説明

損傷評価装置及び損傷評価方法

【課題】実際の金属部材を用いた実験を繰り返し実行することなく、任意の条件下における損傷発生の有無を評価することを可能とすること。
【解決手段】構造データと、温度データと、材料データと、解析条件と、に基づいて、摩擦圧接される構造物について有限要素法を用いた非定常熱伝導解析及び弾塑性解析を行うことによって、各経過時間の各要素における温度及び応力を算出し、各経過時間の各要素について、FEM解析によって算出された応力が、当該経過時間の当該要素の温度に対応する引張強度よりも大きいか否か判定し、応力が引張強度よりも大きい場合には当該要素において損傷が生じると評価し、応力が引張強度よりも小さい場合には当該要素において損傷が生じないと評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物が損傷を生じるか否かについての評価、特に摩擦圧接された構造物がその後の経過において損傷を生じるか否かについての評価を行う損傷評価装置及び損傷評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、航空エンジンのシャフトの製造などにおいて、金属部材と金属部材とを接合する方法として摩擦圧接が用いられている。摩擦圧接とは、摩擦熱によって金属部材同士を接合する溶接法の一種であり、異種金属同士や非鉄金属を接合することができるなどのメリットがある。
【0003】
摩擦圧接では、接合させる金属部材の接合面同士を回転させて摩擦力による摩擦熱を発生させるため、接合面付近は非常に高温となる。金属は温度が高温になるにしたがって強度が低下する。また、摩擦圧接では、圧力をかけて接合させる金属部材同士を圧迫するため、接合面付近には押しつけ応力が生じる。そのため、高温になって強度が低下した結果、押しつけ応力によって金属部材に割れなどの損傷が発生する場合がある。
【0004】
従来は、このような損傷が生じないような摩擦圧接のパラメータ(回転数、押しつけ力、接合面の表面状態など)を調べるために、様々なパラメータで実際の金属部材を用いた実験を繰り返し行い、損傷が発生しないパラメータを探していた。
【0005】
なお、上述した航空エンジンなどの構造物についての解析シミュレーション技術は従来から提案されている。例えば、航空エンジン等のシャフトの衝撃荷重のシミュレーションを行うための技術や(特許文献1参照)、摩擦圧接の接合面において生じる溶解した金属の漏出のシミュレーションを行うための技術(非特許文献1参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−322816号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Machine Design International, 2005年, Vol.77, No.1, pp68-70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
摩擦圧接にて接合されるシャフトなどの部材には、近年の軽量化の要求に伴い強度の高い高コストの金属が用いられてきている。そのため、摩擦圧接のパラメータを決定するために実際の金属を用いた実験を繰り返し行うとコストが高くなってしまう。
【0009】
上記事情に鑑み、本発明は、実際の金属部材を用いた実験を繰り返し実行することなく、任意の条件下における損傷発生の有無を評価することを可能とする損傷評価装置及び損傷評価方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]上記の課題を解決するため、本発明の一態様による損傷評価装置は、評価対象となる摩擦圧接される構造物の構造データを記憶する構造データ記憶部と、前記構造物の温度分布を表し、少なくとも前記構造物が摩擦圧接されることによって生じる摩擦熱に関する温度分布を含む温度データを記憶する温度データ記憶部と、前記構造物の材料に関する材料データを記憶する材料データ記憶部と、評価を行う上での解析条件を記憶する解析条件記憶部と、前記構造物の材料についての温度と引張強度との対応関係を記憶する強度データ記憶部と、前記構造データ記憶部に記憶される前記構造データと、前記温度データ記憶部に記憶される前記温度データと、前記材料データ記憶部に記憶される前記材料データと、前記解析条件記憶部に記憶される前記解析条件と、に基づいて、前記構造物について有限要素法を用いた非定常熱伝導解析及び弾塑性解析を行うことによって、各経過時間の各要素における温度及び応力を算出するFEM解析部と、前記各経過時間の各要素について、前記FEM解析部によって算出された応力が、当該経過時間の当該要素の温度に対応づけて前記強度データ記憶部に記憶される前記引張強度よりも大きいか否か判定し、前記応力が前記引張強度よりも大きい場合には当該要素において損傷が生じると評価し、前記応力が前記引張強度よりも小さい場合には当該要素において損傷が生じないと評価する評価部と、前記評価部における評価結果を出力する出力部と、を備える。
【0011】
[2]また、上述した本発明の一態様による損傷評価装置において、前記評価対象となる構造物は、回転摩擦により摩擦圧接される構造物であり、前記温度データにおける前記摩擦熱は、前記構造物の回転が止まった時点の摩擦熱であり、前記FEM解析部は、前記構造物の回転が止まった時点以降について前記非定常熱伝導解析を行う、ことを特徴とするように構成されても良い。
【0012】
[3]また、本発明の一態様による損傷評価方法は、評価対象となる構造物の構造データを記憶する構造データ記憶部と、前記構造物の温度分布を表す温度データを記憶する温度データ記憶部と、前記構造物の材料に関する材料データを記憶する材料データ記憶部と、評価を行う上での解析条件を記憶する解析条件記憶部と、前記構造物の材料についての温度と引張強度との対応関係を記憶する強度データ記憶部と、を有する損傷評価装置が、前記構造データ記憶部に記憶される前記構造データと、前記温度データ記憶部に記憶される前記温度データと、前記材料データ記憶部に記憶される前記材料データと、前記解析条件記憶部に記憶される前記解析条件と、に基づいて、前記構造物について有限要素法を用いた非定常熱伝導解析及び弾塑性解析を行うことによって、各経過時間の各要素における温度及び応力を算出するFEM解析ステップと、前記損傷評価装置が、前記各経過時間の各要素について、前記FEM解析ステップによって算出された応力が、当該経過時間の当該要素の温度に対応づけて前記強度データ記憶部に記憶される前記引張強度よりも大きいか否か判定し、前記応力が前記引張強度よりも大きい場合には当該要素において損傷が生じると評価し、前記応力が前記引張強度よりも小さい場合には当該要素において損傷が生じないと評価する評価ステップと、前記損傷評価装置が、前記評価部における評価結果を出力する出力ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、実際の金属部材を用いた実験を繰り返し実行することなく、任意の条件下における損傷発生の有無を評価することが可能となる。また、摩擦圧接によって生じる摩擦熱の応力によって接合後に損傷が発生するか否かについて、実験を繰り返し実行することなく評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】損傷評価装置の機能構成を表す概略ブロック図である。
【図2】損傷評価装置が行う評価の対象となる構造物の具体例を表す図である。
【図3】温度データ入力部によって入力される温度データの具体例を表す図である。
【図4】温度データ入力部によって入力される温度データの具体例を表す図である。
【図5】温度データ入力部によって入力される温度データの具体例を表す図である。
【図6】材料データ入力部によって入力される材料データのうち、熱伝導解析用材料データを表す図である。
【図7】材料データ入力部によって入力される材料データのうち、弾塑性解析用材料定数データを表す図である。
【図8】材料データ入力部によって入力される材料データのうち、弾塑性解析用塑性ひずみデータを表す図である。
【図9】FEM解析部が有限要素法を適用するに当たり評価対象構造物を複数の要素に分割する際に用いるメッシュ構造を表す図である。
【図10】強度データ入力部によって入力される強度データの具体例を表す図である。
【図11】強度データに基づいて評価部が行う評価の具体例を表す図である。
【図12】損傷評価装置の動作を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、損傷評価装置1の機能構成を表す概略ブロック図である。図示するように、損傷評価装置1は、構造データ入力部101、構造データ記憶部102、温度データ入力部103、温度データ記憶部104、材料データ入力部105、材料データ記憶部106、解析条件入力部107、解析条件記憶部108、FEM解析部109、強度データ入力部110、強度データ記憶部111、評価部112、出力部113を備える。以下、損傷評価装置1が備える各機能部について説明する。
【0016】
構造データ入力部101は、損傷評価装置1が行う評価の対称となる構造物の構造データを入力する。構造データは、AutoCAD(登録商標)、CADAM(登録商標)、Jw_cad等のCAD(Computer Aided Design)ソフトウェアを用いて作成される。このようにCADソフトウェアを用いて作成された構造データは、DXF(Drawing Interchange File)、DWG、SXF(Scadec data eXchange Format)等のファイルフォーマットによって構成される。
【0017】
構造データ記憶部102は、磁気ハードディスクや半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成され、構造データ入力部101によって入力された構造データを記憶する。構造データ記憶部102が記憶する構造データは、FEM解析部109が有限要素法(Finite Element Method:FEM)による非定常熱伝導解析及び弾塑性解析(応力解析)を行う際に、FEM解析部109によって読み出される。
【0018】
温度データ入力部103は、損傷評価装置1が行う評価の対象となる構造物の温度データを入力する。温度データとは、評価の対象となる構造物の初期状態における温度分布を表すデータである。初期状態とは、非定常熱伝導解析及び弾塑性解析を開始する時点の状態であり、例えば回転摩擦による摩擦圧接における損傷評価の場合には回転が停止した時点の状態を表す。回転が停止した時点とは、一方の構造物に対する他方の構造物の相対的な回転速度がゼロになった時点である。すなわち、温度データとは、構造物の温度分布を表し、少なくとも構造物が摩擦圧接されることによって生じる摩擦熱に関する温度分布を含む。
【0019】
温度データ記憶部104は、磁気ハードディスクや半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成され、温度データ入力部103によって入力された温度データを記憶する。温度データ記憶部104が記憶する温度データは、FEM解析部109が有限要素法による非定常熱伝導解析を行う際に、FEM解析部109によって読み出される。
【0020】
材料データ入力部105は、損傷評価装置1が行う評価の対象となる構造物の材料データを入力する。材料データとは、評価対象の構造物の材料の性質を表すデータである。材料データの詳細については後述する。
【0021】
材料データ記憶部106は、磁気ハードディスクや半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成され、材料データ入力部105によって入力された材料データを記憶する。材料データ記憶部106が記憶する材料データは、FEM解析部109が有限要素法による非定常熱伝導解析及び弾塑性解析を行う際に、FEM解析部109によって読み出される。
【0022】
解析条件入力部107は、FEM解析部109における非定常熱伝導解析及び弾塑性解析を行うに当たって必要となる全ての解析条件を入力する。解析条件とは、例えば、非定常熱伝導解析及び弾塑性解析の対象となる構造物に関する拘束条件や荷重条件(内圧、反力など)などである。
【0023】
解析条件記憶部108は、磁気ハードディスクや半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成され、解析条件入力部107によって入力された解析条件を記憶する。解析条件記憶部108が記憶する解析条件は、FEM解析部109が有限要素法による非定常熱伝導解析及び弾塑性解析を行う際に、FEM解析部109によって読み出される。
【0024】
FEM解析部109は、構造データ記憶部102に記憶される構造データと、温度データ記憶部104に記憶される温度データと、材料データ記憶部106に記憶される材料データと、解析条件記憶部108に記憶される解析条件とに基づいて、有限要素法を用いた非定常熱伝導解析を行い、評価対象の構造物の各経過時間(初期状態からの経過時間)の各要素における温度を算出する。
【0025】
さらに、FEM解析部109は、構造データ記憶部102に記憶される構造データと、非定常熱伝導解析の解析結果と、材料データ記憶部106に記憶される材料データと、解析条件記憶部108に記憶される解析条件とに基づいて、有限要素法を用いた弾塑性解析を行い、評価対象の構造物の各経過時間(初期状態からの経過時間)の各要素に生じる応力を算出する。
【0026】
強度データ入力部110は、評価対象の構造物の材料についての温度と引張強度との対応関係を表す強度データを入力する。引張強度とは、引張試験において材料に生じる最大応力を表し、材料の温度によって変化する値である。材料に対して引張強度よりも大きい応力が生じれば損傷が発生する。
【0027】
強度データ記憶部111は、磁気ハードディスクや半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成され、強度データ入力部110によって入力された強度データを記憶する。強度データ記憶部111が記憶する強度データは、評価部112が損傷発生の有無を評価する際に、評価部112によって読み出され、出力部113により評価結果を出力する。
【0028】
図2は、損傷評価装置1が行う評価の対象となる構造物の具体例を表す図である。以下の説明において、損傷評価装置1が評価を行う対象とする構造物は、図2(A)に図示される円筒形の機器構造物(以下、「評価対象物」という)である。ただし、中実な円形の機器構造物についても評価対象物になりうる。評価対象物は、半径(R+W)の円柱に対し半径Rの同心円柱の中空部分が設けられた円筒であり、厚さはWである。以下、評価対象物の円の中心から半径方向の距離をrとして表す。また、評価対象物の円の中心を軸としたときの回転方向の変位を表す角度をθとして表す。
【0029】
図2(B)は、評価対象物が同形の円筒に対して円の中心を軸とした軸方向に摩擦圧接された状態を表す。図2(B)において、摩擦圧接された溶接面と円柱側面との境界によって表される線を溶接線と呼び、溶接線から軸方向の距離、則ち溶接面からの距離をxとして表す。
【0030】
図3〜図5は、温度データ入力部103によって入力される温度データの具体例を表す図である。図3は、評価対象物の温度分布をt=f(x,r)としてx及びrの二値の関数として表した場合の、r=(R+W)におけるx方向の温度変化を表す図である。この場合、tを表すf(x,r)の関数が温度データとなる。温度データがこのように構成される場合、評価対象物の温度分布は、x及びrの二値によって決まるため、円の中心を軸としたときの回転方向(θ方向)では温度は変わらず一定である。
【0031】
図3において、横軸は溶接面からの距離xを表し、縦軸は温度tを表す。x=0におけるtは、溶接面の温度を表す。図3に示されるように、xが小さいときはtが一定であり、その後xが大きくなるに従ってtは小さくなり、再びtが一定となる。xが小さいときに一定であるtの値は、評価対象物の溶解温度を表し、その後に一定となったときのtの値は摩擦圧接による摩擦熱の影響を受けていない評価対象物の温度を示す。
【0032】
図4は、評価対象物の温度分布をt=f(x,r)としてx及びrの二値の関数として表した場合の、x=0におけるr方向の温度変化を表す図である。図4において、横軸は円の中心からの距離rを表し、縦軸は温度tを表す。r=0からr=Rまでの間は中空部分であり評価対象物の金属が存在していないためtの値はない。また、r=(R+W)よりrが大きい場合にも、評価対象物の金属が存在していないためtの値はない。r=Rからr=(R+W)までの間は、評価対象物の金属が存在するためtの値があり、rの値が大きくなるに従ってtの値も大きくなる。
【0033】
図5は、xの値及びrの値の組み合わせに対応づけてtの値を有する温度データの具体例を表す図である。図5の場合、温度データは、t=f(x,r)の関数としてではなく、x,rの組み合わせとtとの関係を表す表として構成される。温度データがこのように構成される場合にも、評価対象物の温度分布は、x及びrの二値によって決まるため、円の中心を軸としたときの回転方向(θ方向)では温度は変わらず一定である。
【0034】
温度データ入力部103によって入力される温度データは、図3及び図4の場合のようにt=f(x,r)の関数として構成されても良いし、図5のように表として表されても良い。図3及び図4のように温度データが構成された場合、FEM解析部109は、任意のx及びrの値を関数に代入することによってtの値を算出する。一方、図5のように温度データが構成された場合、FEM解析部109は、任意のx及びrの値に最も近いx及びrの組み合わせを表から検索し、この組み合わせに対応づけられているtの値を読み出す。このとき、FEM解析部109は、線形補間などの手法によって、任意のx及びrの値に対応するtの近似値を算出しても良い。
【0035】
図6は、材料データ入力部105によって入力される材料データのうち、非定常熱伝導解析に用いられる材料データ(以下、「熱伝導解析用材料データ」という)を表す図である。熱伝導解析用材料データは、所定の材料に関して、複数の温度に対応づけて、その温度の時の熱伝導率、比熱、密度を有する。図6は、評価対象物に用いられている材料Xに関する熱伝導解析用材料データを表す図である。図6の場合、例えば温度が摂氏20度である場合の熱伝導率はλ(W/m・摂氏温度)、比熱はCP1(J/摂氏温度・kg)、密度はρ(kg/立方メートル)である。
【0036】
図7は、材料データ入力部105によって入力される材料データのうち、弾塑性解析に用いられる材料定数を表す材料データ(以下、「弾塑性解析用材料定数データ」という)を表す図である。弾塑性解析用材料定数データは、所定の材料に関して、複数の温度に対応づけて、その温度の時のヤング率、ポアソン比、線膨張係数を有する。図7は、評価対象物に用いられている材料Xに関する弾塑性解析用材料定数データを表す図である。図7の場合、例えば温度が接し200度である場合のヤング率はE(GPa)、ポアソン比はν、線膨張係数はα(/摂氏温度)である。
【0037】
図8は、材料データ入力部105によって入力される材料データのうち、弾塑性解析に用いられる、温度と塑性ひずみと応力との関係を表す材料データ(以下、「弾塑性解析用塑性ひずみデータ」という)を表す図である。具体的には、弾塑性解析用塑性ひずみデータは、温度の値及び塑性ひずみを表す値の組み合わせに対応づけてその条件で発生する応力の値を有する。図8の場合、例えば温度が摂氏20度で塑性ひずみが0.0E+00の場合に発生する応力はσ11MPaである。
【0038】
図9は、FEM解析部109が有限要素法を適用するに当たり評価対象構造物を複数の要素に分割する際に用いるメッシュ構造を表す図である。図示されるように、要素の大きさは溶接面(x=0)から離れるに従って大きくなり、xが同じ値の部分ではrの値に関わらず同じ大きさとなっている。なお、FEM解析部109が有限要素法を適用するために用いるメッシュ構造は図9に示されるものに限定されず、他のメッシュ構造が用いられても良い。
【0039】
図10は、強度データ入力部110によって入力される強度データの具体例を表す図である。ここでは、強度評価のクライテリアに引張強度を用いているが、設計する上で適切な強度クライテリアを用いることが推奨される。図10において、横軸は温度を表し、縦軸は各温度に対応する引張強度の応力を表す。図10に表されるグラフでは、温度と引張強度の応力との関係を表す線(イ)を境界として、引張強度よりも低い応力を表す領域Aと、引張強度よりも高い応力を表す領域Bとの二つの領域に分けられる。
【0040】
図11は、強度データに基づいて評価部112が行う評価の具体例を表す図である。ある温度T1の時に生じている応力P1が領域Aに存在する場合は、この応力P1がその温度の引張強度の応力よりも低いため、この応力P1によって損傷は発生しない。一方、ある温度T1の時に生じている応力P2が領域Bに存在する場合は、この応力P2がその温度の引張強度の応力よりも高いため、この応力P2によって損傷が発生してしまう。このように、評価部112は、FEM解析部109によって算出された各経過時間の各要素に発生している温度と応力とに基づいて、その温度の引張強度よりも応力が小さいか否かに応じて損傷の発生の有無を評価する。
【0041】
図12は、損傷評価装置1の動作を表すフローチャートである。以下、図12を用いて損傷評価装置1の動作について説明する。まず、構造データ入力部101が、評価対象物の構造データを入力する(ステップS101)。構造データ記憶部102は、構造データ入力部101によって入力された構造データを記憶する。次に、温度データ入力部103が、評価対象物の温度データを入力する(ステップS102)。温度データ記憶部104は、温度データ入力部103によって入力された温度データを記憶する。次に、材料データ入力部105が、評価対象物の材料データを入力する(ステップS103)。材料データ記憶部106は、材料データ入力部105によって入力された材料データを記憶する。次に、解析条件入力部107は、解析条件のデータを入力する(ステップS104)。解析条件記憶部108は、解析条件入力部107によって入力された解析条件を記憶する。次に、強度データ入力部110は、強度データを入力する(ステップS105)。強度データ記憶部111は、強度データ入力部110によって入力された強度データを記憶する。
【0042】
次に、FEM解析部109が、構造データ記憶部102に記憶される構造データを複数の要素に分割し、温度データ記憶部104に記憶される温度データと、材料データ記憶部106に記憶される熱伝導解析用材料データと、解析条件記憶部108に記憶される解析条件とに基づいて有限要素法による非定常熱伝導解析を実行する(ステップS106)。さらに、FEM解析部109が、分割後の各要素について、非定常熱伝導解析の解析結果と、材料データ記憶部106に記憶される弾塑性解析用材料データと、解析条件記憶部108に記憶される解析条件とに基づいて有限要素法による弾塑性解析を実行する(ステップS107)。FEM解析部109は、非定常熱伝導解析及び弾塑性解析の解析結果として、各要素の各経過時間における温度T及び応力Pを算出する。
【0043】
次に、評価部112が、各要素の各経過時間における応力Pと、このときに当該要素に生じている温度Tにおける引張強度Thと、を比較する(ステップS108)。応力Pが引張強度Thよりも大きい場合(ステップS109−YES)、評価部112は、比較処理の対象となっている要素及び経過時間において、損傷が発生すると評価する(ステップS110)。一方、応力Pが引張強度Th以下である場合(ステップS109−NO)、評価部112は、比較処理の対象となっている要素及び経過時間において、損傷が発生しないと評価する(ステップS111)。
【0044】
評価部112は、ステップS108〜ステップS111の評価が全ての経過時間及び要素について終わるまで、この評価の処理を繰り返し実行する(ステップS112−NO)。そして、全ての経過時間及び要素について評価が完了すると(ステップS112−YES)、評価部112は評価結果を出力し(ステップS113)、フローチャート全体の処理を終える。
【0045】
このように構成された損傷評価装置1では、構造データ、温度データ、材料データ、解析条件の4つについて入力がなされることにより、評価対象物についてFEM解析部109が有限要素法による非定常熱伝導解析及び弾塑性解析を実行し、各要素について各経過時間における温度と応力とを算出する。そして、強度データが入力されることにより、評価部112がFEM解析部109における解析結果に基づいて、各要素について各経過時間に発生する応力と、その応力が発生しているときの温度に対応する引張強度とを比較し、評価対象物の損傷発生の有無について評価する。そのため、実際の金属部材を用いた実験を繰り返し実行することなく、損傷発生の有無を評価することが可能となる。
【0046】
また、回転摩擦により摩擦圧接される構造物を評価対象物とした場合には、回転が停止した時点の温度分布を表す温度データが入力されることにより、FEM解析部109が摩擦圧接の接合時の発生応力を各要素について回転が停止した時点からの経過時間毎に算出し、この発生応力によって損傷が発生するか否かについて評価部112が評価する。そのため、従来のように回転数、押しつけ力、接合面の表面状態、摩擦圧接による摩擦熱の影響を受けていない部分の構造物の温度などのパラメータを決定するために各パラメータによる実験を繰り返し実行することなく、損傷が発生しない温度データを選択することが可能となる。また、接合時の温度分布は、回転数、押しつけ力、接合面の表面荒さ、摩擦圧接による摩擦熱の影響を受けていない部分の構造物の温度などのパラメータによって決定されるため、損傷が発生しない温度データに基づいて、このような温度分布となるように上記パラメータの各値を選択することが可能となる。そのため、損傷が発生しないようなパラメータの各値を、実験を繰り返し実行することなく選択することが可能となり、実験に要するコストや時間を削減することが可能となる。
【0047】
<変形例>
温度データ入力部103によって入力される温度データは、図5のようにx及びrの二値によって決まるものではなく、x、r、θの三値によって決まるように構成されても良い。このように温度データが構成されることにより、より正確に非定常熱伝導解析を行うことが可能となり、その後に行われる弾塑性解析及び損傷評価の精度を向上させることが可能となる。
【0048】
構造データ記憶部102、温度データ記憶部104、材料データ106、解析条件記憶部108、強度データ記憶部111は、それぞれデータを予め記憶していても良い。
【0049】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0050】
1…損傷評価装置, 101…構造データ入力部, 102…構造データ記憶部, 103…温度データ入力部, 104…温度データ記憶部, 105…材料データ入力部, 106…材料データ記憶部, 107…解析条件入力部, 108…解析条件記憶部, 109…FEM解析部, 110…強度データ入力部, 111…強度データ記憶部, 112…評価部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象となる摩擦圧接される構造物の構造データを記憶する構造データ記憶部と、
前記構造物の温度分布を表し、少なくとも前記構造物が摩擦圧接されることによって生じる摩擦熱に関する温度分布を含む温度データを記憶する温度データ記憶部と、
前記構造物の材料に関する材料データを記憶する材料データ記憶部と、
評価を行う上での解析条件を記憶する解析条件記憶部と、
前記構造物の材料についての温度と引張強度との対応関係を記憶する強度データ記憶部と、
前記構造データ記憶部に記憶される前記構造データと、前記温度データ記憶部に記憶される前記温度データと、前記材料データ記憶部に記憶される前記材料データと、前記解析条件記憶部に記憶される前記解析条件と、に基づいて、前記構造物について有限要素法を用いた非定常熱伝導解析及び弾塑性解析を行うことによって、各経過時間の各要素における温度及び応力を算出するFEM解析部と、
前記各経過時間の各要素について、前記FEM解析部によって算出された応力が、当該経過時間の当該要素の温度に対応づけて前記強度データ記憶部に記憶される前記引張強度よりも大きいか否か判定し、前記応力が前記引張強度よりも大きい場合には当該要素において損傷が生じると評価し、前記応力が前記引張強度よりも小さい場合には当該要素において損傷が生じないと評価する評価部と、
前記評価部における評価結果を出力する出力部と、
を備える損傷評価装置。
【請求項2】
前記評価対象となる構造物は、回転摩擦により摩擦圧接される構造物であり、
前記温度データにおける前記摩擦熱は、前記構造物の回転が止まった時点の摩擦熱であり、
前記FEM解析部は、前記構造物の回転が止まった時点以降について前記非定常熱伝導解析を行う、
ことを特徴とする、請求項1に記載の損傷評価装置。
【請求項3】
評価対象となる構造物の構造データを記憶する構造データ記憶部と、前記構造物の温度分布を表す温度データを記憶する温度データ記憶部と、前記構造物の材料に関する材料データを記憶する材料データ記憶部と、評価を行う上での解析条件を記憶する解析条件記憶部と、前記構造物の材料についての温度と引張強度との対応関係を記憶する強度データ記憶部と、を有する損傷評価装置が、前記構造データ記憶部に記憶される前記構造データと、前記温度データ記憶部に記憶される前記温度データと、前記材料データ記憶部に記憶される前記材料データと、前記解析条件記憶部に記憶される前記解析条件と、に基づいて、前記構造物について有限要素法を用いた非定常熱伝導解析及び弾塑性解析を行うことによって、各経過時間の各要素における温度及び応力を算出するFEM解析ステップと、
前記損傷評価装置が、前記各経過時間の各要素について、前記FEM解析ステップによって算出された応力が、当該経過時間の当該要素の温度に対応づけて前記強度データ記憶部に記憶される前記引張強度よりも大きいか否か判定し、前記応力が前記引張強度よりも大きい場合には当該要素において損傷が生じると評価し、前記応力が前記引張強度よりも小さい場合には当該要素において損傷が生じないと評価する評価ステップと、
前記損傷評価装置が、前記評価部における評価結果を出力する出力ステップと、
を備える損傷評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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