説明

摂食調節剤

【課題】日常の食事等により簡単に摂取でき、かつ副作用のない安全な摂食調節剤を提供すること。
【解決手段】魚類脳を摂食調節剤の有効成分として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類脳を有効成分として含む摂食調節剤に関するものである。本発明にかかる摂食調節剤は、過食が原因となる、あるいは摂食の調節が必要とされる、疾病の治療や症状の改善に有用であり、食品、医薬品、医薬品部外品等に広く利用できる。
【背景技術】
【0002】
高血圧、糖尿病、高脂血症等の生活習慣病患者およびその予備軍は、40歳代以上の男女において約半数以上になる。これらの多くの原因は肥満であり、その予防または改善が望まれている。規則正しい食生活こそが肥満を予防する最善策と考えられているが、飽食の時代である現代において、それを実行することは困難である場合が少なくない。
【0003】
摂食を調節、とくに抑制する物質としてアンフェタミン類のマジンドールが医薬品として実用化されている。しかし、マジンドールの中枢への直接作用や、習慣性、依存性等の危険性から、高度肥満患者のみにその使用が限定されており、より安全な手法が望まれている。
【0004】
これまでに摂食抑制に関連したものとして、セロトニン、ドーパミン、ノルエピネフリン及びヒスタミンの前駆体を使用する方法(特許文献1)、ヒラタケの子実体(特許文献2)、アボカド(特許文献3)などが報告されている。
【0005】
サケの脳下垂体において適応的に色素凝集を司る物質として同定されたメラニン凝集ホルモン(MCH)は、哺乳類脳視床下部からも見出され、摂食にかかわるホルモンとして注目されている。MCH遺伝子欠損マウスは、摂食量の減少及び代謝の増加に伴って顕著な体重減少が観察されており、(非特許文献1)また、MCHをラット脳室内に注入することで、摂食促進行動が確認されている。(非特許文献2)上記のようにMCHは、摂食にかかわる物質、なかでも摂食促進能を有する物質として知られているが、摂食抑制活性に着目した報告はない。
【特許文献1】特表2000−515139号公報
【特許文献2】特開平9−20675号公報
【特許文献3】特開2002−53474号公報
【非特許文献1】Shimada.M, et.al.,Nature, 396, 670-674,1998.
【非特許文献2】M.Rossi, et.al., Endocrinology, 138, 351-355, 1997.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、前記従来技術に鑑みて、日常の食事等により簡単に摂取でき、かつ副作用のない安全な摂食調節剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を鑑みて鋭意検討した結果、食品として利用されてからの歴史が古く、安全性が経験学的に認知されている魚類脳を有効成分とすることで、予想外にも、摂食調節剤を得ることができるとの新たな知見を得た。例えば、サケの頭部は300〜400g程度あるものの、脳の部分は数十〜数百ミリグラム程度であり高度に濃縮された状態では、摂食調節活性が発現されるものである。かかる知見は、従来知られていなかったものである。本発明者らは、かかる新たな知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の摂食調節剤は、魚類脳の少なくとも1部もしくは脳下垂体を有効成分として含有することを特徴とする。すなわち、魚類脳の少なくとも1部もしくは脳下垂体を摂食調節剤の有効成分として摂食調節に有効な量で使用することができる。また、魚類脳の少なくとも1部もしくは脳下垂体を摂食調節剤の製造における有効成分として、摂食調節に有効な量で使用することができる。
【0009】
本発明によれば、日常の食事などから簡単に摂取でき、かつ副作用のない安全な摂食調節剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明では、魚類脳を摂食調節剤の製造において有効成分として用いる。この魚類脳としては、魚類から摘出した新鮮な脳、好ましくはそれを、液体窒素等を用いてすばやく凍結後、減圧乾燥処理して得られた乾燥凍結物を剤形に応じて利用することができる。有効成分として用いる脳としては、脳全体や、小脳、臭葉、視葉、延髄、脳下垂体、松果体、視床下部およびそれらに接した神経、血管等の部分の少なくとも1つを用いることができる。
また、魚類の例としては、サケ、マスノスケ、ニジマスなどが挙げられる。
【0011】
本発明の摂食調節剤は、摂食抑制効果を有する。従って、本発明にかかる摂食調節剤を対象者あるいは対象動物に摂取させることで、その食欲を抑制することができる。従って、本発明にかかる摂食調節剤は抗肥満効果を有し、肥満治療中の患者に対して、あるいは肥満予備軍における肥満予防において有効である。本発明にかかる摂食抑制剤は、食欲の抑制が効果を有する各種の疾病の治療や症状の改善に有用である。
【0012】
本発明の摂食調節剤は、医薬組成物、固形食品、半固形食品、及び飲料を含む液状食品などの食品、その他の各種の形態として提供することができる。本発明の摂食調節剤は、溶液、エマルジョン、分散液、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、ペースト、クリーム、などの各種の形態で提供することができる。
【0013】
本発明にかかる摂食調節剤の一形態の肥満改善治療及び/または予防剤は、魚類脳を有効成分として製造することができる。その際、必要に応じて適宜賦形剤等の添加剤と混合して、例えば注射剤、経口用液剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、坐剤、軟膏、点鼻剤、貼付剤等の形態で製剤化する事ができる。
【0014】
上記の各種製剤で用いられる添加剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、乳糖、デキストリン、デンプン類、メチルセルロース、脂肪酸グリセリド類、水、プロピレングリコール、マクロゴール類、アルコール、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース類、ポピドン、ポリビニルアルコール、ステアリン酸カルシウム等を挙げる事ができる。これらは単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。この際、必要に応じて、着色剤、安定化剤、抗酸化剤、防腐剤、p H 調節剤、等張化剤、溶解補助剤及び/または無痛化剤等を添加する事ができる。顆粒剤、錠剤、またはカプセル剤は、コーティング基剤、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等によってコーティングする事もできる。これらの製剤は、有効成分としての魚類脳を0.01重量%以上、好ましくは0.01〜70重量%の割合で含有する事ができる。
【0015】
製剤の調製に際しては必要に応じメントール、クエン酸及びその塩類、香料等の矯臭剤を用いる事ができる。更に、本発明で得られる摂食調節剤は治療上有用な他の成分と併用する事もできる。
【0016】
本発明で得られる魚類脳を有効成分とする事を特徴とする摂食調節剤は、ヒトを含めた哺乳動物に脳室内以外の投与方法、すなわち経口的または非経口的(例えば経皮、静脈内、腹腔内等)に投与される。投与量は動物種、対象となる患者の人種、性別、症状、体重、年齢、血圧の程度、投与方法等によって異なり一概には言えないが、一般的なヒトの成人に経口投与する場合は、通常、1日につき体重1kgあたり0.1〜2000mg、好ましくは1〜500mgであり、これを通常1日1回または2〜3回に分けて投与する。しかしながらその投与量は症状の程度に応じ適宜選択する事ができる。
【0017】
本発明で得られる魚類脳は、優れた摂食調節効果を示す。しかも、魚類脳は、臭い、味、色に特異な厭味が認められない事から経口摂取が容易である。その為、医薬品以外の製品にも好適に配合することができる。本発明で得られる魚類脳を、例えば、ゼリー、飴、顆粒菓、錠菓、飲料、スープ、飲料、ヨーグルト、麺、煎餅、和菓子、洋菓子、冷菓、焼き菓子、調味料等の固形食品、半固形食品及び液状食品に配合、添加し提供する事ができる。また、医薬品以外の製品で、食品以外のものとしては、化粧品、または、衛生用品、嗜好品などの形態として提供することもできる。これらの食品以外の製品としては、例えば医薬部外品としては、育毛剤・養毛剤、脱毛剤、染毛剤、脱色剤、パーマネントウェーブ用剤、浴用剤、薬用化粧品・薬用石けん、薬用歯みがき類、清涼剤、腋臭防止剤、てんか粉類、などが挙げられる。
【0018】
医薬品以外の製品への魚類脳の含有量は、その製品の目的とする用途や機能に応じて設定すればよく、例えば0.01重量%以上、好ましくは0.1〜70重量%の範囲から選択することができる。また、化粧品の場合は、各種の固体状、半固体状あるいは液体状の化粧品用の基材と、目的とする化粧効果を得るための有効成分に加えて、魚肉エキスあるいは組成物を用いて、ローション、クリーム、パウダー、乳液ゲルなどの各種形態の化粧品を構成することができる。
【実施例】
【0019】
次に実施例を示して本発明を実施するための形態について詳細に記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
(シロサケ脳物質の調製)
シロサケ頭部より脳を傷つけないように注意深く摘出した。その後、すばやく液体窒素につけて凍結し、得られた脳をフリーズドライ(FD)により乾燥し、シロサケ脳凍結乾燥物(1匹より12mg)を得た。
【0020】
(試験例)
(摂食量の測定)
雄性のSDラット(Sprague−Dawley、体重275±25g)を5匹あたり45×23×15cmのAPECRケージで飼育し、試験開始前に明暗周期12時間、室
温22〜24℃、湿度60〜80%、飼料及び水分自由摂取の環境下で1週間以上馴化させた。この馴化処理したSDラットを試験に供した。試験に用いたラットは試験開始前夜より12時間の絶食負荷をした。絶食負荷後、試験群はラット1匹に対して、胃ゾンデを用いてシロサケ脳凍結乾燥品を0.5%カルボキシメチルセルロース溶液で均質にしたものを強制経口投与 (500mg/kg/5mL)し、1、2、4、6時間後の摂食量を測定した。また対照群は、0.5%カルボキシメチルセルロース (CMC)溶液(5mL/kg)を同様に強制経口投与し、摂食量を測定した。
【0021】
(試験結果)
図1の通り、本発明の魚類脳は、摂食量を有意に抑制する作用を有することが確認できた。
【0022】
(製剤の調製)
(1)摂食調節(錠剤)
・サケ脳凍結乾燥物 100mg
・乳糖 670mg
・バレイショデンプン 150mg
・結晶セルロース 60mg
・軽質無水ケイ酸 50mg
上記成分を混合し、ヒドロキシプロピルセルロース30mgをエタノールに溶解した溶液(ヒドロキシプロピルセルロース10重量%)を加えて混練したのち造粒した。これを径0.8mmのスクリーンで押し出して顆粒状にし、乾燥した後、ステアリン酸マグネシウム15mgを加え200mgずつ打錠して錠剤を得た。
(2)摂食調節治療剤(注射剤)
・サケ脳凍結乾燥物 30mg
上記成分を5%マンニトール水溶液2mLに懸濁し、アンプルに入れて密封した。
【産業上の利用可能性】
【0023】
上記のように、魚類脳をラットに摂取させることにより、摂食調節効果が認められた。このことから、該魚類脳若しくはその抽出物は肥満改善の治療および予防に有用であるとともに、上記のような有用な作用を有する健康食品や特定保健用食品や機能性食品としての利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】摂食量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚類脳の少なくとも1部を有効成分として含有することを特徴とする摂食調節剤。
【請求項2】
魚類脳下垂体を有効成分として含有することを特徴とする摂食調節剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の摂食調節剤を含むことを特徴とする食品。
【請求項4】
請求項1または2に記載の摂食調節剤を含むことを特徴とする医薬品。

【図1】
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【公開番号】特開2009−209095(P2009−209095A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54091(P2008−54091)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000233620)株式会社マルハニチロ食品 (34)
【Fターム(参考)】