説明

推進工法用推力伝達材の選定システム、選定方法、プログラム、および記録媒体

【課題】360度方向に推進経路を曲げることができる推力伝達材を選定する選定システム、選定方法、プログラム、および記録媒体を提供する。
【解決手段】推進経路の方向を表す施工条件と、推進管の外形と設置条件を表す推進管条件と、推力伝達材の圧縮特性を表す推力伝達材条件とを設定する条件設定手段と、設定された推進管条件と推力伝達材条件とに基づいて、推力伝達材を直交する2つの方向の複数のブロックに分割する推力伝達材分割手段と、設定された施工条件と推進管条件とに基づいて、推力伝達材分割手段によって分割された推力伝達材のブロックの座標を設定する座標設定手段と、設定された推力伝達材条件と、座標設定手段によって設定された座標に基づいて、推進管の推進力を算出する推進力算出手段と、推進力算出手段によって算出された推進管の推進力が、設定された推進管条件に合致するか否かを判定する判定手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進工法における管の間に使用する推力伝達材を選定するための選定システム、選定方法、プログラム、および記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
公共下水道工事など、地下に管を埋設する埋設工事の施工方法として、推進工法が広く採用されている。推進工法は、管を埋設する全体の範囲を開削せず、例えば、コンクリート製の管を順次地中に押し出していくことによって、管を地下に埋設する施工方法である。この管を以下、「推進管」という。図9に推進工法を説明する概略図を示す。
【0003】
推進工法による埋設工事の概要は、以下の通りである。
まず、推進管を埋設する始点と終点との位置に、埋設する深さまでの立坑を掘削する。
続いて、推進管の埋設を行う始点である発進立抗STHに設置された元押設備PFが、推進管の径に相当する掘進機DMを到達立抗ENHに向けて押し出すことによって、掘進機DMが地中を掘りながら推進する。このとき、元押設備PFによる押し出し量が最大の状態、例えば、元押設備PFによって掘進機DMが全て地中に押し込まれた状態となると、掘進機DMの後端に推進管HPpが押しあてられ、元押設備PFがこの推進管HPpを押し出すことによって、掘進機DMがさらに押し出される。その後、元押設備PFによる押し出し量が最大となると、推進管HPpの後端に次の推進管HPf1が押しあてられ、元押設備PFがこの推進管HPf1を押し出す。以降、元押設備PFによる押し出し量が最大となるたびに、推進管HPf1の後端に次の推進管HPf2以降が押しあてられ、元押設備PFがこの推進管HPf2以降を押し出すという工程を繰り返す。
そして、掘進機DMが、推進管の埋設を行う終点である到達立抗ENHに到達したときには、掘進機DMの押し出しに使用していた推進管(図9においては推進管HPpおよび推進管HPf1〜3)が、掘進機DMの通った経路に残ることとなる。すなわち、推進管HPpおよび推進管HPf1〜3が掘進機DMの通った経路に埋設されたこととなる。
最後に掘進機DMおよび元押設備PFを撤去し、発進立抗STHと到達立抗ENHとを埋め戻すことによって、推進管の埋設工事が完了する。
【0004】
この推進工法に使用される推進管は、材質としては、コンクリート製、レジンコンクリート製、陶製、鉄製のもので成型されている。そのため、元押設備が推進管を押し出す際に、推進管同士が接触すると、その接触している部分、例えば、図9における推進管HPpと推進管HPf1との端部に破損が起こる。この推進管の破損を防ぎ、かつ、推進管を推進するための推進力を伝達させるための推力伝達材が推進管の端部に取り付けられている。一般に、推力伝達材の材質は、コンクリートなどの許容応力度以下で塑性変形する、例えば、ラワン合板、パーティクルボードや発泡プラスチックなどが使用されている。
【0005】
また、推進管の埋設工事においては、推進管を埋設する始点と終点とが直線で結べず、始点と終点との間に存在する障害物を回避しながら施工しなければならない状況があるため、始点と終点を曲線で結ぶ推進工法が採用されている。この推進工法において、推力伝達材の材質は、低発泡プラスチックが一般的に使用されている。
上述のような推進工法において、推進管に取り付けられた推力伝達材にかかる応力は、推進経路が直線である区間STでは全体に均一であるが、推進経路が曲線である区間CVでは全体に均一とはならず、推進経路が曲がる方向の応力がより強くなってしまう(図10参照)。このため、推進管に取り付ける推力伝達材は、不均一な応力を考慮して選定することが必要となる。
【0006】
この推力伝達材の選定方法に関して、日本下水道管渠推進技術協会より文書(非特許文献1参照)が開示されており、推進工法による推力伝達材の応力を算出するためのソフトウェア(非特許文献2参照)も配布されている。このソフトウェアを使用することによって、推力伝達材を選定する際の、推力伝達材の厚さ、推進管への取り付け位置(推力伝達材の配置)などが算出される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】推進工法体系II 計画設計・施工管理・基礎知識偏,社団法人 日本下水道管渠推進技術協会,P.87−107,2007年版
【非特許文献2】軸力検証ソフト取扱説明書、および計算方法,社団法人 日本下水道管渠推進技術協会、説明書vol_1.52,2008.02.01
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1および非特許文献2においては、推進経路に存在する障害物を左右(水平)方向に回避するための推力伝達材の選定方法が記載されている。
しかしながら、実際の埋設工事においては、推進経路に存在する障害物を左右方向のみではなく、上下(垂直)方向に回避しながら施工しなくてはならない状況となることがあり、この上下方向に推進経路を曲げて障害物を回避するための推力伝達材の選定方法がないという問題がある。
【0009】
本発明は、上記の課題認識に基づいてなされたものであり、推進経路の障害物を回避するために、左右方向のみではなく、上下方向を含めて360度方向に推進経路を曲げることができる推力伝達材を選定する選定システム、選定方法、プログラム、および記録媒体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明の選定システムは、推進工法によって埋設する推進管の端部に配置する推力伝達材を選定する選定システムにおいて、推進経路の方向を表す施工条件と、前記推進管の外形と設置条件を表す推進管条件と、前記推力伝達材の圧縮特性を表す推力伝達材条件とを設定する条件設定手段と、前記設定された推進管条件と推力伝達材条件とに基づいて、前記推力伝達材を直交する2つの方向の複数のブロックに分割する推力伝達材分割手段と、前記設定された施工条件と推進管条件とに基づいて、前記推力伝達材分割手段によって分割された前記推力伝達材のブロックの座標を設定する座標設定手段と、前記設定された推力伝達材条件と、前記座標設定手段によって設定された座標に基づいて、前記推進管の推進力を算出する推進力算出手段と、前記推進力算出手段によって算出された前記推進管の推進力が、前記設定された推進管条件に合致するか否かを判定する判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の前記施工条件は、前記推進管を推進する際の目標推進力、曲線区間の半径、推進方向を含み、前記推進管条件は、前記推進管の長さ、径の長さ、強度、許容開口長を含み、前記推力伝達材条件は、前記推進管の端部に配置する前記推力伝達材の配置位置、厚さ、応力特性を含み、前記推力伝達材分割手段は、前記推進管の径の長さと前記推力伝達材の配置位置とに基づいて前記推力伝達材の配置面を算出する推力伝達材配置面算出手段、を備え、前記推力伝達材配置面算出手段によって算出された前記推力伝達材の配置面を水平方向と垂直方向との複数のブロックに分割し、前記座標設定手段は、前記推力伝達材配置面算出手段によって算出された推力伝達材の配置面の中心から前記分割された各ブロックまでの距離を座標として設定し、前記推進力算出手段は、前記推進管の推進方向と前記推力伝達材の厚さとに基づいて前記分割されたブロック毎に前記推力伝達材の圧縮量を算出する圧縮量算出手段と、前記圧縮量算出手段によって算出された圧縮量と前記推力伝達材の厚さとに基づいて前記分割されたブロック毎に前記推力伝達材の圧縮率を算出する圧縮率算出手段と、前記圧縮率算出手段によって算出された圧縮率と前記推力伝達材の応力特性とに基づいて前記分割されたブロック毎に前記推力伝達材の応力を算出する応力算出手段と、前記応力算出手段によって算出された応力と前記分割されたブロックの面積とに基づいて前記分割されたブロック毎に前記推力伝達材の推進力を算出するブロック推進力算出手段と、を備え、前記ブロック推進力算出手段によって算出されたブロック毎の推進力を合算することによって前記推進管の推進力を算出し、前記判定手段は、前記応力算出手段によって算出された前記ブロック毎の前記推力伝達材の応力が前記推進管の強度より少ないか否かを判断し、前記推進管の推進方向に基づいて算出した開口長が、前記推進管の許容開口長の範囲内であるか否かを判断する、ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の選定方法は、推進工法によって埋設する推進管の端部に配置する推力伝達材を選定する選定方法において、推進経路の方向を表す施工条件と、前記推進管の外形と設置条件を表す推進管条件と、前記推力伝達材の圧縮特性を表す推力伝達材条件とを設定する条件設定手順と、前記設定された推進管条件と推力伝達材条件とに基づいて、前記推力伝達材を直交する2つの方向の複数のブロックに分割する推力伝達材分割手順と、前記設定された施工条件と推進管条件とに基づいて、前記推力伝達材分割手順によって分割された前記推力伝達材のブロックの座標を設定する座標設定手順と、前記設定された推力伝達材条件と、前記座標設定手順によって設定された座標に基づいて、前記推進管の推進力を算出する推進力算出手順と、前記推進力算出手順によって算出された前記推進管の推進力が、前記設定された推進管条件に合致するか否かを判定する判定手順と、を備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の前記施工条件は、前記推進管を推進する際の目標推進力、曲線区間の半径、推進方向を含み、前記推進管条件は、前記推進管の長さ、径の長さ、強度、許容開口長を含み、前記推力伝達材条件は、前記推進管の端部に配置する前記推力伝達材の配置位置、厚さ、応力特性を含み、前記推力伝達材分割手順は、前記推進管の径の長さと前記推力伝達材の配置位置とに基づいて前記推力伝達材の配置面を算出する推力伝達材配置面算出手順、を含み、前記推力伝達材配置面算出手順によって算出された前記推力伝達材の配置面を水平方向と垂直方向との複数のブロックに分割し、前記座標設定手順は、前記推力伝達材配置面算出手順によって算出された推力伝達材の配置面の中心から前記分割された各ブロックまでの距離を座標として設定し、前記推進力算出手順は、前記推進管の推進方向と前記推力伝達材の厚さとに基づいて前記分割されたブロック毎に前記推力伝達材の圧縮量を算出する圧縮量算出手順と、前記圧縮量算出手順によって算出された圧縮量と前記推力伝達材の厚さとに基づいて前記分割されたブロック毎に前記推力伝達材の圧縮率を算出する圧縮率算出手順と、前記圧縮率算出手順によって算出された圧縮率と前記推力伝達材の応力特性とに基づいて前記分割されたブロック毎に前記推力伝達材の応力を算出する応力算出手順と、前記応力算出手順によって算出された応力と前記分割されたブロックの面積とに基づいて前記分割されたブロック毎に前記推力伝達材の推進力を算出するブロック推進力算出手順と、を含み、前記ブロック推進力算出手順によって算出されたブロック毎の推進力を合算することによって前記推進管の推進力を算出し、前記判定手順は、前記応力算出手順によって算出された前記ブロック毎の前記推力伝達材の応力が前記推進管の強度より少ないか否かを判断し、前記推進管の推進方向に基づいて算出した開口長が、前記推進管の許容開口長の範囲内であるか否かを判断する、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明のプログラムは、推進工法によって埋設する推進管の端部に配置する推力伝達材を選定する選定システムのコンピュータに、推進経路の方向を表す施工条件と、前記推進管の外形と設置条件を表す推進管条件と、前記推力伝達材の圧縮特性を表す推力伝達材条件とを設定する条件設定ステップと、前記設定された推進管条件と推力伝達材条件とに基づいて、前記推力伝達材を直交する2つの方向の複数のブロックに分割する推力伝達材分割ステップと、前記設定された施工条件と推進管条件とに基づいて、前記推力伝達材分割ステップによって分割された前記推力伝達材のブロックの座標を設定する座標設定ステップと、前記設定された推力伝達材条件と、前記座標設定ステップによって設定された座標に基づいて、前記推進管の推進力を算出する推進力算出ステップと、前記推進力算出ステップによって算出された前記推進管の推進力が、前記設定された推進管条件に合致するか否かを判定する判定ステップと、を実行させることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の記録媒体は、推進工法によって埋設する推進管の端部に配置する推力伝達材を選定する選定システムのコンピュータに、推進経路の方向を表す施工条件と、前記推進管の外形と設置条件を表す推進管条件と、前記推力伝達材の圧縮特性を表す推力伝達材条件とを設定する条件設定ステップと、前記設定された推進管条件と推力伝達材条件とに基づいて、前記推力伝達材を直交する2つの方向の複数のブロックに分割する推力伝達材分割ステップと、前記設定された施工条件と推進管条件とに基づいて、前記推力伝達材分割ステップによって分割された前記推力伝達材のブロックの座標を設定する座標設定ステップと、前記設定された推力伝達材条件と、前記座標設定ステップによって設定された座標に基づいて、前記推進管の推進力を算出する推進力算出ステップと、前記推進力算出ステップによって算出された前記推進管の推進力が、前記設定された推進管条件に合致するか否かを判定する判定ステップと、を実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、推進工法によって推進管を埋設する推進経路に存在する障害物を回避する際に、左右方向のみではなく、上下方向を含めて360度方向に推進経路を曲げることができる推進管の推力伝達材を選定することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態のヒューム管およびクッション材選定システムにおいて選定されるクッション材の特性を説明する図である。
【図2】本発明の実施形態によるクッション材選定システムにおいてクッション材を選定する処理装置の概略構成を示したブロック図である。
【図3】本発明の実施形態のクッション材選定システムによるクッション材判定の処理手順を示したフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態におけるクッション材分割処理を説明する図である。
【図5】本発明の実施形態におけるヒューム管の開口算出処理を説明する図である。
【図6】本発明の実施形態におけるヒューム管の推進力算出処理を説明する図である。
【図7】本発明の実施形態におけるヒューム管の条件判断処理を説明する図である。
【図8】本発明の実施形態におけるクッション材配置の一例を示した図である。
【図9】推進工法の概要を示した図である。
【図10】推進工法における推進管の配置の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態のクッション材選定システムは、推進工法によって推進管を埋設する推進経路に存在する障害物を回避するために必要な推力伝達材(以下、「クッション材」という)を選定するシステムである。
推進管としては、コンクリート製のヒューム管や、ボックスカルバート、レジンコンクリート製のレジン管、陶製の陶管、鉄製のダクタイル管などがあげられ、代表的なものとして、ヒューム管があげられる。推進管を以下、「ヒューム管」という。
【0019】
まず、本実施形態によるヒューム管の構成と、クッション材選定システムにおいて選定されるクッション材の特性について説明する。図1は、本実施形態のヒューム管およびクッション材選定システムによって選定するクッション材CMの特性を説明する図である。図1(a)は、ヒューム管の端部を模式的に示した図である。推進工法によって推進する側(図1(a)の左側)のヒューム管(以下、「後続管」という)HPfの端部には、クッション材CMが配置されている。また、後続管HPfの端部の外周は、継手部材(継手カラー)CLおよび止水部材(パッキン材)PKによって囲まれており、推進工法によって推進される側(図1(a)の右側)のヒューム管(以下、「先行管」という)HPpが細くなっている。このことによって、推進経路を曲げた場合に継手カラーCL内で方向を変えることができる。また、パッキン材PKによって、施工後において先行管HPpと後続管HPfと間に発生する漏れを防止している。
【0020】
また、本実施形態において使用されるクッション材CMは、例えば、発泡スチロール製のクッション材であり、小さな気泡を含んだビーズが多数積層された構造を有する。クッション材CMは、先行管HPpと後続管HPfとの間で、先行管HPpを推進する際に発生する応力の集中を緩和するものである。すなわち、先行管HPpを推進するための応力が後続管HPfに伝えられると、後続管HPfが先行管HPpを押し出すことによって先行管HPpが推進されるが、このときに後続管HPfに伝えられた応力に応じてクッション材CMが潰れながら先行管HPpに応力を伝える。このようにクッション材CMが潰れることによって、後続管HPfに与えられた応力が広い面積で先行管HPpに伝達され、先行管HPpと後続管HPfの間の応力の集中が緩和される。
【0021】
なお、クッション材の発泡スチロールに含まれる気泡の量によって、ヒューム管に伝えられた応力に対するクッション材の潰れ量(歪み)が異なる。このヒューム管に伝えられた応力に応じたクッション材の歪みを示したのが応力歪み特性である。
本実施形態のクッション材選定システムは、応力歪み特性が異なる様々なクッション材から最適な特性を示すクッション材を選定する。
【0022】
図1(b)は、クッション材CMの応力歪み特性の一例であり、横軸にクッション材CMの圧縮率、縦軸に圧縮率に応じて変化する圧縮応力度を表したグラフである。また、図1(c)は、クッション材CMが圧縮され、その圧縮が開放されたときのクッション材CMの断面におけるビーズの形状を表した図である。
【0023】
図1(b)は、先行管HPpに続いて後続管HPfが推進されることによって、先行管HPpと後続管HPfの間に配置されたクッション材CMの圧縮率が高くなっていく状態を示している。
クッション材CMの圧縮応力度は、図1(b)に示すように、3つの領域に分けることができる。まず、図1(b)の最初の期間(b−1)期間は、クッション材CMの圧縮率が高まる初期の段階を示している。この期間(b−1)を弾性域と呼ぶ。この弾性域においては、後続管HPfに伝達された応力に応じてクッション材CMのビーズが潰されるが、応力が開放されることによって潰されたビーズが元の形状に戻る(図1(c−1)参照)。
【0024】
また、図1(b)の期間(b−2)期間は、弾性域よりもさらにクッション材CMの圧縮率が高まった段階を示している。この期間(b−2)を弾塑性域と呼ぶ。この弾塑性域においては、後続管HPfに伝達された応力に応じてクッション材CMのビーズが潰され、応力が開放されても応力に応じて潰されたビーズが元の形状には戻らず、潰れた形状を維持する(図1(c−2)参照)。なお、この弾塑性域においては、クッション材CMの圧縮率によって潰れたビーズの形状が異なるが、クッション材CMの圧縮応力度の変化は少なく、後続管HPfに伝えられた応力を安定して先行管HPpに伝えることができる。
【0025】
また、図1(b)の期間(b−3)期間は、弾塑性域よりもさらにクッション材CMの圧縮率が高まった段階を示している。この期間(b−3)を塑性域と呼ぶ。この塑性域では、クッション材CMのビーズが全て完全に潰れた状態となり、応力が開放されても全てのビーズは潰れた形状である(図1(c−3)参照)。この塑性域においては、後続管HPfに伝えられた応力を先行管HPpに全て伝えるため、応力の集中を緩和することができない。
【0026】
このように、後続管HPfに伝達された応力の大きさ(圧縮率)に応じてクッション材CMの圧縮応力度が異なる。また、上述のように、クッション材の発泡スチロールに含まれる気泡の量によっても、応力歪み特性が異なる。
従って、本実施形態のクッション材選定システムでは、推進経路の全区間におけるクッション材CMの圧縮応力度が、弾塑性域(図1(b−2)領域)内であるクッション材CMを選定することが望ましい。
【0027】
次に、本実施形態のクッション材選定システムにおける処理装置の構成について説明する。図2は、本実施形態によるクッション材選定システムにおいて、クッション材CMを選定する処理装置の概略構成を示したブロック図である。図2において、クッション材選定システムは、条件設定部10、クッション材分割部20、ヒューム管座標設定部30、推進力算出部40、クッション材判定部50および記憶部100から構成される。また、クッション材分割部20は、クッション材配置面算出部21を備えている。また、推進力算出部40は、圧縮量算出部41、圧縮率算出部42、応力算出部43、セクション推進力算出部44を備えている。
なお、図2における記憶部100は、本実施形態のクッション材CMを選定する処理装置外に備える構成とすることもできる。また、図2の説明においては、図1における先行管HPpを後続管HPfが押し出す場合について説明する。
【0028】
記憶部100は、条件設定部10、クッション材分割部20、ヒューム管座標設定部30、推進力算出部40、およびクッション材判定部50によって書き込み(記憶)および読み出しが可能なデータを記憶する。
なお、条件設定部10、クッション材分割部20、ヒューム管座標設定部30、推進力算出部40、およびクッション材判定部50は、その処理過程において、記憶部100への情報(データ)の書き込みおよび記憶部100からの情報(データ)の読み出しを随時行うが、以下の説明においては、記憶部100からの情報(データ)の読み出し動作の説明は省略する。また、本発明においては、記憶部100に記憶されている情報(データ)のデータ形式に関しての規定はしない。
【0029】
条件設定部10は、例えば、キーボードなどの入力装置によって、推進工法の施工条件、使用するヒューム管の条件、クッション材の条件などの設定条件が入力される。
また、条件設定部10は、入力された上述の設定条件を記憶部100に記憶する。
【0030】
なお、条件設定部10に入力する施工条件は、以下の通りである。
(1)推進経路の各区間を先行管HPpが通過するときの目標推進力、
(2)推進経路内の曲線区間の半径、
(3)推進経路内の曲線区間の方向(例えば、予め定められた基準線に対する上下左右の方向を表す角度)。
また、条件設定部10に入力するヒューム管(先行管HPpと後続管HPf)の条件は、以下の通りである。
(1)後続管HPfの端部の外径および内径の大きさ(以下、「管径」という)、
(2)先行管HPpの長さ(以下、「管長」という)、
(3)先行管HPpを推進する際に許容できる応力(以下、「許容応力」という)。
(4)先行管HPpと後続管HPfとの間において許容できる隙間の距離(以下、「許容開口長」という)。
また、条件設定部10に入力するクッション材CMの条件は、以下の通りである。
(1)クッション材CMの応力歪み特性を含む品種情報(以下、「品種情報」という)、
(2)クッション材CMの厚さ、
(3)後続管HPfの端部におけるクッション材CMの配置位置。
【0031】
クッション材分割部20内のクッション材配置面算出部21は、条件設定部10によって記憶部100に記憶された後続管HPfの管径およびクッション材CMの配置位置に基づいて、後続管HPfの端部におけるクッション材CMが配置される配置面の形状を算出し、算出したクッション材配置面の形状の情報を記憶部100に記憶する。
【0032】
クッション材分割部20は、クッション材配置面算出部21によって算出されたクッション材配置面の形状を、予め定められた水平方向(X方向)の幅および予め定められた垂直方向(Y方向)の幅の複数のブロック(以下、「セクション」という)に分割し、この分割したセクションの情報を記憶部100に記憶する。また、クッション材分割部20は、条件設定部10によって記憶部100に記憶された推進経路内の曲線区間の方向に基づいて、曲線区間において内側となるセクション、すなわち、クッション材CMが最大に潰れるセクションの位置を検出し、検出したセクションの位置情報を記憶部100に記憶する。なお、現在処理している推進経路内の曲線区間において、クッション材CMが最大に潰れるセクションは、先行管の端部と後続管の端部との隙間の距離(以下、「開口長」という)が最小となることから、以下、「最小開口セクション」と呼ぶ。
【0033】
ヒューム管座標設定部30は、クッション材配置面算出部21によって記憶部100に記憶されたクッション材配置面の情報に基づいて、クッション材配置面の中心、すなわち、後続管HPfの端部の中心を基準とし、このクッション材配置面の中心から各セクションまでの距離を座標として設定し、設定した各セクションの座標情報を記憶部100に記憶する。
【0034】
ヒューム管座標設定部30は、条件設定部10によって記憶部100に記憶された後続管HPfの管径、先行管HPpの管長、推進経路内の曲線区間の半径に基づいて、先行管HPpが推進される方向の角度を算出し、記憶部100に記憶する。
【0035】
推進力算出部40は、圧縮量算出部41、圧縮率算出部42、応力算出部43、によって、現在処理している推進経路内の曲線区間における後続管HPfに配置されたクッション材CMの圧縮量、圧縮率、応力度を順次算出する。その後、セクション推進力算出部44によって最終的な推進力(以下、「作用推進力」という)を算出する。なお、推進力の算出における圧縮量算出部41、圧縮率算出部42、応力算出部43、セクション推進力算出部44のそれぞれの算出結果は、記憶部100に記憶される。また、推進力算出部40による作用推進力の算出は、条件設定部10によって記憶部100に記憶された目標推進力を超えるまで、繰り返される。
【0036】
圧縮量算出部41は、推進力算出部40が設定した先行管HPpの曲げ角度における各セクションの圧縮量を算出し、圧縮率算出部42に出力する。
【0037】
圧縮率算出部42は、圧縮量算出部41から入力された各セクションの圧縮量と、条件設定部10によって記憶部100に記憶されたクッション材CMの厚さに基づいて、各セクションの圧縮率を算出し、応力算出部43に出力する。
なお、圧縮率算出部42において使用されるクッション材CMの厚さは、最初に圧縮率を算出するときには条件設定部10によって記憶部100に記憶されたクッション材CMの厚さが用いられるが、引き続き圧縮率の算出が行われる場合は、前回算出した推進力によって潰された状態のクッション材CMの厚さが用いられる。また、前回算出した推進力によって潰された状態のクッション材CMの厚さは、条件設定部10によって記憶部100に記憶されたクッション材CMの品種情報より算出され、圧縮率算出部42によって各セクションの圧縮率が算出される毎に記憶部100に記憶される。なお、本発明においては、算出した推進力によって潰された状態のクッション材CMの厚さの算出方法に関しての規定はしない。
【0038】
応力算出部43は、圧縮率算出部42から入力された各セクションの圧縮率と、条件設定部10によって記憶部100に記憶されたクッション材CMの品種情報とに基づいて、各セクションの応力度を算出し、セクション推進力算出部44に出力する。
【0039】
セクション推進力算出部44は、各セクションのクッション材CMの面積と、応力算出部43から入力された各セクションの応力度に基づいて、各セクションの推進力を算出する。
なお、セクション推進力算出部44において使用される各セクションのクッション材CMの面積は、クッション材分割部20が各セクションに分割する際に用いられた予め定められた水平方向および垂直方向の幅の値から算出することができる。なお、本発明においては、クッション材CMの面積の算出方法に関しての規定はしない。
【0040】
クッション材判定部50は、推進力算出部40によって記憶部100に記憶された作用推進力に基づいて、条件設定部10によって記憶部100に記憶されたクッション材CMの条件が、条件設定部10によって記憶部100に記憶された施工条件で使用可能であるか否かを判定する。また、クッション材判定部50は、その判定結果を記憶部100に記憶するとともに、本実施形態のクッション材選定システムの判定結果として出力する。
【0041】
また、クッション材判定部50は、推進力算出部40によって記憶部100に記憶された各セクションの応力度の中の最大値が、条件設定部10によって記憶部100に記憶された先行管HPpの許容応力より小さい値であるか否かを判定する。また、クッション材判定部50は、条件設定部10によって記憶部100に記憶された後続管HPfの管径、先行管HPpの管長、推進経路内の曲線区間の半径に基づいて算出した最大開口長が、条件設定部10によって記憶部100に記憶された先行管HPpと後続管HPfとの許容開口長より小さい値であるか否かを判定する。また、クッション材判定部50は、算出した最小開口長が、ヒューム管座標設定部30によって記憶部100に記憶された最小開口長より大きな値であるか否かを判定する。そして、全ての判定結果を記憶部100に記憶するとともに、出力装置に出力する。
【0042】
なお、判定結果の出力には、記憶部100に記憶した判定結果に基づいて、各項目の判定結果をそれぞれ出力装置に出力することや、全ての項目の判定結果をまとめる処理を行い、処理した判定結果を最終判定結果として出力装置に出力することもできる。
また、記憶部100に記憶した各処理部の結果を読み出す構成とすることもできる。
【0043】
本実施形態のクッション材選定システムによって出力された判定結果が問題ない、すなわち、条件設定部10に入力された条件のクッション材CMで施工が可能な場合は、引き続き次の施工区間の判定を行う。また、出力された判定結果に問題がある、すなわち、条件設定部10に入力された条件のクッション材CMで施工が不可能な場合は、条件設定部10に入力するクッション材CMの条件や先行管HPpおよび後続管HPfの条件などを変更して、再度判定を行う。
【0044】
なお、上述した本実施形態のクッション材選定システムの処理装置の機能をCPU(Central Processing Unit)などの処理装置、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などの記憶装置、キーボードやマウスなどの入力装置、およびディスプレイなどの出力装置(いずれも図示せず)などからなるコンピュータで実現するようにしても良い。この場合、条件設定部10、クッション材分割部20、ヒューム管座標設定部30、推進力算出部40、クッション材判定部50による処理をCPUによって実行し、記憶部100の機能をRAMやROMなどの記憶装置によって実現する。
【0045】
また、上述したクッション材の選定機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現しても良い。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時刻の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時刻プログラムを保持しているものも含んでも良い。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【0046】
次に、クッション材選定システムの処理手順について説明する。図3は、本実施形態のクッション材選定システムによるクッション材判定の処理手順を示したフローチャートである。また、図4、図5、図6、図7は、クッション材CMを選定する処理装置におけるクッション材分割部20、ヒューム管座標設定部30、推進力算出部40、クッション材判定部50の処理を説明する図である。
なお、本クッション材判定の処理手順の説明においては、推進経路が右斜め上(図4(a)に示したEの方向=右上45°)に曲がる場合について説明する。また、クッション材CMは、後続管HPfの端部の全範囲に配置されているものとして説明する。
【0047】
まず、ステップS10において、入力装置から推進工法の施工条件、先行管HPpおよび後続管HPfの条件、クッション材CMの条件などの設定条件が入力されると、条件設定部10は、入力された設定条件を記憶部100に記憶する。
なお、以下の説明においては、記憶部100への情報(データ)の記憶の動作および記憶部100からの情報(データ)の読み出しの動作は省略する。
【0048】
続いて、ステップS20において、クッション材分割部20は、後続管HPfの管径に基づいて、後続管HPfの端部を含む水平垂直平面(X−Y平面)を算出し、その後、クッション材配置面算出部21は、後続管HPfの管径およびクッション材CMの配置位置に基づいて、後続管HPfの端部のクッション材配置面の形状を算出する。
【0049】
続いて、ステップS21において、クッション材分割部20は、算出した後続管HPfの端部の形状を含むX−Y平面の水平方向(X方向)および垂直方向(Y方向)それぞれを、例えば、100分割(セクション化)する。そして、セクション化したX−Y平面においてクッション材CMが配置されているセクションを抽出する(図4(a)参照)。このセクションの抽出は、例えば、下式(1)に基づいて行う。
【0050】
【数1】

【0051】
上式(1)において、Dは後続管HPfの外径、Dは後続管HPfの内径、CはX−Y平面の中心から対象セクションまでの水平方向の距離、CはX−Y平面の中心から対象セクションまでの垂直方向の距離を示す。上式(1)において、X−Y平面の中心から現在確認の対象としているセクションまでの距離が、後続管HPfの外径と内径との間、すなわち、後続管HPfの端部のコンクリート部分である場合は、確認対象のセクションにクッション材CMが配置されているセクションであると判断し、このセクションを抽出する。
【0052】
続いて、ステップS22において、クッション材分割部20は、推進経路内の曲線区間の方向に基づいて、クッション材配置面の中心の傾きを算出する(図4(b)参照)。そして、ステップS23において、推進経路内の曲線区間において内側となる最小開口セクションを検出する。この最小開口セクションのX−Y平面の中心からの水平方向の距離Cおよび垂直方向の距離Cの検出は、それぞれ、例えば、式(2)の上式と下式に基づいて行う。
【0053】
【数2】

【0054】
上式(2)において、θは推進経路内の曲線区間の方向を示す。例えば、本クッション材判定の処理手順の説明においては、推進経路が右斜め上(図4(a)に示したEの方向=右上45°)に曲がる場合、θの値は45°であり、ステップS30によって検出される最小開口セクションは、図4(a)に示したセクションAである。以下、セクションAを「最小開口セクションA」と呼ぶ。なお、最小開口セクションAと対角にあるセクションCは、曲線区間において外側となるセクション、すなわち、クッション材CMの潰れが最小となるセクションである。すなわち、このセクションCの開口長は、最大となる。以下、「最大開口セクションC」と呼ぶ。
【0055】
続いて、ステップS30において、ヒューム管座標設定部30は、X−Y平面の中心、すなわち、クッション材配置面の中心を基準として、その中心から各セクションまでの距離を座標として設定する。
ここで、各セクションの距離の算出について、図5(a)を参照して説明する。各セクションの座標として設定される距離は、クッション材配置面の中心を通る線上から各セクションまでの距離である。
図5(a)では、A点は最小開口セクションAの位置を表し、C点は、最小開口セクションAと対角にある最大開口セクションCの位置を表している。ここで、B点の位置に配置されているセクション(以下、「セクションB」という)に対して、クッション材配置面の中心を通る線(以下、「中心線AC」という)からの距離を算出する場合を例とする。
まず、中心線AC上に、下式(3)が成り立つ仮想のセクション(以下、「仮想セクションD」という)を仮想し、下式(4)の関係に基づき、最小開口セクションAから仮想セクションDまでの距離ADを算出する。この距離ADがセクションBの座標として設定される。
【0056】
【数3】

【0057】
【数4】

【0058】
続いて、ステップS31において、ヒューム管座標設定部30は、先行管HPpの管長、曲線区間の半径に基づいて、先行管HPpの曲げ角度θを算出する。この先行管HPpの曲げ角度θは、例えば、下式(5)に基づいて算出する(図5(b)参照)。
【0059】
【数5】

【0060】
上式(5)において、Lは先行管HPpの管長、Rは推進経路内の曲線区間の半径を示す。
【0061】
続いて、ステップS40において、曲げ角度θより、各セクションの開口長を算出する。例えば、クッション材CMの最大開口長を開口長tmaxとすると、仮想セクションDのクッション材CMの開口長tは、下式(6)に基づいて算出することができる(図5(a)参照)。この仮想セクションDの開口長tが、セクションBのクッション材CMの開口長tに相当する。なお、推進力算出部40は、クッション材CMが配置されているクッション材配置面の全てのセクションnにおける開口長tを算出する。
【0062】
【数6】

【0063】
続いて、ステップS41において、推進力算出部40は、クッション材CMの圧縮量tの初期値(圧縮量t=0)を設定する。そして、ステップS42において、圧縮量算出部41は、設定した圧縮量tに対して予め定められた値の圧縮量tを増加させ、セクションAにおけるクッション材CMの圧縮量tを算出する。また、このときの他のセクションのクッション材CMの圧縮量t1を、例えば、上式(6)に基づいて算出する(図6(a)参照)。
【0064】
続いて、ステップS43において、圧縮率算出部42は、クッション材CMの厚さとステップS42によって算出したセクションnのクッション材CMの圧縮量t1に基づいて、例えば、下式(7)に基づいて、クッション材CMの圧縮率e1を算出する。
【0065】
【数7】

【0066】
上式(7)において、eはn番目のセクションの圧縮率、tはn番目のセクションの圧縮量、Tは元のクッション材CMの厚さを示す。
【0067】
続いて、ステップS44において、応力算出部43は、ステップS43によって算出したセクションnのクッション材CMの圧縮率e1に基づいて、応力歪み特性からクッション材CMの応力度σ1を求める(図6(b)参照)。
【0068】
続いて、ステップS45において、セクション推進力算出部44は、セクションnの面積とステップS44によって求めたセクションnのクッション材CMの応力度σ1に基づいて、例えば、下式(8)に基づいて、クッション材CMの推進力F1を算出する。
【0069】
【数8】

【0070】
上式(8)において、Fはn番目のセクションにかかる推進力、aはn番目のセクションの面積を示す。
【0071】
そして、推進力算出部40は、全てのセクションの推進力を合計して、現在処理している推進経路内の曲線区間における作用推進力Fbcを、例えば、下式(9)に基づいて算出する。
【0072】
【数9】

【0073】
続いて、推進力算出部40は、ステップS46において、算出した作用推進力Fbcが現在処理している推進経路における目標推進力を超えているか否かを確認し、算出した作用推進力Fbcが目標推進力を超えている場合は、ステップS50に進み。算出した作用推進力Fbcが目標推進力を超えていない場合は、ステップS42に戻り、現在設定されている曲げ角度θに対して予め定められた値の角度θanをさらに増加して、作用推進力Fbcの算出を繰り返す。
【0074】
なお、推進力算出部40は、作用推進力Fbcが目標推進力を超えているか否かを確認以外に、各セクションにおけるクッション材CMの応力度が先行管HPpおよび後続管HPfのコンクリートに対する応力度以下であることの確認も行う必要がある。
例えば、上式(9)が成り立つとき、クッション材CMに作用する推進力と、後続管HPfから先行管HPpに作用する推進力とが等しくなる。このため、クッション材CMに生じる最大応力度σmaxが先行管HPpと後続管HPfとの間に生じる最大圧縮応力度となり、この最大応力度σmaxが、例えば、下式(10)を満足するか否かの判断も必要である。仮に、下式(10)を満足しない場合、先行管HPpや後続管HPfが破損してしまうこととなる。
【0075】
【数10】

【0076】
上式(10)において、σnMAXは全セクションにおける圧縮応力の最大値、aはn番目のセクションの面積、σcaはコンクリートの許容圧縮応力度を示す。
【0077】
続いて、クッション材判定部50は、ステップS50において、現在処理している推進経路内の曲線区間において、算出した結果が、後述する判定条件を全て満足するか否かを確認し、算出した結果が、判定条件を全て満足する場合は、その結果を出力装置に出力して処理を完了する。また、算出した結果が、判定条件を全て満足しない場合は、条件を満足しないことを出力装置に出力し、再び入力装置から推進工法の施工条件、先行管HPpおよび後続管HPfの条件、クッション材CMの条件などの設定条件が入力されるとステップS10に戻り、再度入力された設定条件に基づいてクッション材CMの判定を繰り返す。なお、設定条件の再入力は、算出した結果が、判定条件を全て満足するまで行われる。
【0078】
ここで、ステップS50における判定条件について説明する。クッション材判定部50における判定条件は、以下の通りである。
(1)全セクションにおける圧縮応力の最大値σnMAXが、先行管HPpの許容応力より小さい値であること、
(2)最大開口長が、先行管HPpと後続管HPfとの許容開口長より小さい値であること、
(3)最小開口長が、先行管HPpと後続管HPfとの最小開口長より大きな値であること。
詳細に説明する。推進経路内の曲線区間においては、図7に示すように先行管HPpと後続管HPfとの端部において、最小開口セクションの対角にある最大開口セクションが開口する。先行管HPpと後続管HPfとの端部には、図1において説明したように、継手カラーCLとパッキン材PKによって囲まれており、施工後において先行管HPpと後続管HPfと間に発生する漏れを防止している。しかし、先行管HPpや後続管HPfには、その端部の継手カラーCLとパッキン材PKの条件によって先行管HPpと後続管HPfとの許容開口長が設定されており、推進経路内の曲線区間の半径はこの許容開口長に制約されている。例えば、最小開口長、最大開口長、開口差には、下式(11)に示す関係があり、また、開口差と推進経路内の曲線区間の半径には、下式(12)に示す関係がある。
【0079】
【数11】

【0080】
【数12】

【0081】
上式(11)において、Smaxは先行管HPpと後続管HPfとの端部の外側の開口長、Sminは先行管HPpと後続管HPfとの端部の内側の開口長、Sdiffは先行管HPpと後続管HPfとの端部の外側の開口長と内側の開口長との開口差を示す。なお、外側の開口長Smax、内側開口長Smin、開口差Sdiffは、クッション材CMの厚さと圧縮量とに基づいてその値が変化し、内側開口長Sminは、さらに後続管HPfの推進力に基づいてその値が変化する。
【0082】
その後、現在処理している推進経路内の曲線区間における算出した結果が、判定条件を全て満足した場合、引き続き次の施工区間の判定を行う。なお、次の施工区間の判定を行う際には、今回の処理において算出した結果を引き継いで実施することが望ましい。
【0083】
次に、クッション材選定システムによって選定されたクッション材CMの配置について説明する。図8は、本実施形態のクッション材選定システムによって選定されたクッション材CMの配置の一例を示した図である。図8においては、クッション材配置面の斜線部分にクッション材CMが配置されている。
図8(a)は、推進経路が左右に曲がる場合のクッション材CMの配置例であり、後続管HPfの上下にクッション材CMを配置している。このことによって、左右方向の曲がりにおいてクッション材CMを潰すために発生する応力が後続管HPfの左右方向には発生しないという効果がある。また、図8(b)は、推進経路が上下に曲がる場合のクッション材CMの配置例であり、図8(a)と同様に後続管HPfの上下方向にクッション材CMを潰すための応力が発生しないという効果がある。
図8(c)は、クッション材配置面の全体にクッション材CMが配置されているが、推進経路の上下のクッション材CMが厚くなっている。図8(c)の配置は、例えば、図8(a)と同様に推進経路が左右に曲がる場合のクッション材CMの配置例であるが、推進経路内の曲線区間におけるヒューム管同士、すなわち、先行管HPpと後続管HPfとの接触をクッション材CMで吸収することができる。また、図8(d)は、推進経路の左右のクッション材CMが厚くなっており、図8(c)に対する方向が異なるのみである。
図8(e)は、クッション材配置面の全体に均一にクッション材CMが配置した例であり、推進経路内の曲線区間の方向には有されない。
図8(f)は、上下方向と左右方向で異なる特性のクッション材CMを配置しており、推進経路内の曲線区間の方向に応じて、異なる特性のクッション材CMを配置している例である。
【0084】
上記に述べたとおり、本発明を実施するための形態によれば、推進経路の障害物を回避するために、曲げる推進経路の方向の制約がないように、後続管HPfに配置するクッション材CMを選定することができる。また、推進経路に合わせて後続管HPfに配置するクッション材CMを組み合わせることができる。
【0085】
以上、本発明の実施形態について、図面を参照して説明してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲においての種々の変更も含まれる。
【符号の説明】
【0086】
10・・・条件設定部、20・・・クッション材分割部、21・・・クッション材配置面算出部、30・・・ヒューム管座標設定部、40・・・推進力算出部、41・・・圧縮量算出部、42・・・圧縮率算出部、43・・・応力算出部、44・・・セクション推進力算出部、50・・・クッション材判定部、100・・・記憶部、CM・・・クッション材、HPp・・・先行管(ヒューム管)、HPf・・・後続管(ヒューム管)、CL・・・継手カラー(継手部材)、PK・・・パッキン材(止水部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
推進工法によって埋設する推進管の端部に配置する推力伝達材を選定する選定システムにおいて、
推進経路の方向を表す施工条件と、前記推進管の外形と設置条件を表す推進管条件と、前記推力伝達材の圧縮特性を表す推力伝達材条件とを設定する条件設定手段と、
前記設定された推進管条件と推力伝達材条件とに基づいて、前記推力伝達材を直交する2つの方向の複数のブロックに分割する推力伝達材分割手段と、
前記設定された施工条件と推進管条件とに基づいて、前記推力伝達材分割手段によって分割された前記推力伝達材のブロックの座標を設定する座標設定手段と、
前記設定された推力伝達材条件と、前記座標設定手段によって設定された座標に基づいて、前記推進管の推進力を算出する推進力算出手段と、
前記推進力算出手段によって算出された前記推進管の推進力が、前記設定された推進管条件に合致するか否かを判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする選定システム。
【請求項2】
前記施工条件は、
前記推進管を推進する際の目標推進力、曲線区間の半径、推進方向を含み、
前記推進管条件は、
前記推進管の長さ、径の長さ、強度、許容開口長を含み、
前記推力伝達材条件は、
前記推進管の端部に配置する前記推力伝達材の配置位置、厚さ、応力特性を含み、
前記推力伝達材分割手段は、
前記推進管の径の長さと前記推力伝達材の配置位置とに基づいて前記推力伝達材の配置面を算出する推力伝達材配置面算出手段、を備え、
前記推力伝達材配置面算出手段によって算出された前記推力伝達材の配置面を水平方向と垂直方向との複数のブロックに分割し、
前記座標設定手段は、
前記推力伝達材配置面算出手段によって算出された推力伝達材の配置面の中心から前記分割された各ブロックまでの距離を座標として設定し、
前記推進力算出手段は、
前記推進管の推進方向と前記推力伝達材の厚さとに基づいて前記分割されたブロック毎に前記推力伝達材の圧縮量を算出する圧縮量算出手段と、
前記圧縮量算出手段によって算出された圧縮量と前記推力伝達材の厚さとに基づいて前記分割されたブロック毎に前記推力伝達材の圧縮率を算出する圧縮率算出手段と、
前記圧縮率算出手段によって算出された圧縮率と前記推力伝達材の応力特性とに基づいて前記分割されたブロック毎に前記推力伝達材の応力を算出する応力算出手段と、
前記応力算出手段によって算出された応力と前記分割されたブロックの面積とに基づいて前記分割されたブロック毎に前記推力伝達材の推進力を算出するブロック推進力算出手段と、を備え、
前記ブロック推進力算出手段によって算出されたブロック毎の推進力を合算することによって前記推進管の推進力を算出し、
前記判定手段は、
前記応力算出手段によって算出された前記ブロック毎の前記推力伝達材の応力が前記推進管の強度より少ないか否かを判断し、
前記推進管の推進方向に基づいて算出した開口長が、前記推進管の許容開口長の範囲内であるか否かを判断する、
ことを特徴とする請求項1に記載の選定システム。
【請求項3】
推進工法によって埋設する推進管の端部に配置する推力伝達材を選定する選定方法において、
推進経路の方向を表す施工条件と、前記推進管の外形と設置条件を表す推進管条件と、前記推力伝達材の圧縮特性を表す推力伝達材条件とを設定する条件設定手順と、
前記設定された推進管条件と推力伝達材条件とに基づいて、前記推力伝達材を直交する2つの方向の複数のブロックに分割する推力伝達材分割手順と、
前記設定された施工条件と推進管条件とに基づいて、前記推力伝達材分割手順によって分割された前記推力伝達材のブロックの座標を設定する座標設定手順と、
前記設定された推力伝達材条件と、前記座標設定手順によって設定された座標に基づいて、前記推進管の推進力を算出する推進力算出手順と、
前記推進力算出手順によって算出された前記推進管の推進力が、前記設定された推進管条件に合致するか否かを判定する判定手順と、
を備えることを特徴とする選定方法。
【請求項4】
前記施工条件は、
前記推進管を推進する際の目標推進力、曲線区間の半径、推進方向を含み、
前記推進管条件は、
前記推進管の長さ、径の長さ、強度、許容開口長を含み、
前記推力伝達材条件は、
前記推進管の端部に配置する前記推力伝達材の配置位置、厚さ、応力特性を含み、
前記推力伝達材分割手順は、
前記推進管の径の長さと前記推力伝達材の配置位置とに基づいて前記推力伝達材の配置面を算出する推力伝達材配置面算出手順、を含み、
前記推力伝達材配置面算出手順によって算出された前記推力伝達材の配置面を水平方向と垂直方向との複数のブロックに分割し、
前記座標設定手順は、
前記推力伝達材配置面算出手順によって算出された推力伝達材の配置面の中心から前記分割された各ブロックまでの距離を座標として設定し、
前記推進力算出手順は、
前記推進管の推進方向と前記推力伝達材の厚さとに基づいて前記分割されたブロック毎に前記推力伝達材の圧縮量を算出する圧縮量算出手順と、
前記圧縮量算出手順によって算出された圧縮量と前記推力伝達材の厚さとに基づいて前記分割されたブロック毎に前記推力伝達材の圧縮率を算出する圧縮率算出手順と、
前記圧縮率算出手順によって算出された圧縮率と前記推力伝達材の応力特性とに基づいて前記分割されたブロック毎に前記推力伝達材の応力を算出する応力算出手順と、
前記応力算出手順によって算出された応力と前記分割されたブロックの面積とに基づいて前記分割されたブロック毎に前記推力伝達材の推進力を算出するブロック推進力算出手順と、を含み、
前記ブロック推進力算出手順によって算出されたブロック毎の推進力を合算することによって前記推進管の推進力を算出し、
前記判定手順は、
前記応力算出手順によって算出された前記ブロック毎の前記推力伝達材の応力が前記推進管の強度より少ないか否かを判断し、
前記推進管の推進方向に基づいて算出した開口長が、前記推進管の許容開口長の範囲内であるか否かを判断する、
ことを特徴とする請求項3に記載の選定方法。
【請求項5】
推進工法によって埋設する推進管の端部に配置する推力伝達材を選定する選定システムのコンピュータに、
推進経路の方向を表す施工条件と、前記推進管の外形と設置条件を表す推進管条件と、前記推力伝達材の圧縮特性を表す推力伝達材条件とを設定する条件設定ステップと、
前記設定された推進管条件と推力伝達材条件とに基づいて、前記推力伝達材を直交する2つの方向の複数のブロックに分割する推力伝達材分割ステップと、
前記設定された施工条件と推進管条件とに基づいて、前記推力伝達材分割ステップによって分割された前記推力伝達材のブロックの座標を設定する座標設定ステップと、
前記設定された推力伝達材条件と、前記座標設定ステップによって設定された座標に基づいて、前記推進管の推進力を算出する推進力算出ステップと、
前記推進力算出ステップによって算出された前記推進管の推進力が、前記設定された推進管条件に合致するか否かを判定する判定ステップと、
を実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項6】
推進工法によって埋設する推進管の端部に配置する推力伝達材を選定する選定システムのコンピュータに、
推進経路の方向を表す施工条件と、前記推進管の外形と設置条件を表す推進管条件と、前記推力伝達材の圧縮特性を表す推力伝達材条件とを設定する条件設定ステップと、
前記設定された推進管条件と推力伝達材条件とに基づいて、前記推力伝達材を直交する2つの方向の複数のブロックに分割する推力伝達材分割ステップと、
前記設定された施工条件と推進管条件とに基づいて、前記推力伝達材分割ステップによって分割された前記推力伝達材のブロックの座標を設定する座標設定ステップと、
前記設定された推力伝達材条件と、前記座標設定ステップによって設定された座標に基づいて、前記推進管の推進力を算出する推進力算出ステップと、
前記推進力算出ステップによって算出された前記推進管の推進力が、前記設定された推進管条件に合致するか否かを判定する判定ステップと、
を実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−236193(P2010−236193A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82496(P2009−82496)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】