説明

揮発性成分を含むゲル組成物

【課題】ポリビニルラクタム類及びポリアルキレンイミン類からなるゲルの新たな用途を提供する。
【解決手段】ポリビニルラクタム類及びポリアルキレンイミン類からなるゲルに少なくとも1種の揮発性成分を担持させてなるゲル組成物、特に芳香剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性成分を含むゲル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
香料等の揮発性成分は揮発・蒸散により消失するため、効果が持続しにくい。特許文献1には、ポリビニルピロリドン等のポリビニルラクタム類は、水溶液中でポリエチレンイミンによって架橋化され、ゲル化し、得られたゲル組成物は、水不溶性であり、皮膚接着性及び導電性を有することが記載されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1は、前記ゲル組成物の揮発性成分に対する作用については何ら言及していない。
【特許文献1】国際公開第01/53359号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ポリビニルラクタム類及びポリアルキレンイミン類からなるゲルの新たな用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)ポリビニルラクタム類及びポリアルキレンイミン類からなるゲルに少なくとも1種の揮発性成分を担持させてなるゲル組成物。
(2)ポリビニルラクタム類、ポリアルキレンイミン類及び揮発性成分を水の存在下で混合して得られる前記(1)に記載のゲル組成物。
(3)ポリビニルラクタム類又はその水溶液と、ポリアルキレンイミン類又はその水溶液と、揮発性成分とを混合して得られる前記(2)に記載の組成物。
(4)ポリビニルラクタム類のK値が5〜100である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)ポリビニルラクタム類とポリアルキレンイミン類との質量比が50:1〜1:50である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の組成物。
(6)ポリビニルラクタム類及びポリアルキレンイミン類の合計量と水との質量比が10:1〜1:100である前記(2)〜(5)のいずれかに記載の組成物。
(7)ポリビニルラクタム類がポリビニルピロリドンである前記(1)〜(6)のいずれかに記載の組成物。
(8)ポリアルキレンイミン類がポリエチレンイミンである前記(1)〜(7)のいずれかに記載の組成物。
(9)ポリアルキレンイミン類の平均質量分子量が500〜100,000である前記(1)〜(8)のいずれかに記載の組成物。
(10)揮発性成分が香料である前記(1)〜(9)のいずれかに記載の組成物。
(11)芳香剤である前記(10)に記載の組成物。
(12)ポリビニルラクタム類又はその水溶液と、ポリアルキレンイミン類又はその水溶液と、少なくとも1種の香料とを容器中で混合して得られる芳香器。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、揮発性成分の効果の持続時間を延長することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に用いるポリビニルラクタム類とは、N−ビニルラクタムをモノマー原料の主成分とする重合体をいう。モノマー原料の主成分となるN−ビニルラクタムとしては、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−5−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピペリドン、N−ビニル−6−メチル−2−ピペリドン、N−ビニル−ε−カプロラクタム、N−ビニル−7−メチル−ε−カプロラクタムが挙げられる。これらの1種類又は2種類以上を混合して用いることができる。中でもN−ビニル−2−ピロリドンが好ましい。
【0008】
ポリビニルラクタム類の原料となるモノマーとしてN−ビニルラクタム以外のモノマーも含まれていてよく、具体的には酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリル、アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルエステル共重合体、ビニルイミダゾール、1−ブテンや1−ドデセンや1−ヘキサデセンや1−エイコセンや1−トリアコンテン等のα−オレフィン、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルエステル及びその4級塩やN,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド及びその4級塩等のアミノ基(及びその4級塩)含有不飽和モノマー等が使用可能であり、これらの1種類又は2種類以上を混合して用いることができる。これらのN−ビニルラクタム以外のモノマーの使用量はN−ビニルラクタムに対して、モル比で、好ましくは1.0以下、更に好ましくは0.5以下、最も好ましくは0.2以下である。
【0009】
本発明において、ポリビニルラクタム類は、重合の容易性及び取扱いの容易性の点で、ホモポリマーの場合には、K値が5〜100であることが好ましく、8〜85であることが更に好ましく、10〜60であることが最も好ましく、コポリマーの場合には、平均質量分子量が1000〜500万であることが好ましく、1万〜300万であることが更に好ましく、3万〜200万であることが最も好ましい。
【0010】
ポリビニルラクタム類のK値は、分子量と相関する粘性特性値であり、ポリビニルラクタム類を水に1質量%の濃度で溶解させ、その溶液の粘度を25℃において毛細管粘度計によって測定し、この測定値を用いて次のフィケンチャー(Fikentscher)の式:
(logηrel)/C=〔(75Ko)/(1+1.5KoC)〕+Ko
K=1000Ko
(但し、Cは、溶液100ml中のポリビニルラクタム類のg数を示し、ηrelは、水に対する溶液の相対粘度を示す。)
から計算することができ、K値が高いほど、分子量が高いといえる。
【0011】
K値が5〜100であるポリビニルラクタム類は、過酸化水素等の開始剤を用いて重合することにより製造することができる。
【0012】
一方、メチル基やブチル基、フェニル基等を末端に有する開始剤、例えば、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)に代表されるアゾ系の開始剤等を用いると、ポリマー末端が開始剤末端、即ち前記のメチル基やブチル基、フェニル基等になるため、ポリアルキレンイミン類のアミノ基と作用せず、ゲル組成物が生じない。
【0013】
また、K値が5〜100であるポリビニルラクタム類としては、例えば、(株)日本触媒製のポリビニルピロリドンK−30(K値:30)等の粉体製品;(株)日本触媒製のポリビニルピロリドンK−30W(K値:30)等の水溶液製品が市販されているので、これらを用いることができる。
【0014】
ポリビニルラクタム類の平均質量分子量は、ポリスチレンを標準物質としてGPCで測定することができる。
【0015】
本発明に用いるポリアルキレンイミン類としては、エチレンイミン、プロピレンイミン、1,2−ブチレンイミン、2,3−ブチレンイミン、1,1−ジメチルエチレンイミン等を常法により重合して得られる単独重合体の他、前記アルキレンイミンの2種以上を混合して得られる、例えば、エチレンイミンとプロピレンイミンとの混合物からなる共重合体を用いることができる。これらの中でも、ポリエチレンイミンを用いることが好ましい。
【0016】
前記ポリアルキレンイミン類は、分岐状のものであってもよい。分岐状ポリアルキレンイミン類の場合、その中に存在する第一アミン、第二アミン、及び第三アミンのうち、第三アミンの割合が1〜50モル%であることが好ましく、5〜45モル%であることが更に好ましく、10〜40モル%であることが更に好ましい。分岐状ポリアルキレンイミン類中に存在する第三アミンの割合は、NMR分析等により測定することができる。
【0017】
前記ポリアルキレンイミン類の平均質量分子量は、取扱いの容易さ、及び安全性の点で、500〜100,000であることが好ましく、1,000〜90,000であることが更に好ましく、5,000〜80,000であることが最も好ましい。
【0018】
平均質量分子量が500〜100,000であるポリアルキレンイミン類としては、例えば、(株)日本触媒製のエポミンTMP−1000(平均質量分子量:約70,000)、エポミンTMSP−200(平均質量分子量:約10,000)、エポミンTMSP−018(平均質量分子量:約1,800)、エポミンTMSP−012(平均質量分子量:約1,200)、エポミンTMSP−006(平均質量分子量:約600)が市販されているので、これらを用いることができる。
【0019】
ポリビニルラクタム類とポリアルキレンイミン類との質量比は、ゲル化のしやすさ点で、50:1〜1:50であることが好ましく、30:1〜1:30であることが更に好ましく、10:1〜1:10であることが最も好ましい。
【0020】
本発明に用いる揮発性成分としては、特に制限はないが、好ましくは揮発性有機成分、例えば、各種の香料、精油及びこれらの組成物を構成する各成分のほか、揮発して芳香を発するもの、消臭作用のあるもの、抗菌・抗カビ作用のあるものなどが挙げられる。
【0021】
揮発性成分としては、例えば、α−ピネン、β−ピネン、ミルセン、リモネン、1,8−シネオールなどのテルペン系炭化水素、アミルアセテート、アミルプロピオネート、プレニルアセテート、ヘキシルアセテート、シス−3−ヘキシルアセテート、アリルカプロエート、テトラヒドロリナリルアセテート、エチルカプロエート、エチルブチレート、エチルアセトアセテート、アリルイソアミルオキシアセテートなどのエステル類、炭素数6〜13の脂肪族アルデヒド、ベンズアルデヒド、2,4−ジメチル−3−シクロヘキセン−1−カルボキシアルデヒドのようなアルデヒド類、レモン油、オレンジ油、ライム油、ユーカリ油、ヒノキ油、ヒバ油、パイン油、ベルガモット油、ペパーミント油、テレピン油、ホー油、ラベンダー油、ジャスミン油、バニラなどの精油を挙げることができる。また、ローズ、スイトピー、キンモクセイ、レモン、ライム、ジャスミン、ハーブ、アップル、ミント、森の香り、こちょうらんなどの香料を挙げることができる。ここで、揮発性成分の素材の選択は必要とする香りの種類や質、用途などで適宜選択される。
【0022】
揮発性成分の配合量は、必要に応じて適宜選定されるが、ポリビニルラクタム類及びポリアルキレンイミン類の合計量100質量部に対して、0.1〜20質量部であることが好ましく、0.5〜10質量部であることが更に好ましい。
【0023】
本発明の組成物には、ポリビニルラクタム類、ポリアルキレンイミン類及び揮発性成分のほかに、他の成分、例えば染料、顔料、紫外線吸収剤、消臭剤、抗カビ剤、抗菌剤、香料揮散助剤、酸化防止剤、防腐剤、キレート剤、消臭成分を本発明の目的を損なわない範囲で配合することができるが、このような他の成分の配合量の合計は、ポリビニルラクタム類及びポリアルキレンイミン類の合計量100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることが更に好ましい。
【0024】
本発明の組成物は、ポリビニルラクタム類又はその水溶液と、ポリアルキレンイミン類又はその水溶液と、揮発性成分と、必要に応じて更に水及び/又は他の成分とを混合することにより得ることができる。通常、ポリアルキレンイミン類又はその水溶液に、揮発性成分と必要に応じて他の成分を混合し均一にした後、ポリビニルラクタム類又はその水溶液を添加、混合することによりゲル化される。
【0025】
通常、室温で静置すれば10分以内にゲル化するが、ゲル化時間が遅い場合には適宜振盪を続けることでゲル化を促進させてもよい。
【0026】
ポリビニルラクタム類及びポリアルキレンイミン類の合計量と水との質量比は、ゲル体が一定の形状を保持するための強度の点で、10:1〜1:100であることが好ましく、5:1〜1:50であることが更に好ましい。
【0027】
本発明のゲル組成物は、水不溶性であり、通常、水分を含有するものであり、ゲル体を維持しうる範囲であれば、乾燥により水分含量を調整してもよい。
【0028】
揮発性成分として香料を含有する本発明の組成物は、芳香剤として用いることができる。また、ポリビニルラクタム類又はその水溶液と、ポリアルキレンイミン類又はその水溶液と、少なくとも1種の香料とを容器中で混合して、そのまま芳香器として製品化することもできる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
以下において、各物性値は次のようにして求めた。
(K値の測定)
ポリビニルラクタム類を水に1質量%の濃度で溶解させ、その溶液の粘度を25℃において毛細管粘度計によって測定し、この測定値を用いて次のフィケンチャー(Fikentscher)の式:
(logηrel)/C=〔(75Ko)/(1+1.5KoC)〕+Ko
K=1000Ko
(但し、Cは、溶液100ml中のポリビニルラクタム類のg数を示し、ηrelは、水に対する溶液の相対粘度を示す。)
から計算した。
【0031】
(ポリエチレンイミンの平均質量分子量)
プルランを標準物質としてGPCで測定した。
【0032】
(実施例1及び比較例1)
(株)日本触媒製のエポミンTMP−1000(ポリエチレンイミン(平均質量分子量:約70,000)の30質量%水溶液製品)はそのまま用いた。
【0033】
(株)日本触媒製のポリビニルピロリドンK−30W(K値:30;30質量%水溶液製品)は水で3倍に希釈してポリビニルピロリドンの10質量%水溶液として用いた。
【0034】
100mlのポリ容器に、(株)日本触媒製のエポミンTMP−1000(ポリエチレンイミン(平均質量分子量:約70,000)の30質量%水溶液製品)50g及び香料(ブルガリ製香水;ブルガリ プール オム(BVLGARI pour Homme))1.5gを添加し、前記ポリビニルピロリドンの10質量%水溶液50gを加えて混合し、密閉した後、30秒でゲル化させて、芳香剤ゲルを得た。
【0035】
対照として、イオン交換水100gに前記香料1.5gを添加したもの(比較例1)を準備した。
【0036】
前記芳香剤ゲル(実施例1)及び香料溶液(比較例1)を25℃で20分間放置した後、芳香の強弱について4名のパネラーによって官能的に5段階評価した。芳香が強い場合を5点とし、芳香が薄れるに従って1点ずつ減点した。パネラー4名の平均点を評価結果とし、1ヶ月の経日試験結果を表1に示した。
【0037】
【表1】

表1に示された結果から、本発明のゲル組成物は芳香の保持能力を有し、芳香剤ゲルとして好適であることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルラクタム類及びポリアルキレンイミン類からなるゲルに少なくとも1種の揮発性成分を担持させてなるゲル組成物。
【請求項2】
ポリビニルラクタム類、ポリアルキレンイミン類及び揮発性成分を水の存在下で混合して得られる請求項1記載のゲル組成物。
【請求項3】
ポリビニルラクタム類又はその水溶液と、ポリアルキレンイミン類又はその水溶液と、揮発性成分とを混合して得られる請求項2記載の組成物。
【請求項4】
ポリビニルラクタム類のK値が5〜100である請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
ポリビニルラクタム類とポリアルキレンイミン類との質量比が50:1〜1:50である請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
ポリビニルラクタム類及びポリアルキレンイミン類の合計量と水との質量比が10:1〜1:100である請求項2〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
ポリビニルラクタム類がポリビニルピロリドンである請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
ポリアルキレンイミン類がポリエチレンイミンである請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
ポリアルキレンイミン類の平均質量分子量が500〜100,000である請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
揮発性成分が香料である請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
芳香剤である請求項10記載の組成物。
【請求項12】
ポリビニルラクタム類又はその水溶液と、ポリアルキレンイミン類又はその水溶液と、少なくとも1種の香料とを容器中で混合して得られる芳香器。

【公開番号】特開2008−63481(P2008−63481A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−243947(P2006−243947)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】