説明

揮散性物質放出器および製造方法

【課題】表面積の大きいゲル成形体を形成して揮散性物質を効率よく揮散させることができるとともに、運搬、保存、取扱い時にゲル成形体の破損、変形や水分の分離を防止し安定して収容でき、これにより商品の外観や商品価値を高く維持することができ、しかも装飾性に優れた揮散性物質放出器、ならびにその効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】揮散性物質放出器1は、開口部11およびゲル収容空間6を有する容器3に、揮散性物質を保持するゲル材料を注入し、容器3のゲル収容空間6内に突出する型面21bを有する型可剥性の型部材21を開口部11に取り付けて、型面21bをゲル材料中に挿入してゲル化することにより、凹部4を有するゲル成形体2を形成して製造され、型部材21を引き剥がして凹部4を露出させ、ゲル成形体2から揮散性物質を揮散させて使用するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮散性物質を保持するゲル成形体を収容し、揮散性物質を徐々に放出するようにした揮散性物質放出器およびその製造方法に関し、特に表面積の大きいゲル成形体を形成し、安定して収容できるようにした揮散性物質放出器、およびその効率的な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香剤、消臭剤、抗菌剤等の揮散性物質を保持するゲル成形体を容器内に収容し、容器を開口させて、ゲル成形体に含まれる揮散性物質を徐々に放出するようにした揮散性物質放出器がトイレット用等に使用されている。このような揮散性物質放出器としては、放出器全体を装飾性の高い構造、使用形態とすることにより、装飾部材としての機能を付与するものが求められている。しかし揮散性物質放出器は、揮散性物質の放出という本来の機能を保持するために、ゲル成形体の揮散面積を大きくした状態で、装飾性を高くすることが重要である。また装飾性を高めるためには、使用形態の多様性も求められており、容器を横向きにしたり、倒立させたりして、装飾性を高くすることも行われている。
【0003】
図3は特許文献1(特開2006−254943)に示された従来の揮散性物質放出器の使用前の状態を示し、(a)はシール部材および通気部材を一部取り去った平面図、(b)はその垂直断面図である。図3において、揮散性物質放出器1は、ゲル成形体2が透明な容器3のゲル収容空間6に内に充填され、容器3の開口部11側から容器3の反対側の底面9に至らない深さで凹部4がゲル成形体2に形成され、表面積が大きい外表面5が形成されている。容器3の開口部11はシール部材12で密封され、通気部材13が容器3の開口部11に取り付けられている。ゲル成形体2は、揮散性物質を保持する形状保持性を有する可剥性透明架橋ゼラチン水性ゲル成形体からなり、容器3に開口部11側から隙間なく充填されて、容器3の内壁に密着した構造を有する。
【0004】
容器3は、硬質透明プラスチックによりポット状に形成され、開口部11が容器3の最大径部7より小径とされ、開口部11の外周部には通気部材13とのフランジ8が形成されている。凹部4は、先端が球面となった円筒状の深い凹部4aとなっている。シール部材12は、開口部11に剥離可能に固着されている。通気部材13は、周壁に通気孔17を有し、容器3の開口部11を覆うように、取り外し可能に取り付けられている。
【0005】
上記の揮散性物質放出器1は、以下のようにして製造される。まず開口部11を上にした容器3に、ゼラチン、架橋剤および揮発成分を含む水性ゾルを入れ、凹部4に対応した凸形状の凹部4形成用の成形型(図示省略)を開口部11側から水性ゾル中に挿入した状態で反応させることにより、容器3に開口部11側から隙間なく充填されて容器3の内壁に密着した構造を有し、開口部11側に凹部4が形成されたゼリー強度15以上の形状保持性透明ゼラチン水性ゲル成形体からなるゲル成形体2を形成する。
【0006】
反応終了後、成形型を開口部11側から抜き取ると、ゲル成形体2の外表面5には容器3の内壁に至らない凹部4が形成される。この状態で容器3の開口部11をシール部材12で密封し、通気部材13と組み合わせることにより、揮散性物質放出器1が製造される。揮散性物質放出器1は、開口部11を上にした状態で、製品として運搬、保管される。
【0007】
上記の揮散性物質放出器1は、容器3のシール部材12を引き剥がし、開口部11を上または下にして通気部材13で覆った状態で使用する。揮散性物質放出器1の使用状態では、容器3内のゲル成形体2は、容器3の開口部11および通気部材13の通気孔17を
通して大気と接触することになり、ゲル成形体2に含まれる香料、防虫成分等の揮発成分は、ゲル成形体2の凹部4を含む外表面5から大気中に揮散し、芳香剤、防虫剤などとしての機能を発揮する。ゲル成形体2は、凹部4の形成により大表面形状となっているため、大気との接触面積が大きくなり、揮散性物質を効率よく揮散させて大気中に放出させ、芳香の付与、消臭等の機能を長く維持することができる。
【0008】
上記従来の揮散性物質放出器1は、ゲル成形体2の表面積を大きくして揮散性物質の放出を容易にするために、ゲル成形体2の開口部11側に凹部4を形成しているので、容器3の開口部11側の外表面5とシール部材12との間に、凹部4により大きい空間が形成されている。このような状態で揮散性物質放出器1を運搬し、陳列等のために移動させたりすると、ゲル成形体2の性状によっては、形状が崩れたり、変形することがある。特に陳列等に際して製品を落下させると、ゲル成形体2の凹部4に面する部分が破壊されることがある。またゲルの性状によっては、ゲル成形体2から凹部4に水分が蒸発し、発生する蒸気が結露したり、あるいは流下して水相が形成されることがある。そのような破壊状態や、結露あるいは流下した水相は、透明な容器およびゲル層を通して外部から視認され、外観、商品価値を低下させるなどの問題点がある。
【特許文献1】特開2006−254943
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は上記のような従来のゲル成形体に凹部が形成されることによる問題点を解決し、表面積の大きいゲル成形体を形成して揮散性物質を効率よく揮散させることができるとともに、運搬、保存、取扱い時にゲル成形体の破損、変形や水分の分離を防止し安定して収容でき、これにより商品の外観や商品価値を高く維持することができ、しかも装飾性に優れた揮散性物質放出器、ならびにその効率的な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は次の揮散性物質放出器および製造方法である。
(1) 開口部およびゲル収容空間を有する容器と、
揮散性物質を保持し、前記容器のゲル収容空間内に充填され、かつ開口部側に形成された凹部を有するゲル成形体と、
前記容器のゲル収容空間に突出するように開口部に取り付けられ、ゲル成形体の凹部を形成する可剥性の型部材と
を備えていることを特徴とする揮散性物質放出器。
(2) 使用時において、収縮するゲル成形体が剥離して容器から脱落するのを防止するゲル保持部材が設けられている上記(1)記載の揮散性物質放出器。
(3) 容器の開口部および型部材を覆うシール部材が設けられている上記(1)または(2)記載の揮散性物質放出器。
(4) ゲル保持部材は、容器の開口部に取り付けられる通気性部材、または容器の壁面から突出する突出部からなる上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の揮散性物質放出器。
(5) ゲル成形体が、ゼラチン、カラギーナン、寒天、澱粉、CMC、オイルゲル、吸水ポリマー、および多官能の酸とポリオールの重縮合ゲルから選ばれるものである上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の揮散性物質放出器。
(6) ゲル成形体が、可剥性の架橋ゼラチン水性ゲル成形体からなる上記(5)記載の揮散性物質放出器。
(7) 室内、台所、クローゼット、トイレット、浴室、自動車または冷蔵庫に設置して、芳香剤、消臭剤、抗菌剤、防虫剤および忌避剤から選ばれる揮散性物質を放出するために使用される上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の揮散性物質放出器。
(8) 揮散性物質を保持するゲル成形体が容器に充填された揮散性物質放出器におい
て、容器の開口部側にゲル成形体の凹部を形成する型部材であって、
容器の開口部に取り付けられる取付部と、
この取付部からゲル成形体の凹部を形成するように容器のゲル収容空間内に突出する型面を有することを特徴とする揮散性物質放出器用型部材。
(9) 開口部およびゲル収容空間を有する容器に、
揮散性物質を保持するゲル材料を前記容器のゲル収容空間内に充填し、
前記容器の開口部に可剥性の型部材を取り付け、型部材の型面をゲル材料中に挿入してゲル化し、
凹部を有するゲル成形体を形成する
ことを特徴とする揮散性物質放出器の製造方法。
【0011】
本発明において、揮散性物質を保持するゲル成形体を充填する容器は、開口部およびゲル収容空間を有する容器であり、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート等の硬質プラスチックのほか、ガラス等の形状保持性を有する材料から、容器状に形成される。容器の材料は、容器のゲル収容空間内にゲル成形体を充填して保持できるものであればよいが、ゲル成形体が可剥性となるように、ゲル成形体と溶着しないものが好ましい。ポリエチレン、ポリプロピレン等の無極性のポリオレフィンのような接着性が低いプラスチックにより容器を形成すると、ゲル成形体が可剥性を示す領域を広くすることができる。容器は透明または半透明であれば、装飾性を高くできるとともに、容器側または反対側からゲル成形体を観察できるので好ましい。容器は、目的、用途等に応じて、開口部が小さく、底の深いポット状、あるいは開口部が大きく、底の浅いパン状の形状とすることができ、これらはプラスチックのブロー成形、射出成形、真空成形、圧空成形等により形成することができる。
【0012】
容器に収容したゲル成形体は、揮発成分を大気中に効率よく揮散させるためには外表面の表面積を大きくするのが好ましく、このため本発明ではゲル成形体の開口部側に凹部を形成する。従来のように成形型で凹部を形成する場合は、ゲル化して型抜きするまでに時間がかかり、生産性が悪いほか、凹部を形成し気相と接触させた状態に保持すると、運搬、落下等によるゲルの損傷や液相の分離等の問題が発生するが、本発明では可剥性の型部材を装着することにより凹部を形成でき、型部材を装着したままで製品とされる。これにより製造の操作は終わり、ゲル化はその後進行するので、短時間で効率よく凹部を有するゲル成形体を形成することができ、しかもゲルの損傷や液相の分離等の発生を防止することができる。多表面の凹部として、複数の細分化された面を形成することにより、光の屈折、反射等を利用して装飾性を高めることができるが、動物や果物等を模した形状とすることもできる。
【0013】
型部材は、容器の開口部に取り付けられる取付部と、この取付部から容器のゲル収容空間内に突出する型面を有する。型面は、ゲル成形体に形成される凹部に対応する形状であり、揮散性物質の放出面積を大きくするために多表面形状とされる。多表面形状とするためには、底の深いポット状の容器の場合は多表面形状の凹部を深くしたり、また底の浅いパン状の容器の場合は凹部の数を多くするなどの対応が可能である。凹部に対応する形状の型面とすることにより、型部材の型面がゲル成形体に転写され、多表面形状の凹部が形成される。
【0014】
型部材は可剥性とされるが、ここで可剥性とは、型部材とゲルが剥離可能であるとともに、型部材と容器とが剥離可能であることを意味する。容器とゲルの可剥性は、ゲル成形体が揮散性物質を放出して収縮するときに、容器から剥離して相似形状を維持するためであり、ゲルの収縮過程の剥離性であるが、型部材とゲルが可剥性とされるのは、揮散性物質放出器の使用に際して型部材を剥離することにより、ゲル成形体に形成された凹部を露出させて多表面とするためである。このときゲル成形体の剥離面を乱すことなく、均一な
面を有する凹部を形成することが求められる。可剥性は相対的な概念であり、型部材とゲルの関係については、前記容器とゲルの関係と同様であり、容器と同様の材料により、同様に形成することができる。
【0015】
型部材と容器も可剥性とされるが、これは使用に際して型部材をゲル成形体から剥離する際、型部材が容器からも容易に剥離できることが重要である。型部材は蓋材としての機能を有し、装着状態では密封状に容器に固着される必要があるが、使用に際して容易に剥離できるように、可剥性の状態で容器に固着されることが重要である。型部材と容器の固着は一般的にはヒートシールにより熱融着されるが、このとき可剥性の状態で固着する。型部材と容器が非融着性であるときは、そのまま熱融着することにより可剥性とすることができるが、型部材と容器が融着性であるときは、中間に可剥性のイージイピールフィルムを介在させて熱融着することにより可剥性とすることができる。
【0016】
容器のゲル収容空間内に、揮散性物質を保持するゲル材料を充填し、容器の開口部に可剥性の型部材を取り付け、型部材の型面をゲル材料中に挿入し、ゲル成形体の凹部を形成してゲル化することにより、凹部を有するゲル成形体を形成し、揮散性物質放出器を製造する。この場合、容器にゲル材料を充填し、容器の開口部に可剥性の型部材を取り付けるだけでゲル成形体に凹部を形成することができ、ゲル化はその後に生じさせることができるので、短時間で揮散性物質放出器の製造が可能である。
【0017】
揮散性物質放出器は、容器の開口部を上向き、下向き、横向き、または斜向きにして使用することができるが、開口部を下向き、横向き、または斜向きにして使用するとき、収縮するゲル成形体が剥離して容器から脱落するような場合には、収縮するゲル成形体が剥離して容器から脱落するのを防止するゲル保持部材を設けるのが好ましい。このようなゲル保持部材は、揮散性物質放出器の使用状態により異なり、開口部を下向きにして使用する場合は、容器の開口部に取り付けられる通気性部材からなるゲル保持部材、また開口部を横向き、または斜向きにして使用する場合は、容器の壁面からゲル成形体内に突出する突出部からなるゲル保持部材が好ましい。
【0018】
揮散性物質放出器の型部材は蓋材としての機能を有するが、型面の形成により開口部側が凹部になり、外観を害する場合には、容器の開口部および型部材を覆うように、シール部材および/または外蓋材をさらに設けることができる。シール部材の場合は型部材とともに容器に融着し、外蓋材の場合は型面の上から着脱式に容器に取り付けることができる。また外蓋材の場合は、ゲル保持部材としての通気性部材を兼ねることもできる。
【0019】
本発明において、ゲル成形体に保持される揮散性物質は、ゲル成形体から揮散により大気中に放出される物質であり、揮散性の芳香剤、香料、消臭剤、防虫成分、薬剤成分などが挙げられる。これらの揮発成分は、水溶性でも油溶性でもよいが、ゲル中に均一に溶解ないし分散して透明なゲル成形体を形成し、容易にゲルの表面に浸透して揮散するものが好ましい。
【0020】
このような揮散性物質を保持するゲル成形体は、可剥性のゲル成形体であり、特に形状保持性を有する可剥性のゲル成形体が好ましい。ゲル成形体が可剥性であるということは、ゲル成形体を容器のゲル収容空間に充填して型部材を取り付けたときに、ゲル成形体が型部材および容器から剥離可能であることを意味する。ここで剥離可能であるということは、ゲル成形体と型部材または容器間の相対的な関係にあり、ゲル成形体と型部材または容器のそれぞれの接着性ないし可剥性が組み合わさって現れる。このため容器の接着性が低い場合には、ゲル成形体の接着性が高くても可剥性になる場合があるが、種々の型部材および容器に対して可剥性になるためには、ゲル成形体の接着性が低いものが好ましい。
【0021】
ゲル成形体としては、揮散性物質を溶解して保持するゲルから形成される。このようなゲル成形体を形成するゲル成分は、ゼラチン、カラギーナン、寒天、澱粉、CMC(カルボキシメチルセルロース)、オイルゲル、吸水ポリマー、多官能の酸とポリオールの重縮合ゲル等の公知のゲルが用いられるが、揮散性物質を水に溶解して保持する水性ゲルが好ましい。上記のゲルはいずれもポリオレフィン等の接着性の低い型部材または容器と接触させる場合には、特別の処理を行わなくても可剥性とすることができるが、ゼラチンのように接着性の高いゲルは、架橋等の接着性を低くする処理を行うことにより、接着性の高い型部材または容器に対しても可剥性とすることができる。
【0022】
ゲル成形体は容器内に充填した状態で使用されるため、容器の開口部側を上向きにして使用する場合には、ゲル成形体の形状保持性は要求されないが、開口部側を下向き、横向き、または斜向きの状態で使用する場合には、ゲル成形体は形状保持性を有するものが使用される。形状保持性を有するゲル成形体としては、架橋ゼラチン水性ゲル成形体が好ましく、特にゼラチン、架橋剤および揮発成分を含む水性ゾルの反応物であって、ゼリー強度15以上の透明ゼラチン水性ゲル成形体が好ましい。このような架橋ゼラチン水性ゲル成形体は、透明で可剥性を有し、水分が分離せず、形状保持性に優れ、大表面形状に形成しても、形状を保持することが可能である。
【0023】
本発明の揮散性物質放出器は、このような揮散性物質を保持する可剥性のゲル成形体が容器のゲル収容空間に充填され、可剥性の型部材が開口部側からゲル収容空間に突出して、ゲル成形体の凹部を形成したものであり、型部材は容器に取り付けた状態で製品とされる。容器の開口部の形状は、ゼラチン水性ゲルが、揮散性物質が放出されやすい形状とするのが好ましい。
【0024】
上記のゲル成形体は、ゲル材料および揮発成分を含むゾルからなるゲル材料を開口部から容器に注入して容器のゲル収容空間内に充填し、容器の開口部に可剥性の型部材を取り付け、型部材の型面をゲル材料中に挿入して凹部を形成し、型部材を取り付けた状態でゲル化することにより、凹部を有し揮散性物質を保持するゲル成形体を形成する。ゲル成形体は、開口部側の面が上下方向または傾斜した状態で使用できるように、形状保持性を有するように形成される。またゲル成形体は、揮散性物質の放出に伴って収縮し、容器から剥離するように可剥性に形成する。
【0025】
架橋ゼラチン水性ゲル成形体を形成する場合は、ゼラチン、架橋剤および揮発成分を含む水性ゾルからなるゲル材料を開口部側から容器のゲル収容空間に注入し反応させることにより、ゲル収容空間内に充填される。容器の壁面からゲル成形体内に突出する突出部からなるゲル保持部材を形成する場合は、ゲル保持部材の周囲にゲル材料が充填され、ゲル材料のゲル化によりゲル保持部材に保持された構造を有する可剥性架橋ゼラチン水性ゲル成形体が形成される。ゲル材料を充填した後、あるいは型部材を取り付け、あるいはさらに容器の開口部を型部材とともにシール部材で密封することにより、揮散性物質放出器が得られ、ゲル化はその後進行する。
【0026】
本発明で用いる可剥性ゼラチン水性ゲルは、分子量100,000以上、500,000未満の高分子量ゼラチン1.5〜5重量%、好ましくは2〜4重量%、分子量3,000以上、10,000未満の低分子量ゼラチン0.05〜0.5重量%、好ましくは0.1〜0.4重量%、架橋剤0.1〜1重量%、好ましくは0.4〜0.8重量%、および揮発成分0.5〜10重量%、好ましくは1〜8重量%を含む水性ゾルの反応物からなるゼラチン水性ゲルが好ましい。上記の水性ゾルは、分子量10,000以上、100,000未満の中分子量ゼラチン0.1〜5重量%、好ましくは0.2〜4重量%を含むものが好ましい。
【0027】
ゼラチンはニカワとして接着剤に用いられることから分かるように、接着性に優れるため、複雑な形状に成形すると、成形型の離型、およびゲル成形体の収縮に伴う剥離が困難であるが、さらに分子量3,000以上、10,000未満の低分子量ゼラチンを含むゼラチン混合物を用いると、離型性、可剥性がよくなる。このため複雑な形状の容器を用いる場合でも、ゲル成形体の収縮に伴う剥離が可能となる。このゲル成形体を、容器の開口部を横方向にした状態で使用する場合でも、ゲル成形体の自重だけではゲル成形体が開口部から流出することはなく、容器のゲル収容空間内に保持することができ、これにより開口部を下または横向きにして自立させて使用したときでも、ゲル成形体の保持性を高めることができる。
【0028】
架橋剤としては、ゼラチンの官能基と反応して架橋できるものであればよいが、エチレン性不飽和化合物−無水マレイン酸共重合体、その開環重合体またはその塩が好ましい。エチレン性不飽和化合物としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1,ブテン−2、イソブチレン等のオレフィン類、その他のエチレン性不飽和基を有する化合物が挙げられる。開環重合体はエチレン性不飽和化合物−無水マレイン酸共重合体に加水して開環した重合体、その塩は開環重合体のアンモニウム塩、ナトリウム塩等の塩である。塩は上記酸共重合体または開環重合体と水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム等のアルカリを反応させて形成することができる。
【0029】
上記の可剥性ゼラチン水性ゲルは、これらのゼラチン、架橋剤および揮発成分を含む水性ゾルの反応物であって、ゼラチンと架橋剤とは揮発成分、水性溶媒、および必要により加えられる他の成分を抱き込むように反応して架橋し、水性ゲルを形成した反応物からなる可剥性透明架橋ゼラチン水性ゲル成形体である。このような可剥性ゼラチン水性ゲルは、上記水性ゾルを20〜70℃、好ましくは室温〜60℃で反応させることにより、製造することができる。こうして形成される可剥性ゼラチン水性ゲルは、揮発成分、水性溶媒、および必要により加えられる他の成分を抱き込んだ状態でゼラチンが架橋した水性ゲルであり、ゲル形成剤の濃度が低い場合でも、形状保持性に優れる成形体を形成することができる。
【0030】
本発明の可剥性ゼラチン水性ゲルの好ましい製造方法は、高分子量ゼラチン1.5〜5重量%、好ましくは2〜4重量%、中分子量ゼラチン0.1〜5重量%、好ましくは0.2〜4重量%、低分子量ゼラチン0.05〜0.5重量%、好ましくは0.1〜0.4重量%、架橋剤0.1〜1重量%、好ましくは0.4〜0.8重量%、および揮発成分0.5〜10重量%、好ましくは1〜8重量%、および必要により加えられる他の成分0〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%、残部水の水性ゾルを反応させてゲル化させることにより、可剥性ゼラチン水性ゲル成形体として製造することができる。
【0031】
こうして製造される可剥性ゼラチン水性ゲル成形体は、ゼラチン濃度の低い場合でもゲル強度が高く、常温または高温の未使用の状態あるいは使用状態で、長期にわたって形状を保持することが可能な高い形状保持性を有し、水分が分離せず、揮発成分の揮散性が高く、かつ透明で装飾性が高い形状保持性ゼラチン水性ゲルが得られる。ゼラチン水性ゲルのゼリー強度は15以上、好ましくは20以上である。
【0032】
本発明の揮散性物質放出器は、使用前の状態では、揮散性物質を含むゲル成形体を収容する容器は、蓋材を兼ねる型部材がゲル成形体に形成された凹部を気相から遮断し、ゲル成形体の変形、移動を防止するように開口部に取り付けられている。このため揮散性物質放出器はこの状態で製品とし、流通し、保存し、取り扱うことができ、この状態では運搬、保存、取扱い時にゲル成形体の破損、変形や水分の分離を防止することができる。この場合、揮散性物質放出器は型部材がゲル成形体に形成された凹部に係合してこれを覆う蓋材として機能するため、使用前の状態では、容器の開口部を下または横方向にした状態で
運搬、保存しても、また落下させてもゲル成形体の損傷が防止される。
【0033】
上記の揮散性物質放出器を使用する場合は、容器から型部材を引き剥がしてゲル成形体に形成された凹部を露出させ使用する。この場合、容器から型部材を引き剥がすだけで、ゲル成形体に凹部を形成し、ゲル成形体の外表面を多表面化することができる。これによりゲル成形体から放出される揮散性物質の放出量を多くし、芳香、消臭、抗菌処理を効果的に行うことができるとともに、ゲル成形体の外表面を多表面化することにより、装飾性を向上させることができる。
【0034】
上記の揮散性物質放出器は、容器の開口部を上、下、横または斜方向など、任意の方向に配置して使用することができる。開口部を下、横または斜方向にした状態で使用する場合、ゲル保持部材により剥離するゲルを保持することができる。揮散性物質放出器の開口部を横または斜方向にして使用する場合、開口部側から観察できるように開口部を前にしてもよく、また容器およびゲル成形体が透明な場合は、容器を通して観察できるように開口部と反対側の面を前にしてもよく、いずれの場合も装飾性を高めることができる。この場合、揮散性物質放出器を傾斜させて置くことにより、置物のように装飾品としても利用しやすくすることができる。
【0035】
使用状態では、容器内のゲル成形体は容器の開口部を通して大気と接触することになり、ゲル成形体に含まれる香料、防虫成分等の揮発成分はゲルの開口部側の多表面の外表面から大気中に揮散し、芳香剤、防虫剤などとしての機能を発揮する。使用開始直後は容器に充填されたゲル成形体の開口部側の表面からのみ揮散性物質が放出されるが、揮散が進んでゲルが収縮すると、ゲル成形体は容器のゲル収容空間の内壁から剥離する。
【0036】
容器の開口部を下向きにして使用する場合、通気性部材からなるゲル保持部材で容器の開口部を支持して使用すると、通気性部材を通して揮発成分が揮散し、収縮したゲルがゲル保持部材に保持されて、脱落を防止される。
【0037】
容器の開口部を横または斜向きにして使用する場合、容器の壁面から突出する突出部からなるゲル保持部材でゲル成形体を保持するように構成することにより、ゲル成形体はゲル保持部材に保持された状態で収縮、剥離する。この場合、ゲル成形体がゲル保持部材の全周を囲むように、ゲル保持部材の全周に連続するようにゲル成形体がゲル収容空間内に充填されていると、ゲル成形体はゲル収容空間の周辺部および底辺で剥離しても、ゲル保持部材では剥離せず、ゲル保持部材に巻きつくように収縮する。このため開口部に沿う面を傾斜させて使用する場合でも、剥離したゲルが脱落することがない。このように容器にゲル保持部材を形成することにより、ゲル成形体を係止させた状態で使用することができ、このためゲル保持部材を中心に、収縮ゲルを集約させることができる。これにより揮散性物質の揮散によりゲル成形体が収縮する際、揮散性物質放出器の終点、すなわち交換時期の判定が容易になるとともに、装飾性および機能を著しく害することなく、揮散性物質の放出を続けることができるので好ましい。
【0038】
容器、型部材およびゲル成形体を透明にすることにより、揮散性物質放出器に当たる光線は、容器、型部材およびゲルを透過、屈折、放出に伴い反射するため、優れた美観が得られる。そして揮散性物質の放出に伴うゲル成形体の形状変化、剥離状態が容器を通して観察され、意外性、装飾性が高い揮散性物質放出器が得られる。
【0039】
本発明の揮散性物質放出器は、室内、台所、クローゼット、トイレット、浴室、自動車、冷蔵庫、その他の場所に設置して、芳香剤、消臭剤、抗菌剤、防虫剤、忌避剤、その他の揮散性物質を徐々に放出するための揮散性物質放出器として使用することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、開口部およびゲル収容空間を有する容器のゲル収容空間に、揮散性物質を保持する可剥性のゲル成形体を充填し、容器の開口部に可剥性の型部材を取り付け、型部材の型面をゲル材料中に挿入してゲル成形体に凹部を形成するようにしたので、表面積の大きいゲル成形体を形成して揮散性物質を効率よく揮散させることができるとともに、運搬、保存、取扱い時にゲル成形体の破損、変形や水分の分離を防止し安定して収容でき、これにより商品の外観や商品価値を高く維持することができ、しかも装飾性に優れた揮散性物質放出器、およびその効率的な製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明の実施の形態を図面により説明する。図1は一実施形態による揮散性物質放出器を示し、(a)は使用前の状態を示す垂直断面図、(b)はその開口部を下にして使用中の状態を示す垂直断面図であり、図3と同一符号は同一または相当部分を示す。図1において、揮散性物質放出器1は図3と同様に、ゲル成形体2がポット状の透明な容器3のゲル収容空間6内に充填され、容器3の開口部11側から容器3の反対側の底面9に至らない深さでコーン状の凹部4がゲル成形体2に形成され、表面積が大きい外表面5が形成されているが、この凹部4は対応するコーン状の型面21bを有する型部材21により形成されている。
【0042】
型部材21はコーン状の上縁の周縁部にリング状に形成された取付部21aにより容器3の開口部11に取り付けられ、この取付部21aからコーン状の型面21bが容器3のゲル収容空間6内に突出して、ゲル成形体2の凹部4を形成しており、21bは型面はゲル成形体2の凹部4に密着し、両者間には隙間がない構造となっているが、ゲル成形体2の崩壊を生じさせない程度の若干の隙間を形成してもよい。型部材21を覆うようにフィルム上のシール部材12が設けられ、型部材21とともに容器3の開口部11の外周部に形成されたフランジ8に、ヒートシールにより融着されている。フランジ8には、周壁に通気孔17を有する通気性部材13が、容器3の開口部11を覆うように、取り外し可能に取り付けられている。
【0043】
上記の揮散性物質放出器1は、以下のようにして製造される。まず開口部11を上にした容器3のゲル収容空間6に、ゼラチン、架橋剤および揮発成分を含む水性ゾルからなるゲル材料を充填し、凹部4に対応した凸形状を有する可剥性の型面21bをゲル材料中に挿入させて、型部材21をシール部材12とともに容器3の開口部11に取り付けてヒートシールする。このとき型部材21の型面21bがゲル材料中に挿入され、ゲル成形体2の凹部4が形成されるので、この状態でゲル化して凹部4を有するゲル成形体2を形成し、揮散性物質放出器1を製造する。この場合、容器3のゲル収容空間6にゲル材料を充填し、容器3の開口部11に可剥性の型部材21を取り付けるだけでゲル成形体2に凹部4を形成することができ、ゲル化はその後起こさせることができるので、短時間で揮散性物質放出器1の製造が可能である。
【0044】
上記の揮散性物質放出器1は、使用前の状態では、揮散性物質を含むゲル成形体2を収容する容器3は、蓋材を兼ねる型部材21がゲル成形体2に形成された凹部4を気相から遮断し、ゲル成形体2の変形、移動を防止するように開口部11に取り付けられているため、揮散性物質放出器1は図1(a)の状態で製品とし、流通、保存、その他の取扱をすることができる。この状態では運搬、保存、取扱い時にゲル成形体2の破損、変形や水分の分離を防止することができる。この場合、揮散性物質放出器1は型部材21がゲル成形体2に形成された凹部4を覆う蓋材として機能するため、使用前の状態では、容器3の開口部11を下または横方向にした状態で運搬、保存しても、また落下させてもゲル成形体2の損傷が防止される。
【0045】
上記の揮散性物質放出器1を使用する場合は、図1(a)の状態において、容器3から型部材21を引き剥がしてゲル成形体2に形成された凹部4を露出させ使用することができる。この場合、容器3からシール部材12および型部材21を引き剥がすだけで、ゲル成形体2に凹部4を形成し、ゲル成形体2の外表面5を多表面化することができる。これによりゲル成形体2から通気部材13の通気孔17を通して放出される揮散性物質の放出量を多くし、芳香、消臭、抗菌処理を効果的に行うことができるとともに、ゲル成形体2の外表面5を多表面化することにより、装飾性を向上させることができる。
【0046】
図1(b)は上記の揮散性物質放出器1を容器3の開口部11を下方向に配置して使用する場合を示し、図1(a)の状態から通気性部材13、シール部材12および型部材21を取り去った揮散性物質放出器1を、容器3の開口部11を下向にして、スクリーン状のゲル保持部材22および通気孔17を有する台座23上に配置して使用する。この場合、使用開始直後は容器3に充填されたゲル成形体2の揮散性物質は開口部11側の表面からのみ揮散して、スクリーン状のゲル保持部材22および通気孔17を通して放出される。揮散が進んでゲルが収縮すると、ゲル成形体2は容器3のゲル収容空間6の内壁から剥離するが、スクリーン状のゲル保持部材22上に保持されて脱落を防止され、外観を害することはない。
【0047】
図1(a)の揮散性物質放出器1は開口部11を上向きで使用するように構成されているが、開口部11を下、横または斜方向など、任意の方向に配置して使用するように構成してもよく、この場合、通気性部材13として、図1(b)の台座23を採用してもよい。また図1の凹部4および型部材21としてコーン状のものを採用したが、図3に示したような円筒状のものを採用してもよい。
【0048】
図2は他の実施形態による揮散性物質放出器を示し、(a)は揮散性物質放出器のシール材を省略した状態を示す正面図、(b)は揮散性物質放出器の使用前の状態を示す(a)のA−A相当断面図、(c)は揮散性物質放出器の使用中の状態を示す(a)に相当する正面図、(d)は使用中の状態を示す(c)のB−B相当断面図である。
【0049】
図2において、揮散性物質放出器1は、揮散性物質を保持する可剥性の透明なゲル成形体2が、ゲル保持部材24を有する透明プラスチック製パン状の浅底の容器3のゲル収容空間6内に充填されて、この状態で容器3の開口部11を形成するフランジ8に、可剥性の型部材21の取付部21aがシール部材12とともにヒートシールにより融着され、型部材21の取付部21aから容器3の底面9側に突出する型面21bにより、ゲル成形体2の外表面5に凹部4が形成されている。揮散性物質放出器1は、開口部11を横または斜向きにした状態で、揮散性物質放出器1を支持する台座23、または壁面に吊り下げるための吊下具(図示せず)とセットで製品とされている。
【0050】
容器3の開口部11およびゲル収容空間6は、収容したゲル成形体2の大気との接触面積を大きくするために、開口部11を大きくして、底の浅いパン状の形状に形成されている。ゲル成形体2に形成される凹部4は、ゲル成形体2の外表面5をさらに多表面積構造とするために、複数の浅い凹部4aおよび深い凹部4bから形成されている。ここでは果物のブドウを模した形状として、浅い凹部4aはブドウの葉を模した形状とし、深い凹部4bはブドウの果実を模した形状として装飾性を高めている。型部材21はこのような凹部4を有するゲル成形体2の外表面5に対応する形状の突出部を有する型面21bを有する。
【0051】
容器3に形成するゲル保持部材24は、ゲル収容空間6内に収容されたゲル成形体2を係止して容器3内に保持するように、容器3の底面9から開口部11側に突出する突起状に形成されている。ここではゲル成形体2から芳香剤、消臭剤等の揮散性物質を放出させ
る際、揮散性物質の放出に伴って、ゲル成形体2が収縮して容器3から剥離する場合でも、剥離したゲル成形体2に係合して、使用開始時に近い状態で係止してゲル収容空間6内に保持するように形成されている。すなわちゲル保持部材24は、容器3の底面から突出する突出部からなるものであり、ゲル成形体2がゲル保持部材24の全周を囲むように、ゲル保持部材24の全周に連続するようにゲル成形体2をゲル収容空間6内に充填している。
【0052】
揮散性物質放出器1は容器3の開口部11を横向きにし、開口部11に沿う面を上下方向(垂直または傾斜方向)にするように、台座23に支持して使用するように構成されている。この場合、容器3のゲル収容空間6にゲル成形体2を形成しただけでは、ゲル成形体2が収縮して容器から剥離すると、剥離したゲル成形体2は容器3の開口部11から脱落する。このためゲル保持部材24は、使用状態において収縮して容器3から剥離するゲル成形体2を吊るして係止するように、開口部11に対向する底面9から開口部11に向って、ゲル成形体2を貫通して突出するように形成されている。この場合、ゲル保持部材24は、使用状態のゲル収容空間6の上部の位置において、台座23と平行な方向に直線状に伸びる1本の突出部から構成されている。このようなゲル保持部材24は、容器3のゲル収容空間6を形成するときに、プラスチックの真空成形等により同時に形成される。
【0053】
ゲル成形体2は、揮散性物質を保持する形状保持性を有する可剥性透明架橋ゼラチン水性ゲル成形体からなり、容器3のゲル収容空間6に開口部11側から隙間なく充填され、凹部4を含む外表面5は型部材21に密着した構造を有する。ゲル成形体2はゲル保持部材24の周囲にも隙間なく充填され、ゲル保持部材24がゲル成形体2を係止する構造となっている。シール部材12は型部材21とともに、開口部5の周辺部に形成されたフランジ8に剥離可能に融着されている。
【0054】
上記の揮散性物質放出器1は、以下のようにして製造される。まず開口部11を上にした容器3のゲル収容空間6に、ゼラチン、架橋剤および揮発成分を含む水性ゾルからなるゲル材料を注入してゲル収容空間6の全域に行き渡らせ、型部材21を装着し、型面21bをゲル材料に進入させて、ゲル成形体2の外表面5に凹部4を形成し、型部材21の取付部21aをシール部材12とともに容器3のフランジ8にヒートシールにより融着する。この状態でゼラチンのゲル化反応を起こさせることにより、容器3に開口部11側から隙間なく充填され、型部材21に密着して凹部4が形成された構造であって、ゲル保持部材24がゲル成形体2を係止する構造を有し、ゼリー強度15以上の形状保持性透明ゼラチン水性ゲルからなるゲル成形体2を形成する。このようにゲル材料を容器3に注入し、型部材21を装着することにより、製造のための操作を終了することができ、ゲル化はその後行われるため、製造を効率的に行うことができる。
【0055】
このようにして製造される揮散性物質放出器1は、台座13および/または吊下具(図示せず)とセットで包装され、製品とされる。製品としての揮散性物質放出器1は、開口部11を上にした状態で運搬、保管されるのが好ましいが、逆でもよい。揮散性物質放出器1は運搬、保管中に損傷や、液の分離等は生じない。揮散性物質放出器1は、開口部11を上または下にした状態で使用することもできるが、図2のように開口部11を横方向にした状態で、台座23に支持し、または吊下具により壁面に吊り下げて使用されるのが好ましい。
【0056】
図2のように開口部11を横方向にした状態で使用する場合、揮散性物質放出器1を台座23に支持し、または吊下具により壁面に吊り下げた状態で、図1(b)の12aに示すように、容器3のシール部材12および型部材21を引き剥がすことにより、ゲル成形体2に凹部4を形成して、ゲル成形体2の外表面5を多表面化し、容器3の開口部11を通して大気と接触させる状態で使用する。このときゲル成形体2は形状保持性を有し、ゲ
ル保持部材24に係止され、また容器3の内壁に密着した状態であるため、ゲル成形体2が開口部11から落下することはなく、ゲル収容空間6に保持される。この場合、開口部11側からゲル成形体2を観察できるように開口部11を前にしてもよく、また容器3およびゲル成形体2が透明な場合は、容器3を通して観察できるように開口部11と反対側の面を前にしてもよく、いずれの場合も装飾性を高めることができる。この場合、揮散性物質放出器1を傾斜させて置くことにより、置物のように装飾品としても利用しやすくすることもできる。
【0057】
揮散性物質放出器1の使用状態では、容器3のゲル収容空間6内のゲル成形体2は容器3の開口部11を通して大気と接触することになり、ゲル成形体2に含まれる香料、防虫成分等の揮発成分はゲルの表面から大気中に揮散し、芳香剤、防虫剤などとしての機能を発揮する。このときゲル成形体2の外表面5は凹部4により多表面積であるため、大気との接触面積は大きく、揮散性物質の揮散効率は高い。使用開始直後は容器3に充填されたゲル成形体2の開口部11側の表面からのみ揮散性物質が放出されるが、揮散が進んでゲルが収縮すると、ゲル成形体2は可剥性のため容器3のゲル収容空間6の内壁から剥離し、剥離した部分からも揮散が起こり、揮散する表面積が増加する。
【0058】
揮散性物質の放出に伴って、ゲル成形体2が収縮して容器3から剥離すると、収縮したゲル成形体2をゲル収容空間6内に保持することはできず、ゲル成形体2はゲル収容空間6から脱落することがあるが、容器3にゲル保持部材24を形成し、ゲル成形体2を係止させた状態で使用すると、ゲル成形体2はゲル保持部材24に係止された状態で収縮、剥離する。このときゲル成形体2は、図2(c)、(d)の鎖線2aに示すような大きさに収縮する。この場合、ゲル成形体2がゲル保持部材24の全周を囲むように、ゲル保持部材24の全周に連続するようにゲル成形体2がゲル収容空間6内に充填されていると、ゲル成形体2はゲル収容空間6で剥離しても、ゲル保持部材24では剥離せず、ゲル保持部材24に巻きつくように収縮する。このため開口部11に沿う面を傾斜させて使用する場合でも、剥離したゲル成形体2が脱落することがない。
【0059】
上記の揮散性物質放出器1において、容器3、凹部4、型部材21等の構成、材料などは、使用目的等に応じて変更可能である。またシール部材12、台座23等も、容器3等の構成を変えることにより、省略することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
室内、台所、クローゼット、トイレット、浴室、自動車、冷蔵庫等に設置して、芳香剤、消臭剤、抗菌剤、防虫剤、忌避剤等の揮散性物質を徐々に放出するための揮散性物質放出器として使用される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】一実施形態の揮散性物質放出器を示し、(a)は使用前の状態を示す垂直断面図、(b)はその開口部を下にして使用中の状態を示す垂直断面図である。
【図2】他の実施形態による揮散性物質放出器を示し、(a)は揮散性物質放出器のシール材を省略した状態を示す正面図、(b)は揮散性物質放出器の使用前の状態を示す(a)のA−A相当断面図、(c)は揮散性物質放出器の使用中の状態を示す(a)に相当する正面図、(d)は使用中の状態を示す(c)のB−B相当断面図である。
【図3】従来の揮散性物質放出器の使用前の状態を示し、(a)はシール部材および通気部材を一部取り去った平面図、(b)はその垂直断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 揮散性物質放出器
2 ゲル成形体
3 容器
4 凹部
4a 深い凹部
4b 浅い凹部
5 外表面
6 ゲル収容空間
7 最大径部
8 フランジ
9 底面
11 開口部
12 シール部材
13 通気性部材
17 通気孔
21 型部材
21a 取付部
21b 型面
22、24 ゲル保持部材
23 台座

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部およびゲル収容空間を有する容器と、
揮散性物質を保持し、前記容器のゲル収容空間内に充填され、かつ開口部側に形成された凹部を有するゲル成形体と、
前記容器のゲル収容空間に突出するように開口部に取り付けられ、ゲル成形体の凹部を形成する可剥性の型部材と
を備えていることを特徴とする揮散性物質放出器。
【請求項2】
使用時において、収縮するゲル成形体が剥離して容器から脱落するのを防止するゲル保持部材が設けられている請求項1記載の揮散性物質放出器。
【請求項3】
容器の開口部および型部材を覆うシール部材が設けられている請求項1または2記載の揮散性物質放出器。
【請求項4】
ゲル保持部材は、容器の開口部に取り付けられる通気性部材、または容器の壁面から突出する突出部からなる請求項1ないし3のいずれかに記載の揮散性物質放出器。
【請求項5】
ゲル成形体が、ゼラチン、カラギーナン、寒天、澱粉、CMC、オイルゲル、吸水ポリマー、および多官能の酸とポリオールの重縮合ゲルから選ばれるものである請求項1ないし4のいずれかに記載の揮散性物質放出器。
【請求項6】
ゲル成形体が、可剥性の架橋ゼラチン水性ゲル成形体からなる請求項5記載の揮散性物質放出器。
【請求項7】
室内、台所、クローゼット、トイレット、浴室、自動車または冷蔵庫に設置して、芳香剤、消臭剤、抗菌剤、防虫剤および忌避剤から選ばれる揮散性物質を放出するために使用される請求項1ないし5のいずれかに記載の揮散性物質放出器。
【請求項8】
揮散性物質を保持するゲル成形体が容器に充填された揮散性物質放出器において、容器の開口部側にゲル成形体の凹部を形成する型部材であって、
容器の開口部に取り付けられる取付部と、
この取付部からゲル成形体の凹部を形成するように容器のゲル収容空間内に突出する型面を有することを特徴とする揮散性物質放出器用型部材。
【請求項9】
開口部およびゲル収容空間を有する容器に、
揮散性物質を保持するゲル材料を前記容器のゲル収容空間内に充填し、
前記容器の開口部に可剥性の型部材を取り付け、型部材の型面をゲル材料中に挿入してゲル化し、
凹部を有するゲル成形体を形成する
ことを特徴とする揮散性物質放出器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−142459(P2010−142459A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323761(P2008−323761)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(592260882)
【Fターム(参考)】