説明

接触シールの性能評価方法及び性能評価装置

【課題】比較的簡便にかつ適切にシール性能の評価を行うことができる接触シールの性能評価方法及び性能評価装置を提供する。
【解決手段】内側部材5の外周面よりも径方向外側に位置して回転する外側部材6に取り付けられ、内側部材5及び外側部材6間の環状開口Aを塞ぐ、環状の芯金2に粘弾性体3を被覆して粘弾性体3の内周側端部をシールリップ4とし、シールリップ4が内側部材5を摺動する内周側摺動部Bを有するシール構造の接触シール1の性能評価において、外側部材6の回転に伴い内周側摺動部Bに空隙Gが発生した際の外側部材6の回転数により、この回転数が大きい程シールリップ4の内側部材5への追随性が良いことがわかるため、前記回転数により接触シール1の性能を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤の漏洩防止や外部からの塵埃等の侵入防止を行うために転がり軸受等に装着される接触シールの性能評価方法及び性能評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば転がり軸受において、潤滑剤の漏洩防止や外部からの塵埃等の侵入防止のために、外輪及び内輪間の間隙を塞ぐ接触シールが装着される。
このような接触シールが装着された転がり軸受を、特に雨水や風雪、塵埃等に曝される劣悪な屋外環境下で使用する場合には、使用する接触シールの性能についての適切な評価が非常に重要になる。
このような観点から、劣悪な使用環境においても良好な密封性を確保するために、接触シールを構成する粘弾性体であるゴムの損失正接(tanδ)に着目したものがある(例えば、特許文献1及び2参照。)。
例えば、特許文献1では、接触シールのリップ部を、温度20℃〜70℃での損失正接の最大値が1.30以下であるゴム成形体としており、特許文献2では、接触シールの弾性部材を、雰囲気温度20〜70℃における損失正接の最大値が0.40以下であるゴム組成物としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−204914号公報
【特許文献2】特開2004−076798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
接触シールの性能指標として損失正接に着目した従来技術では、所定形状の試験片に対して動的粘弾性試験(例えば、JIS K 7244−4に基づくもの。)を行って雰囲気温度20℃〜70℃で損失正接を求め、その最大値からシール性能を評価し、温度20℃〜70℃での損失正接の最大値を所定値以下にすることにより接触シールの密閉性を確保して軸受内部への水分等の侵入を防止するとしている。
しかしながら、損失正接の最大値を所定値以下にしたとしても、実際のゴムの材質、シールの形状、締め代、軸受の回転数及び振動等によっては、水分の侵入により寿命が大幅に低下する転がり軸受等において、その実際の使用時に内部に水分が侵入してしまう場合があり(例えば、特許文献1及び2における浸水試験等による評価が良好(○)の場合にも浸水量がある。)、この点について、本願の発明者は接触シールを転がり軸受に組み込んで行った実験により確認している。
その上、損失正接の最大値によりシール性能を確保するように接触シールを設計することが過剰設計になり、コストが増大してしまう場合もある。
以上のとおり、損失正接は、粘弾性体の変形に伴うエネルギーロス(内部摩擦)を表すため、接触シールの性能評価に対して一定の指針を与えるものであるが、接触シールの性能評価において損失正接による評価だけでは十分ではないことがわかる。
また、浸水試験(耐水性試験)による性能評価は、軸受等の内部への実際の水の侵入を評価することができるため実際的であるが、比較的大掛かりな評価装置が必要になるとともに評価に時間が掛かるため、評価コストが増大する。
【0005】
そこで本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、比較的簡便にかつ適切にシール性能の評価を行うことができる接触シールの性能評価方法及び性能評価装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の発明者は、接触シールを転がり軸受に組み込んで行った実験に基づく接触シールの性能評価により、接触シールの性能評価指標として摺動面に対するシールリップの追随性(追従性)が最も重要であるという知見を得、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係る接触シールの性能評価方法は、前記課題解決のために、内側部材の外周面よりも径方向外側に位置して回転する外側部材に取り付けられ、これら内側部材及び外側部材間の環状開口を塞ぐ、環状の芯金に粘弾性体を被覆して該粘弾性体の内周側端部をシールリップとし、該シールリップが前記内側部材を摺動する内周側摺動部を有するシール構造、又は、外側部材の内周面よりも径方向内側に位置して回転する内側部材に取り付けられ、これら外側部材及び内側部材間の環状開口を塞ぐ、環状の芯金に粘弾性体を被覆して該粘弾性体の外周側端部をシールリップとし、該シールリップが前記外側部材を摺動する外周側摺動部を有するシール構造の接触シールの性能評価方法であって、前記内側部材及び外側部材の相対的回転に伴う前記内周側摺動部又は外周側摺動部における空隙の発生又はこの空隙の大きさにより前記シールリップの前記内側部材又は外側部材への追随性を評価することを特徴とする。
【0007】
このような構成によれば、試作品又は実際の製品等、実際の製品形状の接触シールを用いて、内側部材及び外側部材の相対的回転に伴って内周側摺動部又は外周側摺動部に実際に発生した空隙又はこの空隙の大きさをシールリップの追随性とし、この追随性により接触シールの性能を評価することから、浸水試験(耐水性試験)による性能評価等の比較的大掛かりな手間が掛かる評価をすることなく、形状が同一で材料が相違する場合の影響、形状を変化させた場合の影響、測定雰囲気の温度の影響、及び、熱老化又はオイル劣化の影響等の検討、実際の製品における接触シールの性能比較、並びに、接触シールのシミュレーションモデルの検証等を比較的簡便に行うことができる。
【0008】
ここで、前記内周側摺動部又は外周側摺動部の締め代を周期的に変動させながら前記内側部材及び外側部材を相対的に回転させ、この回転数の上昇に伴って前記摺動部に空隙が生じた際の回転数の大きさにより前記追随性を評価すると好ましい。
このような構成によれば、摺動部に空隙が生じた際における内側部材及び外側部材の相対的な回転数の大きさによりシールリップの内側部材又は外側部材への追随性を容易に評価することができる。
【0009】
また、前記内周側摺動部又は外周側摺動部の締め代を所定値に設定した状態で、前記内側部材及び外側部材を所定回転数で相対的に回転させた際における前記空隙の大きさにより前記追随性を評価すると好ましい。
このような構成によれば、内側部材及び外側部材の相対的な回転数を所定回転数に保った状態で摺動部に生じた空隙の大きさを測定することにより、内側部材及び外側部材の相対的な回転数を少しずつ上昇させることなく、シールリップの内側部材又は外側部材への追随性をより容易に評価することができる。
【0010】
本発明に係る接触シールの性能評価装置は、前記課題解決のために、内側部材の外周面よりも径方向外側に位置して回転する外側部材に取り付けられ、これら内側部材及び外側部材間の環状開口を塞ぐ、環状の芯金に粘弾性体を被覆して該粘弾性体の内周側端部をシールリップとし、該シールリップが前記内側部材を摺動する内周側摺動部を有するシール構造、又は、外側部材の内周面よりも径方向内側に位置して回転する内側部材に取り付けられ、これら外側部材及び内側部材間の環状開口を塞ぐ、環状の芯金に粘弾性体を被覆して該粘弾性体の外周側端部をシールリップとし、該シールリップが前記外側部材を摺動する外周側摺動部を有するシール構造の接触シールの性能評価装置であって、前記接触シールが装着された前記内側部材及び外側部材において、これらの軸芯を傾けること、これらの軸芯を傾けずに前記内周側摺動部若しくは外周側摺動部における前記シールリップの摺動面を前記軸芯に垂直な面から傾けること、又は、前記摺動面に周方向の凹凸を形成することにより、前記内側部材及び外側部材の相対的回転に伴って前記内周側摺動部又は外周側摺動部の締め代を周期的に変動させるシール評価構造体と、前記内側部材又は外側部材を回転させる駆動装置と、該駆動装置を制御する駆動制御装置と、前記シール評価構造体内に設けた光源と、前記摺動部に生じた空隙から透過する前記光源からの光を検出する受光装置とを備えたことを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、駆動制御装置により駆動装置を駆動して、内周側摺動部又は外周側摺動部の締め代を周期的に変動させながら内側部材又は外側部材を回転させることにより、この回転数の上昇に伴って内周側摺動部又は外周側摺動部に空隙が生じたことを、この空隙から透過した光を受光装置により検出することによって容易に検出することができるため、受光装置が透過光を受光した際における内側部材及び外側部材の相対的回転の回転数を、駆動制御装置に接続した演算処理装置による表示装置への表示等により容易に確認することができ、この回転数の大きさにより接触シールの性能を評価することができる。
【0012】
また、本発明に係る接触シールの性能評価装置は、前記課題解決のために、前記接触シールの性能評価装置であって、前記接触シールが装着された前記内側部材及び外側部材において、これらの軸芯を傾けること、これらの軸芯を傾けずに前記内周側摺動部若しくは外周側摺動部における前記シールリップの摺動面を前記軸芯に垂直な面から傾けること、又は、前記摺動面に周方向の凹凸を形成することにより、前記内側部材及び外側部材の相対的回転に伴って前記内周側摺動部又は外周側摺動部の締め代を周期的に変動させるシール評価構造体と、前記内側部材又は外側部材を回転させる駆動装置と、該駆動装置を制御する駆動制御装置と、前記シールリップの軸方向変位を測定する非接触変位計とを備えたことを特徴とする。
さらに、本発明に係る接触シールの性能評価装置は、前記課題解決のために、前記接触シールの性能評価装置であって、前記接触シールが装着された前記内側部材及び外側部材において、前記内周側摺動部又は外周側摺動部の締め代を所定値に設定したシール評価構造体と、前記内側部材又は外側部材を回転させる駆動装置と、該駆動装置を制御する駆動制御装置と、前記シールリップの軸方向変位を測定する非接触変位計とを備えたことを特徴とする。
【0013】
これらのような構成によれば、非接触変位計によるシールリップの軸方向変位の測定値を用いて内側部材及び外側部材の相対的回転に伴う内周側摺動部又は外周側摺動部における空隙の発生の検出及び前記空隙の大きさの測定をすることができる。
よって、前記空隙を検出した際における内側部材及び外側部材の相対的回転の回転数を、駆動制御装置に接続した演算処理装置による表示装置への表示等により容易に確認することができ、この回転数の大きさにより接触シールの性能を評価することができるため、シールリップの内側部材又は外側部材への追随性を容易に評価することができる。
また、内側部材及び外側部材の相対的な回転数を所定回転数に保った状態で摺動部に生じた空隙の大きさを測定することにより、内側部材及び外側部材の相対的な回転数を少しずつ上昇させることなく、シールリップの内側部材又は外側部材への追随性をより容易に評価することができる。
以上のような本発明に係る接触シールの性能評価装置の構成によれば、浸水試験(耐水性試験)による性能評価等の比較的大掛かりな手間が掛かる評価をすることなく、形状が同一で材料が相違する場合の影響、形状を変化させた場合の影響、測定雰囲気の温度の影響、及び、熱老化又はオイル劣化の影響等の検討、実際の製品における接触シールの性能比較、並びに、接触シールのシミュレーションモデルの検証等を比較的簡便に行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明に係る接触シールの性能評価方法及び性能評価装置によれば、接触シールの性能評価指標として摺動面に対するシールリップの追随性に着目し、この追随性を内周側摺動部又は外周側摺動部における空隙の発生又はこの空隙の大きさにより評価するため、比較的簡便にかつ適切にシール性能の評価を行うことができるという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係る接触シールの性能評価装置におけるシール評価構造体及びその駆動装置の例を示す斜視図である。
【図2】摺動部に生じた空隙から透過する光の検出を示す概略部分切断部端面図であり、(a)は摺動部に空隙が生じていないため透過光がない状態を、(b)は摺動部に空隙が生じているため透過光がある状態を示している。
【図3】摺動部からの透過光を検出してシールリップの摺動面に対する追随性を評価する接触シールの性能評価装置の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る接触シールの性能評価装置におけるシール評価構造体及びその駆動装置並びに演算処理装置及び非接触変位計の例を示す斜視図である。
【図5】非接触変位計によるシールリップの軸方向変位の測定を示す概略部分切断部端面図である。
【図6】非接触変位計によりシールリップの軸方向変位を測定してシールリップの摺動面に対する追随性を評価する接触シールの性能評価装置の構成を示すブロック図である。
【図7】摺動部における空隙の大きさの測定結果の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の接触シールの性能評価方法及び性能評価装置は、上述のとおり、内側部材及び外側部材間の環状開口を塞ぐ接触シールの性能評価指標として、摺動面に対するシールリップの追随性(追従性)に着目するものであり、内側部材及び外側部材の相対的回転に伴ってシールリップが摺動面から離反して発生する空隙及びこの空隙の大きさにより前記追随性を評価するものである。
【0017】
図1及び図2に示す接触シール1は、内側部材5の外周面よりも径方向外側に位置して回転する外側部材6の周溝6Aに内嵌され、内側部材5及び外側部材6間の環状開口Aを塞ぐ、鋼板等からなる環状の金属製芯金2に合成ゴム等の粘弾性体3を加硫接着により被覆してなり、粘弾性体3の内周側端部をシールリップ4として、このシールリップ4が内側部材5の摺動面5Aを摺動する内周側摺動部Bを有するシール構造を有している。
ここで、粘弾性体3として使用するゴム材料としては、耐油性の良好なゴム素材として、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、アクリルゴム(ACM)、エチレン・アクリルゴム(AEM)、フッ素ゴム(FKM、FPM)、シリコーンゴム(VQM)等のゴムから、1種、あるいは2種以上のゴムを適当にブレンドして使用することができる。
また、ゴム材料の練り加工性、加硫成形性、金属板との接着性を考慮した場合、他種のゴム、例えば、液状NBR、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)等とブレンドして使用することも好ましい使用態様である。
【0018】
図1〜図3に示す本発明の実施の形態に係る接触シールの性能評価装置は、シール評価構造体11内に設けた図示しない光源を備えており、受光装置14を用いて前記内周側摺動部B(図2参照。)から透過した光L(図2(b)参照。)を検出することができる。
すなわち、本発明の実施の形態に係る接触シールの性能評価装置は、接触シール1が装着された内側部材5及び外側部材6等からなるシール評価構造体11、内側部材5又は外側部材6を回転させる(図1の構成では外側部材6を回転させる)駆動装置12、駆動装置12を制御する駆動制御装置13、シール評価構造体11内に設けた光源と摺動部Bに生じた空隙G(図2(b)参照。)から透過する前記光源からの光Lを検出する受光装置14、受光装置14により得られたデータを演算処理する演算処理装置15を備えている。
【0019】
図1に示すように、シール評価構造体11のハウジング9及び駆動装置12のハウジング10は支持台8上に固定されており、シール評価構造体11には、その外側部材6に連結固定されたタイミングプーリ17がハウジング9により回転可能に支持され、駆動装置12のモータ19の出力軸には、図示しないタイミングプーリが連結固定されており、シール評価構造体11側のタイミングプーリ17及び駆動装置12側のタイミングプーリには、タイミングベルト18が掛け渡される。
したがって、図3に示す駆動制御装置13により駆動装置12を制御してモータ19を回転させることにより、このモータ19の回転に同期してシール評価構造体11の外側部材6が回転する。
【0020】
ここで、駆動制御装置13は、モータ19のドライバ及びプログラマブルコントローラ等の制御装置からなり、駆動装置12の位置検出器であるエンコーダ20の出力を用いてモータの回転数(回転速度)を制御することができる。
また、シール評価構造体11は、外側部材6の回転(内側部材5及び外側部材6の相対的回転)に伴って内周側摺動部B(図2(a)参照。)の締め代を周期的に変動させることができるものであり、このような機能は、例えば内側部材5及び外側部材6の軸芯を傾けること、これらの軸芯Zを同芯として傾けずに内周側摺動部Bにおけるシールリップ4の摺動面5Aを軸芯Zに垂直な面から傾けること、又は、摺動面5Aに周方向の凹凸を形成すること等により実現することができる。
なお、接触シール1の締め代は、最小締め代及び最大締め代を設定して、これら締め代間の変動を周期的に繰り返すようにする。
【0021】
図2及び図3に示す受光装置14は、上述のとおり内周側摺動部Bから透過した光Lを検出するものであり、例えばCCDカメラ21等の撮像素子及びインターフェース等からなるが、受光センサ等であってもよく、透過光Lを検出できるものであればよい。
また、演算処理装置15は、受光装置14及び駆動制御装置13に接続されており、受光装置14が透過光Lを受光した際における外側部材6の回転数(内側部材5及び外側部材6の相対的回転の回転数)の図示しない表示装置への表示や記憶装置への保存等を行うものであるが、演算処理装置15を設けずに、透過光Lを検出した際の外側部材6の回転数を駆動制御装置13に表示するようにしておき、この回転数の表示を目視により確認するようにしてもよい。
【0022】
以上のような構成の接触シール1の性能評価装置によれば、駆動制御装置13により駆動装置12を駆動して、内周側摺動部Bの締め代を周期的に変動させながら外側部材6を回転させることにより、図2(a)のように内周側摺動部Bに空隙Gが生じていない状態から、さらに外側部材6の回転数を上げることにより、この回転数の上昇に伴って、図2(b)のように内周側摺動部Bに空隙Gが生じると、この空隙Gから透過した光を受光装置14により検出することにより空隙Gの発生を容易に検出することができるため、受光装置14が透過光Lを受光した際における外側部材6の回転数を上述のように確認することにより、この回転数の大きさにより、この回転数が大きい程シールリップ4の内側部材5への追随性が良いことがわかるため、接触シール1の性能を評価することができる。
【0023】
図4〜図6は、受光装置14により内周側摺動部Bからの透過光Lを検出する図1〜図3の構成と異なり、レーザ式変位センサ等の非接触変位計16を用いてシールリップ4の軸方向変位を測定する構成を示しており、図1〜図3と同一の符号は同一又は相当部分を示している。
なお、図4に示すように、シール評価構造体11及び駆動装置12を支持する支持台8は、基台7に固定されているとともに、基台7に立設された支柱22に支持部材23が取り付けられ、支持部材23により非接触変位計16のセンサヘッド24が支持される。
また、図5に示すように、内側部材5はその上面を摺動面5Aとし、摺動面5Aを軸芯Zに垂直な面から傾けた傾斜面5Bとしているため、外側部材6を固定して内側部材5を回転することにより、あるいは内側部材5を固定して外側部材6を回転させることにより、内側部材5及び外側部材6の相対的回転に伴って内周側摺動部B(図5参照。)の締め代を周期的に変動させることができる。
【0024】
以上のような構成の接触シール1の性能評価装置によれば、図5に示すように非接触変位計16によりシールリップ4の軸方向変位を測定し、この測定値を用いて、内側部材5のシールリップ4の摺動面5Aにおける非接触変位計16によるシールリップ4の軸方向変位の測定点に対応する、該測定点直下の摺動面5Aの変位との差を求めることにより、内側部材5及び外側部材6の相対的回転に伴う内周側摺動部Bにおける空隙の発生の検出及び前記空隙の大きさの測定をすることができる。
よって、内周側摺動部Bの空隙を検出した際における内側部材5及び外側部材6の相対的回転の回転数を、駆動制御装置13に接続した演算処理装置15による表示装置への表示等により容易に確認することができ、この回転数の大きさにより、この回転数が大きい程シールリップ4の内側部材5への追随性が良いことがわかるため、接触シール1の性能を評価することができる。
【0025】
また、内側部材5及び外側部材6の相対的な回転数を所定回転数に保った状態で摺動部Bに生じた空隙の大きさ(開き量)を測定することにより、この空隙の大きさが小さい程シールリップ4の内側部材5への追随性が良いことがわかるため、接触シール1の性能を評価することができる。
このような摺動部Bに生じた空隙の大きさを測定する方法によれば、内側部材5及び外側部材6の相対的な回転数を少しずつ上昇させることなく、シールリップ4の内側部材5への追随性をより容易に評価することができる。
なお、図4〜図6に示したシール評価構造体11において、内側部材5及び外側部材6の相対的回転に伴って内周側摺動部Bの締め代を周期的に変動させるものではなく、内周側摺動部Bの締め代を所定値に設定したものであってもよい。
【0026】
表1は、損失正接(tanδ)が小さい順に並べたゴム材料について、本発明によるシールリップ4の内側部材5への追随性の評価結果(順位)を示したものである。
【0027】
【表1】

【0028】
表1の評価結果の比較により、本発明による接触シールの性能評価方法及び性能評価装置によるシールリップ4の内側部材5への追随性の評価結果(順位)と、ゴムの損失正接(tanδ)による評価順位とが一致しない場合があることがわかる。
このことからも、上述のとおり、損失正接(tanδ)は、粘弾性体の変形に伴うエネルギーロス(内部摩擦)を表すため、接触シール1の性能評価に対して一定の指針を与えるものであるが、接触シールの性能評価において損失正接による評価だけでは十分ではないことがわかる。
【0029】
図7は、非接触変位計16を用いた図4〜図6の構成により、内側部材5及び外側部材6の相対的な回転数を所定回転数である3000rpmに保った状態で、摺動部Bに生じた空隙の大きさ(開き量)を測定した例(実線)を示しており、摺動部Bに空隙がない状態を示す正弦曲線(2点鎖線)との差が、摺動部Bに生じた空隙の大きさ(開き量)を示しているため、この差を測定することにより上述のシールリップ4の内側部材5への追随性である接触シール1の性能を評価することができる。
【0030】
以上のような本発明の接触シール1の性能評価方法及び性能評価装置によれば、浸水試験(耐水性試験)による性能評価等の比較的大掛かりな手間が掛かる評価をすることなく、形状が同一で材料が相違する場合の影響、形状を変化させた場合の影響、測定雰囲気の温度の影響、及び、熱老化又はオイル劣化の影響等の検討、実際の製品における接触シールの性能比較、並びに、接触シールのシミュレーションモデルの検証等を比較的簡便に行うことができる。
【0031】
以上の説明においては、接触シール1が内周側摺動部Bを有するシール構造を有する場合について説明したが、接触シール1が、外側部材の内周面よりも径方向内側に位置して回転する内側部材に取り付けられ、これら外側部材及び内側部材間の環状開口を塞ぐ、環状の芯金に粘弾性体を被覆して該粘弾性体の外周側端部をシールリップとし、該シールリップが前記外側部材を摺動する外周側摺動部を有するシール構造を有するものであってもよい。
【符号の説明】
【0032】
A 環状開口
B 摺動部
G 空隙
L 透過光
Z 軸芯
1 接触シール
2 芯金
3 粘弾性体
4 シールリップ
5 内側部材
5A 摺動面
5B 傾斜面
6 外側部材
11 シール評価構造体
12 駆動装置
13 駆動制御装置
14 受光装置
15 演算処理装置
16 非接触変位計
17 タイミングプーリ
18 タイミングベルト
19 モータ
20 エンコーダ
21 CCDカメラ
22 支柱
23 支持部材
24 センサヘッド


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側部材の外周面よりも径方向外側に位置して回転する外側部材に取り付けられ、これら内側部材及び外側部材間の環状開口を塞ぐ、環状の芯金に粘弾性体を被覆して該粘弾性体の内周側端部をシールリップとし、該シールリップが前記内側部材を摺動する内周側摺動部を有するシール構造、又は、外側部材の内周面よりも径方向内側に位置して回転する内側部材に取り付けられ、これら外側部材及び内側部材間の環状開口を塞ぐ、環状の芯金に粘弾性体を被覆して該粘弾性体の外周側端部をシールリップとし、該シールリップが前記外側部材を摺動する外周側摺動部を有するシール構造の接触シールの性能評価方法であって、
前記内側部材及び外側部材の相対的回転に伴う前記内周側摺動部又は外周側摺動部における空隙の発生又はこの空隙の大きさにより前記シールリップの前記内側部材又は外側部材への追随性を評価することを特徴とする接触シールの性能評価方法。
【請求項2】
前記内周側摺動部又は外周側摺動部の締め代を周期的に変動させながら前記内側部材及び外側部材を相対的に回転させ、この回転数の上昇に伴って前記摺動部に空隙が生じた際の回転数の大きさにより前記追随性を評価する請求項1記載の接触シールの性能評価方法。
【請求項3】
前記内周側摺動部又は外周側摺動部の締め代を所定値に設定した状態で、前記内側部材及び外側部材を所定回転数で相対的に回転させた際における前記空隙の大きさにより前記追随性を評価する請求項1記載の接触シールの性能評価方法。
【請求項4】
内側部材の外周面よりも径方向外側に位置して回転する外側部材に取り付けられ、これら内側部材及び外側部材間の環状開口を塞ぐ、環状の芯金に粘弾性体を被覆して該粘弾性体の内周側端部をシールリップとし、該シールリップが前記内側部材を摺動する内周側摺動部を有するシール構造、又は、外側部材の内周面よりも径方向内側に位置して回転する内側部材に取り付けられ、これら外側部材及び内側部材間の環状開口を塞ぐ、環状の芯金に粘弾性体を被覆して該粘弾性体の外周側端部をシールリップとし、該シールリップが前記外側部材を摺動する外周側摺動部を有するシール構造の接触シールの性能評価装置であって、
前記接触シールが装着された前記内側部材及び外側部材において、これらの軸芯を傾けること、これらの軸芯を傾けずに前記内周側摺動部若しくは外周側摺動部における前記シールリップの摺動面を前記軸芯に垂直な面から傾けること、又は、前記摺動面に周方向の凹凸を形成することにより、前記内側部材及び外側部材の相対的回転に伴って前記内周側摺動部又は外周側摺動部の締め代を周期的に変動させるシール評価構造体と、
前記内側部材又は外側部材を回転させる駆動装置と、
該駆動装置を制御する駆動制御装置と、
前記シール評価構造体内に設けた光源と、
前記摺動部に生じた空隙から透過する前記光源からの光を検出する受光装置とを備えたことを特徴とする接触シールの性能評価装置。
【請求項5】
内側部材の外周面よりも径方向外側に位置して回転する外側部材に取り付けられ、これら内側部材及び外側部材間の環状開口を塞ぐ、環状の芯金に粘弾性体を被覆して該粘弾性体の内周側端部をシールリップとし、該シールリップが前記内側部材を摺動する内周側摺動部を有するシール構造、又は、外側部材の内周面よりも径方向内側に位置して回転する内側部材に取り付けられ、これら外側部材及び内側部材間の環状開口を塞ぐ、環状の芯金に粘弾性体を被覆して該粘弾性体の外周側端部をシールリップとし、該シールリップが前記外側部材を摺動する外周側摺動部を有するシール構造の接触シールの性能評価装置であって、
前記接触シールが装着された前記内側部材及び外側部材において、これらの軸芯を傾けること、これらの軸芯を傾けずに前記内周側摺動部若しくは外周側摺動部における前記シールリップの摺動面を前記軸芯に垂直な面から傾けること、又は、前記摺動面に周方向の凹凸を形成することにより、前記内側部材及び外側部材の相対的回転に伴って前記内周側摺動部又は外周側摺動部の締め代を周期的に変動させるシール評価構造体と、
前記内側部材又は外側部材を回転させる駆動装置と、
該駆動装置を制御する駆動制御装置と、
前記シールリップの軸方向変位を測定する非接触変位計とを備えたことを特徴とする接触シールの性能評価装置。
【請求項6】
内側部材の外周面よりも径方向外側に位置して回転する外側部材に取り付けられ、これら内側部材及び外側部材間の環状開口を塞ぐ、環状の芯金に粘弾性体を被覆して該粘弾性体の内周側端部をシールリップとし、該シールリップが前記内側部材を摺動する内周側摺動部を有するシール構造、又は、外側部材の内周面よりも径方向内側に位置して回転する内側部材に取り付けられ、これら外側部材及び内側部材間の環状開口を塞ぐ、環状の芯金に粘弾性体を被覆して該粘弾性体の外周側端部をシールリップとし、該シールリップが前記外側部材を摺動する外周側摺動部を有するシール構造の接触シールの性能評価装置であって、
前記接触シールが装着された前記内側部材及び外側部材において、前記内周側摺動部又は外周側摺動部の締め代を所定値に設定したシール評価構造体と、
前記内側部材又は外側部材を回転させる駆動装置と、
該駆動装置を制御する駆動制御装置と、
前記シールリップの軸方向変位を測定する非接触変位計とを備えたことを特徴とする接触シールの性能評価装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−202797(P2011−202797A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73432(P2010−73432)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000211695)中西金属工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】