説明

揮発性のフッ化麻酔薬を静脈内送達するためのフルオロポリマーベースのエマルション

本発明は、治療用のエマルション及びナノエマルションなどの治療用製剤と、沸点の低い過フッ化及び/又は過ハロゲン化された重要なクラスの揮発性麻酔薬などの治療用フッ化化合物を送達するための関連する方法とを提供する。患者における麻酔の導入及び維持に有効な量の揮発性のフッ化麻酔薬化合物を送達及び放出することが可能な、静脈内投与に適合するエマルションベースの揮発性のフッ化麻酔薬製剤が提供される。本発明のエマルションベースの揮発性のフッ化麻酔薬製剤を静脈内送達することにより、患者に過剰換気を施す必要がなく、又、刺激性の薬剤を使用することなく、患者の体内の麻酔レベルを非常に急速且つ正確に、選択的に調節することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[関連出願の相互参照]
[0001]本出願は、本明細書中の開示内容と矛盾しない範囲で、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、2006年11月28日出願の米国仮特許出願第60/867,432号の優先権の利益を主張するものである。
【0002】
[連邦政府による資金提供を受けた研究又は開発に関する記載]
[0002]本発明は、以下の機関から受けた政府支援金を用いて行ったものである:NSF資金CHE−0518112号。米国政府は本発明における一定の権利を有する。
【0003】
[発明の背景]
[0003]ナノエマルションは、1種の非混和性液体のナノスケールの液滴が別の非混和性液体内に分散して成る。多くの薬物は疎水性であるため水溶性が限られることとなり、そのことから、水に溶けない薬物の送達は薬物送達研究の主要な対象となっている。エマルションは、水中に安定に分散した油性の中心コアを備えており、このコアは、疎水性薬物の貯蔵部としての役割を果たすことができる。エマルションは局所投与用として長く使用されているが、ナノエマルションはサイズが小さいことから非経口送達にとって潜在的に魅力的である。疎水性薬物を可溶化することに加え、エマルションは、注射時の痛みや刺激を軽減し、薬物動態を改善し、新しい投与形態を可能にすることができ、又、持続放出又は標的化放出をもたらすことができる。
【0004】
[0004]リン脂質により安定化された大豆油エマルションは最初に認可された静脈内用エマルションであり、40年超にわたり静脈内用の栄養補助製品として臨床的に使用されてきた。又、エマルションは麻酔薬、抗炎症薬及び鎮痛薬の送達用として、並びに代用血液としても臨床的に採用されてきた。臨床試験では、抗真菌薬、抗癌剤及び放射線造影剤用のエマルション製剤が調査されてきた。しかしながら、揮発性麻酔薬送達用のエマルション製剤についての広範な研究は実施されていない。図1に、いくつかの一般的な揮発性のフッ化全身麻酔薬の化学構造を掲載する。このクラスの全身麻酔薬は、ペルフルオロエーテル及び置換ペルフルオロエーテルを含む親フルオロ性の高い化合物を含む。このような化合物においてフッ素置換を行うと、該化合物に対応する炭化水素の相対物よりも実質的に安全に使用できるようになる。とりわけ、デスフルラン及びセボフルランは、北米で供給される全身麻酔薬の半数に使用される主要な揮発性のフッ化麻酔薬である。麻酔薬化合物のためのナノエマルション送達系により、吸入による麻酔薬の従来型投与に対する実用的な代替法をもたらす可能性をもった、静脈内に送達可能な新しいクラスの麻酔薬製剤が実現化される見込みがある。
【0005】
[0005]揮発性のフッ化麻酔薬の静脈内用製剤を使用すると顕著な利益がもたらされるという多くの臨床シナリオがある。現代の手術室において揮発性薬剤の静脈内送達を新しく適用することは、薬物作用の開始速度と主に関係がある。薬物が吸入により送達されると、患者に通じる麻酔回路中の濃度は麻酔薬気化器から流出される場合よりゆっくり上昇することから、開始において固有の遅れがある。肺中の濃度はさらにゆっくり上昇するが、これは、肺胞への送達及び血液への移動が換気速度及び血流速度により制限されるからである。したがって、所望の平衡濃度より高い濃度が一時的に送達される「過加圧」の場合でも、麻酔薬のレベルの変化は、急速に変化する臨床環境において最適な速度よりはるかに遅い(分単位で)。これが、チオペンタール及びプロポフォールなどの静脈内用薬剤が麻酔の「導入」用に使用され、その後、静脈内用薬剤の効果が消えるに伴い、吸入薬剤への移行が行われる主な理由である。揮発性薬剤そのものを用いて静脈内導入を実行することが仮に可能であれば、1種の麻酔薬を別のものに置き換える必要がなくなり、ひいては導入過程が単純化され、適度の安定性及び安全性が加わることになろう。
【0006】
[0006]麻酔導入のため及び機械的換気用の気管内チューブの挿入のためだけでなく、外科手術の最中にも、麻酔レベルを急速に変化させることが必要な場面は数々ある。これらは典型的に、脳神経外科手術に際し頭蓋を安定化させるための「ヘッドピン」の挿入、又は気道を検査するための直接喉頭鏡検査など、強烈ではあるが短時間の刺激を伴う場面である。このような、突然起こるが短時間の強烈な刺激の血行動態的な結果を和らげるためには、深いレベルの麻酔が必要である。薬剤を血流中に直接注入することにより麻酔レベルを急速に変化させることができれば、さまざまな臨床用途にとり非常に有用となろう。さらに、単回ボーラス注射後の麻酔作用の持続時間が短時間であることにより、麻酔効果の持続時間を外科的刺激の持続時間と正確に適合させ、ひいては血行動態的な結果を最小化し安全性を高めることが可能になると考えられる。
【0007】
[0007]同様に、大多数の外科手術中には、患者を配置し滅菌野を確立する際、気管の挿管の後に、外科的刺激のレベルが非常に低いか又は全くない時間帯がある。この時間の間は、血圧を維持するために、軽度の水準の麻酔が必要とされる。外科的切開の時点では、麻酔は素早く深まらなければならない。現在のところ、このことは、血圧が下降した際に切開を行った後で血圧が所望のレベルに上昇するように、切開のタイミングに1又は2分先行するようにして麻酔のレベルを早めに上げることにより達成される。要するに、この時間は、血圧及び心拍が急速に変化する時間である。麻酔科医が直面する主要な難題の1つは、外科手術の開始時において急速に変化する麻酔要件にかかわらず安定な血行動態を維持することである。又、静脈内用麻酔薬の送達を用いて麻酔作用の開始を外科的刺激の開始とより近付けて適合させることにより、安定性及び安全性が実質的に改善されると考えられる。
【0008】
[0008]薬物レベルのより急速な滴定によって得られる利益にとどまらず、静脈内送達は、手術室の伝統的範囲を超えた揮発性麻酔薬の使用を可能又は容易にする可能性を有する。これには、揮発性薬剤を、鎮静用に使用すること、並びに、吸入による送達が困難又は不可能な環境下での全身麻酔の導入及び維持用に使用することが含まれる。例えば、鎮静は、患者が動かないようにする必要のあるMRI室又はCT室において必要とされる場合がある。加えて、鎮静は、大腸鏡検査及び他の不快な処置のために診療所においても必要とされることが多い。揮発性麻酔薬により可能となる急速な回復プロファイルは、このような場合において理想的で、フェンタニル及びミダゾラムの最も一般的で最新の投与計画の場合のプロファイルより顕著に急速であると考えられる。さらに、侵害刺激に対する応答を和らげるその能力は、急速な回復プロファイルを有することから鎮静用としての使用が増えているものの鎮痛性がほとんど又は全くない新しい静脈内用麻酔薬であるプロポフォールに勝る著しい利益をもたらすことになろう。
【0009】
[0009]最近では、相当な数の研究が、揮発性のフッ化麻酔薬を静脈内投与するための脂質ベースの送達系を開発することを目的に行われている。Warltierら及びLiuらは、最近、脂質エマルションによるハロゲン化麻酔薬の静脈内投与に取り組んでいる。(Chiari,P.C.、Pagel,P.S.、Tanaka,K.、Krolikowski,J.G.、Ludwig,L.M.、Trillo,R.A.、Puri,N.、Kersten,J.R.、Warltier,D.C.、「Intravenous Emulsified Halogenated Anesthetics produce Acute and Delayed Preconditioning against Myocardial Infarction in Rabbits」、Anesthesiology、2004、101、1160〜1166;及びZhou,J.−X.、Luo,N.−F.、Liang,X.−M.、Liu,J.「The Efficacy and Safety of Intravenous Emulsified Isoflurane in Rats」、Anesth.Analg.、2006、102、129〜134を参照)。Warltierらは、乳化麻酔薬は心筋梗塞に対する急性及び遅発性のプレコンディショニングを生じさせると報告している。Liuらは、大豆油及びグリセロール(Intralipid)などの単純な脂質の組合せを使用して麻酔薬のエマルションを作製できたと報告している。このような結果は、揮発性麻酔薬を送達するための脂質エマルションの潜在的な実現可能性を実証するものであるが、このアプローチには、その現実的な実施を妨げる重大な欠点がある。まず、Intralipidをベースにした揮発性のフッ化麻酔薬のエマルションは、麻酔薬の濃度が高い場合、時間を経て安定であるとは考えられない。したがって、揮発性麻酔薬を静脈内投与するためのこのような製剤の有効性は、時間に応じて顕著に低下すると考えられる。この特性は、それによりそのような脂質ベースの製剤の現実的な寿命及び貯蔵寿命が短くなることから望ましくない。第2に、Intralipidなどの一般的な脂質は、最大3.6体積%のセボフルランを乳化させることが示されている。乳化可能な麻酔薬の体積についてこのように実質的な限界があることにより、静脈内投与される揮発性のフッ化麻酔薬用の脂質ベースの送達系の現実化には相当な難題が生じると考えられる。
【0010】
[0010]エマルションに対する代替的なアプローチが、2005年9月29日に公開された米国特許出願公開第2005/0214379号(Mecozziら)に記載されており、このエマルションは、揮発性のフッ化麻酔薬の送達用にミセル系を用いるものである。親水性ブロックと、フッ化又は半フッ化されたブロックとを有するフッ化ブロックコポリマーを含む送達系が記載されている。さまざまなフッ素含有治療用組成物(セボフルランなど)を封入及び投与するための送達系の適用可能性が報告されている。この送達系では、親フルオロ性の化合物を封入するための安定な超分子構造を形成するために、臨界ミセル濃度より高い濃度のフッ化ブロックコポリマーが提供される。具体的には、このブロックコポリマーは自己集合してミセルになるが、このとき、コポリマーのフッ化又は半フッ化されたブロックがフッ素含有治療薬の含フッ素コアに向かって配向し、これを取り囲む。治療用フッ化組成物の投与に有用なものとしてさまざまなブロックコポリマー組成物が報告されており、その中にポリ(エチレングリコール)ブロックと過フッ化アルカンブロックとを有する二元ブロックコポリマーが挙げられている。
【0011】
[0011]上述の内容から、全身麻酔における蒸気吸入の代替法をもたらすために、揮発性のフッ化麻酔薬の静脈内投与を可能にする送達系が必要であることは理解されよう。重要な臨床用途にとって必要な量で麻酔薬の静脈内送達を可能にするためには、高濃度の麻酔薬エマルションを供給することが可能な系及び製剤が必要である。静脈内用の揮発性のフッ化麻酔薬の現実的な実施を可能にするためには、安定な粒子サイズ及び麻酔薬濃度を呈する濃厚な麻酔薬エマルションを供給する系及び製剤が必要である。揮発性のフッ化麻酔薬を静脈内送達するための、高度の生体適合性及び低い毒性を呈する系及び製剤が必要である。
【0012】
[発明の概要]
[0012]本発明は、治療用のエマルション及びナノエマルションなどの治療用製剤と、沸点の低い過フッ化及び/又は過ハロゲン化された重要なクラスの揮発性麻酔薬などの治療用フッ化化合物を送達するための関連する方法とを提供する。患者における麻酔の導入及び維持に有効な量の揮発性のフッ化麻酔薬化合物を送達及び放出することが可能な、静脈内投与に適合するエマルションベースの揮発性のフッ化麻酔薬製剤が提供される。本発明のエマルションベースの揮発性のフッ化麻酔薬製剤を静脈内送達することにより、患者に過剰換気を施す必要がなく、又、刺激性の薬剤を使用することなく、患者の体内の麻酔レベルを非常に急速且つ正確に、選択的に調節することが可能になる。
【0013】
[0013]一実施形態では、本発明の製剤は、大量の揮発性のフッ化麻酔薬が水溶液中に分散したエマルションを生じさせることが可能な、1種又は複数種の半フッ化ブロックコポリマーなどの界面活性物質と、1種又は複数種の過ハロゲン化フルオロカーボンなどの安定化添加剤とを組み合わせたものを含む。本発明の治療用製剤としては、水溶液を含む連続相中に分散した、揮発性のフッ化麻酔薬及び安定化添加剤のサブミクロンの液滴を含むナノエマルションが挙げられる。いくつかの実施形態では、このエマルションの、揮発性のフッ化麻酔薬及び安定化添加剤の液滴は、液滴界面におけるフッ化された液体の界面張力を低下させる、自己集合した半フッ化ブロックコポリマー界面活性物質の超分子構造が形成されることにより安定化する。いくつかの実施形態では、例えば、親水性ブロックと親フルオロ性ブロックとを有する半フッ化ブロックコポリマーを含む界面活性物質は、乳化されると自己集合して、水性の連続相中に分散した超分子構造を形成し、それにより相当量の揮発性のフッ化麻酔薬成分を含フッ素内部液滴コア中に封入し、その中で安定化させる。例えば、半フッ化ブロックコポリマー界面活性物質の親フルオロ性ブロックは、超分子構造の含フッ素内部コアに向かい、又、それに近接して優先的に配向し、それにより、揮発性のフッ化麻酔薬のための分子認識要素として機能し得る。場合により、揮発性のフッ化麻酔薬の分散相液滴は、有用な化学的及び物理的な特性をもたらすための安定化添加剤成分を有していてもよい。過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤成分を有するエマルション及びナノエマルションを含む本発明の麻酔薬製剤は、例えば、オストワルド熟成、凝結及び/又は相分離の過程を減速させることにより、液滴のサイズについての安定性向上を呈する。
【0014】
[0014]本発明の治療用製剤は、従来の脂質ベースの送達系に比べて向上した送達能力を備えるが、これは、より高濃度の揮発性のフッ化麻酔薬を有するエマルションが実現することによる。本発明のこの態様の組成物は、有効な製剤と、患者又は対象への麻酔薬の投与及び送達とを可能にする。いくつかの実施形態では、本発明のエマルションベースの製剤は、患者のイオンチャネル及び神経伝達物質受容体上の特異的な活性部位への有効な送達をもたらす。さらに、本発明のこの態様の治療用製剤は高度の多用途性も備えるが、これは、半フッ化ブロックコポリマー界面活性物質の組成(例えば、親水性ブロックの長さ、親フルオロ性ブロックの長さ、炭素−フッ素結合の数など)と、過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤(複数可)の量及び化学組成とを選択的に調節して、(i)送達条件下での安定性を向上させ、(ii)フッ化治療剤の放出動態を特定用途のために最適化させ(例えば、放出速度を速くする又は遅くする)、及び(iii)保管条件下での治療用ナノエマルションの製剤全体としての安定性を向上させる(例えば、有効貯蔵寿命を長期化させる)ことができるためである。
【0015】
[0015]一態様では、本発明は、治療用フッ化化合物を投与するための、エマルション及びナノエマルションなどの治療用製剤を提供する。この態様の治療用製剤は、水溶液と、親水性ブロック及び親フルオロ性ブロックを有する半フッ化ブロックコポリマーと、治療用フッ化化合物と、安定化添加剤とを含む。一実施形態では、半フッ化ブロックコポリマーは、治療用フッ化化合物(複数可)及び安定化添加剤(複数可)の分散相液滴を封入し及び/又は安定化させるための界面活性物質として機能する。一実施形態では、安定化添加剤は、1種又は複数種の過ハロゲン化フルオロカーボン化合物である。本発明の有用な治療用製剤は、水溶液を含む連続相と、治療用フッ化化合物を半フッ化ブロックコポリマーが安定化させる分散相と、場合により過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤とを含む治療用エマルションであり、分散相の液滴が連続相中に分散している治療用エマルションとして提供されてよい。本明細書で使用する場合、製剤という用語は、所望の治療用途のために調製された組成物を指す。本発明の製剤は、対象に即時投与可能な形態で存在してもよいし、対象への投与の前に1つ又は複数の追加的なステップが必要な形態で提供されてもよい。本発明の製剤としては治療用エマルションが挙げられ、治療用エマルションの前駆体組成物が挙げられる。
【0016】
[0016]本発明のこの態様は、セボフルラン、イソフルラン、デスフルラン、エンフルラン及び/又はメトキシフルランなどの麻酔薬を含む治療用フッ化化合物を送達するための治療用製剤にとって魅力的なものである。一実施形態では、本発明のこの態様の治療用製剤は、分散相液滴が、フッ化麻酔薬と1種又は複数種の安定化剤とを含み、前記液滴が1000ナノメートル以下の平均直径、好ましくはいくつかの用途の場合は500ナノメートル以下の平均直径、より好ましくはいくつかの用途の場合は300ナノメートル以下の平均直径を有する、ナノエマルション製剤を含む。場合により、本発明のこの態様の治療用製剤は、静脈内注射によるなど、非経口投与による患者への送達が可能である。
【0017】
[0017]半フッ化コポリマー界面活性物質成分の組成は、本発明の製剤の安定性、薬物動態的特性及び生体適合性を制御するための重要なパラメーターである。例えば、親フルオロ性ブロックの組成(例えば、フッ化又は過フッ化されたアルキル鎖の炭素数、炭素−フッ素結合の数など)及び/又は親水性ブロックの組成(例えば、組成、サイズ、分子量など)の選択は、安定性(例えば貯蔵寿命)を向上させ、及び/又は治療用製剤の所望の放出特性をもたらすなど、所与の用途向けのナノエマルションの有用な化学的又は物理的な特性を確立するように選択される。一実施形態では、例えば、半フッ化コポリマー界面活性物質成分の親フルオロ性ブロックは、過フッ化アルキル鎖、半フッ化アルキル鎖、過ハロゲン化アルキル鎖、及び/又はフッ化若しくは過フッ化された飽和アルキル鎖などのフッ化アルキル鎖である。本発明の半フッ化コポリマーの例示的な親フルオロ性ブロックは、炭素長が6から16である。一実施形態では、半フッ化コポリマーの親水性ブロックは、ポリ(エチレングリコール)ブロックなど、ポリマーの多酸素化ブロックを含む。本発明の半フッ化コポリマーの例示的な親水性ブロックとしては、500g/molから12,000g/molの範囲にわたって選択される分子量を有するポリ(エチレングリコール)ブロックが挙げられる。いくつかの組成物においてポリ(エチレングリコール)ブロックのサイズ/分子量を選択すると、フッ化麻酔薬の放出速度、及び/又は、熟成、凝結及び相分離の過程についての安定性が確立される。
【0018】
[0018]揮発性のフッ化麻酔薬化合物の送達にとりわけ有用な本発明の一実施形態では、半フッ化ブロックコポリマーは、次式を有する:
【0019】
[0019]C2m+1−L−(−CHCH−O−)−R
(FX1)
(式中、mは5から25の範囲から選択され、nは10から270の範囲から選択され、Lは連結基であり、Rは、水素、メチル基、置換された若しくは置換されていないアルコキシ基、置換された若しくは置換されていないアルキル基、置換された若しくは置換されていないアリール基、置換された若しくは置換されていないアルケニル、又は置換された若しくは置換されていないアルキニル基である)。この態様における連結基(L)は、半フッ化ブロックコポリマーの親水性ブロック(例えばPEG)と親フルオロ性ブロック(例えば、フッ化されたアルキル基)とをつなぐように機能する。一実施形態では、半フッ化ブロックコポリマーは化学式FX1を有し、連結基(L)は、置換された若しくは置換されていないアルキル基、置換された若しくは置換されていないアルケニル、及び置換された若しくは置換されていないアルキニル基からなる群から選択される。一実施形態では、連結基(L)はC1〜10アルキル基である。一実施形態では、半フッ化ブロックコポリマーは式FX1を有し、式中、Rは、水素、メチル基又はアルキル基である。
【0020】
[0020]揮発性のフッ化麻酔薬化合物の送達にとりわけ有用な本発明の一実施形態では、半フッ化ブロックコポリマーは、次式を有する:
【0021】
[0021]C2m+1−(CH−O−(−CHCH−O−)−R
(FX2)、又は
【0022】
[0022]C2m+1−O−(−CHCH−O−)−R
(FX3)
(式中、mは5から25の範囲から選択され、nは10から270の範囲から選択され、pは1から10の範囲から選択され、Rは、水素、メチル基、置換された若しくは置換されていないアルコキシ基、置換された若しくは置換されていないアルキル基、置換された若しくは置換されていないアリール基、置換された若しくは置換されていないアルケニル、又は置換された若しくは置換されていないアルキニル基である)。一実施形態では、半フッ化ブロックコポリマーは、式FX2又はFX3(式中、Rは、水素、メチル基又はアルキル基である)を有する。
【0023】
[0023]向上した送達能力及び安定性を備える治療用製剤を提供するため、又、高濃度の揮発性のフッ化麻酔薬を有するエマルションなど、高濃度の治療用フッ化化合物を有する治療用エマルションを入手できるようにするためには、過ハロゲン化フルオロカーボン化合物など、特定で明確な物理的及び化学的な特性を有する安定化添加剤を選択することも、本発明においては重要である。いくつかの実施形態では、例えば、液滴からのフッ化麻酔薬の放出速度を制御し、それによりオストワルド熟成など液滴の熟成過程の速度を低下させる、分散した液滴相の成分を含む安定化剤が提供される。この態様の安定化添加剤は、安定な液滴サイズを呈し、及び/又は治療剤として使用されることが可能になるだけ十分遅い速度で成長する液滴を含む治療用エマルション(ナノエマルションなど)を提供するために有用である。
【0024】
[0024]第1に、過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤などの安定化添加剤は、好ましくは高い親フルオロ性を呈する。過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤などの例示的な安定化添加剤は、半フッ化ブロックコポリマーの含フッ素ブロックに対する高い親和性を有しており、このことがブロックコポリマーの低い界面張力につながっている。いくつかの用途の場合は、フッ素−炭素結合の数が、過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤など適切に高い親フルオロ性を有する安定化添加剤を選択するうえでの重要なパラメーターである。いくつかの本発明の治療用製剤の場合は、12から25個の間の炭素−フッ素結合を有する過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤が望ましい。或いは、過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤の炭素−フッ素結合の数は、半フッ化ブロックコポリマーの親フルオロ性ブロックの炭素−フッ素結合の数に適切に合っているか、又は別の形で関連していてもよい。
【0025】
[0025]第2に、過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤などの安定化添加剤は、好ましくは水中での低い溶解性を呈する。水溶性が低い安定化添加剤の選択は、水性の連続相中に分散した粒子を含有するフッ化治療剤の過熟成が原因で生じる、本発明の治療用エマルションの劣化を回避するために有用である。一実施形態では、過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤などの安定化添加剤の水中での溶解度は、20ナノモル以下である。粒子の熟成速度は、添加剤の溶解性に依存する。したがって、溶解度が5nMのペルフルオロオクチルブロミド(pfobと略す)を使用すると、遅い熟成がもたらされる。しかし、原理上は、わずかに水溶性が高い(例えば20nM)添加剤も熟成を遅らせると考えられるが、より溶解性の低いフルオロ誘導体ほどではない。
【0026】
[0026]第3に、過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤など、本発明の治療用製剤において有用な安定化添加剤は、好ましくは化学的に不活性である。過フッ化化合物、臭素置換された過フッ化化合物及び塩素置換された過フッ化化合物は、本発明において有用な、化学的に不活性な過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤となる。
【0027】
[0027]第4に、過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤など、本発明の治療用製剤において有用な安定化添加剤は、好ましくは急速に排泄され、例えば、循環半減時間(すなわち、過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤の濃度が循環中で半減するのに要する時間)は2週間未満である。
【0028】
[0028]第5に、過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤など、本発明の治療用製剤において有用な安定化添加剤は、460amuから520amuの範囲にわたって選択される分子量を好ましくは有する。この範囲を下回る分子量を有する化合物は、高すぎる蒸気圧を典型的に有しやすく、そのため肺気腫及び他の肺合併症を引き起こす恐れがある。この範囲を下回る分子量を有する化合物は、望ましくない長い排泄時間を典型的に呈する。
【0029】
[0029]第6に、過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤など、本発明の治療用製剤において有用な安定化添加剤は、好ましくは高純度の試薬として提供される。高純度の試薬を使用する利点は、十分に純粋な形態で提供され適切な分子量範囲内(上記を参照)で選択された場合には、毒性作用、発癌作用、変異原性作用、催奇性作用又は免疫反応が、多くのフルオロカーボンについて報告されていないことである。
【0030】
[0030]有用な過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤としては、ペルフルオロカーボン、臭素置換ペルフルオロカーボン、塩素置換ペルフルオロカーボン、及び、臭素及び塩素で置換されたペルフルオロカーボンが挙げられる。一実施形態では、過ハロゲン化フルオロカーボンは、ペルフルオロオクチルブロミド、ペルフルオロノニルブロミド、ペルフルオロデシルブロミド、ペルフルオロデカリン、ペルフルオロジクロロオクタン、並びにビスペルフルオロブチルエチレン及びペルフルオロ(メチルデカリン)からなる群から選択される1種又は複数種の化合物である。本発明は、複数の異なる過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤を含む治療用製剤を包含する。
【0031】
[0031]本発明の治療用エマルションにおいては、連続相中に分散した液滴は、治療用フッ化化合物と、場合により安定化剤とを封入する、自己集合した超分子構造を含む。一実施形態では、超分子構造は、半フッ化ブロックコポリマー界面活性物質により封入された治療用フッ化化合物及び安定化剤(複数可)の液滴を含む含フッ素内部コアを有する。例えば、本発明は、半フッ化ブロックコポリマー界面活性物質の親フルオロ性ブロックが、揮発性のフッ化麻酔薬と安定化剤との混合物を含む液滴の含フッ素内部コアに向かって及び/又はそれに近接して配向する製剤、並びに、親水性ブロックが液滴の含フッ素内部コアの遠位に配向(すなわち、水性の連続相に向かって配向)する製剤を包含する。
【0032】
[0032]本発明の治療用製剤としては、水性の連続相と、揮発性のフッ化麻酔薬及び安定化剤の分散相液滴とを含むナノエマルションが挙げられる。いくつかの実施形態では、ナノエマルションの分散相液滴は、1ミクロン未満の平均直径、例えば50から1000ナノメートルの範囲から選択される平均直径を有する。いくつかの実施形態では、本発明のナノエマルションの分散相液滴は、400ナノメートル以下の平均直径を有し、例えばこの液滴は、50ナノメートルから400ナノメートルの範囲にわたって選択される平均直径を有する。400ナノメートル以下の平均直径を有する分散相液滴を使用すると、血流中への導入に際してのこのような液滴の毒性を最小化又は排除するために有益である。いくつかの実施形態では、本発明のナノエマルションの分散相液滴は、実質的に均質な液滴である。
【0033】
[0033]本発明の治療用製剤においては、治療用フッ化化合物の体積パーセントは5%から25%の範囲にわたって選択され、過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤の体積パーセントは1%から10%の範囲にわたって選択され、半フッ化ブロックコポリマーの濃度は1mg/mlから45mg/mlの範囲にわたって選択される。従来の脂質ベースの送達系に比べて向上した送達能力を備える本発明の治療用エマルションにおいては、治療用フッ化化合物は治療用エマルションの体積の5%超を構成し、例えば治療用エマルションの体積の5%から30%を構成し、いくつかの実施形態では治療用エマルションの体積の5%から25%を構成する。
【0034】
[0034]一実施形態では、治療用フッ化化合物は治療用製剤の5体積%から25体積%であり、過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤は治療用製剤の1体積%から10体積%であり、半フッ化ブロックコポリマーは1mg/mlから45mg/mlの範囲にわたって選択された濃度を有する。
【0035】
[0035]別の態様では、揮発性のフッ化麻酔薬を含有する治療用製剤を投与する方法など、本発明の治療用製剤を投与する方法が提供される。一実施形態では、治療用フッ化化合物を患者に投与する方法は、(i)水溶液と、親水性ブロック及び親フルオロ性ブロックを有する半フッ化ブロックコポリマーと、治療用フッ化化合物と、過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤などの安定化添加剤とを含む治療用製剤を供給するステップ、(ii)この治療用製剤を乳化させることにより治療用エマルションを作製するステップ、並びに(iii)この治療用エマルションを患者に送達するステップを含む。このような本発明の方法に有用な治療用製剤は、上述した全ての実施形態、組成物、調製物、相(例えばコロイド相)及び変形を包含する。一実施形態では、この治療用エマルションは、静脈内注射により患者に送達される。例えば、本発明は、1mlから100mlの範囲にわたって選択される体積の治療用エマルションを、0.1ml/分から20ml/分の範囲にわたって選択される速度で、より好ましくはいくつかの用途の場合は0.1ml/分から5ml/分の範囲にわたって選択される速度で患者に注射する方法を包含する。或いは、本発明は、治療用エマルションが、透析、吸収、経皮送達又は経口送達により患者に送達される製剤及び方法を包含する。
【0036】
[0036]本発明のこの態様の例示的な一実施形態では、治療用製剤を乳化させるステップは、(i)半フッ化ブロックコポリマーを中に有する水溶液に、治療用フッ化化合物と、過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤などの安定化添加剤とを加えることにより治療用混合物を生じさせるステップ、及び(ii)この治療用混合物をホモジナイズすることにより治療用エマルションを生じさせるステップを含む。場合により、本発明のこの方法は、ホモジナイズするステップの間に治療用混合物の温度を下げるステップをさらに含む。治療用混合物をホモジナイズするステップは、より低エネルギーのミキサー及び/又はマイクロフルイダイザーを用いるなど、コロイド科学及び薬理学の技術分野で知られている任意の手段により実施してよい。いくつかの実施形態では、治療用製剤の成分の一部又は全てを臨界ミセル濃度未満で混合する。次に温度を下げてから、次いで半フッ化ブロックコポリマーの濃度を上げ、及び/又は他の溶液条件(複数可)を変化させて、治療用フッ化化合物を封入する超分子構造の形成を開始させる。
【0037】
[0037]別の態様では、本発明は、(i)水溶液と、親水性ブロック及び親フルオロ性ブロックを有する半フッ化ブロックコポリマーと、治療用フッ化化合物と、過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤などの安定化添加剤とを含む治療用製剤を供給するステップ、並びに(ii)この治療用製剤を乳化させることにより治療用エマルションを作製するステップを含む、治療用フッ化化合物を含有する治療用エマルションを作製する方法を提供する。
【0038】
[0038]或いは、本発明は、本発明のブロックコポリマーを含む超分子構造(ミセルなど)を備えた水溶液が提供される、治療用フッ化化合物を含有する治療用エマルションを作製する方法を包含する。次に、過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤などの安定化添加剤と、治療用フッ化化合物とを加え、予め形成しておいたミセルにより取り込むことにより、結果として治療用製剤が得られる。
【0039】
[0039]別の態様では、本発明は、(i)水溶液と、親水性ブロック及び親フルオロ性ブロックを有する半フッ化ブロックコポリマーと、治療用フッ化化合物とを含む治療用製剤を供給するステップ、(ii)前記治療用製剤に過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤などの安定化添加剤を加えるステップ、並びに(iii)前記治療用製剤を乳化させることにより、前記治療用エマルションを安定化させるステップを含む、治療用フッ化化合物を含有する治療用エマルションを安定化させる方法を提供する。
【0040】
[0040]いかなる特定の理論に拘束されることも望まないが、本発明に関する基本原理についての考え又は認識を本明細書中で論ずることはできる。任意の機構説明又は仮説の最終的な正確性は別として、本発明の一実施形態はそれにかかわらず有効且つ有用であり得ると認められる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】一般的な揮発性全身麻酔薬の化学構造図である。
【図2】半フッ化ポリマーによるフッ化麻酔薬の結合における、ミセルからエマルションへの移行を示す模式図である。
【図3】水溶液中でのミセルの自己集合を示す模式図である。
【図4】a.麻酔薬(イソフルラン)、b.安定化添加剤、c.フルオロポリマーの濃度を変化させた際のナノ粒子のサイズに及ぶ影響を示すプロット図である。イソフルラン及びペルフルオロオクチルブロミドの濃度の単位は%V/Vである。ポリマーの濃度の単位はmg/mLである。iso=イソフルラン、pfob=ペルフルオロオクチルブロミド。Y軸=直径(nm)、X軸=時間(日)。液滴の直径(単位:ナノメートル)を時間(日)に対してプロットしてある(y軸)。
【図5】PEGのサイズを変化させ、他は全て一定に保った際のナノ粒子のサイズに及ぶ影響を示すプロット図である。液滴の直径(単位:ナノメートル)を時間(日)に対してプロットしてある(y軸)。図5には、およそ15日の時間間隔に対応するデータを掲載する。図18にはこのデータを含めた同様のプロット図を掲載するが、そこではおよそ50日に拡大された時間間隔に対応する追加データが掲載されていることに注意。
【図6】安定化添加剤を変化させた際のナノ粒子のサイズに及ぶ影響のプロット図である。エマルションの3つの構成成分の濃度は、20/20/15(セボフルラン/安定化添加剤/F13M5)である。FC−72=ペルフルオロヘキサン、PFOB=ペルフルオロオクチルブロミド、FDC=ペルフルオロデカリン。液滴の直径(単位:ナノメートル)を時間(日)に対してプロットしてある(y軸)。図6には、およそ3日の時間間隔に対応するデータを掲載する。図17にはこのデータを含めた同様のプロット図を掲載するが、そこではおよそ50日に拡大された時間間隔に対応する追加データが掲載されていることに注意。
【図7】乳化剤として使用されるフルオロ界面活性物質F13M5の合成を示す模式図である。
【図8】ED50値(左)及びLD50値(右)の定量についての用量応答曲線である。
【図9】ED50定量中に麻酔がかかったラットについて麻酔の平均持続時間をまとめたグラフである。
【図10】フッ化界面活性物質の反応についての一般的な合成スキームである。
【図11】20%Intralipid中で乳化されたセボフルランの安定性(パーセントv/v)を示すプロット図である。10%の線及び20%の線は延びていないが、これはわずか1日後には相分離が見られたためである。液滴の直径(単位:ナノメートル)を時間(日)に対してプロットしてある(y軸)。
【図12】安定に乳化できるセボフルランの最大量を示すプロット図である。全てのエマルションは、8%v/vのペルフルオロオクチルブロミド及び2.5%w/vのF13M5を含有する。図12aは、時間(日)に伴う粒子の直径(ナノメートル)の変化のプロット図を示す。図12bは、時間に伴う粒子の半径の3乗の変化を示す。
【図13】ペルフルオロオクチルブロミド(pfob)の量(%v/v)がエマルションの安定性に及ぼす影響を示すプロット図である。全てのエマルションは、20%v/vのセボフルラン及び1.5%w/vのF13M5を含有する。液滴の直径(単位:ナノメートル)を時間(日)に対してプロットしてある(y軸)。
【図14】F13M5ポリマー量(%w/vがエマルションの安定性に及ぼす影響を示すプロット図である。全てのエマルションは、20%v/vのセボフルラン及び10%v/vのペルフルオロオクチルブロミドを含有するものであった。液滴の直径(単位:ナノメートル)を時間(日)に対してプロットしてある(y軸)。
【図15】F13M5が0.5及び4.5%w/vの場合の熟成を半径の3乗として再プロットして示すプロット図であり、直線状の最良近似直線を加えてある。
【図16】単独の乳化油としてペルフルオロオクチルブロミドを用いた場合の熟成を示すプロット図である。全てのエマルションは、2.5%w/vのF13M5を用いて調製した。液滴の直径(単位:ナノメートル)を時間(日)に対してプロットしてある(y軸)。
【図17】異なる安定化添加剤を用いた場合の熟成速度を示すプロット図である。全てのエマルションは、20%v/vのセボフルラン、10%v/vの安定化添加剤及び2.5%w/vのF13M5を含有するものであった。液滴の直径(単位:ナノメートル)を時間(日)に対してプロットしてある(y軸)。
【図18】異なるPEG鎖長を有するポリマーについての熟成速度を示すプロット図である。全てのエマルションは、20%v/vのセボフルラン、10%v/vのペルフルオロオクチルブロミド及び2.5%w/vのポリマーを含有するものであった。液滴の直径(単位:ナノメートル)を時間(日)に対してプロットしてある(y軸)。
【図19】一次油としてのFC−72と、安定化添加剤としてのペルフルオロトリデカンとを用いた場合の熟成速度を示すプロット図である。試料は両方とも、20%v/vのFC−72、2%w/vのペルフルオロトリデカン及び1.5%w/vのF13M5を含有するものであった。液滴の直径(単位:ナノメートル)を時間(日)に対してプロットしてある(y軸)。
【図20】一次油としてのペルフルオロオクチルブロミドと、安定化添加剤としてのペルフルオロトリデカンとを用いた場合の熟成速度を示すプロット図である。試料は両方とも、20%v/vのペルフルオロオクチルブロミド、2%w/vのペルフルオロトリデカン及び1.5%w/vのF13M5を含有するものであった。液滴の直径(単位:ナノメートル)を時間(日)に対してプロットしてある(y軸)。
【図21】一次添加剤としてのセボフルランと、添加剤としてのペルフルオロトリデカンとを用いた場合の熟成速度を示すプロット図である。試料は両方とも、20%v/vのセボフルラン、1.5%w/vのペルフルオロトリデカン及び1.5%w/vのF13M5を含有するものであった。液滴の直径(単位:ナノメートル)を時間(日)に対してプロットしてある(y軸)。
【図22】安定化添加剤の量の関数としての熟成を示すプロット図である。図22Aは、体積パーセントが1%から10%の範囲のペルフルオロオクチルブロミド(pfob)についての、時間の関数としての液滴の直径のプロット図を示す。図22Bは、添加剤の量の関数としての熟成速度のプロット図を示す。これらの実験では、エマルションは、20体積%のセボフルラン及び1.5重量/体積%の半フッ化ブロックコポリマー界面活性物質F13M5を含有する。
【0042】
[発明の詳細な説明]
[0063]図面に関しては、同種の数字は同種の要素を示し、2つ以上の図面中に現れる同じ数は同じ要素を指す。又、これ以降、本明細書では、以下の定義が適用される。
【0043】
[0064]「超分子構造」は、分子の集合体を含む構造を指す。超分子構造としては、親水性ブロック及び親フルオロ性ブロックを有するブロックコポリマーなど分子の集合体が挙げられ、この集合体は、分子の親水性部分が水性の連続相に向かって外向きに配向するように、又、分子の親フルオロ性部分が超分子構造の含フッ素内部コアに向かって内向きに配向するように、選択的に配向する。超分子構造としては、ミセル、ベシクル、管状ミセル、円柱状ミセル、二重層、折りたたみシート構造、球状凝集体、膨張したミセル及び封入された液滴が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の超分子構造としては、自己集合構造が挙げられる。超分子構造は、エマルション又はナノエマルションなどコロイドの分散相を含んでよい。
【0044】
[0065]「半フッ化された」とは、少なくとも1個のフッ素原子を有する化合物、例えば、少なくとも1個の炭素−フッ素結合を有する分子を指す。
【0045】
[0066]フルオロカーボンは、本明細書で使用する場合、少なくとも1個の炭素−フッ素結合を有する化合物を指す。セボフルラン、イソフルラン、デスフルラン、エンフルラン及びメトキシフルランなど多くの揮発性麻酔薬はフルオロカーボンである。
【0046】
[0067]「過フッ化された」及び「ペルフルオロカーボン」は、炭化水素中の全ての水素原子がフッ素原子で置換されている、炭化水素の類似体である化合物を指す。過フッ化分子は、臭素、塩素及び酸素など、いくつかの他の原子を含有することもできる。臭素置換ペルフルオロカーボンは、フッ素原子の1個又は複数が臭素原子で置換されたペルフルオロカーボンである。塩素置換ペルフルオロカーボンは、フッ素原子の1個又は複数が塩素原子で置換されたペルフルオロカーボンである。塩素及び臭素置換されたペルフルオロカーボンは、フッ素原子の1個又は複数が塩素原子で置換され、且つ、フッ素原子の1個又は複数が臭素原子で置換されたペルフルオロカーボンである。
【0047】
[0068]「エマルション」は、2種の非混和性液体の混合物など、2種以上の非混和性物質の混合物を指す。エマルションは、連続相中に分散した少なくとも1つの分散相を含む、コロイドの一種である。エマルションは、広義には、1種の液体が別の液体全体に小さな液滴の形態で分散している二相系など、別の相の中に分散した2つの非混和相として定義される。このエネルギーは、機械装置、又は、成分内に固有の化学ポテンシャルのいずれによっても供給できる。エマルションの2つの相は、一般的に連続相及び分散相と呼ばれ、分散相は体積パーセントの小さい方として典型的に存在する。水中に油が分散したものを水中油(o/w)エマルションと呼ぶ。o/wエマルションの場合、乳化剤は、典型的に、水相中でよりよく溶ける。逆のエマルション、すなわち油中水はw/oと略され、油相中でより安定な界面活性物質によって安定化される。水性エマルションにおいては、連続相は水溶液である。
【0048】
[0069]エマルションは熱力学的に安定ではないが、安定性は界面活性物質などの添加剤により改善できる。非平衡系として、ナノエマルションの形成は一般に、エネルギーの入力を必要とする。高エネルギー乳化法は、高せん断撹拌機、高圧ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー又は超音波発生装置などの装置による機械的せん断の導入を通常含む。マイクロフルイダイザーは、医薬品業界で使用されるエマルション製造用の装置であり、これは、液体流を2つの部分に分け、それぞれ狭い開口部を通過させ、次に高圧下でこれらの流れを衝突させることにより機能する。衝突により作り出される高せん断力により、全体的に粒子サイズ分布の狭い非常に微細なエマルションが得られる。典型的な使用法では、粗いエマルション(直径>1μm)をいくつかの他の方法によりまず形成してから、その大きめのエマルションのサイズをマイクロフルイダイザー中で減少させる。最終的な液滴のサイズ及び分布形態は、エマルションの成分(界面活性物質の量、油の体積パーセントなど)及び加工パラメーター(時間、温度、圧力など)の両方に依存することになる。所望の液滴のサイズが小さくなるに従い、形成に必要なエネルギーは大きくなる。エマルション液滴のサイズをナノスケールに減少させるには超音波乳化も有効である。エマルションは、例えば急速に冷却又は加熱して、液滴のサイズが小さくサイズ分布の狭い、動態の安定したエマルションを作製するなど、非混和性液体の混合物の温度を変化させることによって形成することもできる。
【0049】
[0070]エマルションとしては、別の非混和性液体内に分散した1種の非混和性液体のナノスケールの液滴を含むナノエマルションが挙げられる。本明細書で使用する場合、ナノエマルションは、1種の非混和性液体が別の液体内に液滴として分散して成る不均一系であり、液滴の平均直径は1000nmを下回る。
【0050】
[0071]「凝集」は、2つ以上の液滴の塊が、動態学的には単位として振る舞うが個々の液滴はその独自性を維持し続ける過程を指す。凝集は、可逆的であることもあり、不可逆的な合体に至ることもある。
【0051】
[0072]「合体」は、2つの液滴の衝突、及びそれに次ぐ不可逆的な融合である。合体の最終的な到達点は、完全な相分離である。凝集は合体に先行するので、凝集の防止に適したものと同じ方法は合体も防止する。界面に吸着した高密度の界面活性物質の薄膜は、ナノ又はマクロエマルションのいずれの中にあっても合体を十分防止することが多い。
【0052】
[0073]「オストワルド熟成」は、1つの滴の内容物が別の滴の中に拡散するに従ってエマルションの液滴のサイズが成長することを指す。この成長を推進する力は、液滴間の化学ポテンシャルの差であるが、液滴間の化学ポテンシャルは、1μm超の液滴の場合は一般にそれほど差がない。要するに、オストワルド熟成は、主にナノエマルションに影響し、治療用途のナノエマルションにとって重要な因子である。
【0053】
[0074]「ポリマー」は、通常モノマーと呼ばれる複数の反復化学基を含む分子を指す。通常ヘテロポリマーとも呼ばれる「コポリマー」は、2つ以上の異なる種類のモノマーが同じポリマー中で連結したときに形成されるポリマーである。「ブロックコポリマー」は、ブロック又は空間的に隔てられた領域を含むコポリマーの一種で、この場合、異なる領域は、異なるポリマー化したモノマーを含む。ブロックコポリマー中では、隣接するブロックは構造的に異なっており、すなわち、隣接するブロックは、異なる種のモノマーに由来する構成単位を含むか、又は、同種のモノマーに由来する構成単位を含むが構成単位の組成若しくは配列分布が異なっている。ブロックコポリマーの異なるブロック(又は領域)は、ポリマーの異なる末端(例えば[A][B])上に存在していてもよいし、選択された配列([A][B][A][B])で供給されてもよい。「ジブロックコポリマー」は、2つの異なる化学ブロックを有するブロックコポリマーを指す。本発明のポリマーとしては、フッ化又は過フッ化されたアルカンなどのフルオロカーボンを非限定的に含むフルオロカーボンなど小さめのポリマー(例えば、2から30個のモノマー)を含む第1のブロックと、10から270個のモノマーを有するPEGポリマーなど大きめのポリマー(例えば、10〜300個)を含む第2のブロックとを有するブロックコポリマーが挙げられる。本発明のブロックコポリマーは、自己集合を起こして、封入された液滴及びミセルなどの超分子構造を作ることが可能である。本明細書で使用する場合、ブロックコポリマーという用語は、過フッ化又は半フッ化された分子領域(過フッ化若しくは半フッ化されたアルカン、又は、過フッ化若しくは半フッ化された末端部など)を含む第2のブロックに接合された、PEGポリマーを含む第1のブロックを含む組成物を包含する。本明細書で使用する場合、ブロックコポリマーという用語は、超分子構造を活性部位に向けるための付加部分を有するコポリマーなど、超分子構造を安定化させるため、又は治療用フッ化化合物を有する超分子構造の放出動態を選択するための機能化されたブロックコポリマーも包含する。本明細書で使用する場合、略語FXMYは、過フッ化アルカンとポリエチレングリコール成分とを有する半フッ化ブロックコポリマーを指すために使用され、語中のFXは、X個の炭素を有する過フッ化アルカンブロックを指し、MYは、分子量がY千(すなわちY,000)amuであるPEGブロックを指す。
【0054】
[0075]本明細書で使用する場合、「親水性の」とは、少なくとも1つの親水性基を有する分子の、分子及び/又は成分(例えば、官能基、ブロックポリマーのブロックなど)を指し、疎水性の、とは、少なくとも1つの疎水性基を有する分子の、分子及び/又は成分(例えば、ポリマーの官能基及びブロックコポリマーのブロックなど)を指す。親水性の分子又はその成分は、イオン性基及び/又は極性基を有する傾向があり、疎水性の分子又はその成分は、非イオン性基及び/又は非極性基を有する傾向がある。親水性の分子又はその成分は、水素結合及び双極子間相互作用など水溶液との安定化相互作用に関与する傾向がある。疎水性の分子又は成分は、水溶液との安定化相互作用に関与しない傾向があり、そのため、水溶液中で一緒になって塊を形成し、より安定な熱力学的状態に至ることが多い。本発明のブロックコポリマーに関して言えば、親水性ブロックは両親媒性ブロックコポリマーの疎水性基より親水性が高く、疎水性基は両親媒性ポリマーの親水性ブロックより疎水性が高い。
【0055】
[0076]本明細書で使用する場合、「親フルオロ性の」とは、少なくとも1つの親フルオロ性基を有する分子の、分子及び/又は成分(例えば、官能基、ブロックポリマーのブロックなど)を指す。親フルオロ性基は、フルオラス相との安定化相互作用に関与することが可能な基である。本発明のブロックコポリマーにおいて有用な親フルオロ性基としては、フルオロカーボン基、過フッ化基及び半フッ化基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
[0077]本発明に関して言えば、患者という用語は、動物などの対象を包含することを意図したものである。患者としては、哺乳動物、例えばヒト対象が挙げられる。患者としては、麻酔薬の投与又は他の医療処置を受けるなど、医療処置を受ける対象が挙げられる。
【0057】
[0078]アルキル基としては、直鎖、分枝及び環状のアルキル基が挙げられる。アルキル基としては、1から30個の炭素原子を有するものが挙げられる。アルキル基としては、1から3個の炭素原子を有する小さなアルキル基が挙げられる。アルキル基としては、4〜10個の炭素原子を有する中程度の長さのアルキル基が挙げられる。アルキル基としては、10個超の炭素原子を有する長鎖アルキル基、とりわけ10〜30個の炭素原子を有するものが挙げられる。環状アルキル基としては、1つ又は複数の環を有するものが挙げられる。環状アルキル基としては、3、4、5、6、7、8、9又は10員の炭素環を有するもの、及び、とりわけ3、4、5、6又は7員環を有するものが挙げられる。環状アルキル基中の炭素環は、アルキル基を有していてもよい。環状アルキル基としては、二環及び三環のアルキル基を挙げることができる。アルキル基は置換されていてもよい。置換アルキル基としては、中でもアリール基で置換されたものが挙げられ、アリール基はさらに置換されていてもよい。具体的なアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、分枝ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、分枝ヘキシル基及びシクロヘキシル基が挙げられ、それらは全て置換されていてもよい。置換アルキル基としては、1個又は複数の水素が1個又は複数のフッ素原子、塩素原子、臭素原子及び/又はヨウ素原子で置換されているアルキル基などの、過ハロゲン化又は半ハロゲン化されたアルキル基が挙げられる。置換アルキル基としては、1個又は複数の水素が1個又は複数のフッ素原子で置換されているアルキル基などの、過フッ化又は半フッ化されたアルキル基が挙げられる。アルコキシ基は酸素に連結したアルキル基であり、式R−Oで表すことができる。
【0058】
[0079]アルケニル基としては、直鎖、分枝及び環状のアルケニル基が挙げられる。アルケニル基としては、1個、2個又はそれを超える二重結合を有するもの、及び、二重結合の2個以上が共役二重結合であるものが挙げられる。アルケニル基としては、2から20個の炭素原子を有するものが挙げられる。アルケニル基としては、2から3個の炭素原子を有する小さなアルケニル基が挙げられる。アルケニル基としては、4〜10個の炭素原子を有する中程度の長さのアルケニル基が挙げられる。アルケニル基としては、10個超の炭素原子を有する長鎖アルケニル基、とりわけ10〜20個の炭素原子を有するものが挙げられる。環状アルケニル基としては、1つ又は複数の環を有するものが挙げられる。環状アルケニル基としては、二重結合が環中にあるか、又は環に結合したアルケニル基中にあるものが挙げられる。環状アルケニル基としては、3、4、5、6、7、8、9又は10員の炭素環を有するもの、及び、とりわけ3、4、5、6又は7員環を有するものが挙げられる。環状アルケニル基中の炭素環は、アルキル基を有していてもよい。環状アルケニル基としては、二環及び三環のアルキル基を挙げることができる。アルケニル基は、置換されていてもよい。置換アルケニル基としては、中でもアルキル基又はアリール基で置換されているものが挙げられ、これらの基はさらに置換されていてもよい。特定のアルケニル基としては、エテニル、プロプ−1−エニル、プロプ−2−エニル、シクロプロプ−1−エニル、ブト−1−エニル、ブト−2−エニル、シクロブト−1−エニル、シクロブト−2−エニル、ペント−1−エニル、ペント−2−エニル、分枝ペンテニル、シクロペント−1−エニル、ヘックス−1−エニル、分枝ヘキセニル、シクロヘキセニルが挙げられ、それらは全て置換されていてもよい。置換アルケニル基としては、1個又は複数の水素が1個又は複数のフッ素原子、塩素原子、臭素原子及び/又はヨウ素原子で置換されているアルケニル基などの、過ハロゲン化又は半ハロゲン化されたアルケニル基が挙げられる。置換アルケニル基としては、1個又は複数の水素が1個又は複数のフッ素原子で置換されているアルケニル基などの、過フッ化又は半フッ化されたアルケニル基が挙げられる。
【0059】
[0080]アリール基としては、1つ又は複数の5又は6員の芳香族環又は芳香族複素環を有する基が挙げられる。アリール基は、1つ又は複数の縮合芳香族環を有してよい。芳香族複素環は、環中に1個又は複数のN、O又はS原子を含むことができる。芳香族複素環としては、1、2若しくは3個のNを有するもの、1若しくは2個のOを有するもの、及び1若しくは2個のSを有するもの、又は、1若しくは2若しくは3個のN、O若しくはSの組合せを挙げることができる。アリール基は、置換されていてもよい。置換アリール基としては、中でもアルキル基又はアルケニル基で置換されているものが挙げられ、それらの基はさらに置換されていてもよい。具体的なアリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ピリジニル基及びナフチル基が挙げられ、それらは全て置換されていてもよい。置換アリール基としては、1個又は複数の水素が1個又は複数のフッ素原子、塩素原子、臭素原子及び/又はヨウ素原子で置換されているアリール基などの、過ハロゲン化又は半ハロゲン化されたアリール基が挙げられる。置換アリール基としては、1個又は複数の水素が1個又は複数のフッ素原子で置換されているアリール基などの、過フッ化又は半フッ化されたアリール基が挙げられる。
【0060】
[0081]アリールアルキル基は、1つ又は複数のアリール基で置換されたアルキル基であり、このときアルキル基はさらなる置換基を有していてもよく、アリール基は置換されていてもよい。具体的なアルキルアリール基は、フェニル置換アルキル基、例えば、フェニルメチル基である。アルキルアリール基は、或いは1つ又は複数のアルキル基で置換されたアリール基として記載され、このときアルキル基はさらなる置換基を有していてもよく、アリール基は置換されていてもよい。具体的なアルキルアリール基は、メチルフェニルなどのアルキル置換フェニル基である。置換アリールアルキル基としては、1個又は複数の水素が1個又は複数のフッ素原子、塩素原子、臭素原子及び/又はヨウ素原子で置換されている、1つ又は複数のアルキル及び/又はアリールを有するアリールアルキル基などの、過ハロゲン化又は半ハロゲン化されたアリールアルキル基が挙げられる。
【0061】
[0082]任意のアルキル基、アルケニル基及びアリール基の任意選択的な置換としては、以下の置換基の1つ又は複数での置換が挙げられる:ハロゲン基、−CN基、−COOR基、−OR基、−COR基、−OCOOR基、−CON(R)基、−OCON(R)基、−N(R)基、−NO基、−SR基、−SOR基、−SON(R)基又は−SOR基。アルキル基の任意選択的な置換としては、1つ又は複数のアルケニル基、アリール基又はその両方での置換が挙げられ、このときアルケニル基又はアリール基は置換されていてもよい。アルケニル基の任意選択的な置換としては、1つ又は複数のアルキル基、アリール基又はその両方での置換が挙げられ、このときアルキル基又はアリール基は置換されていてもよい。アリール基の任意選択的な置換としては、1つ又は複数のアルキル基、アルケニル基又はその両方でのアリール環の置換が挙げられ、このときアルキル基又はアルケニル基は置換されていてもよい。
【0062】
[0083]アルキル基、アルケニル基及びアリール基の任意選択的な置換基としては、中でも以下が挙げられる:
【0063】
[0084]−COOR(式中、Rは水素又はアルキル基又はアリール基であり、より具体的には、式中、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又はフェニル基であり、その全ては置換されていてもよい)、
【0064】
[0085]−COR(式中、Rは水素又はアルキル基又はアリール基であり、より具体的には、式中、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又はフェニル基であり、それらの基は全て置換されていてもよい)、
【0065】
[0086]−CON(R)(式中、各Rは、他のRそれぞれとは独立に、水素又はアルキル基又はアリール基であり、より具体的には、式中、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又はフェニル基であり、それらの基は全て置換されていてもよく、RとRとは環を形成でき、その環は1個又は複数の二重結合を有していてよい)、
【0066】
[0087]−OCON(R)(式中、各Rは、他のRそれぞれとは独立に、水素又はアルキル基又はアリール基であり、より具体的には、式中、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又はフェニル基であり、それらの基は全て置換されていてもよく、RとRとは環を形成でき、その環は1個又は複数の二重結合を有していてよい)、
【0067】
[0088]−N(R)(式中、各Rは、他のRそれぞれとは独立に、水素若しくはアルキル基、アシル基若しくはアリール基であり、より具体的には、式中、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基若しくはフェニル基若しくはアセチル基であり、その全ては置換されていてもよく、又は、RとRとは環を形成でき、その環は1個若しくは複数の二重結合を有していてよい)、
【0068】
[0089]−SR、−SOR又は−SOR(式中、Rはアルキル基又はアリール基であり、より具体的には、式中、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基であり、その全ては置換されていてもよく、−SRについてはRは水素であってよい)、
【0069】
[0090]−OCOOR(式中、Rはアルキル基又はアリール基である)、
【0070】
[0091]−SON(R)(式中、Rは、水素、アルキル基又はアリール基であり、RとRとは環を形成できる)、
【0071】
[0092]−OR{式中、R=H、アルキル、アリール又はアシルであり、例えば、Rは−OCOR(式中、Rは水素又はアルキル基又はアリール基であり、より具体的には、式中、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又はフェニル基であり、それらの基は全て置換されていてもよい)をもたらすアシルであってよい}。
【0072】
[0093]具体的な置換アルキル基としては、ハロアルキル基、とりわけトリハロメチル基、具体的にはトリフルオロメチル基が挙げられる。具体的な置換アリール基としては、モノハロ、ジハロ、トリハロ、テトラハロ及びペンタハロ置換されたフェニル基、モノハロ、ジハロ、トリハロ、テトラハロ、ペンタハロ、ヘキサハロ及びヘプタハロ置換されたナフタレン基、3又は4−ハロ置換されたフェニル基、3−又は4−アルキル置換されたフェニル基、3−又は4−アルコキシ置換されたフェニル基、3−又は4−RCO置換されたフェニル、5又は6−ハロ置換されたナフタレン基が挙げられる。より具体的には、置換アリール基としては、アセチルフェニル基、とりわけ4−アセチルフェニル基;フルオロフェニル基、とりわけ3−フルオロフェニル基及び4−フルオロフェニル基;クロロフェニル基、とりわけ3−クロロフェニル基及び4−クロロフェニル基;メチルフェニル基、とりわけ4−メチルフェニル基;並びにメトキシフェニル基、とりわけ4−メトキシフェニル基が挙げられる。
【0073】
[0094]1つ又は複数の置換基を有する上述の基のいずれに関しても、このような基は立体的に非実際的な及び/又は合成的に実行不可能な置換又は置換型を一切有さないことは理解される。加えて、本発明の化合物は、これらの化合物の置換により生じる全ての立体化学異性体を包含する。
【0074】
[0095]本発明の方法について記載する前に、記載された特定の方法論、プロトコール、細胞株及び試薬は変更し得ることから、本発明はこれらに限定されるものではないことは理解される。又、本明細書中で使用する用語は特定の実施形態のみを説明することを目的としたものであって、本発明の範囲を限定することを意図したものではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるものであることも理解されたい。
【0075】
[0096]本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用する場合、単数形の「a」、「an」、及び「the」は、そうではないことが文脈から明らかに指し示される場合を除き、複数形への言及を包含するものであることに注意すべきである。したがって、例えば、「細胞(a cell)」と言った場合は、当該細胞及びそれに相当する当業者に知られているものなどの複数形を包含する。さらに、「a」(又は「an」)、「1つ又は複数の」及び「少なくとも1つの」という用語は、本明細書中では互換的に使用される場合がある。又、「を含む(comprising)」、「などの(including)」、及び「を有する(having)」という用語は互換的に使用される場合があることにも注意されたい。
【0076】
[0097]別に定義しない限り、本明細書で使用する全ての専門用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が普通に理解するものと同じ意味を有する。本発明の実行又は試験においては、本明細書に記載のものと同様又は同等の任意の方法及び材料を使用できるが、好ましい方法及び材料をここに記載する。本明細書で言及する全ての出版物は、本発明と関連させて使用できると考えられる、当該出版物中に報告されている化学薬品、細胞株、ベクター、動物、機器、統計分析及び方法論を説明及び開示する目的で、参照により本明細書に組み込まれる。本明細書中には、先行発明によるこのような開示に、本発明が先立つ権利がないことを認める記述は一切ないと解釈すべきである。
【0077】
[0098]本発明は、揮発性のフッ化麻酔薬の静脈内投与に十分適した、治療用フッ化化合物を送達するための治療用製剤(治療用のエマルション及びナノエマルションなど)を提供する。治療用フッ化化合物の液滴を封入し、安定化させ、並びに、生物の体内の血流及び/又は活性部位に送達するための超分子の送達系が提供される。同時に、含フッ素内部相は、高度にフッ化された分子の認識要素として作用する。半フッ化ブロックコポリマーで安定化された本発明のナノエマルションなど、半フッ化ブロックコポリマーで安定化された本発明のエマルションは、揮発性のフッ化麻酔薬などのフッ化分子を封入するための、又、臨床での投与及び送達をもたらすための理想的なベクターである。
【0078】
[0099]本発明は、フッ化分子の自己会合特性に基づく新規の薬物送達系を提供する。実験結果は、半フッ化ポリマーにより安定化されたエマルションは、高度にフッ化された、沸点の低い麻酔薬を封入することが可能であることを示す。さらに、実験結果は、本発明のブロックコポリマーは水中の大量の揮発性のフッ化麻酔薬をナノエマルションとして可溶化することが可能であることも実証する。GABAA受容体についての電気生理学に基づく結合実験からは、本発明のナノエマルションにより放出される麻酔薬の濃度がヒト患者において麻酔を導入及び維持するのに十分と考えられることが示される。本発明のエマルションベースの製剤の主要な利点は、この製剤が揮発性麻酔薬の静脈内送達を可能にすることである。したがって、本発明の製剤は、全身麻酔における蒸気吸入に対する実行可能な代替法をもたらし、ひいてはさまざまな重要な臨床環境において大切な用途を有する。より具体的には、親水性及び親フルオロ性の領域の組合せを有する本発明のブロックコポリマー界面活性物質は、イソフルラン及びセボフルランなどの麻酔薬を、鼻腔内送達又は経皮送達のいずれかによるのではなく静脈内注射により、直接結合させて安全に送達することが可能である。本発明のこの態様は有利であるが、それは、フッ化麻酔薬の静脈内送達は、患者に過剰換気を施す必要がなく、又、デスフルランなどの刺激性の薬剤を使用することもなく、麻酔レベルを急速に深めることが可能だからである。
【0079】
[00100]本発明のナノエマルションベースの製剤は、最大25体積%といった大量の揮発性のフッ化麻酔薬の組込みを可能にする。対照的に、文献中で公表された、Intralipid(商標)(多様な脂質の混合物)として知られている脂質エマルションが有する、フッ化麻酔薬を静脈内に送達する能力に言及しているこれまでのデータは、フッ化されていない界面活性物質/脂質を用いた場合に到達可能な麻酔薬(セボフルラン)の最大濃度は3.6%にすぎないことを示している。(Eger,R.P.、Macleod,B.A.、「Anesthesia by Intravenous Emulsified Isoflurane in Mice」、Can.J.Anesth.、1995、42、173〜176;及びZhou,J.−X.、Luo,N.−F.、Liang,X.−M.、Liu,J.、「The Efficacy and Safety of Intravenous Emulsified Isoflurane in Rats」、Anesth.Analg.、2006、102、129〜134を参照)。
【0080】
[00101]極度に濃厚な麻酔薬エマルションを調製することが可能であれば、本発明の製剤の高度に有効な臨床使用が可能になる。本発明の治療用エマルション製剤の30mLの単回注射は、ヒト患者において麻酔を導入するのに十分である。麻酔の維持は、その後本発明の治療用製剤を単にゆっくり静脈内注入することにより達成可能である。従来のIntralipid製剤は、現時点ではヒト患者において使用できないが、その理由は、有効な麻酔結果を達成するには、たくさんの量が必要と考えられるからである。
【0081】
[00102]本発明のナノエマルションは、安定化添加剤を加えることにより、安定化されていてもよい。ペルフルオロオクチルブロミド及びペルフルオロデカリンは、本発明におけるナノ粒子のサイズ及び麻酔薬濃度の点で有効な安定化剤である。ペルフルオロオクチルブロミド及びペルフルオロデカリンは高濃度でのヒト使用についてFDAにより認可されていることは注目に値する。
【0082】
[00103]実験結果は、本発明の治療用製剤がラットにおいて麻酔を安全且つ非常に素早く導入することを示す。静脈内送達により与えられる麻酔薬の量を正確に投与できることにより、従来の吸入と比較して、一定の持続時間の麻酔に必要な量の麻酔薬のみを対象に供給することが可能になる。このような場合、全身麻酔からの回復は非常に急速であり、吸入による全身麻酔に常に付随する問題である、多様な組織中に未使用の麻酔薬が蓄積することにより生じる問題が排除される。
【0083】
[00104]そのようないくつかの実施形態では、ブロックコポリマー界面活性物質の過フッ化分子の領域は、揮発性のフッ化麻酔薬を含有する安定化用のナノエマルションを作製するために有用な、規則的な超分子構造の自己集合を方向付け向上させるための要素として使用される。例えば、本発明のフッ化ポリマーは、フッ化された液体の界面張力を大きく低下させる。重要なことに、界面張力の低下は、安定なエマルションをもたらすための要素の1つである。
【0084】
[00105]又、長期保管中のナノエマルションの安定性向上も、本発明のエマルションベースの治療用製剤の重要な属性である。本発明の製剤は、完全に形成されたエマルションとして麻酔科医に提供することが可能である。このような実施形態では、これらのエマルション中のナノ液滴のサイズが時間を経ても急速に変化しないことは有用である。本発明のエマルションのナノ液滴の熟成を抑制するための本発明の戦略としては、封入されたナノ液滴の熟成速度(例えばオストワルド熟成による)を妨げ抑制する、ペルフルオロオクチルブロミドなどの過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤を加えることが挙げられる。
【0085】
[00106]本発明の治療用製剤としては、異なる安定化添加剤を有する組成物が挙げられる。本発明のいくつかの製剤及び方法では、例えば、安定化添加剤のペルフルオロオクチルブロミド(PFOB)は、ペルフルオロデシルブロミド(PFDB)に置き換えられる。PFOBの水溶性(5.1nM)と比較して低いPFDBの水溶性(0.05nM)は、PFOBの場合よりPFDBによる方がエマルションを大きく安定化させるという結果をもたらす。PFDB及びPFOBは両方とも、ヒト患者における使用についてFDA認可されている。PFDBは、フルオロカーボン中の酸素エマルションを安定化させるための添加剤としてもこれまでに使用されている。
【0086】
[00107]いくつかの態様では、本発明の治療用の送達法は、ナノエマルションの形成に基づく。いくつかの実施形態では、本発明のナノエマルションは、内部コアが直径1μm未満の麻酔薬の液滴からなる粒子を含む。図2に、以下について示す模式図を掲載する:(i)親水性及び親フルオロ性のブロックを有する本発明のブロックコポリマーを使用した、麻酔薬を封入するミセル超分子構造の形成、及び(ii)ナノエマルションへのミセル超分子構造の移行。図に示されるように、液滴は、ブロックコポリマー分子の層により取り囲まれて安定化する。一実施形態では、ポリマーは、その親フルオロ性領域が麻酔薬の親フルオロ性コアと接するような様式で、液滴の周囲に組織化される。揮発性麻酔薬を本発明のフルオロポリマーと混合することにより生じるナノエマルションは、フッ化されていない脂質を用いることにより調製されるエマルションと比較して、麻酔薬の濃度が高い場合により安定で、サイズがより均一である。本発明のこの態様は、極度に大量の麻酔薬(最大25体積%)を可溶化させることが可能である。安定なナノエマルションの使用は、それにより心血管の閉塞リスクが低下することから、静脈内への注射又は注入がとりわけ対象となることも注目に値する。
【0087】
[00108]本発明の方法は、患者において麻酔を確立、維持及び/又は調整するための、揮発性のフッ化麻酔薬を含有する、「治療的有効量」の本発明の治療用製剤(治療用エマルションなど)を投与するステップを含む。「治療的有効量」という用語は、本明細書で使用する場合、個体に投与された際に、患者において麻酔若しくは鎮静を確立し、場合により維持又は調整するのに有効な、治療用製剤の量を指す。当技術分野では理解されようが、所与の化合物又は製剤の治療的有効量は、少なくとも部分的には、投与様式(例えば静脈内投与)、採用される任意の担体又はビヒクル、及び、製剤の投与対象となる特定の個体(年齢、体重、状態、性別など)に依存することになる。「治療的有効量」を達成するのに必要な投与量要件は、採用される特定の製剤、投与経路及び臨床目的によって変わる。活性化合物(例えば、揮発性のフッ化麻酔薬)の1日の計画投与量は、当技術分野で理解されるように、標準的な薬理試験法で得られた結果に基づいて決定できる。
【0088】
[00109]本発明の治療用製剤と関連させて、適当な任意の投与形態を採用できる。本発明の治療用製剤は、静脈内に、経口投与形態で、腹腔内に、皮下に、又は筋肉内に、いずれも医薬分野の当業者に周知の剤形を用いて投与できる。
【0089】
[00110]本発明の治療用製剤は、単独で投与できるが、選ばれた投与経路及び標準的な薬務に基づいて選択される医薬担体と共に投与してもよい。
【0090】
[00111]本発明の治療用製剤及び本発明の医薬は、1種又は複数種の薬学上許容される担体、賦形剤又は希釈剤をさらに含んでよい。そのような組成物及び医薬は、例えば、Remingtons Pharmaceutical Sciences、第17版、Alfonoso R.Gennaro編、Mack Publishing Company、Easton、Pa.、(1985)に記載のものなど、許容される薬学上の手順に従って調製され、同文献は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0091】
[00112]さらに、本発明は、麻酔用の医薬の製造における半フッ化ブロックコポリマー、治療用フッ化化合物及び過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤の使用にも関する。より具体的には、本発明は、麻酔用の医薬の製造における、親水性ブロック及び親フルオロ性ブロックを有する半フッ化ブロックコポリマー、治療用フッ化化合物及び過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤の使用に関する。特定の実施形態では、製造される医薬は、静脈内投与用の、ナノエマルションなどのエマルションの形態である。特定の実施形態では、この医薬は、薬学上許容される担体又は希釈剤、及び、とりわけ、静脈内投与に適した担体又は希釈剤をさらに含む。
【0092】
実施例1:治療用フッ化化合物を送達するためのエマルションベースの治療用製剤。
[00113]有機化合物の物理的及び化学的な特性は、フッ素置換基の導入により大きく影響される。有機分子中にフッ素原子を1個だけ導入した時点で既に分子の特性は変化する可能性があるが、有機分子の過フッ化により、新しい液状物相、いわゆるフルオラス相を生じさせることができる。この相は、極性及び非極性の水素化相の両方とは混合しない。フルオラス相が形成されると、大規模にフッ化された分子及びポリマーの独特な振る舞いが、そこから開始する。過フッ化ポリマーは、表面エネルギーが低く、脂質にも水にも溶けず、その高い化学安定性及び熱安定性は比類ないものである。このポリマーが有する薬物送達への可能性は、最近探求され始めたばかりである。最も重要なことには、多くのフッ化分子は、フッ化ステロイド(抗炎症薬として使用される)からフッ化されたヌクレオチド及びヌクレオシド、揮発性麻酔薬まで、今や医師が入手できる薬物のレパートリーの一部である。
【0093】
[00114]フッ化分子は、麻酔に革命的変化をもたらした。フッ化麻酔薬群は、より安全な治療剤の開発のためにフッ素置換が使用されることを例証するものである。今日、デスフルラン及びセボフルランは、北米で供給される全身麻酔薬の半数に使用されている。セボフルランなど高度にフッ化された分子の分子認識は極めて困難を伴うものであるが、それは、フッ化化合物は極度に疎水性であり、親水性及び疎水性の成分の両方とは混合しないからである。一例として、ペルフルオロオクタンは、水ともオクタンとも混合せず、この3種の化合物の混合物は、3相への分離を生じる。
【0094】
[00115]過フッ化分子及び過フッ化アルキル鎖を有する分子は、通常は対立すると考えられる2つの特性、すなわち疎水性及び疎油性を併せ持つようである。フッ化された両親媒性分子を考えた場合、その状況は異なる。ペルフルオロ誘導体の疎水性が増すことと、同時に水溶化基が存在することとにより、これらの両親媒性物質は特別なクラスの界面活性物質を形成する。フッ化界面活性物質は、界面活性が高いこと、及び、自己組織化して規則正しい安定な超分子の複合体になる傾向が強いことが特徴である。微小管、ベシクル、二重層及び複雑な三次元の規則集合体は、有機分子を有する過フッ化置換基により形成できる。このような複合体及びこれに相当する多相のコロイド系は、反応しやすい薬物を周囲環境から保護することが可能な新規の薬物送達系として、本発明において有用である。
【0095】
[00116]揮発性のフッ化麻酔薬を送達するための本発明の治療用製剤の主要目的は、全身麻酔を導入及び維持するためのin vivoでの使用である。in vivo及びin vitroでの結果は、本発明のブロックコポリマー中のフルオロカーボン部分が内因性の毒性作用を一切有さないことを示す。
【0096】
1.a.揮発性麻酔薬を静脈内送達するための一連の半フッ化ポリマーの合成及び物理化学的特徴付け。
[00117]界面活性物質又は界面活性剤は溶媒の表面張力を低下させる能力があり、こうした物質は溶媒中では、選択的な吸収性により界面に存在する。界面活性物質は定義上は両親媒性物質であり、すなわち、この物質は、溶解性の特性が大きく異なる2つの別個の部分からなる。一方の部分は親媒性であり、他方は疎媒性である。水に溶ける従来の両親媒性分子は、荷電した又は多酸素化された水溶性の部分と、疎水性を確保する炭化水素又は脂肪酸誘導体部分とを有する。これら2つの異なる部分の形状、サイズ及び性質が、その界面活性物質の凝集特性を決定する。2つの部分の相対的なサイズ、炭化水素鎖置換基の立体障害及び極性官能基の付加などのパラメーターを慎重に変える結果、溶液中で特異的に自己集合する分子の設計につなげることができる。次いで、このような超分子構造(ミセルなど)の特性により説明される機能が、選択的な自己集合の結果として生じる。
【0097】
[00118]本発明の治療用製剤及び方法としては、フルオロカーボン領域に連結された、水への溶解を可能にする生体適合性のポリ(エチレングリコール)(PEG)領域を含む半フッ化ジブロックコポリマーの類が挙げられるが、これに限定されない。一実施形態では、この半フッ化ジブロックコポリマーは、次式を有する:
【0098】
【化1】

【0099】
特定の実施形態では、この実施形態の半フッ化ジブロックコポリマーは、式FX4又はFX5を有する(式中、pは1又は2である)。
【0100】
[00119]スキーム1に、本発明の半フッ化ブロックポリマーを作製するための合成経路の一例を挙げる。
【0101】
【化2】

【0102】
[00120]本発明の半フッ化ブロックコポリマーを作製するための、より効率的な第2の合成経路をスキーム2に示す。この方法の例は、分子量5,000(M5)を有するモノメチル化PEGを使用する。本発明者らは、これまでにこの合成を用いてポリマーF8M5、F10M5、F13M1、F13M2、F13M5及びF15M5(スキーム2)を調製しており、これらのポリマーは、さらに特徴付けられ、封入及び安定性の予備試験用に使用されている。この高収率の2段階の合成は、これらの化合物の市販品開発にとって有望である。
【0103】
【化3】

【0104】
本明細書で使用する場合、FXMYという略語は、スキーム2の化合物を指すために使用され、語中のFXは、X個の炭素を有する過フッ化アルカンブロックを指し、MYは、分子量がY千(すなわちY,000)amuであるPEGブロックを指す。
【0105】
[00121]スキーム2に示す、これらのポリマーを作製するために使用した一般的な合成法。必要な全てのペルフルオロアルコールは市販品である(Aldrich and Synquest laboratories)。C17−CH−O−(CH−CH−O)136−OH、F8M5、F10M5及びF15M5の精製は、その独特な自己集合及び溶解性の特性により、困難を伴う。本発明者らは、ポリマー沈殿と伝統的なカラムクロマトグラフィーとの組合せを用いて、これらのポリマーの精製に成功した。この手順は、合成された全ての半フッ化ポリマーにとって有効であることが証明された。
【0106】
[00122]ポリマーF8M5、F10M5、F13M5及びF15M5(スキーム2を参照)、並びに、一般組成C17−CH−O−(CH−CH−O)136−OH(スキーム1を参照)を有する分子を試験して、これらの分子の溶解性及びそれらが形成できる凝集体の性質を実験的に検証した。本発明者らは、動的光散乱法及び蛍光相関分光法を用いて、異なる濃度のポリマー溶液を試験することにより、これを実施した。
【0107】
1.b.揮発性のフッ化麻酔薬を含有するナノエマルション
[00123]本発明の半フッ化ブロックコポリマーは、そのフッ化された部分間に含フッ素内部相を形成することにより、水溶液中で自己集合を起こす。図3に、本発明の半フッ化ブロックコポリマーが自己集合し、それにより溶液中でミセル構造を作る様子を示す模式図を掲載する。ポリマーのみを有する製剤はミセルを形成するが、麻酔薬を加えると、サブミクロンの液滴の懸濁液、すなわちナノエマルションが得られる。さらに、本発明者らは、これらのフッ化ナノエマルションはペルフルオロオクチルブロミドなどの添加剤を加えることにより安定化することも見出した。
【0108】
[00124]フルオロポリマー及び本発明の麻酔薬エマルションの両方の安定性は、ナノ粒子のサイズの経時変化を測定することにより評価し得る。図4に、多様な系のパラメーターを変化させた際に観察される、本発明のエマルションのナノ液滴のサイズに及ぶ影響を示すプロット図を掲載する。図4aでは、麻酔薬(イソフルラン)の濃度を規則的に変化させていた。図4bでは、安定化添加剤(ペルフルオロオクチルブロミド)の濃度を規則的に変化させていた。図4aでは、半フッ化ブロックコポリマー界面活性物質の濃度を規則的に変化させていた。イソフルラン及びペルフルオロオクチルブロミドの濃度の単位は%V/Vである。ポリマーの濃度の単位はmg/mLである。iso=イソフルラン、pfob=ペルフルオロオクチルブロミド。Y軸=直径(nm)、X軸=時間(日)。図4のグラフは、本発明の製剤が極めて安定であることを明確に示すものである。
【0109】
[00125]このエマルションの半フッ化ブロックコポリマー界面活性物質のPEG領域のサイズを変化させることにより、さらなる試験を実施した。図5には、PEGのサイズを変化させ、他は全て一定に保った際の、ナノ粒子のサイズに及ぶ影響を示すプロット図を掲載する。(ポリマーの命名法についてはスキーム2を参照)。図5中のy軸は液滴のサイズ(単位:ナノメートル)であり、x軸は時間(単位:日)である。
【0110】
1.c.過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤の使用。
[00126]いくつかの実施形態では、本発明の治療用製剤は、安定性及び送達能力を向上させるために、ペルフルオロオクチルブロミドなど1種又は複数種の過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤を含む。本発明の製剤中の添加剤の有用な物理的及び化学的な特性としては、以下が挙げられる。
【0111】
[00127]a.高い親フルオロ性:添加剤は、安定化対象のポリマーの含フッ素ブロックに対する親和性が高くなければならず、それによりポリマーの低い界面張力がもたらされる。
【0112】
[00128]b.低い水溶性:添加剤の水溶性は十分に低くなければならない。熟成は水溶性と直接関係がある。添加剤が水に溶ける量が少ないほど、熟成が生じる速度は遅くなる。ペルフルオロオクチルブロミドの溶解度は5.1nmである。したがって、いくつかの実施形態では、添加剤の水溶性は、ナノモル範囲上か、又はそれを下回る。
【0113】
[00129]c.化学的不活性:添加剤は、化学的に十分不活性でなければならない。過フッ化化合物は、化学的に非常に不活性である傾向がある。又、過フッ化ブロックは強力な電子求引性の性状を有するため、添加剤上の他のハロゲン原子(臭素又は塩素)は非反応性である傾向がある。
【0114】
[00130]d.急速な排泄:添加剤は、急速な排泄が可能でなければならない。代用血液エマルション用に調査されたフルオロカーボンは、循環半減時間(PFC濃度が循環中に半減するのに要する時間)が2週間未満であれば許容されるとみなされた。ペルフルオロオクチルブロミドの、体内での半減期は4日である。他の適当な候補としては、ペルフルオロデカリン(7日)、ペルフルオロジクロロオクタン(7日)、ビスペルフルオロブチルエチレン(7日)及びペルフルオロ(メチルデカリン)(11日)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0115】
[00131]e.適切な分子量:いくつかの実施形態では、添加剤は、400〜600amuの質量範囲から選択される分子量を、又、好ましくはいくつかの用途の場合は460〜520amuの質量範囲から選択される分子量を有する。この範囲を下回ると蒸気圧が高くなりすぎることがあり、それにより肺気腫及び他の肺合併症を引き起こす恐れがある。この範囲を上回ると排泄時間が長くなりすぎることがある。
【0116】
[00132]f.高純度:添加剤は、高純度の試薬として提供されなければならない。フルオロカーボンについては、純粋で、適切な分子量の範囲で選ばれた場合には、毒性作用、発癌作用、変異原性作用又は催奇性作用も、免疫反応も、報告されていない。
【0117】
[00133]いくつかの実験的試験では、本発明のエマルションを安定化させるための添加剤としてペルフルオロオクチルブロミドを選んだが、その理由は、ペルフルオロオクチルブロミドはヒト患者における使用についてFDA認可されているからである。図6は、多様なペルフルオロ化合物がフルオロエマルションの安定性に及ぼす影響を示す。FC−72(ペルフルオロヘキサンの混合物)はナノエマルションを安定化させることがいかにできないかに注意されたい。これは、この化合物の水溶性がペルフルオロオクチルブロミドと比較して高いことによる:300nM対5.1nM。ペルフルオロデカリンはペルフルオロオクチルブロミドより5倍安価で、図6に示すように、ナノエマルション安定化剤としてペルフルオロオクチルブロミドの使用に対する有用な代替品を代表する。このプロット図では、PFOBはペルフルオロオクチルブロミドを指し、FC−72はペルフルオロヘキサンの混合物を指し、FDCはペルフルオロデカリンを指す。
【0118】
1.d PEG領域を有する半フッ化ブロックコポリマー界面活性物質
[00134]本実施例は、分子式C17−O−(CH−CH−O)−OH及びCm+1−O−(CH−CH−O)−OMeに相当するポリマーの合成及び自己集合特性を実証するものである。フルオロカーボン部分のサイズがm=8、10、13、15、20であり、フルオロカーボン部分のそれぞれについてPEG(メトキシ末端)の分子量が5,000、2,000、1,000及び500g/molであるポリマーの自己集合及び封入の能力は、とりわけ有望である。フッ素原子の数が増すと、以下のようにいくつか効果がある。
【0119】
[00135]1.ポリマーの水溶性及びその臨界ミセル濃度が低下する。
【0120】
[00136]2.ミセルの凝集体数(ナノエマルション中の拡大したミセルそれぞれにおけるポリマー分子の数)は、親フルオロ性の内部相のサイズを変えることにより変化させることができる。
【0121】
[00137]これに対し、PEG中の酸化エチレン単位の数を増やすと、ミセルの水溶性及びCMCが高くなる。したがって、フッ素原子の数及びPEGブロックのサイズを制御することは、封入された(親フルオロ性の)麻酔薬の薬物動態的特性(例えば、放出特性など)を選択的に制御するうえで、本発明において有用であると考えられる。
【0122】
1.d.ナノエマルション。
[00138]セボフルラン及びイソフルランのナノ乳化は、本発明の安定化添加剤及び半フッ化ブロックコポリマーを使用していた。フルオロポリマー及び添加剤(PFOB)の多様な濃度から始めて、サブミクロンのエマルション中に可溶化できる麻酔薬の最大量を定量した。
【0123】
[00139]以下は、麻酔薬、添加剤及びフルオロポリマー間がそれぞれ20%V/V / 10%V/V / 25mg/mLのナノエマルションを生じさせるための実験的プロトコールである。同じ手順を、エマルションの3成分の任意の組合せに適用できる。セボフルラン(3.4mL、20%)及びペルフルオロオクチルブロミド(1.7mL、10%)をF13M5(298mg、25mg/mL)とNaCl(107.1mg、0.9%)との水溶液(11.9mL)に加えて総体積17mLとした。この2相の混合物を低エネルギーのミキサー(Power Gen500、Fisher Scientific)を用いて、1分間21000rpmで室温にてホモジナイズした。冷却槽を用いて温度を20.0℃に維持しながら、Microfluidizer(型式110S、Microfluidics Corp.)を用いて、粗製エマルションを高圧下でさらにホモジナイズした(5000psi、1分)。生成エマルションを15mLの滅菌済みの遠心管(Corning Inc.)に入れ、使用時まで4℃で保管した。
【0124】
実施例2.麻酔薬含有ナノエマルションについての毒性試験。
[00140]in vitroでの毒性試験。この段階でのin vitroでの毒性試験を、C17−CH−O−(CH−CH−O)136−OHの多様な濃度の溶液がマウスの赤血球において溶解を誘導する能力を定量することにより実施した。この半フッ化ブロックコポリマーは完全に不活性であり、臨界ミセル濃度を下回る0.003mMから臨界ミセル濃度より15倍高い1.8mMの範囲の濃度では、感知される程度の細胞溶解を一切誘導しないことが見出された。手順は、Lavasanifar,A.、Samuel,J.、Kwon,G.S.、「Micelles Self−Assembled from poly(ethylene oxide)−block−poly(N−hexyl stearate L−aspartamide)by a Solvent Evaporation Method:Effect on the Solubilization and haemolytic Activity of Amphotericin B」、J.Control.Rel.、2001、77、155〜160を元にして適合させた。
【0125】
[00141]本発明者らの試験において、本発明者らは、本発明の製剤がラットにおいて麻酔を安全且つ非常に素早く導入することを示す。静脈内送達により与えられる麻酔薬の量を投与できることにより、従来の吸入と比較して、一定の持続時間の麻酔に必要な麻酔薬のみを動物に供給することが可能になる。このような場合、全身麻酔からの回復は非常に急速であり、多様な組織中に未使用の麻酔薬が蓄積することにより生じる問題が排除される。これは、吸入による全身麻酔に常に付随する問題である。しかしながら、多様な組織中における未使用の麻酔薬の蓄積は、いくつかの事例において、本発明の治療用エマルションの注入の際に観察される。
【0126】
in vitroでの毒性試験。
[00142]半フッ化ブロックコポリマーの毒性及び設計。ペルフルオロ化合物の主要な毒性は、ペルフルオロ酸に関係がある。本発明のブロックコポリマーは、ペルフルオロ酸の代謝形成が、不可能ではないまでも非常に困難であるような様式で構成されている。このポリマーのペルフルオロカーボン領域は、エーテル連結によりPEGに連結される(スキーム1及び2を参照)。この連結は、低毒性などの有利な特性が得られるように選択される。フッ化界面活性物質を調製するためのより簡単な合成手順には、エステル形成及び他のカルボン酸誘導体が必要である。しかしながら、大部分の酸誘導体は、酵素的に切断されて毒性のあるペルフルオロカルボン酸を産生しやすい。これに対し、本発明のブロックコポリマーにおいて使用されるようなエーテル連結は、安定で、酵素的切断を起こす可能性が低い。加えて、水素化されたメチレン基1個が、エーテルの酸素とフルオロカーボンとの間に挟み込まれている。これは、強力な電子求引性を有するフッ素によりエーテル連結の活性化が最小化されるように成されたものである。
【0127】
[00143]実施例3.セボフルランを静脈内送達するためのフルオロポリマーベースのエマルション
【0128】
要約
[00144]揮発性のハロゲン化麻酔薬の静脈内送達は、これまではリン脂質で安定化されたエマルションを用いて、特にIntralipidを用いて達成されてきた。しかしながら、セボフルランなどの揮発性のフッ化麻酔薬は、部分的に親フルオロ性であり、従来のフッ化されていない脂質とうまく混合しない。この影響により、Intralipid中で安定に乳化できるセボフルランの最大量は3.5%v/vに制限される。このことは、Intralipidベースのエマルションの臨床使用の可能性にとって大きな制約である。
【0129】
[00145]本実施例は、新規のフッ化界面活性物質と安定化剤とを用いた20%v/vのセボフルランのエマルション製剤を実証するものである。さらに、この実施例は、本発明のエマルションベースの製剤の有効性及び治療指数を、頚静脈中への静脈内注射によりオスのSprague−Dawleyラットに同製剤を投与することにより示すものである。麻酔導入の半有効量(ED50)、半致死量(LD50)及び治療指数(LD50/ED50)を定量した。麻酔状態は、前足の正向反射の消失により測定した。ED50値及びLD50値は、体重1kg当りエマルションがそれぞれ0.41及び1.05mLであることが見出された。これらより治療指数2.6が導かれ、この指数は予め定量しておいた乳化イソフルランの値、並びに、プロポフォール及びチオペンタールについての値に、好都合にも匹敵する。
【0130】
[00146]本発明のエマルションベースの製剤は、Intralipidと比較して、安定に乳化されたセボフルランの最大量が増している。この製剤は、ボーラス投与を用いて麻酔を急速に導入するために使用できるが、そうした麻酔からの回復はスムーズ且つ急速である。
【0131】
導入
[00147]揮発性のハロゲン化麻酔薬の静脈内送達は、伝統的な送達方法を改良する可能性があることから、40年超にわたる関心事である。血流中への直接注射は、麻酔薬が肺と平衡に達するのに要する時間を削減し、より急速な麻酔の開始がもたらされる。ハロタンをそのままの状態で静脈内に直接送達した最初の事例では、意図したことであるかないかは別として、動物及びヒトの両方において顕著な肺障害及び死を引き起こした。その後の努力により、ハロタン、より最近ではイソフルラン及びセボフルランの送達手段として脂肪エマルションを利用することに成功した。このようなエマルションについての試験は、揮発性のフッ化麻酔薬の静脈内送達はプレコンディショニングをもたらし、それにより心筋梗塞の程度を軽減するために使用できることも示した。このような例は全て、Intralipid(リン脂質で安定化された市販の大豆油エマルション)を使用したか、又は、乳化剤としてリン脂質を直接使用したかのいずれかであった。しかしながら、揮発性のフッ化麻酔薬は部分的に親フルオロ性であり、従来のフッ化されていない脂質とうまく混合しない。この特性は、Intralipid中で溶解する麻酔薬の濃度が限られていることから明らかである。
【0132】
[00148]ペルフルオロカーボンエマルションは、代用血液としての使用について広範に研究されてきた。第二世代のエマルションであるOxygent(商標)(Alliance Pharmaceutical Corp.、San Diego、CA)は、30体積%のペルフルオロオクチルブロミド(ペルフルブロン)が組み込んである。in vitroでの分析において、Cuignetらは、Intralipidと比較して、Oxygentの存在がイソフルラン、セボフルラン及びデスフルランの血液:気体の分配係数を大きく増加させることを実証した。ペルフルオロオクチルブロミドなどの高度にフッ化された化合物は、疎油性及び極度の疎水性という両方の特徴があるが、これは親フルオロ性の顕著な特徴である。有機分子の物理化学的特性は、高度にフッ化された有機分子が新しい液状物相(フルオラス相と通常呼ばれる)を生じさせることができる個所にフッ素置換基を導入することにより、大きく影響される。この相は、極性及び非極性の水素化相の両方とは混合しない。一例として、ペルフルオロオクチルブロミドは、水中又は炭化水素中のいずれにおいても限定された溶解性のみを呈するが、ペルフルオロ溶媒とは完全に混和する。同じ理由で、イソフルラン、セボフルラン及びデスフルランなどの高度にフッ化された麻酔薬は、Intralipidよりは、ペルフルオロオクチルブロミドなどの親フルオロ性分子によりもたらされる環境を好むと考えられる。加えて、フッ化された界面活性物質は、ペルフルオロカーボンと水との間の界面張力を顕著に低下させることにより、フッ化された化合物を有する高度に安定なo/wエマルションを形成することが示されている。
【0133】
[00149]本実施例では、本発明者らは、新規の半フッ化界面活性物質3(図7、F13M5)により乳化されペルフルオロオクチルブロミドにより安定化されたセボフルランが、ラットにおいて静脈内送達により首尾よく麻酔を導入することを実証する。さらに、本発明者らは、当該エマルションの半有効量(ED50)及び半致死量(LD50)を定量した。この試験は、リン脂質ではなく界面活性物質を用いることによりハロゲン化麻酔薬を乳化させた最初の例である。
【0134】
方法
[00150]全ての動物試験は、「実験動物の管理と使用に関する指針(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)」中に書かれたガイドラインに従って行われ、University of Wisconsin Animal Care and Use Committeeにより承認された。
【0135】
[00151]ポリマー合成
【0136】
[00152]図7に示すように、乳化剤として使用するための、新規の半フッ化界面活性物質を合成した。この合成は、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(mPEG、分子量5000)のヒドロキシル官能基を、塩化メタンスルホニルを用いて活性化させることから始める。その結果生じるポリマーのメタンスルホン酸エステルを、次いで1H,1H−ペルフルオロ−1−テトラデカノール(SynQuest Laboratories,Inc.、Alachua、FL)に連結させて、高い全収率で最終生成物F13M5を得る。FXMYというポリマーの命名法は、特定のポリマーがX個のペルフルオロカーボンと平均分子量Y(単位:千g/mol)のモノメチルポリ(エチレングリコール)ブロックとを有することを示すものである。
【0137】
試作品
[00153]ポリエチレングリコールモノメチルエーテル 1(平均分子量=5000g/mol)をFlukaから購入し、使用前に凍結乾燥させた。塩化メタンスルホニル(99.5%)及びトリエチルアミン(99.5%)をAldrichから購入し、記載の要領で使用した。塩化メチレン(GC Resolv)及びTHF(Optima)をFisher Scientificから購入し、アルミナ入りカラムに通液させることにより乾燥させた。無水のジエチルエーテルをEMDから購入した。1H,1H−ペルフルオロ−1−テトラデカノールをSynQuest Labsから購入した。乾燥NaH(95%)をAldrichから購入した。19F−NMR及びH−NMRスペクトルを、400MHzで動作するVarian Inova分光計上で得た。生成物の純度定量用のHPLCクロマトグラムは、粒子サイズが5μm、孔サイズが1000ÅのJordi RP−DVBのカラムを用いてGilsonのHPLCシステム上で得てから、Gilson製のprepELS検出器を用いて検出した。溶媒勾配は、MeCN 10%/HO 90%で開始し、20分かけてMeCN 100%に増加させた。流速は1mL/分であった。
【0138】
[00154]ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメシレート 2。穏やかに加熱しながら、凍結乾燥状態のポリエチレングリコールモノメチルエーテル 1(30.67g、6.1mmol)を無水のCHCl(200ml)中で溶解させた。室温に冷却した後、トリエチルアミン(1.7ml、12mmol)と塩化メシル(0.7ml、9mmol)とを加え、反応混合物をアルゴン下で室温にて一晩撹拌した。沈殿した塩を真空濾過により除去し、濾液を回転蒸発により乾燥させた。残った固形物をCHCl中に取り出し、CHCl、次いで10:1のCHCl:メタノールをシリカゲルに通して精製し、一切の残留塩を除去した。濾液を蒸発により乾燥させ、THF(200ml)中に取り出した。ジエチルエーテル(250ml)を加えてから、沈殿が終了するまでこの溶液を4℃の冷蔵庫内で30分間冷却した。真空濾過により固形生成物を収集し、水中で溶解させてから凍結乾燥させると、白色の粉末としてのポリエチレングリコールモノメチルエーテルメシレート 2(27.4g、88%)を得た。
【0139】
[00155]H NMR CDCl δ 3.09(s,3H)、3.38(s,3H)、3.46〜3.83(m,450H)、4.38(m,2H)
【0140】
[00156]ポリエチレングリコールモノメチルエーテル−ペルフルオロカーボン接合体 3(F13M5)。穏やかに加熱しながら、メシレート 2(8.14g、1.6mmol)及び1H,1H−ペルフルオロ−1−テトラデカノール(2.789g、3.98mmol)を無水のTHF(500ml)中で溶解させた。室温に冷却した後、NaH(0.356g、14.8mmol)を加えた。48時間の還流後、HOを滴加することにより反応を停止させた。沈殿した塩を真空濾過により除去した。回転蒸発により濾液の体積を半減させ、ジエチルエーテルを加え(250mL)てから、沈殿が終了するまでこの溶液を冷却した。真空濾過により固形物を収集し、CHCl中に取り出してから、10:1のCHCl:メタノールをシリカゲルに通液させて、一切の残留塩を除去した。濾液を蒸発により乾燥させてから、THF(200mL)中に取り出した。ジエチルエーテル(250ml)を加えてから、沈殿が終了するまでこの溶液を4℃の冷蔵庫内で30分間冷却した。真空濾過により固形生成物を収集し、水中で溶解させてから凍結乾燥させると、白色の粉末としての14H,14H−ペルフルオロテトラデカンポリエチレングリコールモノメチルエーテル 3(F13M5)(7.8g、85%)を得た。
【0141】
[00157]H NMR CDCl δ 3.38(s,3H)、3.46〜3.83(m,450H)、4.04(t,J=13.6Hz,2H)
【0142】
[00158]19F NMR(CDCl)δ −81.103(t,J=10.5,3F)、−120.131(m,2F)、−122.014(m,16F)、−123.014(m,2F)、−123.785(m,2F)、−126.451(m,2F)。HPLCによりポリマーの純度を確認した。支援情報として、クロマトグラムを得る。
【0143】
エマルションの調製
[00159]セボフルラン(Abbott Labs、N.Chicago、IL、3.4mL)及びペルフルオロオクチルブロミド(SynQuest Laboratories,Inc.、Alachua、FL、1.7mL)をF13M5(298mg、25mg/mL)の0.9%NaCl水溶液(11.9mL)に加え、総体積を17mLとした。この2相の混合物を低エネルギーのミキサー(Power Gen500、Fisher Scientific、Hampton、NH)を用いて1分間21000rpmで室温にてホモジナイズした。一実施形態では、0.9% NaCl中の20%v/vのセボフルラン、10%v/vのペルフルオロオクチルブロミド及び25mg/mLのF13M5の製剤を使用した。冷却槽を用いて温度を20.0℃に維持しながら、Microfluidizer(型式110S、Microfluidics Corp.、Newton、MA)を用いて粗製エマルションを高圧下でさらにホモジナイズした(5000psi、1分)。20%(v/v)のセボフルランの生成エマルションを15mLの滅菌済みの遠心管(Corning Inc.、Corning、NY)に入れ、使用時まで4℃で保管した。イソフルランを含有することを除いて同様のエマルションも調製した。尾静脈注射を採用する最初の試験はイソフルランエマルションを利用し、埋め込んだカテーテルを採用する全用量−応答試験はセボフルランエマルションを利用した。
【0144】
[00160]エマルションは、使用前に動的光散乱法によりサイズを測定した。この測定のために、遠心管を反転させることによりエマルションを混合して、凝集又は沈降のいずれかによる不均質性を排除した。次に、2.990mLの0.9%NaClにエマルション10μLを加えることにより、エマルションを300倍に希釈した。サイズ測定は、639nmレーザーを用い、散乱角90°の動的光散乱法(NICOMP380ZLS、Particle Sizing Systems、Santa Barbara、CA)により実施した。各試料を15分間機械にかけ、全ての数字をガウスの加重値として報告する。エマルションは平均直径が350nm未満であった場合にのみ使用した。この切捨ては、エマルションの一貫した物理的特徴を確保し、粒子サイズの増加に伴って生じる可能性のある急性毒性を防止するために確立されたものである15。さらに、0.45μmのナイロン製シリンジフィルターを通してエマルションを濾過した。最終的なナノエマルションは乳白色である。
【0145】
[00161]ナノエマルションについて記載したものと同じ方法及び装置を使用して、対応する量のセボフルランを市販のIntralipidを用いて乳化させることにより、Intralipidエマルションを調製した。安定に乳化できた麻酔薬が少量であったことから、Intralipidエマルションは動物においてはテストしなかった。
【0146】
動物試験
[00162]麻酔薬エマルションの有効性についてテストするために実施した予備実験を、体重およそ300gのSprague−Dawley系のオスの成ラット(Harlan Sprague Dawley,Inc.、Indianapolis、IN)において尾静脈注射を用いて実施した。この試験のために、ラットは、注射の間、市販の齧歯類用拘束管(製造者)を用いて拘束した。完全な用量−応答測定のために、購入前の段階で頚静脈カテーテルが手術により埋め込まれた体重およそ300gのSprague−Dawley系のオスの成ラット(Harlan Sprague Dawley,Inc.、Indianapolis、IN)を使用した。各用量を5匹のラットについてテストした。複数の日に同じラットを使用したが、一切の累積効果を防止するために、ラットには1日1回注射するのみとした。体重の違いに一致させて用量を調節できるように、各ラットの体重を測定した。集団の50パーセントに麻酔をかけるのに有効な用量(ED50)を定量するために、5匹のラットからなる各群に、用量がそれぞれ0.33、0.36、0.39、0.43、0.47、0.55及び0.62mL/kgの乳化麻酔薬を注射した。シリンジポンプ(11プラス、Harvard Apparatus、Holliston、MA)を用いて、体積にかかわらずボーラス用量が常に20秒にわたって投与されるように速度を調節した。表3.1に、利用した乳化麻酔薬の用量と、投与時に麻酔のかかったラットの数(5匹のうち)とのまとめを掲載する。
【0147】
【表1】

【0148】
集団の50パーセントにとって致死的な用量(LD50)を定量するために、5匹のラットからなる各群に、用量がそれぞれ0.945、0.982、1.018、1.055、1.091及び1.127mL/kgの乳化麻酔薬を注射した。ヒト患者において導入前に通常用いられる「前酸素化」と似た状況を作るため、LD50測定用の注射の直前にラットを導入チャンバー中に3分間配置することにより、ラットに純粋な酸素を自発的に呼吸させた。対照実験として、10%のみのペルフルオロオクチルブロミドを含有しセボフルランを含有しないエマルションを、上述したものと同じ様式で調製した。ラットの100%が死亡したセボフルランエマルション体積に等しい体積1.091mL/kgを5匹のラットに注射した。
【0149】
[00163]実際の注射の際は、動物を拘束し、カテーテルのワイヤーポートの栓を外して代わりに洗い流し用の組立部品(1ccシリンジに接続された23ゲージの皮下針)を取り付けた。管の中に血液が見えカテーテルの閉塞がないことが確認されるまで、シリンジのプランジャーを静かに引いた。抵抗が見られた場合は、障害物を取り除くために、プランジャーに静かに圧力をかけた。一旦カテーテルに血液が完全に充填されたら、シリンジポンプにより制御されている、実験溶液の入ったシリンジにカテーテルを接続した。注射を開始すると体内に即座に流れ、次いで全量の注射が与えられるように、カテーテルに溶液40μL(カテーテルの容積)を予め入れておいた。注射が完了した後、ラットを仰向けにし、前足の正向反射が消失していれば麻酔が導入されたものとみなした。正向反射が消失していた場合は、スチール製のピンセットを用いて右の後足を締め付けて疼痛性刺激に対する応答の有無を確認した。足が引っ込められなければ、応答があるまで5秒毎に締付け刺激を与えた。注射後、ラットを3分間観察して、正向反射を取り戻すのに要する時間を計測すると共に、回復中の不調和(不安定歩行)又は失見当(立上り及び転倒が繰返し見られること)の存在を観察した。「スムーズな回復」は、回復期間中に不調和又は失見当の所見を伴わずに毛繕い又は目的のある探索行動が再開すること、と定義した。回復が完了したら(全てのケースで3分以内)、生理食塩溶液0.08mLをカテーテルに噴出させて残留する麻酔薬エマルションを除去し、次いでヘパリンベースの充填溶液0.08mLを再充填した。滅菌済みのワイヤーポートの栓を戻してカテーテルを密封した。
【0150】
[00164]非線形回帰を用いてED50及びLD50の推定値を計算し、Prism(バージョン4.0a、GraphPad Software,Inc.、San Diego、CA)プログラムを用いて、データをS字形の用量応答関係に当てはめた。このデータは次の等式に当てはまった:
【0151】
【数1】


(式中、Xは濃度の対数であり、Yは応答である)。
【0152】
[00165]DeltaGraph(バージョン5.6.1、SPSS Inc.及びRed Rock Software,Inc.)を用いて、麻酔の持続時間対用量のグラフ(図9)を作成した。
【0153】
結果
[00166]尾静脈注射を用いて実施した一連の予備実験では、麻酔薬エマルションは麻酔を急速に(注射過程中、およそ15秒以内)、且つ、非常に短い持続時間(およそ30秒)にわたって導入することが見出された。回復に際しては、動物が毛繕い又は自分の足若しくは尾を噛むなどの過敏行動の所見が示されることもなく、注射部位の目に見える明らかな炎症所見も一切なかった。注射を終了しておよそ1分以内に、動物は自分のいる環境を探索したり毛繕いしたりする行動に戻っており、不調和、失見当又は残存鎮静の所見はなかった。
【0154】
[00167]急速に開始され、作用の持続時間が極めて短いことから、又、繰り返して動物に注射を行いED50値及びLD50値を確立する必要があることから、本発明者らは、手術により頚静脈中にカテーテルが埋め込まれたラットと、さらなる試験用に麻酔薬エマルションを送達するためのシリンジポンプとを使用した。ED50及びLD50の用量応答曲線を図8に提示する。計算したED50値は体重1kg当りエマルション0.41mL、95%信頼区間は0.37から0.45であった。このED50値は、20%v/vのセボフルランを含有するエマルションを基準にすると、体重1kg当り純セボフルラン0.081mLに相当する。計算したLD50値は体重1kg当り1.05mL、95%信頼区間は1.03から1.07の間であった。このLD50値は、20%v/vのセボフルランエマルションを基準にすると、体重1kg当り純セボフルラン0.21mLに相当する。治療指数(LD50/ED50)を計算すると2.6となった。
【0155】
[00168]正向反射が消失したラットにおいては、1匹を除く全てのラットで、最初の足締付け刺激に対して応答があった(わずかに足を引っ込めることがその印である)。最高用量の0.62mL/kgを注射された1匹のラットは、5秒間隔で与えられた3回の足締付け刺激に対して応答しなかったが、4回目の締付け刺激に対しては確かに応答した。
【0156】
[00169]フルオロポリマー/ペルフルオロカーボンエマルションの効果についてテストするために、麻酔薬を含有しないエマルションを用いることにより対照実験を実施した。この試験では、何らかの麻酔効果、総体的な神経障害又は死亡の所見は一切なかった。全てのラットはその後5日間生きていたが、内容物のセボフルランを放出済みの循環中のエマルションによる急性毒性の所見は認められなかった。
【0157】
[00170]麻酔が導入された時点(導入はボーラス投与の完了前に生じた)は、典型的に開始から17〜20秒時点であった。正向反射の回復前の麻酔の平均持続時間を図9に示す。ED50実験の特性により、いくつかの時点では麻酔のかかったラットが他の時点より多かったが、麻酔が導入された全ての濃度について持続時間を記録した。エラーバーは標準偏差を示すが、ここに含まれるデータ点数は、麻酔が導入されたラットの数に基づいて異なる(2〜5)。
【0158】
[00171]動的光散乱法を用いて、ナノエマルションの安定性を調べた。2カ月の期間にわたり、20%v/vのセボフルラン、10%v/vのペルフルオロオクチルブロミド及び25mg/mLのフルオロポリマーを含有するエマルションは相分離を示さず、粒子サイズは常にサブミクロンの範囲内であった。これに対し、本発明者らは、含フッ素製剤用に使用され10%v/vのセボフルランのみを含有する、同条件下で調製されたIntralipidエマルションが極めて不安定であり、1日以内に完全な相分離が容易に検出されることを見出した。
【0159】
考察
[00172]この実施例は、フルオロポリマー界面活性物質及びペルフルオロカーボンを用いて調製したセボフルランの新規の静脈内用製剤が、エマルションとして安定であること、さらに、静脈内注射後にセボフルランを十分急速に放出することからin vivoにおいて麻酔を導入するために使用できることを実証するものである。脂質製剤中の揮発性麻酔薬の乳化についてはこれまでに示してきた。しかしながら、任意のエマルション製剤が臨床的に有用となるためには、安定に乳化できる体積を現在の脂質製剤から相当増やさなければならない。本試験は、揮発性麻酔薬にリン脂質以外の乳化剤を最初に使用したものである。本発明者らが今回テストしたフルオロポリマーベースのエマルションは、20%v/vのセボフルランを安定に乳化できるが、この量は、30%Intralipid中でのセボフルランの最大溶解量として最近報告された3.46%v/vという値よりほぼ6倍増加している。そのうえ、Intralipid中のセボフルランの濃厚エマルションの不安定性は、ヒト患者においてIntralipidを用いる静脈内送達の臨床的有用性が大きく制限されることを示すものである。これに対し、フルオロ界面活性物質を使用すると、揮発性麻酔薬の安定で濃厚なエマルションを相当に利便性高く使用することが可能になる。
【0160】
[00173]セボフルランエマルションの使用については前に実証済みであるが、この研究では、乳化セボフルランの治療指数の最初の測定値も提示する。本発明者らが計算した値2.6は、乳化イソフルランについて3.2及び3.1、並びにプロポフォールについて3.1、及びチオペンタールについて2.2というこれまでに公表された値にそれなりに十分匹敵するものである。この知見により、セボフルランエマルションはヒト患者において麻酔を導入する有効且つ便利な手段を提供し得ることが示唆される。
【0161】
[00174]LORRのED50に近い用量は、これより高量の場合よりも、時間を短くするために有効であった。全ての事例において、麻酔の開始時間及び正向反射の回復は両方とも、チオペンタール及びプロポフォールなど通常使用されている他の静脈内導入剤と比較して非常に急速であった10。静脈内注射により、麻酔を急速に導入し、又は既にかかっている麻酔を深くすることが可能であることは、その急速な回復プロファイルと組み合わさり、いくつかの状況下で有利となろう。例えば、麻酔の深度を、挿管、切開、又は、それ以外にも神経外科手術用の頭蓋ピンの挿入など短時間ではあるが強烈な刺激が加えられる間の刺激の強度と適合させることにより、より安定な血行動態を実現することが可能と考えられる。
【0162】
[00175]結論として、この実施例は、フルオロポリマーと、ペルフルオロオクチルブロミドなどの含フッ素添加剤との混合物が、20体積%のセボフルラン、すなわち高度に揮発性のフッ化麻酔薬を安定に乳化できることを示す。このことは、少なくとも部分的には、親フルオロ性界面活性物質に対する麻酔薬の親和性が高まっていることによる。このような製剤は、ボーラス投与を用いて麻酔を導入するために使用でき、こうした麻酔からの回復はスムーズ且つ急速である。本発明の製剤のED50測定値とLD50測定値との間で認められる差は、これらのエマルションが臨床用途に適したものであり得ることを支持するものである。
【0163】
実施例4.フッ化界面活性物質により安定化されたセボフルランエマルションにおけるオストワルド熟成
[00176]この実施例では、非イオン性のフッ化界面活性物質と安定化剤とを用いて安定化されたセボフルラン(揮発性麻酔薬として臨床的に使用される、水溶性は中程度で高度にフッ化されたエーテル)のエマルションの物性及び安定性を特徴付ける実験結果を示す。フッ化界面活性物質に対するセボフルランの親和性により、安定に乳化できるセボフルランの量は、水素化エマルションと比較して顕著に増加した。このエマルションは、合体に対しては安定であったがオストワルド熟成を生じやすく、可溶性の低い第2の添加剤のペルフルオロオクチルブロミドを存在させることにより、これを制限した。水溶性がさらに低い添加剤のペルフルオロトリデカンでも熟成を完全に停止させたが、この物質は界面のポリマー層で優先的に吸着されることから、合体も起こさせた。ミセルとして存在する過剰な界面活性物質は、熟成速度に影響しなかった。界面活性物質の極性頭部基のサイズを低下させると、フルオロカーボンブロックは改変されることなく、オストワルド熟成の速度の低下がもたらされることが見出される。
【0164】
導入
[00177]有機分子の物理化学的特性は、高度にフッ化された有機分子が、新しい液状物相(フルオラス相と通常呼ばれる)を生じさせることができる個所にフッ素置換基を導入することにより、大きく影響される。高度にフッ化された化合物は、疎油性及び極度の疎水性という両方の特徴を有し、極性及び非極性の水素化相の両方とは混合しない。一例として、ペルフルオロオクタンは、水中又は炭化水素中のいずれにおいても限定された溶解性のみを呈するが、ペルフルオロ溶媒とは完全に混和する。現代の揮発性麻酔薬であるイソフルラン、デスフルラン及びセボフルランは全て高度にフッ化されており、そのため他の任意の相よりは含フッ素環境を好むはずである。図1に、いくつかの揮発性のフッ化麻酔薬の構造を掲載する。
【0165】
[00178]ハロゲン化された揮発性麻酔薬の静脈内送達は、伝統的な送達方法を改良する可能性があることから、40年超にわたる関心事である。血流中への直接注射は、麻酔薬が肺と平衡に達するのに要する時間を削減し、より急速な麻酔の開始をもたらす。ハロタンをそのままの状態で静脈内に直接送達した最初の事例では、意図したことであるかないかは別として、動物及びヒトの両方において顕著な肺障害及び死を引き起こした。その後の努力により、ハロタン、より最近ではイソフルラン及びセボフルランの送達手段として脂肪エマルションを利用することに成功した。このような例は全て、Intralipid(リン脂質で安定化された市販の大豆油エマルション)を使用したか、又は、乳化剤としてリン脂質を直接使用したかのいずれかであった。
【0166】
[00179]しかしながら、揮発性のフッ化麻酔薬は部分的に親フルオロ性であり、従来のフッ化されていない脂質とうまく混合しない。この特性は、Intralipid中で溶解する麻酔薬の濃度が限られていることから明らかである。Intralipidと比較して、30%v/vのペルフルオロオクチルブロミドを含有するエマルションは、イソフルラン、セボフルラン及びデスフルランの血液:気体の分配係数を増加させたことも示されており、麻酔薬は含フッ素環境を好むという仮説がさらに支持される。
【0167】
[00180]エマルションは、1種の非混和性液体が別の液体内に液滴として分散して成る不均一系である。エマルションは熱力学的に安定ではないが、安定性は、界面活性物質、微細に分割された固形物などといった添加剤により改善できる。水中ペルフルオロカーボンエマルションは、代用血液としての用途について広範に研究されてきた。水素化界面活性物質は一般に使用されているが、フッ化界面活性物質は、ペルフルオロカーボンと水との間の界面張力を顕著に低下させることにより、フッ化化合物を有する安定性の高い水中油(o/w)エマルションを形成することが示されている。
【0168】
[00181]液滴サイズの成長によりエマルションが不安定化する2つの主な機序は、合体及びオストワルド熟成(分子拡散)である。合体は、液滴の不可逆的な衝突、及びそれに次ぐ融合である。放置すれば、最終的な結果は相分離である。オストワルド熟成では、分散相の内容物は連続相中に拡散し、その結果、化学ポテンシャルの差から、大きな液滴がそれより小さい液滴を犠牲にして、連続的により大きく成長する。オストワルド熟成は、水中フルオロカーボンエマルション中における粒子サイズ成長の主要な方式であることが示されている。Lifshitz−Slyozov−Wagner(LSW)理論によれば、オストワルド熟成の速度ωは、以下の等式により表すことができる:
【0169】
【数2】


(式中、rは液滴の半径であり、tは保管時間であり、Dは連続相中の分散相の分子の拡散係数であり、Cは連続相中の分散相のバルク溶解度であり、γは相間の界面張力であり、Mは分散相のモル質量であり、ρは分散相の密度であり、Rは気体定数であり、Tは絶対温度である)。等式1でわかるように、o/wエマルションについては、熟成の速度は油の水溶性に直接関係している。水溶性が6mMであれば、乳化セボフルランは、オストワルド熟成を起こしやすい可能性があると考えられる。
【0170】
[00182]Higuchi及びMisraは、水溶性が低めの第2の成分を加えると熟成を遅らせることができることを示唆した。第2の成分が遅めに拡散することにより、溶解性が低めの成分中に豊富な小さめの液滴と、溶解性が高めの成分中に豊富な大きめの液滴とを有する不均一な分布がもたらされることになる。しかしながら、この内部分離は、浸透圧が液滴間の差を制限するように作用し、最終的には平衡状態に到達すると考えられるため、熱力学的に反するものと考えられる。この原理は、先述のフルオロカーボンエマルションに首尾よく適用されている。
【0171】
[00183]実施例2及び3は、ラットにおいて麻酔を導入することについてこれらのエマルションのin vivoでの有効性を実証するものであり、エマルションの液滴の完全な物理的特徴付けを報告しようとするものである。リン脂質以外の界面活性物質を用いて揮発性麻酔薬を乳化させる最初の例を記載することに加え、本実施例では、乳化された揮発性麻酔薬についてのエマルション安定性についての、広範にわたる初めての物理的特徴付けも提示される。
【0172】
実験部門
ポリマー合成
[00184]乳化剤として使用するため、図10に示した要領で、一連の新規の半フッ化界面活性物質を合成した。この合成は、対応するポリエチレングリコールモノメチルエーテル(mPEG、分子量5000、2000、1100、550)のヒドロキシル官能基を、塩化メタンスルホニルを用いて活性化させることから始める。その結果生じるポリマーのメタンスルホン酸エステルを、次いで1H,1H−ペルフルオロ−1−テトラデカノールに連結させて、68〜78%の範囲の全収率で最終生成物を得る。各ステップでの変換量を定量したが、質量は精製中にいくらか失われた。FXMYというポリマーの命名法は、特定のポリマーがX個の過フッ化炭素原子と平均分子量Y(単位:千g/mol)のモノメチルポリ(エチレングリコール)ブロックとを有することを示すものである。
【0173】
材料
[00185]全ての分子量(平均分子量=5000、2000、1100及び550g/mol)のポリエチレングリコールモノメチルエーテル、塩化メタンスルホニル(99.5%)、トリエチルアミン(99.5%)及び乾燥NaH(95%)をAldrichから購入し、記載の要領で使用した。塩化メチレン(GC Resolv)及びTHF(Optima)をFisher Scientificから購入し、アルミナ入りカラムに通液させることにより乾燥させた。クロロホルム及びメタノールをFisherから購入し、記載の要領で使用した。無水のジエチルエーテルをEMDから購入した。1H,1H−ペルフルオロ−1−テトラデカノールをSynQuest Laboratoriesから購入した。
【0174】
化合物の特徴付け
[00186]19F−NMR及びH−NMRスペクトルを、400MHzで動作するVarian Inova分光計上で得た。生成物の純度定量用のHPLCクロマトグラムは、粒子サイズが5μm、孔サイズが1000ÅのJordi RP−DVBのカラムを用いてGilsonのHPLCシステム上で得てから、Gilson製のprepELS検出器を用いて検出した。溶媒勾配は、MeCN 10%/HO 90%で開始し、20分かけてMeCN 100%に増加させた。流速は1mL/分であった。
【0175】
[00187]ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメシレート 2a。穏やかに加熱しながら、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル 1a(30.67g、6.1mmol)を無水のCHCl(200ml)中で溶解させた。室温に冷却した後、トリエチルアミン(1.7ml、12mmol)と塩化メシル(0.7ml、9mmol)とを加え、反応混合物をアルゴン下で室温にて一晩撹拌した。沈殿した塩を真空濾過により除去し、濾液を回転蒸発により乾燥させた。残った固形物をCHCl中に取り出し、CHCl3、次いで10:1のCHCl:メタノールをシリカゲルに通して精製し、一切の残留塩を除去した。濾液を蒸発により乾燥させ、水中に取り出してから凍結乾燥させると、白色の粉末としてのポリエチレングリコールモノメチルエーテルメシレート 2a(27.4g、90%)を得た。mPEG550、1100及び2000のメシル化については、塩化メシルの添加前にそれらの反応混合物をそれぞれ−78°、−78°及び0℃に冷却したことを除いて同じ手順に従った。H NMR CDCl3 δ 3.09(s,3H)、3.38(s,3H)、3.46〜3.83(m,およそ450H)、4.38(m,2H)
【0176】
[00188]ポリエチレングリコールモノメチルエーテル−ペルフルオロカーボン接合体 3a(F13M5)。穏やかに加熱しながら、メシレート 2a(8.14g、1.6mmol)及び1H,1H−ペルフルオロ−1−テトラデカノール(2.789g、3.98mmol)を無水のTHF(500ml)中で溶解させた。室温に冷却した後、NaH(0.356g、14.8mmol)を加えた。48時間の還流後、HOを滴加することにより反応を停止させた。沈殿した塩を真空濾過により除去してから、蒸発により濾液を乾燥させた。残った固形物をCHCl中に取り出し、10:1のCHCl:メタノールをシリカゲルに通して精製し、一切の残留塩を除去した。濾液を蒸発により乾燥させ、THF(200mL)中に取り出した。ジエチルエーテル(250ml)を加えてから、沈殿が終了するまでこの溶液を4℃の冷蔵庫内で30分間冷却した。真空濾過により固形生成物を収集し、水中で溶解させてから凍結乾燥させると、白色の粉末としての14H,14H−ペルフルオロテトラデカンポリエチレングリコールモノメチルエーテル 3a(F13M5)(7.8g、85%)を得た。mPEG−Ms550、1100及び2000のアルキル化については、同じ手順に従った。H NMR CDCl δ 3.38(s,3H)、3.46〜3.83(m,およそ450H)、4.04(t,J=13.6Hz,2H)19F NMR(CDCl)δ −81.10(t,J=10.5,3F)、−120.13(m,2F)、−122.01(m,16F)、−123.01(m,2F)、−123.79(m,2F)、−126.45(m,2F)。
HPLCによりポリマーの純度を確認し、支援情報中でクロマトグラムを得る。
【0177】
エマルション調製
[00189]典型的な例として、セボフルラン(Abbott Labs、N.Chicago、IL、3.4mL)及びペルフルオロオクチルブロミド(SynQuest Laboratories,Inc.、Alachua、FL、1.7mL)をF13M5(298mg、25mg/mL)の0.9%NaCl水溶液(11.9mL)に加え、総体積を17mLとした。この2相の混合物を低エネルギーのミキサー(Power Gen500、Fisher Scientific、Hampton、NH)を用いて1分間21000rpmで室温にてホモジナイズした。冷却槽を用いて温度を20.0℃に維持しながら、Microfluidizer(型式110S、Microfluidics Corp.、Newton、MA)を用いて粗製エマルションを高圧下でさらにホモジナイズした(5000psi、1分)。この生成エマルションを15mLの滅菌済みの遠心管(Corning Inc.、Corning、NY)に入れ、使用時まで4℃で保管した。必要に応じ、求められる比率(%)の各成分を用いて、全てのエマルションをこれと同じ様式で調製した。Intralipid(20%、Fresenius Kabi、Uppsala、スウェーデン)にセボフルランを加えてから上述の要領でホモジナイズ及び微小流動化することにより、Intralipidエマルションを調製した。
【0178】
粒子のサイズ測定
[00190]サイズを測定する前に、遠心管を反転させることによりエマルションを混合して、凝集又は沈降のいずれかによる不均質性を排除した。2.990mLの0.9%NaClにエマルション10μLを加えることにより、エマルションを300倍に希釈した。サイズ測定は、639nmレーザーを用い、散乱角90°の動的光散乱法(NICOMP380ZLS、Particle Sizing Systems、Santa Barbara、CA)により実施した。各試料を15分間機械にかけ、全ての数字をガウスの加重値として報告する。
【0179】
結果及び考察
[00191]30%Intralipid中で安定に乳化できるセボフルランの最大量が3.46%v/vであることをこれまでに定量した。その定量に使用した実験法により、気体を含有する2.2%セボフルランを、平衡状態に至るまでIntralipidエマルション中に拡散させた。エマルションは熱力学的に不安定であるため、その形成には一般にエネルギーの入力が必要である。エネルギー入力をもたらす、ホモジナイゼーションなどの乳化手順であれば、より多くのセボフルランを安定に乳化させることが可能と考えられる。ホモジナイゼーション及び微小流動化を用いて調製すると、1、2及び5%v/vの濃度のセボフルランは、Intralipidと一緒になって安定なエマルションを形成した(図11を参照)。しかし、10及び20%の濃度のものは、わずか1日後にほぼ完全な相分離を示した。これらの結果により、Intralipid中で乳化できるセボフルランの最大量は、乳化の方法にかかわらず限定されることが確認される。対照的に、半フッ化界面活性物質F13M5を用いただけの系においてはいずれも、最大体積の25%のセボフルランでさえ、相分離の証拠は見られなかった(図12aを参照)。
【0180】
[00192]LSW理論により示されるように、オストワルド熟成を起こすエマルションは、時間の経過に伴い、半径の3乗の直線的な成長を呈することになる。合体が主要な機序であるなら、半径の3乗の変化は時間と共に急激なものとなるはずである。さらに、エマルションの不安定化についての2つの機序のうち、合体は、相分離の直接の原因となる唯一のものである。総体的な相分離の兆候が視覚的に一切観察されないことに加え、直線的な成長速度(図12bを参照)は、合体が起きていることを全く示していない。PEGなどのポリマーによりもたらされる立体層が合体に対するバリアとして有効である可能性があることはこれまでに実証されているため、このことは驚くに当らない。合体が妨げられており、オストワルド熟成が不安定化の主な機序であるなら、その場合は、粒子の成長は、全てのケースにおいて半径の3乗の直線的なものとなろう。このことは図12bにおいて、又、本書類のグラフ全体について当てはまるが、明快にするためには、それに続くグラフを見れば、それらのグラフからは実際のサイズがより容易に理解されるので、時間の経過に伴う直径の変化(直線状ではない)がわかるであろう。
【0181】
[00193]添加剤を有しておらずF13M5により安定化されている20%v/vのセボフルランのエマルションは、目に見える相分離を示さなかったが、このことは、合体が妨げられたことを示唆する。しかしながら、熟成は十分急速だったため、15分間の測定時間内にDLSがサイズの値に収束することは不可能であり、このため、統計的に有意なデータの取得が妨げられた。ペルフルオロオクチルブロミドを添加すると、熟成は十分遅くなり、測定が可能になった。この添加剤を選んだのは、この物質が親フルオロ性、非毒性であり、体内での滞留時間が限られており、市販されているという理由からである。予想できるように、添加剤の量が増えると熟成は遅くなるが、この関係は直線的なものではない(図13を参照)。1、3及び5%の間には顕著な変化があるが、5、7及び10%の間の差異は非常に小さい。このような縮小化の利益の影響は、水中に炭化水素及びフルオロカーボンを有する他のエマルションでこれまでに認められている。2つの成分を有する分散相系の熟成の速度は、以下の等式により表される:18
ω混合=(φ/ω+φ/ω−1 (2)
(式中、φは体積分率を表し、添え字の1及び2は、それぞれ、水溶性が高い方及び低い方の成分を指す。φが大きくなるとき、φが単独で熟成速度を制御するまでφが主要項になる)。
【0182】
[00194]ペルフルオロオクチルブロミドのみの添加では熟成を完全に停止させるには十分でなかったことから、測定値は、ポリマー量を変化させ、他の成分の量を一定にすることで得た。図14は、ポリマー量が0.5〜4.5%w/vの間である場合の出発サイズ及び熟成速度を示すものである。計算上は、平均的な液滴のサイズが減少するにつれ、全体の表面積の量が増加するため、完全に被覆するにはより多くの界面活性物質が必要である。0.5%w/vでの、他より顕著に大きい最初の液滴サイズは、使用できる十分な界面活性物質がなかったことを示唆する。ポリマーが0.5から1.5%w/vに増えると、その結果、出発サイズが550から241nmに急激に減少する。予想されるように、それに次いでポリマーが増加するごとに、出発サイズはさらに減少する結果となる(表1)。しかしながら、最初のサイズを変化させるかどうかにかかわらず、熟成速度はポリマー量の違いに影響されない。図15は、最小量(0.5%w/v)及び最大量のポリマー(4.5%w/v)の場合のグラフについて半径の3乗の変化を示すものであり、明快にするためにそれ以外のものは外してある。その2つの比較において、最良近似直線間の勾配は6%しか変化せず、ポリマー量が9倍増えていることと内在する実験誤差とを考慮すれば、この差は統計的に有意ではない。
【0183】
【表2】

【0184】
[00195]上述のように、体積を一定に保ちポリマー量を変化させることにより、又はポリマー量を一定に保ち乳化した油の体積を変化させることにより、ポリマー量がエマルションの安定性に及ぼす影響を試験できる。後者は、ペルフルオロオクチルブロミドのみのエマルションにおいて、ポリマーを2.5%w/vに固定し、油の体積分率を10、20及び30%の間で変化させて測定した(図16を参照)。時間の経過に伴う実際の液滴サイズ、要するに成長の速度は3つの体積全てについて同じであり、このことは、熟成は体積分率に依存しないことを示唆している。このことから、この系においては、ミセルの形態で存在する過剰な界面活性物質が熟成に影響しないことは明らかである。
【0185】
[00196]過剰な界面活性物質がエマルションの安定性に及ぼす影響に関する文献内には、相反する報告がなされてきた。事例によっては、過剰な界面活性物質がベシクル又はミセルの形態で存在するかどうかによらず、界面活性物質の量が増加するにつれ熟成の速度が増した。そのような影響について引用された正当化理由の1つは、超分子の凝集体(ミセル又はベシクル)は過剰な油を可溶化するための貯蔵部を供給し、これにより水中の油の有効溶解度が増すというものである。等式1でわかるように、溶解度Cが高まるにつれ、熟成の速度も同様に増す。しかしながら、界面活性物質の量が増加するのに従い熟成速度が低下することも同様に報告されている。この事例では、ミセル中の可溶化した油は連続相中に分散していないために、液滴間で同様の物質移動は起こりにくいと述べられている。この主張では、油が連続相からミセル中へ取り込まれるにつれCは低くなり、ひいてはその結果、熟成速度が低下する。さらに別の研究では、ヘキサエチレングリコールドデシルエーテルにより安定化されたアルカンエマルションは界面活性物質の濃度による影響を受けないことが示された。本発明者らの自らの結果は、この後者の研究の結論との方がより一致する。図15、16及び17に示すように、界面活性物質の濃度が増すのに伴う熟成の速度の変化は、統計的に有意ではない。
【0186】
[00197]添加剤を加えることにより熟成は遅くなったが、熟成は実際には永久に妨げられたのでも、顕著に遅延させられたのでもなかった。熟成が、水溶性に直接依存して従来通りに振る舞っていることを確認するために、異なる添加剤間で比較を行った。全ては高度に親フルオロ性であるが、その水溶性が異なる。ペルフルオロヘキサン(FC−72)の水溶性は2.7×10−7mol/L、ペルフルオロオクチルブロミドは5.1×10−9、ペルフルオロデカリンは9.9×10−9である。図17は、熟成における比較を示すものである。予想どおり、水溶性が2桁高いFC−72は、はるかに素早く熟成する。溶解性が同程度のペルフルオロデカリン及びペルフルオロオクチルブロミドは、熟成の仕方も同様である。
【0187】
[00198]Riessは、これまでに、トレハロースのF−アルキル化誘導体は、ペルフルオロオクチルブロミドの熟成を、単独の界面活性物質として許容されるレベルまで遅らせるのに十分であったことを示している。しかしながら、同じペルフルオロカーボンブロックに連結されたマルトースは、ペルフルオロオクチルブロミドを全く乳化できなかった。この結果は、極性頭部基の立体配座がエマルションの安定性において重大な役割を果たす可能性があることを示す。その考えを用い、フルオロカーボンブロックを同じものに維持して、PEG鎖を5000から2000(F13M2)、1100(F13M1)及び550(F13M05)に短くした。F13M05は、他のポリマーより水溶性が顕著に低く、さらなる比較試験は行わなかった。図18は、成分混合物を同じものに維持した場合の、異なるポリマーについての熟成を示すものである。PEG鎖の長さが減少すると、熟成の速度も低下した。ポリマー量が異なる場合の熟成と考え合わせると(図14を参照)、このデータは、各ポリマーの立体的なかさ高さは合体を防止するうえで有効であるものの、それは同時に、十分な量のポリマーが各液滴の周囲を密接に包むことを妨げもすることを示唆する。F13M2及びF13M1におそらく当てはまるように、各個別の鎖間の立体障害が少なめの場合、より密度が高く入り込む余地の少ないポリマーの単層中において、より多くのポリマー分子が各液滴を取り囲むことができ、熟成は遅くなる。
【0188】
[00199]頭部基の構造が熟成を可能にしているのか、又は、熟成は添加剤により専ら媒介されているのかを確認するために、顕著に水溶性が低い添加剤のペルフルオロトリデカン、すなわちn−C1328を試験した。その高い分子量により、体内における許容しがたい長い滞留時間がもたらされ、ひいては、in vivoでの使用を意図したいかなる製剤中でもそれを使用することが不可能になると考えられるが、この添加剤はエマルションの物性を確認するためのプローブとして依然有用であった。いずれも添加剤としてペルフルオロトリデカンを有する、FC−72、ペルフルオロオクチルブロミド及びセボフルランの3種の一次油を調査した。FC−72(図19を参照)及びペルフルオロオクチルブロミド(図20を参照)の両方については、最初の平衡化時間の後でサイズが安定化し、オストワルド熟成は停止したようであった。セボフルラン(図21を参照)については、最初の平衡化が見られずサイズは最初から一定であったことから、結果はさらに有望なものであった。エマルションの液滴はサイズに変化はなかったが、6日目に相分離がはっきり視認された。
【0189】
[00200]図22に、安定化添加剤の量の関数としての熟成を示すプロット図を提示する。図22Aは、体積パーセントが1%から10%の範囲のペルフルオロオクチルブロミド(pfob)について、時間の関数としての液滴直径のプロット図を示すものである。図22bは、添加剤の量の関数としての熟成速度のプロット図を示すものである。これらの実験では、エマルションは20体積%のセボフルラン及び1.5重量/体積%の半フッ化ブロックコポリマー界面活性物質F13M5を含有する。
【0190】
[00201]既に述べたように、合体は、相分離をもたらす可能性がある唯一の機序であり、ポリマー安定化剤は合体を防止するのに一般的には十分である。ペルフルオロトリデカンと合わせたセボフルランは、試験した他のエマルションと同じポリマー安定化剤を有していたが、合体を示す唯一の系であった。このことは、おそらくはF13M5のペルフルオロカーボンブロック間にペルフルオロトリデカンが挿入されたことにより、ポリマーの単層が改変されたことを示唆する。そのため、より高含量のペルフルオロトリデカンを有する液滴があったとすれば、単層中の、より少量のF13M5は合体を防止するには不十分である可能性がある。興味深いことに、5日目を過ぎるといくらか相分離が起きたものの、試料は3カ月後であっても全体的な相分離は一切示さなかった。
【0191】
[00202]F13M5のペルフルオロカーボンブロック間にペルフルオロトリデカンが挿入されたことがセボフルランに相分離が起きた理由であるとすれば、FC−72及びペルフルオロオクチルブロミドのいずれのエマルションも安定化させる添加剤としてペルフルオロトリデカンを使用した際にも同じ作用が起きると考えられよう。しかしながら、後者のいずれの系も合体を示さないことから、これは当てはまらない。エマルションの安定性における差は、おそらく、3種のフッ化された化合物中におけるペルフルオロトリデカンの溶解性が異なることによる。セボフルラン中におけるペルフルオロトリデカンの最大溶解度はわずか78mg/mLであるが、ペルフルオロトリデカンは、FC−72及びペルフルオロオクチルブロミドの両方と非常によく混和する。セボフルラン中のペルフルオロトリデカンの溶解性が限られていることにより、液滴の中心においてではなく界面で、ペルフルオロトリデカンの優先的な吸着が生じたようである。他の溶媒中におけるペルフルオロトリデカンの溶解性はこれより高いため、ペルフルオロトリデカンは液滴の中心に、より容易に存在することができ、第2の油性添加剤として真に作用することができた。
【0192】
結論
[00203]半フッ化界面活性物質は、フルオラス相中の麻酔薬のより高い溶解性を十分に引き出すことにより、相当な量のセボフルラン(最大25%v/v)の乳化を可能にした。このことは、従来の脂質エマルション(Intralipid)中で乳化できるセボフルランの最大量を上回る顕著な改良であり、そうした製剤を潜在的な臨床開発にとって有望なものとする。合体及び最終的な相分離の証拠は一切なかったが、セボフルラン/フルオロポリマーエマルションはオストワルド熟成を起こしやすかった。第2の成分としてペルフルオロオクチルブロミドを加えると、熟成は実際に遅くなった。極性頭部基のサイズ、並びに界面のポリマー層の改変を両方とも低下させると、より大きな安定性をもたらすことができることが実証された。
【0193】
参照による組込み及び変形に関する記載
[00204]本出願を通じた全ての参考文献、例えば、発行済み若しくは交付済みの特許又はそれに相当するものなどの特許文書;特許出願公報;未公開の特許出願書類;及び、非特許文献文書、或いは情報源としての他の資料などは、参照により個別に組み込まれるのと同様に、参照によりその全体が、各参考文献が本出願における開示と少なくとも部分的に矛盾しない範囲で本明細書に組み込まれる(例えば、部分的に矛盾する参考文献は、当該参考文献の部分的に矛盾する部分を除き、参照により組み込まれる)。
[00205]本明細書への一切の添付物又は複数添付物は、本明細書及び/又は図面の一部として、参照により組み込まれる。
【0194】
[00206]「を含む(comprise)」、「を含む(comprises)」、「を含んだ(comprised)」、又は「を含む(comprising)」という用語が本明細書中で使用される場合、それらの用語は、記載された特徴、整数、ステップ若しくは言及された成分の存在を特定はするが、1つ又は複数の他の特徴、整数、ステップ、成分若しくはそれらの群の存在又は追加を妨げないものとして解釈されたい。本発明の別々の実施形態も包含されることを意図しているが、その場合、「を含む(comprising)」又は「を含む(comprise(s))」又は「を含んだ(comprised)」という用語は、文法上類似した用語、例えば、それにより必ずしも同様の広がりをもたないさらなる実施形態を説明するための「を構成する(consisting/consist(s))」又は「から本質的に成る(consisting essentially of/consist(s)essentially of)」などの用語と場合により置き換わる。
【0195】
[00207]本発明を、特定で好ましい多様な実施形態及び手法に関して記載してきた。しかしながら、本発明の精神及び範囲内に留まりながら多くの変形及び改変が成され得ることは理解されるべきである。本明細書中に具体的に記載したもの以外の組成物、方法、装置、装置要素、材料、手順及び手法は、過度の実験を用いなくても、本明細書中で広く開示されたものとして本発明の実施に適用できることは、当業者には自明であろう。本明細書に記載の組成物、方法、装置、装置要素、材料、手順及び手法の、当技術分野で知られている機能上の同等物は全て、本発明により包含されることを意図するものである。ある範囲を開示する場合は常に、別々に記載する場合と同様、全ての下位範囲及び個々の値が包含されることを意図している。本発明は、限定ではなく例又は例示の目的で載せてある、図面中に示し又は明細書中に例示する一切のものを含め、開示した実施形態により限定されるべきではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によってのみ限定されるものとする。
【0196】
[00208]薬学上許容される塩は、薬学上許容される陰イオン及び/又は陽イオンを含む。薬学上許容される陽イオンとしては、中でも、アルカリ金属陽イオン(例えば、Li、Na、K)、アルカリ土類金属陽イオン(例えば、Ca2+、Mg2+)、非毒性の重金属陽イオン及びアンモニウム(NH)及び置換アンモニウム(N(R’)、式中、R’は、水素、アルキル又は置換アルキルである、すなわち、メチル、エチル又はヒドロキシエチル、とりわけ、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム及びトリエタノールアンモニウムの陽イオンなど)が挙げられる。薬学上許容される陰イオンとしては、中でも、ハロゲン化物イオン(例えば、Cl、Br)、硫酸イオン、酢酸イオン(例えば、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン)、アスコルビン酸イオン、アスパラギン酸イオン、安息香酸イオン、クエン酸イオン及び乳酸イオンが挙げられる。
【0197】
[00209]本発明の化合物は、1つ又は複数のキラル中心を有してよい。したがって本発明は、ラセミ混合物、ジアステレオマー、エナンチオマー、及び、1種又は複数種の立体異性体に富む混合物を包含することを意図している。記載した、及び特許請求した本発明の範囲は、当該化合物のラセミ体、並びにその個々のエナンチオマー及び非ラセミ混合物を包含する。
【0198】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液と、
親水性ブロック及び親フルオロ性ブロックを有する半フッ化ブロックコポリマーと、
治療用フッ化化合物と、
安定化添加剤と
を含む治療用製剤。
【請求項2】
前記親フルオロ性ブロックがフッ化アルキル鎖である、請求項1に記載の治療用製剤。
【請求項3】
前記親フルオロ性ブロックが、炭素長が6から16の過フッ化アルキル鎖である、請求項1に記載の治療用製剤。
【請求項4】
前記親水性ブロックが、多酸素化ブロックを含む、請求項1に記載の治療用製剤。
【請求項5】
前記親水性ブロックが、500g/molから12,000g/molの範囲にわたって選択される分子量を有するポリ(エチレングリコール)ブロックである、請求項1に記載の治療用製剤。
【請求項6】
前記半フッ化ブロックコポリマーが、化学式:
2m+1−L−(−CHCH−O−)−R
(FX1)
(式中、mは5から25の範囲から選択され、
nは10から270の範囲から選択され、
は連結基であり、
式中、Rは、水素、メチル基、置換された若しくは置換されていないアルコキシ基、置換された若しくは置換されていないアルキル基、置換された若しくは置換されていないアリール基、置換された若しくは置換されていないアルケニル、又は置換された若しくは置換されていないアルキニル基である)
を有する、請求項1に記載の治療用製剤。
【請求項7】
前記連結基(L)がC1〜10アルキル基である、請求項6に記載の治療用製剤。
【請求項8】
前記半フッ化ブロックコポリマーが、化学式:
2m+1−(CH−O−(−CHCH−O−)−R
(FX2)又は
2m+1−O−(−CHCH−O−)−R
(FX3)
(式中、mは5から25の範囲から選択され、
nは10〜270の範囲から選択され、
pは1〜10の範囲から選択され、
式中、Rは、水素、メチル基、置換された若しくは置換されていないアルコキシ基、置換された若しくは置換されていないアルキル基、置換された若しくは置換されていないアリール基、置換された若しくは置換されていないアルケニル、又は置換された若しくは置換されていないアルキニル基である)
を有する、請求項1に記載の治療用製剤。
【請求項9】
前記治療用フッ化化合物が麻酔薬である、請求項1に記載の治療用製剤。
【請求項10】
前記治療用フッ化化合物が、セボフルラン、イソフルラン、デスフルラン、エンフルラン及びメトキシフルランからなる群から選択される、請求項1に記載の治療用製剤。
【請求項11】
前記安定化添加剤が過ハロゲン化フルオロカーボンである、請求項1に記載の治療用製剤。
【請求項12】
前記過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤が12から25個の間の炭素−フッ素結合を有する、請求項11に記載の治療用製剤。
【請求項13】
前記過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤の水中での溶解度が20ナノモル以下である、請求項11に記載の治療用製剤。
【請求項14】
前記過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤が、460amuから520amuの範囲にわたって選択される分子量を有する、請求項11に記載の治療用製剤。
【請求項15】
前記過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤が、ペルフルオロカーボン、臭素置換ペルフルオロカーボン、塩素置換ペルフルオロカーボン、並びに臭素及び塩素で置換されたペルフルオロカーボンからなる群から選択される、請求項11に記載の治療用製剤。
【請求項16】
前記過ハロゲン化フルオロカーボンが、ペルフルオロオクチルブロミド、ペルフルオロノニルブロミド、ペルフルオロデシルブロミド、ペルフルオロデカリン、ペルフルオロジクロロオクタン、並びにビスペルフルオロブチルエチレン及びペルフルオロ(メチルデカリン)からなる群から選択される、請求項11に記載の治療用製剤。
【請求項17】
1種又は複数種の追加のフルオロカーボン安定化添加剤をさらに含む、請求項1に記載の治療用製剤。
【請求項18】
請求項1に記載の治療用製剤であって、
前記治療用フッ化化合物が前記治療用製剤の5体積%から25体積%であり、前記安定化添加剤が過ハロゲン化安定化添加剤であって前記治療用製剤の1体積%から20体積%であり、並びに、前記半フッ化ブロックコポリマーが1mg/mlから45mg/mlの範囲にわたって選択された濃度を有する治療用製剤。
【請求項19】
前記水溶液を含む連続相と、
前記半フッ化ブロックコポリマー及び前記治療用フッ化化合物を含む分散相と
を含む治療用エマルションを含む、請求項1に記載の治療用製剤。
【請求項20】
前記分散相が前記安定化添加剤をさらに含む、請求項19に記載の治療用製剤。
【請求項21】
前記分散相が、前記連続相中に分散した複数の液滴を含む、請求項20に記載の治療用製剤。
【請求項22】
前記液滴が1000ナノメートル以下の平均直径を有する、請求項21に記載の治療用製剤。
【請求項23】
前記液滴が400ナノメートル以下の平均直径を有する、請求項21に記載の治療用製剤。
【請求項24】
前記連続相中に分散した前記液滴が、自己集合した超分子構造を含む、請求項21に記載の治療用製剤。
【請求項25】
前記超分子構造が前記治療用フッ化化合物の含フッ素内部コアを含み、前記含フッ素内部コアが前記半フッ化ブロックコポリマーにより封入された治療用フッ化化合物の液滴を含む、請求項24に記載の治療用製剤。
【請求項26】
前記半フッ化ブロックコポリマーの前記親フルオロ性ブロックが前記粒子の前記含フッ素内部コアに近接して配向し、前記親水性ブロックが前記粒子の前記含フッ素内部コアの遠位に配向する、請求項25に記載の治療用製剤。
【請求項27】
前記治療用フッ化化合物の液滴が100nmから1ミクロンの範囲の平均直径を有する、請求項25に記載の治療用製剤。
【請求項28】
ナノエマルションを含む、請求項19に記載の治療用製剤。
【請求項29】
前記治療用フッ化化合物が、前記治療用エマルションの5体積%から50体積%である、請求項19に記載の治療用製剤。
【請求項30】
前記治療用フッ化化合物が、前記治療用エマルションの5体積%超である、請求項19に記載の治療用製剤。
【請求項31】
前記治療用エマルションが、静脈内注射による患者への投与が可能である、請求項19に記載の治療用製剤。
【請求項32】
治療用フッ化化合物を患者に投与する方法であって、
水溶液と、親水性ブロック及び親フルオロ性ブロックを有する半フッ化ブロックコポリマーと、治療用フッ化化合物と、安定化添加剤とを含む治療用製剤を供給するステップ、
前記治療用製剤を乳化させることにより治療用エマルションを作製するステップ、並びに
前記治療用エマルションを前記患者に送達するステップ
を含む方法。
【請求項33】
前記安定化添加剤が過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記治療用エマルションが静脈内注射により前記患者に送達される、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
1mlから100mlの範囲にわたって選択された一定体積の治療用エマルションが前記患者に送達される、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
前記治療用エマルションが、0.1ml/分から5ml/分の範囲にわたって選択された速度で前記患者に送達される、請求項32に記載の方法。
【請求項37】
前記治療用製剤を乳化する前記ステップが、
前記半フッ化ブロックコポリマーを中に有する前記水溶液に前記治療用フッ化化合物と前記安定化添加剤とを加えることにより、治療用混合物を生じさせるステップ、及び
前記治療用混合物をホモジナイズすることにより、前記治療用エマルションを生じさせるステップ
を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項38】
前記治療用混合物をホモジナイズする前記ステップの間に前記治療用混合物の温度を下げるステップをさらに含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記治療用混合物をホモジナイズする前記ステップが、より低エネルギーのミキサー、マイクロフルイダイザー、又は、より低エネルギーのミキサー及びマイクロフルイダイザーの両方を用いて実施される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記治療用フッ化化合物が前記治療用製剤の体積の5%から30%であり、前記安定化添加剤が過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤であって前記治療用製剤の体積の1%から20%であり、前記半フッ化ブロックコポリマーが、1mg/mlから45mg/mlの範囲にわたって選択された濃度を有する、請求項32に記載の方法。
【請求項41】
前記治療用フッ化化合物が前記治療用エマルションの5体積%超である、請求項32に記載の方法。
【請求項42】
前記治療用エマルションがナノエマルションを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項43】
前記治療用フッ化化合物が、セボフルラン、イソフルラン、デスフルラン、エンフルラン及びメトキシフルランからなる群から選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項44】
治療用フッ化化合物を含有する治療用エマルションを作製する方法であって、
水溶液と、親水性ブロック及び親フルオロ性ブロックを有する半フッ化ブロックコポリマーと、治療用フッ化化合物と、過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤とを含む治療用製剤を供給するステップ、並びに
前記治療用製剤を乳化させることにより、前記治療用エマルションを作製するステップ
を含む方法。
【請求項45】
前記治療用製剤を乳化させる前記ステップが、
前記半フッ化ブロックコポリマーを中に有する前記水溶液に前記治療用フッ化化合物と前記過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤とを加えることにより、治療用混合物を生じさせるステップ、及び
前記治療用混合物をホモジナイズすることにより、前記治療用エマルションを生じさせるステップ
を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記治療用混合物をホモジナイズする前記ステップの間に前記治療用混合物の温度を下げるステップをさらに含む、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記治療用混合物をホモジナイズする前記ステップが、より低エネルギーのミキサー、マイクロフルイダイザー、又は、より低エネルギーのミキサー及びマイクロフルイダイザーの両方を用いて実施される、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
治療用フッ化化合物を含有する治療用エマルションを安定化させる方法であって、
水溶液と、親水性ブロック及び親フルオロ性ブロックを有する半フッ化ブロックコポリマーと、治療用フッ化化合物とを含む治療用製剤を供給するステップ、
前記治療用製剤に過ハロゲン化フルオロカーボン安定化添加剤を加えるステップ、並びに
前記治療用製剤を乳化させることにより、前記治療用エマルションを安定化させるステップ
を含む方法。




【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−511061(P2010−511061A)
【公表日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539451(P2009−539451)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【国際出願番号】PCT/US2007/085710
【国際公開番号】WO2008/070490
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(507164412)ウィスコンシン・アラムナイ・リサーチ・ファウンデーション (4)
【氏名又は名称原語表記】WISCONSIN ALUMNI RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】