説明

搭載艇揚降装置

【課題】揚降の対象となる艇の位置範囲を拡大することの可能な搭載艇揚降装置を提供する。
【解決手段】甲板DBに設置されて搭載艇と係合する吊索23を繰り込むクレーン体11と、搭載艇に固定された艇固定枠にクレーン体11の先端を係合するアタッチメント30とを備える搭載艇揚降装置であって、アタッチメント30の基端は、クレーン体11の先端に回転可能に支持され、アタッチメント30には、該アタッチメント30の基端から先端へ吊索23が挿通され、クレーン体11は、クレーン体11の先端を甲板DBの外側へ向ける姿勢とクレーン体11の先端を甲板DBの内側へ向ける姿勢とを取り、アタッチメント30の基端とクレーン体11の先端との連結部には、二つのシーブ25A,25Bが取り付けられるとともに、該二つのシーブ25A,25Bの間に吊索23が挟まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、巡視船、艦船等の各種船舶に搭載される作業用、救命用等の艇を揚げ降ろしする装置である搭載艇揚降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば特許文献1に記載のように、巡視船や艦船等の各種船舶には、作業や救命等に用いられる艇が搭載されている。また船舶には、こうした艇を揚げ降ろしするための搭載艇揚降装置が備えられている。上記文献に記載の搭載艇揚降装置を、図6を参照して以下に説明する。
【0003】
船舶の甲板DBに固定される固定ポスト101には、固定ポスト101に対して旋回可能に旋回ポスト102が連結されるとともに、旋回ポスト102の先端部には、該旋回ポスト102に対して上下方向への傾動が可能なようにアーム103が連結されている。アーム103を構成する各ブームのうち、旋回ポスト102に対して回転可能に連結されたインナーブーム103Aの先端部には、インナーブーム103Aに対して回転可能にアウターブーム103Bが連結されている。また、アウターブーム103Bの先端部には、アーム103を搭載艇LSに係合するアタッチメント104がそれの自重で回転可能に連結されている。このような構成によれば、旋回ポスト102による旋回と、アーム103による上下方向への傾動とによって、アタッチメント104の位置が定められる。
【0004】
また、アウターブーム103Bの基端部には、ワイヤーロープ等の吊索105の繰り出し及び繰り込みを行うウインチ106が装着される一方、アウターブーム103Bの先端部には、吊索105が掛け渡されるシーブ107が設けられている。そして、ウインチ106から繰り出される吊索105は、該吊索105の先端にフック108が取り付けられた状態で、これらシーブ107とアタッチメント104の内部とを介して吊り下げられる。こうした搭載艇揚降装置では、吊索105の先端に取り付けられたフック108とアタッチメント104とが搭載艇に係合された状態で、搭載艇の揚げ降ろしが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−112622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した搭載艇揚降装置においては、アタッチメント104とシーブ107とが同一の軸によってアウターブーム103Bに連結されている。そのため、搭載艇揚降装置の設置された甲板DBと平行な面上にアウターブーム103Bが配置されるとき、ウインチ106からシーブ107までの吊索105と、シーブ107からフック108までの吊索とのなす角度である吊索角度θ1は、略90°である。そして、アウターブーム103Bが含まれる平面と水平面とのなす角度であるブーム角度θ2が大きくなるにつれて、上記吊索角度θ1も次第に大きくなる。それゆえに、例えばブーム角度θ2が80°を超えるような角度になると、吊索角度θ1が180°に近くなるために、吊索105がシーブ107から外れてしまう。このように吊索105がシーブ107から外れた状態で搭載艇の揚げ降ろしが行われる場合には、吊り下げられた状態の搭載艇が搭載艇揚降装置に対して揺動しやすくなる結果、耐久荷重を超えるような荷重が搭載艇揚降装置に加わることも少なくない。それゆえに、上記搭載艇揚降装置では、ブーム角度θ2が80°を超えないような範囲でアウターブーム103Bが駆動されるため、搭載艇揚降装置の使用態様
が大きく制約されることになる。例えば、図6に示されるように、上述した構成では、アウターブーム103Bの先端を鉛直方向に向けて同アウターブーム103Bを配置したり、アウターブーム103Bの先端を甲板に向けて同アウターブーム103Bを配置したりすることが困難である。その結果、搭載艇揚降装置が甲板DBの縁近傍に設置される場合には、搭載艇を甲板DBの近くに降ろすことが不可能となっている。
【0007】
この発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、揚降の対象となる艇の位置範囲を拡大することの可能な搭載艇揚降装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する請求項1に記載の発明は、船舶の甲板に設置されて搭載艇と係合する吊索を繰り込むクレーン体と、前記搭載艇に固定された艇固定枠に前記クレーン体の先端を係合するアタッチメントとを備える搭載艇揚降装置であって、前記アタッチメントの基端は、前記クレーン体の先端に回転可能に支持され、前記アタッチメントには、該アタッチメントの基端から先端へ前記吊索が挿通され、前記クレーン体は、前記クレーン体の先端を前記甲板の外側へ向ける姿勢と前記クレーン体の先端を前記甲板の内側へ向ける姿勢とを取り、前記アタッチメントの基端と前記クレーン体の先端との連結部には、二つのシーブが取り付けられるとともに、該二つのシーブの間に前記吊索が挟まれていることを要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、アタッチメントとクレーン体との連結部にて、吊索を挟むように二つのシーブが取り付けられる。上述したように、クレーン体に対するアタッチメントの姿勢によっては、該アタッチメントへ繰り出すための吊索がシーブから外れる場合がある。一方、吊索を挟むように二つのシーブが取り付けられる構成であれば、一方のシーブから吊索が外れるとしても、該外れた吊索は、他方のシーブによって案内されることとなる。それゆえに、吊索がシーブから外れることを抑えつつ、クレーン体に対して取り得るアタッチメントの姿勢の範囲を拡大させることが可能となる。ひいては、揚降の対象となる艇の位置範囲を拡大することが可能となる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の搭載艇揚降装置において、前記二つのシーブは、前記クレーン体の先端に設けられることを要旨とする。
上記構成によれば、二つのシーブが互いに共通するクレーン体の先端に設けられるため、これら二つのシーブの取り付け位置がクレーン体とアタッチメントとに分かれる構成と比較して、二つのシーブの位置や姿勢を合わせることが容易となる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の搭載艇揚降装置において、前記二つのシーブは、前記クレーン体の先端に設けられるシーブと前記アタッチメントの基端に設けられるシーブとから構成されることを要旨とする。
【0012】
上記構成によれば、二つのシーブの取り付け位置がクレーン体とアタッチメントとに分かれるため、これら二つのシーブが互いに共通するクレーン体に取り付けられる構成と比較して、シーブの取り付け位置や姿勢の範囲を拡大することが可能となる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の搭載艇揚降装置において、前記二つのシーブは、一つの平面上に併設されることを要旨とする。
上記構成によれば、二つのシーブが一つの平面上に併設される。そのため、これら二つのシーブが互いに異なる平面上に取り付けられる構成と比較して、二つのシーブに挟まれる吊索がシーブから外れ難くなる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の搭載艇揚降装置において、前記二つのシー
ブは、鉛直方向を含む平面上に併設されることを要旨とする。
上記構成によれば、二つのシーブが一つの鉛直面上に併設される。そのため、これら二つのシーブが鉛直面とは異なる平面上に取り付けられる構成と比較して、一方のシーブから外れた吊索が他方にシーブに巻き回されやすくなる。
【発明の効果】
【0015】
上記発明によれば、揚降の対象となる艇の位置範囲を拡大することの可能な搭載艇揚降装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態における搭載艇揚降装置の側面構造を示す側面図。
【図2】(a)アタッチメントの正面構造を示す正面図、(b)アタッチメントの側面構造を示す側面図、(c)支持フレームが短縮されたアタッチメントの側面構造を示す側面図、(d)他の支持フレームが短縮されたアタッチメントの側面構造を示す側面図。
【図3】一対のシーブと吊索との関係を示す図であって、(a),(b),(c),(d)では、それぞれブーム角度が−30°,0°,30°,180°である場合を示す。
【図4】搭載艇を降下するときのアタッチメントとアウターブームとの配置の関係を示す図。
【図5】変形例における一対のシーブと吊索との関係を示す図であって、(a),(b),(c),(d),(e)では、それぞれブーム角度が−60°,−30°,0°,30°,180°である場合を示す。
【図6】従来例の搭載艇揚降装置が搭載艇を降下するときのアタッチメントとアウターブームとの配置の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の搭載艇揚降装置を具体化した一実施形態について、図1〜図4を参照して説明する。図1に示されるように、搭載艇揚降装置を構成するクレーン体11の固定ポストDPには、旋回ポスト12が旋回可能に連結されている。この旋回ポスト12の先端部には、インナーブーム13の基端部が回転可能に連結されて、また、インナーブーム13の基端部と旋回ポスト12の基端部との間には、インナーシリンダ14が伸縮可能に連結されている。そして、インナーシリンダ14の伸縮がインナーブーム13の回転に変換されるように、これら旋回ポスト12、インナーブーム13、及びインナーシリンダ14からなる回転リンクが構成されている。
【0018】
インナーブーム13の先端部には、アウターブーム15の基端部がこれもまた回転可能に連結されて、また、アウターブーム15の基端部とインナーブーム13の基端部との間には、アウターシリンダ16が伸縮可能に連結されている。そして、アウターシリンダ16の伸縮がアウターブーム15の回転に変換されるように、これらインナーブーム13、アウターブーム15、及びアウターシリンダ16からなる回転リンクが構成されている。
【0019】
アウターブーム15の基端部には、ドラム21Dを備えたウインチ21が装着されている。ウインチ21が有するドラム21Dの周囲には、先端にフック22の取り付けられたワイヤーロープやチェーン等の吊索23が巻き付けられている。なお、上記ウインチ21には、アウターブーム15の先端部と搭載艇との間の吊索23の張力を調整する張力調整部21Cが搭載されている。この張力調整部21Cは、吊索23に過剰な張力が加わらないようにする。例えば、ウインチ21によって吊索23が繰り入れられるとき、吊索23に所定値以上の張力が加わった場合に、張力調整部21Cは、図示しないレバーやスイッチ等の操作により作動する。そして、張力調整部21Cは、一時的にドラム21Dの回転を停止させたり、吊索23が引き出される方向にドラム21Dを回転させたりする。
【0020】
アウターブーム15の先端部には、一対のシーブである正転シーブ25A及び反転シーブ25Bが回転可能に支持されている。一対のシーブ25A,25Bは、互いに同じ直径からなるシーブである。これら一対のシーブ25A,25Bは、吊索23の巻き回されるレールが互いに同じ平面上に配置されるように、アウターブーム15の先端部に取り付けられている。また、互いに向い合うレールの間隔が吊索23の厚さよりも小さくなるように、これら一対のシーブ25A,25Bは配置されている。このような一対のシーブ25A,25Bの間には、ドラム21Dから引き出された吊索23が挟み込まれ、一方のシーブである正転シーブ25Aには、該吊索23が巻き回されている。また、アウターブーム15の先端部には、一対のシーブ25A,25Bの回転軸A1と平行な回転軸A2が回転自在に支持されている。さらに、アウターブーム15の先端部には、上記回転軸A2に対して回転可能にアタッチメント30が吊り下げられている。
【0021】
図2(a)に示されるように、アタッチメント30の上端部である回転フレーム31は、上述した回転軸A2に対して回転可能に支持されている。この回転軸A2の外周面には、該回転軸A2の軸方向に延びるギア溝が周方向の全体にわたり形成されている。一方、回転フレーム31の外側面には、上述した回転軸A2と係合する制振装置26が取り付けられている。この制振装置26の内部には、アウターブーム15の延設方向に延びる図示されない柱状の制振部材が同延設方向に移動可能に収容されている。また、制振部材には、上記回転軸A2のギア溝と噛み合うギア溝が同延設方向に配列されている。そして、アウターブーム15の延設方向にアタッチメント30が並進するような力が同アタッチメント30に作用すると、こうした力は、上記制振部材を同延設方向へ並進させる力へと変換される。すなわち、制振装置26の内部では、アウターブーム15と係合する制振部材が並進するため、アウターブーム15の延設方向においては、アウターブーム15に対するアタッチメント30の振動が軽減されるようになる。
【0022】
そして、アウターブーム15の先端が固定ポストDPに対して傾動するとき、回転フレーム31は、回転軸A2を中心にしてアタッチメント30の自重により回転する。すなわち、アタッチメント30の先端が常に鉛直方向に向くように、アタッチメント30は回転する。なお、連結フレームの一側面には、アタッチメント30の自重による回転速度を抑制するブレーキモータが固定されている。
【0023】
図2(b)に示されるように、回転フレーム31の下側には、上下方向に伸縮する揺動シャフト32が連結されている。この揺動シャフト32における揺動軸A3は、上述した回転軸A1,A2と互いに直交する。そして、揺動シャフト32は、該揺動シャフト32が受ける荷重に従って伸張するとともに、揺動軸A3を中心にして揺動する。
【0024】
揺動シャフト32の内部には、上下方向に延びる吊索通路が貫通するとともに、同揺動シャフト32の下端部には、これもまた上下方向に延びる吊索通路を有した多段円筒状の係合ブロック33が固着されている。この係合ブロック33の下半部には、艇に固設された艇固定枠と係合する艇係合部33Bが、係合ブロック33の上半部に対して回転可能に連結されている。また、係合ブロック33の上半部には、上述した艇係合部33Bを回転させるための整合モータ33Mが搭載されている。
【0025】
回転フレーム31を構成する側面のうち、アウターブーム15の延設方向と互いに直交する方向には、同方向に延びる一対の支持フレーム34が連結されている。これら一対の支持フレーム34の各々の先端部には、伸縮可能なリンクである一対の保持シリンダ35の基端部が回転可能に連結されて、また、これら一対の保持シリンダ35の各々の先端部には、上述した係合ブロック33が回転可能に連結されている。この係合ブロック33の内部には、上下方向に延びる吊索通路が貫通するとともに、該吊索通路内を通る吊索23
が挟まれるように、一対の第1ローラ33Fと一対の第2ローラ33Sとが併設されている。一対の第1ローラ33Fと一対の第2ローラ33Sとは、吊索通路の周方向にて、互いに90度異なる方向に配置されている。そして、吊索通路内を通る吊索23は、これら一対の第1ローラ33Fと一対の第2ローラ33Sとに案内されて鉛直線上に配置される。そして、揺動シャフト32が揺動軸A3を中心にアウターブーム15に対して揺動すると、図2(c),(d)に示されるように、係合ブロック33の位置に応じて、揺動シャフト32の延びる方向や揺動シャフト32の長さ、さらには一対の保持シリンダ35の各々が伸縮する。
【0026】
次に、上述した一対のシーブ25A,25Bと吊索23との関係をアタッチメント30に対するアウターブーム15の配置ごとに説明する。なお、図3(a)〜(d)においては、アタッチメント30に対するアウターブーム15の配置を説明する便宜上、アタッチメント30は略鉛直方向に沿って垂れ下がり、且つ、甲板DBは水平面に沿って配置されているものとする。
【0027】
図3(a)に示されるように、アウターブーム15と水平面とのなす角度であるブーム角度が−30°である場合、ウインチ21から繰り出される吊索23は、正転シーブ25Aに巻き回されてアウターブーム15からアタッチメント30へ送られる。それゆえに、吊索23が正転シーブ25Aから外れることはない。また、図3(b),(c)に示されるように、ブーム角度が0°〜30°である場合も同様に、ウインチ21から繰り出される吊索23は、正転シーブ25Aに巻き回されてアウターブーム15からアタッチメント30へ送られる。
【0028】
なお、ブーム角度が90°に近くなるほど、正転シーブ25Aに巻き回される吊索23の長さは短くなる。そして、ブーム角度が略90°になると、ウインチ21から繰り出される吊索23は、一対のシーブ25A,25Bのいずれにも巻き回され難くなる。ただし、吊索23が一対のシーブ25A,25Bの各々に巻き回され難くなるとは言え、互いに対向する一対のシーブ25A,25Bの間に吊索23は繰り出されている。そのため、一つのシーブに対して吊索23が繰り出される態様と比較すれば、依然として吊索23はシーブから外れ難い。
【0029】
そして、ブーム角度が90°よりも大きくなると、例えば、図3(d)に示されるように、ウインチ21から繰り出される吊索23は、反転シーブ25Bに巻き回されてアウターブーム15からアタッチメント30へ送られる。それゆえに、上述した構成によれば、ブーム角度が90°に満たない場合には、ウインチ21から繰り出される吊索23が、正転シーブ25Aに巻き回される。また、ブーム角度が90°を超える場合には、ウインチ21から繰り出される吊索23が、反転シーブ25Bに巻き回される。そのため、ブーム角度が80°を超えるような場合であっても、吊索23がシーブから外れることを抑えることが可能である。
【0030】
次に、上述した構成からなる搭載艇揚降装置が搭載艇を甲板DB上に揚げる動作、すなわち、揚収動作について図4を参照して説明する。なお、搭載艇揚降装置は、甲板DBの縁近傍に設置されるとともに、揚降対象となる搭載艇は、該搭載艇揚降装置の設置された船舶に略接触するように配置されているものとする。
【0031】
まず、クレーン体11のアームが、旋回、傾動、及び伸張されて、これにより、搭載艇の位置である揚収位置上にアームの先端が配置される。この際、アウターブーム15の先端に連結されたアタッチメント30は、その自重によって鉛直方向に吊り下げられる。一方、アウターブーム15の先端は、搭載艇揚降装置の設置された船舶に向けて折り曲げられる。すなわち、アウターブーム15の水平面に対する角度であるブーム角度が90°を
超えるように、アウターブーム15が配置される。
【0032】
次いで、アームの先端から繰り出される吊索23が、搭載艇の艇固定枠に掛けられた後に、その吊索23が、ウインチ21によって巻き取られる。この際、吊索23が所定の張力でドラム21Dに巻き取られるため、吊索23の掛けられた搭載艇は、水面上の波に追従しながらアタッチメント30の直下まで移動する。続いて、アームの先端から吊索23がさらに巻き取られると、該アームの先端が搭載艇に接近させられるとともに、該搭載艇の艇固定枠とアタッチメントとが接近した位置でアームの姿勢が保持される。そして、水面上の波によって搭載艇が最もアームに接近するときに、アームの先端から吊索23が巻き取られて、これにより、艇固定枠内にアタッチメント30が挿入される。すなわち、艇固定枠とアタッチメント30とが係合する。
【0033】
続いて、吊索23がさらに巻き取られると、一対の保持シリンダ35及び揺動シャフト32が収縮する。このとき、搭載艇が波を受けて上下に揺れているため、アームが該搭載艇を水面に押え付けることになるが、保持シリンダが収縮することによって、この押え付けがやわらげられる。そして、搭載艇の艇固定枠が係合ブロック33に圧接された状態でアームが上昇することにより、搭載艇が水面から完全に引き上げられた状態、すなわち、搭載艇の水切りが完了した状態となる。そして、アームが旋回、傾動、及び収縮することによって、搭載艇が甲板DB上の保管台に載せられて、これにより、搭載艇の揚収作業が完了する。この間、ブーム角度が90°を超える状態であり続けるものの、ウインチ21から繰り出される吊索23は、上述したように反転シーブ25Bに巻き回される。そのため、ブーム角度が90°を超えるような場合であっても、吊索23がシーブから外れることはない。なお、搭載艇を甲板DB上から水面へ降ろす動作、すなわち降下動作では、艇固定枠とアタッチメント30とが係合した状態でアームの先端が水面に近づけられる。そして、吊索23が繰り出されることによって、搭載艇が水面に配置される。
【0034】
以上説明したように、本実施形態における搭載艇揚降装置によれば、以下列記する効果が得られる。
(1)アウターブーム15とアタッチメント30との連結部にて、吊索23を挟むように二つのシーブ25A,25Bが取り付けられる。クレーン体11に対するアタッチメント30の姿勢によっては、アタッチメント30へ繰り出すための吊索23がシーブから外れる場合がある。この点、吊索23を挟むように二つのシーブ25A,25Bが取り付けられる構成であれば、一方のシーブ25Aから吊索23が外れるとしても、該外れた吊索23は、他方のシーブ25Bによって案内されることとなる。それゆえに、吊索23がシーブ25A,25Bから外れることを抑えつつ、クレーン体11に対して取り得るアタッチメント30の姿勢の範囲を拡大させることが可能となる。ひいては、揚降の対象となる艇の位置範囲を拡大することが可能となる。
【0035】
(2)二つのシーブ25A,25Bが互いに共通するアウターブーム15の先端に設けられる。そのため、これら二つのシーブ25A,25Bの取り付け位置がクレーン体11とアタッチメント30とに分かれる構成と比較して、二つのシーブ25A,25Bの位置や姿勢を合わせることが容易となる。
【0036】
(3)二つのシーブ25A,25Bが一つの鉛直上に併設される。そのため、これら二つのシーブ25A,25Bが互いに異なる平面上に取り付けられる構成と比較して、二つのシーブ25A,25Bに挟まれる吊索23がシーブ25A,25Bから外れ難くなる。
【0037】
(4)また、これら二つのシーブ25A,25Bが鉛直面とは異なる平面上に取り付けられる構成と比較して、一方のシーブ25Aから外れた吊索23が他方のシーブ25Bに巻き回されやすくもなる。
【0038】
なお、上記実施の形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・上記二つのシーブは、例えば、図5(a)〜図5(e)に示されるように、アウターブーム15に取り付けられた正転シーブ25Cとアタッチメント30の回転フレーム41に取り付けられた反転シーブ25Dとから構成されてもよい。
【0039】
図5(a)に示されるように、アウターブーム15と水平面とのなす角度であるブーム角度が−60°である場合、ウインチ21から繰り出される吊索23は、正転シーブ25Cに巻き回されてアウターブーム15からアタッチメント30へ送られる。それゆえに、吊索23が正転シーブ25Cから外れることはない。また、図5(b)〜図5(d)に示されるように、ブーム角度が−30°〜30°である場合も同様に、ウインチ21から繰り出される吊索23は、正転シーブ25Cに巻き回されてアウターブーム15からアタッチメント30へ送られる。
【0040】
なお、ブーム角度が90°に近くなるほど、正転シーブ25Cに巻き回される吊索23の長さは短くなる。そして、ブーム角度が略90°になると、ウインチ21から繰り出される吊索23は、一対のシーブ25C,25Dのいずれにも巻き回され難くなる。ただし、吊索23が一対のシーブ25C,25Dの各々に巻き回され難くなるとは言え、互いに対向する一対のシーブ25C,25Dの間に吊索23は繰り出されている。そのため、一つのシーブに対して吊索23が繰り出される態様と比較すれば、依然として吊索23はシーブから外れ難い。
【0041】
そして、ブーム角度が90°よりも大きくなると、例えば、図5(e)に示されるように、ブーム角度が180°である場合には、ウインチ21から繰り出される吊索23は、反転シーブ25Dに巻き回されてアウターブーム15からアタッチメント30へ送られる。それゆえに、上述した構成によれば、ブーム角度が90°に満たない場合には、ウインチ21から繰り出される吊索23が、正転シーブ25Aに巻き回される。また、ブーム角度が90°を超える場合には、ウインチ21から繰り出される吊索23が、反転シーブ25Bに巻き回される。そのため、ブーム角度が80°を超えるような場合であっても、吊索23がシーブから外れることを抑えることが可能である。
【0042】
・アウターブーム15の先端部におけるアタッチメント30の吊り下げ位置は、アウターブーム15と水平面とのなす角度であるブーム角度が変動したときに、ウインチ21から吊索23の先端までの長さの変動が最小となる位置が好ましい。これにより、正転シーブを介して繰り出される吊索の長さと、反転シーブを介して繰り出される吊索の長さとが略同一になるため、シーブ巻での吊索の移行が滑らかになる。なお、上記好ましい位置とは、例えば正転シーブと反転シーブとの中間に当たる位置である。
【0043】
・上記2つのシーブ、つまりは正転シーブ25Aと反転シーブ25B、あるいは正転シーブ25Cと反転シーブ25Dとが互いに交差する平面上に配置されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0044】
A1,A2…回転軸、A3…揺動軸、DB…甲板、DP,102…旋回ポスト、11…クレーン体、12…旋回ポスト、13,103A…インナーブーム、14…インナーシリンダ、15,103B…アウターブーム、16…アウターシリンダ、21,106…ウインチ、21C…張力調整部、21D…ドラム、22…吊索フック、23,105…吊索、25A,25C…正転シーブ、25B,25D…反転シーブ、30…アタッチメント、31…回転フレーム、31M…ブレーキモータ、32…揺動シャフト、33…係合ブロック、33B…艇係合部、33M…整合モータ、33F…第1ローラ、34…揺動支持フレー
ム、35…保持シリンダ、101…固定ポスト、103…アーム、107…シーブ、108…フック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の甲板に設置されて搭載艇と係合する吊索を繰り込むクレーン体と、
前記搭載艇に固定された艇固定枠に前記クレーン体の先端を係合するアタッチメントと
を備える搭載艇揚降装置であって、
前記アタッチメントの基端は、前記クレーン体の先端に回転可能に支持され、
前記アタッチメントには、該アタッチメントの基端から先端へ前記吊索が挿通され、
前記クレーン体は、前記クレーン体の先端を前記甲板の外側へ向ける姿勢と前記クレーン体の先端を前記甲板の内側へ向ける姿勢とを取り、
前記アタッチメントの基端と前記クレーン体の先端との連結部には、二つのシーブが取り付けられるとともに、該二つのシーブの間に前記吊索が挟まれている
ことを特徴とする搭載艇揚降装置。
【請求項2】
前記二つのシーブは、前記クレーン体の先端に設けられる
請求項1に記載の搭載艇揚降装置。
【請求項3】
前記二つのシーブは、前記クレーン体の先端に設けられるシーブと前記アタッチメントの基端に設けられるシーブとから構成される
請求項1に記載の搭載艇揚降装置。
【請求項4】
前記二つのシーブは、一つの平面上に併設される
請求項1〜3のいずれか一項に記載の搭載艇揚降装置。
【請求項5】
前記二つのシーブは、鉛直方向を含む平面上に併設される
請求項4に記載の搭載艇揚降装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−91877(P2012−91877A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238019(P2010−238019)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(593206986)株式会社関ヶ原製作所 (18)
【Fターム(参考)】