説明

搬送装置

【課題】センサを用いることなく、搬送装置の振動部の振幅を高精度に制御する。
【解決手段】振動速度を測定するセンサからの出力に基づいて振動部に与える加振力Fを制御するいわゆる速度フィードバック制御を、センサを設けない開ループ制御によって模擬的に実現する。疑似速度フィードバック制御であるノッチモデル制御では、ノッチフィルタを用いた演算により加振力Fを求め、求めた加振力Fを振動部に与えることにより、振動部の振幅を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動によって物品を搬送する技術に関する。より詳しくは、物品の搬送速度を高精度に制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、物品が載置されるトラフ(振動部)を振動させて物品を所定の方向に向かって搬送する搬送装置が提案されている。このような搬送装置が、例えば特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載されている搬送装置は、電磁石に電力を供給し、電磁石と振動部との間に作用する電磁力を、振動部に与える加振力とする。すなわち、電磁力によって加振することにより、振動部を振動させる。
【0004】
一方、このような搬送装置では、物品の搬送速度(単位時間あたりの搬送重量)を高精度に制御したいという要求がある。搬送装置において、物品の搬送速度は、主に振動部の振動振幅に依存するため、これを精度よく制御する必要がある。そして振動部の振動は、電磁石から与えられる加振力によって制御され、加振力は電磁石に供給される電力によって制御される。したがって、特許文献1に記載されている搬送装置の搬送速度を高精度に制御するためには、電磁石に供給する電力を高精度に制御する必要がある。
【0005】
搬送装置の振動を高精度に制御する技術として、例えば、特許文献2には、振動部の振動速度を検出する振動速度検出器を設け、この振動速度検出器(センサ)から得られる振動速度に基づいて電磁石に供給する電力を制御する技術(いわゆる速度フィードバック制御)が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平09−235016号公報
【特許文献2】特開平10−035850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献2に記載されている技術では、振動部の振動を検出するセンサが必要であり、装置全体のコストが上昇するという問題があった。また、センサの出力に基づいた速度フィードバック制御では、必ず時間遅れが生じるという問題もあった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、センサを用いることなく、搬送装置の振動部の振幅を高精度に制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、請求項1の発明は、振動によって物品を搬送する搬送装置であって、物品が載置されるとともに、与えられる加振力によって振動する振動部と、前記振動部に与える加振力を発生させる加振手段と、前記振動部の目標振幅に基づいて速度フィードバックを模擬して前記加振手段を開ループ制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明に係る搬送装置であって、前記制御手段は、ノッチフィルタを用いた演算に基づいて前記加振手段を制御することを特徴とする。
【0011】
また、請求項3の発明は、請求項1の発明に係る搬送装置であって、前記制御手段は、前記振動部を加振するための第1加振力成分と、前記振動部を定常振動させるための第2加振力成分とに基づいて前記加振手段を制御することを特徴とする。
【0012】
また、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明に係る搬送装置であって、前記加振手段は、電磁場を発生させる電磁石と、前記電磁石により発生した電磁場によって電磁力が作用する作用体とを備え、前記制御手段は、前記電磁石に電流を供給する電力供給手段と、前記振動部が振動する間において、前記電流の電流値が連続的に変化するように、前記電流の電流値の周期および振幅を設定する設定手段とを備え、前記加振手段は、前記電磁力を加振力とすることを特徴とする。
【0013】
また、請求項5の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明に係る搬送装置であって、前記加振手段は、前記振動部に与える加振力を発生させる電磁石を備え、前記制御手段は、前記電磁石に電流を供給する電力供給手段と、前記振動部が振動する間において、前記電流の電流値がパルス状に変化する間欠電流となるように、前記電流の供給開始時間、供給継続時間および電流値を設定する設定手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
また、請求項6の発明は、請求項5の発明に係る搬送装置であって、前記設定手段は、個々のパルス状の電流ごとに、供給開始時間および供給継続時間を独立して設定可能であることを特徴とする。
【0015】
また、請求項7の発明は、請求項6の発明に係る搬送装置であって、前記設定手段は、前記振動部の振動が定常振動に収束するまでの間に設定する複数のパルス状の電流についてはそれぞれの供給開始時間および供給継続時間を独立して設定し、前記振動部の振動が定常振動に収束している間に設定する複数のパルス状の電流については周期的に設定することを特徴とする。
【0016】
また、請求項8の発明は、請求項6または7の発明に係る搬送装置であって、前記設定手段は、前記振動部の振動を停止させる際に設定する複数のパルス状の電流についてはそれぞれの供給開始時間および供給継続時間を独立して設定することを特徴とする。
【0017】
また、請求項9の発明は、請求項5ないし8のいずれかの発明に係る搬送装置であって、前記設定手段は、電圧パルス列によって前記電流の供給開始時間、供給継続時間および電流値を設定することを特徴とする。
【0018】
また、請求項10の発明は、請求項1ないし9のいずれかの発明に係る搬送装置であって、前記制御手段は、前記振動部を加振する際の加振力に基づいて、前記振動部を減振させる際の加振力を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載の発明では、振動部の目標振幅に基づいて速度フィードバックを模擬して加振手段を開ループ制御することにより、振動部の振幅を計測するセンサを設けなくても、速度フィードバック制御とほぼ等価な制御を実現できる。したがって、コストを抑制しつつ振動部を高精度に制御できる。
【0020】
請求項2に記載の発明では、ノッチフィルタを用いた演算に基づいて加振手段を制御することにより、疑似速度フィードバック制御を実現するための加振力を容易に演算することができる。
【0021】
請求項3に記載の発明では、振動部を加振するための第1加振力成分と、振動部を定常振動させるための第2加振力成分とに基づいて加振手段を制御することにより、請求項2に記載の発明と同等の制御を実現するための加振力を、さらに容易に演算することができる。
【0022】
請求項9に記載の発明では、電圧パルス列によって電流の供給開始時間、供給継続時間および電流値を設定することにより、電流を直接制御するよりも容易に制御できる。
【0023】
請求項10に記載の発明では、振動部を加振する際の加振力に基づいて、振動部を減振させる際の加振力を求めることにより、制御手段における演算量が減るので、制御手段の負担が軽減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施の形態について、添付の図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0025】
<1. 第1の実施の形態>
図1は、本発明に係る搬送装置1を示す図である。図1に示すように、搬送装置1は、搬送装置1の各構成の基台となるベース10、振動部2、加振部3および制御部4を備えている。
【0026】
振動部2は、主にフィーダ20および一対の板バネ21を備える。
【0027】
フィーダ20は後述する加振力によって、図1において左右方向に主に振動し、その上面には搬送装置1によって搬送しようとする物品が載置される。すなわち、物品が載置された状態のフィーダ20を振動させることによって、搬送装置1は所定の方向に物品を搬送する。
【0028】
一対の板バネ21は、図1において左右方向に主に振動する部材である。板バネ21の上端はフィーダ20に固定され、下端はベース10に固定される。
【0029】
加振部3は、主に電磁石30と、作用体としての可動鉄心31とを備える。
【0030】
電磁石30は、図示しないコイルと鉄心とを備えており、ベース10に固定されている。また、電磁石30はコイルに電流(後述する制御電流)が供給されることによって、電磁場を発生させる。
【0031】
可動鉄心31は鉄(Fe)を主成分とする部材であって、振動部2に固定される。可動鉄心31は、電磁石30との相互作用によって電磁力を発生させ、かつ、発生した電磁力を振動部2に伝達する機能を有する。すなわち、可動鉄心31が振動部2に固定されているので、電磁石30が発生させる電磁場によって、可動鉄心31に電磁力が作用し、この電磁力が振動部2に加振力として与えられる。
【0032】
以下、本明細書では、可動鉄心31に作用する電磁力を「加振力」と総称し、必要に応じて、その目的別に、成長加振力、補完加振力および抑制加振力と呼んで区別する。成長加振力とは振動部2の振動を成長させ、増幅するために加えられる加振力であり、補完加振力とは、自然減衰に逆らって、振動部2の振動を維持するために加えられる加振力である。さらに、抑制加振力とは振動部2の振動を停止させるために加えられる加振力である。
【0033】
したがって、搬送装置1では、振動を成長させるときの加振力は、振幅を増幅させるための成長加振力と、すでに成長している振幅が減衰しないように維持するための補完加振力との合成力となる。また、定常状態で振動しているときの加振力は、成長加振力は不要であるので、定常状態の振幅を維持するための補完加振力のみである。さらに、振動を停止させるときは補完加振力を止めるので、このときの加振力は、振幅を減少させるための抑制加振力のみである。
【0034】
図2は、制御部4の構成を示すブロック図である。制御部4は、設定部5および電力供給部6を備える。
【0035】
設定部5は、CPU50、ROM51およびRAM52を備え、一般的なマイクロコンピュータとしての機能を備えている。すなわち、CPU50は、ROM51に格納されているプログラムやデータ(設定値やパラメータ等)に基づいて、RAM52をワーキングエリアとして使用しつつ演算を行い、必要な制御信号をする。
【0036】
特に、設定部5は、振動部2が振動する間において、電力供給部6が電磁石30に供給する電流の電流値が連続的に変化するように、電流の電流値の周期および振幅を設定する。さらに、設定部5は、設定した電流の周期および振幅に基づいて制御信号を生成し、これを電力供給部6に伝達することによって電力供給部6を制御する。
【0037】
電力供給部6は、一般的な電源であって、設定部5からの制御信号に基づいて、電磁石30に電流を供給する。以下の説明では、電力供給部6が供給する電流を「制御電流」と称する。
【0038】
以上のような構成により、制御部4は、電力供給部6から電磁石30に制御電流を供給することによって加振部3を制御し、振動部2に与えられる加振力を制御する。
【0039】
搬送装置1において、振動部2の振動は、振動部2に与えられる加振力によって制御される。この加振力は可動鉄心31に作用する電磁力であるから、加振力は制御電流(より詳しくは制御電流の時間変化)によって制御される。逆に言えば、必要な加振力が決まれば、設定部5は必要な制御電流を決定することができる。
【0040】
詳細は後述するが、本実施の形態における設定部5は、速度フィードバック制御を模擬的に実現するために必要な制御力(制御力Fc)を求め、これに基づいて加振力Fおよび制御電流を決定する。
【0041】
<速度フィードバック制御>
ここで、従来の搬送装置における速度フィードバック制御について説明する。なお、速度フィードバック制御とは、センサによってフィーダの振動速度を計測して、この値をフィードバックして加振力を制御することにより、フィーダの振幅Xを目標振幅Rとなるように制御する制御方法であると定義する。したがって、ここで言う速度フィードバック制御の「速度」とは、フィーダの振動速度のことであり、例えば物品の搬送速度等を意味するものではない。
【0042】
搬送装置では、厳密には振動部のみが振動するわけではなく、他の構成もフィーダの振動に影響を与える。したがって、振動に影響を与える構成を便宜上「機械系」と呼ぶ。さらに、以下の説明において、機械系の固有振動数を予測固有振動数fn、搬送装置1が物品を搬送するときの実際の固有振動数を実固有振動数fr、搬送装置1を駆動させるときの振動数を駆動振動数fmとおく。実固有振動数frについては後述するが、予測固有振動数fnは予め実験により求め、記憶させておくことができる値である。また、駆動振動数fmは任意に設定できる値である。
【0043】
図3は、速度フィードバック制御を行った場合のブロック線図である。なお、機械系の減衰比ζ、見かけの機械系の減衰比ζ’とおくと、本実施の形態では、ζ’=50×ζとなるようにKvを決定する。
【0044】
速度フィードバック制御における運動方程式は、数1となり、速度フィードバック制御における加振力Fから、速度フィードバック制御におけるフィーダの振幅Xは数2で表される。
【0045】
【数1】

【0046】
【数2】

【0047】
図4は、振幅倍率(X/Xst)と、無次元振動数Ωとの関係を示す図である。図5は、位相差φと無次元振動数Ωとの関係を示す図である。
【0048】
位相差φとは加振力と変位との位相のズレであり、無次元振動数Ωとは駆動振動数fmと予測固有振動数fnとの比であって、Ω=fm/fnで表される無次元の変数である。なお、図4および図5は、いずれも予測固有振動数fnが実固有振動数frと等しいとして示す。
【0049】
図4および図5において、グラフGP1,GP4は速度フィードバック制御を行わない場合の加振力Fで速度フィードバック制御を行ったときの結果を示す。また、グラフGP2,GP5は速度フィードバック制御を行わないとき(以下、「非制御のとき」と略する)の結果を示す。また、グラフGP3,GP6は加振力FをゲインK倍して速度フィードバック制御を行ったときの結果を示す。
【0050】
グラフGP2を見れば明らかなように、駆動振動数fmを予測固有振動数fnと等しくした場合に振幅倍率が最も大きくなる。したがって、予測固有振動数fnが実固有振動数frと等しいと仮定すれば、搬送装置1を効率よく駆動するためには、駆動振動数fmを予測固有振動数fnと等しい値(すなわち、Ω=fm/fn=1)に設定するのが好ましい。以下、本実施の形態では、駆動振動数fmを予測固有振動数fnと等しい値に設定して制御する手法を、説明の便宜上、「同一振動数制御」と称する。
【0051】
一方、グラフGP1とグラフGP2とを比較すれば明らかなように、速度フィードバック制御を行わない場合の加振力Fで速度フィードバック制御を行うと、非制御のときに比べて、振幅倍率が小さくなる。この現象は、同一振動数制御を行う場合に、特に顕著である。
【0052】
したがって、非制御のときと同等の振幅を得るためには、速度フィードバック制御では、加振力FをゲインK倍とする必要があることがわかる。すなわち、非制御のときの加振力Fから速度フィードバック制御を行う場合の加振力への変換は、数3で表される。
【0053】
【数3】

【0054】
なお、グラフGP4,GP6が重なっていることから、速度フィードバック制御を行った場合の位相差φは常に一致し、無次元振動数Ωが「1」となる駆動振動数fmにおいては、グラフGP4,GP5,GP6が一致することから、同一振動数制御においては速度フィードバック制御と非制御との結果も一致する。
【0055】
ここで、非制御のときの振幅Xは数4で表される。
【0056】
【数4】

【0057】
非制御のときの振幅X(数4の振幅X)は、当然、目標振幅Rとなるように設定され、速度フィードバック制御においても、ゲインKは振幅X(数3における振幅X)が、目標振幅Rとなるように設定される。したがって、数3および数4から、数5が得られ、ゲインKは数6で表される。
【0058】
【数5】

【0059】
【数6】

【0060】
ここで、機械系の予測固有角振動数をωnとおくと、数7,8が成立し、見かけの減衰比ζ’から数9が求まる。これらの式を用いて、数6を無次元化すると、数10が得られる。
【0061】
【数7】

【0062】
【数8】

【0063】
【数9】

【0064】
【数10】

【0065】
数4からバネ力で無次元化した制御力Fcは数11で表すことができる。
【0066】
【数11】

【0067】
ここで、同一振動数制御(fm=fn)の特性について説明する。
【0068】
例えば、搬送装置1に物品(ワーク)を搬送させる場合を考えると、フィーダ20の上面には搬送する物品が載置される。搬送装置1が搬送する物品は任意であるから、物品の質量を予め計測して設定することはできない。また、物品の量は常に均等であるとは限らないので、搬送中に随時変化し、これに伴って質量も随時変化する。したがって、搬送装置1を駆動して物品を搬送すると、搬送装置1の見かけの質量(機械系の見かけの質量)が変化し、実際の固有振動数である実固有振動数frは、予め予測した予測固有振動数fn(一般には物品のない状態で計測する)と異なる値となる。
【0069】
図6は、非制御のときの振幅倍率と無次元振動数Ωとの関係を示す図である。図7は、非制御のときの位相差φと無次元振動数Ωとの関係を示す図である。図6におけるグラフGP7は図4におけるグラフGP2と同じグラフであり、いずれも実固有振動数frと予測固有振動数fnとが等しい場合(fr=fn)を示している。また、図7におけるグラフGP9は図5におけるグラフGP5と同じグラフであり、いずれも実固有振動数frと予測固有振動数fnとが等しい場合(fr=fn)を示している。
【0070】
一方、図6におけるグラフGP8は、実固有振動数frが予測固有振動数fnと異なる場合(fr=1.005fn)を示しており、図7におけるグラフGP10は、実固有振動数frが予測固有振動数fnと異なる場合(fr=1.005fn)を示している。
【0071】
グラフGP7から明らかなように、実固有振動数frが予測固有振動数fnと等しい場合、駆動振動数fmを予測固有振動数fnと等しい値に設定すれば、振幅倍率は最も大きくなる(図6に示す例では約250倍)。すなわち、振幅を大きくして搬送力(搬送速度)を向上させるためには、同一振動数制御(fm=fn)が最も効率がよいことがわかる。
【0072】
しかし、グラフGP8から明らかなように、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが、わずか0.5%ずれただけで、同一振動数制御の振幅倍率は大きく減少してしまう(図6に示す例では約94倍にまで低下する)。
【0073】
また、グラフGP9とグラフGP10とを比較すれば明らかなように、同一振動数制御では、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが等しい場合(グラフGP9)と、異なる場合(グラフGP10)とによって大きく位相差φの値が異なる(図7に示す例では、位相差φの値は、−90[deg]から−22[deg]に変化している)。
【0074】
このように、駆動振動数fmを予測固有振動数fnと等しい値として設定して搬送装置1を駆動した場合(すなわち同一振動数制御を行った場合)、実固有振動数frがわずかでも予測固有振動数fnとずれると、フィーダ20の実際の挙動は予想と大きく異なってしまうことがわかる。図6に示す例では、実固有振動数frがわずか0.5%ずれただけで、振幅は予定の約38%にまで減少する((94/250)×100=37.6)。
【0075】
そして、先述のように、機械系の固有振動数はフィーダ20に載置される物品の質量の影響を受けるので、通常実固有振動数frは予測固有振動数fnと異なる値となる。したがって、同一振動数制御を行いつつ、目標振幅Rとなるように他のパラメータを設定したとしても、実際の振幅が大きく異なってしまい、振幅の制御精度が低下する。
【0076】
すなわち、物品を搬送しているときの実固有振動数frを求めることができる場合(例えばセンサを設ける、あるいは搬送する物品が常に質量既知の物品である等の場合)には、fm=fn=frとおいて、同一振動数制御を行えば、振幅の精度が低下することなく最も効率のよい駆動を実現できる。しかし、実固有振動数frを求めることができず、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが異なる場合には、同一振動数制御は精度が低下するという問題がある。
【0077】
以上が同一振動数制御(fm=fn)の特性に関する説明である。
【0078】
予測固有振動数fnは機械系に固有の値であるから、搬送装置が製造された後(例えば、搬送する物品が決定したとき)に、任意に設定することはできない。また、搬送装置が実固有振動数frを測定しない場合には、これも不知の値である。
【0079】
そこで、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが異なった値であっても、振幅の制御精度を低下させないために、駆動振動数fmを適切に設定することを考える。
【0080】
図6および図7に示すグラフGP7とグラフGP9とは予め予測可能なグラフである。すなわち、グラフGP7,GP9とのズレが少ない方が、より振動(振幅)を高精度に制御可能であることを示している。
【0081】
したがって、グラフGP7とグラフGP8とにおいて振幅倍率(X/Xst)の値の差が小さくなり、かつ、グラフGP9とグラフGP10とにおいて位相差φの値の差が小さくなる駆動振動数fmを設定すれば、振動を高精度に制御できる。図6および図7から明らかなように、このような駆動振動数fmは、いずれも無次元振動数Ωの値が「1」に比べて充分に小さいか、あるいは充分に大きい場合である。
【0082】
駆動振動数fmと予測固有振動数fnとのずれ量をΔfとおくと、駆動振動数fmは、fm=fn+Δfと表すことができる。搬送装置1は、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが異なることを考慮して、fm=fn+Δfとおき、駆動振動数fmを、予測固有振動数fnからΔfだけわざとずらして設定する。このような制御方法を、以下、説明の便宜上、「異振動数制御」と称し、Δfを「振動数差」と称する。
【0083】
図6および図7から明らかなように、異振動数制御において、実固有振動数frと予測固有振動数fnとがたまたま近似すると、制御精度が低下する。しかし、物品を載置していない状態(空状態)の固有振動数を測定して予測固有振動数fnとすれば、物品を搬送している状態の実固有振動数frは、必ず予測固有振動数fnと異なった値となる。また、一般に物品を搬送していない状態における振動を高精度に制御する必要性は低いので、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが近似してしまうことによる精度低下の問題を考慮する必要性は低い。
【0084】
図6および図7に示す例では、Δf=0.03fnの場合(fm=1.03fn、すなわちΩ=1.03の場合)には、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが異なることによる影響が充分小さいことがわかる。したがって、本実施の形態の異振動数制御では、以下、振動数差Δfを「0.03fn」に固定して制御結果を示すが、振動数差Δfの値はもちろんこれに限られるものではなく、必要な精度・効率に応じて任意に設定すればよい。
【0085】
なお、搬送装置1の制御部4は、例えばオペレータからの指示入力に基づいて、同一振動数制御を行うか、異振動数制御を行うかを切り替えるものとする。
【0086】
再び、速度フィードバック制御について説明する。以下では、主に速度フィードバック制御の評価を行う。
【0087】
図8は、速度フィードバック制御において、同一振動数制御を行う場合に必要な制御力Fcを例示する図である。また、図9は、図8に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【0088】
一方、図10は、速度フィードバック制御において、異振動数制御を行う場合に必要な制御力Fcを例示する図である。また、図11は、図10に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【0089】
なお、図8ないし図11では、いずれも実固有振動数frと予測固有振動数fnとが等しい場合を示す。また、図9および図11では、目標振幅Rを「1mm」に設定した場合を示す。
【0090】
図9および図11から明らかなように、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが等しければ、いずれの制御方法でも、振動の振幅は目標振幅Rまで急激に成長することがわかる。すなわち、短時間で目標振幅Rに達し、その後、定常状態に安定することがわかる。
【0091】
また、詳細は省略するが、非制御において、異振動数制御を行うと、過渡状態で「うなり」を生じ、振幅が目標振幅Rを超えてしまうことがある。そして、このような「うなり」が発生すると、搬送速度の精度が低下するのみならず、機械系を破損させる可能性もある。しかし、図11から明らかなように、速度フィードバック制御を行うと、このような「うなり」を生じることもないことがわかる。
【0092】
また、図8と図10とを比較すれば明らかなように、同一振動数制御(図8)の方が、異振動数制御(図10)よりも必要な制御力Fcが小さく、加振力の効率がよいことがわかる。
【0093】
図12は、速度フィードバック制御における振幅倍率と無次元振動数Ωとの関係を示す図である。また、図13は、速度フィードバック制御における位相差φと無次元振動数Ωとの関係を示す図である。
【0094】
グラフGP11,GP13は、いずれも実固有振動数frと予測固有振動数fnとが等しい場合を示す。グラフGP12,GP14は、いずれも実固有振動数frと予測固有振動数fnとが異なる場合(fr=1.005fnの場合)を示す。なお、グラフGP11は、図4に示すグラフGP3と同じグラフである。また、グラフ13は、図5に示すグラフGP6と同じグラフである。
【0095】
図12から明らかなように、グラフGP11とグラフGP12とはほぼ一致している。また、図13から明らかなように、グラフGP13とグラフGP14とはほぼ一致している。このように、速度フィードバック制御を行うと、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが異なっていても、これによる影響は少ないことを示している。
【0096】
図14ないし図17は、いずれも実固有振動数frと予測固有振動数fnとが異なる場合(fr=1.005fnの場合)を示す。
【0097】
図14は、速度フィードバック制御において、同一振動数制御を行う場合に必要な制御力Fcを例示する図である。また、図15は、図14に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【0098】
一方、図16は、速度フィードバック制御において、異振動数制御を行う場合に必要な制御力Fcを例示する図である。また、図17は、図16に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【0099】
同一振動数制御を行う場合、図8と図14とを比較すれば明らかなように、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが異なるために、図14に示す例では図8に示す例に比べて必要な制御力Fcが増加している。
【0100】
異振動数制御を行う場合、図10と図16とを比較すれば明らかなように、実固有振動数frと駆動振動数fmとの差が減少するので、図16に示す例では図10に示す例に比べて必要な制御力Fcが減少している。
【0101】
図17に示すように、速度フィードバック制御において、異振動数制御を行うと、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが異なっていたとしても、振幅を高精度に制御できることがわかる。また、図15と図17とを比較することにより、速度フィードバック制御は、同一振動数制御を行ったとしても、それほど精度を低下させることなく、効率よく振幅を制御できることがわかる。
【0102】
<疑似速度フィードバック制御>
以上のように、速度フィードバック制御は、振動によって物品を搬送する搬送装置において、目標振幅Rに基づいてフィーダの振動を制御する場合に適した制御手法である。しかし、速度フィードバック制御を実現するには、搬送中の振動速度を測定するセンサが必要であり、装置コストが増大するという問題がある。
【0103】
そこで、本実施の形態における搬送装置1の制御部4は、疑似速度フィードバック制御を行う。疑似速度フィードバック制御とは、目標振幅に基づいてフィーダの振幅を制御する手法であって、速度フィードバック制御の挙動を指標とし、これを模擬的に実現する開ループ制御である。疑似速度フィードバック制御では、振動速度センサや振幅測定センサ等のセンサからの入力によらず、目標振幅を入力として制御が行われる。
【0104】
疑似速度フィードバック制御の精度を向上させるためには、正確に速度フィードバック制御を再現(トレース)する必要がある。例えば、条件を変更しつつ速度フィードバック制御の挙動を調べて、これによって入力として与える様々なパラメータを決定するようにしてもよい。
【0105】
<ノッチモデル制御>
本実施の形態における搬送装置1の制御部4が、疑似速度フィードバック制御を実現するために採用するノッチモデル制御について説明する。
【0106】
まず、速度フィードバック制御の加振力Fから変位xまでの関係を調べる。速度フィードバック制御の運動方程式は数12となる。そして、数12をラプラス変換すると、速度フィードバック制御における伝達関数が数13のように求まる。
【0107】
【数12】

【0108】
【数13】

【0109】
制御力Fcから変位xまでの伝達関数は、図3に示すブロック線図より、数14と表せる。
【0110】
【数14】

【0111】
したがって、速度フィードバック制御の加振力Fから制御力Fcまでの伝達関数は、数13および数14から数15となる。
【0112】
【数15】

【0113】
数15を見れば明らかなように、速度フィードバック制御における加振力Fから制御力Fcまでの伝達関数は、いわゆるノッチフィルタとなっていることがわかる。
【0114】
図18は、速度フィードバック制御をノッチフィルタを用いた開ループ制御(ノッチモデル制御)に変換する様子を示すブロック線図である。図18に破線で囲む部分は、速度フィードバック制御とノッチモデル制御とにおいて、異なるところはない(装置構成が同じでよいことを示す)。したがって、ノッチモデル制御に必要な装置構成は、速度フィードバック制御におけるセンサをノッチフィルタに置き換えるだけで実現でき、比較的高価なセンサが不要になることがわかる。
【0115】
次に、本実施の形態における搬送装置1が実行するノッチモデル制御について評価を行う。
【0116】
ここで、ノッチモデル制御における制御力Fcを、非制御における加振力Fと見れば、数16が求まる。
【0117】
【数16】

【0118】
ノッチモデル制御における加振力Fから制御力Fcまでの伝達関数は、図18に示すノッチモデル制御のブロック線図から数15と同等である(そのようなノッチフィルタを用いるからである)。したがって、数16に数15を代入すれば、ノッチモデル制御における伝達関数が数17のように求まる。
【0119】
【数17】

【0120】
速度フィードバック制御における伝達関数を示す数13と、数17とを比較すれば、ノッチモデル制御の伝達関数は、適切なノッチフィルタを用いることにより、速度フィードバック制御における伝達関数と一致することがわかる。
【0121】
図19は、実固有振動数frと予測固有振動数fnが等しいという条件で、ノッチモデル制御における振幅倍率と無次元振動数Ωとの関係を示す図である。
【0122】
図19のグラフGP15は非制御の場合を示しており、図4におけるグラフGP2および図6におけるグラフGP7と同じグラフである。また、図19のグラフGP16は速度フィードバック制御の場合を示しており、図4におけるグラフGP3および図12におけるグラフGP11と同じグラフである。ただし、図19では縦軸のスケールが、図4、図6および図12における縦軸のスケールと変更されている。さらに、グラフGP17は、ノッチモデル制御の場合を示しており、グラフGP18はノッチフィルタの場合を示している。
【0123】
図19から明らかなように、ノッチモデル制御の場合を示すグラフGP17は、速度フィードバック制御の場合を示すグラフGP16と一致している。
【0124】
図20は、実固有振動数frと予測固有振動数fnが等しいという条件で、ノッチモデル制御における位相差φと無次元振動数Ωとの関係を示す図である。
【0125】
図20のグラフGP19は非制御の場合を示しており、図5におけるグラフGP5および図7におけるグラフGP9と同じグラフである。また、図20のグラフGP20は速度フィードバック制御の場合を示しており、図5におけるグラフGP6および図13におけるグラフGP13と同じグラフである。さらに、グラフGP21は、ノッチモデル制御の場合を示しており、グラフGP22はノッチフィルタを示している。
【0126】
図20からも明らかなように、ノッチモデル制御の場合を示すグラフGP21は、速度フィードバック制御の場合を示すグラフGP20と一致している。
【0127】
図21は、実固有振動数frと予測固有振動数fnが等しいという条件で、ノッチモデル制御において、同一振動数制御を行うために必要な制御力Fcを例示する図である。また、図22は、図21に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【0128】
一方、図23は、実固有振動数frと予測固有振動数fnが等しいという条件で、ノッチモデル制御において、異振動数制御を行うために必要な制御力Fcを例示する図である。また、図24は、図23に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【0129】
図21ないし図24は、いずれも図8ないし図11とそれぞれ一致している。すなわち、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが等しいとき、ノッチモデル制御は、速度フィードバック制御と一致し、疑似速度フィードバック制御を高精度に達成できることがわかる。
【0130】
図25は、実固有振動数frと予測固有振動数fnが異なるという条件で、ノッチモデル制御における振幅倍率と無次元振動数Ωとの関係を示す図である。
【0131】
図25のグラフGP23は非制御の場合を示しており、図6におけるグラフGP8と同じグラフである。また、図25のグラフGP24は速度フィードバック制御の場合を示しており、図12におけるグラフGP12と同じグラフである。ただし、図25では縦軸のスケールが、図6および図12における縦軸のスケールと変更されている。さらに、グラフGP25は、ノッチモデル制御の場合を示しており、グラフGP26はノッチフィルタを示している。
【0132】
図19におけるグラフGP18と、図25におけるグラフGP26を比較すれば明らかなように、グラフGP18とグラフGP26とは一致しており、ノッチフィルタは、振幅倍率について、実固有振動数frが予測固有振動数fnと等しいか否かの影響を受けない。
【0133】
一方、ノッチモデル制御では、ノッチフィルタ以外の構成(図18に破線で囲む部分)は、非制御のときの構成と等価である。したがって、図6に示したのと同様に、実固有振動数frが予測固有振動数fnと等しいか否かの影響を受け、グラフGP15に比べてグラフGP23はピーク位置が移動する。
【0134】
したがって、図25に示すように、ノッチモデル制御を示すグラフGP25は、速度フィードバック制御を示すグラフGP24と完全には一致せず、特に、同一振動数制御(Ω=1)の近傍において、不一致が顕著となる。
【0135】
図26は、実固有振動数frと予測固有振動数fnが異なるという条件で、ノッチモデル制御における位相差φと無次元振動数Ωとの関係を示す図である。
【0136】
図26のグラフGP27は非制御の場合を示しており、図7におけるグラフGP10と同じグラフである。また、図26のグラフGP28は速度フィードバック制御の場合を示しており、図13におけるグラフGP14と同じグラフである。さらに、グラフGP29は、ノッチモデル制御の場合を示しており、グラフGP30はノッチフィルタを示している。
【0137】
図20におけるグラフGP22と、図26におけるグラフGP30を比較すれば明らかなように、グラフGP22とグラフGP30とは一致している。したがって、ノッチフィルタは、振幅倍率と同様に、位相差φについても、実固有振動数frが予測固有振動数fnと等しいか否かの影響を受けない。
【0138】
一方、ノッチモデル制御では、ノッチフィルタ以外の構成(図18に破線で囲む部分)は、非制御のときの構成と等価であるから、図7に示したのと同様に、実固有振動数frが予測固有振動数fnと等しいか否かの影響を受け、グラフGP19に比べてグラフGP27はピーク位置が移動する。
【0139】
したがって、図26に示すように、ノッチモデル制御を示すグラフGP29は、速度フィードバック制御を示すグラフGP28と完全には一致せず、特に、同一振動数制御(Ω=1)の近傍において、不一致が顕著となる。
【0140】
しかし、図25および図26を見れば、異振動数制御(例えばfm=1.03fn)では、グラフGP24とグラフGP25との差、およびグラフGP28とグラフGP29との差は、いずれも小さい。すなわち、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが異なる場合には、ノッチモデル制御は異振動数制御を実行することによって精度が向上することがわかる。
【0141】
図27は、実固有振動数frと予測固有振動数fnが異なるという条件で、ノッチモデル制御において、同一振動数制御を行うために必要な制御力Fcを例示する図である。また、図28は、図27に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【0142】
一方、図29は、実固有振動数frと予測固有振動数fnが異なるという条件で、ノッチモデル制御において、異振動数制御を行うために必要な制御力Fcを例示する図である。また、図30は、図29に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【0143】
実固有振動数frと予測固有振動数fnとが異なる場合において、ノッチモデル制御で、かつ、同一振動数制御を行うと、図28に示すように、定常状態における振幅が、小さくなることがわかる。図28に示す例では、目標振幅R「1mm」に対して、定常状態の振幅は「0.4mm」にまで低下しており、その差が大きいことがわかる。
【0144】
また、実固有振動数frが予測固有振動数fnとが異なる場合において、ノッチモデル制御で、かつ、異振動数制御を行うと、図30に示すように、定常状態における振幅が、大きくなることがわかる。図30に示す例では、目標振幅R「1mm」に対して、定常状態の振幅は「1.2mm」に増加しており、その差は同一振動数制御に比べて小さいことがわかる。
【0145】
また、図30から明らかなように、実固有振動数frが予測固有振動数fnとが異なる場合において、ノッチモデル制御で、かつ、異振動数制御を行うと、過渡状態において「うなり」が生じ、このときの振幅は目標振幅R「1mm」に対して「1.3mm」であることがわかる。
【0146】
図31は、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが異なるという条件で、非制御かつ異振動数制御を行った場合の変位xを例示する図である。非制御において、異振動数制御を行うと、図31に示すように、「うなり」による振幅は目標振幅Rの2倍以上にも達する。このような「うなり」が発生する状態では、機械の破損を防止するために、機械強度に対して半分以下の目標振幅Rしか設定することができない。
【0147】
一方、速度フィードバック制御における状態を示す図17とノッチモデル制御における状態を示す図30とを比較すれば、ノッチモデル制御は「うなり」が発生する。したがって、速度フィードバック制御に比べて、ノッチモデル制御は過渡状態における問題があると言える。しかし、非制御における状態を示す図31と比較すれば、ノッチモデル制御は、非制御のときと比べて、「うなり」が抑制されていることがわかる。
【0148】
次に、ノッチモデル制御において、搬送装置1を間欠駆動させる場合について評価を行う。本実施の形態では、1秒間駆動した後、1秒間停止させる場合を例に、間欠駆動を評価する。
【0149】
図32は、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが等しいという条件で、ノッチモデル制御において、同一振動数制御でかつ間欠駆動させる場合の制御力Fcを例示する図である。また、図33は、図32に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【0150】
図34は、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが等しいという条件で、ノッチモデル制御において、異振動数制御でかつ間欠駆動させる場合の制御力Fcを例示する図である。また、図35は、図34に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【0151】
なお、図32における「駆動」の区間における制御力Fcは、図21に示す制御力Fcとなっている。また、図34における「駆動」の区間における制御力Fcは、図23に示す制御力Fcとなっている。さらに、図32および図34における「停止」の区間における制御力Fcは、目標振幅Rを「0」として演算した制御力Fcであり、抑制加振力によるものである。
【0152】
図33および図35から明らかなように、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが等しいという条件では、ノッチモデル制御は、同一振動数制御と異振動数制御との違いは少なく、いずれも間欠駆動が高精度に実現可能であることがわかる。
【0153】
図36は、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが異なるという条件で、ノッチモデル制御において、同一振動数制御でかつ間欠駆動させる場合の制御力Fcを例示する図である。また、図37は、図36に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【0154】
図38は、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが異なるという条件で、ノッチモデル制御において、異振動数制御でかつ間欠駆動させる場合の制御力Fcを例示する図である。また、図39は、図38に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【0155】
なお、図36における「駆動」の区間における制御力Fcは、図27に示す制御力Fcとなっている。また、図38における「駆動」の区間における制御力Fcは、図29に示す制御力Fcとなっている。さらに、図36および図38における「停止」の区間における制御力Fcは、目標振幅Rを「0」として演算した制御力Fcであり、抑制加振力によるものである。
【0156】
図37から明らかなように、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが異なるという条件では、ノッチモデル制御を同一振動数制御で実行すると、搬送装置1は間欠駆動できないことがわかる。一方、図39から明らかなように、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが異なるという条件では、ノッチモデル制御を異振動数制御で実行すると、振幅の成長と減衰とが完全ではないものの、一応の間欠駆動が実現できることがわかる。
【0157】
物品を複数のグループに分けて計量し、個々に計量したグループの中から選択されたグループに含まれる物品のみを組合せて、その重量が所望の重量にする組合せ計量装置が提案されている。このような組合せ計量装置では、物品をグループごとに搬送するために、個々のグループに対応した複数の搬送装置が用いられ、個々の搬送装置は組合せサイクルに応じて間欠駆動される。このような組合せ計量装置で用いられる搬送装置は、組合せ計量装置における組合せ効率を向上させるために、間欠駆動を高精度に制御できることが要求される。本実施の形態における搬送装置1は、例えば、図33や図39に示すように、間欠駆動を高精度に制御することができるので、組合せ計量装置において、特に優れた効果を奏する。
【0158】
以上のように、本実施の形態における搬送装置1は、速度フィードバック制御を模擬的に実現した疑似速度フィードバック制御を行うことによって、振動速度センサ等の構成が不要であるため、装置コストを抑制することができる。
【0159】
また、疑似速度フィードバック制御を実現するために、ノッチフィルタを用いた開ループ制御(ノッチモデル制御)を行うことにより、疑似速度フィードバック制御を容易に、かつ高精度に実現することができる。
【0160】
特に、搬送時の振動における実固有振動数frを高精度に予測(あるいは測定)できる場合には、駆動振動数fmを予測固有振動数fnと等しくなるように設定して制御(同一振動数制御に切り替えて制御)することにより、小さい加振力(制御力)で効率よく、かつ高精度の疑似速度フィードバック制御を実現できる(図22および図33)。
【0161】
また、搬送時の振動における実固有振動数frを高精度に予測(あるいは測定)できない場合には、駆動振動数fmを予測固有振動数fnからずらして設定して制御(異振動数制御に切り替えて制御)することにより、高精度の疑似速度フィードバック制御を実現できる(図30および図39)。
【0162】
<2. 第2の実施の形態>
第1の実施の形態では、速度フィードバック制御を、ノッチフィルタを用いた開ループ制御(ノッチモデル制御)によって模擬的に実現する手法について説明したが、速度フィードバック制御を模擬する手法はこれに限られるものではない。
【0163】
まず、加振力Fを角周波数ω、振幅Foの正弦波とすると、ラプラス変換により数15から、数18が求まる。
【0164】
【数18】

【0165】
数18をラプラス逆変換すると数19が求まる。
【0166】
【数19】

【0167】
ただし、係数αは数20で求まり、粘性減衰系の固有振動数ωdは数21で求まる。
【0168】
【数20】

【0169】
【数21】

【0170】
ここで、係数A,B,C,Dについて、数22ないし数25とおくと、ノッチモデル制御における制御力Fcは数26で表せる。
【0171】
【数22】

【0172】
【数23】

【0173】
【数24】

【0174】
【数25】

【0175】
【数26】

【0176】
数26における係数E,Gは振動の大きさを表し、θ,ψは入力正弦波との位相差を表している。このように、ノッチモデル制御の制御力Fcは、2つの成分の足し合わせで表される。数26の第1項は成長加振力に関する成分(振幅を増加させるための成分、以下「第1成分」と称する)であり、第2項は補完加振力に関する成分(駆動しつづけるための成分、以下「第2成分」と称する)である。
【0177】
以下、2つの成分の足し合わせによって制御する手法を、説明の便宜上、「成分加算制御」と称する。
【0178】
図40は、ノッチモデル制御を成分加算制御に変換する様子を示すブロック線図である。成分加算制御はノッチフィルタを用いない制御手法であり、図40(数26)に示すように、各成分を決定すれば、第1の実施の形態で説明したノッチモデル制御とほぼ等価な制御を実現できる。すなわち、成分加算制御も、速度フィードバック制御を模擬的に実現する疑似速度フィードバック制御である。
【0179】
なお、係数A,B,C,Dは数18と数26を係数比較することで算出可能で、その結果、成分加算制御(数26)における振幅E,Gおよび位相差θ,ψを決定することができる。
【0180】
図41は、成分加算制御における第1成分の制御力を例示する図である。また、図42は、成分加算制御における第2成分の制御力を例示する図である。なお、図41および図42は、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが等しいという条件で、同一振動数制御を行う場合を示す。
【0181】
成分加算制御における制御力Fcの第1成分は位相が遅れた(図41に示す例では約16deg)粘性減衰正弦波となり、制御力Fcの第2成分は位相が進んだ(図42に示す例では約70deg)正弦波となる。
【0182】
図43は、図41に示す制御力による変位xを例示する図である。また、図44は、図42に示す制御力による変位xを例示する図である。さらに、図45は、図43および図44に示す変位xを足し合わせた変位xを例示する図である。すなわち、図45は、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが等しいという条件で、成分加算制御において同一振動数制御を行う場合の変位xを示している。
【0183】
図46は、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが等しいという条件で、成分加算制御において異振動数制御を行うために必要な制御力Fcを例示する図である。また、図47は、図46に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【0184】
図45に示す結果は、図15および図22に示す結果と一致している。また、図46に示す結果は、図16および図23に示す結果と一致している。さらに、図47に示す結果は、図17および図24に示す結果と一致している。
【0185】
このことから、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが等しいという条件において、成分加算制御は、速度フィードバック制御を高精度に実現する疑似速度フィードバック制御であり、かつ、ノッチモデル制御と等価な制御となる。
【0186】
図48は、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが異なるという条件で、成分加算制御において異振動数制御を行うために必要な制御力Fcを例示する図である。また、図49は、図48に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【0187】
図48に示す結果は、図29に示す結果と一致している。また、図49に示す結果は、図30に示す結果と一致している。
【0188】
このことから、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが異なるという条件において、成分加算制御は、ノッチモデル制御と等価な制御となる。したがって、成分加算制御は、速度フィードバック制御を、ノッチモデル制御と同等の精度で実現する疑似速度フィードバック制御と言える。
【0189】
以上のことから、第2の実施の形態における搬送装置1のように、成分加算制御を行った場合にも、第1の実施の形態と同等の効果を得ることができる。
【0190】
<3. 第3の実施の形態>
振動している振動部2に与える加振力を「0」にするだけでは、振動は減衰振動となるため、停止するまでに比較的長時間を要する。しだかって、振動を停止させるためには抑制加振力が必要となる。上記実施の形態では、抑制加振力を求める場合に、目標振幅Rを「0」とおいて演算するとして説明した。しかし、抑制加振力を求める手法はこれに限られるものではない。
【0191】
第3の実施の形態における搬送装置1は、制御力Fc(駆動開始時に与えた制御力、以下「制御力Fon」と称する)の逆位相を、停止時に与える制御力(以下、「制御力Foff」と称する)とする。このとき、制御力Foffを与えるタイミングは、制御力Fonの周期に基づいて決定する。以下において、第2の実施の形態における成分加算制御において、抑制加振力を求める例について具体的に説明する。
【0192】
図41に示すように、成分加算制御における第1成分は急速に減衰する。これにより、成分加算制御において振動を停止させる時点では、すでに第1成分の影響は小さいとみなす。したがって、制御部4は、第2成分の周期に基づいて制御力Foffを与えるタイミングを決定する。
【0193】
まず、整数をNとすると、間欠駆動における駆動時間Tonは、Ton=N/fmで表すことができる。これにより、制御力Foffの位相遅れは、Ton×ω=2πNとなり、間欠駆動における制御力Fcは、数27で表される。
【0194】
【数27】

【0195】
図50は、間欠駆動における制御力Fcを例示する図である。また、図51は、図50に示す制御力Fcの停止区間における状態を詳細に示す図である。図50および図51は、実固有振動数frと予測固有振動数fnとが等しいという条件で、成分加算制御を異振動数制御で実行した場合を示す。
【0196】
グラフGP31は、制御力Foffがない場合の制御力Fonを示すグラフである。また、グラフGP32は、制御力Foffを示すグラフである。さらに、グラフGP33は、図50の制御力Fcを示すグラフである。
【0197】
図51を見れば、制御力Fonの逆位相である制御力Foffが与えられることによって、制御力Fonの第2成分は、制御力Foffの第2成分によって打ち消されることがわかる。すなわち、これによって、いわば補完加振力を停止する(「0」とする)効果が得られている。
【0198】
図50および図51から明らかなように、停止区間では、制御力Fonの第1成分はすでに減衰しており、制御力Foffの第1成分が制御力Fcにおいて支配的となる。また、制御力Foffの第1成分は、制御力Fonの第1成分と同様に急激に減衰するため、制御力Fcも急激に減衰することがわかる。
【0199】
図52は、図50に示した制御力Fcと、速度フィードバック制御における制御力Fcとを例示する図である。また、図53は、図50に示した制御力Fcによる変位xと、速度フィードバック制御における変位xとを例示する図である。なお、グラフGP34は図50の制御力Fcを示すグラフであり、グラフGP35は速度フィードバック制御における制御力Fcを示すグラフである。また、グラフGP36は図50の制御力Fcによる変位xを示すグラフであり、グラフGP37は速度フィードバック制御における変位xを示すグラフである。
【0200】
図52から明らかなように、グラフGP34とグラフGP35とが一致しており、図53から明らかなように、グラフGP36とグラフGP37とが一致している。
【0201】
すなわち、第3の実施の形態における搬送装置1のように、駆動時に必要な制御力Fonに対する逆位相の制御力Foffを、停止時に与えることによって、速度フィードバック制御と同等の制御(疑似速度フィードバック制御)が実現できることがわかる。
【0202】
以上のように、第3の実施の形態における制御部4は、振動部2を加振する際の加振力に基づいて、振動部2を減振させる際の加振力を求める。これにより、制御部4における演算量が減るので、制御部4の負担が軽減される。
【0203】
<4. 第4の実施の形態>
上記実施の形態では、設定部5は、制御電流が連続的に変化するように、制御電流に関するパラメータを設定すると説明した。
【0204】
しかし、振動部2が振動する間において、制御電流は必ずしも連続的に与えられる必要はない。また、制御電流を決定するためには、電力供給部6の電圧を決定すればよいので、設定部5は電力供給部6の電圧を決定するパラメータを設定することによって、制御電流に関するパラメータを間接的に設定してもよい。
【0205】
図54は、設定部5が設定した電圧パルス列を例示する図である。図55は、図54に示す電圧パルス列によって電磁石30に流れる制御電流を例示する図である。図56は、図55に示す制御電流による振動部2の振動加速度を示す図である。
【0206】
図57ないし図59は、図54ないし図56の駆動開始時間t0の前後を拡大して示す図である。図54ないし図59では、駆動開始時間t0を「0」として示している。
【0207】
本実施の形態における設定部5が、図54に示すような電圧パルス列を電力供給部6に伝達することにより、図55に示すように、制御電流は複数のパルス状の電流からなる間欠電流となる。
【0208】
ここでは、間欠電流のN番目のパルス状電流の供給開始時間をIPTsN、供給継続時間をIPTN、電流値をIPNとする(1番目のパルス状電流については図58に示す)。
【0209】
なお、1番目のパルス状電流の供給開始時間IPTs1は、振動部2が振動を開始する時間であるから、駆動開始時間t0である。また、供給開始時間をIPTsNは、各パルス状電流のパルス間隔を決定するパラメータである。
【0210】
本実施の形態における設定部5は、振動部2が振動する間において、制御電流の電流値がパルス状に変化する間欠電流となるように、制御電流の各パルス状電流について供給開始時間IPTsN、供給継続時間IPTNおよび電流値IPNを設定する。
【0211】
まず、設定部5は、上記実施の形態に示めした演算手法に従って、振動部2に与える加振力を求め、これに基づいて電磁石30に供給する制御電流を求める。本実施の形態ではパルス状電流によって加振力を与えるので、n番目のパルス状電流のパラメータを次のようにして求める。
【0212】
供給開始時間IPTsNは、必要とする精度に基づいて任意に設定する(ただし、供給開始時間IPTs1は常にt0)。すなわち、個々のパルス状電流について独立して設定する。
【0213】
次に、n−1番目のパルス状電流を供給してからn番目のパルス状電流を与えるまでの間(パルス間隔:IPTsn−IPTs(n−1))に、加振部3が振動部2に与えるべき力積を演算する。この力積は、例えば、パルス間隔における加振力の積分として求めることができるが、当然、個々のパルス状電流ごとに値が異なる。設定部5は、このようにして求めた力積に基づいて、n番目のパルス状電流によって与えるべき力積を求め、これに基づいてn番目のパルス状電流の供給継続時間IPTnおよび電流値IPnを決定する。すなわち、個々のパルス状電流の供給継続時間IPTnおよび電流値IPnは独立して設定される。
【0214】
このように、設定部5は、個々のパルス状電流ごとに、供給開始時間IPTsN、供給継続時間IPTNおよび電流値IPNをそれぞれ独立して設定可能である。したがって、加振力の制御精度を向上できる。
【0215】
例えば、振動部2の振動が定常振動に収束するまでの間のように、振動部2が過渡状態にあり、制御電流について比較的精度が要求される場面では、設定部5は、各パルス状電流の間隔を縮めるように個々独立に設定する。図58に示すように、1番目のパルス状電流と2番目のパルス状電流との時間間隔は、2番目のパルス状電流と3番目のパルス状電流との時間間隔に比べて狭くなっている。
【0216】
一方、図55に示すように、後半のパルス状電流(定常状態における制御電流)については、個々のパルス状電流の供給継続時間IPTNを互いに同一に設定し、かつ、パルス間隔も同一となるように供給開始時間IPTsNを設定する。
【0217】
このように、設定部5は、振動部2の振動が定常振動に収束するまでの間に設定する複数のパルス状の電流についてはそれぞれの供給開始時間IPTsNおよび供給継続時間IPTNを独立して設定し、振動部2の振動が定常振動に収束している間に設定する複数のパルス状の電流については周期的に設定する。
【0218】
また、設定部5は、振動部2の振動が定常振動に収束するまでの過渡状態において設定する複数のパルス状電流についてはそれぞれの電流値IPNを互いに異なるように設定し、振動部2の振動が定常振動に収束している間に設定する複数のパルス状電流についてはそれぞれの電流値IPNを互いに等しくなるように設定する。
【0219】
これによって、比較的精度が要求される過渡状態では、パルス状電流が個々独立して制御されるので、この間の制御電流を高精度に制御できる。一方、振動部2が定常状態にあるときのように、必要とされる個々のパルス状電流が互いに似た状態の場合には、同一のパルス状電流を周期的に与えることにより、振動部2に与えられる加振力の精度の低下を抑制しつつ、設定部5の演算量を抑制できる。
【0220】
以上のようにして、設定部5は、個々のパルス状電流に関するパラメータを設定することによって、間欠電流(例えば、図55および図58)である制御電流を求める。
【0221】
必要な制御電流が求まると、設定部5は、求めた制御電流を供給するための電圧を求める。本実施の形態では、制御電流がパルス状電流であるため、電圧も電圧パルス列で設定することができる。
【0222】
設定部5は、各パルス状電流に対応したパルス状電圧を求めて電圧パルス列を設定し、これを表す信号パルス(例えば、図54および図57)を求めて電力供給部6に伝達する。
【0223】
このように、設定部5は、電圧パルス列を示す信号パルス列によって電力供給部6を制御し、この信号パルス列に基づいて電力供給部6が電圧パルス列を決定し、これにより電力供給部6から制御電流が加振部3に供給される。すなわち、設定部5が信号パルス列を設定することによって、振動部2に与えられる加振力が制御される。
【0224】
<5. 第5の実施の形態>
上記第4の実施の形態では、振動の立ち上げ時の加振力(成長加振力および補完加振力)を制御する場合に、間欠電流を供給する例について説明したが、振動を停止するときの加振力(抑制加振力)を制御する場合にも間欠電流を供給することができる。
【0225】
図60は、本実施の形態における設定部が設定した電圧パルス列(信号パルス列)を例示する図である。また、図61は、図60に示す電圧パルス列によって電磁石30に流れる制御電流を例示する図である。さらに図62は、図61に示す制御電流による振動部2の振動加速度を示す図である。
【0226】
図60に示すように、本実施の形態における設定部5は、振動部2の振動を停止させるときに、停止パルスSTPを設定する。
【0227】
停止パルスSTPは、第4の実施の形態と同様に、抑制加振力に基づいて演算される。
【0228】
図61に示すように、停止パルスSTPによって、電磁石30には、パルス状電流STIPが供給される。なお、パルス状電流STIPの供給開始時間、供給継続時間および電流値は停止パルスSTPにより決定されている。
【0229】
パルス状電流STIPが電磁石30に供給されると、加振部3には抑制加振力が発生し、これが振動部2に与えられるため、図62に示すように、振動部2の加速度は、停止パルスSTPが設定された後、急激に減衰している。一方、停止パルスSTPによって抑制加振力を与えない場合には、図56に示すように、パルス状電流を停止した後も、振動部2の加速度は直ちに「0」とはならず、長時間振動が継続する。
【0230】
なお、本実施の形態では、停止パルスSTPとして、1つの信号パルスのみ設定する例について説明したが、停止パルスSTPの数はこれに限られるものではなく、もちろん複数であってもよい。
【0231】
このように、設定部5は、振動部2の振動を停止させる際に設定する複数のパルス状の電流(パルス状電流STIP)についてはそれぞれの供給開始時間、供給継続時間および電流値を、停止パルスSTPによって個々独立して設定する。
【0232】
<6. 変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変形が可能である。
【0233】
例えば、第1ないし第3の実施の形態では、設定部5は電力供給部6の制御電流を直接制御するように説明した。しかし、電力供給部6の電圧を決定すれば電流が決定されることは、電流を連続的に変化させる場合であっても同様である。したがって、第1ないし第4の実施の形態においても、第4の実施の形態と同様に、設定部5は、電力供給部6の電圧を直接制御することにより、制御電流を間接的に制御してもよい。
【0234】
また、上記実施の形態では、疑似速度フィードバック制御において、個々のパルス状電流の供給開始時間および供給継続時間を独立して制御する例を説明した。しかし、個々のパルス状電流の供給開始時間および供給継続時間を独立して制御するのは、疑似速度フィードバック制御に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0235】
【図1】本発明に係る搬送装置を示す図である。
【図2】制御部の構成を示すブロック図である。
【図3】速度フィードバック制御を示すブロック線図である。
【図4】振幅倍率(X/Xst)と、無次元振動数Ωとの関係を示す図である。
【図5】位相差φと無次元振動数Ωとの関係を示す図である。
【図6】非制御のときの振幅倍率と無次元振動数Ωとの関係を示す図である。
【図7】非制御のときの位相差φと無次元振動数Ωとの関係を示す図である。
【図8】速度フィードバック制御において、同一振動数制御を行う場合に必要な制御力Fcを例示する図である。
【図9】図8に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【図10】速度フィードバック制御において、異振動数制御を行う場合に必要な制御力Fcを例示する図である。
【図11】図10に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【図12】速度フィードバック制御における振幅倍率と無次元振動数Ωとの関係を示す図である。
【図13】速度フィードバック制御における位相差φと無次元振動数Ωとの関係を示す図である。
【図14】速度フィードバック制御において、同一振動数制御を行う場合に必要な制御力Fcを例示する図である。
【図15】図14に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【図16】速度フィードバック制御において、異振動数制御を行う場合に必要な制御力Fcを例示する図である。
【図17】図16に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【図18】速度フィードバック制御を疑似速度フィードバック制御であるノッチモデルに変換する様子を示すブロック線図である。
【図19】fr=fnという条件で、ノッチモデル制御を行った場合における振幅倍率と無次元振動数Ωとの関係を示す図である。
【図20】fr=fnという条件で、ノッチモデル制御を行った場合における位相差φと無次元振動数Ωとの関係を示す図である。
【図21】fr=fnという条件で、ノッチモデル制御において同一振動数制御を行うために必要な制御力Fcを例示する図である。
【図22】図21に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【図23】fr=fnという条件で、ノッチモデル制御において異振動数制御を行うために必要な制御力Fcを例示する図である。
【図24】図23に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【図25】fr≠fnという条件で、ノッチモデル制御における振幅倍率と無次元振動数Ωとの関係を示す図である。
【図26】fr≠fnという条件で、ノッチモデル制御における位相差φと無次元振動数Ωとの関係を示す図である。
【図27】fr≠fnという条件で、ノッチモデル制御において、同一振動数制御を行うために必要な制御力Fcを例示する図である。
【図28】図27に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【図29】fr≠fnという条件で、ノッチモデル制御において、異振動数制御を行うために必要な制御力Fcを例示する図である。
【図30】図29に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【図31】fr≠fnという条件で、非制御において異振動数制御を行った場合の変位xを例示する図である。
【図32】図21と同一条件で間欠駆動させる場合の制御力Fcを例示する図である。
【図33】図32に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【図34】図23と同一条件で間欠駆動させる場合の制御力Fcを例示する図である。
【図35】図34に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【図36】図27と同一条件で間欠駆動させる場合の制御力Fcを例示する図である。
【図37】図36に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【図38】図29と同一条件で間欠駆動させる場合の制御力Fcを例示する図である。
【図39】図38に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【図40】ノッチモデル制御を、第2の実施の形態における成分加算制御に変換する様子を示すブロック線図である。
【図41】第2の実施の形態の成分加算制御における第1成分の制御力を例示する図である。
【図42】第2の実施の形態の成分加算制御における第2成分の制御力を例示する図である。
【図43】図41に示す制御力による変位xを例示する図である。
【図44】図42に示す制御力による変位xを例示する図である。
【図45】図43および図44に示す変位xを足し合わせた変位xを例示する図である。
【図46】fr≠fnという条件で、成分加算制御において異振動数制御を行うために必要な制御力Fcを例示する図である。
【図47】図46に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【図48】fr≠fnという条件で、成分加算制御において異振動数制御を行うために必要な制御力Fcを例示する図である。
【図49】図48に示す制御力Fcによる変位xを例示する図である。
【図50】第3の実施の形態に係る間欠駆動における制御力Fcを例示する図である。
【図51】図50に示す制御力Fcの停止区間における状態を詳細に示す図である。
【図52】図50に示した制御力Fcと、速度フィードバック制御における制御力Fcとを例示する図である。
【図53】図50に示した制御力Fcによる変位xと、速度フィードバック制御における変位xとを例示する図である。
【図54】第4の実施の形態における設定部が設定した電圧パルス列(信号パルス列)を例示する図である。
【図55】図54に示す電圧パルス列によって電磁石に流れる制御電流を例示する図である。
【図56】図55に示す制御電流による振動部の振動加速度を示す図である。
【図57】図54の駆動開始時間t0の前後を拡大して示す図である。
【図58】図55の駆動開始時間t0の前後を拡大して示す図である。
【図59】図56の駆動開始時間t0の前後を拡大して示す図である。
【図60】第5の実施の形態における設定部が設定した電圧パルス列(信号パルス列)を例示する図である。
【図61】図60に示す電圧パルス列によって電磁石に流れる制御電流を例示する図である。
【図62】図61に示す制御電流による振動部の振動加速度を示す図である。
【符号の説明】
【0236】
1 搬送装置
2 振動部
20 フィーダ
3 加振部
30 電磁石
31 可動鉄心
4 制御部
5 設定部
6 電力供給部
F 加振力
IPN 電流値
IPTN 供給継続時間
IPTsN 供給開始時間
R 目標振幅
fm 駆動振動数
fn 予測固有振動数
fr 実固有振動数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動によって物品を搬送する搬送装置であって、
物品が載置されるとともに、与えられる加振力によって振動する振動部と、
前記振動部に与える加振力を発生させる加振手段と、
前記振動部の目標振幅に基づいて速度フィードバックを模擬して前記加振手段を開ループ制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
請求項1に記載の搬送装置であって、
前記制御手段は、ノッチフィルタを用いた演算に基づいて前記加振手段を制御することを特徴とする搬送装置。
【請求項3】
請求項1に記載の搬送装置であって、
前記制御手段は、前記振動部を加振するための第1加振力成分と、前記振動部を定常振動させるための第2加振力成分とに基づいて前記加振手段を制御することを特徴とする搬送装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の搬送装置であって、
前記加振手段は、
電磁場を発生させる電磁石と、
前記電磁石により発生した電磁場によって電磁力が作用する作用体と、
を備え、
前記制御手段は、
前記電磁石に電流を供給する電力供給手段と、
前記振動部が振動する間において、前記電流の電流値が連続的に変化するように、前記電流の電流値の周期および振幅を設定する設定手段と、
を備え、
前記加振手段は、前記電磁力を加振力とすることを特徴とする搬送装置。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載の搬送装置であって、
前記加振手段は、前記振動部に与える加振力を発生させる電磁石を備え、
前記制御手段は、
前記電磁石に電流を供給する電力供給手段と、
前記振動部が振動する間において、前記電流の電流値がパルス状に変化する間欠電流となるように、前記電流の供給開始時間、供給継続時間および電流値を設定する設定手段と、
を備えることを特徴とする搬送装置。
【請求項6】
請求項5に記載の搬送装置であって、
前記設定手段は、個々のパルス状の電流ごとに、供給開始時間および供給継続時間を独立して設定可能であることを特徴とする搬送装置。
【請求項7】
請求項6に記載の搬送装置であって、
前記設定手段は、前記振動部の振動が定常振動に収束するまでの間に設定する複数のパルス状の電流についてはそれぞれの供給開始時間および供給継続時間を独立して設定し、前記振動部の振動が定常振動に収束している間に設定する複数のパルス状の電流については周期的に設定することを特徴とする搬送装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の搬送装置であって、
前記設定手段は、前記振動部の振動を停止させる際に設定する複数のパルス状の電流についてはそれぞれの供給開始時間および供給継続時間を独立して設定することを特徴とする搬送装置。
【請求項9】
請求項5ないし8のいずれかに記載の搬送装置であって、
前記設定手段は、電圧パルス列によって前記電流の供給開始時間、供給継続時間および電流値を設定することを特徴とする搬送装置。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の搬送装置であって、
前記制御手段は、前記振動部を加振する際の加振力に基づいて、前記振動部を減振させる際の加振力を求めることを特徴とする搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【図59】
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【図60】
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【図61】
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【図62】
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【公開番号】特開2007−246236(P2007−246236A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−73048(P2006−73048)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000147833)株式会社イシダ (859)
【Fターム(参考)】