説明

接触分解触媒及びその製造方法ならびに炭化水素油の接触分解方法

【課題】高い分解活性と高い磨耗強度を有する炭化水素油の接触分解触媒と、その製造方法と、それを用いる炭化水素油の接触分解方法を提供すること。
【解決手段】ソーダライトケージを含むゼオライトを20〜50質量%、アルミナゾルと第一リン酸アルミニウムを含む結合剤を5〜40質量%、粘土鉱物を10〜75質量%含有し、
前記結合剤中に占める前記第一リン酸アルミニウムの割合が酸化物換算で10〜75質量%であり、結合剤中のアルミニウム/リンのモル比が1〜10の範囲である結合剤を用いることを特徴とする炭化水素油の接触分解触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素油の接触分解触媒(以下「FCC触媒」と記すこともある)と、その製造方法と、それを用いる炭化水素油の接触分解方法に関し、より詳しくは、高い分解活性を有し、かつ磨耗強度を向上させた炭化水素油の接触分解触媒およびその製造方法と、それを用いる炭化水素油の接触分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境意識の高まりや温暖化への対策が重要視されるようになり、その中でも自動車の排気ガスが環境に与える影響は大きく、クリーン化が期待されている。自動車排気ガスのクリーン化は、自動車の性能とガソリンの燃料組成に影響を受けることが一般的に知られており、特に石油精製産業では、高品質なガソリンを提供することが求められている。
【0003】
ガソリンは、原油の精製工程において得られる複数のガソリン基材を混合することによって製造される。特に、重質炭化水素油の接触分解反応によって得られるFCCガソリンは、ガソリンへの配合量が多く、ガソリンの品質改善に与える影響は非常に大きい。
【0004】
重質炭化水素油の接触分解反応は、石油精製工程で得られる低品位な重質油を接触分解することによって、軽質な炭化水素油へと変換する反応であるが、FCCガソリンを製造する際に、副生成物として、水素・コーク、液化石油ガス(LiquidPetroleum Gas:LPG)中間留分(Light Cycle Oil:LCO)、重質留分(Heavy Cycle Oil:HCO)が生産される。効率的にFCCガソリンを製造するためには、触媒の分解活性が高く、またガソリン収率が高く、更にはオクタン価の高い高品質なガソリンが得られることが当業者にとって好ましい。
【0005】
しかし、炭化水素油の接触分解方法においては、近年の原油の重質化・低品位化に伴い、バナジウムやニッケル等の重金属や残留炭素分の高い原料油を流動接触分解装置に投入しなければならない事態が生じている。バナジウムは、FCC触媒に沈着し堆積すると、FCC触媒の活性成分であるゼオライトの構造を破壊するため、触媒の著しい活性低下をもたらし、かつ水素・コークの生成量を増大させ、ガソリンの選択性を低下させるなどの問題を有していることが知られている。また、ニッケルも、触媒表面に沈着堆積し、脱水素反応を促進するため水素・コークの生成量を増加させ、ガソリンの選択性を低下させるなどの問題を有している。このような原油の重質化・低品位化に対応するためには、高い分解活性を有する触媒の開発が望まれている。
【0006】
加えて、FCC触媒は装置内を反応と再生を繰返しながら高速で流動しているため、FCC触媒は粒子間あるいは管壁によって磨耗する。磨耗強度が低い触媒は、装置循環とともに磨耗による微粒子を増加させ、磨耗による触媒ロスが発生するだけでなく、装置エロージョンや精留塔の不具合の原因となる上に、微粒子の分離回収が困難である。このことから、FCC触媒においては、より磨耗強度に優れた触媒粒子が求められている。
【0007】
FCC触媒の磨耗強度を得る方法としては、リン酸化合物を触媒組成物に添加し、磨耗強度を向上させる方法が提案されている(特許文献1参照)。また、磨耗強度に優れたFCC触媒として、結晶性モレキュラーシーブゼオライト類とリン酸アルミニウム成分とから成る触媒組成物が提案されている(特許文献2参照)。一方、触媒に五酸化リンを含有させる、磨耗強度に優れた接触分解用触媒組成物の製造に関する方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0008】
また、FCC触媒の分解活性を向上させる目的で、FCC触媒にリンを含有させる方法が提案されている(特許文献4、5、6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−64743号公報
【特許文献2】特開平4−354541号公報
【特許文献3】特開2007−244964号公報
【特許文献4】特表2003−514752号公報
【特許文献5】特開昭63−197549号公報
【特許文献6】特開2006−142273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に記載の方法では、リン酸化合物の添加量に比例して磨耗強度が向上するものの、リン酸化合物の付着により、活性成分であるゼオライトの表面積が低下するため、触媒活性が低下しFCCガソリンの収率が低下するといった問題点を有している。
【0011】
また、特許文献2に記載の触媒組成物は、硝酸アルミニウムとリン酸から調製されたリン酸アルミニウムを原料に用いて触媒の磨耗強度の向上を図るものであるが、分解生成物中のC3、C4オレフィン類やイソブチレンの収率増大を目的としており、FCC触媒の磨耗強度向上とFCC触媒の分解活性向上の両方を図るものではない。
【0012】
特許文献3に記載の方法は、結合剤に第一リン酸アルミニウムを使用して磨耗強度の向上を図るものであるが、使用するゼオライトはペンタシル型ゼオライトのみであり、得られる触媒組成物は、FCC触媒に物理混合するアディティブ粒子であって、単独で重質油の接触分解反応に使用できるものではない。
【0013】
また、特許文献4〜6に記載の方法はいずれも、超安定化Yゼオライトを単独でリン酸処理し、その後にFCC触媒の粒子を形成する方法であって、分解活性の向上には効果があるものの、結合剤としてのリンを使用するものではなく、FCC触媒の磨耗強度の向上に関しては課題がある。
【0014】
本発明は、以上従来の諸点を考慮し、高い分解活性と高い磨耗強度を有する炭化水素油の接触分解触媒と、その製造方法と、それを用いる炭化水素油の接触分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、結合剤の原料の一つとして第一リン酸アルミニウムとアルミナゾルとを含むFCC触媒であって、それを構成するソーダライトケージを含むゼオライトと結合剤と粘土鉱物とが特定の割合であり、かつ結合剤中におけるアルミニウム/リンのモル比が1〜10の範囲であるFCC触媒であれば、FCC触媒に必要な高い磨耗強度と、炭化水素油の接触分解反応において必要な高い分解活性の両方を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明は以下の炭化水素油の接触分解触媒及びその製造方法並びに炭化水素油の接触分解方法に関する。
[1]ソーダライトケージを含むゼオライトを20〜50質量%、
アルミナゾルと第一リン酸アルミニウムを含む結合剤を5〜40質量%、
粘土鉱物を10〜75質量%含有し、
前記結合剤中に占める前記第一リン酸アルミニウムの割合が酸化物換算で10〜75質量%であり、
結合剤中のアルミニウム/リンのモル比が1〜10の範囲である結合剤を用いることを特徴とする炭化水素油の接触分解触媒。
[2]上記[1]に記載の炭化水素油の接触分解触媒を製造する方法であって、
ソーダライトケージを含むゼオライト、結合剤、及び粘土鉱物を含み、pHが2以上である水性スラリーを用いて製造することを特徴とする製造方法。
[3]上記[1]に記載の炭化水素油の接触分解触媒を使用することを特徴とする炭化水素油の接触分解方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る接触分解触媒は、高い分解活性を有しており、接触分解反応時に高収率でガソリン、中間留分(LCO)を得ることができる。一般に炭化水素油の流動接触分解は、その性質上、わずかでも分解活性が向上するとFCC装置にかかるコスト及び負担を減少させることができる。また、本発明に係る接触分解触媒は、高い磨耗強度を有しており、炭化水素油の流動接触分解プロセスにおいて磨耗による触媒ロスを軽減でき、触媒使用量を低減できるだけでなく、微粒子の飛散による装置エロージョンや精留塔の不具合の発生等を軽減し、安定的にFCC装置を運用することが可能となる。
即ち、本発明の接触分解触媒は、上記のように、高い分解活性と高い磨耗強度を兼ね備えた接触分解触媒を提供するものであって、実用上極めて有効である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
≪接触分解触媒≫
<ソーダライトケージを含むゼオライト>
本発明の接触分解触媒は、ソーダライトケージを含むゼオライトを含有する。
ゼオライトのソーダライトケージは、アルミニウム及びケイ素四面体を基本単位とし、頂点の酸素をアルミニウム又はケイ素が共有することにより形成される立体的な正八面体の結晶構造の各頂点を切り落とした形の十四面体のゼオライトの結晶構造により規定される空隙構造であって、四員環と六員環の細孔構造を有している。このソーダライトケージ同士の結合場所や方法が変化することによって種々の細孔構造、骨格密度、チャンネル構造を有するソーダライトケージを含むゼオライトがある。しかして、本発明で用いるソーダライトケージを含むゼオライトとしては、上記種々の細孔構造、骨格密度、チャンネル構造を有するソーダライトケージを含むゼオライトを用い得て、ソーダライト、A型ゼオライト、EMT、Xゼオライト、Yゼオライト、安定化Yゼオライトなどが挙げられ、好ましくは安定化Yゼオライトである。
【0019】
この好ましく用いられる安定化Yゼオライトは、Yゼオライトを出発原料として合成され、Yゼオライトと比較して、結晶化度の劣化に対し耐性を示すものであり、一般には、Yゼオライトを高温での水蒸気処理を数回行った後、必要に応じて、塩酸等の鉱酸、水酸化ナトリウム等の塩基、フッ化カルシウム等の塩、エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤で処理することにより得られる。上記の手法で得られた安定化Yゼオライトは、水素、アンモニウムあるいは多価金属から選ばれるカチオンでイオン交換された形で使用することができる。また、安定化Yゼオライトとして、より安定性に優れたヒートショック結晶性アルミノシリケートゼオライト(特許第2544317号公報参照)を使用することもできる。
【0020】
本発明で用いる安定化Yゼオライトは、一般に、(a)化学組成分析によるバルクのSiO/Alモル比が4〜15、好ましくは5〜10、(b)単位格子寸法が24.35〜24.65Å、好ましくは、24.40〜24.60、(c)ゼオライト骨格内Alの全Alに対するモル比が0.3〜1.0、好ましくは0.4〜1.0、のものを用いる。この安定化Yゼオライトは、天然のフォージャサイトと基本的に同一の結晶構造を有し、酸化物として下記組成式(I)を有する。
〔組成式(I)〕
(0.02〜1.0)R2/mO・Al・(5〜11)SiO・(5〜8)H
式中;R:Na、K、その他のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン
m:Rの原子価
【0021】
上記安定化Yゼオライトにおける単位格子寸法はX線回折装置(XRD)により測定することができ、また、全Alに対するゼオライト骨格内Alのモル数は、化学組成分析によるSiO/Al比及び単位格子寸法から下記数式(A)〜(C)を用いて算出される値である。なお、数式(A)は、H.K.Beyeret al.,J.Chem.Soc.,Faraday Trans.1,(81),2899(1985).に記載の式を採用したものである。
〔数式(A)〕
Al= (a0−2.425)/0.000868
式中;a0:単位格子寸法/nm
Al:単位格子あたりのAl原子数
2.425:単位格子骨格内の全Al原子が骨格外に脱離したときの単位格子寸法
0.000868:実験により求めた計算値であり、a0とNAlについて1次式で整理したとき(a0=0.000868NAl+2.425)の傾き
〔数式(B)〕
(Si/Al)計算式=(192−NAl)/NAl
式中;192:Yゼオライトの単位格子寸法あたりの(Si+Al)の原子数
〔数式(C)〕
ゼオライト骨格内Al/全Al =(Si/Al)化学組成分析値/(Si/Al)計算式
【0022】
ゼオライトのSiO/Alモル比は、触媒の酸強度を示しており、モル比が大きいほど触媒の酸強度が強くなる。SiO/Alモル比が4以上であれば、重質炭化水素油の接触分解に必要な酸強度を得ることができ、その結果分解反応が好ましく進行する。SiO/Alモル比が15以下であれば、触媒の酸強度は強くなり、また必要な酸の数を確保でき、重質炭化水素油の分解活性を確保し易くなる。
【0023】
上記ゼオライトの単位格子寸法は、ゼオライトを構成する単位ユニットのサイズを示しているが、24.35Å以上であれば、重質油の分解に必要なAlの数が適当であり、その結果分解反応が好適に進行する。24.65Å以下であれば、ゼオライトの結晶の劣化を防ぎやすく、触媒の分解活性の低下が著しくなることを回避することができる。
【0024】
ゼオライト結晶を構成するAlの量が多くなりすぎると、結果、ゼオライトの骨格から脱落したAl粒子が多くなり、強酸点が発現しないために接触分解反応が進行しなくなるおそれがあるが、上記ゼオライト骨格内Alの全Alに対するモル比が0.3以上であれば、上記現象を回避できる。また、ゼオライト骨格内Alの全Alに対するモル比が1に近いと、ゼオライト内のAlの多くがゼオライト単位格子に取り込まれていることを意味し、ゼオライト内のAlが強酸点の発現に効果的に寄与するため好ましい。
本発明の接触分解触媒では、以上述べたソーダライトケージを含むゼオライトを用いることによって、所期の高分解活性を有することができる。
【0025】
<結合剤>
本発明の接触分解触媒は、上記のソーダライトケージを含むゼオライトと、結合剤と、粘土鉱物とを構成成分として製造されるものである。
ここで、結合剤とは、ゼオライト及び粘土鉱物の粒子間に存在して、触媒を微粒子化する時の成形性を良くし、球状にさせ、また得られる触媒微粒子の流動性及び耐摩耗性を図るために使用するものである。
【0026】
本発明の接触分解触媒においては、第一リン酸アルミニウムとアルミナゾルを含有する結合剤が用いられる。この第一リン酸アルミニウムは、一般式[Al(HPO]で示される水溶性の酸性リン酸塩であり、第一リン酸アルミニウム、モノリン酸アルミニウム又は重リン酸アルミニウムとも称される。第一リン酸アルミニウムは加熱によって脱水され、水分を失うと、酸化物形態となって安定化する。また、第一リン酸アルミニウムは他のアルミニウム源と比較して、水溶液中で多核錯体のポリマーとして存在しており、表面に多量の水酸基を含有しているため、触媒の結合剤として強い結合力を発揮することができる。本発明の触媒は、この第一リン酸アルミニウムを結合剤原料として用いることによって、所期の高い磨耗強度を有することができる。
【0027】
また、本発明の触媒においては、結合剤中に占める第一リン酸アルミニウムの割合が、酸化物換算で10〜75質量%、好ましくは15〜70質量%である。ここで、第一リン酸アルミニウムの酸化物換算の割合とは、第一リン酸アルミニウム[Al(HPO]をAl・3Pに換算した値を意味する。第一リン酸アルミニウムの割合が10質量%以上であれば、結合剤がリン酸アルミニウム酸化物の結晶構造(AlPO)の有するリン原子の量を確保することができ、ソーダライトケージを含むゼオライトもしくは粘土鉱物との結合力が得られるために高い磨耗強度を有する触媒が得られる。また、第一リン酸アルミニウムの割合が75質量%以下であれば、その他の結合剤原料であるアルミナゾルの割合が高くなり、結果としてリン酸アルミニウム酸化物(AlPO)を形成できるアルミニウム原子の数が確保でき、高い触媒強度が得られる。
【0028】
アルミナゾルとしては、塩基性塩化アルミニウム[Al(OH)Cl6−n(ただし、0<n<6、m≦10)、無定形のアルミナゾル、擬ベーマイト型のアルミナゾル、市販のアルミナゾル、更にジブサイト、バイアライト、ベーマイト、ベントナイト、結晶性アルミナを酸溶液中に溶解させた粒子等を使用することができるが、好ましくは塩基性塩化アルミニウムである。
【0029】
本発明の触媒では、本発明の所期の効果が得られる限りにおいて、シリカゾル、アルミナ−シリカゾル等の他の結合剤を一部混合して使用できる。本発明の触媒においては、第一リン酸アルミニウムと共に使用する他の結合剤原料として、シリカゾル等が好適に使用できる。
【0030】
結合剤中のアルミニウム/リンのモル比は1〜10、好ましくは1〜5、より好ましくは1.3〜3、更により好ましくは1.3〜2の範囲である。ここで、アルミニウムとしては、結合剤材料として含まれる第一リン酸アルミニウム、アルミナゾル由来のアルミニウム、および結合剤として用いる原料に含まれるすべてのアルミニウムが含まれる。結合剤中のアルミニウム/リンのモル比が1以上であれば、結合剤がリン酸アルミニウム酸化物の結晶構造(AlPO)の有するリン原子の量を確保することができ、ソーダライトケージを含むゼオライトもしくは粘土鉱物との結合力が得られるために高い磨耗強度を有する触媒が得られる。また、結合剤中のアルミニウム/リンのモル比が10以下であれば、その他の結合剤原料であるアルミナゾルの割合が高くなり、結果としてリン酸アルミニウム酸化物(AlPO)を形成できるアルミニウム原子の数が確保でき、高い触媒強度が得られる。
【0031】
<粘土鉱物>
また、本発明で用いる粘土鉱物としては、モンモリロナイト、カオリナイト、ハロイサイト、ベントナイト、アタパルガイト、ボーキサイト等の粘土鉱物を用いることができる。また、本発明の触媒においては、シリカ、シリカ−アルミナ、アルミナ、シリカ−マグネシア、アルミナ−マグネシア、リン−アルミナ、シリカ−ジルコニア、シリカ−マグネシア−アルミナ等の通常の接触分解触媒に使用される公知の無機酸化物の微粒子を上記粘土鉱物と併用して使用することもできる。
【0032】
<希土類金属>
本発明の触媒は、必要に応じて希土類金属を含有させることができる。
希土類金属の種類としては、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、ディスプロシウム、ホルミウム等の1種あるいは2種以上を含有させることができ、好ましいのはランタン、セリウムである。希土類金属を含有させると、ゼオライト結晶の崩壊を抑制することができ、触媒の耐久性を高めることができる。
【0033】
≪触媒の構成成分と製造方法≫
本発明の接触分解触媒は、上記のように、ソーダライトケージを含むゼオライト、結合剤、及び粘土鉱物を構成成分として製造されるものであるが、その製造は種々の手法により行うことができる。
【0034】
<構成成分含有量>
本発明の触媒の製造に当たっては、得られる触媒におけるソーダライトケージを含むゼオライト、結合剤、及び粘土鉱物の含有割合を、ソーダライトケージを含むゼオライトが20〜50質量%、好ましくは35〜45質量%、結合剤が5〜40質量%、好ましくは10〜35質量%、粘土鉱物が10〜75質量%、好ましくは15〜70質量%の範囲内とする。
【0035】
ソーダライトケージを含むゼオライトの量が20質量%以上であれば、所期の分解活性を得ることができ、また、50質量%以下であれば、相対的に粘土鉱物や結合剤の量が少なくなりすぎて、次のような好ましくない現象が生じることを回避できる。即ち、粘土鉱物や結合剤の量が少なすぎると、触媒強度が低下するのみならず、触媒の嵩密度が小さくなり、装置の運転において好ましくない結果を生じる。
【0036】
結合剤の量が5質量%以上であれば、触媒の強度が保たれるため、触媒の散飛、生成油中への混入等の好ましくない現象を回避でき、また、40質量%以下であれば、使用量に見合った触媒性能の向上が認められ、経済的に有利となる。
【0037】
また、粘土鉱物が10質量%以上であれば、触媒強度や、触媒の嵩密度が小さくて、装置の運転に支障をきたすことを回避でき、また、75質量%以下であれば、相対的にソーダライトケージを含むゼオライトや結合剤の量が少なくなり、初期の分解活性が得られなくなることや、結合剤量の不足により触媒の調製が困難となることを回避できる。
【0038】
本発明の触媒が希土類金属を含有する場合は、触媒中の希土類の含有量は、触媒を基準で、酸化物として0.01〜10質量%含有していてもよい。希土類の含有量が上記範囲であれば、高分解活性を示し、かつ、高オクタン価ガソリンを得ることができる。
【0039】
<触媒の製造方法>
以下に本発明の接触分解触媒の製造方法の好ましい一例の手順を示す。
先ず、塩基性塩化アルミニウムの水溶液に第一リン酸アルミニウムの水溶液を添加して、均一の結合剤水溶液を調製し、次いで、ソーダライトケージを含むゼオライト及び粘土鉱物を混合容器内で混合し、均一な水性スラリーを得る。この際、結合剤、ソーダライトケージを含むゼオライト及び粘土鉱物の割合を上記所定の範囲内とし、更に結合剤中のアルミニウム/リンのモル比は上記所定範囲で行う。
上記触媒構成成分を混合してなる水性スラリー中の固形分の割合は、5〜60質量%が好ましく、より好ましくは10〜50質量%である。固形分の割合がこの範囲であれば、蒸発させる水分量が適当となり、噴霧乾燥工程などで支障をきたすことがなく、また、スラリーの粘度が高くなり過ぎて、スラリーの輸送が困難になることがない。
また、上記触媒構成成分を混合してなる水性スラリーのpHは2以上とし、この2以上のpHで噴霧乾燥工程に供給することが好ましい。第一リン酸アルミニウムを含む水溶液は酸性が強く、つまりpHが低く、またその他の結合剤原料であるアルミナゾルもまた酸性の水溶液であるため、pHが低いほど均一な水性スラリーが形成されるが、pHが2以上であれば、pHが2未満の場合のソーダライトケージを含むゼオライトを構成するアルミニウム原子が溶出し、安定化Yゼオライトの結晶性が低下したり、固体酸性が低下したりといった現象が生じ、結果として分解活性の低い触媒が形成されてしまうことを回避できるので好ましい。
【0040】
次いで、上記の水性スラリーを、通常噴霧乾燥し、微小球体(触媒あるいは触媒前駆体)を得る。この噴霧乾燥は、噴霧乾燥装置により、200〜600℃のガス入口温度、及び100〜300℃のガス出口温度で行うことが好ましい。噴霧乾燥により得られる微小球体は、20〜150μmの粒子径、及び5〜30質量%の水分含有量を有している。
更に、噴霧乾燥した微小球体は、200℃以上で焼成し、焼成微小球体とすることもでき、また、噴霧乾燥装置で混合スラリーの噴霧乾燥を行う際、ガス出口温度を200℃以上に保つことができる設備を備えている場合には、噴霧乾燥工程に微小粒子の焼成工程を含めることも可能である。
【0041】
<触媒の洗浄及びイオン交換>
上記のようにして得られた微小球体は、必要に応じて、公知の方法で洗浄し、引き続いてイオン交換を行い、各種の原料から持ち込まれる過剰のアルカリ金属や可溶性の不純物等を除去した後、乾燥し、本発明の触媒を得ることができる。なお、焼成微小球体に過剰のアルカリ金属や可溶性の不純物等が存在しない場合には、洗浄やイオン交換等を行うことなくそのまま触媒として使用することもできる。
上記の洗浄は具体的には、水あるいはアンモニア水を用いて可溶性不純物量を低減させることができる。この洗浄終了後の微小球体は次いで、イオン交換を行う。イオン交換は具体的には、硫酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、亜硫酸水素アンモニウム、チオ硫酸アンモニウム、亜硝酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、ホスフィン酸アンモニウム、ホスホン酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウムなどのアンモニウム塩の水溶液によって行うことができ、このイオン交換によって微小球体に残存するナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属を低減させることができる。
【0042】
本発明の触媒では、アルカリ金属や可溶性不純物は、乾燥触媒基準で、アルカリ金属が1.0質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、可溶性不純物が2.0質量%以下、好ましくは1.5質量%以下にまで低減させることが、触媒活性を高める上で好ましい。また、上記の洗浄及びイオン交換の工程は、本発明の所期の効果が得られる限りにおいて、順序を逆にして行うこともできる。
上記の洗浄及びイオン交換の操作の後続いて、得られた微小球体を100〜500℃の温度で再度乾燥し、水分含有量を1〜25質量%にして、本発明の触媒を得ることができる。
【0043】
<希土類金属の含有>
上記イオン交換によるアルカリ金属の洗浄除去の後に、必要に応じて、次いで希土類金属によるイオン交換を行い、本発明の触媒に希土類金属を含有させることができる。
希土類金属の種類としては、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、ディスプロシウム、ホルミウム等の1種あるいは2種以上を含有させることができ、好ましいのはランタン、セリウムである。希土類金属を含有させると、ゼオライト結晶の崩壊を抑制することができ、触媒の耐久性を高めることができる。
【0044】
希土類金属を本発明の触媒へ含有させる態様としては、上記のようにソーダライトケージを含むゼオライトを含有する焼成微小球体を希土類金属でイオン交換することの他、ソーダライトケージを含むゼオライトを、予め上記希土類金属を担持させ、いわゆる金属修飾型のソーダライトケージを含むゼオライトとなし、該金属修飾型のソーダライトケージを含むゼオライトを用いて触媒を製造する様態もある。
要するに、ソーダライトケージを含むゼオライトに上記希土類金属を含有させる場合は、従来公知の方法により行うことができる。例えば、希土類金属の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等の化合物の単独あるいは2種以上を含有する水溶液を、乾燥状態あるいは湿潤状態にあるソーダライトケージを含むゼオライト、あるいはそれを含有する触媒にイオン交換あるいは含浸させ、必要に応じて加熱することにより行うことができる。
【0045】
なお、希土類金属を含有させる態様が、上記予め金属修飾型にしたソーダライトケージを含むゼオライトを用いて触媒を製造する態様の場合も、触媒の製造は、修飾型でないソーダライトケージを含むゼオライトを用いて触媒を製造する場合と同様にして行うことができる。即ち、金属修飾型のソーダライトケージを含むゼオライトを用いて、結合剤と粘土鉱物と共にスラリーを調製し、次いで該スラリーを噴霧乾燥し、微小球体にする。その後、アルカリ金属の洗浄除去を行い、ついで、必要に応じて触媒の焼成処理を行い、本発明の触媒を得ることができる。
また、本発明の触媒には、本発明の所期の効果が得られる限りにおいて、希土類以外の金属も含有させることができる。
【0046】
≪接触分解方法≫
本発明の触媒を使用して炭化水素油を接触分解するには、ガソリンの沸点以上で沸騰する炭化水素油(炭化水素混合物)を、本発明の触媒に接触させればよい。このガソリン沸点範囲以上で沸騰する炭化水素油とは、原油の常圧あるいは減圧蒸留で得られる軽油留分や常圧蒸留残渣油及び減圧蒸留残渣油を意味し、もちろんコーカー軽油、溶剤脱瀝油、溶剤脱瀝アスファルト、タールサンド油、シェールオイル油、石炭液化油、GTL(GastoLiquids)油、植物油、廃潤滑油、廃食油をも包括するものである。 更にこれらの原料炭化水素油は、当業者に周知の水素化処理、即ちNi−Mo系触媒、Co−Mo系触媒、Ni−Co−Mo系触媒、Ni−W系触媒などの水素化処理触媒の存在下、高温・高圧下で水素化脱硫した水素化処理油も接触分解の原料として使用できることは言うまでもない。
【0047】
商業的規模での炭化水素油の接触分解は、通常、垂直に据え付けられたクラッキング反応器と触媒再生器との2種の容器からなる接触分解装置に、上記した本発明の触媒を連続的に循環させて行う。すなわち、触媒再生器から出てくる熱い再生触媒を、分解すべき炭化水素油と混合し、クラッキング反応器内を上向の方向に導く。その結果、触媒上に析出したコークによって失活した触媒を、分解生成物から分離し、ストリッピング後、触媒再生器に移す。触媒再生器に移した失活した触媒を、該触媒上のコークを空気燃焼による除去で再生し、再びクラッキング反応器に循環する。一方、分解生成物は、ドライガス、LPG、ガソリン留分、中間留分(LCO)、及びHCOあるいはスラリー油のような1種以上の重質留分に分離する。もちろん、分解生成物から分離した中間留分(LCO)、HCO、スラリー油のような重質留分の一部あるいは全部を、クラッキング反応器内に再循環させて分解反応をより進めることもできる。
【0048】
このときのFCC装置におけるクラッキング反応器の運転条件としては、反応温度を400〜600℃、好ましくは450〜550℃、反応圧力を常圧〜5kg/cm、好ましくは常圧〜3kg/cm、触媒/原料炭化水素油の質量比を2〜20、好ましくは4〜15とすることが適当である。
反応温度が400℃以上であれば、炭化水素油の分解反応が好適に進行して、分解生成物を好適に得ることができる。また、600℃以下であれば、分解により生成するドライガスやLPGなどの軽質ガス生成量を軽減でき、目的物のガソリン留分の収率を相対的に増大させることができ経済的である。
圧力は5kg/cm以下であれば、モル数の増加する反応の分解反応の進行が阻害されにくい。また、触媒/原料炭化水素油の質量比が2以上であれば、クラッキング反応器内の触媒濃度を適度に保つことができ、原料炭化水素油の分解が好適に進行する。また、20以下であれば、触媒濃度を上げる効果が飽和してしまい、触媒濃度を高くするに見合った効果が得られずに不利をとなることを回避できる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例により説明するが、これらは例示であって、本発明はこれら実施例によりなんら制限されるものではない。
【0050】
実施例1
ソーダライトケージを含むゼオライトとして表1の物性を有する安定化Yゼオライトを、結合剤として第一リン酸アルミニウム(Al・3P濃度41.5質量%)と塩基性塩化アルミニウム(Al濃度24.6質量%)を、粘土鉱物としてカオリナイトを、それぞれ使用した。
【0051】
【表1】

【0052】
第一リン酸アルミニウム96.4gを蒸留水で希釈し、塩基性塩化アルミニウム水溶液122gに加え攪拌し、結合剤中のアルミニウム/リンモル比が1.6となる第一リン酸アルミニウムを含む結合剤水溶液を調製した。一方、表1の物性を有する安定化Yゼオライト80.0g(乾燥基準)に蒸留水を加え、ゼオライトスラリーを調製した。上記の結合剤水溶液に、カオリナイト50.0g(乾燥基準)を加えて混合し、更に上記のゼオライトスラリーを添加し、更に10分間混合した。なお、この水性スラリーのpHは、2.5であった。得られた水性スラリーを210℃の入口温度、及び140℃の出口温度の条件で噴霧乾燥し、触媒前駆体である微小球体を得た。次いで60℃の蒸留水2リットル(以下、「L」と記す)に触媒前駆体を入れ、アンモニア水を滴下して可溶性の不純物を取り除いた後、60℃の5質量%の硫酸アンモニウム水溶液3Lで2回イオン交換し、更に3Lの蒸留水で洗浄し、乾燥機中、110℃で一晩乾燥して触媒Aを得た。
【0053】
実施例2
ソーダライトケージを含むゼオライトとして表2の物性を有する安定化Yゼオライトを使用した。
【0054】
【表2】

【0055】
表2の物性を有する安定化Yゼオライトを使用し、第一リン酸アルミニウムの量を48.2gに代え、結合剤中のアルミニウム/リンモル比を2.9とし、更にカオリナイトの混合量を70.0g(乾燥基準)とする以外は実施例1と同様の方法で、触媒Bを得た。なお、この時の水性スラリーのpHは2.7であった。
【0056】
実施例3
第一リン酸アルミニウムの量を24.1gに代え、結合剤中のアルミニウム/リンモル比を3.8とし、更にカオリナイトの混合量を80.0g(乾燥基準)とする以外は実施例1と同様の方法で、触媒Cを得た。なお、この時の水性スラリーのpHは2.8であった。
【0057】
実施例4
第一リン酸アルミニウムの量を72.3g、塩基性塩化アルミニウム水溶液を48.8gに代え、結合剤中のアルミニウム/リンのモル比を1.0とし、更にカオリナイトの混合量を90.1g(乾燥基準)とする以外は実施例1と同様の方法で、触媒Dを得た。なお、この時の水性スラリーのpHは2.2であった。
【0058】
実施例5
第一リン酸アルミニウムの量を65.1g、塩基性塩化アルミニウム水溶液を61.0gに代え、結合剤中のアルミニウム/リンのモル比を1.3とし、更にカオリナイトの混合量を90.1g(乾燥基準)とする以外は実施例1と同様の方法で、触媒Eを得た。なお、この時の水性スラリーのpHは2.3であった。
【0059】
実施例6
第一リン酸アルミニウムの量を58.3g、塩基性塩化アルミニウム水溶液を72.4gに代え、結合剤中のアルミニウム/リンのモル比を1.6とし、更にカオリナイトの混合量を90.1g(乾燥基準)とする以外は実施例1と同様の方法で、触媒Fを得た。なお、この時の水性スラリーのpHは2.3であった。
【0060】
実施例7
第一リン酸アルミニウムの量を48.5g、塩基性塩化アルミニウム水溶液を82.3gに代え、結合剤中のアルミニウム/リンのモル比を2.0とし、更にカオリナイトの混合量を90.1g(乾燥基準)とする以外は実施例1と同様の方法で、触媒Gを得た。なお、この時の水性スラリーのpHは2.4であった。
【0061】
実施例8
第一リン酸アルミニウムの量を38.9g、塩基性塩化アルミニウム水溶液を101.9gに代え、結合剤中のアルミニウム/リンのモル比を3.0とし、更にカオリナイトの混合量を90.1g(乾燥基準)とする以外は実施例1と同様の方法で、触媒Hを得た。なお、この時の水性スラリーのpHは2.5であった。
【0062】
実施例9
第一リン酸アルミニウムの量を45.2g、塩基性塩化アルミニウム水溶液を123.8gに代え、結合剤中のアルミニウム/リンのモル比を5.0とし、更にカオリナイトの混合量を90.1g(乾燥基準)とする以外は実施例1と同様の方法で、触媒Iを得た。なお、この時の水性スラリーのpHは2.6であった。
【0063】
実施例10
第一リン酸アルミニウムの量を18.6g、塩基性塩化アルミニウム水溶液を135.2gに代え、結合剤中のアルミニウム/リンのモル比を7.0とし、更にカオリナイトの混合量を90.1g(乾燥基準)とする以外は実施例1と同様の方法で、触媒Jを得た。なお、この時の水性スラリーのpHは2.5であった。
【0064】
比較例1
第一リン酸アルミニウムを添加せず、更にカオリナイトの混合量を90.0g(乾燥基準)とする以外は実施例1と同様の方法で、触媒Kを得た。なお、この時の水性スラリーのpHは4.3であった。
【0065】
比較例2
結合剤原料である第一リン酸アルミニウムをオルトリン酸65.0gとし、結合剤中のアルミニウム/リンのモル比を1.1とする以外は実施例1と同様の方法で触媒Lを得た。なお、この時の水性スラリーのpHは2.3であった。
【0066】
比較例3
結合剤原料である第一リン酸アルミニウムをリン酸アルミニウム88.9gとし、結合剤中のアルミニウム/リンのモル比を1.8とする以外は実施例1と同様の方法で触媒Mを得た。なお、この時の水性スラリーのpHは3.4であった。
【0067】
比較例4
硝酸アルミニウム9水和物50.7gを蒸留水で溶解させ、またオルトリン酸15.6gを注ぎ込み、結合剤中のアルミニウム/リンのモル比が2.0となるリン酸を含む結合剤水溶液を調製した。一方、表1の物性を有する安定化Yゼオライト80.0g(乾燥基準)に蒸留水を加え、ゼオライトスラリーを調製した。上記の結合剤水溶液に、カオリナイト96.8g(乾燥基準)を加えて混合し、更に上記のゼオライトスラリーを添加し、更に10分間混合した。なお、この水性スラリーのpHは、1.7であった。得られた水性スラリーを210℃の入口温度、及び140℃の出口温度の条件で噴霧乾燥し、触媒前駆体である微小球体を得た。次いで60℃の蒸留水2Lに触媒前駆体を入れ、アンモニア水を滴下して可溶性の不純物を取り除いた後、60℃の5質量%の硫酸アンモニウム水溶液3Lで2回イオン交換し、更に3Lの蒸留水で洗浄し、乾燥機中、110℃で一晩乾燥して触媒Nを得た。
【0068】
比較例5
硝酸アルミニウム9水和物50.7gを88.0gに、オルトリン酸15.6gを26.7gに、カオリナイト96.8gを80.0gに代える以外は、比較例4と同様の方法で触媒Oを得た。なお、この時の水性スラリーのpHは、1.6であった。
【0069】
比較例6
安定化Yゼオライトを、シリカアルミナ比32のペンタシル型ゼオライトに代える以外は、実施例1と同様の方法で、触媒Pを得た。なお、この時の水性スラリーのpHは2.3であった。
【0070】
比較例7
ソーダライトケージを含むゼオライトとして表1の物性を有する安定化Yゼオライトを、結合剤として第一リン酸アルミニウム(Al・3P 濃度41.5質量%、アルミニウム/リンのモル比0.3)を、粘土鉱物としてカオリナイトを、それぞれ使用した。
第一リン酸アルミニウム96.4gを蒸留水で希釈して結合剤水溶液を調製し、表1の物性を有する安定化Yゼオライト80.0g(乾燥基準)に蒸留水を加えたゼオライトスラリーとカオリナイト80.0g(乾燥基準)を添加したところ、水性スラリーが固化し、pHの測定と噴霧乾燥ができなかった。
【0071】
比較例8
第一リン酸アルミニウムの量を37.2g、塩基性塩化アルミニウム水溶液を3.8gに代え、結合剤中のアルミニウム/リンのモル比を0.4とし、更にカオリナイトの混合量を90.1g(乾燥基準)を添加したところ、水性スラリーが固化し、pHの測定および噴霧乾燥はできなかった。
【0072】
比較例9
第一リン酸アルミニウムの量を9.5g、塩基性塩化アルミニウム水溶液を152.2gに代え、結合剤中のアルミニウム/リンのモル比を15とし、更にカオリナイトの混合量を90.1g(乾燥基準)とする以外は実施例1と同様の方法で、触媒Qを得た。なお、この時の水性スラリーのpHは2.7であった。
【0073】
比較例10
第一リン酸アルミニウムを添加せず、塩基性塩化アルミニウム水溶液を170.8gに代え、更にカオリナイトの混合量を90.1g(乾燥基準)とする以外は実施例1と同様の方法で、触媒Rを得た。なお、この時の水性スラリーのpHは3.4であった。
【0074】
<触媒一覧>
以上の実施例1〜10で得た触媒の組成を表3に、比較例1〜10で得た触媒の組成を表4に纏めて示す。なお、各原料は触媒の最終組成物に含まれる割合で示している。即ち、安定化Yゼオライト、ペンタシル型ゼオライトは乾燥基準での値を示している。また、粘土鉱物も乾燥基準での値を示している。結合剤原料は触媒の最終組成物に含まれる酸化物換算の割合、すなわち、第一リン酸アルミニウム[Al(HPO]はAl・3Pで、塩基性塩化アルミニウム[Al(OH)Cl6−n(ただし、0<n<6、m≦10)はAlで、オルトリン酸[HPO]はPで、硝酸アルミニウム9水和物[Al(NO・9HO]はAlで、リン酸アルミニウム[AlPO]はAlPOでの値をそれぞれ示している。
【0075】
【表3】

【0076】
【表4】

【0077】
<調製した触媒を用いた流動接触分解>
上記の実施例1〜10、比較例1〜10にて調製した触媒は、反応容器と触媒再生器とを有する流動床式接触分解装置であるベンチスケールプラントを用い、同一原料油、同一測定条件のもとで接触分解特性を試験した。また、比較例7、8の触媒はFCC触媒化することができなかったので、評価しなかった。
なお、試験に先立ち、上記触媒について、実際の使用状態に近似させるべく、即ち平衡化させるべく、500℃にて5時間乾燥した後、各触媒にニッケル及びバナジウムがそれぞれ1000質量ppm、2000質量ppmとなるようにナフテン酸ニッケル、ナフテン酸バナジウムを含むシクロヘキサン溶液を吸収させ、乾燥し、500℃で5時間の焼成を行い、引き続き、各触媒を100%水蒸気雰囲気中、785℃で6時間処理した。
続いて、実際の使用状態に近似させた触媒を表5に記載の反応条件、表6に記載の性状を示す炭化水素油(脱硫減圧軽油(VGO)50%+脱流残油(DDSP)50%)を使用し、接触分解反応を行った。
得られた分解生成油は、Agilent technologies社製 AC Sim
dis Analyzerを用いてガスクロ蒸留法にて解析し、ガソリン(25〜190
℃)、中間留分(LCO(190〜350℃))、HCO(350℃以上)の生成物量を解析した。
【0078】
【表5】

【0079】
【表6】

【0080】
<調製した触媒の磨耗強度の測定>
上記の実施例1〜10、比較例1〜10にて調製した触媒は、触媒化成技報 Vol.13,No.1(1996)に記載の条件をもとに自社設計した磨耗強度測定装置を使用し、同一条件のもとで磨耗強度を測定した。また、比較例7、8の触媒はFCC触媒化することができなかったので、評価しなかった。磨耗強度の測定方法は次のとおりである。
即ち、実施例及び比較例で得た各触媒を500℃×5時間の乾燥処理を行った後、乾燥重量45gを測りとり、5gの添加水を加えた後、磨耗強度測定装置に導入し、ついで触媒管の流速を0.104m/secになるように、窒素供給量を調整し、測定開始から12時間までに飛散した微粒子の量を初期磨耗量(Initial Fines)とし、12〜42時間までに飛散した微粒子の量を平均磨耗量(Average Attririon Rate)とする測定を行った。なお、磨耗強度の計算は、平均磨耗量を磨耗強度測定装置への充填量45gで割り、100をかけたパーセントにて表現しており、その値が小さいほど磨耗強度に優れていることを示す。
【0081】
<調製した触媒の接触分解反応及び磨耗強度測定結果>
表7に実施例1〜10、表8に比較例1〜10で得られた触媒を用いた接触分解反応で得られた生成物の分布結果と磨耗強度測定結果を合わせて示す。ここで、分解活性である転化率は100−(LCOの質量%)−(HCOの質量%)で表現する。
【0082】
【表7】

【0083】
【表8】

【0084】
表8から明らかなように、本発明に従わない比較例1、4、10は触媒の転化率は高いものの、磨耗強度の値が大きく、触媒の実装置での運用上好ましくない。比較例2はリン源としてオルトリン酸、比較例3はリン酸アルミニウムを用いたものであるが、本発明の触媒のように第一リン酸アルミニウム原料を使用していないために、分解活性が低く、ガソリン収率が低い欠点がある。逆に磨耗強度の値が小さい比較例5では転化率が低くなり、いずれにしても高い分解活性と高い磨耗強度の両方を満たすことができない。比較例6はゼオライトとしてペンタシル型ゼオライトを用いているが、磨耗強度の値が小さいものの触媒の転化率が低く、これもまた触媒の実装置での運用上好ましくない。比較例7は第一リン酸アルミニウムのみを結合剤に用い、比較例8はアルミニウム/リンのモル比が0.5の結合剤を用いたものであるが、本発明に従わないため、FCC触媒化できなかった。また、比較例9はアルミニウム/リンのモル比が15の結合剤を用いたものは、摩耗強度の値は小さいが、転化率が低く、本発明の効果を示さない。
これに対し、本発明に従って調製した実施例1〜10の触媒は、高い分解活性と高い磨耗強度の両方を満足する接触分解用触媒を提供できるので、実用上極めて有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソーダライトケージを含むゼオライトを20〜50質量%、
アルミナゾルと第一リン酸アルミニウムを含む結合剤を5〜40質量%、
粘土鉱物を10〜75質量%含有し、
前記結合剤中に占める前記第一リン酸アルミニウムの割合が酸化物換算で10〜75質量%であり、
結合剤中のアルミニウム/リンのモル比が1〜10の範囲である結合剤を用いることを特徴とする炭化水素油の接触分解触媒。
【請求項2】
請求項1に記載の炭化水素油の接触分解触媒を製造する方法であって、
ソーダライトケージを含むゼオライト、結合剤、及び粘土鉱物を含み、pHが2以上である水性スラリーを用いて製造することを特徴とする製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の炭化水素油の接触分解触媒を使用することを特徴とする炭化水素油の接触分解方法。

【公開番号】特開2009−262127(P2009−262127A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33871(P2009−33871)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(590000455)財団法人石油産業活性化センター (249)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【Fターム(参考)】