説明

描画装置および描画装置の制御方法

【課題】自在な描画表現を可能とすべく、画像の構成に応じて部分的に濡れ性の調整を可能とする描画装置および描画装置の制御方法を提供する。
【解決手段】ワークWに対し、描画用インク材を吐出する複数の吐出ノズル21を有するインクジェットヘッド18を相対的に走査しながら、複数の吐出ノズル21から描画用インク材を選択的に吐出させて、ワークWに画像を描画処理すると共に、複数の吐出ノズル21から下地材を選択的に吐出させて、ワークWに濡れ性に関する下地塗布処理を行うキャリッジユニット9と、下地塗布処理された下地材を硬化させて定着処理する紫外線照射装置19と、キャリッジユニット9および紫外線照射装置19を制御する制御装置10と、を備え、制御装置10は、描画処理に先行し、描画処理される画像の構成に応じて下地塗布処理を行うと共に定着処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体に対し、画像の描画処理、濡れ性に関する下地塗布処理および下地の定着処理を実施する描画装置および描画装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の描画装置(インクジェット記録装置)として、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローから成る紫外線硬化性の各色インクを吐出する複数のインクジェットヘッドと、各色インクの相互の着弾干渉を回避するための紫外線硬化性の処理液を吐出する処理液ヘッドと、紫外線硬化性の透明インクを吐出する透明インクヘッドと、これら各ヘッドに対向して配置され、記録紙を平面性を保持しながら搬送する吸着ベルト搬送部と、吸着ベルト搬送部の下流側に配設され、各色インク、処理液および透明インクを同時に硬化させるUV光源と、を備えたものが知られている(特許文献1参照)。
制御系は、画像データに基づいて、各色インクの着弾領域およびその周辺領域に処理液を着弾させ、その後、着弾領域に各色インクを着弾させ、さらに、着弾領域以外の領域に透明インクを着弾させる。一方、処理液は、少なくとも拡散防止剤、重合開始剤および高沸点有機溶媒を含有しており、着弾した各色インクの位置ズレを抑制して相互の着弾干渉を防止している。これにより、各色インク、処理液および透明インクを同時に硬化させたときに、鮮明な画像を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−021886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、インクジェットヘッドを用いた加飾や捺染等において、例えば文字や図形等の部分は鮮明な描画表現が要求され、木目等の部分はぼやかした自然な描画表現が要求される。すなわち、記録媒体によっては、画像の構成に応じた自在な描画表現が要求される。
この点において、上記従来のインクジェット記録装置(描画装置)では、鮮明な描画表現は可能であるもの、ぼやかした描画表現は不可能であり、画像の構成に応じた自在な描画表現を行なうことができない問題があった。
【0005】
本発明は、自在な描画表現を可能とすべく、画像の構成に応じて部分的に濡れ性の調整を可能とする描画装置および描画装置の制御方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の描画装置は、記録媒体に対し、描画用インク材を吐出する複数の単位吐出部を有する液滴吐出手段を相対的に走査しながら、複数の単位吐出部から描画用インク材を選択的に吐出させて、記録媒体に画像を描画処理する描画処理部と、記録媒体に対し、画像の下地材を吐出する複数の単位吐出部を有する下地材吐出手段を相対的に走査しながら、複数の単位吐出部から下地材を選択的に吐出させて、記録媒体に濡れ性に関する下地塗布処理を行う下地塗布部と、下地塗布処理された下地材を硬化させて定着処理する下地定着部と、描画処理部、下地調整部および下地定着部を制御する制御手段と、を備え、制御手段は、描画処理に先行し、描画処理される画像の構成に応じて下地塗布処理を行うと共に定着処理を行うことを特徴とする。
【0007】
本発明の描画装置の制御方法は、記録媒体に対し、描画用インク材を吐出する複数の単位吐出部を有する液滴吐出手段を相対的に走査しながら、複数の単位吐出部から描画用インク材を選択的に吐出させて、記録媒体に画像を描画処理する描画処理工程と、描画処理工程に先行し、記録媒体に対し、画像の下地材を吐出する複数の単位吐出部を有する下地材吐出手段を相対的に走査しながら、複数の単位吐出部から下地材を選択的に吐出させて、記録媒体に濡れ性に関する下地塗布処理を行う下地塗布工程と、下地塗布工程の後、下地塗布処理された下地材を硬化させて定着処理する下地定着工程と、を備え、下地塗布工程では、描画処理工程により、描画処理される画像の構成に応じて下地塗布処理を行うことを特徴とする。
【0008】
これらの構成によれば、描画処理の前に、描画処理される画像の構成に応じて下地塗布処理を行うと共に定着処理を実施するため、描画内容に応じて部分ごとに下地を形成することができる。すなわち、濡れ広がりを抑制して鮮明(精細)な描画表現を行ないたい部分や、逆に濡れ広がりを促進してぼやかした描画表現を行ないたい部分があっても、記録媒体に部分的な下地塗布処理および定着処理を施して濡れ性を調整することで、柔軟な描画表現を行なうことが可能となる。なお、下地塗布処理および定着処理による濡れ性の調整は、濡れ性の高い記録媒体(親水性有り)に対しては、濡れ性を低くする方向の調整となり、濡れ性の低い記録媒体(撥水性有り)に対しては、濡れ性を高くする方向の調整となる。
【0009】
この場合、制御手段は、描画データに基づいて描画処理を行うと共に、描画データに基づいて下地塗布処理を行うことが好ましい。
【0010】
この構成によれば、描画処理を実施するときの描画データに基づいて、描画結果に応じて部分的に濡れ性の調整を適切に行うことができる。これにより、鮮明な描画表現や、ぼやかした描画表現等、画像の構成に応じた自在な描画表現を行なうことができる。
【0011】
この場合、単位吐出部が、インクジェット方式で描画用インク材を吐出する吐出ノズルであり、液滴吐出手段は、複数の吐出ノズルを有するノズル列であることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、いわゆるインクジェットヘッドを用いて、描画データに基づく描画を簡単に且つ精度良く行うことができる。
【0013】
また、下地材は、活性エネルギー線により硬化する液体材料であり、下地定着部は、活性エネルギー線を照射する下地用光照射手段を有していることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、記録媒体上に、描画処理を適切に行うための下地を迅速に形成することができる。
【0015】
さらに、描画用インク材は、活性エネルギー線により硬化するインク材であり、描画処理により記録媒体に塗着された描画用インク材を硬化させる硬化用光照射手段を、更に備えたことが好ましい。
【0016】
この構成によれば、画像データに基づく画像を記録媒体上に、所望の描画表現で形成することができる。
【0017】
さらにまた、活性エネルギー線が、所定の中心波長を有する紫外線であることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、記録媒体への下地塗布処理および定着処理を簡単に実施することができる。なお、紫外線を照射する下地用光照射手段としては、所定の中心波長を有する水銀ランプ、メタルハライドランプ、LED等が好ましい。
【0019】
この場合、下地塗布部は、吐出する下地材の濡れ性が異なる複数組の下地材吐出手段を有し、制御手段は、描画データに基づいて複数組の下地材吐出手段を選択的に駆動し、下地塗布処理を行うことが好ましい。
【0020】
また、下地塗布部は、吐出する下地材の濡れ性が高い第1の下地材吐出手段と、吐出する下地材の濡れ性が低い第2の下地材吐出手段と、の2組の下地材吐出手段を有していることが好ましい。
【0021】
これらの構成によれば、描画処理の前に、描画処理される画像の構成に応じて、複数の下地塗布処理を行うと共に定着処理を実施することができる。これにより、1の記録媒体上で多彩な描画表現を実現することができる。
【0022】
さらに、制御手段は、描画データに同色の描画用インク材が所定のドット数集約するべた塗り部分が存在する場合において、べた塗り部分の下地となる部分に対し、第1の下地材吐出手段を駆動して下地塗布処理を行うことが好ましい。
【0023】
この構成によれば、表面改質処理により、描画用インク材の濡れ広がりを促進することができ、べた塗り部分に合った描画結果を得ることができる。
【0024】
さらにまた、下地塗布処理は、下地となる部分に対し、下地材を間引いて吐出することが好ましい。
【0025】
この構成によれば、下地材の消費を抑制しつつ、見かけ上、上記のべた塗り部分と同様の描画結果を得ることができる。
【0026】
この場合、制御手段は、描画データにキャラクター画像が存在する場合において、キャラクター画像の下地となる部分に対し、第2の下地材吐出手段を駆動して下地塗布処理を行うことが好ましい。
【0027】
この構成によれば、描画用インク材の濡れ広がりが抑制され、混色の無い鮮明なキャラクター画像(高解像の画像)を得ることができる。なお、「キャラクター画像」には、文字の他、記号や図形等が含まれる。
【0028】
また、制御手段は、描画データに異色の描画用インク材が隣接する異色境界部分が存在する場合において、異色境界部分の下地となる部分に対し、第2の下地材吐出手段を駆動して下地塗布処理を行うことが好ましい。
【0029】
この構成によれば、描画用インク材の濡れ広がりが抑制され、混色の無い鮮明(高解像)な描画結果を得ることができる。
【0030】
また、一方、制御手段は、描画データに異色の描画用インク材が混ざり合う中間色部分が存在する場合において、中間色部分の下地となる部分に対し、第1の下地材吐出手段を駆動して下地塗布処理を行うことが好ましい。
【0031】
この構成によれば、描画用インク材の濡れ広がりが促進され、良好な中間色表現の描画結果を得ることができる。例えば、グラデーション等の描画表現を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1実施形態に係る描画装置の(a)は平面図であり、(b)は側面図である。
【図2】(a)は第1実施形態に係る描画装置のキャリッジユニットを模式的に示した底面図であり、(b)は第1下地層上のインク滴および第2下地層上のインク滴の状態を模式的に示した図である。
【図3】第1実施形態に係る描画装置の制御装置のブロック図である。
【図4】第1実施形態に係る描画装置の制御方法のフローチャートである。
【図5】第1実施形態に係る描画装置の制御装置が作成する第1下地用データおよび第2下地用データを説明する図である。
【図6】第1実施形態に係る描画装置の制御方法を説明図であって、ワーク、ワークステージおよびキャリッジユニットを模式的に示した説明図である。
【図7】第1実施形態に係る描画装置の制御方法を説明するための描画装置の平面図である。
【図8】第3実施形態に係る描画装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付した図面を参照して、本発明の第1実施形態に係る描画装置について説明する。この描画装置は、いわゆるリール・ツー・リール形式で除給材される薄いフィルム状のワークに対して、例えば、紫外線硬化インク(UVインク)をインクジェットヘッドにより吐出することで、所望の画像等を印刷するものである。なお、以下の説明では、ワークの送り方向をX軸方向と、X軸方向に直交する方向をY軸方向と、X軸方向およびY軸方向に直交する方向をZ軸方向と規定する。
【0034】
図1に示すように、描画装置1は、機台2と、ロール状に巻回された長尺のワークWを繰り出す繰出装置3と、印刷済みのワークWを巻き取る巻取装置4と、機台2上に配設され、給材されたワークWを吸着セットするワークステージ5と、X軸方向に延在し、ワークステージ5を介してワークWをX軸方向に間欠送りするX軸テーブル7と、X軸テーブル7を跨ぐようにY軸方向に架け渡されたY軸テーブル8と、インクを吐出してワークWに描画を行うインクジェットヘッド18を有し、Y軸テーブル8に移動自在に搭載されたキャリッジユニット9と、を備えている。
【0035】
また、描画装置1は、インクジェットヘッド18にインクを供給するためのインク供給装置(図示省略)と、インクジェットヘッド18の機能の保守および回復を図るための保守装置(図示省略)と、描画装置1を統括制御する制御装置10と、を備えている。
【0036】
この描画装置1では、繰出装置3により繰出されたワークWをワークステージ5で吸着した後、X軸テーブル7によりワークステージ5を介してワークWをX軸方向に間欠送り(副走査)すると共に、吸着保持されたワークWの描画可能領域に対し、キャリッジユニット9を往復動(主走査)させながらインクジェットヘッド18からインクを吐出して描画を行う。なお、印刷処理に供されるワークWは、連続的に供給可能なロール状のものに限定されるものではなく、枚葉のワークWを用いてもよい。
【0037】
繰出装置3および巻取装置4は、機台2やワークステージ5を挟むようにしてX軸方向上流側および下流側にそれぞれ配設されている。ワークWは、軽いテンションを付与された状態で繰出装置3から繰り出され、巻取装置4に巻き取られる。
【0038】
ワークステージ5は、その表面に複数形成された孔(図示省略)を介して、繰出装置3から送られてきたワークWを吸着する。ワークステージ5の搬送(X軸)方向上流端部および下流端部には、送込ローラー11と送出ローラー12とが、それぞれ添設されている。なお、詳細な説明は省略するが、ワークステージ5に形成された複数の孔は、図外の真空吸引設備および圧縮エアー供給設備にそれぞれ連通している。
【0039】
送込ローラー11および送出ローラー12は、それぞれ昇降可能に設けられた自由回転するニップローラーであり、X軸方向に並んで配設され、ワークWを挟み込んで、ワークステージ5上面にワークWを臨ませる。そして、ワークステージ5は、ワークWを吸着した状態で、X軸テーブル7によりX軸方向(上流側から下流側)に間欠送りされる。
【0040】
X軸テーブル7は、機台2上に配設され、X軸方向に延在する一対のX軸ガイドレール13と、ワークステージ5をX軸ガイドレール13に沿ってスライド自在に移動させるX軸移動機構14と、を有している。X軸テーブル7は、キャリッジユニット9の往動(または復動)時には停止し、次の復動(または往動)までに、描画幅分、ワークWをX軸方向の下流側に送る(改行送り)。
【0041】
Y軸テーブル8は、機台2をY軸方向に跨ぐように架け渡されたY軸ガイドレール15と、キャリッジユニット9をY軸ガイドレール15に沿ってスライド自在に移動させるY軸移動機構16と、を有している。Y軸テーブル8は、キャリッジユニット9を介して描画時にインクジェットヘッド18をY軸方向に往復動させる。
【0042】
図1および図2に示すように、キャリッジユニット9は、Y軸ガイドレール15上にスライド自在に支持されたキャリッジ本体17と、キャリッジ本体17に搭載されたインクジェットヘッド18と、インクジェットヘッド18のY軸方向両端部に配設された一対の紫外線照射装置19と、を備えている。
【0043】
キャリッジ本体17は、インクジェットヘッド18および一対の紫外線照射装置19を搭載し、X軸方向上流側においてY軸ガイドレール15にスライド自在に係合している。
【0044】
インクジェットヘッド18は、複数の吐出ノズル21が開口したノズル面22を有し、ノズル面22には、複数の吐出ノズル21が等間隔で並んで構成された複数本のノズル列NLが、相互に平行に列設されている(図2(a)参照)。このインクジェットヘッド18では、各ノズル列NLごとに、異なる種類(色)のインクおよび2種類の下地材を、それぞれ吐出するようになっている。
【0045】
本実施形態では、いわゆる紫外線硬化型のインクを用いており、図2において上のノズル列NLから、第1下地材、クリアー(CL)、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)、クリアー(CL)、第2下地材の順に配設されている。なお、インクの色、色数および各色の配列は、その用途により任意に設定してよい。また、インクは、紫外線硬化型のものに限られず、赤外線硬化型や可視光硬化型等のインクでもよい。
【0046】
下地材は、各インクに対して、濡れ性が高い第1下地材と、濡れ性の低い第2下地材との2種類からなり、画像データに基づく描画表現に従って使い分けられ、第1下地材からなる第1下地層50aと、第2下地材からなる第2下地層50bを形成する(図2(b)参照)。このように異なる濡れ性を有する下地材により下地層50を形成することで、鮮明な描画表現や、ぼやかした描画表現等、画像の構成に応じた自在な描画表現を行なうことができる。なお、下地材(第1下地材および第2下地材)は、アミノ基を有する重合体、オニウム基を有する重合体、含窒素ヘテロ環を有する重合体および金属化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0047】
各紫外線照射装置19は、インクジェットヘッド18のY軸方向両側にそれぞれ配設されており、インクジェットヘッド18から吐出され、ワークW上に着弾した第1下地材、第2下地材および各インクの液滴に対し、紫外線(活性エネルギー線)を照射する。これにより、下地材および各インクが光硬化し、ワークW上に下地層50および画像が迅速に形成される。なお、各紫外線照射装置19から照射する紫外線は、使用する下地材および各インクに応じて、その中心波長を変更することが好ましい。
【0048】
各紫外線照射装置19は、複数の発光ダイオード(LED33)がX軸方向に等間隔に並んで構成されている。各紫外線照射装置19は、ノズル列NLよりも僅かに長い範囲に紫外線を照射可能に形成されており、ワークW上に着弾した下地材の液滴およびインク滴のすべてに対し確実に紫外線が照射できるようになっている。光源としてLED33を用いることで、構造の単純化を図ることができると共に、各紫外線照射装置19からの熱的影響を抑制することができる。また、電気的なスイッチ操作で素早くON−OFF制御することもできる。なお、図2(a)に示すように、本実施形態の各紫外線照射装置19は、各LED33が1列で構成されているが、必要に応じて2列以上で構成してもよい。
【0049】
図3に示すように、制御装置10は、制御用のプログラムやデータ等が記憶されたメモリー部41と、所定の描画データが記憶された画像メモリー部42と、メモリー部41および画像メモリー部42を制御するコントローラー部43と、コントローラー部43からの指令により描画装置1を構成する各装置を駆動するドライバー部44と、を有している。
【0050】
次に、図4ないし図7を参照して、制御装置10による描画装置1の制御方法について説明する。図4に示すように、描画装置1の制御方法は、キャリッジユニット9をY軸方向に移動(走査)させながら、インクジェットヘッド18の複数の吐出ノズル21から選択的に下地材を吐出させ、ワークWに濡れ性に関する下地塗布処理を行う下地塗布工程S1と、下地塗布工程S1の後、紫外線照射装置19を駆動して、下地塗布処理されたワークW上の下地材を硬化させて定着処理する下地定着工程S2と、キャリッジユニット9をY軸方向に移動(走査)させながら、ワークW上の下地層50上に、インクジェットヘッド18の複数の吐出ノズル21から選択的にインクを吐出させ、画像データに基づく描画処理を行う描画工程S3と、紫外線照射装置19を駆動して、下地層50の表面に着弾したインク滴を硬化させる硬化工程S4と、を有している。また、下地塗布工程S1と下地定着工程S2とは、連続して1の走査時に実施され、同様に、描画工程S3と硬化工程S4とは、連続して他の走査時に実施される。
【0051】
まず、制御装置10は、描画データに基づいて、同色のインクが連続して吐出される部分(以下「べた塗り部分」と呼ぶ。)を求め、べた塗り部分に対してのみ、インクジェットヘッド18から第1下地材を吐出するための第1下地用データを作成する。また同様に、制御装置10は、描画データに基づいて、文字、記号、図形等や、異なる色彩のインクが隣接する部分等、濡れ広がりを抑制して鮮明(精細)な描画表現を行ないたい部分(以下「キャラクター画像」と呼ぶ。)を求め、キャラクター画像に対してのみ、インクジェットヘッド18から第2下地材を吐出するための第2下地用データを作成する。
【0052】
例えば、図5に示すように、三角形のべた塗り部分と、その背景(べた塗り部分)と、を描画する場合、破線で示された大小2つの三角形で囲まれた領域が、第2下地用データとなり、その他の領域が第1下地用データとなる。すなわち、三角形の輪郭部分には第2下地材を塗着させ、その他の部分(べた塗り部分)には第1下地材を塗着させるのである。
【0053】
なお、異なる色彩のインクが隣接する部分であっても、互いのインクが混ざった中間色を表現したい場合には、べた塗り部分と同様に、第1下地材を吐出するように第1下地用データとして扱うことが好ましい。これにより、良好な中間色表現の描画結果を得ることができ、例えば、グラデーション等の描画表現を容易に行うことができる。
【0054】
このように、描画処理を実施するときの描画データに基づいて、描画結果に応じて部分的に濡れ性の調整を適切に行うことで、べた塗りを行う部分では、インクの塗れ広がりを促進することができ、他方、文字等(キャラクター画像)の描画部分では、混色の無い鮮明な(高解像の画像)を得ることができる。つまり、ワークW上に形成した下地層50によりインクの濡れ性の調整を行うことで、ぼやかしたり、鮮明(精細)にしたり等、様々な描画表現を行うことが可能となる。
【0055】
続いて、制御装置10は、X軸テーブル7を駆動し、ワークステージ5を移動させ、ワークWを描画可能位置に移動させる。そして、下地塗布工程S1では、Y軸テーブル8を駆動し、キャリッジユニット9をY軸方向に往動(走査)させながら、作成した第1下地用データおよび第2下地用データに基づいてインクジェットヘッド18を駆動し、選択的に複数の吐出ノズル21から第1下地材および第2下地材を吐出する(図6(a)参照)。
【0056】
続いて、下地定着工程S2では、移動方向下流側に位置する紫外線照射装置19を駆動して、下地塗布工程S1においてワークW上に着弾した第1下地材および第2下地材の液滴を光硬化させる(図6(b)参照)。これにより、ワークWの表面には、第1下地材からなる第1下地層50aと、第2下地材からなる第2下地層50bとが形成される(図7(a)参照)。
【0057】
ワークWをY軸方向に横断するように往動させた後(1パス目終了後)、制御装置10は、キャリッジユニット9をY軸方向に復動(2パス目)させながら描画工程S3を実行する。描画工程S3では、ワークW上に形成された第1下地層50aおよび第2下地層50bに対し、インクジェットヘッド18を駆動して描画データに基づく描画処理を実施する(図6(c)参照)。描画データに基づいて描画処理を行うことにより、べた塗り部分は、第1下地層50a上で濡れ広がり、インクの消費を抑制しても良好な描画結果を得ることができ、他方、キャラクター画像も、第2下地層50b上において、混色のない鮮明な描画結果を得ることができる。
【0058】
硬化工程S4は、移動方向下流側に位置する紫外線照射装置19を駆動して、描画工程S2においてワークW上に着弾したインク滴を光硬化させる(図6(d)および図7(b)参照)。なお、硬化工程S4や、上記した下地定着工程S2における紫外線の照射は、移動方向下流側だけでなく、一対(上流・下流)の紫外線照射装置19を常時点灯させておいてもよい。
【0059】
制御装置10は、キャリッジユニット9をY軸方向に横断するように往復移動させた後(2パス目終了後)、X軸テーブル7を駆動してワークステージ5(ワークW)を描画幅分だけ下流へと移動(改行送り)させる(図7(c)参照)。そして、制御装置10は、キャリッジユニット9をY軸方向に往復移動させながら、1パス目と同様に、下地塗布工程S1および下地定着工程S2を連続的に実施させ、2パス目と同様に描画工程S3および硬化工程S4を連続的に実施させる。以降、ワークステージ5の下流への改行送りと、キャリッジユニット9の往復移動と、を繰り返し、ワークステージ5上に吸着保持されたワークWの描画可能領域(ワークステージ5上に吸着された範囲)に画像データに基づく描画を行う。
【0060】
一対の紫外線照射装置19は、インクジェットヘッド18のY軸方向両端に設けられ、1のキャリッジ本体17に搭載され、これらを一体に往復移動可能に構成されているため、描画処理の実施前に下地層50を形成することができる。また、描画処理の実施直後にインクを硬化させることができると共に、往動および復動のいずれにおいても、下地塗布処理、定着処理、描画処理および光硬化処理を実施することができ、これら一連の作業をより効率良く行なうことができる。
【0061】
以上の構成によれば、描画処理の前に、描画処理される画像データの構成に応じて下地塗布処理を行うと共に定着処理を実施するため、描画内容に応じて部分ごとに異なる濡れ性を有する複数の下地層50(第1下地層50aおよび第2下地層50b)を形成することができる。これにより、1のワークW上で多彩な描画表現を実現することができる。すなわち、濡れ広がりを抑制して鮮明(精細)な描画表現を行ないたい部分や、逆に濡れ広がりを促進してぼやかした描画表現を行ないたい部分があっても、ワークWに部分的な下地塗布処理および定着処理を施して濡れ性を調整することで、柔軟な描画表現を行なうことが可能となる。
【0062】
なお、本実施形態では、第1下地材および第2下地材の2種類の下地材を用いていたが、いずれか一方のみを用いてもよい。すなわち、濡れ性の低い記録媒体(撥水性有り)に対しては、第1下地材を用いて、濡れ性を高くする方向の調整をし、他方、濡れ性の高いワークW(親水性有り)に対しては、第2下地材を用いて、濡れ性を低くする方向の調整をする。この場合、下地材が塗布された部分に対してのみ紫外線を照射すればよいため、制御装置10は、各紫外線照射装置19を構成する複数のLED33を選択的にON−OFF制御することが好ましい。
【0063】
なお、本実施形態では、各紫外線照射装置19は、複数のLED33により構成されているが、所定の中心波長を有する水銀ランプやメタルハライドランプ等を用いてもよい。
【0064】
また、上述した描画装置1の制御方法では、キャリッジユニット9の往動で下地塗布工程S1および下地定着工程S2を実施し、キャリッジユニット9の復動で描画工程S3および硬化工程S4を実施しているが、キャリッジユニット9を往復移動させながら下地塗布工程S1および下地定着工程S2を行い、その後、ワークステージ5(ワークW)の改行送りをせずに、さらにキャリッジユニット9を往復移動させながら描画工程S3および硬化工程S4を実施してもよい。
【0065】
またさらに、ワークWの描画可能領域全域に対し、往復移動(各パス)で下地塗布工程S1および下地定着工程S2を先に実施し、描画可能領域全域の下地層50の形成が終了したワークWに対し、描画工程S3および硬化工程S4を実施してもよい。
【0066】
(第2実施形態)
上述した第1実施形態に係る描画装置1の制御方法では、べた塗り部分となる部分のすべてに対し、第1下地層50aを形成し、キャラクター画像となる部分のすべてに対し、第2下地層50bを形成していたが、第2実施形態に係るものでは、ワークWに対するインクジェットヘッド18からの第1下地材および第2下地材の吐出が断続して実施される。例えば、複数の吐出ノズル21のうちからランダムに選択した吐出ノズル21や、複数の吐出ノズル21のうちn個ごとに選択した吐出ノズル21からのみ各下地材の吐出を行う等の方法により、べた塗り部分やキャラクター画像の下地となる部分への下地層50の形成を断続的に(間引きして)行う。なお、制御装置10は、断続的に行う第1下地用データおよび第2下地用データを作成し、これに基づいて下地塗布工程S1を行う。この構成によれば、各下地材の消費を抑制しつつ、見かけ上、第1実施形態に係るべた塗り部分やキャラクター画像の描画部分と同様の描画結果を得ることができる。
【0067】
(第3実施形態)
続いて、図8を参照して、第3実施形態に係る描画装置1について説明する。なお、以降の説明では、第1実施形態に係る描画装置1と異なる点のみを示す。第3実施形態に係る描画装置1は、ワークステージ5、X軸テーブル7、Y軸テーブル8およびキャリッジユニット9をそれぞれ2台ずつ備えている。2台のワークステージ5は、X軸方向に並んで配設されており、各ワークステージ5は、各X軸テーブル7により個別に移動可能に構成されている。また、2台のワークステージ5の間には、繰り出されたワークWのバッファとなるアキュムレーター部61が設けられている。さらに、この描画装置1は、各ワークステージ5を跨ぐようにY軸方向にそれぞれ設けられた2台のY軸テーブル8と、各Y軸テーブル8に沿って移動可能な2台のキャリッジユニット9と、を備えている。
【0068】
この描画装置1では、X軸方向上流側に配設されたワークステージ5等およびキャリッジユニット9(以降「下地形成部62」と呼ぶ。)により、下地塗布工程S1(下地塗布処理)および下地定着工程S2(定着処理)が実施され、他方、X軸方向下流側に配設されたワークステージ5等およびキャリッジユニット9(以降「画像描画部63」と呼ぶ。)により、描画工程S3(描画処理)および硬化工程S4(硬化処理)が実施される。
【0069】
下地形成部62におけるキャリッジユニット9には、第1下地材および第2下地材を吐出するインクジェットヘッド18と、一対の紫外線照射装置19と、が搭載されている。画像描画部63におけるキャリッジユニット9には、各種描画用のインクを吐出するインクジェットヘッド18と、一対の紫外線照射装置19と、が搭載されている。
【0070】
第3実施形態に係る描画装置1の制御方法について簡単に説明する。まず、制御装置10は、下地形成部62のワークステージ5を移動させ、ワークWを処理可能位置に移動させる。そして、下地形成部62のキャリッジユニット9を往動させ、下地塗布工程S1および下地定着工程S2を実施した後、ワークステージ5を下流へと改行送りさせる。こんどは、キャリッジユニット9を復動させ、下地塗布工程S1等を実施した後、ワークステージ5を改行送りさせる。以降、キャリッジユニット9の往復移動と、ワークステージ5の下流への改行送りと、を繰り返し、ワークステージ5上に吸着保持されたワークWの描画可能領域に第1下地層50aおよび第2下地層50bを形成する。なお、画像描画部63および下地形成部62のワークステージ5のうち、一方を固定したまま、他方のワークステージ5を移動させても、アキュムレーター部61がワークWの弛みを吸収するため、ワークWに対し無理な張力がかからないようになっている。
【0071】
制御装置10は、巻取装置4を駆動してワークWを巻き取り、下地層50が形成されたワークWを、画像描画部63のワークステージ5上に搬送し吸着固定させる。そして、制御装置10は、ワークステージ5を移動させ、ワークWを描画可能位置に移動させる。そして、画像描画部63のキャリッジユニット9を往動させ、描画工程S3および硬化工程S4を実施した後、ワークステージ5を下流へと改行送りさせる。こんどは、キャリッジユニット9を復動させ、描画工程S3等を実施した後、ワークステージ5を改行送りさせる。以降、キャリッジユニット9の往復移動と、ワークステージ5の下流への改行送りと、を繰り返し、ワークステージ5上に吸着保持されたワークWの描画可能領域に所定の描画を行う。
【0072】
以上の構成によれば、下地層50の形成と描画処理とを同時並行して実施することができる。このため、所定の描画全体にかかるタクトタイムを短縮することができる。
【符号の説明】
【0073】
1:描画装置、9:キャリッジユニット、10:制御装置、18:インクジェットヘッド、19:紫外線照射装置、21:吐出ノズル、33:LED、NL:ノズル列、W:ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に対し、描画用インク材を吐出する複数の単位吐出部を有する液滴吐出手段を相対的に走査しながら、前記複数の単位吐出部から前記描画用インク材を選択的に吐出させて、前記記録媒体に画像を描画処理する描画処理部と、
前記記録媒体に対し、前記画像の下地材を吐出する複数の単位吐出部を有する下地材吐出手段を相対的に走査しながら、前記複数の単位吐出部から前記下地材を選択的に吐出させて、前記記録媒体に濡れ性に関する下地塗布処理を行う下地塗布部と、
前記下地塗布処理された前記下地材を硬化させて定着処理する下地定着部と、
前記描画処理部、前記下地調整部および前記下地定着部を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記描画処理に先行し、前記描画処理される前記画像の構成に応じて前記下地塗布処理を行うと共に前記定着処理を行うことを特徴とする描画装置。
【請求項2】
前記制御手段は、描画データに基づいて前記描画処理を行うと共に、前記描画データに基づいて前記下地塗布処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の描画装置。
【請求項3】
前記単位吐出部が、インクジェット方式で前記描画用インク材を吐出する吐出ノズルであり、
前記液滴吐出手段は、複数の前記吐出ノズルを有するノズル列であることを特徴とする請求項2に記載の描画装置。
【請求項4】
前記下地材は、活性エネルギー線により硬化する液体材料であり、
前記下地定着部は、前記活性エネルギー線を照射する下地用光照射手段を有していることを特徴とする請求項2または3に記載の描画装置。
【請求項5】
前記描画用インク材は、活性エネルギー線により硬化するインク材であり、
前記描画処理により前記記録媒体に塗着された前記描画用インク材を硬化させる硬化用光照射手段を、更に備えたことを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の描画装置。
【請求項6】
前記活性エネルギー線が、所定の中心波長を有する紫外線であることを特徴とする請求項4または5に記載の描画装置。
【請求項7】
前記下地塗布部は、吐出する前記下地材の濡れ性が異なる複数組の下地材吐出手段を有し、
前記制御手段は、前記描画データに基づいて前記複数組の下地材吐出手段を選択的に駆動し、前記下地塗布処理を行うことを特徴とする請求項2ないし6のいずれかに記載の描画装置。
【請求項8】
前記下地塗布部は、吐出する前記下地材の濡れ性が高い第1の下地材吐出手段と、吐出する前記下地材の濡れ性が低い第2の下地材吐出手段と、の2組の前記下地材吐出手段を有していることを特徴とする請求項7に記載の描画装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記描画データに同色の前記描画用インク材が所定のドット数集約するべた塗り部分が存在する場合において、
前記べた塗り部分の下地となる部分に対し、前記第1の下地材吐出手段を駆動して前記下地塗布処理を行うことを特徴とする請求項8に記載の描画装置。
【請求項10】
前記下地塗布処理は、前記下地となる部分に対し、前記下地材を間引いて吐出することを特徴とする請求項9に記載の描画装置。
【請求項11】
前記制御手段は、前記描画データにキャラクター画像が存在する場合において、
前記キャラクター画像の下地となる部分に対し、前記第2の下地材吐出手段を駆動して前記下地塗布処理を行うことを特徴とする請求項8ないし10のいずれかに記載の描画装置。
【請求項12】
前記制御手段は、前記描画データに異色の前記描画用インク材が隣接する異色境界部分が存在する場合において、
前記異色境界部分の下地となる部分に対し、前記第2の下地材吐出手段を駆動して前記下地塗布処理を行うことを特徴とする請求項8ないし11のいずれかに記載の描画装置。
【請求項13】
前記制御手段は、前記描画データに異色の前記描画用インク材が混ざり合う中間色部分が存在する場合において、
前記中間色部分の下地となる部分に対し、前記第1の下地材吐出手段を駆動して前記下地塗布処理を行うことを特徴とする請求項8ないし12のいずれかに記載の描画装置。
【請求項14】
記録媒体に対し、描画用インク材を吐出する複数の単位吐出部を有する液滴吐出手段を相対的に走査しながら、前記複数の単位吐出部から前記描画用インク材を選択的に吐出させて、前記記録媒体に画像を描画処理する描画処理工程と、
前記描画処理工程に先行し、
記録媒体に対し、前記画像の下地材を吐出する複数の単位吐出部を有する下地材吐出手段を相対的に走査しながら、前記複数の単位吐出部から前記下地材を選択的に吐出させて、前記記録媒体に濡れ性に関する下地塗布処理を行う下地塗布工程と、
前記下地塗布工程の後、
前記下地塗布処理された前記下地材を硬化させて定着処理する下地定着工程と、を備え、
前記下地塗布工程では、前記描画処理工程により、前記描画処理される画像の構成に応じて前記下地塗布処理を行うことを特徴とする描画装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−106362(P2012−106362A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255549(P2010−255549)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】