配置すると共に、パターン形成部分とその周辺とで異なる磁気勾配を生じさせることにより、パターン形成部分とその周辺とで顔料の異なる配向制御が行われ、塗装材料が硬化される。これにより、顔料がパターン形成部分でのみ所定方向に配向している意匠性媒体が形成される。
【0008】
【特許文献1】特開平06−331467号公報
【特許文献2】特開2006−205001号公報
【特許文献3】特開2007−054820号公報
【特許文献4】特開2007−029894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1による圧力測定フィルムでは、測定可能な圧力は1kg/cm2以下であるが、実際には例えば0.5kg/cm2程度と、高い圧力に限定されてしまう。このため、例えば指が触れた程度の低い圧力を検出することは不可能であった。
【0010】
特許文献2による溌水塗膜では、磁界または電界の印加によりフィラーを塗布材料の表面領域で所定角度に配向させるために、フィラーの一方の端部が磁性材料や誘電体から構成されている。従って、通常のフィラーの一端に磁性材料や誘電体を接着等により結合させる工程が必要になる。このため、フィラーのコストが高くなってしまう。
【0011】
また、フィラーは、一方の端部に結合された磁性材料や誘電体を磁界または電界を印加して誘引することにより、基材表面に対して所定角度で配向する。しかしながら、フィラーの少なくとも一部を表面から突出させるための具体的手段は明記されていない。
従って、この配向工程においては、塗布材料の表面からフィラーの他方の端部を突出させることはできないので、塗布材料の塗布厚がフィラーの長さより長い場合には、フィラーが塗布材料の表面から全く突出しない可能性もある。このため、フィラーの少なくとも一部を塗布材料の表面から突出させるためには、例えばワイピングや研磨等の工程が必要になるが、ワイピングや研磨等の工程により塗布材料の表面が荒れてしまい、塗膜の機能性が失われてしまうことがある。
【0012】
これに対して、特許文献3及び4により形成された意匠性媒体では、基材表面に対してフィラーを少なくとも部分的に所定角度で配向させることは可能であるが、フィラーの少なくとも一部を塗布材料の表面から突出させて、機能性を付与することは困難である。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑み、形状異方性に基づく変色性を有するフィラーの少なくとも一部が塗布膜の表面から突出しており、圧力印加部分でフィラーの突出部分が倒れて、色の変化により接触が視認され得るようにした接触インジケータを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の接触インジケータは、基材と基材の表面に塗布され硬化された塗布膜とを備え、塗布膜が、バインダーと形状異方性に基づく変色性を有するフィラーとを含んでおり、フィラーが、バインダー中で塗布膜の表面に対してほぼ垂直に配向しかつ少なくとも一部が塗布膜の表面から突出していて、塗布膜に圧力が加えられたとき塗布膜におけるフィラーの突出部分が変形することにより塗布膜の表面が変色して観察されることを特徴とする。
【0015】
上記構成によれば、形状異方性に基づく変色性を有するフィラーの少なくとも一部が塗布膜の表面から上方に突出している。これにより、外部から観察したとき、フィラーがほぼ直立した状態にあって、垂直状態の色が視認される。
これに対して、塗布膜の表面の少なくとも一部に圧力が印加されると、この圧力印加部分において、塗布膜の表面から上方に突出しているフィラーの部分が圧力によって倒れて塗布膜の表面に沿ってほぼ平行に変形する。従って、外部から観察したとき、フィラーがほぼ水平に倒れた状態にあって、水平状態の色が視認される。これにより、圧力印加部分のみフィラーが倒れることにより異なる色に変化するので、圧力印加部分が容易に認識できることになる。
【0016】
この場合、検出できる圧力は、フィラーの塗布膜の表面から突出している部分が倒れる程度、例えば1g/cm2のオーダーであるので、僅かな圧力、例えば人の手指が触れる程度の小さな圧力であっても確実に検出することが可能である。
【0017】
本発明の接触インジケータは、好ましくは、塗布膜が、バインダーの硬化前に塗布材料に対して磁場をかけて、フィラーを基材表面に対して垂直に配向させ、塗布材料を硬化させた後、フィラーが塗布膜の表面から突出するようにバインダーを表面から所定深さだけエッチングにより除去してなる。
【0018】
フィラーの異方性磁化率が正の場合にはその長手方向に関してより大きな磁気力を受けることになり、フィラーの長手方向が磁力線の方向に沿って配向する。フィラーの異方性磁化率が負の場合には短手方向に大きな磁化率を有しているので、フィラーはその短手方向が磁力線の方向に沿って配向する。この場合、フィラーを強磁場に限らず所定の磁場により特定の方向に配向させることができる。一方、フィラーが非磁性体の場合であっても、強磁場を用いることにより配向させることができる。このため、フィラーの材料は、磁性等の性質により制限されない。さらに、塗布材料の硬化後に、塗布膜の表面領域において所定深さだけバインダーがエッチングにより除去される。これにより、塗布膜の表面からフィラーの少なくとも一部が上方に突出する。従って、塗布膜の表面がワイピングや研磨等の工程により荒れてしまうようなことがない。
【0019】
本発明の接触インジケータは、好ましくは、塗布膜が、バインダーの硬化前に塗布材料の表面に対して垂直な強磁場をかけて、フィラーを基材表面に対して垂直に配向させ、かつ磁気アルキメデス効果により浮遊させたフィラーを塗布材料の表面領域に偏位して、塗布材料を硬化させてなる。この場合、表面に塗布材料が塗布された基材に対して垂直な強磁場が加えられることにより、硬化前のバインダー中において、形状異方性を有するフィラーが磁力線の方向に沿って配向すると同時に、重力の反対方向の磁気力を受けることになる。
【0020】
従って、フィラーには、所謂磁気アルキメデス効果が生じる、即ちこのフィラーに直接に作用する磁気力に加えて、重力とバインダーとの比重差による浮力と、さらにフィラーとバインダーの磁化率の差に基づいてバインダーより作用する磁気浮力とが作用する。そして、これら四つの力が釣り合うように、各フィラーがバインダー中を上下方向に偏位することになる。
【0021】
本発明の接触インジケータは、好ましくは、フィラーが非磁性体から成る。フィラーが反磁性体または常磁性体のような非磁性体から成る場合であっても、上述した磁気配向や磁気アルキメデス効果によりバインダー中で表面領域に凝集して、少なくとも一部が塗布膜の表面から上方に突出する。
【0022】
本発明の接触インジケータは、好ましくは、フィラーが光輝性顔料である。これにより光輝性顔料の垂直配向時と水平配向時の色調の変化によって、接触が視覚的に容易に視認され得る。
【0023】
本発明の接触インジケータは、好ましくは、フィラーの突出部分が圧力印加により塑性変形する。これにより圧力印加による色の変化が不可逆となるので、例えばセキュリティ用途にも利用することができる。
【0024】
本発明の接触インジケータは、好ましくは、フィラーの突出部分が圧力印加により弾性変形する。これにより、弾性変形の復元力によりフィラーの突出部分が元の垂直配向に戻るので、繰返し圧力を検出することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、常磁性体、強磁性体または非磁性体のフィラーであっても、形状異方性に基づく変色性を有するフィラーの少なくとも一部が塗布膜の表面領域から突出して、圧力によりフィラーの突出部分が倒れて水平状態になって異なる色調を呈するようにした接触インジケータが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。各図において同一又は対応する部材には同一符号を用いる。
図1は本発明による接触インジケータの構成を示す概略断面図である。図1において、接触インジケータ10は、基材11とこの基材11の表面に塗布され硬化された塗布膜12とから構成されている。塗布膜12は、バインダー12a中にフィラー12bを添加して硬化させた膜であり、十分に混合された状態で基材11の表面に塗布されるようになっている。フィラー12bは少なくともその一部が塗布膜12から突出している。ここで、フィラー12bは、高アスペクト比を有する細長い形状、例えば針状、板状、鱗状等の形状異方性を備えた形状を有している。
【0027】
図2は、図1の接触インジケータ10の(A)圧力印加前及び(B)圧力印加後の状態をそれぞれ示す模式的な断面図である。
図2(A)に示すように、塗布膜12の表面における領域Aに対して、人が手指で触れると、塗布膜12の表面に圧力が加えられる。このため、塗布膜12の表面の領域Aから上方に突出しているフィラー12bに対して圧力が加えられる。従って、この領域Aにおいてフィラー12bの塗布膜12の表面から突出している部分は、図2(B)に示すように倒れて、塗布膜12の表面に沿ってほぼ平行になる。これにより、外部から観察したとき、フィラー12bの水平状態が観察され、フィラー12bの水平状態における色調が視認される。
【0028】
このようにして、塗布膜12の表面のうち、圧力が加えられた領域でのみフィラー12bの突出部分が倒れて水平状態となって色調が変化するので、圧力が加えられた領域が一目で視認される。
【0029】
本発明の接触インジケータ10における基材11は非磁性体からなり、板状またはフィルム状の塗布膜12を塗布できる材料であれば、天然繊維、木材、各種プラスチックからなる合成樹脂、金属、セラミックス、ガラス、セメント、ケイ素化合物、生体材料などからなる種々の基材11を用いることができる。本発明において、非磁性体は、常磁性体、反強磁性体、反磁性体の何れかの総称である。
【0030】
合成樹脂からなる基材11としては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)からなるフィルムを使用することができる。さらに、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリメチルメタアクリレート、ABS樹脂、AS樹脂、セロハン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルペンテン、ポリブテン、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、液晶ポリエステル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、オキシベンゾイルポリエステル、ポリ乳酸、ポリカプロラクタムなどのプラスチック材料を用いることができる。
【0031】
金属からなる基材11としては、常磁性および反磁性の金属であるアルミ二ウム、銅、金、銀、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、アンチモン、テルル、鉛、パラジウム、カドミウム、ビスマス、スズ、セレン、インジウム等を用いることができる。金属からなる基材11は金属化合物を用いてもよく、上記常磁性及び反磁性の金属からなる、酸化物、窒化物又は合金等であってもよい。
【0032】
ここで、バインダー12aは、容易にフィラー12bを混合でき、塗布後の硬化工程において容易に硬化される材料を使用する。また、後述する接触インジケータ10の形成方法で、バインダー12aをエッチングして、フィラー12bを塗布膜12の表面に突出させる場合には、バインダー12aはフィラー12bよりもエッチングレートの高い材料を使用する。つまり、バインダー12aは、フィラー12bよりもエッチングされ易い材料であり、好ましくは選択エッチングできる材料であることが望ましい。
【0033】
バインダー12aとしては、有機系の紫外線硬化型、溶剤型、熱可塑型、熱硬化型の樹脂や、無機系の金属アルコキシドによるゾルゲル膜、無機高分子やケイ酸アルカリ水溶液などが使用される。
【0034】
紫外線硬化型のバインダー12aとしては、不飽和ポリエステル樹脂、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、スチレンアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0035】
溶剤型のバインダー12aとしては、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニルなどのビニル系樹脂や、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体などのスチレン系樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体などのエチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂、エチルセルロース、酢酸セルロース、硝酸セルロースなどのセルロース系樹脂、ポリカーボネート、フェノキシ樹脂、ポリエステルなどを挙げることができる。
【0036】
熱可塑型のバインダー12aとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリビニルホルマール、ポリアセタール、ポリ塩化ビニリデン、ナイロンなどが挙げられる。
【0037】
熱硬化型のバインダー12aとしては、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、尿素樹脂、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、キシレン樹脂、アルキド樹脂、シリコン樹脂、ジアリルフタレート樹脂などが挙げられる。なお、バインダー12aとして、熱可塑型樹脂や熱硬化性樹脂が使用される場合には、基材11として耐熱性のある材料が使用される必要がある。
【0038】
金属アルコキシドによるゾルゲル膜としては、Siアルコキシド、Alアルコキシド、その他Mgアルコキシド、Tiアルコキシド、Zrアルコキシドなどが挙げられる。Siアルコキシドとしては、トリメチルメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、テトラエトキシシランなどが挙げられる。Alアルコキシドとしては、アルミニウムメトキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムイソブトキシドなどが挙げられる。
【0039】
無機高分子としては、ポリシラザン、パーヒドロポリシラザンなどが挙げられる。
【0040】
フィラー12bは、アルミニウム、金、銀等の金属微粒子や、カーボン、ITO、酸化亜鉛、マイカ(雲母)等の無機材料、ポリマー微粒子等の有機材料からなる。
【0041】
フィラー12bは、後述する接触インジケータ10の形成方法でエッチング工程を用いる場合には、バインダー12aよりもエッチングレートの低い材料を用いる。好ましくはエッチングで溶解せず、かつ磁場に対して配向する非磁性体材料であって、形状異方性に基づく変色性を有する材料、例えば光輝性顔料、特にパール顔料が使用され得る。この場合、フィラー12bは、磁力線の方向や磁力線と直交する方向に配向すればよい。
ここで、形状異方性に基づく変色性とは、フィラー12bがほぼ垂直の状態とほぼ水平の状態とで、異なる色調で視認され得ることをいう。
【0042】
フィラー12bは、常磁性、反磁性、反強磁性の何れかである非磁性体からなる材料を使用することができる。フィラー12bの磁場配向に磁気アルキメデス効果を使用する場合には、フィラー12bは、垂直磁場に対して垂直に配向する異方性磁化率が正の非磁性体材料が使用され得る。また、フィラー12bの質量磁化率は、常磁性体が正の値であり、反磁性体では負の値である。さらに、フィラー12bの磁場配向に磁気アルキメデス効果を使用しない場合には、フィラー12bとしては、異方性磁化率が負の非磁性体材料を使用することができる。
【0043】
質量磁化率の例を挙げる。SiO2の質量磁化率は、−0.493×10−6m3/kgの反磁性体であり、Al2O3の質量磁化率は、−0.363×10−6m3/kgの反磁性体であり、MnCl2の質量磁化率は、114×10−6m3/kgの常磁性体であり、Fe3O4の質量磁化は、91.2Gm3/kgの強磁性体である。
この質量磁化率の絶対値が10−3m3/kg以下の微粒子であっても、磁場Hが強磁場である場合には、非磁性体から成るフィラー12bが、磁気配向して塗布膜12の表面に対して垂直方向に配向される。
【0044】
バインダー12aがポリエチレン等の有機系材料から成り、このバインダー12aを酸素プラズマエッチングにより溶解させる場合には、フィラー12bは、シリカや金属などの無機材料や、ポリイミドなどのエッチングレートの低い材料が使用される。
また、バインダー12aがポリスチレン等の有機系材料から成る場合は、このバインダー12aを溶媒によりエッチングすることができる。この場合、フィラー12bは上記溶媒に溶解しない無機材料やフッ素樹脂などの材料が使用される。
さらに、バインダー12aが無機系材料から成り、このバインダー12aを酸やアルカリ等によりエッチングする場合には、フィラー12bは、これらの酸やアルカリ等に対して耐久性があり溶解しない材料を用いる。バインダー12aが例えばSiO2の場合、フィラー12bとしてはポリエチレンなどを用いることができる。
【0045】
上述した実施形態においては、フィラー12bは非磁性体から構成されているが、これに限らず強磁性体から構成されていてもよいことは明らかである。
【0046】
本発明の接触インジケータ10は以上のように構成されており、非磁性体のフィラー12bであっても、塗布膜12の表面から突出した状態に偏位されるようにした、接触インジケータ10が提供される。
【0047】
本発明の接触インジケータ10によれば、形状異方性に基づく変色性を有するフィラー12bの少なくとも一部が塗布膜12の表面から上方に突出している。これにより、外部から観察したとき、フィラー12bがほぼ直立した状態にあって、垂直状態の色が視認される。
これに対して、塗布膜12の表面の少なくとも一部に圧力が印加されると、この圧力印加部分において、塗布膜12の表面から上方に突出しているフィラー12bの部分が圧力によって倒れて、塗布膜12の表面に沿ってほぼ平行に変形する。従って、外部から観察したとき、フィラー12bがほぼ水平に倒れた状態にあって水平状態の色が視認される。このため、圧力印加部分のみフィラー12bが倒れることで、異なる色に変化するので、圧力印加部分が容易に認識できる。
【0048】
接触インジケータ10において、フィラー12bが圧力印加により塑性変形する場合には、一回の接触で変色した後は、元の色調に戻らないので、例えばセキュリティ用途に利用され得る。
【0049】
接触インジケータ10において、フィラー12bが圧力印加により弾性変形する場合には、圧力が加えられて変形して色調が変化した後に、フィラー12bが元の垂直状態に復元して元の色調に戻るので、繰返し使用することができる。
【0050】
本発明の接触インジケータ10が検出できる圧力は、フィラー12bの塗布膜12の表面から突出している部分が倒れる程度、例えば1g/cm2のオーダーであるので、僅かな圧力、例えば人の手指が触れる程度の小さな圧力であっても確実に検出することが可能である。
【0051】
次に、本発明の実施形態による接触インジケータ10の第1の形成方法について説明する。
図3は接触インジケータ10の第1の形成方法を示すフローチャートである。
ステップS1において、バインダー12a中にフィラー12bを添加して混合することにより塗布材料を作製する。
【0052】
続いて、ステップS2において、この塗布材料を基材11の表面に塗布する。
ここで、基材11への塗布材料の塗布方法としては、スプレー法、刷毛塗り、グラビア印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、ダイレクトグラビアコート、グラビアリバースコート、マイクログラビアコート、ロールコート、ダイコート、スピンコート、ワイヤーバーコート、ナイフコート、エアーナイフコート、カーテンコ一ト、ディップコート、コンマコートなどの方法により行うことができる。
【0053】
バインダー12aは、容易にフィラー12bを混合でき、塗布後の硬化工程において容易に硬化され得ると共に、後述するエッチング工程でフィラー12bよりも比較的エッチングレートの高い材料を使用する。つまり、バインダー12aは、フィラー12bよりもエッチングされ易い材料であり、好ましくは選択エッチングできる材料である。
【0054】
その後、ステップS3において、塗布材料が塗布された基材11を磁石内に配置し、磁石を動作させて所定時間だけ磁場Hを印加する。
【0055】
図4は、図1の接触インジケータ10において、(A)及び(B)が硬化前の磁場印加開始時と、(C)が磁場印加後の、各状態を示す概略断面図である。
図4(A)に示すように、硬化前の接触インジケータ14において、フィラー12bは塗布材料が基材11の表面に塗布された後に、基材11の垂直方向に磁場Hをかけることにより、図4(C)に示すように基材11の垂直方向に配向する。図4(B)に示すように、硬化前の接触インジケータ14において、フィラー12bは塗布材料が基材11の表面に塗布された後に、基材11の水平方向に磁場Hをかけることにより、図4(C)に示すように基材11の垂直に配向させてもよい。
【0056】
図5は、図1の接触インジケータ10の形成工程における磁石20による磁場印加工程を示す一部破断斜視図であり、図6は磁石20の内部を示す部分拡大断面図である。
図5及び図6に示すように、磁場Hの印加は、具体的には磁石20を使用することにより実施される。図示するように、硬化前の塗布膜14が、磁石20内に配置されている。磁石20としては、永久磁石、電磁石を使用することができる。特に強磁場H’の発生が必要な場合には超伝導磁石を使用することができる。
ここで、磁石20は中空円筒状に構成されており、その垂直方向に延びる中空部21内において上向きの磁場Hが生成されるようになっている。これにより、中空部21内に上述したように塗布材料を塗布した基材11が配置されることで、塗布材料に対して磁場Hが印加される。
【0057】
次に、ステップS4において、磁石20の中空部21内で磁場Hを印加したままの状態で、適宜の方法により塗布材料のバインダー12aを硬化させる。例えば、バインダー12aとして紫外線硬化樹脂を用いる場合には、塗布材料が塗布された基材11に対して紫外線を照射することによりバインダー12aを硬化させる。また、バインダー12aとして熱硬化性樹脂を用いる場合には、赤外線などの熱源から熱を照射して硬化してもよい。このようにして、塗布膜12中においてフィラー12bが垂直方向に配向した状態においてバインダー12a中に固定保持される。
【0058】
続いて、磁場印加が停止し、その中空部21内から塗布膜12が形成された基材11が取り出された後、ステップS5において、塗布膜12の表面から所定深さだけバインダー12aがエッチングにより除去される。つまり、図4(B)において鎖線Cから上側における塗布膜12の表面から所定深さまでの範囲で、塗布膜12中のバインダー12aのみがエッチングにより除去される。
【0059】
エッチングは、バインダー12aに対してエッチングレートが高く、かつフィラー12bに対してエッチングレートが低くなるように、バインダー12a及びフィラー12bの材料に応じて適宜な方法、例えばドライエッチングやウェットエッチングが選定される。
これにより、塗布膜12中において垂直方向に配向したフィラー12bの多くが、塗布膜12のエッチングにより形成された新たな表面において、多くのフィラー12bが表面から突出することになる。このようにして、エッチングが行われることにより、接触インジケータ10が完成する(ステップS6参照)。
【0060】
磁気力としては、磁気アルキメデス効果による磁気浮上を利用してもよい。この場合、非磁性体のフィラー12bを磁気浮上させるには約0.5テスラ(T)以上の強磁場H’が必要となる。この強磁場H’の発生には、超伝導磁石20を用いることができる。
【0061】
接触インジケータ10の第1の形成方法によれば、バインダー12aの硬化前に磁場Hを印加することによって、バインダー12a中の例えば非磁性体から成るフィラー12bが基材に対して垂直方向に配向する。バインダー12aの硬化後のエッチング工程によりフィラー12bがバインダー12aの表面から突出する。このため、単にフィラーを塗布し配向させる場合よりも多くのフィラー12bを、塗布膜12の表面から上方に突出させることができる。
【0062】
次に、本発明の実施形態による接触インジケータ10の第2の形成方法について説明する。
図7は接触インジケータ10の第2の形成方法を示すフローチャートである。
ステップS11において、バインダー12a中にフィラー12bを添加して混合することにより、塗布膜12となる塗布材料を作製する。
【0063】
ステップS12において、図2(A)に示すように、この塗布材料を基材11の表面に塗布する。
ステップS13において、塗布材料が塗布された基材11を、図5に示すように超伝導磁石20の中空部21内に配置し、超伝導磁石20を動作させて所定時間だけ強磁場H’を印加する。これにより、図6に示すように、フィラー12bは、磁力線の方向に沿って配向すると同時に、磁気アルキメデス効果によって塗布材料の表面領域に偏位する。従って、フィラー12bは、バインダー12aの表面領域において少なくともその一部が表面から突出することになる。
【0064】
次に、ステップS14において、超伝導磁石20の中空部21内で強磁場H’を印加したままの状態で、塗布材料が塗布された基材11に対して適宜の方法により、塗布材料のバインダー12aを硬化させる。例えば、バインダー12aとして紫外線硬化樹脂を用いる場合には、塗布材料が塗布された基材11に対して紫外線を照射することでバインダー12aを硬化させる。また、バインダー12aとして熱硬化性樹脂を用いる場合には、赤外線などの熱源から熱を照射して硬化してもよい。このようにして、塗布膜12中においてフィラー12bが垂直方向に配向しかつ表面領域に変位して、少なくともその一部が表面から突出した状態において固定保持される。
【0065】
最後に、ステップS15において、超伝導磁石20が停止し、その中空部21内から塗布膜12が形成された基材11が取り出されることにより、接触インジケータ10が完成する。
【0066】
接触インジケータ10の第2の形成方法が上記した第1の形成方法と異なるのは、バインダー12a中のフィラー12bを、ステップS14において強磁場H’を印加して磁気浮上させ、表面領域において、少なくともその一部が表面から突出するようにしたことにある。従って、第1の形成方法のステップS5で用いたエッチングを実施しない。
【0067】
ステップS14の強磁場H’を用いた磁気浮上について説明する。
図8は、図5及び図6の磁石20による磁場印加及び磁場勾配を示す概略図である。磁石20は、強磁場H’の印加のために超伝導磁石を用いるものとして説明する。
図8に示すように、超伝導磁石20においてはその中空部21内において、垂直方向に関して磁気勾配が生ずることが知られている。この磁場勾配は、図8右側のグラフから明らかであるように、磁気中心Oから垂直方向にずれた位置において最大値を与えるようになっている。従って、このフィラー12bが磁気勾配の最大値付近に位置するように、塗布材料を塗布した基材11は、磁気中心Oから例えば上方に距離dだけずれた位置に配置される。
これにより、フィラー12bには、磁気勾配の最大値付近に配置されることによって最大限の磁気アルキメデス効果が作用する。この場合、フィラー12bは、その方向によって磁化率が異なり、長手方向に大きな磁化率を有している場合には、その長手方向が磁力線の方向に沿って配向する。
【0068】
即ち、フィラー12bには、図8に示すように、重力F1、バインダー12aとの比重差による浮力F2が作用していると共に、上述した強磁場H’によりフィラー12bに対して直接に作用する磁気力F3、そしてバインダー12aより作用する磁気浮力F4とが作用する。
ここで、上記磁気力F3及び磁気浮力F4即ち強磁場H’による磁気力Fは、下記(1)式で与えられる。
磁気力F=密度×質量磁化率×磁場強度×磁気勾配 (1)
従って、(1)式から磁気力Fを大きくするためには、媒質であるバインダー12aと媒体であるフィラー12bの質量磁化率の差を大きくする、磁場強度を強くする、磁気勾配を大きくすることが重要である。
なお、バインダー12aと媒体であるフィラー12bとの質量磁化率の差を大きくするためには、例えば一方を常磁性体とし、他方を反磁性体とすることが望ましい。
【0069】
そして、上記浮力F2及び磁気力F3、磁気浮力F4と重力F1とのバランスにより強磁場H’を適宜に選定することによって、フィラー12bをバインダー12a中において垂直に配向させ、かつ上方に偏位させることができる。これにより、フィラー12bは強磁場H’の磁力線の方向、即ち垂直方向に配向し、かつバインダー12a中を上方にその表面領域まで偏位して、フィラー12bの一部がバインダー12aの表面から突出するようにされる。
【0070】
ここで、磁場の値としては、質量磁化率にもよるが、磁場中心において1テスラ(T)以上の磁束密度であることが好ましい。このような磁場は、超伝導磁石20により発生させることができる。フィラー12bの質量磁化率の絶対値が10−3m3/kg以下の材料から成る微粒子であれば、1テスラ以上の強磁場H’をかけることによって、磁気アルキメデス効果によりフィラー12bをバインダー12aの任意の領域、特に表面領域に偏位させることができる。
【0071】
フィラー12bが反磁性体からなる材料の場合、フィラー12bは磁場に反発する力を受ける。塗布材料を磁場中心よりも上側に置くと、フィラー12bの反発力が重力よりも強い場合には、フィラー12bは塗布材料からなる膜の上部に分離する。バインダー12aが常磁性体からなる材料の場合、バインダー12aは磁場中心に誘引されるため、フィラー12bの塗布膜12の上部への分離はより促進される。
【0072】
フィラー12bが常磁性体や反強磁性体からなる材料の場合、フィラー12bは磁場に誘引される力を受ける。塗布材料を磁場中心よりも下側に置くと、フィラー12bが塗布材料の上部に分離する。
【0073】
フィラー12bは、形状異方性に基づく変色性を有する材料、例えばマイカ、シリカ、アルミナ等の非磁性体材料を主成分とする光輝性顔料が使用され得る。このような光輝性顔料の質量磁化率は、常磁性体が正の値であり、反磁性体では負の値である。例えば、反磁性体材料から成る場合には、フィラー12bの質量磁化率は10−6m3/kg以下であって、磁気異方性を有する。
【0074】
これにより、質量磁化率の絶対値が10−3m3/kg以下の非磁性体から成る微粒子であっても、強磁場H’の印加により磁気アルキメデス効果が発生するので、非磁性体から成る光輝性顔料等が確実に偏位される。
なお、上述した実施形態ではフィラー12bは非磁性体から構成されているが、これに限らず強磁性体から構成されていてもよいことは明らかである。
【0075】
接触インジケータ10の第2の形成方法によれば、フィラー12bを、強磁場H’の印加により磁気アルキメデス効果を利用して塗布材料の表面付近に偏位させるようにしている。これに限らず、超伝導磁石20内において基材11の下側に塗布材料が位置するように基材11を反転して配置し、フィラー12bを下方に向かって偏位させて、塗布材料の表面領域に偏位させたり、あるいは超伝導磁石20の適宜の制御によって上記四つの力F1〜F4のバランスを調整したりすることでフィラー12bの塗布材料の表面からの突出量を調整することも可能である。
このように塗布材料中において、フィラー12bが表面領域に偏位されることによって各フィラー12bの少なくとも一部が、塗布膜12の表面から突出することになる。
【0076】
本発明の接触インジケータ10の形成方法によれば、非磁性体のフィラー12bであっても、塗布膜12の表面から突出した状態になるようにした接触インジケータ10を作製することができる。このようにして作製した接触インジケータ10によれば、塗布膜12の表面からフィラー12bの一部が直立して突出していることで、外部から観察したときフィラー12bの垂直状態が観察されることになり、フィラー12bの垂直状態における色調が視認される。
【実施例】
【0077】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
実施例の接触インジケータ10において、バインダー12aとして、紫外線硬化樹脂(T&K TOKA製、UVフレキソニス)を、フィラー12bとして雲母を主成分とする光輝性顔料(資生堂製、Infinite R08)を、そして基材11としてPETフィルムを使用した。
【0078】
磁石20としては、超伝導磁石(住友重機械工業製、スプリット型HF5−100VT−50HT)を使用した。
【0079】
図9は、図1の接触インジケータ10の具体的な実施例で使用される超伝導磁石20の磁束密度分布及び磁気勾配を示すグラフである。図9の横軸は超伝導磁石20の中心からの位置(cm)で、左縦軸は磁束密度(T)、右縦軸は磁気勾配(T2/m)である。ここで、磁気勾配はBz×(dBz/dZ)で表わされ、Bzは位置がzのときの磁束密度である。
図9に示すように、超伝導磁石20は磁場中心近傍では5〜6テスラの磁束密度を有しており、磁気勾配は、磁束密度が最大となる位置よりもずれた位置で最大となることが分かる。
【0080】
90部のバインダー12aと10部のフィラー12bとを混合することにより塗布材料を作製し、この塗布材料を基材11上にワイヤーバーにより塗工し、硬化前の塗布膜15とした。
【0081】
この硬化前の塗布膜を超伝導磁石20の中空部21内に配置して、3分間だけ3テスラの磁場H中に静置して磁場配向を行い、フィラー12bを垂直配向させた。その後、磁場中で紫外線照射によりバインダー12aを硬化させて、厚さが約50μmの塗布膜12を形成した。続いて、この硬化した塗布膜12に対して、酸素プラズマ処理を10分間行うことにより、20μm厚のバインダー12aをエッチング除去して、厚さが約30μmの塗布膜12を有する接触インジケータ10を作製した。
【0082】
次に、実施例に対する比較例について説明する。
(比較例)
実施例と同じ硬化前の塗布膜に磁場Hを印加せずに、紫外線照射によりバインダー12aを硬化させて、厚さ50μmの塗布膜を形成した。続いて、この塗布膜に対して、酸素プラズマ処理を10分間行うことにより、約20μm厚のバインダー12aを約20μmエッチング除去して、厚さが約30μmの比較例の塗布膜を作製した。
【0083】
実施例及び比較例において、それぞれ製作した接触インジケータ10及び塗布膜を観察した。
図10は実施例の接触インジケータ10の断面における走査型電子顕微鏡像を示す。走査型電子顕微鏡の加速電圧は15kVであり、倍率は1500倍である。
図10から明らかなように、実施例の接触インジケータ10では、基材11の上に厚さが約30μmの接触インジケータ10が形成され、フィラー12bが基材11の表面に対して垂直に配向すると共に、塗布膜12の表面から突出して、塗布膜12の表面に露出したフィラー12bによる微細な突起が形成されていることが分かる。
これにより、外部から観察したとき小豆色の色調が観察されると共に、塗膜表面に圧力を加えた箇所のみで青紫色の色調に変化した。
【0084】
図11は比較例で形成した塗布膜の断面の走査型電子顕微鏡像を示す。図11から明らかなように、比較例の塗布膜の場合には、フィラー12bがバインダー12a中に均一に散在しかつ塗装方向に沿って横たわっており、表面から突出していないことが分かる。これにより、外部から観察したとき青紫色の色調が観察されると共に、塗布膜の表面に圧力を加えた箇所でも色調の変化は観察されなかった。
【0085】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、例えば、用いるバインダー12aやフィラー12bは接触インジケータ10の使用目的に応じて設定することができ、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係る接触インジケータは、フィラーを基材の表面領域に偏位させて、少なくとも一部を塗布膜の表面から突出させることにより圧力を加えられた箇所でフィラーの突出部分が倒れることにより、形状異方性に基づく変色性を有するフィラーが変色するので、容易にかつ確実に圧力印加箇所が検出される。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明による接触インジケータの構成を示す概略断面図である。
【図2】図1の接触インジケータの模式的な断面図で、(A)は圧力印加前の、(B)は圧力印加後の状態を示す。
【図3】図3は接触インジケータの第1の形成方法を示すフローチャートである。
【図4】図1の接触インジケータにおいて、(A)及び(B)が硬化前の磁場印加開始時と、(C)が磁場印加後の、各状態を示す概略断面図である。
【図5】図1の接触インジケータの形成工程における磁石による磁場印加工程を示す一部破断斜視図である。
【図6】図5の磁石の内部を示す部分拡大断面図である。
【図7】接触インジケータの第2の形成方法を示すフローチャートである。
【図8】図5及び図6の磁石による磁場印加及び磁場勾配を示す概略図である。
【図9】図1の接触インジケータの具体的な実施例で使用される超伝導磁石の磁束密度分布及び磁気勾配を示すグラフである。
【図10】実施例の接触インジケータの断面における走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【図11】比較例で形成した塗膜の断面の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【符号の説明】
【0088】
10:接触インジケータ
11:基材
12:塗布膜
12a:バインダー
12b:フィラー
14:硬化前の接触インジケータ
20:磁石(超伝導磁石)
21:中空部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と該基材の表面に塗布され硬化された塗布膜とを備え、
上記塗布膜が、バインダーと形状異方性に基づく変色性を有するフィラーとを含んでおり、
上記フィラーが、バインダー中で塗布膜の表面に対してほぼ垂直に配向しかつ少なくとも一部が塗布膜の表面から突出していて、
上記塗布膜に圧力が加えられたとき、上記塗布膜におけるフィラーの突出部分が変形することにより塗布膜の表面が変色して観察されることを特徴とする、接触インジケータ。
【請求項2】
前記塗布膜が、バインダーの硬化前に塗布材料に対して磁場をかけて、フィラーを基材表面に対して垂直に配向させ、塗布材料を硬化させた後、フィラーが塗布膜の表面から突出するように上記バインダーを表面から所定深さだけエッチングにより除去してなることを特徴とする、請求項1に記載の接触インジケータ。
【請求項3】
前記塗布膜が、バインダーの硬化前に塗布材料の表面に対して垂直な強磁場をかけて、フィラーを基材表面に対して垂直に配向させ、かつ磁気アルキメデス効果により浮遊させたフィラーを塗布材料の表面領域に偏位して、塗布材料を硬化させてなることを特徴とする、請求項1に記載の接触インジケータ。
【請求項4】
前記フィラーが、非磁性体から成ることを特徴とする、請求項2または3に記載の接触インジケータ。
【請求項5】
前記フィラーが、光輝性顔料であることを特徴とする、請求項1から4の何れかに記載の接触インジケータ。
【請求項6】
前記フィラーの突出部分が、圧力印加により塑性変形することを特徴とする、請求項1に記載の接触インジケータ。
【請求項7】
前記フィラーの突出部分が、圧力印加により弾性変形することを特徴とする、請求項1に記載の接触インジケータ。
【請求項1】
基材と該基材の表面に塗布され硬化された塗布膜とを備え、
上記塗布膜が、バインダーと形状異方性に基づく変色性を有するフィラーとを含んでおり、
上記フィラーが、バインダー中で塗布膜の表面に対してほぼ垂直に配向しかつ少なくとも一部が塗布膜の表面から突出していて、
上記塗布膜に圧力が加えられたとき、上記塗布膜におけるフィラーの突出部分が変形することにより塗布膜の表面が変色して観察されることを特徴とする、接触インジケータ。
【請求項2】
前記塗布膜が、バインダーの硬化前に塗布材料に対して磁場をかけて、フィラーを基材表面に対して垂直に配向させ、塗布材料を硬化させた後、フィラーが塗布膜の表面から突出するように上記バインダーを表面から所定深さだけエッチングにより除去してなることを特徴とする、請求項1に記載の接触インジケータ。
【請求項3】
前記塗布膜が、バインダーの硬化前に塗布材料の表面に対して垂直な強磁場をかけて、フィラーを基材表面に対して垂直に配向させ、かつ磁気アルキメデス効果により浮遊させたフィラーを塗布材料の表面領域に偏位して、塗布材料を硬化させてなることを特徴とする、請求項1に記載の接触インジケータ。
【請求項4】
前記フィラーが、非磁性体から成ることを特徴とする、請求項2または3に記載の接触インジケータ。
【請求項5】
前記フィラーが、光輝性顔料であることを特徴とする、請求項1から4の何れかに記載の接触インジケータ。
【請求項6】
前記フィラーの突出部分が、圧力印加により塑性変形することを特徴とする、請求項1に記載の接触インジケータ。
【請求項7】
前記フィラーの突出部分が、圧力印加により弾性変形することを特徴とする、請求項1に記載の接触インジケータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−156713(P2009−156713A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335359(P2007−335359)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000162113)共同印刷株式会社 (488)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000162113)共同印刷株式会社 (488)
【Fターム(参考)】
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